国内約223万人! メディアが報じない外国人“奴隷労働”の実態『ルポ ニッポン絶望工場』

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『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社)
『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社)は、日本にやってきた外国人留学生たちが陥る“奴隷労働”の実態に迫ったルポだ。24時間営業のコンビニ、早朝の新聞配達、工場内での単純作業など、日本人が好んでやらなくなった仕事に従事する彼らは、日本に対して何を思うのだろうか?  著者の出井康博は、新潮社のウェブメディア「フォーサイト」での連載をきっかけに、外国人労働者への取材を始める。今現在、日本で一番多いのはベトナムからの留学生だという。  ベトナムでは、現在空前の日本ブームだ。さまざまな面で融通が利くので、多くが留学生として日本に入るが、文字通り勉強し大学に進学する者と、出稼ぎのために来日する2種類の留学生がいる。そんな彼らに現地で「カイシャ」と呼ばれるブローカーたちが留学を斡旋。ブローカーたちは紹介料として、ベトナムの一般的な家庭の7年分の収入に相当する150万円ほどを請求し、家族は泣く泣く先祖代々の農地を質に入れるなどして、費用を工面する。“留学の斡旋”とは形だけで、実際は日本語学校と現地のブローカーがグルになった悪徳ビジネスと化している。  晴れて日本にやってきた留学生たち。日本語の習得に勤しみながら卒業後は大手企業の戦力として活躍する……そんな夢を閉ざす現実が待っている。留学生の多くは日本にやってきた時点で、負債を抱えているからだ。さらに、母国からの仕送りもなく、借金の返済や月々の家賃、食費に学費など生活に関わる一切を稼がなくてはならない。  しかし、政府は留学生に対して“週28時間以内”の労働しか許可しておらず、日に働ける時間は約4時間。ブローカーから「日本に行けば月20~30万円稼げる」と騙された留学生の中には、違法就労をする者も多い。  違法就労を行う彼らの労働環境は、最悪だ。働き口を2カ所掛け持ちし、“週28時間”を超える“週50時間”働く者も。職場も人手が足りないこともあり、違法就労に目をつぶる。留学生の間で情報が共有され、同じ境遇の者が集まり、日本語の能力が全く伸びないという悪循環が出来上がってしまう。  ほかにも、給料のピンハネはもちろんだが、精神的に追い込まれることが多いという。現地では、優秀な人材として海外へ留学した彼らが、自分より能力の劣る日本人に“外国人だから”という短絡的な理由で侮蔑を受けるのが日常的だそうだ。憧れを持ってやってきた外国の若者は、“奴隷労働”の中で反日感情を募らせていく。  15年9月、埼玉県・熊谷市で日系ペルー人による、小学生を含む6人が殺害される事件が起きた。出井は、またこのような凄惨な事件が必ず起こると断言する。なぜなら、この犯人もまた“奴隷労働”の犠牲者だったのだから。

気が狂っている……! B級ヒーロー“犬溶接マン”とゴッサム・シティの変態的な仲間たち『HITMAN』

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『ヒットマン2』(KADOKAWA/エンターブレイン)
 アメリカンコミックス原作の映画がヒットを連発している昨今、『バットマンvsスーパーマン』をはじめ、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』、『デッドプール』(すべて2016年公開)などのアメコミファンが見たかった大作や、知る人ぞ知るマイナー作の実写化が相次いでいる。  アメコミの双璧マーベルコミックとDCコミックが中心となり、今後数年先までさまざまな作品を実写化すると発表しているが、ここでは何があっても“実写化不可能”なアメコミヒーローを紹介したいと思う。  今回、紹介するのはDCコミックが出版する『HITMAN』という作品に出てくる犬溶接マン。そんなバカなと思う名前だが、原作を翻訳した海法紀光氏によると、それでオッケーとのこと。 『HITMAN』は1996年から2001年まで続いた全60話の作品。同作品は、『バットマン』に登場するゴッサム・シティを舞台にアウトローな連中が2流・3流のヒーローや悪役、犯罪者を巻き込んで、ドンパチしあうハードボイルドな物語。その中に登場するB級ヒーローチーム、セクション8に所属するのが犬溶接マンだ。アメリカ国内でも超マイナーな存在だった同作品だが、犬溶接マンという頭のおかしいキャラクターがいることは、マニアの間では古くから話題になっていた。  溶接工のようなコスチュームを身にまとい、ガス切断機と犬の死体を駆使して戦うヒーロー。ガス切断機であるにもかかわらず溶接できるのは、劇中では“スーパーパワー”で片付けられてしまっている。どう見ても出で立ちは悪役だが、同作品ではヒーローとして扱われている。  アメコミヒーローの中でも、特に変わった能力を持ったヒーローの実写化に成功した例は今まで何度もあったが、犬溶接マンの能力は、とにかくめちゃくちゃだ。それは文字通り、“犬の死体を敵の顔に溶接する”というもの。  しかも、犬の死体を溶接された相手は必ず死ぬ。犬も死に(もともと犬溶接マンによって殺されているが)、敵も死ぬというなんともいたたまれない結果になる。  犬溶接マンの“実写化不可能”なポイントは3つある。まず、動物保護団体がマジギレするのが、容易に想像できる点。2つ目は、全く映像化に向いてないキャラクター設定。最後に、ヒーローチームとしてかっこ悪すぎる点だ。  まず、犬の死体を溶接するクレイジーな能力には、多くの動物保護団体からお叱りの声をいただくに違いない。そんな犬溶接マンは、罠を仕掛けて自分で犬の死体を調達しており、必要に応じて予備も持ち歩くという人間っぽさ溢れる設定がおかしくもあり、私が好きなところでもある。  2つ目の問題は、犬溶接マン自身にある。先ほど紹介したコスチュームや、“犬の死体を溶接して相手を倒す”という設定に、無口という特徴も上乗せ。久しぶりに再会した仲間に、無言で犬の死体を溶接しようとするなど、気が狂っている。実写化した場合、無口で120分持つのか? 疑問である。  最後の問題は、彼の所属するヒーローチーム、セクション8の存在である。犬溶接マンのほかに、「シックスパック(酔って酒瓶で頭を殴るマン)」、「デフェネストレイター(窓から投げ捨てるマン)」「フレンドリー・ファイア(誤射マン)」「ブエノ・エクセレンテ(変態性欲マン)」「ジャン・ドゥ・バトン(フランス人マン)」「シェイクス(貧乏揺すりマン)」「フレムジェム(痰吐くマン)」と、聞いただけで気になるヒーローが勢ぞろい。『アベンジャーズ』のような華麗なヒーローチームとは、ほど遠い。  はっきり言って、イケメンは一人もいないおっさんの集まりだ。『エクスペンダブルズ』ばりに、かっこいいおっさんたちの集まりだったらまだよかったが、能力も相まって悪人面ばかり。  実写化しても奇天烈さが話題になるだろう彼らだが、バットマンたちの代わりにマフィアのボスや、最強のエイリアン、ゾンビ、はてはサンタクロース相手に戦いを挑み、日夜ゴッサム・シティの平和を守っている。  昨年12月にセクション8を主人公にした単行本が新たに発売されたり、シックスパック(酔って酒瓶で頭を殴るマン)と犬溶接マンの2人が旅に出る番外編が発売されるなど、アメリカ国内でも現在人気急上昇中。 『HITMAN』は、アメコミ初心者でもすんなりと入り込め、面白い作品であることは間違いない。コメディとハードボイルドが入り混じった同作品は、現在翻訳版が2冊発売されており、ボリュームとしても読みやすい一作だ。 (文=大野なおと)

気が狂っている……! B級ヒーロー“犬溶接マン”とゴッサム・シティの変態的な仲間たち『HITMAN』

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『ヒットマン2』(KADOKAWA/エンターブレイン)
 アメリカンコミックス原作の映画がヒットを連発している昨今、『バットマンvsスーパーマン』をはじめ、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』、『デッドプール』(すべて2016年公開)などのアメコミファンが見たかった大作や、知る人ぞ知るマイナー作の実写化が相次いでいる。  アメコミの双璧マーベルコミックとDCコミックが中心となり、今後数年先までさまざまな作品を実写化すると発表しているが、ここでは何があっても“実写化不可能”なアメコミヒーローを紹介したいと思う。  今回、紹介するのはDCコミックが出版する『HITMAN』という作品に出てくる犬溶接マン。そんなバカなと思う名前だが、原作を翻訳した海法紀光氏によると、それでオッケーとのこと。 『HITMAN』は1996年から2001年まで続いた全60話の作品。同作品は、『バットマン』に登場するゴッサム・シティを舞台にアウトローな連中が2流・3流のヒーローや悪役、犯罪者を巻き込んで、ドンパチしあうハードボイルドな物語。その中に登場するB級ヒーローチーム、セクション8に所属するのが犬溶接マンだ。アメリカ国内でも超マイナーな存在だった同作品だが、犬溶接マンという頭のおかしいキャラクターがいることは、マニアの間では古くから話題になっていた。  溶接工のようなコスチュームを身にまとい、ガス切断機と犬の死体を駆使して戦うヒーロー。ガス切断機であるにもかかわらず溶接できるのは、劇中では“スーパーパワー”で片付けられてしまっている。どう見ても出で立ちは悪役だが、同作品ではヒーローとして扱われている。  アメコミヒーローの中でも、特に変わった能力を持ったヒーローの実写化に成功した例は今まで何度もあったが、犬溶接マンの能力は、とにかくめちゃくちゃだ。それは文字通り、“犬の死体を敵の顔に溶接する”というもの。  しかも、犬の死体を溶接された相手は必ず死ぬ。犬も死に(もともと犬溶接マンによって殺されているが)、敵も死ぬというなんともいたたまれない結果になる。  犬溶接マンの“実写化不可能”なポイントは3つある。まず、動物保護団体がマジギレするのが、容易に想像できる点。2つ目は、全く映像化に向いてないキャラクター設定。最後に、ヒーローチームとしてかっこ悪すぎる点だ。  まず、犬の死体を溶接するクレイジーな能力には、多くの動物保護団体からお叱りの声をいただくに違いない。そんな犬溶接マンは、罠を仕掛けて自分で犬の死体を調達しており、必要に応じて予備も持ち歩くという人間っぽさ溢れる設定がおかしくもあり、私が好きなところでもある。  2つ目の問題は、犬溶接マン自身にある。先ほど紹介したコスチュームや、“犬の死体を溶接して相手を倒す”という設定に、無口という特徴も上乗せ。久しぶりに再会した仲間に、無言で犬の死体を溶接しようとするなど、気が狂っている。実写化した場合、無口で120分持つのか? 疑問である。  最後の問題は、彼の所属するヒーローチーム、セクション8の存在である。犬溶接マンのほかに、「シックスパック(酔って酒瓶で頭を殴るマン)」、「デフェネストレイター(窓から投げ捨てるマン)」「フレンドリー・ファイア(誤射マン)」「ブエノ・エクセレンテ(変態性欲マン)」「ジャン・ドゥ・バトン(フランス人マン)」「シェイクス(貧乏揺すりマン)」「フレムジェム(痰吐くマン)」と、聞いただけで気になるヒーローが勢ぞろい。『アベンジャーズ』のような華麗なヒーローチームとは、ほど遠い。  はっきり言って、イケメンは一人もいないおっさんの集まりだ。『エクスペンダブルズ』ばりに、かっこいいおっさんたちの集まりだったらまだよかったが、能力も相まって悪人面ばかり。  実写化しても奇天烈さが話題になるだろう彼らだが、バットマンたちの代わりにマフィアのボスや、最強のエイリアン、ゾンビ、はてはサンタクロース相手に戦いを挑み、日夜ゴッサム・シティの平和を守っている。  昨年12月にセクション8を主人公にした単行本が新たに発売されたり、シックスパック(酔って酒瓶で頭を殴るマン)と犬溶接マンの2人が旅に出る番外編が発売されるなど、アメリカ国内でも現在人気急上昇中。 『HITMAN』は、アメコミ初心者でもすんなりと入り込め、面白い作品であることは間違いない。コメディとハードボイルドが入り混じった同作品は、現在翻訳版が2冊発売されており、ボリュームとしても読みやすい一作だ。 (文=大野なおと)

格闘マンガ以上にバイオレンス! 豪胆すぎる梶原一騎の人生劇場『男の星座』

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『男の星座』(グループ・ゼロ)
 マンガの世界では、マンガ家自身の半生をテーマにした「マンガ家マンガ」というジャンルがあります。その中で、最高峰かつバイブル的な存在といえば、藤子不二雄A先生による『まんが道』でしょう。この作品を読んで、マンガ家を志した方も多いのではないかと思います。  ところで、皆さんは梶原一騎という人物をご存じでしょうか? 『空手バカ一代』『巨人の星』『タイガーマスク』『あしたのジョー』『プロレススーパースター列伝』などなど、日本を代表するスポ根マンガの原作者であり、「劇画王」とまでいわれている人物ですが、マンガ作家でありながら、そんじょそこらの格闘マンガの主人公よりも遥かに破天荒な人生を送ったことでも有名です。  そんな梶原先生の人生そのものをマンガにしてしまった、バイオレンスすぎる自伝マンガが『男の星座』なのです。原作は梶原先生自ら担当し、作画は『プロレススーパースター列伝』でコンビを組んだ、原田久仁信先生です。連載中の1987年に梶原先生が逝去したため、未完となってしまいました。 『男の星座』の内容は、妙齢の男性が星座占いやプラネタリウム通いにいそしむ、などといったたぐいの軟弱な話ではなく、「これが男一匹・梶原一騎の人生じゃ! 文句あるか!!」とばかりに、男性ホルモンをフルスロットルで放出し続けています。キーワードは「力道山」「大山倍達」「ケンカ」「女」「酒」の、ほぼ5つのみ。本業のマンガ原作の話は、わりとそっちのけです。  本作における重要人物となる2人の格闘家、力道山と大山倍達についてですが、力道山はご存じ、必殺「空手チョップ」を武器に、戦後のプロレスブームを牽引した「日本プロレス界の父」であり、ジャイアント馬場、アントニオ猪木といった、プロレス界のレジェンドを生んだ師匠でもあります。  一方の大山倍達は極真空手の創始者であり、猛牛を素手で倒したため「牛殺し」の異名を持ち、『空手バカ一代』のモチーフともなった人物です。この2人と梶原先生という、3つの輝く一等星が織りなす人生劇場が『男の星座』なのです。  梶原先生(作中では梶一太)は柔道・空手の有段者であり、格闘技に造詣が深かったことから、取材を通じて力道山や大山倍達と交流するようになります。作中で描かれる格闘界のレジェンドの2人の逸話はとてつもなくディープですさまじいものですが、実は真の主人公である梶原先生自身の武勇伝のほうがすごかったりします。その豪胆すぎるエピソードを、いくつかご紹介しましょう。  まだ駆け出しの小説家だった若き日の梶原先生が、浅草でストリップの女王に一目惚れ。そこからの行動は、今でいうなら、完全にストーカーです。タクシーで尾行し、彼女と同じ店に入って隣の席で飯を食いながら会話を盗み聞きしたり、ファンレターを書きまくったのに返事をもらえず、怒りのあまり楽屋に乗り込んでケツモチの暴力団に襲われるも、得意の柔道で返り討ちにしたり……。しかし、その強引さに女王は心奪われ、2人は同棲することになるのです。ストーキング行為が激しすぎて恋が成就してしまうという、稀有な例です。  続いても、女絡み。酔って入った場末のキャバレー、そこでナンバーワンホステス・夕子とイチャついていたのはいいが、実は暴力団経営のボッタクリ店で、お勘定はなんと30万円。「払えない」と言うと、「指を詰めろ」と脅されます。しかし、逆ギレした梶原先生は、その場で夕子を人質に取り、すごみ返します。 「ヤクザの情婦ふぜいが、ちょっとばっかりツラの印刷がいいからって、大の男をコケにしくさってぇーーー!」 「ヘタな大阪弁で凄むんじゃねえッ、この京浜蒲田のドサヤクザがァ!」  梶原先生、人質を取った途端、めっちゃ強気です。取り囲む数十人のヤクザ相手に、全然ひるんでいません。「ツラの印刷」って表現も斬新すぎる!  そして、和服姿で下半身丸出し状態の夕子をジャイアントスイングでブンブン振り回し、取り囲むヤクザをなぎ倒して店を脱出。その後しばらく、ヤクザの刺客たちに命を狙われては返り討ちにする日々を過ごすのですが、その梶原先生の腕っ節の強さに、ヤクザの情婦だったはずの夕子が惚れてしまい、2人は同棲することに(またかよ!)……。どうですか、破天荒でしょう!?  力道山との初対面のエピソードもすごいです。梶原先生の書いたルポの内容が力道山を怒らせてしまい、料亭の太い床柱を空手チョップで叩き割る姿を見せつけられ、周りはみんなチビッているのに、梶原先生だけはまったく動じなかったのです(実は女と別れて、ヤケクソになっていただけ)。それがきっかけで、力道山に気に入られるという、棚ボタラッキーな豪胆エピソードです。  また、銀座のステーキ店「スエヒロ」で見習いとして働いていた時代、皿を割ってコック長に殴られたのに逆ギレし、コック長を一本背負いしてノックアウト。退職金代わりに牛フィレ肉5枚を奪っていくというエピソードなども、キレッキレでシビれます。  これが最後の作品だと腹をくくっていたせいか、力道山が岸恵子と付き合っていたとか、こ●どり姉妹のスポンサーは暴力団だったとか、当時としてはいろいろと外に出してはまずそうな話を、実名で容赦なく暴露しているところも見どころです。まさに、怖いものなし状態。  さらに、梶原先生が浮き名を流した松坂慶子、島田陽子、池上季実子、早乙女愛、志穂美悦子などの女優たちとの関係についても真相を描く……などといった、名前を出された方にとっては戦々恐々の予告がされていたのですが、こちらは残念ながら、本作では描かれる前に絶筆となってしまいました。  というわけで、まだまだネタはあったに違いないのに未完となってしまったのが惜しまれる、梶原一騎自伝マンガ『男の星座』をご紹介しました。男たるもの、こんな豪快な生き方をしてみたいものですが、普通の人には到底無理そうです。先生が数々の大ヒットマンガの原作を発想できたのは、本人の人生がマンガ以上に破天荒すぎたからかもしれませんね。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

格闘マンガ以上にバイオレンス! 豪胆すぎる梶原一騎の人生劇場『男の星座』

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『男の星座』(グループ・ゼロ)
 マンガの世界では、マンガ家自身の半生をテーマにした「マンガ家マンガ」というジャンルがあります。その中で、最高峰かつバイブル的な存在といえば、藤子不二雄A先生による『まんが道』でしょう。この作品を読んで、マンガ家を志した方も多いのではないかと思います。  ところで、皆さんは梶原一騎という人物をご存じでしょうか? 『空手バカ一代』『巨人の星』『タイガーマスク』『あしたのジョー』『プロレススーパースター列伝』などなど、日本を代表するスポ根マンガの原作者であり、「劇画王」とまでいわれている人物ですが、マンガ作家でありながら、そんじょそこらの格闘マンガの主人公よりも遥かに破天荒な人生を送ったことでも有名です。  そんな梶原先生の人生そのものをマンガにしてしまった、バイオレンスすぎる自伝マンガが『男の星座』なのです。原作は梶原先生自ら担当し、作画は『プロレススーパースター列伝』でコンビを組んだ、原田久仁信先生です。連載中の1987年に梶原先生が逝去したため、未完となってしまいました。 『男の星座』の内容は、妙齢の男性が星座占いやプラネタリウム通いにいそしむ、などといったたぐいの軟弱な話ではなく、「これが男一匹・梶原一騎の人生じゃ! 文句あるか!!」とばかりに、男性ホルモンをフルスロットルで放出し続けています。キーワードは「力道山」「大山倍達」「ケンカ」「女」「酒」の、ほぼ5つのみ。本業のマンガ原作の話は、わりとそっちのけです。  本作における重要人物となる2人の格闘家、力道山と大山倍達についてですが、力道山はご存じ、必殺「空手チョップ」を武器に、戦後のプロレスブームを牽引した「日本プロレス界の父」であり、ジャイアント馬場、アントニオ猪木といった、プロレス界のレジェンドを生んだ師匠でもあります。  一方の大山倍達は極真空手の創始者であり、猛牛を素手で倒したため「牛殺し」の異名を持ち、『空手バカ一代』のモチーフともなった人物です。この2人と梶原先生という、3つの輝く一等星が織りなす人生劇場が『男の星座』なのです。  梶原先生(作中では梶一太)は柔道・空手の有段者であり、格闘技に造詣が深かったことから、取材を通じて力道山や大山倍達と交流するようになります。作中で描かれる格闘界のレジェンドの2人の逸話はとてつもなくディープですさまじいものですが、実は真の主人公である梶原先生自身の武勇伝のほうがすごかったりします。その豪胆すぎるエピソードを、いくつかご紹介しましょう。  まだ駆け出しの小説家だった若き日の梶原先生が、浅草でストリップの女王に一目惚れ。そこからの行動は、今でいうなら、完全にストーカーです。タクシーで尾行し、彼女と同じ店に入って隣の席で飯を食いながら会話を盗み聞きしたり、ファンレターを書きまくったのに返事をもらえず、怒りのあまり楽屋に乗り込んでケツモチの暴力団に襲われるも、得意の柔道で返り討ちにしたり……。しかし、その強引さに女王は心奪われ、2人は同棲することになるのです。ストーキング行為が激しすぎて恋が成就してしまうという、稀有な例です。  続いても、女絡み。酔って入った場末のキャバレー、そこでナンバーワンホステス・夕子とイチャついていたのはいいが、実は暴力団経営のボッタクリ店で、お勘定はなんと30万円。「払えない」と言うと、「指を詰めろ」と脅されます。しかし、逆ギレした梶原先生は、その場で夕子を人質に取り、すごみ返します。 「ヤクザの情婦ふぜいが、ちょっとばっかりツラの印刷がいいからって、大の男をコケにしくさってぇーーー!」 「ヘタな大阪弁で凄むんじゃねえッ、この京浜蒲田のドサヤクザがァ!」  梶原先生、人質を取った途端、めっちゃ強気です。取り囲む数十人のヤクザ相手に、全然ひるんでいません。「ツラの印刷」って表現も斬新すぎる!  そして、和服姿で下半身丸出し状態の夕子をジャイアントスイングでブンブン振り回し、取り囲むヤクザをなぎ倒して店を脱出。その後しばらく、ヤクザの刺客たちに命を狙われては返り討ちにする日々を過ごすのですが、その梶原先生の腕っ節の強さに、ヤクザの情婦だったはずの夕子が惚れてしまい、2人は同棲することに(またかよ!)……。どうですか、破天荒でしょう!?  力道山との初対面のエピソードもすごいです。梶原先生の書いたルポの内容が力道山を怒らせてしまい、料亭の太い床柱を空手チョップで叩き割る姿を見せつけられ、周りはみんなチビッているのに、梶原先生だけはまったく動じなかったのです(実は女と別れて、ヤケクソになっていただけ)。それがきっかけで、力道山に気に入られるという、棚ボタラッキーな豪胆エピソードです。  また、銀座のステーキ店「スエヒロ」で見習いとして働いていた時代、皿を割ってコック長に殴られたのに逆ギレし、コック長を一本背負いしてノックアウト。退職金代わりに牛フィレ肉5枚を奪っていくというエピソードなども、キレッキレでシビれます。  これが最後の作品だと腹をくくっていたせいか、力道山が岸恵子と付き合っていたとか、こ●どり姉妹のスポンサーは暴力団だったとか、当時としてはいろいろと外に出してはまずそうな話を、実名で容赦なく暴露しているところも見どころです。まさに、怖いものなし状態。  さらに、梶原先生が浮き名を流した松坂慶子、島田陽子、池上季実子、早乙女愛、志穂美悦子などの女優たちとの関係についても真相を描く……などといった、名前を出された方にとっては戦々恐々の予告がされていたのですが、こちらは残念ながら、本作では描かれる前に絶筆となってしまいました。  というわけで、まだまだネタはあったに違いないのに未完となってしまったのが惜しまれる、梶原一騎自伝マンガ『男の星座』をご紹介しました。男たるもの、こんな豪快な生き方をしてみたいものですが、普通の人には到底無理そうです。先生が数々の大ヒットマンガの原作を発想できたのは、本人の人生がマンガ以上に破天荒すぎたからかもしれませんね。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

ノンフィクション作家・石井光太が迫る、虐待家庭の闇『「鬼畜」の家~わが子を殺す親たち~』

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『「鬼畜」の家: わが子を殺す親たち』(新潮社)
 2014年に発覚した「足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件」を覚えているだろうか? この事件は、東京都足立区に住む、元ホストの皆川忍(当時30歳)と、元ホステスの朋美(27歳)夫婦が、3歳になる玲空斗君を長期にわたり、ウサギ用ケージに監禁。ある日の深夜、玲空斗君が「あー」「うー」と叫ぶので、忍が「静かにしろ!」と怒鳴り、タオルをくわえさせ、窒息死させた。  このような残忍な事件を起こす犯人夫婦とは、いったいどんな人間なのか? おそらく大半の人は、こう思うだろう。人を人とも思わないような“鬼畜”に違いない、と。けれど、彼らは言う。 「愛していたけど、殺してしまいました――」 『「鬼畜」の家~わが子を殺す親たち~』(新潮社)は、ノンフィクション作家・石井光太氏が、わが子を殺してしまった事件の真相を追ったルポだ。扱うのは「足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件」に加え、未熟な夫婦が5歳の子をアパートに放置、死に至らしめて7年間放置した「厚木市幼児餓死白骨化事件」、奔放な男性遍歴の果てに妊娠を繰り返し、周囲に妊娠を隠したまま二度にわたり出産、嬰児の遺体を自宅の天井裏や押入れに隠した「下田嬰児連続殺害事件」の3件。  石井氏は、本人をはじめ、その両親や祖父母などに会い、どのような家庭環境で育ち、これまでどう生きてきたのか、事件を起こすまでの経緯を2年間かけて徹底的に取材している。  まず驚くのは、彼らの両親にはそれぞれ著しく問題がある、という点だ。中でも「足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件」を起こした忍の母・桜田亜佐美(仮名)には、絶句する。忍は児童養護施設で育った。亜佐美は育てるつもりがないのに、忍のほかに4人もの子を産み、出産と同時に施設へと預けている。それでも、長男の忍だけは唯一かわいがり、頻繁に一時帰宅させ、一緒に夜の町に出かけ、明け方まで飲み歩いたり、恋人に会わせたりした。中学卒業時には、なんの気まぐれか、忍を家に引き取るも、ソープランドで働いていたので、帰宅は深夜で昼まで眠り、食事もろくに作らなかった。  彼女の行動は、すべて思いつきだった。忍は、その性格をそっくりそのまま受け継いだ。彼には、派遣会社の運送の仕事で月15万円ほどの稼ぎしかなかった。しかし、7年間で7人もの子どもをもうけた。次女が言うことを聞かないので、リードでつないで殴った。同じく次男が言うことを聞かないので、ウサギのケージに入れ、死んでしまったから、バレないように棄てた。彼はこうしたら、こうなるという想像ができない。  また、朋美の母は、子どもを持つ身でありながら不倫し、その男が自分の長男の彼女に手を出し、怒ったところ、男にマンションの3階から突き落とされるような人物であった。  忍と朋美には、いわゆる“世間一般の温かい家庭”のイメージというものが、おそらくない。それでも、なんとかいい家庭を築こうとしていた形跡がある。それが、忍がある窃盗容疑で捕まった時に、朋美が書いた手紙だ。 「子供達は相変わらず面会で見ての通り元気だけど、皆パパが大好きだから、いないのは寂しいんだよ。でも、私がこんなんだから、ああやって元気にふるまってんだ…どんなに小さくても皆が、分かってる。パパがいないとママはダメになっちゃうって(中略)。1人で5人は、とっても大変…やっぱ、パパがいて7人揃ってウチは仲良し家族だよ!!」  実際、石井氏があるルートから手に入れた彼らの家族写真を見ると、Vサインをしたり、笑顔で頬と頬をくっつけたりしている、仲睦まじい家族写真ばかりだった。にもかかわらず、残忍な虐待によって次男を殺し、「埋葬」をするため、“長男と長女とともに”山梨県へと向かうなど、正常な頭では考えられないような行動も起こす。この矛盾が、どうして起きてしまうのか? その点について石井氏は、彼らの過去をできる限りさかのぼることで、丹念に追っている。  最後まで読み終え、思わず深いため息が出た。彼らは、本気で子どもたちを愛していたのかもしれない。だが、あくまで彼らなりに。どの事件も、まったく罪のない子どもが亡くなっているだけに、軽々しく同情はできない。けれど、幼い頃に身につけた感覚というのは、おそらく一生消えない。一体何がどうなったら、このような残酷な事件が起きるのか――。その背景を、この本で知ってもらいたい。 (文=上浦未来) ●いしい・こうた 1977年、東京生まれ。国内外を舞台にしたノンフィクションを中心に、児童書、小説など幅広く執筆活動を行っている。主な著書に『物乞う仏陀』(文藝春秋)、『神の棄てた裸体-イスラームの夜を歩く』『レンタルチャイルド-神に弄ばれる貧しき子供たち』『遺体-震災、津波の果てに』『浮浪児1945-戦争が生んだ子供たち』(新潮社)、『絶対貧困-世界最貧民の目線』(光文社)、『地を這う祈り』(徳間書店)ほか、児童書に『ぼくたちは なぜ、学校へ行くのか。―マララ・ユスフザイさんの国連演説から考える』(ポプラ社)、『幸せとまずしさの教室―世界の子どものくらしから』(少年写真新聞社)、小説『蛍の森』(新潮社)、責任編集『ノンフィクション新世紀』(河出書房新社)などがある。

“売春島”は本当にあった!? 消えていく外国人娼婦たちの声なき声『娼婦たちから見た日本』

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『娼婦たちから見た日本』(角川書店)
 日本のどこかに“売春島”と呼ばれる島がある――。半ば都市伝説のようにささやかれるそれは、本当に存在するらしい。フォトジャーナリスト八木澤高明の『娼婦たちから見た日本』(角川書店)では、著者がその“売春島”をはじめとする色街の隆盛と没落を見つめ続けた10年間のルポ。横浜・黄金町、沖縄、はては海外タイなどの色街を訪ね、そこに生きる娼婦たちとのやり取りや色街の成り立ちなどをしたためている。  “売春島”こと三重県の渡鹿野島は、江戸時代以前より存在し、漁業で賑わう島だったという。江戸と大阪を結ぶ海路上にあることもあり、船乗りたちが風を待つために立ち寄ることが多かった。島の人々は、8人ほどが乗れる小舟「はしりがね」で停泊する帆船に近づいて、娼婦が男たちの相手をすることから、そのまま娼婦たちのことを「はしりがね」と呼んだそう。  島と対岸が船で埋まるほどの人の往来があったそうだが、明治になると、蒸気船が登場し、風を待つ必要がなくなった。娼婦たちは次第に姿を消していく。多い時は島に350人ほどいて、一晩で何百万と稼いだとされる渡鹿野島の娼婦は、現在は18人とされる。ほとんどがタイなどの東南アジアの女たちだ。彼女たちは、紛れもなく1970年代に現れた“じゃぱゆきさん”の名残だ。  明治末期、外貨獲得のために海外の娼館に売り飛ばされた日本の女性たちがいた。“からゆきさん”と呼ばれた彼女たちは、文字通り体を張って外貨を稼いだという。中には騙されて海を渡ったという話もあるが、日本が国際社会に進出していくにつれ、「国家の恥」としてないものとされ、忘れられていった。今現在、色街の街頭に立つ娼婦の多くは、“からゆきさん”の逆輸入版の“じゃぱゆきさん”たち。経済的理由や、祖国の家族を養うために、日本にやってきて身を挺して働く彼女たちの言葉には心を打たれるだろう。  八木澤が横浜・黄金町で出会ったタイ人女性は、父親の病気の治療費を稼ぐために日本に来たという。娼婦を「悪い仕事」と語る彼女は、黄金町の浄化とともにいなくなった。過去250軒ほどのちょんの間があった黄金町は、2005年の摘発により全店舗が営業停止に追い込まれ、現在アートの町として生まれ変わっている。  江戸時代、幕府公認の色街は吉原だけだったとされているが、当時の言葉で「岡場所」と呼ばれた裏風俗が東京に100カ所以上あったという。幕府はそれらを取り締まり潰していったが、形を変えて売買春は行われていった。本書では、10年代に流行したネットを介した売買春や「JKビジネス」にも触れている。秋葉原などで取り沙汰される「JKビジネス」は、今の世に対応した売春の姿だと言えるだろう。八木澤は「売春街をいくら取り締まったところで、またどこからか、むくむくと現れるものなのだ」と語る。    ほか、沖縄現地の風俗事情と米軍基地との関係性や、今はなき色街を歩いた著者だから知り得るルポを347ページにわたって収録。  摘発の強化によって消えた、1,000人を超えるとされる“じゃぱゆきさん”。彼女たちは、今どこで生きているのだろうか。

後藤健二さんを惨殺したISの処刑人「ジハーディ・ジョン」が生まれるまで

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『ジハーディ・ジョンの生涯』(文藝春秋)
 2015年、ジャーナリストの後藤健二さんと湯川遥菜さんがイスラム国(IS)によって殺害された。日本人が初めてISに人質として拘束されたこの事件、IS側は日本政府に対して身代金2億ドルを要求。72時間の猶予を発表したが、その結末は2人の死という最悪のものとなった。  当時、公開されたビデオには、オレンジ色のジャンプスーツを着て、カメラに向かってひざまずく2人の間に、黒ずくめの男が立っていた。ナイフを握り、覆面をかぶったその男のニックネームは「ジハーディ・ジョン」。ISの処刑人として、数々の西側ジャーナリストや活動家たちの首を斬ってきた、残忍極まりない人物だ。  しかし、この極悪非道なジハーディ・ジョンの生い立ちを丹念に読み解くと、彼もまた「対テロ戦争」の被害者だったのか……? と、考えが揺らいでしまうだろう。イギリス人ジャーナリスト、ロバート・バーカイクによる『ジハーディ・ジョンの生涯』(文藝春秋)から、この「処刑人」の半生を見てみよう。  ジハーディ・ジョンことムハメド・エムワジは1988年、クウェートに生まれた。湾岸戦争の戦火に巻き込まれたエムワジ一家は93年、イギリスに亡命。西ロンドンのメイダヴェール地区に移り住んだ。家族はアラビア語で話し、母はヴェールをかぶっていたが、一家は決して敬虔なムスリムというわけではなかった。特に、マンチェスター・ユナイテッドの熱狂的なファンであったエムワジは、幼少期には『シンプソンズ』を愛し、中学から高校にかけては、ジェイ・Zやエミネムなどのヒップホップを愛聴した。ベースボールキャップをかぶり、マリファナを吸い、アルコールに酔うやんちゃな少年だったのだ。  そんな彼の人生の転機となったのは、イスラム過激派グループとの交際。近所に住むムスリム移民のモハメド・サルクは、過激なイスラム思想を持つとしてMI5(イギリスの諜報機関)から徹底的にマークされた人物であり、エムワジの世界観にも多大な影響を与えたと考えられている。折しも、05年のロンドン同時爆破テロ以降、保安当局はイスラム過激派に対して目を光らせ、イスラムグループの若者たちを徹底的にマークしていた。その追及の手は、ウェストミンスター大学で学ぶエムワジにも及ぶようになる。サルクなどの人物を介してイスラムグループに入り浸るようになった彼は、日に4~5回の祈祷を行い、コーランの暗記も始めるなど、徐々に信仰に目覚めていった。また、周囲の仲間だけでなく、インターネットでイスラム過激派の「ジハードに参加せよ」というプロパガンダに触れ、その思想を先鋭化させていったのだ。だが、その頃はまだ過激な思想を持つ、その他大勢のムスリムにすぎなかった。  そして皮肉にも、このMI5のマークが、彼をムスリムから「ジハーディスト」へと脱皮させていった。  MI5は、イスラム過激派グループの若者たちに近づき、MI5のスパイとして働くか、テロリストの認定を受けるかという選択を迫るなど、脅迫のような行為でムスリムたちを追い込んでいく。その申し出を断ったエムワジを待ち受けていたのは、長時間にわたる拷問や、婚約者の家族に対する取り調べの末の婚約破談など、「嫌がらせ」の数々だった……。  MI5によって生活をむちゃくちゃにされた彼は、人生の再スタートを求めて祖国・クウェートに渡る。コンピュータ・プログラマーとしての仕事を見つけ、クウェート人女性との婚約も果たしたエムワジ。しかし、またしても、彼の幸福はMI5によって打ち砕かれた。ロンドンに一時帰国したエムワジは、クウェートに向かう飛行機の搭乗時に、テロリズム法のもとに取り調べられ所持品を没収。さらに、警察官に暴力を振るわれ、イギリスからの出国を禁じられてしまったのだ……。一度ならず二度までも幸福を奪われたエムワジが、怒りに打ち震えたことは想像に難くない。  もちろん、諜報機関としては、イスラム過激思想に触れる人間を監視する必要がある。しかし、その行動は、「嫌がらせ」と言えるような行き過ぎたものだった。ロンドン時代のエムワジは、バーカイクのインタビューに対して「MI5に人生を台無しにされた」と嘆く、紳士的で礼儀正しい青年だったという。  13年、厳しいMI5の目をかいくぐってイギリスを脱出したエムワジは、失うものもないジハーディストへと成長していた。ISに参加すると、人質となった西洋人たちに拷問を加え、カメラの前で人質たちの首を斬り、世界中を震撼させる。ロンドンにおいては、不良のケンカ程度しか暴力の経験がなかった彼は、ムスリムとしてのプライドや、過激思想、そして、MI5に対する恨みなど、さまざまな要因が絡み合って、「ジハーディ・ジョン」へと生まれ変わったのだ。後藤さん、湯川さんをはじめ、カメラの前で殺害した人質や捕虜は数十人にも及ぶ。 アメリカやイギリスなど、対テロ戦争を戦う西側諸国から、最重要指名手配犯として血眼で捜索されたエムワジは、15年11月12日、アメリカ軍のドローンからの空爆を受け、殺害された。  イギリス政府は、イスラム過激主義に対して「ゼロトレランス(不寛容)」という厳しい態度をもって臨んでいる。テロの防止という掛け声のもとに、ムスリムやムスリムコミュニティに所属する多くの人々を「テロリスト」と見なし、時には人権侵害も辞さない振る舞いに及ぶ。エムワジが殺害された翌日には、フランス同時多発テロが起こり、「非常事態宣言」のもとに1万人の「要注意人物」が取り調べられた。現在も、ヨーロッパ各地で「テロリスト」の汚名を着せられているムスリムたちは、西側政府や市民への不満を募らせている。今後も、ヨーロッパ中で、第2・第3のジハーディ・ジョンが誕生するのは、時間の問題だろう。 (文=萩原雄太[かもめマシーン])

女だったら女帝を目指せ! 究極の成り上がりホステスマンガ『女帝』

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『女帝』(作:倉科遼/画:和気一作/グループ・ゼロ)
「日刊サイゾー」の読者の皆さん、こんにちは。皆さんは「成り上がりマンガ」は好きですか? 成り下がってばかりの潜水艦のような人生を送っている僕にとって、「成り上がりマンガ」は最高のカタルシスです。  このジャンルは、男性が主人公の作品が多数を占めています。スポーツマンガ、任侠マンガ、格闘マンガ、ビジネスマンガなど、多くの男性向けマンガは「成り上がる」こと自体が命題となっているので、当然ですね。  では、女性を主人公にしたマンガはあるのでしょうか? もちろんあります。それも、強烈なやつが。今回ご紹介する『女帝』です。 『女帝』は熊本出身の女子高生・立花彩香が、大阪の場末のスナックからスタートして、銀座で「女帝」と呼ばれるようになるまでの半生を描いた、ノンストップホステス成り上がりマンガです。何がノンストップかというと、一度読み始めると次の展開が気になって仕方がない、読んだら最後、You can’t stopなマンガなのです。それだけストーリーが精巧に練り上げられているということなのですが、今回はそんじょそこらの成り上がりマンガに対して『女帝』がどのぐらいすごいのかを、解説していきたいと思います。 ■成り上がる必然性ありまくりな壮絶設定  母子家庭で、スナックをしている母に育てられた彩香。高校では生徒会副会長になるほどの秀才でありながら、水商売の娘というだけで周囲に蔑まれる日々でした。そんな彩香に、ひそかに恋心を抱く男子高校生がいました。杉野健一、生徒会長であり、地元の大手企業、杉野建設の御曹司でもあります。  高校卒業間際、杉野は彩香をレイプ同然で襲うのですが、杉野が父の権力を使って、彩香が誘惑したことにしてしまいます。この頃から、男や権力に対して憎悪を燃やしだす彩香。  加えて実家のスナックは、杉野建設がバックの地上げ屋に嫌がらせをされており、心労で母が倒れてしまいます。さらに、病院の診断結果で末期がんが判明するのです。あまりに悲惨な状態からのスタートです。 ■男たちへの復讐が原動力  母ががんで亡くなり、天涯孤独となって熊本の地を離れ、大阪でホステスとして生きることを決意した彩香。しかし、杉野をはじめとした卑怯な男たちや汚い権力者たちへの復讐心がメラメラと燃え上がっていました。 「学力も力もないわたしだけど一つだけ武器がある!! 女という武器が、この武器を使ってのし上がってやる」 「男の上に君臨する、女帝になってやる…!!」  高卒にして、すでに「女帝」になることを決意します。しかも、野望達成のためなら体を張る気もマンマン。単なるお小遣い稼ぎでポロリと脱ぐのとは、気合が違うという話です。 ■処女であることを最大限に活用  ホステスとして生きることを決意した彩香ですが、実はまだバージン。そして「処女は貴重なはず、高く売れるはず」という信念のもと、女帝になるためのワンステップとして、己の処女までも利用します。  大阪で出会ったスケコマシのヤクザ、伊達直人にバージンを奪われそうになるシーンがあるのですが、こんなセリフでピンチを切り抜けます。 「この肉体をあげる時は勝負する時や! 女として一世一代の勝負する時に処女を捨てるんやッ!!」 「高おに売ったるんや!! だからナオトに抱かせるわけにはいかんのやあッ!!」  ベッドでこんなセリフ言われたら、どんな絶倫男でもシュンとなるってもんですよね。そんな感じで彩香のバージンブレークのエピソードだけでも、前半はめちゃくちゃ盛り上がります。  そんな彩香がバージンを捧げるのは、見た目はキモいけど、超大金持ちの爺さん。ミナミの妖怪と呼ばれる、美濃村社長です。 「どうせ抱かれるなら最初は醜い男がいい!! これから先、いろいろな男たちがわたしの肉体を通り過ぎていくだろう…! なら、最初に一番醜い男に抱かれれば、あとはどんな男でも受け入れられる! わたしは女帝になるんだ…」  こんなポエムをつぶやきつつ、ジジイに抱かれる彩香。しかしそのおかげで、ミナミのクラブでナンバーワンとなり、その勢いで銀座へ進出します。処女を捧げたご利益はメチャクチャありました。 ■ムダに多いシャワーシーン&着替えシーン  十分すぎるほど読ませるストーリーの『女帝』ですが、サービスシーンなのか、なんなのか、毎回のように、彩香のド迫力のシャワーシーンや着替えシーンが出てきます。裸体のゴリ押し、これも、『女帝』ならではの演出なのです。 ■『女帝』という言葉がカジュアルに飛び交う  皆さんは、日常生活で「女帝」って言うシーンはありますか? 普通の人はあまりないと思いますが、このマンガでは日常会話として普通に「女帝」という言葉が飛び交います。 「あの女は女帝なんかじゃない、わたしこそが女帝なのよ!!」 「お前も負けんな、お前は女帝になったれや!!」 「彩香やからでけたことや、さすが女帝・彩香やな…!!」 「彩香という一人の女の力…まさしく女帝にしかできないことだ…女帝・彩香にしか…!!」 「やっぱ彩ちゃん、銀座の女帝だね…!!」  こんな感じで、彩香の周りの人物たちが気軽に「女帝」と口にするので感覚が麻痺してきますが、職場で隣にあだ名が「女帝」の人が座っていたら、僕は結構嫌です。 ■ホステスの老後まで心配してこそ「女帝」 『女帝』という作品のすごいところは、彩香が成り上がった時点で終わりではないところです。引退したホステスの再就職先として割烹を経営したり、クラブを辞めたホステスがみんなで働けるように伊豆の旅館を買ったりします。さらに、結婚せずに年老いたホステスたちがお互い介護し合う環境まで整える彩香。単なる成り上がりマンガだったら、ここまで描かないですよね? っていうか、たぶんそんな話を描き始めたら、普通は打ち切られます。成り上がるだけじゃない、老後まで描き切ってこその『女帝』なのです。 ■究極のどんでん返し設定、実は「総理大臣の娘」  水商売の娘ということで少女時代からさんざん蔑まれてきた彩香ですが、なんと実の父親が時の総理大臣だったことが判明! 大逆転のスーパーチート設定で、彩香を陥れようとしていた周りのライバルたちの度肝を抜きます。女帝のパパが総理大臣。ほかのマンガでは、こんな最強設定は、なかなかお目にかかれないですよ。 ***  というわけで、女成り上がりマンガの究極系『女帝』をご紹介しました。このほかに、女帝シリーズとして『女帝 花舞』『女帝 薫子』『女帝 由奈』などがありますので、併せて読んで女帝コンプリートを目指してみるのもオススメです。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

女だったら女帝を目指せ! 究極の成り上がりホステスマンガ『女帝』

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『女帝』(作:倉科遼/画:和気一作/グループ・ゼロ)
「日刊サイゾー」の読者の皆さん、こんにちは。皆さんは「成り上がりマンガ」は好きですか? 成り下がってばかりの潜水艦のような人生を送っている僕にとって、「成り上がりマンガ」は最高のカタルシスです。  このジャンルは、男性が主人公の作品が多数を占めています。スポーツマンガ、任侠マンガ、格闘マンガ、ビジネスマンガなど、多くの男性向けマンガは「成り上がる」こと自体が命題となっているので、当然ですね。  では、女性を主人公にしたマンガはあるのでしょうか? もちろんあります。それも、強烈なやつが。今回ご紹介する『女帝』です。 『女帝』は熊本出身の女子高生・立花彩香が、大阪の場末のスナックからスタートして、銀座で「女帝」と呼ばれるようになるまでの半生を描いた、ノンストップホステス成り上がりマンガです。何がノンストップかというと、一度読み始めると次の展開が気になって仕方がない、読んだら最後、You can’t stopなマンガなのです。それだけストーリーが精巧に練り上げられているということなのですが、今回はそんじょそこらの成り上がりマンガに対して『女帝』がどのぐらいすごいのかを、解説していきたいと思います。 ■成り上がる必然性ありまくりな壮絶設定  母子家庭で、スナックをしている母に育てられた彩香。高校では生徒会副会長になるほどの秀才でありながら、水商売の娘というだけで周囲に蔑まれる日々でした。そんな彩香に、ひそかに恋心を抱く男子高校生がいました。杉野健一、生徒会長であり、地元の大手企業、杉野建設の御曹司でもあります。  高校卒業間際、杉野は彩香をレイプ同然で襲うのですが、杉野が父の権力を使って、彩香が誘惑したことにしてしまいます。この頃から、男や権力に対して憎悪を燃やしだす彩香。  加えて実家のスナックは、杉野建設がバックの地上げ屋に嫌がらせをされており、心労で母が倒れてしまいます。さらに、病院の診断結果で末期がんが判明するのです。あまりに悲惨な状態からのスタートです。 ■男たちへの復讐が原動力  母ががんで亡くなり、天涯孤独となって熊本の地を離れ、大阪でホステスとして生きることを決意した彩香。しかし、杉野をはじめとした卑怯な男たちや汚い権力者たちへの復讐心がメラメラと燃え上がっていました。 「学力も力もないわたしだけど一つだけ武器がある!! 女という武器が、この武器を使ってのし上がってやる」 「男の上に君臨する、女帝になってやる…!!」  高卒にして、すでに「女帝」になることを決意します。しかも、野望達成のためなら体を張る気もマンマン。単なるお小遣い稼ぎでポロリと脱ぐのとは、気合が違うという話です。 ■処女であることを最大限に活用  ホステスとして生きることを決意した彩香ですが、実はまだバージン。そして「処女は貴重なはず、高く売れるはず」という信念のもと、女帝になるためのワンステップとして、己の処女までも利用します。  大阪で出会ったスケコマシのヤクザ、伊達直人にバージンを奪われそうになるシーンがあるのですが、こんなセリフでピンチを切り抜けます。 「この肉体をあげる時は勝負する時や! 女として一世一代の勝負する時に処女を捨てるんやッ!!」 「高おに売ったるんや!! だからナオトに抱かせるわけにはいかんのやあッ!!」  ベッドでこんなセリフ言われたら、どんな絶倫男でもシュンとなるってもんですよね。そんな感じで彩香のバージンブレークのエピソードだけでも、前半はめちゃくちゃ盛り上がります。  そんな彩香がバージンを捧げるのは、見た目はキモいけど、超大金持ちの爺さん。ミナミの妖怪と呼ばれる、美濃村社長です。 「どうせ抱かれるなら最初は醜い男がいい!! これから先、いろいろな男たちがわたしの肉体を通り過ぎていくだろう…! なら、最初に一番醜い男に抱かれれば、あとはどんな男でも受け入れられる! わたしは女帝になるんだ…」  こんなポエムをつぶやきつつ、ジジイに抱かれる彩香。しかしそのおかげで、ミナミのクラブでナンバーワンとなり、その勢いで銀座へ進出します。処女を捧げたご利益はメチャクチャありました。 ■ムダに多いシャワーシーン&着替えシーン  十分すぎるほど読ませるストーリーの『女帝』ですが、サービスシーンなのか、なんなのか、毎回のように、彩香のド迫力のシャワーシーンや着替えシーンが出てきます。裸体のゴリ押し、これも、『女帝』ならではの演出なのです。 ■『女帝』という言葉がカジュアルに飛び交う  皆さんは、日常生活で「女帝」って言うシーンはありますか? 普通の人はあまりないと思いますが、このマンガでは日常会話として普通に「女帝」という言葉が飛び交います。 「あの女は女帝なんかじゃない、わたしこそが女帝なのよ!!」 「お前も負けんな、お前は女帝になったれや!!」 「彩香やからでけたことや、さすが女帝・彩香やな…!!」 「彩香という一人の女の力…まさしく女帝にしかできないことだ…女帝・彩香にしか…!!」 「やっぱ彩ちゃん、銀座の女帝だね…!!」  こんな感じで、彩香の周りの人物たちが気軽に「女帝」と口にするので感覚が麻痺してきますが、職場で隣にあだ名が「女帝」の人が座っていたら、僕は結構嫌です。 ■ホステスの老後まで心配してこそ「女帝」 『女帝』という作品のすごいところは、彩香が成り上がった時点で終わりではないところです。引退したホステスの再就職先として割烹を経営したり、クラブを辞めたホステスがみんなで働けるように伊豆の旅館を買ったりします。さらに、結婚せずに年老いたホステスたちがお互い介護し合う環境まで整える彩香。単なる成り上がりマンガだったら、ここまで描かないですよね? っていうか、たぶんそんな話を描き始めたら、普通は打ち切られます。成り上がるだけじゃない、老後まで描き切ってこその『女帝』なのです。 ■究極のどんでん返し設定、実は「総理大臣の娘」  水商売の娘ということで少女時代からさんざん蔑まれてきた彩香ですが、なんと実の父親が時の総理大臣だったことが判明! 大逆転のスーパーチート設定で、彩香を陥れようとしていた周りのライバルたちの度肝を抜きます。女帝のパパが総理大臣。ほかのマンガでは、こんな最強設定は、なかなかお目にかかれないですよ。 ***  というわけで、女成り上がりマンガの究極系『女帝』をご紹介しました。このほかに、女帝シリーズとして『女帝 花舞』『女帝 薫子』『女帝 由奈』などがありますので、併せて読んで女帝コンプリートを目指してみるのもオススメです。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)