日本の万引き被害額は世界ワースト2位!? なぜ人は物を盗むのか――『万引きの文化史』

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『万引きの文化史』(太田出版)
 世界でも類を見ない安全大国「日本」。財布を落としても、警察に届ければ中身もそのままの状態で戻ってくることはよくあるし、酔っ払って気持ちよーく道路で寝転んでいても、身ぐるみはがされることもない。  そんな平和な国にもかかわらず、日本の万引き被害額は2011年で4,500億円以上。なんと、世界ワースト第2位なのだ。「物価が高い」ということももちろんあるが、驚くべき結果だ。   『万引きの文化史』(太田出版)は、2011年に『The Steal:A Cultural History Of The Shoplifting 』(The Penguin Press)というタイトルでアメリカで発売された邦訳本。北米や欧州など、西洋の万引きの歴史などをはじめ、罪と罰、“道徳的”万引き犯など、いろいろな視点から万引きという行為について深く掘り下げ、学術的にまとめている。    残念だが、万引きは「小学生の頃は、よくやってたなー」などと、別に悪びれもせず話す人がいるほど、わりと罪の意識が低い犯罪だ。物があれば盗む人がいる。それは古代から変わらないようで、本書によれば、紀元前2500年、世界最古の法令「ハムラビ法典」でも、物を盗んだ者に対する罰について記されているほどだ。  また、16世紀後半のロンドンには、帽子屋、服地屋、眼鏡屋など、ガラスショーウィンドウの魅力的な店が並び始め、世界で最も豊かな大都市になり、万引き犯が激増した。この時に、いわゆる万引き、“ショップリフター”という言葉が登場した。  人はなぜ万引きをするのか――。著者のレイチェル・シュタイア氏は、何人もの万引き常習犯にこの質問をぶつけている。 「うまくいくと、すごく気持ちがいいの。ざまあみろという気になるわ」 「自分を貶めることが快感だった」    日本やアメリカなど、先進国で万引きをするのは、何も貧しい人が食う物に困って……というケースに限らず、中にはお金を持っているにもかかわらず、罪を犯してしまう人もいる。  物を盗むという行為がもたらす快感やスリル、誰かに対する反抗など、その背景にはさまざまな理由が付随している。  またアメリカでは、万引きを社会貢献でもしているかのように考え、正当化する人々もいるという。個人商店ではなく、大きなスーパー、大企業の商品ならば万引きが許され、むしろ、盗むことで金持ちと貧乏人の貧富の差を是正する、と考えているそうだ。  「万引きは文化である」かどうかは別として、日本では軽い犯罪と思われている万引きについて、全311頁という膨大なテキストに書き綴られた思いから、万引きという行為について、あらためて考えさせられる。 (文=上浦未来) ●レイチェル・シュタイア(Rachel Shteir) イリノイ州シカゴのデポール大学演劇学部準教授および、美術学士課程「批評および劇作法」の主任を務める。「ニューヨーク・タイムズ」「ガーディアン」「シカゴ・マガジンズ」など、多くの新聞や雑誌に寄稿。著書に、ジョージ・フリードリー記念賞を受賞したStriptease:Untold History Of The Girlie Show,Gypsy:The Art Of The Teaseがある。 訳者略歴 ●くろかわ・ゆみ 翻訳家。津田塾大学英文学科卒。主な訳書に『イーティング・アニマル』ジョナサン・サフラン・フォア(東洋書林)、『トラウマと解離症状の治療』サンドラ・ポールセン(東京書籍)、『バナナの世界史』ダン・コッペル(太田出版)ほか多数。

原作愛あふれる演出にファンも太鼓判! テレビアニメ版『ジョジョの奇妙な冒険』を徹底分析

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テレビアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』
 『ジョジョ』といえば、1987年、「週刊少年ジャンプ」(集英社)にて連載がスタートした荒木飛呂彦の人気コミックである。ジョースター一族と邪悪な吸血鬼・DIOとの戦いをさまざまな時代、世界で描く大河バトル作品である本作が、10月に初のテレビアニメシリーズを開始するにあたり、多くのファンは「大丈夫なのか?」と不安に思っていたことだろう。  本作は数多くの魅力的なキャラクターが発する「名言」や「迷言」、アバンギャルドなビジュアルなど、ほかの少年漫画とは一線を画す要素のほかに、昨今のアニメ事情からすると少々ハードなホラー、グロテスク描写もあるということから中途半端な映像化となり、結果「なかったことに」なるのでは……。また、あまり高いとは言えないクオリティや諸般の事情でソフト化が今後も絶望的な、2007年に公開された第1部の劇場アニメの二の舞いになるのでは……。  事実、ネット上のアニメクラスタの発言を振り返ると、そのような不安を感じさせる発言や、ある種ネタアニメ扱いするかのような発言が多かったように思える。ところがどっこい。いざフタを開けてみれば、絶賛の嵐! 間違いなく、2012年秋クールアニメの台風の目といえる存在感を醸し出している。  そこで、今回はテレビアニメ版『ジョジョ』のどこが面白いのかを勝手に分析してみた! ■その1 ハート震えるキャスト陣の演技  『ジョジョ』といえば、あまりにも濃いキャラクターたちが放つ、あまりにも強烈なセリフの数々。キャラクターは知らなくとも、セリフは知っている。そんな『ジョジョ』ビギナーもいるとかいないとか。問題は、そんな名言たちをいかに誰もが納得できる形で音声化するか。もしくは、原作とはまた異なる要素を盛り込んで新たな魅力を発掘するか、である。スタッフもここにはこだわっているらしく、本作のキャストは実力派の中堅声優からベテランを多く起用。  また、アニメ雑誌の記事には、DIOが「ズキュウウウン!」とエリナに強引なキスをするシーンに出てくる名言「そこにシビれる! あこがれるゥ!」を担当することになった声優・松岡禎丞が音響監督から「このセリフをちゃんとやれないと、すべてのファンに恨まれるよ」と釘を刺されたというエピソードが掲載され、多くのジョジョファンの心を打った。(なお、劇場版では、このセリフは全カットされていた!)  そのほか、吸血鬼の「URYY」という独特の雄たけびを、DIO役の子安武人は微妙にニュアンスを変えていくことで少しずつ覚醒していくDIOを見事に演じてみせるなど、原作愛あふれまくる演技が続出している。個人的には塩屋翼演じるツェペリ卿の、「パパウパウパウ」のドライブ感あふれる演技に感動した。 ■その2 燃え尽きるほどヒートするテンポのいい構成  本作は2クールにわたり、原作コミックの第2部までを映像化する模様だ。ジャンプコミックス12巻までを、およそ26話で駆け抜けるということで、のんびり原作のエピソードを消化すると、すぐにタイムアップしてしまう。そこで本作は、原作を大胆に編集。非常にテンポ良く物語は展開する。  分かりやすいのがジョジョとDIOが出会い、対立を深めていくすべての発端を描く第1話だろう。BGMと印象的なセリフでエピソードをつなぐことで、詳細は語られなくとも、雰囲気でストーリーを視聴者が理解できるような編集は、まさに匠の技といってもいい。そのほかにも、冗長になりかねないエピソードは回想シーンとして処理し、重要な部分だけを抽出するというダイナミックなアレンジも散見。  感覚としては、劇場版『ターンAガンダム 地球光』のオープニングのようなノリか。原作をザクザクと切り刻んでつなぎ直すという、テレビアニメ版『ジョジョ』の構成は、ともすれば原作のテイストをもそぎ落としかねない危険と隣り合わせだが、そんな違和感はほとんどない。アニメスタッフの『ジョジョ』という作品への理解度が、こういう部分からもうかがえるというものだ。 ■その3 ジョジョテイストがオーバードライブする作画&演出!  テレビアニメ版『ジョジョ』最大の見どころといえば、やはり「メメタァ」「ズギュウウウン」「ズギュンズキュン」など、いったいどういう音なんだよ、と言いたくなるような個性的な擬音を、あえて「書き文字」で再現しているところだろう。  ここで下手な効果音を入れようものなら、ファンは激怒したであろうが、これは英断である。また、そういった重要な場面では基本的にキャラクターは動くことはなく、止め絵を引いたりパンさせることが本作では多い。この演出が、漫画の手法でいうところの「見開き」のようなインパクトを画面に与えている。これは推測になるのだが、テレビアニメ版『ジョジョ』の現場では、それほど多くの予算が用意されていないのだろうか。最近のテレビアニメにしてはキャラクターがあまり動かないシーンや、ブラックでキャラクターを塗りつぶすことで描き込みを省略しているシーンがちらほら見受けられるのだ。だが、そこを逆転の発想で「インパクトのある止め絵」という漫画表現を取り入れることで、『ジョジョ』らしいアバンギャルドな画面作りと予算からくる動画枚数の少なさを両立させたスタッフのセンスには感服である。  言うなれば、テレビアニメ版『ジョジョ』には、手塚治虫が開拓したリミテッドアニメーションの思想が受け継がれているといえる。また問題のホラー、グロテスク描写も影やブラックを演出で取り入れることで、はっきりと描くことなく、きちんと「描ききっている」部分に感動だ。このスタッフ、分かっているッ! ■その4 主題歌が熱すぎる!  「てっにっいっれろっ! ドラゴンボール!」「セインセイヤァー!」などなど、一度聴いたら忘れられない往年のジャンプアニメ主題歌たち。テレビアニメ版『ジョジョ』も、その系譜を受け継ぐ正統なジャンプアニメなのだ! 何はなくとも、『サクラ大戦』『キングゲイナー』など、情熱的なアニメソングに定評のある作曲家・田中公平が手がけたオープニング主題歌「ジョジョ~その血の運命(さだめ)~」の盛り上がりは異常である。『FNS地球特捜隊ダイバスター』主題歌を歌った富永TOMMY弘明による「ンジョォォオオオジョォォォオオオオオ!」のシャウトは必聴。  そしてエンディングテーマは、英国のプログレバンド・YESの「Round about」という渋すぎるチョイス。8分超の大作を90秒に再構成するという、ウルトラCをやってのけているのだ。  『ジョジョ』シリーズには、洋楽アーティストの名前を冠したキャラクターやスタンド(第3部以降、登場する戦闘用の背後霊みたいな存在)が多数登場するということもあり、作品にはぴったりの選曲だといえる。  そんな感じで、とにかくテレビアニメ版『ジョジョ』は、いろいろな意味でスゴいのだ! まだまだ物語は第1部の中盤。これからジョジョとDIOの因縁の対決は本格化していくタイミングなので、本作に乗り遅れた人も、これから見始めてもストーリーに追いつくことはできるはず。ぜひとも奇妙なジョジョワールドを体験してみよう! (文=龍崎珠樹) ■バックナンバー 【第23回】秋の夜長にメカバトル! 期待の秋クールスタートのロボットアニメ 【第22回】『マブヤー』に続け! 沖縄発ご当地アニメ『はいたい七葉』が全国制覇を狙う!? 【第21回】まるで電波少年!? 『ココロコネクト』ドッキリ事件が業界を巻き込み大炎上中! 【第20回】新ジャンル? 「不憫萌え」の女王・高垣彩陽の演技が光る話題作『ソードアート・オンライン』 【第19回】「売りスレ」では計測不能!? アニメDVDの売り上げを陰で支えるレンタル市場 【第18回】「求められるのは声優ソングばかり……」表舞台を追われたアニソン歌手の現在 【第17回】美少女たちが追いつめられる姿にゾクゾク!? リアル系ロボットアニメ『トータル・イクリプス』 【第16回】夏アニメの穴馬!? “いわく付き”SNSゲームアニメ『探検ドリランド』に熱視線 【第15回】 キーワードはホモソーシャルな描写!? 今夏は「乙女ゲーム原作アニメ」が熱い! 【第14回】「まるで90年代の夕方6時枠アニメ!?」『モーレツ宇宙海賊』の大器晩成ぶり 【第13回】もはや“声優アイドルフェス”!? アニソン重鎮不在の「アニサマ2012」に不安の声 【第12回】「期待外れ?」「これぞ京アニ?」 賛否両論『氷菓』の本当の見どころ 【第11回】「燃え上がれ、俺の小宇宙よ!」前作ファンもニヤリ『聖闘士星矢Ω』 【第10回】「見たかったのはコレジャナイ!?」声優アイドルアニメ『夏色キセキ』に早くも黄色信号 【第9回】大コケの『機動戦士ガンダムAGE』を徹底検証! 求められる新たな「ガンダム像」とは? 【第8回】アニメ業界の新トレンド!? “分割2クール作品”急増の裏事情 【第7回】ついに世代交代!? 若手アイドル声優が続々歌手デビュー 【第6回】AKB48 vs 声優アイドルユニット アニメ界もついにアイドル戦国時代突入か!? 【第5回】一流アニメファンなら女児向け作品もチェックせよ!? 『スマイルプリキュア!』 【第4回】過激なピンク描写が男子の下半身を直撃!『アマガミSS+ plus』 【第3回】今クール話題の学園モノを徹底分析!『男子高校生の日常』『Another』 【第2回】ロボット好き必見! 洗練されたメカたちが大活躍『輪廻のラグランジェ』 【第1回】水樹奈々が歌いながらバトル!? 「戦うヒロイン」アニメに大注目!

ビジネスデーの来場者1,000人は多いか少ないか? “西日本最大級”「京都国際マンガ・アニメフェア」の課題

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京都国際マンガ・アニメフェア公式サイト
 去る9月21日から23日まで開催された「京都国際マンガ・アニメフェア2012」。京都市が「西日本最大級の総合見本市」と銘打って開催したこのイベントは、3日間で合計2万3,800人の来場者を数えた。うち、商談を目的としたビジネスデーの来場者は1,000人。開催から1カ月あまりを経て、イベントの成果を京都市に聞いた。  声優・水樹奈々の平安神宮奉納公演などファンに向けた訴求力の高い企画が盛り込まれた今回のフェア。一方で、主催する京都市が目指したのは、ビジネス面での成果だ。京都の企業が製造・販売している製品と、マンガ・アニメをコラボした商品を生み出すことにも、期待がかかっていた。  そうした背景の下、ビジネスデーには主に東京からマンガ・アニメのコンテンツを保有する企業が多数出展した。ところが、実際に取材した雰囲気では、具体的な商談に至っている様子は少なかった。ほかのビジネス主体のイベント、例えば、世界規模の恒例行事となった「東京国際アニメフェア」のビジネスデーは、出展する側に売り込もうとする意志が強く感じられる。来場者も同様で、何か新たなビジネスはないかと、それこそ目を皿のようにして探しているものだ。それに比べると、どうもビジネスの場としての雰囲気が薄かったことは否めず、少し拍子抜けである。こうしたビジネスデーの状況を、京都市はどのように考えているのか。 「正直、物足りなさはあります。ビジネスデーの来場目標が1,000~2,000人でしたので、想定していたギリギリの数でした。何よりも、来場した京都の企業は、キャラクターとコラボした商品を具体化するためにどうしたらよいか、わかっていない印象を受けました。そうした点は、改善をしていかなければならないと考えています」 と、京都市産業観光局産業振興室の草木大さんは話す。フェア開催前には、コラボ商品の開発を考えている企業向けに事前商談会も開催されたが、まだまだどのような形で具体的に話を進めていくか戸惑いが見られたようだ。それでも、フェアでは15種類のコラボ商品が展示、販売された。京都市では初回にもかかわらず多数の商品が開発できたことを肯定的に捉えており、これを継続的に販売していくための準備を進めているという。  初年度ゆえに戸惑いもあったが、先行きが明るいのは、京都市の担当者が「大成功!」と諸手を挙げるのではなく、改善すべき点を正確に把握していることだ。フェア会場で展示、販売されたコラボ商品を先行事例として使い、キャラクターを用いた商品開発の方法、商談のポイントなどが共有されれば、ビジネスデーはさらに密度の濃いものになっていくだろう。京都市の門川大作市長は、3年は継続して開催する意向を示しているが、幸いにも水樹奈々効果もあり2万を超える参加者があったことで、来年はナシとはならなそうだ。「西日本最大級」を謳うこのフェアが、京都の秋の風物詩として定着していくことを期待したい。 (取材・文=昼間たかし)

原作に惚れ込んだ井筒和幸監督が満を持して映画化!『黄金を抱いて翔べ』

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(c)2012『黄金を抱いて翔べ』製作委員会
 今週紹介する新作映画3本は、ジャンルこそ違えど、スケールの大きな世界観とスリリングな展開でずっしりと見応えある力作ぞろいだ。  11月2日公開の『のぼうの城』は、第29回城戸賞を受賞した和田竜の脚本『忍ぶの城』を、野村萬斎主演で描くスペクタクルな時代劇。豊臣秀吉(市村正親)が天下統一を目前に控えていた頃、最後の敵対勢力となった北条勢の支城、武蔵国の忍(おし)城には、「のぼう様(でくのぼうの意味)」と領民から慕われる城代・成田長親(野村)がいた。石田三成(上地雄輔)が率い、忍城を包囲した豊臣勢2万人の大軍に、長親はわずか500人の軍勢で戦いを挑む。   『ジョゼと虎と魚たち』(2003)など人間ドラマを得意とする犬童一心監督と、特撮監督出身で『ローレライ』(05(などを手がけた樋口真嗣監督が、それぞれの持ち味を出し合った共同監督作。狂言師・野村萬斎のユーモラスな所作とひょうひょうとした存在感が見事にハマった。佐藤浩市、成宮寛貴、榮倉奈々、山口智充、山田孝之、尾野真千子ら豪華共演陣の熱演も見どころだ。  11月3日に封切られる『黄金を抱いて翔べ』は、銀行地下金庫からの金塊強奪という大勝負に賭ける男たちを骨太に描くクライムエンタテインメント。過激派らを相手に調達屋をしてきた幸田(妻夫木聡)は、大学時代からの友人・北川(浅野忠信)から大阪のメガバンクの地下にある巨額の金塊を強奪する計画を持ちかけられる。2人は、銀行担当システムエンジニアの野田(桐谷健太)、元北朝鮮スパイのモモ(チャンミン)、北川の弟・春樹(溝端淳平)、元エレベーター技師のジイちゃん(西田敏行)を仲間に加え、緻密かつ大胆な作戦を決行する。  高村薫が日本推理サスペンス大賞を受賞した1990年のデビュー小説を、発表時から惚れ込み企画を温めてきた『パッチギ!』(05)の井筒和幸監督が満を持して映画化。ヒゲ面の妻夫木と角刈りの浅野、男臭さあふれるルックスの2人を中心に繰り広げられる、友情と裏切り、駆け引きと陰謀の行方から目が離せない。北川の妻を演じた中村ゆりの優しく儚い美しさも印象に残る。  現在公開中の『リンカーン 秘密の書』(2D/3D上映)は、奴隷解放で知られる19世紀の米大統領エイブラハム・リンカーンが実はバンパイアハンターだった、という奇想天外なストーリーが展開するアクション超大作。リンカーンは少年時代に母親をバンパイアに殺され、復讐のため戦闘術を学ぶ。やがて成長したリンカーン(ベンジャミン・ウォーカー)は、バンパイアが奴隷制度を隠れ蓑(みの)に『食事』を得ていることを知り、昼は政治家として奴隷解放を訴え、夜は斧を手にしたハンターとしてバンパイアと戦うようになる。  監督は、『ウォンテッド』(08)のスタイリッシュなアクション表現が記憶に新しいティムール・ベクマンベトフ。製作は、自身の監督作『ダーク・シャドウ』(12)でもバンパイア物を手がけたばかりのティム・バートン。ハイライトの戦闘アクションは、屋敷の舞踏会場での接近戦、大群で暴走する馬の上でのダイナミックな戦い、炎上する列車と崩れ落ちる橋を舞台にした最終決戦と、どれも斬新で迫力満点。ヒロインのメアリー・エリザベス・ウィンステッドも、シックな衣装をまとい大人の魅力を漂わせている。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『のぼうの城』作品情報 <http://eiga.com/movie/55578/> 『黄金を抱いて翔べ』作品情報 <http://eiga.com/movie/57792/> 『リンカーン 秘密の書』作品情報 <http://eiga.com/movie/57475/>

吹き替え声優界のおさ・羽佐間道夫が激白!「『ロッキー』はミスキャストだった」

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御年79歳!
 1987年にテレビ東京で放送され、お茶の間を爆笑の渦に巻き込んだ伝説のコメディシリーズ『俺がハマーだ!』が帰ってくる! 日本での放送から25周年を記念して、11月2日、ポニーキャニオンよりDVD-BOXが発売される。サンフランシスコ市警察の刑事スレッジ・ハマーが、相棒の女性刑事ドリー・ドローと、数々の難事件・凶悪事件を強引に解決するこのドラマ。日本語吹き替え版は、声優たちによる爆笑アドリブが話題となった。今回、DVD-BOX発売を記念して、ハマー役の羽佐間道夫氏に当時の思い出話を伺った。 ――今回、DVD-BOXのプロモーション用に新しくナレーション録りされていますが、久々の 吹き替えで、すぐにハマーの声は出せましたか?  羽佐間道夫(以下、羽佐間) 実は、ハマーの場合は僕の地の声に近いので、あんまり作り込んだものではないんです。だから、久々とはいえ、そこまで難しくなかったですね。『俺がハマーだ!』はときどき見ていますが、今見ると“ここは変えたほうがいいんじゃないかな”という部分はたくさんありますね。古いギャグがあったりして、今の時代ではあまり通じないんじゃないかなって。こういう素材って、本当はどんどん新しい人が録り直していったほうが面白いんじゃないかと思いますよ。 ――このドラマが日本でヒットした大きな要因は、なんといっても日本語吹き替えの面白さだと思いますが、このアドリブは企画段階から決まっていたことなんですか? 羽佐間 いやいや、まさか。ただ、翻訳家と放送作家はすごく頭を悩ませていましたし、実際出来上がった台本を見て「これはニュアンスがちょっと違うんじゃないかな」と思っていました。当時は、“役者は黙っておけ”というような風潮がありましたが、役者も入れて一緒に考えていこうという空気が生まれ始めた作品でもありますね。台本の骨組みはちゃんとできていたので、あとはのりしろをくっつけるような作業でしたよ。 ――ほかの声優さんたちとの掛け合いの中で、突然のアドリブにすぐさま反応できないこともあったりしたんですか? 羽佐間 そりゃそうですよ。何回も録り直しましたね。今は録音技術が発達していますから、簡単に「じゃあ2秒前に戻りましょう」とかできますが、昔は一回まわっちゃうと、ノンストップ。NGが出ると、また頭からやり直しですからね。でも、アドリブって一度止めちゃうと二度と同じのができないんですよ。だから映像をよーく見ると、“これは絶対間違ってるな”というところも発見できる。それも、今回のDVD-BOXのお楽しみですね。 ――おなじみの決め台詞「動くなよ。弾丸が外れるから」もアドリブから生まれたものだったんですか? 羽佐間 これは最初からありましたね。いろんなパターンがあったんですが、最終的にはリップシンクにも一番合うなってことでこれに決まったんです。「動かないでちょうだい。今ピストルに弾丸込めるからさ」とかもあったんですが、これだとさすがに長すぎて入らなかったんです。
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当時の台本。
――とくに記憶に残っている回はありますか? 羽佐間 やっぱり初回の「USA爆発刑事 バズーカ小脇に救出作戦!!」ですよね。出勤中にいきなりバズーカでビルをぶっ放す刑事なんて、いくら喜劇とはいえ、とんでもないコミック作品だなと脚本を読んで驚いたことを覚えています。 ――『ハマー』以外にも海外の刑事ドラマはいろいろありますが、羽佐間さんから見たこのドラマの魅力とは、どんなところですか? 羽佐間 警察をギャグでいじるっていうのは、日本には当時も今もないんですよね。『こち亀』みたいなのはありますけどね。こんなに常識外れの警官がギャグとして許されるって、日本ではできなかったと思います。漫才とかコメディを見ている感じで見られるというのがいいですよね。ハマーに関していえば、どこか温かさを持っているところが魅力ですかね。刑事というとギスギスしているイメージがありますけれど、ハマーは人間味とユーモアのある刑事。犯人を痛めつけたりするシーンはほとんどないんですよね。どんな嫌な奴でも凶悪な奴でも、説得するだけ。このドラマを放映していた25年前というのは、日本はバブルがはじけてだんだんとすさむような時代に突入し始める時だったんですが、そんな中で、お茶の間で何も考えずに笑える作品というのがよかったんじゃないですかね。 ――吹き替え声優界の大御所として知られる羽佐間さんですが、『ハマー』以外にも、実にたくさんの役をこなされています。これまでに吹き替えた作品は7000本以上もあるそうですが、その中でもやっぱり『ロッキー』のイメージが強いですね。 羽佐間 シルヴェスター・スタローンは、僕が一番苦労した俳優なんです。僕の声はハイバリトンだから、スタローンとはトーンが合わないんですよ。だからその分、エロキューションで稼がなきゃいけない。年を取ってローバリトンになってしまったから、本当はファイナルなんてやりたくなかったんですが、「5までやっているから、ぜひ6もやってください」って頼まれちゃいまして。それに、実はスタローンって、あんまり好きな俳優じゃないんですよ。マッチョマンが嫌いなんです。ヒョロっとしているけど繊細さがあって、どこか温かみがあるとか、そういう役柄が好きなんですよ。『評決』のポール・ニューマンとか、『クロコダイルダンディ』のポール・ホーガンとかですかね。 ――それは衝撃の事実ですね。 羽佐間 僕は最大のミスキャストだと思いますね。それなのに、羽佐間を代表するものは『ロッキー』になっちゃう。この長い吹き替え人生の中で、みんなの印象に残っているのは「エイドリアーン」と「動くなよ。弾丸が外れるから」だけっていうのは寂しいですね。それ以外にも傑作をいっぱい放っているのに……。もっとほかの作品も褒めてほしいですよ! ――……なんだかすいません! それでは最後に、日刊サイゾー読者に『俺がハマーだ!』のPRをお願いします。 羽佐間 いまバイオレンス映画が多いけれど、『ハマー』は一見バイオレンスに見えて、実は人間の温かさみたいなのを貫いている作品だと思うんです。こんな時代ですから、そんなところも見直して、ホッと和んでもらえればと思います。 (取材・文=編集部) ●『俺がハマーだ!』『新・俺がハマーだ!』DVD-BOX 価格:各12,600円(税込) 発売:11月2日(金) 発売元:『俺がハマーだ!』DVD製作委員会 企画協力:フィールドワークス 販売元:ポニーキャニオン

“アイドル戦国時代”の懐の広さを垣間見る──『インディーズ・アイドル名鑑』

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『インディーズ・アイドル名鑑』
(河出書房新社)
 現在、日本アイドルシーンのトップに君臨しているAKB48。テレビなどでさんざん曲が流れまくっているので、まったく興味がなかったとしても代表曲のサビくらいはフフフーンと歌えたりするんじゃないだろうか。そんな国民的アイドルとしての地位を確立しているAKB48だが、メンバーの顔と名前をどのくらい覚えているかといわれると……。  なんせ人数がスゴイので、かなりのガチなファンでもない限りすべてのメンバーを把握なんてできてないんじゃないだろうか。だってSKE48、NMB48、HKT48などの姉妹グループに研修生まで合わせると、総勢で200人以上にもなるらしいもん。そんなん覚えるの無理だーッ!  もちろん、AKBグループ以外にもたくさんのアイドルたちが存在する。この夏、開催された一大アイドルイベント「TOKYO IDOL FESTIVAL 2012」には、AKBグループからはSKE48しか参加していないにもかかわらず、111組、732人ものアイドルが出演した。AKBグループでもなければ「TOKYO IDOL FESTIVAL」にも参加していないアイドルだってまだまだいるし(「サイゾー」でおなじみの小明ちゃんとかね!)、とにかく今の日本には、少なくとも1,000人以上の「アイドル」と呼ばれる活動をしている子たちがいるということだ。  さらに、AKBのメンバーオーディションには毎回数万人の応募があるというし、アイドル・ワナビー層まで含めたら、ホントにすさまじい数のアイドルが存在している今の日本(しかも男性アイドルを抜かしてこの数!)。日本の歴史上において、かつてこれほどまでに大量の「アイドル」が存在した時代があっただろうか!? ……ないだろうなぁ。時はまさにアイドル戦国時代!  で、こんな巨大なシーンが生まれると、当然その中ではピラミッド構造のヒエラルキーが形成される。ゴールデンタイムのテレビ番組や巨大なライブ会場でガンガン活躍しているトップアイドルから、もうちょっと小規模なステージで活動しているB級アイドル、そして数十人も入ればいっぱいな地下のライブハウスが主戦場となる地下アイドルたち。  言葉の通り「地下のライブ会場で活動するアイドル」という意味ではあるものの、「地下アイドル」と言っちゃうと「地下格闘技」や「地下カジノ」などのように、あまりにもアンダーグラウンドな感じがしてイメージが悪いからなのか、最近では「インディーズ・アイドル」などとも呼ばれているらしい。とにかく、彼女たちが現在のアイドル・ピラミッドのボトムをガッチリと守っているのは間違いないだろう。  そんなインディーズ・アイドルたちを総勢208人も一気に紹介しているのが、この『インディーズ・アイドル名鑑』(河出書房新社)。パラパラとページをめくってみると……それなりにアイドルシーンに興味を持っているつもりのボクでも、ほっとんど誰が誰だか分からないッ!  そして、「アイドル」にとってかなり重要なステータスのひとつであるハズの顔面偏差値も「メジャーなアイドルよりも遙かにカワイイよ!」という子から、「コレでアイドルになろうとは……アンタ、どういうつもりだ!?」と説教したくなるレベルまで公立中学の生徒並みに幅広く、現在のアイドル業界の裾野の広さを実感せずにはいられないのだ。  さて、この『インディーズ・アイドル名鑑』。208人ものアイドル(一応)を紹介はしているものの「この子はこういうグループでこういう活動をしていて……」みたいな細かい解説は一切ナシ。女の子ひとりにつき1ページ、白バックのスタジオで撮影された写真が1枚だけ掲載されており、隅っこに、申し訳程度に名前とグループ名が表記されているだけ。ホント、カタログのようにアイドルちゃんたちが羅列されているという編集になっている。  聞いたこともない、しかも顔面偏差値もビミョーなアイドルのグラビア(しかも基本、非エロ)を解説もナシで延々見せられて面白いのかいな? という気もするが、ひとくちに「アイドル」といっても本格派からイロモノまで、従来のアイドルという枠には収まりきらない衣装やコンセプトで多種多様に進化したアイドルちゃんたちの「なんとかこの1枚の写真で自分のアイドルとしての魅力を伝えよう!(そんで売れたい!)」という気合いがビンビンに伝わってくるグラビアは、なかなかに見応えがあって面白いのだ(「最ブス・アイドルを探せ!」的な見方をしても相当楽しめるけど)。  それにしても、必ずしも顔面偏差値が高くなくても、スタイルがよくなくても、コンセプトやインパクト勝負で「アイドル」と言い張っている子たちが、今の日本にはこんなにいるのかと……(もちろん直球勝負してる子もいっぱいいるけど)。で、そんな子たちにもそれなりにファンがついて、愛されているという懐の広さが現在のアイドルシーンの面白さともいえるのではないだろうか。  しかしこの状況、オジサン世代としては若干90年代のバンドブーム・イカ天ブームを思い出さずにはいられないのだ。演奏力や楽曲以上に衣装や珍妙なパフォーマンスが注目を集め、なぜか水泳選手の格好をしたバンドや、歌舞伎メイクで決めたバンドなど、ワケの分からないヤツらが次々に注目されては消えていったあの時代。もちろん、そんな中から後世に残るようなガチで実力のあるバンドたちもたくさん輩出されたので、今のブームが過ぎた後、アイドルシーンがどうなっていくのかというのは楽しみではあるのだけれど。  ただ、ちょっと気になるのがお金事情。バンドブーム当時、とにかくどんなバンドのCDでもそれなりに売れて、レコード会社や事務所はガンガン儲かっていたのに、契約やお金の仕組みを全然分かっていなかった若いバンドマンたちの手元にはほとんどお金が入ってこなかった、というような話をよく聞くけど、今のアイドルシーンでも同じようなこと、起こっていないといいけどなぁ~……と。  とある事務所では、それなりにCDなどが売れているにもかかわらず、今までの赤字が解消されるまでアイドルはノーギャラ。あるアイドル・コンピレーションアルバムは握手券やツーショットチェキでファンを釣ってアルバムを売りまくっているのに、アイドルに対する印税はナシ(現物支給で手売りした分がギャラらしい)なーんて話を小耳に挟むたびに、ファンたちは何もプラスチックの円盤をいっぱい欲しいわけじゃなくて、「アイドルの生活が少しでも楽になれば……」「活動がもっと広がれば……」と思って何枚もCD買ってるんだからな! とは思ってしまう(アイドルを売り出すのにいろいろ金がかかるのも分かるけどね)。  じゃなかったら、かつてバンドシーンがそうなっていったように、事務所やレコード会社を通さずにホントの意味での「インディーズ」な活動をしていくアイドルがドンドン増えていくんじゃないかな。若い女の子たちが自分たちだけで……というのはそれはそれで色々と問題が出てきそうだけど、それを乗り越えた本当に面白くてインディーズなアイドルが出てくるのが楽しみでもある。  ……ところで、この本もアイドルたちにちゃんとギャラ、出てるのかな? (文=北村ヂン)

緊張感とバカバカしさが入り乱れ! 本当にあった奇想天外な救出作戦『アルゴ』

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 今週は、万人向きの映画ではないかもしれないが、各ジャンルの面白さや可能性を改めて示し、さらにはジャンルをクロスオーバーした表現で楽しませてくれる意欲作3本を紹介したい。  10月26日に封切られた『アルゴ』は、ベン・アフレックが監督・主演を務め、イランで実際に起きたアメリカ大使館人質事件の救出作戦を描くサスペンスドラマだ。1979年11月、イラン革命が激化するテヘランで過激派がアメリカ大使館を占拠。大使館員52人が人質になるが、混乱のなか6人が脱出し、カナダ大使の私邸に身を潜める。CIAで人質救出を専門とするトニー(アフレック)は、6人を国外へ脱出させるため前例のない大胆な作戦を立案。それは、「アルゴ」という架空のSF映画を企画し、6人を撮影スタッフに偽装して出国させるというものだった……。  単身イランに乗り込んだトニーと6人が体験する「発覚すれば即拘束・処刑」という緊迫感と、『スター・ウォーズ』を元ネタに架空の映画製作を立ち上げてロケハンチームを装うというバカバカしさのギャップがたまらない。CIAをはじめとする諸外国の情報部の秘密工作といえば、機密情報を盗み出したり要人を暗殺したりといった印象があるが、こんな奇想天外なミッションも敢行していたという事実に驚かされるはず。ベン・アフレックは『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(07)、『ザ・タウン』(10)に続く監督作3作目で、観客を引き込む演出の腕を着実に上げている。  10月27日公開の『危険なメソッド』は、『スキャナーズ』(81)、『裸のランチ』(91)の鬼才デビッド・クローネンバーグが、精神分析学黎明期の2大巨頭フロイトおよびユングと美しい女性患者の関係を描く歴史心理ドラマ。若き心理学者ユング(マイケル・ファスベンダー)は、激しいヒステリー症状を示すロシア人女性ザビーナ(キーラ・ナイトレイ)の担当になる。「談話療法」という画期的な治療法を提唱する精神分析学者フロイト(ビゴ・モーテンセン)のアドバイスを得ながら、ザビーナの治療と研究を進めるユングだったが、あるとき彼女と一線を越え男女の仲になってしまう。  クローネンバーグといえば、人気を確立していった80年代から90年代にかけてはSF、特殊メイクを駆使した異形の存在や人体破壊、特殊な性衝動といったB級要素と、アーティスティックな作家性が共存するマニア好みの映画が多かった。だが、モーテンセンと組んだ『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(05)、『イースタン・プロミス』(07)など近年の映画は比較的“上品”な作風になっており、本作もその路線上にある。ファスベンダーとモーテンセンの格調高い演技をたっぷり堪能できるが、美しいキーラ・ナイトレイが序盤で見せる、下あごを思いっきり突き出して表情を歪める“変顔”も強烈。ザビーナの特殊な性的嗜好が暴かれるシーンでの熱演もあっぱれだ。  11月3日公開の『トールマン』は、フレンチホラーの新鋭パスカル・ロジェ監督が、ジェシカ・ビール主演で描くサスペンスホラー。かつての炭鉱の町コールドロックでは、鉱山が閉鎖され急速に寂れていくなか、幼い子どもたちの失踪が相次ぐ。正体不明の誘拐犯は「トールマン」と呼ばれ、町の住民から恐れられていた。診療所で働く看護師のジェニー(ビール)は、ある夜自宅から何者かに連れさられた子どもを追い、傷を負いながらも町外れのダイナーにたどり着くが……。  前作『マーターズ』(09)の超絶激痛シーンで、一躍ホラーファンやSM愛好家の注目を集めたロジェ監督。今作でその手のゴア描写を期待すると肩すかしを食うが、登場人物の印象が二転三転するストーリーは宣伝文句に偽りなしの衝撃だ。前作と合わせて見ると、ロジェ監督にとって表現の過激さやどんでん返しの筋立てはあくまでも手段で、社会のより大きな問題に対峙することを表現しているように思える。テーマや描写で物議を醸すのも、困難な使命を自ら任じる監督がメッセージを広く伝えるための戦略なのかもしれない。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『アルゴ』作品情報 <http://eiga.com/movie/57493/> 『危険なメソッド』作品情報 <http://eiga.com/movie/57539/> 『トールマン』作品情報 <http://eiga.com/movie/77538/>

炎上注意! SNSやTwitterで個人情報をバラまくべからず

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 最近、「炎上」が問題になっている。炎上とは、ネット上で特定の発言や状況に話題が集中して拡散することを意味する。刺激的な内容であれば、TwitterやSNS、ブログなどを介して爆発的に広まるのが特徴だ。炎上の引き金になる内容は多岐にわたるが、カンニングや飲酒運転、万引き、いじめなどの行為を自慢するために投稿し、第三者によって広められることが多い。その際、ネットの住民たちによって、個人情報を根こそぎ晒され、実害が出ることもある。  ネット住民による、この個人情報の収集能力は恐ろしく高い。Twitterで失言があった場合、その過去の投稿をすべてチェックし、ユーザー名などのプロフィールも元に個人を特定しようとする。たとえ本名で利用していなくても、特定するための手がかりは無数にある。食事を取ったお店、友人と撮影した写真、投稿に付随する位置情報などなど。同じユーザー名で、mixiやFacebookなどを利用していれば、そちらから詳細な個人情報が漏れることもある。一旦炎上すると、数万人から数十万人が目にするので、通常のネット検索では見つからない情報からも特定されてしまうことがある。  7月にはアメリカのファストフード店で客に出すためのレタスを踏んでいる写真を投稿したユーザーがいたが、大炎上して即身元を特定される事件があった。その後、このユーザーは解雇されている。日本でも多数の事例が発生しており、特定されたユーザーが、退学や解雇に追い込まれることも多い。  明らかな犯罪行為を全世界に公開するのは、炎上して当たり前ともいえる。しかし、本人は炎上するとは思っていない投稿が炎上することも頻繁に見受けられる。例えば、電車で席を譲ってくれない人やいびきをかいて寝ている人を写真付きで晒すケースや、写真がなくても、有名人を目の前で見て誹謗中傷したり、犯罪行為を肯定する投稿も炎上を招く。ここは、常識とかモラルといったバランスの問題になるので線引きは難しいが、下手なことは投稿しないほうがいい。  また、このネットリンチというべき現象は、無視できない弊害も起こしている。問題の原因ではない、別人に被害が及ぶことがあるのだ。炎上したユーザーの投稿をしらみつぶしにチェックした時に、本文や写真に現れる友人や家族関係にも調査の手が伸びる。完全にとばっちりだが、その際に突っ込みどころのある投稿が見つかると、炎上ユーザーの知人はやっぱりそんな人物だった、として拡散してしまうのだ。ネットに流れてしまった情報は削除することができない。将来にわたって、カンタンに検索されてしまう状態になるのだ。人によっては、就職や結婚に支障が出てしまうこともあるだろう。  対策としては、ネットには個人情報をなるべく出さないことが重要だ。モラルに反するような投稿はしない。危険人物とはつながりを切る、といったことも有効。筆者も知人にはそのようにアドバイスするのだが、「それでは天気の話しかできない」と返される。それは確かにその通りなのだが、炎上したり、炎上に巻き込まれた時の被害は計り知れない。プロフィールの内容を特定されないように変更したり、GPS設定を切るなど、最低限の対策はしておきたい。バカな投稿をしたことがあるなら、そのアカウントは削除して、新たにやり直すといったことも検討することをお勧めする。 (文=柳谷智宣)

13体の“等身大ドール”と一緒に生活!? 神出鬼没の謎のサークル「日本ドール公団」を直撃!

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 おたくカルチャーが広がったことによって、アニメキャラのフィギュアや食玩などをコレクションするという趣味は、わりと一般の人たちにまで広がっている。ひと昔前だったら、部屋に美少女フィギュアが飾ってあったら即キモオタ認定されていたことだろうけど、最近じゃもうちょっと風当たりも優しくなっているんじゃないだろうか。  ……がしかし、そんなヌル~くなってしまったフィギュア界に一石を投じるべく(?)、ハードコアな活動を繰り広げているフィギュア好きたちがいる。それが「日本ドール公団」! 彼らが愛でているのは、ただのフィギュアや人形ではない。なんと、等身大のドールたちなのだ。  先日、『笑っていいとも!』(フジテレビ系)のテレフォンショッキングで、リリー・フランキーがリアルなラブドールを持ってきて話題となっていたが、あのラブドールのように実用(エロに)目的ですらなく、ただただ鑑賞して愛でるためだけに一体数十万円もする、しかも保管しておくだけでメチャクチャかさばるであろう等身大ドールを所有しているとはマニアの鑑!
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 しかも「日本ドール公団」のメンバーたちは、等身大ドールを部屋に置いて愛でるだけにとどまらず、海へ、山へ、街へと繰り出して等身大ドールの撮影会まで行っているという。……外に連れてってるの? ドールを!? うーん、彼らこそまさに日本の、いや世界のフィギュア好きたちの最極北にいるといえるだろう(?)。  それにしても、いったい「日本ドール公団」とはどんな集団なのだろうか? そして等身大ドールと一緒に暮らすって、どんな気持ちなのか!? 「日本ドール公団」のメンバーであり、13体もの等身大ドールを所有しているという「ぴすけす」さんにメール取材を敢行した。 ――初めて等身大ドールをお迎え(編註:ドール用語でドールを買うこと)したきっかけは? 「もともとアニメ好きで、好きなキャラクターのフィギュアを集めたりもしていたんですが、そのキャラが1/6(27センチ)のキャラドールとして発売されて、それを購入したことがきっかけでこの世界にハマッてしまいましたね。それで、1/6ドールから等身大へとエスカレートしてしまった次第であります」
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――これだけたくさんのドールを集めるためには一財産つぎ込んだんじゃないかと思いますが、正直、後悔してたりは……。 「少し調子に乗りすぎたなとは思いますが、後悔はしていない!(キリッ)」 ――人間に近いリアルなドールというよりは、アニメ顔のドールが多いようですけど、ドールに求めているのは、やはり「2次元の世界のキャラクターが3次元にやって来てくれた!」的なことなんでしょうか? 「まさしくその通りでゴザイマス。アニメのキャラクターが我が家にいるというだけで、楽しいじゃありませんか!」 ――普通サイズのフィギュアやドールでは満たされない、等身大ドールの魅力とは!? 「ズバリ言うと、存在感ゆえの癒やし効果です。これは、小さなフィギュアや普通サイズのドールなどでは味わえないものです」 ――ドールが13体となると、かなり場所を取ると思いますが、自宅での保管方法は? ローテーションで一緒に寝ていたりするんですか? それとも普段は箱の中に入れていたり……。 「それぞれベッドに寝てたり(1人)、ソファーや椅子に座ってたり(5人)、壁際に立ってたり(7人)です。一緒に寝るのは、一番最初にお迎えした子だけです!」 ――そのほか、ドールと一緒に暮らす上での苦労などがありましたら教えてください。 「部屋が狭く感じるのと、等身大っ子の衣装等にお金がかかることくらいですかねぇ」 ――正直、家族や恋人からはどう思われている(思う)んですか? 何か言われたことは? 「あきれていたとは思いますが、人様に迷惑をかけなければ基本的に放任主義みたいなところがありましたので、特に何かを言われたことはないですね」 ――ところで、「日本ドール公団」とはどんな団体なんですか? 発足のきっかけは? 「日本ドール公団とは、等身大ドールユーザーの集まりです。発足のきっかけは10年くらい前になりますが、等身大ドールユーザーのサイト間をリンクする、みたいなモノだったと記憶しています。最近では痛車イベントに等身大ドールとともに参加する際のチーム名に使用したり、ドール仲間のサークル的な意味合いになってます」
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――日本ドール公団には、ほかにどんなメンバーの方たちがいるんですか? 参加するための資格は? 「メンバーは2次元好きなごく普通の社会人です。ちょいとばかし年齢は高いですが……(苦笑)。参加資格は分別の付く大人であること、等身大っ子が大好きならオッケー!」 ――等身大のドールを外に連れ出して撮影会などをするのは重いし、異常に目立つしで、大変じゃないですか? 「外に連れ出すのは大変ですが、仕事ではなく趣味なので、苦労とは思いません。ただ、体力的に厳しいお年頃なので、連れ出す人数は減ってはいますねぇ(苦笑)。目立つことに関しては、まったく問題としていませんよ!」 ――撮影の際に起こった事件、エピソードなどがあったら教えてください。 「『何かの撮影ですか?』と聞かれたり、物珍しいため、一般人も撮影していくなんてことはよくありますねぇ。また、いざ撮影という段階で靴やヘッド(頭部)を持ってくるのを忘れてたことに気づいたり……。伊豆での撮影中、偶然PVの撮影で来てた某タレントさんからの要望で等身大っ子がそのPVに映ることになった、なんてこともありました」 ――撮影会以外に、している活動があれば教えてください。 「若干撮影が絡みますが、定期的に仲間内で伊豆へ温泉旅行等のオフ会。痛車イベント参戦などですね」 ――日本ドール公団が、今後やっていきたいことや目標ってありますか? 「目標はメジャーになること! ……といっても自分たちではなく、あくまでも等身大っ子たちという意味で……。今後のことは考えてませんが、いつまでも面白おかしくドール公団仲間と今の状態を続けていけたらいいなと思ってます」  デカイ、重い、目立つなどのデメリットなんてまったく意に介さずに、等身大ドールへ愛を注ぎまくっている「日本ドール公団」のみなさん。話を聞いていると、ボクもちょっと欲しくなってきた……けど、さすがに気軽に買える値段じゃないので、撮影会あたりに参加させてもらいたい……。等身大ドールを担ぐくらいの仕事はしますから! (取材・文=北村ヂン) 日本ドール公団 <http://www.purisuka.com/>

「どうやってセックスすればいいの?」当事者たちの生の声が満載『身体障害者の性活動』

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NPO法人・ノアール理事長・熊篠慶彦さん。
 時折取り上げられるテーマでありながら、実態が知られることは少ない「障害者の性。ある意味、キワモノ的に取り上げられてばかりの社会問題といえる。  そうした中、今年7月に出版された『身体障害者の性活動』(三輪書店)は、「障害者の性」を個別具体的に取り上げる前例のない書籍だ。発行元は、医学書・医学関連書籍を専門に扱う三輪書店。いったい、どんなに堅いことが書いてあるのかと思ったら、表紙のイラストはリリー・フランキー氏。帯は宮台真司氏といった具合。専門書なのか、一般書なのか、判然としないままページをめくってみて驚いた。そこには、障害者のセックスが具体的にどのような形でサポート可能なのか。さらに、脳性麻痺や頸椎損傷など、障害別に当事者たちがどのようにしてセックスを行っているのかが具体的に記されている。図版や写真を用いることで、当事者だけでなく支援に当たる人々がどう接すればいいのか知ることができるのだ。  具体例の多くは当事者が執筆しているため、文体は少々硬めになっているものの、生々しさが伝わってくる。さらに、「障害者専門デリヘル」の元デリヘル嬢が執筆している項目もあり、一冊で「障害者の性」の全体像を知ることができる構成になっている。 「企画が立ち上がってから、書籍化までの道のりは楽ではありませんでした」  と、編著者の一人で、当事者でもある熊篠慶彦さんは語る。熊篠さんは自ら望んでAVに出演したり、「障害者の性」の問題を扱うNPO法人・ノアール理事長を務めたりと、非常にアクティブな人物だ。日常の移動には電動車椅子を用いているにもかかわらず、ハンディキャップをあまり感じさせることはない。継続的に開催しているイベントでは、ノアールを支援しているTENGAが、名物商品「TENGA EGG」を配布しているし、熊篠さん自身もかなり女性に目がない――。と記すと、面白おかしい人物かと思われそうだが、本書に記されたような問題を語る時、彼の態度は非常に真摯である。 「出版のきっかけは、2010年に共編著の玉垣努さん(神奈川県立保健福祉大学教授)と開催したイベントです。その時、私自身がセックスしている動画を使って、障害者の性の問題について語り合いました。その時、来場していた三輪書店の方が『これを書籍化しましょう』と提案してくれたんです」  しかし、そこからの道のりは厳しかった。本のテーマは、障害者の性の実態をありのままに描くことだ。だが、それほど困難な問題はない。 「そもそも、まず障害者に“性の問題”があることに気づいている人は、まだまだ少ないんです。障害者が、そうした問題を相談して解決することができるのは、家族でも友人でもなく、専門職のセラピストのはずです。ところが、セクシュアリティの専門教育を受けたセラピストなんていないんです」  つまり、ありのままの現状を記した時にまずあるのは、「セックスしたい」「マスターベーションしたい」と思っているにもかかわらず、できないし相談相手もいない障害者がいるということだ。 「障害者が一人で日常生活を送れるよう、リハビリではお尻を拭くといった訓練は行われます。ところが、どうやってマスターベーションをするかは訓練の範疇にないんです。私も手に障害がありますが、マスターベーションのやり方を教えてもらったことはありません」  ゆえに、書籍化する時にまず必要だったのが障害者のニーズ、どのようなことに困っているかをリサーチすることだった。 「当初、“障害者の方にも実名で執筆してもらいたい”というアイデアもありましたが、それは無理でした。なぜなら、本名で性の問題を語ることができるほどの土壌が日本にはないからです。そこで、ペンネームでもよいので執筆してもらうことになったんですが、それでも問題は残りました。というのも、症例の少ない障害だと、誰が執筆したか匿名にしてもわかってしまうからなんです。本人が執筆したがっていても、家族に反対されて断念した例もありましたね」  2年余りの時間をかけて、断られたら次の依頼へと順繰りに繰り返し……結局、執筆に応じてもらえたのはコンタクトをしたうちの半分くらいだったという。こうして出来上がった本書の価値を、熊篠さんは語る。 「現状、“障害者の性”は極めてプライベートなものとして扱われていて、セラピストですら介入したがらないんです。つまり、タブーにすらなっていないといえます。それを、ちょっとでも変えることのできる契機になればよいのかと思います。私の使っているような車椅子は、遊びの道具じゃないという先入観があると思いますが、考えようによってはアトラクションじゃないですか? 車椅子の上でのセックスなんて、お金を払ってもなかなかできないでしょう。ディズニーランドよりも希少価値はありますよ」  それにしても、本書は健常者として日常生活を送っていれば気づかないことに気づく点ばかりの内容だ。たとえば、障害の種類によっては握力がなかったり、腕の上下運動が困難でマスターベーションができないこともあるなんて、そうそう知らない。いまや世界的定番になっているTENGAのようなオナカップが、障害者にとっては健常者以上に画期的なものだったなんて、初めて知ることができた。   この問題を語るために、自らも身体を張る熊篠さん(https://www.youtube.com/watch?v=Wc3Hi5nTguE)。本書の持つ意義は、書かれている内容以上に濃厚だ。 (取材・文=昼間 たかし) ●くましの・よしひこ 1969年、神奈川県生まれ。出生時より脳性麻痺による四肢の痙性麻痺がある。特定非営利活動法人・ノアール理事長。医療、介護、風俗産業など、さまざまな現場で障害者の性的幸福追求権が無視されている現状に突き当たり、ノアールの活動を通して身体障害者のセクシュアリティに関する支援、啓発、情報発信、イベント・勉強会などを行っている。