今週紹介する新作映画2本はジャンルこそ違えど、日常の裏側で進行している(かもしれない)特殊な世界を、今まさに眼前で展開しているかのようにリアルに見せてくれる意欲作だ。 2月1日公開の『アウトロー』は、英国発の人気ハードボイルド小説を、トム・クルーズ主演、『ユージュアル・サスペクツ』(95)のクリストファー・マッカリー監督・脚本で映画化したサスペンスアクション。米地方都市郊外で白昼、川沿いに居合わせた5人が、対岸から放たれたライフル弾で射殺される事件が発生。現場に残された多くの証拠から、元米軍スナイパーで前科のある男が逮捕される。だが、元陸軍捜査官のジャック・リーチャー(クルーズ)は、無差別殺人に思われた事件の不審な点に気づき、独自の調査で巨大な陰謀に迫ってゆく。 トム・クルーズの当たり役といえば『ミッション:インポッシブル』シリーズの諜報部員イーサン・ハントだが、本作のリーチャーは組織に属さない一匹狼で、正義のためなら法を破ることさえ辞さない流れ者という人物設定がミソ。クルーズが自ら運転して演じたカースタント、比較的新しく今も進化を続ける格闘術「キーシ・ファイティング・メソッド」に基づく格闘シーンなどのソリッドな迫力も相まって、危険でワイルドな新世代ヒーローが誕生した。凛々しい女弁護士役のロザムンド・パイクや、ひょうひょうとした射撃場経営者役のロバート・デュバルとの掛け合いが、ストイックな展開の中にも一服のユーモアを添えていい味。原作者リー・チャイルドによる『ジャック・リーチャー』シリーズはすでに17冊刊行されており、映画続編の製作も大いに期待される。 続いて、2月2日に封切られる『R-18文学賞 vol.1 自縄自縛の私』(R15+指定)は、竹中直人が監督7作目にして初めて挑んだ官能作品。平凡な家庭で育った百合亜(平田薫)は、大学時代に縄で自らを縛る趣味に目覚める。恋人に知られたため数年間封印していたが、勤め先の広告代理店で上司や部下への不満が募り、ストレスから逃れるように自縛を再開。自宅だけでなく、縄をしたままスーツを着込んで出勤するなど、次第に自縛のシチュエーションをエスカレートさせる。 原作は、新潮社主催の公募新人文学賞「女による女のためのR-18文学賞」を受賞した蛭田亜紗子のデビュー小説。本来は比喩的な意味で使われる四字熟語を文字通りに実践して自らを縛りつけ、その不自由な状況に快楽を覚えるという倒錯したマゾヒスティックな世界が、原作のポップで瑞々しい感覚そのままに再現された。共演に安藤政信、お笑いコンビ「ピース」の綾部祐ニ、津田寛治、つみきみほ、杉本彩ら。ハードコアなマニアには少々物足りないかもしれないが、不良中年テディベアが下ネタを連発する『テッド』が先月公開され予想外に女性客を動員して大ヒットしていることから、本作もまた女性層やカップルに大きな反響を呼びそうだ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『アウトロー』作品情報 <http://eiga.com/movie/57490/> 『R-18文学賞 vol.1 自縄自縛の私』作品情報 <http://eiga.com/movie/57973/>(C)2012 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
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日本一幸せな県はどこだ!?『日本でいちばんいい県都道府県別幸福度ランキング』
幸せって、ナニ? いやー、難しい、難しい……。それは、人間にとって永遠のテーマとも思える超難問。ブータンでは、この幸せの指数を測る“GNH(国民総幸福量)”の調査の中で、「あなたは幸せですか?」という質問に対して「はい」と答えた人が約97%という奇跡の数字を叩き出し、一躍有名になった。 けれど、“幸福の量”を測るということは、なんとも曖昧なもの。ブータンのように、主観的に幸せかどうかを聞く方法もあるが、さまざまな統計データを元に分析する方法もある。後者のやり方で、都道府県別の幸福度をランキング化した1冊が『日本でいちばんいい県都道府県別幸福度ランキング』(東洋経済新報社)だ。 分析をしたのは、国や公共政策などの基礎研究を行う日本総合研究所。人口増加率、一人あたりの県民所得、選挙投票率、食料自給率、財政健全度を基本に、医療、娯楽、雇用などなど、膨大な統計データにより独自の幸福度指数を編み出し、本書でその結果と詳細を発表している。 その中で、理事長の寺島実郎氏が<次回の研究の課題は、主観的な幸せについてどう反映させるか>だと書いていたが、まったくその通りで、幸せの形は人それぞれ。わたしは幸せを感じる基準が非常に低いので、ちょっとおいしいものを食べたり、大好きなひとり旅に出かけられれば、あっという間に幸せになれる。けれど、人によっては「そんな小さなことでは到底満足できない!」「お金がすべて」という人もいるだろう。 日本は世界的に見ればお金持ち国家。だから、旅で発展途上国を訪れると、基本的に物価が奇跡的に安く感じられ、私は全然お金持ちではないけれど、「日本がお金持ちでよかった」「旅に出られて幸せ」と思うことはしばしば。 けれどその一方で、旅先で出会った現地の人と話していると、毎日幸せそうだなーと思うことも多い。途上国の人は、何事もよい意味でテキトー。マジメな日本人のように今詰めて働かないし、“なんとかなる”と不思議なほど前向き。少なくとも心は健全で、楽しそうに見える。 それは日本においても、都会と地方などの違いにも通じるのではないだろうか。本書のデータは、やはり金銭面が大きく影響しているので、一見、主観的な意見とは無関係のように思えるかもしれない。けれどこの本を読み、「いやいや、これはデータ上こうなっているけど、こんな面白いことや素晴らしいことがある」と議論する。それこそがこの本の裏テーマであり、幸せとはなんなのか、考えるきっかけになるはず。 そして、気になる幸福度第1位の県、最下位はどこなのか。1位は意外、最下位は納得だけど、うむむ……と悩ましい結果になっているので、お楽しみに。 (文=上浦未来) ●てらしま じつろう 1947年北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了後、三井物産入社。米国三井物産ワシントン事務局長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授等を経て、現在は日本総合研究所理事長、多摩大学学長、三井物産戦略研究所会長。国交省・高速道路のあり方検討有識者委員会座長、宮城県・震災復興会議副議長、経産省・資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会基本問題委員会委員等歴任。著書に『新経済主義宣言』(新潮社、第15回石橋湛山賞受賞)、『脳力レッスンⅠ・Ⅱ・Ⅲ』(岩波書店)、『世界を知る力 日本創生編』(PHP新書)ほか多数。『日本でいちばんいい県都道府県別
幸福度ランキング』(東洋経済新報社)
“雪かき漫画家”夕張市にて3年連続、4度目の雪かきへ
2010年の12月5日、マンガ・アニメの規制を画策する東京都青少年健全育成条例改正案をめぐり、「ネトウヨは財政破綻した夕張を助けに行け。雪かきして来い」との、猪瀬直樹東京都副知事(当時)によるTwitterでのつぶやきに呼応した中の一人が、キャリア20年を数える現役マンガ家の浦嶋嶺至氏。 自らの主張を都政に反映させるべく猪瀬副知事との対話を望んだ際、取材に応じる必須条件として、財政破綻で苦しむ雪深い夕張市内での雪かきを提示されたのだ。 そして、2011年1月21日に夕張市を訪問、同市の社会福祉協議会の案内で雪かきをした浦嶋氏は、翌月開催された「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」の開催期間中、再び夕張市を訪問。2012年には初監督した映画『憂恋の花』が、同映画祭にて招待上映され3度目の雪かきを体験。 以上が、“雪かき漫画家”という呼称でマスコミが浦嶋氏を取り上げた一連の経緯であったのだが、3年目にして4度目の雪かきを実行すべく、2013年1月25日に再び夕張市へと旅立ったのだった。 今回は、東日本大震災の被災地・南相馬市の子どもたちに向け、マンガやおもちゃを送る支援活動を展開する「おたぱっくQB」から、マンガ家の山本夜羽音氏が参加。同行したイラストレーターの横田守氏、道内からのボランティア3名を加えた6名によって雪かきを実行。その様子を、2011年から数えて4度目の参加となる「北方ジャーナル」のライター・小笠原淳氏が精力的に取材するという、関係者にとっては恒例となりつつある通年行事でもあるのだ。 午前10時に集合した一行は、2011年1月21日に訪れた独居老人宅を2年ぶりに再訪。玄関周りの雪かきを行った後、午後からは夕張市社会福祉事務所に隣接する倉庫の屋根に上り、幾重にも積もった雪の塊を勢いよく投げ続けていたが、雪がやまず休憩を挟んでいると聞いて、東京から現地へと電話取材を敢行した。 電話取材に応じた札幌市郊外出身の山本氏に、今回の雪かきの感想を伺ったところ、「久々の雪かき作業でしたが、日頃の体力不足を思い知らされました……夕張市は高校生の頃、野外フェスティバルに参加して以来、実に29年ぶりとなるのですが、浦嶋さんの雪かきに被災地支援を続けてきた私の活動とつながる感性を見だしたので、我が身で雪かきを体験し、それをマンガにして世に伝えることができたらと考えて参加しました」とうれしそうに述べた。
続いて3年目、4度目となる雪かきを体験した、“雪かき漫画家”の浦嶋氏に同じ質問をすると、「表現規制をめぐる騒動の渦中で、1回くらい雪かきをしただけではダメだと実感しました。まず、継続することが大切なんだという思いから実行に至ったので、爽快な気分です」。 なぜ4度目は「ゆうばり国際映画祭」の開催時期を外した日程となったのか? 「一昨年、昨年と映画祭日程と照らし合わせながら雪かきの日程を決めていましたが、初心に戻って夕張市社会福祉事務所と連携し、少しでも夕張の方々のお役に立てればと考えて、この時期を選びました。映画祭開催中は市の職員も何かと多忙なので、正解だったと思います」(浦嶋氏) マンガ家としてだけではなく、映像作家としても夕張市の方々に認識されてますよね? 「表現規制の渦中にいる一表現者として感じたことは、表現の主戦場でもあったマンガというジャンルのみではなく、映像作家として未知なる表現に挑んでみたかった。幸運なことに初監督作品が『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 2012」に招待されて、2作目となる監督作品も夕張市で開催された『第51回 日本SF大会 Varicon 2012』で先行上映されたことに、夕張市が結ぶ不思議な絆を人一倍感じている次第です」(同) と、長時間に渡る雪かき作業の合間にもかかわらず、昨年のインタビューよりも力強く語り、今後も一定のジャンルにとらわれず、表現の自由を実践して行きたいと結んだ。 そんな浦嶋氏渾身の最新監督作、『東京ジェネレーター』が新年早々に完成した。 その衝撃的な内容から、いまだマスコミへのリリースが差し控えられている状況なのだが、2月3日(日)の夜、いち早く新宿のネイキッドロフトにてイベント上映されることが決定した。 同イベントでは、2010年12月の表現規制をめぐって猪瀬副知事とTwitter上で激しく衝突して話題となったルポライターの昼間たかし氏がMCを担当し、雪かき初参加となったマンガ家の山本夜羽音氏による雪かきレポートを展開。 そして、2011年、2012年と2度にわたってドキュメンタリー撮影とインターネット中継を担当し、浦嶋氏の活動を記録し続けた増田俊樹監督による最新監督作『メッセージ・ソング』も、『東京ジェネレーター』と共に同時上映される。 また、話題作『まだ、人間』で監督デビューを果たした東京大学出身の松本准平氏もトークに参戦、『東京ジェネレーター』ではプロデューサーを担当した増田俊樹氏との交友から、劇中ではアナウンサー役に抜擢されて友情出演を果たしている。 さらには、浦嶋監督作品に連続出演の怪優・コンタキンテ氏も舞台挨拶に参加決定と、雪かき漫画家の周辺には個性的な面々が集結し、何かと騒がしくなっているのも事実なのだ。 イベント終了後、同店舗にて浦嶋氏や昼間氏を囲んでの交流会も予定されているので、“雪かき漫画家”と意見交換したい方々にとっては刺激的な夜となりそうだ。 <イベント案内> ●「憂恋 それは銀幕への誘い part3」 2月3日 (日)OPEN 18:00 / START 18:30 浦嶋嶺至 & 増田俊樹が贈る、最新監督作2本立て上映イベント。『メッセージ・ソング』主題歌を歌う、ル→ズビッツのVo.小林タクオ、白井愛子によるライヴあり! <第1部> 18:30-19:10 浦嶋嶺至監督作品『東京ジェネレーター』とは何か? 山本夜羽音×松本准平×増田俊樹×浦嶋嶺至 MC:昼間たかし <第2部> 19:20-21:00 『東京ジェネレーター』 監督/脚本:浦嶋嶺至 出演:大澤真一郎 大山貴華 下田早織 松本准平 増田俊樹 コンタキンテ 『メッセージ・ソング』 監督:増田俊樹 脚本:山口 夢 出演:菅原えり 上山 学 蔵田ちひろ 増田俊樹 可野浩太郎 コンタキンテ <第3部> 21:10-22:00 小林タクオ & 白井愛子『メッセージ・ソング』完成記念ライヴ!! 【出演】 浦嶋嶺至(雪かき漫画家) 増田俊樹(俳優/映画監督) 【ゲスト】 小林タクオ(もしくはル→ズビッツ) 白井愛子(歌手) 山本夜羽音(被災地支援エロマンガ家) 松本准平(映画監督) 昼間たかし(ルポライター) 他 前売 ¥1,800 / 当日 ¥2,000 (共に飲食代別) 【会場】 ネイキッドロフト TEL 03-3205-1556 東京都新宿区百人町1-5-1 百人町ビル1F http://www.loft-prj.co.jp/naked/ ※ 前売り予約はネイキッドロフト店頭電話&ウェブ予約にて 電話→ 03-3205-1556 (16:30~24:00) ウェブ→ <http://www.loft-prj.co.jp/naked/reservation/>
NYパンクの女王パティ・スミスの巫女さん度!?『無垢の予兆 パティ・スミス詩集』
現在、日本をツアー中のパティ・スミス。かつてはニューヨーク・パンクの女王とも呼ばれ、その中性的な風貌やアクの強い歌声で一世を風靡した人だが、元々はそのアーティストとしての人生を詩人としてスタートさせた人だった。ミュージシャンになろうなんて思ってもいなかったし、歌手になるつもりも毛頭なかった。そんな彼女が、いまやロックの殿堂に名を連ねるほどの高名なミュージシャンになってしまい、世界各地をツアーして回っているのは天命としか言いようがなく、本人も意図しないところで働いた力に逆らわずに従った結果としか思えない。 先頃邦訳が発売された自伝、『ジャスト・キッズ』(http://www.uplink.co.jp/pattismith/)を読めばわかることだけれど、パティは初期の反逆的なパブリック・イメージとは違って、意外なほどオカルティスト、今風に言えばスピリチュアルな人だ。二十歳で野心を抱いてニューヨークに出てきた日は自分の生まれた日と同じ月曜日。縁起をかついで運を呼び込もうとし、仲間が根拠のない不安におののいていると、タロット占いで落ち着かせてやろうとする。自分の直観を信じ、自分に与えられた定めを受け入れることでその道を突き進んできた。 そんな彼女の神秘的な生き方が文芸作品として結実したものが、同時刊行された詩集『無垢の予兆』だろう。 実はこれを拙いながらも訳したのは私であり、訳させてもらった本人が言うのもなんだけれど、はっきり言って彼女の詩はわかりにくい。それほど難解なことを言っていなくても、湧いてきたイマジネーションのままに文字を綴るので、書いた本人でもなければ、どこからどういう連想でそうなったのかということがまったくわからない。そのことを自分でもよく知っている彼女は、今回は不明な点は聞いてほしい、と自ら申し出てくれたので(前回、それまでの歌詞を総まとめした『パティ・スミス完全版』を訳した際には、こちらからの希望で質問に答えてもらった)、調子に乗ってずい分と細かいところまで尋ねたものだけど、それでも疑問が残ったぐらいだった。 では、どうしてそのような詩作法を彼女が取っているのかというと、それはひとえに自分の霊感を信じているからだろう。信じてはいるけれど、霊感ゆえに、そこに含まれている意味は降りてきた彼女にすらはっきりとはわからないものもある。そのため浮かんできた言葉、イメージ、思いつきのままに書き綴るので、勢い他人にはわかりづらいものとなってしまうのだった。2013年1月21日の開かれた来日記者会見でのパティ・スミス
たとえば『砂漠のコーラス』というリビア空爆を題材にした詩では、最後にカダフィの娘のハナとジャン・ジュネとがいっしょに天に昇っていくさまが描かれている。なんでこの二人が結びつくのかというと、それは双方ともが同じ空爆のあった1986年の4月15日に亡くなったからだ。そのことが、理由はわからなくても、パティの目には一見無関係に見えるこの二人を、魂のレベルで結びつけるものとなったのだろう。 また『イラクの鳥』という、アメリカのイラク空爆への批判をこめた詩では、空爆のあった朝に偏頭痛の発作を起こしたパティ自身と、母親と、ヴァージニア・ウルフとが、同じ頭痛持ちということで時空を超えてつながっていく。空爆が始まったのは3月20日で、その前日はたまたまパティの母親の誕生日。3月はウルフが自殺を遂げた月でもあり、春の目覚めの時であると同時に混乱の季節だ。 彼女はそのような偶然の日付の一致や出来事の一致――いわゆるシンクロニシティ――に意味を見いだすところがある。そんな関連づけは彼女の頭の中だけの物語であり、偶然の一致にはなんの意味もない、と思う人もいるだろう。だが、物事とはほんとうにそういうものだろうか。 私自身がそういった発想になじんでいるせいもあるだろうけれど、この詩集を訳していくうちに、私もこのシンクロに巻き込まれてしまった。 翻訳はひととおり訳した後の推敲が肝心なのだが、端から順番に推敲していったら、偶然、ハロウィンの日を描いた『すべての聖者の夜』という詩を、そのハロウィンの当日に推敲することになった。これはパティから「私が書いた詩のうちで最も悲痛なもの」という回答をもらっていて、夫、フレデリックが突然の病に倒れた日とその後のことをもの悲しいトーンでうたった作品だ。私はそのことを知ったばかりで、涙なくしては読み直しもままならない状態だったのだけど、さらにそのハロウィンの朝、駅までの道で、その詩の中で死を象徴するものとして扱われている黄色いマリゴールドの花が一輪、首から上だけぽつんと落ちているのを目にすることになった。はっとしたけれど、道の両脇のどこかのプランターからこぼれ落ちたのかと思っても、どこにもマリゴールドが植わっているようなプランターは見当たらなかった。 そのことをそれほど重要視していたわけではないけれど、今度は推敲が終わって後書きを書き上げたら、その日が偶然フレデリックの命日とぴたりと重なってしまった。そこまで来るとつくづくふしぎな気がしたものだけど、そもそもその11月4日はフレデリックの命日であると同時に、パティが心から愛した若き日の恋人であり、生涯の親友でもあったアーティスト、ロバート・メイプルソープの誕生日でもあるのだ。『無垢の予兆 パティ・スミス詩集』
(アップリンク/河出書房新社)
どうしてこの二人の命日と誕生日とがいっしょになってしまったのか。パティがそのことについてなにも感じていないはずはないのに、それについて言及している文にはまだ出合ったことがなく、私にもその意味するところはわからないのだけれど、それこそがこの二人とも、彼女の人生にとって最重要な人物であったことの証なのだろうか。 こんな話も、物質主義な人たちにはきっと、「ただの偶然」でしかないだろう。しかし、スピリチュアルな考えをする者にただの偶然はない。偶然は予兆となり、その予兆を活かして、自らの運命の荒波を乗り切っていく。ミュージシャンになる予定ではなかったパティは、ドアーズをニューヨークで初めて見た時、どういうわけだかジム・モリソンと同じように自分がステージに立てるのではないかと感じた。そして、後に住むことになったチェルシーホテルで、グレイス・スリックや、ジミ・ヘンドリックスといった大物ミュージシャンの面々に出会った時も、彼らにいわれのない親近感を覚えた。 すべては彼女がミュージシャンとなることの予感であり、その予感に導かれて、彼女は人生を歩んできたのだ。しかし、詩人としてアーティストの最初の一歩を踏み出した彼女の中には、文学者としての芯があった。それが今の彼女を、音楽活動と併行して書くことに駆り立てているのではないだろうか。 シンクロのふしぎはこれだけでは終わらなかった。日本で詩集と自伝が刊行されると、その奥付にある発行日が、偶然パティ本人の誕生日である12月30日と合致したのだ。 著作の発行日が自分の誕生日と同じになったからと言って、そのことでなにがもたらされるだろう。しかし、来日してそれを版元から聞かされたパティは、なにやら感慨深げであったという。私は彼女の折々の言動から、パティはいく分日本びいきではないかと感じているのだけど、日本との縁の深さを内心で感じたのかも知れない。そして、私にはやはり、そのようなことを知らずして引き起こしてしまうパティの巫女さん的な力は並たいていなものではないと感じられる。ステージに立っている彼女を支えているものは天からの力だろう。そしてそれは、愛する者を次々に失うという苦難を引き受けながらも、人生を謳歌する彼女の姿勢、それを作品に変えていく彼女の力、あふれ出る生命力につながっているのではないか。 詩集『無垢の予兆』は人生への理不尽さをまじえながらも、その根底に流れているものは生きることへの讃歌だ。若い頃の過激な作風を一見裏切るように見えながらも、根本はタフな精神力と霊感に貫かれている。その詩の中には、きっとパティ自身にも、訳者の私にも読み解けていない神秘がまだいっぱい隠されている。そんな気がする。 (文=東玲子) ●パティ・スミス 1946年シカゴ生まれ。1967年ニューヨークで写真家ロバート・メイプルソープと運命的な出会いを果たし、以後深い協力関係を築く。1971年、詩人としてデビュー。1975年、「パティ・スミス・グループ」を結成し、アルバム『ホーセズ』をリリース。現在に至るまでニューヨーク・パンクの先駆者として、幾多のミュージシャンから尊敬される。2005年フランス文化省から芸術文化勲章受賞、2007年ロックの殿堂に選出される。本書『ジャスト・キッズ』で2010年度全米図書賞ノンフィクション部門受賞。2011年ポーラー音楽賞受賞。 ●東玲子(あずま・れいこ) 文筆家・パフォーマー。ステージ名はReiko.A。1989年から99年まで、日本のノイズプロジェクトMERZBOWにエレクトロニクスとヴォイスで参加。現在もワールドワイドに主にアングラシーンで活動。訳書として、アメリカのレズビアンSMアクティヴィスト(当時)、パット・カリフィアの『パブリック・セックス』(青土社)、『パティ・スミス完全版』(アップリンク/河出書房新社)、『無垢の予兆 パティ・スミス詩集』(アップリンク/河出書房新社)、など。http://www.webdice.jp/user/124/ ●パティ・スミス追加サイン会決定! 2013年1月29日(火)18:00~ 会場:タワーレコード梅田NU茶屋町店 ≫詳細 http://tower.jp/store/event/2013/01/096009 ●Patti Smith and her band JAPAN TOUR 2013(残り3公演) 2013年1月28日(月)OPEN 18:30 / START 19:30 会場:大阪府 なんばHatch 料金:7,000円(ドリンク別) お問い合わせ:SMASH WEST 06-6535-5569 2013年1月30日(水)OPEN 18:30 / START 19:30 会場:広島県 広島CLUB QUATTRO 料金:7,000円(ドリンク別) お問い合わせ:夢番地 082-249-3571 2013年1月31日(木)OPEN 18:30 / START 19:30 会場:福岡県 福岡 DRUM LOGOS 料金:7,000円(ドリンク別) お問い合わせ:TSUKUSU 092-771-90092013年1月23日のSHIBUYA-AXでのライブ ©Yoshie Tominaga
アカデミー賞11部門にノミネート アン・リー監督最新作『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』

(c)2012 Twentieth Century Fox
今週も数多く封切られる新作映画のうち、人気小説を原作とし映画ならではの表現が印象的な洋画と邦画2作品を紹介したい。
1月25日公開の『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』(2D/3D上映)は、先頃発表されたアカデミー賞候補作品のうち11部門でノミネートを果たしたことでも話題のアン・リー監督最新作。1960年代のインドに生まれたパイは、父親が経営する動物園でさまざまな動物たちと触れ合いながら成長し、初恋も経験する。16歳になり、カナダへの移住を決めた両親と共に動物たちを乗せた貨物船でインドを出発するが、洋上で嵐に遭遇して船が沈没。荒れる海の中、ただ1人救命ボートにしがみついて一命を取りとめたパイだったが、ボートにはシマウマ、ハイエナなどのほか、体重200キロを超すベンガルトラがいた。
カナダの作家ヤン・マーテルによる世界的ベストセラー小説を、『ブロークバック・マウンテン』(05)でアカデミー賞監督賞を受賞した名匠アン・リーが映画化。腹を空かせた猛獣との過酷な洋上サバイバルは映像化困難と思われていたが、最新CGで本物と見分けがつかないリアルさで描かれたベンガルトラ、巨大タンクでの実写とCGを合成した海の多彩な表情、演技未経験ながらエモーショナルな表現が見事な主演のスラージ・シャルマ、そしてもちろんリー監督の巧みな演出によって、娯楽性と芸術性を高いレベルで併せ持つ傑作が誕生した。3D上映で鑑賞すれば、迫ってくるトラや荒れ狂う波の恐ろしさ、幻想的に輝く夜の海と生物の美しさをよりリアルに体感できるだろう。
もう1本の『さよならドビュッシー』(1月26日公開)は、『桐島、部活やめるってよ』(12)の橋本愛が主演した音楽ミステリー。裕福な家に生まれ、ピアニストを目指して音楽高校に通う遥(橋本)はある夜、祖父と従姉妹のルシアと火事に遭い、1人だけ生き残る。顔面も含む全身の大やけどから、数度の皮膚移植と高度な整形手術で元通りの外見を取り戻した遥。ピアニスト・岬(清塚信也)のレッスンを受けながら、コンクール優勝に向けて懸命に努力するが、遥の命を狙うかのような出来事が続き、ついには重大な事件が発生する。
心身に傷を負い陰のある難役を、ときに繊細に、ときに凛々しく演じた橋本愛が圧倒的に素晴らしく、彼女のファンなら言うまでもなく必見。イケメンの現役ピアニスト、清塚信也が本格的な俳優デビューを飾り、劇中のピアノ曲も実演している。監督は、俳優としても活躍する利重剛。中山七里による原作小説は「このミステリーがすごい!」第8回大賞を受賞しているが、映画版で謎解きに過度に期待すると肩すかしを食らう。とはいえ、ドビュッシーの「月の光」や「アラベスク」といった名曲をたっぷり聴かせながら、秘められた謎に迫っていく構成は、クラシックとミステリーを両方楽しみたい、という欲張りな観客のニーズに応えてくれるかも。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』作品情報
<http://eiga.com/movie/57676/>
『さよならドビュッシー』作品情報
<http://eiga.com/movie/77386/>
飽和する日常系アニメに新星現る? 『琴浦さん』が面白い!
1月スタートの新作アニメ『琴浦さん』が、大きな話題を呼んでいる。 他人の心の声を聞くことができてしまう超能力少女・琴浦春香と、彼女のことが大好きなクラスメート・真鍋義久をはじめとする周囲の人々が織り成す日常を描いた本作。そのポップな絵柄や、『みなみけ』『みつどもえ』『ゆるゆり』を手掛けた監督・太田雅彦&シリーズ構成・あおしまたかしコンビがスタッフの中核にいることから、放送開始前は“今回もゆる~い内容の作品なのだろう”と、原作を知らない多くのアニメファンは予想していたはずだ。 しかし、いざフタをあけてみれば、想像以上にハードな人間ドラマと微笑ましい日常ドラマがサンドウィッチ状になったメリハリの利いた作風に多くの視聴者は衝撃を受け、その面白さを話題にするコメントがネット上に一気に拡散。 「ニコニコ動画」では70万再生を突破(ちなみに2012年春アニメ『Fate/Zero』第2期は、およそ35万再生)。同人誌で『琴浦さん』を発行していたところ、現在の担当編集者に声をかけられ、本作で商業デビューを果たした漫画家・えのきづによる原作コミック(マイクロマガジン社発行)の注目度も急上昇。在庫切れが発生し、緊急増刷がかかったほどだ。「知る人ぞ知る面白いコミック」として漫画読みの間では密かに人気があった本作にとって、今回のアニメ化はすでに大成功を収めたといってもいいだろう。 そんな本作の主人公・琴浦さんがうっかり他人の内面を「一方的に」覗き見てしまい、その内面にショックを受けてしまう姿は、Twitterやブログなど、一方的に発信されるSNSツールに翻弄される我々視聴者の姿とダブって見えるのは筆者だけだろうか。これらのツールを使ったことのある読者なら、本来なら直接誰かに言うべきではない自分の内面をつぶやいてしまい、それを読んだ他人から予想だにしない反応がきた。もしくはそんな誰かのつぶやきを目にしてしまい、気まずい気分になってしまった、という経験がある人も少なくはないだろう。 琴浦さんの能力は、問答無用で目に飛び込んでくるSNSツールのようなものだ。SNSツールを通じて他人の悪意や目をそらしたい言動に直面した時、我々はデバイスをOFFにすればいいが、琴浦さんは常時ON状態。望むと望まざると善意も悪意も等しく渦巻く他者の内面と対峙してしまう。 他人の心を読み取れてしまうがゆえに己の家庭を崩壊させ、行く先々で気持ち悪がられるという不幸な生い立ちを送ってきた彼女は、時に涙を流し、時に笑顔で過酷な現実を受け入れていく。琴浦さんの優しくも強いその生きざまは、他人の言葉に一喜一憂し、常に誰かの目線を意識しながら生きる我々そのものであり、彼女に共感し共に悩み戦ってくれるESP研究会の仲間と過ごす「日常」は我々の希望なのだ。 これまで数多くの日常系アニメを手掛けてきた太田監督とあおしま氏が、ここまである種のリアリズムを伴った「日常」を描こうとしている点は非常に興味深い。本作が描こうとしているのは、決して「サディスティックな目線で愛でられるべき不幸な少女の物語」ではなく、「他人の善意も悪意も可視化された世界の中で生きていかざるを得ない我々の希望を描く物語」なのだ。 飽和状態と思われた日常系アニメシーンに颯爽と登場し、あっという間に話題をさらった『琴浦さん』。過酷な現実をスパイスに、どこまで幸福な日常を描くことができるのだろうか? (文=龍崎珠樹) ◆「週刊アニメ時評」過去記事はこちらから『琴浦さん』公式サイトより
「おしっこ高価買い取り中」のチラシを配って逮捕!?『可笑しなヘンタイ図鑑』

『可笑しなヘンタイ図鑑』(宝島社)
先日、友人宅に侵入した下着ドロボーが逮捕された。犯人宅からは、彼女のものを含め、合計500枚の下着が発見。警察から「下着、お返ししますか?」と尋ねられたものの、「気持ち悪いからいらない!」と即拒否したという。それを聞いて、500枚という途方もない数と、盗まれた下着が戻ってくるという事実に思わず笑ってしまった。
だが、今回紹介する『可笑しなヘンタイ図鑑』(宝島社)に登場するのは、この下着ドロボーのような、いわゆる“正統派”のヘンタイではない。「えっ、なんでこんなものを盗んだの?」「んんっ、どうしてこんな行動を?」と、大量のハテナが頭に浮かばざるを得ない、究極のヘンタイさんばかり80人が大集合。
例えば、自作チラシを配り卑猥な勧誘を行う「放尿キャッチ」、女子生徒の水着を着用して脱糞した男「ダップンダー」、電車内に幼虫200匹をばらまいた「ミールワームの使い手」など、ありとあらゆるいろ~んな変わり者たちが登場する。人の性的嗜好はそれぞれではあるが、これほど果てしなく深く、ピンポイントにマニアックな嗜好には衝撃を受ける。
そして、この本はただヘンタイを紹介しているだけでなく、ちょっと変わった趣味趣向を持つ男性と日常的に接してきた元SM女王ライター・マイ女王様が登場。彼らの滑稽にすら思える可笑しな行動に、斬るところはバッサリ斬り、ところどころ同情しそうになりながら、実に的確なコメントをしている。
また彼女に加え、現役の女王様が集まり、彼女たちだけが語ることのできる“ヘンタイ談義”も行われ、人々のとどまることのないフェチぶりについても議論が交わされている。本書に登場するヘンタイさんについても「うち(SMクラブ)に来れば、なんとかなったのに~」と、犯罪に走ってしまったことを残念がったりしている。
読み物としても十分すぎるほど面白いが、この本の良さは、なんといってもイラスト。『バカドリル』(扶桑社)でおなじみの漫画家のタナカカツキ氏が、登場するヘンタイさんたちの特徴を絶妙にとらえ、行き過ぎた行動の滑稽ぶりを見事なまでに表現している。
日常生活にマンネリ化を覚えるアナタ。これを読めば、一瞬にして、今まで知らなかった世界に一気にワープできるはず。ヘンタイの奥深さを知る世界へようこそ。
(文=上浦未来)
●たなか・かつき
マンガ家。1966年大阪生まれ。1985年マンガ家デビュー。著書には『オッス! トン子ちゃん』『サ道』天久聖一との共著『バカドリル』などがある。
●はやかわ・まい
元女王様ライター。得意分野はSM、フェティッシュ、サブカル界隈。北尾トロ編集『季刊レポ』にルポタージュ「そのとき歴史が鞭打たれた」を連載(完結)。電子書籍『女王様はオタクだった 腐った遺伝子』が、honto等のネットストアにて発売中。
重信房子・獄中からの新著『革命の季節 パレスチナの戦場から』で明かす、若き日の珍道中

『革命の季節 パレスチナの戦場から』
(幻冬舎)
いわずと知れた元・日本赤軍の指導者・重信房子の新著『革命の季節 パレスチナの戦場から』(幻冬舎)が発売された。
本書は、各誌に掲載された文章を中心に加筆・再構成した回想録。そこで描かれるのは冒険小説さながらの事件と、驚くべきエエカゲンさだ。
物語は、学生運動から共産主義者同盟赤軍派に参加し国際部へと進んだ重信が、パレスチナの解放勢力による医師・看護師・技術者などのボランティアの募集を知り、国際根拠地を求めて旅立つところから始まる。
重信が日本を脱出したのは1971年。まだ海外旅行は夢のような存在だった頃のこと。ネットで格安海外航空券を入手できる現代とは違い、海外旅行=日本交通公社(現・JTB)が、ほぼ独占している事業だった。
公安警察にバレることなく秘密裏に出国しようにも、正規の手段しかない。意を決した重信が訪れたのは、新宿の日本交通公社の窓口! 世間的には「テロリスト」のレッテルを貼られることの多い彼女が、窓口で航空券を買っていたとは、けっこうシュールな光景だ。
この窓口でのやりとりも感動的だ。天が味方したのか、窓口の担当者が大学の後輩だったのだ。その協力によって、重信は羽田空港からパレスチナへと旅立っていった。旅立つ当日、羽田空港ビルの向かいにあった東急ホテルでコーヒーを飲みながら、遠山美枝子に「ふう、あなたが先に死ぬんだね……」と、別れの言葉を告げられたと、重信は回想する。
その後の連合赤軍事件のいきさつを知っていれば、このシーンは重い。
さて、国境を突破して飛翔した重信だが、その任務や心意気とは裏腹に、やっぱり情熱ばかりが先立ったゆえのテキトーさが満ちあふれている。公安警察の目をくらませるための奥平剛士との偽装結婚も、渡航前に早くもバレバレ。ベイルートでは時事通信社の特派員から「いやー、新聞にあなたたちのことが出ているんです」と取材を申し込まれる。肝心のPFLP(パレスチナ解放人民戦線)とのコンタクトも、ベイルートでPLO(パレスチナ解放機構)の事務所に行って「どこですか?」と尋ねるというありさま。まさに、珍道中である。
重信とは以前、東京拘置所で対面したことがある。その時の短い会話で「あの頃は若かったから」という言葉が耳に残った。本書でも同様のことが記されている。だが、その思想を支持するにせよ、しないにせよ、多くの人が重信にシンパシーを感じているのは、若い情熱だけで走り切ったゆえである。本書の冒頭には、幻冬舎社長の見城徹が文章を寄せているが、同年代の彼は「彼らに対する僕の後ろめたさはこの世界の中で自分が世俗的にのし上がるパラドックスの強烈なモチベーションとなった」と記している。
狭い島国の枠組みをヒョイと乗り越えて、世界を股にかけて戦い抜いた重信や日本赤軍のメンバーの壮大さを真似するのは難しい。だからこそ、彼らに憧れた者は、自分の根拠地を築き「革命」することを志す。その面で、彼らの活動は社会を確実に変えてきたといえる。
重信も登場する映画『赤軍‐PFLP 世界戦争宣言』の中に「武装闘争はスタンバイすることである」の一文が登場する。武装闘争だけではない。自分の目指すべき「革命」に、メシを食べているときにも、寝ている時にも、常にスタンバイしていることこそが、重要なのだ。そして、重信たちがスタンバイし続けることができたのは、本書の行間からも伝わってくる情熱ゆえである。
「社会を変える」のは、一時の高揚感や解放感に酔うことではなく、何かを掴もうとする情熱であることを本書は教えてくれる。選挙やデモで世の中が変わるという流行のスタイルに疑問を持っている人にとっては、座右の書になることを確約できる名著である。本書は、人生をいかに生きるか、重信を通して自身と対話するための本である。
(文=昼間たかし)
マイクロソフト製セキュリティソフトに問題あり? 「Microsoft Security Essentials」がウィルステストに不合格

日本マイクロソフト
ドイツのセキュリティ研究所「AV-Test」は毎年、セキュリティソフトのテストを行っている。このテストでマイクロソフトのセキュリティソフト「Security Essentials」が認定を取得できなかったのだ。
「Security Essentials」はWindows XP/Vista/7向けに無料で公開されているセキュリティソフトで、ウィルスやマルウェアを検出・除去するためのツール。Windows 8には標準機能としてWindows Defenderに組み込まれている。それまでは、有料のセキュリティソフトを購入するのが当たり前だったのだが、Windowsを開発しているメーカーが無料で公開したため、人気を集めていた。
「AV-Test」は一般的なマルウェアの検出に加え、ここ2~3カ月で見つかったマルウェアの検出率やゼロデイアタックの防御率などもテストしている。ゼロデイアタックとはOSやアプリケーションの脆弱性を突き、対策がなされる前に攻撃する手法のこと。「Security Essentials」はゼロデイアタックの防御率が64%、最近のマルウェアの検出率は90%にとどまった。ライバルの平均値はそれぞれ89%、97%となっている。
この結果に対し、マイクロソフトマルウェアプロテクションセンターのプログラムマネージャであるジョー・ブラックバードはネットで反論。検出できなかったマルウェアのサンプルのうち、94%は顧客のPCに影響を与えなかったという。マイクロソフトは、それまでのプロダクツを使っていた20万のユーザーのフィードバックを分析し、優先してブロックする機能を与えている。要は、ほとんどの場合、大丈夫ですと言っているのだ。しかし、0.0033%は被害を受けることも明らかにしている。100万人につき33人とはいえ、膨大な人たちが使っているセキュリティソフトなので不安であることは確かだ。マイクロソフトは、反論はしたものの、改良することも明言している。次のテストは「AV-Test」の認定を取得できることだろう。
万全を期すなら、それまでは他のセキュリティソリューションを導入した方が安心できる。シマンテックやトレンドマイクロなどの製品は認定を取得している。どうしても無料で使いたいなら、「Avast: Free AntiVirus 7.0」や「AVG: Anti-Virus Free Edition 2012 & 2013」を利用しよう。
(文=柳谷智宣)
愛らしいぬいぐるみの中身は、中年不良オヤジ!? 変わり種バディムービー『テッド』

(C) 2012 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
2013年1月18日(金) TOHOシネマズ スカラ座他全国ロードショー
今週も続々と封切られる新作映画の中から、注目の話題作を3本ピックアップしていこう。
1本目の『テッド』(1月18日公開、R15+指定)は、マーク・ウォールバーグ扮するサエない中年独身男と、命が宿ったぬいぐるみのテディベアが繰り広げるドタバタと成長を描く大人向けのコメディ。いつも仲間はずれで孤独な少年ジョンは、クリスマスにプレゼントされたテディベアを「テッド」と名づけ、本当の友達になれるよう神様に祈る。すると奇跡が起き、テッドは意志を持ち、話したり動いたりできるように。2人は親友として27年間を共に過ごし、気づけば30代のオジサンになっていた。女好きで下品なジョークを連発するテッドと一緒に、マリファナを吸いながら往年のアメコミヒーロー映画をテレビ鑑賞する自堕落な日々を送っていたジョンは、恋人のロリー(ミラ・クニス)から「私とテッド、どっちを選ぶの?」と究極の選択を迫られる。
精神的に大人になりきれないジョンと、外見は愛らしいぬいぐるみなのに中身は不良オヤジなテッドの組み合わせが絶妙で、変わり種のバディムービーとしても上出来。本作で長編映画監督デビューとなるセス・マクファーレンが、原案・脚本に加え、テッドの声とモーションキャプチャーによる動きまで自らこなした。ラブコメ、成長物語、スリラーの要素を巧みに織り交ぜ、大フィーチャーの『フラッシュ・ゴードン』をはじめ有名映画からの引用も満載で、ハリウッドスターのカメオ出演も豪華。最後まで飽きさせない痛快作だ。
2本目は打って変わって、現代の日本の家族をしみじみと描く山田洋次監督の『東京家族』(1月19日公開)。瀬戸内海の小島に暮らす老夫婦の周吉(橋爪功)ととみこ(吉行和子)は、子どもたちに会いに東京へやってくる。車で迎えにくるはずの次男・昌次(妻夫木聡)は駅を間違えてしまい、周平らはタクシーで郊外の長男・幸一(西村雅彦)の家へ。長女の滋子(中嶋朋子)、遅れて昌次も到着し、家族がそろって食卓を囲む。滞在中に横浜や東京を案内しようと計画する子どもたちだが、それぞれ仕事や近所付き合いで忙しく、思うように両親の相手をできず数日が過ぎる。
『男はつらいよ』シリーズなどで各時代の家族と向き合ってきた山田監督が、映画監督生活50周年の節目に、小津安二郎の名作『東京物語』(53)をモチーフに描いた。2011年3月の東日本大震災の後に書き直した脚本で、家族の絆、夫婦と親子、老いと死を見つめ、問いかける内容。夏川結衣、林家正蔵、蒼井優、小林稔侍、風吹ジュンなど豪華共演陣も加わり、名優たちのアンサンブル演技をたっぷり味わえる。穏やかな笑いと共感を呼ぶエピソードの奥に、監督の願いとメッセージが確かに込められた珠玉の感動作だ。
ラストは『片腕マシンガール』(08)、『電人ザボーガー』(11)の鬼才・井口昇監督が放つコミカルなホラーアクション『デッド寿司』(1月19日公開)。伝説の寿司職人の娘として、自身も職人を目指し厳しい修行を積んだケイコ(武田梨奈)は、家を飛び出し田舎の温泉旅館で中居の職を得る。元寿司職人の澤田(松崎しげる)に仕えながら働いていたある日、旅館に現れた元新薬開発者の男が細胞蘇生薬を寿司ネタに注入したことで、血に飢えた「殺人握り寿司」が誕生。宿泊客を次々と血祭りにあげる中、ケイコは修行時代に父から鍛えられた武術でデッド寿司軍団に立ち向かう。
主演は、空手の黒帯保持者であり『ハイキック・ガール!』(08)で映画デビューを果たした武田梨奈。本格アクションをこなせる日本で数少ない若手女優と、過激なエログロ特撮アクションと独特の笑いのセンスで世界が注目する異才の井口監督は、まさにベストマッチ。バカバカしい設定を大まじめに熱演する津田寛治、手塚とおるら個性派共演陣とともに繰り広げるワールドクラスのB級エンタメは、クセになる危ない魅力がテンコ盛りの怪作だ。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『テッド』作品情報
<http://eiga.com/movie/77234/>
『東京家族』作品情報
<http://eiga.com/movie/55930/>
『デッド寿司』作品情報
<http://eiga.com/movie/77290/>







