新たな文化拠点として、町づくりの議論が花咲く秋葉原。去る2月20日、JR秋葉原駅の駅長・佐藤幸成氏を招き、「JR秋葉原駅長の企む秋葉原観光戦略!!」と題したトークライブが開催された。秋葉原を訪れる人の多くが利用するJRの側から見た、秋葉原の観光地化戦略とは? このイベントは、NPO法人秋葉原観光推進協会とUDXオープンカレッジが共催する「秋葉原cafe」の一環として行われたもの。UDXオープンカレッジでは、マンガ・アニメ・ゲームに限らず秋葉原に関するさまざまなコンテンツについて、ゲストを招いてディスカッションするイベントを定期的に開催している。 普段は、ドリンクを飲みながらまったりとしたイベントなのだが、今回はJR秋葉原駅の駅長というまたとないゲストが登壇することもあり、立錐の余地がないほど多くの人が詰めかけた。 前半、佐藤氏の行った発表は、JRが行ってきたこれまでの観光戦略についての解説。佐藤氏の発表の中で重要だったポイントは2つあった。JR東海が所有する東海道新幹線だと80%あまりがビジネス利用なのに対して、東北新幹線や長野新幹線はビジネスの利用が極めて低い(東北新幹線の場合52%)。そのため、残りの部分を旅行などで利用してもらい席を埋めることが、大きな課題となってきたこと。そうした対策のために生まれた「TYO商品」、すなわち地方から首都圏へのお得な旅行商品は人気が高く、次年度にはいよいよ利用客が100万人超えする勢いであるということだ。 TYO商品は、ホテルときっぷがセットになった、地方から首都圏へやってくる旅行者にお得な商品。観光向けだけでなく、ビジネスに便利な地域のホテルがセットになったものも発売されている。 「日本橋や浅草エリアへやってくる旅行者をターゲットにした商品はすでにありますが、秋葉原エリアのものはなかった。そこで7月上旬をめどに、新たに立ち上げる予定です」(佐藤氏) また、スマホを使った駅から歩くウォークラリー「えきぽ」による秋葉原周辺の街巡りも企画されているという。 実のところ、秋葉原でもほかの地域と同じく、街の観光資源を考えようという意識は高い。しかし、観光の活性化に向けた課題は山積みだ。登壇した秋葉原観光推進協会の泉登美雄氏はいくつかの課題を挙げたが、中でも重要なのが中央通りの規制緩和だ。 「現在、秋葉原中央通りにはバスを停車することができません。また、歩行者天国でもすべてのパフォーマンスが禁止になっている。観光客を呼び込むためにも、こうした規制を緩和することが必要でしょう」 秋葉原に観光客を呼び込むことへの熱気は高い。ただ、町おこしの窓口が一本化されていないことも問題だ。秋葉原の町おこしをテーマにしたシンポジウムなどは数多く開催されているが、一枚岩になっていないことを強く感じる。この点について、質疑応答の際に登壇者に質問してみたが、明確な解答を得ることができなかったのは、少々残念なところ。 誰もが秋葉原は街そのものが観光資源であり、魅力のあるコンテンツだとは理解している。秋葉原の魅力を維持し拡大するためには、どれだけ一丸になることができるかが、当面の課題ではなかろうか? (取材・文=昼間たかし)
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ルールも値段もややこしすぎた……JR「周遊きっぷ」が廃止に至った不人気の理由とは
JR各社が販売する「周遊きっぷ」が3月31日で廃止される。国鉄時代からの周遊券を引き継いで1998年から発売された周遊きっぷだが、売れ行きは年々減少。2002年度には約13万枚だった売り上げが11年には約4万8,000枚と3分の1ほどに減少。当初は67あった周遊ゾーンも、わずか13にまで縮小していた。かつては「青春18きっぷ」と並んで鉄道旅行によく使われたという周遊きっぷ。青春18きっぷと明暗が分かれたのはなぜなのか。 「一言でいえば、値段が高かったこと。それに、販売方法が煩雑でJRでも積極的に売りにくかったのです」 と、周遊きっぷの問題点を指摘するのは、長らく周遊きっぷを扱ってきた旅行会社経営の中尾一樹さんだ。中尾さんによれば、周遊きっぷは、国鉄時代からの周遊券に比べて、極めて発券が面倒だったことを指摘する。 国鉄時代の周遊券は、周遊ゾーンまでの経路もほぼ固定されていた。周遊きっぷは、この経路にも柔軟に対応するようになったが、そのために周遊ゾーンまでの往路のキップ、周遊ゾーンのキップ、復路のキップを別々に発券しなければならない。そして、往復のルートによって割引率も変動した。経路が指定されていて、ほぼ値段が固定化されていた周遊券に対して、値段が変動するために、発券の手間に加えて、積極的に売り出しにくくなってしまったのだという。 さらに、周遊きっぷでは特急・急行列車の自由席が乗り放題だが、いまやJRで定期運行されている急行列車は、青森~札幌間の夜行急行「はまなす」のみ。加えて、特急には乗れるが新幹線には乗れないという欠点もあった。周遊きっぷ九州ゾーンの場合だと、九州新幹線には乗れないかわりにJRバスの福岡~宮崎間、福岡~鹿児島間が利用できるものの、不便な印象は拭えない。さらに、周遊券で認められていた周遊区間までの往復の急行列車・特急列車の自由席利用もなくなった(そもそも急行列車は壊滅だし、特急列車が走っていない区間も多い)。そのため、周遊きっぷ九州ゾーンの場合に、東京発着で往復共に「のぞみ」「みずほ」を利用して現地に向かった場合の料金は5万3,260円。やはり、料金が割高な印象だ。 加えて、周遊券よりも有効期限が短縮され、利用者にとってあまり利便性が感じられない点が極めて多かったのだ。 つまり、周遊きっぷは周遊券よりも利便性が低下し、それを改善することができなかったというわけだ。現在でも、かつての周遊券の時代を知る人々の間では、周遊券の頃は便利だったという話はよく聞かれる。なぜ、JRは利便性を低下させることをしてしまったのか。 「国鉄分割民営化によって、JR各社は取り分を明確にしなければならなくなりました。ところが、以前の周遊券は周遊ゾーンが極めて広かったんです。例えば、信州ワイド周遊券だとJR3社の路線に跨っていました。そこで、周遊ゾーンを細かくすることで、取り分を明確にしようとしたんです」(中尾さん) 結局のところ、周遊券が周遊きっぷになって便利になった点としては、周遊ゾーン内で一部の私鉄やバスも利用できるようになった程度だったという(なお、周遊きっぷ開始当初、横浜から北海道へ行く際に「神奈川県内の空港から~」という意味不明の文面があり、旅行会社からの指摘を受けて訂正するという事態もあったとか)。 「周遊きっぷでも、新幹線も乗車できるようにするなど、ルールを現状に合わせればよかったのでしょうが、JR旅客6社すべてが納得しなければ規則を変更できないために足並みが揃わなかったんです。むしろ、よく15年も持ったなという印象ですよ」(同) 値段も高くて買いにくい上に売りにくい。さらに、現地まで行くのにも周遊券時代と比べて割高な周遊きっぷ。対して、普通列車に限って乗り放題と、ルールも簡単で値段が一律の青春18きっぷが優位に立ったのは当然といえる。かつて存在した北海道ワイド周遊券は有効日数が20日間と極めて長く、多くの旅行者がこのキップを使って北海道に足を運んだことは現在でも語り継がれている。もう、そのようなお得で便利な鉄道旅行の手段は夢物語なのだろうか。 (取材・文=昼間たかし)イメージ画像
「ネット弁慶は東北のボランティアに行け!」NHK公式アカウントはなぜ炎上した?
NHKのTwitterアカウントが大炎上している。このアカウントは業務に関連する情報だけでなく、時々ゆるい投稿をすることで人気があり、フォロワー数は50万人以上。筆者も、成功している公式アカウントとして記事で紹介したことがある。 しかし、想像していなかった事件が起きた。2月18日、突然「(゚ー゚*)。oO(ヘイトスピーチをまき散らすだけで、まるで何か世の中の役に立つことをやっている気になっているようなネット弁慶さんたちには、1度でいいから東北へ行ってボランティアでもしてきなよ、と言いたい。かなり本気で言いたい)(1号)」とツイートしたのだ。 突っ込みどころはいくつもある。まず、このツイートになんの脈絡もないこと。その手の会話やニュースからの流れならまだわかるが、「(>Д< ;)これからまたまた会議だよお… (1号)」というツイートの後というのは唐突すぎる。そしてターゲットとした「ネット弁慶」もいただけない。ヘイトスピーチをまき散らすユーザーが最悪なのは論をまたないが、それをネット弁慶とイコールで結んだのが失敗その1。さらに「東北へ行ってボランティアでも」の「でも」が失敗その2。筆者がライターだからと言うわけではなく、この「でも」に反感を感じた人も多い。東北とボランティアの両方を貶めているように読める。 さらに失敗は続く。当然、Twitterユーザーから反論や批判のコメントが届いたのだが、それに対する返答が「(゚ー゚*)。oO(平たく言えば、少しくらいリアルな場でも誰かの役に立てるといいよね、ってことなんだけどさ) (1号)」と来た。そのほかの返答も上から目線で、極め付きは「東北についてのヘイトスピーチをまき散らしている人たちには、もし出来ることならば、いちど東北へ行って自分の目で見て欲しい、匂いや音を感じて欲しい、そこで暮らす人たちと話して欲しい、と言いたい。(これなら伝わる?)」という弁解。「東北についてヘイトスピーチをしている」という流れはまったくないし、一番やってはいけないのが「(これなら伝わる?)」だ。担当者は絶対に謝りたくないので、イライラして書いた雰囲気がビンビンと伝わってくる。当然、これは火に油を注ぐ結果となった。 その後は、完全スルーモードに移行。変な対応をするくらいなら黙っていたほうが正解だが、炎上のタネはほかのところから追加される。NHK中央番組審議会委員のK氏が、NHKのツイートに賛同を示したのだ。それに反発したコメントには「安定のネトウヨクオリティwww」と反撃。頭に血が上ったネットユーザーは、K氏が代表を務める団体がNHKのテレビ番組に取り上げられたことを突き止め、ネット攻撃を開始した。NHK中央番組審議会委員は、放送番組のクオリティを向上させるためのチェック機関。そこのメンバーが代表になっている組織をテレビに出すのは、癒着と思われても仕方がない。2chでは、現時点で80スレを突破。過去トップ10に入る勢いだ。 なぜ、NHKのような公共放送がこのようなことをしでしたのか? SNSの影響力も考え、投稿を別の人がチェックするフローをかませればいいだけではないか。「東北にヘイトスピーチをする人は、ボランティアに行って実体験すれば考えが変わると思いますよ」とでもしておけば炎上はしなかっただろうし、上から目線の反論も、チェックする人がいれば止められたはず。そして、炎上に気がついたら即謝罪して、ツイートを削除すべきだ。きちんとした謝罪があれば、下火になる可能性は高い。一番ひどいのがツイートを黙って削除すること。次にひどいのが謝罪になっていない言い訳文を公開することだ。 次に大きな炎上が起これば、この話題は終息する。しかし、ネット上には永遠に記録されてしまう。企業公式アカウントの運用は難しいものではあるが、天気の話題だけというのもつまらない。効果的に運用するなら、担当者のバランス感覚に加え、チェック体制の強化が必要になるだろう。 (文=柳谷智宣) ◆「賢いネットの歩き方」過去記事はこちらからNHK広報局Twitter
漠然とした“死の恐怖”に怯えている人たちへ『「死ぬのが怖い」とはどういうことか』
「死ぬのは怖いですか?」 そう尋ねられたら、あなたはどう答えるだろうか? わたしは非常に楽観的な性格なので、100歳ぐらいまで生きて大往生。ぱぁっと散っていけるんじゃないかと考えているので、それほど怖くはない。ただ、自分の生命力が強すぎて、万が一火葬場で焼かれている最中に起きてしまい、「熱い! 熱い! うわぁ~~」と言いながら死んでいくことになったらどうしよう……と考えると、ちょっと怖い。だが世の中には、小さな頃から自分の死について真剣に考えている人も、たくさんいるのではないかと思う。 『「死ぬのが怖い」とはどういうことか』(講談社)の著者・前野隆司氏は、小学生の頃から死ぬことが怖くて怖くてたまらなかった。たとえば、生まれるまでは何もなかったのか、何かあったけれど思い出せないだけなのか。死んだら生まれる前と同じように、何もなくなってしまうのか。思い出もすべて失われてしまうのか、などなど。わたしはそんな想像をめぐらしたことがなかったので、こういう考えの人もいるのかと少し驚いてしまった。 前野氏はもともとロボットの研究者で、“人間の心もわからないのに、ロボットの研究をしている場合でない”と、脳科学、心理学、工学、宗教学、哲学、社会学、医学、カウンセリング学など、ありとあらゆる角度から「生きること」「死ぬこと」について研究した。その結果、大人になってからも漠然と怖いと思っていた死を、嫌だけれども怖くはないと思えるようになったという。 本書は、前野氏がどうしたら死が怖くなくなったのかを伝えたいと執筆した一冊で、そもそも、なぜ死ぬのが怖いと思うのかという心理的な話から始まり、死後の世界に五感はあるのか、幽霊に色は見えるのか、輪廻は存在するのかなど、これまでオカルトっぽく取り上げられることはあっても、それほどマジメに研究されていなかった素朴な疑問に対し、ひとつひとつ論理的に答えを導き出している。 人は必ず死ぬ。しかし、死を考えることは、生と向き合うことでもある。漠然と“死が怖い”と思っている人にとって、少し気持ちを楽にしてくれる本かもしれない。 (文=上浦未来) ●まえの・たかし 山口県生まれ、広島育ち。東京工業大学卒。同修士課程修了。キヤノン(株)、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、ハーバード大学客員教授を経て、現在、慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。博士(工学)。著書に、『脳はなぜ「心」を作ったのか』『錯覚する脳』(共にちくま文庫)、『脳の中の「私」はなぜ見つからないのか』(技術評論社)、『記憶』(ビジネス社)、『思考脳力の作り方』(角川oneテーマ21)など。主宰するヒューマンデザイン研究室では、脳と心から、ヒューマン・ロボットインタラクション、人間・社会システムデザイン、教育学、幸福学まで、人類の平和と幸福のために多様な研究・教育活動を精力的に行っている。『「死ぬのが怖い」とはどういうことか』
(講談社)
うらやまけしからん! 2ちゃん発祥『まおゆう魔王勇者』のラブラブすぎる主人公たち
みなさん、恋していますか? というわけで今回オススメするのは、すべてのアニメファンが、ラブラブすぎる主人公たちのやりとりに思わず壁ドンしたくなること必至のファンタジーアニメ『まおゆう魔王勇者』だ。 強大な力を持つ「勇者」とナイスバディな人間の女性の姿を持つ「魔王」が、手を取り合って人間と魔族の戦争によって成立しているいびつな社会秩序を正すべく、世界の改革をもくろむというあらすじの本作は、日本最大の匿名掲示板サイト「2ちゃんねる」発祥のコンテンツだ。 当初、「魔王『この我のものとなれ、勇者よ』勇者『断る!』」というタイトルのスレッドで展開していた即興小説が有志の手によってウェブ上にまとめられるようになると、この盛り上がりに注目したゲーム業界関係者によって書籍化プロジェクトが発足。2010年の商業出版を皮切りに、スピンアウト漫画の複数雑誌連載や今回のTVアニメシリーズなど破竹の勢いで成長し続けている、現在進行形のCGMコンテンツなのだ。 そんな本作は、第1話から自分が信じていた正義や社会が、実は健全なものではなく一部の特権階級が作り上げた虚構の上に成立していたものだった、という真実が宿敵から明かされた上に同盟を求められるという、いきなりクライマックスな展開を見せて視聴者を一気に引きつける。 その後も、(中世ヨーロッパ的世界観からすると)オーバーテクノロジーな農耕技術や文化を人間界にもたらし社会制度の変革を促そうとする魔王と勇者の活躍が描かれ、ある種の「歴史のIF」が描かれていく。 しかし、そうそう物事がうまく運ぶわけもなく、性急な改革は少しずつ世界にゆがみをもたらしていくことになるのだ。重厚でシリアスなその世界観は、本格ファンタジー好きな視聴者にも見応え十分なはずだ。 だが、あえて言おう。『まおゆう』の一番の見どころは、ハードな世界観の中で繰り広げられる魔王と勇者のイチャイチャだと! 類まれなる美貌と巨乳を持ついわゆる「いい女」な魔王は、その一方で学問一辺倒の寂しい生活を送りながら、いつか自分に会いに来る勇者とイチャイチャすることを妄想していた……という、残念な素顔を持つことが第1話で明らかとなる。その後、勇者と協力関係を結ぶことに成功した彼女は、堰を切ったように憧れの君へとラブモーションをかけまくるどころか、気がつくとすっかり恋人どころか夫婦のようなラブラブぶりを見せつけまくるのだ。学問に青春を捧げてきた才女が、意外なほどあっさりと結婚して周囲を驚かせる……なんてエピソードも時折耳にするが、まさにそんな感じである。 男性なら誰もが憧れるであろう高嶺の花である魔王(と、その恋敵である女騎士)に言い寄られる勇者こそ、全男性視聴者にとって嫉妬の対象であると同時に、夢と希望の塊だ。戦いはプロフェッショナルながらも、童貞気質で女性の心理には疎い彼と積極的なアプローチを繰り広げる魔王の甘~いやりとりには、見てるこちらもニヤニヤするやら壁をパンチしたくなるやら大忙し(特に魔王と女騎士をはべらせてベッドインした勇者の姿に、思い切り壁ドンした視聴者諸兄は多いことだろう)。 それでも毎回放送を見終えた後になんとも言えない幸福感を感じてしまうのは、やはり「恋する女性はかわいい」からだろう。ビジネスの場ではクールな表情を見せる魔王が、勇者を思って頬を赤らめる姿はどんなヒロインよりもかわいらしく、その幸せそうな表情と声は視聴者の心をもほっこりさせてくれる。つまり「かわいいは正義!」なのだ。 演じる小清水亜美の声も、どこか品のある落ちついた淑女を思わせつつも、ウブな少女らしさを感じさせてキャラクターにピッタリだ。交渉や戦場に立った時のクールな姿と、勇者と一緒に寝ようと枕を持って寝室に忍び寄るようなウブな姿のギャップを見事に演じ切っている彼女には、全力でスタンディングオベーションを送りたい。 彼女の演じたキャラクターといえば、過酷な運命を背負いながらも普通の恋を希求し続けた『交響詩篇エウレカセブン』のアネモネや、長い生の中で人間から迫害も崇拝も受けてきた『狼と香辛料』の狼少女・ホロなど、ハードな設定を持ちながらも少女らしい可憐さを失わない強い少女キャラクターが多く思い浮かぶが(『狼と香辛料』監督・高橋丈夫とシリーズ構成・荒川稔久は『まおゆう』の監督、シリーズ構成も務めている)、『まおゆう』の魔王もまたその系譜に連なるキャラクターだといえる。小清水の代表的キャラクターとなることは間違いない。 そんなわけで、男性アニメファンの皆さんは(女性アニメファンも、もちろん無問題!)ぜひ『まおゆう』を見ながら、全国の同志と一緒にニヤニヤしつつ、壁を思い切りパンチしよう(お隣さんの迷惑にならない程度に)! (文=龍崎珠樹) ◆「週刊アニメ時評」過去記事はこちらから『まおゆう魔王勇者』TVアニメ公式サイト
“世界一セクシーな男”が好感度満点のダメダメ男を熱演『世界にひとつのプレイブック』
不器用でも、人と違っていても、いいじゃないか。自分らしい人生を楽しんでみよう――。そんな温かいメッセージが伝わってくる、話題の新作映画2本を今週は紹介したい。 『世界にひとつのプレイブック』(2月22日公開)は、現地時間24日に発表される第85回アカデミー賞に8部門ノミネートを果たしたことでも注目の、笑って泣けるヒューマンコメディ。妻に浮気され心を病んだパット(ブラッドリー・クーパー)は、仕事も家も失い、両親とともに実家暮らし。妻から接近禁止令を出されながらもいつかヨリを戻そうと自主リハビリに励むある日、事故で夫を亡くした傷心の女性ティファニー(ジェニファー・ローレンス)に出会う。過激な発言と突飛な行動でパットを振り回すティファニーだったが、パットから妻への手紙を渡すことで合意。彼女は交換条件で、ダンスのパートナーとしてコンテストに出場するようパットに求める。 監督は『ザ・ファイター』(10)でアカデミー賞2部門受賞のデビッド・O・ラッセル。米誌の「世界一セクシーな男」ランキングで1位に選ばれたクーパーにしては珍しくダメダメな男の役だが、好感度満点の演技に思わず感情移入してしまうはず。ローレンスの真っすぐなまなざしと健康的でセクシーなボディ、ダンスシーンでの躍動感に引き込まれる。パットの両親を演じたロバート・デ・ニーロ、ジャッキー・ウィーバーを合わせ、主演助演の男女4人がオスカー候補になるという31年ぶりの快挙を達成。4人を中心とする見応えたっぷりのアンサンブル演技を堪能したい。効果的に使われるBGM「Don't You Worry 'Bout a Thing」で歌われるように、「小さなことにくよくよするな」と励まされ、心がホットになる感動作だ。 2本目の『横道世之介』(2月23日公開)は、『パレード』『悪人』の吉田修一による青春小説を、『南極料理人』(09)、『キツツキと雨』(12)の沖田修一監督が映画化。長崎県の田舎町で育った世之介(高良健吾)は、大学進学で80年代の東京へ。世間知らずだがお人好しの世之介に、周囲はとまどったりバカにしたりしながらも、次第に心を開いていく。ある日友達からダブルデートに誘われた世之介は、ちょっと変わった社長令嬢の祥子(吉高由里子)と出会い、互いに好意を抱くようになる。 ユーモラスで少しセンチな原作小説の構成が尊重され、世之介と同じ時代を過ごした仲間が16年後にそれぞれ当時を回想するシーンが時折挿入されるが、終盤で明らかになるその理由もまた切ない。高良は地方出身のイケてない学生という役どころで、しみじみ人柄の良さがにじみ出る青年を爽やかに演じた。吉高のポワンとした雰囲気は、おっとりしたお嬢様役にぴったり。80年代に青春を過ごした世代ならおそらく懐かしさを覚えるはずだし、それ以外の世代でも若い時分の甘く苦い恋愛を呼び覚まされ、さまざまな感情を思い起こすに違いない。2時間40分という長さを感じさせず、いつまでも世之介と一緒に青春を過ごしていたいと思わせる好作だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『世界にひとつのプレイブック』作品情報 <http://eiga.com/movie/77849/> 『横道世之介』作品情報 <http://eiga.com/movie/57830/>(C)2012 SLPTWC Films, LLC. All Rights Reserved.
飯田線の魅力が一挙に集結した展示会・飯田線マニアックス開催中
日本を代表するローカル線・JR飯田線。その魅力が集結した企画展が、長野県伊那市で開催中だ。昨年は『究極超人あ~る』の名場面を再現するイベント「田切駅→伊那市駅1Hour Bicycle Tour “轟天号を追いかけて”」を開催し、全国から自転車持参の参加者を集めた伊那市。今回の展覧会も、やっぱりフツーのイベントではなかった。 この企画展は、昨年から続く伊那市駅開業百周年記念イベントの最後を飾るもの。実は、 昨年から「飯田線マニアックス」のタイトルと日程だけは告知されていたものの、詳細はなかなか発表されなかった。あまりの情報のなさに年が明けた1月、会場の伊那市創造館の館長・捧剛太さん(“轟天号を追いかけて”の主催者の一人でもある)に問い合わせたところ「順次、発表する予定ですので」と、筆者の心配をよそに平気な感じ。そうこうしているうちに展示会初日を迎え、筆者はどんな展示になっているのかドキドキしながら信南交通の狭いバスに揺られて、現地へ向かった。 ちょっと心配しながらやってきた展示会だが、その展示品は目を見張るものばかりだった。かつての飯田線の風景を記録した写真の数々はもちろんのこと、各種の行先票(なぜか、懐かしの急行アルプスのも)といった鉄道用品がところ狭しと飾られている。特に鉄道用品は、どこで手に入れたのだろうかと思うマニアックなものばかり。マニアじゃないとわからない特別な列車のダイヤ、車掌や鉄道公安官の腕章、さらには実際に触って試すことができる鉄道電話までが設置されているのだ。会場の伊那市創造館は、かつて上伊那図書館として使われていたレトロ建築でもある。
さらにパネル展示も、気合の入り方が単なる郷土資料展のレベルではない。飯田線の名物・下山ダッシュに関する展示は、館長の捧さんが自分でビデオカメラを回しながら走った映像付き。下山ダッシュと並ぶ飯田線の名物・秘境駅の展示コーナーでは、小和田駅から駅前の道を歩いて行くとどうなるか。さらには、田本駅から集落にたどり着くまでの映像までもが展示されている。まさに、身体を張って作られた展示だ。こういう腕章を見るとワクワクするのは筆者だけじゃないはず。
映像つきパネル展示には気合いが入りすぎ。
なお、会場で流している伊那ケーブルテレビ制作の飯田線番組は
堂々の2時間! 長すぎるので差し替えるかも……だって。
捧さんによれば、特に大変だったのはNゲージのレイアウトを受け取りに横浜に行ったのと、伊那市駅開業当時の電車模型の運搬だったそう。復元電車は昨年8月、伊那まつりに合わせて市立図書館のロビーに入るサイズにちょっと縮小して制作したもの。伊那まつりで子どもたちを乗せて「運行」した後は、そのまま市立図書館のロビーに展示されていた。これを、展示会に合わせて伊那市創造館まで運んできたのだとか。運ぶといっても、業者を頼む予算もないので自力。捧さんや図書館長の平賀研也さんらが押して運んだのだとか。さほど距離はないといっても、途中には踏切もあるし、坂道もある。相当大変な作業であったのは想像に難くない。展示コーナーは持ち込みを受け付けて会期中にさらに充実する予定だ。
「踏切のところで脱線しないか、緊張しましたね。それに、運搬のための道路使用は問題ないということだったのですが、図書館を出た途端に偶然パトカーが通りかかって……びっくりしました」(捧さん) なんとか搬入できた復元電車は、創造館のロビーに陳列。玄関を塞いでいるようにも見えるが、車椅子が通れるスペースもきちんと確保しているんだとか。この、細かな配慮が心地よい。 さて、展示品や会場で子どもたちをくぎ付けにする一周8メートルのNゲージのレイアウトには、以前も紹介した20年余りにわたって聖地巡礼を行っているグループ・田切ネットワークが協力。初日から国鉄の法被を着て自ら展示品になっていた田切ネットワークの代表・中尾一樹さんは「下山ダッシュはJRでも認知されていて、下山村駅~伊那上郷駅間で荷物が車内に放置されていた場合、伊那上郷駅を過ぎるまでは、忘れ物として回収されることはない」「かつて『探偵!ナイトスクープ』に登場したのも田切ネットワークのメンバーだったのだが、現在は音信不通」といったマニアックなネタまでを来場者に解説していた。 なお、写真でもわかるように未完成に見えるレイアウトだが、期間中を通じて来場者にも家の模型を作ってもらい、伊那の町を完成させていく予定だという。もっとも、伊那の町と言いながら「西園寺ツーリスト伊奈支店」はともかく「藤原とうふ店」と書かれた建物模型や、サザエさんの家らしきものも混じっていたり……遊び心がいっぱいだ。決して完成が間に合わなかったんじゃないよ!
ぜひ期間中に制作に参加しよう。
写りが悪くて恐縮ですが、妙な建物もたくさんあります。
これが段ボールでできているだなんて、
にわかには信じがたい……恐るべし伊那市民!。
今回の展示会のもう一つの目玉となるのが、飯田線人間すごろく」。これも、今回の取材でぜひ体験してレポートしようと思ったのだが、会場にはすごろくの影も形もなかった。なんでも、初日に設置予定だったが積雪のために断念。2月中は、まだ積雪の予報があるため、もう少し暖かくなってから設置する予定だとか。 このように「光画部」のごときユルさで彩られた展示会。単に展示をするのではなく、それが進化していくというのも、重要なポイントだ。創造館では期間中を通じて、地元の人々や鉄道ファンから飯田線に関する品物の提供を求めている。取材当日にも、地元の人から、鉄道ファンでもほとんど見たことのない硬券の見本帳が持ち込まれたり、ファンが今は亡き「佐久間レールパーク」の思い出の品を持参する場面も。これらも、すぐに展示物に加えられた。つまり、この展示会、一度訪れて満足ではなく、何度も訪れる価値があるものなのだ。3月末までの会期中に、どれだけ進化するのか、大変期待している。 ■あのレトロ模型店が惜しまれながら閉店人間双六は、積雪の危惧がなくなってから開始予定。
さて、伊那市の魅力は飯田線だけではない。B級グルメとして知られるローメン、そして、 レトロな町並みも人々を惹き付けてやまない。そんな町の人々に愛され続けた市内の老舗模型店・堀込玩具店が、2月11日をもって営業を終了した。堀込玩具店は少なくとも40年以上は営業している、伊那市民であれば知らない人はいない模型店。かといって、レトロな商品がホコリをかぶっているわけではなく、ちゃんと最新の模型も販売する、生きている模型店として多くの人に親しまれてきた。ところが、今年初頭に店主が急逝し、惜しまれながら閉店することとなったのである。 前述の復元電車制作など、町づくりに携わっている、伊那谷ソーシャルメディア研究会の鄭あきとしさんは、 「有志で営業を引き継げないかとご家族と、相談したのですが、諸般の事情から断念せざるを得ませんでした。物心のついた頃からあったので、なくなるのは寂しいですね」 と、話す。2月10、11日には全品半額で閉店セールを開催。朝9時には、店舗前に行列ができ、大混雑となった。伊那といえばローメン!
ぜひ、うしおで超々大盛りに挑戦してほしい。
朝も早くから堀米玩具店前には人だかりが。
中学生が電動ガンを買いまくっていたのが印象的
こんなレトロな模型店は日本でも限られているはず。
伊那市には、上伊那唯一の銭湯・菊の湯、そば屋のクロネコ、映画館・旭座など、まだまだレトロ店舗が多い。特に菊の湯は閉店しては大変だと市議会で取り上げられ、市長が「私も月に何度か通っている」と話題になるような人気スポット。これらの店舗が今後とも、末永く続くことを願ってやまない。 本サイトでも、幾度となく取り上げている伊那市と飯田線。ここで、どれだけ書いたところで実際に行ってみないと真の魅力は伝わってこない。3月からは青春18きっぷも使えるので、これを機会にぜひ訪れてはいかがだろうか?思い出と悲しさと熱気が溢れる店内。
筆者も、ウォーターラインシリーズより天龍を購入。
『けいおん!』制作陣集結の『たまこまーけっと』が陥った、“完璧すぎる理想の日常”の落とし穴
『涼宮ハルヒの憂鬱』をはじめ、『けいおん!』『氷菓』『中二病でも恋がしたい!』など安定したクオリティのアニメをコンスタントに発表し続け、今日のアニメシーンにおいて欠かせない存在となったアニメ制作スタジオ・京都アニメーション。その最新作である『たまこまーけっと』も、多分にもれず高水準な作画と脚本・演出で我々視聴者を毎回楽しませてくれている。 本作のメインスタッフは、監督・山田尚子、キャラクターデザイン・堀口悠紀子、脚本・吉田玲子という『けいおん!』を手掛けた女性スタッフたち。彼女たちの手によって、うさぎ山商店街の愉快な面々が繰り広げる日常風景が描かれる。言葉を話す謎の鳥デラ=モチマッヅィというファンタジックなキャラクターも存在するものの、基本的には普通の人々が織りなす普通の物語を描く『けいおん!』直系の日常アニメとなっている。 そんな『たまこまーけっと』では、「活気あふれる商店街」「優しすぎる隣人たち」「穏やかな日常」といった、現代の日本ではおそらくほぼ消失してしまったであろう「理想の日常(とコミュニティ)」が描かれ続ける。 この理想的すぎる物語に、違和感と空々しさを抱いてしまうのは筆者だけだろうか? 今時こんなに明るくて活気ある商店街なんて日本全国を探してもそうそうないだろうし、誰が何をしても笑って許してくれる街の人々や、色恋沙汰もなければ友達との大した諍いもない学校生活なんて、毒がなさ過ぎてむしろ不気味だ。ここに、『けいおん!』が劇場版および原作コミックの続編「college編」で露呈させた「日常アニメがその半径を広げれば広げるほど、日常を描けなくなる」に通じる問題点を感じてしまう。 ほぼ軽音部(および、それを取り巻く学校)という閉じたユートピア内での物語を描くことに徹していたTVシリーズと原作コミック『けいおん!』には、小さなコミュニティにフォーカスすればするほど、その外界にはアニメを見ている視聴者と同じ「現実」が存在しているという想像力が作品にあった。この想像力が効果的に発揮されたのが第2期『けいおん!!』終盤である。軽音部のメンバーたちが送る、取るに足らない、しかし何物にも代えがたいモラトリアムである「理想の日常」はやがて終わりを迎え、近い将来「現実の日常」という外界と向き合わねばならないというシビアな想像力が物語に説得力をもたらし、多くの視聴者に登場人物たちへの感情移入を促した。 対して劇場版『けいおん!』は、我々の生きる世界の延長線上にあると信じられていた外界ですらも、軽音部の面々に優しい閉じた世界であったがゆえに、TVシリーズには存在していたギリギリのリアリティが崩壊。原作コミック「college編」については、大学という外界に開かれた場に軽音部の身内ノリを持ち込もうとしたものの失敗。作品自体が方向性を見失い、空中分解してしまった感がある。 そこで『たまこまーけっと』では、より完璧な「理想の日常」を構築するべく、主人公たちの行動半径すべてを「理想の日常」として描くのみならず、デラ=モチマッヅィという外国からやってきたしゃべる鳥という存在を持ち込むことで、この世界はどこまでもファンタジックで理想的な日常が広がっていることを想像させることが選ばれたのだろう。シビアな「現実」が渦巻く世界の片隅に「理想の日常」という避難場所を作るのではなく、どこまでいっても誰も傷つかず、悩むことのない理想の日常「しか存在しない」別次元の世界を創造してしまった『たまこまーけっと』という作品は、結果的に作品の外部に存在する我々視聴者の居場所すら排除してしまったといえる。 身内のみでワイワイ盛り上がっているさまを、部外者である視聴者に「ほら、楽しそうでしょ?」「見て見て!」とアピールしたところで、受け手側としては「はあ、楽しそうですね……」としか言いようがないのである。視聴者の目線不在で、別次元の人々の取るに足らない日常ばかりが繰り返される『たまこまーけっと』に感じる違和感と空々しさは、つまるところ現実とは地続きではない作品に漂う「嘘臭さ」「薄さ」。そして「身内ノリに対する部外者の疎外感」にほかならないのだ。 魅力的なキャラクターデザインや、新人からベテランまでまんべんなく配置したナイスなキャスティング、毎回思わずクスッとさせられるシナリオなど、どこを取っても非常に高いクオリティでまとまった高いポテンシャルを持つ作品だけに、あまりにも安全な作りに落ち付いてしまった点が非常にもったいない。 物語としては、そろそろ折り返し地点を越えてクライマックスに向けて動き出す頃だろうか。理想に彩られた日常を描く『たまこまーけっと』という物語が、どのような「日常」に着地するのか期待したい。 (文=龍崎珠樹) ◆「週刊アニメ時評」過去記事はこちらからTVアニメ 『たまこまーけっと』
シリーズ屈指の火薬量と破壊量で刺激満点『ダイ・ハード ラスト・デイ』
「9.11」から10年以上たった今も世界で続くテロとの戦いを、ド派手な娯楽アクションと実話ベースのサスペンスドラマという、好対照な手法で描く話題の新作映画2本を紹介しよう。 2月14日公開の『ダイ・ハード ラスト・デイ』は、ブルース・ウィリスの代表作である大人気シリーズの第5作。ニューヨーク市警のマクレーン刑事(ウィリス)は、ロシアで投獄された息子ジャック(ジェイ・コートニー)の身柄を引き取るためモスクワへ降り立つ。だが、ジャックが政治犯コモロフと共に出廷する裁判所にマクレーンが到着した途端、大規模なテロ事件が発生。コモロフを誘拐しようとするテロ組織の陰謀を阻むため、マクレーンはジャックと協力し異国の地で奮闘する。 監督は『エネミー・ライン』(01)やリメイク版『オーメン』(06)のジョン・ムーア。カスタム仕様の耐地雷防護車や多用途軍用車ウニモグがハイウェイの一般車両をはね飛ばしながら爆走する序盤の驚愕チェイスシーンから、マシンガンを掃射するシリーズお約束の銃撃戦、攻撃ヘリコプターも参戦する終盤の息詰まる攻防まで、シリーズ屈指の火薬量と破壊量で圧巻のアクションをテンポ良く見せてくれる。シリーズ3作目からはバディ・ムービーの要素が続いているが、本作のバディは「父と息子」。冒頭で反目し合っていた親子の関係が変化していく過程や、二転三転する人物関係の意外性など、最後まで目が離せない刺激満点の娯楽作だ。 2月15日公開の『ゼロ・ダーク・サーティ』は、国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディンを追いつめたCIA女性分析官の執念と、ビンラディン暗殺作戦の裏側を、関係者の証言に基づいてサスペンスフルに描き出した作品。9.11テロ後に姿を消したビンラディンを追って、CIAは巨額の予算をつぎ込むが、手がかりを得られないまま2年が過ぎた。そしてCIAは、若く天才肌の女性分析官マヤをパキスタン支局に派遣する。マヤはやがて、ビンラディンの連絡係と思われる男の存在をつかみ、さらには地方都市アボッターバードに高い壁で囲まれた要塞のような豪邸を発見する。 『ハート・ロッカー』(06)でアカデミー賞6部門を受賞したキャスリン・ビグロー監督の最新作で、本作も同賞5部門にノミネート。主演のジェシカ・チャステインは、心理戦を駆使して捕虜から情報を引き出し、同僚を自爆テロで失う悲劇に打ちひしがれ、時には表情を歪めて上司に激しく食ってかかるマヤを熱演した。終盤の急襲作戦のシーンは、暗視ゴーグルの視野を模倣した映像も活用され、観客自らがネイビーシールズの隊員として現場に突入しているかのような迫力だ。ビグロー監督は、サスペンスとアクションの演出で「テロとの戦い」をドラマチックに描きながらも、捕虜虐待や報復戦など戦争がはらむ問題を可視化して私たちに提示している。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ダイ・ハード ラスト・デイ』作品情報 <http://eiga.com/movie/57678/> 『ゼロ・ダーク・サーティ』作品情報 <http://eiga.com/movie/77732/>(C) 2013 Twentieth Century Fox.
平凡な日常を刺激する、特殊間取りの世界へようこそ『間取り図大好き!』
『間取りの手帖』(佐藤和歌子著・リトルモア)が刊行され、サブカル界が珍間取り図の奥深さを認めたのが2003年。「いったい、どうやって生活するんだ!?」――。不動産屋の店頭に張り出されるありえない間取り図は、多くの人々の好奇心を刺激した。 そして、そんな“間取り図ブーム”は、一過性で終わることはなかった。あれから10年の時を経て、『間取り図大好き!』(扶桑社)なる本が上梓されたのだ。 もしも、あなたが「大家族だけど、家族仲が悪いから別々のキッチンを使用したい」なんていうワガママだとしても、あきらめてはいけない。世の中には「9LDKDKDKDK4S」なる物件が存在し、あなたの夢を叶えてくれる。断捨離ができず膨大な荷物を抱えているなら、8つの物置を完備した部屋がオススメだ。露出狂ならばベランダに浴槽が完備された物件、実は忍者のキミにはどんでん返しがある物件はどうだ!? 「24時間ず~っと一緒にいたい!」というラブラブカップルなら、トイレに便器が2つ並んでいる部屋で愛を育めばいい。「家族3人仲の良さが自慢です」というなら、便器が3つ並んでいる部屋がいい。きっと、子どもの下半身の成長までつぶさに観察できるはず! 本書の編集を務めるのは「間取り図ナイト」という団体。東京カルチャーカルチャーを中心に、同名のイベントを19回にわたって開催し、イベントのチケットはソールドアウトを続ける。“たかが間取り図”と思うなかれ、イベントに集まった大勢の観客は、その突飛なスタイルに抱腹絶倒する。 このイベントの中心メンバーは、mixi「間取り図大好き!」コミュニティ管理人の森岡友樹、住宅都市整理公団総裁であり、『工場萌え』(東京書籍)、『共食いキャラの本』(洋泉社)などを発表している大山顕、そして「デイリーポータルZ」ライターの大塚幸代の3人。一癖あるマドリスト(間取り好きの人をこう呼ぶらしい……)たちが、上記のような意味不明な間取りに対し、鋭いツッコミを加えていく。 もうすぐやってくる春を前に、引越しを考えている人も多いだろう。不動産屋の店頭に貼りだされた間取り図は「こんな家だったらどんな生活が送れるだろう?」と、あなたを妄想の世界に導いてゆく。物件のみならず、そこに生活する人を象徴する「間取り図」とは、人間の気分を高揚させるエンタテインメントなのだ。 あなたの求めているのは、本当に1DK南向きの平凡な物件なのだろうか? そんな設計士の都合と採算性のみを重要視し、型にはめ込んだ商品のような部屋で、本当に楽しい毎日が送れるのか? 既成概念を覆す特殊な間取り図は、きっとあなたの平凡な日常を揺さぶるだろう。 (文=萩原雄太[かもめマシーン])『間取り図大好き!』(扶桑社)




















