600円で食べ放題! 川越市役所食堂のバイキングは、お得……なのか?

R0037942.jpg  ルポライターの仕事は、実際に現地を訪れねば始まらない。というわけで2013年も、さまざまな地域を訪れては、見て食べて楽しんでみた。見たり聞いたりも重要だけれど、国内であっても、現地の人と同じものを食べてみるのは重要だ。食べ物は生命の根源。ゆえに、食べ物が貧しければ、人の心も荒んでいく。  そんな中でも唖然としたのが、今回紹介する川越市役所の食堂である。官公庁関係の食堂は、基本的に無難な味である。決してまずくはない。あくまで、可もなく不可もない味なのである。昨年、国会議事堂に入居する吉野家の高級牛丼が話題となった。値段が高いだけあって、これはおいしい。しかし、この吉野家よりも一般市民が入りやすい衆参の議員会館の食堂はといえば、やっぱり官公庁の食堂にありがちな無難な味である。ちょっと高級感が味わえるのは、ウェイターが料理を運んでくることぐらいであろう。  さて、本題に戻ろう。この川越市役所の食堂の目玉は、バイキングである。バイキングなのに、値段はたったの600円。官公庁の食堂は、一般の店舗よりも幾分か値段が安いのが当たり前だ。でも、バイキングで600円とは、これいかに?  入り口の説明によれば「川越セット」と呼ばれるこのセットは、ご飯+味噌汁+メインと副食という構成だ。このうち、日替わりになるメイン以外は、すべておかわり自由なのだとか。  「おかわり自由」「食べ放題」が人生で最も好きな言葉である筆者は、食券を購入し、喜びいさんで中へ。カウンターで食券を渡して待っている間に、すでに食べ放題はスタートだ。どこにも制限時間は書かれていない。すなわち、600円で時間も無制限? これはなんともサービスのよい食堂だろうか……。 R0037943.gif R0037944.jpg  しかし、夢は無残に打ち砕かれた。食べ放題の副食コーナーには、2つのテーブルが用意されている。1つはサラダ。もう1つが総菜である。総菜に並ぶのは、芋の天ぷら、煮物、あとは漬け物の類いである。いやいや、サラダが豪華なのだろうと見てみると、生野菜のほかは、コーンくらい。おまけに、空になったスパゲティサラダのボールは、一向に補充される気配もない。時計を見ると、午後1時過ぎ。もはや、ピークを過ぎているため、補充は行われないらしい。総菜コーナーの煮物も、油揚げは残り数切れという状態だ。  しばらくして出てきた、この日のメインであるハンバーグも味は薄め。これでは、いったいナニをおかずに、米をかき込めばよいのか! 筆者は半ばヤケクソで、漬け物とサラダのドレッシングを使って飯を3杯かきこんだのである。  この川越セットだが、自称「人気メニュー」ということになっているらしい。確かに、600円でご飯がおかわり自由だったら、お得なような気がしないでもない。でも、食べ放題のコーナーが無残な残り物の状態だったために、かなり精神を削られてしまった。ま、市役所は小江戸で知られる川越市の昔ながらの町並みにも近い。怖い物見たさで訪れてみるのもよいかも。おそらく、日替わりのメイン料理に、一週間に一度くらいは「当たり」があるはずだが……。 (取材・文=昼間たかし)

虐待を生き延びた子どもたちの“その後”『誕生日を知らない女の子』

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『誕生日を知らない女の子』(集英社)
「なぜ、幼い生命を救えなかったのでしょうか?」  虐待死事件が報道されるたびに、レポーターが繰り返す言葉だ。毎年、少なくとも50人以上の子どもたちが、虐待の犠牲となってその生命を奪われている。だが、児童虐待の相談対応件数は、6万6,807件(平成24年度)。死亡してしまう子どもは、全体のほんの一部であり、「救えた」子どもたちが直面する過酷な現実に光が照らされることは、ほとんどない。  虐待を受けた子どもたちの“その後”を描いたノンフィクションが、黒川祥子よる『誕生日を知らない女の子』(集英社)だ。虐待を逃れ、里親のもとで暮らす子どもたちの生活を描いた本書。だが、そこに描かれているのは、里親のもとで安心した生活を送る幸せな子どもたちの姿ではない。  「川村のママ」と呼ぶ実母に、フライパンで手を焼かれ、タバコの火を押し付けられた美由は小学3年生。保護施設では、能面のように表情を変えず、「しゃべれないかもしれない」と心配されながら過ごしてきた。日常的に虐待を受け続けた生活が、彼女の感情を動かないように変えたのだ。里親のもとに引き取られて、少しずつその感情は改善していくも、嫌なことがあるとすぐに白昼夢に逃避してしまう美由。いまだに、「おまえなんか、ぶっ殺す」という実母の声に苛まれ、お店の商品をいつの間にか「持ってきちゃう」のは、実母から万引きを強要されていた過去がフィードバックするからだ。  虐待を受けた子どもたちは、多かれ少なかれ、いろいろな問題を抱えている。他人との距離がうまくつかめず、すぐに暴力に走ってしまう問題児や、いつ殴られるかわからない恐怖と闘ってきたため、脳の健全な発達は遅れ、学習障害と診断されるケースも少なくない。  捨てられたも同然で児童相談所に預けられ、里親のもとにやってきた明日香は、実母に恋焦がれている。「おかあしゃんは、女神さまのように優しくて、どんな願いでもかなえてくれる」と実母を理想化する明日香。しかし、継父と実母のもとに引き取られた彼女は、1カ月以上ひとりで放置され、再び児童相談所に送られることとなった。 「虐待はトラウマという、傷つけられた体験で語られがちですが、一番重要なキーワードは、喪失なのだと思います」 と、子どもの虹情報研修センターの増沢高研修部長は語る。子どもに関心の薄い母親のもとで、周囲の大人たちの誰もが、明日香が幸せになれるとは考えられなかった。それは、明日香自身も薄々わかっていたことだろう。けれども、彼女は「奴隷でもいいから、帰りたい」と言って、里親のもとを去っていた。現実を見つめないことが、唯一、彼女の喪失感を回避する手立てだったのだ。  二人の子どもがいる沙織は、父親からの暴力や性的虐待を受けて育った。 「上の子は女の子だからなのか、育児のたびに否が応でも自分とかぶるんです。育児をする上で、フラッシュバックを体験するというか……。『あの子歩いたな、よかったな。うれしい』って思った瞬間、『誰が私が歩いたのを喜んだ? 誰が私が歩いたのを見ただろう』って、だんだん上の子に当たっていくんです」  「スイッチが入る」と長女の「夢」を殴り、蹴り、首を絞めてしまう沙織。「このままだと殺してしまいます」という電話をかけ、彼女の子どもたちは児童相談所に保護された。「父親に言いたかったこと、継母に言いたかったこと、押し込めていた気持ちを自分の子どもにぶつけていたんです。小さい頃からの怒りが、夢ちゃんに向かって出ていたんです」まるで呪いのように、虐待の記憶は、何十年を経ても沙織を苦しめている。  母親の虐待を受けながら育った青年が、その母親を殺害する事件の裁判で、青年は「僕は今、虐待死させられた子どものほうがずっとうらやましい」と話した。  「『虐待の後遺症』という視点を持って、『殺されなかった』被虐待児の現実を、私たちは社会全体で見つめていかなければならないと強く思う」と黒川は書く。虐待を経験した子どもたちは、その成育の過程において人間としての当たり前な経験を得られず、社会に馴染むことができない。だから、彼らの扱いは難しく、本書には「育児放棄」のような扱いをする一部施設の姿も描かれている。向き合うことが困難だからといって、虐待を経験した子どもたちを見放すならば、この社会は虐待をする親たちと何も変わらないだろう。  これ以上、彼らが虐待を受けなければならない理由はどこにもないはずだ。 (文=萩原雄太[かもめマシーン]) ●くろかわ・しょうこ 1959年生まれ。福島県出身。東京女子大学文理学部史学科卒業。弁護士秘書、ヤクルトレディ、デッサンモデル、業界紙記者などを経て、フリーライター。家族の問題を中心に執筆活動を行う。橘由歩の筆名でも著書がある。息子が二人いるシングルマザー。第11回開高健ノンフィクション賞受賞。

6人の人気脚本家からひも解く、テレビドラマの歴史と魅力『キャラクタードラマの誕生』

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『キャラクタードラマの誕生: テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)
 2013年、『あまちゃん』や『半沢直樹』がヒットし、テレビドラマは大きな話題となった。実は、このふたつの作品には共通点がある。それは、どちらも「キャラクタードラマ」であることだ。  成馬零一氏が上梓した『キャラクタードラマの誕生: テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)は、岡田惠和(『銭ゲバ』『泣くな、はらちゃん』)、坂元裕二(『それでも、生きてゆく』『最高の離婚』)、遊川和彦(『家政婦のミタ』『純と愛』)、宮藤官九郎(『11人もいる!』『あまちゃん』)、木皿泉(『すいか』『野ブタ。をプロデュース』) 、古沢良太(『鈴木先生』『リーガルハイ』)という、現在のテレビドラマを代表する6人の脚本家について評論したもので、各章の合間には「ホームドラマ」「トレンディドラマ」「キャラクタードラマ[1]、[2]」「朝ドラ」「現実とフィクション」という、テレビドラマ史を体系的に振り返るコラムが挟み込まれている。  テレビドラマ評論の多くは、山田太一、向田邦子、倉本聰といった、後に「シナリオ文学」などと呼ばれるような重厚な人間ドラマを描いた脚本家を高く評価するあまり、それ以降のトレンディドラマは批判的に語られがちだった。ましてや、漫画原作のドラマは、それだけで黙殺されてしまう。しかし、本書でテレビドラマの歴史やその連続性を知ることで、それがいかに不当な評価であるかが浮き彫りになってくる。  成馬氏は、前出の「キャラクタードラマ」について、本書の中で下記のように定義している。   ・漫画やアニメを原作とするドラマ、もしくは漫画やアニメの表現(方法論)を作品内に持ち込んだドラマ ・役者のキャラクター性に強く依存したドラマ ・主人公の個性がドラマの前面に出ているドラマ ・人間の内面をキャラクターという表現で描いたドラマ  前著『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)で、成馬氏はジャニーズの俳優たちを例にとり、最近のテレビドラマの演技は、複雑な感情の機微を感じさせる「人間芝居」と、個性がハッキリとしたキャラを演じる「キャラクター芝居」があると指摘し、分類している。「キャラクタードラマ」とは、それを元にして定義された概念である。これまでの映画的な評価基準では、「人間芝居」よりも「キャラクター芝居」は低い評価をされがちだった。その評価基準は、そのまま「キャラクタードラマ」に対する低評価にもつながっている。もちろん、原作を安易に翻案しただけのドラマも少なくはない。しかし、キャラクタードラマの本質は、漫画をそのまま実写で再現することではない。 「生身の人間が二次元のキャラクターとして振る舞おうとすればするほど、逆に身体性や内面がにじみ出てしまう。そしておそらく、そのにじみ出る人間性にこそキャラクタードラマの面白さが宿るのだ」(本書より)  キャラクタードラマとは、「人間」を描くための手法にすぎない。現在、現実世界でも僕らはお互いに「空気」を読み合いながら、なんらかの「キャラ」として振る舞うことを要求されている。だとするなら、強固なキャラクターを中心に据えてドラマを描くことは「現在」を描くことにほかならない。  また、本書は初めてのテレビドラマが『夕餉前』というホームドラマであったことが象徴するように、極論すれば日本のテレビドラマの歴史は、実はホームドラマ(アンチ・ホームドラマ)の歴史であるという、目からうろこの事実を指摘。それを描く手法が「人間ドラマ」「トレンディドラマ」、そして「キャラクタードラマ」に変遷していったにすぎないことを丁寧に解き明かしている。  テレビドラマは、ずっと日本のお茶の間を描いてきた。かつては、それを家族で、お茶の間の食卓を囲んで眺めていた。そして現在、SNSなどにより、新たな“お茶の間”ができ上がった。よく「インターネットはテレビの敵」のような言説がある。しかし、そうではないはずだ。僕たちは、インターネットによって生まれた「バーチャルなお茶の間」で、馴染みのあるキャラクターたちを見守っている。「キャラクタードラマ」の誕生とSNSとの出会いは、そんなテレビの原風景を取り戻したのだ。 (文=てれびのスキマ<http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)

新薬開発に難病解明!? 宇宙実験室ISSの全貌『国際宇宙ステーションのすべて』

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『国際宇宙ステーションのすべて』(洋泉社)
 2013年11月、若田光一宇宙飛行士が、ソユーズ宇宙船に搭乗し、自身4度目となる宇宙空間へと飛び立った。今回のミッションは、国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在し、前半はフライトエンジニアとして、後半は日本人初のISSコマンダー(司令官)を務め、ISS全体の指揮を執る予定だ。12月24日にはロボットアームを操作して、故障中の冷却システムの機器の交換を無事完了。ISSを題材にした映画『ゼロ・グラビティ』のような危機的事態も起こらず、ミッションは順調な様子だ。  若田氏はじめ、多くの日本人宇宙飛行士が活躍するISSであるが、ISSとは一体どういう施設なのだろうか? 『国際宇宙ステーションのすべて』(洋泉社)は、ISSの概要や作業内容、宇宙飛行士の生活などを紹介したムックだ。多数の写真、図説を交え、ISSの内部外部を詳細に記している。ISSは、宇宙の微小重力環境下において、さまざまな研究・実験を行うための巨大な有人施設。大きさはちょうどサッカー場ほどで、4棟の実験棟と居住空間、2基のロボットアームを備え、地上から400km上空を時速2万7,700kmの高速で飛行している。実に90分で地球を1周する速さだ。  ISSにはロシア、アメリカ、ヨーロッパ、日本がそれぞれ実験棟を所有しているが、その中でも日本実験棟「きぼう」は最大の実験施設で、医師である古川聡宇宙飛行士などにより、特徴的な研究が数多く行われている。中でも特に力を入れているのが「タンパク質の結晶成長実験」。地上では重力の影響で歪んで生成されてしまうタンパク質だが、宇宙の無重力環境では地上ではできない高品質のタンパク質を作ることができる。結晶の質が高ければ、立体構造の細かな部分まで調べることができるため、難病の原因解明や劇的な新薬の開発が期待されている。実際に筋萎縮症の新薬もISSで開発されつつあるというから、なんともオドロキの話だ。ほかにも「宇宙放射線の研究」「キュウリの栽培実験」など、将来的に宇宙空間で生活することを想定された研究が行われている。宇宙船内に広がる一面のキュウリ畑、想像するだけでなんとも楽しい光景だ。  我々が暮らす地上でも、何気なく空を見上げると、星の間を走るISSを肉眼で見ることができる。本書で覗いたISSの内部を想像しながらの観測で、遠い宇宙空間もより一層近くに感じられることだろう。 (文=平野遼)

ハリウッド2大アクションスターが大激突! 王道のエンタテインメント大作『大脱出』

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 新しい年を迎え、フレッシュな気持ちで物事に臨みたいこの時期。そんなタイミングで気分の盛り上げに一役買ってくれる新作映画として、今週はスタローンとシュワちゃんが激突するアクション大作と、妻夫木聡扮するダメダメ広告マンの奮闘を描く爆笑コメディの2本を取り上げたい。    1月10日公開の『大脱出』は、最新のセキュリティで固められた監獄から脱出を図る男たちの姿を描くサスペンスアクション。刑務所のセキュリティを専門とするコンサルタントのブレスリン(シルベスター・スタローン)は、自ら囚人になりすまし、警備のスキを突き鮮やかに脱出してしまう“脱獄のプロ”。新たに民間運営の極秘刑務所からの脱獄という依頼を受け、巨大なハイテク監獄に収監されるが、それはブレスリンを葬り去るためのワナだった。サポートチームとの通信手段も断ち切られ、孤立無援で絶体絶命のブレスリンの前に、凶暴な囚人たちを束ねるロットマイヤー(アーノルド・シュワルツェネッガー)が現れる。  すでに『エクスペンダブルズ』シリーズで共演を果たしたスタローンとシュワルツェネッガーだが、同シリーズでは仲間同士という設定だったため、スクリーン上でタイマンのガチンコ勝負を見せるのは今作が初。ハリウッドでアクション映画史を築いてきたライバル2人の対決シーンに、長年の夢がかなったと歓喜するファンも多いはず。不屈の精神で難関を次々に突破していく爽快さに加え、大がかりな陰謀の全容、ロットマイヤーの正体と狙いなど、サスペンス要素もからめて最後までたっぷり楽しませてくれる王道のエンタテインメント大作だ。  続いて1月11日に封切られる『ジャッジ!』は、華やかな広告業界の裏側で繰り広げられるドタバタを描いたオリジナルコメディ。落ちこぼれ広告マンの太田喜一郎(妻夫木聡)は、身勝手な上司・大滝(豊川悦司)に押し付けられ、世界一のCMを決めるサンタモニカ広告祭で審査員を務めることに。現地で夜ごと開かれるパーティーに同伴者が必要なため、ギャンブル好きの同僚・ひかり(北川景子)が偽の妻として同行する。大滝から「ちくわのCMを入賞させなければクビ」と言い渡され、クセ者揃いの審査員らが駆け引きを繰り広げる審査会で四苦八苦する喜一郎だが、しぶしぶ助けてくれるひかりとの距離も次第に縮まって……。  CMディレクターの永井聡による初の長編映画監督作。脚本もCMプランナーの澤本嘉光が担当し、広告業界のリアルを知るコンビが抱腹絶倒のドタバタコメディを生み出した。妻夫木は上司の言いなりになってしまう気弱でナイーブな一面と、珍妙な言動で難局を乗り切るコミカルな要素、そしてバカ正直に広告の可能性を信じ続ける熱さを合わせ持つキャラクターを魅力的に好演。リリー・フランキー、鈴木京香、荒川良々ら個性的な共演陣に加え、竹中直人、加瀬亮、松本伊代ら大勢の豪華なワンシーン出演もしっかり笑いを誘う。小ネタを矢継ぎ早に繰り出すテンポ感はまさにCM的だが、バカバカしい笑いを積み上げつつ仕事や人生への姿勢をさりげなく問いかけてくる構成もさすが。明るく前向きな新年のスタートに、ぴったりな1本だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『大脱出』作品情報 <http://eiga.com/movie/58013/> 『ジャッジ!』作品情報 <http://eiga.com/movie/78935/>

稼いだ額は1000万円! “プロ”が語る、驚きの治験生活『職業治験』

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『職業治験』(幻冬舎)
 トータル入院数365日、採血数900回。治験だけで1000万円を稼ぎ出した、治験のプロ・八雲星次氏が日々を綴った『職業治験』(幻冬舎)が発売された。これまでに八雲氏が実験台となった新薬は、C型肝炎の新薬インターフェロン、認知症に効果的とされる薬新型麻酔薬、統合失調症の薬、体に元気がみなぎるサントリーのセサミン、果ては飲むだけで禁煙できてしまう薬まで50種類以上。しかも、日本だけにとどまらず、海外での治験にも足を延ばし、報酬をもらって海外旅行まで楽しんでいるツワモノである。  というか、治験のプロってなんだ!? そうツッコミたくなった人も多いと思うが、つまりは治験一本で“喰っている”ということ。八雲氏は大学卒業後、一部上場会社に就職するも、2カ月で退社。以来、アルバイトも一切せず、7年以上もの間、治験の報酬だけで暮らしている。八雲氏が初めて体験した治験の報酬はC型肝炎の新薬で、衣食住がすべて提供され、20泊21日で53万円! なんとウラヤマシイ……。うっかり、わたしもやってみようかなと、ふらり、ふらりと治験の道へと歩み寄りそうになる。しかし、実際に治験をすることになれば、新薬を飲んで、飲んで、飲みまくり、しかも、結果を確認するために採血の連続に違いない。採血どころか、血を見るのがダメなのでは話にならないだろう。しかも、万が一の副作用のことを考えると、すさまじい恐怖が襲う。  八雲氏も最初の頃こそ、トクホなど無難な薬の治験を探していたようだが、今では骨を折るなど珍しい治験にも参加し、この道を極めている。また、気になる入院中の生活についても詳細に書かれており、薬を飲まない日はいたって暇なようで、部屋でネットをしたり、漫画を読んだり、遊び放題。その上、食事はうな丼、澄まし汁、エビサラダ・サウザンドレッシング和え、季節の漬物、水菓子、フォンダンショコラバニラアイスクリームのフルコースなど、たいていの場合、豪華極まりない。そんな夢のような世界が、存在しているとは!  本書にはこのほかにも、入院中に行われている検査の内容、治験の裏事情、どんな人が参加しているのか、プロ治験者の将来など、治験について隅々までまとめられているので、治験に興味がある人にとってはバイブルとなるはず。  ただ、この本を読んで「オレも治験のプロを目指す!」などと言い出されては困る。多くの治験の条件は、20歳以上40歳未満。引退は早いので、どうぞご注意を。 (文=上浦未来) ●やぐも・せいじ 莫大な労力と精神力を使い就職した一部上場会社を、たった2カ月でやめる。その後、アルバイトなども一切せず、7年間治験者で生計を立て今日に至る。トータル入院数365日、採血数900回、日本だけにとどまらず海外での治験も体験。著書に、『海外クレイジー紀行』(彩図社)がある。

まるであの“戦力外通告”……? 野球マニア必読の小説『ヒーローインタビュー』

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『ヒーローインタビュー』(角川春樹事務所)
 新制度の狭間で揺れに揺れたマー君のポスティング移籍問題も実現の方向でひとまず落ち着き、ストーブリーグも一段落。これからキャンプインまでの数週間は、熱心なファンを含めたプロ野球界全体に、束の間の「オフ」が訪れる。  野球関連の話題がめっきり少なくなる、そんな「オフ」にこそ、ぜひとも読んでほしい激アツな一冊が、今回ご紹介する単行本『ヒーローインタビュー』(角川春樹事務所)。2000年のドラフト8位で阪神に入団した仁藤全なる無名の2軍選手を主人公にした、77年生まれの若き女性作家・坂井希久子氏の手による入魂の一冊だ。  まずもって、高校通算42本塁打の逸材でありながら、最後の夏を前にした“ある出来事”のせいでドラフトでは下位指名に甘んじたという主人公の持つバックボーンが絶妙だし、1軍の試合にはたった171試合しか出ていないのに、なぜか10年間も在籍していたなどというワケあり感もまた、野球好きにはグッとくる。  野球選手としては一度もお立ち台に上がることのなかったガッツリ二流な彼の軌跡を、本人がひそかに好意を寄せる理髪店の女性店主、担当スカウト、同じチームの若きエース、ライバル球団のベテラン左腕(モデルはあの山本昌!)、高校の同級生などなど本人以外の関係者たちへの“インタビュー”を元にたどっていく……となれば、ヒガシのナレーションでおなじみの『プロ野球戦力外通告』(TBS系)のような番組が大好物な人にとっては、まさしくドストライクといっても過言ではないだろう。  阪神のホームタウンである、兵庫県の西宮・尼崎周辺を舞台にしているだけに、登場人物のほとんどがコッテコテの関西弁なのは、多少読む人を選ぶきらいはあるも、たとえ“虎キチ”でなくとも、野球の面白さを多少なりとも分かってさえいれば、楽しめることは請け合い。たったひとつのプレーで球場全体をひとつにしてしまうほどの、野球ならではのあの“感動”を一度でも味わったことがある人なら、クライマックスに待つ“奇跡”には思わずゾクゾクしてしまうに違いない。  というわけで、この冬は、1球団70人という支配下登録枠の上限によって、有名・無名を問わず毎年100人近い選手たちがユニフォームを脱ぐことになるプロ野球の厳しき現実……その大多数を占める無名選手の、ニュースの活字にすればわずか数行でコト足りてしまう儚い野球人生に思いを馳せつつ、二流の“ヒーロー”が織り成す人間ドラマにどっぷり浸かってみることをオススメしたい。  ちなみに、ここまで読んで「あれ、そんな選手いたっけな?」と首をかしげている読者もいるはずだ。かく言う筆者も、ついついウィキペディアで検索してしまったクチだが、阪神タイガースに仁藤全などという選手がいた記録はもちろんないし、クライマックスで描かれる、00年シーズンにおける阪神vs中日の劇的すぎる首位攻防三連戦も真っ赤なウソ。ゲーム差こそ記録に忠実だが、そこまでドラマティックな直接対決は実際には起きていない。  そういった虚実をないまぜにした構成もまた、小説ならではの醍醐味。ことスポーツの分野では「事実は小説よりも奇なり」なことが多いが、本書はそれに当てはまらない希有な良書と言っていいだろう。  なお、同じ野球モノ、同じくサエない2軍選手を主人公にした、真田広之&鈴木保奈美主演のトレンディな同名映画も存在するが、当然ながら本書とはなんの関係もない。

日本最大級の過ち「ハンセン病」隔離政策の実態を伝えるミステリー『蛍の森』

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『蛍の森』(新潮社)
 ハンセン病――。それは、らい菌という細菌が原因の感染症で、体の末梢神経が麻痺したり、重症化すると、体が変形していく病。しかし、衛生状態や栄養状態のよい現代の日本では、ほとんど発病することはなく、感染する可能性は限りなくゼロに近い。  日本国家は、かつてハンセン病患者に対し、とんでもない過ちを犯した。明治時代、諸外国から、文明国としてハンセン病患者を放置するべきではない、と非難を浴びると、患者を一般社会から隔離させた。1931年には「らい予防法」という法律を成立させ、警察や保健所がハンセン病患者を見つけると、強制的に療養所へ送り込んだ。これらの一連の働きかけにより、国民は“危険な伝染病”と誤認。ひとたび病気にかかれば、本人はもちろん、家族を巻き込んで村八分にされ、最後には家族にも見放され、孤独に死んでいく、という壮絶な人生を送らざるを得なくなった。  今回紹介する『蛍の森』(新潮社)は、これまでノンフィクション作家として活躍してきた石井光太氏による、初のフィクションだ。「小説新潮」内で2年間連載していた原稿をまとめたもので、テーマは“ハンセン病患者の遍路”である。  四国八十八か所を巡礼するお遍路さんのことは、誰でも知っているだろう。では、“へんど”という言葉は知っているだろうか? この言葉は、乞食やハンセン病患者の遍路を指す蔑んだ呼び方で、彼らは一般的な遍路道ではなく、人目につかない密林に自分たちだけの遍路道を作り、ひっそりと隠れて八十八か所を回った。しかし、彼らの遍路に終わりなどなく、死ぬまで神にすがるような必死の思いで歩き続けたのだ。  石井氏は、大学時代に彼らの存在を知り、足かけ10年以上にわたり、遍路経験を持つハンセン病患者に会いに出かけた。本書は、彼らの話や海外の類似ケースなどをベースに、ハンセン病患者たちが集う香川県高松市の密林で起きた60年前の出来事と、現代の老人3人の謎の失踪事件が交差していくミステリーに仕上げている。  この物語のどこまでがノンフィクションで、どこからがフィクションなのかはわからない。けれど、すさまじいまでのリアリティが伝わってくる。 「らいになるってことは、人間として認めてもらえなくなるってことなんだよ。家になんて帰れるはずがねえだろ!」 「生きちゃいけなかったのよ。らい病者っていうのは、この世でのうのうと生きてちゃいけない存在なの。山の中にこもって誰の目にも触れず、最後まで無心で巡礼をしていればいいんだわ」  登場人物から吐き出される言葉は、どれも鋭く心を突き刺す。また、あるハンセン病患者が山から下りて姿を現した時のこと。村人がわらわらと集まり、寄ってたかって暴行を続け、羽交い絞めにして木の棒を目に突き立てた。眼球が垂れ下がり、地べたにはいつくばって苦しむ姿を見て、村人だけでなく、警察官までもが手を叩いて笑っていた……といった残酷な描写は、正直、読んでいて何度も気持ち悪くなる。と同時に、もっと読みたい、という思いが込み上げ、400ページを超える超大作にもかかわらず、最後の1行まで、あっという間に読み切ってしまった。  なぜ、フィクションにしたのか――。最初に疑問が浮かんだが、読み終えて理解した。これは、ノンフィクションにはできない。「らい予防法」が廃止されたのは1996年。まだ20年もたっていない。今も、この平和な日本で、差別の恐怖におののき、一般社会へと出られない人が存在しているのだから。 (文=上浦未来) ●いしい・こうた 1977年、東京生まれ。国内外の貧困、医療、戦争などをテーマに取材、執筆活動を行っている。『物乞う仏陀』(文藝春秋)、『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『レンタルチャイルド』『遺体』(新潮社)、『地を這う祈り』(徳間書店)、『ルポ 餓死現場で生きる』(ちくま新書など著書多数。

やっぱり“アノ国”とは永遠に分かり合えない!? 『呆韓論』が暗示する日韓関係の行方

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『呆韓論』(産経新聞出版)
 『呆韓論』というタイトルに、「エキセントリックだ」という否定的な声も上がっているが、米「Newsweek」誌に「暴走する韓国 その不可解な思考回路 竹島をめぐる常軌を逸した行動と粘着外交」と題した号があったように、決して悪意あるタイトルではない。  そんな呆韓論というワードだが、初めて目にする人も多いはず。一方で、「嫌韓」ならば聞いたことはあるだろう。嫌韓、つまり韓国を嫌っている日本人は、2011年を境に圧倒的に増えたといわれている。それを裏付けるように、韓国批判がテーマの新書はたちまち増刷され、ネット上でも韓国に疑問を呈するようなトピックスのアクセス数は軒並み高く、SNSなどにもすぐさま波及する。その嫌韓の理由を「週刊SPA!」(扶桑社)は、【1)国民性(スポーツの国際試合で不正を省みず勝利にこだわる態度など)が嫌い:35.2% 2)反日だから:32.1% 3)領土問題:13.0%】と、アンケート結果を記す。  呆韓は、嫌韓を通り越し、「(韓国に)あまりにも呆れることが多い」と感じた著者が作り出した“新語”である。  韓国側からすれば「ステレオタイプな呆韓論」のようだが、著者のイデオロギーやプロパガンダから構成されているのではなく、見てきたものが率直に描かれている。それだけに、元航空幕僚長の田母神俊雄氏が言うように「(この本を読んで)韓国とは上手くやれると思っていた私の淡い思いを粉々に壊してくれた。韓国との良好な関係を築くことは並大抵の努力では実現しないことを思い知らされた」(「MSN産経ニュース」より)。  だからこそ、政治の役目は重要になってくる。  とある在日のサッカー選手は、酒の席でこんな話をしてくれた。 「僕も若い時は、日本人が大嫌いでした。学生の時に、トレセン(有能な学生のサッカー選手を集めてサッカー協会が指導を行う場)に行っても、日本人としゃべらなかった。日本人なんか、って思っていました。けれど、Jリーグに入って、いろいろな方々と関わる中で、『あぁ、俺は差別されていたんじゃない。俺が差別していたんだ』って思ったんです。そこから、いろいろな人たちの話を聞くようになりました。今は日本人とか、肌の色や文化の違いで人を見ません。日本に尊敬する人もいっぱいいます。そういうのを母国でも伝えたいですよね」  本書は、個々がなんとなく持っている嫌韓を確固たるものにする。だが、ここで韓国を突き放してしまうと、上述したサッカー選手が言うような友好関係が日韓に生まれることはない。  いま求められるのは、日本の政治家が、韓国の政治家と侃々諤諤と意見を戦わせられるようにすることではないか。韓国併合・強制連行論争などについて謝罪するというスタンスは、日本の政治家には許されていない空気がある。また、日本統治時代の朝鮮を肯定する韓国人の老人が実在するという事実も公には語れない。もし、そのような指摘をすれば、韓国の妄言コールを受け、それに呼応した日本のマスメディアと野党により、日本国内でも窮地に立たされる。ゆえに、歴史問題を政治的に利用されるばかりだ。外交に勝利はないという言葉がある一方で、敗北はある。いつまでも反日攻勢を受けてばかりでは、何も変わらない。  本書の帯には「これでもまだあの国につき合いますか?」とあるが、その言葉は日本国民ではなく、日本の政治家や大手マスメディアにこそかみしめてほしい。 (文=FBRJ_JP編集部)

【新春特別企画】2014年前半のヒット映画はこれだ!

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 毎週、最新映画を紹介している当コーナー。今回は新春特別企画として、2014年前半にヒットが期待されるオススメ映画を3本取り上げたい。  まず1本目は、レオナルド・ディカプリオとマーティン・スコセッシ監督が5度目のタッグを組み、実在する株式ブローカーの“ヤバすぎる人生”を描いた『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(1月31日公開)。22歳でウォール街の投資銀行へ飛び込んだジョーダン・ベルフォート(ディカプリオ)は、学歴もコネも経験もなかったが、斬新な発想と巧みな話術でたちまち成り上がる。26歳で証券会社を設立して年収4900万ドルを稼ぎ、さらに常識を超えた金遣いで世間の度肝を抜いたジョーダンだが、ダイナミックな成功と同じくらい、センセーショナルな破滅をたどることになる……。『アビエイター』(04)や『華麗なるギャツビー』(13)など、問題を抱えた成金役がよく似合うディカプリオが、本作でもスコセッシの演出のもとノリノリで熱演。公開前から米メディアで大絶賛され、アカデミー賞前哨戦のゴールデン・グローブ賞に作品賞・主演男優賞でノミネートされており、日本でも大いに話題を呼ぶのは確実だ。  続く『スノーピアサー』(2月7日公開)は、『グエムル 漢江の怪物』(06)ほかで知られる韓国の鬼才ポン・ジュノが、欧米のキャストを招いて描く、近未来SFエンタテインメント。2014年、地球温暖化を防止するため、各国の上空で薬品を散布したことで、地球上は逆に寒冷化してしまい氷河期を迎える。それから17年後、わずかな生存者らは「スノーピアサー」と呼ばれる列車の中で暮らし、地上を移動し続けていた。列車の前方では一握りの上流階級が贅沢な生活を送る一方、後方車両には貧しい人々が劣悪な環境に押し込められていた。最後尾車両で革命の時機を待っていたカーティス(クリス・エバンス)はある日、仲間と決起して前方車両を目指すが……。フランスのグラフィックノベルが原作で、ポン・ジュノ監督にとっては初の英語作品。エド・ハリス、ティルダ・スウィントンらハリウッドスターの出演も話題で、弾丸列車という閉環境の中でダイナミックに展開する下克上のドラマとアクションが斬新だ。  邦画からは敢えてR18+指定のキワどい作品、人気劇作家・三浦大輔が自作戯曲を映画化した『愛の渦』(3月1日公開)を紹介しよう。六本木の高級マンション内にある裏風俗店で開かれる乱交パーティーに、ある夜集まった男女8人。セックスがしたくてたまらない人々が、ぎこちない会話で交渉と駆け引きをしながら、行為に至る。相手を替えて2回戦を終えるころ、次第に嫉妬や本音が露わになって……。主演を『横道世之介』(13)、『上京ものがたり』(同)などで注目の新進俳優・池松壮亮が務め、“地味な容姿だが、誰よりも性欲が強い”ヒロインを門脇麦が体当たりで挑んだ。本編123分のうち着衣時間はわずかに18分半という、日本映画史上“最もハダカ”な一夜の人間模様を描いた本作は、今年上半期における屈指の問題作として論議を呼び、R18+映画にしては異例のヒットにつながるかもしれない。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ウルフ・オブ・ウォールストリート』作品情報 <http://eiga.com/movie/78790/> 『スノーピアサー』作品情報 <http://eiga.com/movie/78218/> 『愛の渦』作品情報 <http://eiga.com/movie/78969/>