山口組分裂を予告していた引退組長たち――話題の書『血別』に見る7年前のクーデター未遂の反省とは?

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『血別 山口組百年の孤独』(サイゾー)
『血別――山口組百年の孤独』(太田守正著/サイゾー刊)を手にしたのが8月中旬、7月からの暑さに身体がこたえる真夏だった。そして当の山口組の分裂を耳にしたのは同書を読み終え、興味を惹かれたページをめくり返している8月下旬だった。  元山口組直参の侠客・太田守正氏が記していた六代目山口組の矛盾、すなわち本部による物販や人事問題などが噴出する形で、すでに離脱(処分)者たちは神戸山口組という新組織を結成したという。ただし、山一抗争の時のような流血の抗争となっていないのは、暴対法などの法整備がすすんだ甲斐もあってか、さいわいなことだ。  六代目山口組の主流派・弘道会と反主流派となった山健組・宅見組の内部対立は、太田氏が批判した『鎮魂』(盛力健児著、宝島社刊)にもすでに明らかで、やはり派閥対立が解消しないまま、ここに立ち至ったのであろう。その意味では太田氏と盛力氏の本は分裂を予告し、導火線になったかのような印象である。  いっぽう、ただちに抗争が起きなかった事実とあわせて、今回の分裂劇がほとんど事前に漏れなかったという驚くべき事実である。おそらく離脱者たちの計画のうちに分裂劇は行なわれ、大量処分を生んだ7年前のクーデター未遂の反省のうえに、用意周到に行われたからであろう。ヤクザも学習能力・反省能力があるというわけだ。  その反省という意味では、盛力氏の先行書よりも、太田氏のほうが数等すぐれている。ヤクザの精神年齢は親分と呼ばれる人ほど無邪気で、たいがいにして悪ガキの気分を残したままだが、太田氏のそれは老成しない無邪気さを残したまま、だからこそ失敗や難事にも清新に向き合うところに共感が抱ける。盛力氏の自己を省みない態度、鼻につく自慢げな言説とは好対照だ。われわれ堅気の者が訊いてみたいのは、ヤクザの反省や経験に裏うちされた、年輪と風格のある言説なのである。  それにしても今後、六代目山口組と神戸山口組が相互に存在を認め合うのか、認め合わないまでも抗争に至らなければ、暴力団抗争史に新たな一ページを刻印することになるかもしれない。いったん流血の抗争になれば、抗争を暴力団の組織的な業務とみなす判例があるので、いまや民法の使用者責任で組長が逮捕・訴追される。銀行口座や保険、ゴルフ場にも入れない、いわば身分差別の暴対法のもとで、新しいスタイルの組織運営がなされるのであれば、それはとても物悲しく、しかし本来の任侠的共同体の姿を宿しているのかもしれない。  利益共同体ではない、相互扶助と親和的な共同体、そして擬似家族的な血の結束である。太田氏がいう「血別」とは、それでは彼の絶望だったのだろうか。いや、われわれは血の別れの向うにある、あたらしい共同体のあり方を知りたいのである。 (文=高輪茂/作家) ※太田守正氏のインタビューはこちら http://www.cyzo.com/2015/08/post_23441.html

パクリ度ゼロ! デザイン業界激震の独創的すぎるファッションマンガ『こっとん鉄丸』

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『こっとん鉄丸』(あおきてつお/小学館)
 東京五輪のエンブレム騒動以来、いろいろと激震が走っているデザイン業界。“この素晴らしいアートも、実はパクリなんじゃないか”と疑心暗鬼になる、悲しい風潮になってきちゃっていますよね。  とりわけファッション・アパレル業界では、そういうパクッたパクられたのトラブルは顕著のようで、どこぞのファストファッションブランドがシャネルをパクッただの、エルメスとそっくりだの、ボタンの数が違うだけだの、そっくりなようだけど素材が違うから別物だのと複雑怪奇な様相を呈しています。  しかし、今回ご紹介する『こっとん鉄丸』では、まったくその心配がありません! どう考えても完全オリジナル、独創的すぎてドン引き! 誰もパクろうとする気すら起こらないレベルに達しているデザインが次から次へと飛び出してきます。パクッて当たり前の今の時代に強烈なメッセージを投げつけてくる、オリジナリティあふれるマンガなのです。 『こっとん鉄丸』は1987年から「週刊少年サンデー」(小学館)で連載された、少年誌としては珍しいファッションデザイナーマンガです。一見、少年マンガでファッションを語られてもあまりニーズがなさそうですが、バトルの要素を巧みに取り入れ、しっかり少年マンガとして成立させています。  主人公の山田鉄丸は、世界一のファッションデザイナーを目指す少年。原宿を舞台に、いろんな有名ショップや悪徳デザイナーに難癖をつけてファッション勝負を挑みます。他人様のファッションに文句をつけて勝負を挑むぐらいですから、主人公の鉄丸は相当なファッションセンスを持っているに違いありません。いったいどんなおしゃれボーイが主人公なのか?  鉄丸のファッションは、スウェットに横並びにプリントされた巨大な2つのチェック柄の胸ポケット。ズボンにも胸ポケットと同様のチェック柄の巨大膝パットがあてがわれ、ズボンの裾はしっかりとソックスの中にインしているという、独創的すぎる服装。こんなの、パリコレでも見たことありません。  オシャレなのかダサいのか判断がつかない(というか、世間一般的な感覚だと超ダサい)謎ファッションに身を包んだ鉄丸が、原宿で大暴れ。道行く原宿の若者のファッションに、いきなりイチャもんをつけ始めます。 鉄丸「ははーん。これからナンパしに行くんだね?」 若者「そんなの、お前の知ったことかよ!」 鉄丸「ぷぷぷっ! 悪いけどそのまんまじゃ、誰も寄ってこないかもね」  初対面なのに失敬すぎるセリフを放ちつつ、いきなり若者のコーディネートをし始める鉄丸。 鉄丸「ほいっ、できあがり!!」 …じゃじゃーん 鉄丸「ジーンズのすそは絶対ロールアップしたほうがいいよ!」 若者の友達「へーっ! なかなかいいじゃん。カッコよくなったぜ!」 若者「そ、そうか…」  鉄丸のドヤ顔で繰り出されるファッションアドバイス。確かに、ファッションのトレンドは時代とともに変わるもの。今まさに2015年、一回りしてロールアップがカッコいい時代が来つつあります。でもそれを踏まえた上でも、やっぱり全体としては実に微妙な感じに仕上がっております。これはパクれない!  さらに、このマンガはお役立ちファッションマンガ的な側面があり、鉄丸のファッションアドバイスコーナーがちょいちょい挟まれています。参考のために、いくつかご紹介しましょう。 ・国旗のプリントが今年のトレンド ・麻のジャケットはツータックのチノパンと合わせるのがオシャレ ・素足にスニーカーを履くことを強く推奨 ・いつもの服に「ワッペン」をつけるだけでオシャレ服に  などなど、さらに解けにくい靴ひもの通し方、モテるネクタイの結び方、デニムの色の落とし方、靴を買ったらまず防水スプレーをしろ、いま持っている服のボタンを付け替えるだけで途端にオシャレに、等々の明日から使える実践的アドバイスてんこ盛り。実践的なのに、なぜか真似したくないオシャレアドバイスが満載です。  ファッションバトルのハイライトはなんといっても、「ルフォーレ原宿」のショップ出店権をかけて有名ブランド「ヒューマンズ」とジャケット対決をするストーリー。それぞれのブランドのジャケット100着を先に完売したほうが勝ちという単純明快なルールとなっています。  鉄丸と敵対する有名ブランドのパーソ……もといヒューマンズは、ソ連からの直送ルートで格安の麻を手に入れ、普通なら4万円は下らないジャケットを1万5,000円で売るという戦略です。そう、価格のリーズナブルさも勝負のポイントなのです。  一方、鉄丸は麻のコストに頭を悩ませます。そこに妙案が!「コーヒーの麻袋を使えば、タダ同然じゃないか!」えー! 何言ってんの、コイツ?  しかも、麻袋にプリントされたコーヒーのロゴをデザインとしてそのまま利用。 「このスタンプって世界各地のものでしょ? 見てるだけでも夢があるじゃない?」  どう考えても間違った方向のポジティブさで、トントン拍子に話が進んでいきます。 そして、最後はボタンの選定です。コーヒーの麻袋にベストマッチなラフなボタンとは……? 「これだぁ、これだよ!」 なんと、コカ・コーラのフタをボタンにする鉄丸。いや、それはさすがにラフすぎでは? あまりにも貧乏くさ…… 「遊び心満点ね!」 ……ものすごいポジティブさで、ついに鉄丸の麻ジャケットが完成しました。コーヒー豆の麻袋のジャケットにコーラのフタのボタン。そして、着心地を重視して虫取り網の網を裏地に使うというナイス工夫! これでなんと1,000円という、GUもビックリの低価格を実現! ヒューマンズの1万5,000円に対し、1,000円。価格差が歴然すぎます。しかも、センスには定評のある鉄丸デザイン。ジャケット勝負は(デザインではなく)圧倒的価格差で、見事鉄丸が勝利したのでした。  そのほかの対決も、鉄丸の先鋭的すぎるデザインにより負け知らず。さすが世界一のファッションデザイナーを目指すだけのことはあります。  そんなわけで、ユニクロもギャップもしまむらもブッ飛ぶ、超ファッショナブルなマンガ『こっとん鉄丸』。みなさんもぜひ本書を読んで、モテるファッションのコツをマスターしてください。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

マーベルから世界最小のヒーローが登場! 今週末公開の映画『アントマン』『恋人まで1%』

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 今週取り上げる最新映画は、主人公が蟻サイズに小型化して悪と戦うヒーローアクションと、恋人同士になりきれないアラサー男女が織りなす恋愛模様を描くラブコメ。どちらも魅力的なキャストと、ふんだんに盛り込まれた笑いで気軽に観賞できる娯楽作だ(いずれも9月19日公開)。  『アントマン』は、『アベンジャーズ』シリーズなどでスーパーヒーローを輩出するマーベルスタジオ作品の中でも、体長1.5センチという極小のヒーローが活躍する異色のアクション大作。前科者のスコット(ポール・ラッド)は、仕事が長続きせず前妻から非難され、養育費が払えないため最愛の娘にも会わせてもらえない。かつての刑務所仲間にそそのかされ、豪邸に盗みに入るも、手にしたのは奇妙なスーツとヘルメットだけ。だがそのスーツを着込むと、体がわずか1.5センチに縮んでしまう。さらにスコットは、豪邸の主で特殊スーツを開発した天才科学者ピム(マイケル・ダグラス)から、スーツを着て特殊な能力を駆使する「アントマン」になり世界を救うミッションを託される。  当初は『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(2014年)のエドガー・ライトによる監督・脚本で進んでいたプロジェクトだが、マーベルとの見解の相違により残念ながら監督は降板。後任を『イエスマン “YES”は人生のパスワード』(09年)のペイトン・リードが務めた。見慣れた家具やオモチャがアントマン視点で巨大に見えたり、小さな空間でのダイナミックなアクションが人間視点だとショボかったりと、サイズ違いのギャップを巧みにスペクタクルや笑いに転換。ヘタレ感漂うバツイチ男が請われてアントマンになる過程も、従来のマーベルヒーローとは一味違って親近感がわく。ピムの娘ホープに扮するエバンジェリン・リリーは、リブ・タイラー似の美貌とハードなアクションで魅せる。マーベル映画のお約束、エンディング後に次回作の展開をほのめかすシーンまで、どうぞお見逃しなく。 『恋人まで1%』は、のザック・エフロンと『ニード・フォー・スピード』(14年)のイモージェン・プーツ共演でアラサー男女のリアルな恋愛を描くラブコメディ。ニューヨークでデザイナーとして働く青年ジェイソン(エフロン)は、真剣な恋人を作らず、親友らとクラブでナンパしたり、セフレを呼び出したりして気楽に暮らしていた。仲間と「恋人を作らず独身でいよう」と誓い合った矢先、ジェイソンはバーで出会ったエリー(プーツ)と意気投合し、本気で彼女に惹かれてしまう。  監督・脚本は本作でデビューを飾ったトム・ゴーミカン。脚本に惚れ込んだエフロンが初のプロデュースも務め、全裸で便器の上に横たわるなどノリノリで主人公を演じた。過去の出演作ではシリアスな役が多かったプーツは、キュートでファニーな魅力が全開。都合のいい関係を望む男性陣の恋愛観、結婚観が少々幼稚な感じもするが、そこから失敗や挫折を経て成長する姿は共感を呼びそう。原題『That Awkward Moment』が意味する「気まずい瞬間」を含め、男女の関わりの中で思い当たることの多いさまざまな場面が、高揚感、切なさ、後悔、希望といった感情を喚起し、笑いと涙の先に人生の教訓をさりげなく伝えてくれる。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『アントマン』作品情報 <http://eiga.com/movie/82138/> 『恋人まで1%』作品情報 <http://eiga.com/movie/79887/>

子を殺すか自分が死ぬか――知られざる精神障害者家族の実態『「子供を殺してください」という親たち』

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『「子供を殺してください」という親たち』(新潮文庫)
 7月15日にTBSで放送された『水トク!「THE説得」』。精神障害者とその家族を特集したこの番組では、統合失調症や引きこもり、家庭内暴力など、精神的に問題を抱える人々が次々に登場した。  その多くが、20代から40代にかけての大人だ。彼らは、社会にうまく溶け込めず、家族とも長い間、関係を作れないままだ。  しかし、そこには我が子を想う親の「なんとかしなければならない」という言葉はなく、ただただ「子供と絶縁したい」と考える親たちが大勢映し出されていた。  この番組に登場するトキワ精神保健事務所の押川剛。精神障害者を抱えた家庭からの要請で、障害者本人と向かい合って説得し、病棟への移送を承諾させる、説得のスペシャリスト。そんな彼が記したのが『「子供を殺してください」という親たち』(新潮文庫)である。  本書は、精神障害者を説得し、当該の施設にまで運ぶ「精神障害者移送サービス」に携わる著者による体験談と、精神保健福祉への問題提起がテーマとなっている。ゴミ屋敷となった家で初老の母親を奴隷のようにして生活する女性、交際していた女性と破局してしまったことが原因で家庭内暴力を振るうようになってしまった男性、親の金を無心し続ける40代の男性など、様々な障害者が登場する。 「精神障害者移送サービス」というのは、自分に病識(自身が病気であること)がない精神障害者を家族や親類に代わって病棟まで移送する仕事で、古くは警備会社やタクシー会社がその業務も行っていたという。多くの場合、精神障害者は、人として扱われることはなく、両脇を締め上げられて連れて行かれたり、す巻きのようにして身動きの取れないまま車に放り込まれたりしていたという。  結果、本人たちは家族を逆恨みして、ある日施設から脱走したと思ったら家族全員を殺してしまったりなど、重大な刑事事件に発展するケースが絶えなかった。  そんな状況を見かねて1996年に押川氏は、精神障害者移送サービス「トキワ警備」をスタートさせ、続けて精神障害者の社会復帰を目指す事業「本気塾」を開く。  ところが、そこからが苦難の連続だった。患者たちは身勝手に放浪したり、目の届かない場所で第三者を巻き込んだ事件を起こしかねないため、集団で就業でき、かつ送り迎えが可能な職場を探さねばならない。押川氏の元に集まったスタッフと共に、塾生の社会復帰のため、毎日電話をかける日々が続く。やっとの思いで見つけた職場でも、理解を示してくれた職場の先輩を殴る事件を起こしてしまう塾生もいた。  なぜ押川氏は、そこまで彼ら「精神障害者」に根気よく関わっているのか? それは、病棟に隔離された障害者たちと心を通わせた経験があるからだという。押川氏が中学生だった当時、通学路に隔離病棟があった。それは今ほど厳重に囲われていたわけではなく、怖いもの見たさから、その小さな窓から交流を始めた。入院患者のほとんどは自分の父親と同じくらいの年齢で、彼らから「坊主」と呼ばれ、たばこや食べ物の使いっ走りをして交流を深めた。  押川氏が地元を離れて上京する時には、塀の中の障害者たちは涙を流して悲しんでくれた。以来、家族から、拒絶され一人で死んでいく障害者と、慈愛ともいえる思いで接している。  一方で、精神保健福祉の現状を記しており、障害者のケアよりも利益を優先させる業界の空気を強く糾弾している。多くの病院は3カ月経過すると半強制的に退院させ、ベッドの回転率を上げることで利益を生み出す。そういった病院は儲かるが、ちゃんとした治療は行われることはない。利益度外視で運営する病院は、設備も古い中で、困窮しながら運営しているという。  一度退院してしまうと、再度受け入れ先を探すことも困難になってしまう。問題を起こした障害者のブラックリストを、病院同士が共有しているためだ。そして、また家族が苦しむ日々に逆戻りとなってしまう。  障害を持つ子どもばかりに問題があると考えがちだが、子供がそうなってしまった原因は、ほとんどの場合親にあると押川氏は断言する。障害を持つ子供と共依存してしまって、自身に原因があるとは全く気づかない母親や、子供に対して無関心で形だけの相談をし、あとは子供が死ぬのを待つだけという金持ちの親、子供に障害があるということを認めなくないからと、押川氏を逆恨みする親。  そんな身勝手な親からこそ、「子供を殺してください」という言葉が吐き出されるのだ。それは「懇願」だと押川氏は明かす。それでも彼は、そんな親子のために活動を続ける。

色眼鏡を取り除く“反原発抗議行動”ドキュメンタリー『首相官邸の前で』

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 9月2日、東日本大震災に端を発して始まった首相官邸前での一連の抗議行動がテーマのドキュメンタリー『首相官邸の前で』が、渋谷区にあるアップリンクで先行上映された。  本作は、慶應義塾大学教授で歴史社会学者の小熊英二が初監督したドキュメンタリー作品。2012年の首相官邸前の脱原発抗議行動を中心に、当事者たちのインタビューと、市民が撮影したさまざまな映像で構成された作品だ。  これまで筆者は、幾度も首相官邸前や国会前を取材で訪れてきた。しかし、大勢の人々が参加する一連のデモは、自分の周囲であった体験でしか語ることができない。  ところが、この作品は、さまざまな人物のインタビューに市民が撮影した映像(ネット上に公開されていたものを許諾を得て使用)を加えることによって、首相官邸前で何が起こってきたのかを1時間50分あまりの中で体験することができるのだ。
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 これは、歴史社会学者の監督だからこそ作り得た映像であり、20年後、あるいは50年後といった後世に残す歴史資料になっているのである。  今回の先行上映に駆けつけた大きな理由は、筆者の仕事仲間である石崎俊一が本作の撮影と編集を担当しているからにほかならない。『渋谷ブランニューデイズ』(監督/遠藤大輔)、『こどもこそミライ まだ見ぬ保育の世界』(監督/筒井勝彦)と、これまでもアップリンクで劇場公開され、話題を呼んだ異色のドキュメンタリー作品の撮影班に参加してきた石崎は、新人監督である小熊英二と2人で、この作品を完成させた。石崎は本作のほかにも、子どもの保育をテーマにした今秋公開の長編ドキュメンタリー映画『子どもは風をえがく』(監督/筒井勝彦)の撮影も担当している。  小熊英二といえば、上下巻あわせて2,000ページ以上もある、角川財団学芸賞を受賞した主著『1968』(新曜社)をはじめ、多くの著書が名だたる賞を受賞してきただけに、それらの著書から受ける重厚なイメージや、近年の脱原発デモなどでのスピーチから感じた近寄りがたい印象もあり、少なからず距離感を感じていたのだが、それらはすべて杞憂に終わった。  上映の1時間ほど前、アップリンクのカフェで石崎と合流した。小熊監督の所在を聞けば、この日は先行上映ということもあって分刻みの取材スケジュールをこなしているという。首相官邸前という話題のキーワードをタイトルに冠した作品の注目度に感嘆しつつ、まずは昨年の6月以来、1年以上にわたって小熊監督の下で共同作業をやってきた石崎に話を聞くことにした。
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 石崎は、自身もドキュメンタリー作品の撮影や編集を担当してきた、駆け出しの映像制作者である。小熊監督は社会学においては大家であっても、映像制作となると未知の分野。そんな人物との共同作業は大変だったのではないかと感じたのだが、「正直いって、普段の仕事とは勝手が違ったのは確かですね」とは話しつつも、石崎からは何ひとつ苦労話を聞くことはなかった。 「小熊さんの本を読んでいたこともあって、歴史社会学者の小熊さんが映画という限られた時間の中で、どのようにあそこで起きたことをまとめるのかに興味があった」と小熊監督との仕事を振り返った。  昨年10月に出来上がった粗編は7時間あまり。当然、約1時間49分の作品として仕上げるのは容易な作業ではない。小熊監督とは頻繁に連絡を取り、構成や編集の試行錯誤を重ねた。その後、最終仕上げの段階では小熊監督の自宅で編集を行い、作業の合間には小熊監督の手料理も振る舞われたという。  そんな話をしていると、大手メディアの取材を終えた小熊監督が姿を現した。挨拶の後、そこで筆者は「作業中の食事は出前とかお弁当ではなく、小熊監督の手料理だったのですか?」と話を切り出した。すると、小熊監督は丁寧な口調で、「何も特別なことではありませんよ。いつも自宅にいるときは、自分でつくっているので……」と、物静かに語ってくれた。  その発言には、脱原発デモの演説で感じた敷居の高さは、みじんも感じられなかった。それどころか、石崎との共同作業が大した問題もなく進んだことへの感謝を述べつつ、作品についても謙虚な姿勢で説明をするばかり。 「政治的な映画というわけではなく、アート映画として観てもいいと思います」
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 その真摯な態度は、上映後のトークイベントでもなんら変わることがなかった。そう、この丁寧で控えめな態度こそが、小熊英二の素顔だったのである。  トークイベントのゲストとして登壇したのは、昨今の安保法案の問題で注目を集めているSEALDsの奥田愛基・梅田美奈の2人。首相官邸前の脱原発デモに参加した当初は、デモの知識などまったくなかったという奥田は「社会の根幹が壊れかかっている。こういう時には、何が起こるかわからない」と、自らの体験から得た社会情勢についての見解を述べた。  一方、震災前からいわゆる“高円寺系”の運動に興味を持っていたという梅田は、自らも学業とアルバイトという生活に追われる中でさまざまなプラカードをデザインするなど、とにかく自分にできることをやっていると発言。さらに奥田は「交通費がなく、会議を休むメンバーもいる」と、学生が行動することそのものが困難な社会構造が生まれているとも語った。  こうしたゲストの発言を踏まえて、小熊監督が丁寧に補足する姿は実に印象的であった。  トーク中、梅田が高円寺の「素人の乱」に触れていたため、イベント終了後の奥田に声をかけて少しばかり立ち話をした。筆者は自己紹介を兼ねて、“高円寺系”の中心的人物でもあるリサイクルショップ「素人の乱」店主の松本哉とは、彼が貧乏人大反乱集団を立ち上げた頃からの付き合いであることを告げたのだった。かつて筆者は松本をモデルとした劇場公開作『おやすみアンモナイト』(監督/増田俊樹)の脚本を執筆し、今月中旬に上梓される単著『コミックばかり読まないで』(イースト・プレス)の本文でも、松本と活動を共にした時代の経緯を鮮明に伝えている。そんな、中年に差しかかろうとしている筆者の思い出話に対しても「すごいですね」と奥田は笑ってくれ、爽やかな表情を見せてくれたのだった。
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 そんな彼らの行動に思いを巡らせているうちに、六本木ヒルズ粉砕を掲げてクリスマスの六本木ヒルズを混乱に陥れたり、新宿の駅前で鍋を囲むことを「闘争」だと称して日々活動していた頃の、懐かしい記憶が走馬灯のように甦ってきた。  そうしてあらためて考えた。筆者の生業はルポライターである。野良犬のごとき直感と若々しい感性で行動して思考する生き物である。しかし、筆者は彼らのネガティブな側面、すなわち「護憲」や「民主主義」を旗印に掲げる主張の甘さや、警察権力との対峙よりも「場の維持」を重視しているといったことばかりに耳を傾け、彼らの生の声を聞く機会を逸していた……。  この『首相官邸の前で』は、上映後にゲストや観客同士が映画の内容などについて話し合う、トークシェアという時間を設けている。本編とトークシェアの体験を経て、私を取り巻く偏見という色眼鏡を確かに取り外してくれたのであった。 (取材・文=昼間たかし『首相官邸の前で』公式サイト http://www.uplink.co.jp/kanteimae/ 渋谷アップリンクにて、9月19日(土)より連日10:30トークシェア上映 隔週水曜20:00の回はゲストを交えたトークシェア上映 『子どもは風をえがく』公式サイト http://www.kazeoegaku.com ラピュタ阿佐ヶ谷他にて、10月4日(日)より連日上映

君は粘土のために死ねるか? 老後に備えて読んでおきたい「陶芸マンガ特集」

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 サラリーマンが定年退職後にやりがちな趣味といえば、そば打ちと陶芸ですよね。どちらも、ある種の男のロマンを感じさせる職人的世界であり、サラリーマン時代に成し得なかったことにチャレンジしてみたいというその気持ちはわからないでもありません。  しかし、そばはともかく、陶芸なんて地味すぎて絶対マンガのテーマにならないだろうと思っていませんか? 実は、陶芸マンガって、結構あるんです。しかも、どいつもこいつも「粘土」に対する執念がハンパなくて、文字通り粘土に命を懸けている奴らばかりです。今回は老後に備えて読んでおきたい、熱い陶芸マンガを4作品集めてみました。
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■『緋が走る』(原作:ジョー指月、作画:あおきてつお)  陶芸マンガの中では、おそらく一番有名な作品。単行本が全15巻出ているだけでなく、『美咲の器―それからの緋が走る』という続編も単行本で9巻出ています。よくぞ、陶芸だけでここまでネタが引っ張れるものだ! と感心せざるを得ません。
misaki0911
 陶芸といえば男の世界、という先入観を覆し、主人公に女性を据えたところもポイントです。『夏子の酒』とか『ソムリエール』などと同様の手法ですね。  タイトルの通り、陶芸の最高芸術といわれながらもかつて誰も再現できなかった、朱よりも赤く炎より深い色「緋色」の器を作ることが作品のテーマです。主人公・松本美咲は、「緋色(ひいろ)」の器を作ることに陶芸家生命を懸けた父の遺志を継ぎ、女子大生からいきなり陶芸家にジョブチェンジします。  ただ、女子大生がいきなり陶芸家を目指すという設定なので、前半はひたすら地道に修業。土を運んだり、掘り起こしたり、こねまくったりするシーンが続きます。泥だらけで、画的にはとにかく地味。地味ながらグイグイ引き込まれるのは、父娘二代にわたって命懸けで「緋色」を追い求めるというテーマが壮絶すぎるからにほかなりません。
haruka0911
■『ハルカの陶』(原作:ディスク・ふらい、作画:西崎泰正)  こちらも主人公は女子です。OLの小山はるかが、陶芸展で見た備前焼の大皿に感銘を受け、会社を辞めていきなり大皿の作家のもとへ弟子入りしに行くという話です。設定からもわかる通り、『緋が走る』に比べると悲壮感薄めです。というか「陶芸=命懸け」なマンガが多すぎて、こういうライトな設定が逆に斬新という不思議なジャンルになのです。  単行本は3巻出ており、1巻では土を練っているシーンがメイン、2巻ではロクロを回しているシーンがメイン、最終巻となる3巻ではようやっと窯に火が入って……という、これまたひたすら下積みばかりのマンガです。地味なのは陶芸マンガの宿命なので致し方ありません。かわいい女の子が主人公というのが救いです。  ちなみに『緋が走る』は萩焼がテーマとなっており、一見イメージがかぶりそうな2作品ですが、ちゃんと棲み分けされています。
kenka0911
■『流れ陶二郎 けんか窯』(原作:遠崎史朗、作画:ビッグ錠)  職人バトルマンガの大家・ビッグ錠先生と『アストロ球団』の原作者・遠崎史朗先生のコンビが送り出す陶芸マンガ。タイトルからも想像がつく通り、陶芸バトルマンガであり、リアルさを追求していた上記2作品とはブッ飛び度が段違いとなっています。  主人公の流陶二郎は凄腕の「渡り焼き物師」。渡り焼き物師とは日本全国を渡り歩き、数百万円とも数千万円ともいわれる法外な報酬を受け取って焼き物を焼き、日本各地のピンチに陥った窯元を救うという、助っ人陶芸家です。いわば「陶芸版ブラック・ジャック」みたいな感じです。さすがに陶芸バトルマンガだけあって、陶二郎の常軌を逸した行動が、これでもかと言わんばかりに炸裂。  時価数百万円の茶碗をいきなりで手で叩き割り、その破片をポリポリと食べ始めます。「釉薬は柞灰(いすばい)ですね…」などと、破片を食べることで土や塗料などの陶器の成分をズバリ当ててしまう陶二郎。そこまでしなくても、人に聞けばいいだけのことだと思うのですが、陶芸バトルでは、まずは周りの度肝を抜くことが大切なのです。  萩焼編では陶芸バトルで勝つために、燃えさかる窯の中に直接飛び込んで釉薬を吹き付けるという新製法に挑みます。ちなみに窯は、最高で1400度になるらしいんですが、そんなところに飛び込んで大丈夫なんでしょうか? 答えはノー。当然、全身黒焦げになります。あらかじめ用意をしていた水をかけまくって一命をとりとめますが、文字通り命懸けの陶芸バトル。  瀬戸焼編ではなんと、処女の初潮の血を土に練り込んだという幻の乙女茶碗が登場。芸術のためならばタブーも侵すという、狂気な側面が垣間見られますね。この幻の乙女茶碗を処女の初潮の血を使わずになんとか現代に蘇らせようとする陶二郎と、コンピューター解析で処女の初潮の血と同じ成分を作り、再現しようとする科学者とのバトルになります。  丹波焼編では、エジプトのピラミッドの内部で発見された壺がどうも丹波焼の壺にそっくりなので、それを証明したいというワケのわからない依頼により、ピラミッドの壺とそっくり同じ物を丹波焼で作らされるハメになる陶二郎。ここでは、ライバルの渡り焼き物師「窯神」が登場。  なんとこの話では、渡り焼き物師同士の裏窯勝負に恐ろしい掟があることが発覚。敗れた者は二度と粘土練りができないよう、己の指を打ち砕かなければならないらしいのです。恐ろしい掟ですね。何が恐ろしいって、どう考えても掟が後付けくさいところです。
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■『陶炎』(原作:原田大輝、作画:はしもとみつお)   こちらも、男が主人公の陶芸マンガです。主人公・浜田陶太は、表向きは「自由窯」という窯の主人で、陶芸教室なんかも開催しちゃっているほのぼの系陶芸家ですが、裏の顔は数千万円の報酬で陶芸にまつわるあらゆる揉め事を解決する「裏陶工師」なのです。渡り焼き物師といい裏陶工師といい、とにかく一癖も二癖もある裏稼業っぽい陶芸家が出てくるのがメンズ陶芸マンガの特徴です。  こちらの作品でも、800度の窯の中に飛び込んで全身黒焦げになってみたり、時価数億円の器を叩き割ったり、贋作を作って本物とすり替えたり等々、おおよそ陶芸マンガに期待される陶芸アクションがちりばめられた作品です。さらに焼き物を作って殺人事件を解決してみたりと、陶芸家のスキルを超えるハイスペックぶりを発揮。単行本全2巻ですが、なかなか見応えのある作品となっています。 ***  というわけで、とにかくストイック、とにかく粘土ラブな陶芸マンガの世界をご紹介しました。これらの作品を読んじゃうと、老後にのんびり陶芸でもやろうかな……なんて甘っちょろい考えは吹っ飛んでしまうかもしれません。どうせ陶芸を始めるなら、800度の窯に飛び込むぐらいの覚悟で臨みたいものです。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

紳士たれ! スパイを志す青年の成長譚を痛快に描く!! 今週公開の2作品『キングスマン』 『天空の蜂』

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(C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation
 今週取り上げる最新映画は、痛快ヒット作『キック・アス』(2010年)の原作者&監督コンビが放つ刺激と笑いが満載の英国製アクションと、江口洋介&本木雅弘共演で原発テロ犯との戦いを描く和製サスペンス。いずれもスリリングな展開が持ち味だが、前者が毒のあるユーモア、後者が家族愛を強調している点はそれぞれのお国柄といったところか。  『キングスマン』(公開中、R15+指定)は、マーク・ミラーのコミックを原作に、マシュー・ボーン監督が『英国王のスピーチ』(10年)のコリン・ファース主演で映画化したスタイリッシュで過激な新感覚スパイアクション。ロンドンの高級スーツ店を隠れみのにする独立諜報機関、「キングスマン」のエリートスパイ・ハリー(ファース)は、かつて自分の命を救った亡き同僚の息子エグジー(タロン・エガートン)から連絡を受ける。無軌道に生きていたエグジーを、ハリーはキングスマンの新人試験に推薦。候補生たちが危険な選考試験で絞り込まれる頃、IT富豪のヴァレンタイン(サミュエル・L・ジャクソン)が、秘かに人類抹殺計画を進めていた。  英国紳士然として華麗に敵を倒すコリン・ファースと、やんちゃな熱血青年に扮する映画初出演のタロン・エガートンの組み合わせが、スパイ物というジャンル映画の温故知新に挑む本作のスタンスを端的に示している。ある事情でハリーが暴走する長尺のアクションや、とある状況下で大物たちの首が次々に飛ぶ終盤のスペクタクルなどは、残酷なのに絶妙なブラックユーモアのおかげで爆笑してしまう。ヴァレンタインの片腕で両足の義足が鋭利なブレードになっている美女ガゼル(ソフィア・ブテラ)も、『殺し屋1』を彷彿とさせる踵(かかと)落としが恐ろしくも魅力的な強烈キャラ。今年はスパイ映画の話題作が続々封切られているが、その中でも過激さと笑いの点で群を抜く大傑作だ。  『天空の蜂』(9月12日公開)は、東野圭吾が1995年に発表した同名小説を、『20世紀少年』シリーズの堤幸彦監督が映画化したサスペンス大作。95年8月、自衛隊用の最新大型ヘリコプター「ビッグB」を開発した設計士の湯原(江口洋介)は、妻と息子・高彦を連れて納入式典の会場を訪れる。高彦がこっそり乗り込んだビッグBが、何者かにより遠隔操作されて飛び立ち、福井県にある原子力発電所「新陽」の真上に静止。犯人は国内の全原発を破棄するよう要求し、従わなければ爆発物を積んだビックBを原発に墜落させると脅してくる。湯原は新陽の設計士・三島(本木雅弘)と協力し、高彦の救出と大惨事の回避を試みる。  まず驚かされるのは、今から20年も前に原発テロを題材とする小説を書き上げていた東野圭吾の先見性。安保法制をめぐる議論で原発テロのリスクも指摘される昨今、実にタイムリーな劇場公開となった。堤監督による演出は緊張感のコントロールが巧みで、実力派俳優らによる気迫のこもった演技も画面を引き締める。仲間由紀恵、綾野剛、柄本明ら共演陣も豪華。3・11を経験した私たちに、絵空事とは思えない切実なテーマを突きつけてくる意欲作だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『キングスマン』作品情報 <http://eiga.com/movie/81623/> 『天空の蜂』作品情報 <http://eiga.com/movie/80517/>

大麻シーンだらけ!『テッド2』大ヒットで、日本にドラッグが蔓延する……!?

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(C)Tippett Studio/Universal Pictures and Media Rights Capital
 8月29~30日の国内映画ランキングが発表され、R15指定ながら『テッド2』が初登場1位の好スタートを切った。オープニング土日2日間で動員30万7,960人、興収4億4,200万円を記録。2012年に公開され興収42.3億円の大ヒットを記録した、前作『テッド』を上回る人気ぶりだ。  今作では、人格を持ったテディベアのテッドが人間と結婚、子どもを持つために「人権」を求める内容だ。テッドは「所有物」か「人間」か、という重いテーマにもかかわらず「R指定」。激しい下ネタもさることながら、前作にも増して大麻を吸いまくっているシーンのオンパレードなのだ。 「ストーリー的にはまったく必要がないシーンで、テッドと親友のジョン、ヒロインの弁護士3人が、眼前に広がる大麻畑を前にして『なんて美しいんだ』『言葉にならない。詩人を連れてくるべきだわ』と言いながら涙を浮かべたり、ジョンが離婚した妻と『一緒に(大麻を)やりたかったと告白、ヒロインが『趣味が合うのは大事』と同意するなど、まるで大麻を啓蒙するために盛り込んでいるように見えました。大麻畑にかぶせて、ジュラシックパークのテーマ曲が流れるのは、タイムリーで面白かったのですが(笑)」(映画ライター) 『テッド2』の公開に合わせて先日放映された『テッド』のテレビ版では、大麻部分はカット。シーン自体は重要であったため、つながりもおかしなことになってしまっていた。 「『テッド2』は、カットしきれないほど大麻シーンのオンパレードですから、地上波ではオンエアできないのでは。ちょっと大麻礼賛な感じがやりすぎ。テッドたちが当たり前に大麻を吸引しているので、ドラッグへのハードルがかなり下がりそうです。映画やDVDを観て、どれだけ気持ちがいいものなのかと、大麻に手を出す若者たちが増えてもおかしくはありません」(同)  もし『テッド3』があるなら、今度は大麻の合法化に向けてテッドが戦う物語になるのかも!?

「小鳥が来る街」でゴミ出しせな! 知られざる『大阪のオバちゃん』の生態とは

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『大阪のオバちゃんの逆襲』(言視舎)
 30代の人間にとって、大阪のおばちゃんのイメージは、『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ)で放送されていたコント「おかんとマー君」によって決定づけられている。せっかく彼女を家に連れ込んできたのに、「出て行け」と言っても部屋に居座ろうとするおかん、ダサいTシャツを買ってくるおかん、エロ本を見つけて「あー怖っ!」と叫ぶおかん、関東人にとってはコントのキャラの一つだが、関西の友人いわく「あんなおばちゃんばっかりやで」ということ……。関西の人々は、(さすがに過剰ではあるけど)「あるあるネタ」として受け取っていたようだ。  大阪のおばちゃんは、関東人にとっては未知の存在だ。そんなおばちゃんたちの生態を記したのが『大阪のオバちゃんの逆襲』(言視舎)だ。筆者の源祥子は、地元大阪でコピーライターとして活躍後、シナリオライターに転身するために40歳を過ぎて大阪から東京へと転居してきた。そして、地元大阪を離れてまじまじと感じたのが、大阪のおばちゃんの特殊さ。本書では、親友への手紙という形式を使いながら、大阪のおばちゃん像を解き明かしていく。  ヒョウ柄のスパッツを履き、トラの顔がでかでかとプリントされたTシャツを着ながら、さすべえのついた自転車で買い物に出かける大阪のおばちゃん。スーパーでは、初対面の人間に「今日何作りはんの?」と声をかけ、バッグの中には常に「飴ちゃん」を携帯している。上沼恵美子を「神」と崇め、月亭八方がロケをしていれば「元気にしてたん?」とさも親戚のように話しかけ、バシバシと身体を叩く。もちろん、「関西のロイヤルファミリー」である西川きよし師匠をはじめ、忠志、かの子、そしてヘレンのファミリーたちの動向はかかさずチェック。夏には、河内家菊水丸の河内音頭で踊るし、島倉千代子の「小鳥が来る街」を聞けば、ゴミを出さずにはいられない。音楽のない東京のゴミ収集車を見て、筆者は「ほんま東京のゴミ収集車、愛想ないわぁ」と嘆いている。  そんなディープな大阪のおばちゃんたちだが、筆者の源は、全国に誤解される大阪のおばちゃんのイメージを訂正することも忘れない。  大阪のおばちゃんが商品を値切るのは遊びの一種であり、スーパーやコンビニのレジでの支払いでは「まけて」と言うことはない。しっかりとTPOをわきまえて、場を盛り上げるために「値切る」という方法を活用しているのだ。大阪のおばちゃんの髪型はみんなが紫色だったりパンチパーマというわけではなく、ヒョウの顔が書かれたTシャツと、ヒョウ柄のファッションではおしゃれ度が違うと主張する。関東人である私には、あまりその違いは分からないが……。  他の地域の人々には全く理解できない大阪のおばちゃん。しかし、筆者の分析をもとに見ていくと、彼女たちも、決して理解の及ばないモンスターではないことがわかってくる。いや、むしろ、彼女たちは人情味が熱く、人を喜ばせるのが大好き、日本の中でも最も人生を楽しんでいる人々であるようだ。  源はこう語る。 「人生で大切にしてるんは、美味しいもんと、笑顔と笑い声。あと、衣食住関係なく、安うてお得なもんを発見すること。なにかと辛気臭い話題の多いこの世の中で、できるだけ楽しいこと、おもろいことに目を向けて笑って生きていこうとするそのパワフルさ。(中略)一億二千万人が真似したら、きっと日本は何かが変わるんちゃうかと思うんよ」  そのポジティブさ、そのおおらかさを真似できれば、確かに日本はもっと楽しく、パワフルな国になり、社会はもっと暮らしやすくなることだろう。でも、日本のおばちゃんが全員バシバシ人を叩いたり、「あんたそれなんぼ?」とズケズケと踏み込んでくるのは、他地域の人間としてはやや困りもの。  ぜひ、ほどほどに、参考にしてほしい。 (文=萩原雄太[かもめマシーン])

北朝鮮、サウジアラビア、コンゴ民主共和国……独裁国家はどんな国!?『独裁国家に行ってきた』

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『独裁国家に行ってきた』(彩図社)
 独裁国家といえば、古くはナチスドイツのヒトラーや旧ソ連のスターリン、現代でいえばお隣北朝鮮の金正恩など、人を人とも思っていない冷酷非道な指導者がパッと浮かぶ。だが、そんな恐ろしい独裁者イメージがつきまとう国々に行ってみたいと思う人などそうそうおらず、実態は謎である。『独裁国家に行ってきた』(彩図社)は、そんな独裁国家の旅行記だ。著者のMASAKI氏は、旅を仕事にすべく世界各地で買い付けをするアパレルバイヤーとして稼ぎながら、なんと204カ国に訪れ、世界をあちこちと飛び回る奇跡の旅人で、治安上や宗教上の理由で入国困難な独裁国家へも、執念ともいうべき粘着力とお金をかけて訪れている。  本書で紹介されているのは、全部で15カ国。大統領の気分次第で法律が決まるトルクメニスタン、独裁政権に終止符を打ち、新たな国づくりに湧くリビア、おなじみの北朝鮮、ハイパーインフレを起こして経済崩壊中のジンバブエ、イスラム教徒の聖地サウジアラビア、警察までもがカツアゲに勤しむベネズエラ、日本人観光客も多い超アナログ国家キューバ、ロシアとの統合を夢見るベラルーシ、勝ち組独裁国家のシンガポール、かつての資源大国ナウル、世界で最も残虐な国のひとつコンゴ共和国・コンゴ民主共和国、世界一幸せな国ブータン、復興の兆しが見えないリベリア、情勢が泥沼化するシリアと、いかにもな超危険な独裁国家から、これも独裁国家なのかと驚くほど先進的な国まで、幅広いラインナップで、とにかくすべてに読み応えがある。  入国できるんだ、と驚かされる国もいくつもあり、事実上イスラム教徒以外は入国拒否のサウジアラビアでは、滞在に許された時間はたった48時間。酒を飲むと鞭打ち80回の刑を受ける国で、ノンアルコールのバドワイザーを飲み、非ムスリムでありながら、聖地メッカを目指し、イスラム教オンリーエリアへと突入していく。また、超危険地帯・元ベルギー領のコンゴ民主共和国では、事前にきちんとビザを取得しているにもかかわらず、入国時に賄賂目的で警察の詰所へ連行。荷物をまさぐられたり、パソコンを床に落とされ、警察官は「ここはコンゴ民主共和国だ! ポリスを尊敬しろ!」を連呼するばかり。「すべての現金を見せろ!」と言われて反抗すると激高し、集団リンチ状態へ……。そのやり方は、かつて自分の元妻を蹴って死なせたり、逆らう者は容赦なく殺してきた前モブツ大統領がやってきた独裁国家そのままの悪夢を体験。  その一方で、規制と罰金で見事な経済成長を遂げ、何もかも整いすぎたシンガポールや、現在、鎖国状態だからこそ意外にも一般市民はいい人だらけの北朝鮮など、行ってみなければわからない独裁国家の実態も。凡人には知り得ないけれど、知るべき世界がここに! (文=上浦未来) ●MASAKI 1981年7月29日愛知県生まれ。札幌大学卒業。旅をしながら飯を食う方法を模索して現地で買い付けたものをヤフオクで転売するなどして稼ぎ、世界204カ国を回っている旅人。海外専門ツアコン、旅行ライター、雑貨・アパレルバイヤー、モデル、旅行評論家などの活動を通して、テレビ、ラジオなどメディア出演多数。世界旅行の楽しさを多くの人に知ってもらうため、全大陸に宿の設立を計画中。