今週取り上げる最新映画は、チームで戦うアメコミヒーロー物の原点とも言うべき作品のリブート作と、女子大生アカペラチームの騒動と活躍を描くミュージカルコメディの続編。ジャンルは違えど、仲間がそれぞれの個性を活かし、協力して事を成し遂げる姿に元気をもらえる快作たちだ(いずれも公開中)。 『ファンタスティック・フォー』は、スーパーヒーロー・チームの設定を最初に導入した伝説的アメリカンコミックの再映画化作品。発明オタクの学生リードは、物質転送装置を科学コンテストに出展したところ、ある財団の研究員としてスカウトされる。リードは研究所で本格的な装置を完成させ、4人の仲間とともに異次元惑星プラネット・ゼロへの転送旅行を成功させるが、未知のパワーの影響で特殊能力を身につけてしまう。体がゴムのように伸び縮みするリード、体を透明化するスー、炎に包まれ飛行能力も持つジョニー、岩石の体と怪力を備えたベンが、自分の変化に戸惑いながらも能力と向き合い始めた頃、プラネット・ゼロに1人残され強大なパワーを獲得したビクターが、地球全体を滅亡の危機に陥れる。 リード役に『セッション』(2014)のマイルズ・テラー、スー役にケイト・マーラ(妹はルーニー・マーラ)など、主要キャストに新進の若手俳優を揃えたが、05年と07年に公開された前シリーズのジェシカ・アルバやクリス・エバンスらと比べるとやや地味な顔ぶれ。主人公の能力が伸び縮みする体という点がそもそも微妙だとはいえ、メンバー4人が各自の持ち味を活かし、協力して敵と戦うスリリングなアクション場面が本作の魅力だ。2017年に続編の公開が決まっており、アメコミ界屈指の人気キャラ、シルバーサーファーの登場が望まれる。 『ピッチ・パーフェクト2』は、日本では今年5月に公開された青春アカペラミュージカル『ピッチ・パーフェクト』の続編。全米アカペラ大会での優勝から3年後、女性アカペラチーム「バーデン・ベラーズ」は、大統領一家の前で歌うステージで大失態を犯し、すべての国内大会で出場禁止処分を受けてしまう。世界大会で優勝すれば処分取り消しの条件を取り付けるが、欧州チャンピオンのドイツチーム「ダス・サウンド・マシーン」の圧倒的なパフォーマンスを目の当たりにして、ベラーズは方向性を見失ってしまう。仲間に内緒でインターンを始めたベッカ(アナ・ケンドリック)、恋愛に悩む“ファット”エイミー(レベル・ウィルソン)、オリジナル曲を歌いたい新入生エミリー(ヘイリー・スタインフェルド)ら、メンバーの心もバラバラでチーム内に不協和音が漂い始めた頃、ピンチを打開すべく合宿を実施する。 米国でオープニング興収1位、ミュージカル映画としては『レ・ミゼラブル』(12)、『マンマ・ミーア!』(08)を超え、さらに世界各国でメガヒット中の本作。ストーリー上の都合から同じ曲が繰り返し歌われた前作に比べ、楽曲とパフォーマンスのバラエティーが格段に増し、往年の名曲から最近のヒットナンバーまでアカペラアレンジとマッシュアップで楽しく聴かせてくれる。『トゥルー・グリット』(10)で14歳にしてアカデミー助演女優賞にノミネートされたヘイリー・スタインフェルドが、大人びた姿で続投組のキャストとハーモニーを響かせる場面も見どころだ。字幕で訳詞がつかない曲が多いのが難点で、欲を言えば曲名とオリジナルの歌手名も添えてほしいところ。「ジョン・メイヤーと寝た女性歌手の曲」というネタなどは、付加情報があれば一層笑えるはずだ。こちらも17年に第3作の公開が決まっているので、次作の字幕では改善されることを期待したい。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ファンタスティック・フォー』作品情報 <http://eiga.com/movie/81624/> 『ピッチ・パーフェクト2』作品情報 <http://eiga.com/movie/81900/>(C)2015 MARVEL & Subs. (C) 2015 Twentieth Century Fox
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いったい何がイカンのか!? タイムリーな社会派ギャンブルマンガ 『野球賭博』
いま、プロ野球選手の野球賭博問題が世間をにぎわせています。野球賭博といえば、有名なところでは1969年の黒い霧事件、そして2010年の大相撲野球賭博問題があります。特に2010年は多くの力士や親方が処分され、まさしく角界に激震が走った事件であり、記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。そのわずか5年後に、再びプロ野球界で野球賭博問題が発覚するとは、この問題の根の深さを表しています。 そんなスポーツ界を揺るがす野球賭博問題ですが、いったい何が問題なのか? 一般的には、あんまりなじみがないですよね。正直、僕もよく知りません。しかし、そんな疑問を解決するマンガが存在するのです。その名もズバリ『野球賭博』というマンガです。まさに、このタイミングで紹介するにふさわしい作品と呼べるのではないでしょうか。 ちなみに、野球賭博の話が出てくるマンガは『ラストイニング』や『ラストニュース』『白竜』『名門!第三野球部』などがあります。しかし、いずれも、あくまで作品のほんの一部で取り上げているだけです。「野球賭博」そのものをフィーチャーしたマンガというのは、おそらく本作だけだと思われます。いかにもマンガにするニーズがなさそうですから、当然といえば当然ですが、とにかく大変異質な存在です。 実際、単行本の表紙からして、すごく異質です。どこが異質かというと、真っ赤なのです! 表紙が真っ赤なだけならまだしも、表紙に描かれているオッサンのサングラスの中まで赤いという、尋常じゃないセンスです。まるで、内容がレッドゾーンであることを物語っているかのようです。 『野球賭博』は、実は野球をテーマにした劇画短編集なのですが、プロ野球や高校野球で1軍に上がれないまま落ちぶれていった日陰男たちの悲哀をテーマにしています。普通の野球選手がテーマのマンガではなく、「落ちぶれた野球選手」専門のマンガです。すごいコンセプトですよね。 たとえば、第1話は、ドラフト5位でスターズ(明らかに巨人がモデル)に入団したもののフォーム改造で肘を壊し、結局1軍に上がることができずに解雇になった滝田という男の物語です。 球団の無理な投球フォーム改造のせいで人生を狂わされたことを恨んでいる滝田は、なんとハンク・アーロンの755本塁打の記録にあと1本と迫ったスターズの剛選手(明らかに王貞治氏がモデル) を誘拐するという暴挙に出ます。そして身代金1億円を奪い取った挙げ句、剛選手を殺してしまおうという計画です。100%逆恨みですね。 剛選手誘拐の一報を聞いた刑事たちは…… 「畜生! なんてことしやがる。明日の中日戦には来々軒の上カツ丼がかかってるってぇのに!」 なんと、剛選手が記録達成するかどうかでカツ丼を賭けていた模様。 結局、最終的には逃走中に警察によって銃で撃たれて殺されてしまう滝田。世にも悲惨なお話です。この話をまとめると、次のようになります。 プロ野球入団→球団による投球フォーム改造→肘を壊す→2軍でくすぶり続けた後、引退→テレビに出てるスター選手に嫉妬→その選手を誘拐→全国に指名手配→警察に銃で撃たれて死亡 プロ野球選手として大成できなかった末路が銃殺という、なんという転落人生……。こんな感じで、日の当たらない野球選手たちの切ない話が盛りだくさんなわけですが、やはりメインとなるのは第2話の野球賭博ネタの話です。タイトルは「ハンディ師竜二」。 主人公はタイトルの通り、ハンディ師の東竜二という男です。野球賭博にはハンディ師と呼ばれる、野球の試合に独自のハンディを設定して賭けを盛り上げるための仕掛け人が存在します。 ハンディ師の竜二は、現在はヤクザですが、元プロ野球選手で関西一の凄腕のハンディ師と呼ばれています。 「竜二、明日のハンディは何点や」 「パイレーツに2.5点やな!(くわっ)」 みたいな感じの会話でハンディが設定されます。たとえばジャイアンツVSタイガースの試合で、絶好調のタイガースが圧倒的大差で勝利すると思われる場合は、ハンディ師はタイガースに2.5のハンディを課します。その場合、実際の試合でタイガースが2点差で勝ったとしても、賭けの世界では負けとなります。 ちなみに、0.5というのは、実際の試合が引き分けに終わった場合でも白黒をはっきりさせるために設定されています。こうやって、ハンディ師のさじ加減で、実際には大差がつきそうな試合でも緊迫感を煽ることができるのです。そのためハンディ師は、元プロ野球選手のような相当プロ野球に詳しい人物がやるのです。 ……って、やたらルールを詳しく書いちゃってますが、よい子のみんなはくれぐれもやらないように! さて、そんな凄腕のハンディ師竜二ですが、客の挑発に乗って「八百長賭博」に手を出してしまいます。実際のプロ野球選手を脅迫するなどして、勝敗に関わるような八百長をさせてしまう行為です。 目をつけたのはパイレーツのエース投手、尾形。実は、竜二とは甲子園時代のライバルでした。尾形投手は、なんと4日連続登板をするなど超人的な活躍をしていたのですが、実はドラッグの「スピード」をやってギンギンになって投げていたのでした。それに気づいた竜二は登板前にスピードを飲む瞬間をカメラで撮影し、それをネタに脅迫したのです。そもそも、試合中にドラッグやってるエースってのも、かなりありえない感じですが……。 しかし、今でも野球を愛しており、高校時代ライバルだった尾形を苦しめたことに良心の呵責を覚えた竜二は、もう八百長はしないと誓うのです。ところが、八百長賭博がめちゃくちゃ儲かることを知った組長たちは、竜二にもっと尾形に八百長をやらせるように命令します。抵抗した竜二は組と仲間割れ……。 腹をドスで刺されながらも球場に駆けつけ、試合中に苦悩している尾形の目の前でネガを焼き捨てる竜二。 「尾形、これであんたは自由の身や! もう何も恐れることはないで!」 「いいんだな、力いっぱい投げていいんだな、東」 野球を愛するひとりの男として、最後の良心が働いたのです。しかしその後、組からの刺客に刺され、力尽きてしまう竜二。 「歓声や…大歓声や、わ、わしは帰って来たんや、この歓声の中に…」 なぜか最後はちょっと泣ける話ふうになっていますけど、八百長賭博を始めたのは竜二本人ですので、どう考えても自業自得です。しかも、自分が歓声の中に帰って来たとか言ってるのも明らかに勘違いですし。 というわけで野球賭博に関わったがために、悲惨な末路を迎えてしまったハンディ師竜二の話でした。繰り返しますが、こんな悲惨な末路が待っていますので、賭博にはくれぐれも手を出さないように! あなたの人生が登録抹消されても知りませんよ!『野球賭博』(谷あく斗、村岡栄一/芳文社)
タブーを突破する男たちの覚悟──映画『木屋町DARUMA』
裏社会でもがく男たちの生き様を、熱く深く描き出した問題作『木屋町DARUMA』。原作は四肢を失いながらも借金の取り立て稼業で生計を立てる男を描いた丸野裕行の同名小説(Kindle版電子書籍にて購読可)。メガホンをとったのは、映画監督で俳優の榊英雄。『誘拐ラプソディー』で日本映画批評家大賞新人監督賞を受賞、また『捨てがたき人々』ではKINOTAYO現代日本映画祭批評家賞を受賞している。 物語の主人公は、かつて京都木屋町を牛耳る組織を束ねていた勝浦茂雄(遠藤憲一)。彼は、5年前のある事件で四肢を失った。今では、ハンデのある身体で債務者の家に乗り込み、嫌がらせをして回収する捨て身の取立て稼業で生計を立てていた。仲間の古澤(木村祐一)から世話を命じられた坂本(三浦誠己)の助けを借り、次々仕事をこなしてゆく毎日。 そこへ、真崎という一家に対する追い込みの仕事が入る。その家族は、かつて勝浦を裏切り、金と麻薬を持ち逃げした元部下・サトシの身内だった。勝浦は責任を取って今の身体になったのだが、事件に疑問を感じた坂本が過去を嗅ぎ回り始める。人生が壊れてゆく債務者を見つめながら、薄汚い闇社会でもがく勝浦と坂本は、5年前の、ある真実を知ってしまう……。 去る9月30日、筆者がロフトプラスワンで企画した『コミックばかり読まないで』(イースト・プレス)の出版記念トークライブに足を運んで頂いた千田浩司氏から急遽、千田氏が宣伝に携わる映画『木屋町DARUMA』の初日舞台挨拶取材を依頼された。 そして公開日の10月3日、満席の渋谷シネパレスにて『木屋町DARUMA』は封切られ、万雷の拍手をもって念願の初回上映を果たした。 これに先立つ初日舞台挨拶では、遠藤憲一、三浦誠己、武田梨奈、木下ほうか、そして榊英雄監督の各氏が登壇。撮影から実に2年半という年月を経ての劇場公開を前にして、榊監督からは安堵の表情が見てとれた。 舞台挨拶では、監督が俳優ということもあってか、出演俳優陣が実にリラックスしたトークを心がけていたのが印象的だった。 その中でも、主演の遠藤憲一さんからは「こんなエグイ、ヤバイ映画を誰が観るんだと思っていたら、こんなにお客さんが来てくれた。ありがとうございます」という思わぬ本音が語られ、狂気のヒロインを好演した武田梨奈さんからは、男臭い撮影現場で遠藤憲一さんに父性を感じ、木下ほうかさんからは思わぬ母性を感じとったというエピソードが披露され、問題作の上映を控えて緊張感の漂う客席からも笑い声が漏れ伝わってきた。
榊英雄さんの映画監督としての活動を知ったのは、もう15年も前のことだった。 出会いは当時、企画プロデューサーとして働いていたロフトプラスワン。若松孝二監督や北村龍平監督を招いた映像作品の上映イベントで榊監督の短編作品が紹介され、その映像センスと俳優陣の演技力に目をみはった記憶が今も残っている。 いずれ、この若手俳優は監督業に進出するのではないかと予感させたが、映画『あずみ』の長戸役を観て魅力的な俳優が出てきたと感心した。 以降、榊さんの俳優としての活躍は周知の通りだが、同時に時間的な拘束が長期にわたる監督業への進出は厳しいのではないかと思いもした。 それから数年後、日本テレビ開局55周年記念番組『ヒットメーカー阿久悠物語』にて出演シーンは別なれど、榊さんと共演する機会に恵まれた。 演出は映画監督の金子修介さんで、榊さんは振付師の土居甫役を熱心に演じられ、筆者は作曲家の中村泰士役を演じた。その後も、桜庭一樹さんの原作小説を映画化した角川文庫創刊65周年記念作品『赤×ピンク』にて再び共演を果たしたのだが、これまた前回と同様に出演シーンがかぶらずクランクアップ。 打ち上げの席で近況報告をする程度の間柄ながら、細やかな気遣いのできる叩き上げの人物であると実感している。 アクション物から人間ドラマまで様々な役柄を数多く演じてこられた榊さんだが、近年では映画監督としての評価が著しい。 舞台挨拶前、楽屋へと榊さんを訪ねて挨拶を交わした際、敢えて俳優と監督業の両立は難しいのではないかという疑問を投げかけてみたわけだが、 「そんなことはないですね」と即答され、どちらか一方に偏ることなく仕事を続けて行きたいという明確な意思を語ってくれた。 そして最後に一言、「呼んでいただければ、もっともっと俳優としてがんばりますよ」と力強く訴えたのだが、筆者には榊さんのそんな気持ちが痛いほど理解できた。 かつて、松田優作は自ら監督した映画『ア・ホーマンス』の完成後、取材記者から「今後、優作さんの肩書は俳優? それとも監督? どちらです?」と質問され、「自分は映画人ですから」と答えて質問者を黙らせてしまったというエピソードを映画誌で読んだ記憶がある。 ハリウッド映画史を紐解けば、チャールズ・チャップリン、オーソン・ウェルズ、そしてクリント・イーストウッドに至るまで、そのキャリアは俳優としての名声を凌ぐほど、映画監督としての揺るぎない地位を築きあげたのだ。さらにマーロン・ブランド、ロバート・デ・ニーロといった稀代の名優たちも、そのフィルモグラフィーに監督作品を残してきたことを、どうか記憶に留めて頂きたい。
映画『木屋町DARUMA』の誕生に関して重要なことは、原作者である丸野氏と榊監督の共犯関係とでも呼ぶべき相互扶助の精神ではないのか? 発禁本扱いされ、版元との出版契約がままならない衝撃的な内容の丸野氏の原作小説を、榊監督はさまざまな経験と知恵を巡らせて映像化へと導いたのだろう。 スタッフ、出演者、様々な協力者の熱意がこの映画に心血を注ぎ込み、劇場公開という難関を突破させたのだと思う。しかしながら、そう現実は甘くない。 2年半という歳月が、榊監督と丸野氏に目に見えぬプレッシャーを与え続けたのは容易に想像できてしまう。 余談となるが、かくいう筆者も、この「日刊サイゾー」でお馴染みのルポライター・昼間たかしとの仕事で、たった一冊の書籍企画に2年半もの歳月を費やしてしまったのだ。 その昼間の筆による、『コミックばかり読まないで』と題されたルポルタージュ書籍が9月17日に上梓された直後だけに、『木屋町DARUMA』の初日舞台挨拶で榊監督が発した「2年半の歳月」という言葉の重みは、ひたすらメモを走らせる筆者と、一眼レフカメラのファインダーを覗く昼間の脳裏に鋭い爪あとを残した。 名のある出版社からは評論集としての脆弱性をひたすら突かれ、長編ノンフィクション作品としての事件性やスキャンダリズムの希薄さを指摘され続け、時間ばかりが過ぎ去ってゆく日々。追加取材や脱稿を繰り返して消耗していく昼間を見かねた筆者は、評論やノンフィクションという手法のすべてを捨て去り、敢えて時代錯誤とも取られかねないルポルタージュという表現手法で行くことを提案、これを昼間が快諾した直後から出版への道筋が見えてきた。 筆者の古巣でもあるロフトプラスワンの協力を得て、その20周年記念と歩調を合わせたルポライター・昼間たかしの自分史と、表現のタブーに挑戦し続けた奥崎謙三、若松孝二、塚原晃という規格外な人間たちの残像を求め、様々な取材対象を昼間とともに追い続けた怒涛の2年半が走馬灯のように甦ったのだった。 『木屋町DARUMA』の映画化にあたって、榊監督が丸野氏に訴えた一言が忘れられない。 ――「丸野さん、本が無理なら映画でやりましょう」―― 榊英雄監督、丸野裕行氏は言うに及ばず、ついでに仕事仲間の昼間たかしからも少しだけ、表現者としての凄まじい覚悟を学ばせていただいた。 (文=増田俊樹) ●『木屋町DARUMA』 監督/榊英雄 キャスト/遠藤憲一 三浦誠己 武田梨奈 木下ほうか 寺島進 木村祐一 2015年10月3日(土)より渋谷シネパレスほか全国順次ロードショー中 (c)2014「木屋町DARUMA」製作委員会左から木下ほうか、武田梨奈、遠藤憲一、三浦誠己、そして榊英雄監督
安保法案可決も「“負けた”とは思っていない」高橋源一郎が“教え子”SEALDsと8時間語り尽くす!
9月19日、集団的自衛権の限定的な行使を容認した安全保障関連法案、別名「戦争法案」が、怒号が飛び交う中で強行採決された。わたしも採決の数日前に国会前で行われたデモを訪れたが、ともかく人、人、人だらけ。あまりの混雑で前にも後ろにも進めない中、10~80代ぐらいの幅広い年代の人々が共に“声を上げる”姿を見て、驚いた。バックグラウンドも違う日本人が力を合わせて活動する、という行為に感動すらした。 そして、この大群衆の先頭に立ち、トラメガを手に「戦争法案、絶対反対!」「安倍はヤメロ! ヤメロ! ヤメロ!」と叫ぶ、SEALDsメンバーを見て、あらためて驚かされた。テレビやネットでは見ていたが、表参道や青山にいそうなかわいらしい女子に、イケメン率の高い男子。これだけの巨大な人の渦を作り出したのが、彼らなのか。 SEALDsについては、すでにさまざまなメディアが「これが『SEALDs』の正体だ!」「中心メンバー奥田愛基の正体とは!?」などとあちこちで書き立てているので、サイゾー読者なら、おそらく何かしらの記事をすでに目にしたことはあるのではないかと思う。 良くも悪くもいろいろな“正体”が暴かれていると思うが、まったくイロのついていないSEALDsの素顔が見えてくる1冊が、『高橋源一郎×SEALDs 民主主義ってなんだ?』(河出書房新社)だ。これは、今年5月に発売された『僕らの民主主義なんだぜ』(朝日新聞出版)が10万部を超えるベストセラーとなっている作家であり、明治学院大学国際学部教授の高橋源一郎氏と、同学部4年の奥田愛基氏、同じく社会学部4年牛田悦正氏、上智大学国際教養学部4年の芝田万奈氏を中心とする、SEALDsの学生メンバーが、2日間、8時間をかけて「SEALDsってなんだ?」「民主主義ってなんだ?」を軸に語り合う対談集だ。 とくに、奥田氏とは大学入試の面接で出会ってからの付き合いだという高橋氏の、奥田氏を見る目はとても独特だ。「(奥田氏は)“野生”っぽかった。っていうか、本当に、学校教育を受けてきたんだろうか、と思った」とか、文章を書く授業では「惚れ惚れするような、変な文章を書いてくるんだ」と語り、社会や学校教育にまるで「洗脳」されたところがなく、異彩を放っていたのだという。 本書では、それぞれのメンバーがどういう家庭環境で育ったのかを含め、詳しい自己紹介から、そこからどうして「SEALDs」が生まれたのか、なぜデモを始めたのか、どういうふうにして今のデモの形になったのか、などの話が続き、合間、合間で、バイトでデモに参加できなかったなど、メンバー同士の大学生らしい話も出たりする。また後半では、高橋氏の講義のような形で、古代ギリシアの民主制にまでさかのぼり、民主主義とは何かをマジメにひもといていく。 先日、下北沢B&Bで行われたトークショーで高橋氏は、安保法案は可決されたが「決して“負けた”とは思っていない」と語っていた。 「政治学者の丸山眞男さんは、『政治運動や社会運動は“勝った”“負けた”ではない』と言っていた。運動をやることによって、法律を施行させなくすることに意味がある。実際、1952年に施行された破壊活動防止法も、法案は通ったが、反対の声が多くて長年使われていなかった。オウムの事件のときも使えなかった。これはどういうことかというと、社会がある法律に対してすごく反対したというトラウマが指導者に残るので、次回の選挙で落選したくない指導者はそうやすやすと施行できない。今回の安保法案も通ったけれど、いろいろと不備があることは指摘されているので、使おうとするたびに、みんなの記憶が蘇る。これが、社会運動が持つ、不思議な力なんです」(同) 本書は発売2週間ですでに7万部を超える大ヒットとなっているというが、続編『民主主義ってこれだ!』(大月書店)も、今月中に出版予定だという。 果たして、デモを通して学生たちがたどり着いた“答え”とは――。 (文=上浦未来)『高橋源一郎×SEALDs 民主主義ってなんだ?』(河出書房新社)
「国民的美少女コンテスト」グランプリ女優の怪演が光る! 今週公開『罪の余白』『ロバート・アルトマン』
今週取り上げる最新映画は、“国民的美少女”吉本美憂が他人の心を操る悪魔的な女子高生を演じる衝撃作と、70年代から今なお色あせない傑作群を数多く生み出した名監督の、刺激的なドキュメンタリー。秋の観賞にふさわしい、作品の個性が深い余韻を残す2本だ(いずれも10月3日公開)。 『罪の余白』は、芦沢央の同名デビュー小説を、『スープ 生まれ変わりの物語』(2012年)の大塚祐吉監督が映画化した心理サスペンス。名門女子校の教室で、スクールカーストの頂点に君臨する美少女・咲の言葉に促されるように、同級生の香奈がベランダの手すりに立ち、転落死する。娘の死を受け止められない行動心理学者の安藤は、真相を知るため香奈の級友たちに接触。他人の心を狡猾に操る咲こそが娘を死に追いやった張本人だと知った安藤は、復讐心から次第に暴走してゆく。 スクールカースト、生徒の死、娘を失った父の真相探求と暴走といった要素は、中島哲也監督・役所広司主演の『渇き。』(14年)と多く共通する。だが、『渇き。』では父や刑事ら主要キャラが戯画的で、いかにも虚構の世界の物語として描かれたのに対し、本作は内野聖陽扮する理知的な教職者の父親が、自責の念と咲の策略から復讐へと突っ走る過程がリアルで生々しい。「国民的美少女コンテスト」でグランプリ受賞、CMやドラマでも活躍する吉本美憂が、一見穏やかな仮面の下に底知れぬ悪意と狡猾さを秘めた“モンスター”咲を恐るべき説得力で体現。内野と吉本が迫真の演技で繰り広げる心理戦と、思わず声を上げてしまう衝撃のラストが強く印象に残る問題作だ。 『ロバート・アルトマン ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』は、ハリウッドの映画製作システムと戦いながら、『M★A★S★H マッシュ』(70年)、『ザ・プレイヤー』(92年)、『ショート・カッツ』(93年)など多彩な傑作を生み出し、世界中の映画人と観客に愛された故ロバート・アルトマン監督の実像に迫るドキュメンタリー。アルトマンの経歴と作品群を、自身の肉声と、ポール・トーマス・アンダーソン監督、ジュリアン・ムーア、ブルース・ウィリスら映画人の証言を交えて解き明かしていく。 “アメリカ・インディペンデント映画の父”と称され、カンヌ、ベルリン、ベネチアの三大映画祭の最高賞をすべて制覇したことでも知られるアルトマン監督。嘘八百を並べて映画業界に入ったという序盤の話から笑わされ、型破りで波瀾万丈なその映画人生と、独立独歩の精神=インディペンデント魂がユーモアたっぷりに描かれる。時折挿入される、アルトマンが家族を撮影したホームムービーにもなごまされる。監督のファンだけでなく、よく知らない人でもきっとアルトマン作品を見たくなる、監督の個性と魅力を的確に伝えるオススメの良作だ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『罪の余白』 http://eiga.com/movie/81367/ 『ロバート・アルトマン ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』 http://eiga.com/movie/82154/(c)2014 sphinxproductions/10月3日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国順次公開
“うまいもん”的な愛されるパチモノ映画を発見!? 80年代へのオマージュに溢れた『ターボキッド』
6月に公開された『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のコーフンが忘れられず、3D、IMAX、爆音上映……と劇場に何度も足を運んでいる熱狂的ファンは少なくない。「あの狂った世界観にもっと浸かっていたい」と願う“ポストアポカリプス”フリークにとって、見逃せないのが10月3日(土)より1週間限定で劇場公開される『ターボキッド』だ。カナダ=ニュージーランド合作映画となる本作は、『マッドマックス』(79)と同じくディストピア化した文明崩壊後の世界が舞台なのだが、『マッドマックス』シリーズがド派手な改造車やチューンアップされたバイクが壮絶な暴走バトルを繰り広げるのに対し、こちらの登場キャラクターたちの愛用車はちんまりしたBMX(競技用自転車)。いわばチャリンコ版『マッドマックス』なのだ。設定を聞いただけで脱力してしまいそうだが、本編を観てみると『マッドマックス2』(81)をはじめとする80年代洋画へのオマージュがたっぷり込められた、掘り出し物のB級アクション快作であることに気づかされる。見るからに低予算なのだが、逆に手づくり感が涙ぐましい。地味な地下アイドルを応援したくなるような、妙な使命感に駆り立てられてしまう作 品なのだ。 どこぞでお蔵入りしていた映画を引っぱり出してきたのかと思えば、米国でも8月末に公開されたばかりのピカピカの新作。この珍作を見つけ、強引にも劇場公開にねじ込んだキングレコードの映像制作部・長谷川英行さんに内情を聞いてみた。 長谷川 「すごく個人的な嗜好なんですが、『E.T.』(82)とかBMXが出てくる映画が好きなんです。日本ではほとんど知られていませんが、若き日のニコール・キッドマンが主演した『BMXアドベンチャー』(83)や世界中のBMX愛好家たちから熱い支持を集める幻の映画『Rad(BMXサイクル・キッド)』(86)も大好き。それでたまたま、BMX、映画をキーワードにネット検索して見つけたのが『ターボキッド』だったんです。サンダンス映画祭で上映されたり、海外ではそこそこ注目された作品みたいですが、問い合わせたところ日本の映画会社はどこもスルーしてたみたいで、即座にサンプルが送られてきました。“BMXに乗った『マッドマックス』”と謳っていますが、『マッドマックス』は改造車やバイクのエンジン音の迫力があって盛り上がるわけで、正直なところ『ターボキッド』の限りなく無音に近いBMXでのチェイスシーンは手に汗握るほどのハラハラ感はまったくありません(苦笑)。主人公たちも悪党たちも、みんな懸命にBMXのペダルを漕いでいる様子は、どこかのんびりしていて、むしろ哀愁を誘う。でも、そうやって肩すかし感を味わっていると、ドラマ部分やBMX以外のアクションシーンが意外としっかりしていて、カウンターパンチをくらうことになるんです(笑)」80年代テイスト溢れるB級アクション映画『ターボキッド』。鉄仮面の下は南野陽子ではありません、念のため。
一応、『ターボキッド』のストーリーを紹介しておくと、舞台は核戦争後の荒野。生き残った大人たちは貴重な資源である水を奪い合っている。両親を亡くしたコドクな少年キッド(マンロー・チェンバーズ)は両親の形見であるBMXに股がって廃品回収にいそしむ。キッドの心の支えは幼い頃に愛読したコミックヒーロー“ターボライダー”だけだった。そんなある日、キッドは不思議少女アップル(ロランス・ルブーフ)と出会う。トンチンカンな会話しかできないアップルだったが、キッドはコドクから解放されたことが何よりもうれしい。BMXに2人乗りして廃品回収に向かうようになる。だが、悪の首領ゼウス(マイケル・アイアンサイド)の手下によって、アップルは拉致されてしまう。キッドは憧れの“ターボライダー”スーツに着替え、ゼウスのアジトにある地下格闘場へと乗り込む──。 内容はいかにもB級アクションものだが、敵役ゼウスを演じるマイケル・アイアンサイドは、人気SF映画『スキャナーズ』(81)の白目剥いたお兄ちゃん、『スターシップ・トゥルーパーズ』(97)の鬼教官などで知られるカナダの名優。本作でも堂々たる外道ぶりを発揮している。また、ゼウスの腹心のドクロ仮面の腕に装着されたチェンソーはロケットランチャーにもなり、香港のカルト映画『片腕カンフー対空とぶギロチン』(75)ばりのアクションで盛り上げる。ヒロイン・アップルの不思議ちゃんぶりが最初はうざく感じられるが、彼女の秘密を知ってからは俄然応援したくなってしまう。あらら、まんまと作品世界に引き込まれてしまっているじゃないか。終末世界を生きる少年キッドと不思議少女アップル。米国映画『チェリー2000』(86)を思わせるラブロマンスものなのだ。
長谷川 「最近、YouTube上で80年代テイスト溢れる『カン・フューリー』が話題を集めましたが、『ターボキッド』も『カン・フューリー』と並ぶ80年代リスペクト映画の双璧と海外では呼ばれているみたいです。監督は3人いるんですが、兄妹とそのご主人という身内で映画を作っていて、『ネバーエンディング・ストーリー』(84)や『グーニーズ』(85)といった80年代のキッズムービーの要素を意識したそうです。イタリアで大量生産されたパチモノ系『マッドマックス』の影響もかなり受けているみたいですね(笑)。内容は全然違いますが、僕の個人的な印象としては『スプラッシュ』(84)や『フットルース』(84)、それに『ストリート・オブ・ファイヤー』(84)といった80年代青春映画を昔観ていたことを思い出しました。当時はかっこいいなと思って観ていたけど、冷静に考えるとかなり恥ずかしくなる大げさな描写が多かったんですが、でも見終わった後は何だか爽快感が味わえたんですよね(笑)。『ターボキッド』も『マッドマックス』級の迫力を期待すると肩すかしをくらいますが、バトルシーンは『ブレインデッド』(92)ばりのゴア描写が盛り込まれ、B級映画ファンなら気持ちいいカウンターパンチを浴びることができます。で、見終わった後は、80年代映画を見直したような懐かしい後味のよさが楽しめる。80年代の洋画で育った世代は、ぜひ劇場に足を運んでほしいですね。まぁ、若い世代がどんな感想を抱くのか予想できませんが(笑)」 パチモノ感が濃厚に漂うB級映画『ターボキッド』だが、駄菓子界の銘菓「うまい棒」の人気キャラクター・うまいもん的な憎めなさがクセになりそう。思いっきり舐めきって、劇場に向かいたい。 (取材・文=長野辰次)カルト映画には欠かせないカナダの名優マイケル・アイアンサイド。プロットの面白さから出演を決めたそうだ。
『ターボキッド』 監督・脚本/フランソワ・シマール、アヌーク・ウィッセル、ヨアン・カール・ウィッセル 出演/マンロー・チェンバーズ、ロランス・ルブーフ、マイケル・アイアンサイド、エドウィン・ライト、アーロン・ジェフリー、ロマーノ・オルザリ、タイラー・ホール 提供/キングレコード 配給/日本出版販売 10月3日(土)~9日(金)シネマート新宿、シネマート心斎橋、10月24日(土)~30日(金)名古屋シネマスコーレにてレイトショー公開、11月京都・立誠シネマにて上映。※2016年1月13日(水)にブルーレイ&DVDがリリース (c)2015 RKSS,ALL RIGHTS RESERVED.
お年寄りのライフスタイルをオシャレに紹介する、フリーペーパー「鶴と亀」がすごい
とある書店で配布されていたフリーペーパーを、なんの気なく手に取って驚いた。ページをめくってもめくっても、お年寄りの写真ばかり。
いったいこれはなんなんだ!? フリーペーパーの名は「鶴と亀」。2015年9月現在で、第4号までが発行されている。長野県飯山市を拠点にしたフリーペーパーで、写真のお年寄りたちも飯山市近辺の方々のようである。どの写真もみんなイキイキと写っている。庭仕事をしているところや銭湯に入っているところなど、生活感あふれる場面ばかりなのが面白い。
巻頭に記載された「地方にいるイケてるじいちゃん、イケてるばあちゃんをスタイリッシュに発信。」という言葉通り、あくまで誌面作りはおしゃれ。表紙をパッと見るに「ストリート系のZINEかな?」と思ってしまうようなデザインである。 果たして、このような冊子を作っているのはどんな人なんだろうか? 取材を申し込んだところ、代表者の小林直博氏が電話インタビューに応じてくれた。 *** ――「鶴と亀」は他に類のないテーマのフリーペーパーだと思うのですが、何名ぐらいで制作されているのでしょうか? 「僕と兄の2人で作っています。2人とも飯山から一度東京に出ていて、そこでいろいろなフリーペーパーに出会い、いつか何か作りたいと考えていました。飯山に戻ってきて、やるなら地方にしかできないこと、都会に負けないものをテーマにしたいなと。僕らは子どもの頃からすごい“おばあちゃん子”だったのもあって、こういうテーマになりました。遊び相手も、おばあちゃんでしたし。ちなみに、おばあちゃんは、今まで出た全号に登場しています。4号だと、整体院で寝てる写真ですね」
――誌面のデザインなどがとにかくおしゃれな感じで、クオリティもすごく高いと思うんですが、出版関係のお仕事をされていたんでしょうか? 「いや、2人ともまったくの素人です。僕はカメラが趣味だったんで、写真は以前から日常的に撮っていたんですけど。2人とも今は別の仕事をしつつ、『鶴と亀』を作っています」 ――ちなみに、お2人の年齢は? 「僕が24歳で、兄が27歳ですね。第1号を作ったときは、僕はまだ大学に行っていました」 ――若い! 「鶴と亀」は、企画も面白いですよね。第3号ではお年寄りが服用している薬が見開きでドーンと載っていたり、第4号ではお年寄りのファッションを若い人が取り入れているコーナーがありました。
「じいちゃんばあちゃんにとっては当たり前の日常なんだけど、よく考えたら面白いものを紹介できたらいいなと思っています」
「ちなみに、あのラッパーがかぶっている帽子は『ひさ江ハット』っていうんです。うちのおばあちゃんが『ひさ江』という名前で、よく着てるカッパがあって、その柄がすごくいいからなんとかして自分も身に着けたいと思って、それで思いついた企画です。カッパの柄をスキャンして、布用のプリンターで転写して作った帽子です」 ――手が込んでますね! 自然体のお年寄りの写真がたくさん載っていますが、取材対象はどのようにして探すんですか? 「中には知り合いの方もいるんですが、ほとんどは散歩していていいなと思ったら声をかける感じですね。最初は『今日は草刈りですか?』とか世間話から。でも、基本的にはみなさん嫌がりますね。恥ずかしがられます。僕らが取材している地域は観光客が特別来るような場所でもないので、みなさん取材慣れしていないというか。最初の頃は断られたらすぐあきらめてたんですけど、出来上がった本を見せたりすると、“こんな本になるならいいよ”という感じで撮らせてくれることもあります。最近では、断られても、もう少し押せば撮らせてもらえるなとか、わかるようになってきましたね」
――撮影していて、印象的だったお年寄りはいますか? 「第1号に、ズボンのチャックを全開にしてるおじいちゃんの写真があるんですけど、その写真が面白いっていうことで『鶴と亀』の認知度がかなり上がったので、そのおじいちゃんは特に印象的でしたね。92~93歳で、そういうスタイルというか、普段からチャック全開らしいんです。写真も、すんなり撮らせてくれました」
「あとは、第4号でも紹介しているんですが、肛門科に来たおじいちゃんが肛門のことを『糞切り包丁の調子が悪い』って言っていて、それは衝撃でしたね。お年寄りは、そういうパンチラインをたくさん持っているので面白いです」 ――「糞切り包丁」! すごいフレーズですね。それにしても、これだけ質の高いフリーペーパーで、失礼ですが、採算は取れているんでしょうか? 「東京や地元の長野でフリーペーパーを作ってる人から『やるなら赤字覚悟だよ』って言われていたんで、最初から利益を出そうとかは思っていなかったですね。現在は、地元の企業さんが面白がって広告費を出してくれているおかげで赤字にはなっていなくて、トントンという感じです。黒字ではないですが、面白いことをやれて、すごくありがたいと思っています」
――「鶴と亀」の今後の展開について、何か考えていることはありますか? 「まだまだ試してみたい企画があるので、自分たちの負担にならない程度に続けていきたいですね。今は1万部作っているんですが、おかげさまで設置場所も増えて、冊数が足りなくなっているような感じです。とりあえず、1年に2冊出すのを目標にしているので、そんなペースでやっていきたいです。ほかの地方のお年寄りを撮影して、飯山のお年寄りと比べてみたりしたいですね」 *** 小林さんによれば、飯山は四季が非常にはっきりしていて、夏は暑く、冬は豪雪が降るという「厳しい場所」だという。そんな土地柄だからこそ、タフでワイルドに自分のスタイルを貫くお年寄りが多いのかもしれない。そんなお年寄りの魅力をスタイリッシュに伝えてくれる「鶴と亀」を、今後も応援していきたい! (文=スズキナオ http://roujin.pico2culture.jp/) ●「鶴と亀」 <http://www.fp-tsurutokame.com/>
ジャンルを越境する表現の自由を体現するルポルタージュ 昼間たかし『コミックばかり読まないで』
「これのどこが亀頭なんですか!? ただのおっさんの頭じゃないですか!」 2007年頃だっただろうか、当時、某実話誌の編集者だった筆者は、営業部に内線電話をする編集長の失笑混じりの声を聞き、何事かと彼のデスクを覗いた。 「これ見てよ。営業部が、ここにモザイク入れろってさ」 編集長が見せてきたのは、とあるエロページの初校(印刷所から上がってきた第一校)だった。頭頂部ハゲのおっさんの後頭部が、“全裸の女性の股間付近にかぶり、おかげで女性のアソコがモザイクがないのに隠れている”という写真が掲載されたページである。 「『おっさんの後頭部が亀頭に似て卑猥だから、おっさんのハゲ頭にモザイク入れろ』って……」 なんてアホらしい、という表情の編集長だったが、結局オッサンのハゲ頭にはモザイクが入った。 その頃の私たちは、せっま~い世界ながらも、日々自主規制と戦っていた。表紙モデルにセーラー服を着せることができなくなり、「女子高生」という記述が「女子校生」ならOK、となった。男女のセックス写真が掲載される場合、局部のみのモザイクではなく、女性に触れる男性の体全てにモザイクが入るようになった。苦肉の策として、男性モデルに全身黒タイツを着せたこともあった。このあたりまでなら「そりゃそうか、“テープ綴じ(成人向けほどではないが、アダルトな内容を扱う雑誌に対して、立ち読み防止のためのシールで留めた雑誌)”じゃないもんな」と納得できた。 近年では、ベッドに白濁色の液体が滴っている写真はNG、上半身ヌードでのキス写真もNG、あげく、日本の芸術作品として世界中から評価されている春画にもモザイクが入った、なんてケースも聞いたことがある。 猥褻とは一体、なんなのだろう──。 このたびルポライター・昼間たかし氏が上梓した『コミックばかり読まないで』(イースト・プレス)には、前述のせっま~い世界での“亀頭事変”の火付け役であろう大本営の東京都と出版界との、“表現の自由”をめぐる攻防戦が詳細に記されている。 出版業界の自主規制システム。10年に出版界に衝撃を与えた「東京都青少年健全育成条例」をめぐる攻防。「しずかちゃんの裸は規制対象」との怪情報が混乱を招いた「非実在青少年騒動」の全貌。青少年課の課長や日本雑誌協会専務理事補佐、石原慎太郎や都議会議員などとの対話。数年にわたる昼間氏の取材によるルポルタージュは、もはや“戦いの記録”といっても過言ではない。 当然、<1999年の法施行以来、いくども続いてきた(児童ポルノの)所持をめぐる論争>が、<範囲を限定した上で所持を禁止するという形で、ひとまず決着を見た>という、14年6月に国会で成立した「児童ポルノ法改定案」にも言及している。お茶の間では「宮沢りえの『Santa Fe』は是か非か?」で話題になった、ソレである。 同時に、出版界における猥褻の歴史も追っている同書だが、今では考えられない過去を振り返っている。 日本では<1970年代から少女ヌードが多数量産されるように>なっており、当時、<少女ヌードは「芸術」の一ジャンルとみなされていて新聞社の後援で展覧会が開かれるような存在>であったという。 そして80年代前半にも、<数多くの雑誌が少女ヌードグラビアを堂々と掲載>しており、80年6月19日号の「週刊現代」(講談社)には「ふたごの少女11歳のメモリアル」というタイトルと共に少女ヌードが掲載されたという例も挙げている。 <子供の無毛の股間は猥褻と見られておらず、堂々と掲載させていた。陰毛があるから性的に興奮するわけで、少女の無毛の股間に性的興奮を覚えるものなどいない、というのがおおかたの認識であった> 契機が訪れたのは85年、「ロリコンランド vol.8」(白夜書房)が、わいせつ図画頒布容疑で警視庁に摘発されたことを発端に、<当局は「無毛の股間は猥褻である」と判断>されるようになったのだ。 さらにそういった志向が「変態」「ロリコン」であると拍車を掛けたのが、89年に起きた宮崎勤による「東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件」だったという。 猥褻は、ただそこにあるだけでは猥褻になりえない。誰かがある日突然、「猥褻」と決めて、初めて猥褻となるのだ。 だから営業部が、「おっさんのハゲ頭は亀頭だ! 猥褻だ!」とひとこと言えば、それすなわち猥褻なのだ。 この猥褻をめぐる問題のみならず、本書では10年に一大騒動となった東京都青少年健全育成条例をめぐる問題や、児童ポルノ法と表現の自由。さらには20年東京オリンピックと環境浄化へと進んでいく。何よりも注目すべきは、表現の自由をめぐる問題への取材はマンガやアニメ、アダルトメディアといった限られたジャンルにこだわるのではないということ。さまざまなジャンルを越境した取材は、映画監督の若松孝二、さらには猪瀬直樹や石原慎太郎へと続いていくのだ。 同書で昼間氏は、膨大な取材量でもって、そんな“現実”を教えてくれている。 (文=羽屋川ふみ) <トークイベント> 「コミックばかり読まないで」出版記念イベント 日本のサブカルチャーよ、何処へ行く。 http://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/date/2015/09/30 日時:2015年9月30日(水) OPEN 18:30 / START 19:30 料金:予約¥1800 / 当日¥2000(要1オーダー500円以上) 会場:ロフトプラスワン (東京都新宿区歌舞伎町1-14-7林ビルB2 電話:03-3205-6864) 【出演】 昼間たかし(ルポライター) 鈴木邦男(評論家) 宮台真司(社会学者) 塚原 晃(作家) 増田俊樹(登場人物) 有山千春(フリーライター)『コミックばかり読まないで』昼間たかし(イースト・プレス)
年間20~30種類の新商品を生み出すのは、たった4人!? 「チロルチョコ」の秘密に迫る
『チロルチョコで働いています』(KADOKAWA)は、チロルチョコ株式会社の企画室に配属された新人女性社員を主人公に、お菓子メーカー企画職のリアルが描かれたコミックエッセイだ。 帯には「チョコづくりのお仕事は甘くないっ!」とある。チロルチョコは、1粒20~30円の低価格なお菓子。薄利多売でやっていくため残業しまくり、ストレスで人間関係もギスギスして心身ともにズタボロ……そんなブラックな暴露話を想像したが、全然違って素敵でハッピーなお仕事だった。 チロルチョコが出している新商品は、なんと年間20~30種類。それを生み出しているのは、企画室のたった4人というから驚く。うらやましいのは、お菓子を買うのも仕事のうちであるということ。味やデザインの参考にするため、毎週30以上の新商品を試食するのだ。 新商品がコンビニに並ぶ毎週火曜日の朝に、買い集めに行く。お菓子を食べることがお給料につながる……いいなあ。 本書では「チロくま」という白熊アイスのチロルチョコの開発秘話が紹介されているのだが、そのパッケージデザインのこだわりがすごい。ただ素材をデザインするのではなく、新しいキャラクターを作るところから始まる。白いクマちゃんのキャラが誕生し、そのクマちゃんが片手に白熊アイスを持っているデザインがやっとのことで決まる。 さらに、クマちゃんが手に持つアイスをイラストではなく写真にするため、フードコーディネーターにアイスを作ってもらい、プロカメラマンに撮影してもらう。あとで合成して調整するために、みかんやパインなどパーツごとの写真まで撮るのだ。あんなに小さいチロルチョコのほんの一部であろうとも、とことんこだわる姿勢に心を打たれる。そこまでしても全国会議で営業担当者に「包み紙はパッと見て味がわかるようにしてほしい」とダメ出しが入るのだ。 まさに、チョコづくりのお仕事は甘くないっ! だ。そんな苦労を乗り越えたチロルだけが、お店に並んでいる。ああ、けなげなチロル。愛おしいやつ。 パッケージのこだわりは、まだある。チロルチョコは同じ商品で、複数のデザインを使用している。並べると牛の柄が完成する「ミルク」や、麻雀牌風デザインの「杏仁豆腐」、100個に1個の割合でキャラクターがピースをしている「アーモンド」など、遊び心にあふれている。箱がハロウィンのお面やすごろくになって遊べるように工夫されている催事企画品という特殊パッケージもある。 チロルチョコ株式会社の社是は「楽しいお菓子で世の中明るく」だそうだ。とことん商品開発にこだわるのも、人を幸せにするためなのだ。なんて素晴らしい会社だろう。 就きたい仕事が見つからないのだから働かなくてよい、という理由で就職活動を一切しなかったが、過去に戻って学生時代の私にこの本を読ませ、チロルチョコに入社志望させたい。 チロルチョコで働かせてください! しかし、そんな願いはかなうわけがないので、チロルを食べて幸せにしてもらうほうを担当します。 (文=ナカダヨーコ)『チロルチョコで働いてます お菓子メーカーの舞台裏お見せします』(KADOKAWA)
伝説的バイオレンスアクションの続編がついに公開!『GONIN サーガ』『岸辺の旅』
今週取り上げる最新映画は、東出昌大主演のスタイリッシュなバイオレンス娯楽作と、黒沢清監督が第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を獲得した話題作。テイストは異なるが、「死」を通じて「生」を見つめ直す機会を与えてくれる、ポジティブなパワーを秘めた2作品だ。 『GONIN サーガ』(9月26日公開)は、石井隆監督が手がけた伝説的バイオレンスアクション『GONIN』(95年)の続編で、前作の登場人物の息子たちを中心に描く新たな物語。社会や組織に適応できない5人組が暴力団・五誠会系大越組を襲撃した事件から19年。五誠会は若き3代目・誠司(安藤政信)が勢力を拡大し、襲撃で殺された大越組若頭の久松の息子・勇人(東出)は、母の安恵(井上春美)を支えながら真っ当に働いていた。だが、19年前の事件で殉職した警官の息子・慶一(柄本佑)がルポライターを装い安恵に接近したことがきっかけとなり、新たな襲撃と凄惨な殺し合いの幕が開く。 ゾクゾクするような男たちの色気と破滅の美学を、石井監督が鮮烈に描く。東出のほかに、桐谷健太、土屋アンナ、『ウルヴァリン:SAMURAI』(13年)の福島リラら人気若手俳優も出演。前作の出演陣からは、殺し屋役の怪演で存在感を放つ竹中直人、俳優を引退したが今作限りの復帰を果たし、執念の演技で圧倒する根津甚八のほか、鶴見辰吾、佐藤浩市も、少ない出番ながら世界観の再構築に貢献した。人物の相関関係がかなり複雑なため、前作を未見の場合はDVDやネット配信などで観賞しておくと、熱い絆とダイナミックな激突を一層楽しめるだろう。 『岸辺の旅』(10月1日公開)は、湯本香樹実による同名小説を黒沢清監督が映画化した究極のラブストーリー。夫の優介(浅野忠信)が失踪してから3年がたち、妻の瑞希(深津絵里)は喪失感を抱えながらもピアノを教える仕事を再開した。だがある夜、突然帰ってきた優介は「俺、死んだよ」と告げる。かつて旅したきれいな場所を再訪したいという優介に誘われ、瑞希は2人で旅に出る。失踪からの3年間に優介が世話になった人々を訪ねる旅を通じて、互いの深い愛を再確認する2人だったが、旅の終わりが近づきつつあることにも気づいていた。 実体化した亡夫に連れられ妻が訪れる3つの旅先で、いずれも「死」にとらわれた人々との関わりが描かれる。つまり、彼岸との近さを意識させられる此岸(しがん)の旅を通じて、「死者とともに生きる」ことの意味を問いかける作品。夫婦や家族をつなぐ愛、死者を大切に思う感情、ささやかなユーモアを前面に出した作りだが、ホラーを多く演出してきた黒沢監督らしく、映像や効果音の控え目な仕掛けを伏線として張り巡らせており、細部まで見逃せない。浅野の超然とした存在感、深津の感情を抑えた演技が素晴らしく、小松政夫、蒼井優、柄本明らとのミニマルなアンサンブルも味わい深い。しみじみと深い余韻を残す、大人向けのファンタジーだ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『GONIN サーガ』作品情報 <http://eiga.com/movie/80548/> 『岸辺の旅』作品情報 <http://eiga.com/movie/80556/>(C)2015『GONIN サーガ』製作委員会


















