書店に並ぶ本の40%が「返品」されている! 数値から見る出版不況

書店に並ぶ本の40%が「返品」されている! 数値から見る出版不況の画像1
 書店に並ぶ本のうち約40%が「返品」されている――出版不況と言葉では聞くが、数で見ると改めて驚くものがある。思えば90年代にはよく聞いた『ミリオンセラー(100万部突破本)』という言葉も聞かなくなった。出版販促コンサルタントの山本豊氏に、前編に続き、移りゆく書店の姿について話を聞いた。 ■問屋が最強――「取次無双」な出版業界 ――出版業界は独特ですよね。出版社という本を作るメーカーがあり、書店という小売があり、取次という問屋がある。メーカー、小売、問屋という構造は他業種でも一緒ですが、出版業界は問屋である取次の権限がとても強いですよね。出版社が取次にそれはそれは気を使っているのを見聞きして、取次とはそんなに恐ろしいのかと思ったほどです。日本出版販売株式会社、株式会社トーハンが日本二大取次ですが、ここまで取次が強い背景には何があるのでしょう。 山本 取次は流通を抑えていますからね。例えば出版社が3000部取次に預けると、取次でこの書店には何冊、あの書店は売れるから何冊、と書店に卸す冊数を取次が決めていたんです。出版社にしてみても自力でやるより取次にお願いした方が、取次が長年の実績に基づいたルート、冊数で配本してくれますから。ですが、最近では出版社が書店から受注をして取次を経由して配本する方向へ変わってきています。  また、最近の傾向として取次が出版社から受け取る本の冊数が減っているというのはありますね。かつては3000部引き受けていたのが、今は2000部になるというような。取次からの受注が少ないと、出版社には在庫が残ることになります。 ――なぜ、取次が出版社から受け取る冊数は減っているのでしょうか? 山本 一番大きな理由は返品です。書店からの返品率は上がっており41%とも言われています。 ――書店にある本の半分弱が返品されているとなると、気が遠くなりますね。 山本 返送時の郵送コストは取次が負担しますから、取次にしてみたら返品率の上昇は死活問題です。 ■読書離れの実態を数字で追う~電車で見かけなくなった雑誌を読む人 ――出版不況は、読者側の読書離れもあるのでしょうか。 山本 実際あると思いますね。文化庁の平成25年の調査では1カ月に一冊も本を読まない人が47.5%でした。およそ10年前の平成14年度では37.6%でしたので、年々増えているんです。 ――この文化庁の『国語に関する世論調査』は毎年行われていますが、平成25年度を最後に、1カ月に読んだ本の冊数を聞く質問そのものがなくなってしまっていますね。電子書籍に移っているのでしょうか? 山本 電子書籍というより、ゲームや動画など「本ではない娯楽」へ流出していると思いますね。特に雑誌は厳しいです。電車の中で紙の雑誌を読む人をずいぶん見かけなくなりました。マンガそのものは好調ですが、マンガをスマホで読む人が増え、紙のマンガ雑誌も発行部数を落としています。 ――聞けば聞くほど出版業界に明るい兆しを感じにくいですが、それでも明るいジャンルを上げるとしたら何でしょう? 山本 「児童書」は手堅いと思います。少子化なので、意外なように聞こえるかもしれませんが、子供の数が減り、親が一人の子供にかけられるお金はむしろ増えていますから。 ――確かに、親は子供の未来に対しては切実ですしね。前編で「萌え」が強いとありましたが、「児童書」「萌え」はどちらも「金を出そうと読者(もしくは読者の親)が切実に思える」点がずば抜けているのでしょうね。 山本 一方で、苦しいジャンルはマニュアル系の書籍でしょう。 ――特にIT系だと内容がすぐ陳腐化してしまいますし、ネットでいくらでも丁寧に解説したサイトが今はありますからね。 ■「ウェブ発ベストセラー」はあれど、「電子書籍発ベストセラー」はない ――今は電子書籍のプラットフォームが整って、誰でも電子書籍を発表できるようになりましたよね。こういった電子書籍の状況はどうでしょうか? 山本 電子書籍(※ここでは、紙の媒体で先に出た書籍が電子化したものでなく、電子のみで出版されているもの)は売れていませんね。100冊売れればいい方とも聞きます。そもそも、「大人気電子書籍、(紙の)書籍化!」という話はあまり聞きませんよね。 ――確かに、「人気ウェブサイトのコラム、(紙の)書籍化!」は聞きますけど、「人気電子書籍、(紙の)書籍化!」は聞かないですね。 山本 もともと紙媒体でヒットしたマンガの電子化作品などは伸びていますが、これも、紙の書籍の大幅減少分を補うほどではありません。出版業界は1996年には2兆6千億の市場規模がありましたが、15年には1兆5千億まで下がっているんです。 ――驚きの下がり具合です。書店が減るわけですね。 山本 なかなかベストセラーは出ていないですよね。ビジネス書において最近のミリオンセラー(100万部突破)は『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)くらいですね。 ――考えてみれば本も音楽も、ネットの一般普及が進む前の90年代は「ミリオンセラー」が結構頻繁に出ていましたよね。 山本 そうですね。出版点数自体は増えていますから、何を読んでいいのかわからない、という人も増えているはずです。他の娯楽により読書離れが進み、また、出版点数が増え選択肢が増す中で、ベストセラーは以前より出しにくくなっているとは思いますね。 ――ありがとうございました。 * * *  私自身、著者として本を出している。一冊目は14年に出したので、書店での取り扱いはかなり少なくなってしまっている。よって、いつでも自著を販売してくれるAmazonにはとても感謝している。しかし、Amazonばかりが大きくなる状況には危機感や違和感も覚える。さらに、宅配便の再配達問題に関わる取材をして配送業者の厳しい状況を知り、私は都市部に住んでいて、小さな子供がいるなど買い物に苦労するような事情もないのだから、そもそも通販自体をあまり使わないようにしようと個人的には思っている。なかなか難しくはあるが。  そのため利用しているのが「e-hon」という、オンラインで本を注文し、それを指定した書店で受け取れるサービスだ(書店の売り上げになる)。正直、Amazonで買うよりも手間だ。しかし「あの書店つぶれちゃったんだ、残念」などと、数年間買い物しなかったであろう書店の閉店をつぶれてから惜しむ人を見るとカッコ悪いと思うので、できる範囲で続けていきたい。 (文/石徹白未亜 [http://itoshiromia.com/]) ■山本豊氏 出版販促サポートサイト 出版SPプラス:http://booksales.jp

有名人になると、かかしにされるのか! 深川『かかしコンクール』が妙に熱い!!

有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像1
試行錯誤の結果だと思うのだけれども手袋が取って付けたような感じになってガン見する
 移動しようと、都営大江戸線の駅を改札へと向かっていたら、出くわしたのが奇妙なポスター。  そこには、なんだかシュールな人形(?)と共に、こんな言葉が。 「第20回かかしコンクール」  かかしコンクール!! しかも第20回!!  実は、秋になると全国各地で、かかしコンクールというものが開かれていることは、聞いたことがあった。でも、それは地方での話。まさか、都心で、そんな催しが開かれているとは!!  かくて、すぐに足は、かかしが展示されている深川資料館通り商店街の最寄り駅である清澄白河駅へと向かったのである。  最近は、サードウェーブなんたらとかいうコーヒーのスポットとなって、スカした人々も多い清澄白河。とはいっても、このあたりから、門前仲町にかけては東京でも随一の下町の繁華街。23区の中でも独特の雰囲気が流れている。  そんな町の目抜き通り。そこに展示されている、かかしはシュールそのもの。  後から知った情報によれば、毎年展示されるかかしには、世相を反映したものが数多く並ぶという。すなわち、その年の有名人は、かかしにされる宿命を背負っておるのである。  そんな中でも、イメージを掴みやすいということか。歩いていると出くわしたのは、平野ノラやブルゾンちえみをモデルにした、かかしである。確かに似てるような……どうも、実在人物をモデルにする、かかしは特徴を上手く表現するのが、デキのよさを左右する様子。途中で出会った「おんな城主」というタイトルのかかし。これなんて、ひと目みるだけで納得系である。
有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像2
かかしに近づけようとすると、最大の問題は磔にされているように見えることだと思った。平野ノラである。
有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像3
有名になるということは、かかしにされるとイコールなのだと学ばざるを得ないと感じる。35億!
有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像4
あんま似ていなくても雰囲気だけで誰なのかわかってしまう。それが、かかしのスゴさか
有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像5
あと数年は尼さんの格好をしていたらみんな「おんな城主」ってことになるんだろうなあ
 かと思えば、力技で納得させようとしている、かかしも。「29連勝の新星」と題されたかかしがソレ。一瞬混乱するけど、タイトルによって納得させされる感が半端ない。
有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像6
まったく似せようとする気を感じないけれど勢いだけは確実にある。将棋の新星・藤井聡太四段。
 一方で、かかしを通してリビドーを炸裂させている作者も。それが、水トアナをモデルにした、かかし。
有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像7
どれだけ水トアナが好きなのか。その愛情を表現する手段として、かかしを選ぶ熱意に涙
 どのかかしも、タイトル+制作者名・グループが記されているのだけれど、これだけは異質。 「俺の水トちゃん  やっぱりちょいポチャ好きなんだな」  と、書かれているのである。また、ハイレベルな性癖の持ち主に出会ってしまったような気がする。
有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像8
そんなにポッチャリ感がないような気もするけれども……。これが作者の興奮する身体か?
 そんなシュールなかかしが、わんさかとある一方で、激烈に造形を追求したものも。阿修羅像をモチーフにした、かかしはその代表格である。こんなのを田んぼに設置すれば、雀はおろか畑泥棒にも効果がありそうだ。
有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像9
超絶気合の入った阿修羅像。夜中になったら動き出しそうな迫力がたまらない逸品である
 とにかく、なんだからよくわからないシュール系から、リアル系まで、かかしの数は100体以上。どうも、地域ではみんなで盛り上がるイベントになっているようである。  ちなみに、かかしの骨組みは貸し出ししてもらえるとのことなので、来年は参加してみるのもいいかなと思った。  このコンクールを通してわかったこと……有名人になると、かかしにされるってことだな。 (文=昼間たかし) ※次ページより、圧巻のかかしオンパレードをお届けします。
有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像10
まさか誰もが知っている名画をかかしにっ? アイデアは無限大に広まるものだと納得だね
有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像11
こちらも名画をモチーフにしているわけだが、なぜネコを使って賑やかにしようと思った?
有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像12
なるほど! 青いタヌキとは珍しいアイデアだ。いや、タヌキですよ! ネコじゃあありません
有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像13
きっとコレはネズミがモチーフだな。いや、単なるネズミですよ。キャラクターじゃない
有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像14
どう考えても磔にされているようになんだがムーミン谷でどんな事件が起こったのだろう
有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像15
なんだか凶悪そうな顔で表現されてしまったトトロ。これ子どもの味方なんかじゃないよね
有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像16
『ひよっこ』みね子ちゃん。なんだかんだいってテレビでよく見る人物がモデルになるあたりテレビの影響力は健在か
有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像17
パッと見ただけで誰かわかるかどうかが制作する時のポイントの様子。この渡辺直美なんか似すぎてる
有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像18
これ、畑のそばにあったら絶対に畑泥棒とかビビって逃げると思う。そんな迫力が満点だ
有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像19
こういうのを見ると、もはや「かかしとは?」という概念そのものを考えてしまわないか?
有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像20
もはやコレはかかしなのだろうか。深夜とか偶然目撃したら悲鳴を上げてしまう雰囲気だ
有名人になると、かかしにされるのか! 深川・かかしコンクールが妙に熱い!!の画像21
妙においしそうな造形になった作品。残念なことに周囲におでん屋は見当たらなかったよ

書店が6000店も減少している! 懐かしの「ロードサイド書店」をつぶしたのはAmazonか? 

書店が6000店も減少している! 懐かしの「ロードサイド書店」をつぶしたのはAmazonか? の画像1
 2000年には2万店以上あった書店が16年には1万4000店まで減っている――近所の町の書店の閉店などを目にし「書店が前よりも減っている感覚」は多くの人にあるだろう。しかし、こうして数で見ると驚くものがある。そしてこれはいわゆる町の本屋さんだけでなく、紀伊國屋書店新宿南店など、都心の大型書店も含まれているのだ。その要因の一つに当然あるのはAmazonだろう。出版販促コンサルタントの山本豊氏に、移りゆく書店の姿について話を聞いた。 ■2000年時点では、Amazonはまったく脅威だと思われていなかった。 ――00年には2万店以上あった書店が16年には1万4000店まで減っている、というのは衝撃ですね。 山本豊氏(以下、山本) そうですね、後継者不足もありますが、Amazonの影響も大きいですね。 ――Amazonは00年に日本でのサービスを開始し、今や書籍に限らずEC市場を牽引する存在になりましたが、サービス開始時点の段階で、Amazonは書店にどう認識されていたのでしょうか? 山本 Amazonは赤字覚悟で本の送料無料を続けていました。当初は出版社も書店も、このやり方ではもたないと見ていましたね。また、Amazonは外資ですから、出版社にしろ書店にしろ「敵対」とまではいかずとも、「自分たちの土壌に土足で……」のような雰囲気はありましたね。  ただ、その後Amazonが拡大を続けたのはご存知の通りです。書店にとってAmazonはライバルですが、出版社にとってAmazonは販路を広げてくれる存在でもあります。ですが、出版社にしてみればそれまでずっと本を販売してくれた書店への恩義も当然あります。  なので、出版社は表立ってAmazonと何かをすることはせず「書店さんの味方ですよ」というスタンスを取っていました。ですが、そのスタンスも最近そうとも言えなくなってきていますね。 ――書店さんを大事にしていますよ、という出版社の建前もいよいよ崩れつつあるんですね。 ■「Amazonランキング1位」は操作されている? ――山本さんから見て、Amazonのいい点はどこにあると思いますか? 山本 利用者にしてみればいいサービスですよね。品切れはなく、届くのも早いですし。マーケットプレイスでの古本の販売も充実していますよね。 ――マーケットプレイスで、1円で販売されている本はどうやって利益を確保しているのでしょうか。 山本 あちらは送料が一律で257円ですよね。安い配送サービスを利用し、その差額を得ているのでしょう。ただ、当然Amazonも手数料を取るでしょうから、1円本の利益は相当薄いでしょうね。 ――Amazonは本別に売り上げのランキングがついていますが、1位を取ると「ベストセラー1位」のタグが付きます。そのタグやランキング上位の実績欲しさに著者が本を買い占め、ランキングを操作することもあるとも聞きますが……。 山本 一人の方が100冊買っても1カウントにしかならないようですね。「操作」するなら相当大掛かりにやらないといけないでしょう。 ――この「ベストセラー1位」は効力のあるものなのでしょうか? 山本 かつては効力があったと思いますが、今はさほど、という感じですね。内情をわかっている消費者も増えてきましたから。 ■90年代の日本の郊外の風景「ロードサイド書店」は絶滅する? ――書店は上場企業もありますが、最新年度の決算を見ると文教堂が赤字、三洋堂も前年よりも営業利益を落としています。 山本 三洋堂さんは愛知に本社のある書店さんで、いわゆる「ロードサイド書店」の走りですね。 ――東京など車なしでも生活できる都市圏の人にはピンとこないかもしれませんが、私は地方の郊外出身なので「ロードサイド書店」にはグッとくるものがあります。90年代くらいから、地方の郊外にはロードサイドに大型の書店が増えましたね。ネットも普及していなかった時代に、地方でも「文化」を感じる空間でした。 山本 ロードサイド書店は減ってきてしまいましたね。文教堂さんもかつては神奈川近郊でロードサイド店を多く展開していましたが、今は「アニメガ」という店舗形態に力を入れています。アニメガではアニメや関連グッズに注力しており、場所もロードサイドではなく、駅チカだったり、駅ビルのテナントに入っていたりと、路線転換しています。 ――出版不況でも、信者を抱える「萌え」は強いのですね。ロードサイド書店を駆逐したのはAmazonなのでしょうか? 山本 Amazonも当然ありますが、昨今増えたワンストップモールの影響もあるかと思います。それこそイオンのような、一店舗だけですべての買い物が完結するような超大型ショッピングモールの存在ですね。そういった店舗には大型書店も入っていますので。 ――書店という切り口だけで見ても、この20年で随分流通の姿は変わっているのですね。 * * *  なお、Amazonは「法人税を日本に払っていない疑惑」がある。Amazonの16年における日本事業の売上高は1兆1660億(1ドル108円で算出)になる。ちなみに日本経済新聞社のサイトのランキングで調べると、ユニクロのファストリテーリングの16年の売上高は1兆7778億円になり、これは全上場企業中73位になる。  ユニクロを小さくしたくらいの超大企業が日本に法人税を納めていないのは問題だ。しかしAmazonは、そもそも米国にも売上規模の割には法人税をさほど払っていない。Amazonの営業利益率は、16年は3%、15年は2%、14年は0.2%だ。ちなみに楽天の営業利益率は16年は9.9%、15年は13.2%、14年は17.2%になる。Amazonの投資家向け資料を見ると、「短期的な利益よりも中長期的なマーケットでの主導権をつかむための投資を続ける」といった趣旨の記載があり、利益は、徹底的にさらなる拡大のための投資に回す方針なのだ。  利用者にしてみればAmazonは確かに便利なサービスだが、宅配業者の再配達問題などAmazonと利用者「以外」の関係者の疲弊は大きいし、街の書店は6000店が消えて風景も変わった。最後はAmazon以外、草一本も生えてないのかもしれない。 (文/石徹白未亜 [http://itoshiromia.com/]) ■山本豊氏 出版販促サポートサイト 出版SPプラス:http://booksales.jp

書店が6000店も減少している! 懐かしの「ロードサイド書店」をつぶしたのはAmazonか? 

書店が6000店も減少している! 懐かしの「ロードサイド書店」をつぶしたのはAmazonか? の画像1
 2000年には2万店以上あった書店が16年には1万4000店まで減っている――近所の町の書店の閉店などを目にし「書店が前よりも減っている感覚」は多くの人にあるだろう。しかし、こうして数で見ると驚くものがある。そしてこれはいわゆる町の本屋さんだけでなく、紀伊國屋書店新宿南店など、都心の大型書店も含まれているのだ。その要因の一つに当然あるのはAmazonだろう。出版販促コンサルタントの山本豊氏に、移りゆく書店の姿について話を聞いた。 ■2000年時点では、Amazonはまったく脅威だと思われていなかった。 ――00年には2万店以上あった書店が16年には1万4000店まで減っている、というのは衝撃ですね。 山本豊氏(以下、山本) そうですね、後継者不足もありますが、Amazonの影響も大きいですね。 ――Amazonは00年に日本でのサービスを開始し、今や書籍に限らずEC市場を牽引する存在になりましたが、サービス開始時点の段階で、Amazonは書店にどう認識されていたのでしょうか? 山本 Amazonは赤字覚悟で本の送料無料を続けていました。当初は出版社も書店も、このやり方ではもたないと見ていましたね。また、Amazonは外資ですから、出版社にしろ書店にしろ「敵対」とまではいかずとも、「自分たちの土壌に土足で……」のような雰囲気はありましたね。  ただ、その後Amazonが拡大を続けたのはご存知の通りです。書店にとってAmazonはライバルですが、出版社にとってAmazonは販路を広げてくれる存在でもあります。ですが、出版社にしてみればそれまでずっと本を販売してくれた書店への恩義も当然あります。  なので、出版社は表立ってAmazonと何かをすることはせず「書店さんの味方ですよ」というスタンスを取っていました。ですが、そのスタンスも最近そうとも言えなくなってきていますね。 ――書店さんを大事にしていますよ、という出版社の建前もいよいよ崩れつつあるんですね。 ■「Amazonランキング1位」は操作されている? ――山本さんから見て、Amazonのいい点はどこにあると思いますか? 山本 利用者にしてみればいいサービスですよね。品切れはなく、届くのも早いですし。マーケットプレイスでの古本の販売も充実していますよね。 ――マーケットプレイスで、1円で販売されている本はどうやって利益を確保しているのでしょうか。 山本 あちらは送料が一律で257円ですよね。安い配送サービスを利用し、その差額を得ているのでしょう。ただ、当然Amazonも手数料を取るでしょうから、1円本の利益は相当薄いでしょうね。 ――Amazonは本別に売り上げのランキングがついていますが、1位を取ると「ベストセラー1位」のタグが付きます。そのタグやランキング上位の実績欲しさに著者が本を買い占め、ランキングを操作することもあるとも聞きますが……。 山本 一人の方が100冊買っても1カウントにしかならないようですね。「操作」するなら相当大掛かりにやらないといけないでしょう。 ――この「ベストセラー1位」は効力のあるものなのでしょうか? 山本 かつては効力があったと思いますが、今はさほど、という感じですね。内情をわかっている消費者も増えてきましたから。 ■90年代の日本の郊外の風景「ロードサイド書店」は絶滅する? ――書店は上場企業もありますが、最新年度の決算を見ると文教堂が赤字、三洋堂も前年よりも営業利益を落としています。 山本 三洋堂さんは愛知に本社のある書店さんで、いわゆる「ロードサイド書店」の走りですね。 ――東京など車なしでも生活できる都市圏の人にはピンとこないかもしれませんが、私は地方の郊外出身なので「ロードサイド書店」にはグッとくるものがあります。90年代くらいから、地方の郊外にはロードサイドに大型の書店が増えましたね。ネットも普及していなかった時代に、地方でも「文化」を感じる空間でした。 山本 ロードサイド書店は減ってきてしまいましたね。文教堂さんもかつては神奈川近郊でロードサイド店を多く展開していましたが、今は「アニメガ」という店舗形態に力を入れています。アニメガではアニメや関連グッズに注力しており、場所もロードサイドではなく、駅チカだったり、駅ビルのテナントに入っていたりと、路線転換しています。 ――出版不況でも、信者を抱える「萌え」は強いのですね。ロードサイド書店を駆逐したのはAmazonなのでしょうか? 山本 Amazonも当然ありますが、昨今増えたワンストップモールの影響もあるかと思います。それこそイオンのような、一店舗だけですべての買い物が完結するような超大型ショッピングモールの存在ですね。そういった店舗には大型書店も入っていますので。 ――書店という切り口だけで見ても、この20年で随分流通の姿は変わっているのですね。 * * *  なお、Amazonは「法人税を日本に払っていない疑惑」がある。Amazonの16年における日本事業の売上高は1兆1660億(1ドル108円で算出)になる。ちなみに日本経済新聞社のサイトのランキングで調べると、ユニクロのファストリテーリングの16年の売上高は1兆7778億円になり、これは全上場企業中73位になる。  ユニクロを小さくしたくらいの超大企業が日本に法人税を納めていないのは問題だ。しかしAmazonは、そもそも米国にも売上規模の割には法人税をさほど払っていない。Amazonの営業利益率は、16年は3%、15年は2%、14年は0.2%だ。ちなみに楽天の営業利益率は16年は9.9%、15年は13.2%、14年は17.2%になる。Amazonの投資家向け資料を見ると、「短期的な利益よりも中長期的なマーケットでの主導権をつかむための投資を続ける」といった趣旨の記載があり、利益は、徹底的にさらなる拡大のための投資に回す方針なのだ。  利用者にしてみればAmazonは確かに便利なサービスだが、宅配業者の再配達問題などAmazonと利用者「以外」の関係者の疲弊は大きいし、街の書店は6000店が消えて風景も変わった。最後はAmazon以外、草一本も生えてないのかもしれない。 (文/石徹白未亜 [http://itoshiromia.com/]) ■山本豊氏 出版販促サポートサイト 出版SPプラス:http://booksales.jp

男だったら野望を持て! 狂気と暴力が織り成す“殺しんぼ”『野望の王国』

男だったら野望を持て! 狂気と暴力が織り成す殺しんぼ『野望の王国』の画像1
『野望の王国 完全版』(日本文芸社)
 突然ですが、皆さんの「野望」はなんでしょうか? 人は皆、誰しも心に野望を秘めているはず。社長になりたい、ユーチューバーになりたい、総選挙で推しメンを1位にしたい、ラーメン二郎を全店制覇したいなどなど……。  今回ご紹介する『野望の王国』は、そんな野望ニストに死ぬまでに一度は読んでほしい作品。東大法学部を首席で卒業するほどの頭脳を持つ男たちが、権力への野望に取り憑かれ、日本を支配するために暴力団・警察・政治・宗教など、ありとあらゆるものを利用して野望を達成しようとする究極のバイオレンス劇画。どこを切ってもすさまじい暴力表現と、狂気のキャラクターにあふれています。こんなに何もかもが狂ってるマンガは、ほかに見たことありません。  本作は1977年から82年まで「週刊漫画ゴラク」(日本文芸社)に連載されており、原作は雁屋哲先生、作画は由起賢二先生です。雁屋先生は『美味しんぼ』の原作者として有名ですが、本作は『美味しんぼ』のコンセプトとは対極にある、狂気と暴力がメインの「殺しんぼ」な作品であるといえます。  主人公は橘征五郎と片岡仁という東大法学部の学生2人。東大で主席を争うほど頭脳明晰なだけでなく、弱小アメフト部を2人の活躍で日本一にしてしまうほどのスポーツ万能ぶり。将来は大学教授か官僚か、いずれにしてもエリート街道まっしぐらと思われていた2人が、研究室の教授に進路を聞かれると……  征五郎「我々は野望達成にすべてをかけると決めたのです」「ぼくたちが法学部政治学科で政治を学んだのは、人が人を支配する仕組み、権力をつかむための方法を学ぶためだったといっていいでしょう!」  片岡「この世は荒野だ! 唯一野望を実行に移す者のみがこの荒野を制することができるのだ!」  このように、意味不明なことをのたまいます。教授も同級生もお口アングリ、唖然です。  実は主役のひとり、征五郎は神奈川県下最大の暴力団「橘組」組長の五男坊。しかし、組長の妾腹の息子のため、本妻の息子たちに比べて冷遇されていました。そのため、相棒の片岡とともに橘組を乗っ取り、暴力で日本を支配するという大いなる野望を持っていたのでした。東大で一生懸命勉強してきた結論がこれですよ。東大は一体何を教えているんでしょうか。  そして、ついに征五郎と片岡の野望が動きだす時が来ました。橘組の親分、橘征蔵が死去し、世代交代が起こります。跡を継ぐ息子たちは征一郎から征五郎までの5人兄弟。そして、そのうち征二郎と征五郎だけが妾腹。兄弟それぞれの思惑が動きだします。  次期組長の第一候補で長男の征一郎が30歳、次男の征二郎が29歳、双子の征三郎と征四郎が28歳、末っ子の征五郎が21歳という設定なのですが、どいつもこいつも余裕で40代以上の面構え、実年齢+15歳ぐらいはいってそうなルックスなのです。 ■恐るべき東大生、征五郎・片岡の手腕  征五郎と片岡の橘組乗っ取り計画は、組長の葬儀の日に決行されました。2人が秘密裏に雇った兵隊たちが、橘組本家に奇襲をかけます。葬儀の日とあって、大混乱の橘組。そのドサクサで征一郎を暗殺。あっという間に、組長と次期組長の葬儀になってしまいました。  さらに、告別式にも巨大なタンクローリーを突っ込ませ、業火の渦でパニックになる中、ヒットマンが征三郎を暗殺。この鮮やかな手口、東大生の頭脳が遺憾なく発揮されています(悪いほうに)。そんな感じで、東大生の野望のために、いとも簡単に人が死んでいくマンガなのです。  とにかく本作のテーマは「野望」そして「暴力」です。征五郎と片岡は、こんな名ゼリフを残しています。 「男は一旦、野望にとりつかれたら、もう燃えつきるまで猛進するしかありません」 「力とは、暴力それに金。他に何が必要だというんです?」  いや、ほかにもいろいろ必要だと思うんですけど……。 ■最強のカリスマヤクザ征二郎  征一郎が殺された後、橘組の新組長となった征二郎、この男こそ、征五郎と片岡の野望にとって最大の障壁となる男です。知力は東大生の2人をも上回り、殺しをやれば冷酷非道。そして、組長としての圧倒的なカリスマ性を持つ――。これで29歳です。なんて嫌なアラサーでしょうか。  征二郎はそのカンのよさから、一連の兄弟殺しに征五郎と片岡が絡んでいるのではないかと早々に疑いを持ちますが、同じ妾腹の息子としてつらい境遇を歩んできた征五郎をかわいがっていたため、どうしても征五郎の裏切りに確信を持つことができません。  そんな中、本家の生き残りでアホの征四郎が征五郎たちにそそのかされ、兄を殺したのは征二郎だと思い込み、戦争を仕掛けます。怒った征二郎は、征四郎の屋敷を米軍のヘリを使って空爆。屋敷から逃げ出してきた征四郎を生け捕りにして、証拠を一切残さず始末してしまいます。恐るべき征二郎の力……。兄弟を倒すのに米軍まで使うヤクザって聞いたことないよ! ■マンガ史上最悪のバイオレンス警察署長・柿崎  そんな内輪モメに揺れる橘組をぶっ潰さんと、川崎中央署に赴任してきた新任警察署長、柿崎憲。征五郎や片岡の先輩にあたる東大法学部卒で、30歳にして署長に就任。超スピードで出世街道を歩むこの男こそ、マンガ史上最悪の危険思想を持つ警察署長です。というか、このマンガに出てくる東大出身者は基本的に危険人物しかいません。 「おれが警察庁に入ったのは日本の警察を動かす力を持つためだ! 日本は警察国家だ!警察こそは日本最大の暴力機構だ! おれはその警察を乗っ取るのだ!!」 「この世を支配するのは暴力だっ! 暴力が全てだっ! 日本の表世界の暴力機構が警察なら、裏世界のそれは暴力団だっ! 表裏二つの暴力機構を握れば巨大な権力をつかむことが出来るっ!」 「川崎中央署の全ての力を2人の思う通りに使うがいい。人殺しでもなんでも無制限だ!」  どうですか、柿崎のこの名ゼリフの数々。警察は日本最大の暴力機構って……。こいつにかかると警察が悪党、ヤクザが正義の味方に見えてしまうから困ります。  この柿崎の登場により、征二郎率いる正統派ヤクザの橘組、橘組を乗っ取ろうと画策する征五郎・片岡の若獅子会、どちらもまとめてぶっ潰そうとする柿崎警察署長の三すくみによるすさまじい裏切り合い、潰し合いがラストまで続きます。  舞台となる川崎は、こいつらの闘いのせいで製鉄場爆破、石油コンビナート爆破、造船所爆破、競馬場での暴動などが引き起こされた挙げ句、川崎中が火の海になります。なんて川崎市民に迷惑なマンガなんだ……。  ほかにも関西最大の暴力団や、自衛隊を自由に使えるほどの強大な力を持つ政界のフィクサー、信者を次々と殺人鬼に洗脳する信仰宗教の教祖様などなど、とりあえず関わったら絶対ヤバいジャンルのヤツらが一通り絡んできて、狂った暴力世界を奏でている作品です。  長編作品ながら、一度読みだすと続きが気になって途中でやめられない、そんなかっぱえびせんやプリングルズのような中毒性を持った劇画です。画も内容もあまりに濃すぎるので敬遠する人も多そうですが、だまされたと思って読んでみてください。絶対にハマります。そして知らず知らずのうちに、あなたの心にも野望の火がともるに違いありません。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>) 「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

男だったら野望を持て! 狂気と暴力が織り成す“殺しんぼ”『野望の王国』

男だったら野望を持て! 狂気と暴力が織り成す殺しんぼ『野望の王国』の画像1
『野望の王国 完全版』(日本文芸社)
 突然ですが、皆さんの「野望」はなんでしょうか? 人は皆、誰しも心に野望を秘めているはず。社長になりたい、ユーチューバーになりたい、総選挙で推しメンを1位にしたい、ラーメン二郎を全店制覇したいなどなど……。  今回ご紹介する『野望の王国』は、そんな野望ニストに死ぬまでに一度は読んでほしい作品。東大法学部を首席で卒業するほどの頭脳を持つ男たちが、権力への野望に取り憑かれ、日本を支配するために暴力団・警察・政治・宗教など、ありとあらゆるものを利用して野望を達成しようとする究極のバイオレンス劇画。どこを切ってもすさまじい暴力表現と、狂気のキャラクターにあふれています。こんなに何もかもが狂ってるマンガは、ほかに見たことありません。  本作は1977年から82年まで「週刊漫画ゴラク」(日本文芸社)に連載されており、原作は雁屋哲先生、作画は由起賢二先生です。雁屋先生は『美味しんぼ』の原作者として有名ですが、本作は『美味しんぼ』のコンセプトとは対極にある、狂気と暴力がメインの「殺しんぼ」な作品であるといえます。  主人公は橘征五郎と片岡仁という東大法学部の学生2人。東大で主席を争うほど頭脳明晰なだけでなく、弱小アメフト部を2人の活躍で日本一にしてしまうほどのスポーツ万能ぶり。将来は大学教授か官僚か、いずれにしてもエリート街道まっしぐらと思われていた2人が、研究室の教授に進路を聞かれると……  征五郎「我々は野望達成にすべてをかけると決めたのです」「ぼくたちが法学部政治学科で政治を学んだのは、人が人を支配する仕組み、権力をつかむための方法を学ぶためだったといっていいでしょう!」  片岡「この世は荒野だ! 唯一野望を実行に移す者のみがこの荒野を制することができるのだ!」  このように、意味不明なことをのたまいます。教授も同級生もお口アングリ、唖然です。  実は主役のひとり、征五郎は神奈川県下最大の暴力団「橘組」組長の五男坊。しかし、組長の妾腹の息子のため、本妻の息子たちに比べて冷遇されていました。そのため、相棒の片岡とともに橘組を乗っ取り、暴力で日本を支配するという大いなる野望を持っていたのでした。東大で一生懸命勉強してきた結論がこれですよ。東大は一体何を教えているんでしょうか。  そして、ついに征五郎と片岡の野望が動きだす時が来ました。橘組の親分、橘征蔵が死去し、世代交代が起こります。跡を継ぐ息子たちは征一郎から征五郎までの5人兄弟。そして、そのうち征二郎と征五郎だけが妾腹。兄弟それぞれの思惑が動きだします。  次期組長の第一候補で長男の征一郎が30歳、次男の征二郎が29歳、双子の征三郎と征四郎が28歳、末っ子の征五郎が21歳という設定なのですが、どいつもこいつも余裕で40代以上の面構え、実年齢+15歳ぐらいはいってそうなルックスなのです。 ■恐るべき東大生、征五郎・片岡の手腕  征五郎と片岡の橘組乗っ取り計画は、組長の葬儀の日に決行されました。2人が秘密裏に雇った兵隊たちが、橘組本家に奇襲をかけます。葬儀の日とあって、大混乱の橘組。そのドサクサで征一郎を暗殺。あっという間に、組長と次期組長の葬儀になってしまいました。  さらに、告別式にも巨大なタンクローリーを突っ込ませ、業火の渦でパニックになる中、ヒットマンが征三郎を暗殺。この鮮やかな手口、東大生の頭脳が遺憾なく発揮されています(悪いほうに)。そんな感じで、東大生の野望のために、いとも簡単に人が死んでいくマンガなのです。  とにかく本作のテーマは「野望」そして「暴力」です。征五郎と片岡は、こんな名ゼリフを残しています。 「男は一旦、野望にとりつかれたら、もう燃えつきるまで猛進するしかありません」 「力とは、暴力それに金。他に何が必要だというんです?」  いや、ほかにもいろいろ必要だと思うんですけど……。 ■最強のカリスマヤクザ征二郎  征一郎が殺された後、橘組の新組長となった征二郎、この男こそ、征五郎と片岡の野望にとって最大の障壁となる男です。知力は東大生の2人をも上回り、殺しをやれば冷酷非道。そして、組長としての圧倒的なカリスマ性を持つ――。これで29歳です。なんて嫌なアラサーでしょうか。  征二郎はそのカンのよさから、一連の兄弟殺しに征五郎と片岡が絡んでいるのではないかと早々に疑いを持ちますが、同じ妾腹の息子としてつらい境遇を歩んできた征五郎をかわいがっていたため、どうしても征五郎の裏切りに確信を持つことができません。  そんな中、本家の生き残りでアホの征四郎が征五郎たちにそそのかされ、兄を殺したのは征二郎だと思い込み、戦争を仕掛けます。怒った征二郎は、征四郎の屋敷を米軍のヘリを使って空爆。屋敷から逃げ出してきた征四郎を生け捕りにして、証拠を一切残さず始末してしまいます。恐るべき征二郎の力……。兄弟を倒すのに米軍まで使うヤクザって聞いたことないよ! ■マンガ史上最悪のバイオレンス警察署長・柿崎  そんな内輪モメに揺れる橘組をぶっ潰さんと、川崎中央署に赴任してきた新任警察署長、柿崎憲。征五郎や片岡の先輩にあたる東大法学部卒で、30歳にして署長に就任。超スピードで出世街道を歩むこの男こそ、マンガ史上最悪の危険思想を持つ警察署長です。というか、このマンガに出てくる東大出身者は基本的に危険人物しかいません。 「おれが警察庁に入ったのは日本の警察を動かす力を持つためだ! 日本は警察国家だ!警察こそは日本最大の暴力機構だ! おれはその警察を乗っ取るのだ!!」 「この世を支配するのは暴力だっ! 暴力が全てだっ! 日本の表世界の暴力機構が警察なら、裏世界のそれは暴力団だっ! 表裏二つの暴力機構を握れば巨大な権力をつかむことが出来るっ!」 「川崎中央署の全ての力を2人の思う通りに使うがいい。人殺しでもなんでも無制限だ!」  どうですか、柿崎のこの名ゼリフの数々。警察は日本最大の暴力機構って……。こいつにかかると警察が悪党、ヤクザが正義の味方に見えてしまうから困ります。  この柿崎の登場により、征二郎率いる正統派ヤクザの橘組、橘組を乗っ取ろうと画策する征五郎・片岡の若獅子会、どちらもまとめてぶっ潰そうとする柿崎警察署長の三すくみによるすさまじい裏切り合い、潰し合いがラストまで続きます。  舞台となる川崎は、こいつらの闘いのせいで製鉄場爆破、石油コンビナート爆破、造船所爆破、競馬場での暴動などが引き起こされた挙げ句、川崎中が火の海になります。なんて川崎市民に迷惑なマンガなんだ……。  ほかにも関西最大の暴力団や、自衛隊を自由に使えるほどの強大な力を持つ政界のフィクサー、信者を次々と殺人鬼に洗脳する信仰宗教の教祖様などなど、とりあえず関わったら絶対ヤバいジャンルのヤツらが一通り絡んできて、狂った暴力世界を奏でている作品です。  長編作品ながら、一度読みだすと続きが気になって途中でやめられない、そんなかっぱえびせんやプリングルズのような中毒性を持った劇画です。画も内容もあまりに濃すぎるので敬遠する人も多そうですが、だまされたと思って読んでみてください。絶対にハマります。そして知らず知らずのうちに、あなたの心にも野望の火がともるに違いありません。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>) 「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

結婚相談所は、二次元嫁を探す場所じゃない!? 「とら婚」ツイートの反響と“リアルオタク”の結婚事情

結婚相談所は、二次元嫁を探す場所じゃない!? 「とら婚」ツイートの反響とリアルオタクの結婚事情の画像1
「とら婚」公式サイトより
 各所で注目を集めている、とらのあな結婚相談所「とら婚」のツイートに賛否両論が飛び交い、話題になっている。  2月に誕生した「とら婚」は、同人誌ショップ「とらのあな」のグループ企業。「趣味と結婚を両立させる。オタクに寄り添う結婚相談所」として、現在約400人が加入しているという。  問題となったのは、18日に公式アカウントが発した、こんなツイートである。  * * * ①オタク趣味しかない人 ②オタク趣味を持つけど他にもいろいろやっている人 ③オタク趣味を持つけどなんらかのスペックが高い人 選ばれるのは②か③です なので是非自分に「付加価値」を持たせてください それは多ければ多いほどいいです だから、オタク以外のことにも目を向けて欲しいです 引用 https://twitter.com/ToraCon_Akiba/status/909704489568952320  * * *  これに対して「それが出来る奴はとら婚に行ったりしない」という批判と「引き出しを増やそう」とアドバイスをしていると好意的に受け取る人まで、多数の意見が寄せられているのである。  本来結婚というものは両性の合意によってなされるもの(by日本国憲法)。実際に、これまで結婚することに成功しているオタクは、ツイートの①~③の、どのジャンルに属している人が多いのか。  自身はディープなオタクだが、ある結婚相談所を利用して「一般人」との結婚に成功したA氏は、自身の体験をこう語る。 「自分は、オタク以外に趣味はないんですが……。最初に登録した時にはっきり言われたのが、“太っていると女性には見向きもされない”と。その頃体重が110キロだったんですが、30キロ以上ダイエットしたら、急に申込みが……」  別にイケメンじゃなくても構わないが、まずはプロフィール写真での見た目が重要ということの様子。ただ、結婚に至るまでのデートの間も、特にオタク話をすることはなかったとか。 「食べ物の話とか、他愛もない話ばかりです。お互いの趣味を許容できることがゴールインできた理由だと思います」(A氏)  やはり、趣味の内容よりも相互に「理解」を示し「尊重」することが重要な要素のようである。  一方で「オタクは一般人と結婚すべきでない」と語るのは、オタク同士で結婚したというB氏。 「一般人と結婚したオタクで幸せそうなヤツは、あまり見ませんね。盆暮れのコミケはもちろんのこと、行きたいイベントにも行きづらくなるんじゃないでしょうか」(B氏)  そんなB氏も、ジャンルは違えどコミケにサークル参加している者同士で結婚し幸せだったハズだが「子どもができてから、嫁が子ども優先で土日のイベントには、行きづらくなった」と嘆くのである。 ■結婚相手はお前のママじゃない!!  では、非オタの女性から見ると、問題となったツイートはどう見えるのだろうか。現在、婚活中だという30代の一般人女性は、次のように語る。 「オタクの人って、自分の趣味に関心が強くて他人が関与する余地なんて、ないんじゃないですか。でも、オタク専門の結婚相談所だからっていっても登録するんだったら、当然、オタク以外の趣味を持つとか努力しますよね……?」  さらに、同じオタク界隈でも20代女性からは、こんな指摘が。 「結婚相手を探すために登録して、自分の趣味を認めてくれなんて意識が一番にある人は、キモいですよね。それって、親の代わりに依存する相手を探しているだけですよね。なので、結婚相談所でそんな相手を求められても……」  さらにオタク界隈では、問題のツイートに対して「毎日、どんな会員の相手をさせられているのだろうか」と、スタッフを心配する声も。ま、なんにしても女性たちに品定めされる覚悟と、自らを変える意志がなければ結婚など考えちゃダメだな、と思うがいかがだろうか。 (文=是枝了以)

結婚相談所は、二次元嫁を探す場所じゃない!? 「とら婚」ツイートの反響と“リアルオタク”の結婚事情

結婚相談所は、二次元嫁を探す場所じゃない!? 「とら婚」ツイートの反響とリアルオタクの結婚事情の画像1
「とら婚」公式サイトより
 とらのあな結婚相談所「とら婚」のツイートに賛否両論が飛び交い、話題になっている。  2月に誕生した「とら婚」は、同人誌ショップ「とらのあな」のグループ企業。「趣味と結婚を両立させる。オタクに寄り添う結婚相談所」として、現在約400人が加入しているという。  問題となったのは、18日に公式アカウントが発したこんなツイートである。  * * * (1)オタク趣味しかない人 (2)オタク趣味を持つけど他にもいろいろやっている人 (3)オタク趣味を持つけどなんらかのスペックが高い人 選ばれるのは(2)か(3)です なので是非自分に「付加価値」を持たせてください それは多ければ多いほどいいです だから、オタク以外のことにも目を向けて欲しいです 引用 https://twitter.com/ToraCon_Akiba/status/909704489568952320  * * *  これに対して、「それができる奴はとら婚に行ったりしない」という批判と、「引き出しを増やそうとアドバイスをしている」と好意的に受け取る人まで、多数の意見が寄せられているのである。  本来結婚というものは、両性の合意によってなされるもの(by日本国憲法)。実際、これまで結婚することに成功しているオタクは、ツイートの(1)~(3)の、どのジャンルに属している人が多いのか?  自身はディープなオタクだが、ある結婚相談所を利用して「一般人」との結婚に成功したA氏は、自身の体験をこう語る。 「自分は、オタク以外に趣味はないんですが……。最初に登録した時にはっきり言われたのが、“太っていると女性には見向きもされない”と。その頃体重が110キロだったんですが、30キロ以上ダイエットしたら、急に申込みが……」  別にイケメンでなくても構わないが、まずはプロフィール写真での見た目が重要ということの様子。ただ、結婚に至るまでのデートの間も、特にオタク話をすることはなかったとか。 「食べ物の話とか、他愛もない話ばかりです。お互いの趣味を許容できることが、ゴールインできた理由だと思います」(A氏)  やはり、趣味の内容よりも相互に「理解」を示し「尊重」することが重要な要素のようである。  一方で「オタクは一般人と結婚すべきでない」と語るのは、オタク同士で結婚したというB氏。 「一般人と結婚したオタクで幸せそうなヤツは、あまり見ませんね。盆暮れのコミケはもちろんのこと、行きたいイベントにも行きづらくなるんじゃないでしょうか」(B氏)  そんなB氏も、ジャンルは違えどコミケにサークル参加している者同士で結婚し幸せだったハズだが「子どもができてから子ども優先で、土日のイベントには行きづらくなった」と嘆くのである。 ■結婚相手はお前のママじゃない!!  では、非オタの女性から見ると、問題となったツイートはどう見えるのだろうか。現在、婚活中だという30代の一般人女性は、次のように語る。 「オタクの人って、自分の趣味に関心が強くて他人が関与する余地なんてないんじゃないですか? でも、オタク専門の結婚相談所だからっていっても登録するんだったら、当然、オタク以外の趣味を持つとか努力しますよね……?」  さらに、同じオタク界隈でも20代女性からはこんな指摘が。 「結婚相手を探すために登録して、自分の趣味を認めてくれなんて意識が一番にある人は、キモいですよね。それって、親の代わりに依存する相手を探しているだけですよね。なので、結婚相談所でそんな相手を求められても……」  さらにオタク界隈では、問題のツイートに対して「毎日、どんな会員の相手をさせられているのだろうか」と、スタッフを心配する声も。ま、なんにしても女性たちに品定めされる覚悟と、自らを変える意志がなければ結婚など考えちゃダメだな、と思うが、いかがだろうか? (文=是枝了以)

参拝すればチケットが当選する? 皆中稲荷神社で聞いた、本当の御利益の意味

参拝すればチケットが当選する? 皆中稲荷神社で聞いた、本当の御利益の意味の画像1
 この神社に参拝すれば、チケットが当選する――。  ジャニーズアイドルをはじめ、競争率の極めて高いライブやコンサートのチケットを求めるアイドルファンの中で、そんな御利益のある神社がウワサされている。  それが、東京は新大久保駅の近くにある皆中稲荷神社。戦国時代からの由緒ある神社が、なぜ「チケットが当選する」神社となったのか? そして、本当に参拝するとチケットが当たるのか? 本当のところを聞いた。  神社の由緒によれば、この神社の創建は天文2(1533)年。現在の新宿区百人町にあたる武蔵国躑躅ヶ丘に稲荷之大神が出現し、人々に祭られたのだという。以来、地域の氏神として発展してきた神社で、御利益が話題になったのは江戸時代に入ってからのことである。  江戸時代の寛永年間、この地には江戸警備の役目を担う鉄炮組百人隊が駐屯しており、鉄炮組の与力に射撃の腕を上げるのに精魂を傾けていた者がいた。しかし、思うようにいかない。そんな煩悶としていたある晩、夢枕に稲荷之大神が立った。翌朝、お礼参りに参拝した後で射撃をしたところ、見事に百発百中。それを見た旗本たちが自分たちも霊符を受けたところ、やはり百発百中。そのウワサは江戸市中に広がり、多くの人が霊験あらたかな神社であると参拝するようになった。  人々は神社を「皆中(みなあたる)の稲荷」と呼び、いつしか神社は「皆中稲荷神社」と呼ばれるようになり、それが時代を経て、その御利益は射撃だけでなく、さまざまな開運へと広がっていったというわけである。  さて、取材に訪れたのは平日の日中。にもかかわらず、境内には参拝する人の姿が絶えることがない。そんな神社の絵馬掛けで目立つのは、各所でウワサされている最新の御利益を願うもの。ジャニーズグループや韓流アイドルなど、さまざまなライブ・コンサートやイベントのチケットに当選することを願うものは特に目立つ。  これもファンゆえなのか、「○○さんたちと今年も縁が結ばれて当選しますように」とチケットの当選を願いつつ、応援しているグループの活躍も合わせて祈願しているものもある。
参拝すればチケットが当選する? 皆中稲荷神社で聞いた、本当の御利益の意味の画像2
 一方で、古くから知られる神社の御利益である射撃の腕の向上、そして宝くじの当選を願う者も……。この神社、現在はチケットが当選する御利益をよく聞くが、実はそれ以前から、宝くじが当たる神社としても知られていた。 「以前から、パチンコとか競馬とか、ギャンブルの御利益があると参拝される方もいらっしゃいました。ここ数年、宝くじが当選する御利益もあるということで参拝される方も増えてきました……そういうものばかりというのも、神社参拝の本来の主旨からはいかがかという思いもあるんですけどね」  そう話すのは、同神社権禰宜の鶴田裕信さんである。  取材の前に調べてみたところ、新聞や雑誌で「宝くじ」の御利益があると報じられるようになったのは1990年代中頃から。21世紀に入り、次第にその御利益を紹介する記事が増えている。 「それ以前は、神社の名前のように『<みなあたる>開運の神社』ということで参拝されていました。稲荷神社そのものが、元は農業の神様からさまざまな産業に御利益があると広がっていったものなんですよ」  その「みなあたる」というところが広まって、開運の中でも特に当選系のものに御利益があるという形で広がっていったようだ。 「チケット当選の御利益を求めて、参拝される方が目立つようになったのは、ここ2~3年ほどでしょうか」
参拝すればチケットが当選する? 皆中稲荷神社で聞いた、本当の御利益の意味の画像3
■やっぱり!欲得だけで参拝しても御利益は得られない  そこでやはり聞いてみたいのは、実際に御利益を得た人のこと。宝くじに当たったりしている人はいるのかと、尋ねてみた。 「宝くじで高額当選されたと、お礼参りにいらっしゃる方もおられます。絵馬を見ても、当選のお礼を書いている方が何人もいらっしゃいますね」  と、ここまで読んだ人は「ちゃんと御利益を得ている人がいるのか。自分もお参りして高額当選、あるいはチケットを……」と考えるかもしれない。でも、参拝したら、たちどころに当選するなんてことはない。鶴田さんは、参拝と御利益の関係をこう説明する。 「本来、参拝とは神様に感謝して、家族や地域、国の繁栄や自分の健康を祈るもの。参拝する皆さんが、崇敬の気持ちを念ずることによって、神様も威を増します。その結果として、さまざまな御利益に繁栄されるんです。特に崇敬も何もなく<このチケット、宝くじを当てて下さい>では、叶わないことなんですよね」  これまでもいくつかの神社を取材しているが、どこでも共通して語られるのは、まず地元の氏神様をお参りすること。常に、神様への感謝を忘れないことによって、初めて御利益を与えていただけるというわけ。結局は、日頃の行いというのが、もっとも大切だということだ。  今では地域の名物行事(神事)である「鉄炮組百人隊出陣式」も、先代宮司と町の人々が共に復興したもの。そうした神社に奉仕する人々の努力が、ご神徳に反映しているのだろう。近年は外国人の参拝客も絶えないというにぎやかな境内を見て、そう思った。 (取材・文=昼間たかし)
参拝すればチケットが当選する? 皆中稲荷神社で聞いた、本当の御利益の意味の画像4

参拝すればチケットが当選する? 皆中稲荷神社で聞いた、本当の御利益の意味

参拝すればチケットが当選する? 皆中稲荷神社で聞いた、本当の御利益の意味の画像1
 この神社に参拝すれば、チケットが当選する――。  ジャニーズアイドルをはじめ、競争率の極めて高いライブやコンサートのチケットを求めるアイドルファンの中で、そんな御利益のある神社がウワサされている。  それが、東京は新大久保駅の近くにある皆中稲荷神社。戦国時代からの由緒ある神社が、なぜ「チケットが当選する」神社となったのか? そして、本当に参拝するとチケットが当たるのか? 本当のところを聞いた。  神社の由緒によれば、この神社の創建は天文2(1533)年。現在の新宿区百人町にあたる武蔵国躑躅ヶ丘に稲荷之大神が出現し、人々に祭られたのだという。以来、地域の氏神として発展してきた神社で、御利益が話題になったのは江戸時代に入ってからのことである。  江戸時代の寛永年間、この地には江戸警備の役目を担う鉄炮組百人隊が駐屯しており、鉄炮組の与力に射撃の腕を上げるのに精魂を傾けていた者がいた。しかし、思うようにいかない。そんな煩悶としていたある晩、夢枕に稲荷之大神が立った。翌朝、お礼参りに参拝した後で射撃をしたところ、見事に百発百中。それを見た旗本たちが自分たちも霊符を受けたところ、やはり百発百中。そのウワサは江戸市中に広がり、多くの人が霊験あらたかな神社であると参拝するようになった。  人々は神社を「皆中(みなあたる)の稲荷」と呼び、いつしか神社は「皆中稲荷神社」と呼ばれるようになり、それが時代を経て、その御利益は射撃だけでなく、さまざまな開運へと広がっていったというわけである。  さて、取材に訪れたのは平日の日中。にもかかわらず、境内には参拝する人の姿が絶えることがない。そんな神社の絵馬掛けで目立つのは、各所でウワサされている最新の御利益を願うもの。ジャニーズグループや韓流アイドルなど、さまざまなライブ・コンサートやイベントのチケットに当選することを願うものは特に目立つ。  これもファンゆえなのか、「○○さんたちと今年も縁が結ばれて当選しますように」とチケットの当選を願いつつ、応援しているグループの活躍も合わせて祈願しているものもある。
参拝すればチケットが当選する? 皆中稲荷神社で聞いた、本当の御利益の意味の画像2
 一方で、古くから知られる神社の御利益である射撃の腕の向上、そして宝くじの当選を願う者も……。この神社、現在はチケットが当選する御利益をよく聞くが、実はそれ以前から、宝くじが当たる神社としても知られていた。 「以前から、パチンコとか競馬とか、ギャンブルの御利益があると参拝される方もいらっしゃいました。ここ数年、宝くじが当選する御利益もあるということで参拝される方も増えてきました……そういうものばかりというのも、神社参拝の本来の主旨からはいかがかという思いもあるんですけどね」  そう話すのは、同神社権禰宜の鶴田裕信さんである。  取材の前に調べてみたところ、新聞や雑誌で「宝くじ」の御利益があると報じられるようになったのは1990年代中頃から。21世紀に入り、次第にその御利益を紹介する記事が増えている。 「それ以前は、神社の名前のように『<みなあたる>開運の神社』ということで参拝されていました。稲荷神社そのものが、元は農業の神様からさまざまな産業に御利益があると広がっていったものなんですよ」  その「みなあたる」というところが広まって、開運の中でも特に当選系のものに御利益があるという形で広がっていったようだ。 「チケット当選の御利益を求めて、参拝される方が目立つようになったのは、ここ2~3年ほどでしょうか」
参拝すればチケットが当選する? 皆中稲荷神社で聞いた、本当の御利益の意味の画像3
■やっぱり!欲得だけで参拝しても御利益は得られない  そこでやはり聞いてみたいのは、実際に御利益を得た人のこと。宝くじに当たったりしている人はいるのかと、尋ねてみた。 「宝くじで高額当選されたと、お礼参りにいらっしゃる方もおられます。絵馬を見ても、当選のお礼を書いている方が何人もいらっしゃいますね」  と、ここまで読んだ人は「ちゃんと御利益を得ている人がいるのか。自分もお参りして高額当選、あるいはチケットを……」と考えるかもしれない。でも、参拝したら、たちどころに当選するなんてことはない。鶴田さんは、参拝と御利益の関係をこう説明する。 「本来、参拝とは神様に感謝して、家族や地域、国の繁栄や自分の健康を祈るもの。参拝する皆さんが、崇敬の気持ちを念ずることによって、神様も威を増します。その結果として、さまざまな御利益に繁栄されるんです。特に崇敬も何もなく<このチケット、宝くじを当てて下さい>では、叶わないことなんですよね」  これまでもいくつかの神社を取材しているが、どこでも共通して語られるのは、まず地元の氏神様をお参りすること。常に、神様への感謝を忘れないことによって、初めて御利益を与えていただけるというわけ。結局は、日頃の行いというのが、もっとも大切だということだ。  今では地域の名物行事(神事)である「鉄炮組百人隊出陣式」も、先代宮司と町の人々が共に復興したもの。そうした神社に奉仕する人々の努力が、ご神徳に反映しているのだろう。近年は外国人の参拝客も絶えないというにぎやかな境内を見て、そう思った。 (取材・文=昼間たかし)
参拝すればチケットが当選する? 皆中稲荷神社で聞いた、本当の御利益の意味の画像4