「名古屋闇サイト殺人事件」ハンマーで40回殴打されながらも被害者が守り抜いたものとは?

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『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』(角川書店)
 2007年8月24日夜の11時過ぎ、その事件は起こった。  帰宅途中の磯谷利恵さん(当時31歳)が、愛知県名古屋市千種区の路上を歩いていたところ、白いワンボックスカーから出てきた男に道を尋ねられた。そして、一瞬の油断をつき、利恵さんは車の中に押し込まれ、手錠をはめられてしまう。バッグから現金とキャッシュカードを奪った3人の男たちは、拉致現場から30キロメートルあまり離れた愛西市の駐車場まで移動。彼女の頭にガムテープをぐるぐる巻きにし、頭にレジ袋をかぶせた上、40回にわたってハンマーで殴りつけて殺害。無残な遺体は、岐阜県内の山林に埋められた。  凄惨な内容もさることながら、犯人グループがインターネット上の「闇サイト」と呼ばれる場所で知り合い、犯行に及んだこともあり、発生当初から、多くの注目が集まった この事件。あれから10年、作家の大崎善生がこの事件を追ったノンフィクション『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』(角川書店)が刊行された。本書の内容に従って、この事件を振り返ってみよう。  加害者たちが知り合ったのは、インターネット上の掲示板「闇の職業安定所」だった。 「刑務所から出てきたばかりで、派遣をやっています。実にばかばかしい。東海地方で一緒になんか組んでやりませんか」  この書き込みをしたのが、住所不定無職の川岸健治という男。そして、この言葉に呼応して、堀慶末は「どうですか、何か一発やりますか?」というメールを送信。神田司は「以前はオレ詐欺をメインにしていたのですが貧乏すぎて強盗でもしたい位です」と、メールを送った。さらに、途中で離脱するもうひとりを加えた4人の男たちが、犯罪のために動きだしたのだった。  それぞれ、金に困っていた4人だが、どんな犯罪をするのかは誰ひとり考えていなかった。8月21日、ファミリーレストランで落ち合った即席の犯罪集団は、「夜間金庫を狙うか、パチンコ屋がいいのではないか」などと話し合う。しかし、いざ実行に移そうにも、強盗のターゲットを尾行中に見失い、ダーツバーを襲撃しようとしたら休み、さらに昔勤めていた会社事務所に忍び込み金庫を盗もうとしたところ 、金庫自体が 見当たらなかった。行き当たりばったりで、何一つ成果も挙げられない。これで終われば、ただの間抜けな人間たちだった。  しかし、初対面から3日後の8月24日。事件は起こった。  業を煮やした彼らが計画したのが、女性の拉致だった。 「ブランド品とか持っていなくて、黒髪で、あんまり派手じゃない地味系のOLだったら、たくさん貯金しているだろうから」というもくろみで、名古屋市内をぐるぐると移動しながら ターゲットを物色。磯谷利恵さんの外見は、まさに彼らが考えてたものと一致した。155センチと小柄な彼女の体格は、180センチの堀に押さえつけられるとひとたまりもなく、車の中に引きずり込まれた。  車内で手錠をはめられ、包丁を突きつけられ、恐怖のどん底に突き落とされた利恵さん。しかし、彼女は、犯人たちに臆することもなく、気丈に振る舞った。母親に家を買うために貯めていた800万円以上の預金が入ったキャッシュカードを奪われても、決して正しい暗証番号を伝えることはない。頭をハンマーで殴られ、血が飛び散りながらも、利恵さんは「ねえ、お願い、話を聞いて」「殺さないって約束したじゃない」「お願いします。殺さないで」と犯人を説得しようとした。彼女は、母親に女手一つで育てられた。もしかしたら、その脳裏には、ひとり残される母親のためにも、死ぬわけにはいかないという強い思いがあったのかもしれない。しかし、そんな希望は、無残にも振り下ろされるハンマーによって打ち砕かれた。  翌日、犯人グループのひとり、川岸の自首によって、事件は明らかになった。  被害者の母、富美子さんは、事件後、加害者の死刑を求める署名活動を行い、その数は33万人にまで膨れ上がった。この署名は結果として判決に反映されることはなかったが 、神田・堀両被告に対して被害者がひとりの事件としては異例の死刑判決が言い渡される結果を勝ち取った(堀は、上告で無期懲役の判決となるも、余罪が判明し、死刑判決が下された)。  闇サイトで集った男たちによる、無計画な犯行の犠牲となった磯谷利恵さん。あまりにも短絡的な犯行によるその死を追っていくと、怒りや悲しみといったありきたり体の言葉ではとうてい表現できないような強い感情に襲われる。しかし、大崎が注目するのは、そんな卑劣な犯人たちを前に堂々と自分を保ち続けた利恵さんの勇気だった。 「凍りつくような恐怖の中で、 それでも利恵は最後まで自分を保ち続けた。どんなに痛かっただろう、どんなに苦しかっただろう、どんなに怖かっただろう。しかし孤絶する状況の中で、死の恐怖に向かい、 理恵はひとりで戦い抜いた。凍りつくような絶体絶命の状況で、取り乱すこともなく、また絶望することもなかった。敢然と立ち向かい、ひたすら耐え抜いた。その知性と勇気を“誇り”に思い、また“感謝”する」    死の淵に立っても、利恵さんは暴力に屈しなかった。大崎は、その毅然とした態度を後世にまで書き残そうとしている。 (文=萩原雄太[かもめマシーン])

27歳で夭折したA・イェルチン主演作が日本公開!! 『グリーンルーム』に登場するネオナチが怖すぎ

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パンクバンドのベーシスト役を演じたアントン・イェルチン。作品選びがユニークで、さらなるブレイクが期待されていたが……。
『スター・トレック』シリーズ、『ターミネーター4』(09)などのハリウッド超大作に出演する一方、カルト的人気の高い『オッド・トーマス 死神と奇妙な救世主』(13)や音楽ドラマ『君が生きた証』(14)といった通好みな作品でも活躍した若手俳優のアントン・イェルチンが亡くなったのは2016年6月。自身が運転していたジープと自宅の門柱に挟まれての事故死だった。27歳の若さで亡くなったアントンの主演映画『グリーンルーム』が2月11日(土)より日本で公開される。売れないパンクバンドがド田舎のライブハウスまで足を伸ばしたところ、地元のネオナチ集団に襲撃されるというバイオレンススリラーで、パンクバンドのメンバー役のアントンは全身血まみれになりながら迫真の演技を見せている。  米国では2015年に公開され、No.1ヒットを記録した本作。グリーンルームとはライブハウスにある出演者たちのための楽屋のこと。ベーシストのパット(アントン・イェルチン)らパンクバンド「エイント・ライツ」のメンバーは移動車のガソリン代にも困るほどの極貧ツアーを続けていた。ようやくギャラを払ってもらえそうなライブハウスの出演にありつけるが、そこはオレゴン州の僻地にある盛り場で、スキンヘッドのゴロツキたちがたむろする超ヤバい店だった。最悪の雰囲気の中で何とかライブを済ませた一行は速攻で引き揚げようとするが、たまたまバックステージで起きた殺人事件を目撃。パットたちは楽屋に押し止められ、警察はいくら待っても現われない。実はこの店のオーナーであるダーシー(パトリック・スチュワート)はネオナチ集団のボスであり、「目撃者は全員消せ」という命令が手下たちに下されていた。かくしてステージ上で反体制ソングを演奏しまくっていたパットらは、ネオナチを相手に楽屋での籠城戦を強いられる。パンクス魂だけで、果たして武装集団に対抗できるのか?  パンクス版『ダイ・ハード』(88)とも、現代版『わらの犬』(71)ともいえる本作を生み出したのは鬼才ジェレミー・ソルニエ監督。“21世紀のサム・ペキンパー”と称されるほどバイオレンス描写を得意とし、連鎖する暴力のおぞましさを描いた前作『ブルー・リベンジ』(15)はカンヌ映画祭で国際映画批評家連盟賞など5つの賞を受賞した。本作でも米国の田舎町にはびこる排他的な不穏な空気や逃げ場のない楽屋に立て篭るバンドメンバーの絶望感など、観る者の皮膚感覚に強烈に訴え掛けてくるものがある。それまでビンボーながらも自由を謳歌していたパンクバンドのメンバーがひとり、またひとりとネオナチの犠牲者となっていく展開は、右傾化する現代社会の写し鏡として背筋が寒くなる。
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ネオナチのボスを演じるのは『X-MEN』シリーズのプロフェッサーXでおなじみパトリック・スチュワート。貫禄の演技で米国の狂気を体現!
 本作を買い付けたのは配給会社トランスフォーマー。『ムカデ人間』三部作(09~15)など、エクストリーム系の作品を日本でもスマッシュヒットさせてきた実績を持つ。本作の見どころを同社の國宗陽子さんはこう語る。 「前作『ブルー・リベンジ』で米国の病んだ部分をえぐってみせたジェレミー・ソルニエ監督が、人気キャストを得て製作したのが本作。繊細なイメージのあるアントン・イェルチンが必死にサバイバルする姿に注目してください。実はアントンが演じたパットという役は、ジェレミー監督の姿を投影したキャラクターでもあるんです。ジェレミー監督は若い頃はパンクスで、かつての自分と決別するために撮った作品が『グリーンルーム』であり、監督自身の青春時代への惜別の想いが込められた作品になっています。単なるバイオレンス映画ではなく、痛みと苦味を伴った青春映画として楽しめるはずです」
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事件に巻き込まれる地元の女の子アンバー役は売れっ子女優のイモージェン・プーツ。アントンとは『フライトナイト 恐怖の夜』でも共演。
 アントン・イェルチン出演作として、今年1月に米国で公開されたSFミステリー『Rememory』、完成したばかりのサイコスリラー『Thoroughbred』、ラブロマンスもの『Porto』、シリアスな家族もの『We Don’t Belong Here』などが残っているが、日本で公開されるかどうかは未定。主演作としてはズーイー・デシャネルと共演した『ロスト・エリア 真実と幻の出逢う森』(15)と犯罪ドラマ『約束の馬』(15)もあるが、こちらは日本ではDVDスルー扱いとなっている。アントンの最期の代表作といえる『グリーンルーム』が日本で劇場公開されることを切なくも喜びたい。  俳優業と並行してバンド活動も行なっていたことから、本作ではベース演奏を、『君が生きた証』ではギターの腕前を披露してみせたアントン・イェルチン。夭折したカート・コバーン、エイミー・ワインハウスら有名アーティストたちと同じく「27クラブ」の仲間入りしてしまったことが惜しまれる。 (文=長野辰次)
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『グリーンルーム』 監督・脚本/ジェレミー・ソルニエ  出演/アントン・イェルチン、イモージェン・プーツ、パトリック・スチュワート、メイコン・ブレア 配給/トランスフォーマー 2月11日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー (c)2015 Green Room Productions, LLC. All Rights Reserved. http://www.transformer.co.jp/m/greenroom

『山田孝之のカンヌ映画祭』山下敦弘監督&松江哲明監督が激白!「冗談でやってるわけじゃない」

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 俳優の山田孝之がプロデューサーとなり、カンヌ国際映画祭で賞を獲りたいと奔走するテレビ東京のドキュメンタリードラマ『山田孝之のカンヌ映画祭』の山下敦弘監督と松江哲明監督が4日、都内で行われた映画『エリザのために』公開記念記念トークショーに出演した。 『エリザのために』は第69回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で監督賞を受賞した人間ドラマ。監督のクリスティアン・ムンジウはルーマニア人で、本作以外にも2007年に『4ヶ月、3週と2日』で同賞のパルム・ドールを、12年には『汚れなき祈り』で脚本賞を受賞するなど、カンヌで3度の受賞を果たした名監督。  松江監督は「去年の夏にカンヌについてリサーチをして『カンヌに好かれる映画』の法則が、だいたいわかってきたところなんですけど、この作品を観たときに、まさにこれだって」と本作についてコメント。 「フレームの外を常に意識させる作品です。日本映画をディスるみたいに思わないでほしいですけど、日本映画はフレームの中で全部説明しようとする。でもこの作品はフレームの外に何かがある。映っていないところから何か事件が起きる、不穏な緊張感がフレームの外から入ってくる。そこがすごくカンヌ好み」と本作を紹介。  山下監督も「演出が丁寧。ルーマニアの人たちの生活を描きながらも、実はそれが緻密に計算されている。キャスティングも素晴らしい」と絶賛。 『山田孝之のカンヌ映画祭』に話題が及ぶと、山下監督は山田について「僕よりも年下だけど、リーダーというか座長タイプ。普通は映画の現場では監督の名前をとって『山下組』とかやるんですけど、この番組では、まさに『山田組』という感じ」としみじみ。
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 松江監督も「あの番組では突飛なことをしているようですけど、山田くんがやっていることは、意外とカンヌの監督たちと大きくかけ離れていない。例えば脚本もないのに、なんでこんなことやっているんだって思われるかもしれないけど、実はウォン・カーウァイも、そういうスタイルでやっていたりする。嗅覚や勘がすごくいい」とコメント。  松江監督はまた、山田がいかに“もっている男”かも力説し、「たまたまカンヌの事務局に行ったらスタッフと会えるとか、そういういい偶然を呼ぶ人っているんです。カメラが回っているときに奇跡を起こせない人もいる中で、山田孝之は、まさにそれを起こせる人。プロデューサーとしてもすごい」と断言。
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 2人とも、番組の中だけでなく、実際に本気でカンヌを目指しているといい、山下監督が「自分もカンヌ映画祭を獲ることを目標に掲げて今やっている」と話せば、松江監督も「番組をネタだと思っている人がいるんですけど、僕ら冗談でやっているわけじゃないですよ」とニヤニヤ。  カンヌを獲る秘訣についても、山下監督は「魂を込めたもの、作り手の思いというか、これしかできないというか……。そんな、監督のある種の思いがないとまず響かないでしょう」と分析。 「あと、カンヌに実際に行って感じたのは、やっぱり何かしらのコネクションも必要だということ。それは別にいやらしいコネクションという意味ではなくて、外に対する開き方の問題。海外の人はそれが独特で素晴らしい。やっぱり自分から歩み寄っていかないと。日本人はそれが下手ですね」と笑顔で話していた。 (取材・文=名鹿祥史)

『スター・ウォーズ』に高田馬場が登場していた!? 名前のルーツを探る!『知っているようで知らない「ネーミングの謎」』

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『知っているようで知らない「ネーミングの謎」』(三笠書房)
 日刊サイゾー読者のビジネスマン諸氏に、ぜひともおすすめしたい一冊がある。『知っているようで知らない「ネーミングの謎」』(三笠書房)では、ありとあらゆる商品名の由来や、企業名の成り立ちについて解説している。  さて、誰もが知る大ヒットシリーズ『スター・ウォーズ』。現在、新作が絶賛公開中だが、同作品に、早稲田大学などで知られる学生の街、高田馬場の名前が登場するのをご存知だろうか?  本書によれば、15年に公開した『フォースの覚醒』で登場する「タコダナ」という惑星が高田馬場から取って名付けられたという。『フォースの覚醒』の監督は、JJエイブラムス。エイブラムスが初来日した際に、宿泊したホテルが高田馬場にあり、その思い出を込めてつけたとのこと。  『スター・ウォーズ』には、他にも日本がルーツの名称が盛りだくさん。ジョージ・ルーカスは、黒澤明監督の大ファンだというのは周知の通りだが、人気キャラクター「ハン・ソロ」は、戦国時代の忍者・服部半蔵から、「オビ=ワン・ケノービ」は“帯は一番で黒帯”からきているそう。  先日の第4・四半期決算でも広告収入2.5兆円という誇らしい業績をあげる、大手検索サイトのGoogle。検索サイトのみならず、GmailやGoogle mapなど、ほぼ毎日利用するのではないだろうか?  そんなGoogleだが、実はそのGoogleという企業名は、スペルミスから生まれたものだそう。Googleは、前CEOのラリー・ペイジとアルファベット社長のセルゲイ・ブリンの2人によって1998年に創立。名称に、10の100乗を意味する「googol」という数の単位を付ける予定だったが、間違えて「google」とスペルミスで名称を登録してしまい、それがそのまま今日まできているのだとか。  一方で、日本国内で使えても海外では使えないという名称もある。1919年の発売以来、長年愛されている「カルピス」。もともと、カルピスという名称は、原材料である牛乳に含まれる「カルシウム」の“カル”とサンスクリット語で醍醐味を意味する「サルピルマンダ」をくっつけて、語呂を調節したもの。その後、海外進出をはたすカルピスだが、英語圏では「カルピス」が「カウ(牛)ピス(おしっこ)」と聞こえてしまうために「カルピコ」となっている。  また、こちらも親しみのある江崎グリコのお菓子「ポッキー」。英語圏ではポッキーそのままだと、男性器を意味してしまうため、ヨーロッパで人気のテーブルゲーム「ミカド」にそっくりなことから、そのまま「ミカド」という名称に変更されて販売されている。  ほか、国内の企業に多い「フジ◯◯」「サン◯◯」企業それぞれの全く違う由来や、濁音を入れるとヒットするというジンクスの解説など、驚くべき知識が網羅。名称の由来を調べていくと、我々の生活には、さまざまな歴史と結びついていることに気付かされるだろう。

相模原障害者殺人事件は前触れにすぎない? 植松容疑者の「思想」はなぜ、共感を呼んだのか

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『相模原障害者殺傷事件 ―優生思想とヘイトクライム―』(青土社)
 神奈川県相模原市にある障害者福祉施設「神奈川県立 津久井やまゆり園」で、この施設の元職員・植松聖(当時26)の凶行によって19人の入所者が殺害された事件から、半年が経過した。戦後日本国内で発生した事件として、「津山三十人殺し」に次ぐ犠牲者の多さとその規模もさることながら、ネット上に寄せられたこの事件の犯人に対する共感は、ショッキングな出来事として記憶された。いったい、なぜこの事件は起きたのか? そして、この事件から何を考えなければならないのか? 社会学者で、『弱くある自由へ』『精神病院体制の終わり』(青土社)などの著作を持つ立岩真也と、『非モテの品格』(集英社新書)、『フリーターにとって「自由」とは何か』(人文書院)などで知られる批評家の杉田俊介による共著『相模原障害者殺傷事件――優生思想とヘイトクライム』(青土社)から、この事件を振り返る。  植松容疑者は、事件決行5カ月前、2016年2月半ばに衆議院議長大島理森に宛て、「職員の少ない夜勤に決行致します」「見守り職員は結束バンドで身動き、外部との連絡を取れなくします」など、犯行予告と理解できる手紙を書いて、公邸を警戒中の警察官に手渡している。  その一方で、日本軍の設立、5億円の支援を要求するなど、支離滅裂な内容がしたためられたこの手紙で、彼は「私の目標は重複障害者の方が家庭内での生活、及び社会的活動が極めて困難な場合、保護者の同意を得て安楽死できる世界です」「障害者を殺すことは不幸を最大まで抑えることができます」と主張する。「全人類が心の隅に隠した想いを声に出し、実行する決意を持って行動しました」「私が人類の為にできることを真剣に考えた答えでございます」と、社会のために障害者を殺害することを強調。事件後にも、捜査関係者に対しては「殺害した自分は救世主だ」「(犯行は)日本のため」と供述している。  いったい、どうしてこんな支離滅裂で身勝手な主張に、シンパシーが寄せられるのだろうか?   今回の事件を受けて語られるようになった言葉のひとつに「優生思想」がある。優れた子孫の出生を促し、劣った子孫の出生を防止することで、民族の質を高めると考えるこの思想。ナチス・ドイツ政権下での精神病者・障害者に対する断種などが有名だが、実は日本でも1996年まで「優生保護法」があったように、その思想はつい最近までわれわれの身近に存在していた(現在は「母体保護法」に改称されている)。植松容疑者の「人類のために」障害者を殺害するという発想も、この優生思想に影響されたものである。そんな彼の思考や、事件がもたらした余波を受けて杉田が感じたのは、次のような「ヘイト」とのつながりだった。 「青年(編注:植松容疑者)の精神が、この国をじわじわと侵食してきた近年のヘイト的なものの空気を確実に吸い込んできた、(中略)彼の言葉はヘイトスピーチ的なものを醸成してきたこの国の『空気』をどう考えても深く吸い込んできたのであり、その意味でこれはヘイトクライム(差別的な憎悪に基づく犯罪)なのである」  もちろん、現在では優生思想はタブー視されている。しかし、一部の人々がシンパシーを感じてしまうように、それを乗り越えることは簡単なことではない。杉田も、自身の経験から、自分の中にある「内なる優生思想」に対する迷いを、以下のエピソードとともに記述している。  超未熟児として生まれた杉田の息子は、平均的な身長に追いついていないため、成長ホルモンの注射を打っている。保育園でほかの子どもから「なんで小さいの?」と言われ、母親に泣きつく子どもと、ほかの子どもたちとの体格や運動能力の差が目につくようになる。「男の子の場合、背の低さ、身体の小ささが大きなデメリットになるはずだ、そういう功利計算が親である僕らには働いた」と語る杉田。彼自身も、内なる優生思想に対して解決のめどがついていないことを告白する。  一方の立岩は、かつて日本で起こった障害者殺害事件を丹念に掘り返し、この事件を精神医療の問題とすべきではない、と主張。さらに、この事件を取り巻く社会について、社会学の言葉でドライに記述していく。杉田と立岩の思考も、必ずしも一致しているわけではない。本書の中で、2人は安易な「正解」には決して飛びつかず、回りくどくても本当の意味でこの事件の真実に迫る道を探しているようだ。  本書に収録されている立岩との対談の中で、杉田は「悪い方に考えすぎだ、と笑われるかもしれませんが」と前置きしながらこう語る。 「今回の事件はまだ入口にすぎない気がするんです。あれが最悪という感じが少しもしない。これからもっとひどいことが起こる前兆であり、前触れという気がする」  今後の裁判では、次々と新たな事実が明らかにされていくことだろう。杉田の予言めいた言葉が現実のものとならぬよう、この事件については、さまざまな側面から議論がなされなければならない。 (文=萩原雄太[かもめマシーン])

もしも、国がクイズによって統治されたら……衝撃のディストピアマンガ『国民クイズ』

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『国民クイズ』(太田出版)
 もしも、あらゆることがクイズによって決まる、クイズ至上主義の世界があったなら、あなたはどうしますか? エンタメ感にあふれ、戦争もない、ほのぼのした世界――。ちょっと住んでみたいと思いませんか?  今回ご紹介するマンガ『国民クイズ』(原作:杉元伶一、作画:加藤伸吉)はまさに、もし日本がクイズで統治される国になってしまったら……という世界を描いた作品。  舞台は、世界一の経済大国であり、軍事大国になった近未来の日本。民主主義を捨て、国民クイズ体制に移行してイケイケになった日本には、もはやアメリカも中国も、国連すらも逆らうことができないのです。  なにしろ、日本国憲法に<「国民クイズ」は国権の最高機関であり、その決定は国権の最高意思、最高法規として行政・立法・司法その他のあらゆるものに絶対、無制限に優先する>などと記載があります。ほのぼのどころか、ガチでクイズが支配する社会なのです。  国民の関心の中心は、日本国政府「国民クイズ省」の提供により、毎日夜7時から11時まで放映されるテレビ番組『国民クイズ』。なにしろ、国民クイズで優勝した国民は、どんなあり得ない望みでもかなえてもらえるという、ジャパニーズドリームな番組なのです。国民が熱狂するのもうなずけますね。 「いなくなった愛犬を探してほしい」「アダルトビデオのモザイクを消してほしい」なんてスケールの小さいものから、「お隣の奥さんを殺してほしい 」「100億円欲しい」「エッフェル塔を自分の物にしたい」などというトンデモないものまで、日本国が責任を持ってかなえてくれます。実際、国民クイズで「佐渡島を日本から独立させたい」という望みがかない、佐渡島は佐渡島共和国となっています。  当然ながら、問題は難問ばかりです。国民クイズでは、全国から地方予選を勝ち抜いてきた500名が、一次予選「ふるい落としクイズ」にかけられます。そこから決勝クイズに行けるのは、なんと100問中100問……つまり、全問正解した者だけ。失格者は人間のクズとして、強制労働に従事させられるのです。あまりにハイリスクハイリターンなルール。出場者は、文字通り人生を賭けてクイズにチャレンジしているのです。  では、果たして、どんな難問が出題されるのでしょうか? ちょっと見てみましょう。 「昨年初潮を迎えた日本全国の少女のために炊かれた赤飯の総量は?」 (1)3トン (2)50トン (3)800トン 「新橋の蕎麦屋『長寿庵』のカツ丼には、グリンピースがいくつのっている?」 (1)4個  (2)6個 (3)オヤジの気分次第 「宇宙人はいるでしょうか?」 (1)いる (2)いない (3)わからない  もうね、「そんなん知るか!」としか言いようがない難問・奇問の数々。赤飯の総量とか、どうやって調べるんだよ!? ラストの100問目に至っては、サイコロの目を当てるという、完全に運だけの問題。単に知識があるだけではどうにもならない、クイズ王も涙目のルールです。  奇跡的に決勝クイズに進出できたとしても、決勝クイズで自分の望みに相当する得点に達さなければ失格。当然ながら、望みのレベルが高ければ高いほど、必要な得点は高くなります。 「愛犬を探してほしい」190点 「お隣の奥さんを殺してほしい」110万6,482点 「エッフェル塔が欲しい」 6,021万1,905点 といった具合で、失格者は足りなかった点数によって、最高裁でA~Dの戦犯判決を受けることになります。  A級戦犯は全財産を没収され、その財産および自分自身の身までもが日本武道館でオークションにかけられるという、まさしく身の破滅。B級戦犯でも「刑務所の掃除夫20年」や「シベリア送り」など、やはり地獄のような処遇が待っています。クイズの結果で戦犯扱いって……クイズが、ものすごく恐ろしいものに感じますね。 『国民クイズ』の主人公は、その国民クイズの司会者を務める、K井K一。圧倒的な演出力とカリスマ性で国民支持率98%という絶対的人気を誇る人物なのですが、彼もまた、売れない役者時代に国民クイズに出て失格となり、B級戦犯者として奉仕労働で司会をやらされている身だったのです。  K井K一は次第に、国民クイズ体制を転覆しようとする反体制派のテロリストや佐渡島共和国の国民クイズ打倒計画に共鳴するようになり、表面上は国民クイズを象徴する大人気司会者を演じながらも、国家転覆を謀るスパイとして活動するようになるのですが、果たして……。  そんなわけで、軽い気持ちで読み始めると、予想以上にスケールが大きくて、とてつもなく緻密な設定にグイグイ引き込まれる作品、『国民クイズ』をご紹介しました。もし本当にこんなクイズ至上主義の世の中になったら、一体どうしたらいいんでしょうね? とりあえず、カツ丼にのってるグリンピースを数えるところから始めたいと思います。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>) 「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

かわいいアイツも食べるとウマイ!?  アルマジロ、イグアナ、アルパカ……珍肉エッセイ『世界のへんな肉』

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『世界のへんな肉』(新潮社)
『世界のへんな肉』(新潮社)は、100以上もの国や地域を訪れたフリーライター・白石あづさ氏が、旅の話を交えながら“珍肉”の味を伝える、ほんわか珍肉エッセイ。「おとなの週末.com」での連載「世界一周“仰天肉グルメ”の旅」を加筆修正し、書籍化したものだ。  白石氏は、プロフィール写真だけ見ると、線の細い色白美女といった感じだ。しかし、なんでもよく食べる。南米グアマテラでは「君の肌もツルツルさ」と勧められ、ゼラチン質たっぷりの「アルマジロのブラウンシチュー」を、エルサルバドルでは、“樹上のニワトリ”と呼ばれる「イグアナのスパイス炒め」、スウェーデンではちょいとおしゃれに、日本で天然記念物に指定されている「雷鳥のロースト」と「トナカイのカルパッチョ」を食す。  ほかにも、イグアナ、水牛、ビーバー、ダチョウ、ガゼルなど、20種類以上の珍肉を食べまくった。その中には、日本ではアイドル的な存在の、もふもふの毛に、くりんくりんの長いまつ毛が愛らしいアルパカの姿も。「Oh、残酷!」と嘆く人もいるかもしれないが、南米のレストランでは、結構よくメニューに登場する動物である。  筆者も、ペルーへ行った時に現地人に勧められて食べてみたが、これが……うまいんですよねぇ。本書でもつづられているが、脂肪たっぷりでやわらかく、臭みもない。申し分なく、ウマイ肉なのだ。日本では、食用肉といえば、豚、鳥、牛の3種類が超王道だが、世の中には、日本人は知らぬ食用肉だらけ。動物をペットとして見るのか、ハタマタ、食用とするのかは、人間次第で国によってさまざま。  なお、日本にも家畜としてワニを300匹ほど飼育する、食用ワニ牧場があるそうで、白石氏は果敢にも“ワニおじさん”に会いに出かける。そして、ワニの背中部分のゴツゴツとした部分を煮込んだスペシャルカレーを食べることに。気になる、そのお味は……。  まずは本書を呼んで、国内のどこかでお確かめを。 (文=上浦未来) ●しらいし・あづさ 日本大学芸術学部学科卒業。地域紙の記者を経て、約3年の世界放浪へと旅立つ。帰国後はフリーライターとして旅行雑誌、グルメ雑誌等に執筆。これまでに訪ねた国や地域は100以上に上る。著書に『世界のへんなおじさん』(小学館)。

紗倉まな、自身初のスタイルブック発売に感激! メイク術から勝負下着までプライベートを大公開

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 セクシー女優の紗倉まなが14日、東京・ヴィレッジヴァンガード下北沢店で行われた初のスタイルブック『MANA』の発売記念イベントに出席した。  紗倉の撮りおろしのグラビアはじめ、直筆絵画やコラム、私服や下着を紹介するプライベートスナップ、ヘアメーク術が掲載された本書。紗倉は「ある意味今まで出してきたエロ関係の本とか、男性を楽しませることをメインとした本とは真逆の、本当に女性の方も楽しめる内容になっています。エロ要素は全くないんですけど、わたしが『messy』さんで連載していたコラムや、吉田豪さんやケンドーコバヤシさんとの対談も入っています」と本書を紹介。 「ぱっと見からすごくかわいらしい本で、ティファニーブルーの表紙がすごくお洒落です。活字は少しネガティブでドロドロしていますけど、その対極的な部分を逆に楽しんでもらえたら」と見所をアピール。掲載されている下着のスナップもすべて正真正銘の私物だといい、「普通に自分が着けているもの。わたしの勝負下着も写っています!」と笑顔。  その勝負下着について「わたし、肌色の下着が好きなんです。一見、裸に見えるじゃないですか。すげえエロいなって。他の人が着けているそういう下着を見てから自分の勝負下着は肌色って決めたんです」と持論を展開。「肌色で胸の形がよく見える、あんまり安価じゃない、ちゃんとしたブラジャーを勝負下着として使っています」と、うれしそうに話した。
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 普段、紗倉が自宅で行うメイク術も掲載されおり、「メイクのハウツーをこんなに細かく書いたことはないです」と自信たっぷり。「丸顔女子の方はぜひ。仕事をする中で、プロのメイクさんに過去5年くらい、丸顔の子に似合うメイク方法を教わったものを自分なりにアレンジして編み出したものです。丸顔、たぬき顔の女子はぜひチェックしてください」と紗倉。 「今年は心身共に健康がモットー」と一年の豊富も明かし、「去年は心の浮き沈みが激しい時期があったり、体もちょっと弱かったので、今年は健康で丈夫にいきたい」としみじみ。「スタイルブックなんて出せると思っていなかったのですごく嬉しい。したいことの積み重ねで次の仕事が決まるのかなって感じました。今年も安定してやりたいことをのんびりとやっていきたい」とコメント。「アクセルはベタ踏みではなく中踏みくらいで一年頑張ります!」と話していた。 (取材・文=名鹿祥史)
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紗倉まな、自身初のスタイルブック発売に感激! メイク術から勝負下着までプライベートを大公開

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 セクシー女優の紗倉まなが14日、東京・ヴィレッジヴァンガード下北沢店で行われた初のスタイルブック『MANA』の発売記念イベントに出席した。  紗倉の撮りおろしのグラビアはじめ、直筆絵画やコラム、私服や下着を紹介するプライベートスナップ、ヘアメーク術が掲載された本書。紗倉は「ある意味今まで出してきたエロ関係の本とか、男性を楽しませることをメインとした本とは真逆の、本当に女性の方も楽しめる内容になっています。エロ要素は全くないんですけど、わたしが『messy』さんで連載していたコラムや、吉田豪さんやケンドーコバヤシさんとの対談も入っています」と本書を紹介。 「ぱっと見からすごくかわいらしい本で、ティファニーブルーの表紙がすごくお洒落です。活字は少しネガティブでドロドロしていますけど、その対極的な部分を逆に楽しんでもらえたら」と見所をアピール。掲載されている下着のスナップもすべて正真正銘の私物だといい、「普通に自分が着けているもの。わたしの勝負下着も写っています!」と笑顔。  その勝負下着について「わたし、肌色の下着が好きなんです。一見、裸に見えるじゃないですか。すげえエロいなって。他の人が着けているそういう下着を見てから自分の勝負下着は肌色って決めたんです」と持論を展開。「肌色で胸の形がよく見える、あんまり安価じゃない、ちゃんとしたブラジャーを勝負下着として使っています」と、うれしそうに話した。
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 普段、紗倉が自宅で行うメイク術も掲載されおり、「メイクのハウツーをこんなに細かく書いたことはないです」と自信たっぷり。「丸顔女子の方はぜひ。仕事をする中で、プロのメイクさんに過去5年くらい、丸顔の子に似合うメイク方法を教わったものを自分なりにアレンジして編み出したものです。丸顔、たぬき顔の女子はぜひチェックしてください」と紗倉。 「今年は心身共に健康がモットー」と一年の豊富も明かし、「去年は心の浮き沈みが激しい時期があったり、体もちょっと弱かったので、今年は健康で丈夫にいきたい」としみじみ。「スタイルブックなんて出せると思っていなかったのですごく嬉しい。したいことの積み重ねで次の仕事が決まるのかなって感じました。今年も安定してやりたいことをのんびりとやっていきたい」とコメント。「アクセルはベタ踏みではなく中踏みくらいで一年頑張ります!」と話していた。 (取材・文=名鹿祥史)

正体不明の老人がバシバシお悩み解決! 異色のグルメ漫画『デパ地下!』

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『デパ地下!』(日本文芸社)
「デパ地下で 試食しすぎて 出禁かな」(デパ地下川柳)  みなさんは最近、デパ地下に行ってますか? 特に週末になると、デパートのお総菜コーナーってにぎわいますよね。さらに催事場では「北海道うまいもの展」だの「駅弁祭り」だの「ご当地グルメ選手権」だのといった物産展がしょっちゅう開催されて、とんでもない行列ができますし、景気のよくない話が多いデパート業界にあって、いまだにグルメだけは勢いがあるのですが、そこにはデパート担当者の並々ならぬ苦労があるわけで……。  そんなわけで、今回は読むだけでデパ地下ビジネスの秘密がわかる……かもしれないマンガをご紹介したいと思います。その名も『デパ地下!』 。  まずは、デパ地下について軽くおさらいしておきましょう。昨今のデパ地下ブームを語るための重要キーワードとして、「中食」というものがあります。中食とは、外食と内食(家で料理を作って食べる)の中間で、お店で売っているお総菜などを買って家で食べる形態のことです。不況の煽りで外食が減り、その分、中食へシフトしているという話はよくニュースで聞きますね。  そして、そのお総菜がめっちゃ売られてる中食キングダム状態なのが、ご存じデパ地下です。そもそも、なぜデパートの地下フロアに食品売り場が多く集まるのでしょうか? その理由はいくつかあるようです。 ・水回りやガス、電気などの厨房設備が、上階より低コストで設置できる ・地下鉄駅や地下駐車場からダイレクトに集客できる ・食品売り場に集めた客を上層階へ誘う「噴水効果」が期待できる  なるほど、噴水効果! 勉強になりますね。要するに、メントスコーラみたいなもんでしょうか。とにかく、そんな魅惑のグルメスポット、デパ地下に焦点を当てたグルメマンガが、この『デパ地下!』 というわけなのです。  では、ストーリーをご紹介しましょう。主人公は老舗デパート伊勢崎屋の社員、山本勇太(30)です。勇太は広告宣伝部に所属していましたが、ある日、伊勢崎屋立浜店のデパ地下主任を命じられます。   本社広告宣伝部という花形部署からの都落ちということで、テンション下がりまくりの勇太ですが、デパ地下の主任ですから、現場を取り仕切らなければいけません。部下からも上司からもプレッシャーをかけられ、出店している店舗からのお悩み相談も舞い込んできます。実際、老舗の佃煮店・佃平さんが売れ行き不振で撤退すべきか否か悩んでいました。  そんな勇太の前に、救世主が現れます。以前からデパ地下の試食コーナーに頻繁に出没する謎の老人。なんと、この老人が2回以上試食した商品は必ずデパートで行列のできる大ヒットになるという、なんともすごいグルメ嗅覚を持った老人なのです。  勇太はこの救世主、美川老人を尾行して接触。実は超豪邸に住む、謎のグルメ道楽老人だったのです。豪邸に入れてもらった勇太は、美川老人お手製のチャーハンをごちそうになり、意気投合。その後は、事あるごとに美川老人によるプロのコンサルタント顔負けのアドバイスをもらうことで、デパ地下の問題をガンガン解決していく――そんなマンガです。  ところで、先ほどの佃煮が売れなくて困っているデパ地下のお店、佃平ですが、相も変わらず困っています。試食を行っても、お客さんはイマイチのリアクションです。ここで、美川老人の的を射すぎたアドバイスが炸裂! 「ご飯がなくて、なんの佃煮じゃ!」  というわけで、佃煮をホカホカご飯にのせて試食させるようにしたところ、これがバカ売れ!!  さあ、今すぐ全国の佃煮店さんは、ご飯にのせて試食させるべし!  別のエピソードでは、夏の商戦で張り切る勇太が、うなぎフェアをやって、うなぎの焼ける匂いでデパ地下に集客しようというアイデアを出します。勇太の作戦は見事当たり、上々の客の入りだったのですが、ここで問題が発生します。  デパート1階の化粧品売り場にうなぎの匂いが充満してしまい、1階の責任者から大クレームに。香水とか化粧品の香りが一気にうなぎスメルに……。これではシャネルのNo.5がうなぎのNo.5になってしまいます。売り上げへの影響は甚大でしょう。  せっかく好評だったうなぎフェアを、即刻中止にせざるを得ない勇太。しかし、ここで老人のアドバイスが炸裂するのです! 「中がだめなら、外で焼けばいいんじゃ!」  まさに逆転の発想。うなぎを外で焼くって、それはもうすでにデパ地下じゃないんじゃ……というツッコミはさておき、本当にうなぎを外で焼き始めました。外でうなぎを焼いているデパートなんて、前代未聞ですね。しかし、ここからが老人のアドバイスのすごいところです。  なんと、外で焼いたうなぎを、そのまま外で売らずにデパ地下に移動させます。なるほど、うなぎの香ばしい匂いを嗅がせるだけ嗅がせておいて、デパ地下にお客さんを誘導するという、おあずけ作戦です。これはあざとい、あざとすぎる!!  次のお悩みは肉売り場から。ブランド牛である但馬牛の売れ行きが芳しくなくて困っていると、老人からのアドバイスは「音を利用せよ」というものでした。肉のジュージュー焼ける音が食欲をそそるというわけです。  ラジカセにステーキを焼く音を仕込み、人感センサーで但馬牛の売り場を人が通るたびにジュージュー。このシステムの導入の結果、但馬牛がバカ売れというわけです。  というわけで、デパ地下限定グルメマンガ『デパ地下!』 をご紹介しましたが、とにかく正体不明の美川老人がいろいろすごすぎて、ジジイ無双状態。主人公はそれに乗っかっただけの棚ぼたラッキーボーイにすぎないマンガではあるのですが、読んでいるだけで知らないうちにデパ地下のマーケティング戦略についていろいろ勉強になってしまう、すごいマンガなのです。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>) 「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから