東日本大震災から4年「観光バスツアー」で、岩手県の“被災地”釜石市・大槌町を歩いた

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岩手県大槌町の震災遺構となった旧大槌町役場庁舎。壊れたはずの時計の秒針は、なぜか今も少しずつ時を刻んでいるという。
 東日本大震災から4年。時間がたつにつれ、大きな動きでもない限り、被災地の現状はあまり伝えられなくなっている。こと日刊サイゾーでもそれは同じで、震災発生当時は、積極的に現地の声を報じていたが、少しずつその数は減り、最近ではゼロに等しい。決して、震災や被災地を忘れたわけではない。だが、時間がたてばたつほど、どのように向き合ったらいいのかわからなくなっていた。そんな折、「被災地応援バスツアー」なる広告が目に飛び込んできた。ありのままの被災地の現状を知るべく、現地へと向かった。  今回参加したのは、「いわて三陸観光バスツアー 遠野・釜石・大槌号」。朝9時45分、JR花巻駅を出発し、柳田国男の民話で有名な遠野市を通り、釜石市鵜住居地区、旧大槌町役場庁舎、ひょっこりひょうたん島のモデルとして知られる蓬莱島、福幸きらり商店街をめぐる1日がかりのコースだ。
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この日は、編集部ほか、名古屋からやって来たという中年女性6人組が参加。
 このツアーは、2012年4~6月の3カ月間、JRが行った「いわてDC(デスティネーションキャンペーン)」がきっかけで始まったもの。今回のコースのほか、岩手県内では陸前高田・大船渡をめぐるコース、浄土ヶ浜・田老・龍泉洞をめぐるコースなどがある。  警察庁の発表によると、今年2月末の時点で岩手県の死者は4,673人、行方不明者は1,129人に上る。応急仮設住宅および、みなし仮設住宅数は1万2,485戸(岩手県調べ)。入居者は当初から2割程度減ったといい、昨年からは公営住宅の販売も始まったが、その数はまだ十分ではなく、また仮設にいたほうがさまざまな補助金が出ることから、「不便でも生活の基盤ができるまでは出たくない」という人も少なくないようだ。当初は2年とされていた入居期間が5年まで延長されたことからも、住宅整備が思うように進んでいないことがうかがえる。
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ボランティアガイド川崎孝生さん。
 釜石駅からは、“震災語り部”と呼ばれるボランティアガイドの川崎孝生さん(74)が乗り込み、震災直後や現在の町の様子を説明してくれる。釜石駅周辺には最近、2軒のホテルがオープンしたが、いま最も必要とされているもののひとつが宿泊施設だという。工事業者はもちろんだが、家を流され、ふるさとに帰りたくても帰ってこられないという事情を抱えた人の需要が高いのだ。また、3月中旬にオープンしたイオンタウン釜石は、市民に重宝されているという。市街地の店は流され、震災後は内陸まで買い物に行かなければならず、大きな負担となっていたが、特にユニクロの出店は喜ばれているようだ。  釜石市のボランティアガイドは全部で20人ほど。会社勤めをしている人もいるため、実際は10人ほどで交代で担当しているという。川崎さんは震災前からこの仕事に携わり、今年で5年目の大ベテラン。震災前は月1~2回だったが、このツアーが開始されてから忙しい毎日を送っているという。  震災当日、川崎さんは、翌日に行われる予定だった姪の結婚式に参列するため、車で気仙沼に向かっていた。 「初めは道路がグニャッと揺れて、運転している甥っ子がふざけたのかと思ったら、『おじさん、違うよ。地震だよ!』って。急いで車を止めたけど、あたりは大渋滞でどうにもできない。なんとか高台を見つけてそこに避難して海を見ると、海草が見えるほど引き潮になっていた。“これはやばいぞ”と思っていたら、案の定、津波がやって来た。あと5分遅かったら、どうなっていたか……」(川崎さん)
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 まず訪れたのは、駅からバスで5分ほどの場所にある、津波避難場所。4年前、多くの住民がこの高台に避難し、難を逃れた。ひしゃげた手すりが津波の威力を物語る急な階段を上り切ると、目の前には釜石湾が広がる。この日は春を感じさせるような陽気で、海面で太陽の光がキラキラと輝いている。あの日、一瞬にして街をのみ込んだ黒い怪物と同じ海とはとても思えない。
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 釜石湾には、1,200億円をかけた世界最大規模の防波堤が湾口の海中に設置され、海岸に設置された高さ4メートルの防潮堤と併せて市街地を守る構造となっていたが、それをもってしても津波を防ぐことはできず、防波堤を破壊した波が防潮堤を乗り越えて釜石の市街地を押し流した。とはいえ、この防波堤のおかげで、沿岸部の津波高を13メートルから7~9メートルに低減させ、市街への浸水を6分遅らせたことも事実だ。そのわずかな猶予に、この高台まで避難できた人も少なくない。
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 現在、被災前と同じ高さに戻すための災害復旧工事が行われており、防潮堤の高さも6.4メートルから14.5メートル(5階建てのビルに相当)にすることが決まっている。だが、「1000年に一度のためにそんなの造ったって、今回のように崩れるときは崩れるし、修理するのにも金がかかる」「そんな高い防潮堤を造ったら、海が見えなくなる」「海としか生きられないんだから、そんなもの造っても仕方がない」という声も少なくないという。
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4年目の3月11日から日が浅いということもあり、献花台にはたくさんの花が手向けられていた。これまで再三にわたり盗難の被害に遭った賽銭箱は現在、撤去されている。
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 バスはその後、防災施設への避難で200人以上の犠牲を出した鵜住居地区を通り、町長以下40人が犠牲となった旧大槌町役場庁舎へと向かう。  大槌町の死者は1,232人、行方不明者は424人(大槌町調べ)。人口の約1割に当たる町民が犠牲となった。人口に占める犠牲者の割合は、宮城県女川町、岩手県陸前高田市とほぼ並び、被災市町村の中でも飛び抜けている。川崎さんも、大槌町に住むいとこを津波で亡くしている。方々探しても遺体は見つからず、結局、200キロメートル以上も離れた宮城県多賀城市で発見されたという。上半身はなくなってしまっていたが、着けていた下着で、夫が本人と確認したそうだ。 「大槌では、いまだに400人ほどの人が行方不明になっているが、いとこのことがあるから、いったいどこまで流されてしまったのか……」(川崎さん)  実際、岩手県で昨年から1年間で新たに見つかった行方不明者は13人。年々捜索は難航し、運よく見つかった骨のカケラ1つを頼りにDNA鑑定を行わなければならない。それも、結果が出るまで1年はかかる。  東北では、人の魂は恐山がある下北半島に行き着く、という考えがあり、最近では“遺体が見つからないなら、恐山へ行こう”という気持ちになる人も増えてきているという。また、遺体が見つかり、故人をきちんと荼毘に付した家族も、どのような最期を送ったのか知りたい、会えるなら会いたいと、恐山のイタコの力を借りるケースも少なくないという。
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 釜石市や大槌町では現在、「多重防災型のまちづくり」を進めている。盛土でかさ上げした土地や高台に、公共的な施設や商業施設、住宅を建て、海岸近くは公園にする計画だ。あちらこちらでダンプカーやショベルカーなどが忙しく動き回り、かつてそこに人々の生活があったとは思えない、殺伐とした風景が延々と広がる。
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 皮肉にも、家や建物がすべて流されたため、山田線の大槌駅があった場所から海を見ると、その距離がいかに近いかがわかる。遠近法で、海のほうが少し高く見えるほどだ。 「外から来たある人が『こんなに海が近いんだから、こんなところに家や建物を建てるのが間違っている』と言っていたが、それまでは建物の2階など、少し高いところに上がらないと海は見えなかった。こんなに近いなんて、普段は意識することがなかったんですよ」(川崎さん)
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大津波によって、屋根に遊覧船が打ち上げられた民宿。モニュメントとして保存しようという声もあったが、二次被害の恐れから撤去された。
 先の旧大槌町役場庁舎を震災遺構として残すか否かについては町を二分したが、大なり小なり、至るところで同じようなことが起こっている。 「何か新しいものを造ろうとしても、『○○さんはお葬式できていいね。うちは、まだ見つかってないから』という声が必ず出てくる。そうするとみんな、何も言えなくなってしまって、なかなか物事が進まない。また、自分が『家に残れ』と言ったため、家族4人を失ってしまったある男性は、『仮設といっても、自分には屋根のある温かい家がある。家族がいつでも帰ってこられるように』と、津波で流された家の敷地にベンチと屋根を置いていたが、『それを見ると震災を思い出してつらい』という声があり、撤去を余儀なくされたそうです」(川崎さん)
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市街地には、津波の到達位置を伝える看板があちらこちらに。
   川崎さんの話の中で特に印象的だったのは、「“もったいない”という気持ちなどが明暗を分けた」というものだ。軽トラックより普通車を持っていこう、パチンコで大当たりしたから換金してから逃げよう、お父さんの薬を取りに戻ろう、隣の家のおじいちゃん、おばあちゃんを連れてこよう……そんな気持ちで家に戻った人たちがみな、命を落としたという。  「あそこに住んでいたおばあさんは……」「あの家のお嫁さんは……」と、まるで全員と顔見知りだったかのように故人を偲びながら語る川崎さんだが、“震災を語る”という行為は時につらいものではないのだろうか?
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大槌北小学校校庭に建設された「福幸きらり商店街」。商店や飲食店をはじめ、美容院、クリーニング店、電気店に、TSUTAYAまで。
「みなさんが被災地を訪れてくれるのはうれしいです。このバスが通ると、このへんの人はみんな『あっ、今日も来てくれた』って感謝するんです。1人だろうが、30人だろうが関係ない。初めは震災のことを語るなんて不安もありましたが、ある日、町長さんに『ガイドやってるんなら、俺に話してみろ』と言われ、お話したんです。恰幅のいい町長さんで、目を閉じて聞いているもんだから、緊張して半分も話せなったんですが、『お前、いま言った言葉を忘れるなよ。それを絶対伝えろよ』と言われて、安心したというか、自信がついた。座敷に座りながらだったら、やっぱり涙なしには話せないけれど、身ぶり手ぶりを交えてなら気がまぎれる。震災を伝えたい、という気持ちが何より強いんです」(川崎さん)  現在釜石市は、現存する日本最古の洋式高炉「橋野高炉跡」を世界遺産にしようと、市民が一丸となってPR活動に乗り出している。「6月に登録の可否が正式決まるんですが、富岡製糸場だって決まったし、間違いない。これをきっかけに、観光客が増えることを期待しています。現在はバスのチャーター便を増やしたり、ボランティアガイドも増員しているところ。楽しみだね」  そう語る川崎さんの笑顔は、この日一番だった。 (取材・文=編集部)

ついに決着! 大荒れの大塚家具株主総会で垣間見た、久美子社長の“狂気”とは――

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家具・インテリアのショールーム IDC大塚家具
 お家騒動渦中の「大塚家具」の株主総会が先月27日、都内で行われ、現社長の大塚久美子氏が実父の大塚勝久会長の株主提案を退けた。  両者は経営権をめぐり対立。同社の株式18%を保有する大株主の勝久氏は、自身の社長返り咲きを含む取締役10人の就任と、久美子氏の社長退任を求める株主提案を行った。  決議の結果は、久美子氏側が約61%の株主の支持を集め、勝利。創業者の勝久氏は会長職を追われた。  総会を取材した記者によると、勝因は久美子氏が冷静沈着にヒートアップした勝久氏の質問をかわし続けたことだという。 「勝久氏は株主提案を行った者として、何度も社長である久美子氏の経営手腕を批判しました。そのほとんどが客観性を欠いたもので、久美子氏側に寝返った三女の夫に対し『私と女房で家まで買ってやったのに!』と恨みをぶつける場面もありましたね。ほかの株主はその様子を傲慢と感じ、一般票の8割以上が久美子氏に流れました。久美子氏は勝久氏を父親ではなく大株主として扱い続け、感情論に走ることもありませんでした」  これは久美子氏の作戦勝ちとも言えるが、一方で彼女の“狂気”も暴かれた。母親の千代子氏は久美子氏の社長就任後、社内に監視カメラが増えたことを暴露。別の取材記者は「大塚家具はリストラが急務。久美子氏は社員を監視することで、ダメ社員をあぶり出し、今後もリストラ策を続ける方針です。逆に勝久氏は物言いは荒いが、社員を“守る”人で知られた」と話す。  このほか経営戦略を決める取締役会で、久美子氏が勝久氏を徹底的に排除したことも暴露されていた。 「この日の久美子氏は4~5人の専属のボディーガードに守られ、会場入りしていた。とても近づけるような雰囲気ではない。少し怖かったですね」とはテレビ関係者。  株主の間では、会社のトップとして冷静沈着に総会を乗り切った久美子氏に賞賛の声が上がっているが、同社で働く現場社員は複雑な想いで戦況を見つめていたようだ。

豪華絢爛な「日本ミステリー文学大賞」授賞式会場で“客引き”外国人ホステス多数目撃

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授賞式が行われた帝国ホテル
 今月18日、光文社の光文文化財団主催の「日本ミステリー文学大賞」が東京・日比谷の帝国ホテルで開催された。こういう場では、ホステス風に見える華やかな美女の出席者たちはつきものだが、彼女たちのそばに近づくと、ぎこちない日本語で中国や韓国の女性であることが見受けられた。  女性たちのひとりは出席した作家らを二次会に誘うなどしており、出席者からは“こんなところで客引きか”という声も聞かれた。  ただ、出席していた70代の作家によると「最近の若い者はこういう文化を知らない」とため息。 「昔はこうした文学賞となれば、作家が女優とか美女を連れ立って来場することはステータスだったし、銀座の一流ホステスを同伴した者も珍しくなかったよ。ホステスからすれば、そういうところで別の上客を捕まえられる一石二鳥の文化があったんだ」  ただ、女性たちが隣国から来たと思われる外国人ということには「時代も変わった」と作家。 「最近は出版界も不況だから、ホステスの質もちょっと落ちた感じだ。去年あたりからはそういうアジアンホステスの数ですら減ってきているね」(前出、70代作家)  出版関係者によると、こうした美人出席者の一部は『彩り組』と呼ばれる仕込みゲストで、主催者からこっそり“足代”が渡されるのだという。そこで女性のひとりに声をかけてみると「ギャラないですヨ。お客さんに頼まれて来ただけネ」と『彩り組』であることは否定、この日の主催者が彼女らをブッキングしたのかどうかまではわからなかった。  それでも、会場内ではそこらの立食パーティーよりは豪華で、寿司職人が出張で握り、焼きたてのステーキが大量に振る舞われ、北方謙三、大沢在昌などの大御所作家も笑顔を見せていた。肝心の大賞は船戸与一が受賞。宴の後はさすがに大物作家が女性たちを引き連れ、会場から徒歩圏内の銀座のクラブに繰り出していたが、一方で出版社の幹部や多くの関係者はそこにはついていかず二次会は新橋へ。 「いかにも時代の趨勢といった風だね。最近は飲み代どころかタクシー代も出なくなってきたからね」(編集者)  こちら、安い居酒屋の方についてきた中国人とみられる女性もいたが、金回りが良さそうに見えないのを察するや早々に姿を消した。 「かつて二次会では大物作家が自ら用意した新車のキーを新人受賞者に手渡し、ホステスには札束をばら撒いたものだったけど、そんな光景もうたかたのよう」(同) そこで出版関係者の間で交わされる会話も「●●社はこの3年以内に潰れるんじゃないか」というネガティブな話が多かった。 (文=鈴木雅久)
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“シブヤコール”がマレーシアを揺らした!! 世界メジャーが「格闘家・渋谷莉孔」を発見した夜

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(c)2015 ONE Championship
 異国の地で「シブヤコール」が巻き起こった――。3月13日、マレーシアの首都クアラルンプールで開催されたアジア最大の総合格闘技イベント『ONE Championship(旧称ONE FC)』に日本の地下格闘技出身の渋谷莉孔(29)が初参戦し、フライ級王者アドリアーノ・モラエス(26=ブラジル)とタイトルマッチを行った。「渋谷に勝ち目なし」と予想された試合だが、蓋を開けてみれば、フルラウンド(5分5ラウンド)までもつれる接戦に。結果は判定で敗れたが、アグレッシブかつトリッキーな戦いで王者を追い詰めた渋谷には、マレーシアの観衆も大興奮。試合後には早くも「出待ち・追っかけ」をする現地ファンが現れるなど、渋谷は一夜にしてONEのスターダムにのし上がった。  当日の模様をレポートする前に、渋谷莉孔の経歴を簡潔に振り返っておきたい。  街のチンピラとしてケンカに明け暮れていた渋谷は2008年、不良の格闘技イベント「THE OUTSIDER(アウトサイダー)」で格闘家デビュー。対戦相手を罵倒しながら血祭りに上げる猟奇的ファイトで話題を呼ぶ。その後、問題を起こしアウトサイダーを追放されてから、地下格闘技の世界で連戦連勝を重ねてきた渋谷が、地下から地上へ顔を覗かせたのは、昨年9月のことだった。「TTF CHALLENGE02」でメジャープロ団体・パンクラスのトップランカーを撃破。その衝撃冷めやらぬうちに、アジア最大の格闘技イベント『ONE Championship』からスカウトされ、このほど初参戦で世界タイトルマッチに挑むことになったのである。  まさに飛び級と呼ぶにふさわしい大出世だが、見ている側からすれば期待と不安が入り交じる。今回の対戦相手であるアドリアーノ・モラエスは、修斗南米王者からONEの世界フライ級王者となった格闘エリートで、MMA(総合格闘技)12勝1敗という戦績を誇る強豪中の強豪である。  渋谷贔屓であるはずの日本の格闘ファンからも「今回ばかりは相手が強過ぎる」「渋谷に勝ち目はない」との声が多く聞かれ、渋谷自身も戦前のインタビュー(記事参照)で、「俺は噛ませ犬」と自嘲するほどキャリアの差は歴然。ワンサイドゲームになる危険性を大いにはらんだマッチメイクだったのだ。    渋谷にオファーがあったのは今年の1月。それからわずか2カ月という急ピッチの準備期間を経て、決戦の3月13日を迎えた。
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 開場時刻の午後6時を過ぎると、クアラルンプールにある1万6,000人収容の「スタジアム・プトラ」には、マレー系、中華系、インド系のマレーシア人や、白人の観客らが続々と吸い込まれて行く。「マレーシアではMMAの人気が急上昇中。飲食店のテレビなどでも普通に放映されており、家族や友人と共に観戦する人も多い」(マレーシア人の観客の一人)とのことだ。  会場入りする人々を眺めていたら、今回渋谷を抜擢した張本人であるONE Championshipのビクター・クイ代表が通りがかったので、インタビューしてみた。
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ビクター・クイ代表
――あなたはなぜ今回、渋谷莉孔を抜擢したのか? クイ代表 今回は世界タイトルマッチということで、われわれはアジア中を回って、ファンが最も喜んでくれそうな挑戦者を探したところ、渋谷が一番ふさわしいという結論に至ったんだ。渋谷は本当にダイナミックでエキサイティングなファイター。ここマレーシアの観客を熱狂させることができるエンターテイナーであると私は確信したんだ。 ――今日のタイトルマッチは、どんな戦いになると予想するか? クイ代表 私は今夜の試合が、渋谷の人生にとって最も大きな戦いになると思っている。タイトルマッチだし、彼にとっては海外での初戦だ。これまで渋谷は四角いリングで、短いラウンドの戦いが中心だったと思うが、今回は円形のケージ(金網)リングだし、5分5ラウンドという長丁場。そういった形態やルールの違いがある上、彼には準備期間がわずかしかなかった点も大変だとは思う。だが、彼には失うものがないし、もし勝てばすべてを手に入れることができる。渋谷にとって今日の試合は人生最大のチャンスになるだろう。  クイ代表の期待の大きさを物語るように、会場内のロビーにはご覧のような巨大な看板が飾られるなど、初参戦なのに渋谷は破格の扱い。
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渋谷とモラエスが向き合う大看板
 そのロビーの一角に人垣ができていたので何事かと覗き込むと、「ミットめがけて10秒間に何回キックをできるか」というチャレンジコーナーが設けられていた。通りがかった人たちが入れ替わり立ち替わりこれに挑み、ギャラリーから拍手や歓声が上がる。マレーシアの人々はおしなべて、シラフでも陽気でフランクだ。果たして彼らは、遠い日本から来た渋谷のことを歓迎してくれるのだろうか……?  まずは大会開始直後の、全選手紹介の場面でその様子を探ってみる。ド派出なライトアップや打ち上げ花火などの演出の中、ステージの両脇から出場選手が続々と登場。「リクー、シブヤッ!」というアナウンスに合わせて渋谷も颯爽と現れるが、客席はまったくの無反応。「誰だコイツ?」といった感じだろうか。  その後、客席が八分方埋まった中、前座の試合が次から次へと消化されていく。地元マレーシアの選手が勝つたびに大歓声が上がり、客席が徐々に温まってきた。  そんな中、場内の大型ビジョンに本日のメインイベンターである王者モラエスの紹介VTRが流れると、大きな拍手と声援が。マレーシアの観衆にも大いに知られた存在なのだろう。  続いて、その対戦相手である渋谷の紹介VTRが流れる。「ジャパニーズ・バッドボーイ」というキャッチフレーズの後、渋谷が日本語でインタビューに応じている様子が字幕付きで流れ、ユニークなトレーニングに取り組む光景なども大画面に映し出されるが、客席はまたしても無反応。「初めて見るので好きも嫌いもなく、応援もブーイングもしようがない」といったところだろうが、それにしても寂し過ぎる反応だ。  その後もテンポよく試合が消化され、いよいよ本日のメインイベント、渋谷の出番となった。入場曲とともに、けたたましい英語の煽り文句が会場にこだまする。日本にいるときは、入場時に花道で雄叫びを上げたり、入場曲が流れてもなかなか入場しなかったりという“ツカミ”を得意とした渋谷だが、今回は、叫ぶでも焦らすでもなく、仏頂面で淡々と花道を進むのみ。
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 入場時も客席の反応は薄かったが、ケージに入った後、名前がコールされ、渋谷がテレビカメラに向かってグローブを突き出すと、ここでようやくブーイングが起きた。一方のモラエスには大歓声。この会場が渋谷にとって、完全にアウェイであることを改めて思い知らされる。
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 そうした客席の反応以上に心配になったのが、渋谷の表情である。大型ビジョンで見る限り、先月見たときとは、まるで別人だったのだ。2カ月で約20キロの減量をしたため、精悍になったというより、やつれた印象で、目元も眠そう。その顔でけだるそうにケージ内をウロつきながら、口角をヒクヒク痙攣させて、マウスピースを露出する仕草を連発。飢えた野良犬のような不気味さこそ漂うが、「急激な減量の反動でナーバスになっている」との前日情報もあったため、コンディションが心配になってくる。  しかし、それはまったくの杞憂に終わった。

【1ラウンド】


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 ゴングが鳴ると、渋谷は背筋を伸ばした独特のサウスポースタイルでジリジリと間合いを詰め、まずは思い切りのいい左フックを打ち込む。その後も渋谷が前進を続けて、打撃の応酬に。モラエスの連打を何発か食らうが、渋谷は両ガードを下げたまま前進。モラエスはバックステップで距離を置く。  しばらくお見合い状態が続くが、渋谷は左腕をクルクル回す仕草を見せ、体を左右に揺さぶってから、モラエスのヒザに左ロー。負けじとモラエス、右ハイを渋谷の顔面に蹴り込み、続けざまに下半身に組み付いてテイクダウン。渋谷はモラエスの首を抱え必死にディフェンスするも、すぐさまバックを取られ、首にモラエスの腕が絡み付く。「あぁ、これで終わりか」というニュアンスの歓声と溜め息が交錯するが、渋谷はケージ際で踏ん張り、ブレイクが入る。
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 再開後モラエスがフライングニー。効いていないとばかりに両腕を回しながら渋谷が再び距離を詰めると、客席から笑いが起きる。その後、渋谷がモラエスめがけて特攻するも、逆にバックを取られ、反転して逃れようとしたところマウントポジションを取られかけるが、これもブリッジで抜け出し、スタンドポジションに。客席から拍手が起きる。  残り1分。渋谷がワンツー、ミドルを繰り出すも空振り。逆にモラエスのミドルを食らう。それでもノーガードでズイズイ前進する渋谷に対し、客席から「なんだコイツは」といった感じの笑いとどよめきが起きる。  どうやら渋谷、コンディションはよさそうである。

【2ラウンド】

 開始早々ガード下げ気味で、ゼンマイ仕掛けのオモチャのようにジリジリと間合いを詰める渋谷に対し、笑いが起きる。常時後退しながら距離を取るモラエスが、タイミングを見計らって右ストレート。これがクリーンヒットするも、渋谷はなおもガードを下げたまま前進し、客席が大きくザワつく。  渋谷、モラエスのタックルを食らい、倒された上、バックを取られる。モラエスの腕が首に絡み付くも、踏ん張って立ち上がる渋谷。立ったまま打撃の応酬。手数は多い渋谷だが、なかなかクリーンヒットしない。
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 大振りは駄目と悟ったか、渋谷はショートストレートを狙い澄ましたように放つも、モラエスはこれもスリッピングで避ける。モラエスが右ハイキックを放った瞬間、その背中に渋谷のミドルがヒットし、モラエス転倒。渋谷、モラエスの首を押さえて寝技に入りかけるが、モラエスはすぐに起き上がる。  立ったまま打撃の応酬。パンチが相打ち。モラエスは一瞬グラつくも、ワンツーをヒットさせながら前進。ケージ際に渋谷を追い込むが、渋谷はヒザ蹴りでこれを追い払い、スタンドで向き合う。  3分経過。モラエスの右ミドルがヒットするも、渋谷は髪をかき上げながらノーガードでまたしても距離を詰め、客席ザワザワ。渋谷のパンチが2発ほどクリーンヒットし、モラエスはたまらず渋谷の下半身に潜り込む。立ち上がりざまに渋谷の右ハイがモラエスにヒット。後退するモラエスに、追い打ちをかけるようにワンツースリー。  両者絡み付き、渋谷が再びケージを背負ったところで残り1分。渋谷、立ったままモラエスの左腕を取りキメにかかるがブレイク。その後、客席の反応を楽しむかのように、ガードを上げ下げしながらモラエスを挑発。モラエスの右ハイをかわしたのを機に、渋谷は一気に距離を詰める。焦ったモラエスが苦し紛れに放ったパンチ3発をすべて見切った渋谷、ノーガードのままニヤリと笑ってモラエスにじり寄ったところで、ゴング。客席がドッと沸く。

【3ラウンド】

 渋谷が距離を詰め、モラエスが後退する毎度の展開。小康状態が続き、レフェリーから「アクション」の声。モラエスが下がって両足が揃った隙に、渋谷はボディーに蹴りを打ち込むが、腰を押さえられ投げを食らい、バックを取られる。が、渋谷はクルリとすぐさま起き上がり、モラエスの左腕をキメにかかる。  下半身に絡み付いたモラエスが、渋谷を倒し、サイドポジションを取りかけたところで、渋谷がローブローをアピールし試合中断。  再開後、ブリッジで寝技から脱出した渋谷。通勤中のサラリーマンのような無防備な歩き方でモラエスとの距離を詰めると、客席から大声援が起きる。勢いづく渋谷がワンツースリー。続けざまに左ストレートをクリーンヒットさせるが、渋谷も右ストレートを食らう。  モラエス、渋谷のパンチをかわしながら下半身に抱きつき、倒すも、渋谷はもがいて立ち上がる。なおもしつこく後ろから絡み付くモラエス。ウザがる渋谷の表情が大画面に映ると、客席から笑いが起きる。  モラエス、バックポジションに入りかけるが、渋谷はまたしても反転。その応酬を何度か繰り返した末、チョークスリーパーを取られかけた渋谷がクルリと反転して上になると、この日一番の大歓声。
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 渋谷はこれまでの鬱憤晴らしをするかのように、小刻みなパンチを20発あまり、モラエスの側頭部に打ち込み、客席が大きく沸く。そして左手でモラエスの頭を横向きに固定すると、右手でハンマーパンチの雨アラレ。体勢を整えてから、大振りのパンチも振り下ろす。  さらに寝技からの立ち上がりざまに、左ハイをモラエスの頭部に蹴り込む。その後、打撃の応酬が始まりかけたところでゴング。

【4ラウンド】

 伸びやかな打撃を繰り出しながら渋谷が前進。反撃しつつもバックステップで距離を取ろうとするモラエス。それを渋谷がノーガードで追いかける。モラエスのグローブがズレたため、試合中断。レフェリーに促されて自陣に戻る渋谷が、両手を上げて客席を煽ると、大声援が起きる。  試合再開後、ついに「シブヤコール」が起きるが、渋谷はモラエスに背後を取られ、ケージに押し込まれる。どうやら渋谷、会場の大型ビジョンを見て背後の様子を確かめているらしく、その表情がビジョンに映り、場内から笑いが起きる。「彼は楽しませてくれるねぇ」と英語実況。  膠着を逃れるべく、渋谷がヒザ蹴り。これを嫌ってモラエスが距離を置こうとすると、渋谷は笑みを浮かべながら追いかける。「シブヤコール」が再び起き、セコンドからも「打撃をまとめろ」の指示。  渋谷は重そうなパンチを一発ヒットさせるが、後が続かない。  逆にモラエス、飛び蹴りを渋谷の顔面にクリーンヒットさせる。そしてタックルして渋谷を持ち上げ、背中から思い切りマットに叩き付けるが、渋谷もフロントヘッドロックを外さなかったため、プロレス技のDDTのようになって会場騒然。
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 モラエス、ヘッドロックから逃れてバックを取る。渋谷、モラエスの腕を押さえ込んで必死のブロック。そして反転して渋谷が上になったところで、ドクターチェック。渋谷の左目の上からおびただしい出血が。  ドクターチェックを受ける間、渋谷は両手を振って「大丈夫」とアピール。セイムポジションで再開するなり、渋谷は左右のパンチを大量連打しゴング。自陣へ戻る際、渋谷は駆け回りながら何度もガッツポーズ。まだ試合が終わったわけでもないのに、勝ちを確信したかのように喜び、観衆も大いに盛り上がる。  最初は完全アウェイだった空気を、渋谷はわずか20分ほどのパフォーマンスで、ホーム同然に変えてしまった。

【5ラウンド】

 開始前、左目の出血を気にする素振りを見せる渋谷。いよいよファイナルラウンドのゴングが鳴るが、ほぼお見合い状態で1分経過。モラエスに押し込まれた渋谷、ケージを背負った状態で4~5発ヒザ蹴りを見舞うと、モラエスが悲鳴を上げて「ローブロー」をアピール。しばしブレイク。  再開後、互いに手数は減りつつも打撃の応酬。
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 残り2分40秒。渋谷はタックルを食らい、座った状態でバックを取られ、背後からモラエスの腕が首に伸びるピンチ。
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(c)2015 ONE Championship
 ここで客席から大きな「シブヤコール」が巻き起こり、声援に後押しされた渋谷は巧みに体勢を入れ替えて上になると、モラエスの側頭部に小刻みなパンチを20発ほど打ち込む。そして寝たままモラエスの顔にヒジをグリグリ押しつけ、逃れようとするモラエスの頭部に、ヒザ蹴りやエルボースマッシュを荒々しく連打。  モラエス、右目の上を切ったようだ。  その後、両者立ち上がるも様子見が続く。残り30秒を切っても、互いにカウンター狙いなのか慎重な構え。ラスト10秒の声。モラエスがカポエイラキックを繰り出すもジャストミートせず、試合終了。  渋谷はセコンドの肩車で走り回りながら、何度もガッツポースして優勢をアピール。そして腕立て伏せをして余力もアピール。モラエスも負けじとバク宙を披露し、場内が沸く。
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(c)2015 ONE Championship

【判定】

 レフェリーの両脇に立つ両選手。渋谷は勝ちを確信しているのか、ガッツポーズのスタンバイをしながら、笑顔で判定を待つ。一方のモラエスはソワソワと落ち着きがない様子。  しかし、3-0でモラエスの判定勝ち。渋谷は顔しかめて肩を落とした。
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 モラエスの勝利者インタビューに続き、リング上でインタビューに応じた渋 谷は、「勝ったと思った」と悔しさをにじませながらも、「世界最強のアドリアーノをこんだけ追い詰めたのは世界で俺一人」と胸を張った。さらに「どんな大会でもどんな場所でも俺はケンカできる。もっと出してくれ。アイ・カムバック!」と叫び、大歓声を浴びながらリングを下りた。
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試合後のロビーでは、渋谷の看板の前で撮影をする人が続出
 試合翌朝――。選手が宿泊するホテルのレストランで、渋谷にインタビューを行った。左目の上を昨晩、2針縫ったという。インタビューには渋谷のセコンドを務めた大沢ケンジ(和術慧舟會HEARTS)代表にも同席してもらった。
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――おつかれさまでした。大健闘の試合内容についてはのちほどじっくりお聞きするとして、まずは入場シーンから振り返ります。渋谷選手にしてはおとなしい入場に思えましたが、その心は? 渋谷 完全に入っていました。まわりも「渋谷莉孔、完全に入った」「ここまで鳥肌の立つ入場は初めてだ」と言っていましたね。 ――なるほど、あれは集中状態に「入った」表情だったわけですね。緊張はしましたか? 渋谷 まったく。なんでかというと、心が強くなったからでしょう。 ――試合中、客席の反応は聞こえましたか? 渋谷 最初は笑われていましたよね。「なんだコイツ」って感じで。あぁ、笑われているな、と思っていたけど、3、4ラウンドでどんどんひっくり返って、「コイツ本物じゃん」みたいな感じの声援に変わっていった。俺が手を下げたり、ニヤッと笑ったりするたび、客席がワーッと沸いてすごかったですね。 ――左目はいつケガしたのでしょう? 渋谷 4ラウンドのハイキックです。俺、「相手は寝技が強い」と言っていたじゃないですか。ところが寝技はまったく強くなくて、力も全然ないし、パンチもたいしたことなかったけど、蹴りだけが予想外というか、「足の甲一個分」長かった。だから、完全に避け切ったはずなのにレバーに刺さったり、完全にスウェーしたはずなのに親指の爪が当たったり。ダメージはないけど届くのかよ、と。敗因はそれだけですね。 ――「モラエスの寝技は強くない」というのは意外です。 渋谷 俺には関節技は効かないんですよ(笑)。相当、軟体なんで。ヒジもそうだし、首もそう。ついでに言うと、俺には打撃も効きません。練習でも一度も効いたことがない。体が柔らかくてショックが分散されるから、脳が揺れないんですよね。 ――試合中、相手に怖さは感じましたか? 渋谷 まったく怖くなかったです。逆に相手が俺のことをめっちゃ怖がって、試合中ずっと下がっていましたよね。試合後にも病院で会ったんですけど、相手は俺のヒジ攻撃で目の上をケガしていたし、俺に蹴られたところが痛かったらしく、ずっと足を引きずっていて、俺のことを「デストロイヤー」と呼んでいましたよ(笑)。そんなわけで、全然「怖さ」は感じなかったですけど、「上手さ」は感じましたね。 ――具体的に何が上手かったですか? 渋谷 パンチを打つとき、顔を斜めにズラしながら打って来るんですよ。それに気付いたのは3ラウンド目でした。なんか(自分のパンチが)当たりづらいな、と思ったんですけど、相手は俺のパンチに合わせて、斜め下に頭をちょっとズラしながら打っていた。それをちゃんと試合中にもできているのは、さすがチャンピオンレベルって感じです。 ――戦っている当事者の率直な実感として、試合中、主導権はどちらが握っていましたか? 渋谷 2ラウンド目あたりからずっと、こっちが上回っているな、という感触がありました。相手の寝技も打撃も俺には効かなかったけど、相手が受けたダメージは、ハンパなかったと思う。ボディーなんか、完全に効いていましたから。5ラウンドでも、金的だって逃げていましたけど、あれ、ボディーに入っていましたから。俺がボディーにヒザ蹴りするたびに「ウッ」「ウッ」っていう苦しそうな声がすんごい漏れていた。だから俺はずっと、相手の腹を見て笑っていたら、相手はどんどん下がっていった。よっぽど痛かったんでしょうね(笑)。 ――渋谷選手が相手を終始飲み込んでいた、と。 渋谷 間違いないです。あと、先月のインタビューでも予告した通り「一本拳」で攻め続けて、相手が倒れかかった場面もありました。ガンガン行き過ぎて、ここが切れちゃいましたけど(笑)。
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「一本拳」のやり過ぎで、人差し指に裂傷が!
――しかし、最終ラウンドに限って言えば、余力はありそうなのに手数が少なかったのが、もったいなく思えました。 渋谷 相手の蹴りの長さに惑わされました。考え過ぎ。これはホント、大失敗。最後、もっと手数が多ければ、勝っていたかもしれませんね。 ――セコンドの大沢さんにお聞きします。モラエスの寝技は効かないかも、と気付いたのはいつですか? 大沢 僕らのほうが渋谷よりも先に、そう思ったんじゃないかな。戦前は、やられるとしたら寝技だろうな、と思っていたけど、1ラウンドも2ラウンドもバックポジョンを取られても逃げ切ったので、「これ、いけるじゃん!」と。ただ、寝技から逃げられると思ったことが、実は敗因でもあるんです。本当はタックルを切って打撃で勝負してほしかったけど、切るよりはバックを取らせて逃げちゃえばいいや、という感じになって、グラウンドの展開が長引いちゃって、判定に影響した部分もありますからね。 ――それにしても、渋谷選手はなぜあんなにも寝技をひっくり返すのが上手いのでしょうか? ブリッジの強さを指摘する声もありますが、大沢さんはどう思いますか? 技術的な解説をお願いします。
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大沢代表と渋谷
大沢 それがわかったら、みんながやれるわけで。それは本人に聞いてもらったほうがいいかも。まあ、ブリッジが強いのは確かだけど……。 渋谷 僕は前世が人間じゃなく、「橋」なのかもしれません。 大沢 うん、橋かもな(笑)。
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格闘界の智将マット・ヒュームも渋谷を激励。渋谷のファイトスタイルを気に入った様子だ
――言動のユニークさもまた渋谷選手の魅力ですが、試合中、ガードを下げながら進んで行くあのスタイルは、我流ですか? 渋谷 他では見たことがないですね。打って来てほしいんで、「来いよ」って感じで下げてみただけ。それで相手がやりづらいのかも。俺ってホント、“初見殺し”なんですよ。いつも一緒に練習している人はそうでもないだろうけど、初めての人にとっては、変化球過ぎてやりづらいみたいですね。 ――あの“ノーガード戦法”は、マレーシアの観客の心を確実につかんでいましたよ。 渋谷 日本と全然違いますね。日本だと、あそこまでのコールは起こらない。俺、外国向けの選手なのかな、って思いましたね。日本人はみんながいいって言わないと乗らないようなところがあるけど、外国人はいいものはいいって感じで、まっすぐに盛り上がってくれる。昨晩も、出待ちとか、すごかったですよ。大会終わって深夜2時ぐらいなのに、病院にまで車で追いかけて来ている人たちも大勢いて、病院出るときの声援がハンパじゃなかった。俺はアイドルか? と思いましたよ(笑)。 大沢 試合中も、誰も渋谷のことを知らない敵地の会場で、数千人が「シブヤコール」ですからね。これは本当にすごいことです。ただし、悔しさのほうが大きい。いい試合をしても負けちゃうと、すぐに忘れられちゃうんですよ。会場に来た人の印象には残るかもしれないけど、そうじゃない人たちは戦績しか見てくれないから、「結局負けたんでしょ?」で片付けられちゃうのが悔しい。 渋谷 いやでもまだこれ、序章なんで。ドラマでいうとまだ1、2話なのに、ゴールしちゃったらつまんないでしょう? 一度は落ちないと。1、2話で打ち切られる奴もいるけど、俺の場合、昨日のファイトで主催者にも観客にも気に入られたはずだから、打ち切りはない。いっぺん負けて落ちてからの展開があったほうがいいでしょう。本当に面白くなるのはこれからなので、まあ、見ていてくださいよ。  チンピラ上がりの格闘家、腕と度胸のタイマン行脚。そのサクセスストーリーはまだまだ続く――。 (取材・文=岡林敬太)

プロ野球・阪神“使えないサード”西岡剛の3番固定で「チームの士気は下がっ ている」!?

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『全力疾走』(宝島社)
 27日に開幕するプロ野球。昨年、日本シリーズで敗れた阪神は、京セラドームの中日戦から2015年の公式戦をスタートさせる。だが、現場では、和田豊監督の「こだわり」がアダとなり、早期に「“終戦”を迎えるのでは?」という話が上がっている。  2月のキャンプでもさほど話題に上らず「人気球団にもかかわらず、スポーツニュースでも割かれた時間は少なかった」(スポーツ紙プロ野球デスク)という阪神。 「話題にならなかった最大の要因は、ことごとくFAでの補強に失敗したこと。米メジャーリーグ移籍も取り沙汰された鳥谷敬には5年で20億円という大金をはたいて残留させたが、それがなかったら、今ごろ大変なことになっていた」(同)  キャンプでは新人野手の江越大賀、投手では石崎剛が芽を出し、開幕一軍に名を連ねる。若虎とベテランの戦力がうまく融合すれば、10年ぶりのリーグVも見えてこようものだが、ここへきて暗雲が立ち込めてきている。 「和田監督は開幕に西岡剛をスタメン起用すると明言している。ですが、西岡は昨秋、肘を手術したばかり。しかも、本職のセカンドではなくサードにコンバートした上での起用。一部では『3番で起用するから、サードで頼む』と指揮官がお願いした、とまでいわれています」(同)  となれば、調子が良かろうが悪かろうが、西岡を動かすのは至難の業。ここに弱点がある。 「使えない西岡をクリーンアップに据えた時点で、ほかの選手の士気は下がっていますよ。チームとしても、チャンスで西岡が凡退して、開幕ダッシュに失敗する可能性もある。和田監督は1年契約で、優勝以外はクビか退任が基本路線。夏を迎える前に、話題は新監督人選に移っているかもしれませんね」(同)  「西岡と心中」といえばそれまでだが、チームの雰囲気が一気に悪くなっているのは事実のようだ。

女子学生殺害容疑の“赤トンボ先生”に、においフェチ疑惑「女性をにおいでランク分けしていた」

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ANNnewsCHより
 ホントかウソか、殺人事件で逮捕された“赤トンボ先生”に、においフェチ説が浮上中だ。 「日頃から若い女子学生に囲まれるのがうれしそうな感じでしたが、いま思えば一部の学生たちから“先生は、においフェチ”だなんて、笑われていたこともあった」(東邦大学関係者)  共同研究者でもあった大学院生の女性を殺害したとして逮捕された、福井大大学院教育学研究科の特命准教授、前園泰徳容疑者。赤トンボの生態に関する研究の第一人者である一方、以前勤めていた東邦大学の関係者からは、なんと「においフェチで、女性を『におい』でランク分けしていた」などという変わった話も上がっている。  警察は事件の背後に被害者の女子学生との恋人関係があったとみて捜査中だが、東邦大の元学生からも女子学生との私的な交際のウワサがあったという話が出ている。赤トンボ先生が教え子を異性として見ていた可能性が高まっている中で、この新たな証言は驚く内容だ。 「日頃の研究は真面目。頑固で熱くなるところもあるけれど、仕事ぶりは好評だった。勉強熱心な学生を特にひいきして、かわいがるところはあった。ただ、元学生のひとりによると、以前、昆虫の体液のにおいについての話になったとき、前園教授は昆虫別に詳しく知っていて、人間のにおいも種類別に分類できると言っていた。女性でも好きなにおいの人と嫌いなにおいの人がいて、ランク分けすると5段階ぐらいになるそうです。Aランクになると、それこそフェロモンと呼ばれる類いだとか……」(同)  当時こうした話に学生たちは食いつき、女子学生からは「私は何ランク?」という質問が飛んで盛り上がっていたという。そうしたところが、前園容疑者が女子学生たちから人気を集めていた理由だったのかもしれないが、一方で前園教授は自らを「人と接するよりも自然と触れ合っているほうが落ち着くタイプ」として深い人間関係を避けるところもあった。それだけに「もしかするとそれは、においフェチの嗜好を自制するためだったのかも」と関係者。  前園容疑者は警察の調べに対し「彼女に『殺してくれ』と頼まれた」と供述したとされるが、殺された女子学生からは生前「魔王」と呼ばれるほどの上下関係ができていた。女子学生はFacebook上で「何度怒られ、何度泣いたことか…。あまりの言われように、千葉に帰りたくなったこともしばしば…」と告白しており、そんな彼女に対して、頼まれただけで殺害するというのは不自然に思える。 「まさか、隠していたフェチをその女子学生にバラされそうになったから殺したとかいうのではないだろうけど……」(前出の関係者)  関係者がこんな臆測をするほど、動機がよく分からない殺人事件。“におう”のは、女性ではなく前園容疑者のほうではあるが……。 (文=ハイセーヤスダ)

自信家がすぎて、銃で撃たれたエキセントリックな男・ハリルホジッチ 協会とスポンサー戦々恐々!?

hariru03s23.jpg  サッカー日本代表新監督・ハリルホジッチの印象を誰かに聞いてみると、必ず“頑固”“自信家”“変わり者”という言葉が並べられる。過去の日本代表監督は、ザッケローニやジーコなど比較的温和な性格の人物が就任していた。Jリーグ発足以降で最も印象が近いのは、2002年日韓W杯で率いたフィリップ・トルシエといえそうだが、その“エキセントリック”さは一段階レベルが違う。過去にも、クロアチア・ザグレブ、トルコのトラブゾンの上層部と衝突して退団も経験しており、これから日本サッカー協会がこの新監督に振り回されることは、容易に想像がついてしまう。 「自分が思ったことは、誰に何を言われても曲げない性格ですね。今回の選手選考でも、もともと親交のあった横浜F・マリノスのモンバルツ監督と密に情報交換するも、そのマリノスの選手を誰一人選びませんでした。間違いなく自分のところの選手の長所を伝えているはずのモンバルツ監督も、驚いたでしょうね。自分が気に入らなかったら、絶対にメンバーには入れないので、今後、いくら人気選手でも調子が悪かったら簡単に外すでしょう。協会やスポンサーが頭を抱えるのは目に見えています」(スポーツライター)  ハリルホジッチを語る上で、こんな逸話がある。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の真っただ中、なんと、ハリルホジッチ宅の庭で民兵が銃撃戦を繰り広げていた。選手として、監督としての知名度を考え、まさか自分が撃たれるわけないという自信から「戦争になったら、みんなが敗者だ!」と叫び、その銃撃戦を丸腰で止めようとしたのだ。結果は、止め切れず銃弾は命中してしまうのだが、その自信家ぶりと正義感の強さを表すには十分なエピソードだ。 「過去に誰一人作らなかった監督室を協会内にすぐに作らせ、日本代表発表の時もモニターに選手の顔写真を載せるパフォーマンスを繰り広げ、バックアップメンバーやケガ人を含めた43人の選手を招集と、前代未聞のオンパレード。まだ始まったばかりなので、“いい意味”での想定外しか起こしてはいないですけど、これから何を要求しだすかはわからない。協会やスポンサーは戦々恐々ですよ。もっともファンからの期待は非常に高く、『これぐらいのほうが面白い!』『日本人にはしっかりと道を示してくれる自信家ぐらいがちょうどいい!』『とにかく今までの日本代表をぶっ壊してほしい!』という声が聞こえてきています」(同)  過去の監督も、もちろん日本のために全力で代表に取り組んでいた。しかし、このハリルホジッチは、今までとは何かが違う。性格が性格なだけに、大失敗に終わることもありえるハリルジャパンだが、サッカー協会が怯えようと、スポンサーが大損をしようと、ファンとしてはこのチームを楽しんでいこうと思う。 (文=沢野奈津夫)

女子大学院生殺害で逮捕の“赤とんぼ先生”前園泰徳容疑者に、別の女子学生とも交際の過去あった

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ANNnewsCHより
 女子大学院生を殺害したとして逮捕された福井大学の准教授、前園泰徳容疑者が、以前にも別の女子大生との交際のウワサがあったことが分かった。  赤とんぼなど希少生物の生態研究などで知られた同容疑者だが、2010年ごろ、非常勤講師として勤務していた東邦大学(千葉県)では「ある女子学生をやたら研究に同行させたがっていて、みんな『2人は付き合っている』とウワサしていた」という話が聞かれる。  当時、前園容疑者は奄美大島に拠点を置き、家族のいる千葉と往復していたというが、元学生によると「女子学生に『旅費を出すから、一緒に奄美に研究に行こう』と誘っていた」という。 「その後、教授のブログの写真に、その女子学生らしき子が映っていて、本当に行ったんだと思った」と元学生。  前園容疑者は今回の事件の被害者についても、彼女をモデルに自らカメラマンとなってメディア向けの写真撮影をしていたこともあったが、学生との個人的な関係は今回が初めてではなかったことになる。  以前、ウワサになった女子学生は、地方から出てきて大学に近い習志野市に一人暮らししていたというが「そのうちに友人たちがアパートを訪ねても不在のことが多く、かなり頻繁に奄美に出入りしている様子だった」という。 「それで学内で交際のウワサが広まり、女子学生が大学側に呼び出され、内々に事情を聞かれていました。その直後、先生のやっていた奄美のブログが閉鎖されて、まるで証拠を隠すためのようだった」(元学生)  結局、その騒動がきっかけで前園容疑者は女子学生と距離を置いたようだが、新たに親密になったのが事件の被害者だった。こちらも周囲からは、ペアルックのシャツを着るなど恋人同然だったとする証言が聞かれている。しかし、何があったのか前園容疑者は3月12日の朝、妻に電話し「女性が事故を起こし病院に搬送している」と110番通報させ、自ら女子学生の遺体を市内の病院に運んだ。  警察の取り調べに、当初は「女性が事故を起こしたというので、自宅から徒歩で助けに行った」と話した前園容疑者だったが、当日は雪が積もっていたのにサンダルをはいて出かけており、不自然だったことから、車中で女子学生の首を絞めて殺害した殺人の疑いがかかり、14日に逮捕。前園容疑者はその後、供述を一転させ、「被害者から『殺してほしい』と言われた」などと話している。  前出の元学生によると、前園容疑者の印象は「第一印象はさわやかな人でしたが、慣れると強引なところがあって、自分のペースを押し付けるようなところがあった。プライドが高くて、反論する人がいると顔色を変えて声を荒らげるようなことがあった」という。  警察の調べでは、被害者女性の体に抵抗したり争ったような痕はなかったというが、教授と教え子の関係が恋人に発展した結果、なぜ容疑者と被害者になってしまったのか。全容が分かるのはこれからだが、教え子を異性として見てしまい、私的な感情を持った中での事件だったことは間違いなさそうだ。 (文=ジャーナリスト・片岡亮)

サッカー日本代表「ハリルジャパン」に無名の新星? 科学が生んだ“一芸ニュースター”登場か

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「湘南ベルマーレ」公式サイトより
 ハリルホジッチ新監督が初めて指揮を執る、キリンチャレンジカップのチュニジア戦(27日・大分銀行ドーム)、JALチャレンジカップのウズベキスタン戦(31日・味の素スタジアム)の出場メンバー発表が、19日に行われる。そのハリルホジッチが選手選考で重要視するのは、ポリバレント(複数のポジションをこなせる)、または一芸に秀でている選手といわれている。この条件を踏まえた場合、アギーレジャパンやザックジャパンに選ばれなかった、もしくは定着することができなかった選手の中で、大抜擢される可能性がある者はいるのだろうか? 「まず、誰もが思いつくのが、ガンバ大阪の宇佐美貴史選手ですよね。決定力もJリーグではズバ抜けていますし、ドリブルや“崩し”の面でも期待できます。しかし、運動量が少ないことがどう評価されるか。次に挙がるのは、名古屋グランパスの永井謙佑選手。彼は50mを5.8秒で走るといわれていて、あの“野人”岡野雅行ばりのスピードを持っています。しかし、関係者の中で密かに期待されているのは、実はもっと無名の選手なんです」(スポーツライター)  その選手とは、今年から新しくJリーグに導入されたトラッキングシステム(プレー位置、トップスピード、走行距離、時速20km/h以上のスプリント回数などを計測するシステム)によってその強烈な個性が“浮き彫り”になった、ハリルホジッチ好みの男なのだそうだ。 「それは湘南ベルマーレの高山薫です。彼には1試合の走行距離13.67km、トップスピード31.9km/h、スプリント38回という、無尽蔵のスタミナとスピードがあります。よく走るといわれている長友佑都でさえ、1試合で13km走ることはそうそうありません。Jリーグのレギュラーシーズン試合でこの数字ですから、W杯予選の大一番だったら14kmを超えてもおかしくありません。スプリントの数も、この走行距離ではあり得ない多さ。まだ代表クラスの結果は残せていないですし、技術的にもまだまだと見られていますが、彼のような選手が代表になることもあり得ると、関係者の間ではもっぱらです。ファンの間でも『高山の熱さが見たい!』『技術よりも気持ちだ!!』『こういう選手は急に化けるぞ!!』と期待する声も多い。事実、ハリルホジッチも『トラッキングシステムを参考にする』と言っているので、あり得るんじゃないですかね?」(同)  昨今の日本代表は、技術はあるが、魂や根性を感じさせる選手は確かに少ない。こういうがむしゃらに走れる選手は、見ていて気持ちがいいのも事実。まだまだW杯本番まで時間はある。一度試してみて、ほかの選手との化学反応が見てみたいものだ。 (文=沢野奈津夫)

“反原発活動家”と化した民主党・菅直人元首相に党内から猛反発! 「市民運動家に戻れ」の声

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熱弁をふるう菅氏
 民主党の菅直人元首相が、まるで反原発活動家と化している。もとは市民運動家であった菅元首相だが、3月8日の反原発イベント『反原発統一行動~NO NUKES DAY~』では「原発いらない!」と叫ぶデモ参加者の前で、原再稼働を容認する政府を批判。「最も安全な原発政策は、原発を持たないことです!」と演説した。  こうした活動の背景には、菅元首相と民主党との不協和音があるという声もある。民主党は、一昨年の参院選で菅元首相が無所属候補を支援したことに対し3カ月の党員資格停止処分を下したが、この際、党内には除籍(除名)処分の提案もあった。以来、党内の“菅アレルギー”は根強く、昨年12月の衆院選で東京18区から出馬した際には、内部から「菅の公認を取り消せ」という声もあったという。  4年前の首相時代、東日本大震災での対応に批判が高まり、人気が低下。2度の衆院選では比例復活での当選という苦境だった。党内では今や「菅の公認を取り消せば、党のイメージアップになる」という声が多数聞かれるが、当の菅元首相はこうした動きに態度を緩和させることなく、独自の姿勢を貫いている。  全国紙政治部記者によると「自民党の小泉(純一郎)さんは引退後に独自の活動をし始めたのに対し、菅さんは議員の立場に固執しながらやっているから、反発も当然。これにはかつての盟友・枝野幸男幹事長も“もうかばえない。市民運動家に戻られた方がいい”と周囲に漏らしていた」という。  実際、壇上に上がった菅元首相は、反原発運動家にしか見えなかった。デモでは小雨が降る曇天の中、共産党の志位和夫委員長、社民党の福島みずほ参議院議員と肩を並べて登場。菅元首相に対して一部からは「おまえが原発を止められなかったんじゃないか」というヤジも飛んだが、気にせず拳を振り上げた。「50分くらいかかる内容を、端的に5分でまとめた」という原稿は短かったが、その内容を聞いた民主党関係者は「他党と勝手な連携をしている」と、これまた憤っていた。  菅元首相は3月10日の衆院予算委員会で、安倍政権が進める原発輸出について「国内で安全が確認されていないものを外国に売り込むことを、政府が支援するのは問題」と批判したが、民主党は昨年4月、トルコなどへ原発輸出を可能にする原子力協定の国会承認で賛成している立場だ。 「その会議を菅さんは体調不良を理由に欠席し、注意処分を受けたんですが、こうやって立場の違うことをやるための布石だったことがうかがえる」(民主党関係者)  ただ、最近の民主党は前代表の海江田万里氏も選挙区で敗退。比例での復活をかけた惜敗率でも菅元首相を下回って落選しており、党内が菅元首相の反乱に対峙しても、民主党の支持率が上がるとは思えない。  活動家と化した菅元首相の“暴走”について、政治ジャーナリストの山田厚俊氏は「総理時代、原発事故の体たらくを見て、東電や経済産業省のだらしなさを身をもって知ったのは確か。理系なので“俺は原発に詳しい”という自負もある。脱原発は、自分の存在意義を見つけたという感じで、ライフワークになっているんでしょうね」と話す。  人気取りのための形ばかりの運動ではなく、本気の原発ストッパーなら一定の支持を得るだろうが、党に属しながらの“孤軍奮闘”は、ちょっと異様だ。 (文=ハイセーヤスダ)