『さすらい温泉』故・佐々木すみ江の最期の仕事に……『花男』『ふぞろい』にも負けない仕事ぶりが光る

 遠藤憲一が役者を引退する決意で温泉宿の仲居になり、そこで出会った人々のために一肌脱ぐ。そんなパラレルワールドを見せてくれるドキュメンタリー風の人情温泉ドラマ『さすらい温泉 遠藤憲一』(テレビ東京系)。まさに、この記事の執筆中に、第5話のマドンナである佐々木すみ江さんの訃報が届いた。

 亡くなったから言うわけではなく、凛とした芯の通った演技でドラマ全体を引っ張っていただけにとても驚いた。佐々木すみ江の活躍を中心に、第5話を振り返ります。

(前回までのレビューはこちらから)

■一人で銀行から金を下ろせない遠藤憲一

 今回も遠藤のリアルな人となりを同級生や事務所スタッフから聞き出すインタビューから番組はスタート。

 今回は遠藤は一人では銀行からお金を下ろせないことが暴露される。

 そうなってくると、バスの予約なども一人ではできなそうな気がするので、どうやって毎回各地の温泉に移動しているのか考えてしまう。

 そんな遠藤がやってきたのは、群馬と新潟の県境にある法師温泉。温泉界ではレジェンドと言ってもいいほどの温泉だ。

 ちなみに番組内でも軽く触れていたが、かの田中角栄は法師温泉のすぐ横の三国峠をダイナマイトで吹っ飛ばし、その土砂で日本海を埋め立て佐渡島まで歩いて行けるようにすると新人時代の選挙演説で語っていた。実現していたら法師温泉のお湯も途絶えていたかもしれないので、実行されなくて何より。

■死を覚悟した旅行者役を熱演した佐々木

 この温泉で出会った宿泊客が佐々木すみ江演じる笠木澄恵。

 戦争に行ったまま戻らない、かつての許嫁との想い出を振り返りに、一人で来ているという。

 健さん(遠藤は派遣仲居のときは中井田健一と名乗っている)がその許嫁に似ているらしく、健さんに出会った瞬間の驚き→喜び→恥じらいと変わる佐々木演じる笠木の表情の変化が素晴らしい。しばらく無言なのに、画がじつに持つ。ここから一気に笠木の存在感に引き込まれる。

 その許嫁と、かつて笠木が泊まった宿が今回の舞台である法師温泉・長寿館で、その滞在の直後、召集令状が届き、そのまま彼は戻ってこなかったという。

 今は結婚し、孫までいて幸せだと語る笠木だが、祝言すら挙げられぬまま引きちぎられるような形で想い出もろとも戦争に奪われてしまった、かつての許嫁の存在は今でも大きいようだ。

 笠木が死を目前に控えたステージ4の末期の膵臓がんであることを知った健さんは、悩みながらも笠木の願い通り、もう一泊、笠木のケアをすることに。

 そして今回も、あのなんでも出てくる四次元トランクを開く時が。

 出てきたのは想い出の写真に写る許嫁と同じ軍服。

 それを着て枕元に立つ健さんが笠木に語りかける。驚きながらも、それを許嫁の「加瀬清次(清さん)」として受け入れる笠木。

「久しぶり」

「お久しぶりです」

「よくまたここにきてくれたね」

「ずいぶん時間が経っちゃいましたけど……」

 夢だと思っていたのかもしれないが、逢えぬはずの人に逢える喜びは、ひとしおだろう。

■佐々木と遠藤の幻の混浴シーン

 彼が照れ屋のため名物の混浴風呂に一緒に入れなかったのが心残りだという笠木を、風呂に誘う、健さん演じる清さん。

 風呂に向かう途中で、笠木の姿はあの頃の若い姿(堀田真由)に変わっていた。

 健さんの錯覚なのか、笠木本人のイメージなのか、はたまた科学を超えたファンタジーなのかわからないが、笠木の心が軽くなって行くのがわかる。

 堀田は『わろてんか』(NHK総合)で葵わかなの妹役や、最近では『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(日本テレビ系)で、フェイク動画を作った犯人だと疑われる水泳部員役など活躍する若手。実在はしているものの、姿は観念であるという難しい入浴シーンを、雰囲気たっぷりに演じた。

 作中でも触れていたが、ここのお湯は風呂の底が砂利引きになっており、底から50年前の雨水が温泉となり滲み出ている。

 当時の許嫁との「再会」には、ぴったりの場所だ。

 作家の田中眞一のTwitterによると、佐々木はこの脚本をとても褒めてくれていたという。

 実際に享年90歳で亡くなってしまった佐々木も、17歳で終戦を迎えていたはずで、許嫁でなくとも大切な人を亡くしたり、亡くした人の悲しみに触れたりしてきたはずだ。

 佐々木が亡くなったのがどんな原因かは執筆してる今現在まだわからないし、なんなら知る必要も特にないが、何にせよ年齢的に人生の終幕を大なり小なり意識していたであろう中で今回の仕事に挑んでいたのは間違いないだろう。

 1コマずつまで丁寧に演じて、役柄から彼女(笠木)の持つであろう「想い出」を振り絞っているのがわかる。

 贅沢を言えば、ほんの一瞬でいいから、若き日を演じた堀田真由との混浴シーンのどこかで、今の佐々木と遠藤が笑顔で温泉に浸かってる画も差し込んでほしかった。

 佐々木が亡くなった今だから余計にそう感じるのかもしれないが、「今の笠木」を笑顔で「清さん」とお風呂に入れてあげたかった。

 こんなときに不謹慎なのかもしれないが、『スターウォーズ』のファーストシリーズのラストシーン(ジェダイの帰還)で改心したアナキン(ダースベーダー)が幽霊のように出てくるシーンがあるが、ずっと年老いたアナキンの姿だったのに、ジョージルーカスが途中で改訂してしまい、現行版では若き日のアナキンになってしまったことを思い出した。

 若き日のアナキンもよいのだが、いろいろあった上でそれはそれとして、いろいろなことを経た年老いたアナキンの笑顔の方を求めるファンも多かったので、後藤監督がディレクターズ・カットを作るとしたら、是非一瞬でも今の笠木の、佐々木の笑顔での混浴もお願いしたかった。

 こんなふざけた願いも、もはや絶対に叶わないのが、ただただ悲しい。

 

■飛鳥凛が深刻さを中和する

 今回は佐々木が圧巻の存在感を見せてくれたため、その影に回ってしまった感があるが、飛鳥凛のサバサバした仲居(久美)もいい味わいで、死別や戦争をテーマとした中で息抜きのような演技を挟みこみ、全体を中和してくれた。

 時間があれば、もっと健さんとの絡みも見たかった。

 病院へと戻る笠木を見送る健さんに、「泣いてるの……?」と久美が尋ねるラストは、訪ねておきながらいなくなる久美の気遣いが感じられて、いいシーンだった。

 今はエイベックスにいる飛鳥だが、元はスターダスト所属で、ももクロのデビューイベントの舞台も一緒に踏んでいる苦労人(メンバーではない)。きっぷの良さそうな役などハマりそうなのでもっと芝居を見てみたい。

 佐々木が亡くなったことで、かつての代表作(TBS『ふぞろいの林檎たち』『花より男子』、NHK『ゲゲゲの女房』『篤姫』など)がいろいろ流れる中で、この『さすらい温泉』も佐々木のギリギリまで灯された役者人生の最後を飾るのに見劣りしないものだったと思う。

 それはベテランながら深夜ドラマだろうと手を抜かない佐々木の姿勢も大きいし、ドラマを丁寧に作っている『さすらい温泉』制作側の姿勢も大きいだろう。

 paraviでも見られるが、ぜひもう一度、地上波で再放送して、佐々木の最期の仕事を、まだ見ていない人にも見せてあげてほしい。

 ご冥福をお祈りします。
(文=柿田太郎)

『さすらい温泉』故・佐々木すみ江の最期の仕事に……『花男』『ふぞろい』にも負けない仕事ぶりが光る

 遠藤憲一が役者を引退する決意で温泉宿の仲居になり、そこで出会った人々のために一肌脱ぐ。そんなパラレルワールドを見せてくれるドキュメンタリー風の人情温泉ドラマ『さすらい温泉 遠藤憲一』(テレビ東京系)。まさに、この記事の執筆中に、第5話のマドンナである佐々木すみ江さんの訃報が届いた。

 亡くなったから言うわけではなく、凛とした芯の通った演技でドラマ全体を引っ張っていただけにとても驚いた。佐々木すみ江の活躍を中心に、第5話を振り返ります。

(前回までのレビューはこちらから)

■一人で銀行から金を下ろせない遠藤憲一

 今回も遠藤のリアルな人となりを同級生や事務所スタッフから聞き出すインタビューから番組はスタート。

 今回は遠藤は一人では銀行からお金を下ろせないことが暴露される。

 そうなってくると、バスの予約なども一人ではできなそうな気がするので、どうやって毎回各地の温泉に移動しているのか考えてしまう。

 そんな遠藤がやってきたのは、群馬と新潟の県境にある法師温泉。温泉界ではレジェンドと言ってもいいほどの温泉だ。

 ちなみに番組内でも軽く触れていたが、かの田中角栄は法師温泉のすぐ横の三国峠をダイナマイトで吹っ飛ばし、その土砂で日本海を埋め立て佐渡島まで歩いて行けるようにすると新人時代の選挙演説で語っていた。実現していたら法師温泉のお湯も途絶えていたかもしれないので、実行されなくて何より。

■死を覚悟した旅行者役を熱演した佐々木

 この温泉で出会った宿泊客が佐々木すみ江演じる笠木澄恵。

 戦争に行ったまま戻らない、かつての許嫁との想い出を振り返りに、一人で来ているという。

 健さん(遠藤は派遣仲居のときは中井田健一と名乗っている)がその許嫁に似ているらしく、健さんに出会った瞬間の驚き→喜び→恥じらいと変わる佐々木演じる笠木の表情の変化が素晴らしい。しばらく無言なのに、画がじつに持つ。ここから一気に笠木の存在感に引き込まれる。

 その許嫁と、かつて笠木が泊まった宿が今回の舞台である法師温泉・長寿館で、その滞在の直後、召集令状が届き、そのまま彼は戻ってこなかったという。

 今は結婚し、孫までいて幸せだと語る笠木だが、祝言すら挙げられぬまま引きちぎられるような形で想い出もろとも戦争に奪われてしまった、かつての許嫁の存在は今でも大きいようだ。

 笠木が死を目前に控えたステージ4の末期の膵臓がんであることを知った健さんは、悩みながらも笠木の願い通り、もう一泊、笠木のケアをすることに。

 そして今回も、あのなんでも出てくる四次元トランクを開く時が。

 出てきたのは想い出の写真に写る許嫁と同じ軍服。

 それを着て枕元に立つ健さんが笠木に語りかける。驚きながらも、それを許嫁の「加瀬清次(清さん)」として受け入れる笠木。

「久しぶり」

「お久しぶりです」

「よくまたここにきてくれたね」

「ずいぶん時間が経っちゃいましたけど……」

 夢だと思っていたのかもしれないが、逢えぬはずの人に逢える喜びは、ひとしおだろう。

■佐々木と遠藤の幻の混浴シーン

 彼が照れ屋のため名物の混浴風呂に一緒に入れなかったのが心残りだという笠木を、風呂に誘う、健さん演じる清さん。

 風呂に向かう途中で、笠木の姿はあの頃の若い姿(堀田真由)に変わっていた。

 健さんの錯覚なのか、笠木本人のイメージなのか、はたまた科学を超えたファンタジーなのかわからないが、笠木の心が軽くなって行くのがわかる。

 堀田は『わろてんか』(NHK総合)で葵わかなの妹役や、最近では『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(日本テレビ系)で、フェイク動画を作った犯人だと疑われる水泳部員役など活躍する若手。実在はしているものの、姿は観念であるという難しい入浴シーンを、雰囲気たっぷりに演じた。

 作中でも触れていたが、ここのお湯は風呂の底が砂利引きになっており、底から50年前の雨水が温泉となり滲み出ている。

 当時の許嫁との「再会」には、ぴったりの場所だ。

 作家の田中眞一のTwitterによると、佐々木はこの脚本をとても褒めてくれていたという。

 実際に享年90歳で亡くなってしまった佐々木も、17歳で終戦を迎えていたはずで、許嫁でなくとも大切な人を亡くしたり、亡くした人の悲しみに触れたりしてきたはずだ。

 佐々木が亡くなったのがどんな原因かは執筆してる今現在まだわからないし、なんなら知る必要も特にないが、何にせよ年齢的に人生の終幕を大なり小なり意識していたであろう中で今回の仕事に挑んでいたのは間違いないだろう。

 1コマずつまで丁寧に演じて、役柄から彼女(笠木)の持つであろう「想い出」を振り絞っているのがわかる。

 贅沢を言えば、ほんの一瞬でいいから、若き日を演じた堀田真由との混浴シーンのどこかで、今の佐々木と遠藤が笑顔で温泉に浸かってる画も差し込んでほしかった。

 佐々木が亡くなった今だから余計にそう感じるのかもしれないが、「今の笠木」を笑顔で「清さん」とお風呂に入れてあげたかった。

 こんなときに不謹慎なのかもしれないが、『スターウォーズ』のファーストシリーズのラストシーン(ジェダイの帰還)で改心したアナキン(ダースベーダー)が幽霊のように出てくるシーンがあるが、ずっと年老いたアナキンの姿だったのに、ジョージルーカスが途中で改訂してしまい、現行版では若き日のアナキンになってしまったことを思い出した。

 若き日のアナキンもよいのだが、いろいろあった上でそれはそれとして、いろいろなことを経た年老いたアナキンの笑顔の方を求めるファンも多かったので、後藤監督がディレクターズ・カットを作るとしたら、是非一瞬でも今の笠木の、佐々木の笑顔での混浴もお願いしたかった。

 こんなふざけた願いも、もはや絶対に叶わないのが、ただただ悲しい。

 

■飛鳥凛が深刻さを中和する

 今回は佐々木が圧巻の存在感を見せてくれたため、その影に回ってしまった感があるが、飛鳥凛のサバサバした仲居(久美)もいい味わいで、死別や戦争をテーマとした中で息抜きのような演技を挟みこみ、全体を中和してくれた。

 時間があれば、もっと健さんとの絡みも見たかった。

 病院へと戻る笠木を見送る健さんに、「泣いてるの……?」と久美が尋ねるラストは、訪ねておきながらいなくなる久美の気遣いが感じられて、いいシーンだった。

 今はエイベックスにいる飛鳥だが、元はスターダスト所属で、ももクロのデビューイベントの舞台も一緒に踏んでいる苦労人(メンバーではない)。きっぷの良さそうな役などハマりそうなのでもっと芝居を見てみたい。

 佐々木が亡くなったことで、かつての代表作(TBS『ふぞろいの林檎たち』『花より男子』、NHK『ゲゲゲの女房』『篤姫』など)がいろいろ流れる中で、この『さすらい温泉』も佐々木のギリギリまで灯された役者人生の最後を飾るのに見劣りしないものだったと思う。

 それはベテランながら深夜ドラマだろうと手を抜かない佐々木の姿勢も大きいし、ドラマを丁寧に作っている『さすらい温泉』制作側の姿勢も大きいだろう。

 paraviでも見られるが、ぜひもう一度、地上波で再放送して、佐々木の最期の仕事を、まだ見ていない人にも見せてあげてほしい。

 ご冥福をお祈りします。
(文=柿田太郎)

『さすらい温泉』故・佐々木すみ江の最期の仕事に……『花男』『ふぞろい』にも負けない仕事ぶりが光る

 遠藤憲一が役者を引退する決意で温泉宿の仲居になり、そこで出会った人々のために一肌脱ぐ。そんなパラレルワールドを見せてくれるドキュメンタリー風の人情温泉ドラマ『さすらい温泉 遠藤憲一』(テレビ東京系)。まさに、この記事の執筆中に、第5話のマドンナである佐々木すみ江さんの訃報が届いた。

 亡くなったから言うわけではなく、凛とした芯の通った演技でドラマ全体を引っ張っていただけにとても驚いた。佐々木すみ江の活躍を中心に、第5話を振り返ります。

(前回までのレビューはこちらから)

■一人で銀行から金を下ろせない遠藤憲一

 今回も遠藤のリアルな人となりを同級生や事務所スタッフから聞き出すインタビューから番組はスタート。

 今回は遠藤は一人では銀行からお金を下ろせないことが暴露される。

 そうなってくると、バスの予約なども一人ではできなそうな気がするので、どうやって毎回各地の温泉に移動しているのか考えてしまう。

 そんな遠藤がやってきたのは、群馬と新潟の県境にある法師温泉。温泉界ではレジェンドと言ってもいいほどの温泉だ。

 ちなみに番組内でも軽く触れていたが、かの田中角栄は法師温泉のすぐ横の三国峠をダイナマイトで吹っ飛ばし、その土砂で日本海を埋め立て佐渡島まで歩いて行けるようにすると新人時代の選挙演説で語っていた。実現していたら法師温泉のお湯も途絶えていたかもしれないので、実行されなくて何より。

■死を覚悟した旅行者役を熱演した佐々木

 この温泉で出会った宿泊客が佐々木すみ江演じる笠木澄恵。

 戦争に行ったまま戻らない、かつての許嫁との想い出を振り返りに、一人で来ているという。

 健さん(遠藤は派遣仲居のときは中井田健一と名乗っている)がその許嫁に似ているらしく、健さんに出会った瞬間の驚き→喜び→恥じらいと変わる佐々木演じる笠木の表情の変化が素晴らしい。しばらく無言なのに、画がじつに持つ。ここから一気に笠木の存在感に引き込まれる。

 その許嫁と、かつて笠木が泊まった宿が今回の舞台である法師温泉・長寿館で、その滞在の直後、召集令状が届き、そのまま彼は戻ってこなかったという。

 今は結婚し、孫までいて幸せだと語る笠木だが、祝言すら挙げられぬまま引きちぎられるような形で想い出もろとも戦争に奪われてしまった、かつての許嫁の存在は今でも大きいようだ。

 笠木が死を目前に控えたステージ4の末期の膵臓がんであることを知った健さんは、悩みながらも笠木の願い通り、もう一泊、笠木のケアをすることに。

 そして今回も、あのなんでも出てくる四次元トランクを開く時が。

 出てきたのは想い出の写真に写る許嫁と同じ軍服。

 それを着て枕元に立つ健さんが笠木に語りかける。驚きながらも、それを許嫁の「加瀬清次(清さん)」として受け入れる笠木。

「久しぶり」

「お久しぶりです」

「よくまたここにきてくれたね」

「ずいぶん時間が経っちゃいましたけど……」

 夢だと思っていたのかもしれないが、逢えぬはずの人に逢える喜びは、ひとしおだろう。

■佐々木と遠藤の幻の混浴シーン

 彼が照れ屋のため名物の混浴風呂に一緒に入れなかったのが心残りだという笠木を、風呂に誘う、健さん演じる清さん。

 風呂に向かう途中で、笠木の姿はあの頃の若い姿(堀田真由)に変わっていた。

 健さんの錯覚なのか、笠木本人のイメージなのか、はたまた科学を超えたファンタジーなのかわからないが、笠木の心が軽くなって行くのがわかる。

 堀田は『わろてんか』(NHK総合)で葵わかなの妹役や、最近では『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(日本テレビ系)で、フェイク動画を作った犯人だと疑われる水泳部員役など活躍する若手。実在はしているものの、姿は観念であるという難しい入浴シーンを、雰囲気たっぷりに演じた。

 作中でも触れていたが、ここのお湯は風呂の底が砂利引きになっており、底から50年前の雨水が温泉となり滲み出ている。

 当時の許嫁との「再会」には、ぴったりの場所だ。

 作家の田中眞一のTwitterによると、佐々木はこの脚本をとても褒めてくれていたという。

 実際に享年90歳で亡くなってしまった佐々木も、17歳で終戦を迎えていたはずで、許嫁でなくとも大切な人を亡くしたり、亡くした人の悲しみに触れたりしてきたはずだ。

 佐々木が亡くなったのがどんな原因かは執筆してる今現在まだわからないし、なんなら知る必要も特にないが、何にせよ年齢的に人生の終幕を大なり小なり意識していたであろう中で今回の仕事に挑んでいたのは間違いないだろう。

 1コマずつまで丁寧に演じて、役柄から彼女(笠木)の持つであろう「想い出」を振り絞っているのがわかる。

 贅沢を言えば、ほんの一瞬でいいから、若き日を演じた堀田真由との混浴シーンのどこかで、今の佐々木と遠藤が笑顔で温泉に浸かってる画も差し込んでほしかった。

 佐々木が亡くなった今だから余計にそう感じるのかもしれないが、「今の笠木」を笑顔で「清さん」とお風呂に入れてあげたかった。

 こんなときに不謹慎なのかもしれないが、『スターウォーズ』のファーストシリーズのラストシーン(ジェダイの帰還)で改心したアナキン(ダースベーダー)が幽霊のように出てくるシーンがあるが、ずっと年老いたアナキンの姿だったのに、ジョージルーカスが途中で改訂してしまい、現行版では若き日のアナキンになってしまったことを思い出した。

 若き日のアナキンもよいのだが、いろいろあった上でそれはそれとして、いろいろなことを経た年老いたアナキンの笑顔の方を求めるファンも多かったので、後藤監督がディレクターズ・カットを作るとしたら、是非一瞬でも今の笠木の、佐々木の笑顔での混浴もお願いしたかった。

 こんなふざけた願いも、もはや絶対に叶わないのが、ただただ悲しい。

 

■飛鳥凛が深刻さを中和する

 今回は佐々木が圧巻の存在感を見せてくれたため、その影に回ってしまった感があるが、飛鳥凛のサバサバした仲居(久美)もいい味わいで、死別や戦争をテーマとした中で息抜きのような演技を挟みこみ、全体を中和してくれた。

 時間があれば、もっと健さんとの絡みも見たかった。

 病院へと戻る笠木を見送る健さんに、「泣いてるの……?」と久美が尋ねるラストは、訪ねておきながらいなくなる久美の気遣いが感じられて、いいシーンだった。

 今はエイベックスにいる飛鳥だが、元はスターダスト所属で、ももクロのデビューイベントの舞台も一緒に踏んでいる苦労人(メンバーではない)。きっぷの良さそうな役などハマりそうなのでもっと芝居を見てみたい。

 佐々木が亡くなったことで、かつての代表作(TBS『ふぞろいの林檎たち』『花より男子』、NHK『ゲゲゲの女房』『篤姫』など)がいろいろ流れる中で、この『さすらい温泉』も佐々木のギリギリまで灯された役者人生の最後を飾るのに見劣りしないものだったと思う。

 それはベテランながら深夜ドラマだろうと手を抜かない佐々木の姿勢も大きいし、ドラマを丁寧に作っている『さすらい温泉』制作側の姿勢も大きいだろう。

 paraviでも見られるが、ぜひもう一度、地上波で再放送して、佐々木の最期の仕事を、まだ見ていない人にも見せてあげてほしい。

 ご冥福をお祈りします。
(文=柿田太郎)

『さすらい温泉 遠藤憲一』しずちゃんの代打で漫才披露! 天津・木村が相方役を好演

 遠藤憲一が俳優を引退する決意で、派遣の仲居として各地の温泉で働いている。そんな設定のちょっとだけドキュメンタリー風味なドラマ『さすらい温泉 遠藤憲一』(テレビ東京系)。

 第4話となる今回は、南海キャンディーズ・しずちゃんと天津・木村の「新コンビ」が登場、我らが遠藤「健さん」も漫才を披露してくれました。

(前回までのレビューはこちらから)

 

■愛犬家・遠藤憲一

 今回も遠藤の30年来の友人(伊藤さん)のインタビューからスタート。「彼(遠藤)の本性に迫るべく」敢行してるインタビューらしいのだが、今回はずっと遠藤の飼っていたマルチーズの話。「引退」や「俳優」からどんどん遠ざかってゆく話題。

 後ほど温泉宿で卓球に興じる遠藤に、この亡くなった犬の話題を振ると明らかに動揺し始め、何かを振り切るように力み過ぎのスマッシュを鬼の形相で連発。

 引退の真相はいまだ謎だが、とりあえず彼がかなりの愛犬家だということだけはわかった。

 

■『千と千尋』のモデルとウワサの旅館

 今回、遠藤改め中井田健一(派遣中居業の時の名前)、通称・健さんが訪れたのは、長野県の渋温泉。

「厄除巡浴九湯めぐり」という9つの外湯巡りが人気の歴史ある温泉。奈良時代に発見され、戦国の世には、前回の山梨・下部温泉と同じく武田信玄の隠し湯になっていたという。

 健さんが今回働く宿・金具屋は、あの『千と千尋の神隠し』の舞台の参考になっているとの説もある見事な木造4階建て。

 変わった名前だと思ったらどうやら元が鍛冶屋で、温泉が出たため鞍替えしたということらしい。

 3つの名物風呂と並んでこの宿の売りは、登録有形文化財に指定されている130畳の大広間・飛天の間。昔は芝居小屋としても使われていたというこの舞台に地方営業として出演するため、ある芸人がやってくる。

 いまいち芽の出ない漫才コンビ・ワンワンパニックだ。

 遠藤のペットのインタビューからの流れから考えると、実に悪意のあるネーミングである。

 ちなみにファミコンカセット『オバケのQ太郎 ワンワンパニック』から取ったのかは、明らかにされなかった。

 

■ギスギスするお笑いコンビ

 しずちゃん演じる石原聡美は、舞台以外でも芸人らしく笑いを取ろうといじってくる相方のヒロト(天津・木村卓寛)に嫌気が差しており、支配人や健さんらの前でも、その不快感を隠そうとしない。

「こいつね、こんなブサイクな顔してますけど石原聡美って名前なんですよ? 聡明で美しいって書く……って、どこがやねん!」

「……(無視)」

 売れる気満々のヒロトに対し、役割を放棄し、無言を貫く聡美のギクシャクぶりが見るに耐えない。周囲が気を使うパターン。

 ヒロトは隙あらば売れようと「種」を巻き続けるタイプ。

 そしておそらく聡美は少なくとも舞台以外では割り切って「芸」を見せようとしないタイプ。

 どちらも間違いではないのだろうが、現時点では聡美の不満が燻って着火しかけてるのがわかる。

 さらに聡美には溺愛する男がおり、芸人を辞めて男と一緒になるつもりだという。

 結論から言うと、この彼氏は聡美を金ヅルとして利用していただけなのだが、電話で男に金を無心されてる姿を見てしまった健さんは、いきなり聡美に金を握らせる(おそらく1~2万円)。介入するスピードが光のように速い。

 営業のステージをすっぽかし、こっそり帰ろうとする聡美を待ち伏せし、バカを装って外湯めぐりに連れ出す健さん。聞き上手の健さんに心を開く聡美。

 いつも思うのだが、健さんはこういうとき、仲居の仕事を完全に放棄している。

 この日も夕方まで8つもの外湯を一緒に巡っており、やりたい放題。うらやましい。

 しかし、結局男の元へと去った聡美の代わりにヒロトと営業の舞台に立つ健さん。

■今回、四次元トランクから出てきたものは?

 なんでも出てくる健さんの「四次元トランク」から、今回は聡美と全く同じ舞台衣装(髪留めや蝶ネクタイまで)が。

 あらかじめ用意していたわけがあるはずないのだが、それでも出てくる。この番組唯一のファンタジー要素。

 今回は目的の服を探しているとき、トランクの中からテディベアらしきものや草鞋らしきものが飛び出しており、この「関係ない余計なもの」を見つけるのも楽しい。

 

■健さんの初漫才

 女装して漫才を行う健さん。

 関係ない枕からの「あーー結婚したい!」「突然やな!」。ネタへの入り方がよくある導入で笑ってしまった。

 細かくは省くが、この漫才シーンはしっかりネタ合わせして、舞台さながらに「ネタ」として披露したのだろう。

 荒いながらも新鮮なグルーブ感が出ていた。

 そして、イマイチ受けなくなってきた後半、帰ったはずの聡美が戻ってくる。

 男を振って吹っ切れたからなのか、健さんとの話で初心を思い出したからなのか、前のめりで大爆笑をとる聡美。

 だが、舞台を降りると恩人の健さんの姿はどこにもない。

「貴女の夢の足かせになっちゃいけない」と、聡美の「想い」が膨らむ前に身を引いたのだ。

 惚れさすだけ惚れさせて、置いていなくなる、西部劇のような美学。

 宿から出てきた聡美が大声で叫んだ「健さーーーん!」の声が「シェーーーン、カムバーーク!」みたいに聞こえた。

 仕事の途中で挨拶もなく派遣先からいなくなることになるが、そんなことはどうでもいいのだ。渡り鳥のように健さんは次の温泉に向かう。社会人失格なその気まぐれっぷりは、まさに「さすらい」。

 

■天津・木村の巧さ

 2006年に公開された映画『フラガール』以降、役者としても評価されているしずちゃんももちろんよかったが、天津・木村の「いかにもいそうな関西の若手漫才師のツッコミ」役もとてもよかった。

 相方との開きかけた距離を感じながらも、マネジャーもついてこない現場でマネジャー的な仕事もこなしつつ、割り切ったかのように相方の分まで腐らず周りに媚を売る。

 出番は決して多くないのだが、メインの邪魔をしない存在感で、的確に芝居を締めた。

 終わった後、爆笑だったことを支配人に褒められているときの、喜びながらも心の底からは喜んでいない、どこか醒めているような半・作り笑顔は、おそらく普段からしているのだろう、なんとも言えない味わいがあった。

 境目が薄れつつあるこのご時世、こんな分類に意味はないのかもしれないが、それでもコント師以上に漫才師は普段から素の部分まで微妙に「演じて」いるのだろう。そんな風に知ったかぶりたくなるくらい、自然な芝居だった。

 そして、ドラマ『火花』のときの井下好井・好井、とろサーモン・村田もそうだったが、ネタ中、片方が「本職」だと急造のコンビでもネタが締まる。

 面白い面白くない以前の、漫才として成り立ってる空気を作り出せるのが、プロならではの技術だ。

 今回の木村も、同じプロであるしずちゃん相手のときはともかく、「素人」である遠藤を、さりげなくフォロー、誘導しながら漫才として成り立たせていた。

 ただ台本のネタをやるだけでなく、観客へ見やすく橋渡しをし、呼吸をするように見所を整えながら、自然に話してるように話を運ぶのは、場数や経験がものをいうはずだ。

 木村が隙間を埋めたり諸々を担ってくれたので、急造のコンビの割に遠藤もやりやすかったのではないだろうか。

 途中から(演出的に)、意味なくエロ詩吟をやらされてしまうのでは? と、勝手にハラハラしながら見ていたが、そんな野暮なこともさせられることなく、無事役目を全うしていたのでよかったです。

 やってても、それはそれで見たかったけど。

 さて次回は法師温泉。オープニングでも使われてるあの名湯が登場。見ましょう。
(文=柿田太郎)

 

『さすらい温泉 遠藤憲一』旅情とエロス……久しぶりに地上波で女性の“生尻”を見た!

 遠藤憲一が俳優を引退する決意で、派遣の仲居として各地の温泉で働いている。そんな設定のちょっとだけドキュメンタリー風味なドラマ『さすらい温泉 遠藤憲一』(テレビ東京系)。

 第3話となる今回は、人気が落ちることを恐れ、仮病で休業中のトップアイドルのために健さんこと中井田健一(遠藤)が奮闘する。なんでも出てくるトランクから、今回もあり得ないサイズのモノが出てきます。

(前回までのレビューはこちらから)

 

■遠藤の友人が今回も登場

 今回も前回と同様、冒頭のインタビューでリアル(だと思われる)な友人・知人が普段の遠藤について語っている。

「(役者は)天職ではない」

「(遠藤は)そんなに器用ではない」

 のっけから営業妨害ではないかと思えるほどのコメントを叩きつける、遠慮ない素人たち。

 だが「台本を人の3倍(10倍)読む」など、非常に努力家な面も語られた。

 普段頑張りすぎている分、今回「風に当たってる」のではないかとの見立ても。

 いわゆるフェイクドキュメンタリーなのだが、引退とかの「設定」はともかく、知人らの遠藤に対する発言は本物だろう(そうあってほしい)。

 

■ビシバシステムに見えなくもない遠藤

 そんな健さんが今回訪れたのは山梨の下部温泉で、かの武田信玄の隠し湯とされる場所。

 さらにここは、全国に21カ所しかない「国民保険温泉地」の一つ。調べてみると、まず温泉として効能が折紙付となる「国民保養温泉地」というくくりがあり、その中でも医師の協力を得て温泉の保健的利用を促進することが期待できる条件を備えた温泉地を「国民保険温泉地」と呼ぶらしい。有名どころだと、大分・湯布院温泉や奈良の十津川温泉郷などもこれに当たる。

 そして今回派遣された宿は大市館・裕貴屋。明治8年創業で木造3階建ての建物(昭和11年建設)は、登録有形文化財に認定されているとのことで、温泉地に溶け込みながらも控えめな格式を感じる。

 ちなみに宿の支配人を住田隆が演じており、目のぎょろりとした遠藤と並ぶと初代ビシバシステムのように見えなくもない。住田の初代の相方は緋田康人(当時の名は西田康人)。ドラマ『半沢直樹』(TBS系)で日本中をムカつかせたあの「小木曽」といえば、わかる人も多いだろう。

 

■乃木坂46のヒット曲を作曲した人が劇中曲を

 さっそく働き出した健さんは、橋から川を見つめる宿泊客を勝手に自殺志願者だと思い込み、救助。それが、なんとあの人気アイドルグループ神田川55(KDG55)のセンター・大賀みな(大場美奈・SKE48)だった。無期限休養中の“みなるん”は、負傷した足の治療で湯治に来ているらしいのだが、どうやら人気投票でセンターから陥落しそうなのが怖くて、引退覚悟で逃げてきているのが本当のところらしい。

 部屋まで上がりこんで飯を食わそうとするお節介な健さんを、当初はうざがっていたみなるんだが、自分のために振り付けまで覚えようとしてる熱意にほだされ、心を開きかける。

 この劇中曲を作ったのは、坂道グループの曲も手掛けている小田切大(乃木坂46「おいでシャンプー」や欅坂46「302号室」作曲など)、ダンスの振り付けはNGT48の振り付けを手がけたこともある富田彩(監督・後藤庸介のツイッター情報)。

 同じテレ東の深夜ドラマ『忘却のサチコ』でもそうだったが、劇中の使い捨てのような架空の曲がちゃんと作られていると、何か誠意を感じる。

 

■国民的アイドルのはずなのに……

 面白かったのはネットでウワサを聞きつけ集まってきたファンたちと、みなるんの距離感が全然「国民的アイドル」のそれではなかったこと。

「いっつもいっつもなんなの?」「握手会のときだって何回もしつこく来るし!」と、集まって来たファンたちをひとかたまりに敵と見なし、ブチ切れるみなるんも凄いが、「なんだよそれ……! みなるんをセンターにするために、幾らつぎ込んだと思ってるんだよ!」「そうだそうだ」「僕たちがいなけりゃ、とっくにセンター取られてるよ?」「そうだそうだ」と、負けじと本音をぶちまけるファンも凄い。

 ネットで匿名をいいことに本音をさらけ出す人は多くいるかもしれないが、白昼ファンが本人を取り囲んで文句を浴びせている様子は、荒れた地下アイドルの現場のよう。

 売れている「国民的アイドル」を取り囲む人の輪にライト層がまったくいないのが違和感の原因だと思うが、「人気」を表現するのは意外と難しい。

■武田信玄の鎧まで持参してる健さん

 そして再度心を閉ざしかけたみなるんを元気付けるため、恒例の健さん変装タイム。今回、古めかしく、さほど大きくもないトランクから出てきたのは、なんと武田信玄を思わせる鎧兜と衣類一式。腰には刀まで装着していたから、それも入っていたのだろう。もう絶対に収まる寸法ではないのだが、一体トランク内はどんな宇宙が広がっているのか。

 例によって、入っている他の服を撒き散らしながらトランク内を探すシーンでも、途中サンタの衣装らしきものをほっぽり投げていた。みなるんの薄着の私服から考えるに季節は夏前後だろうに、冬物までも押さえているのはさすがだ、というか怖い。

 怖いといえば、夜中に旅館内を鎧を着た男がうろついてるのに平然と後を追っかけるみなるんも怖い。

 普通に考えて超常現象なはずだし、そうじゃなかったとしても、かなり不審者だし、どっちにしろ、かなり怖いはずなのに。ファンへの対応といい、度胸が凄い。

 そして、鎧武者を追いかけていくと、そこにはオタ仲間らしき数人とサイリウムを両手にオタ芸(サイリウムダンス)をする健さんが。おそらく早着替えで鎧を脱いだのだろうが、たかだかこのためだけに鎧を着てまでみなるんを導くという発想が凄い。

 この健さんの熱意が届いたのか、みなるんも本域で踊り出し、アイドルとしてやっていこうという気持ちを取り戻すのだが、この時のみなるんのダンスが普通にかっこいい。ここだけで終わらせるのももったいないから、どこかで披露してしっかり成仏させてあげてほしい。

 

■フェイクドキュメンタリーという設定は後付け?

 ちなみに、みなるんはいわば俳優・遠藤憲一の同業者にあたるわけだが、どちらもお互いのことを知らなかったし、「えーー? まさか遠藤憲一さん!?」的なカタルシスも最後までない。

 フェイクドキュメンタリーとして見せようとしながらも、メーンのドラマ本編でまったく「遠藤憲一」的要素が入らないのは、あくまで流れ者の仲居ドラマとして撮った完全なフィクションに、何か事情があって後から頭とお尻にドキュメンタリー部分を付け足したのだろうか?

 そう思ってしまうくらい「ドキュメンタリー」部分と「ドラマ・フィクション」部分が断絶している。今後、種明かしがあるのだろうか?

 

■説明するほどでもない宿の情報を疑似体験

 今回も、「良さげな抹茶が出てくる」とか「ロースルロイスで送迎」とか「マシュマロを焼いて食べられる」とか(食べ放題らしく、ゆで卵やポップコーンも)、ドラマの中で実在する旅館の情報がさりげなく差し込まれており、行ったこともないのに見ているだけで旧知の宿に思えてくる。

 温泉(旅館)の贅沢なプロモーションビデオとして楽しむのも正解なのかもしれない。

 今回は女性の入浴シーンが踏み込んでいて、成宮潤というセクシー系の女優は、ぼかしていたとはいえ生尻まで披露していた。今や地上波ではなかなか見られなくなったお色気シーン。

 旅情だけでなく、そんな部分でも昭和を味わせてくれた。

 次回は南海キャンディーズのしずちゃんがマドンナで登場します。面白そう。
(文=柿田太郎)

 

『さすらい温泉 遠藤憲一』旅情とエロス……久しぶりに地上波で女性の“生尻”を見た!

 遠藤憲一が俳優を引退する決意で、派遣の仲居として各地の温泉で働いている。そんな設定のちょっとだけドキュメンタリー風味なドラマ『さすらい温泉 遠藤憲一』(テレビ東京系)。

 第3話となる今回は、人気が落ちることを恐れ、仮病で休業中のトップアイドルのために健さんこと中井田健一(遠藤)が奮闘する。なんでも出てくるトランクから、今回もあり得ないサイズのモノが出てきます。

(前回までのレビューはこちらから)

 

■遠藤の友人が今回も登場

 今回も前回と同様、冒頭のインタビューでリアル(だと思われる)な友人・知人が普段の遠藤について語っている。

「(役者は)天職ではない」

「(遠藤は)そんなに器用ではない」

 のっけから営業妨害ではないかと思えるほどのコメントを叩きつける、遠慮ない素人たち。

 だが「台本を人の3倍(10倍)読む」など、非常に努力家な面も語られた。

 普段頑張りすぎている分、今回「風に当たってる」のではないかとの見立ても。

 いわゆるフェイクドキュメンタリーなのだが、引退とかの「設定」はともかく、知人らの遠藤に対する発言は本物だろう(そうあってほしい)。

 

■ビシバシステムに見えなくもない遠藤

 そんな健さんが今回訪れたのは山梨の下部温泉で、かの武田信玄の隠し湯とされる場所。

 さらにここは、全国に21カ所しかない「国民保険温泉地」の一つ。調べてみると、まず温泉として効能が折紙付となる「国民保養温泉地」というくくりがあり、その中でも医師の協力を得て温泉の保健的利用を促進することが期待できる条件を備えた温泉地を「国民保険温泉地」と呼ぶらしい。有名どころだと、大分・湯布院温泉や奈良の十津川温泉郷などもこれに当たる。

 そして今回派遣された宿は大市館・裕貴屋。明治8年創業で木造3階建ての建物(昭和11年建設)は、登録有形文化財に認定されているとのことで、温泉地に溶け込みながらも控えめな格式を感じる。

 ちなみに宿の支配人を住田隆が演じており、目のぎょろりとした遠藤と並ぶと初代ビシバシステムのように見えなくもない。住田の初代の相方は緋田康人(当時の名は西田康人)。ドラマ『半沢直樹』(TBS系)で日本中をムカつかせたあの「小木曽」といえば、わかる人も多いだろう。

 

■乃木坂46のヒット曲を作曲した人が劇中曲を

 さっそく働き出した健さんは、橋から川を見つめる宿泊客を勝手に自殺志願者だと思い込み、救助。それが、なんとあの人気アイドルグループ神田川55(KDG55)のセンター・大賀みな(大場美奈・SKE48)だった。無期限休養中の“みなるん”は、負傷した足の治療で湯治に来ているらしいのだが、どうやら人気投票でセンターから陥落しそうなのが怖くて、引退覚悟で逃げてきているのが本当のところらしい。

 部屋まで上がりこんで飯を食わそうとするお節介な健さんを、当初はうざがっていたみなるんだが、自分のために振り付けまで覚えようとしてる熱意にほだされ、心を開きかける。

 この劇中曲を作ったのは、坂道グループの曲も手掛けている小田切大(乃木坂46「おいでシャンプー」や欅坂46「302号室」作曲など)、ダンスの振り付けはNGT48の振り付けを手がけたこともある富田彩(監督・後藤庸介のツイッター情報)。

 同じテレ東の深夜ドラマ『忘却のサチコ』でもそうだったが、劇中の使い捨てのような架空の曲がちゃんと作られていると、何か誠意を感じる。

 

■国民的アイドルのはずなのに……

 面白かったのはネットでウワサを聞きつけ集まってきたファンたちと、みなるんの距離感が全然「国民的アイドル」のそれではなかったこと。

「いっつもいっつもなんなの?」「握手会のときだって何回もしつこく来るし!」と、集まって来たファンたちをひとかたまりに敵と見なし、ブチ切れるみなるんも凄いが、「なんだよそれ……! みなるんをセンターにするために、幾らつぎ込んだと思ってるんだよ!」「そうだそうだ」「僕たちがいなけりゃ、とっくにセンター取られてるよ?」「そうだそうだ」と、負けじと本音をぶちまけるファンも凄い。

 ネットで匿名をいいことに本音をさらけ出す人は多くいるかもしれないが、白昼ファンが本人を取り囲んで文句を浴びせている様子は、荒れた地下アイドルの現場のよう。

 売れている「国民的アイドル」を取り囲む人の輪にライト層がまったくいないのが違和感の原因だと思うが、「人気」を表現するのは意外と難しい。

■武田信玄の鎧まで持参してる健さん

 そして再度心を閉ざしかけたみなるんを元気付けるため、恒例の健さん変装タイム。今回、古めかしく、さほど大きくもないトランクから出てきたのは、なんと武田信玄を思わせる鎧兜と衣類一式。腰には刀まで装着していたから、それも入っていたのだろう。もう絶対に収まる寸法ではないのだが、一体トランク内はどんな宇宙が広がっているのか。

 例によって、入っている他の服を撒き散らしながらトランク内を探すシーンでも、途中サンタの衣装らしきものをほっぽり投げていた。みなるんの薄着の私服から考えるに季節は夏前後だろうに、冬物までも押さえているのはさすがだ、というか怖い。

 怖いといえば、夜中に旅館内を鎧を着た男がうろついてるのに平然と後を追っかけるみなるんも怖い。

 普通に考えて超常現象なはずだし、そうじゃなかったとしても、かなり不審者だし、どっちにしろ、かなり怖いはずなのに。ファンへの対応といい、度胸が凄い。

 そして、鎧武者を追いかけていくと、そこにはオタ仲間らしき数人とサイリウムを両手にオタ芸(サイリウムダンス)をする健さんが。おそらく早着替えで鎧を脱いだのだろうが、たかだかこのためだけに鎧を着てまでみなるんを導くという発想が凄い。

 この健さんの熱意が届いたのか、みなるんも本域で踊り出し、アイドルとしてやっていこうという気持ちを取り戻すのだが、この時のみなるんのダンスが普通にかっこいい。ここだけで終わらせるのももったいないから、どこかで披露してしっかり成仏させてあげてほしい。

 

■フェイクドキュメンタリーという設定は後付け?

 ちなみに、みなるんはいわば俳優・遠藤憲一の同業者にあたるわけだが、どちらもお互いのことを知らなかったし、「えーー? まさか遠藤憲一さん!?」的なカタルシスも最後までない。

 フェイクドキュメンタリーとして見せようとしながらも、メーンのドラマ本編でまったく「遠藤憲一」的要素が入らないのは、あくまで流れ者の仲居ドラマとして撮った完全なフィクションに、何か事情があって後から頭とお尻にドキュメンタリー部分を付け足したのだろうか?

 そう思ってしまうくらい「ドキュメンタリー」部分と「ドラマ・フィクション」部分が断絶している。今後、種明かしがあるのだろうか?

 

■説明するほどでもない宿の情報を疑似体験

 今回も、「良さげな抹茶が出てくる」とか「ロースルロイスで送迎」とか「マシュマロを焼いて食べられる」とか(食べ放題らしく、ゆで卵やポップコーンも)、ドラマの中で実在する旅館の情報がさりげなく差し込まれており、行ったこともないのに見ているだけで旧知の宿に思えてくる。

 温泉(旅館)の贅沢なプロモーションビデオとして楽しむのも正解なのかもしれない。

 今回は女性の入浴シーンが踏み込んでいて、成宮潤というセクシー系の女優は、ぼかしていたとはいえ生尻まで披露していた。今や地上波ではなかなか見られなくなったお色気シーン。

 旅情だけでなく、そんな部分でも昭和を味わせてくれた。

 次回は南海キャンディーズのしずちゃんがマドンナで登場します。面白そう。
(文=柿田太郎)

 

『さすらい温泉 遠藤憲一』つげ義春も通った北温泉旅館 天狗の鼻に弄ばれる山口紗弥加がエロすぎた!

 役者を引退し、さまざまな名湯に派遣され仲居として働く遠藤憲一。そんな「脱・今の生活」を成し得た役者の遠藤憲一改め仲居の中井田健一が、時間が止まったような温泉地を舞台に儚い夢のような物語と、その温泉宿の情報や押し付けがましくなく見せてくれる、ちょっと変な番組『さすらい温泉 遠藤憲一』(テレビ東京系)。

 主に冒頭と終わり部分をフェイクドキュメンタリーとして見せつつも、基本はしっかりと「ドラマ」。第2話はその筋では有名な奥那須・北温泉(栃木県)を「さすらい」ます。

(前回までのレビューはこちらから)

 

■遠藤憲一の同級生が暴露

 今回は冒頭のドキュメンタリーチックなパートに、遠藤の中学の同級生(現在は社会科教師)が登場。遠藤が歴史や漢字にかなり疎いことなどプライベート情報を暴露する。

 遠藤が大河ドラマに出るたびに、その都度、歴史についてレクチャーしてあげてるのだという。

 この後、奥那須を行く遠藤が、その地の歴史や由来を渋い声で語るのだが、直前の「暴露」のおかげで「知ったかぶり」に見えてしまい、なんだか微笑ましい。基本このドラマでの遠藤は三枚目だ。

 ちなみに遠藤が最初に立ち寄った奥那須の名所・殺生石は「京の都を荒らした九尾の狐がこの地で退治され石になったと言われている」場所だが、この「九尾の狐」は漫画『うしおととら』(小学館)のあのラスボス・白面の者のモチーフ。

 石の周りからは絶えず火山ガスが出ており、いやが上にも温泉気分が盛り上がる。

 

■1,200年前からある温泉

 そして到着したのは奥那須・北温泉旅館。1,200年前に天狗が発見したとされる温泉と、江戸、明治、昭和と増築を重ね、迷路のように伸びた木造建築が得も言われぬ雰囲気を醸し出す秘湯。

 中井田(遠藤)が到着すると、若い女性の仲居・森本千秋(鮎川桃果)が出迎える。第1話と同じく中井田は「健さんと呼んでください」とアピール。

 さらに同じく第1話でも披露された「極上のおもてなしを……(提供します)」という健さん渾身の決めセリフに「こちらです」と、ぶった切るように言葉を被せ、奥へ消えてゆく森本が可愛くもどこか不気味でいい。

 決めセリフの腰を折られ、不安げな健さんの表情もいい。建物の作りだけでなく、精神的にも迷路に入りこんだかのよう。

 巨大な天狗のお面がいくつも壁に飾られた独特すぎる内湯(天狗の湯)に浸かる健さん。

「源泉の湯量が豊富」「鉄分を含んだ単純泉」「子宝の湯」であることなどをさりげなく心の声で教えてくれる。気持ちよさそうな温泉シーンは、やはりこのドラマの主役だ。

 

■官能小説家が似合う山口紗弥加

 そんな浮世離れした宿で今回出会ったのは官能小説家・艶口さやか(山口紗弥加)。部屋にこもって執筆に励むも、筆が進まず編集者にせっつかれている。今回も出会ってすぐ、このマドンナに惹かれる健さん。恋多き仲居。

 妖艶な魅力溢れる艶口だが、実は男性恐怖症で、過去のトラウマから男性の体に触れることができず、それがプレッシャーとなり作品が書けなくなっているという。

 これは旅館の敷地内にある鬼子母神に祀られてる男根を模した彫刻に、艶口が触れないことから発覚したのだが、雑誌(週刊プロレス別冊)の表紙になってる本間朋晃(新日本プロレス)すら触れないくらいだから、かなり重症だ。

 艶口は悩みを打ち明ける前に健さんを混浴に誘い、自身を「荒治療」をしようとしていたのだが、結局健さんに触れることもできず失敗に終わった。映画『座頭市』(1989)での勝新と樋口可南子くらい濃厚な温泉での濡れ場を期待したのだが残念。

 だが「私もう無理だあ」「元から無理だったんだよね。才能ないの気付いてたし」と、はにかむように告白する艶口の姿もとても可愛らしかった。

■天狗姿で夜這いする健さん

 ここで我らが健さんが一肌脱ぐ。毎度恒例、唯一持参した古ぼけた小さなトランクから、なぜか出てくる、その時に必要な「こんなものまで持ってきてたの?」的な衣装が今回も登場。

 深夜、艶口が目を覚ますと布団の上に覆いかぶさっていたのは、いかつい真っ赤な天狗。

 しかもよく見ると天狗の顔はお面でなく、艶口を射抜くように伸びた鼻とぼうぼうの眉毛以外は、健さんの地肌。肌を真っ赤に塗っているのだ。普通にとても怖い。黒光りならぬ赤光りする肌の男が暗い部屋で自分にまたがり、無言で見つめてくるのだ。『水曜日のダウンタウン』(TBS系)でやりそうなドッキリだが、実際は死ぬほど怖いはず。

 ここで、男根のごとく伸びた鼻で艶口の輪郭を焦らすように撫で始めるエロ天狗。さらにその鼻は艶口の桃のごとき2つの膨らみをなぞり、そしてその下の秘境へと這い降りる。

 顎を突き上げ、身悶えしながら吐息を漏らす艶口。そして、散々喘いだあとに「……健さん?」と、ようやく気づく。得体の知れないUMA相手に、あんなに感じていたのが逆に凄い。この時、健さんの本当の「鼻」は固くなっていたのだろうか?

 さらに健さん天狗は「鼻を触って」と真顔で指示。ウイスパーボイスで、とんちんかんなことを言う面白さ。

 しかも隠語ではなく、まんま鼻(作り物)を触ってという意味。上の鼻だが、それでもエロい。だが、それすら触れない艶口を天狗が説き伏せる。

「恐れずに」

「……これでいいの?」

「それでいい!!」

 ど、どれ??

 私の声はもちろん二人には届かない。

 ここで健さん天狗は、官能小説の一節のように今の状況を語れと艶口に指示。

「私はその屹立した天狗の鼻にそっと触れた。逞しく猛々しい天狗に鼻に指を這わせる。今までの恐れは消え、愛おしさすら覚え始めていた……」

 この時「素晴らしい」と喜ぶ天狗の口元が緩み、中から白い歯がずらりと現れるのだが、ものすごく怖かった。

 薄暗い部屋の中で、そこにある何よりも明るく光る歯。艶口の肌より白い生々しい輝き。長く伸びた鼻なんかよりよっぽど怖い。

 絶頂に達したように深い呼吸をした艶口がゆっくり目を開けると、もはや天狗の姿はどこにもなかった。翌日、憑き物が取れたようにすっきりした顔で旅館を後にする艶口。

「今度はゆっくりサービスしてあげるから」と、いたずらに笑う姿は、今までと違っていた。

 

■第2話に感じた、つげ義春的世界

 今回は、前回のお人好しな「寅さん」的雰囲気ではなく、不安定な場所に迷い込んだ「つげ義春」的空気を強く感じた。

 そもそもこの北温泉旅館は、つげのお気に入りで、何度も足を運んだり作品にも登場させたりしている「ゆかりの地」。

 しかも映画『無能の人』(1991)にも登場していた「かんべちゃん」こと神戸浩が、今回謎のキャラで物語内を徘徊しており、これが余計に「つげ」感を増幅していた。

 最近では映画の『テルマエ・ロマエ』(2012)で上戸彩の実家として登場したりして観光客が増えたためか、脱衣所や通路が綺麗になったりして、一部の人からやや残念がられているが、それでも世間から取り残されたような存在感は健在。

 同じテレ東の深夜ドラマ『日本ボロ宿紀行』では味のあるB級宿泊施設を愛情を込めて「ボロ宿」と呼んでいるが、それに通じる愛され方をしている。

 このドラマを見ると温泉に入りたくなるのはもちろんなのだが、入ったかのようなリフレッシュ感も味わえる。

 平日深夜の30分で気軽に味わえる極小旅行として、これからの回も期待したい。
(文=柿田太郎)

『さすらい温泉 遠藤憲一』テレ東深夜に連なる、新たな「フェイクドキュメンタリー」の系譜

 あの遠藤憲一が、役者を引退して温泉宿で仲居として働くらしい……なかなか奇抜なビッグニュースが飛び込んできた。

 その真偽を確かめるべく遠藤にカメラが密着、そこに映るのは、温泉街で起こるさまざまな人間ドラマに、前のめりに首を突っ込む遠藤の姿。またしても一癖ありそうなテレ東深夜ドラマ『さすらい温泉 遠藤憲一』の第1話。振り返りましょう。

 

■フェイクドキュメンタリーである必然性は?

 番組は、遠藤本人への直撃取材からはじまる。

「遠藤さんが俳優を引退されるって聞いたんですけど」

 真意を問う番組ディレクターの質問を無視して、旅支度を進める遠藤。ドキュメンタリーであることを強調した導入部分だ。

 野暮を承知で言わせていただくなら、遠藤は現実では役者も辞めないし、温泉で働きもしない。現実とフィクションが交錯するいわゆるフェイクドキュメンタリーと呼ばれる手法。

 この手法は、テレ東深夜ではお馴染みで、『山田孝之の東京都北区赤羽』や『山田孝之のカンヌ映画祭』、斎藤工が芸人を目指した『マスクメン』、そして、それこそ同じ遠藤が本人役で出演した『バイプレイヤーズ』などもこれに含まれる。

 番組名に「遠藤憲一」の文字がデカデカと入っているのも、本人のままであると強調するためだろう。

 しかし、この冒頭の「前フリ」パート以降、ドキュメンタリー的な見せ方は影を潜める。

 草津の温泉宿(奈良屋)に着くなり、そこの番頭に「温泉宿専門、仲居派遣サービス・エンスタワーから参りました、中井田健一です」と自己紹介する遠藤。

 宿の従業員らも、彼があの「遠藤憲一」であると気づく様子もなく、これ以降、中井田健一を主役とした「温泉を舞台にした人情ドラマ」が進む。

 1話見ただけで言うのもなんだが、今のところこの作品における「ドキュメンタリー」部分の必要性は、他のテレ東のフェイクドキュメンタリー番組に比べると低いと思われる。

 他の番組(『山田孝之の~』や『バイプレイヤーズ』など)は、それが本人である必然性があるのだが、この番組は「中井田健一」と名乗って以降、彼が「遠藤憲一」本人であるとする見せ方は特になく、ドラマ終了後に、再び冒頭のディレクターが遠藤にインタビューするごく短いくだりはあるものの(やはり質問には答えない)、完全にドラマパートとフェイクドキュメンタリーパートが別れている。

 この見せ方が今後どんな効果を生むのか。

 

■「健さん」と呼ばれたがる遠藤

 遠藤、いや中井田は、自己紹介時に必ず「健さんと呼んでください」とアピールしており、意図的に違う自分になろうとしているようにも見える。

 しかも、さっそく奈良屋で働き出すのだが、その所作は昨日今日仲居を始めた人間のこなれ方ではなく、もはや長年役者と二足の草鞋を履いていたかのような、こなれっぷり。得体が知れない。

 ちなみに、温泉の効能や男湯女湯が入れ替わる時間など、実在する奈良屋の説明を中井田……いや健さんが働きながらしてくれるのだが、温泉ロケ番組でリポーターから情報を説明されるよりも、ドラマの中でさりげなく(というか、あからさまな、でもあるが)情報に触れさせられる方が、遠藤の色気溢れる声のおかげもあって押し付けがましくなく、聞いていて心地よい。

 これはフェイクドキュメンタリーにしているからこそ許される見せ方だろう。普通のドラマで宣伝の強い台詞やナレーションが入ったら興醒めしてしまうはずだ。

 そして、健さんは実に気持ちよさそうに風呂に入る。

 いや、実際気持ちいいのだろうが、グラビアアイドルとかでもないのに、その入浴っぷりについ見入ってしまうほど「画がもつ」。女性ファン的には、やはりたまらないのだろうか?

■寅さんばりに、すぐ恋に落ちる

 今回、健さんが恋に落ちる相手は、ともさかりえ演じる、同じく仲居である富永理恵。

「今回」と、毎回恋に落ちるような決めつけで書いたが、初回を見るとその可能性は実に高そう。今回も出会って15秒で「落ちて」いたほど。

 富永の入浴シーンを妄想する健さん。

 富永と2人でお使いに出かけるため、番頭に嘘をつく健さん。

 富永に借りたハンカチの匂いを嗅ぎ、ニヤニヤする健さん。

 冒頭のドキュメンタリーシーンで、ディレクターに冷たく当たっていた人物とは思えないほどの3枚目ぶり。

 富永に子どもがいるとわかっても、富永の罪な態度(「健さんみたいな優しい人がパパならあの子も幸せなのに……」)が、健さんを俄然燃え上がらせる。旦那とは別居中らしい)。

 だんだんテレ東の深夜ドラマを見てるのか『男はつらいよ』を見てるのか、わからなくなってくる。

 特に、富永の幼い子ども(勇介=五十嵐陽向)と触れ合いながら「母ちゃんにさ、『健さんに親切にしてもらった』って伝えんだぞ?」と真顔で伝えるシーンや、富永と上手くいっていると勘違いして、大声で歌(草津よいと~こ~)を歌いながら仕事(湯もみ)しちゃうシーンなど、その純粋さや「大人げなさっぷり」が、強く『寅さん』を感じさせた。

 

■4次元ポケットのようなトランク

 そして、クライマックス。

 実は富永の夫は刑務所に入っているのだが、豪華客船の船長で、ずっと航海に出ていると聞かされてる勇介のために、船長のような上下白いスーツと制帽を身につけ、まだ見ぬ父親役を買って出た健さん。

「お前のお父さんだよ」

「嘘だ。お母さんと一緒に働いてるじゃん」

 いきなり撃沈しかけるも、

「父さんは、世界のどの海の上にいても、お前のこと思ってる」

「強くなって母さんのこと守ってやるんだ」

「俺がいない時はお前が家族の船長だ」

 熱い畳みかけで子どもの心をつかみほぐし、励ました。

 このときの船長の衣装が、なぜか健さん唯一の荷物である古びたトランクから出てくる出てくるのだが、この「そんな物まで詰め込んでたの?」という驚きが毎回見どころのひとつのようだ。

 そういえば、遠藤憲一として冒頭で直撃インタビューされているとき、衣装さんらしきスタッフと荷物の確認をしていた。

 ドラえもんの4次元ポケットや21エモンのなんでも入るバッグのような存在を思わせる、健さんの古ぼけたトランク。

 中からどんな「こんなものが?」が飛び出すのか次回以降楽しみだ。

 

■奈良屋のお湯に「無料」で入る方法

 いじめられてる子どもの精神的ケアもしてあげ、いよいよ告白というタイミングで、「来月旦那が出所する」と、うれしそうに富永に伝えられてしまう健さん。失恋具合も見事に寅さん。

 正直、内容的にはよくある話のオンパレードなのだが、「さまざまなしがらみから離れ、人里離れた地で違う自分となって働く」という潜在的な願望が刺激されるからなのか、丁寧な作りも相まって、見ていて陳腐に感じることはない。

 温泉に浸かりながら、誰もが描く淡い夢を丁寧に見せてくれつつ、温泉ガイドもしてくれる。

 実在の遠藤憲一が実在の温泉でこれをしてるという「事実」が、このありふれた夢物語を、少しだけ生々しく感じさせてくれる。

 まだ始まったばかりだが、今後どんな効果を生むのか楽しみなドラマだ。

 ちなみに情緒溢れる奈良屋は泊まらなくても1,200円で日帰り入浴もできるし、そもそも近くの無料で入れる白旗の湯(草津最古の湯とされる)のお湯を引いているので、そこに行くのもアリ。

 草津にはこうした無料で入れる浴場が大小10カ所ほどあるので、それらを回るだけでも楽しい。

 次回は、山口紗弥加が、ゲストというかマドンナ。予告では濃厚な濡れ場っぽいシーンも見られたので、ドキドキしながらオンエアを待ちたいと思います。
(文=柿田太郎)

『ドロ刑』主演・中島健人はキャスティングミス? “遠藤憲一VS中村倫也”がメインならよかったのに

 ジャニーズの人気グループ・Sexy Zoneの中島健人が主演するドラマ『ドロ刑 -警視庁捜査三課‐』(日本テレビ系)の最終話が15日に放送され、平均視聴率9.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録。前回から0.6ポイントアップとなりました。

(前回までのレビューはこちらから)

 前回、斑目勉(中島)ら13係のメンバーは、煙鴉(遠藤憲一)が、20年前に『虹の見える丘公園』という分譲地の販売に関わった人物たちへ復讐を企てていることを察知しました。

 そして今回さらに、その土壌が汚染されていたため息子が小児がんになり病死してしまったことや、他の住人らとともに訴訟を起こすも、市や病院がグルになり隠蔽工作をしたために敗訴したこと、息子を失った悲しみから妻が飛び降り自殺したことなどが判明するのでした。

 13係が煙鴉を追跡すればするほど、20年前の事件が明るみになる。その狙いに気づいた班目は、13係の室内に盗聴器が仕掛けられていることを察知し、これを逆に利用する計画を思いつきます。

 実は20年前の事件には、現・警視総監の真鍋茂樹(本田博太郎)も深く関わりがあり、目障りな存在である煙鴉を逮捕するべく、鯨岡千里(稲森いずみ)に命じて対策チームを発足。それが13係だったのです。そして鯨岡は、警視総監の座を譲り受けるべく真鍋の言いなりになっているのです。

 班目はその情報を利用。20年前の事件が明るみに出そうになり危機感を抱いた鯨岡が、13係を解散させたという嘘情報を室内で喋り、怒りの感情に任せて鯨岡に抗議しに行く、という芝居を打ちます。

 13係に自分の思い通りに動いてもらわなければ困る煙鴉は、これに焦って必ず姿を見せるハズ。その予想通り、煙鴉は姿を現すのですが、逮捕時のやりとりで班目が誤って銃撃してしまい、救急車で搬送することになってしまうのです。

 そしてその車内で班目は、妹・真里を煙鴉に殺されたと憎む皇子山隆俊(中村倫也)に対し、ある話をします。

 実は真里が勤務していた病院は、土壌汚染の証拠を示すカルテを改竄していました。この事実を偶然知った真里は苦悩の末に自殺。煙鴉がそれを阻止しようとして失敗したため、遺体から煙鴉のDNAが検出されたのでした。

 近親者が自殺した場合、遺族が自責の念に苦しむことを身をもって知る煙鴉は、皇子山にその苦悩を味わわせないため、自身への殺人の濡れ衣を否定せずにいたのです。この事実を知った皇子山は、救急車内でひと目も憚らず号泣するのでした。

 結局、煙鴉は一命を取り留めたものの、盗み出したデータはすべて鯨岡が持ち去り、真鍋に渡してしまいます。班目は、真鍋が煙鴉の逮捕を大々的に報じるために設けた記者会見場へ足を運び、その様子を見守ることになります。

 ところが会見が始まる直前、ひとりの記者が、20年前の隠蔽工作の証拠資料をばら撒く事態が発生。実はこの資料は鯨岡が渡したもの。鯨岡は煙鴉の亡き妻の親友で、復讐をするために真鍋に接近していたのです。

 後日、班目と鯨岡が見舞いに訪れるも病室はもぬけの空。しかし班目は、どこか晴れ晴れとした表情を浮かべ、ここでドラマは終了となったのでした。

 さて感想。今回、煙鴉が妻子の復讐を果たすため、20年以上も闇の世界で生き続けてきたことが発覚しましたが、演じる遠藤の演技力も相まって、とても魅力的なキャラクターとして描かれていたと思います。皇子山の妹が自殺した事実を隠していたというくだりも不器用な優しさが感じられましたし、その事実を知った皇子山が号泣するシーンは感動的でした。

 だからこそ、最初から『皇子山VS煙鴉』の構図をメインにしたドラマが観たかったなぁ、というのが率直な感想です。あるいは、原作コミックでは熱血漢である主人公を中村が演じていれば、もっと良質なドラマになっていたのではないかと思います。中島の王子様キャラを際立たせるためのコミカルな設定変更が、というよりも中島の演技のレベルが作品の質を下げてしまった印象でした。主役に関しては完全にキャスティングミスでしたね。

 鯨岡役の稲森に関しても、真鍋との密談時のシリアスな演技では、少し無理をして背伸びしている感が否めませんでした。煙鴉の捜査を一任されるということは本来、相当なやり手のハズなのですが、その雰囲気がちっとも伝わらず、班目たちの前で見せる能天気なキャラだけが相応しいといった印象でした。

 また、“煙鴉を守るために13係にはポンコツばかりを集めた”とのことですが、それならばなぜ煙鴉は班目に近づいたのか。警視庁の内部情報を引き出すためならばまだしも、20年前の陰謀を明らかにするために利用するのであれば、もう少しマシな刑事に目をつけるのではないかと違和感を抱きました。

 これは恐らく、原作の設定を変えた結果、辻褄合わせが上手くいかずバランスが崩れてしまったことによるものだと思うのですが、他にも全体を通して随所に強引さやチグハグ感が感じられ、回収されていない伏線も多々ありました。たとえば、第8話で煙鴉が自身の偽者を用意し、5日間勾留されているように依頼したことについては、何も説明されないまま終わってしまいました。

 結局、班目は煙鴉を逮捕できませんでしたが、これはシリーズ化への布石だったのでしょうかね。それならばいっそのこと、皇子山と煙鴉の関係性を銭形警部&ルパンのような腐れ縁のようにして、そちらの対決をメインに制作して欲しいところ。主演の中島のメンツが丸つぶれになってしまうため実現は難しいでしょうが、ぜひとも期待したいです。
(文=大羽鴨乃)

『ドロ刑』前回の伏線はなかったことに!? 脚本がブレ過ぎで初期設定が強引に捻じ曲げられる……

 ジャニーズの人気グループ・Sexy Zoneの中島健人が主演するドラマ『ドロ刑 -警視庁捜査三課‐』(日本テレビ系)の第9話が8日に放送され、平均視聴率8.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録。前回から0.8ポイントアップとなりました。

(前回までのレビューはこちらから)

 前回、懇意にしていた伝説の大泥棒・煙鴉(遠藤憲一)に利用されていたことを知り、ショックを隠せない斑目勉(中島)。暗い気持を引きずったまま出勤したある朝、13係の床に200万円分の1万円札がバラまかれていることに気づき驚きます。

 さらに室内には煙鴉の残り香が。どうやら、煙鴉が班目のIDカードを偽造して侵入したらしく、班目は係長の鯨岡千里(稲森いずみ)から懲戒免職になりかねないとお灸を据えられてしまうのでした。

 しかし、それでも煙鴉のことを悪人とは思えず街をさまよう班目。すると突然目の前に現れた煙鴉が、「虹を掴み損ねた。それですべてを踏み潰された」と意味深な言葉を口走り、捕まえようとした班目に対し突然、発砲してくるのでした。

 腕に被弾したため命に別状はなかったものの、この事態を重く見た鯨岡は、13係のメンバーに拳銃の携行許可を与え、煙鴉が発砲しようとした場合、射殺しても構わないと命じます。

 治療を受けた班目は、撃たれる直前に煙鴉から手渡されたコースターの裏面に『七波隆』という人物名が記されていることを発見。元官僚で現在は一般企業の顧問を務める七波は、以前あるインタビューで肌身離さず携帯している大事な手帳があるとのことで、煙鴉の次のターゲットはそれだと睨んだ13係のメンバーは、七波の警護にあたることになります。

 ところが、七波のオフィスでシンポジウムを開催中、30名のスリ集団を引き連れ会場入りした煙鴉にまんまとその手帳を盗まれてしまうのでした。

 意気消沈した班目は、いつも煙鴉と飲んでいた馴染みのバーで1人しみじみと酒を飲むのですが、その店のマスターから「こんなものが見つかった」と差し出されたコースターの裏に、『阿川義一』という人物名が書かれていることに気づきます。

 元裁判官で現在は弁護士研究会の顧問を務める阿川が次のターゲットだと予想した13係のメンバーは、研究会の本部があるビルを訪れるのですが、金庫から業務日誌を盗み出した煙鴉をまたしても逃してしまいます。

 一方、今回は、皇子山隆俊(中村倫也)の妹・真里が、5年前に勤めていた病院から何者かに資料を盗まれ、その3日後に自宅マンションから飛び降り自殺した事実が明らかとなりました。さらに、真里の爪から煙鴉のものと同じDNAが検出されたものの、警察の上層部の手回しによって揉み消されたことが発覚。皇子山の煙鴉に対する復讐心と、当時の捜査への疑心が膨れ上がったところで今回は終了となりました。

 さて感想。ドラマも残すところあと1回ということで、クライマックスへ向けて慌ただしい展開となってきたのですが、当初の予定とは違う流れになったのか、初期設定を強引に捻じ曲げている部分があまりに目立つ気がしてなりませんでした。

 これまで13係は、各部署のポンコツばかりがかき集められたという設定だったのですが、今回の鯨岡と警視総監の密会シーンによれば、煙鴉を捕まえるために結集されたとのこと。いつの間にやら伝説の大泥棒を捕まえるためのエリート軍団みたいな位置づけになってしまったんですね。

 しかも、今まで事なかれ主義を前面に押し出し、お気楽キャラだった鯨岡が、どうやら煙鴉と個人的に知り合いという関係性が浮き彫りになった途端、急にシリアスな演技をするようになったんです。

 その展開がどうにも、急ごしらえな感じが否めないのですが、皇子山にしても最初は捜査にやる気のない美脚好きのむっつりスケベなキャラクターだったんですよね。ドラマに芯がなく、脚本がブレッブレの出たとこ勝負だったため、終盤へきて収拾がつかなくなり強引にキャラ変更しているような気がしてなりません。

 また、班目に関してはこれまで、煙鴉のことを大泥棒と認知しているのかどうか曖昧だったのですが、今回の様子を見る限りしっかり認識していたらしく、警視庁の情報を漏らしていたことが発覚したとなれば即刻、懲戒免職処分となるのが妥当なのではないでしょうか。初回からリアリティーに関しては期待していませんでしたが、それにしてもちょっと酷すぎるように思えます。

 ところで前回、煙鴉は借金を抱えた男(大友康平)に5,000万円の報酬を与え、5日間“偽・煙鴉”として勾留されるよう依頼したものの、結局その理由は明かされず仕舞いでした。そして今回もその伏線は回収されないままだったのですが、まさかこのまま何もなかったことにされるのではないかと心配です。大団円を迎えるためにも、次週しっかりした展開を期待したいと思います。
(文=大羽鴨乃)