「モンスター母」と「男性中心社会」は無関係じゃない――毒親被害と”男女差”を考える【田房永子×音咲椿対談】

 過干渉な実母のもとを飛び出し、現在は2人の子を育てている田房永子さん。毒親の母を持つ元彼から、一方的に婚約を破棄された経験を『私の彼が毒親から逃れられない!~婚約破棄で訴えてやる・番外編~』(サイゾーウーマン)で描いている音咲椿さん。なぜ、音咲さんの元彼は毒親から逃げられなかったのか。毒親はなぜ、毒親になってしまったのか。田房さんが2歳の男の子を育てている母親の目線で分析する。

■前編はこちら……「毒親被害と「男女差」を考える――彼が切り裂きたかったのは“へその緒”だった

****

音咲椿さん(以下、音咲) 毒親から離れられないのは、男女差はありますか? 田房さんはお母さんから逃げたじゃないですか。なぜ男は逃げないんだろうと疑問に思っているんです。田房さんの『うちの母ってヘンですか?』(秋田書店)に、田房さんと生育環境がソックリの男性が「なんだかんだで母はボクを愛してるんで、田房さんとちがって」といったことを語っているのが印象的でした。

田房永子さん(以下、田房) そもそも私の“毒親漫画”は、男性の読者は少ないんですよ。女性は「うちの母親もこうなんです」と話してくれて、私が「それはヤバイですね!」と返したり笑ったりすると、「そうですよね! やっぱヤバいですよね! 話してよかった!」と明るく帰っていく人が多いです。一方、男性の場合は深刻な感じなんです。めちゃくちゃヤバいエピソードを話してくるから私が「それはヤバいですね!」って言うと、逆に暗くなっちゃう。「田房さんは親に愛されていないけど、僕は愛されてはいるんです」と反論されたり。ちょっと違うんだなって思います。

 女性は30代を超えたあたりで、だんだん「お母さんって、私が小学校のときにこんなふうだったんだな」と肌感覚でわかるんですよね。一番大きいのは、性的なこと。「お母さん、この年でスケベなことを考えてたんだな」とか。女性は30代になったらこんなもんだと、母親たちの愚行、女性のどうしようもなさが、許す許さないは別として同じ人間としてわかる。だから、女性のほうがカラッと「うちのお母さん、超ヤバいっすよね」と言えるようになる。一方、男性はずっと「女性は性欲がないんじゃないか」とか、母親に対してちょっと“女神感”を抱いてる感じ。それはファンタジーだと頭ではわかってても、肌ではわからない。そういうことが影響してるのでは?

音咲 なるほど、そうかもしれない……。不思議なのは、実家には弟も同居してたんですが、弟はNを見ているからか、取り込まれないんです。お義母さんも弟には強く出られないんですよ。

田房 それも、長男次男でよくある話だよね。

音咲 でも、弟が留守のときには、お義母さんが部屋を家捜しして「大人のオモチャがあった! 相手の女との写真もある」とNに告げ口するんですね。しかもその話が私にまで来る。

田房 デリカシーがない人は、境界線がないんだよね。たとえばセクハラする人も、自分の世界しか見ていないから、自分が言いたいことを言って、相手がどう思うか考えるという感覚がない。

音咲 母親って、子どもがいくつになっても家捜しするものなんですか?

田房 うちの場合は、小2と2歳だから、私はまだあまりそういう活動はしてないです。隠してたら見たくなっちゃうのかも。もう少し大きくなっても、安全面の問題で親が管理しなければならないこともあるけれど、子どもの前で「これ何?」と言うのはマナー違反だと思う。私、友達の手紙を母が勝手に読んでて、エッチな話を冗談で書いてたら「なんなの!?」ってテンパられて、つらかった。

 想像なんですけど、たとえば子どもが思春期になってエロに関するものを隠していたとしますよね。それを見つけたとき、私が自分の性の感覚を覚えていないとパニックになるかもしれない。でも、自分も中高生のとき、エロいことに興味があったと思い出すことができれば、別に大したことじゃないと気付ける。常に自分の性や思春期の感覚を覚えておいたほうがいいかなと思ってます。

田房 基本的に、親子が対等であることは100%ない。子どもにとって、親はものすごい権力者で脅威の存在。仲が良くても支配者。そこを親自身がわかっていないと、息子がイケメン(大人の男)になったら、あっという間に取り込まれると思う。お義母さんは加害者だけど、お義母さんもなにか誰かの懐に入りたい、胎内に入りたいという思いはあったと思うよ。

音咲 そうそう。お義母さんは、仕事を続けたかったのにお義父さんと結婚したら仕事を辞めさせられて、お義父さんには愛人がいて、子どもだったNに「私はあいつに裏切られた」「あんな汚い男!」と言っていて……。私は、田房さんが新刊で書いていた一文を読んで、お義母さんが許せそうになったんです。

――「私は男性の欲望を目にしすぎてしまったのかもしれない(中略)その自分の傷を自覚し、被害者である自分を自分で認めることをやりきるのがまず、私にとっては『男の子を育てるため』に必要なことだと思った」
(『「男の子の育て方」を真剣に考えてたら夫とのセックスが週3回になりました』より引用/大和書房)

音咲 「お義母さんは『男に傷つけられた』んだよ、お互い様でしたね」と言ってあげたい。結局、誰が一番悪いかというと、お義父さんだと思うんです。

田房 そうなんだよ。毒母問題は、「家父長制の男性中心社会の問題」なんだよ。

音咲 お義母さんは、2人の息子を育てるために離婚できずに我慢するしかない。それで顔のいい息子を頼りにするしかない……?

田房 息子が彼氏か夫か、わからなくなってるというところはあるでしょうね。子どもに性愛的なものが向かうということは「ない」と思っていたけど、日常から「性愛の対象は大人」と意識していなければ「ある」と思う。みんなそこを話さないし、意識していないから、逆に漏れ出てる感じがする。実際的な性的な行為はなくても、精神的に“彼氏の役割”や“夫の役割”をさせてしまう危険性がある。そういうことをもっと母親学級で言っておかないと、子どもたちが大変。虐待という名前がつかない虐待なんだよね。

 実は全部「女性差別」「女性蔑視」の問題なんだよ。うちのお母さんの性格はなんだろうとどんどん考えていくと、そこに行き着いた。戦後、ものすごい暴力を受けた人たちが一斉に現実社会に帰ってきて、めちゃくちゃ暴れたり夜中に叫んだり、あるいは異常な元気のよさで東京タワーを建てたりして、DVは当たり前、女性は25歳までに結婚しなかったら売れ残りのクリスマスケーキと呼ばれるひどい時代。戦争の後遺症と、それを癒やすための風俗文化の異常な発展がいまだに続いていて、令和になったからといって、何もかも急にクリーンになるわけがない。男の人に傷つけられてきた女性たちから“モンスター母”が生まれるのは、無関係じゃない。

音咲 ……私は特に、九州出身というのもあるかもしれないです。父は母に「自分が稼いでくるから、家事育児をしてほしい」と言って、確かに自分は稼いでくるけど浮気したり。母はおそらく祖母(母にとっては姑)や九州独自の男尊女卑精神に呪いをかけられてたんでしょうね。きっと九州の女性は皆そうだと思います。母は、私や姉に「お父さんには絶対冷たいご飯を出しちゃいけない」と呪いをかけてきた。私もいまだにチンしたご飯をお父さんに出しちゃいけないと思うし、夫になる人にも出しちゃいけないと思ってた。今なら「こっちも忙しいんだから、チンでいいだろ」と思うけど。

田房 その九州的マインドは、N親子に呼応したのかもしれないですね。「私が規格外なんじゃないか」と思っちゃうのも、九州マインドのなせる業かもしれない。

音咲 私も田房さんの新刊を読んで、今までになかったお義母さんに対する親近感というか、「救われてほしい」という気持ちが出てきましたね。

田房 「シスターフッド」ってやつだと思う。女性同士のつながり、目に見えない絆みたいなのはやっぱりあるよね。女性同士だと、たいしたこと言うわけでなくても癒やされたり、スッとしたりということがある。男性に2時間どんなに説明してもわからないことが、女性は5秒くらいで「ああ、わかる」という時がある。敵であっても。

音咲 敵なんだけど同胞……義母が。

田房 そう、同胞だよね。

音咲 なぜあの時義母に寝返ったのか、ずっと彼に聞きたかったんです。でも10年たって、「理由は聞かなくていいな」と思えるようになった。

田房 聞いてもしゃべれないと思うよ。まだ“生まれていない”から、羊水で声が出ない。男性に限らず、女性にもそういう人はいる。「進学する」「就職する」「結婚する」と言う度に、母親から「○○が実現したらしてもいい」と無理難題な条件を出されて、なかなか実家を出られないという女性もいます。本人はお母さんの希望通りにしてあげたいからがんばっちゃう。その女性に「どうしたいのか」と聞いても「どうしよう」と言うだけで答えられない。思考するということを母親から消されているんです。それは娘に自立されると母親が不安になるから。消している母親本人の思考も消えている。

音咲 そこで、思考することが消えていない私が来たから、面倒なことになったんですかね。

田房 それもあると思う。「思考を消して私の懐に入りなさい」ということなんだと思う。

音咲 なるほど……。今日はいろいろと自分の中でストンと落ちました。ありがとうございました!

 

****

田房永子(たぶさ・えいこ)
1978年東京都生まれ。2000年雑誌「マンガエフ」にて漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。
母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を2012年に刊行し、ベストセラーに。主な著書に『ママだって、人間』(河出書房新社)、『呪詛抜きダイエット』(大和書房)、『それでも親子でいなきゃいけないの?』(秋田書店)、『男しか行けない場所に女が行ってきました』(イースト・プレス)、『キレる私をやめたい〜夫をグーで殴る妻をやめるまで〜』(竹書房)などがある。6月22日に大和書房より『「男の子の育て方」を真剣に考えてたら夫とのセックスが週3回になりました』を刊行。

音咲椿(おとさき・つばき)
男性向けグラビア誌編集長を経て、ポット出版社刊「女の子×女の子のためのエロチックブック・Carmilla」にてイラスト・漫画家デビュー。
単行本「イケメン外国人たちとベッドで異文化交流した結果。」(ぶんか社刊)好評発売・配信中。
マンガ「『こんな大きいなんて聞いてない!』~外国人と異文化SEX、ヤりまくりました。」「婚約破棄で訴えてやる!~毒親持ち彼氏と167日間壮絶バトル~」配信中。


音咲椿さんの作品『婚約破棄で訴えてやる!』は、電子書籍にてご覧いただけます。
連載中の番外編はこちら

★★★各電子書店にてお買い求めいただけます★★★

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「モンスター母」と「男性中心社会」は無関係じゃない――毒親被害と”男女差”を考える【田房永子×音咲椿対談】

 過干渉な実母のもとを飛び出し、現在は2人の子を育てている田房永子さん。毒親の母を持つ元彼から、一方的に婚約を破棄された経験を『私の彼が毒親から逃れられない!~婚約破棄で訴えてやる・番外編~』(サイゾーウーマン)で描いている音咲椿さん。なぜ、音咲さんの元彼は毒親から逃げられなかったのか。毒親はなぜ、毒親になってしまったのか。田房さんが2歳の男の子を育てている母親の目線で分析する。

■前編はこちら……「毒親被害と「男女差」を考える――彼が切り裂きたかったのは“へその緒”だった

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音咲椿さん(以下、音咲) 毒親から離れられないのは、男女差はありますか? 田房さんはお母さんから逃げたじゃないですか。なぜ男は逃げないんだろうと疑問に思っているんです。田房さんの『うちの母ってヘンですか?』(秋田書店)に、田房さんと生育環境がソックリの男性が「なんだかんだで母はボクを愛してるんで、田房さんとちがって」といったことを語っているのが印象的でした。

田房永子さん(以下、田房) そもそも私の“毒親漫画”は、男性の読者は少ないんですよ。女性は「うちの母親もこうなんです」と話してくれて、私が「それはヤバイですね!」と返したり笑ったりすると、「そうですよね! やっぱヤバいですよね! 話してよかった!」と明るく帰っていく人が多いです。一方、男性の場合は深刻な感じなんです。めちゃくちゃヤバいエピソードを話してくるから私が「それはヤバいですね!」って言うと、逆に暗くなっちゃう。「田房さんは親に愛されていないけど、僕は愛されてはいるんです」と反論されたり。ちょっと違うんだなって思います。

 女性は30代を超えたあたりで、だんだん「お母さんって、私が小学校のときにこんなふうだったんだな」と肌感覚でわかるんですよね。一番大きいのは、性的なこと。「お母さん、この年でスケベなことを考えてたんだな」とか。女性は30代になったらこんなもんだと、母親たちの愚行、女性のどうしようもなさが、許す許さないは別として同じ人間としてわかる。だから、女性のほうがカラッと「うちのお母さん、超ヤバいっすよね」と言えるようになる。一方、男性はずっと「女性は性欲がないんじゃないか」とか、母親に対してちょっと“女神感”を抱いてる感じ。それはファンタジーだと頭ではわかってても、肌ではわからない。そういうことが影響してるのでは?

音咲 なるほど、そうかもしれない……。不思議なのは、実家には弟も同居してたんですが、弟はNを見ているからか、取り込まれないんです。お義母さんも弟には強く出られないんですよ。

田房 それも、長男次男でよくある話だよね。

音咲 でも、弟が留守のときには、お義母さんが部屋を家捜しして「大人のオモチャがあった! 相手の女との写真もある」とNに告げ口するんですね。しかもその話が私にまで来る。

田房 デリカシーがない人は、境界線がないんだよね。たとえばセクハラする人も、自分の世界しか見ていないから、自分が言いたいことを言って、相手がどう思うか考えるという感覚がない。

音咲 母親って、子どもがいくつになっても家捜しするものなんですか?

田房 うちの場合は、小2と2歳だから、私はまだあまりそういう活動はしてないです。隠してたら見たくなっちゃうのかも。もう少し大きくなっても、安全面の問題で親が管理しなければならないこともあるけれど、子どもの前で「これ何?」と言うのはマナー違反だと思う。私、友達の手紙を母が勝手に読んでて、エッチな話を冗談で書いてたら「なんなの!?」ってテンパられて、つらかった。

 想像なんですけど、たとえば子どもが思春期になってエロに関するものを隠していたとしますよね。それを見つけたとき、私が自分の性の感覚を覚えていないとパニックになるかもしれない。でも、自分も中高生のとき、エロいことに興味があったと思い出すことができれば、別に大したことじゃないと気付ける。常に自分の性や思春期の感覚を覚えておいたほうがいいかなと思ってます。

田房 基本的に、親子が対等であることは100%ない。子どもにとって、親はものすごい権力者で脅威の存在。仲が良くても支配者。そこを親自身がわかっていないと、息子がイケメン(大人の男)になったら、あっという間に取り込まれると思う。お義母さんは加害者だけど、お義母さんもなにか誰かの懐に入りたい、胎内に入りたいという思いはあったと思うよ。

音咲 そうそう。お義母さんは、仕事を続けたかったのにお義父さんと結婚したら仕事を辞めさせられて、お義父さんには愛人がいて、子どもだったNに「私はあいつに裏切られた」「あんな汚い男!」と言っていて……。私は、田房さんが新刊で書いていた一文を読んで、お義母さんが許せそうになったんです。

――「私は男性の欲望を目にしすぎてしまったのかもしれない(中略)その自分の傷を自覚し、被害者である自分を自分で認めることをやりきるのがまず、私にとっては『男の子を育てるため』に必要なことだと思った」
(『「男の子の育て方」を真剣に考えてたら夫とのセックスが週3回になりました』より引用/大和書房)

音咲 「お義母さんは『男に傷つけられた』んだよ、お互い様でしたね」と言ってあげたい。結局、誰が一番悪いかというと、お義父さんだと思うんです。

田房 そうなんだよ。毒母問題は、「家父長制の男性中心社会の問題」なんだよ。

音咲 お義母さんは、2人の息子を育てるために離婚できずに我慢するしかない。それで顔のいい息子を頼りにするしかない……?

田房 息子が彼氏か夫か、わからなくなってるというところはあるでしょうね。子どもに性愛的なものが向かうということは「ない」と思っていたけど、日常から「性愛の対象は大人」と意識していなければ「ある」と思う。みんなそこを話さないし、意識していないから、逆に漏れ出てる感じがする。実際的な性的な行為はなくても、精神的に“彼氏の役割”や“夫の役割”をさせてしまう危険性がある。そういうことをもっと母親学級で言っておかないと、子どもたちが大変。虐待という名前がつかない虐待なんだよね。

 実は全部「女性差別」「女性蔑視」の問題なんだよ。うちのお母さんの性格はなんだろうとどんどん考えていくと、そこに行き着いた。戦後、ものすごい暴力を受けた人たちが一斉に現実社会に帰ってきて、めちゃくちゃ暴れたり夜中に叫んだり、あるいは異常な元気のよさで東京タワーを建てたりして、DVは当たり前、女性は25歳までに結婚しなかったら売れ残りのクリスマスケーキと呼ばれるひどい時代。戦争の後遺症と、それを癒やすための風俗文化の異常な発展がいまだに続いていて、令和になったからといって、何もかも急にクリーンになるわけがない。男の人に傷つけられてきた女性たちから“モンスター母”が生まれるのは、無関係じゃない。

音咲 ……私は特に、九州出身というのもあるかもしれないです。父は母に「自分が稼いでくるから、家事育児をしてほしい」と言って、確かに自分は稼いでくるけど浮気したり。母はおそらく祖母(母にとっては姑)や九州独自の男尊女卑精神に呪いをかけられてたんでしょうね。きっと九州の女性は皆そうだと思います。母は、私や姉に「お父さんには絶対冷たいご飯を出しちゃいけない」と呪いをかけてきた。私もいまだにチンしたご飯をお父さんに出しちゃいけないと思うし、夫になる人にも出しちゃいけないと思ってた。今なら「こっちも忙しいんだから、チンでいいだろ」と思うけど。

田房 その九州的マインドは、N親子に呼応したのかもしれないですね。「私が規格外なんじゃないか」と思っちゃうのも、九州マインドのなせる業かもしれない。

音咲 私も田房さんの新刊を読んで、今までになかったお義母さんに対する親近感というか、「救われてほしい」という気持ちが出てきましたね。

田房 「シスターフッド」ってやつだと思う。女性同士のつながり、目に見えない絆みたいなのはやっぱりあるよね。女性同士だと、たいしたこと言うわけでなくても癒やされたり、スッとしたりということがある。男性に2時間どんなに説明してもわからないことが、女性は5秒くらいで「ああ、わかる」という時がある。敵であっても。

音咲 敵なんだけど同胞……義母が。

田房 そう、同胞だよね。

音咲 なぜあの時義母に寝返ったのか、ずっと彼に聞きたかったんです。でも10年たって、「理由は聞かなくていいな」と思えるようになった。

田房 聞いてもしゃべれないと思うよ。まだ“生まれていない”から、羊水で声が出ない。男性に限らず、女性にもそういう人はいる。「進学する」「就職する」「結婚する」と言う度に、母親から「○○が実現したらしてもいい」と無理難題な条件を出されて、なかなか実家を出られないという女性もいます。本人はお母さんの希望通りにしてあげたいからがんばっちゃう。その女性に「どうしたいのか」と聞いても「どうしよう」と言うだけで答えられない。思考するということを母親から消されているんです。それは娘に自立されると母親が不安になるから。消している母親本人の思考も消えている。

音咲 そこで、思考することが消えていない私が来たから、面倒なことになったんですかね。

田房 それもあると思う。「思考を消して私の懐に入りなさい」ということなんだと思う。

音咲 なるほど……。今日はいろいろと自分の中でストンと落ちました。ありがとうございました!

 

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田房永子(たぶさ・えいこ)
1978年東京都生まれ。2000年雑誌「マンガエフ」にて漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。
母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を2012年に刊行し、ベストセラーに。主な著書に『ママだって、人間』(河出書房新社)、『呪詛抜きダイエット』(大和書房)、『それでも親子でいなきゃいけないの?』(秋田書店)、『男しか行けない場所に女が行ってきました』(イースト・プレス)、『キレる私をやめたい〜夫をグーで殴る妻をやめるまで〜』(竹書房)などがある。6月22日に大和書房より『「男の子の育て方」を真剣に考えてたら夫とのセックスが週3回になりました』を刊行。

音咲椿(おとさき・つばき)
男性向けグラビア誌編集長を経て、ポット出版社刊「女の子×女の子のためのエロチックブック・Carmilla」にてイラスト・漫画家デビュー。
単行本「イケメン外国人たちとベッドで異文化交流した結果。」(ぶんか社刊)好評発売・配信中。
マンガ「『こんな大きいなんて聞いてない!』~外国人と異文化SEX、ヤりまくりました。」「婚約破棄で訴えてやる!~毒親持ち彼氏と167日間壮絶バトル~」配信中。


音咲椿さんの作品『婚約破棄で訴えてやる!』は、電子書籍にてご覧いただけます。
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毒親被害と「男女差」を考える――彼が切り裂きたかったのは“へその緒”だった【田房永子×音咲椿対談】

 『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)ほか著書で、29歳のときに縁を切った母親との葛藤を描き、コミックエッセイで初めて「毒親」と呼ばれるジャンルを生み出し『「男の子の育て方」を真剣に考えてたら夫とのセックスが週3回になりました』(大和書房)を6月22日に刊行した田房永子さん。元彼の母が毒親で、一方的に婚約を破棄された経験を『私の彼が毒親から逃れられない!~婚約破棄で訴えてやる・番外編~』(サイゾーウーマン)で描いている音咲椿さん。音咲さんの元彼が毒親から逃げられなかったのはなぜか。毒親との関わり方に性差はあるのか。旧知の仲の2人が語り合った。

***

田房永子さん(以下、田房) 音咲さんの元彼・Nさんって、2、3回会ったことがあるけど、どイケメンですよね!

音咲椿さん(以下、音咲) きれいな顔ですよね(笑)。でも残念な結果になってしまいました。決定的な事件は、お義母さんが「同居しろ」と言い出したことだったんです。私も彼も「同居はしない」と団結していたはずでした。なのに、いつの間にかNは寝返っていて……以来、彼に電話をしても着信拒否。すでに2年も同棲していたのだから、普通なら別れるときは2人で話し合って別れると思うんですが、一切なにも言わず、一方的に婚約破棄されました。

音咲 納得がいかず調停を起こしたら、お義母さんから「お宅とは婚約していませんから」と、“何もなかった”ことになって。お義母さんは「いますぐ50万円払え」といった無理難題を要求してきたり、彼の仕事(エロ漫画家)について「汚らわしい」と暴言を吐いたり……。彼が仕事できないくらい、ひどい状況だったんです。だから彼も、お義母さんから絶対に離れたいはずと思っていたのに、結局離れなかった。

田房 その手のお母さんって、かぐや姫みたいにありえない要求を課してくるよね。本当は50万円なんてどうでもいいんですよ。それは罠。Nさんが音咲さんのほうに行かないようにしているだけ。「自分のところにいなさい」という脅しだと思うよ。

音咲 やっぱりそうなんだ!? お義母さんは、『母がしんどい』のエイコのお母さんと似ていると思うんですよ。お義母さんは、以前は私を自分の実家の墓参りにまで連れていってくれて。「大好き!」「あなたは家族の一員ね」という感じで、接してくれていたんです。

田房 お義母さんが音咲さんのことを「好き好き」と言ったのは、「私の懐に入りなさい」と同じ意味だと思うよ。自分が知らないところで、Nさんと音咲さんが仲良くしているのは嫌。両方とも単独で自分が手に入れたい。でもその気持ちを自覚しているわけではないから、ハチャメチャなことになる。そういう人はその場の衝動と不安に突き動かされていて、心の中は常にパニック。だから他人を引っかき回す一方で、「お嫁さんと仲良く出かける義母でありたい」という思いもあって、周りは惑わされるんです。私の母もそういう感じだった。

田房 でも、今はお互い年を取ったのと、私が離れたことによって母もいろいろ考えたのかわからないけど、変わりましたね。離れることは重要。その人のパニックに巻き込まれている最中に「お互い落ち着きましょう」と言うのは無理だから。まず離れて、お互いが自分の本当の心を見つめる。その作業には10年くらいかかるんですよ。

音咲 私も10年間、怒りと悲しみがすごかった……。なぜあそこまでお義母さんに憎まれなければならなかったのか、今もわからないです。

田房 音咲さんの人格は関係ないよー。私が悪かったとか、落ち度があったとか思う必要はまったくないから。彼がお義母さんと離れられないのは彼の問題だし、音咲さんは100%被害者。そういう人に巻き込まれてしまう要素はあるかもしれないけど、それは、自分の心が回復したあとで考えること。

音咲 “理想の嫁”じゃなかったのかなとか、考えてしまうんです……。

田房 “理想の嫁”なんか、ないないない!

音咲 Nのことがすごい好きだったのに、2人で生活した2年間、交際期間を入れると3年間を“何もなかった”ことにされたことがすごく悲しくて、受け入れられなくて。しかも、お義母さんから調停で「バカ女」と追い掛けられて、殺されてもおかしくない状況。2018年に、息子が妻を殺して母親と死体を遺棄した事件があったでしょう。あれ、私だったかもしれないと思った。

田房 心理的にはそれ(殺人)が起こってるんだよ。肉体的には殺されていないけど、彼らの世界のなかでは「殺さなければならない」ということだったのだと思う。

音咲 すごかったのが、Nとお義母さんのけんか。お義母さんが「同居しろ」と言ってきたときに、Nは「絶対に嫌だ」と言って電話をずっと無視していたんです。そしたら、お義母さんが私たちの家に押しかけてきたんですね。詳細はマンガに描きますが、渡していない家の鍵まで手に入れてて。それを知ったNが「殺してやる」と包丁を出して玄関に走って、「これはヤバい」と思った瞬間、お義母さんがドドドドッと入ってきた。

田房 ええ~! 怖い! なぜ!? 内側からもチェーンロックはしてたんですよね?

音咲 Nがロックを外しちゃったんです……。最終的には、義母がNに「許してあげる」と言って終わりました。

田房 オマエが引っかき回しておいて、何を許すんだという話。

音咲 私はそのとき、親子げんかで包丁が出てくるなんて、結婚したら今度は私に刃が向かってくる!? と思って、怖くなってしまって。

田房 その時Nさんが包丁で切ろうとしたもの、それは「へその緒」ですよ。Nさんはまだ胎児で、お義母さんのお腹の中にいるような状態。成人している子どもを「胎児扱い」するお母さんっているんだよね。子どものほうはいつまでもお腹の中にいられないから、自分の母親はこういう人だと認めて、自力で生まれないとならない。だから、Nさんは「へその緒」を包丁で切ろうとした。内側からの帝王切開。本気で殺したいと思ったんじゃないと思う。その視点で考えるともしかしたら、当時のNさんは、自分の母よりもっと強い女の人に救い出してほしかったんじゃないかな……。代理母ではないけど、音咲さんの子宮・羊水を貸してもらって、僕を「生んでくれ」というような。彼にとってはそういうレベルの戦いだったんじゃないかな。

田房 私も、Nさん側として自分を振り返ると、自力で生まれるのってすごく難しかった。家出して当時の彼氏の家に転がり込んで、寄生させていただくみたいな感じで、依存先が必要だった。いきなり母親と1対1の尊重し合える関係にはなれない。いったんどこかで、「母親以外の胎内に入ってから、生まれる」という作業が必要な気がする。でも、それって殺し合いになるよね。お義母さんにしてみれば、自分の赤ちゃんを取られることだから憎いでしょう。

音咲 別れてから10年たって、今は心の整理がだんだんついてきたんですけど、3年ほど前まではフラッシュバックする憎悪でパニックになるたび、50代の精神科医のボーイフレンドに向かって、ひどい暴言を吐いていました。精神科医だからどうにかしてくれるんじゃないかとすがる気持ちもあって。絶対、そんなことないんですけどね。それであるときにふと「自分もお義母さんと同じことしてる」と思ったんです。過去にNが「君って僕のお母さんに似てるんだよね」とニコニコして言っていたのを思い出しました。

田房 その言葉、めちゃくちゃ怖いね。

音咲 Nに言われて一番ショックだったのは、「ドイツで3カ月芸術の勉強したい」と言ったら、すごく怖い顔して「君は僕の奥さんになる人なのに!?」と言ったことですね。普段は「勉強したい」という私が好きだと言っていたんですよ。きれい事ばかり言ってるわりには、やっぱり縛り付けるんだと思った。彼の後ろにはお義母さんがいるんです。「そんなことしたら、うちの母がなんて言うかわからない」「そんなお金があることが母に知れたら、どう思われるか」と。私が稼いだ金で行くのに。

田房 たった3カ月でしょう? 30年行ってくるわけじゃないし。しかもまだ結婚していないカップルだし。

音咲 もともと寛容に繕ってたのかもしれないですね。結局、Nは私にも好かれたいし、お義母さんにも好かれたかった。その狭間で揺れていたのかもしれない。Nの口からどうしてこんなことになったのか直接聞きたかったけど、調停にも親子3人で来たんです。調停って、本人ひとりしか入れないにもかかわらずですよ。それでも「中に入れろ!」と調停員とモメていました。私は弁護士を立てたんですが、弁護士との話し合いにも3人で来たそうです。弁護士さんに「彼はなんて言ってました?」と聞いたら、「一言もしゃべらなかったですね。お義母さんがしゃべって終わり」と。「今後一切かかわらない」という合意書にはNの名前が書いてあったんですが、それはお義母さんが「こう書いて」と指示していたそうです。

田房 “ささやき女将”みたい。すごいね(笑)。

音咲 そう、全部お義母さんのいいなり。ただ、慰謝料の振り込みの名義人はNでした。

<後編に続く・6月26日公開予定>


音咲椿さんの作品『婚約破棄で訴えてやる!』は、電子書籍にてご覧いただけます。
連載中の番外編はこちら

★★★各電子書店にてお買い求めいただけます★★★

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「私の“ご主人様”は私だった」神田つばきがSM、AV、性の冒険の果てに見つけたもの

<p> 専業主婦だった38歳で子宮頸がんを罹患し子宮を全摘出。それをきっかけに離婚し、SMモデル、フリーライター、AV女優として活動し、さらにAV制作メーカー設立、ドラマものAVの脚本まで手がける神田つばき氏。<br /> </p>

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痴漢はどうしたら撲滅できるのか? ひとりの加害者が、何千人という被害者を生む現実

<p> 日常に潜んでいながら姿が見えない、得体の知れない痴漢加害者は、女性にとって恐怖でしかない。けれど、今日という日も犯罪者は当然の顔をして電車やバスに乗り、犯行を繰り返している。<br />  被害者として多くの痴漢に接してきた体験を通して、その実態を考える漫画家・ライターの田房永子氏と、性犯罪再犯防止プログラムを通しての現場で、日々多くの元痴漢加害者と向き合っている精神保健福祉士・社会福祉士である斉藤章佳氏。両氏による対談後編は、「痴漢は撲滅できるのか?」がテーマとなった。こんなにも危険な存在が野放しにされているのはなぜなのか? 鉄道各社も事あるごとに撲滅をうたうが、一向にその成果が報告されないのはなぜなのか? この疑問を解くヒントは、痴漢たちがおのおの作り上げる“膜の中のストーリー”にある。</p>

痴漢はペニスだけの問題ではない 誤解している加害者の実態

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<p> エイコちゃん、こんにちは。なんだかすっかり、日差しが秋らしくなってきましたねぇ。秋、といえばやはり「食欲の秋」なんですが、エイコちゃんは日々、何食ってますか? 実は私、最近、スパイスとかハーブにハマりまくってまして。</p>

「子を殺しちゃいそうになる」のはヤバイ? 安彦×田房の「出産した女は菩薩ではない」

<p> 麻理絵さまっ! ご無沙汰しております!!!<br /> <br />  こないだ友達10人くらいの子連れホームパーティーに行ったんですよ。友達の家でやるパーティーって楽しいですよね。テーブルの上には、ルッコラ的な外国の葉っぱの上に肉的なものが乗ったすんごいオシャレなサラダが……どうやって作るのかなあ? と思ってたら、ルッコラ的な外国の葉っぱの上にパックで売ってる「スモークタン」を乗せてるだけと聞いて膝を打ちました。友達の日常を知るのってとっても新鮮!</p>

「男を甘やかす」と「家事も完璧」女はセット、安彦&田房の「甘やかされ男」問題

<p> 寒くなってきましたねー、ご無沙汰しとります、お元気でらっしゃいますでしょうか?</p> <p> 今年の私は、なんだかずーっと頭モヤモヤで、今年の自分を漢字一文字で表すとすれば……「陰」って感じでしたねぇー、「陰気」「陰鬱」「陰部」「陰毛」……なんだかそんな感じでしたよ。<br /> </p>