
過干渉な実母のもとを飛び出し、現在は2人の子を育てている田房永子さん。毒親の母を持つ元彼から、一方的に婚約を破棄された経験を『私の彼が毒親から逃れられない!~婚約破棄で訴えてやる・番外編~』(サイゾーウーマン)で描いている音咲椿さん。なぜ、音咲さんの元彼は毒親から逃げられなかったのか。毒親はなぜ、毒親になってしまったのか。田房さんが2歳の男の子を育てている母親の目線で分析する。
■前編はこちら……「毒親被害と「男女差」を考える――彼が切り裂きたかったのは“へその緒”だった」
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音咲椿さん(以下、音咲) 毒親から離れられないのは、男女差はありますか? 田房さんはお母さんから逃げたじゃないですか。なぜ男は逃げないんだろうと疑問に思っているんです。田房さんの『うちの母ってヘンですか?』(秋田書店)に、田房さんと生育環境がソックリの男性が「なんだかんだで母はボクを愛してるんで、田房さんとちがって」といったことを語っているのが印象的でした。
田房永子さん(以下、田房) そもそも私の“毒親漫画”は、男性の読者は少ないんですよ。女性は「うちの母親もこうなんです」と話してくれて、私が「それはヤバイですね!」と返したり笑ったりすると、「そうですよね! やっぱヤバいですよね! 話してよかった!」と明るく帰っていく人が多いです。一方、男性の場合は深刻な感じなんです。めちゃくちゃヤバいエピソードを話してくるから私が「それはヤバいですね!」って言うと、逆に暗くなっちゃう。「田房さんは親に愛されていないけど、僕は愛されてはいるんです」と反論されたり。ちょっと違うんだなって思います。
女性は30代を超えたあたりで、だんだん「お母さんって、私が小学校のときにこんなふうだったんだな」と肌感覚でわかるんですよね。一番大きいのは、性的なこと。「お母さん、この年でスケベなことを考えてたんだな」とか。女性は30代になったらこんなもんだと、母親たちの愚行、女性のどうしようもなさが、許す許さないは別として同じ人間としてわかる。だから、女性のほうがカラッと「うちのお母さん、超ヤバいっすよね」と言えるようになる。一方、男性はずっと「女性は性欲がないんじゃないか」とか、母親に対してちょっと“女神感”を抱いてる感じ。それはファンタジーだと頭ではわかってても、肌ではわからない。そういうことが影響してるのでは?
音咲 なるほど、そうかもしれない……。不思議なのは、実家には弟も同居してたんですが、弟はNを見ているからか、取り込まれないんです。お義母さんも弟には強く出られないんですよ。
田房 それも、長男次男でよくある話だよね。
音咲 でも、弟が留守のときには、お義母さんが部屋を家捜しして「大人のオモチャがあった! 相手の女との写真もある」とNに告げ口するんですね。しかもその話が私にまで来る。
田房 デリカシーがない人は、境界線がないんだよね。たとえばセクハラする人も、自分の世界しか見ていないから、自分が言いたいことを言って、相手がどう思うか考えるという感覚がない。
音咲 母親って、子どもがいくつになっても家捜しするものなんですか?
田房 うちの場合は、小2と2歳だから、私はまだあまりそういう活動はしてないです。隠してたら見たくなっちゃうのかも。もう少し大きくなっても、安全面の問題で親が管理しなければならないこともあるけれど、子どもの前で「これ何?」と言うのはマナー違反だと思う。私、友達の手紙を母が勝手に読んでて、エッチな話を冗談で書いてたら「なんなの!?」ってテンパられて、つらかった。
想像なんですけど、たとえば子どもが思春期になってエロに関するものを隠していたとしますよね。それを見つけたとき、私が自分の性の感覚を覚えていないとパニックになるかもしれない。でも、自分も中高生のとき、エロいことに興味があったと思い出すことができれば、別に大したことじゃないと気付ける。常に自分の性や思春期の感覚を覚えておいたほうがいいかなと思ってます。
田房 基本的に、親子が対等であることは100%ない。子どもにとって、親はものすごい権力者で脅威の存在。仲が良くても支配者。そこを親自身がわかっていないと、息子がイケメン(大人の男)になったら、あっという間に取り込まれると思う。お義母さんは加害者だけど、お義母さんもなにか誰かの懐に入りたい、胎内に入りたいという思いはあったと思うよ。
音咲 そうそう。お義母さんは、仕事を続けたかったのにお義父さんと結婚したら仕事を辞めさせられて、お義父さんには愛人がいて、子どもだったNに「私はあいつに裏切られた」「あんな汚い男!」と言っていて……。私は、田房さんが新刊で書いていた一文を読んで、お義母さんが許せそうになったんです。
――「私は男性の欲望を目にしすぎてしまったのかもしれない(中略)その自分の傷を自覚し、被害者である自分を自分で認めることをやりきるのがまず、私にとっては『男の子を育てるため』に必要なことだと思った」
(『「男の子の育て方」を真剣に考えてたら夫とのセックスが週3回になりました』より引用/大和書房)
音咲 「お義母さんは『男に傷つけられた』んだよ、お互い様でしたね」と言ってあげたい。結局、誰が一番悪いかというと、お義父さんだと思うんです。
田房 そうなんだよ。毒母問題は、「家父長制の男性中心社会の問題」なんだよ。
音咲 お義母さんは、2人の息子を育てるために離婚できずに我慢するしかない。それで顔のいい息子を頼りにするしかない……?
田房 息子が彼氏か夫か、わからなくなってるというところはあるでしょうね。子どもに性愛的なものが向かうということは「ない」と思っていたけど、日常から「性愛の対象は大人」と意識していなければ「ある」と思う。みんなそこを話さないし、意識していないから、逆に漏れ出てる感じがする。実際的な性的な行為はなくても、精神的に“彼氏の役割”や“夫の役割”をさせてしまう危険性がある。そういうことをもっと母親学級で言っておかないと、子どもたちが大変。虐待という名前がつかない虐待なんだよね。
実は全部「女性差別」「女性蔑視」の問題なんだよ。うちのお母さんの性格はなんだろうとどんどん考えていくと、そこに行き着いた。戦後、ものすごい暴力を受けた人たちが一斉に現実社会に帰ってきて、めちゃくちゃ暴れたり夜中に叫んだり、あるいは異常な元気のよさで東京タワーを建てたりして、DVは当たり前、女性は25歳までに結婚しなかったら売れ残りのクリスマスケーキと呼ばれるひどい時代。戦争の後遺症と、それを癒やすための風俗文化の異常な発展がいまだに続いていて、令和になったからといって、何もかも急にクリーンになるわけがない。男の人に傷つけられてきた女性たちから“モンスター母”が生まれるのは、無関係じゃない。
音咲 ……私は特に、九州出身というのもあるかもしれないです。父は母に「自分が稼いでくるから、家事育児をしてほしい」と言って、確かに自分は稼いでくるけど浮気したり。母はおそらく祖母(母にとっては姑)や九州独自の男尊女卑精神に呪いをかけられてたんでしょうね。きっと九州の女性は皆そうだと思います。母は、私や姉に「お父さんには絶対冷たいご飯を出しちゃいけない」と呪いをかけてきた。私もいまだにチンしたご飯をお父さんに出しちゃいけないと思うし、夫になる人にも出しちゃいけないと思ってた。今なら「こっちも忙しいんだから、チンでいいだろ」と思うけど。
田房 その九州的マインドは、N親子に呼応したのかもしれないですね。「私が規格外なんじゃないか」と思っちゃうのも、九州マインドのなせる業かもしれない。
音咲 私も田房さんの新刊を読んで、今までになかったお義母さんに対する親近感というか、「救われてほしい」という気持ちが出てきましたね。
田房 「シスターフッド」ってやつだと思う。女性同士のつながり、目に見えない絆みたいなのはやっぱりあるよね。女性同士だと、たいしたこと言うわけでなくても癒やされたり、スッとしたりということがある。男性に2時間どんなに説明してもわからないことが、女性は5秒くらいで「ああ、わかる」という時がある。敵であっても。
音咲 敵なんだけど同胞……義母が。
田房 そう、同胞だよね。
音咲 なぜあの時義母に寝返ったのか、ずっと彼に聞きたかったんです。でも10年たって、「理由は聞かなくていいな」と思えるようになった。
田房 聞いてもしゃべれないと思うよ。まだ“生まれていない”から、羊水で声が出ない。男性に限らず、女性にもそういう人はいる。「進学する」「就職する」「結婚する」と言う度に、母親から「○○が実現したらしてもいい」と無理難題な条件を出されて、なかなか実家を出られないという女性もいます。本人はお母さんの希望通りにしてあげたいからがんばっちゃう。その女性に「どうしたいのか」と聞いても「どうしよう」と言うだけで答えられない。思考するということを母親から消されているんです。それは娘に自立されると母親が不安になるから。消している母親本人の思考も消えている。
音咲 そこで、思考することが消えていない私が来たから、面倒なことになったんですかね。
田房 それもあると思う。「思考を消して私の懐に入りなさい」ということなんだと思う。
音咲 なるほど……。今日はいろいろと自分の中でストンと落ちました。ありがとうございました!
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田房永子(たぶさ・えいこ)
1978年東京都生まれ。2000年雑誌「マンガエフ」にて漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。
母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を2012年に刊行し、ベストセラーに。主な著書に『ママだって、人間』(河出書房新社)、『呪詛抜きダイエット』(大和書房)、『それでも親子でいなきゃいけないの?』(秋田書店)、『男しか行けない場所に女が行ってきました』(イースト・プレス)、『キレる私をやめたい〜夫をグーで殴る妻をやめるまで〜』(竹書房)などがある。6月22日に大和書房より『「男の子の育て方」を真剣に考えてたら夫とのセックスが週3回になりました』を刊行。
音咲椿(おとさき・つばき)
男性向けグラビア誌編集長を経て、ポット出版社刊「女の子×女の子のためのエロチックブック・Carmilla」にてイラスト・漫画家デビュー。
単行本「イケメン外国人たちとベッドで異文化交流した結果。」(ぶんか社刊)好評発売・配信中。
マンガ「『こんな大きいなんて聞いてない!』~外国人と異文化SEX、ヤりまくりました。」「婚約破棄で訴えてやる!~毒親持ち彼氏と167日間壮絶バトル~」配信中。
音咲椿さんの作品『婚約破棄で訴えてやる!』は、電子書籍にてご覧いただけます。
連載中の番外編はこちら
★★★各電子書店にてお買い求めいただけます★★★




