テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(6月30日~7月6日)見たテレビの気になる発言をピックアップします。
渡部陽一「極上です!」
街を歩いている芸能人が、飲食店にふらっと立ち寄る。散歩番組でよく見る光景だ。しかし、散歩番組で唐突に理髪店に入って髪を切る人もいる。戦場カメラマンの、渡部陽一だ。
最初に見たのは、2018年7月29日放送の『相席食堂』(朝日放送)だった。人通りの少ない道を歩いていた渡部。理髪店を見つけると、散髪してもいいかとスタッフに直訴する。そして、カメラに向かってグレーのベレー帽を脱いだ。
「現時点での僕の髪形は、伸びに伸びた今の段階で、こうです」
渡部の頭は、前のほうから見事に薄くなっていた。それまでベレー帽の下であまりオープンになっていなかった渡部の頭髪。それを、例のゆっくりとしたしゃべりで十分に間を取って、披露する。「伸びに伸びた……」と言いながら、そんなに伸びていないわけである。
ほぼ同じ展開を、7月3日放送の『朝の!さんぽ道』(テレビ東京系)で見た。同番組は、月曜から金曜まで毎朝7時35分から放送している散歩番組 。毎週、1人の旅人が街ブラをするのだが、埼玉県・深谷を訪れていた渡部は道中、突然理髪店に入り、「僕、頭切ってもいいですか?」とスタッフに確認。「実は僕、ちょっと髪の毛が伸びてしまい……」と言って、やはり前方から薄くなった頭髪を、ゆっくりとベレー帽を脱いで見せた。
髪を切り終えた渡部はさっぱりした頭を深々と下げ、店のご主人に礼を言うのだった。
「極上の技、最高でした!」
ご主人、半笑いである。
さて、この「極上」というフレーズも、以前から渡部が愛用しているものだ。今回も特に、食レポの際に連発していた。たとえば、練乳イチゴかき氷を食べる渡部。
「うわわわわわわわわわ、うわわわわわわわわ(と言いながらイチゴのシロップを氷にかける)。そして大好きな練乳。練乳、飲むことが、夢でしたね。うわわわわわわわわわ(と言いながら練乳を氷にかける)。これこそ、かき氷、ひゃー(と言ってかき氷を口に運ぶ)。んー、うわっ、極上ー!」
あるいは、アジとシラスがのった丼を食べる渡部。
「アジがプリップリ。これはおいしい。つくだ煮が、山椒が効いていて、ピリッとした香り。そして釜揚げのしらす。口に含むと……口の中で甘みをふわーっと広げてくる。……極上です!」
そして、チーズ入りカレーパンを食べる渡部。
「チーズだぁ! あっ、チーズのピッと立った酸味とまろやかさがカレーと絡んで、うわー、いい味。極上です!」
このほかにも、アジの干物、太刀魚の干物、フエダイの刺身など、たくさんの食べ物をこの5日間の放送で口に入れていた渡部。その都度、「極上!」と連呼する。もちろん、店員はみな半笑いである。テレビ越しで見ると、その店員の反応も含めて、とても面白かったのだけれど。
世界の紛争地域などを渡り歩き、現地の情勢をカメラマンとして日本に伝えてきた渡部辺。そんな彼は、日本の散歩番組ではシャッターを切るというより髪を切っている。そして、武器をカメラから「極上!」というフレーズに持ち替え、散歩番組を渡り歩いている。
そもそも、散歩番組とは何か? その目的のひとつは、訪れた街や地域の良さを伝えることだろう。隠れた名店に行くなり、歴史を知るなり、人情に触れるなりして、その土地の良いところをアピールする。しかも、「散歩」という無目的に歩いているように見える形式で。
あらためて振り返ると、渡部もその散歩番組の形式に沿って仕事をしていた。単にギャグで「極上!」と言っているわけではなく、その一言で地域の店の味をPRしていたわけである。理髪店に行った際にも、バリカンの刃を人肌に温めておくような、店主の心遣いを引き出すシーンがあった。ただ散髪してもらっただけではない。
だが、2日の『相席食堂』は、そんな散歩番組のあり方から大きく外れていた。この日の旅人は蛭子能収、訪れたのは淡路島である。
玉ねぎや海の幸など、淡路島の名産を食べる。出会った人と触れ合う。そうやって、島の良さを引き出す。そんな旅のシナリオが蛭子の念頭にないことは、最初から明らかだった。砂浜でロケを開始した蛭子は、早々にスタッフに尋ねる。
「ここは日本ですよね?」
土地の良さを伝えるも何も、そもそもここがどこかを知らずに歩き始めているわけである。「日本ですよね?」という聞き方もすごい。普通は「ここどこですか?」だろう。いや、どこなのか聞いている時点でおかしいのだけれど。
ただ、蛭子も最低限やらなければならないこと、つまり相席をして人と触れ合うという番組上のタスクは遂行する。バス停で待つ男性に声をかけ、食堂の場所を聞き出す。続けて、男性に向かって蛭子は尋ねる。
「ここどうですかね? 生活するには不便なような気がするんですけど」
単純に失礼! この直後に、「空気がすごいキレイだなっていうのが……」というフォローめいた一言があるにはある。だがこれが、蛭子が淡路島の良さを語った最初で最後の言葉となった。
この後も、ずっとこんな調子で旅は続く。極めつきは次のシーンだ。大衆食堂で中年の男女と相席した蛭子は、「この店のおすすめは?」と尋ねる。
男性「サワラがおいしいんですよ。先ほどからおいでになってるお客さん、みんなサワラ丼食べてます」
蛭子「あ、ホントに」
男性「サワラで有名なお店なんです」
蛭子「サワラで有名なんですか。……じゃあ、ラーメンください」
自分からおすすめを聞いておきながら、「じゃあ、ラーメンください」である。どういう意味で「じゃあ」と言ったのだろう。前後の言葉がつながらないだろう。
このように、ご当地の味には興味がない蛭子。だが、相席した男女の関係性には興味津々だ。高校時代の同級生で、今でも時々ランチを一緒にする友人だという2人。女性のほうは既婚で、すでに孫もいる。そんな2人の関係を、蛭子はずっと「夫婦みたい」と勘繰り続ける。その会話の流れで、耳を疑う発言をする。
蛭子「でも、仲良さそうだから結婚しても良さそうですけどね」
女性「ない! うちの旦那は淡路島で一番男前の旦那やから、大丈夫です」
蛭子「……ここ淡路島なんですか?」
すでにあちこちを歩き、旅も中盤。そんなタイミングで、「ここ淡路島なんですか?」である。実は、VTRの序盤に、ここが淡路島だということを蛭子が知るシーンがある。バス停の男性から教えてもらっていたのだ。にもかかわらず、すでに忘れている蛭子。「サワラで有名」→「ラーメンください」の間を「じゃあ」でつなぐ男にとって、過去と現在のつながりはすぐに解けてしまうのかもしれない。自身の漫画と同じく、不条理な世界を生きているかのようだ。ちなみに、『相席食堂』という番組名も忘れていた。
さて、旅の終盤、蛭子はこの日一番の笑顔を見せる。ここから30分くらい車を走らせたところに、競艇場があると聞いたときである。当然、蛭子は競艇場へ向かう。場所は徳島県の鳴門市だ。ここへきて、もう淡路島の良さを伝えるとか、そんな話の根底が覆るわけである。淡路島を出るのだから。VTRを見ていたノブは嘆く。
「もう淡路でもないし、相席でもないのよ。ただのBSのボート番組なのよ」
競艇場のキャラの強いおじさんたちに囲まれ、虚 ろな目でレースを見つめる蛭子。所持金をゼロにして、この日の旅は終わった。
無目的に歩いているように見せながら、その土地の良さを伝えること。それが散歩番組のひとつの目的のはずだ。もちろん、芸能人が相席しながら人々と触れ合うVTRに千鳥がツッコミを入れていく『相席食堂』は、散歩番組としてそもそも異質ではある。けれど、同番組にこれまでに出てきた芸能人は、その場所の魅力をそれなりに引き出そうとはしてきたと思う。良さを引き出そうとするけれどうまくいかない。そこに千鳥のツッコミが入っていたわけだ。
けれど、訪問地の魅力を引き出すというスタート地点に、そもそも蛭子は立っていなかった。無目的に歩いているように見せるのが散歩番組だとはいっても、本当に無目的では困るわけだ。
いや、見ている側にとって、別に困ることはないか。前言撤回。蛭子の言動を笑いながら見た僕にとって、今回の相席旅に対する感想は次の一言に尽きる。極上! ――なるほど、これは使い勝手のいい言葉だ。
(文=飲用てれび<http://inyou.hatenablog.com/>)

