優雅なメイドを主人公に、「ヒスパニック女性=低賃金労働者」の偏見を打破した『デビアスなメイドたち』

――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが、新旧さまざまな作品のディテールから文化論を引きずり出す!

 不法移民の流入を防ぐため、メキシコとの国境に壁を建設することを公約に掲げていたドナルド・トランプが、第45代アメリカ合衆国大統領となった。「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン(偉大なるアメリカを取り戻す)」というスローガンを掲げている彼は「史上最も多くの雇用を生み出す大統領になる」と宣言し、白人労働階級層から絶大なる支持を集めたと伝えられている。

 ドナルドが支持された理由の1つは、「不法移民たちが、建設現場や家庭内労働などのブルーカラーの仕事を低賃金で請け負うため、同職のアメリカ人に仕事が回ってこなくなった。回ってきたとしても賃金を不法移民と同じくらいまで下げられ、その結果、貧困にあえぐようになった」と国民が感じているから。

 しかし、その一方で、アメリカに住むヒスパニックたちは、いつまでたっても世間から「ヒスパニック=低賃金で働く不法移民」という目で見られることにうんざりしている。「ヒスパニック女性の代表的な仕事=メイドなどの家庭内労働」というイメージを持たれることにも辟易しており、「人種や性別で職業を決めていた、悪しき奴隷制の伝統を引きずっている」と批判する声も上がっているのだ。

 2002年、ヒスパニック系のベテラン女優ルーペ・オンティヴェロスが、大手紙「ニューヨーク・タイムズ」のインタビューで「役者の仕事をして25年。でも演じるのはメイドばかり。私はメイドの役を少なく見積もっても150回演じてきた」「メキシコからの移民の中には成功し、アメリカ社会に貢献している者が少なくない。でも世間は、ヒスパニックの女を見たら、メイドとしか思えないの。だから私がオーディションで完璧な英語を話すと、仕事がもらえない。なまりがないと、メイドにはふさわしくないから」と発言。ハリウッドはヒスパニックを差別していると問題提起したことがあった。

 ルーペの両親はメキシコからの移民だが、レストラン2店舗とトルティーヤ工場を経営する実業家である。聡明な彼女は大学を卒業しており、学歴もある。中流階級の白人に引けを取らない育ちであるのに、「ヒスパニックだから」与えられるのはメイドの役ばかりだったというのだ。

 ルーペのように、ハリウッドにおけるヒスパニックの扱いについて不満を持つ者は、実に多い。そんなハリウッドで、幸運にも「メイド以外の役」で大スターとなった女優がいる。『デスパレートな妻たち』で元モデルの専業主婦を演じていたエヴァ・ロンゴリアだ。そのエヴァが13年、「世間が思っているよりメイドという仕事には深みがあるのだと伝えることにより、ヒスパニック=メイド、という既成概念を崩す」と目標に掲げて制作した新作ドラマが放送開始された。ビバリーヒルズの豪邸で働くヒスパニックのメイドたちが主人公の、愛憎渦巻く『デビアスなメイドたち』である。

 ビバリーヒルズの豪邸に住む裕福なパウエル家で、ヒスパニック系のメイド、フローラが殺害されるという事件が発生。パウエル家で働く青年に容疑がかけられる。近隣の邸宅で働く好奇心旺盛でゴシップ好きなヒスパニック系メイドたちは、フローラの殺人事件に興味津々。そんな彼女たちも、また、それぞれが夢や野望、忘れ去りたい過去を持っており、雇用主のスキャンダルに巻き込まれる者もいる。果たしてメイドである彼女たちは、自由の国・アメリカで夢をつかむことができるのか?

■テレノベラとは違う、コミカルかつテンポのいいストーリー

 エヴァは、同作で複数のメイドを主人公にすることにより、ヒスパニックの女性もメジャー作品でヒロインを演じる白人女性同様、思慮深く、豊かな感情があることを描き、「ヒスパニック女性はメイド以上の存在」と世間に認識してもらおうと挑戦した。主人公役には全員ヒスパニック系の女優を採用。これはプライムタイムに放送される英語番組としては初の試みとなり、「ヒスパニック女性による、ヒスパニック女性のためのドラマ」だと放送前から大きな注目を集めた。

 批評家の中には「テレノベラ(ラテンアメリカ系のメロドラマ)のように、うるさく大げさな演技が鼻につくような作品になるのではないか」と意地悪な予想を立てた者もいたが、放送がスタートした途端、視聴者からは「めちゃくちゃハマる!」と大好評。「メイドたち一人ひとりが深く描写されていて、共感が湧く」「雇用主らほかの登場人物たちの性格や感情も、うまく描かれている」という声が上がった。また、『デスパレートな妻たち』を手がけたマーク・チェリーがクリエーターを務めているため、ストーリーもテンポよく進んで飽きないと絶賛された。

 同作は、メイドドラマなので「金持ちのご主人様と貧乏人のメイド」という設定ではあるが、黒人奴隷時代を彷彿させるような厳しい主従関係は描かれていない。メイドたちの職場は治安の良い地区の豪邸、おいしい料理も食べられるし、金持ちは頻繁に外出するため自由になる時間も多い、住み込みの場合にはきれいな部屋に住めると、利点が強調されている。長年働いているメイドは家族同様に扱われ、信頼を寄せられ、メイドも雇用主のために親身になり、尽くす。雇用主とのロマンスが生まれることもある。

 いい思いばかりをしているわけではなく、メイドだからと見下されることは多い。ドラマではそのような差別や移民家政婦の苦しい立場も描かれている。とはいえ彼女たちに悲愴感はなく、キリストへの信仰の深さや、芯の強さ、情深さから数々の苦難を乗り越えていく。そんな姿が見ていて気持ちいいと、視聴者を魅了したのだろう。

 また、雇用主の1人として出演しているスーザン・ルッチの存在も、この作品をヒットに導いた大きな要因だといえよう。スーザンは、1970年から2011年まで、40年以上も放送されていた国民的昼メロドラマ『オール・マイ・チルドレン』で主役を演じ、長年にわたり「アメリカで最も稼ぐ女優の1人」と呼ばれてきた大御所。感情をむき出しにするドラマチックな演技をさせたら右に出る者はいないと評されている昼メロの女王が、『デビアスなメイドたち』ではコミカルな演技を披露するとあり、放送前から大きな話題を集めた。そして、放送が始まってからは「こんなコミカルな演技ができるなんて!」とファンを大喜びさせたのだ。スーザンのほかにも、メロドラマでおなじみの役者たちが出演しており、作品を大いに盛り上げている。

 残念ながら視聴率が落ち込み、シーズン4をもって終了となってしまったが、業界や批評家からは最後まで高く評価されていた『デビアスなメイドたち』。ヒスパニック女性たちの熱い情熱とパワフルな行動力は、日本の女性たちも大いに参考にできるだろう。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国→台湾を経て、現在は日本に帰国。数年後に来るだろう海外生活を前に、日本での生活を満喫中。

恋愛リアリティ番組&シンプソン事件の裏側を描いた衝撃作! エミー賞の注目作をおさらい

 近年、アメリカのテレビ界では、視聴率が悪い作品を躊躇なく打ち切るようになった。ABC、NBC、CBS、FOX、CWの5大ネットワークのほか、HBOやShowtimeといったケーブル局だけでなく、Netflix、hulu、Amazonらストリーミング配信サービス会社もオリジナルドラマ制作に参入。視聴者獲得争いがますます激しくなり、その結果、魅力的な作品が次々と誕生し、「ドラマ黄金期」とまで言われるようになった。

 9月18日に開催された米テレビ界最高の栄誉である『第68回 エミー賞 授賞式』にも、良作ばかりがノミネートされた。今回はそんな『第68回 エミー賞』のノミネート作/受賞作の中から、今後、日本でも人気に火がつきそうな作品を紹介しよう。

『アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件』(米FXで2016年2月に放送開始。日本ではスターチャンネルで9月より放送中)
第68回エミー賞 リミテッドシリーズ部門「作品賞」「主演男優賞」「主演女優賞」「脚本賞」などを受賞

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 国民的アメフト選手で、引退後は俳優として大活躍していたO・J・シンプソンが、1994年に元妻とその男友達を殺害した罪に問われた、世紀の裁判を描いた衝撃作。ドリームチームと呼ばれた敏腕弁護団がプライドをかけ、なにがなんでも無罪を勝ち取ろうと奮闘する様子、弁護士同士の対立、被害者と遺族、正義のために歯を食いしばる検事たち、そして日系裁判官の苦悩など、「今だから語れる」暴露系ドラマとして人気を集めた。

 製作総指揮・監督は、『NIP/TUCK マイアミ整形外科医』『glee/グリー』など、数多くの大ヒットドラマを手がけてきたライアン・マーフィー。キャストは、ジョン・トラボルタに、ドラマ『フレンズ』のロス役で知られるデヴィッド・シュウィマー、『ザ・エージェント』でアカデミー助演男優賞を獲得したキューバ・グッディング・ジュニア、『アメリカン・ホラー・ストーリー』のサラ・ポールソンら名優ぞろいで、みな事件関係者そっくりに演出されていると放送前から大きな話題となった。O・J役のキューバはイマイチ似ていないという声が多かったが、ジョンやデヴィッド、サラたちの役作りは素晴らしく、特にこれまで見たことがないジョンを見るために視聴した人もいたほどだった。

 成功の要因は、ドラマチックな展開だけではない。アメリカでは検察の主張に少しでも不合理な点があれば無罪を勝ち取れるため、そこを言葉巧みに攻め込む敏腕弁護士さえいればクロでも無罪になるという事実。陪審員制度が抱える問題。黒人を犯罪者だと決めつけるなど、デリケートな人種差別問題。この裁判で浮き彫りになった問題は今もアメリカが抱えている問題である。昔の話だけど、今見ても違和感なくリアルに感じられる。そんな点も視聴者を惹き付けた。

 エンターテインメント性に富んだ裁判の裏舞台で、弁護士同士がいがみ合ったりしていることも詳しく描かれており、この上なくおもしろい。無罪を勝ち取ったO・Jがなぜ二度と復活できなかったのかも、よく描かれている。なお、「O・J・シンプソン裁判」はシーズン1で完結しており、シーズン2では05年にハリケーン・カトリーナで壊滅的な被害を受けたニューオリンズで発生したさまざまな犯罪を描くことが決定している。

■『Veep』(米HBOで12年4月に放送開始。日本未放送)
第68回エミー賞 コメディシリーズ部門「作品賞」「主演女優賞」などを受賞

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 副大統領(Vice President)の略語「VP」がタイトルに入った『Veep』は、2012年4月から米ケーブル局HBOで放送されている人気コメディ。閑職状態の女性副大統領セリナ・メイヤーの政治家としての野望と、彼女の尻拭いに右往左往する側近たちの姿をコミカルかつシニカルに描いた作品である。シーズンを追うごとにセリナのポジションは変化し、激しいアップダウンを繰り返す彼女の私生活や、傲慢な政治家によって生まれる機能不全家族も見事に描かれている。

 有料チャンネルという立場を生かし、挑発的なヒット作を手がけてきたHBOのドラマは、放送禁止用語がバンバン飛び出すことで有名だ。この作品でも「フ●ック」「チンコ」「マンコ」など地上派では流せない汚い言葉が頻繁に出てくるが、過激なのはそれだけではない。登場人物の口からは、パンチの効いたブラックジョークが次から次へと飛び出し、よく毎回こんなおもしろい脚本が書き上げられるものだと感心してしまう。

 ドタバタコメディなのに妙にリアルに見えるのは出演者が一流ぞろいだから。日本ではそれほど知名度は高くないが、主演のジュリア・ルイス=ドレイファスは、『となりのサインフェルド』や『The New Adventures of Old Christine』といったコメディで高い人気を得ている喜劇女優。口汚く罵る嫌みな役でもチャーミングに演じることができる役者だ。『Dr.HOUSE』のハウス役で知られるヒュー・ローリーや、名脇役ケヴィン・ダン、ゲイリー・コールも、真面目な顔でコミカルな演技を披露している。主人公が民主党員なのか共和党員なのかは描かれていないところも、誰もが楽しめる理由だろう。

 今、この作品が大ヒットしている要因は、極めて異例な展開となってきた16年大統領選挙戦だろう。暴言を吐く過激路線のドナルド・トランプVS有権者に受けることばかり言って偽善者呼ばわりされているヒラリー・クリントンという「史上最悪の大統領選」を乗り切るのには、それより最悪な政治家たちが登場する『Veep』で笑うしかないと感じる視聴者が多いのだというのである。

 日本をオモシロおかしく描いている部分もあるが、日本人でも「アメリカらしい、おもしろい政治ドラマ」と感じられる『Veep』。近いうちに日本でも放送されることを期待したい。

■『UnREAL』(米Lifetimeで2015年6月1日に放送開始。日本未放送)
第68回エミー賞 ドラマシリーズ部門「助演女優賞」「脚本賞」にノミネート

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 日本版の制作が決定した、人気恋愛リアリティ番組『バチェラー』。1人の金持ちイケメン独身男(バチェラー)と25人の花嫁候補を豪邸に住まわせ、女性たちに花嫁の座を競い合わせるという番組で、本場アメリカでは大ヒットしている。『UnREAL』は、この手の「若くて勝ち気な美女たちに、勝ち組の男の取り合いをさせる」リアリティ番組の裏舞台を描いた作品だ。

 台本なしとされているリアリティ番組だが、番組プロデューサーたちがひともんちゃく起きるような仕掛けを作ったり、オモシロおかしく編集・演出しているのは暗黙の了解。アメリカの『バチェラー』は現在(16年10月)まで20シーズン放送されており、これだけの長寿リアリティ番組となると、出演者数が多いことから口封じされているはずの暴露話もリークされる。「花嫁候補になるためには、精神鑑定や性病検査を受けなければならない」「男性プロデューサーと性的関係を持った花嫁候補が何人もいる」「イメージ通りの役になりきれと強要される」「ドレスは自腹」などなど。『バチェラー』は、数多くあるリアリティ番組の中でも、「裏舞台はエグい」と暴露されている作品なのだ。

 そんな『バチェラー』を10年間手がけてきた元女性プロデューサー、サラ・ガートゥルード・シャピロが、番組制作の裏話を暴露した脚本を執筆。これが『UnREAL』なのである。

 『UnREAL』に登場する番組タイトルは、「永遠の」という意味の『Everlasting』だが、『バチェラー』のことであるのは明らか。サラはインタビューで、「悪いことだ」とわかっていながらも、視聴率のために特定の女性を悪者に仕立てたり、女性たちの許可なくドラマチックに編集したことを懺悔しているが、同作の主人公である女性プロデューサーには、そんなサラの気持ちが反映されている。『バチェラー』は女性を見下していると批判する意見もあるが、そう脚色しているのが実は女性だったという点も興味深い。

 あまりにもエグすぎて複雑な気持ちになるが、それでも見続けてしまうのは、視聴者の心理を熟知しているサラの脚本だから。日本版『バチェラー』も始まるため『UnREAL』が近いうちに日本で放送されることを、ぜひ期待したい。

■『Getting On』(米HBOで13年11月24日~15年12月13日放送。日本未放送)
第68回エミー賞 コメディシリーズ部門「主演女優賞」「助演女優賞」にノミネート

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 高齢女性専門病棟が舞台の医療コメディ『Getting On』は、高齢者医療従事者の現実をシニカルに描いたイギリスの人気コメディの米リメイク版で、テレビ批評家から高い評価を得た作品だ。男運がなくストレスと性欲がたまっている婦長、生活のために必死に働く人間味あふれる中年女性看護師、高齢女性の会陰が縮むことに関する調査研究に必死な中年女性医師を中心に物語は進んでいく。

 ドラマの舞台である病棟には、認知症患者、重病患者、大暴れする精神病患者、亡くなる患者もいる。ダークコメディとはいえ、本物の病棟で撮影されたのではないかというほど小道具はリアルで、医療スタッフを演じている役者たちも、どこにでもいるような外見の演技派役者ばかり。まるでドキュメンタリーを見ているような感覚になる。物語はテンポよく進んでいくため、患者が死亡しても悲愴感はない。とはいえ、決して高齢患者を軽んじているわけではなく、主要登場人物たちの人間らしい温かい部分も、しっかりと描かれているのだ。

 同作には、病院が抱える予算問題、医師や看護師が持つストレスや悩みも描かれている。下ネタも満載だが、医療ネタにかけているため、下品ではない。仕事にストレスを感じる一方で、患者たちを助けたいという気持ちや思いやりも丁寧に描かれているからだ。一夫多妻家族の日常を描いたヒットドラマ『Big Love』を手がけたマーク・オルセンとウイル・シェファーがクリエーターを務めているため、安心して見ることができるという意見も多かった。

 『Getting On』は13年11月にスタートし、15年12月にファイナルとなるシーズン3で終了した。シーズン3では主要キャラクターたちが笑えない状況に追い込まれるが、最後は予想外の展開で幕を閉じ、視聴者を満足させた。コアなファンが多かった『Getting On』。世界一の超高齢社会の日本でも、ぜひ放送してもらいたいものである。

■『Baskets』(米FXで16年1月21日に放送開始。日本未放送)
第68回エミー賞 コメディシリーズ部門「助演男優賞」受賞

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 幼い頃からの夢だった道化師という職に異様なまでにこだわり、文字通り命を懸けて道化師を演じるチップの厳しく悲しい日常をシニカルに描いたコメディ『Baskets』。パリの名門道化師学校に入ったものの、言葉が理解できず中退。一目惚れしたフランス人女性はグリーンカード目当てだと明言したが、「プロポーズにイエスと言ってくれた!」と大喜び。故郷はアメリカのド田舎で、帰国後は、街で唯一道化師を雇ってくれるロデオ競技会場で暴れ馬に蹴られる低賃金の職に就く。しかし、あまりにも低賃金すぎて、母親や、職業専門校を経営する横柄な性格の双子の兄デールに頼るハメになる。

 母親は愛情深い女性だが、チップにとっては「自分はいつも母親の期待を裏切ってしまうから」と苦手な存在。威張り散らす双子の兄と、母親ご自慢の血がつながっていない優秀な弟たちにはイライラしっぱなしだ。グリーンカード目当ての妻は彼と一緒に暮らすことを拒否するが、それでもチップは彼女を愛し続ける。人を笑わせる道化師という職を選んだ彼だが、性格は暗く、短気で世間に不満ばかり持っているため友人はいない。唯一の友人は、バイクで事故を起こしたときに知り合った、風変わりな女性保険調査員のマーサだ。

 同作品のクリエーターは、数多くのコメディを手がけ、エミー賞ノミネート常連として有名なルイ・C・K。双子のチップ&デールを演じるのは、映画『ハングオーバー!』シリーズで知られるザック・ガリフィアナキスである。エミーでコメディシリーズ部門助演男優賞を獲得したルーイ・アンダーソンは、女装をして母親役を熱演。友人のマーサを演じるのはマーサ・ケリーで、3人ともスタンドアップ・コメディアンとしてキャリアをスタートさせた生粋のコメディアンだ。どんな滑稽な役にもなりきり、見事に演じることができる彼らの作品とあり、『Baskets』は放送開始とともに批評家から高い評価を得た。

 ザック自身が「あまりにも変わっている、これまでになかったタイプのコメディ」だと説明しているように、『Baskets』はコメディなのに悲愴感漂う作品だ。物語は「お先真っ暗で、夢も希望もないチップ」を中心に、真面目にゆるく進んでいく。そんな中に、ちょこちょことパンチが効いた笑いを入れてくるのだ。それも大真面目に入れてくるので、見ている方は意表をつかれ、大笑いしてしまう。特に母親役のルーイが繰り広げる笑いは絶妙すぎると大絶賛されている。

 あこがれのパリで暮らしたいのに現実に住んでいるのはアメリカの田舎町、一流の道化師になりたいのに現実は低賃金のピエロ、美しいフランス人女性を愛しているのに現実的に手に届きそうなのはダサくてさえないマーサ、母親を喜ばせたいのに、母親にとっての自慢の息子は忙しすぎてめったに帰ってこない養子の弟たち。残酷な「理想と現実」をテーマに、これでもかというほどのシニカルな笑いを詰め込んだ『Baskets』はエピソードが進むにつれ、深みが増してくる作品でもある。長続きしそうなドラマでもあるので、今後、日本で放送されることをぜひ期待したい。

D・トランプのような痛快キャラが「強い国アメリカ」を求める人にウケた、ドラマ『Empire』

<p> 「史上最高のエンターテインメント」と揶揄されている、第45代アメリカ大統領選挙。当初は、かませ犬だとみられていた共和党のドナルド・トランプ候補が、政治評論家の予想に反して幅広い層からの支持を集めており、党代表に選出されるか、世界中の注目を集めている。ドナルドがここまで人気を得ているのは、アメリカ人が感じている不満や本音をストレートに主張するから。「彼ならアメリカの国力を劇的に向上させてくれる」「彼なら有言実行してくれる」と期待が集まっているのである。<br /> </p>

D・トランプのような痛快キャラが「強い国アメリカ」を求める人にウケた、ドラマ『Empire』

<p> 「史上最高のエンターテインメント」と揶揄されている、第45代アメリカ大統領選挙。当初は、かませ犬だとみられていた共和党のドナルド・トランプ候補が、政治評論家の予想に反して幅広い層からの支持を集めており、党代表に選出されるか、世界中の注目を集めている。ドナルドがここまで人気を得ているのは、アメリカ人が感じている不満や本音をストレートに主張するから。「彼ならアメリカの国力を劇的に向上させてくれる」「彼なら有言実行してくれる」と期待が集まっているのである。<br /> </p>

コスチュームドラマ『ダウントン・アビー』のヒット要因は、イギリスに今なお残る「見えない階級」!?

<p> イギリスはアメリカと比べると国としての長い歴史があるため、これまで数多くの大河ドラマが制作されてきた。18世紀の田舎町を舞台とした『高慢と偏見』(1995)、ヴィクトリア朝を舞台とした遺産相続絡みのミステリー『Bleak House』(2005)、エドワード朝から第一次世界大戦後までを舞台に恋愛と戦争を描いたドラマ『パレーズ・エンド』(2012)。近隣国を舞台にした歴史ドラマも多く、ローマ皇帝が主人公の歴史小説『この私、クラウディウス』(1976)は名作として語り継がれているし、トルストイの小説をドラマ化した『戦争と平和』も今年に入って放送が開始され、早くも高視聴率番組の仲間入りをしている。</p>

格差大国アメリカに渦巻く不満を逆手にとった、勝ち組&負け組のバディドラマ『SUITS/スーツ』

<p> 「自由で平等な国」を謳ってきたアメリカ。しかし、所得格差や不平等さを測る“ジニ係数”は、主要先進国の中でトップ。貧富格差が大きく「平等ではない」ことを明確に示している。高級ブランドを身にまとい、高級レストランで毎晩のように食事をする人たちがいる一方、アメリカ人の6人に1人が食事に困っているというのが現実なのだ。</p> <p> 「アメリカンドリーム」に手が届くのはせいぜい中間層まで。貧困層が手に入れることは難しい。頭脳明細でも、生活のため進学を断念して働いたり、環境が悪く犯罪に手を染めてしまったり、貧しさから自暴自棄になることが多いからだ。</p>

『グレイズ・アナトミー』『ホームランド』……アメリカで“打ち切り”を望まれるドラマ

<p> アメリカではもうすぐ、テレビドラマの継続/打ち切りが発表される時期になる。視聴率はイマイチだけどシーズンを重ねているドラマの新しい展開を見ることはできるのか、スタートしたばかりでファンは少ないけれど面白いと評判の新作ドラマの続編は見られるのか。米メディアはこぞって「各局の継続/打ち切り判定予想特集」を組み、全米の注目を集めている。</p> <p> そんな中、アメリカのテレビファンたちはネット上で「打ち切ってほしいテレビドラマ」の意見討論をヒートアップさせている。「シーズン1や2は最高だったからこそ、これ以上ひどくなる前に終わってほしい」と願ったり、人気ドラマの迷走・暴走を嘆いたり、物語展開のあり得なさを叩いたり。みんなテレビドラマを愛しているからこそ、真剣に作品の行方を案じているのだ。今回はそんなアメリカのメディアやテレビファンやが声を大にしている、「ただちに打ち切るべきドラマシリーズ」を紹介しよう。</p>

ドラメディゆえに成功!? 末期がん患者をユーモアと皮肉交じりに描いた『キャシーのbig C』

<p>――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディテールから文化論を引きずり出す!</p>

種明かしから始める、新感覚ホラー『アメリカン・ホラー・ストーリー』

<p> ハリウッドでは、昔からテレビドラマ/コメディより映画の方がステイタスが高いとされており、テレビシリーズには出演しないという役者が多い。しかし、ここ10年でその考えは大きく変化。銀幕でしか見ることができなかった大スターたちが、テレビシリーズにこぞって出演するようになってきたのだ。</p> <p> もはやテレビは二番手ではない。6年間連続して視聴率1位に輝いた伝説的テレビコメディ『となりのサインフェルド』は、1998年に放送終了した後も再放送やDVD販売などで27億ドル(約2,000億円)を超える収益を上げた。世界で最も視聴されているテレビ『CSI:科学捜査班』は、6,300万人以上が見ていると報告されている。巨匠マーティン・スコセッシ監督が手がけた『ボードウォーク・エンパイア 欲望の街』シーズン1の第1話の制作費は、なんと5,000万ドル(約50億円)。大ヒットしたテレビシリーズは映画以上に金を稼ぎ、役者を世界的なスターに押し上げる。世界的な知名度を誇る監督がメガホンを取り、ハリウッド大作映画並みの予算が組まれることも少なくない。</p>

史上最もスキャンダラスなローマ教皇? 田舎貴族の上昇志向を描いた『ボルジア家』

<p> 今年2月、ベネディクト16世がローマ教皇を退位し、翌月にはアルゼンチン出身のフランシスコが新ローマ教皇に選出された。ローマ教皇の生前退位は珍しく、日本でも大きく報じられたが、アメリカでは日本とは比較にならぬほど連日のように特集を組み、熱心に報道していた。</p> <p> アメリカ人が、新ローマ教皇誕生に強い関心を寄せた理由はいくつかある。ローマ教皇はカトリック教会の高位聖職者であり、アメリカにはそのカトリック信者が多くいる。近年信者数が増えている「中絶、同性愛は大罪」とする福音派たちも、カトリックと共通の教義を持つため、ローマ教皇には親しみを感じている。アメリカのキリスト教人口の大半を占めるプロテスタントの信者たちは、同性愛や中絶、離婚を否定するくせに男児に対する性的虐待を行い、バチカンのマネーロンダリング疑惑を掛けられて、「存続の危機に面している」とまで伝えられているカトリック教会の現状に興味津々。そして、なによりも今回のコンクラーヴェ(枢機卿らによる新教皇選出会議)で初の黒人ローマ教皇が誕生する可能性が高まったことに、全米が並々ならぬ関心を抱いたのだ。</p>