――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが、新旧さまざまな作品のディテールから文化論を引きずり出す!
不法移民の流入を防ぐため、メキシコとの国境に壁を建設することを公約に掲げていたドナルド・トランプが、第45代アメリカ合衆国大統領となった。「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン(偉大なるアメリカを取り戻す)」というスローガンを掲げている彼は「史上最も多くの雇用を生み出す大統領になる」と宣言し、白人労働階級層から絶大なる支持を集めたと伝えられている。
ドナルドが支持された理由の1つは、「不法移民たちが、建設現場や家庭内労働などのブルーカラーの仕事を低賃金で請け負うため、同職のアメリカ人に仕事が回ってこなくなった。回ってきたとしても賃金を不法移民と同じくらいまで下げられ、その結果、貧困にあえぐようになった」と国民が感じているから。
しかし、その一方で、アメリカに住むヒスパニックたちは、いつまでたっても世間から「ヒスパニック=低賃金で働く不法移民」という目で見られることにうんざりしている。「ヒスパニック女性の代表的な仕事=メイドなどの家庭内労働」というイメージを持たれることにも辟易しており、「人種や性別で職業を決めていた、悪しき奴隷制の伝統を引きずっている」と批判する声も上がっているのだ。
2002年、ヒスパニック系のベテラン女優ルーペ・オンティヴェロスが、大手紙「ニューヨーク・タイムズ」のインタビューで「役者の仕事をして25年。でも演じるのはメイドばかり。私はメイドの役を少なく見積もっても150回演じてきた」「メキシコからの移民の中には成功し、アメリカ社会に貢献している者が少なくない。でも世間は、ヒスパニックの女を見たら、メイドとしか思えないの。だから私がオーディションで完璧な英語を話すと、仕事がもらえない。なまりがないと、メイドにはふさわしくないから」と発言。ハリウッドはヒスパニックを差別していると問題提起したことがあった。
ルーペの両親はメキシコからの移民だが、レストラン2店舗とトルティーヤ工場を経営する実業家である。聡明な彼女は大学を卒業しており、学歴もある。中流階級の白人に引けを取らない育ちであるのに、「ヒスパニックだから」与えられるのはメイドの役ばかりだったというのだ。
ルーペのように、ハリウッドにおけるヒスパニックの扱いについて不満を持つ者は、実に多い。そんなハリウッドで、幸運にも「メイド以外の役」で大スターとなった女優がいる。『デスパレートな妻たち』で元モデルの専業主婦を演じていたエヴァ・ロンゴリアだ。そのエヴァが13年、「世間が思っているよりメイドという仕事には深みがあるのだと伝えることにより、ヒスパニック=メイド、という既成概念を崩す」と目標に掲げて制作した新作ドラマが放送開始された。ビバリーヒルズの豪邸で働くヒスパニックのメイドたちが主人公の、愛憎渦巻く『デビアスなメイドたち』である。
ビバリーヒルズの豪邸に住む裕福なパウエル家で、ヒスパニック系のメイド、フローラが殺害されるという事件が発生。パウエル家で働く青年に容疑がかけられる。近隣の邸宅で働く好奇心旺盛でゴシップ好きなヒスパニック系メイドたちは、フローラの殺人事件に興味津々。そんな彼女たちも、また、それぞれが夢や野望、忘れ去りたい過去を持っており、雇用主のスキャンダルに巻き込まれる者もいる。果たしてメイドである彼女たちは、自由の国・アメリカで夢をつかむことができるのか?
■テレノベラとは違う、コミカルかつテンポのいいストーリー
エヴァは、同作で複数のメイドを主人公にすることにより、ヒスパニックの女性もメジャー作品でヒロインを演じる白人女性同様、思慮深く、豊かな感情があることを描き、「ヒスパニック女性はメイド以上の存在」と世間に認識してもらおうと挑戦した。主人公役には全員ヒスパニック系の女優を採用。これはプライムタイムに放送される英語番組としては初の試みとなり、「ヒスパニック女性による、ヒスパニック女性のためのドラマ」だと放送前から大きな注目を集めた。
批評家の中には「テレノベラ(ラテンアメリカ系のメロドラマ)のように、うるさく大げさな演技が鼻につくような作品になるのではないか」と意地悪な予想を立てた者もいたが、放送がスタートした途端、視聴者からは「めちゃくちゃハマる!」と大好評。「メイドたち一人ひとりが深く描写されていて、共感が湧く」「雇用主らほかの登場人物たちの性格や感情も、うまく描かれている」という声が上がった。また、『デスパレートな妻たち』を手がけたマーク・チェリーがクリエーターを務めているため、ストーリーもテンポよく進んで飽きないと絶賛された。
同作は、メイドドラマなので「金持ちのご主人様と貧乏人のメイド」という設定ではあるが、黒人奴隷時代を彷彿させるような厳しい主従関係は描かれていない。メイドたちの職場は治安の良い地区の豪邸、おいしい料理も食べられるし、金持ちは頻繁に外出するため自由になる時間も多い、住み込みの場合にはきれいな部屋に住めると、利点が強調されている。長年働いているメイドは家族同様に扱われ、信頼を寄せられ、メイドも雇用主のために親身になり、尽くす。雇用主とのロマンスが生まれることもある。
いい思いばかりをしているわけではなく、メイドだからと見下されることは多い。ドラマではそのような差別や移民家政婦の苦しい立場も描かれている。とはいえ彼女たちに悲愴感はなく、キリストへの信仰の深さや、芯の強さ、情深さから数々の苦難を乗り越えていく。そんな姿が見ていて気持ちいいと、視聴者を魅了したのだろう。
また、雇用主の1人として出演しているスーザン・ルッチの存在も、この作品をヒットに導いた大きな要因だといえよう。スーザンは、1970年から2011年まで、40年以上も放送されていた国民的昼メロドラマ『オール・マイ・チルドレン』で主役を演じ、長年にわたり「アメリカで最も稼ぐ女優の1人」と呼ばれてきた大御所。感情をむき出しにするドラマチックな演技をさせたら右に出る者はいないと評されている昼メロの女王が、『デビアスなメイドたち』ではコミカルな演技を披露するとあり、放送前から大きな話題を集めた。そして、放送が始まってからは「こんなコミカルな演技ができるなんて!」とファンを大喜びさせたのだ。スーザンのほかにも、メロドラマでおなじみの役者たちが出演しており、作品を大いに盛り上げている。
残念ながら視聴率が落ち込み、シーズン4をもって終了となってしまったが、業界や批評家からは最後まで高く評価されていた『デビアスなメイドたち』。ヒスパニック女性たちの熱い情熱とパワフルな行動力は、日本の女性たちも大いに参考にできるだろう。
堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国→台湾を経て、現在は日本に帰国。数年後に来るだろう海外生活を前に、日本での生活を満喫中。




