闇金で億単位を稼いだ男の転落と再生……処女作が話題の“伝説の不良”の素顔

 平成最後の年の暮れ。『歌舞伎町 阿弥陀如来』という自らの半生を綴った著作を刊行し、話題を呼んでいる“伝説の不良”がいる。背中には、阿弥陀如来の刺青。根城を新宿・歌舞伎町としていたことから、「歌舞伎町 阿弥陀如来」の異名を轟かせてきた藤井学氏だ。

 札付きの不良を経て、20代で闇金で大儲けし、億単位の金を手にするも、仲間の裏切りやドラッグの罠に陥り、一度は地獄を見た男。著書にも克明に描かれている“ネオ・アウトロー”の半生は誰よりもドラマティックだ。そんな藤井氏の横顔とは──。

──アングラで生きてきた藤井さんが、自分が表に出よう、書籍を出そうとしたきっかけを教えてください。

藤井 ぼくは裏の世界の人間だと自覚をしていました。だけど、それではいけないと周りの人からいろいろ言われて、しょせん人生なんか短いし、面白おかしく生きれば勝ちじゃないですか。それで楽しく人生を振り返ることができればいいかな、と思ったのがきっかけですね。ほかの人たちが、ぼくの人生を面白がってくれたり、そこから何かを得てくれたりしたら本望です。

──裏の世界の人間というのは?

藤井 ガキのころから悪さばかりしていて、周りでは「誰が刺された。さらわれた」とかの事件は日常茶飯事に起こっていました。そんなのは真っ当に生きていれば味わえない世界じゃないですか。別に自分がそのような生き方を選んだのではなくて、気が付いたらその最前線を走っていた。好きなものは好き、嫌いなものは嫌いという自分に正直な生き方をしているだけなんですけどね。

──暴力団ではないですよね?

藤井 ぼくは違います。個人的に縁を持っているのは、本の後書きにも名前を出させていただいた棚本清己氏、亡くなられましたが、漫画の『代紋TAKE2』のモデルといわれている阿久津雄治氏。この2人の任侠がいわゆる世間でいわれる暴力団ですが、ぼくが暴力団の一員として扱われたり、お付き合いしたりとかは一切していないです。

──裏の世界の人だった藤井さんは、最初、ネットメディアの「R-ZONE」で連載を開始して名前が表に出るようになりました。反響はありましたか?

藤井 メチャクチャありましたね。藤井学はどこに向かっているんだろうとか、そんなこと言われましたね(笑)。

──自身では、それまで動画配信などもしていましたが、それとは違う感触でしたか?

藤井 あれは本当に遊びでやっていて、別にぼくの生き方を左右するようなことではなかったので。

──藤井さんの人生を変えたきっかけはなんですか?

藤井 さきほど名前を挙げた、棚本氏、阿久津氏をはじめとした人との縁ですか。それと本の後書きにも名前を出しましたが、親友だった(桜井)義光との出会い、そして彼の死がぼくの考え方、生き方を変えましたね。こいつが生きるはずだった人生を、ぼくは背負わなければいけない。それは何だとかは細かくは人には言いませんが、ぼくは義光の人生を背負って今も生きています。ぼくが死んだ時に義光に「学、ありがとな」と声を掛けられるかは、死んだあとなのでわからないですが。「余計なことしやがって」とかも言われるかも知れないですけどね(笑)。

──藤井さんが生まれた昭和51年や、その前後数年に生まれた、東京の不良少年史に名を残す有名な人間大勢いますよね。『歌舞伎町 阿弥陀如来』では、当サイトでもおなじみの瓜田純士や関東連合のメンバーなどと交友関係があったような記述が見られますね。

藤井 そうですね、好き嫌いは別にして、顔見知りですね。東京だけじゃないですよ。埼玉から神奈川、千葉の同年代の人間とは付き合いはあります。

──本を出版して何か変わりましたか?

藤井 変わらないです、人からは「本を出したね、応援するから」とかいろいろ言われますが、ぼくは今まで通り、自分の生き方を曲げる気はありません。

──本に書ききれていないことはありますか?

藤井 ありますけど、それは言う気もありません。ぼくが何か言ったり書いたりすると傷つく人間もいますから。

──まだまだ裏の部分はありそうですね。

藤井 それは当然ありますね。だけど何でも書けばいいというものじゃないですか。人の悪口を書くのは簡単だし、表に出ていないことで見てきたことはたくさんあるので、それを書くのも簡単です。だけどそんな曝露をするために本を書いたわけではありません。この本は裏社会の暴露本ではありません。そこはみなさんに理解をしてもらいたいです。

──最後に本を読んだ読者、これから読んでもらいたい読者にメッセージはありますか?

藤井 人間誰もが生きていれば壁にぶつかることがあると思います。その時に逃げるのは簡単です。だけど、ぶつかれば必ず解決します。逃げたら逃げ癖がつくし、周りからそんな人間だと思われてしまいます。ぼくは逃げずにぶつかり正面から戦った。勝ったとか負けたとか、そんなのは結果であり、どうでもいいんです。戦うことが大切なのをわかってもらいたい。そんな人たちに、少しでもぼくの生き方が参考になればと思っています。

 * * *

 現在発売中の『実話ナックルズ』(大洋図書)では、藤井氏と同じくネオ・アウトローと呼ばれる、歌舞伎町を根城に裏社会に生きてきた工藤明生氏との対談も掲載されているが、それも併せて読めば、平成という時代の社会の裏街道を彼らがどう生きてきたかがわかるはずだ。マスコミでは決して語られない、時代のひとつの側面を理解する上でも『歌舞伎町 阿弥陀如来』必読の一冊であろう。

『歌舞伎町 阿弥陀如来 闇東京で暴走を続けるネオ・アウトローの不良社会漂流記』
著者:藤井学/発行:サイゾー/定価:1300円+税

入場料のある本屋「文喫」で、手に取りたくなる本に出会えないのは、きっと本屋のせいじゃない

「どれが、おすすめの料理ですか」

 そう尋ねると、ショートヘアのウエイトレスが、困ったように笑うので、ぼくはいささかドキッとしてしまった。

「私は……個人的には、エビのドリアが……」

「じゃあ、それにしましょう」

 きれいな女性が勧めるのだから、きっと間違いはない。そう思いながら、バイブレーション機能のついた番号札を受け取った。昼時だけども、番号札は1番だった。

 先週、場所は六本木の以前は青山ブックセンターがあった建物にオープンした「文喫」は、これまでにない、入場料を取る本屋。選書は、出版取次最大手・日本出版販売(日販)のYOURS BOOK STORE。運営は、その日販子会社であるリブロや、あゆみBOOKSを経営しているリブロプラス。本屋が次々と消えている時代に現れたニュースタイルの店舗は、もう、あちこちで話題になっている。

 3万冊の品揃えとか、喫茶室で出される食事のこととかで。さまざまな意見をネットで見るのは簡単だけど、まずは行ってみなければわからない。だって、本屋なのだから。そう思って、ぼくも足を運んだわけだ。

 平日の昼間だというのに、店内はそこそこの客がいる。何冊か本を重ねて、静かに読んでいる人。黙々と、スパゲッティを食べている人。それに、しゃがんでスマートフォンで、何度も画面を睨みながら写真を撮影している人。

 冬の陽の光が大きな窓から差し込む店内は明るい。店内で目立つのは、打ちっ放しのコンクリートの柱。そして、開店前から盛んに宣伝されていた、コンセプトである本との偶然の出会いを目的に、雑然と本が面陳・平積みされた棚や平台。雑然と置かれた様が、そのままアートか何かのようで、どことなく手を伸ばしにくい。

 雑然とはしているけれど、ジャンルはきちんと分かれている。旅行とか、海外文学、哲学、そしてコミックも。ふと、海外文学の棚を見てみると、目立つのはハヤカワ文庫のフィリップ・K・ディックの著作。その合間に、ウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』(同)。それにカート・ヴォネガット・ジュニアの『スローターハウス5』(同)を見つける。はて、読書に親しんでいるような人は、今さらこれらの本を、手に取るのだろうか。あるいは、ずうっと前に読んだ本を、もう一度読んではいかが……という狙いの選書か。

 さまざまな疑問が浮かびながら、売り物の本が並ぶフロアをぐるっと一周。瞬く間に、ぐるっと一周。3万冊の本というのは、膨大な数。一生の間、たくさん本を読んだとしても、3万冊も読める人はそうそういない。でも、3万冊の中に自分にとって価値があるものが、どれだけあるだろう。ふと、ここには、そんな価値との偶然の出会いがないような気がした。

 何か残念な気持ちが芽生えた瞬間、右手に持っていた番号札が、静かに震える。カウンターにいくと、ウェイトレスが笑顔でエビのドリアを渡してくれる。

「コーヒーをください」

「ホットとアイスとどちら……」

 そうそう、入場料1,500円。いや、消費税もコミで1,620円を取るんだから、サービスはある。お茶とコーヒーはおかわり自由。月に一度は、慌てた客が売り物にぶっかけてしまうんじゃないかと心配になる。そんなとき、申し訳なさそうにコーヒーの染みこんだ本をカウンターに持って客に向かって、このウェイトレスの可愛い笑顔は、どんなふうになるんだろうか。

 硬めの椅子に腰掛けて、アイスコーヒーを一口。窓際のソファ席は、いっそう明るく見える。でも、その数はわずか。あそこに座れば、また違う風景も見えるかもしれない。でも、そこに座るための競争は、とてつもなく激しそうだ。そんなことを考えながら、ドリアを一口。チーズのたっぷりかかったドリアは、淡い旨み。そう、ちょうど目の前の冬の陽射しのように。うまいのか、そうではないのか。ぼくには、まったくわからない。でも、美人がおいしいというのなら、きっと、そうに違いない。

 ゆっくりと器を空にして、またフロアを歩く。たくさんの人が並んでいるのは、電源のある席。幾人もがノートパソコンやタブレットをカタカタと使っている。最近じゃ、あちこちにコワーキングスペースができた。飲み物もついて時間制。そうしたところで、仕事に励んでいる人は多い。でも、時間制だから長く使えば、それだけお金もかかってしまう。それに比べれば、Wi-Fiも完備していて、時間無制限のここは、とても便利な店。気分転換に、本も読めるしね。

 そしてまた、店内を回る。早々と店を訪れた人たちが絶賛していたのは、入場料を払うカウンターの前に設置されている雑誌の棚。フラップ棚の中には、雑誌のテーマに関連した単行本が、詰められているという仕掛けである。ふと見つけた『東京人』(都市出版)の棚を開けてみる。中には、東京の街歩きとかのテーマの本がぎっしりと。下をみると専門誌の『考古学ジャーナル』(ニュー・サイエンス社)が。こちらは、驚いた。中に入っているのは、たった1冊。ほかもあちこち開けてみる。ぎっしりと詰まっているところもあるかと思えば、たった1冊しか入っていない棚も、あちこちに。一生かけても読めない3万冊。でも、3万冊とは、いかに少ない数字なのか。

【校正待ち】入場料のある本屋「文喫」で、手に取りたくなる本に出会えないのは、きっと本屋のせいじゃないの画像4

 寂しさを感じながら、もう一度、本の並ぶ棚の中へ。いくら歩いても、はっと手を伸ばしたくなることはない。それぞれが、読んで価値のある本かもしれないのに、わざとそうしているかのように、そこにはなんの匂いもなかった。

 選書した担当者が勧めたいものなのか、表紙をこちらに向けた本が目に入る。

 望月衣塑子の『新聞記者』(角川新書)とか、栗原康の『何ものにも縛られないための政治学 権力の脱構成』(KADOKAWA)とか。コミックと表示された棚に行けば、白田秀彰『性表現規制の文化史』(亜紀書房)がね……。どれも、最近評判の書き手の思想や生き様がわかる「良書」なのは、間違いない。でも、ぼくは思ったのだ。なぜ、選書する時に、この本を選んで、これを客の目に入りやすい形で並べようと考えたのか、と。

 わかったような口を聞く人たちは、大衆を批判する。「反知性主義」とか「ポピュリズムの蔓延」なんて借りてきたような言葉を使ってね。そうした人たちは「正しい言葉」を重ねている自分たちの正義を疑わない。それらを積み重ねている自分たちこそ、真に大衆のことを考えているのだと信じて。「意識高い系」なんかじゃない。人の心を動かすものが、義理人情と関係性。そこに、金と権力と性が入り交じったものだということには、気づきもしない。あるいは、気づいているのに見えないふりをする。浮ついた言葉の羅列が、いくばくか歓迎される中で、文化も国力も、衰えていく。

 もう帰ろうと、トイレに寄った。引き戸を開いて、あれっと思った。引き戸になったトイレは広くて、車椅子でも入れるつくりになっていた。でも、店内のあちこちには、段差がある。どこか裏口でもあるのかと、思った。カウンターで「この店は、車椅子は?」と尋ねた。

「難しいですね……」

 この刹那の会話に、さまざま話題な新しい試みと評される書店のすべてが見えた気になった。

【校正待ち】入場料のある本屋「文喫」で、手に取りたくなる本に出会えないのは、きっと本屋のせいじゃないの画像5

 いまや寂れきって、人も少ない芋洗坂を歩いた。麻布十番の石畳を歩くと、浪花屋のたい焼きが思い浮かんだが、どうしてもその気にはならなかった。冬枯れの街に、消え入りそうな文化の冬が重なって、涙がとめどもなくこぼれた。
(取材・文=昼間たかし)

テーマは“生活”……伝説のインディペンデント誌が復活「生活考察Vol.6」

 インディペンデント・マガジンが、静かな流行を迎えている。現在、数多くのインディペンデント誌が発行されているが、ひとつだけ例を挙げると、現役藝大生が創刊したインディペンデント・ファッション誌「HIGH(er) magazine」は、各メディアで取り上げられ、在庫はほぼソールドアウト。ハイブランド・フェンディや「ELLEgirl」(運営:ハースト婦人画報社)とのコラボレーションも果たし、大きな注目を集めている。

 こうしたミニコミ誌、ZINE、リトルプレス(1,000~3,000ほどの少部数で発行する自主制作の出版物)、インディペンデント誌復権の潮流は、日本のみならず、世界中で巻き起こっている。

 創刊以来、密かな人気を博していたインディペンデント誌「生活考察」が、前号から約5年の休止期間を経て再始動した。「生活考察Vol.6」(タバブックス)は、ライター・編集者の辻本力氏が、2010年に創刊したインディペンデント誌だ。

 小説家の円城塔氏をはじめ、海猫沢めろん氏、福永信氏、評論家の栗原裕一郎氏、佐々木敦氏、速水健朗氏、漫画家のpanpanya氏、ロックバンド「Have a Nice Day!」の浅見北斗氏など、各分野の第一線で活躍する22名の書き手が“生活”をテーマにした多種多様なエッセイを寄稿している。エッセイの他にも、春日武彦氏×穂村弘氏×海猫沢めろん氏の鼎談「僕らは大人になれたのか? これからの“成熟”考」や、小説家の柴崎友香氏×滝口悠生氏の対談「散歩と文学 歩くこと、考えること、そして書くこと」など興味深いコンテンツが揃い、中身の詰まった濃い内容となっている。

 中でも小説家・王谷晶氏の「未来世紀豚汁」が秀逸だ。「生活考察」から執筆依頼を受けた作者は、担当編集者との打ち合わせに向かうのだが、現れた編集者はビヨンセ似の美女で、谷間を強調した画像をLINEで送ってきたり、作者の家に上がり込んできたりと、どうにも胡散くさい。編集部に問い合わせると「そんな人物は会社に存在しない」と告げられる。現実と虚構が入り交じり、不思議な雰囲気を醸し出している怪作だ。

 インディペンデント誌の面白さは、作り手の喜びや感動が直に感じられるところにある。フェイクニュースが飛び交い、「ポスト・トゥルース(脱・真実)」「オルタナティブ・ファクト(もうひとつの事実)」がはびこる昨今、政治的権力や世間の風におもねらないインディペンデント誌は、今後ますます重要な位置を占めることだろう。気になるものがあれば早く入手しないと売り切れてしまうかもしれないので、購入はお早めに。
(文=平野遼)

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雑誌文化の衰退と共に出版取次も危機的状況……いよいよ「日販」と「トーハン」が物流の協業を検討へ

 発売日に、雑誌や書籍がきちんと書店に並んでいる。長きにわたる出版不況の影響で、そんな常識も危機的な状況になりつつある。

 11月、出版取次最大手の日販が、第二位のトーハンと物流を協業することを検討していると発表して、業界の注目を集めている。

 いまや出版物の売上高はピークだった1996年の52%程度と約半分まで減小。両社ともに物流拠点と配送網を維持することが困難になっているのだ。

「今年に入ってから、取次では土曜休配日(土曜日には、書店に本を配送しない)を増やすことを検討し、各出版社にも流通網維持のために負担の増額を求めています。しかし、同様に市場縮小の煽りを受けている出版社側もその要求には難色を示しています。とりわけ、週刊誌などの雑誌は、発売日が決まっていることが鉄則でしたが、それを維持するために負担が増えるのであれば雑誌をやめてしまおうという意見すら出る状況です」(出版社社員)

 日本の書店への流通ルートは、雑誌を基本として構築されているものだ。毎日、書店に配送される雑誌の流通網に、書籍も乗せることでコストを抑えることができた。

 この強固な流通網の存在は大きく、出版社は本を作って取次に送ってさえしまえば、取次が勝手にバラまいてくれる。すなわち、営業努力を大してしなくても回るという状況が根付いている。

 こうした取次の存在によって維持されてきた日本の出版業だが、雑誌が売れなくなり、ネット書店が拡大した中で「そもそも、どうやって本を売ればいいのか」と、ほぼゼロからスタートしなければならないところまで追い込まれている。

 今後、雑誌市場はさらに縮小していくだろう。一方で、紙の本が消滅するということはない。出版社は、従来のシステムの中で本を売るという考えを、いったん捨てて新たな流通モデルを構築することが求められている。

 なお、今回の協業でたまに指摘されるのは、なぜ日販とトーハンがここで、いっそのこと合併しないのかということ。これは、あまりに両社のシェアが大きすぎて、合併すれば独占禁止法に抵触する可能性があるため。

 もしも、この問題が解決すれば、将来的には両社の合併もあり得る話だという。
(文=ピーラー・ホラ)

あゝ女と舞踏がしたい。童貞にまつわる作品を集めたアンソロジー『吾輩は童貞(まだ)である』

 いきなり私事と下ネタで恐縮であるが、筆者の後輩にSくんという好い童貞がいる。24歳になるSくんは、女性に対して頑なで、やたらと理想が高く、車寅次郎のように惚れっぽい。好きな女性に捧げたいと悶え苦しみ、空回りしているさまは、実に滑稽で、バカバカしく、愛おしい。その姿に、かつての自分を見るからだろう。彼を風俗に連れていくというのが筆者の夢であるのだが、その夢はいまだ果たされていない。

 自身の童貞が長かったためか、童貞や童貞作品に強く魅かれてしまう。『吾輩は童貞(まだ)である』(キノブックス)は、童貞にまつわる小説・エッセイ・短歌・名言などを集めた童貞作品アンソロジーだ。収録された作家は、森鴎外、武者小路実篤、室生犀星、川端康成、三島由紀夫と、国語の教科書のような豪華なラインナップ。存命の作家では、筒井康隆、谷川俊太郎、小谷野敦、みうらじゅんなどが名を連ね、バラエティ豊かで読みごたえのある一冊となっている。

 童貞ものとなると、重厚な文体で描かれた文豪の作品も実にバカバカしい。

「己は知らざる人であったのが、今日知る人になったのである」――森鴎外『青年(抄)』

「あゝ 女と舞踏(たんちぇん)がしたい」――武者小路実篤『お目出たき人(抄)』

「自分たちのお父さんやお母さんがそんなことしているわけがない」――中島らも『性の地動説』

「俺は生涯女はただ一人だ」――小谷野敦『童貞放浪記』

「俺に童貞を捨てさせろ!」――中谷孝雄『学生騒動(梶井基次郎)』

「かく言う私も、童貞を失ったのがすこぶるおそく、これが人生の一大痛恨事になっている」――三島由紀夫「童貞は一刻も早く捨てろ」

「ああ! 月夜! お前にこの感情を上げよう!」―― 川端康成『月』

 武者小路実篤の「あゝ 女と舞踏(たんちぇん)がしたい」も切実でほほえましいが、川端康成の「ああ月夜!」も、ロマンティックな調子がより一層マヌケで、失笑を禁じ得ない。『月』は童貞の空想を優美な文体で描いた掌編だが、こんなにバカバカしいセリフを堂々と描けるところにノーベル賞作家のすごさを感じる。川端康成の童貞力に唖然とする一作だ。

 諸作家の童貞譚にクスクス笑っていたところ、巻末のバカリズムの言葉が突き刺さった。

「お前が童貞を捨てても、童貞はお前を捨てたとは思ってないからな」――バカリズムのオールナイトニッポンGOLD 『エロリズム論』

 童貞ものを読んで、妙に懐かしい気持ちに誘われるのは、まだ童貞に捨てられていないからなのか。童貞の諸氏、童貞に捨てられていない諸氏にぜひ読んでほしい一冊だ。自身の中の童貞を確かめ、熱い気持ちのまま、童貞の後輩と風俗に行きたいと思う。

(文=平野遼)

【収録作品(掲載順、敬称略)】

筒井康隆『現代語裏辞典』、平山夢明『どんな女のオッパイでも、好きな時に好きなだけ自由に揉む方法』、中島らも『性の地動説』、原田宗典『夜を走るエッチ約一名』、武者小路実篤『お目出たき人(抄)』、谷川俊太郎『なんでもおまんこ』、森鴎外『青年(抄)』、小谷野敦『童貞放浪記』、室生犀星『童貞』、中谷孝雄『学生騒動(梶井基次郎)』、結城昌治『童貞』、開高健 『耳の物語(抄)』、車谷長吉『贋世捨人(抄)』、穂村弘『運命の分岐点』、しんくわ 寺井龍哉(ともに短歌)、みうらじゅん『東京アパートメントブルース』、横尾忠則『コブナ少年(抄)』、澁澤龍彦『体験嫌い』、三島由紀夫『童貞は一刻も早く捨てろ』、川端康成『月』、バカリズムのオールナイトニッポンGOLD 『エロリズム論』

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さらば築地市場──新旧巨大市場の全貌を紹介した『市場をゆく』

 10月11日、豊洲市場が開場した。築地から豊洲への移転が決定してから17年。石原慎太郎氏→猪瀬直樹氏→舛添要一氏→小池百合子氏と4都知事の交代を経て、二転三転した市場移転だが、紛糾した土壌汚染問題に加え、腐敗臭が漂っている、地下水位が上がりやすい、通路や店舗スペースが築地に比べて狭いなど、いまださまざまな問題を抱えている。10月15日には、ターレ(荷役用運搬車、ターレット)の荷台に乗った70代女性が事故により負傷するというニュースも報じられた。

 いくつかの不安材料を抱えた新市場だが、その実態はどのようなものなのだろう。『市場をゆく』(イカロス出版)は、そんな知られざる市場の機能を解説したMOOK本だ。閉場した築地市場、新たに開かれた豊洲市場、戦後間もない頃の闇市や、金魚や馬の専門市場など、市場のすべてを全5章にわたって仔細に紹介している。市場用語集や“せり”のハンドサインなど、マニアックな情報も掲載され、楽しい一冊となっている。

 件の豊洲市場は、青果棟、水産仲卸売場棟、水産卸売場棟の3つの棟を中心に構成され、市場全体の広さは約40万平方メートルと、築地市場の約1.7倍。主な特長として「建物全体を閉鎖型にし、商品の適温管理(コールドチェーン)を可能にした」「従来の市場とは違い、仕入れと出荷の流れを一方向に整理し、物流をスムーズにした」「卸売場棟と仲卸売場棟の間に巨大な連絡通路が通り、運搬車に乗ったまま移動できる」「見学デッキを設け、観光客の安全な見学を実現」など、新しい技術が導入されている。また、都心と結ぶ幹線道路「環状2号」が11月4日に暫定開通し、銀座の隣であった築地市場に比べ、渋滞も大幅に改善されている。

 東京五輪後の2023年には、食を中心とした観光施設「千客万来施設」も開業される予定で、豊洲市場のさらなる発展が見込まれている。諸問題がうやむやにされないことを祈りつつ、新市場の今後を見守っていきたい。
(文=平野遼)

さらば築地市場──新旧巨大市場の全貌を紹介した『市場をゆく』

 10月11日、豊洲市場が開場した。築地から豊洲への移転が決定してから17年。石原慎太郎氏→猪瀬直樹氏→舛添要一氏→小池百合子氏と4都知事の交代を経て、二転三転した市場移転だが、紛糾した土壌汚染問題に加え、腐敗臭が漂っている、地下水位が上がりやすい、通路や店舗スペースが築地に比べて狭いなど、いまださまざまな問題を抱えている。10月15日には、ターレ(荷役用運搬車、ターレット)の荷台に乗った70代女性が事故により負傷するというニュースも報じられた。

 いくつかの不安材料を抱えた新市場だが、その実態はどのようなものなのだろう。『市場をゆく』(イカロス出版)は、そんな知られざる市場の機能を解説したMOOK本だ。閉場した築地市場、新たに開かれた豊洲市場、戦後間もない頃の闇市や、金魚や馬の専門市場など、市場のすべてを全5章にわたって仔細に紹介している。市場用語集や“せり”のハンドサインなど、マニアックな情報も掲載され、楽しい一冊となっている。

 件の豊洲市場は、青果棟、水産仲卸売場棟、水産卸売場棟の3つの棟を中心に構成され、市場全体の広さは約40万平方メートルと、築地市場の約1.7倍。主な特長として「建物全体を閉鎖型にし、商品の適温管理(コールドチェーン)を可能にした」「従来の市場とは違い、仕入れと出荷の流れを一方向に整理し、物流をスムーズにした」「卸売場棟と仲卸売場棟の間に巨大な連絡通路が通り、運搬車に乗ったまま移動できる」「見学デッキを設け、観光客の安全な見学を実現」など、新しい技術が導入されている。また、都心と結ぶ幹線道路「環状2号」が11月4日に暫定開通し、銀座の隣であった築地市場に比べ、渋滞も大幅に改善されている。

 東京五輪後の2023年には、食を中心とした観光施設「千客万来施設」も開業される予定で、豊洲市場のさらなる発展が見込まれている。諸問題がうやむやにされないことを祈りつつ、新市場の今後を見守っていきたい。
(文=平野遼)

築地も”密漁アワビ”だらけだった? 食品業界のタブー「密漁ビジネス」を暴く『サカナとヤクザ』

 アワビもウナギもカニも、日本人が口にする高級魚の大多数が、実は暴力団による密漁品であり、巨大な資金源になっている――。

 そんな衝撃の実態を突き止めるべく、密漁する暴力団や関係者に取材を続けた渾身のルポが『サカナとヤクザ』(小学館)だ。著書の鈴木智彦氏は『ヤクザと原発 福島第一潜入記』『潜入ルポ ヤクザの修羅場』(ともに文藝春秋)などの著書を持つ、その道のプロ。知り合いの暴力団関係者に仲介してもらい、現場の人間に直接話を聞くという、一般人には到底不可能な突っ込んだ取材を敢行している。

 鈴木氏が最初に追ったのは、岩手・宮城にまたがる、三陸アワビの密漁団。津波が街を破壊し、無人で真っ暗な港が増えた隙に、ヤクザは高価なアワビを根こそぎ奪い取っていった。ある暴力団組長によれば、「あれだけ簡単に儲かる仕事は他にない。海で金を拾っているようなもの」だと。

 では、その密漁アワビはどこへ行くのか? 鈴木氏が卸先としてにらんだ場所が、移転問題で大揺れした「築地市場」だった。世界最大級の魚市場で、密漁アワビは売られているのではないか――。その真実を知るべく、築地でも3本の指に入る大手の仲卸にバイトで雇ってもらい、働きながら探っていく。

 ところ変わって、北海道の函館市には、大小10~15程度の密漁グループが存在する。全国的に有名な観光スポットである駅前の朝市でも、横流しされた“ヨコモノ”は堂々と売られている。「密漁品を扱ったことのない店なんてないよ」と地元暴力団組長は語り、鈴木氏が夏場に市場を回ってみると、店先から「カニはどうだい?」「獲れたてだよ、密漁だけど」と笑い声が聞こえてきたという。また、“密漁の街”と呼ばれていた根室には北方領土の問題もあり、相当複雑な背景が透けて見える。

 日本人が大好きなウナギ。これも、かなり闇に包まれている。2014年、ニホンウナギがIUCN(国際自然保護連合)の絶滅危惧IB類に指定され、日本で大量消費されていることが大問題になった。それなのに、牛丼チェーン店までもが提供できているのはなぜか? 考えてみれば、おかしな話だ。

 養殖するにしても、ウナギの稚魚が激減している。では、どうやって手に入れるのかというと、大量に確保するための台湾・香港ルートがある。鈴木氏が深掘りしようとすると、専門誌の記者からは「台湾・香港ルートに深く切り込むと東京湾に浮かびますよ」と忠告があったという。

 本書には、密漁にまつわるかなり具体的な地名や、ある程度個人を特定できそうな記述があるなど、関係業界を震撼させる、漁業に関するタブーが詰め込まれている。一般的な漁師は年収は右肩下がりで落ち込んでいるのに、ヤクザはなぜ大儲けできるのか? 

 おそらく、お偉いさんや、食品関係の大手企業などにとっては、できるだけ触れてほしくない中身ばかりだろう。けれど、この機会に、私たちが食べる“サカナ”の出所を今一度、考えてみてはいかがだろうか?

(文=上浦未来)

 

●すずき・ともひこ

1966年、北海道生まれ。日本大学芸術学部写真学科除籍。雑誌・広告カメラマンを経て、ヤクザ専門誌「実話時代」(三和出版)編集部に入社。「実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。週刊誌、実話誌などに広く暴力団関連記事を寄稿する。主な著書に『ヤクザと原発 福島第一潜入記』『潜入ルポ ヤクザの修羅場』(ともに文藝春秋)など。

 

バズるか、炎上か!? 奇想溢れる地方CM・PR動画を徹底分析『モノ売る地方CM コト得るPR動画』

 SNSの普及に伴い、広告やCMが炎上するケースが後を絶たない。性的な表現が批判され、放送中止となったサントリーのアルコール飲料「頂(いただき)」のCMや、うなぎがスクール水着を着た女子高生に擬人化した鹿児島県志布志市のふるさと納税PR動画「うな子」など、ここ2、3年の間で炎上したCMは枚挙にいとまがない。また、アサヒ飲料「三ツ矢サイダー(僕らの爽快編)」のように、「楽器演奏中にぶつかるシーンが危ないから」とクレームが入り、企業が放送を自粛したケースもある。企業やCM製作者は、より多くの配慮と適切なアイディアが求められる時代だといえるだろう。

 無難でエッジに欠けた東京キー局の全国区CMと比べると、地方CMは自由度が高く、奇想に溢れたものも数多い。それらを知るのにうってつけな『モノ売る地方CM コト得るPR動画』(幻冬舎)は、ぐろ~かるCM研究所所長で、マーケティング会社テムズの代表取締役である鷹野義昭氏が、地方CM・PR動画をマーケティングの視点から分析した本だ。事例として100本ものCM・PR動画が紹介され、どのような意図や効果があるのか、どのようなテクニックが用いられているのか、事細かに述べられており、CM業界とマーケティング戦略について広く学べる内容となっている。

 例として、宮崎県小林市の移住促進PRムービー「ンダモシタン小林」が挙げられている。フランスからやってきた男が、小林市の各地を巡り、地域の特色を紹介していくのだが、フランス語かと思って聴いていた言葉は宮崎県西部の方言・西諸弁だった、というオチだ。思わず二度見してしまうほどインパクトのあるこの動画は、大きな反響を呼び、再生回数は250万回を突破。一本200万円の製作費で10億円以上の宣伝効果が得られたという。小林市という地名を全国に認知させることに成功し、ふるさと納税額も1億3290万円から約7億2000万円と大幅に増加。地方PRという“コト”を伝えた模範例として大きく取り上げられている。

 この「ンダモシタン小林」の他にも、「踊ってみた動画」で人気のダンサー・まなこが踊る埼玉県久喜市の「1000人クッキーダンス」や、牛模様のUFOが飛来して牛乳ビームを発射する熊本県「らくのうマザーズ(牛乳ビーム編)」など、アイディアに富んだ動画はたくさんある。本書を手に取って、ぐろ~かるな地方CM・PR動画の世界を見てみよう。
(文=平野遼)

ジャンプ黄金期の異色作! 破天荒教師が博打で解決『アカテン教師 梨本小鉄』

 義務教育を受けていたころから、かれこれ30年近くたった今、あらためて思うのですが、教師って個性の塊でしたよね。サラリーマン生活を送っていると良くも悪くも「普通」の範疇で収まる人たちが多い中、結構変人の教師が多かったなあと思うのです。生徒が宿題を忘れると「窓から飛び降りて死ね!」が口癖だったF先生、教室に隠しカメラを設置していたのがバレて更迭されたT先生、今ごろ、どうしているのでしょうか?

 ところで、教師が主人公のマンガといえば、『GTO』から『まいっちんぐマチコ先生』まで、星の数ほどある定番ジャンル。そんなレッドオーシャンな市場の中でも、一度読んだら忘れることができない個性的な教師マンガがたびたび出現します。

 今回ご紹介する『アカテン教師 梨本小鉄』もそのひとつ。「週刊少年ジャンプ」(集英社)での連載作品ながら、すべてを博打で解決しようとする不健全極まりない不良教師が主人公の異色作です。

 連載期間は1986~87年まで、単行本は全4巻と、決して大ヒット作品というわけではないのですが、リアルタイムで読んでいたジャンプ読者にとっては絶対忘れることができないインパクトがありました。

 なにしろ、当時のジャンプといえば『北斗の拳』『ドラゴンボール』『キン肉マン』『シティーハンター』などが巻頭を飾る黄金期で、ほとんどの連載作品が「友情」「努力」「勝利」のジャンプ三原則を導入していた時代です。

 そこに、ニット帽・グラサン・口ヒゲという、うさん臭さ満載の小汚いおっさんを主役に据え、「飲む」「打つ」「買う」というジャンプ三原則の真逆を行くようなコンセプトの作品が突如として現れたわけですから、それはもう違和感バリバリでした。

 産休に入った教師の代用教員として、小春日和中学3年A組の担任をすることになった梨本小鉄は、いきなり二日酔いで初出勤。「俺が知りたけりゃあ…俺の授業に顔出しな!!」と言い放って新任挨拶をパスするなど、初日から破天荒。当然ながら、同僚の先生からは非難轟々です。そんな小鉄は、少年時代から天性の勘のよさで“予想屋の帝王”と呼ばれ、中学・高校では満点首席、自作の予想問題を的中させて、国内最高峰の東京T大に合格するという筋金入りの勝負師。人呼んで「“常勝無敗”の梨本小鉄」なのです。

■生徒に小遣いをベットさせる伝説の授業

 初授業も、トンデモないものでした。松・竹・梅の3問を用意し、生徒に自分の学力に合わせて問題を選択させます。それだけならいいのですが、サラ金で借りてきた札束を見せ金にして、生徒に小遣いをベットさせるのです。倍率は松が5倍、竹が3倍、梅が2倍……しかも確率の問題という名目で、丁半サイコロの確率を出す問題や、馬の予想表から3-6がくる確率を当てる競馬の問題、麻雀の配牌を見て自分がアガれる確率を求める問題など、ことごとく博打絡み。中学生の授業としては、あまりに刺激が強すぎます。

 しかも、ちゃんと確率を求めて回答する生徒に対し、「これはなァ『数学』じゃねえ…博打の問題だ!」「受験!? そんなもの、俺には関係ねえよ!! 俺は“運”を教えに来たんだ!!」など、ものすごい無茶な理屈をつけ、結局小鉄が親の総取りです。傍目には、ほぼ教師による生徒のカツアゲ。すごく……斬新な授業ですよね。

■金の亡者かと思いきや、実は生徒思いの人情派

 普段は生徒のことを「商売道具」などと呼ぶ小鉄ですが、困っている生徒には教師の枠を超えた面倒見の良さを見せてくれます。

 小鉄のクラスの女子、高橋初音の父親は飲み屋を経営しているのですが、まむしの銀造というヤクザ者の嫌がらせに遭っていました。たまたま初音の家に家庭訪問をしていてヤクザとカチ合った小鉄が揉め事に参入。小鉄が勝ったらヤクザにお引取り願うことを条件に勝負を始めます。

 それがなんと、「便器に札束を詰め込んで詰まらせたほうが勝ち」という謎の勝負。先攻のまむしの銀造が100万円を便器にツッコみますが、全部流れてしまいます。対する小鉄の所持金は、サラ金から用立てた100万円のみ。つまり、このままでは負けは必至ですが……実は小鉄の用意した100万円は聖徳太子の描かれた旧札。旧札のほうが新札よりサイズがでかいため、見事便器を詰まらせることに成功!初音のお父さんのピンチを救ったのです。いい先生ですよね。勝負内容はまったく意味不明でしたけど。

■独自の試験対策でクラスの成績が急上昇

 そんなこんなで、いい加減な二日酔いのギャンブル野郎だと思われていた小鉄が、次第に生徒から絶大な信頼を集めるようになるのですが、同僚の教師たちには疎まれ、校長にも目をつけられ、ついには解雇の危機に陥ります。

 そこで、小鉄は校長たちに、実力考査で自分のクラスの成績を急上昇させることを約束。手段を選ばない小鉄は、クラスの生徒全員に小鉄独自のカンニング方法を伝授。くしゃみ、せき、しゃっくり、ため息などの生理現象を利用して答えを教えるという画期的な方法です。

 さらに小鉄は、生徒に各教科の教師を尾行させて、アフター5の行動からテストの出題傾向を予想します。典型的なマイホームパパの教師は、型にはまった基本問題。クラブのママにべったりのスケベ教師はネチッコイ「筆記問題」で来るに違いない! など。出題者がスケベだと筆記試験になるみたいです。参考になりますね。

 そもそも、教師が生徒にカンニングを指南している時点で、教育者としてかなりアレなんですけど。その辺はジャンプのマンガなので仕方がありません。

■迷走しまくりのエピソード「全日本有能教師トーナメント」

 初っ端のインパクトのあるギャンブル授業のあと、しばらくはよくある人情教師マンガみたいなストーリーが続いていたのですが、作品終盤に突如として「全日本有能教師トーナメント」なるバトルが始まります。迷走するジャンプ作品が打ち切り目前にしてバトル展開に走る……黄金期のジャンプで日常的に見られた光景です。

 このトーナメントは、全国から選りすぐられた凄腕教師7名が賞金1,000万円を賭けて闘うバトル。各中学校から選ばれてたドロップアウト落ちこぼれの精鋭部隊のクラスの生徒をいかに手懐け、学力を向上させるかを競うのです。というか、”落ちこぼれの精鋭部隊”ってなんなんだよ!? 言葉として矛盾してるだろ!

 小鉄もたいがいヤバイ教師ですが、ほかのライバル教師たちも危険すぎ。どう考えても教師になっちゃいけないレベルです。

●貴王子紀世彦(たかおうじ きよひこ)

 小鉄の同僚で、通称「教育界の貴公子」。金持ちなのをいいことに、生徒をロレックスなどの金品で釣って成績を引き上げようとする成金教師。

●訥久広樹(どつく ひろき)

 往年のスパルタ塾「戸塚ヨットスクール」の戸塚宏校長を思いっきりインスパイアしている教師。ジャージ姿で竹刀をぶん回し、問題を間違えると沖に出てヨットの特訓をさせるという、戸塚ヨットそのまんまのスタイルで生徒が泣き叫びまくり。

●楠見玲子(くすみ れいこ)

「女性の自立」をモットーとするフェミニスト教師。授業中に「教室にも女性の権利確立を!」などと叫び、男子生徒を徹底的に弾圧。しかし、小鉄に敗れた後は教育方針が180度変わり、問題が解けたらおっぱい触らせてくれるエロ女教師に変貌。

●アビ・ナーシ・ヨンゾン

 ネパール出身の外国人教師。「梵(ぼん)」しか言わないが、超能力が使える。某尊師のように座ったまま空中浮揚をしたり、試験中にテレパシーで生徒の脳内にテストの答えを送り込んだりできる最強の教師。

 どうですか? こんな教師ばっかり出てくるバトル。見てはみたいですけど、絶対教わりたくはないですよね。

■人生に役立つかもしれない名言の数々

 本作には、人生の指針となるようなグッとくる名ゼリフもたくさん出てきます。

「この世に人が住む限り、『博打』と『教師』はなくならねえよ!!」

「アホダマー!! 運を手にすりゃあ 自分の『勝つ方程式』が見えてくる!!」

「いくら”学歴”ブラ下げても…天下を取らなきゃ親がなくぜ!!」

「アホダマー!! 酒の力を借りるのも人間社会の特権よ!!」

 などなど。ただ、これらはすべて中学教師の発言ですからね。それはそれでマズいんじゃないかと思わされます。ちなみに「アホダマー!」というのは小鉄オリジナルの決めゼリフです。当時450万部も発行されていたジャンプに載っていながら、ちっともはやらなかったのですが、このセリフを言ってピクッと反応した人はきっと“隠れ梨本小鉄ファン”に違いありませんので、そっとしておいてあげましょう。

(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん <http://ablackleaf.com/>)

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