コンビニ成人誌販売中止! アダルト系出版各社に聞いた“今後の対応策”は?

 いずれは、そうなるだろうと思っていたら、いよいよその時が来てしまった。セブン-イレブン・ローソン・ファミリーマートのコンビニ大手3社が軒並み「成人向け雑誌」の販売を取りやめることを決めたのである。

 東京オリンピック・パラリンピックを控え、外国人旅行者からのイメージ低下を避けることを理由として挙げているが、これはあくまでお題目。どのタイミングで切り捨てようかと、機会を考えていたコンビニ各社にとって、東京オリンピック・パラリンピックは願ってもない好機となったわけである。

 かつては、コンビニにとって雑誌コーナーはなくてはならない存在だった。雑誌を買いに立ち寄る客が、ついでにおにぎりやジュースも買っていくというビジネスモデルが出来上がっていたからだ。

 でも、今や雑誌を読む人は減少の一途。ATMの使用など、入店動機が雑誌以外に移ってしまえば、卸値の高い商品である雑誌はコンビニにとっては無用の長物。雑誌コーナーを丸ごと撤去しても、コンビニの売り上げは3~5%減少する程度。むしろ「成人向け雑誌」に限らず、雑誌コーナーそのものを撤去して、冷凍食品ケース(リーチイン)やイートインコーナーを設けたほうが、コンビニとしてはおいしいのである。

 つまり今後、雑誌コーナーを大幅に縮小していく第一歩として「成人向け雑誌」の取り扱い中止を決めたというのが、正しい見方といえるだろう。実際、すでに一部のコンビニでは実験的に雑誌コーナーのほとんどない店舗もある。コンビニが飽和状態といわれる中で、レイアウトの改装と雑誌コーナーの縮小は、これから本格化していくものと思われる。

 さて、このコンビニ各社の決定にSNSを見ると、さまざまな意見が飛び交っている。女性や子どもに対する悪影響があったとして、取り扱い中止を支持する声。はたまた「成人向け雑誌」という呼称が曖昧だと非難するもの。

 確かに「成人向け雑誌」という呼称は曖昧。要はコンビニにおける小口シール止めの自主規制をしている雑誌のこと、より難しい言葉を使えば「類似図書類」を指していると思われる。それを「成人向け雑誌」と記載しているのが問題だという人もいる。

 でもそんなのは、単なる知識のひけらかし。実際のところ、コンビニに置かれているエロ本が、どういう位置づけにあるのか知りたいとすら思う人などいないのが現実ということだ。書こうと思えば、このシール代は1冊当たり20数円だとかいくらでも書けるのだけど、そんな話は誰も求めていないというのが実情である。

 さて、販売場所が減ってしまうという事態なわけだが、意外に出版社のほうは冷静そのもの。アダルト系出版社の業界団体である出版倫理懇話会の会長であるジーウォークの長嶋博文氏に尋ねたところ「いずれこうなるとは思っていたけど、来る時がきたか」と、まったく驚いている様子もなかった。

 長嶋氏の話から見えてきたのは、すでに多くの出版社は、こうなることを予測して対策を準備していたのではないかということ。「オリンピックの1年前に合わせて、8月から取り扱いをやめるのは性急」とはいうものの、コンビニの対応を非難するような言葉は一切出なかった。

 そんな各社の対策というのは、まずネットへの移行。ジーウォークの例を挙げると、すでに中心は電子書籍。それと、電子で配信した作品の紙での単行本化に絞られている。実にアダルト系の電子書籍での売り上げは目覚ましいものがある。過日、筆者がコアマガジンの編集者に聞いたところによれば、すでに電子書籍と紙の売り上げでは電子書籍のほうが紙を凌駕している現状。

 結局のところ、放っておいても紙のエロ本は近い将来に消滅する運命のもの。オリンピックがなくても、コンビニは扱いをやめるだろうとの予測で各社は動いていたというわけである。

 これは、コンビニに置かれているエロ本を見てみるとわかるが、すでに出版社も限られている。グラビア系の雑誌は、読者の年齢層も限られており、いずれは消えるもの。エロマンガ系は電子書籍への移行が加速するというのが、これから起こることだろう。

 そこで何度か取材している定額エロマンガ読み放題サービス「Komiflo」にも参加しているワニマガジンの編集者に尋ねてみたところ、こんな話を。

「特に、編集部でも何も話題になっていなくて。何か変わるんでしょうか? 逆に知っていたら教えてくださいよ」

 誰もが利用する、すなわち軸となるメディアの多くは、時代によって変わるもの。かつてのように、雑誌が主体となって娯楽や情報が流通するのも、二度と訪れないほんの一時代のことに過ぎなかったのか。

 ところで……SNSは騒がしいが、その中のほとんどが普段からコンビニでエロ本を買っているように見えないのはなぜだろう。
(文=昼間たかし)

専門誌も売れない時代……平成と共にどれだけの雑誌が終わるのか?

 ついに専門誌も売れない時代か。先日、デザイン雑誌『MdN』(エムディエヌコーポレーション)が紙媒体での発行を取りやめてウェブメディアに移行することを発表し、注目を集めた。

 1989年に創刊された同誌は、サブカルチャーに関する特集も数多く掲載。デザインを本業とする人だけでなく、多くの読者を得ている雑誌とされてきた。こうしたスタイルの雑誌も休刊となる状況は、まさしく雑誌というメディアがひとつの時代を終えたことを象徴しているといえる。

 いま、雑誌の中でもっとも危機的状況にあるのは一般週刊誌や週刊マンガ雑誌だ。2000年代初頭から、団塊世代が退職すれば需要はグンと減るという指摘はなされてきた。けれども、スマートフォンの加速度的な普及によって、需要は予想以上に落ち込んでいる。

「どこの媒体もウェブで無料配信するのが当たり前になってきていますが、収益としては厳しい。単行本にならなければ、利益は入ってこないからです。よその媒体もウェブで無料で見せているからうちもとやっているわけですが……正直、将来はどうなるのかわかりません」(マンガ編集者)

 読者層の広い雑誌がシェアを減らして休刊になることがあるとしても、コアな読者を対象にした専門誌は、まだ維持されるのではないか。そんな希望も今回の『MdN』の休刊で打ち砕かれようとしている。

「釣りであるとか、音楽であるとか、コアな読者がいそうな専門誌は、まだたくさんあります。でも、買っていくのは中年以上の人ですね。とりわけ音楽雑誌は、若者に人気のあるグループが登場するような雑誌以外は、どんどん年齢層があがっています」(書店員)

 もはや、どの分野も情報を入手する手段は、まずネット。そこから詳しい情報を得ようとすれば、一足飛びに書籍となる。雑誌の入る余地はもうない。

 今年は、またどれだけの雑誌が休刊するのか。
(文=大居候)

食べ物は愛──人間の食行動の不思議に迫った『あなたはなぜ「カリカリベーコンのにおい」に魅かれるのか』

“フードポルノ”という言葉が巷間に広がり、4、5年がたった。「ポルノのように欲望を刺激する魅力的な食べ物の写真」という意味だが、日本でいうところの“飯テロ”に近いだろうか。インターネットで最も検索されるのは「ポルノ」で、二番目が食べ物に関する語句だという。実際、食欲と性欲にはつながりがあり、裸身の画像と食べ物の画像は脳の同じ場所を刺激する。食欲も性欲も、我々が生きていくのになくてはならないものだ。

 そんな食欲の不思議に迫ったのが『あなたはなぜ「カリカリベーコンのにおい」に魅かれるのか』(原書房)だ。カナダの心理学者で、嗅覚心理学の第一人者であるレイチェル・ハーツ氏が、味覚や嗅覚、食欲に関する研究をまとめた行動科学の本だ。食に関するさまざまな症例や実験結果から、味覚や嗅覚などの医学的見地、広告やラベルの色が消費者に与える効果など、多岐にわたって紹介されており、情報量の多い読み応えのある一冊となっている。味覚・嗅覚以外の感覚も味覚に影響を及ぼし、「飛行機の騒音の中で飲んだほうがトマトジュースのうまみをより多く感じられる」など、にわかに信じられないような研究結果も出ている。

 我々はなぜベーコンの焼けるにおいに魅かれるのだろうか。我々が「味(taste)」というとき、それは「風味(flavor)」のことを指し、その風味を決めるのはにおいだ。ベーコンを食べたとき、口の中で感じるのは塩味だけで、ベーコンの香りは鼻の中にある。我々は生まれつき特定のにおいを好むのではなく、後天的に学ぶことで好みが決まる。豚の脂肪と塩味が美味しいという食体験があるため、それを美味しいにおいだと感じるのだ。特に欧米人のベーコン愛は深く、ベーコンのにおいのするキャンドルや目覚まし時計、下着まで商品化されている。米国の食肉加工製造会社オスカー・マイヤーは、ベーコンをこよなく愛する人のための出会い系アプリ「Sizzl」を2015年にリリース。これを使えばベーコンの好みがぴったり合う恋人が見つかるという。ベーコンパンツに、ベーコンの好みがぴったり合う恋人って、アジア人からすると全く意味がわかりませんが……。

 だが、本書では食と愛の相関関係も指摘されている。チョコレートやチーズ、ワインなどには、恋をするときに脳内に分泌される神経伝達物質フェニルエチルアミンが含まれており、快楽や気分の高揚を促す効果があるという。また、甘味は痛みをやわらげ、甘味を感じると、愛情を感じるときと同じ脳の前帯状皮質が活発化することが報告されている。そういえば、英語圏では恋人のことを「ハニー」「シュガー」「スウィートハート」なんて呼んでいるのをよく聞きますね。

 バレンタインを間近に控え、男も女もそわそわしだす季節。チョコレートを送れば恋が生まれるというのも、あながち間違っているとはいえないのかもしれない。この他にも、本書には食にまつわる面白い研究例がたくさんある。体重増加が気になるこの季節に、不思議な食の科学を探求しよう。
(文=平野遼)

・レイチェル・ハーツ
心理学者、認知神経科学者、嗅覚心理学における第一人者。カナダ・トロント大学で心理学の博士号を取得、ブリティッシュコロンビア大学、米国・モネル化学感覚研究所を経て、現在はブラウン大学およびボストン・カレッジで教鞭を執っている。また複数のグローバル企業でコンサルタントも務めている。著書に『あなたはなぜあの人の「におい」に魅かれるのか』、『あなたはなぜ「嫌悪感」をいだくのか』(いずれも原書房)がある。

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食べ物は愛──人間の食行動の不思議に迫った『あなたはなぜ「カリカリベーコンのにおい」に魅かれるのか』

“フードポルノ”という言葉が巷間に広がり、4、5年がたった。「ポルノのように欲望を刺激する魅力的な食べ物の写真」という意味だが、日本でいうところの“飯テロ”に近いだろうか。インターネットで最も検索されるのは「ポルノ」で、二番目が食べ物に関する語句だという。実際、食欲と性欲にはつながりがあり、裸身の画像と食べ物の画像は脳の同じ場所を刺激する。食欲も性欲も、我々が生きていくのになくてはならないものだ。

 そんな食欲の不思議に迫ったのが『あなたはなぜ「カリカリベーコンのにおい」に魅かれるのか』(原書房)だ。カナダの心理学者で、嗅覚心理学の第一人者であるレイチェル・ハーツ氏が、味覚や嗅覚、食欲に関する研究をまとめた行動科学の本だ。食に関するさまざまな症例や実験結果から、味覚や嗅覚などの医学的見地、広告やラベルの色が消費者に与える効果など、多岐にわたって紹介されており、情報量の多い読み応えのある一冊となっている。味覚・嗅覚以外の感覚も味覚に影響を及ぼし、「飛行機の騒音の中で飲んだほうがトマトジュースのうまみをより多く感じられる」など、にわかに信じられないような研究結果も出ている。

 我々はなぜベーコンの焼けるにおいに魅かれるのだろうか。我々が「味(taste)」というとき、それは「風味(flavor)」のことを指し、その風味を決めるのはにおいだ。ベーコンを食べたとき、口の中で感じるのは塩味だけで、ベーコンの香りは鼻の中にある。我々は生まれつき特定のにおいを好むのではなく、後天的に学ぶことで好みが決まる。豚の脂肪と塩味が美味しいという食体験があるため、それを美味しいにおいだと感じるのだ。特に欧米人のベーコン愛は深く、ベーコンのにおいのするキャンドルや目覚まし時計、下着まで商品化されている。米国の食肉加工製造会社オスカー・マイヤーは、ベーコンをこよなく愛する人のための出会い系アプリ「Sizzl」を2015年にリリース。これを使えばベーコンの好みがぴったり合う恋人が見つかるという。ベーコンパンツに、ベーコンの好みがぴったり合う恋人って、アジア人からすると全く意味がわかりませんが……。

 だが、本書では食と愛の相関関係も指摘されている。チョコレートやチーズ、ワインなどには、恋をするときに脳内に分泌される神経伝達物質フェニルエチルアミンが含まれており、快楽や気分の高揚を促す効果があるという。また、甘味は痛みをやわらげ、甘味を感じると、愛情を感じるときと同じ脳の前帯状皮質が活発化することが報告されている。そういえば、英語圏では恋人のことを「ハニー」「シュガー」「スウィートハート」なんて呼んでいるのをよく聞きますね。

 バレンタインを間近に控え、男も女もそわそわしだす季節。チョコレートを送れば恋が生まれるというのも、あながち間違っているとはいえないのかもしれない。この他にも、本書には食にまつわる面白い研究例がたくさんある。体重増加が気になるこの季節に、不思議な食の科学を探求しよう。
(文=平野遼)

・レイチェル・ハーツ
心理学者、認知神経科学者、嗅覚心理学における第一人者。カナダ・トロント大学で心理学の博士号を取得、ブリティッシュコロンビア大学、米国・モネル化学感覚研究所を経て、現在はブラウン大学およびボストン・カレッジで教鞭を執っている。また複数のグローバル企業でコンサルタントも務めている。著書に『あなたはなぜあの人の「におい」に魅かれるのか』、『あなたはなぜ「嫌悪感」をいだくのか』(いずれも原書房)がある。

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いよいよ消費税は10%へ……軽減税率も適用されず、出版業界はどうなるのか

 今年10月、いよいよ消費税の10%引き上げが実施される。この引き上げに対して、さまざまな業種で軽減税率、すなわち消費税率の据え置きを求める動きがあった。

 中でも、その動向が注目されたのは出版業界であった。

 出版業界では、軽減税率が適用される新聞同様の措置を求めて与党への活発な働きかけを行った。そうした中で注目を集めたのは、出版業界は軽減税率の対象にしてもらうために「有害図書」は適用外とする、新たな自主審査機関の設立まで提案したことだった。

 これに対しては「出版業界は、表現の自由を捨てるのか」という猛烈な批判も起こった。

 もちろん、出版業界の提案も、すべてが無理筋というわけではない。既に、消費税タイプの税金制度を導入している国では、同様に「出版物でもポルノは適用外」と実質的な「ポルノ税」を導入している国もあるからだ。

 これは「表現の自由」にも絡む問題であるが、ポルノは表現物ではなく、オナニーのオカズのための実用品という概念が主流の国もある。そうした国では、ポルノ税という形での導入も、すんなりと受け入れられているようだ。

 ただ、それは日本では到底受け入れられる主張ではなかった。

 何より、どこから税金を取るのかは国家の裁量。そこに民間組織が絡むことは大前提としてできるわけもなかった。結局、批判を浴びた揚げ句、昨年12月に明らかにされた与党税制改正大綱からは、出版物は軽減税率から除外されることになったのである。

 実際、軽減税率が適用された、されないによって出版物の売上に変化が起こり得るのか。それには、首をかしげる人のほうが多い。

「コンビニでの雑誌コーナー縮小に象徴されるように、雑誌をなんとなく買うような読者は少なくなっています。意思をもって本を買う人は、2%くらいの税金の増減はさほど気にしないのではないかと思うんです」(編集者)

 結局、この動きも時代の変化に戸惑ってばかりいる出版業界の迷走だったのか。
(文=ピーラー・ホラ)

出版市場はピーク時の半分以下……もはや雑誌はオワコンで新たな時代へ突入

 情報を得る手段としての雑誌は終焉を迎えようとしているのか。

 出版科学研究所の発表によれば、2018年の紙の出版販売額は約1兆2,800億円台になると見込まれているという。前年度に比べて6.4%の落ち込み。1996年に2兆6,563億円だった市場規模は、いよいよ半分以下となる見通しだ。

 この内訳をみると、書籍は約6,900億円、雑誌が約5,800億円を占めている。いずれも前年からはマイナスで、書籍は12年連続、雑誌に至っては21年連続で前年割れになる。

 中でも出版業界が危惧しているのは、雑誌の低迷だ。長らく日本の出版は雑誌を主体として流通網を築いてきた。ほぼ毎日、書店へと配本される取次経由の雑誌の流通網に、書籍も乗っかっているというものだった。ところが、雑誌の落ち込みによって、毎日、書店に本を運ぶコストも問題となり、取次が出版社に負担を求めるなど、さまざまな問題が起こっている。

 いずれにしても、紛れもなく雑誌がオワコンとなっている状況下、漫画を含めた週刊誌の落ち込みは明らかだし、気がつけば月刊誌もかなり数を減らした。読み物を主体にした月刊誌は、もう数えるほどしか存在しない。昨年、さまざまな意味で話題になった「新潮45」(新潮社)も、どの読者層をターゲットにしているのか、いったいどんな人が読んでいるのか、とらえどころのない雑誌へと迷走していた。

 もはや、そうした雑誌で得ていた情報がネットへと移行したことが明らか。ゆえに、ニュースサイトをめぐる情勢も変化してくると見られる。

「ニュースサイトは、そのネット特性から、まず単純に目を引いて、とにかく“バズる”ネタを追い求める傾向にありました。しかし、次第に読者も慣れてきています。これからは、より“読ませる”記事をつくっていかなければ、飽きられてしまうことになるでしょう」(編集者)

 かつての雑誌が持っていたクオリティをニュースサイトは持つことができるのだろうか?
(文=ピーラー・ホラ)

「治療」と称した監禁・拘束、薬漬け……精神医療の現実に迫るノンフィクション『なぜ、日本の精神医療は暴走するのか』

 日本では現在、約400万人もの人々が心の不調で通院している。この数は国民のおよそ30人に1人。みなさんの周りにも、1人や2人はいるのではないだろうか?

『なぜ、日本の精神医療は暴走するのか』(講談社)は、「うつ病かも」と思って病院へと行ったばかりに、監禁・拘束、薬漬けにされ、正気を失い、人生を台無しにしてしまった人がいる――そんな精神医療の惨状を浮き彫りにする衝撃のノンフィクションだ。著者は医療ジャーナリストの佐藤光展氏。およそ15年間、読売新聞本社の医療部に在籍し、2018年1月に「書きたいことを書く」ために早期退職し、執筆活動を続けている。

 本書には、これが現代なのかと思うほど現実離れしている治療法が次々と出てくる。その最たるものが「拘束治療」だ。年間18万人超が精神科に強制入院させられ、少なくとも1日1万人が法の名のもとに手足や胴体を縛られているという。

 首都圏のとある精神科病院。2017年、複雑な家庭環境に育つ男児が、「学校で落ち着かない」という理由で入院することになった。病院でほかの子とケンカを繰り返した結果、強い抗精神病薬でぐったりと鎮静させ、オムツをはかせ、何もできない状態にされた男児。そんな状況の男児に看護師が食べ物を食べさせたり、オムツを替えてあげたりする――。この病院では、これを「育て直し」と呼ぶ。いたたまれなくなった関係者による内部告発が精神福祉センターや日本精神科看護協会になされているが、本書を読む限り、変わらず営業が続いているようだ。

「処方薬」で人生を踏み外してしまった人もいる。2人の幼子を持つ30代の主婦は、夫との別居や子育て疲れが影響して、うつ状態と不眠に陥った。近所のクリニックへ行くと、精神科医は生活環境の改善に踏み込むことなく、すぐに抗うつ薬のパキシルや睡眠薬を処方された。

 しかし、症状は改善されず、パキシルの1日あたりの服用量を上限の40mgに増量したことをきっかけに、温厚だった彼女の性格がガラリと変わってしまう。化粧が濃くなり、服装はケバケバしく、いつの間にかジェイソンを思わせる奇怪な刺青を入れ、ピアスを10カ所以上開けた。家族への暴言が始まり、外出すると店の商品を手当たり次第に万引き。警察に保護までされてしまう。

 抗うつ薬は一時期的に気分が上がる。けれども、実は不安、焦燥、興奮、パニック発作、不眠、敵意、攻撃性、衝動性、軽躁、躁病といった症状の悪化など重大なリスクがあるが、あまり伝えられていない。

 ほかにも、3カ月の入院による隔離と薬漬けの果てに、退院した月に突然死してしまった自閉症患者もいる。さらに、夫からのDVを受けた主婦が2回の110番通報で「精神錯乱者」のレッテルを貼られ、強制入院された患者も。本人への取材で、入院中にはオムツをはかされ、トイレの時も扉を開けっ放しにされ、看護師にずっと監視されていたなど、屈辱的な現実が生々しく書かれている。

 医師というと、立派な人であり、従わなくてはならない、と思う人もいるかもしれない。けれど、実は精神疾患の多くは今も原因不明で、精神科には病気の科学的な分類も客観的な検査法もないそうだ。iPS細胞を用いた再生医療などを最先端のスーパースポーツカーだとすれば、精神医療は「産業革命前の人力車」だという。

 うつ病患者がどんどん増えている今、そもそも精神医療は本当に患者を治しているのだろうか? 1994年の調査では約200万人だった患者数は倍増している。難しいかもしれないが、この治療は本当に正しいのか? 薬で心は治るのか? と疑ってみることも必要ということが伝わってくる。もしも、家族や友人にうつ病の人がいて、病院に連れていった結果、治るどころか悪化してしまったら、取り返しがつかない。

 もちろん、しっかりと治療の効果を上げている病院もある。しかし、残念ながら、患者をバカにしているような態度の医師や看護師が少なからず存在していることも現状のようだ。多くの人が精神医療の惨状を直視し、「今の精神医療はおかしい」と声を上げてほしい。次の被害者にならないために。そんな強い想いが詰まった1冊だ。

(文=上浦未来)

●さとう・みつのぶ

医療ジャーナリスト。探査ジャーナリズムNGO「ワセダクロニクル」シニアリポーター。神戸新聞社会部で阪神淡路大震災や神戸連続児童殺傷事件などを取材。2000年に読売新聞東京本社に移り、03年から15年間医療部に在籍。18年1月、フリーに。13年出版の著書『精神医療ダークサイド』(講談社現代新書)は新潮ドキュメント賞最終候補作に選出。

 

 

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2019年はどうなる? 個人情報も売り渡し……練馬区の図書館ストライキで問題になった民間委託の知られざる弊害

 昨年、練馬区の図書館ストライキ騒動で注目を集めた図書館の民間委託の問題。存外に経費がかかることや、職員の低賃金など、さまざまな問題が噴出した。

 とりわけ危惧されているのは利用者の貸し出し履歴などの個人情報が漏れる危険性だ。

 従来、図書館関係者らは、利用者のプライバシーには強く注意を払ってきた。かつてアニメ映画『耳をすませば』が上映された時には、天沢が雫の気を引くために図書(貸出)カードを利用しているシーンに抗議も行っている。それも過剰なことかと思いきや、現実にそうしたストーカー行為をする者もいたようで、現在では貸出カードは、ほぼ廃止されている。

 日本図書館協会が「図書館の自由に関する宣言」を定めて捜査機関への個人情報の提供に慎重さを求めているのも、よく知られるところだ。

 ところが、昨年11月。北海道の苫小牧市立中央図書館が、警察の照会を受けて特定人物の図書の貸し出しや予約状況についての履歴情報を提供していたことが明らかになった。報道によれば、図書館を所轄する市の教育委員会は警察からの要請を受け図書館に指示。そのまま提供したとされている。

 これも民間委託の弊害だと、事情を知る図書館関係者は語る。

「苫小牧市立中央図書館は TRC(株式会社図書館流通センター)に委託されています。TRCなんで、当然図書館の原則は知っているでしょうが、業務委託という関係性から、教育委員会の判断に現場から異を唱える声が上がらないわけです。これも、図書館の民間委託が引き起こした事件といえます」

 とりわけ住民生活に密接な地方自治体の機関が、個人情報を流出させまくっている昨今。もっと、取りかえしのつかない事態も起きるんじゃなかろうか?
(文=昼間たかし)

少女マンガで歴史にひたる。文芸評論家が選んだ100作『少女マンガ 歴史・時代ロマン 決定版全100作ガイド』

 少女マンガというとまず、中学生の時、好きな女の子から貸してもらった矢沢あいの『天使なんかじゃない』(集英社)が思い浮かぶ。彼女は「付き合った男全員に『天ない』を無理矢理読ませる」という変な癖さえなければ、広末涼子似のパーフェクトな美少女だったが、大人になった今でも、夫や恋人に『天ない』を読ませているのだろうか――。このように、少女マンガ一冊一冊にはさまざまな思い出が詰まっていることだろう。

 彼女が『天ない』を無理矢理読ませてくれたおかげで、その後、多くの少女マンガを読むようになった。『少女マンガ 歴史・時代ロマン 決定版全100作ガイド』(河出書房新社)は、文芸評論家の細谷正充氏が、歴史・時代ものの少女マンガ100作を厳選し、紹介したガイドブックだ。山岸涼子『日出処の天子』(白泉社)、池田理代子『ベルサイユのばら』(集英社)といった不朽の名作から、近年では惣領冬実のイタリア大河ロマン『チェーザレ 破壊の創造者』(講談社)や、鈴木ジュリエッタの西遊記ファンタジー『トリピタカ・トリニーク』(白泉社)まで幅広く取り上げている。デビュー時の作家の印象など、細谷氏がリアルタイムで読んできた感覚が事細かに記されており、単なるガイドブックに留まらない読み応えのあるものとなっている。

 取り上げられた作品はいずれも名作ぞろいだが、ひとつだけ選ぶとしたら、坂田靖子の『バジル氏の優雅な生活』(白泉社)を挙げたい。英ヴィクトリア朝の貴族社会を描いたこの作品を、細谷氏は以下のように語っている。

「(前略)その中で、個人的にもっとも愛着が深いのが、『バジル氏の優雅な生活』だ。主人公は有閑貴族のバジル・ウォーレン卿。プレイボーイだが、気のいいお節介で、すぐに困っている人の世話を焼く。ただし、人の出来ることの限界も弁えており、愚か者には手厳しい。(中略)人の心を見抜き、何度も恋のキューピッド役を務めるバジル氏の、小粋な立回りが素敵なのだ。そして、この魅力的なヴィクトリア朝の世界と会いたくて、何度も本作を読み返してしまうのである」(本書P174-175)

 そう、何度も読み返してしまうんですよね。ラブコメだけでなく、ミステリーやサスペンスなど、多彩なストーリーを楽しめる賑やかな作品だ。

 現在、「まんがホーム」で連載中の杜康潤(とこう・じゅん)『孔明のヨメ。』(芳文社)も見逃せない。ゲーム『三国無双』シリーズなどでおなじみの諸葛孔明の妻・黄月英と諸葛孔明の新婚生活を描いた4コママンガだ。諸葛孔明が180cmを超す大男であったなど、やたらと細かい三国志うんちくが面白い。漢代の文化についても注釈が添えられ、三国志ファン必読の作品だ。細谷氏も「本作の一番の魅力は孔明と月英のいちゃラブである。時代の激流の中で、ふたりがいつまでも変わらずにいることを祈りたい」(本書P212-213)と絶賛している。

 ラブストーリー主体の少女マンガは、男性にはなかなか手に取りづらいものだが、歴史ものは男性にも読みやすいジャンルといえるだろう。この『少女マンガ 歴史・時代ロマン 決定版全100作ガイド』で未読の作品をチェックをし、既読の名作の思い出を振り返る。そんな正月休みも有意義かもしれない。
(文=平野遼)

サルの脳みそ、ゴリラの肉、胎盤餃子……辺境探検家が挑む食の冒険『辺境メシ』

『辺境メシ ヤバそうだから食べてみた』(文藝春秋)は、辺境探検家でノンフィクション作家・高野秀行氏が「食べ物」を書くと、こうなるのか! と驚かされる食のエッセイだ。「ヤバそうだから食べてみた」というタイトル通り、高野氏は明らかにヤバそうな食べ物に出会うたび、なんでもどんどん口へと放り込んでいく。特に現地の人に勧められたら、断らない。

 コンゴでは長距離バス内でサルのくん製肉が回ってきて、まるでみかんかせんべいをおすそ分けするかのように、車内のお客が一人ずつガブッとかみちぎっては隣の客へと回す。そこで高野氏も躊躇なくかぶりついたところ、乗客から歓声が上がったという。「なんでも食べられる」は、現地に溶け込むための最重要スキルのひとつなのだ。

 高野氏にとって、「食の安全基準」は現地の人が食べているかどうか。「どんなにゲテモノに見えても地元の人が食べてたら大丈夫」とのこと。ほんとかな?

 本書には、水牛の髄液胃袋包みカリカリ揚げ、インカ帝国公式エナジードリンク、羊の金玉と脳味噌のたたき、口噛み酒、胎盤餃子、カエル丸ごとジュースなどなど、読んでいるだけで、ひえーっと悶えるような食べ物が出てくる。

 今でこそ「ヤバそうだから食べてみよう」となんでも食べる高野氏だが、意外なことに、幼いころは好き嫌いが多かったらしい。モツもキノコ(特にしいたけ)も、香辛料も外国のチーズもダメ。そんな高野氏に「食ビッグバン」が起きたのは、早稲田大学探検部の仲間と、謎の怪獣モケーレ・ムベンを探すべく、コンゴ共和国の密林を訪れてから。

 コンゴの密林には、昔からゴリラを食べる習慣があった。案内役の村人たちはゴリラが吠える声や、胸を叩いたりすると音を耳にすると「ハッ!」という顔をして、ヤリを咄嗟につかんで、命懸けの狩りに出ようとした。

 だが、そのとき同行していたコンゴ人動物学者、通称“ドクター”が「ゴリラは国際保護動物だ。狩って食べてはいけない」と繰り返し説いた。村人たちは、国際保護動物などまったく理解できない概念だっただろうが、都会から来た偉い人の言いつけとあって守っていた。ところがある日、ドクターはゴリラの観察中、うっかりゴリラに近づきすぎて襲われ、命を守るためにそのゴリラを銃で射殺。

 もともと村人たちはゴリラを食べたくて、しかも、探検部の仲間たちは極端な食糧不足で飢えていた。みんなの心はひとつだった。ゴリラは村の人たちの手によって、あっという間に解体され、鍋でぐつぐつと煮込まれた。

 この旅では、ほかにもチンパンジー、サル、ヘビなど野生動物を片っ端から食べたそうで、その結果、帰国後は自然と好き嫌いは消滅したという。

 一時期、“主夫”をしていた経験もある高野氏は、食べるだけではなく、「作る側」として、“どうやって作るんだろう?”という好奇心で、厨房へ突っ込んでいく。さらに、さすがの語学力で材料をちゃんと確認し、丹念に工程も追っているところも詳しすぎて、笑う。凡人には食べる機会すら得られない食べ物が多いので、ぜひ本の中で世界の「辺境メシ」を楽しんでもらいたい。

(文=上浦未来)

●たかの・ひでゆき

1966年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部所属時に執筆した『幻獣ムベンベを追え』でデビュー。2005年、『ワセダ三畳青春記』で酒飲み書店員大賞を受賞。13年刊の『謎の独立国家ソマリランド』で講談社ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞。ほかに『西南シルクロードは密林に消える』『アヘン王国潜入記』『イスラム飲酒紀行』『謎のアジア納豆』『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』(清水克行氏との共著)など著書多数。

 

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