現代女子の目はなぜ異常なほど大きいのか? “盛る”女子たちの美意識の謎に迫った『盛りの誕生』

 90年代半ばの渋谷は、子ども心に少し怖い場所だった。世はコギャル全盛期で、ハイティーンのお姉さんたちが派手なメイクにルーズソックス姿で渋谷の街を闊歩していた。インターネットもまだほとんど普及していない時代で、「センター街を歩くとチーマーにカツアゲされる」「センター街のマクドナルドでポテトをつまんでいる女子高生は援助交際待ち」などと、根も葉もないウワサを信じていたものだ。コギャルブームの後も、“ガングロ”“ヤマンバ”“キグルミン”など、奇抜なメイクやファッションの流行は続いた。平成不況の折、世間には暗いムードが漂っていたが、渋谷は混沌として、活気にあふれていた。

 明らかに一般ウケ・男ウケしないメイクを、どうして彼女たちは好んでいたのだろうか。『「盛り」の誕生 女の子とテクノロジーが生んだ日本の美意識』(太田出版)は、メディア環境学者の久保友香氏が、地顔や写真に過剰な粉飾を施す現代女子の“盛り”についての考察をまとめた文化史の本だ。90年代半ばの「コギャルとプリクラの誕生」から、「ガラケー時代の盛りブログ」「デカ目加工された新世代プリクラ」「つけまつげの変遷」「カラーコンタクトの諸事情」「現代のスマホによる自撮り」「インスタ映え」「韓流オルチャンメイク」まで、それぞれの当事者にインタビュー取材を行い、“盛り”の誕生から25年の歴史をたどって、不可解な“盛り”の謎に迫っている。

 メイクの流行はテクノロジーの進歩によって変わっていく。「技術が変われば、女の子たちが目指す顔も変わる」「技術が女の子の目指す顔の基準を作っている」と久保氏は語っている。江戸時代以前は、白粉など白い化粧道具で目を細く見せることが目指されていたが、大正時代以降、アイシャドウの輸入により、目を大きく見せる化粧が流行し定着した。70年代、シンセサイザーの登場により、テクノミュージックが流行し、そのままジャンルとして確立したようなものだろうか。デジタル技術環境が発展すれば、極端なデカ目を目指す女の子が増えるのも自然なことなのだ。

 ではなぜ、女の子たちは “盛る”のか。本書では以下のように考察している。

「少し間を置いてから、彼女はこう答えた。「自分らしくあるため」私は驚いた。(中略)自然のままの人間の顔には多様性があるが、人工的に加工した顔は均一化する。「盛り」は自分らしさを消す行為だと考えていた。それなのに、彼女の「盛り」は自分らしさのために行っていると言う。私はその後、何人もの女の子に同じ質問をしたのだが、最終的に出てくるのは「自分らしさ」や「個性」という言葉だった。(略)日本の女の子たちの中には、最初から個性を表現するのではなく、まずは型を「守」り、それができたら「破」って個性を表し、それが真似されたら「離」れて新しい型を作ることができるという「守破離」の美意識がある。2000年代のデカ目にもそれが表れていたのだ。彼女たちが言う「個性」とは、最初から表す個性ではなく、コミュニティで共有するデカ目という「型」を守った上で表す個性。絶対的な個性ではなく、相対的な個性だったのだ」(本書P203-210)

 久保氏は、“盛り”が形成する女の子のコミュニティを、より重要視して語っている。個人主義の西洋では「コミュニティで作る個性」という概念がなかったが、インスタグラムなどSNSの普及により、コミュニティ主義に変化しているという。95年ごろからプリクラコミュニティを形成していた日本の女の子たちは、かなり先進的だったのだ。この“盛り”コミュニティの変遷についても、時代を追って詳しく述べられているので、興味がある方はぜひ読んでみてほしい。

 本書が他の社会学的アプローチの本と一線を画すのは、「女子がデカ目を目指すのは、日本人の西洋コンプレックスに起因している」などといった説教くさい論調と無縁な点にある。久保氏は女の子の“盛り”に概して肯定的で、“盛り”を楽しむ彼女たちの生き方を応援している。氏は最終章「オルチャン盛り」の項を次のように締めくくっている。、

「竹島? 私たちがオルチャンメイクをすることと、領土の話と、なんの関係があるの?」(本書P336)

 かつてシンディ・ローパーは「Girls just wanna have fun(女の子は楽しみたいだけ)」で鮮烈なデビューを果たし、日本のガールズバンド・プリンセスプリンセスは「好きな服を着てるだけ 悪いことしてないよ」(Diamonds)と歌い、大ヒットを記録した。女の子たちの生を謳歌するパワーに、今さらながら我々男性も見習うべきところがあるのではないだろうか。楽しむことに、国境も国籍も関係ないのだ。
(文=平野遼)

●久保友香(くぼ・ゆか)
1978年、東京都生まれ。2000年、慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科卒業。2006年、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。博士(環境学)。専門は、メディア環境学。東京大学先端科学技術研究センター特任助教、東京工科大学メディア学部講師、東京大学大学院情報理工学系研究科特任研究員など歴任。日本の視覚文化の工学的な分析や、シンデレラテクノロジーの研究に従事。2008年「3DCGによる浮世絵構図への変換法」でFIT船井シストペーパー賞受賞。2015年「シンデレラテクノロジー」のための、自撮り画像解析による、女性間視覚コミュニケーションの解明」が総務省による独創的な人向け特別枠「異能(Inno) vation」プログラムに採択。

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幻冬舎・見城徹社長、“出版界のご法度”実売数さらしで「#幻冬舎」運動が始まる!?

 作家の津原泰水氏が、幻冬舎のベストセラー『日本国紀』(著・百田尚樹)の無断盗用について指摘したところ、同社から刊行予定だった文庫本の出版が取りやめになったと訴えている問題。幻冬舎側は「文庫化を一方的に中止した事実はない」と主張するも、津原氏は自身のTwitterで、同社の担当編集者から送られたという「(文庫化は)諦めざるを得ない」などと書かれたメールの画像を公開。泥沼化している。

 これに対し、幻冬舎の社長・見城徹氏が16日、反撃とばかりにTwitterに投稿した文面が物議を醸している(現在は削除)。

「津原泰水さんの幻冬舎での1冊目。僕は出版を躊躇いましたが担当者の熱い想いに負けてOKを出しました。初版5000部、実売1000部も行きませんでした。2冊目が今回の本で僕や営業局の反対を押し切ってまたもや担当者が頑張りました。実売1800でしたが、担当者の心意気に賭けて文庫化も決断しました」

 出版界のご法度ともいえる“実売さらし”に対し、内田樹氏、高橋源一郎氏、平野啓一郎氏、藤井太洋氏、町山智浩氏をはじめ、万城目学氏、住野よる氏といった、幻冬舎と付き合いのある作家たちからも「やりすぎだ」「見るに堪えない」といった非難の声が多数寄せられている。

 反響の大きさに、見城氏もさすがにヤバいと思ったのか、17日昼頃、問題のツイートを削除。「編集担当者がどれだけの情熱で会社を説得し、出版に漕ぎ着けているかということをわかっていただきたく実売部数をツイートしましたが、本来書くべきことではなかったと反省しています」と釈明している。

「そもそも実売数は社内秘で、著者にまで知らされることはほとんどない。売れていれば問題ありませんが、売れていない場合、著者が他の出版社で本を出す際の営業妨害になりますからね。それに書籍は著者、編集、営業、広報が一丸となって売るもので、今回の見城さんの行為は、自社の力不足を世の中にさらしているのと変わりない。特に営業部員は赤っ恥でしょう。企業倫理も疑われますよ」(書籍編集者)

 そんな中、見城氏、並びに幻冬舎から過去、被害に遭ったという作家たちも声を上げている。

 花村萬月氏は、見城氏がまだ角川書店の編集者だったころ、「小説は最後しか読まない。それでヒットが出せる」などと放言していたと暴露。また、小野美由紀氏は、デビュー作『傷口から人生。メンヘラが就活して失敗したら生きるのが楽しくなった』の執筆前、印税は10%と明言されていたのにもかかわらず、校了直前に「企画会議に8%で通したから8%でいい?」と言われ、出版できなくなることを恐れて、この条件を泣く泣くのんだことを告発。さらに、渡辺浩弐氏は『ブラックアウト』の印税が2%だったという。

 作家と作品にリスペクトをもたない見城氏の実態が露呈した、今回の騒動。もちろん、幻冬舎には良識ある編集者も多いが、今後、こういった「#幻冬舎」運動は加速していくとみられ、作家離れや不買運動に発展する可能性も否定できない。

 果たして見城氏は、この騒動をどう収めるのか――。今後の動向に注目だ。

Microsoft Storeでの販売終了で、がぜん現実味を帯びる電子書籍の脆弱性

 4月にマイクロソフトが突如発表した「Microsoft Store」での販売終了が、電子書籍の危うさを実感させている。

 近年、紙に変わって雑誌や書籍を読む手段として普及してきている電子書籍。多数の電子書籍販売サイトが乱立し、さまざまなジャンルの作品が販売されている。

「すでにマンガ……とりわけエロに関しては電子が紙の売り上げを逆転しています。マンガも電子配信が主流になりつつあります。これによってユーザーも慣れてきたのか、最近では文字の本も電子版の売り上げが伸びてきています。一時は、文字を読むには紙でなくてはならないという意見もリアリティがありましたが、次第にそれも過去の話になっていますね」(編集者)

 だが、電子書籍には大きな問題がある。それは、販売されているのはあくまでデータを閲覧する権利だけであること。紙の本のように人にあげるとか、古本屋に売ることもできない。そして、その電子書籍のサービスがなくなれば、消失してしまうのだ。

 Microsoft Storeの場合、終了にあたって購入分の全額返金を打ち出している。けれども、すべての電子書籍サイトが、そういった措置をとれるかはわからない。

「これまでのところ、サービスを止めるにあたってなんら補填がなくても騒動になるということは起きた事例がありません。とはいえ、あくまで私企業の行っている事業ですから、突然なくなることも大いにあり得る。そこは、これからも電子書籍のネックになり続けるでしょう」(同)

 先日、eBookJapanがYahoo!と統合し、サービスを一新した際には、使い勝手が悪くなったとユーザーからフルボッコにされた。結局、電子書籍の問題点は、すでに本を購入しているのに、運営の論理に振り回されることだろう。

 これは電子書籍がどんなに普及しても消えない問題。そう考えると、紙の本が消え去るなんてことはなさそうだな。
(文=是枝了以)

窮地を救う秘訣は“かわいげ”にある!? 『「かわいげ」は人生を切りひらく最強の武器になる』

 3月12日夜、電気グルーヴ・ピエール瀧氏がコカインを使用したとして麻薬及び向精神薬取締法違反容疑で逮捕された。瀧氏が出演するドラマは代役が立てられ、電気グルーヴの作品は所属レーベルであるソニー・ミュージックが自主回収するなど、大きな騒動となった。憔悴した面持ちで警察に連行される瀧氏の姿が報道されたが、相棒である石野卓球氏の“かわいげのある”対応で、グループの決定的なイメージダウンは避けられたといっていい。ユーモアあふれる卓球氏の対応に、周囲からはむしろ称賛する声さえ上がっている。

 かわいげさえあれば、多少の失敗は大目に見てもらえる。かわいげは窮地を救ってくれる特殊能力だ。『「かわいげ」は人生を切りひらく最強の武器になる』(CCCメディアハウス)は、フリーライター・編集者の久田将義氏が、“かわいげ”の効能について記した本だ。

 久田氏の言う“かわいげ”とは一体どんなものなのだろう。氏は冒頭で次のように語っている。

「本書の『かわいげ』は女性のそれを指すものではない。また、眉目秀麗な若い男性、たとえば男性アイドルに対するそれでもない。そういうかわいらしさ以外の『かわいげ』について主に考えたいのである。(中略)『Aさんには怒れない』、『Bさんには怒れる』という具合に周囲にいる人たちをこっそりとチェックしてみて欲しい。なぜAさんのことは許せてしまうのか? 人間には科学では説明できない不思議な力があるといわれる。『第六感』『直感』『虫の知らせ』といった類の能力だ。最近私はそこにもう一つ、『かわいげ』をつけ足したいのである」(本書P2-3)

 本書では、日常のかわいげ仕草を紹介し、かわいげのある著名人の名言を分析・列挙している。数あるかわいげ名言の中でも、特に有名なのが、勝新太郎の「気づいたら(パンツの中に)入ってた。もうパンツを穿かないようにする」だろう。瀧氏と同じく、違法薬物の所持で現行犯逮捕された時の発言だが、自身の豪放磊落なキャラクターがすでに完成していたこともあって、世間にはなんとなく寛容に受け止められた。平成2年って、いい時代だったのね。

 他にも、バルセロナ五輪男子マラソン日本代表・谷口浩美の「途中で、こけちゃいました」なども印象深い。優勝候補と目され、国民の期待を一身に背負った谷口選手であったが、言い訳もせずに素直に発せられたこのひと言に、世間の人々は喝采を送った。少し間の抜けた高い声が今でも耳に残っているのは、谷口選手がかわいげのトップランナーだったからだろう。

 勝新しかり、谷口選手しかり、かわいげはある種、天性のものだといえる。では、かわいげのない人はどうしたらいいのか。かわいげがなければ「仕事の精度を上げる」「スルー力を身につける」「キレない、怒らない」「マウンティングをしない」など、本書では10項目にわたり、かわいげのなさをカバーする術が記されている。「謝罪するときは思い切って相手の懐に飛び込む」かわいげがなくとも“先制奇襲攻撃”で謝ることで、驚きが怒りを上回り、相手の怒りが薄れるのだと久田氏は語っている。謝るのはタダなので、かわいげのない人は、先手を打ってどんどん謝ってしまおう。

 逮捕から2カ月近くがたっても、まだまだ騒ぎが収まりそうにない電気グルーヴ。今後もワイドショーやツイッターなどで追及が続くだろう。そもそも電気グルーヴってこんなに注目度の高いグループだったか疑問なのだが、これからどんな“かわいげ”でピンチを回避していくのか。瀧氏、卓球氏の“かわいげ”力に注目したい。

 しかし、選挙前になるとしばしば有名人が逮捕されるのはどういうわけだろう……。
(文=平野遼)

■久田将義(ひさだ・まさよし)
編集者。1967年、東京生まれ。法政大学卒。三才ブックス、ワニマガジン社、ミリオン出版、選択出版、朝日新聞社(現・朝日新聞出版)を経て、ニュースサイト「TABLO」編集長。著書に「僕たちの時代』(毎日新聞社、青木理 共著)、『トラブルなう」「原発アウトロー青春白書』(ミリオン出版)、『関東連合』(ちくま新書)、『生身の暴力論』(講談社現代新書)などがある。
TABLO: http://tablo.jp/

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窮地を救う秘訣は“かわいげ”にある!? 『「かわいげ」は人生を切りひらく最強の武器になる』

 3月12日夜、電気グルーヴ・ピエール瀧氏がコカインを使用したとして麻薬及び向精神薬取締法違反容疑で逮捕された。瀧氏が出演するドラマは代役が立てられ、電気グルーヴの作品は所属レーベルであるソニー・ミュージックが自主回収するなど、大きな騒動となった。憔悴した面持ちで警察に連行される瀧氏の姿が報道されたが、相棒である石野卓球氏の“かわいげのある”対応で、グループの決定的なイメージダウンは避けられたといっていい。ユーモアあふれる卓球氏の対応に、周囲からはむしろ称賛する声さえ上がっている。

 かわいげさえあれば、多少の失敗は大目に見てもらえる。かわいげは窮地を救ってくれる特殊能力だ。『「かわいげ」は人生を切りひらく最強の武器になる』(CCCメディアハウス)は、フリーライター・編集者の久田将義氏が、“かわいげ”の効能について記した本だ。

 久田氏の言う“かわいげ”とは一体どんなものなのだろう。氏は冒頭で次のように語っている。

「本書の『かわいげ』は女性のそれを指すものではない。また、眉目秀麗な若い男性、たとえば男性アイドルに対するそれでもない。そういうかわいらしさ以外の『かわいげ』について主に考えたいのである。(中略)『Aさんには怒れない』、『Bさんには怒れる』という具合に周囲にいる人たちをこっそりとチェックしてみて欲しい。なぜAさんのことは許せてしまうのか? 人間には科学では説明できない不思議な力があるといわれる。『第六感』『直感』『虫の知らせ』といった類の能力だ。最近私はそこにもう一つ、『かわいげ』をつけ足したいのである」(本書P2-3)

 本書では、日常のかわいげ仕草を紹介し、かわいげのある著名人の名言を分析・列挙している。数あるかわいげ名言の中でも、特に有名なのが、勝新太郎の「気づいたら(パンツの中に)入ってた。もうパンツを穿かないようにする」だろう。瀧氏と同じく、違法薬物の所持で現行犯逮捕された時の発言だが、自身の豪放磊落なキャラクターがすでに完成していたこともあって、世間にはなんとなく寛容に受け止められた。平成2年って、いい時代だったのね。

 他にも、バルセロナ五輪男子マラソン日本代表・谷口浩美の「途中で、こけちゃいました」なども印象深い。優勝候補と目され、国民の期待を一身に背負った谷口選手であったが、言い訳もせずに素直に発せられたこのひと言に、世間の人々は喝采を送った。少し間の抜けた高い声が今でも耳に残っているのは、谷口選手がかわいげのトップランナーだったからだろう。

 勝新しかり、谷口選手しかり、かわいげはある種、天性のものだといえる。では、かわいげのない人はどうしたらいいのか。かわいげがなければ「仕事の精度を上げる」「スルー力を身につける」「キレない、怒らない」「マウンティングをしない」など、本書では10項目にわたり、かわいげのなさをカバーする術が記されている。「謝罪するときは思い切って相手の懐に飛び込む」かわいげがなくとも“先制奇襲攻撃”で謝ることで、驚きが怒りを上回り、相手の怒りが薄れるのだと久田氏は語っている。謝るのはタダなので、かわいげのない人は、先手を打ってどんどん謝ってしまおう。

 逮捕から2カ月近くがたっても、まだまだ騒ぎが収まりそうにない電気グルーヴ。今後もワイドショーやツイッターなどで追及が続くだろう。そもそも電気グルーヴってこんなに注目度の高いグループだったか疑問なのだが、これからどんな“かわいげ”でピンチを回避していくのか。瀧氏、卓球氏の“かわいげ”力に注目したい。

 しかし、選挙前になるとしばしば有名人が逮捕されるのはどういうわけだろう……。
(文=平野遼)

■久田将義(ひさだ・まさよし)
編集者。1967年、東京生まれ。法政大学卒。三才ブックス、ワニマガジン社、ミリオン出版、選択出版、朝日新聞社(現・朝日新聞出版)を経て、ニュースサイト「TABLO」編集長。著書に「僕たちの時代』(毎日新聞社、青木理 共著)、『トラブルなう」「原発アウトロー青春白書』(ミリオン出版)、『関東連合』(ちくま新書)、『生身の暴力論』(講談社現代新書)などがある。
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業田良家・石塚真一・浅野いにおが絶賛した気鋭の漫画家が描く「世界との出会い方」

 自転車にまたがり、踏み切りが開くのを待つ数分間、ふと目の前の景色がとんでもないと気づくことがある。踏み切りのランプの赤い点滅、発光する矢印、風でしなる黒と黄色のバー、電車が通り過ぎる時に見え隠れする向こう側で待つ車や自転車のライト、遠くに見えるアパートの窓から漏れる光。電車が通り過ぎる音、風の音、話し声。そして、そこで待つたくさんの人々。踏切が開くのを待つ時に目にしたその光景は、異なるさまざまな要素が重なってひとつになっていた。その時、私は、世界と出会ったと思った。いま目の前には、たしかな実感としての世界がある。ありふれた景色の中で世界と出会ったのだ。グッと視界が広がり、霧が晴れたかのようだった。

 世界との出会い方は、さまざまだ。それは、風景ではなく人でもいい。光用千春『コスモス』(イースト・プレス)にこんなセリフがある。

<やだなあお父さん音楽聴くとか歌うとか

やだなあそんなのお父さんは「お父さん」でしょ

父親である前に一人の人間であるなんて

好きなもの嫌いなものがあるなんて思いたくない>

『コスモス』は、母親が家を出て行くところから物語が始まり、その後の小学生の娘と父親の生活が描かれる。娘の花は、父親と2人で生活していくことによって、それまで見えていた父親とは別の父親の顔を垣間見るようになる。父親という普遍化された存在ではなく、もっと多面的で一人の人間だと理解していく。父親だけでなく、学校の友人たちの自分とは異なる考え方にも触れるようになる。どうしたって分かり合えない人がいることも知る。それは、世界と出会うことだ。多様な人がいて、その中にもまた多様な考えがある。そんな異なるものが重なり合っていることを知りながら私たちは成長していく。世界を受け入れていく。こんなセリフもある。

<大人だって間違える>

 子どもからすると、大人がすべて正しいように見えることがある。けれども、大人にだって悩みがあり、苦しみがある。それはもちろん、子どもも同じだ。大人も子どもも、一人一人が抱えるものは別個に複雑なのだ。『コスモス』という作品は、花という主人公を中心に据えながらも、非常にフラットなまなざしで一人一人の気持ちを掬い上げ、この世界を捉えている。

 

 世界との出会いは、風景でも人でもなく、詩であることもある。斉藤倫『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』(福音書店)は、ある男の子とおじさんの対話の物語だ。その中で、いくつもの詩が引用される。詩の紹介本という体裁をとりながらも、子どもが詩や言葉と出会い、世界と出会っていく素晴らしい作品となっている。リフレインや比喩、オノマトペなど詩の技術も柔らかく分かりやすく提示される。例えば、比喩についてはこう語られる。

「ことばは、げんじつでは、むすびつかないものを、むすびつけることができる。それを、ひゆっていうね」

「でも、なんのために、そんなことする?」

「なんていうんだろう。そのままだと、きえていってしまうものを、すくいだすというか」

 現実では結びつかない言葉と言葉を結びつける比喩によって、消えてしまうかもしれないものに新たな意味が生まれ、新たな世界を立ち上げることができる。そして、その新たな景色と出会うことができる。

 ほかにも、オノマトペの説明では萩原朔太郎の「猫」という詩が引用され、「おぎやあ、おぎやあ、おぎやあ」という猫の鳴き声を読んだ男の子は、それを怖いと言う。おじさんはこう語る。

「怖いのは、たぶん、ふだんのことばが、生まれるまえの、なまのげんじつに、向かい合ってしまうから」

 子どもはこう答える。

「ものや、いきものが、とつぜん、話してきたかんじがする。にんげんじゃない、ことばで、こわいけど、そうおもうと、楽しい」

 言葉になる前の、意味になる前の音に出会うことのできる喜びは、詩の醍醐味だ。意味が分からなくたっていい、言葉になる以前にだって世界は存在し、詩によって私たちはそんな世界と出会うことができる。

『コスモス』も『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』も、子どもが中心にいるわけだが、大人のまなざしもしっかりと描かれる。子どもと出会うことによって、大人もまた世界と出会い直すのだ。私たちの世界は複雑で、分からないことばかりだ。けれども、だからこそ、何度でも世界と出会い、その喜びも悲しみも味わいことができるのだ。

 

●ミワリョウスケ

1994年生まれ。生活のこと、面白かった映画や演劇、ラジオなどについてブログを書いている。日記をまとめた本の販売も行っている。好きな食べ物はうなぎ。<http://miwa0524.hatenablog.com/

毒舌婚活応援ブログ『結婚物語。』”中の人”に聞く「35歳過ぎた男は結婚できない説」の真偽

「ブログなんてもう古い、時代はnoteだ――」

 そんな声がにわかに高まりだした2018年下半期、突如ネット上に現れた婚活応援ブログが話題を読んでいる。テキストサイト時代の名残を色濃く感じさせるスタイルで、随所にオタクネタや漫画・アニメのパロディを挟みつつ、婚活市場の残酷な現実と実践的な恋愛テクニックを切れ味鋭い文章でハイテンションにつづるブログの主は、兵庫県高砂市にある結婚相談所「結婚物語。」の仲人Tさん(30代、女性)だ。

 悩める婚活人はもとより一般人からも支持を集め、昨年末にはアメブロで総合1位を獲得。さらに、今月上旬にはブログからよりすぐりのエピソードを抜粋した『夢を見続けておわる人、妥協を余儀なくされる人、「最高の相手」を手に入れる人。“私”がプロポーズされない5つの理由』(大和出版)も上梓されるなど、その勢いはとどまるところを知らない。

「平成最後のブログの女王」とも称されるTさんに、ブログの裏話と最新婚活事情についてメールインタビューを行った。

***

――書籍化おめでとうございます! 特にこだわったポイントなどありますか?

「まったくありません! とにかく時間がなくて、私の代わりに睡眠時間を返上して頑張ってくださった担当編集さんには頭が上がりません」

――1日100以上の婚活ブログを読むのが日課で、めぼしい婚活本もほぼ読み倒すなど、お仕事とはいえ、かなり婚活マニアのようにもお見受けしますが、ブログを書く上で参考にしていることは?

「山ほどあります。もうパクリまくっています。むしろ、ほかの人が筋道立てて書いてくださっている理論を、私がオタク要素を振りかけて出しているだけだと思っています!」

――そもそも、ブログを書き始めたきかっけは?

「始めは当社の代表が書いていたんですが、文章が堅すぎて、あんまり面白くなくて……。代表の恋愛テクニックは本当に素晴らしいので、それをもっとたくさんの人に伝えたいなと思ったのがきっかけです」

――切れ味鋭いツッコミをはじめ、サブカル臭漂う抜群の文章センスは、どこで培われたものなのでしょうか?

「ネットで文章を書くのは初めてなので、センスがあるだなんて……本当に恐れ多いです! ただ、本を読むのはすごく好きで、年400~600冊くらいは読んでいるので、そのおかげかもしれませんね」

――会員さんの実話を元にした「親が毒親だと婚活はガチでキツイ」や、「年増の美人はモテない!若いブスの方がいい!説」「相談所での交際中のHはアリかなしか」は特に大きな反響を呼びました。ネタにした会員さんからクレームが来たりすることは……?

「ブログに関しては一切ありません。年収や年齢はそのままですが、身バレを防ぐために職業や住所は変えたり、“そのまま書いていいよ”と言われても、少しはフェイクを入れています。当社の代表は器がデカいので、社内からストップがかかることもありません」

――一部では「平成最後のブログの女王」などと呼ばれているみたいですが……。

「恐れ多いの一言です!」

 

――ブログが爆発的な人気となったことで、入会希望者も増えたんじゃないですか?

「相当増えましたね。以前は月平均数名程度の入会でしたが、ブログを始めて以降、100名近く入会する月もありました。最近の入会者はほぼ私のブログを見て入ってきていただいた方なので、どの会員様からメールが来ても渡しが返答しています。ただ増えすぎてフォローができないため、現在は意図的に入会数を制限していますが……」

――反響が大きいブログだけに、時に批判的な意見が寄せられることもあるかと思いますが、どのようにメンタルを維持していますか?

「元TBSの宇垣美里アナの教えに従い、『私はマイメロだよ~☆ 難しいことはよくわかんないしイチゴ食べたいでーす』と唱えるようにしています」

――恋愛本といえば、最近ではデヴィ夫人の『選ばれる女におなりなさい』(講談社)が人気を集めていますが、ジェンダーの問題がデリケートになっている昨今、「男に気に入られる女性になる」という教えには賛否両論あります。仲人としては、どう思われますか?

「『男受けする服を着て』『男性の話を笑顔で否定せず聞いて』というと、『異性に気に入られるように、本来の自分を抑えて媚びろ』と取る方もいらっしゃいます。でも、そうではないんです。相手を喜ばせてあげたい、どうやったら相手が喜ぶのか工夫してあげたい。その気持ちが、服装であったり、笑顔に表れると私は思っています。男だから、女だからではなく、人として、目の前にいる相手をどうやったら笑顔にできるか? と考えられる人になってほしい、っていうか……

ジェンダーとかうるっせえーーーーー!!!

だいたいお前らはなんや! かわいげのない強い女を認めろって言うたその口で、気弱な童貞の男をバカにするやないか! ジェンダージェンダー言うなら、男の多様性も認めろや!

ほんでなんや! 会計だけはしっかり男に払わすんかい! 男女平等にしたるから、お前も財布を出せや!

ジェンダー言うてるわりに、レストラン探すのも会話を盛り上げるのも全部男なんかい!

自分は『女らしさを押し付けないで』とか言うくせに『男はおごって当然、男はリードするもの』って、一回、東京港に沈んでこいや!!

ってます☆」

――Tさん節炸裂(笑)。ブログを拝見する限り、Tさんはもとより『結婚物語。』の所長も人情に厚い方が多いようですが、御社の特徴と、いい相談所、悪い相談所の見分け方を教えてください。

「当社の特徴は、きめ細かなフォローと、的確なアドバイスでしょうか? 個人的には悪い相談所はないと思っていて、その方に合う相談所と合わない相談所があるのでは? 自分はアドバイスが欲しいタイプなのか、好き勝手にやりたいタイプなのか、たくさんの異性を見て決めたいのか、少人数と深く付き合って決めたいのか。いい人が出てきたら結婚したいのか、半年以内に絶対に結婚したいのか――。自分の求めるものをきちんと整理し、相談に行った時に違和感を覚えたところには入会せず、話しやすいアドバイザーがいるところを選べば、自分に合った相談所に入れると思います。あとは迷ったら結婚相談所ネットワーク『日本結婚相談所連』(IBJ)に加盟しているところをお勧めします」

――今回の書籍はアラフォー女性向けですが、一方、35歳を過ぎた独身男性はこだわりが強く、また金銭的にも余裕があってひとりの生活を満喫しているので、結婚が難しい、といわれがちです。

「結婚は、してもしなくても、どちらでもいいと思います。ただ、子どもが欲しいとか、いつかは結婚したいと思っているなら、早く始めたほうが絶対にいいです。20代の女性が相手にしてくれるのは35歳までだし、35歳を過ぎると、子どもが大学を卒業するまでに定年になってしまう。女性たちもそれを熟知しているので、男性は35歳を過ぎると1年ごとに婚活市場でのモテ度はガンガン減り、40歳を過ぎると、20代どころか30代前半の女子にすら、まったく相手にされません。

 特に、親の介護問題がある方は相当大変です。10年以上連れ添った夫婦なら、同居で介護か! よし! やったるか! と思えますが、最初から同居と介護が目に見えている男性を選ぶ女性はいません。あなたが素敵な人でも、年を取れば取るほど、素敵な相手との結婚は難しくなります」

――確かに……。

「婚活市場が男性余りだった10年前と違い、今は7対3で女性が余っています。この時代では、男性が多いアプリで活動するより、女性が多い相談所に入るほうが、間違いなく若くてかわいい女性に出会えます。そして重要なのは、あなた自身も、今が一番若いということ! 結婚願望がある方は、ぜひ早めにお近くの相談所へ! 当社は入会金が高めですが、安いところも結構ありますよ」

――一般的に、相談所の会員男性の成婚退会の平均期間は1年~1年半、女性は1年半~2年といわれていますが、長年登録しているのにいい出会いがなく、辞めたいけどこれまで払ってきた金額を考えるとやめられない……という人もいますね。

「そうですね……そういう方は、一度自分を見つめ直したほうがいいのでは? 心の中に、結婚したくない理由があるはずです。結婚したら何かができなくなる、イヤイヤ何かをしなければならない。両親のように不仲になるのではないか――。心の奥底で結婚したくないと思っていると、相手の欠点を見つけ、結婚しない理由を探し続けてしまいます。結婚して幸せな人の話を聞いたりして、自分が何を恐れているのかを明確にしてください。そこに答えがあります。あとは、『いい人には会えなくて、変な人ばかり申し込んで来る!って言うやつ全員正座しろ』を読んでください☆」

(取材・文=編集部)

●結婚物語。ブログ<https://ameblo.jp/kekkon-monogatari/

北極点目指して、たったひとりで……日本で唯一の北極冒険家・荻田泰永の冒険録『考える脚』

 北極点を目指して、たったひとりで歩く。しかも、食料、テント、必要な道具など、約100kgの荷物をソリに乗せて。

 国内外で注目を集め、『クレイジージャーニー』(TBS系)でもおなじみの北極冒険家・荻田泰永氏が『考える脚 北極冒険家が考える、リスクとカネと歩くこと』(KADOKAWA)を上梓した。本書は、2度にわたる「北極点無補給単独徒歩」への挑戦をはじめ、「カナダ〜グリーンランドにある、最北端の集落をつないだ単独徒行」、そして、2018年に日本人として初成功した「南極点無補給単独徒歩」の三大冒険録だ。

 中でも、やはり「北極点無補給単独徒歩」の記録がとにかく濃い。初挑戦は12年のこと。北極での冒険を始めて12年、何度も徒歩遠征を重ねてからの挑戦だった。しかし、結果は惨敗だった。

 北極海の揺れ動く氷の上を歩くので、いつ死んでもおかしくない。言葉で言い尽くせないほどの恐怖感があった。

「氷上に張ったテントで寝ていると、遠くで海氷が動いた重低音が響き、その音で目を覚ます。(中略)爆音が恐ろしく、安心して寝てもいられない。ドドドド、グググゥ、バキバキ、ガラガラ……寝袋の中で身を起こし、まさか自分のテントが海氷破壊に巻き込まれないかという恐怖心を抑えながら、祈るような気持ちで周囲の音が収まるのをただ待つ」(本文より) 

 冒険の第一歩目を踏んだのは、22歳のとき。特に目的意識も持たずに通っていた大学に面白みを感じられず、中退。テレビに登場していた、北極を横断する冒険家・大場満郎氏の存在に魅了され、初海外でいきなり北極を訪れた。

 それ以来、荻田氏は30代前半まで、日本にいるときはいくつものアルバイトを掛け持ちし、100~200万円たまったら北極への徒歩冒険に出るという日々を繰り返してきた。

 2010年頃には北極点を狙い始める。ところが、北極点ともなると、スタート地点までも飛行機のチャーターが必要になり、予算が1,000~2,000万円と桁違いにはね上がってしまう。自分ひとりの稼ぎでは、どうにもならない。

 スポンサーを集めたいが、一度も就職したことがなく、知っているのはアルバイトや北極の世界だけ。どんな企業の誰にどうやって話をすればいいのかわからない。その結果、とった行動が「よし、まずは会社へ行ってみよう」と、いきなり飛び込み営業を始めることだった。

「すいません、北極を歩いて冒険家している、荻田という者なのですが、協力していただける企業を探しています。どなたかお話を聞いていただけないでしょうか?」

 そんなふうに。

 何かに挑戦している人に対して、「あんなことやって、なんの意味があるんだ?」とか、「自己満足でしかない」と陰口を叩く人がいる。けれど、世の中はそんな世知辛いわけではなく、スポンサーになってくれている大きな企業の担当者の中には、まるで、自分ごととして応援してくれる人もいる。

  ある担当者は、荻田氏にこんな言葉をかけた。

「私もこれまで、いろいろな広告のキャンペーン企画でたくさんチャレンジしてきたので、できないことに挑戦する苦労は理解しているつもりですし、私もその中でたくさんの人に救われました。そんな意味でも、新しいチャレンジをしたいし、一緒にやりたいなと思いました。でも、最後は荻田さんの人間力に惹かれた訳ですよ!」(本文より)

 あとがきで、荻田氏は「私にできることは、若者たちに広い世界へ飛び出るきっかけをつくることぐらいだ」と語っている。今年4月7日からは、素人の若者たちを連れて、カナダ北極圏・バフィン島をおのおの1台のソリを引き、600km踏破に挑んでいる。何かをやりたいけれど、持て余している――。そんな渇望感を抱えた若い人に、ぜひ読んでもらいたい1冊だ。

(文=上浦未来)

●おぎた・やすなが

北極冒険家として世界有数のキャリアを持ち、国内外のメディアからも注目される。カナダ北極圏やグリーンランド、北極海を中心に、主に単独徒歩による冒険行を実施。2000年より17年までの18年間に15回の北極行を経験し、北極圏各地を9,000km以上移動する。16年、カナダ最北端の村グリスフィヨルド〜グリーンランド最北のシオラパルクをつなぐ1,000kmの単独徒行(世界初踏破)。18年1月、日本人初の南極点無補給単独徒歩到達に成功する。第22回植村直己冒険賞受賞。日本国内では夏休みに小学生たちと160kmを踏破する「100milesAdventure」を2012年より主宰。北極で学んだ経験を、旅を通して子供たちに伝える。海洋研究開発機構、国立極地研究所、大学等の研究者とも交流を持ち、共同研究も実施。北極にまつわる多方面で活動中。著書に『北極男』(講談社)。

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【試し読みあり】関西の人気飲食店が59店登場! 失恋×グルメで読ませる新たなグルメコミックガイド

 3月に刊行されたコミック『失恋めし 京都・奈良・大阪・神戸編』(KADOKAWA)には、59の失恋物語と、そこに寄り添うメニューが描かれている。作者は、TOCANAで魔女修行漫画「かげのしょ」を連載中の木丸みさきさん。第23回コミックエッセイプチ大賞審査員特別賞「書店員賞」を受賞した大衆演劇漫画『わたしの舞台は舞台裏~大衆演劇裏方日記』(KADOKAWA)でデビューして以降、幅広いジャンルを手がけてきた。

 新刊『失恋めし』は「関西ウォーカー」(KADOKAWA)の連載をまとめたもの。大阪、京都、奈良、兵庫・神戸と、関西に実在する飲食店を舞台に、老若男女、さまざまな世代の失恋模様が描かれている。

「執筆の依頼をいただいた際に、編集さんから『ヤケ食いの話はなしで』と言われていたこともあって、毎回失恋と食でどう話をひねるか、かなり悩みました。単に思い出の味に浸る話ではワンパターンになってしまうし、暗い話にもしたくなかった。意外性のある話になるように展開を考えるのは難しかったです」(木丸みさきさん、以下同)

 さらに、実在する店を舞台にすることで、こんな悩みもあったそう。

「どこも関西では人気の、美味しい飲食店ばっかりだったんです。だから、その店で食事をしたことがきっかけで別れるとか、お店の印象が悪くなるような話にはしたくなくて。あ、もちろん人気店じゃなかったらいいってわけではないでんすけど(苦笑)。ただ、そもそも『失恋』というマイナスな状態から話が始まるので、毎回どう楽しいオチにするか、そこにどう共感してもらうか、しかもそれを2ページのショートストーリーでどうまとめるか、頭を使いました」

 中には、木丸さん自身の体験談なども盛り込まれているのだろうか。

「エッセンスとしては、実体験を参考にした部分もありました。例えば大阪のハーブカフェ『SORA』さんの話は、『初めてのお店にひとりで入る』っていう主人公の女の子の不安が、自分の体験からきているものです。知らないお店に入ることって、不安と出会いの繰り返しじゃないですか。その気持ちを恋愛に絡めて描きたくて。

 それから、大阪の熱帯魚バー『近藤熱帯魚店』さんを舞台にしたのは、彼氏と別れてから化粧が濃くなった、でも実はそのほうが本来の自分らしいっていう女の子の話。男性って、奇抜な髪型とか派手な服装が嫌いな人もけっこういるじゃないですか。私も、彼氏が嫌がるような派手な服とか髪色が好きだったことがあって、付き合ってる間は彼の好みに合わせておとなしくしてましたけど、別れたてまた自由にできると思ったら開放感があった、っていう体験をしたことがあったんです」

 紹介されている飲食店59店には、すべて店舗情報やMAPが載っているのも、同書の魅力になっている。連載時には60店以上の飲食店を取材したというが、印象に残った店はあるのだろうか。

「どこも思い出深いですが、個人的には奈良の『茶粥ののんのん』さんが印象的でした。江戸時代の茅葺きをそのまま使っていて、お店のある建物自体が文化財としても重要なものなんです。取材時は真夏で、夏場に庭を眺めながらアツアツの茶粥を食べるのも、なんだか風情があって格別でした。しかもこのお店ではストーリーにも関係する、ちょっとラッキーな出会いもあったんですよ。誰に出会ったかは、秘密なんですけどね(笑)」

★試し読みは次ページにも!

 関西というと、大阪、京都、兵庫、奈良と、それぞれの県民性の違いが面白おかしく取り上げられることも少なくない。これだけの店舗数を取材すると、飲食店にも、地域性を感じることはあったのだろうか。

「改めて読み返してみて気づいたことですけが、例えば大阪は商店街や繁華街など、賑やかな場所にあるお店を多く紹介していて、どこも安くて美味しくて気取ってなかった。京都や奈良はやっぱり和食が多くて、上賀茂神社の横にある今井食堂サバ煮だったり、龍安寺・西源院の湯豆腐だったり、清水寺の冷やし飴だったり、神社仏閣やその土地に所縁のあるお店が多く登場しました。それから神戸は独特な食文化があって、外国と日本の食のミックスが面白かったです。

 そういう背景に引っ張られた部分もあったのか、大阪は下町的な人情話が多くなったし、失恋してもタダでは起きない主人公が多くなりました。京都奈良は神社仏閣や土地にちなんだ話が中心だったし、神戸はその非日常的な感じがにじみ出るようなひねった話が出てきたかなあと」

 そんな関西の文化やさまざまな世代の恋模様を描いた本作について、木丸さんは改めて、「恋愛をしたことがあって、食べることが好きな人ならぜひ手にとってもらえたら」と話す。

「同棲して別れた彼氏より、一緒に飼っていたペットが恋しい! とか、自分はいつも人の失恋話を聞くばっかりだとか、好きになる男が筋肉バカだったり、音楽とか芸術とか趣味に走って『私、あんたの人生に関係ないやん!』ってツッコミたくなるような人を好きになってしまったりとか、とにかく、いろんな方向から失恋の話を切り取ったつもりです。

 同時に、関西に住んでいる人なら、知ってるお店が舞台になっていて楽しんでもらえるでしょうし、そうじゃない方も、グルメガイドとしても面白く読んでいただけるんじゃないかと思います。私自身は失恋したら甘い物に走っちゃうんですけど、この取材を通して、そうじゃないお店もたくさん開拓することができました。お店と料理の雰囲気が伝わるように描いたので、ぜひ、ショートストーリーとあわせて楽しんでください」

 GWに関西旅行を予定している人は、同書を片手に、その店で起こっているかもしれないさまざまな人間模様に思いを馳せながら、旅してみてはいかがだろうか?

■著者プロフィール

●木丸みさき
大阪生まれの大阪育ち、京都府在住。大阪の某大衆演劇場スタッフとして働いた経験をもとに、劇場で出会った役者やお客さんたちとの交流を描いた「わたしの舞台は舞台裏 大衆演劇裏方日記」でマンガ家デビュー。同作は、第23回コミックエッセイプチ大賞で「書店員賞」を受賞。

【試し読みあり】関西の人気飲食店が59店登場! 失恋×グルメで読ませる新たなグルメコミックガイドの画像5

『失恋めし 失恋めし 京都・奈良・大阪・神戸編』(KADOKAWA/1,188円)

 恋が終わった時、あの人を忘れさせてくれたもの、元気をくれたもの、あの味だった! 失恋をテーマに、1つの恋が終わった女性が街で初めて出会う店の味、友人に連れられて食べた懐かしの味など、おいしい食べ物を通じて元気をもらっていく1話完結の失恋×グルメコミック。登場するのは、

・  京都「西源院(龍安寺内)」/心を穏やかにしてくれる精進料理の湯豆腐

・  大阪「美味卯」/「好きなブランド卵で食べる優しい卵かけご飯

・  京都「メゾン・ド・フルージュ」/一年中イチゴが食べられるイチゴ専門店の「イチゴミルフィーユ」

 など、京都・奈良、大阪、兵庫・神戸に実在する59店。

 

元2ちゃんねる管理人ひろゆきが語る、オワコン日本で生き残る方法とは!?『このままだと、日本に未来はないよね。』

 元2ちゃんねる管理人・ひろゆき氏といえば、毀誉褒貶の激しい人物として知られている。1999年に巨大掲示板2ちゃんねるを開設して以来、独特のセンスで2ちゃんねるを運営・牽引し、現代日本のネット文化の礎を築いたエポックメイキングな存在だ。その一方、幾度となく訴訟に見舞われ、名誉毀損等の裁判を繰り返し、賠償金の請求にも「支払わなければ死刑になるのなら支払うが、支払わなくてもどうということはないので支払わない」と法廷無視の姿勢を貫いて、現在、フランスへ移住して暮らしている。良くも悪くも型破りで、率直な人物だといえるだろう。

 そんなひろゆき氏がこのたび上梓したのが、『このままだと、日本に未来はないよね。』(洋泉社)。実業家であるひろゆき氏が、お金も人材も集まらない“オワコン日本”の行く末を予測し、その中で幸せに生きるための方法を記した本だ。話題は政治、経済、国際情勢、テクノロジーなど多岐にわたり、諸問題をシンプルな言葉でわかりやすく説明している。

 ITの専門家だけあって、特にテクノロジーについての言及が興味深い。AIについての考察は鋭く、多くの紙幅を割いて語っている。

「AIが普及したら、かつて人間がやっていた作業の多くで人間がいらなくなります。(中略)一般の人たちは働かなくてもよくなるという人もいますが、これは誤解です。たとえば、ある会社がAIで儲けた場合、株主や取引先には利益が還元されますが、その会社にかかわっていない大多数の人は、より貧乏になります。AIの導入でクビにした従業員たちに補填はしませんし、ましてや一般の人に利益を配ったりは当然しません。だから、AIが普及したら、バラ色の人よりもキツい人のほうが増えて、全体としては貧乏な社会に突入するでしょう」(本書P83-85)

 AIについては「映画『ターミネーター』のようなAIの暴走は起きる」「AIが人類の知能を超えるとされる『シンギュラリティ』はすでに起きている」など、空恐ろしい予測もしている。詳しくはぜひ本書で確認してほしい。

 もちろん、未来予測だけにとどまらず、国民全員に現金を定額支給する“ベーシックインカム”の導入や、“保育園への補助金を廃止して育児世帯に現金を支給する”など、政策への提言も行っている。中でも面白いのが、「キモくて金のないおっさん“無敵の人”にはウサギを配る」という提案。家族も恋人もいない孤独な低賃金中年労働者に対し、「人は、弱い存在から頼られることで幸せを感じたりする生き物です。だから、キモくて金のないおっさんにウサギを配ってみると、『自分が社会からいなくなったら、ウサギの世話をする人がいなくなって、ウサギがかわいそうだから』と、ウサギの世話をし続けるために社会に居続けてくれるんじゃないかと思うのですが、どうでしょうか」(本書P167-171)

 食糧危機政策として、貧困地域の国民にウサギを配布した南米のベネズエラを例に挙げ、突飛なアイディアを打ち出している。有効かどうかはともかく、ウサギがいっぱいいたらファンシーで愉快な国になりそうだ。

 バブル崩壊から平成不況、リーマンショックを経て、東日本大震災と、この国がゆっくりと下り坂を下っているのは間違いない。本書を読んで感じたのが、ひろゆき氏は事実を客観的に見つめながらも、ものすごくポジティブだということだ。本稿で挙げた他にも、ひろゆき氏の情報収集術や、物の見方、心の保ち方など、役に立ちそうな項目がたくさんある。冷静かつポジティブなひろゆき流思考法で、明日のディストピア日本を生き抜こう。
(文=平野遼)