最近よく「働き方改革」という言葉を耳にするようになりましたね。フレックスタイム、時短勤務、モバイルワーク、高度プロフェッショナルにワークライフバランスなどなど……。ワークライフバランスなんて言葉は最高に憧れます! 一度でいいからバランス取ってみたい。そういえば、仕事が増えると過食になって体重も増える自分は、ある意味バランスが取れてるのかも!(そういうことではない)
……とまあ、そんなご時世ですが、2000年代には「働き方改革」とは真逆なコンセプトのマンガがもてはやされていました。それが、働く女子のバイブルともいわれた『働きマン』です。
『働きマン』の作者は安野モヨコ先生。「モーニング」(講談社)に2004~08年まで連載され、菅野美穂主演で07年10月期にテレビドラマ化もされました。同年1月期にはには『ハケンの品格』(いずれも日本テレビ系)なんてドラマもありましたし、とにかくデキる女性が社会に進出してバリバリ働く、というのが世の中の風潮だったのです。皮肉にも、その後すぐにリーマンショックがあり、派遣切りがあり……と、一気に不況ムードになってしまったわけですが。
スピンアウト本もいくつか出ており、当時の勢いを感じさせます。『働きマン 明日をつくる言葉』(講談社)という名言集や、主人公・松方弘子(まつかた ひろこ)のライフスタイルをテーマにした『働きマン 松方弘子のMake It Beauty!』『働きマン 松方弘子のMake It Healthy!』(同)など。つまり弘子をお手本に、仕事ができて美しく、しかも健康的に生きる、かなり意識高めな女性像が理想とされていました。
28歳独身、週刊「JIDAI」編集部の女性編集者である弘子は、人一倍熱い編集魂を持っており、一度仕事モードのスイッチが入ると、男勝りな「働きマン」となります。その間は通常の3倍のスピードで仕事をし、寝食恋愛衣飾衛生の観念は消失する……そう、仕事に命を削る性分なのです。そのため、彼氏とはたびたび険悪になり、セックスレス気味。お肌も体もボロボロ。負けん気の強さから同僚とも喧喧囂囂のバトルを繰り広げるなど、超絶ワーカホリック体質といえます。でも、当時はこれがカッコよかったんです。ブラック企業なんて言葉もありませんでしたし。
作品中にちりばめられた名言の数々もグッときます。
「あたしは仕事したなーって思って死にたい」
「仕事で失ったもの、それを想い泣いた夜、でも仕事に救われる朝もあるから…」
「やれない理由を聞いてるんじゃなくて、どうやるか聞いてるんだ」
「若いのに、楽な仕事してんじゃねえよ」
などなど。実に熱いセリフですよね。でも今のご時世、本当にこんなこと言ったら、ブラック企業だとかパワハラだとか批判されかねません。時の移り変わりは価値観をここまで変えてしまうのです。
主人公の弘子がこんなキャラクターなので、全体的にさぞかしブラック企業体質なマンガなのかと思いきや意外とそうでもなく、周囲のキャラクターはむしろ自分流を貫く、あんまり「仕事しない」人が結構出てきます。当時、率先して「働き方改革」を実践していたヤツらといえます。ではこれから、『働きマン』作品中で最高に「働かないマン」のベスト3を発表しましょう。
■田中邦夫(たなか くにお)
編集部の新人類。趣味はファッション。できるだけ要領よく仕事をこなして、プライベートを大事するというスタンスなため、弘子には目の敵にされています。
「仕事終わってみんなで…みたいのが苦手。飲み行ってまで説教されたくねーっつーか。」
「オレは『仕事しかない人生だった』そんな風に思うのはごめんですね。」
うん、わかるわかる! 仕事の時間を1秒でも少なくして帰社したい僕のような人間には、こういう考えのほうが共感できます。「働き方改革」な今こそ、彼みたいなスタンスは評価されるのかもしれません。
■梅宮龍彦(うめみや たつひこ)
週刊「JIDAI」の編集長。かつて、大ニュースになった記事をいくつも生み出した凄腕編集者でしたが、「JIDAI」の全盛期が終わり、発行部数が半分になったところで編集長に据えられ、プライベートでは妻子と別居中。勤務時間中に他の社員に黙ってフラッと外出し、姿をくらましたり。やる気があるのかないのか、よくわからない感じです。
「オレは忙しーんだよ!! 鳥のエサ買いに行ったり、クリーニング屋行ったり、ゴミ出ししたり……」
「勢いだけがこの世で必要とされてるわけじゃない。侘びしい夜も侘びしい人もあっての世の中だ」
などなど、元凄腕編集者とは思えない、だいぶ枯れた感じになっています。しかし、いざ仕事モードになると弘子に対し、
「例の記事、お前好きなように書け、責任とってやっから」
みたいな編集長らしいセリフも。仕事はしないが、責任は取る男――人望のある上司とは、案外そういうものかもしれません。
■梶舞子(かじ まいこ)
編集部最強の「働かないマン」が、この舞子。独特のお姐さんな雰囲気を醸し出し、仕事をしなくても、定時上がりで連絡が一切つかなくなっても怒られない、治外法権ポジションにいます。
担当する小説家センセイたちをとりこにする美貌で、しっかり遅れることなく原稿を取ってきます。もちろん、編集部内で「彼女が仕事してるの見たことないわよ、色目使ってんのは何度も見たけど」とか「担当の作家とはほとんど関係してるんじゃないの?」などと陰口を叩かれたりもしているのですが、
「弁解もしない、確かに私は男たちに特別扱いを受けているから」
などと、本人はいたって余裕です。実際、先生の趣味に付き合ってヌードモデルをやったりして、愛人同然の関係性なので、あながち陰口もはずれてはいないのですが。
「仕事…だと思ってないのかな。天才に奉仕するのは喜びだから」
と、持論を展開。さらに、社会人の基本「ほうれんそう」についても「抱擁、恋愛、創作」という独自解釈。誰にも真似できない高度なワークスタイルを実践しており、これこそまさに、究極の「働き方改革」といえるでしょう。
というわけで、時短ムード漂う今だからこそ、胸に響くモノがあるかもしれない、ザ・お仕事マンガ『働きマン』を紹介してみました。実は作品としては完結しておらず、単行本4巻を最後に休載という形になっています。昨今の出版不況や働き方改革の風潮など、連載当時と今ではあまりにも状況が変わっているので、まったく同じ設定での再開は難しそうですが、復活するのであれば、今の時代をうまく取り入れつつ、出版不況をひっくり返すような熱さを持った新しい『働きマン』を読んでみたいな、なんて思ってしまいました。
(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん <http://ablackleaf.com/>)
◆「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから



