こんな時代もあった! 「働き方改革」の真逆を行く、お仕事大好きマンガ『働きマン』

 最近よく「働き方改革」という言葉を耳にするようになりましたね。フレックスタイム、時短勤務、モバイルワーク、高度プロフェッショナルにワークライフバランスなどなど……。ワークライフバランスなんて言葉は最高に憧れます! 一度でいいからバランス取ってみたい。そういえば、仕事が増えると過食になって体重も増える自分は、ある意味バランスが取れてるのかも!(そういうことではない)

 ……とまあ、そんなご時世ですが、2000年代には「働き方改革」とは真逆なコンセプトのマンガがもてはやされていました。それが、働く女子のバイブルともいわれた『働きマン』です。

『働きマン』の作者は安野モヨコ先生。「モーニング」(講談社)に2004~08年まで連載され、菅野美穂主演で07年10月期にテレビドラマ化もされました。同年1月期にはには『ハケンの品格』(いずれも日本テレビ系)なんてドラマもありましたし、とにかくデキる女性が社会に進出してバリバリ働く、というのが世の中の風潮だったのです。皮肉にも、その後すぐにリーマンショックがあり、派遣切りがあり……と、一気に不況ムードになってしまったわけですが。

 スピンアウト本もいくつか出ており、当時の勢いを感じさせます。『働きマン 明日をつくる言葉』(講談社)という名言集や、主人公・松方弘子(まつかた ひろこ)のライフスタイルをテーマにした『働きマン 松方弘子のMake It Beauty!』『働きマン 松方弘子のMake It Healthy!』(同)など。つまり弘子をお手本に、仕事ができて美しく、しかも健康的に生きる、かなり意識高めな女性像が理想とされていました。

 28歳独身、週刊「JIDAI」編集部の女性編集者である弘子は、人一倍熱い編集魂を持っており、一度仕事モードのスイッチが入ると、男勝りな「働きマン」となります。その間は通常の3倍のスピードで仕事をし、寝食恋愛衣飾衛生の観念は消失する……そう、仕事に命を削る性分なのです。そのため、彼氏とはたびたび険悪になり、セックスレス気味。お肌も体もボロボロ。負けん気の強さから同僚とも喧喧囂囂のバトルを繰り広げるなど、超絶ワーカホリック体質といえます。でも、当時はこれがカッコよかったんです。ブラック企業なんて言葉もありませんでしたし。

 作品中にちりばめられた名言の数々もグッときます。

「あたしは仕事したなーって思って死にたい」

「仕事で失ったもの、それを想い泣いた夜、でも仕事に救われる朝もあるから…」

「やれない理由を聞いてるんじゃなくて、どうやるか聞いてるんだ」

「若いのに、楽な仕事してんじゃねえよ」

などなど。実に熱いセリフですよね。でも今のご時世、本当にこんなこと言ったら、ブラック企業だとかパワハラだとか批判されかねません。時の移り変わりは価値観をここまで変えてしまうのです。

 主人公の弘子がこんなキャラクターなので、全体的にさぞかしブラック企業体質なマンガなのかと思いきや意外とそうでもなく、周囲のキャラクターはむしろ自分流を貫く、あんまり「仕事しない」人が結構出てきます。当時、率先して「働き方改革」を実践していたヤツらといえます。ではこれから、『働きマン』作品中で最高に「働かないマン」のベスト3を発表しましょう。

 

■田中邦夫(たなか くにお)

 編集部の新人類。趣味はファッション。できるだけ要領よく仕事をこなして、プライベートを大事するというスタンスなため、弘子には目の敵にされています。

「仕事終わってみんなで…みたいのが苦手。飲み行ってまで説教されたくねーっつーか。」

「オレは『仕事しかない人生だった』そんな風に思うのはごめんですね。」

 うん、わかるわかる! 仕事の時間を1秒でも少なくして帰社したい僕のような人間には、こういう考えのほうが共感できます。「働き方改革」な今こそ、彼みたいなスタンスは評価されるのかもしれません。

 

■梅宮龍彦(うめみや たつひこ)

 週刊「JIDAI」の編集長。かつて、大ニュースになった記事をいくつも生み出した凄腕編集者でしたが、「JIDAI」の全盛期が終わり、発行部数が半分になったところで編集長に据えられ、プライベートでは妻子と別居中。勤務時間中に他の社員に黙ってフラッと外出し、姿をくらましたり。やる気があるのかないのか、よくわからない感じです。

「オレは忙しーんだよ!! 鳥のエサ買いに行ったり、クリーニング屋行ったり、ゴミ出ししたり……」

「勢いだけがこの世で必要とされてるわけじゃない。侘びしい夜も侘びしい人もあっての世の中だ」

などなど、元凄腕編集者とは思えない、だいぶ枯れた感じになっています。しかし、いざ仕事モードになると弘子に対し、

「例の記事、お前好きなように書け、責任とってやっから」

 みたいな編集長らしいセリフも。仕事はしないが、責任は取る男――人望のある上司とは、案外そういうものかもしれません。

■梶舞子(かじ まいこ)

 編集部最強の「働かないマン」が、この舞子。独特のお姐さんな雰囲気を醸し出し、仕事をしなくても、定時上がりで連絡が一切つかなくなっても怒られない、治外法権ポジションにいます。

 担当する小説家センセイたちをとりこにする美貌で、しっかり遅れることなく原稿を取ってきます。もちろん、編集部内で「彼女が仕事してるの見たことないわよ、色目使ってんのは何度も見たけど」とか「担当の作家とはほとんど関係してるんじゃないの?」などと陰口を叩かれたりもしているのですが、

「弁解もしない、確かに私は男たちに特別扱いを受けているから」

などと、本人はいたって余裕です。実際、先生の趣味に付き合ってヌードモデルをやったりして、愛人同然の関係性なので、あながち陰口もはずれてはいないのですが。

「仕事…だと思ってないのかな。天才に奉仕するのは喜びだから」

と、持論を展開。さらに、社会人の基本「ほうれんそう」についても「抱擁、恋愛、創作」という独自解釈。誰にも真似できない高度なワークスタイルを実践しており、これこそまさに、究極の「働き方改革」といえるでしょう。

 というわけで、時短ムード漂う今だからこそ、胸に響くモノがあるかもしれない、ザ・お仕事マンガ『働きマン』を紹介してみました。実は作品としては完結しておらず、単行本4巻を最後に休載という形になっています。昨今の出版不況や働き方改革の風潮など、連載当時と今ではあまりにも状況が変わっているので、まったく同じ設定での再開は難しそうですが、復活するのであれば、今の時代をうまく取り入れつつ、出版不況をひっくり返すような熱さを持った新しい『働きマン』を読んでみたいな、なんて思ってしまいました。

(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん <http://ablackleaf.com/>)

◆「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

少女マンガの仮面をかぶった昼ドラ!? 夫婦交換マンガ『ママレード・ボーイ』は男子には刺激が強すぎる!

 少女マンガに縁がなかった男子たちに、突発的に少女マンガの名作をご紹介しがちな本コラム。今回は現在、実写版映画公開中の『ママレード・ボーイ』をご紹介します。

『きまぐれオレンジ☆ロード』と共に“柑橘系ラブコメ”の2大巨頭といわれる『ママレード・ボーイ』は「りぼん」(集英社)で1992~95年まで連載され、ほぼ同時期にアニメ化もされていました。

 アニメ主題歌の歌詞にも象徴される「甘くて苦いママレード」なイケメン男子・松浦遊と女子高生・小石川光希の恋物語で、一見すると超さわやかな正統派少女マンガですが、家族構成がかなり特殊で、そこいらの昼ドラでは太刀打ちできないレベルのドロドロ設定になっています。 

 ごく普通の女子高生が、超イケメン男子とひょんなことから同居するようになる……これだけだと少女マンガでよくあるパターンのように思えますが、その同居の理由にインパクトがありすぎるのです。

 

■小学生向けのマンガで、まさかのスワッ◯ング

 なんの予兆もなくある日突然、光希の両親と遊の両親が、それぞれ離婚。そして夫婦の組み合わせをそっくりそのまま交換して再婚するという、「え? そんなの日本の法律で許されるの?」ぐらいすさまじい展開です。

 しかも、小石川夫妻と松浦夫妻は仲良し、家族ぐるみのお付き合いということで、光希と遊を含む、2ファミリー計6人が、一つ屋根の下で同居することになります。これは相当な異常事態といえるでしょう。

 ちょっ、りぼん読者にス◯ッピングの話はまだ早すぎるだろ……と心配してしまうところですが、そこは「りぼん」ですから心配はご無用。当然のことながら、ス◯ッピングのスの字も出てきません。

 大人だと、どうしても背徳的な目線で見てしまうパートナー交換の設定も、少女マンガの中では単なるヒロインとイケメンが同居するためのこじつけ理由にすぎません。理由はどうあれ、とにかくイケメンと同居しなければ始まらない、細かいことはどうでもいいのです。

■ムチャクチャな状況でも明るく生きるヒロイン・光希

 当然ながら、光希は自分の置かれた異常な境遇に大混乱。自分を産んだ母親がある日突然、初対面の男子の義理の母になるという……気持ちの持って行き場がわかりません。

 光希の唯一の救いは、超絶イケメン男子の遊と同居できることです。イケメンと一つ屋根の下、しかも同じ学校に通う同級生です。ワクワクせざるを得ませんね。ただ、これはあくまで遊がイケメンだったからです。同居するのがフツメン、ブサメンだったら、まったくワクワクすることはないでしょう。少女マンガの掟です。

 しかしそんな光希は、母親に「遊くんに恋しちゃダメよ」と、くぎを刺されます。これ以上、家族関係をややこしくしたくない、という理由からなのですが……お前ら大人はいけしゃあしゃあとスワッ◯ングしといて、どの口が言うのか! ひどい、ひどすぎる。これは間違いなくグレるパターンですよね(グレないけど)。

 

■イケメン男子・遊の境遇が悲惨すぎる

 イケメンでテニスがうまく、学校でもモテモテの遊。見た目はスウィートですが、ちょっとクールで意地悪なところがある「ママレード・ボーイ」。「ツンデレ男子」よりもオシャレでファッショナブルな言い回しは、さすが少女マンガです。

 光希と同様、異常な家庭環境で動揺しているはずの遊ですが、常にクールで、そんなそぶりをまったく見せません。しかし、遊には誰にも話していない、ある秘密を抱えていました。

 実は、自分の父親・松浦要士は本当の父親ではなく、母親が昔付き合っていた別の男が本当の父親だということを偶然知ってしまい、誰にも告げずに一人思い悩んでいるのでした。周りを心配させないよう、両親にも光希にも内緒で、一人孤独に本当の父親探しをする遊。大変な境遇ですよね。

 そんな息子の悩みも知らず、パートナー交換をして浮かれてる両親’s(ズ)。これはグレても仕方ありません(グレないけど)。

 

■今のご時世なら絶対アウトなロリコン教師「なっちゃん」

 光希と遊の担任である名村先生は生徒からの信望が厚く、「なっちゃん」と呼ばれて慕われている教師ですが、実は光希の親友・茗子とこっそり付き合っていたことが発覚してしまいます。

 未成年の、しかも卒業前の教え子とのリアルタイム交際、これは完全アウトですよね。今のご時世なら「名村メンバー」と呼ばれて、同僚に「正直あなたは病気です」とか「野菜の味は変わりません」などと言われてもおかしくない事案です。

 結局、なっちゃんは学校を去ることになり、茗子は自宅謹慎となるのですが、その後、茗子が駆け落ち同然でなっちゃんの元へ行き、結婚することになります。倫理的にはアウトですが、少女マンガ的には素敵な純愛ストーリーといえましょう。

■子どもたちの人生を無意識にもてあそぶ両親’s

 本作品では、夫婦交換の結果、人間関係がややこしくなりすぎたため、小石川夫妻・松浦夫妻をひとまとめで両親’sと呼んでいます。この両親’s、一見するといい人たちに見えますが、やってることは随分と身勝手です。

 両親’sの手前、ずっとお互いの気持を抑えていた光希と遊は、作品後半でとうとう正式なカップルとなるのですが、幸せムードの絶頂の中で、両親’sの隠されていた衝撃の過去が発覚し、2人の愛が引き裂かれる事態に陥ります。

 隠しごとが多すぎて、子どもの人生をメチャクチャに狂わせてくれる、毒親ならぬ毒両親’s。子どもたちがこれでグレていないのは奇跡といえるでしょう。

 

■続編『ママレード・ボーイ little』で、さらに状況は複雑に

 現在、集英社の少女マンガ誌「Cocohana」で連載中の「ママレード・ボーイ little」という続編があります。これは、『ママレード・ボーイ』の13年後が舞台で、タイトルからも想像できる通り、夫婦交換後の小石川家・松浦家にそれぞれ生まれた、朔(♂)と立夏(♀)という子どもたちの話。一つ屋根の下、きょうだい同然に育った男女が中学生になり、お互いに恋を意識し始める……という、血は争えない展開に。

 さらに、名村と茗子の間に生まれた息子・名村碧も恋のライバルとして参戦してきて……という、もはや何がなんだか、それキンシン◯ーカンじゃないの? え、ギリギリセーフなの? みたいな、ややこしすぎる人間模様が繰り広げられます。

 というわけで、「さわやかコーティングが施された昼ドラ」ともいえる少女マンガ『ママレード・ボーイ』をご紹介しました。少女マンガに免疫のない男子諸君は、あまりのあり得ない設定に打ちのめされるかもしれませんが、大ヒットする作品っていうのは、こういう他の追従を許さない突き抜けた部分があるものですよね。

(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん <http://ablackleaf.com/>)

◆「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

 

少女マンガの仮面をかぶった昼ドラ!? 夫婦交換マンガ『ママレード・ボーイ』は男子には刺激が強すぎる!

 少女マンガに縁がなかった男子たちに、突発的に少女マンガの名作をご紹介しがちな本コラム。今回は現在、実写版映画公開中の『ママレード・ボーイ』をご紹介します。

『きまぐれオレンジ☆ロード』と共に“柑橘系ラブコメ”の2大巨頭といわれる『ママレード・ボーイ』は「りぼん」(集英社)で1992~95年まで連載され、ほぼ同時期にアニメ化もされていました。

 アニメ主題歌の歌詞にも象徴される「甘くて苦いママレード」なイケメン男子・松浦遊と女子高生・小石川光希の恋物語で、一見すると超さわやかな正統派少女マンガですが、家族構成がかなり特殊で、そこいらの昼ドラでは太刀打ちできないレベルのドロドロ設定になっています。 

 ごく普通の女子高生が、超イケメン男子とひょんなことから同居するようになる……これだけだと少女マンガでよくあるパターンのように思えますが、その同居の理由にインパクトがありすぎるのです。

 

■小学生向けのマンガで、まさかのスワッ◯ング

 なんの予兆もなくある日突然、光希の両親と遊の両親が、それぞれ離婚。そして夫婦の組み合わせをそっくりそのまま交換して再婚するという、「え? そんなの日本の法律で許されるの?」ぐらいすさまじい展開です。

 しかも、小石川夫妻と松浦夫妻は仲良し、家族ぐるみのお付き合いということで、光希と遊を含む、2ファミリー計6人が、一つ屋根の下で同居することになります。これは相当な異常事態といえるでしょう。

 ちょっ、りぼん読者にス◯ッピングの話はまだ早すぎるだろ……と心配してしまうところですが、そこは「りぼん」ですから心配はご無用。当然のことながら、ス◯ッピングのスの字も出てきません。

 大人だと、どうしても背徳的な目線で見てしまうパートナー交換の設定も、少女マンガの中では単なるヒロインとイケメンが同居するためのこじつけ理由にすぎません。理由はどうあれ、とにかくイケメンと同居しなければ始まらない、細かいことはどうでもいいのです。

■ムチャクチャな状況でも明るく生きるヒロイン・光希

 当然ながら、光希は自分の置かれた異常な境遇に大混乱。自分を産んだ母親がある日突然、初対面の男子の義理の母になるという……気持ちの持って行き場がわかりません。

 光希の唯一の救いは、超絶イケメン男子の遊と同居できることです。イケメンと一つ屋根の下、しかも同じ学校に通う同級生です。ワクワクせざるを得ませんね。ただ、これはあくまで遊がイケメンだったからです。同居するのがフツメン、ブサメンだったら、まったくワクワクすることはないでしょう。少女マンガの掟です。

 しかしそんな光希は、母親に「遊くんに恋しちゃダメよ」と、くぎを刺されます。これ以上、家族関係をややこしくしたくない、という理由からなのですが……お前ら大人はいけしゃあしゃあとスワッ◯ングしといて、どの口が言うのか! ひどい、ひどすぎる。これは間違いなくグレるパターンですよね(グレないけど)。

 

■イケメン男子・遊の境遇が悲惨すぎる

 イケメンでテニスがうまく、学校でもモテモテの遊。見た目はスウィートですが、ちょっとクールで意地悪なところがある「ママレード・ボーイ」。「ツンデレ男子」よりもオシャレでファッショナブルな言い回しは、さすが少女マンガです。

 光希と同様、異常な家庭環境で動揺しているはずの遊ですが、常にクールで、そんなそぶりをまったく見せません。しかし、遊には誰にも話していない、ある秘密を抱えていました。

 実は、自分の父親・松浦要士は本当の父親ではなく、母親が昔付き合っていた別の男が本当の父親だということを偶然知ってしまい、誰にも告げずに一人思い悩んでいるのでした。周りを心配させないよう、両親にも光希にも内緒で、一人孤独に本当の父親探しをする遊。大変な境遇ですよね。

 そんな息子の悩みも知らず、パートナー交換をして浮かれてる両親’s(ズ)。これはグレても仕方ありません(グレないけど)。

 

■今のご時世なら絶対アウトなロリコン教師「なっちゃん」

 光希と遊の担任である名村先生は生徒からの信望が厚く、「なっちゃん」と呼ばれて慕われている教師ですが、実は光希の親友・茗子とこっそり付き合っていたことが発覚してしまいます。

 未成年の、しかも卒業前の教え子とのリアルタイム交際、これは完全アウトですよね。今のご時世なら「名村メンバー」と呼ばれて、同僚に「正直あなたは病気です」とか「野菜の味は変わりません」などと言われてもおかしくない事案です。

 結局、なっちゃんは学校を去ることになり、茗子は自宅謹慎となるのですが、その後、茗子が駆け落ち同然でなっちゃんの元へ行き、結婚することになります。倫理的にはアウトですが、少女マンガ的には素敵な純愛ストーリーといえましょう。

■子どもたちの人生を無意識にもてあそぶ両親’s

 本作品では、夫婦交換の結果、人間関係がややこしくなりすぎたため、小石川夫妻・松浦夫妻をひとまとめで両親’sと呼んでいます。この両親’s、一見するといい人たちに見えますが、やってることは随分と身勝手です。

 両親’sの手前、ずっとお互いの気持を抑えていた光希と遊は、作品後半でとうとう正式なカップルとなるのですが、幸せムードの絶頂の中で、両親’sの隠されていた衝撃の過去が発覚し、2人の愛が引き裂かれる事態に陥ります。

 隠しごとが多すぎて、子どもの人生をメチャクチャに狂わせてくれる、毒親ならぬ毒両親’s。子どもたちがこれでグレていないのは奇跡といえるでしょう。

 

■続編『ママレード・ボーイ little』で、さらに状況は複雑に

 現在、集英社の少女マンガ誌「Cocohana」で連載中の「ママレード・ボーイ little」という続編があります。これは、『ママレード・ボーイ』の13年後が舞台で、タイトルからも想像できる通り、夫婦交換後の小石川家・松浦家にそれぞれ生まれた、朔(♂)と立夏(♀)という子どもたちの話。一つ屋根の下、きょうだい同然に育った男女が中学生になり、お互いに恋を意識し始める……という、血は争えない展開に。

 さらに、名村と茗子の間に生まれた息子・名村碧も恋のライバルとして参戦してきて……という、もはや何がなんだか、それキンシン◯ーカンじゃないの? え、ギリギリセーフなの? みたいな、ややこしすぎる人間模様が繰り広げられます。

 というわけで、「さわやかコーティングが施された昼ドラ」ともいえる少女マンガ『ママレード・ボーイ』をご紹介しました。少女マンガに免疫のない男子諸君は、あまりのあり得ない設定に打ちのめされるかもしれませんが、大ヒットする作品っていうのは、こういう他の追従を許さない突き抜けた部分があるものですよね。

(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん <http://ablackleaf.com/>)

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プレミア本が捨て値で売られている衝撃……「メルカリ」にもせどりが巣食うのか

 いらない本や不要品を売ろうとした時、いま高く売れるところと薦められるのは「メルカリ」。とりわけ、本は「メルカリが高く売れるよ」と、言われるようになった。

 確かに、ブックオフのような新古書店は、箱に本を詰めて発送すれば、簡単にお金に換えることができる。でも、段ボールにせっせと何箱も詰めたのに「これだけにしか、ならないのか」ということもたびたび。もし、もっと高く売りたいと思い立った時には、メルカリのほうが便利なんだろうと思うところもある。

 でも、一時の狂乱は収まったとはいえ、やっぱりメルカリはカオス。「なんで、この本が、この価格で?」ということも多い。実は、高いのではなく、信じられないくらいに安いことも多いのだ。

 最近、驚いたのはメルカリに千坂恭二『歴史からの黙示』(田畑書店刊)が出品されていたこと。これ、活動家で思想家の千坂氏の初めての著作。読みたいけれども入手難。たまに、Amazonや日本の古本屋に出品されても、2万円超えの価格が当たり前。

 それが「アマゾンなどでは約2万円ほどします」の一言を添えて1,700円で出品されていたのである。

 これには驚いたが、残念なことに既に売約済み。これに悔しさを感じて以来、筆者はこまめに、探している本をメルカリで検索するようにしている。

 しかし、出るわ出るわ。安さに気づくのが筆者の興味の範囲に限られるのだが、“大仕事”のサブテキスト『日本禁歌集の宇宙』(邑楽舎刊)が1,555円だったり『夢野京太郎小説集 世界赤軍』(潮出版社刊)が2,999円だったり。これ、その手の古書店に行けば見かける本とはいえ、半額くらい安いぞ……。

「Amazonの古書は脅威ですが、メルカリはもっと脅威ですよ」

 そう話すのは、旧知の古書店主。

「Amazonで古書が扱われるようになってから、値下げ合戦も当たり前になりましたが。メルカリはもっと怖いですね。あんまり興味のある人はいないけれど、欲しい人は欲しい本というのがあるじゃないですか。だから高値をつけることができたのですが、それもできなくなるんじゃないかと不安です」

 先行するネットオークションである「ヤフオク!」は、多くの場合、出品者も価格帯を研究し、それなりの相場がついていた。ところが、なぜかメルカリは不要品処分の感覚で捨て値販売が当たり前になっているように見える。

 やがて、メルカリにもブックオフのようにせどりが殺到するのか。ここは仕方ない。ライバルが増える前に、欲しい本は毎日、出品されていないか検索をかけ続けよう。
(文=昼間たかし)

アジア5カ国の“日本人向けキャバクラ”潜入&夜遊び放浪記『底辺キャバ嬢、アジアでナンバー1になる』

『底辺キャバ嬢、アジアでナンバー1になる』(イースト・プレス)は、歌舞伎町や六本木でキャバ嬢として15年以上働いた経験を持つ、カワノアユミ氏による、アジア5カ国の“日本人向けキャバクラ”潜入&夜遊び放浪記だ。

 2014~15年に、1年弱をかけて、香港、タイ、シンガポールとカンボジアのキャバクラ、そして、ベトナムのガールズバーへ潜入し、店内の様子や働く女の子、現地の日本人客、給料などが赤裸々に書かれている。

 カワノ氏が初めて海外の日本人向けキャバクラで働いたのは、01年のこと。当時付き合っていた彼氏でスカウトマンのケンちゃんに、「お前、香港のキャバクラ行かね?」と“売り飛ばされ”、10日間限定で香港初となる日本人キャバクラのキャバ嬢になった。当時は、「1晩10万円以上出すって人もいっぱいいるよ!」と日本人の価値が、とんでもなく高かったものの、14年後、同じ店で働くと、まさかの大暴落……。

 また、タイの一大歓楽街・パッポンでは、知り合いのコネを駆使して、バンコク初の日本人向けキャバクラの現地採用にこぎつける。日払い1,500バーツ(約5,000円)で働くことが決まるも、働き始めると暇すぎて、「日払いで500バーツでいい?」と店側から値切り。さらにまわりの女の子たちのやる気のなさに、普段はやる気なし側だが、むくむくと闘志が! 突如、覚醒し、バンコクの店でナンバー1へと上りつめていく。

 ほかにも、景気絶好調のシンガポールでは、中心地のおしゃれなスポットにあるキャバクラ、開発が進むカンボジアで怪しさ漂う“廃屋”キャバクラ、若い駐在員が急増中のベトナム・ハノイではガールズバーに潜入している。また、各国のディープな夜遊び情報も注目だ。

 なお、帯には、本の制作に協力した丸山ゴンザレス氏による、「作者の突き抜けたバイタリティが海外で暮らす日本人のヤバい本性までもあぶり出している!」とのコメントも。キャバ嬢目線で見る、アジア5カ国の夜の街は、ひと味違う。
(文=上浦未来)

●カワノアユミ
東京都出身。遊びながら暮らすため18歳で夜の世界に飛び込み、歌舞伎町や六本木でキャバ嬢として過ごす。水商売歴15年以上のベテラン。また、国内外問わず夜遊びに没頭する傍ら、2011年、タイを中心に東南アジアの風俗や文化、旅を紹介する月刊誌『ジーダイアリー』(アールコスメディア)にて女性の海外夜遊びをテーマにしたコラムを担当し、ライターとしての活動を開始する。現在web媒体を中心に裏モノや夜ネタを執筆。丸山ゴンザレスが責任編集をととめる『アジア旅行最強ナビ』『タイ旅行最強ナビ』(ともに辰巳出版)などに寄稿している。Twitter @ayumikawano

ライター稼業のカッコイイとはこういうことだ! 岩本太郎『炎上!一〇〇円ライター始末記 マスコミ業界誌裏道渡世』

「若い人が、こんなのは前世紀の遺物だとバカにして、頑張ってくれればいいなと思うんだ」

 朗らかに、そんなことをしゃべる岩本太郎は、本当に強い人なのだと思った。

 その岩本の著書『炎上!一〇〇円ライター始末記 マスコミ業界誌裏道渡世』(出版人ライブラリ)が、いま話題になっている。

 この本に刻まれるのは、自らを評論家でもなくルポライターでもなく「使い捨て100円ライター」と喝破する、岩本自身の人生の記録。世に、フリーランスの物書きの自称はさまざまある。フリーライターを名乗る者もいれば、○○(自身の得意分野が入る)ライターと名乗る者もいる。最近は、ウェブライターやブロガーを自称する者も。共通しているのは、ちょっと名が知られると、何かカッコイイ肩書に変えてみたくなる誘惑に取り憑かれる。自分のことを「作家」だとか「ジャーナリスト」と呼んでもらいたくなる。かくいう私も、一時期、名刺に「ジャーナリスト」と刷ってみたが、人に指摘されて恥ずかしさに気づいて止めた。

 そんな誘惑の多い売文稼業の中で、自身を「使い捨て100円ライター」とまで言い切れる岩本は、ハードボイルドを地で行く男だ。

 ハードボイルドといえば、この本の出版元である出版人の社長・今井照容も、そう。私が、今井と出会ったのは一昨年。ある雑誌から書評依頼を受けたのだが、まだ本が店頭になかったので神保町にある出版人のオフィスまで買いにいった時である。

「まあ、どうぞ」と椅子を勧められ、机に置かれたのは350mlの角ハイボール缶が2本。そのひとつを、グビッとやりながら、今井は言った。

「うちの会社は、お茶はないけど酒だけはあるんだ……」

 なんてハードボイルドな会社なのだろうか、と思った。四方山話をしながら、共通の知り合いを探っていると、岩本の名前が出た。

「今、うちの仕事も手伝ってもらっているんだ」

 今井が、岩本がマスコミに足を踏み入れる第一歩となった、東京アドエージに入社した時の上司だったことは、後から知った。

 岩手大学を卒業した岩本は、卒業式の2日後に上京した。なんのあてもなく、漠然と「マスコミで就職したい」と思って。新聞広告で見つけた「編集見習募集」を、社員募集だとは思わず、アポなしの挙げ句にジーンズ姿で、その会社を訪ねた。

 そして、採用された東京アドエージ。そこは、月刊誌「広告人連邦・日本の編集長」と、月3回刊の「東京アドエージ」を発行している出版社。その雑誌から香るのは、21世紀の今では考えられない怪しげな匂い。徳間書店の初代社長・徳間康快に請われて、徳間が経営していた「東京タイムズ」営業本部長だったこともあるワンマン社長が率いる会社。

 そこは、社長の多彩な人脈をもとにマスコミ業界の表と裏とが交錯する世界。この、横入りどころか、裏口の窓から入るような方法で、岩本の長い売文稼業はスタートした。岩本が東京アドエージで禄を食んでいた5年間。その間、時には社長と怒鳴り合い、時には連絡もなく消えていった同僚は40人あまり……。本全体の3分の1あまりのページを割いて刻まれる東京アドエージ時代の記述。それは、何の因果かマスコミ稼業を志してしまった若者を、容赦なくシゴキ倒す「虎の穴」のようなもの。何しろ、登場する人物ひとりひとりが、スターかのようにキャラ立ちしているのだから。

 そして、5年勤めた会社を辞めて、ユーラシアを放浪した岩本は、再び因果なマスコミ稼業へと舞い戻る。オビも書いている映画監督・森達也とも、映画『A』(1998)を観たことで偶然出会う。ともかくたどり着いたのは「使い捨て100円ライター」の売文渡世。傍から観てればカッコイイ。でも、自分はそうはなりたくない。そんな「善良な一般市民」の薄ら笑いが見えてきそうな、ハードボイルドな人生。

 そうはいっても、岩本は1964年生まれ。幸運なのか不幸なのか。まだまだ、残された人生には、余裕がある。だから、この本は総決算ではない過程の記録。では、これからのことは……?

「これからのことは、白紙ですよ」

 そういって、岩本はまた快活に笑う。

 売文稼業というものは、先のことはわからない。仕事が途切れることがあるのも当たり前。さまざまな出会いと別れと、意図せぬ運命に翻弄されながら、岩本は「その中で、なんとか生きている」。

「予測もつかない人生になってしまいました。人生というのは、予定を立てても狂うものです。その中で、こういう男もいたと、思ってくれればいいんじゃないかな」

 笑顔でそんな言葉を吐ける心を得るのは、容易なことではない。

 売文稼業の生き様は、苦悩、苦悩、また苦悩。

 自身の人生の選択に悩み、財布に残された全財産の少なさに悩み、原稿依頼の電話もなければ、メールの一つもやってこない日々に落ち込み。表面だけを取り繕ったような書き手が持てはやされていることに嫉妬する。

 岩本の笑顔には、そうしたものを通過して、取り憑くような言葉ではなく「人は人。俺は俺なのだ」という強さが見える。だから、この男はカッコイイ。

 先日、本の出版を記念して催された宴に、私も参加した。取材相手にのめりこみ、時には何時間でも何日も行動を共にする。そんな岩本の熱を感じたかったのか、会場には、多彩な顔ぶれが集まった。

 ともすれば、マスコミ業界裏面史のごとき立ち位置になりそうな、岩本の新著。でも、何者かになりたいと思って止まない若者。そして、青雲の志を諦めきれない中年も、読むべき本だと思うのだ。本当にカッコイイのは、こういうことなんだ……。
(文=昼間たかし)

創設400年の吉原とはいったい!? 風俗研究家が日本の性を語り尽くす対談集『吉原と日本人のセックス四〇〇年史』

 2018年、吉原が江戸幕府公認の遊郭として営業が始まり、ちょうど400年の節目にあたる。吉原という地名こそなくなってしまったが、浅草の奥に位置する台東区千束3、4丁目あたりに、今もなお、ちょいと特殊なお風呂屋さんが集まる歓楽街として、人を惹きつけてやまない。

『吉原と日本人のセックス四〇〇年史』(辰巳出版)は、風俗研究家として長く活躍する下川耿史氏と、新たな視点で江戸時代を取り上げ注目されている作家・永井義男氏による対談集だ。

 その対談内でのもっとも大きなテーマが、「吉原」とはいったい何なのか?

 吉原といえば、美しく、教養もある遊女と過ごせる豪華絢爛な世界。多くの浮世絵師が遊女たちを描き、男と女のすったもんだなどが歌舞伎の演目にもたびたび登場し、江戸の文化を彩っているイメージがある。しかし、下川氏も永井氏も、あの独特の豪華絢爛な世界観は、後世に“作られて”いる部分があるのではないか? と語る。

 江戸幕府が開かれたのは、1603年。吉原が創設されたのが1618年。当時は、いくら将軍様のお膝元とはいえども、雑木林や野原だった場所に、新たな街をつくろうとする発展途上。大坂や京都に比べれば、伝統も文化もまったくない。そんな中にあって、誕生した吉原の絢爛豪華な世界。あれはどこまでが本当なのか、歴史的背景や資料を元にじっくり考察し、お互いの意見をぶつけあっている。

 本書は、この吉原話を軸に話が展開していくのだが、それ以前の性風俗についてもかなりディープに語られており、実はこっちの話の方が濃厚だったりする。

 まず、冒頭で下川氏が切り出しているテーマは、「売春」の定義。売春とはなんぞや? なぜイメージがマイナスなのか? そもそも、日本という国家ができた頃には、古くは『万葉集』『古事記』などにも登場する行事で、若い男女が集まって一緒に飲食をして、歌を交わしながら、気の合った相手と性的な関係を結ぶ“歌垣”があった。山深い所など、旅人が人家に泊めてもらったとき、その家の娘が旅人の寝床にきて、枕を共にして、客人をもてなす慣習もあり、ひょっとしたらお金をもらうこともあったかもしれない。その行為に対して、職業という意識はあったのか。

 また、全然別の話で驚いたのは、盆踊りについて。盆踊りといえば、今では、割と高齢者が平和に踊っているイメージがあるが、下川氏のやや過激な言葉を借りるならば、江戸時代以前は「乱交を伴うレジャー」だったという。踊って、相手を見つけ、闇へと消えて行く。恥さらしな風習だということで、明治3(1870)年には群馬で「盆踊り禁止令」まで出ているそうだ。なお、同じ頃には、混浴禁止令が80回以上も!出ていたそうだが、今も混浴は続いていることから、日本人の不思議なまでの性へのあけっぴろな姿が垣間見える。

 また、昔話としてよく聞く夜這いについても、本書でしっかり語られており、特に面白かったのが、赤飯話。かつての農村社会では、「うちの娘は一人前になりましたよ」と近所に赤飯を配った。それは、永井氏は「露骨に言えば、もう夜這いに来てもいいですよと、村の若い衆に宣言しているようなもの」と力説。それに対し、下川氏が「柳田國男の影響を受けている人からすれば、娘がここまで健康に過ごしたことのお祝いとして赤飯を炊くというのが、しょっちゅう書いてあります」というと、「でもそれはメルヘンですよ。柳田國男の民俗学は半分メルヘンですから」と一蹴。思わず笑ってしまった。

 二人とも、この道の第一線で長年活躍される研究者のため、これでもか! というほど風俗に関するディープな話がわんさか出てくる。かなり個性的な見解もあり、これはどうかな~? と思う時もあるが、お堅い歴史のお話では出てこない、盆踊りや赤飯的なそういうことか、というエピソードも数多く語られ、ともかく読み応えのある1冊に間違いない。
(文=上浦未来)

●下川耿史(しもかわ・こうし)
1942年生まれ。新聞社勤務後、作家として性風俗研究についての著作を多く執筆している。近著に『エロい昔ばなし研究』(ベスト新書)、『混浴と日本史』(ちくま文庫)、『エロティック日本史』(幻冬舎新書)、『盆踊り 乱交の民俗学』(作品社)、『遊郭をみる』(共著・筑摩書房)などがある。

●永井義男(ながい・よしお)
1949年生まれ。『算学奇人伝』(祥伝社文庫)で第6回開高健賞を受賞。時代小説家として100作以上の著作を持ち、最近では江戸の性風俗を研究した著作を多数刊行している。近著に『本当はブラックな江戸時代』(辰巳出版)、『江戸の売春』(河出書房新社)、『江戸の糞尿学』(作品社)などがある。

創設400年の吉原とはいったい!? 風俗研究家が日本の性を語り尽くす対談集『吉原と日本人のセックス四〇〇年史』

 2018年、吉原が江戸幕府公認の遊郭として営業が始まり、ちょうど400年の節目にあたる。吉原という地名こそなくなってしまったが、浅草の奥に位置する台東区千束3、4丁目あたりに、今もなお、ちょいと特殊なお風呂屋さんが集まる歓楽街として、人を惹きつけてやまない。

『吉原と日本人のセックス四〇〇年史』(辰巳出版)は、風俗研究家として長く活躍する下川耿史氏と、新たな視点で江戸時代を取り上げ注目されている作家・永井義男氏による対談集だ。

 その対談内でのもっとも大きなテーマが、「吉原」とはいったい何なのか?

 吉原といえば、美しく、教養もある遊女と過ごせる豪華絢爛な世界。多くの浮世絵師が遊女たちを描き、男と女のすったもんだなどが歌舞伎の演目にもたびたび登場し、江戸の文化を彩っているイメージがある。しかし、下川氏も永井氏も、あの独特の豪華絢爛な世界観は、後世に“作られて”いる部分があるのではないか? と語る。

 江戸幕府が開かれたのは、1603年。吉原が創設されたのが1618年。当時は、いくら将軍様のお膝元とはいえども、雑木林や野原だった場所に、新たな街をつくろうとする発展途上。大坂や京都に比べれば、伝統も文化もまったくない。そんな中にあって、誕生した吉原の絢爛豪華な世界。あれはどこまでが本当なのか、歴史的背景や資料を元にじっくり考察し、お互いの意見をぶつけあっている。

 本書は、この吉原話を軸に話が展開していくのだが、それ以前の性風俗についてもかなりディープに語られており、実はこっちの話の方が濃厚だったりする。

 まず、冒頭で下川氏が切り出しているテーマは、「売春」の定義。売春とはなんぞや? なぜイメージがマイナスなのか? そもそも、日本という国家ができた頃には、古くは『万葉集』『古事記』などにも登場する行事で、若い男女が集まって一緒に飲食をして、歌を交わしながら、気の合った相手と性的な関係を結ぶ“歌垣”があった。山深い所など、旅人が人家に泊めてもらったとき、その家の娘が旅人の寝床にきて、枕を共にして、客人をもてなす慣習もあり、ひょっとしたらお金をもらうこともあったかもしれない。その行為に対して、職業という意識はあったのか。

 また、全然別の話で驚いたのは、盆踊りについて。盆踊りといえば、今では、割と高齢者が平和に踊っているイメージがあるが、下川氏のやや過激な言葉を借りるならば、江戸時代以前は「乱交を伴うレジャー」だったという。踊って、相手を見つけ、闇へと消えて行く。恥さらしな風習だということで、明治3(1870)年には群馬で「盆踊り禁止令」まで出ているそうだ。なお、同じ頃には、混浴禁止令が80回以上も!出ていたそうだが、今も混浴は続いていることから、日本人の不思議なまでの性へのあけっぴろな姿が垣間見える。

 また、昔話としてよく聞く夜這いについても、本書でしっかり語られており、特に面白かったのが、赤飯話。かつての農村社会では、「うちの娘は一人前になりましたよ」と近所に赤飯を配った。それは、永井氏は「露骨に言えば、もう夜這いに来てもいいですよと、村の若い衆に宣言しているようなもの」と力説。それに対し、下川氏が「柳田國男の影響を受けている人からすれば、娘がここまで健康に過ごしたことのお祝いとして赤飯を炊くというのが、しょっちゅう書いてあります」というと、「でもそれはメルヘンですよ。柳田國男の民俗学は半分メルヘンですから」と一蹴。思わず笑ってしまった。

 二人とも、この道の第一線で長年活躍される研究者のため、これでもか! というほど風俗に関するディープな話がわんさか出てくる。かなり個性的な見解もあり、これはどうかな~? と思う時もあるが、お堅い歴史のお話では出てこない、盆踊りや赤飯的なそういうことか、というエピソードも数多く語られ、ともかく読み応えのある1冊に間違いない。
(文=上浦未来)

●下川耿史(しもかわ・こうし)
1942年生まれ。新聞社勤務後、作家として性風俗研究についての著作を多く執筆している。近著に『エロい昔ばなし研究』(ベスト新書)、『混浴と日本史』(ちくま文庫)、『エロティック日本史』(幻冬舎新書)、『盆踊り 乱交の民俗学』(作品社)、『遊郭をみる』(共著・筑摩書房)などがある。

●永井義男(ながい・よしお)
1949年生まれ。『算学奇人伝』(祥伝社文庫)で第6回開高健賞を受賞。時代小説家として100作以上の著作を持ち、最近では江戸の性風俗を研究した著作を多数刊行している。近著に『本当はブラックな江戸時代』(辰巳出版)、『江戸の売春』(河出書房新社)、『江戸の糞尿学』(作品社)などがある。

被災地の復興をめざしてホストに!? 作家・石井光太氏が歌舞伎町のホストとトークイベント

 2月16日、作家の石井光太氏による、風俗の世界で生きる男女の小説『世界で一番のクリスマス』(文藝春秋)の発売を記念し、「歌舞伎町ブックセンター」で、歌舞伎町現役ホストとトークイベントが開催された。

 テーマは、「歌舞伎町で『傷』を持って働くということ」。女性の場合は、過去の傷を働いているということをクローズアップされることが多いが、ホストもいろんな過去を抱えているのではないか?

 そんな石井氏の思いつきから、今回、岩手県の大築町出身で高校1年時に東日本大震災にて被災し、「APiTS」で働く友夜(トモヤ、23歳)と、児童養護施設で育った過去を持つ「スマッパ・ハンス・アクセル・フォン・フェルセン」所属の陽虎(ハルト、19歳)の二人がゲストとして招かれ、登場した。

 さらに、伝説のホストと言われ、ホストクラブやバー、ヘア&メイクサロン、会場の歌舞伎町ブックセンターなども手がける「Smappa!Group」会長の手塚マキ氏(40歳)も姿を現した。

 会場には、思いのほかマジメそうな見た目の男女を中心に約30名が来場。そこに派手なホストが入り乱れ、独特のカオス感な空気に。石井氏が「ホストクラブ行ったことがある人!?」と聞くと、1人だけこっそり手が上がる中、スタートした。

 

■ホストクラブへ行くなら、5万円握りしめて行こう。

 

 まず最初に石井氏が切り出したのは、歌舞伎町の概要。一体何軒がひしめき、どれぐらいのお金が動いているのか。

「歌舞伎町だけで200軒ぐらいあると思います。1カ月の売り上げは、飛び抜けて多いところで1億円。流行ってる店で2,000万ぐらいですね」と手塚さん。

「1回の入店につき、大体おいくら?」と質問すると、「5万円ぐらい使えると、ホストクラブの遊び方としてはおもしろいですよ」と指南。その内訳は、入店で約1万5,000円、指名したホストに加えて、数名のヘルプというお姫様状態で、ひとり2杯ぐらいずつ飲んでもらい、3、4万円だという。

「好きなもの食べて飲んでいいよーとやっていると、みんなが心地よく飲めるんですよ。注文が入らないと、失礼しまーす! 水いただきまーす! みたいな感じになるので、お互いに気まずい(笑)。だから、5万円ぐらいあると、余裕を持って楽しめますね」

■復興を目指す公務員志望から、歌舞伎町ホストへ

 

 続いて、気になる現役ホストへの質問。まず紹介されたのは、友夜。髪の毛を逆立てたザ・ホストというファッションではなく、原宿にでもいそうなオシャレな青年だ。岩手県の大槌町出身で、高校1年生の修了式後に被災した。

「家族と連絡が取れない状況で、死んだんじゃないかなという恐怖に襲われました。街を歩くと、遺体がそこら中に横たわる中で、生と死が隣り合わせの状態でした」

 大槌町といえば、津波に続き、ガソリンスタンドが爆発。町は火の海と化し、約1割もの人が死亡・行方不明となった。へどろの匂い、腐乱臭が鼻をつく中、友夜は必死に避難所をまわり、幸いにも家族と再会することができた。家は半壊していた。

「震災があった時に、僕は街の復興に携わる仕事がしたいと思ったんです」

 そこで、盛岡の公務員の専門学校へ。ある時、岩手県の大きな祭り「盛岡さんさ踊り」があり、そこで海産物を販売していた社長と仲良くなり、いずれ地元で事業するから、岩手の牡蠣を扱う東京のオイスターバーで働きなよ! と誘われ、上京する。ところが一転、ホストに。

「オイスターバーでは、お客さんとの距離感が離れている感じがしたんですよね。僕は、もっと濃い話がしたかった。悩みごととか、そういうのを聞ける人間になりたい」と静かに熱く語る。続けて、「地元にバーとかでも、飲み屋さんでもいいし、ライブができるとか、若い人が集まる場所をつくりたいです。何もない町なんですけれど、そこにいる人たちは、いい人ばかりなんです!」と夢を語る姿は、キラキラとした好青年すぎて、なんだろう、なんか戸惑う!

■児童擁護施設で過ごし、19歳でホストの道へ。

 

 一方、陽虎は北海道の紋別出身。キリッとした鼻筋に、鋭い目つき。しかし、話している姿は、かなり素朴な印象だ。小学生の高学年の時、親が離婚し、父親に連れられ、児童養護施設に入ることになった。

「まったく知らずに連れて行かれ、頭が真っ白になってしまいました」

 人見知りのため、基本はいつもひとりだった。施設に入った11歳から17歳の間、父親も母親も一度も来てくれなかった。高校も馴染めず、中退。「親を見返したい」と、数少ない友だちのつてを辿り、住まわせてもらい、ホストの道へと進んだ。

 石井氏が「ホストクラブは居心地がいい?」と質問すると、「みんなすごく優しいです」と陽虎はうれしそうな笑顔を浮かべた。また、友夜も可愛がってもらっているようで、「テレビで見るような暴力的なイメージとかないし、みんなおしゃれでかっこいいです」と、これもまた意表を突かれる。

 また、意外なことと言えば、ホストは女性からお金をとことん貢がせる印象が強い。けれど、実は売れないホストを捕まえて、コスパよくお金を使っている女の子が、めちゃくちゃ多いのだという。

「売れないうちは、お客さんになってくれるかもしれないと思って、夜中でも一生懸命電話に出る。それが、ほかのホストにフラれた愚痴だったりするんですけど、大変だったね、と聞いてあげる。まだ、始めたばかりの2人はそういう時代を過ごしていると思いますよ」という手塚氏。

 それを受け、石井氏が「俺、パシられてるなと思った体験はある?」と友夜に聞くと、「僕のお店にも来てくれている女の子が、ほかのホストクラブでベロベロに酔っ払って、投げ出されちゃって、僕のお店のビルにいる、って電話を受けて、そのまま介抱するということはありました」と生真面目に答え、「なんか、エロいね!」とツッコミ、会場がどっと盛り上がった。

■伝説のホスト直伝、モテるには?

 

 また、歌舞伎では、あわよくば同伴へ持ち込むべく、出勤前に外でごはん食べようよ、と誘うそうだが、その時の暗黙のルールがある。

「おもしろいことに歌舞伎町のホストって、誘った時には男が払うんです。でも、女の子、帰っちゃうみたいなことは、よくあるよな?」と手塚氏が語ると、友夜が「しょっちゅうありますね。来てくれる確率は、まばらですけど、10回に4回ぐらいですかね」。

 なんだか聞いているうちに、ホストもつらいよ! と聞こえてきそうだ。石井氏が何か質問がある人? と聞くと、観客からはパパパッとあちこちで手が上がった。

 女性客から、「女の方がずる賢かったりするので、傷ついたりしてないですか?」と質問があると、陽虎は「正直、ないです。ひとりカラオケで発散します(笑)」とあっけらかん。つづけて、手塚氏が「どんなに売れっ子でも、絶対に振られるんです。20人ホストがいたら、19人は振られる。傷つくという話でいうならば、どれだけ傷つくことに鈍感でいられるかが重要かもしれないですね」と、なんともカッコイイ答えが返ってきた。

 最後に、ものすごくマジメそうな顔立ちの男性客から、「男に生まれたからには、モテたいです。どうすればモテますか?」と、妙に決意のこもった質問も飛び出した。

 それに対して、手塚さんが紳士に対応し、「隙がある人じゃないですか? 付き合ってくれるかもしれないな、と思わせる。男版ぶりっこですね。すごくかっこよすぎるとモテない。キャバ嬢もそうなんじゃないかな」。

 知られざるホスト事情や歌舞伎町に関する、記事では言えないギリギリすぎるトークに、会場のボルテージはどんどん上がる一方だった。“傷ついたホスト”たちは、確かに存在した。けれど、傷に押しつぶされることなく、驚くほど清々しく、たくましく生きていた。
(文=上浦未来)

●石井光太(いしい・こうた)
1977年東京生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。国内外の貧困、戦争、事件などをテーマに、アジアの障碍者や物乞いを追ったルポルタージュ『物乞う仏陀』(文藝春秋)で2005年にデビュー。『絶対貧困』(新潮社)、『レンタルチャイルド』(同)、『遺体』(同)、『浮浪児1945-』(同)、『「鬼畜」の家』(同)、『世界の産声に耳を澄ます』(朝日新聞出版)など、多数のノンフィクション作品を発表。2013年に初の小説『蛍の森』(新潮社)を上梓。近著に『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)など。

●手塚マキ
1977年埼玉県生まれ。ホストクラブ、バトラーズクラブ、バー、ヘアメイクサロン、ワインショップなどのお店を構える「Smappa!Group」会長。大学中退後、歌舞伎町にある人気ホストクラブ「スティンガー」に入店。入店後1ヶ月という奇跡的な短期間でナンバーワンに登り詰めた。ホスト業界初のボランティア団体「夜鳥の界」を中心となって立ち上げ、深夜の街頭清掃活動を行うなど、既成の枠にとらわれない柔軟な発想と、天性のリーダーシップで活躍の場を拡げている。歌舞伎町商店街振興組合理事でもある。

●陽虎(ハルト)
19歳、北海道紋別市出身。「スマッパ・ハンス・アクセル・フォン・フェルセン」在籍のホスト。父子家庭で育ち、10歳の時児童相談所に行き、11歳~17歳まで施設で育つ。高校中退後北海道紋別市のカラオケ店に就職した後、2017年の夏に東京に上京した。

●友夜(トモヤ)
23歳、岩手県大槌町出身。「APiTS」在籍のホスト。高校1年時に東日本大震災にて被災。復興関係の仕事をするため公務員専門学校に進学するもオイスターバーで店長・料理長経験を積み、現在に至る。

書店にも読者にも作者にもうれしい!「本の予約・取り寄せ用フォーマット」は書店再生への大発明か

 もはや書店は時代に合わないビジネスのように見られている。昨年には、全国で書店のない自治体・行政区が、全国のうち2割に及ぶことも話題になった。

 もはや、読者の意識が従来の書店からネット書店に向いているだけが理由ではない。欲しいときに欲しい本が店頭にないことが問題だ。

 これに頭を悩ませているのは読者だけではない。著者の側も同様の悩みを抱えている。発行部数が少ない本の場合、一部の書店にしか配本されないケースがしばしば見られる。

 結果、マンガなどの連載作の場合、単行本の売り上げ不振で打ち切られる。書き下ろし単行本の場合、次作の出版の際にマイナスに判断される材料となってしまう……。

 ようは、流通のミスマッチによって読者の書店離れが引き起こされているのである。こうした中で、話題のなっているのがマンガ家・一二三氏(Twitter ID:@hifumix_0123)が公開した「本の予約・取り寄せ用フォーマット」だ。

 これは著者が、自作のタイトルやISBNコードを書き込んで配布すれば、読者は書店でスマホなどを用いて画像を表示するだけでスムーズに注文ができるようにしたもの。

 このフォーマットへの反響は大きく、書誌情報を入力するだけでフォーマットを生成できる「書籍予約・取寄せフォーマット用生成ツール」(http://monokakitools.net/bookinfo/)ツールも有志によって公開されている。

 このツールによって、取り寄せや事前予約も簡便になり、結果、書店を通じた新規読者の開拓も期待されている。

 全国100の書店をめぐり『「本を売る」という仕事: 書店を歩く』(潮出版社)を上梓した、フリー記者の長岡義幸氏は、ネット書店隆盛の中での、実書店の意義を次のように語る。

「多くの本と出会う機会が得られるのは実書店ならでは。自分が買いたい一点を探すのではなく、目当ての周辺の本や、まったく知らなかった本にも出会うことができるんです」

 ネット書店でも、自分の欲しい本を購入すると関連する本は表示される。それでも、得られる情報の量でいえば実書店のほうが、はるかに多いといえるだろう。話題のフォーマットには、そうした機会を与える期待もあるようだ。

 現在、主にマンガ家の間に広まっているこのツールだが、汎用性は高いので、マンガ家以外も使うことができる。筆者も以前、新聞に自著の書評が掲載されたのに、書店の「今週の書評掲載された本」コーナーで欠品していて、非常にイラついた記憶が……。これからは、ぜひ、このフォーマットを使わせてもらおうと思っている。
(文=昼間たかし)