出版業界の新たな希望「ネットで書籍の全文検索」が可能になれば、売上は伸びるのか?

 文化庁は、来年に施行される著作権法の改正により、著作権者の許諾なしに書籍の全文を電子データ化し、ネットで検索できるサービスを構築する方針を固めている。

 書籍の売り上げに配慮して、閲覧できる内容はキーワードの前後数行に限られるが、これは出版業界に大きな変化をもたらす可能性もある。

 この書籍の全文検索は、すでに2004年からGoogleが開始している。日本では07年から「Googleブック検索」として始まったが、Googleが品切れ・重版未定の本を絶版扱いにしていたことから出版社や権利者団体が反発を示し、大きな話題となった。

 その後、日本では長らく話題としては消えていたが、アメリカでは「大規模な著作権侵害」とする作家団体との訴訟が、16年にGoogleの勝利で終焉。アメリカ最高裁では書籍の全文検索は、「フェアユース(公正利用)」と判断したのだ。

 これを受けて、日本でも著作権法の改正が目論まれることとなった。

 Googleの有無を言わさず全文のデータ化と検索を可能にしようとする動きは、大きな反発を生んだ。だが、そうした問題も、今となっては実質的に解決済みといえる。

 むしろ、キーワードで検索して、欲っする情報がある本を見つけた読者が、すぐに注文できるシステムは整っている。全文をタダ読みされる恐れは消え、著者や出版社にとってはビジネスチャンスが始まっているといえるわけだ。

「読者が知りたい情報が掲載されている本を見つけて、すぐにオンライン書店で注文できるようになれば便利この上ない。また、すぐに読みたい人は電子書籍で買うようになるから、電子書籍市場も今以上に活発化するのではないかと期待しています」(出版社社員)

 紙の本の売り上げは大きく落ち込み、一方、電子書籍市場も伸びているとはいえ、紙の落ち込みをカバーするには至っていない時代はしばらく続いてきた。

 この書籍全文検索の登場で、状況は一変し、出版業界が再び浮上することになるのか?
(文=特別取材班)

出版業界の新たな希望「ネットで書籍の全文検索」が可能になれば、売上は伸びるのか?

 文化庁は、来年に施行される著作権法の改正により、著作権者の許諾なしに書籍の全文を電子データ化し、ネットで検索できるサービスを構築する方針を固めている。

 書籍の売り上げに配慮して、閲覧できる内容はキーワードの前後数行に限られるが、これは出版業界に大きな変化をもたらす可能性もある。

 この書籍の全文検索は、すでに2004年からGoogleが開始している。日本では07年から「Googleブック検索」として始まったが、Googleが品切れ・重版未定の本を絶版扱いにしていたことから出版社や権利者団体が反発を示し、大きな話題となった。

 その後、日本では長らく話題としては消えていたが、アメリカでは「大規模な著作権侵害」とする作家団体との訴訟が、16年にGoogleの勝利で終焉。アメリカ最高裁では書籍の全文検索は、「フェアユース(公正利用)」と判断したのだ。

 これを受けて、日本でも著作権法の改正が目論まれることとなった。

 Googleの有無を言わさず全文のデータ化と検索を可能にしようとする動きは、大きな反発を生んだ。だが、そうした問題も、今となっては実質的に解決済みといえる。

 むしろ、キーワードで検索して、欲っする情報がある本を見つけた読者が、すぐに注文できるシステムは整っている。全文をタダ読みされる恐れは消え、著者や出版社にとってはビジネスチャンスが始まっているといえるわけだ。

「読者が知りたい情報が掲載されている本を見つけて、すぐにオンライン書店で注文できるようになれば便利この上ない。また、すぐに読みたい人は電子書籍で買うようになるから、電子書籍市場も今以上に活発化するのではないかと期待しています」(出版社社員)

 紙の本の売り上げは大きく落ち込み、一方、電子書籍市場も伸びているとはいえ、紙の落ち込みをカバーするには至っていない時代はしばらく続いてきた。

 この書籍全文検索の登場で、状況は一変し、出版業界が再び浮上することになるのか?
(文=特別取材班)

システムは崩壊前夜……もう出版業界に「取次」はいらない!?

 近年「不況」以外に話題になることが少ない出版業界。いよいよ、システム自体も崩壊の危機を迎えている。出版取次最大手の日本出版販売(日販)も創業以来初めてとなる赤字となり、もう現状の流通システムが機能しないことが明らかになっているのだ。

 もはや当たり前の状態となった出版不況の右肩下がり。その実態が「出版不況」ではなく「雑誌不況」だということは、業界関係者には周知のことだ。売上の多くの部分を担ってきた雑誌がインターネットに取って代わられたことで売上が減少。その影響が業界全体に及んでいるのだ。

 これまで雑誌・書籍は出版社から日販トーハンなどの取次に納められ、そこから全国の書店に配送されるというシステムによって、成り立ってきた。

 このシステムは、日々なんらかの雑誌が発行されることによって維持されてきたもの。ところが、近年の雑誌の減少で輸送コストが跳ね上がり、配送システムが機能しなくなりつつあるのだ。

「長らく取次は土曜日にも配送を行っていました。ところが日本出版取次協会では2017年から、それまで年間5日程度だった土曜休配日を倍以上の13日に増加。出版社からは売上の減少を危惧する声もありましたが、輸送コストを削減するためにはやむを得ないということで押し切られました。さらに取次は出版社に対し運送費の負担を求めていますが、難航しています」(取次会社社員)

 出版社から見た取次の機能には、さまざまな利点もある。納品した分はいったんは支払われる金融機能もそれ。そして、印刷さえすれば、書店に配送してくれるから、ほかの業種のように営業が売り込みをしなくてもよいという側面もあった。しかし、これも過去のものになりつつある。

「日々、さまざまな本を出版していますが、全国の書店に薄く広く本をバラまくよりも売れそうなところに大量に置いてもらうのは商売として当然です。今の苦境の背景には、そうした営業努力を怠ってきた出版社自身の問題があると思います」

 そう話すのは、ある中堅出版社の社員。この出版社では既に取次を通す本は、全体の数パーセント程度まで減少。ほとんどを書店との直取引でまかなっている。

「例えば、若者向けのサブカル本を年寄りが多い地域に置いても売れません。自社の出版物が、どこで売れるのかデータを取り、それをもとに営業をかけるのは、モノを売る仕事なら当然のことと思うのですが……」(前同)

 書店との直取引を行うとなれば、出版社にも大きなリソースが割かれる。ただ、商品を売っているという視点で見れば、それはごく当たり前のこと。

 すでにAmazonは出版社との直取引を増加させており、それによる「寡占化」を危惧する声も多く聞かれる。だが、出版社や書店からの「取次はもういらない」といった声の高まりには、取次も真剣に耳を傾けなくてはならないだろう。
(文=特別取材班)

エロマンガでは、すでに電子書籍がメインに……マンガ単行本の「紙と同時発売」は売上を増やすのか

 紙の本とその電子書籍版の発売日がズレることは、売上にマイナスを及ぼすのか。マンガ家の問題提起が注目を集めている。

 この問題を提起しているのは『映像研には手を出すな!』(小学館)などで知られる大童澄瞳氏だ。

 大童氏は自身のTwitterで、根拠はないとしながらも「電子版と紙版の販売日ずらしたところで、書店にも出版社にも作者にもなんの意味もない。むしろ悪い影響しかない。」と発言。「電書読者に発売日の油断やミスを誘う事で起きるマイナス効果が大きい」のではないかと記している。

 最近、マンガに限っても電子書籍の需要は伸びている。電子書籍の大手イーブックスなどでは「紙と同時発売」と記された新刊も、当たり前の存在だ。それでもなお、電子書籍版は紙の単行本が出てしばらくしてからという作品も多い。このブランクを生んでいる要因は何か?

「出版社内でも同時に出すか、電子書籍版はしばらく時間を置くか作品によって対応はさまざまです。読者の傾向から見て、紙の単行本を求めるほうが多いのではないかと判断できる場合、電子書籍版を遅らせることが多いのです。ただ、明確な根拠となるデータがあるわけではありません」(編集者)

 判断材料はさまざまだが「作品によっては、紙でないと読みづらい場合がある」「巻数が増えた作品は本棚を圧迫するため電子版で揃えている人が多い」といった事例をもとに考えているという。

 ただ、これは一般向けマンガでの話。18禁の場合は事情がまったく異なる。18禁では、もう「紙よりも電子書籍」が当たり前になりつつあるのだ。

「すでに、エロマンガの市場は電子書籍が紙よりも増えています。紙で出版するのは、電子で売上がよかったものだけという方針の出版社も多いんです」

 そう話すのは、エロマンガ大手の編集者。エロマンガの場合、もはや紙の単行本は秋葉原などの専門書店が売上の大半を占めている状況。紙のほうはコレクターアイテム化しており、一般では電子書籍のオマケのようになっているのである。

「エロマンガの場合、実用重視ですから、いつでもどこでも買うことができる電子書籍版の需要が高いのは当然。それに作家ごとに、単話で買うこともできますし」(同)

 ネットで発売を知った時、すぐに買えるという利点が電子書籍にはある。それは、エロマンガに限らず、一般向け作品でも変わらない。読者が手に取る機会を増やすためにも、もっと「紙と同時発売」が増えてもよいのかもしれない。
(文=特別取材班)

エロマンガでは、すでに電子書籍がメインに……マンガ単行本の「紙と同時発売」は売上を増やすのか

 紙の本とその電子書籍版の発売日がズレることは、売上にマイナスを及ぼすのか。マンガ家の問題提起が注目を集めている。

 この問題を提起しているのは『映像研には手を出すな!』(小学館)などで知られる大童澄瞳氏だ。

 大童氏は自身のTwitterで、根拠はないとしながらも「電子版と紙版の販売日ずらしたところで、書店にも出版社にも作者にもなんの意味もない。むしろ悪い影響しかない。」と発言。「電書読者に発売日の油断やミスを誘う事で起きるマイナス効果が大きい」のではないかと記している。

 最近、マンガに限っても電子書籍の需要は伸びている。電子書籍の大手イーブックスなどでは「紙と同時発売」と記された新刊も、当たり前の存在だ。それでもなお、電子書籍版は紙の単行本が出てしばらくしてからという作品も多い。このブランクを生んでいる要因は何か?

「出版社内でも同時に出すか、電子書籍版はしばらく時間を置くか作品によって対応はさまざまです。読者の傾向から見て、紙の単行本を求めるほうが多いのではないかと判断できる場合、電子書籍版を遅らせることが多いのです。ただ、明確な根拠となるデータがあるわけではありません」(編集者)

 判断材料はさまざまだが「作品によっては、紙でないと読みづらい場合がある」「巻数が増えた作品は本棚を圧迫するため電子版で揃えている人が多い」といった事例をもとに考えているという。

 ただ、これは一般向けマンガでの話。18禁の場合は事情がまったく異なる。18禁では、もう「紙よりも電子書籍」が当たり前になりつつあるのだ。

「すでに、エロマンガの市場は電子書籍が紙よりも増えています。紙で出版するのは、電子で売上がよかったものだけという方針の出版社も多いんです」

 そう話すのは、エロマンガ大手の編集者。エロマンガの場合、もはや紙の単行本は秋葉原などの専門書店が売上の大半を占めている状況。紙のほうはコレクターアイテム化しており、一般では電子書籍のオマケのようになっているのである。

「エロマンガの場合、実用重視ですから、いつでもどこでも買うことができる電子書籍版の需要が高いのは当然。それに作家ごとに、単話で買うこともできますし」(同)

 ネットで発売を知った時、すぐに買えるという利点が電子書籍にはある。それは、エロマンガに限らず、一般向け作品でも変わらない。読者が手に取る機会を増やすためにも、もっと「紙と同時発売」が増えてもよいのかもしれない。
(文=特別取材班)

新幹線殺傷事件「発達障害と犯罪」は、本当に無関係なのか――賛否を呼んだドキュメンタリー番組が書籍化

 6月9日、東海道新幹線の車内で刃物を持った男が乗客3人を殺傷した事件は、社会に大きな衝撃を与えた。この事件を報道するにあたって、ニュース番組『Mr.サンデー』(フジテレビ系)では、小島一朗容疑者が「発達障害」であったことを強調。毎日新聞デジタル版では、記事のタイトルに「容疑者自閉症?」と記載し、翌日、不適切な記載として謝罪をした。

 近年、重大犯罪と発達障害とを関連付けようとする動きは少なくない。もちろん、犯罪はさまざまな要因が複合的に重なったことによって引き起こされるものであり、「発達障害=犯罪」という短絡的な見方はただの偏見にすぎないことは言うまでもない。一般の人が犯罪を犯す割合が約0.2%である一方、発達障害を含む精神障害者が犯罪を犯す割合は約0.1%しかない。

 だが、発達障害と犯罪とは「まったく」関係がないのだろうか――? ジャーナリストの田淵俊彦氏による著書『発達障害と少年犯罪』(新潮新書)は、タブーとされる発達障害と少年犯罪との相関について迫った著作だ。

 2014年12月に起こった「名古屋大学女子学生殺人事件」の犯人は、精神鑑定の結果「自閉症スペクトラム障害(ASD)の可能性がある」と診断され、同年7月に起こった佐世保女子高生殺害事件でも、裁判長が「(被告に)ASDが見られる」と、事件の要因のひとつとして発達障害の存在に言及している。

  ASDとは、自閉症やアスペルガー症候群などが統合されてできた診断名。コミュニケーションに困難を来し、限定された行動や興味を示し、反復行動などを起こす。原因は特定されていないが、何らかの生まれつきの脳機能障害であると考えられており、しつけや愛情不足といった親の育て方が直接の原因ではないとわかっている。

 本書を執筆するきっかけとなった、田淵氏がディレクターを務めるドキュメンタリー番組『障害プラスα~自閉症スペクトラムと少年事件の間に~』(日本テレビ系)は、ASDを持つ当事者や親族からの賛同を得た一方で、「差別が助長される」「無神経な番組」「殺意さえ覚える」などと、多くの非難を浴びた。もちろん、「発達障害がそのまま少年犯罪に結びつくわけではない」と強調するように、田淵氏もまた発達障害=犯罪と短絡的に考えているわけではない。しかし、彼は発達障害と犯罪とが「結びつく可能性があるとしたら、なんなのか」と、そのタブーにあえて向き合おうとしている。

 本書の核となっているのは、日本における発達障害研究の第一人者である精神科医の杉山登志郎氏による、以下のような言葉だ。

「発達の障害とか凸凹だけでは、触法とか問題行動になることは非常に少ないです。そこに『プラスαの要因』がないといかんのですね」

 いったい、どういうことなのか?

 03年にあいち小児保健医療総合センターにて行われた杉山氏による調査では、ASDの治療を受けている265人のうち、行為障害と診断された者、犯罪で警察に逮捕されたことがある者は11人、およそ4.2%だった。16年の刑法犯検挙人員は10万人あたり347.1人、全体の0.35%となっている。単純に比較すれば、ASDの治療を受けている少年のほうが約12倍高い計算となる。また、京都の児童精神科医・崎浜盛三氏が、ある家庭裁判所が1年間に受理した少年犯罪のうち、無作為に抽出した63件の調査記録を詳しく分析したところ、実に14.2%もの少年が、ASDが疑われる結果となった。

 これらのデータは、犯罪者もしくは犯罪者予備軍の子どもの中には、発達障害を持っている者が少なからずいるということを示している。どうして、そのような傾向が出てしまうのだろうか?

 杉山氏によれば、そこに重大な影響を与えているのが、虐待やいじめなどの「迫害体験」だという。

「(親からの)過剰な叱責もそうですし、学校でのいじめもそうですね。そういう子ども虐待のような迫害体験が加算された時に、発達の凸凹を持った人っていうのは、非常に調子がおかしくなるんですね」

 虐待被害は、子どもの脳の機能に対して重篤な症状を引き起こす。恐怖、不安、悲しみ喜びといった情動に関わる扁桃体が虐待などによって萎縮すると、自制心をなくしたり、判断能力を鈍らせる。生まれつきの機能障害からくる発達障害を持つ子どもの悪い面だけを顕著化させ、負の症状を助長してしまうのだ。杉山氏の調査では、ASDを持つ子どものうち、ネグレクトを受けた子どもは3.7倍、身体的虐待がある場合は6.3倍も非行が増えることが明らかになっている。さらに、その背景には、発達障害に対する無理解から「手がかかる子」とみなされて虐待を受けてしまいやすい、あるいは集団になじめず、いじめの被害を受けやすいという傾向も無視できない。

 そんな杉山氏の言葉を受け、田淵氏はこう語る。

「このデータを総合的に分析すれば、次の事実が導き出せるだろう。発達障害にネグレクトや身体的虐待のような虐待が加われば、非行や触法行為に結びつく可能性が高くなるということだ。発達障害と少年犯罪を結ぶもの。その正体は虐待と考えて間違いない」

「発達障害が凶悪事件を引き起こす」といった言説は、絶対に慎むべき偏見である。田淵氏の取材は、我々が憎むべきは発達障害ではなく、虐待やいじめといった暴力であることを明らかにしている。

(文=萩原雄太)

髭男爵・山田ルイ53世「一発屋芸人とは、“逆白鳥”なんです」

「ルネッサ~ンス」で一世を風靡した……という書かれ方もうんざりするほど経験しているであろう、お笑いコンビ・髭男爵。2008年のブレークから紆余曲折、当事者となった山田ルイ53世が自身と同じ「一発屋」という枠で語られる芸人たちの過去と現在を真摯なインタビューで紡ぎ出した著作『一発屋芸人列伝』(新潮社)が話題を呼んでいる。数々の文豪たちが執筆にいそしんだという新潮社の通称「缶詰め部屋」で、山田ルイ53世が「一発屋」という言葉に抱く思いを訊いた。

***

――「芸人さんが芸人さんの本を書く」というのは、バランスがとても難しいと思うんです。すごい熱い感じで書いてあると、読み手としてはちょっと引いてしまったり。

山田ルイ53世(以下、山田)そうですね。やっぱり身内だから。

――逆にこれをライターが書いたら、それもちょっと嫌な感じがするんじゃないかと。

山田 最初に編集者の方から「新潮45」(新潮社)で「一発屋芸人が一発屋芸人を取材する」というお話を頂いたときは、「ん?」「ちょっと変な感じになりませんか……」って、結構渋ったんですよ。おっしゃる通り、身内同士のかばい合いというか、傷のなめ合いみたいになったらほんまお寒い話ですし、かといって同じ芸人なのに、突き放しすぎるのもおかしい。そういう距離感は本当に苦労したというか、気を使いました。さらにそこに先輩後輩という概念もあって。でもいざやることが決まって、だったら最初はHGさんだなって。

――なぜHGさんだったのでしょうか?

山田 単純に言うと、すごく尊敬しているんです。そもそも「一発会」みたいな一発屋界隈を活性化させるような活動を、別になんの得にもならへんのにやってるんですよ。今のHGさんのポジションだったら安定してるし、普通なら、わざわざ人のためにそんなことやらへんよなと思うんです。だけどHGさんは、たとえば「一発屋総選挙」とか、そういうギミック作りをすごいしてくれてて、我々はそれに乗っからせてもらってる。

――一発屋の活性化。

山田 髭男爵が2008年1回売れて、翌年から堕ちていくっていう過程の中で「ルネッサンスのボリューム小さくなってないか」とか「もっと胸張って伝統芸にしていけばいい」みたいな発想を最初に言いだしたのが、HGさんとムーディ勝山君なんですよ。僕、結構ネガティブなので、そういう考え方は思ってもみなくて、すごく明るい気持ちにさせてもらった。本当に断酒会の主催者みたいなんですよ。皆で輪になって座って、一発屋同士、気持ちを吐露する。HGさんって、NPO法人の代表みたいなところがあるんです。自分のためじゃなく、人のためにやってるっていう。

――断酒会というたとえが出ましたが、そういう会で一番難しいのは「自分はアルコール依存症である」と認めることだという話を聞きます。一発屋と呼ばれる方たちが「自分は一発屋である」と認めることに、苦悩はあったりするものでしょうか?

山田 そうですね。自分の負けとか、ダメなところとか、失敗したことっていうのをゴクリとのみ込むっていうのは、別に芸人じゃなくて人間誰しもしんどいし、できるならやりたくないことだから、そういう意味でやっぱり……生々しくなるんですかね。「一発会」は心のセーフティネットっていう部分もあって。これよく最近みんなで話すんですけど「これからの一発屋の子は楽やな」って。こういう受け皿があるから、ある程度勢い落ちてきたな……ってなっても「一発会入りましてん」っていうネタもできるし。それはひとえに2人のおかげだと思う。

――本当にたくさんの芸人さんがいる中で、テレビに1回出るだけでも大変なことで、そこからさらに売れるっていうのは本当に限られた人たちであるのに、「一発屋=失敗」みたいな風潮もおかしいっちゃおかしな話ですよね。

山田 いや、それはあっていいし、しかるべきですよ。こんな本書いて本当に僕はクソダサいんですけど、お茶の間の方が「この芸はこういうギミックでできてて、こういう歴史があって、だから笑わなあかん」みたいなことは絶対ないわけで。もうただボーッと見るのが、世間のスタンスじゃないですか。芸人が自分から「すごいでしょ」って言うなんてみっともないから、もちろん誰も言わない。ただ僕はこういうご縁を頂いたので、皆が言わない分、自分が犠牲になって言いましょうっていうのはあります。それは書くモチベーションの一つとしてありました。だから基本ダサいことだと思ってるっていうのは、ご理解いただきたいです。

――この本がすごいなと思ったのはまさにそこで、変な言い方ですが、もしかしたら芸人さんを二度殺してしまうかもしれないと。その危険を感じながら書くって、ものすごい緊張感だったのではないかと。

山田 本当に手前味噌ですけど、そのバランスはすごい気にしました。もちろん褒めすぎたらあかんし、こき下ろしすぎるのもおかしいし。だからありのままをなるべく写生するぐらいの、ありのままを言語化するぐらいの気持ちでやってました。

――書く時のスタンスとしては「芸人同士」ですか? それとも「取材者と対象者」みたいな感じですか?

山田 それは……どっちもありましたよね。同じ芸人やっていう意識では、やっぱり書く時に、聞いた時以上にはせなあかんと。最低でも同じぐらいの面白さでは書かないと、スベらせたことになるから。たぶん僕が芸人じゃなかったら、そのへんは許されると思うんですけどね。ただ芸人同士っていうことを意識しすぎると、より突っ込んだ話もできないし。自分の中で、「インタビューする人」っていうのと「芸人」っていうのとの狭間でのせめぎ合いみたいなのはありました。

――この本の生々しさは、そういう部分にも起因しているんですね……。

山田 僕の場合は基本的に自分自身の恨み、私怨みたいなところも執筆の原動力の一つだったから、皆さん話しやすかったかもしれない。ちょっと真剣な話、突っ込んだ話、家族の話、あるいは「想い」の部分を話している時、やっぱり僕とHGさんなり、僕とジョイマンさんなり、僕と相手の芸人さんとの間に脱がれた衣装が置かれたように見えたんですよ。お互い衣装を脱いで、真ん中に置いて、生身の人間でしゃべろうみたいな部分もありました。

――自分の象徴ともいえる衣装を言葉で脱がせていくって、それは本当にインタビュアーとしての理想だと思います。

山田 いや、僕は取材や執筆に関しては素人なので、もちろんすぐにできたわけじゃないです。やっぱりHGさんから始まって、「新潮45」(新潮社)で連載10回やっていくうちに、後半になればなるほど要領を得てきたというか、つかめてきました(笑)。

――「つかんだな」と実感したのは、どなたの部分ですか?

山田 うーん……やっぱりムーディ君と、天津木村さんのバスジャック事件かなぁ。いま振り返ってみれば、あのバスジャック事件書いてる時の熱い気持ち、追及していかなあかんみたいな気持ち、あの時、名前わからなかったですけど、あれがジャーナリズムだったんですね。真実を突き止めなければという熱いジャーナリズム。

――そういう意味ですと、波田陽区さんのところが……ちょっとそれまで読んでいたものと毛色が違うような気がして……。

山田 皆それ言う! なぜそう思ったのか教えていただきたい!!

――バスジャック事件の「書いているうちに探っていかなきゃみたいな気持ち」と逆というか、これ以上あまり探っちゃいけないんじゃないかみたいな、どこか心のブレーキが働いたのかなと。勘繰りですが。

山田 なんとなくわかります……。だからまず言えるのは、あの原稿そのまま通してくれた波田君、格好いいっていう。これ皆さんに言えるんですけど、全然原稿直さないんですよ。そこがやっぱり芸人の矜持というか。全体通して面白かったってなったら、このままでいいよっていう、この潔さ、格好良さ。その最大が波田君ですけど、僕も「ちょっと悪いな」って思う部分もあったんです。「言い過ぎてるところあるな」って。

――こき下ろしてる感じには全然思わなかったです。皆さんドキュメンタリーなんですけど、波田さんは特にその感じが強かった。

山田 ドキュメンタリーが過ぎました。

――だからでしょうか……自分の中にある波田さん的な要素がうずくというか。

山田 波田君の要素が入ってるんですか、自分に(笑)。

――人間が持ってる最も人間くさい部分というか、波田さんはそれを惜しげもなく見せてくれる。コウメ太夫さんに対する感覚とは全然違うんですよね。

山田 コウメさんは、ちょっと神に近い部分がありますから(笑)。

――そういう意味でも、読み比べると皆さん違いました。

山田 皆さん、違う生きざまですよね。そうそう、昨日HGさんに会って、僕ちょっとびっくりしたんですけど、最近ハードゲイの衣装、2カ月に1回しか着てないって。RGさんとの正統派漫才、レイザーラモンの芸で評価され始めてるから、あのハードゲイの衣装着るのが、自分で主催してる一発屋イベントでしかないらしいんです。だからか……ちょっとやっぱり似合ってなかったですね(笑)。着せられてる感じ。「コスプレキャラ芸人」として堂々と胸張ってた先輩が少し恥ずかしそうにコスプレしてるっていうのは、正統派漫才で評価を得た一つの弊害やなと感じました(笑)。

――「堂々と伝統芸にしていけ」と言っていた方が(笑)。

山田 ただね、そのキャラ物の芸人がスーツ着て正統派でもう一回再評価されるって、本当すごいんです。密集した林の中にあるバンカーからボール打って、ワンオンするぐらいの見事なリカバリーなんです。

――山田さんご自身はどうですか? 執筆活動をしながら髭男爵としていざ営業やテレビ出演となった時に、「ちょっと恥ずかしい」と感じたりしますか?

山田 それはないですね。僕エゴサーチとかすごい好きなんですけど、「本めっちゃ面白かった、ただ髭男爵のネタは好きじゃないけど」「髭男爵のギャグでは笑ったことないけど、この本は笑った」と、僕と髭男爵を2つに分けるんですよね、皆さん(笑)。あなたが面白いっていうこの本は髭男爵である俺が考えてるし、これも髭男爵の芸のうちなんだっていう感覚なんですけど、どうも受け取り手の中にはそうじゃない人もいるみたいで。

――批評をしてる人に対しては皮肉なことかもしれないですけど、この本はまさにそれを一つにしてくれたんですよね。今までバラバラだった芸人さんのネタや人間性や生き方、それをギュッと一つにしてくれたっていう。

山田 さっきも言いましたけど、お茶の間の人は、ボーッと見ていてもちろんいいんです。ただお笑いのみならず、世間一般で皆バッサリ斬りたがる風潮がすごいじゃないですか? 発信者する側の色気というか、欲を感じるんですよ、そこに。何かをバッサリ斬って、注目されたい。それって結局、皆ちょっと一発当てたいんやん、みたいなね。

――「1億総実は一発当てたい」化……。

山田 それはあると思う。でも、この本に出てくる芸人は「一発」っていう言葉ついてますけど、読んでいただいたらわかる通り、本当に緻密にコツコツ組み上げた芸をやってるから、その果ての一発なので。まあでもね、一番いいサンドバッグであることは間違いないですから。わかりやすく一回大きく成功して、わかりやすく墜ちるっていう。だから「あの人は今」みたいなくくりと違って、現代の一発屋っていうのは「リアルタイムで負けを見せる仕事」みたいなことになってる。

――すごい。

山田 たとえばいま芸能界にいない人を、芸能界での勝ち負けで叩くことってないじゃないですか。ただ、一発屋って特殊で、現役で負けを見せる仕事みたいになってるんです。当然我々も意識してそれやってる部分もあるし、叩きやすい。昔、歌舞伎町で一瞬話題になった殴られ屋みたいなもんです。

――以前8.6秒バズーカーさんにインタビューした時、絶頂の時だったんですけど「一発屋になりたいんですよ」って言っていたのを、今ふと思い出しました。

山田 たぶんそれ、絶頂の時だから言えることですよ。リアルに墜ちてきた時は、そんな心境にはならない。焼きごてを喉に突っ込まれるぐらい、難しいですから。最近、HGさんのやってる一発屋ライブに、ようやく8.6秒が自首してきたって聞きました。HGさんは、これを「自首」と呼ぶんですけど(笑)。

――自首すれば、誰でも入れるんですか……。

山田 そうです。むしろ、自首しないと無理なんですって。一発屋は人から言われることじゃない、自称する人しか名乗れない。芸人の間では、一発屋を自称していない人に対しては、一発屋イジリしないんです。

――それが、その方にとってオイシイかどうか。

山田 僕らは一発っていうか0.8発くらいですけど、HGさんや小島よしお君みたいな、あんなすさまじい経験ってなかなかないと思う。普通に今テレビに出てる売れっ子の人でもないと思う。だからすごいし、大きく勝ったあと大きく負けた人間の生きざまっていうのは、何かしら響くところが、刺さるところがあると思います。“逆白鳥”なんですよね。

――逆白鳥ですか?

山田 白鳥は水の上では優雅にしてるけど、下はバシャバシャ水をかいてる。我々の場合、水の上でバシャバシャやってて、下はしっかり平泳ぎの感じ。今回は、その水より下の部分を、ちょっと書かせてもらったっていう。

――本当に……この本にはそういう的を射たたとえがたくさんあって、嫉妬すら感じました。書く職業の人間として。

山田 いや、逆白鳥は僕、2週間前から考えてましたから(笑)。

(取材・文=西澤千央)

 

兄貴と舎弟が、ただただイチャイチャ! 『おっさんずラブ』を超える特濃BL漫画『なかよし番外地』

 先日、惜しまれつつも最終回を迎えたドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)。おじさんが年の離れた女子に恋するストーリーなのかと思いきや、モテない33歳の主人公・春田創一(田中圭)が、その上司である55歳の部長・黒澤武蔵(吉田鋼太郎)やイケメンの後輩・牧凌太(林遣都)らに迫られるという、メンズだらけの胸キュンラブコメディでした。

 つまり恋愛ドラマだけど、上司(♂)×部下(♂)、先輩(♂)×後輩(♂)みたいなカップリングがメイン。深夜帯とはいえ、地上波で乙女チックなハートを持つおじさんが部下を全力で口説くシーンは、かなりのインパクトがありました。

 そんな中、もっともっと、鳥肌が立つほどに濃厚なおっさん同士のピュア・ラブが読めるマンガが発売されましたよ。その名も『なかよし番外地』(KADOKAWA)。真のおっさんずラブは、このマンガを読まずして語れない!

 作者は中川ホメオパシー先生。『抱かれたい道場』(秋田書店)、『干支天使チアラット』(リイド社)などなど、一見かわいらしくもちょっと頭がイカれてる作品ばかり繰り出すことでおなじみの中川先生による新境地は、ヤ◯ザなルックスの、コワモテおじさん同士のBLです。

 登場人物は、いったいどこのドン・ファンだよ! みたいな、明らかにカタギじゃない雰囲気を持つ「兄貴」と、頭がパッパラパーな舎弟分「辰」。本作品で描かれるのは完全に2人だけのラブラブな世界であり、そこにはラブコメにありがちな三角関係などは存在しません。

■顔とセリフのギャップがとにかくスゴイ

 本作は、そのとろけそうにスウィートなセリフだけを見れば、少女マンガとなんら変わらないのですが、決定的に違うのは2人のビジュアル。常にスーツ、サングラス、傷だらけの顔にオールバックという、控えめに言っても「組長」クラス(たぶん50代?)の兄貴と、ものすごいチンピラ臭を漂わせつつ、ヤバいクスリやっているかのように目がブッ飛んでる、舎弟分の辰(40代?)、この2人のおっさんが……

「やめてよ兄貴…ゲレンデが溶けちゃうよ…」

「辰は本当にフルーティーなコだね」

みたいな愛のセレナーデの応酬を見せつけてくれます。ゲレンデが溶けるまで恋したいのは広瀬香美だけではなかったんですね……。

 そんなわけで、素人が興味本位で手を出したら間違いなく「オエェーッ!」となる、でも慣れてくると抜け出せなくなる、まるで1週間寝かせたドリアンのような特濃の世界観が繰り広げられているのです。

■ヘタな乙女よりもピュアな2人の愛

 まるで殺人鬼のような邪悪なマスクを持った兄貴と辰の♂×♂カップルですが、そこには暴力もエロもない、ひたすらピュアで善良なラブ空間があるのみです。作品に漂うほっこりムードは、癒やしすら感じさせてくれます。

 ゲーセンのモグラたたきの台の前で何もせず佇む兄貴を見て、辰が「どしたの兄貴? 早くたたかなきゃ」と尋ねます。

 すると兄貴は、

「俺はたたかないよ… だってこのコ(モグラ)たちをたたく理由がないもの…」

 モグラたたきのモグラすら思いやる兄貴の優しさに惚れ直してしまう辰なのでした。

 ね!? 実にほっこりエピソードでしょう? でも実際は、2人の顔が極悪すぎるのでそんなにほっこりしないんですが。このギャップ、言葉だけでは説明が難しい……。

 ほかにも、節分のエピソードでは、鬼をやろうとする兄貴に対して

「えーーーッ、兄貴に豆をぶつけられないよォ!」

と、代わりに鬼をやろうとする辰に対して

「辰に豆をぶつけるぐらいなら死んだほうがマシさ…」

などと、お互いを思いやる気持ちが爆発! 結局、2人仲良く鬼をやることになるのです。なんなのこの展開……。

 とにかくどのシーンも、ゲレンデだけじゃなく脳まで溶けそうなのです。でも2人の顔を見ると我に返ります。このギャップ、伝わりますかね……。

■画に慣れたら後は、ひたすら甘くとろけるようなセリフを浴びるだけ!

 実は作中、兄貴と辰はヤ◯ザであるとは一度も明示されていません。それどころか、この2人は一体どんな職業で、何歳で、どんな関係性なのかも説明されてないのです。あんな顔してるけど、もしかしたら2人は心優しき妖精さんなのかもしれません。そう、ティンカーベル的な。

 そんな2人のビジュアルに慣れたら、あとはとろけるようなセリフのやりとりを浴び続けるだけです。

「なんでこんなイタズラするの兄貴…?」

「辰の困った顔が急に見たくなったから…」

「辰の怒った顔もすごくイイね…」

「…なんだよソレ… チェッ…調子狂っちゃうなァ」

「辰もよく見たらまつ毛がすっごく長いんだね…」

「ちょ…どこ見てんの兄貴ィ…(ハート)」

 うーん、キモカワ! しかも、キモとカワの比率が9.8:0.2くらいです。というわけで、『おっさんずラブ』とは次元が違う、おっさん同士の特濃BL『なかよし番外地』を紹介しました。

『おっさんずラブ』、そして『なかよし番外地』……今まで、世間的にはほぼタブーだったおじさん同士のラブストーリーが解禁され始めているこの流れ、サイゾー読者の皆さんも「もしかしたら俺もそっち系なのかも」と、新しい扉を開くタイミングがついに到来したのかもしれません。大丈夫! 本作の魅力がわかるなら、あなたもその素質ありです!

(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん <http://ablackleaf.com/>)

◆「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

全国屈指でも蔵書数は1万2,000冊程度……電子書籍図書館がショボくて、青空文庫ばかりの理由とは?

 全国屈指の蔵書数を誇る図書館が、神奈川県綾瀬市に誕生した。

 ただし、電子書籍に限ってである。綾瀬市は、市内に鉄道駅がないという自治体。これまで図書館はあっても交通アクセスが不便なために利用率は低い。そこで、来館しなくても利用できる電子書籍の貸し出し導入を決めた。

 気になるその蔵書数は、1万2,000冊!!

 ……聞いて驚くが、とてつもなく少ない。おまけに、そのうち1万1,000冊は「青空文庫」に公開されているものの中から、図書館が選んだものだ。

 図書館側では「利用者の利便性を重視した結果」としている。とはいえ、青空文庫はサイトにアクセスすれば、誰でもすぐに読むことができるもの。対して、綾瀬市立図書館の場合には、利用者登録が必要になる。

 今後、蔵書数は青空文庫のもの以外も増やして2万冊前後になる予定とはいうが、現状サイトにアクセスしても、選書意図がまったくわからないラインナップになっている(https://ayase.libraryreserve.com/10/50/ja/Default.htm)。

 それでも、蔵書数は全国屈指。それが、現在の日本における電子書籍図書館の現状なのである。すでに海外では電子書籍の貸し出しを実施している図書館も当たり前だが、日本は、まだまだ発展途上。別に綾瀬市だけでなく、電子書籍の貸し出しを行っている多くの図書館が、青空文庫の貸し出しを実施しているのだ。

 こんなに普及が進まない背景には、電子書籍の維持費の高さがある。

「電子書籍の貸し出しを実施すると、本そのものの購入費のほかに、サーバーの維持費などがかかってきます。ですから、紙の本よりも購入できる冊数は少なくなるのです」(都内の図書館司書)

 さらに、現状では電子書籍のフォーマットが統一されていない。それもまた、提供される電子書籍が限られる理由となる。

「問題は山積みですが、将来的には来館しなくても本を借りることができるメリットが生きてくるはず。まあ、長い目で見まもったほうがよいですね」(同)

 青空文庫ばかりになっているのは、あくまで「実験段階」だから。今後の進捗を見守ることにしたほうがいいのかも。
(文=是枝了以)

こんな時代もあった! 「働き方改革」の真逆を行く、お仕事大好きマンガ『働きマン』

 最近よく「働き方改革」という言葉を耳にするようになりましたね。フレックスタイム、時短勤務、モバイルワーク、高度プロフェッショナルにワークライフバランスなどなど……。ワークライフバランスなんて言葉は最高に憧れます! 一度でいいからバランス取ってみたい。そういえば、仕事が増えると過食になって体重も増える自分は、ある意味バランスが取れてるのかも!(そういうことではない)

 ……とまあ、そんなご時世ですが、2000年代には「働き方改革」とは真逆なコンセプトのマンガがもてはやされていました。それが、働く女子のバイブルともいわれた『働きマン』です。

『働きマン』の作者は安野モヨコ先生。「モーニング」(講談社)に2004~08年まで連載され、菅野美穂主演で07年10月期にテレビドラマ化もされました。同年1月期にはには『ハケンの品格』(いずれも日本テレビ系)なんてドラマもありましたし、とにかくデキる女性が社会に進出してバリバリ働く、というのが世の中の風潮だったのです。皮肉にも、その後すぐにリーマンショックがあり、派遣切りがあり……と、一気に不況ムードになってしまったわけですが。

 スピンアウト本もいくつか出ており、当時の勢いを感じさせます。『働きマン 明日をつくる言葉』(講談社)という名言集や、主人公・松方弘子(まつかた ひろこ)のライフスタイルをテーマにした『働きマン 松方弘子のMake It Beauty!』『働きマン 松方弘子のMake It Healthy!』(同)など。つまり弘子をお手本に、仕事ができて美しく、しかも健康的に生きる、かなり意識高めな女性像が理想とされていました。

 28歳独身、週刊「JIDAI」編集部の女性編集者である弘子は、人一倍熱い編集魂を持っており、一度仕事モードのスイッチが入ると、男勝りな「働きマン」となります。その間は通常の3倍のスピードで仕事をし、寝食恋愛衣飾衛生の観念は消失する……そう、仕事に命を削る性分なのです。そのため、彼氏とはたびたび険悪になり、セックスレス気味。お肌も体もボロボロ。負けん気の強さから同僚とも喧喧囂囂のバトルを繰り広げるなど、超絶ワーカホリック体質といえます。でも、当時はこれがカッコよかったんです。ブラック企業なんて言葉もありませんでしたし。

 作品中にちりばめられた名言の数々もグッときます。

「あたしは仕事したなーって思って死にたい」

「仕事で失ったもの、それを想い泣いた夜、でも仕事に救われる朝もあるから…」

「やれない理由を聞いてるんじゃなくて、どうやるか聞いてるんだ」

「若いのに、楽な仕事してんじゃねえよ」

などなど。実に熱いセリフですよね。でも今のご時世、本当にこんなこと言ったら、ブラック企業だとかパワハラだとか批判されかねません。時の移り変わりは価値観をここまで変えてしまうのです。

 主人公の弘子がこんなキャラクターなので、全体的にさぞかしブラック企業体質なマンガなのかと思いきや意外とそうでもなく、周囲のキャラクターはむしろ自分流を貫く、あんまり「仕事しない」人が結構出てきます。当時、率先して「働き方改革」を実践していたヤツらといえます。ではこれから、『働きマン』作品中で最高に「働かないマン」のベスト3を発表しましょう。

 

■田中邦夫(たなか くにお)

 編集部の新人類。趣味はファッション。できるだけ要領よく仕事をこなして、プライベートを大事するというスタンスなため、弘子には目の敵にされています。

「仕事終わってみんなで…みたいのが苦手。飲み行ってまで説教されたくねーっつーか。」

「オレは『仕事しかない人生だった』そんな風に思うのはごめんですね。」

 うん、わかるわかる! 仕事の時間を1秒でも少なくして帰社したい僕のような人間には、こういう考えのほうが共感できます。「働き方改革」な今こそ、彼みたいなスタンスは評価されるのかもしれません。

 

■梅宮龍彦(うめみや たつひこ)

 週刊「JIDAI」の編集長。かつて、大ニュースになった記事をいくつも生み出した凄腕編集者でしたが、「JIDAI」の全盛期が終わり、発行部数が半分になったところで編集長に据えられ、プライベートでは妻子と別居中。勤務時間中に他の社員に黙ってフラッと外出し、姿をくらましたり。やる気があるのかないのか、よくわからない感じです。

「オレは忙しーんだよ!! 鳥のエサ買いに行ったり、クリーニング屋行ったり、ゴミ出ししたり……」

「勢いだけがこの世で必要とされてるわけじゃない。侘びしい夜も侘びしい人もあっての世の中だ」

などなど、元凄腕編集者とは思えない、だいぶ枯れた感じになっています。しかし、いざ仕事モードになると弘子に対し、

「例の記事、お前好きなように書け、責任とってやっから」

 みたいな編集長らしいセリフも。仕事はしないが、責任は取る男――人望のある上司とは、案外そういうものかもしれません。

■梶舞子(かじ まいこ)

 編集部最強の「働かないマン」が、この舞子。独特のお姐さんな雰囲気を醸し出し、仕事をしなくても、定時上がりで連絡が一切つかなくなっても怒られない、治外法権ポジションにいます。

 担当する小説家センセイたちをとりこにする美貌で、しっかり遅れることなく原稿を取ってきます。もちろん、編集部内で「彼女が仕事してるの見たことないわよ、色目使ってんのは何度も見たけど」とか「担当の作家とはほとんど関係してるんじゃないの?」などと陰口を叩かれたりもしているのですが、

「弁解もしない、確かに私は男たちに特別扱いを受けているから」

などと、本人はいたって余裕です。実際、先生の趣味に付き合ってヌードモデルをやったりして、愛人同然の関係性なので、あながち陰口もはずれてはいないのですが。

「仕事…だと思ってないのかな。天才に奉仕するのは喜びだから」

と、持論を展開。さらに、社会人の基本「ほうれんそう」についても「抱擁、恋愛、創作」という独自解釈。誰にも真似できない高度なワークスタイルを実践しており、これこそまさに、究極の「働き方改革」といえるでしょう。

 というわけで、時短ムード漂う今だからこそ、胸に響くモノがあるかもしれない、ザ・お仕事マンガ『働きマン』を紹介してみました。実は作品としては完結しておらず、単行本4巻を最後に休載という形になっています。昨今の出版不況や働き方改革の風潮など、連載当時と今ではあまりにも状況が変わっているので、まったく同じ設定での再開は難しそうですが、復活するのであれば、今の時代をうまく取り入れつつ、出版不況をひっくり返すような熱さを持った新しい『働きマン』を読んでみたいな、なんて思ってしまいました。

(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん <http://ablackleaf.com/>)

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