大失敗でも、もう止められない2020年東京五輪……怒りのあまり、売れているのは「批判本」

 2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックは、どう転んでも大混乱は必至。もう、誰もが失敗を予測しながらも止めることのできない状況になっているようだ。

 前回、1964年の東京開催では、道路網やインフラの整備など、その後の経済成長に向けた基盤が作られた。でも、今度はむしろ経済を阻害する可能性すら出てきている。

 7月7日に開催された公開講座「東京2020大会に向けた輸送戦略」では、また新たな問題が浮かび上がった。この講座に登壇した、東京都オリンピック・パラリンピック準備局大会施設部の松本祐一輸送課長は通勤ラッシュ軽減のため、時差出勤や「ボランティア休暇」を求め、さらにネット通販についても大会中は購入を控えるよう「協力」を求めたのである。

 オリンピックというお祭りで盛り上がるのかと思いきや、まさかの「動くな」「経済活動をするな」という方針。もう、2020年が日本経済の起爆剤になるとは思えない。

 そんな状況下で、いま次第に書店で目につくようになっているのは2020年東京オリンピック・パラリンピックに絡む「批判本」だ。

 先日発売になった、本間龍氏の『ブラックボランティア』(角川新書)は、いま、もっとも問題になっているボランティアの動員の問題を告発する本。『電通巨大利権~東京五輪で搾取される国民』(サイゾー)のような、タブーに斬り込む著述を行っている人物だけに、ボランティアを用いた利権の構造を、シンプルに説明しきっている。

 2020年東京オリンピック・パラリンピックを軸にした「オリンピック批判本」は数年前から、ちらほらと出版されるようになっている。小川勝氏の『東京オリンピック 「問題」の核心は何か』(集英社新書)のように東京開催をテーマにしたものだけではない。ジュールズ・ボイコフ著『オリンピック秘史: 120年の覇権と利権』は、サッカーでオリンピック出場経験もある政治学者が描いた、近代オリンピックの闇の歴史である。

 2020年に向けての、個々の余りある腹立ちは、こうした批判本に手を伸ばす機会を与えているようだ。

「爆発的に売れているというわけではありません。でも、確実に毎日数冊は批判本が売れているという感じです。とりわけ新書は、カタルシスを得やすいのか、人気があるように見えます」(ある書店員)

 運営はグダグタ、酷暑で人死にも出るのではないかと危惧される2020年東京オリンピック・パラリンピック。今さら止められない状況で、せめて本を読んで怒りを誰かと共有したいという人は多いのか。
(文=特別取材班)

東京都の指定する不健全図書のみ軽減税率対象外の可能性も……出版業界「有害図書」の動向

 来年10月にも予定されている消費税10%への増税を前に、出版物に軽減税率を適用してもらい雑誌・書籍への増税を回避しようという動きが本格化している。そのために「有害図書」の排除に向けた動きが出版業界内で始まっているといわれるが、実態はどうなっているのか。

「有害図書」を排除することで、雑誌・書籍にも軽減税率を適用してもらおうとする出版業界の動向は、業界紙などで徐々に報じられている。

『全国書店新聞』7月1日号では、6月11日に参議院議員会館で開催された「活字文化議員連盟」と「子どもの未来を考える議員連盟」の合同総会の模様を報道している。

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来年10月の消費税引き上げ時に新聞、書籍・雑誌に対して確実に軽減税率を適用するよう求めていく活動方針(別掲)を採択した。日本書籍出版協会(書協)の相賀昌宏理事長(小学館)は、書協、日本雑誌協会、日本出版取次協会、日書連の4団体が「書籍・雑誌の軽減税率適用に関する制度設計骨子(案)」をまとめ、軽減税率の対象図書を区分する自主管理団体を設立すると報告。書籍・雑誌に対する軽減税率適用を訴えた。
http://n-shoten.jp/newspaper/index.php?e=595

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 これらの報道を見ると、軽減税率を適用してもらうための新たな自主規制団体の設立に向けた動きは、本格化しているように見える。だが、具体的な動向はまったく聞こえてこない。どうも、自主規制団体を設立する方針はあるものの、具体的にどのような団体にするのかは、まったく未定のようだ。

 さらに「有害図書」にされる可能性のあるアダルト系出版社中心の業界団体である、出版倫理懇話会は、こうした方針に批判も賛同もしていない状態だ。

「4月に、雑誌協会や書籍協会と話し合いの席を持ちましたが、まったく具体的な話は出てこなかった。あくまでも、4団体(日本書籍出版協会・日本雑誌協会・日本出版取次協会・日本書店商業組合連合会)がやっていること。こちらでは、どうなっているのかは、まったくわかりません」
(懇話会加盟社社員)

 すでに多くの報道で、新たな自主規制団体の設立が規定の方針のようになっている。だが、それ自体がポーズではないかという観測もある。

「出版業界団体の目的は、軽減税率を適用してもらうこと。そこで、議員に効果的に働きかけるために、軽減税率適用を考える時にネックになる<有害図書>について、業界には自主規制を行う気があるという姿勢を見せているだけとも考えられます」(業界紙関係者)

 この見解に立てば、仮に新たな自主規制団体が設立されたとしても、そこで<有害図書>とされる範囲は、かなり限定される可能性が高い。

「もっとも可能性があるのは、東京都の指定する<不健全図書>に準ずるというものです。東京都の指定自体、かなり数は限定されるようになってきていますので、出版業界としても受け入れやすいはずです」(同)

 とすると、出版社が自主規制でシール留めや18禁にしている雑誌・書籍は「自主規制されている」というロジックで、軽減税率を適用。不健全指定されたものは、自主規制がされていないから適用外ということになるのだろうか……?

 さまざまに批判される東京都の不健全図書指定制度。でも、出版業界内でも「指定される図書は、本来、成人向けコーナーに置くべきものではないのか。すなわち指定には蓋然(がいぜん)性がある」という見方をする人も多いのは、まごうことなき事実だ。

「表現の自由を守ろう」と叫ぶだけなら誰でもできる。さて、誰とどうやって、何を目指して戦いますか……?
(文=昼間たかし)

ああ、飲みに行きたい! 素晴らしき大衆酒場の世界……パリッコ『酒場っ子』を片手に飛び込もう!

 良い酒場エッセイの条件とは何か。

 思うにそれは、読んだら思わず「ああ、飲みに行きたい!」と居ても立ってもいられなくなる、そんな欲望喚起力の高さにあるのではないだろうか。

 その意味では、イキのいい酒場雑誌「酒場人」(オークラ出版)の責任編集を務めるなど、現在の飲酒シーンを牽引する酒場ライター・パリッコ初の酒場エッセイ集『酒場っ子』(スタンド・ブックス)はドンピシャだ。読めば気分はソワソワ、読み切るのももどかしく、本を持ってそのまま近所の居酒屋へ……となるに違いない。何を隠そう、筆者もその道を辿った1人である。

 本書で紹介されるのは、リーズナブルで敷居の低い、いわゆる大衆酒場と呼ばれる店がほとんど。とはいえ、一言に大衆酒場といっても、場所も店もさまざまだ。

 毎日大勢の人々が行き交う東京のターミナル駅にある店もあれば、私鉄沿線沿いにある地元民御用達の店もある。酒場好きには知られた名店もあれば、「え、こんなところにそんな良い店あったんだ!?」と驚かされるマイナー店だってある。さらには著者のホームである東京を離れ、関西・沖縄などのローカルな店を紹介する、旅情たっぷりのパートも。

 連日満員の人気店もあれば、場末の店も、なんならチェーン店だって分け隔てなく登場する。唯一の絶対条件は、そこが(自分にとって)魅力的な酒場であること、それだけ。

 パリッコの酒場エッセイの素晴らしさは、どんなタイプの店であっても、その場を、人を、そこで供される酒や肴を全身全霊で楽しんでしまう、そのおおらかさにある。そして、どこまでも「一飲兵衛」としてい続けるその姿勢に、読者は等身大の「酒場っ子」の姿を発見し、「おお、ご同輩!」とうれしくなってしまうのだ。「ホッピーを頼むと、中(焼酎)の量がおかわりするたびにちょとずつ増えていく(のがうれしい)」といった、随所に散りばめられた「酒場あるある」にも共感しまくること必至。

『酒場っ子』は、もちろんお店紹介的な側面もあるが、読者が登場する店のコンプリートを目指すような、いわゆるガイド本的なものとはいささか趣が異なる。実際、出てくる店が、すでにこの世に存在しないというケースも少なくない。

 かつての昭和の面影を色濃く残した大衆酒場は、酒場好きにとって、宝物のような存在である。しかし、平成の終わりがすぐそこに見えつつある今、同時にひどく儚い存在であるとも言える。店の老朽化、店主の高齢化、後継者の不在、都市開発などの理由から、驚くほどあっけなく、店は消えてしまう。気になる店があって、いざ入ろうとしたら閉店の張り紙が……なんてことはザラなのだ。

 後悔先に立たず。ならば、「ここは」と思った店があれば、飛び込んでみるしかない。確かに、中の様子が見えなければ怖いし、「常連客オンリーだったらどうしよう……」といった不安から、扉の前で二の足を踏んでしまうこともあるだろう。だが、そんな時こそ、本書がそっと背中を押してくれるに違いない。好奇心と、ちょっとした勇気さえあれば、至福の時間はもう目の前だ。
(文=辻本力『生活考察』)

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モリカケ問題も豊田真由子元議員も「エリートにありがちな話」 “高学歴モンスター”に対処法なし!

 モリカケ問題などで、日本における最高峰のエリートであるはずの官僚や政治家たちが平気でウソをついたり、責任を転嫁する様子を見ていると、思わずあぜんとしてしまう。あまりの横暴さ、ずさんさに、旧帝大を卒業しているような人々が、いったいなぜ……? と不思議に思ったことがある人も多いだろう。実は、そんなエリートたちがたどってきた華々しいキャリアと人格には相関があり、彼らだからこそ陥りやすい「モンスター化」の要因があるという……。

 精神科医の片田珠美氏による著作『高学歴モンスター 一流大学卒の迷惑な人たち』(小学館新書)は、政治家や医師、弁護士らの豊富な事例を用いながら、そんな困ったエリートたちを分析した一冊。いったい、彼らはなぜ「モンスター」となってしまうのか? そして彼らに遭遇したら、どう対処すればいいのだろうか? 

 2017年に報道された豊田真由子元衆院議員のスキャンダルは、世間の耳目を集めた。「鉄パイプでお前の頭を砕いてやろうか!」「このハゲー!」など、秘書に対してパワハラ発言の数々を浴びせていた彼女。さらに、園遊会に出席した際には、本来認められていない同伴者を入場させようとして一悶着を起こしていた。東大法学部を卒業し、旧厚生省の官僚から衆院議員に転身という輝かしい経歴を持つ彼女だが、その問題行動の数々は「高学歴エリートにありがちな話」であると、片田氏は分析する。

 一体、どういうことなのか?

 秘書に対して暴言を浴びせかけ、自分の都合が悪くなると「現実否認」と「自己正当化」を繰り返した豊田元議員。片田氏によれば、地位や名誉などを失う「喪失不安」や、自己愛が傷つくことを恐れるあまり、現実を受け入れられず願望を現実のように思い込む「幻想的願望充足」の心理状況などが、豊田元議員の言動から推測されるという。また、エリートたちはなまじ頭がよく弁が立つために、現実否認を続けることによって周囲を信じさせられると、自己の能力を過信してしまう……。そんな特質が、彼らの「モンスター化」を加速させるというのだ。

 豊田元議員以外にも、原発事故の自主避難者に対して「本人の責任」と発言し復興相を辞任した今村雅弘衆院議員、不倫疑惑が報じられた弁護士を政策顧問に起用した山尾志桜里衆院議員など、エリートの持つ特権意識や能力の過信があだとなり、非難を浴びる人間は枚挙にいとまがない。だが、そんな高学歴エリートたちの横暴は決して対岸の火事ではない。本書では、著者が接したり見聞きした、世間に紛れ込む迷惑な高学歴エリートの実像を描いている。

「完璧主義すぎるあまり些細なミスで怒り狂う金融機関の支店長」「依頼人を『レベルが低い』と悪しざまに罵る弁護士」といった例から見えてくる「高学歴モンスター」の実態は、自己陶酔的、傲慢で攻撃的、他人の気持ちを傷つけるのに鈍感……と、迷惑極まりない。まさに「モンスター」と呼ぶにふさわしい人物たちだ。

 では、運悪く彼らに直面してしまったら、どうすればいいのだろうか? 片田氏は「高学歴モンスターを変えるのは無理」と断言する。なぜなら、彼らには「モンスターである」という自覚がかけらもないために、それを変えることは至難の業。そのため、なるべく関わらないようにするか、周囲の人々もやり過ごすのが一番の対処法だという。どうしても関わらざるを得ない場合は、彼らをよく観察し、場合によってはスルーしたり、会話の証拠を残すことなどによって「自分自身の身を守るしかない」と、自衛の方法を伝授している。

 片田氏によれば、モンスターたちは、自分をまともに顧みることができないためにモンスター化する。本書を手にとって、彼らへの対処方法を学ぶとともに、自分が「モンスター」ではないか胸に手を当てて考えてみるべきだろう。

(文=萩原雄太)

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「貸出履歴は個人のプライバシー」大炎上の三郷市小学校図書館は、何が問題だったのか

 学校図書館の貸し出し記録をデータベース化して「活用」する埼玉県三郷市の小学校が実施している取り組みが、批判にさらされている。きっかけとなったのは、この取り組みに関する報道だ。

 いったい、何が問題だったのか。

 問題の発端となったのは、不動産事業を行うハウスコムが運営するサイト「Living Entertainment」に掲載された『1年間で1人あたり142冊もの本を読む埼玉県三郷市立彦郷小学校「社会問題の根幹にあるのは読書不足』というタイトルの記事(http://media.housecom.jp/misato/)。

 この記事で取り上げたのが、同市が実施する「日本一の読書のまち」という施策に絡む、三郷市立彦郷(ひこさと)小学校の取り組みだ。

 ここでは、この小学校の取り組みが、次のように記されている。

 * * *

三郷市は平成20年に読書活動を教育重点施策に掲げると、翌年には学校図書館のデータベース化を行い、平成22年には三郷市にある全ての学校でコンピュータ管理システムを整備しました。

前述の三郷市立彦郷小学校の鈴木勉校長によると、データベース化を行うことによって、児童ごとの読書傾向を学校側が把握できるようになり、今どんな本を読んでいるのか、あるいは1ヶ月で何冊の本を読んでいるかなどを的確に把握できると言います。

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 これが、瞬く間に批判を集めた。図書館において利用者が、どのような本を借りているかは絶対に漏らしてはならないもの。読書傾向から、個人の思想や嗜好といったプライバシーを丸裸にすることができるからだ。日本図書館協会の「図書館の自由に関する宣言」でも「読者が何を読むかはその人のプライバシーに属することであり、図書館は、利用者の読書事実を外部に漏らさない」ことを定めている。つまり、図書館に関わる者なら、絶対に守らなくてはならない大前提だ。

「近年では佐賀県武雄市の市立図書館がカルチュア・コンビニエンス・クラブを指定管理者にした際、Tポイントがたまる利用者カードにしたことで貸出履歴が図書館の業務以外に利用されるのではないかと問題になりました。ほとんどの図書館では、貸出履歴が、ほかの目的に利用できないようにするため、返却したら借りた人のデータが前回の1回分だけを残して消去されるようになっています」(図書館関係者)

 図書館関係者の貸出履歴に関する意識は繊細そのものだ。とりわけ、今でも語り継がれるのはスタジオジブリの映画『耳をすませば』(1995年)に絡む事件。

「よく知られている通り、この映画は貸出カードが、ストーリー展開上、重要な要素として描かれていますが、図書館業界では大きな問題となりました。これを契機に全国的にカードの廃止が進んだという経緯があるのです」(図書館関係者)

 批判を受けて三郷市側は、データ利用は貸出回数やクラスごとの貸出冊数といった数値だけという釈明に追われている。実施する側も取材する側もこの件に問題があることを理解していなかったことが、もっと大きな問題であろう。

(文=特別取材班)

親は子どものSOSに気づけない……日テレキャスターが20年以上の取材で聞いた“生の声”『いじめで死なせない』

 日本全国で、1年間に300人あまりの小中高校生が自殺を選んでいる。

 その原因の中でも大きな割合を占めているのが、クラスメートなどから受ける、執拗ないじめだ。暴力、暴言、無視、金銭をたかられるなど、肉体的、精神的な苦痛に耐えかねて自らの命を絶つ子どもたちの数は、過去20年にわたって減る気配を見せない。そんないじめ問題について、1995年から取材してきた日本テレビキャスターの岸田雪子は、大人たちに向ける形で、『いじめで死なせない 子どもの命を救う大人の気づきと言葉』(新潮社)という一冊の本を上梓した。

 いじめによって自殺や自殺寸前に追いやられた子どもや、その親たち、そして、子どもたちと直接学校で関わる教師らに取材を重ねた岸田は、彼らの生の声を聞きながら、その実態に迫ろうとする。本書に登場するNさんの長男は、小学5年生の頃、同級生から「きしょい(気持ち悪い)し、ノリも悪い、死んでほしい」という理由にもならない理由で10カ月にわたりいじめを受け続けた。K-1ごっこと称して殴られ、持ち物を隠され、総額50万円近くの金をたかられた。異変に気づいたNさんは、長男がいじめの加害者に金銭を受け渡す現場を確認したことで、その実態を明らかにした。

 だが、Nさんによれば、自分の息子がいじめられているという事実は、意外なほど気づきにくいものだったという。子どもから発せられるSOSのサインは、自信を失った様子、イライラした様子、寝付きが悪い、持ち物に落書きが多いなど、日常の些細な変化でしかなかった。やや古いデータだが、96年に文科省が行ったアンケート調査で、いじめられている子どもの保護者に「自分の子どもはいじめられていますか?」と質問したところ、半数以上の保護者が「いじめられていない」と回答。子ども自身が「いじめられていることを話した」という場合でも、2~4割の保護者が「いじめられていない」と答えているのだ(親と子どもと両方にアンケートを行う同種の調査は、以降、行われておらず、これが最新)。子どもたちのSOSは、一番身近な親にもなかなか届くことはない。

 では、子どもたちの置かれた悲惨な状況は、なぜ親たちに伝わらないのだろうか? いじめ被害の当事者であるNさんの長男は、当時の心理をこのように述懐している。

「一番つらかったのは、いじめられていることよりも、自分がいじめられるようなダメな息子でごめんなさい、と思うことだったんです」

「いじめられるのは自分が悪いからなんだってずっと思っていました。だから、誰かに相談しようなんて、思ってもみませんでした。自分のいちばん恥ずかしいことは、誰にも知られたくない。認めたくもない」

「親の前ではいい子でいたかったんです。いじめられている自分は本当に恥ずかしい、誰にも知られたくない自分で、いじめられていることをどうしても認めたくないという気持ちもありました」

 そんなためらいの気持ちが、周囲への相談を妨げ、被害者を孤立へと追いやっていく。彼自身もまた、自宅マンションの屋上から飛び降りる寸前にまで追い詰められていた。

 2010年、当時中学3年生だった真矢くんを自殺で亡くした篠原宏明さんはこう語る。

「子どもから『いじめ』っていう言葉が出たら、それはもう赤信号なんです。聞いた大人は、すぐに動かなきゃいけない。『いじめ』っていう言葉は『死』と同じです。『いじめ』は、『死』に直結します。そして子どもは一回しかSOSを出さない。それを見逃したら、子どもは諦めてしまう」

 また、両親と同様に、いじめ被害者の子どもたちが頼りにするのが、教師の存在。しかし、彼らもまた、子どもたちのSOSを容易に受け止められない。多くの教師が大量の業務を抱えており、中学校教師のおよそ6割は、時間外労働が月に80時間超の過労死ラインを超える。その結果「授業以外で子どもたちと話をする時間は1日に10分か15分くらいしかないことも多い」という状況が現実なのだ。さらに、ある教師は、いじめ対策をめぐる構造的な欠陥を次のように指摘する。

「いじめの認知件数は多くていい、と国からは言われるけど、実際問題として、多くていいと本気で思っている教師はいないと思います。教育委員会に対して、いじめが多いと報告すると、どうなっているんだと責められる空気があります。学校の評判に関わるのですから、やっぱりいじめは、ないに越したことありません」

 この構造が、教室で行われる「いじめ」を、「トラブル」や「けんか」として処理する傾向を生み、顕在化しないいじめはエスカレートの一途をたどる。

 このような状況に対して、親たちはどうやって子どもをいじめ自殺から守ることができるのだろうか? いじめの被害に遭い、文字通り死ぬほどの苦痛を感じながらも、なんとかそれを乗り越えたNさんの長男は、岸田に対して「救い」となった言葉をこう語る。

「親はいじめも心配するだろうけれど、学校を休んだら将来のことも心配するだろうと思っていたから、親から『休んでいい、逃げていい』って言われたときは、本当に楽になりました」

 自らもいじめられた経験を持つ岸田は、あとがきにこう綴っている。

「子どもたちは親をとことん愛している。愛しているからこそ、忙しそうに暮らす親に本音を見せることができず、ただ親の期待に応え喜ばせようと、精一杯背伸びしていることがある。親たちはそんな子どもたちの心に思いを馳せ、たとえ短い時間でも、目をこらし、心を澄まし、時に抱きしめるように彼らを見つめることが大切なのだろう。そんな親たちを社会で支える仕組みが必要だ」

 前述した教師の激務化だけでなく、両親の長時間労働や、それによって子どもからのSOSのサインを見抜く余裕がなくなってしまうなど、いじめ自殺がなくならない責任の一端は、周囲の大人たちにもある。子どもたちの命を守るために、取り組むべき課題は多い。

(文=萩原雄太)

突然の大地震、その時あなたはどうする? 実践的震災サバイバルマンガ『彼女を守る51の方法』

 6月18日に発生した「大阪府北部地震」では4名の方が亡くなり、建物や交通網などに多くの被害を出しました。

 さらに、7月初旬に西日本を襲った記録的豪雨は、広島、岡山、愛媛など12府県にまたがり、甚大な被害を拡大しています。日本のどこにいようとも、地震、火山、豪雨など、自然災害の危機からは逃れられる絶対安全な場所はないということをあらためて痛感させられますね。

 自然災害についての意識が高まっている今だからこそ、ぜひ読んでもらいたいマンガが『彼女を守る51の方法』です。東京・お台場にマグニチュード8の直下型地震が起こったら、東京はどうなってしまうのか――そんな震災サバイバルマンガです。

「週刊コミックバンチ」(新潮社)にて2006~07年まで連載されていた作品で、作者は『ライチ☆光クラブ』『帝一の國』の古屋兎丸先生です。

 以前、本コラムでご紹介した『ドラゴンヘッド』(参照記事)は、正体不明の巨大災害後の人間の絶望と恐怖を描いたサバイバルホラーでしたが、この『彼女を守る51の方法』は、震災後に帰宅難民となってしまった人々がどういう行動を取るべきか、という部分に主眼が置かれた実践的なものです。

 主人公・三島ジンはお台場にある、フジテレビもとい、アルプステレビの就職説明会にきていた大学生。そしてヒロイン・岡野なな子は、ゴスロリメイドの格好で「死の時、魂は完全に聖化される」とか「聖デストピアが、ソドム様が…」とかブツブツつぶやいている、病み系女子です。

 ジンは、お台場にビジュアル系バンド「サリン・ヘルヴァイン」のライブ追っかけで来ていた高校時代の同級生・なな子を偶然見つけ、話しかけますが、彼女は「私はロルコです、昔のことは覚えてません」などと意味のわからないことを話しだして、過去を否定。高校時代、ジンはなな子のことが好きだったのですが、変わり果てた彼女にドン引き。この娘を守る方法が本当に51も存在するのでしょうか……。

 実は、なな子は高校時代にいじめに遭い、人間不信になってしまっていたのです。なな子の背負っていたつらい過去を思い出したジンは、彼女を放っておけず、めげずに話しかけるのですが、そんなジンをよそに、自暴自棄になって滅びの呪文「バルス」を唱え続けるなな子。やっぱり、こいつヤバイ……とその時、ものすごい轟音とともに激しい揺れが発生。そう、マグニチュード8の東京直下型地震が発生したのです。2人のいるお台場は震度7。揺れが収まると、目の前には地獄絵図が広がっていました。

 人が乗ったままの観覧車は折れ曲がり、建設中のマンションは倒壊、液状化でマンホールがせり上がり、地面は水浸しです。ゆりかもめは脱線・炎上し、ショッピングセンター内も死者だらけ、アルプステレビはケガ人だらけで野戦病院のようです。恐るべし東京直下型地震……。

 ジンとなな子はお台場を脱出し、2人の家がある新宿・早稲田を目指します。しかし、そのためには余震で揺れが続く恐怖のレインボーブリッジを渡り、震災後のアウトローが徘徊する六本木や、ギャングの巣窟となっている渋谷を抜けて歩いていくことになります。未曾有の崩壊に陥った東京には、多くの危険と困難が待ち受けていたのです。

 そんな流れで2人の目を通して、震災直後にパニックを起こした人々の心理状態や、一体どう行動するのが正解なのかなどが描かれている作品ですが、その中でも特に知っておいたほうがよさそうな内容を一部ご紹介します。

■ケガの止血にはナプキンを使え!

 太ももにガラスが突き刺さり、大量出血している女の子を助けるため、ジンはネクタイで太ももを縛り、さらに女の子の持っていたナプキンを利用して止血します。ナプキン! そういう手もあるのか!! 考えてみれば、血を吸収するためのテクノロジーの粋が集まっているわけですから、絶好の止血帯というわけです。

 大ケガしたらナプキン。いざという時のためにナプキン。特に女性はぜひ覚えておきたいですね。

■災害時はハイヒールの足を折れ!

 震災後は路面状態が悪く、亀裂が入っていたり陥没していたり、浸水していることもあります。そんな時、歩きにくい靴ではとてもサバイバルできません。ハイヒールを履いているのなら、思い切ってハイヒールの足を折って動きやすくしてしまいましょう。

 ちなみになな子は、ゴスロリスタイルの厚底パンプスを履いていたため、倒壊して無人となったショッピングセンターのマネキンが履いていたスニーカーを拝借。盗むんじゃないよ、借りるだけ! 

■パニックが発生したらとりあえず、しゃがんで大声を出す!

 お台場脱出のためにレインボーブリッジを渡るジンとなな子。しかし、レインボーブリッジを渡っている最中に巨大な余震が発生して橋が大きく傾いてしまい、橋が崩れるかもとパニックになった人の波が発生。このままでは、橋を渡る前に人の波にのまれてしまいます。その時ジンはすさかず、なな子に向かって大声で「しゃがめ!」「身を固めろ」「頭を守れ」と叫ぶことで偶然にもパニックが収まりました。

 誰かが突然しゃがむと周囲の人も反射的にしゃがんでしまう、という群集心理が偶然にも発生したのです。平常時にやると変な人扱いされそうですが、非常時にパニックが起こったら、冷静になってまず「しゃがむ」というのが有効そうです。 

■震災後はレイプマンがいっぱい! ミニスカ・お色気は厳禁!!

 メディアではほとんど報道されませんが、実は震災後、治安が不安定な状態につけ込んだ犯罪、特に強姦などが起こることもあるみたいです。酒を飲んだ男性がその勢いで……というケースが多いそうで、女性は要注意です。

 作品中盤で登場し、ジンやなな子と行動を共にするリカという少女は、ミニスカートにギャルメイクで、震災後も男に色目を使って食料を分けてもらいながら賢く生き抜いていましたが、調子に乗りすぎて六本木のアウトローたちに囲まれて襲われてしまいました。

 ミニスカートや露出の多い服装をしている場合は、できるだけ着替えたほうがよさそうです。

 さらに作品後半の舞台となる渋谷は、政府からの救援が1週間近く来ない状況で、ギャングたちによるレイプなどの犯罪の巣窟となっており、109ならぬ009(マルキュー)はギャングたちから逃れた女性だけで籠城する女の城と化していましたが、精神的ストレスの限界となった帰宅難民たちが暴動を起こし、マルキューに一斉に襲いかかるシーンがあります。

 しかし、マルキューにいた女性陣は、洋服を極限まで重ね着して、目の下にクマ、顔にニキビやソバカス、鼻の穴も大きく描いて、眉毛は太く眉尻は下げるという究極のブサメイクにより、男たちに襲われるのを逃れたのです。震災時は女であることを捨てる。究極の選択といえますが、これで身を守れるなら簡単なもんです。

■骨折ぐらいでは治療してもらえない! 災害医療トリアージ

 男たちにレイプされ、心身ともに傷ついたリカの体を医者に見せるため、病院へ向かうジン一行。

 しかし、そこで行われていたのはトリアージという、救命医療の方法。命を救える可能性がある人を最優先で治療するためのもので、けが人が赤、黃、緑、黒などのタグで色分けされており、赤以外のタグの人は治療をしてもらえない状況でした。

 たとえ骨折していたり、眼球が飛び出ていても、命には別状がないということで治療をしてもらえないのです。当然リカも診てもらうことができず、病院を後にします。

■富士山が爆発する! 怪しげな宗教団体による震災時のデマ

 震災が起きると、弱った人々の心に忍び込むように、怪しげな宗教団体が勢力を伸ばしてきます。本作品では食糧難が続く渋谷の帰宅難民に、食料とセットで「21世紀箱舟学会」なる、うさん臭い名前の宗教が会報を渡すシーンがあります。おなかが減っていてそこに食べ物があれば、宗教の会報だろうとなんだろうともらってしまうというのが人のさがですよね。

 しかも、「間もなく富士山が噴火する」「北朝鮮が侵略してくる」なんてもっともらしいデマ情報をセットで刷り込まれたら、不安になって入信してしまうかもしれません。デマがはやりやすい、というのも震災後の特徴のようです。ちなみに主人公のジンも、まんまと宗教にハメられ、大ピンチに陥ってしまいます。

*** 

 というわけで、大学生とゴスロリ女子による震災後の7日間を描いた『彼女を守る51の方法』を紹介しました。コメディっぽいシーンやラブストーリー要素もあり、堅苦しくなく読めますが、万が一の時には、意外とこういうマンガで得た知識というのが役に立ったりするものです。読んでおいて損はない作品といえるでしょう。

 

(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん <http://ablackleaf.com/>)

◆「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

「ブックオフの黄昏」かつて出版業界を恐れさせた勢いもなく、旗艦店も閉店に追い込まれ……

 かつての勢いは、どこにいったのか。新古書店という新たな古本屋のスタイルを生み出したブックオフが黄昏を迎えている。

 6月、ブックオフは渋谷センター街店を7月22日で閉店することを告知した。ブックオフ渋谷センター街店は、2008年に「パルコ・クアトロ」のリニューアルに合わせオープンした大型店。地下にはグループ初の本格的な古着店が出店したほか、14年からはオークションサイト「ヤフオク!」とコラボ展開するコーナーなど、ブックオフの中でも旗艦店といえる地位にあった。

 近年、ブックオフの業績不振は深刻だ。過去8年の間に閉店した店舗は300店舗あまり。一時は、出版業界を脅かす存在となるまで繁栄したチェーンの勢いは、すでにない。

「ここまで業績が悪化したのは、ブックオフに足を運ばなくても、需要のある新しめの本を手軽に買えるようになったからでしょう。中でも、メルカリがブックオフの顧客を急速に奪ったのではないでしょうか」

 そう話すのは、古本の売買を副業にする個人。

「これまで、さまざまな方法で古本を売りさばいてきましたが、今では大半がメルカリです。何しろ、スマホで商品を撮影して、簡単な説明を書くだけで出品は手軽。出版から日数のたっていない新しめの本なら、それこそ数分で売れます」

 急速にシェアを伸ばしたメルカリだけでなく、Amazonでも古本の売買は盛んだ。ネット通販全盛の時代にあって、店舗運営を主体としたブックオフは、もはや古い業態になっているのは否めない。

「さらに、業績が悪化した結果なのか、ブックオフでは人気のある本の販売価格を高めに設定するようになりました。メルカリだとかAmazonで買うよりも割高感が出てしまったことで、余計に客離れが進んだのではないでしょうか」(同)

 本が読まれなくなることと、ネット書店の普及によって、新本を売る書店も次々と閉店に追い込まれている。ブックオフも、その流れの中に巻き込まれたといえるだろう。

 ブックオフに生き残る方法があるとすれば、メルカリ並みの値付けと、欲しい本が来店せずとも即入手できるシステムづくりであろう。

 いずれにしても、今ほどの数の店舗が不要になるのは確かだ。
(文=是枝了以)

「会いたい」「人恋しい」「寝床がうまい」資産家を籠絡する連続殺人犯の手口とは?

 2013年12月末に京都府で起こった青酸化合物による殺人事件は、当初捜査関係者も予期していなかった驚くべき展開を迎える。

 この事件で夫を殺害したとして逮捕された妻の筧千佐子被告は、過去に夫や交際相手を殺し、多額の遺産を相続していたことが発覚。最初の夫が死亡した1994年以降、交際や結婚を繰り返していた彼女の身の回りでは、実に10人もの男たちが死亡していたのだ。

 裁判によって、3件の殺人事件と、1件の強盗殺人未遂罪から京都地裁によって死刑判決を言い渡された千佐子と面会を続け、事件に迫ったノンフィクションライターの小野一光は、『全告白 後妻業の女「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小学館)を上梓した。本書の記述から、事件の内容と、千佐子という人物の恐ろしさを見てみよう。

 地方銀行を寿退社した千佐子のいちばん初めの結婚生活は、1969年から25年にわたって続く平凡なものだった。2人の子どもに恵まれ、プリント工場を設立した夫妻だが、千佐子の勝ち気な性格が災いし、旦那の実家との関係はうまくいかなかった。夫の死後、彼女は工場を引き継いだものの、先物取引などによって作った借金が膨れ上がり、工場は競売にかけられてしまう。

 彼女が資産家たちを次々と毒牙にかけていったのは、工場を廃業した2001年以降のこと。02年、05年、06年、07年、08年と交際相手や結婚相手が急死を遂げており、その後も、最後の事件となった13年末までほぼ1~2年ごとに不審死は続く。生前に公正証書を作成し、相手親族の反対を押し切ってまで結婚を強行した彼女は、不審死のたびに数百万~数千万の遺産を相続し続けていったのだ。結婚相談所を通じて男性たちに接近した彼女が提示していた交際相手の希望条件は「年収1,000万円以上」「歳はなんぼでもいい」「健康でなくてもいい」という、あからさまなものだったという。

 裁判において、その証言は二転三転し、「黙秘します」と宣言したすぐ後に犯行を認めるなど不可解な発言が数多いものの、一貫して被害者に対する謝罪の言葉を述べることはなかった千佐子。135日間の長い審理期間の末、京都地裁は「極刑を選択せざるを得ない」と死刑判決を下したが、その顔に反省の色はなく、まるで他人事のようにしれっとしたものだったという。

 また、彼女の恐ろしさは、犯した事件の残忍さだけではない。彼女の自身のパーソナリティもまた、「異常」という言葉がふさわしいものだった。

 拘置所で彼女と面会した小野は、その様子をこう綴る。

 面会に訪れる20歳も年下のノンフィクションライターに対して、「人恋しい」「会いたい」と、まるでラブレターのような手紙を送る彼女の行動は、「女」を使いながら彼を籠絡しようとするものだった。さらに、別の男性に対しては「寝床が上手」とも話し、「それしたら男が公正証書でも何でも書く」という自信を見せていたという。そんな手練手管が、人生経験豊富なはずの資産家たちの心を鷲掴みにし、彼らの愛情と信頼を獲得していった。遺産という目標を獲得するために、男心をくすぐることに成功した彼女は、健康食品と偽った青酸化合物入りのカプセルを飲ませて彼らを殺害していった。

 その一方で、小野が事件について質問を投げかけると、途端に彼女の目の奥は「漆黒」で満たされる。「すべては私の主観でしかない」と断りながらも、小野は「死刑が確定した5人の殺人犯と会ってきたが、いずれも同じ目を私に見せている」と記述する。事件について語る千佐子からは、まるで良心の呵責が感じられず、これまで幾多の凶悪犯罪を取材してきたノンフィクションライターをして「底が見えない」と言わしめるほどの狂気を感じさせるものだった。

 今回の裁判において争われた4件は、小野の取材によって判明した不審死の一部にすぎない。おそらく、事件の全容はまだ明らかにされていないのだろう。何よりも、筧千佐子という人間の「底」は、まだ解明されていないのだ。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])

そもそも出版自体が対象外の可能性も……軽減税率から「有害図書」排除構想の動向

 来年10月にも予定されている消費税率10%への引き上げに向け、再び、軽減税率の対象品目をめぐる議論が活発になっている。

 軽減税率とは、生活必需品などの消費税の額を下げる制度。日本においては、消費税の10%への引き上げにあたって低所得者への配慮から「酒類及び外食を除く飲食料品と定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」が政府の方針とされている。

 この制度の中で、対象とされるかどうか微妙な立場にあるのが、書籍・雑誌である。これまで新聞・出版業界では一貫して新聞での適用範囲の拡大と書籍・雑誌への適用を求めてロビー活動を行ってきた。

 2016年度与党税制改正大綱では、週2回以上宅配される新聞は税率8%に据え置く方針を示したが、それ以外の新聞は対象外。さらに、書籍・雑誌に関しては「有害図書排除の仕組みの構築状況等を総合的に勘案しつつ、引き続き検討」とされた。

 つまり、出版業界に対してはエロやバイオレンスなど「有害」な表現を扱う書籍・雑誌は対象外にしろと迫られているのである。

 これに対して、動きがあったのが6月11日に開催された活字文化議員連盟の総会。この席上で、書籍出版協会の相賀昌宏理事長(小学館)が、流通コードを管理する自主管理団体の下に第三者委員会を設置し、有害図書を排除するシステムをつくる意志があることを示したのである。

「文化通信」6月18日号では出版業界で構想されている「有害図書排除の仕組み」を次のように解説している。

 * * *

倫理基準を制定し、軽減税率の対象になるかどうかを出版社が基準に照らし合わせて自主的に判断したうえで、対象となる書籍・雑誌に「出版倫理コード(仮称)」を付与して見分ける方法を検討。
この「出版倫理コード(仮称)」を管理・付与する組織として「一般社団法人出版倫理コード管理機構」の設立に向けて準備を進めている。

 * * *

 こうした動きを受けて、電子書籍研究の第一人者でもある植村八潮専修大学文学部教授は、Yahoo!個人に「出版界は『軽減税率適用』のために『表現の自由』を手放すのか?(掲載先URL)」を投稿。

 ここでは「政府の求めに応じ、軽減税率適用と引き替えに、出版界は「有害図書」を排除するというのである」とし「「有害図書」を分ける外形的要素はなく、恣意的な判断によって拡大しかねないのだ。それが、出版界のさらなる萎縮につながると思うのは、杞憂だろうか」と危機感を示している。

 

■雑誌報道に「文化」はない?

 植村教授の指摘にあるように「表現の自由」に多大な影響を及ぼしかねない出版業界の構想。これは、本当に実現してしまうのか。

 関係者に話を聞いたところ「出版倫理コード(仮称)」の検討はあると認めた上で、次のように話す。

「大前提として、出版が軽減税率の対象となるかも危うい。とりわけ自民党内部では出版を対象にすることに否定的な意見が強いのです」

 出版の中で「有害図書」を軽減税率の対象外とするロジックは、ジャンルが本来的な意味合いにおいて“文化”ではないから。とりわけエロに関しては、フランスやイタリアでも対象外となっている。これは「ポルノはオナニーの補助具」という観点から来ているようだ。

 そして、自民党内では「スキャンダルを扱う週刊誌や、グラビアを掲載しているような雑誌は文化的ではない」という意見も根強いのだ。

「こうした状況ですから、倫理コードうんぬんの前に、そもそも出版が軽減税率の対象にならないのではないかと思っています」(同)

 さらに、新聞・出版業界の要望がすべて通ったとしても切り分けは困難なのではないかと見られている。

「出版もそうですが、新聞はさらに切り分けが難しいでしょう。スポーツ紙や『聖教新聞』や『赤旗』も、軽減税率の対象にするかどうかも検討しなくてはならないのです」(同)

 以前、軽減税率の議論が盛り上がった際には、大手出版社を中心とする日本雑誌協会加盟社の出版物は対象で、アダルト系中心の出版倫理懇話会の出版物は対象外にされると危惧する声もあったが、実際にはその線引きも不可能とみてよい。

 何より、軽減税率が適用された程度で、出版業界の右肩下がりが止まるとは誰も思ってはいない。
(文=昼間たかし)