これまで視聴率2ケタをキープしてきたドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』。16日に放送された第6話は、7.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と大幅に下落しました。サッカー日本代表の中継で30分遅れのスタートでしたし、裏の『金曜ロードSHOW!』は、みんな大好きハリー・ポッターでしたが、それにしても落ちましたねえ。なんでだろ。面白いのに。
ともあれ、振り返りましょう。新展開です。
(前回までのレビューはこちらから)
■「病気は怖くない」と、前半で描く
前回、ベストセラー作家となった真司くん(ムロツヨシ)と結婚して、幸せラブラブなアルツハイマー・ガール尚ちゃん(戸田恵梨香)。真司くんが、尚ちゃんとの出会いをモチーフにして書いた小説『脳みそとアップルパイ』は20万部を超えるバカ売れ。ハードカバー1冊1,500円で印税10%とすると、2人の懐には3,000万円以上が転がり込んだことになります。さらに、尚ちゃんには6,000万円の貯金もありますし、クリニックと実家もある。ざっと数億はくだらない資産家夫婦となりました。新居のマンションもピッカピカ。
披露宴で尚ちゃんは、みんなの前で「私、記憶を失っていく病気です」と告白しましたが、誰もが温かく見守ってくれているようで、一安心。もちろん、真司くんは一番の理解者ですし、尚ちゃん自身も「新しい論文を読んでも、新しいことから忘れちゃうし(笑)」と、自らの病状を明るく語れるくらい前向きになっています。一時は「もう死にたい」とか言っていた尚ちゃんでしたが、主治医の井原先生(松岡昌宏)からも、「前よりずっと良くなってる、幸せなんですね」「素敵な御主人で」とか言われて、わりとデレデレ。
わりとデレデレでも、この作品で初めて尚ちゃんの「物忘れ」以外の症状が描かれました。だいぶしょっぱい引っ越し蕎麦を作ってしまったのです。柔らかいBGMと明るい撮影と満面の笑顔の中で、病状が着々と進行していることが語られました。
とりあえず「ま、いっか」の精神で尚ちゃんを支えようとしている真司くんですが、やはり焦りがあるのかもしれません。ある夜、尚ちゃんに「子どもつくろう」と提案します。尚ちゃんは、「母親が記憶を失っていくのを見て、子どもは傷つかない?」「私は惨めじゃないの?」と逡巡しますが、井原先生のアドバイスもあって、新薬の治験で少しでも回復が見込めるようなら考えることにしました。
また、尚ちゃんは井原先生が催す医学生向けの講演会で、自らがMCI(軽度認知障害)と診断されてからのことを話すことになり、日々、原稿作りやしゃべりの練習に余念がありません。もともと産科医だった尚ちゃん、もう患者を診ることはしないけれど、こうして医師として後輩の役に立てることに、大きな喜びを感じているようです。
病気は大変だけど、本人が前向きになって周囲の理解があれば、きっと乗り越えられる……そんな希望が描かれたのが、今回の前半部分。
■「やっぱり病気は怖い」と、後半で描く
今回、ニューキャラ登場です。年齢不詳の青年・松尾(小池徹平)が、2人の間をかき乱すことになります。
松尾は、尚ちゃんと同じく井原先生の患者さん。尚ちゃんより先にMCIを患っており、尚ちゃんとは逆に、病気が判明した瞬間に奥さんに逃げられてしまったバツイチ男でした。仕事は保育士、周囲はフォローしてくれているものの、園長先生から「もう事務だけやれ」と迫られたり、悩みはいろいろあるようです。やたらと愛想がいいのが不気味です。
この松尾、不気味どころか、とんだサイコ野郎でした。
講演会で、マイクがハウリングを起こした拍子に失神してしまった尚ちゃんが運ばれていく姿を、物陰から眺めつつニッコリ。さらに、尚ちゃんの病室に無断で侵入すると、「しんじ……しんじ……」と朦朧としている尚ちゃんに「そうだよ、ここにいるよ」とか言いながら、キスしたりします。怖い。
仕事先から駆けつけ、キス現場を目撃した真司くんは松尾を突き飛ばし、尚ちゃんの顔を覗き込みますが、尚ちゃんの口からは「誰……?」と。血の気が引いてしまう真司くん。
真司くんはこのとき、『脳みそとアップルパイ』の続編を書こうと決意します。従来のピカレスクでエロティックな作風の新作を用意していたところでしたが、「夫を見失っていく妻を、自分が書かないで、誰が書くんだ」とのことで。このへんの作家心理はよくわかりませんが、まあそういうものなのでしょう。
意識不明瞭な女性に準強制わいせつ行為を働いた松尾氏が、鼻歌を歌いながら病院の階段を小躍りで駆け下りつつ、次回へ。
■「病人が病気ゆえに健常者に危害を加える」という視点
松尾、サイコじゃん! って話なんですが、松尾が尚ちゃんに一目惚れして、勝手に突っ走って、相手のスキをついて唇を奪う姿は、第1話で真司くんに向かって、色目という色目を使いまくって猛進していった尚ちゃんと重なる部分でもあります。
突然、まるで取り憑かれたように、常識があるはずの大人の人間が“大恋愛”に落ちていく──それが病気の症状なのか、真実の恋なのか。オッサンになった小池徹平のほうは「病気でおかしくなってる」で、相変わらず美人の戸田恵梨香は「素敵な恋に落ちてる」と、そう切り分けて審判を下すことなど、誰にもできません。あるいは2人ともが性根に粗暴な恋愛体質を持ち合わせていたのかもしれないし、2人ともがMCIの症状によって、目の前に偶然現れた誰かを「運命の人」と勘違いしてしまったのかもしれない。
尚ちゃんが真司くんの心を見事に奪い去ったように、松尾が尚ちゃんを奪おうと考えたって、それは誰が責められることじゃない。人妻だから、いいことじゃないけど、気持ちの問題としては理解されて然るべきなのです。
一方で、松尾の行為は、平和に過ごそうとしている真司くんと尚ちゃんに、危害を加えるものですし、明らかに犯罪でもあります。
精神病の患者が、その精神病ゆえに健常者に危害を加える。今後、真司くんが、松尾もまたMCI患者であることを知ったとしても、「病気だから、うちの奥さんがキスされても仕方ないね」と思えるものではないでしょう。愛する者の病気は、それはすべてを受け入れて、病気さえも愛することができるかもしれない。でも、奥さんにわいせつ行為を働く、憎むべき犯罪者の病気を、それでも受け入れるべきなのか。「病気は悪くない」と、堂々と言えるのか。
さらに松尾は、MCIが発覚したことで奥さんに逃げられ、天涯孤独であることも語られました。ここでは、親の顔を知らない真司くんと同種の「孤独」を抱かせているわけです。松尾は、いわゆる“尚ちゃん側”でもあり“真司くん側”でもある。さらにMCIについて尚ちゃんより見識と経験が深いことにおいては、元婚約者の“井原先生側”でもある。むしろ井原先生にはないMCI罹患者としての実体験があるわけですから、尚ちゃんにとって最高の理解者にもなりえる。
この松尾というキャラクター、実に複雑で悲しみを含んだ設定で投下されました。サイコな行為の裏に、深い絶望があるのです。視聴者である私は、もちろんそんな松尾の悲劇に心を痛めるでもなく「小池徹平、絶妙だな! おもしろーい!」と大いに喜んでいる今日この頃です。今後どうなるか、全然わからない『大恋愛』。今夜、第7話の放送は22時から。
(文=どらまっ子AKIちゃん)