あいみょんも愛読する、官能小説好きのバイブル『官能小説用語表現辞典』

 4月2日に放送された『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)をご覧になった方はいないだろうか? 人気急上昇中の若手女性アーティスト・あいみょんが出演、彼女の楽曲は官能小説からインスピレーションを受けていると話し、その日のタモリ倶楽部は「官能小説特集」となった。

 番組内では3社の出版社の官能小説を担当する編集者が、あいみょんの曲作りのヒントとなりそうな描写が収録されている作品を紹介。官能小説好きであれば思わずニンマリとしてしまう、草凪優の代表作『どうしようもない恋の唄』(祥伝社)や、団鬼六賞受賞作である、うかみ彩乃の『蝮の舌』(イースト・プレス)などが紹介され、性描写が朗読された。

 筆者にとっては日常である官能小説と『タモリ倶楽部』がリンクしたその日は、とても感慨深い夜であった。

各社がイチオシの官能小説を紹介する間に挟まれたコーナーでは、官能小説好きのバイブルとなっている『官能小説用語表現辞典』(ちくま文庫、編集:永田守弘)を紹介していた。番組ではあいみょんが持参してきた私物を映していたが、数え切れないほどの付箋が貼られていたことから、彼女がどれだけこの作品を深く熟読していたかが見て取れる。

 本作は、官能小説で使われている約2300の用語や表現をまとめた、日本で唯一無二の「官能小説用語辞典」である。女性器ひとつ取っても、官能小説では無数の表現を使用している。

 本作は「絶頂表現」「女性器」「オノマトペ」のように、単語がカテゴライズされており、例えば「女性器」のカテゴリの中には 「悦楽の宝庫」とある。これは官能小説家のレジェンドである団鬼六氏の『お柳情炎』(幻冬舎)に書かれている表現だ。これをどのように使用しているかを、作中から引用している。このように、官能小説600冊以上の中から永田氏が隠語をセレクトし、一冊にまとめているのである。各カテゴリーは五十音順に掲載されているので目当ての単語が引きやすい。まさに「辞書」なのである

 中には、つい吹き出してしまうような面白い表現や、あいみょんのように切ない歌詞に使用できそうな表現もある。彼女が番組内で気に入っていた用語は、絶頂時に表現された「潤んだ瞳は見開かれて」だ。

 あいみょんのように自分自身の表現方法の手段としてはもちろん、眠れない夜に酒でも飲みながらぼんやりと眺めているだけでも楽しめる、官能小説好きは必読の一冊である。
(いしいのりえ)

「官能」とはほど遠い、滑稽なセックスを描く松尾スズキの『108』

 セックスという行為は、捉え方によって無数の解釈ができる。だからこそ、昔からずっと小説の題材として描かれているのだろう。シリアスな表現にもなれば、男女の激情にも描かれる。また昨今ではセックスを題材としたコミカルな小説も多く見かける。

 筆者がこれまでに紹介した官能小説にも「バカバカしさ」を追求した官能小説が多々あったが、今回ご紹介するのは松尾スズキの作品『108』(講談社)である。本作は今秋に、松尾自身が監督、主演、脚本を担当した映画『108〜海馬五郎の復讐と冒険〜』として公開が決まっており、原作を読了したファンからは「一体どうやってこの作品を映画化するのか?」と、早くも注目が集まっている。

 主人公は、松尾の作品に度々登場している人物・海馬五郎。脚本家である海馬は、とあるオーディション会場でひとりの若い女に声を掛けられる。稽古場の踊り場で見せられたのは、妻が偽名を使って投稿したフェイスブックのアカウント画面であった。

 元女優の妻・綾子は、彼が脚本を書いた作品に出演していた事で知り合い、結婚をした。7年前に結婚をして女優も辞め、夫に尽くしてきた彼女は今、海馬ではなく、若いコンテンポラリーダンサーに夢中になっていたのだ。

 自宅に戻り綾子を問い詰めると、彼女はあっさりと白状した。

 フェイスブックに書かれていることはすべて「大切な妄想」だと言い、ダンサーとのセックスを妄想して生きることを許してくれ、と打診される。そして綾子が見せた左腕には、ダンサーの名前に蛇がデザインされたタトゥーが入っていた――。

 妻の投稿を読み進めるごとにダンサーへの深い愛が感じられる。海馬は、あまりにショックを感じて離婚を考えるが、仮に今離婚をした場合は、彼が持つ財産の半分である1000万円を、財産分与として妻に支払わなければならなくなる。

「冗談じゃない――」

 妄想とはいえ、壮大なる「不貞」を働いた綾子に対して、海馬は一文を払うつもりはない。ならば、と、海馬は自分の「不貞」で財産の2000万円を使い切ろうと計画するのである。目標にした不貞相手の人数は108人。人が持つ煩悩でもあり、綾子が綴る妄想上の不貞に「いいね!」が付いた数でもあるのだ――。

 作中で描かれているセックスを読み進めてゆくと、海馬の気持ちがふと憑依してくる。セックスとは、何とバカバカしい行為なんだろう――本来持つ快感や心地よさなど生み出さない、ただ滑稽なセックスが、これほどの数描写されると圧巻だ。

 本作は、読めば読むほど「官能」から遠ざかりたくなる、独特な切り口の「おバカ官能小説」である。
(いしいのりえ)

「快楽」のはずが人間の膿にまみれ、ドロドロしたものに――『教団X』が描くセックスの気味悪さ

 一般文芸での性描写は、官能小説のものとは一線を画している。両者ともに同じセックスを描いているが、表現方法だけでこれほど違うものかと驚かされることが多い。中でも、最近読んだ本では『教団X』(集英社)の性描写は特に興味深かった。

 『教団X』の舞台は、とあるカルト教団。主人公の楢崎は、交際相手の涼子を探していた。ある日突然、彼の前から姿を消した涼子を探すために、探偵事務所で働く友人に力を借りる。物語は、無事に涼子が見つかったと知らされる場面から始まる。しかし彼女が、とある宗教団体に深く関わっていると聞かされるのである。

 楢崎は、涼子が関わる宗教団体の屋敷へと足を運ぶ。そこは、松尾という老人を中心とした団体で、宗教団体というより、松尾の話を聞きに人々が集まる場であるという。涼子の写真を見せて事情を話すと、彼らは動揺した。彼女は松尾を騙した詐欺団体の一員であり、通称「教団X」に所属する人物だという。

 松尾の屋敷を出てしばらく歩いていると、楢崎は背後からひとりの女性に呼び止められる。振り返ると、彼女は屋敷の人間ではなかった。教団Xの人物である彼女は、楢崎を自分たちの教団へ案内する。なぜ彼女は自分の名前を知っているのか、どうして松尾の屋敷に自分がいることを知っていたのか――あらゆる疑問を抱きながらも彼女のあとをついて行った。

 窓にシートが貼られ、外が見えない車に乗せられた楢崎は、何かの建物の地下駐車場へと連れられて行った。マスクをした女性に注射器で血を抜かれ、尿を採取された楢崎は、エレベーターに乗せられ「1807号室」と書かれた部屋に案内された。その部屋で、楢崎は何人もの女性とセックスをすることになる――。

 楢崎は教団の女に導かれて性に溺れていく。その姿は沼に飲まれていくようにグロテスクで、気味が悪い。幼い頃、母親が見知らぬ男たちとセックスをしている様子を盗み見していた時の記憶や、これまでの自分を振り返り、「自分の人生を侮蔑するためにここに来た」と言い、見知らぬ女たちとのセックスに溺れてゆくのだ。その描写は生々しく、思わず眉を潜めてしまうほどに気持ちが悪い。

 快楽に溺れるセックスという行為をこれほど「気持ち悪い」描写にしてしまう作品も珍しい。本作では数カ所に性的な描写があるが、それらのどれもが人間の膿にまみれ、ドロドロとしたものばかりである。

 非常に人気のある本作は、もちろん文学としても素晴らしいが、時に視点を変えて性描写に着目をして読み進めるのも面白いだろう。
(いしいのりえ)

「快楽」のはずが人間の膿にまみれ、ドロドロしたものに――『教団X』が描くセックスの気味悪さ

 一般文芸での性描写は、官能小説のものとは一線を画している。両者ともに同じセックスを描いているが、表現方法だけでこれほど違うものかと驚かされることが多い。中でも、最近読んだ本では『教団X』(集英社)の性描写は特に興味深かった。

 『教団X』の舞台は、とあるカルト教団。主人公の楢崎は、交際相手の涼子を探していた。ある日突然、彼の前から姿を消した涼子を探すために、探偵事務所で働く友人に力を借りる。物語は、無事に涼子が見つかったと知らされる場面から始まる。しかし彼女が、とある宗教団体に深く関わっていると聞かされるのである。

 楢崎は、涼子が関わる宗教団体の屋敷へと足を運ぶ。そこは、松尾という老人を中心とした団体で、宗教団体というより、松尾の話を聞きに人々が集まる場であるという。涼子の写真を見せて事情を話すと、彼らは動揺した。彼女は松尾を騙した詐欺団体の一員であり、通称「教団X」に所属する人物だという。

 松尾の屋敷を出てしばらく歩いていると、楢崎は背後からひとりの女性に呼び止められる。振り返ると、彼女は屋敷の人間ではなかった。教団Xの人物である彼女は、楢崎を自分たちの教団へ案内する。なぜ彼女は自分の名前を知っているのか、どうして松尾の屋敷に自分がいることを知っていたのか――あらゆる疑問を抱きながらも彼女のあとをついて行った。

 窓にシートが貼られ、外が見えない車に乗せられた楢崎は、何かの建物の地下駐車場へと連れられて行った。マスクをした女性に注射器で血を抜かれ、尿を採取された楢崎は、エレベーターに乗せられ「1807号室」と書かれた部屋に案内された。その部屋で、楢崎は何人もの女性とセックスをすることになる――。

 楢崎は教団の女に導かれて性に溺れていく。その姿は沼に飲まれていくようにグロテスクで、気味が悪い。幼い頃、母親が見知らぬ男たちとセックスをしている様子を盗み見していた時の記憶や、これまでの自分を振り返り、「自分の人生を侮蔑するためにここに来た」と言い、見知らぬ女たちとのセックスに溺れてゆくのだ。その描写は生々しく、思わず眉を潜めてしまうほどに気持ちが悪い。

 快楽に溺れるセックスという行為をこれほど「気持ち悪い」描写にしてしまう作品も珍しい。本作では数カ所に性的な描写があるが、それらのどれもが人間の膿にまみれ、ドロドロとしたものばかりである。

 非常に人気のある本作は、もちろん文学としても素晴らしいが、時に視点を変えて性描写に着目をして読み進めるのも面白いだろう。
(いしいのりえ)

パートナーとのセックスはつまらない? 林真理子「美和子」が描く、快楽の極みにあるもの

 パートナーとのセックスに不満を感じる女性は少なくないだろう。そして、男女間の相性というのは「セックス観」も強く反映されることが多い。性欲の強いパートナーに対して、あまりセックスが好きでない相手であれば、自然と互いに不満が募るだろう。対して、お互いのセックス観が似ているカップルは長続きしやすいものである。

 セックス問題は、いざ結婚となると非常に厄介だ。これから先の長い人生、たった1人の男性としかセックスをしてはならなくなる。そう考えた時、果たして現在の交際相手とのセックスで満足ができるだろうか?

 今回ご紹介する林真理子氏の『秘密』(ポプラ社)には、表題をテーマに8つの短編が収録されている。中でも今回注目したいのが、「美和子」だ。

 主人公・エミ子の友人である年下の美和子は、近々結婚を控えている。大きなハム製造会社の経営者の娘として生まれた美和子は、申し分ない家柄に加え、清楚な美貌と「お嬢様学校出身」という肩書を持つ、完璧な女性。しかもフィアンセは学生時代から交際している医者だ。そんな彼女が、エミ子に対して突拍子もない相談を持ちかけてくる。「結婚するまでに、『すごいセックス』を体験したい」というのだ。

 28年間生きてきて、一度もセックスに対して「それなり」の満足感しか得られなかった美和子は、結婚するまでに一度、狂ったような快感を得たいという。そこで、顔の広いエミ子に打診をしてきたのだ。

 困った素振りを見せたエミ子だが、美和子からの相談を受けて、ぱっと1人の男の顔が浮かんだ。AV界の革命児と讃えられた駒井監督だ。エミ子は駒井と連絡を取り、「サムソン村上」という、筋肉質で若いAV男優を紹介してもらうことになる。彼が出演したアダルトビデオを美和子に渡すと、彼女は快諾した。

 一晩50万。ホテルのスイートを取るようにと命じられた美和子は、サムソンと一夜を過ごす。2人の生々しい夜の報告を聞いたエミ子は、たとえようのない寒々とした気持ちに囚われる。そんな彼女の心配をよそに、美和子は無事に帝国ホテルで結婚式を挙げ、美しい花嫁姿を見せるのだが——。

「人生というものには結論を出さなくてもいい幾つかのことがらがある。美和子は早い時期にそれをひとつしてしまったのではないだろうか」

 美和子の赤裸々な告白を聞いた時の、このエミ子の感情が、実に興味深い。これから人生を共に歩むパートナーとのセックスは「つまらない」と落第点をつけることによって、美和子はサムソンというセックスのプロとの行為を知ってしまったのだ。

 未知の快楽を知ってしまった美和子のラストシーンは、非常にもどかしいものになっている。大好きな相手に抱かれていても、心の中でどこか燻りを感じている女性は必読である。「愛している人とセックスすることが幸福」という、ステレオタイプの理屈など吹っ飛ばしてしまう。快楽を極めた先には愛や恋などない、ただ欲だけが残るのだ。
(いしいのりえ)

「短小」という強いコンプレックスから男を解放する、SM官能小説『奴隷島』

 官能小説界のキラーコンテンツであるSMは、非日常の作中に漂う耽美な世界観で多くの人々を虜にしている。古くは団鬼六、現在では第一線で活躍している官能小説家のほとんどがSMを題材とした作品を発表している。

 では、SMの魅力とはいったい何だろうか? 男と女がただ欲望を貪り合い、恥部や苦痛をも曝け出して究極の快楽を求める――SMというプレイにより体はもちろん、心も裸になることで得られる快感の、その先にあるものとは何なのだろう?

 今回ご紹介するのは草凪優の『奴隷島』(幻冬舎)。奴隷島に辿り着いた主人公の嘉一が滞在する洋館は、まるで古い絵本から飛び出したようだ。重厚で瀟洒な家具が揃えられ、燕尾服を着た老人が、美しい女性に給仕する。

 執事である老人の名は間宮、ベルベッドのドレスに身を包んだ女性は櫻子と言った。溺れていたところを助けられたという嘉一は、窓の外を眺めた。孤島に住んでいるのは彼女たち2人だけだという。

 その夜、嘉一は部屋を抜けてリビングの奥にある部屋へと足を運んだ。何やら人の息遣いを感じたからである。暗闇に刺す一筋の光を頼りに地下室へと足を運ぶと、そこには両手を吊り上げられた、裸同然の姿の櫻子の姿があった。燕尾服姿の間宮は櫻子の乳首をつねりあげ、抵抗できない櫻子を執拗に甚振る――。

 幼い頃、両親に捨てられた嘉一は、老若男女で構成された窃盗団に拾われた。同世代の子どもも数人所属しており、まるで幼馴染のような関係を築きながら窃盗を繰り返し、全国を渡り歩いていた。そんな彼が、ひょんなことから海に投げ出され、この「奴隷島」へと辿り着いたのである。

 櫻子を陵辱する場面を目撃した嘉一、そして、盗み見をしている嘉一に気づいた間宮は、彼を部屋へ招き入れるのであった――。

 私が特に注目したいのが、中盤に描かれている櫻子とのプレイと、嘉一の過去である。初めて自分の体で悦ばせることができた嘉一。彼には短小であるという強いコンプレックスがあった。それを確固たるものにした出来事が、恋人からの一言であった。

 グループから足を洗って堅気の仕事に就こうと決心した嘉一は、恋人に「あなたとのセックスは苦痛だ」と告げられる。結婚を決意するほど愛した恋人からの一言は、嘉一を深く傷つけた。しかし「奴隷島」での彼は、櫻子を快楽の絶頂へ導いたのである――。

 幼い頃から囚われていたトラウマから嘉一を解放したのは、奴隷島でのセックスであった。このように、SM小説では登場人物が主従関係により心が解放される場面がしばしば登場する。

 人は誰しもコンプレックスやトラウマを抱えているものである。そんな自分から脱却したいという想いを叶えてくれるところもSM小説の面白いところではないだろうか?
(いしいのりえ)

セックスでマウントを取る女の“友情”――対極にある女性同士の歪んだ関係を描く「女友達」

 女の友情というものは、脆く儚い印象を受ける人も多いかもしれないが、掘り下げると非常に興味深い。たぶん男性同士の友情ではあり得ないだろう、歪んだ表現の「情」が含まれるからだ。

 例えば、女性同士の友情だと「マウント」が頻発する。スキルの高い男性と交際したり、結婚をすることで上位に立ち、マウントポジションを取ることで友情が成立することも少なくない。

 女性の人生にとって決定的なポイントとなる結婚、出産などは、女同士の友情を育むための重要な要素となる。どういった男性と結婚し、どこに新居を構えて子をもうけ、どういった育児をしていくのか――常に女同士は上位を取る争いを続けながら友情を育んでいくものともいえるだろう。

 そして、マウントを取るポイントのひとつは「セックス」である。特に、結婚後も夫と充実したセックスライフを送っているということは、妻になってからも「女」として求められるという勲章となるのだ。

 今回ご紹介する『不倫—罪の媚薬』(双葉社)は、あらゆる不倫シーンを描いた8作の短編集である。中でも女性にお勧めしたいのが、女の友情とセックスを描いた「女友達」だ。

 主人公の寿々と比奈子は学生時代からの親友で、お互いが大人になってからも頻繁にランチやお茶をしている仲だ。容姿に恵まれている2人だが、異性関係やセックスに対しては対照的である。もともと男性に対して慎重である寿々に対して、奔放な比奈子。2人目の男性である財務省のキャリアと結婚し、家庭に入った寿々に比べて、比奈子は2年たらずで離婚し、現在は保険会社でトップクラスのセールスレディとして活躍している。

 久しぶりに会った彼女たちの話題は、セックスだ。寿々は初めての男性とのセックスでオルガズムを経験したが、夫となった高梨とのセックスは、以前の恋人ほど情熱的なものではなかった。夫とのセックスに対して、さほど不満はなかった寿々だが、近頃は夫があまり彼女を求めなくなってきたのだ。

 互いに酔いが回ってきたところで、比奈子は寿々にある動画を見せる。その画面にはいやらしく腰をくねらせている男女の動画があった――1年間もセックスレスである寿々にとって、その動画は刺激的だ。ディスプレイに釘付けになっていると、比奈子はワンピースの裾に手を忍ばせてきて――。

 貞淑で淑やかな雰囲気を持ち、セックスレスながらも平穏な結婚生活を送る寿々を壊したくなる比奈子。対極にある女同士が醸し出す歪んだ友情は、読み進めるたびに清々しさを感じる。そして、相手を壊すことで、さらに友情が深まるところも女同士の友情の面白いところでもあるのだ。
(いしいのりえ)

男性の官能小説家は意外にエロくない!? 業界をチラ見できる『人妻と官能小説家と……』

 官能小説家という職業を持つ方々は、意外と多く存在する。しかし「専業作家」として活動している方はごく一握りである。女流作家の場合は、結婚をして作家活動に専念できる方もいらっしゃるが、男性作家の場合だと、正社員で働くかたわらでこっそり作家活動をしていたり、アルバイトと兼業して生計を立てている方が多い。

 また、意外、といっては失礼かもしれないが、男性の官能小説家は「エロいもの」を書いているからといって、実際に女性に対して下ネタを言ったり下品な対応をする人は今まで1人も出会ったことがない。誰もが女性に対して紳士的で、女性を立ててくれる品のある男性がとても多いのだ。対して女流官能小説家は、「官能小説家」という肩書が芸能活動などに使えると見越して書いている方もいるという。

 今回ご紹介する『人妻と官能小説家と……』(二見書房)は、そんな官能小説業界の裏側をリアルに描いた人妻モノの作品である。

 主人公の郁男はロリータものを得意としている官能小説家。しかし、彼が定期的に本を刊行している出版社の担当編集から「もううちではロリータものを出さない」と言われ、代わりに今後は人妻ものを書いてほしいと言われてしまう。女性経験がなく、しかも今までロリータものを得意としてきた郁男が、真逆の題材に挑戦しなければならなくなってしまった――思い悩んだ郁男は、官能小説家が集まるパーティで、先輩作家や編集者などに相談するのだが……。

 女流作家、編集者、元同僚など、あらゆる女性と身体を交わす郁男。童貞である彼のおぼつかないセックス描写はとても愛らしく、読んでいて微笑ましく感じる。

 また、本作の見どころのひとつが、登場人物のリアルな点である。官能小説業界をご存じの方であれば、本作を読めば登場人物のモデルが誰であるのかが想像つくはずだ。また、郁男が同業者の面々のことや官能小説業界のことをどう考えているのかを読み進めていると、業界の裏側を知ることができて、ついニンマリしてしまう。小説としての面白さと合わせて、官能小説の業界をチラ見することができる稀有な作品である。
(いしいのりえ)

男性の官能小説家は意外にエロくない!? 業界をチラ見できる『人妻と官能小説家と……』

 官能小説家という職業を持つ方々は、意外と多く存在する。しかし「専業作家」として活動している方はごく一握りである。女流作家の場合は、結婚をして作家活動に専念できる方もいらっしゃるが、男性作家の場合だと、正社員で働くかたわらでこっそり作家活動をしていたり、アルバイトと兼業して生計を立てている方が多い。

 また、意外、といっては失礼かもしれないが、男性の官能小説家は「エロいもの」を書いているからといって、実際に女性に対して下ネタを言ったり下品な対応をする人は今まで1人も出会ったことがない。誰もが女性に対して紳士的で、女性を立ててくれる品のある男性がとても多いのだ。対して女流官能小説家は、「官能小説家」という肩書が芸能活動などに使えると見越して書いている方もいるという。

 今回ご紹介する『人妻と官能小説家と……』(二見書房)は、そんな官能小説業界の裏側をリアルに描いた人妻モノの作品である。

 主人公の郁男はロリータものを得意としている官能小説家。しかし、彼が定期的に本を刊行している出版社の担当編集から「もううちではロリータものを出さない」と言われ、代わりに今後は人妻ものを書いてほしいと言われてしまう。女性経験がなく、しかも今までロリータものを得意としてきた郁男が、真逆の題材に挑戦しなければならなくなってしまった――思い悩んだ郁男は、官能小説家が集まるパーティで、先輩作家や編集者などに相談するのだが……。

 女流作家、編集者、元同僚など、あらゆる女性と身体を交わす郁男。童貞である彼のおぼつかないセックス描写はとても愛らしく、読んでいて微笑ましく感じる。

 また、本作の見どころのひとつが、登場人物のリアルな点である。官能小説業界をご存じの方であれば、本作を読めば登場人物のモデルが誰であるのかが想像つくはずだ。また、郁男が同業者の面々のことや官能小説業界のことをどう考えているのかを読み進めていると、業界の裏側を知ることができて、ついニンマリしてしまう。小説としての面白さと合わせて、官能小説の業界をチラ見することができる稀有な作品である。
(いしいのりえ)

人恋しい季節に心を温めてくれる官能小説『未亡人酒場』が描く人間模様

 先日から日本列島は急激に冷え込み、本格的に冬が訪れてきた。一歩外に出るとつい身を縮こませてしまう凍てつく寒さの中、どんよりとした曇り空の下で粛々と仕事をし、家路につく——誰もが、人恋しくなる季節である。

 こんな時にぜひおすすめをしたいのが官能小説家・葉月奏太の小説だ。北海道在住である彼の作品は、一言で表現すると「ほっこり官能」。たっぷりと盛り込まれた性描写はもちろんだが、葉月氏ならではのあったかいストーリーは読者の心をじんわりと温めてくれる。

 今回ご紹介する『未亡人酒場』(実業之日本社)は、訳ありな男女が集う北国の小粋なバーが舞台だ。妻から突然離婚を告げられ、左遷のような形で札幌支店へ転勤することになった志郎は、2カ月たった今でも札幌の地に慣れることはなかった。

 新しい職場にも馴染めず、友人もいない、冷たい寒さが日常の札幌——まだ見慣れぬ街を歩いていると、ひとりの女性の姿に目を惹かれる。導かれるように後を追っていくと、彼女は小さな雑居ビルに入って行った。どの店に入ったのだろうか……目についたひとつの扉を開くと、そこにはゆったりとした雰囲気の、照明が絞られたアメリカンバル「JOIN-US」があった。

 志郎より年上に見受けられるマスターは、金髪でツンツン頭の寡黙な男。しかし彼が出す酒も料理も絶品で、志郎は週に数回マスターの店に通うことになった。「JOIN-US」の雰囲気に導かれるように、常連の男女は友人となり、美味い酒と料理に舌鼓を打ち、身の内を語り合う。

 若くて元気いっぱい、男性経験は豊富だが男運に恵まれない桃香、仕事が忙しい夫に不満を募らせている奈緒、そして、この店を訪れるきっかけとなった由紀子——いつもモノトーンの服を身にまとい、赤ワインを傾けている彼女の横顔は、どこか悲しみに満ちていた——。

 年輪を重ね、さまざまな経験をしてきた男女が、ひとつの店で友情を育みながら身を重ね合うストーリーには強く共感してしまう。

 どんよりと重たい雲を彷彿させる札幌の地で、人々の温もりを強く感じさせる本作は、今の季節にぴったりの官能小説である。
(いしいのりえ)