苦しくないと生きている気がしない女――『恋地獄』に見た強烈な自己愛

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『恋地獄』/メディアファクトリー

■今回の官能小説
『恋地獄』(花房観音、メディアファクトリー)

 人は、世間の価値観に沿い、対外的に“恋”をする。無意識のうちに、世間の決めた“いい男”の条件に見合った男性を選別してターゲットを絞り、相手が定まると、何となく恋をしているような気分になる。女友達にそれを打ち明けて応援され、結婚というゴールに向かって、自分を焚き付けるように恋をし、ゴールテープを切る。友人や社内や家族――周りから祝福されれば、「私の恋は実った」と感じるものだ。

 けれど人を愛することは、そんなフワフワとした感情ではないのかもしれない。恋とは言い換えれば「他人の心を奪う行為」であり、それは苦く切なく、つらい感情であるはず。そんなことを思わせたのが、花房観音著『恋地獄』(メディアファクトリー)だ。

真のヤリマンこそ純潔である――『聖娼の島』が投げかけるセックスの意味

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『聖娼の島』/廣済堂文庫

■今回の官能小説
『聖娼の島』(うかみ綾乃、廣済堂文庫)

 学生の頃、また社会人になっても、ふと気付くと、コミュニティ内に“ヤリマン”のうわさが立っている……そんな経験はないだろうか? 例えば、同じ学校の生徒とはもちろん、他校の生徒ともヤリまくっているうわさがある学区内のヤリマン女生徒や、「他部署の派遣社員が実は」「同業者内で名前をよく聞くあの子」など、あらゆるコミュニティで、ヤリマンの存在はまるで都市伝説のように広まる。

 そんなうわさが立つたびに、ヤリマンといわれる女性は、学校なり地域なり会社なりの自分が生きる“村社会”の中で、セックスを利用して自己顕示をしたいのではと思わずにはいられないが、けれどもその中に、一握りの真のヤリマンが存在する。何をもって“真の”ヤリマンとするか。それは、セックスに何の対価も求めないでいられるか否かではないだろうか。そんなことを思わせたのが、今回ご紹介する『聖娼の島』(廣済堂文庫)である。

「セックスは事なかれ主義」の女への良書『わたしには鞭の跡がよく似合う』

<p> ひとりの男性から愛情と快感の両方を手に入れることは、とても難しい。どんなに愛している恋人がいても、じゃあセックスまで大満足しているのかと問われると、素直に頷ける女性は少ないだろう。そんな時、女性はどうしているのか? 体が満足できなくても「でも、彼のことが好き」と、納得しているのだろうか? それとも、快感を求めてくすぶるもう1人の自分を解放させてしまうのか?</p>

骸骨を前にセックスに耽る――“過去の男”への深層心理を炙りだす『枯骨の恋』

<p> 幼い頃はキラキラ輝いていた未来も、歳を重ねてゆくたびに、だんだんと期待が抱けなくなり、過去ばかりを振り返るようになる。それは、恋愛に対しても同様だ。歳を取ってから始める恋愛は、たいてい相手に昔の男の幻影を重ねてしまうものだ。捨てたり捨てられたりした男たちを振り返り、過去の自分や恋人と照らし合わせ、今の自分の恋愛に対して優劣を付けることもあるだろう。</p>

愛のないセックスこそ快感? 『リコちゃんの暴走』が暴く、痛い女の自己愛

<p> 人を好きになるという心理の裏側には、自己愛が秘められている。例えばルックスの良い男性を好きになり、その思いが通じた場合、すれ違う女性たち全員から嫉妬の視線を感じて快感を得られる。エリートの男性とゴールインすれば、「こんなに安定した収入のある男と結婚できる私」「ここに集まっている女友達の中で一番高収入の男に見初められた私」と思わずにはいられない。男への愛情とは、どこかで利己的なものなのだ。</p>

「セックスは、感情云々ではない」AV女優・森下くるみ、覚悟の根源とは?

<p> さまざまなアイドルグループが誕生し、「アイドル戦国時代」といわれる現在。一般の女の子が、テレビや舞台に立って声援を浴びることが昔に比べて容易くなり、アイドルになる“きっかけ”も、変わってきたように思う。「AV女優を足がかりにする」というのも、その一例だ。AV女優をメインに集めてアイドル活動をしていた「恵比寿マスカッツ」の活躍がひとり歩きし、「アイドルになりたいなら、まずAV女優になることが近道」と考える女の子が出てきたというのだ。</p>

女だって“勃起”する――『星が吸う水』が描く、性別を超越する女の快感

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『星が吸う水』/講談社

■今回の官能小説
『星が吸う水』村田沙耶香(講談社)

 女がただ純粋に性欲を晴らすためだけのセックスを求めようとしても、それを公衆の面前で声を大にして言うことが、はばかられる世の中である。男であれば、ちょっと抜きたくなった時、まるでパチンコ屋に行くかのように「俺、今日フーゾクに行くよ」と何の気負いなく言えるのではないだろうか。

 しかし女の場合は、そうもいかない。例えば隣のデスクに座っている同僚が「私、今日セックスしたくなったから、セックスフレンドのところへ寄ってから帰るわ」と発言したら、どうする? 私だったら、慌てて彼女をオフィスから連れ出して「そんなこと大声で言っちゃダメ!」と、彼女をたしなめるだろう。

SMこそセックスの基本!? 『調教MYダーリン』の女王と下僕の奥深い関係

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『調教MYダーリン』/宝島社

■今回の官能小説
『調教MYダーリン』水無月詩歌(宝島社)

 付き合う相手によって趣味や食事の好みが変化する――という女性は多い。しかし、男によって最も変わりやすいのは、セックスではないだろうか。淡白なセックスしか知らなかった女が、濃厚なセックスをする男と付き合った途端、その気持ち良さを知り、女として開花したという経験談はよく耳にする。そのほかにも、男の“性癖”に影響を受ける女性もいるだろう。

もし、パートナーにSMの趣向があったとしたら――今回ご紹介する『調教MYダーリン』(宝島社)の主人公・蘭は、セックスに対して非常に臆病な女性だ。経験こそあるものの、昔付き合っていた彼氏に「マグロだ」と陰口を叩かれ、以来すっかりセックスに対してコンプレックスを抱くようになってしまった。最近では、同僚の黒田から一方的にアプローチを受け、告白を断ったにもかかわらず、しつこくつきまとわれ、辟易としている。

古女房の摩訶不思議な変化物語――官能ホラー小説『秘めやかな蜜の味』

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『秘めやかな蜜の味』/実業之日本社

■今回の官能小説
『秘めやかな蜜の味』坂井希久子(実業之日本社)

 セックスすると、相手に対して情が沸くのが人の性。特に女は、抱かれた男に対して情念を抱いてしまうこともあるのではないだろうか。ベッドでもそれ以外でも、たっぷり愛してくれる男に対しては、燃え上がるほどの熱い愛情を注ぐ。しかし、裏切られたり、不条理な形で捨てられたりすると、女は豹変してしまう。それまでの“愛されていた女”からは想像もつかないほどの憎しみを持ち、相手を奈落の底まで追いつめてしまうのだ。嫉妬や妬みにかられ、なりふり構わなくなったその姿は、もしかしたら人ではなく“別のなにか”にも見えてしまうのかもしれない。

 今回ご紹介する『秘めやかな蜜の味』(実業之日本社)は、高齢化の進んだ小さな町に移り住んだ、40を目前にした夫婦の物語だ。39歳になる牧衛は、都会を離れて幼い頃に住んでいたこの町にやってきた。妻の環とひっそりと静かな田舎暮らしを送る日々――しかし、牧衛の周りには、次から次に“不思議な女性たち”が現れる。本書は、現実と空想の間で翻弄される牧衛を描いた、「官能ホラー」小説である。

『人形』が描く、「母親の男」に恋をしてしまった女の末路とは?

『M』/文藝春秋

■今回の官能小説
『人形』馳星周(『M』より、文藝春秋)

 相手を「好き」だと感じるピュアな心情。例えどんな相手であっても、その思いを受け止めてほしいと感じるはず。相手に触れたい。そして、大好きな相手に裸の自分を受け入れてもらいたい――恋をすると誰しもが、そんな思いを抱くはずだ。しかし時として、「好き」という感情は最も恐ろしい感情へと変化する。相手への思いが一方通行にしかならなかった時、「好き」という感情は歪みを生じ、自分でも制御が利かなくなってしまうのだ。

 今回ご紹介する馳星周の『M』(文藝春秋)は、愛や肉欲に翻弄され、背徳への道を転がり落ちてゆく男女が生々しく描かれている短篇集。中でも、就職活動中の女子大生の純粋な恋心を描いた「人形」は、心がひりつくほど痛々しく悲しい愛がつづられている。