セックス中に“俯瞰”する女たち――『あなたのそばに』から考える女の本能

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『六つの禁じられた悦楽』(宝島社文庫)

■今回の官能小説
『あなたのそばに』(葉月奏太、『六つの禁じられた悦楽』より)

 男は別れた女との思い出を、まるで引き出しにでもしまうように大事に取っておく生き物だという。では、女にとっての失恋とは何なのか? ロマンチストな男とは真逆で、女はリアリストだと言うのならば、さしずめ女にとっての失恋は、「次の恋愛につなげる大事なステップ」だろう。失恋=失敗と捉え、「なぜ失敗したのか?」そして「また同じ失敗をしないためには、どうすればいいか」に頭を悩ませる――女はそんな一面を持っているのかもしれない。

 今回ご紹介する、官能アンソロジー『六つの禁じられた悦楽』(宝島社文庫)に収録された『あなたのそばに』の主人公・梨香は、どこにでもいるような普通のOLだ。彼女は23歳の頃、2つ年上の彼・あっくんと交際していた。地味なOLの梨香にとって、病院勤めで忙しいあっくんの存在は眩しく見えた。手料理を作ってもてなしたりと尽くしていたが、ある日彼が二股をしている事実を知る。しかも自分は本命ではなく、単なる遊び相手だった。

『不倫(レンタル)』というタイトルに込められた、高齢処女の思考回路とは?

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『不倫(レンタル)』(角川書店)

■今回の官能小説
『不倫(レンタル)』(姫野カオルコ、角川書店)

 「30歳を過ぎた処女」と聞くと、「見た目が残念なのかな?」「性格がきつすぎるとか」「それとも男性恐怖症?」などと思ってしまいがちだが、特に容姿や性格に問題があるわけでもなく、男性にも興味があるという高齢処女だって確かにいる。本当に、“たまたま”セックスに至ることができないまま、歳を重ねてしまったという女性が。言い換えればそれは、事故のようなものだ。

 もし私がその立場だったとしたら? 個人の問題だとわかっていても、周りの同性の友達と比べてしまいそうだ。結婚と出産を経て、処女だった時代のことすら忘れ果てている友達を見ると、私は多分、自分自身を笑うことしかできなくなると思う。とうの昔に売り手市場は終わってしまったと思い込み、その半面、男子中学生のように強くセックスを渇望する。その現実をどう受け止めればいいのか、わからなくなるのではないだろうか。

幸せな家庭を築く男の秘密を知る、快楽と苦しみ――尾行小説『二重生活』

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『二重生活』(角川書店)

■今回の官能小説
『二重生活』(小池真理子、角川書店)

 女は「他人のうわさ好き」といわれる生き物だ。それは、自己評価を重んじる男性とは違い、女は他人と自分を比較することで、自分の立ち位置を把握しようとするからだ、という一説がある。そして女は、他人のうわさ話を耳にしたり、行動を盗み見たりすることで、自分の中に潜む秘めた感情をも呼び覚ましてしまう。

 今回ご紹介する『二重生活』(角川書店)は、王道の“官能小説”とは違うが、女の秘めた部分を引っ掻くような描写が多い物語だ。この物語の舞台は、関東郊外にあるニュータウン。家族連れで賑わう大型のショッピングモールがある街に、主人公の白石珠は恋人である卓也と共に住んでいる。

「後生ですから」で即緊縛! SF官能小説『エロチカ79』に見る官能の新境地

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『西城秀樹のおかげです』(早川書房)

■今回の官能小説
『エロチカ79』(『西城秀樹のおかげです』より/森奈津子、早川書房)

 あなたは、「官能小説」と聞くとどんな世界観を想像するだろうか? まるで人気のない地下室のような、陰湿で暗く、淫靡な雰囲気を思い浮かべる人が少なくないように思う。それは、いわゆる昭和時代から存在している「旅列車のお供」としての官能小説の世界だが、昨今官能小説の表現は多様化している。じっとりと読ませるスタンダードな官能小説とは真逆の、晴れ晴れした明るくポップな官能小説も存在する。その1つが、今回ご紹介する『西城秀樹のおかげです』(早川書房)に収録された『エロチカ79』だ。

 時は1979年、ヤンキー全盛期で校内暴力が問題視されていた時代。主人公の麻里亜は中学3年生の女の子で、セーラー服の袖をまくり、くるぶしまで長いスカートを引きずり、授業をサボってカツアゲをする日々を送っていた。

男の性奴隷と化したCAたち――『夜間飛行』が問う、女を花開かせるものとは?

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『夜間飛行』/二見書房

■今回の官能小説
『夜間飛行』(蒼井凛花、二見書房)

 昔から「女の勝ち組」職業といえば、キャビンアテンダント(CA)だ。容姿と知性の両方を兼ね備えているCAは “高嶺の花”というイメージが強く、だからこそ、男の征服欲をそそる職業ではないだろうか。
 
 知られざるCAの世界が描かれている『夜間飛行』(二見書房)の著者・蒼井凛花は、元CAという経歴を持つ異色の女流官能小説家だ。現役CA時代の経験に基づいて書かれている飛行機内のバックヤードの描写は、非常に興味をそそられる。

亡父と妻の肉体関係を暴きたい――『砂の上の植物群』の色あせない真っ直ぐな性愛

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『砂の上の植物群』(新潮社)

■今回の官能小説
『砂の上の植物群』(吉行淳之介、新潮社)

 子どもの頃、なにげなく書店や図書館などで手にした本。その中に、官能的な表現が描かれていて、驚いた記憶はないだろうか? 筆者がこの本を手にしたのは、ちょうど中学生の頃。手当たり次第に本を読みあさっていた時に出会った吉行淳之介の『砂の上の植物群』(新潮社)この本には、当時の私が知らない男女の世界が書かれていた。ドキドキしながらページをめくっていた私は、いけない世界に踏み込んでしまった罪悪感を得る半面、幼いながらに大人の世界を垣間見てぞくぞくした覚えがある。

 本書は、私が産まれる前の1964年に発表された作品。主人公は、40歳前後のセールスマン・伊木一郎。彼は、最近完成された塔の上で不思議な少女と出会う。真っ赤な口紅を塗った女子高生、明子。彼女の姿は、一郎が以前働いていた定時制高校の教え子、朝子を連想させる。定時制高校に通い、居酒屋で働いていた朝子も、明子と同じように真っ赤な口紅をしていた。

部下に妻を寝取られ、自慰に耽る中年男の悲哀――『不貞の季節』が最高にエロい理由

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『不貞の季節』/文藝春秋

■今回の官能小説
『不貞の季節』(団鬼六、文藝春秋)

 愛する者の裏切り行為は、時に人のマゾヒスティックな気持ちを呼び覚ます。例えば恋人が、自分以外の女とセックスしていると気付いた時、例えようのない悲しみと怒りに包まれながら、どこかその半面「愛する人が、ほかの女を抱いていた」という現実に、えも言われぬ“官能”を感じることはないだろうか。ほかの女をどう抱いたのか――? そんないやらしい好奇心を抱いてしまう自分が、どこかに存在してしまうこともある。

 SM作家の第一人者である大御所・団鬼六の自叙伝的小説『不貞の季節』(文藝春秋)は、当時40歳だった鬼六に起きた、衝撃的な日常が赤裸裸に描かれている。

「モテない女の妄想炸裂」男目線の女性の官能小説像に一石を投じる『華恋絵巻』

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『華恋絵巻~美しすぎる官能作家競艶~』/宝島社

■今回の官能小説
『華恋絵巻』(藍川京、蒼井凛花、うかみ綾乃、櫻乃かなこ、森下くるみ、宝島社)

 「官能小説」と分類されるには、ある1つのルールに必ず則っていなければならない。一編の物語の中で、最優先で表現されていなければならないのが、セックスだということだ。私たちにとってセックスとは、あまり大声では話せない、秘密の行為。だからこそ、何よりも他人のセックスが気になってしまうというのも、女の性だろう。

 あらゆる小説の中で、最も異色なジャンルの1つといってもいい官能小説だが、最近では、女性読者が増え、新人の女流官能小説家も続々とデビューしている。「女流官能小説家」という言葉を聞いて、一体どんな人物を想像するだろう? 「セックスを描く」女流作家という肩書から、彼女たちの性癖や男性遍歴など、あらゆる想像をしてしまうのは否めない。

『ジェリー・フィッシュ』に見たセックスの本質、少女らが首を絞め合う意味

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『ジェリー・フィッシュ』/新潮社

 思春期の頃は、女友達を“好き”という気持ちに、どう友情と愛情の境界線を引けばいいのか難しかった。例えば、親友がほかの女友達と仲良くしていると嫉妬心が沸いてしまったり、付き合っている男の子はいるけれど、親友との時間は彼氏との時間以上に大事に感じて、親友との約束ばかり優先してしまったり。

 感情のコントロールが未熟だった10代。雛倉さりえの『ジェリー・フィッシュ』(新潮社)は、そんな少女たちのピュアで残酷な恋心を瑞々しく描いている。

 高校の同級生の、夕紀と叶子。2人の関係が始まったのは、入学式のすぐ後の学年旅行で訪れた水族館だった。1人ぽつんとクラゲの水槽の前に佇んでいた夕紀。薄暗い空間の中で、彼女に声をかけたのが叶子だった。

『ゆっくり 破って』から考える、「三十路の処女はいかに“破られる”べきか?」

<p> 「三十路の処女」という女性は、果たして存在しているのだろうか。男が苦手なわけでも、同性愛者でもない。学生時代には交際相手もいたし、デートもキスも経験した。しかし、その先にはいかなかった。そしてそのまま大人になり、気がついたら三十歳を過ぎていた……私は、そんな都市伝説のような女性はほとんどいないと思っていたが、最近、実は意外と少なくないのではないかと感じている。恋愛全盛期の20代から三十路前を経て、晴れて結婚に落ち着いた女友達何人かが、「実は……旦那が最初で最後の男」だと、今になって私に告白しだしたのだ。</p>