石田衣良『いれない』が教えてくれる、挿入のないセックスが男女を強く結びつける理由

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『エロスの記憶』(文藝春秋)

■今回の官能小説
『いれない』(石田衣良、『エロスの記憶』より)

 挿入することだけがセックスではない。それ以外にも、快楽を得る方法は無数にあるし、挿入での快楽にこだわりすぎると、体位などに気を取られたりして、かえって快楽から遠のいてしまうこともある。恋人同士のセックスであれば、挿入以上に、愛撫されることで女性は感じることも多いだろう。セックスという行為そのものに囚われてはいけない。セックスを「しない」ことを選択することによって、心を強くつなぐことができることも、また大きな視野で捉えると、「セックスの魅力」と言えるのかもしれない。

 今回ご紹介する『エロスの記憶』(文藝春秋)は、9作の短編が収録されているアンソロジーだ。小池真理子、桐野夏生、村山由佳などの第一線で活躍している9人の作家が名を連ねている。収録作品全てに共通しているのが、セックス以外の方法で感じ合う男女たちの物語だ。

花房観音が描く、女の血に塗れた祈り――『神さま、お願い』に官能の匂いを感じる理由

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『神さま、お願い』(角川書店)

■今回の官能作品
『神さま、お願い』(花房観音、角川書店)

 女の欲望は底知れない。有名パワースポットに群がり、一心に手を合わせている女たちを見ていると、「この地は彼女たちの欲を全て受け止めているのか」と、おののいてしまう。

「両思いになれますように」「商売が繁盛しますように」「家族円満で過ごせますように」――生きていれば誰もが1度や2度は祈るであろうささやかな願い。それが、もしも“必ず”成就する場があるとしたら――? デビュー以来、“官能”を書いてきた著者・花房観音が初めて官能色のない作品に挑戦したのが、今回ご紹介する作品『神さま、お願い』(KADOKAWA)だ。ストレートな官能描写はないけれど、女の秘めた“欲深さ”があらわになるストーリーに、ふいに官能な匂いをも感じてしまう。

昔の女を忘れない男は面倒くさい!? 男目線のファンタジー『初恋ふたたび』が女に与える救い

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『初恋ふたたび』(イースト・プレス)

■今回の官能作品
『初恋ふたたび』(末廣圭、イースト・プレス)

 巷ではよく、男女の恋愛観の違いを、“PCファイル”に喩えることがある。女は別れた男との思い出を上書き保存するけれど、男は全ての思い出をフォルダに入れて永遠に保存しておく、というのがそれである。実際女である筆者も、昔の男の存在なんて記憶から速攻で消去する。恋愛を重ねることで自分をステップアップさせたい、絶対に前の恋人よりも条件のいい男を彼氏にしたい。だから、昔の男のことなど思い出す必要などない。

 しかし、男の中では、昔の恋人との思い出は何十年たっても色褪せることはなく、むしろ浄化されて美しい思い出へと変化する……今回ご紹介する『初恋ふたたび』(イースト・プレス)も、そんな男が主人公。ある写真家が、10年前の恋人との再会を夢見る物語である。

1億部突破の官能小説『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』に見る、選ばれる女からの卒業

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『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(早川書房)

■今回の官能作品
『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(E.L.ジェイムズ著、池田真紀子翻訳/早川書房)

 女ならば、一度はシンデレラストーリーにあこがれたことがあるのではないか。しかし不況の出口が見えない今のご時世、イケメンで金持ちの王子様に見初められてハッピーエンドになるなんてあり得ない。男より稼ぐ女だってざらにいるし、今日日の男は女そのものに興味が失せ、“絶食男子”なんていう言葉すらはやり始めているほどだ。

 けれど、せめて本の世界の中だけでは、めくるめくおとぎ話を楽しみたい――そんな願いを持つ女性は、全世界にいたようだ。今回ご紹介する『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(早川書房)の売り上げがそれを示している。

腐りゆくケーキが表す死――性描写のない『寡黙な死骸 みだらな弔い』が官能をくすぐるワケ

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『寡黙な死骸 みだらな弔い』(中央公論新社)

 小説に“官能”を求めると、どうしてもセックス描写が最初に思い浮かぶけれど、実はセックスや裸以外にもそれを感じることが多々ある。

 例えば、カラスが熟しきって今にも枝から落ちそうになった柿をつつく様子。まるで女性器を指で突かれて、エクスタシーに達したときのような感覚を得てしまう。そんな些細な日常の中に、官能を感じる読者も少なくないのではないだろうか。

かつての先生への淡い恋心が“タブー”を生む! 高校教師の愛欲を知る『ももいろ女教師』

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『ももいろ女教師 真夜中の抜き打ちレッスン』(実業之日本社)

■今回の官能作品
『ももいろ女教師 真夜中の抜き打ちレッスン』(葉月奏太、実業之日本社)

 思春期の頃、一番身近に接していた年上の男性は“先生”だった。今思えば、それほど年が離れてはいなかったのだが、スーツを身にまとい教壇に立っているだけで、クラスにいる男子生徒とは一線を画す大人の匂いを感じたものだ。

 くたびれた背広姿や猫背気味の背中、セットをしていない寝癖にすらも、“大人”の味付けがされ、女子生徒の目にはプラスポイントと映る。10代の頃、一度くらいは先生にあこがれた人も少なくないだろう。筆者も実はその1人だ。

童貞青年と見守る女の霊……青春の歯がゆさあふれる官能小説『ずっと、触ってほしかった』

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『ずっと、触ってほしかった』(KADOKAWA)

■今回の官能作品
『ずっと、触ってほしかった』(庵乃音人、KADOKAWA)

 女が一番嫌がる男は、“童貞”なのかもしれない。初めてならば、ある程度勝手を知っている男にリードしてほしいし、セックスについていろいろ教えてもらいたい。次に付き合う男とは、一緒にセックスを開拓していきたい。結婚を考える男とは、セックスの相性も知り合える仲がいい……つまり、女の男遍歴にはどのシーンにも童貞は存在しないのだ。もちろん、童貞に手ほどきをしたい女もいるだろうが、セックスのときに主導権を男に握ってほしいと願う女は多いし、「女が主導権を握るとオカンみたいで……」と思う男もいる。

『Red』が描く、不倫愛に陥ったセックスレス妻――彼女に感じる“愛おしさ”の正体とは?

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『Red』(中央公論新社)

■今回の官能作品
『Red』(島本理生、中央公論新社)

 女は年を重ねるたびに、自分の欲望を開放することが難しくなってくる。そのきっかけになるのが出産だ。かつては街を歩けば楽しみばかり転がっていたはずなのに、ひとたび子ども連れになると、身勝手に楽しむわけにはいかない。子どもの手を引き、機嫌を取り、ぐずりだす前に早々と用事を済ませて帰宅する……自由であるはずの外出はいつしか苦痛となっていく。もちろん、子どもを持つ喜びもあるが、子どもの成長を最優先にした生活を続けるうちに、家庭をまるで“牢獄”のように感じてしまう瞬間もあるのではないだろうか。
 
 今回ご紹介する『Red』(中央公論新社)の主人公・塔子は、端から見れば幸せをそのまま形にしたような女性だ。イケメンの夫を持ち、出産を期に会社退職し、3歳の娘・翠と、義理の両親と共に暮らしている。姑は塔子に対して理解があり、平穏無事に暮らしていた。

“親からの愛情の欠乏”が女を風俗への道に進ませる? 風俗嬢の自叙伝に見る叫び

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『風俗嬢菜摘ひかるの性的冒険』(光文社)

 AV女優をはじめとしたセックスを生業にする女性の中には、“愛情に飢えている”人がいるように感じる。例えば筆者の知人のAV出演経験者は、幼い頃から父親にDVを受けていて、男性に対する強い恐怖心とは裏腹に、「愛されたい」と強く感じるようになったのが、AV出演のきっかけだったという。AVで大勢の男に求められることで、欠落している父親からの愛情を埋めようとしているのかもしれない。

 AV女優や風俗嬢の自叙伝などを読んでいると、幼い頃にこのような深い傷を受けたことが共通している場合が多い。いつも小説を取り上げる当コーナーだが、今回は少し趣向を変えて、風俗嬢の自叙伝『風俗嬢菜摘ひかるの性的冒険』(光文社)紹介しようと思う。

『堕落男』が考えさせる、「男にとって“過去にセックスした女”とは何者なのか?」

<p> セックスとは、そもそも人と人をつなぐ行為だと思う。しかし今の世の中、男女ともにその瞬間の性欲をぶつけ合いたいだけだったり、セックスの延長線上に何も見いださないことも不自然ではない。一方で、「この人と結婚したい」などと、将来の関係性を約束するために打算的に体を開く人もいる。どちらにしても、「人と人をつなぐ行為」とはかけ離れた、薄っぺらな情念の上にセックスが成立している気がしてならない。今夜、淋しいからセックスをする。将来が不安だからセックスをする。</p>