好きな人がいるのに、なぜほかの男とセックスするのか? どうしようもない女心を描く『言い寄る』

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『言い寄る』(講談社)

■今回の官能小説
『言い寄る』(田辺聖子、講談社)

 恋愛は思い通りにならないことの方が多い。好意を抱いた男性には振り向いてもらえないのに、恋愛相談をしていた相手といつしか恋人同士になってしまうことはよくあることで、決して一筋縄ではいかないものだ。今回ご紹介する『言い寄る』(講談社)も、そんな恋愛小説である。

 主人公は、31歳のフリーデザイナーの乃里子。彼女の元同僚・美々の妊娠が発覚する場面から物語は始まる。美々の頼みで、彼女を振った男との話し合いに同席することになった。その席に美々の元恋人と共に現れれたのは、財閥の御曹司である剛。その後剛と会うことになった乃里子は、流されるままに体の関係を持ってしまう。

「セックスは恋愛の上にある」と頭でっかちな人に一石を投じる“淫道家”小説『淫府再興』

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『淫府再興』(講談社)

■今回の官能小説
『淫府再興』(沢里裕二、講談社)

 若者男性のセックスや恋愛離れが久しいといわれる昨今。デートスポットの“アイコン”とされているテーマパークへ、男性のみの5~6人グループで訪れるのが珍しくなくなったという。彼らはお揃いのキャラクター帽子を被り、カップルで訪れる来場者には目もくれず、満面の笑顔で男性だけの青春を謳歌している。

 女性など必要ない、セックスなんていう行為は面倒以外の何物でもない。女性を口説いたり、相手を悦ばすために面倒なプロセスを踏まなければいけないのならば、性欲なんてオナニーで済ませればいい。女である筆者からすると、「そういう時代」と一蹴できない現状である。

触れられないことで感じられる官能――片思いの興奮が凝縮された『あなたとワルツを踊りたい』

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『あなたとワルツを踊りたい』(早川書房)

■今回の官能小説
『あなたとワルツを踊りたい』(栗本薫、早川書房)

 人が“官能”を感じるのは、キスやセックスの瞬間だけではない。肌を露出しなくとも、相手に心を受け入れられることがなくとも、官能を感じられることだってある。

 今回ご紹介する『あなたとワルツを踊りたい』(早川書房)はOLのはづき、はづきをストーキングしている昌一、タレントのユウキの3人の登場人物の視点で物語が構成されている。

家庭ある男の自宅でセックスする昼顔妻――『妻たちのお菓子な恋』があぶり出す、女の甘さと性

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『妻たちのお菓子な恋』(主婦と生活社)

■今回の官能小説
『妻たちのお菓子な恋』(亀山早苗、主婦と生活社)

 昨年大ヒットしたテレビドラマ『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(フジテレビ)以来、不倫をしている既婚女性が注目されている。実際、書店ではドラマから生まれた“昼顔妻”という言葉を使用した本も目立つようになった。『昼顔』以前、不倫に走る妻の存在がメディアに取り上げられたことがなかったわけではないが、それでも世間では、「不倫=男性のたしなみ」というのが暗黙の了解だった。それが、このドラマによって覆された。

 今回ご紹介する『妻たちのお菓子な恋』(主婦と生活社)は、66人の婚外恋愛経験者である既婚女性たちの告白本だ。十人十色の不倫劇が赤裸々に綴られており、各話の最後には著者である亀山早苗氏からの“教訓”も書かれている。16年もの間、数え切れないほどの不倫・婚外恋愛経験者の話を聞いてきた亀山氏ならではの鋭い視点による教訓は、まさに「失敗しない婚外恋愛」のテクニックなのだ。

 本書には数々の事例が、出会い、デートなどの各シチュエーション別にカテゴリ分けされている。例えば出会い・相手選び編にある、39歳の女性の略奪体験談。安定した結婚生活を送っている女性が、ひょんなことから同僚の彼氏を奪ってしまう。きっかけは、彼に対して性欲を感じたこと。年齢の近い彼と音楽の話で意気投合するうちに、同僚の彼氏としてではなく“男”として彼を見てしまった。数カ月後に、同僚は彼と別れてしまうのだが、彼女との一夜が引き金となったのは定かではない。

「彼の家へ行く」などという、婚外恋愛では考えられないほど大胆な行動を取っている体験談もある。相手の妻が帰省中に、彼の家でセックスを楽しんだ38歳の女性。そこには、ダブルベッドのほか、仲睦まじい家族写真などが置かれている。相手の家庭に忍び込んでセックスをする――婚外恋愛のタブーを犯した彼女は、以後、恋人と会っていないそうだ。

 このように婚外恋愛をしている上で、必ず問題になるのがセックスだ。高校時代の友人と再会した女性は、いつの間にか彼と深い仲になってしまう。お互い家庭のある身だが、嫉妬深い彼は「家ではしない」と宣言する。彼女も彼の思いに答えるように、夫の誘いを拒み続けるが、結局は夫からの誘いに応じることになる。

 これらのエピソードに対して、亀山氏は、「恋愛か遊びかを自覚すること」「彼の暮らしを見ることはリスクが高い」「彼との関係を続けたいのなら家庭内でのセックスも受け入れる」と、鋭くアドバイスをしている。

 本書は、表題にもあるように婚外恋愛とは、“お菓子”であると唱えている。そう断言できるほどに、現在の婚外恋愛体験者の女性は、家庭外での恋を“楽しむもの”と受け止めているのだろう。守るべき家庭があるからこそ、ちょっとだけつまみたい“お菓子”としての婚外恋愛を求めているのだ。

 しかし本書を読むと、それを頭では理解していても行動が伴わないという女の性(さが)も見え隠れしている。本書に収録されている事例は全て失敗談であり、夫や身内にバレたり、読んでいてヒヤリとする、“お菓子”とはとても呼べないような体験談ばかりなのだ。そんな彼女たちに対する亀山氏の教訓は、メールのやり取りの仕方はもちろん、香水について、また相手の男性との別れ方にまで至り、正直「婚外恋愛って、そこまでバレないように気をつかわなきゃいけないの?」と感じるものも少なくなかった。しかし恋をすると、それがたとえ“お菓子な恋”だとしても、やましいものではないと思いたい、第三者からも肯定してもらいたいという女心の片鱗がのぞくのかもしれない。それは同時に、女の恋愛に対する甘さとも言えるだろう。

 ここ数年、女性の社会的地位が向上し、自由になる時間やお金が増えた。だからこそ、結婚しても恋愛やセックスを貪欲に求める女性が増えたことは、ごく自然なことのように思う。しかし、そこには必ずリスクが伴う。婚外恋愛という道を選ぶならば、守らなければならいことがある――あとがきにもあるように、亀山氏は決して不倫や婚外恋愛を推奨しているわけではない。しかし16年もの間、数え切れないほどの禁断の恋を体験している人々の声を聞き続けてきたことで、彼女たちのやるせない性(さが)を誰よりも熟知しているのだろう。本書は、安易に婚外恋愛に足を踏み入れようとする女性たちの反面教師と言える1冊であるとともに、彼女たちに「やるんだったら腹をくくれ、うまくやれよ」と言っているような気がする。
(いしいのりえ)

指一本で表現される静謐ないやらしさ――川端康成の『雪国』を“官能”として読む

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『雪国』(新潮社)

■今回の官能小説
『雪国』(川端康成、新潮社)

 日本の名作純文学の中には、実は「性を美しく表現した」作品も数多く存在している。中高時代に課題図書だった作品や、幼い頃に教科書で目にした作品を、大人になってから読み返すと、その繊細な性描写に圧倒されることがある。年を重ねてからこそ気づける機微――大人になるとジャンクフードを敬遠して、出汁の染みた煮物を欲しがるように、私たちの感性は日々少しずつ変化している。

 今回ご紹介する『雪国』は、川端康成の代表作としてあまりにも有名だ。冒頭の「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」は、現在も“名文”として語り継がれている。

アル中女と元ヤクザの恋愛劇、『ヴァイブレータ』に描かれる「認められたい」女の欲望

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『ヴァイブレータ』(講談社)

■今回の官能小説
『ヴァイブレータ』(赤坂真理、講談社)

 小説の中に、自分自身とシンクロする描写を見つけることは、読書をする上でなによりも至福の瞬間だと思う。自分とはかけ離れた、絵本のようなシンデレラストーリーにどっぷりと浸ることも楽しいけれど、フィクションの中に、ふと自分の胸の内をのぞかれた描写を見つけたとき、「言葉にできない思いを代弁してくれた」「自分を肯定してくれた」と感じて安心する。そんな経験はないだろうか。

ツンデレ上司と恋愛に不慣れな部下――韓流官能小説が見せる“おとぎ話”としてのセックス

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『恋のパフューム』(三交社)

■今回の官能小説
『恋のパフューム』(チョン・ジミン著、いしいのりえ翻訳/三交社)

 少なからず“恋愛感情”というものを誰かに抱いたことのある人は多いが、育った環境によってその感情表現は大きく異なるものである。ひと昔前とは比べものにならないほど、日本人の恋人同士の愛情表現は大胆に、欧米化してきたとはいえ、その裏では“絶食系男子”なる言葉まで生まれたように、生身の女性にまったく興味を示さない若者もいるようである。よくも悪くも、不安定な現代の日本情勢を表しているようにも感じる。

 さて、お隣の韓国はどうだろう? 韓国の若者には、さまざまな障壁が待ち構えている。例えば、熾烈を極める受験戦争、徴兵がそれに当たる。これらの障壁によって恋愛がいっそう燃え上がることも想像に難くないだけに、若者たちは、もしかしたら私たちが想像するよりも情熱的な恋愛観の持ち主なのではないだろうか。日本でも大ブームになった、韓国ドラマ特有の“ロマンティックなラブストーリー”もこうした背景から生まれているのかもしれない。

『秘密の告白~恋するオンナの物語~』に思った、人妻が不倫セックスに言い訳しないワケ

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『秘密の告白~恋するオンナの物語~』(文芸社)

■今回の官能小説
『秘密の告白~恋するオンナの物語~』(亀山早苗、文芸社)

 不倫をしていることが妻にばれたとき、まず言い訳から入る男は多い。愛人に対しては散々愛の言葉を吐きつづけてきたにもかかわらず、それまでの恋愛気分などは一蹴して保身に走る。それに比べて、不倫がバレた女はそう簡単には謝らないような気がする。たとえ世間を敵に回す行為だとしても、自分の行為に対して非常に強い意志を持っている――そんなことを、今回ご紹介する『秘密の告白~恋するオンナの物語~』(文芸社)を読んで感じた。

 同書は、3人の人妻の心を描いた物語。平凡な人妻たちが婚外恋愛に足を踏み入れ、溺れてゆく様子を描いている。

カルボナーラを食しながらセックスに耽る――『淫食』の性愛描写がいやらしい理由

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『妻の犯罪―官能小説傑作選 哀の性』(KADOKAWA)

■今回の官能小説
『淫食』(『妻の犯罪―官能小説傑作選 哀の性』より/小玉二三、KADOKAWA)

 食事とセックスは非常によく似ている。目で楽しみ、口の中に含み、舌で味わい、咀嚼する。出会いからセックスに至るまでの流れと同じようだ。女も、セックスをするときにパートナーになる男のルックスにこだわる部分はあるが、男が女の見た目に対するこだわりようは想像以上に強い。容姿やスタイルの好みはもちろん、触り心地や肌の感触まで細かくイメージしている男性が少なくないのだ。

 筆者の知人の男性は、胸が小さくて細身な女が好きだと言っていた。その理由は、セックスの時、恥骨が浮き出た部分をアイスキャンデーのようにしゃぶるのが好きだという。またある男性は、ぽってりとしたおなかに指を食い込ませるときの感触がたまらないそうだ。そんな話を聞いていると、「まるで食事の好みを語っているようだ」と感じてしまう。

上司の妻との濃厚なセックスシーンが描かれる『愛される資格』が“官能小説ではない”理由

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『愛される資格』(小学館)

■今回の官能小説
『愛される資格』(樋口毅宏、小学館)

 男はよく男同士の関係性を築くために女を利用することがある。ひと昔前だと「家庭を持つ」ということは、男にとって社会的地位を安定させるための重要な要素だった。また、任侠映画などでは、いい女を抱くことが男にとってのステイタスだったりする。

 男たちの身勝手に付き合わされる女たち。もちろんその男女間には、多少なりとも恋愛感情を育んではいるのだろうけれど、もしかすると、男たちにとっては目の前の女よりも、この女と関係している自分自身が、ほかの男たちにどう映っているのかが重要なのでは、と感じることもしばしばある。