体を売ることで少年は男になる? 石田衣良『娼年』、“成長”を描く性描写の妙

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『娼年』(集英社)

 ランニングをして体に負荷をかけることが快感だと思う人もいれば、「ただの苦痛でしかない」という人もいるように、セックスを愛する相手と快感を求め合う行為ではなく、“性欲の処理”とだけ捉えている人もいるのではないだろうか。若者がセックス離れしているといわれる昨今、特定の恋人はいるけれど、性欲は自慰で解消する……という人も少なくないという。

 確かにセックスは日々蓄積する性欲の解消、そして子を作るための行為ではある。しかし、人と人とが、一糸まとわぬ姿で獣のように“欲求を満たす”という摩訶不思議な行為には「この人の彼氏になりたい」「この人のことをもっと知りたい」など、言葉では説明できない思いが錯綜している。それに気付くと、セックスという行為は何にも代え難い、稀有で魅力的なコミュニケーションになるのだ。

ラブドール職人の夫と、がんに侵された妻のセックス――官能小説に見る生々しい“夫婦愛”

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『ロマンスドール』(メディアファクトリー)

 一見、禁断の恋が描かれがちと思われる官能小説の世界にも“夫婦間の愛”をテーマにした作品は数多く存在している。そういった作品を読むたびに、夫婦ごとに異なる千差万別な愛の形があると感じ、思わず大きく頷いてしまうが、夫婦の出会いから別れ、そして、ひとり残された先の話まで書き綴られている官能小説と出会ったのは、本作『ロマンスドール』(メディアファクトリー)が初めてだ。この物語は“ロマンスドール”、いわゆるダッチワイフの制作会社で働く夫と、その妻との夫婦愛が描かれている。

 主人公の哲雄は、彫刻科の学生として美術大学の院に進み、卒業後はフリーターとして働いていた。ある日彼は、大学時代の先輩から「ラブドールの原型師にならないか」と誘われる。小さな工場で働く初老の先輩原型師と哲雄を中心としたチームは、2年半の歳月を経て第一号のラブドールを制作したが、「胸の形がリアルではない」という社長からのダメ出しを食らってしまう。そこで哲雄は、医療用の擬似乳房を作ると嘘をつき、モデル事務所から女性を派遣してもらい、石膏で乳房の型を取ることにした。こうして工場にやってきたモデルの園子は、黙々と裸になり、静かに仕事に徹する。そんな彼女に一目惚れをした哲雄は、出会った当日に交際を申し込み、2人は交際を始めることとなった。

セックスで感じない女が変わる瞬間――密室の性愛劇『永遠に、私を閉じこめて』のヒリつく純愛

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『永遠に、私を閉じこめて』(講談社)

 愛と憎悪の感情は、常に表裏一体である。例えば恋人の仕事が忙しくてなかなか会えないと、愛ゆえに寂しさが募るが、いつしかその感情は憎しみに変わり、彼を困らせてやろうと好きでもない男と浮気をしたりする。

 またその逆もある。浮気などによって傷つけられ、最低な男だと痛感しつつも、なぜか強烈に惹かれてしまう――自分でも制御できない強烈な感情が渦巻いてしまう恋愛を、誰しも一度は経験したことがないだろうか?

夫の不倫相手は「太った醜いおばさん」――『アンバランス』に描かれる、セックスレス妻の切実さ

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『アンバランス』(文藝春秋)

 恋人から夫婦へ、そして家族になる上で、“セックス”という行為は非常に位置づけが難しくる。セックスをする理由は、立ち位置によってさまざまに変化し、例えば恋人同士のセックスは「愛情を確かめる行為」、また夫婦間でのセックスは「子どもを作る行為」などと考えられるが、ただ、突き詰めると人としてするセックスは「性欲を解消するための行為」なのだ。

 それでも、セックスをするためには、何かしら理由をつけなければならないと考えてしまう……そんなとき、私たちは、なぜこうもセックスに翻弄されるのだろうか? と感じるのだ。

結婚15年目のW不倫発覚――それでも「愛してる?」と夫に問う妻に“安心感”を得るワケ

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『それを愛とまちがえるから』(中央公論新社)

 「愛しているからセックスをする」などと、愛とセックスを一括りにしてしまうから、夫婦間はこじれてしまうと常々感じている。もちろん恋人同士だった頃は、性的に相手を求めていただろうし、「愛している」の言葉の先には、当然異性としての気持ちもあっただろう。しかし、ひとたび結婚をし、1つの家庭を築き上げ、生活を共にしていく2人が交わす「愛してる」という言葉は、恋人同士の頃に囁きあったそれとは少し質が変わってくる。そこには、共に生きていくための“覚悟”が伴われるのだ。

 今回ご紹介する『それを愛とまちがえるから』(中央公論新社)は、結婚生活15年を迎えたアラフォー夫婦のダブル不倫の話だ。何事もない、普段と同じ平凡な朝、専業主婦である主人公・伽耶は、夫の匡に「あなた、不倫をしているでしょう」と問う。肯定も否定もせずに家を出た匡だが、伽耶の携帯電話に電話をかけ、君にも恋人がいるのではないか、と質問した。2人は長年セックスレスで、お互いに恋人が存在していたのだ。

不倫を“された側”は、かわいそうな存在なのか? 夫の不貞を許し続ける妻の心理

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『夫と妻と女たち』(幻冬舎文庫)

 今年のワイドショーで一番のキーワードとなっているのが「不倫」である。清純派タレントとミュージシャンとの不倫劇を皮切りに、ご意見番的なタレントやイクメン政治家や大御所タレントなど、多数の不倫騒動が勃発した。

 テレビで報道されているのは、不倫を“した側”の謝罪のみ。ネットでは、不倫を“された側”は徹底的に守られ、援護される。不倫をされた妻、夫は100%被害者で、同情される存在であることが常だ。しかしもしかすると、不倫をされた側にも、人に言えない秘密を抱えているかもしれない。

処女を捧げた男への憎悪の物語――『マサヒコを思い出せない』が教える、女の試練の乗り越え方

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『マサヒコを思い出せない』(幻冬舎)

 些細な間違いによって人生が狂い始め、気がつくととんでもないところに堕ちていることがある。

 例えば、幼い頃に机にかじりついて、ファッションや男子に興味を示さ なかったクラスメイトの女子が、十数年後の同窓会で一流企業に勤める管理職になっていたとする。先行きの見えない自由業の身である筆者にとって、それは嫉妬の対象となるだろう。「なぜあの時、私は男の視線ばかりを気にして、ちっとも勉強をしなかったのだろう」と、その日暮らしの自分を振り返り、当時の自分を恥じるかもしれない。

“不倫する女”を猛バッシングする女の心理から読み解く、『不機嫌な果実』が長年愛されるワケ

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『不機嫌な果実』(文藝春秋)

 SNSやネット掲示板などを見ていると、芸能人はもちろん、一般人の「女の不倫」は、男だけでなく、同性からも異常なほどのバッシングを受けている。不倫をしている彼女らがどういう過程を経て「不倫」という結果に行き着いたのかを語ることすら許されないほど、女たちは「不倫」という言葉に対して嫌悪感を抱く。その集団攻撃は、傍から見ていると少々行き過ぎではないかと疑問を抱くほどの異様な狂気を感じさせるのだ。

 しかしその半面、テレビドラマや映画、小説などでも「不倫」は長年描かれ続けているテーマである。中でも今回ご紹介する『不機嫌な果実』(文藝春秋)は、20年も前に発表されたにもかかわらず、今期テレビドラマ化となった、長年愛されている作品だ。同作は、映画化のほか、1997年にも別キャストにてすでにテレビドラマ化されている。なぜこの作品は、これほど長い間人々を引きつけているのだろうか。

官能小説として読む“阿部定事件”――「オチンコを憎んでいる」女の性愛を考える

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『定、吉ふたり』(双葉社)

 これまでの日本で女性が犯罪者となった事件で、誰もがすぐに思い浮かぶのが「阿部定事件」ではないだろうか。

 幼い頃から男好きする容姿を持ち、数え切れない男たちに抱かれ、芸妓屋や遊郭を転々としていた女・定が、愛する男・石田吉蔵を絞殺した……という昭和初期の事件だ。

巨根は「ユーモアポルノ」! 女流官能小説家の指南書に見る、“女だからこそ”の妙

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『女流官能小説の書き方』(幻冬舎新書)

■今回の官能作品
『女流官能小説の書き方』(藍川京、幻冬舎新書)

 官能小説はもちろん、読書好きであれば一度は「書き手」にあこがれた人も少なくないのではないだろうか。筆者もその1人で、どこへ発表するわけでもない小説を自由に書いてみたり、小説を書くにあたっての前知識となる、いわゆる「小説HOW TO本」を何冊か読んだことがある。

 これまで数々の官能小説を紹介してきたが、読者の中には「官能小説家になりたい」という願望を抱く女性も少なからずいらっしゃることだろう。現在の官能小説業界は、女性の活躍が非常に目覚ましく、官能小説家デビューの登竜門である「団鬼六賞」では、第1回目(2010年)の最優秀賞、優秀賞が共に女性、第2回目(12年)の最優秀賞も女性が受賞しており、彼女たちは、現在でも小説業界の第一線で活躍している。では、女性が官能小説家になることの魅力とは一体何だろうか?