「婦人公論」(中央公論新社)、今号の特集は「前向きに生きる感情コントロール」です。表紙は「婦人公論」三福神の1人、美輪明宏(※ちなみにあと二人は瀬戸内寂聴、氷川きよし)。美輪センセイといえば“日本人の精神的劣化を嘆く”芸でおなじみですが、今回もまた嘆きまくっています。「日本人の精神性は完全な栄養失調の状態にあります」「最近の言葉づかいの貧しさと言ったらひどいものです。『あの映画見た? すげぇ、カッケー』ではなく『あの映画ごらんになって? おもしろいことよ。ご覧なさいまし』」などなど。「ご覧なさいまし」と同じくらい「すげぇ、カッケー」と言ってる人もあまり見たことない……。精神を豊かにすること、そして誰もが自分と同じように悩みを抱えていると想像することを説く美輪センセイ。しかしその方法が「『あの人は幸せで羨ましい。それに比べて私は』とひがみたくなったら、通りすがりの人に聞いてみましょう」と、ダイレクトマーケティング。そんな街角問答が許されるの、乱一世くらいじゃないですか!!
<トピックス>
◎特集 前向きに生きる感情コントロール
◎「微表情」がわかればコミュニケーションの達人になれる
◎「熟年結婚」してみたら
■空気を読んでほしい人というのは、そもそもその能力を持ってない
さて、今号の特集は「前向きに生きる感情コントロール」ですが、最近は「老人性うつ」なんて言葉もよく聞きます。リードにも「いつも楽しく穏やかに過ごしたいと思っていても、ときには怒ったり落ち込んだり悩んだりしてしまうもの。しかも、年齢とともに気持ちの切り替えはしづらくなるとか」とあります。加齢により難しくなる感情のコントロール法を美輪センセイの説法を筆頭に、精神科医のアドバイス、野際陽子×浅野ゆう子の大女優対談などを通して探っていこうという企画のようです。
その中で紹介したいのは「『微表情』がわかればコミュニケーションの達人になれる」というページ。この聞き慣れない「微表情」とは、「誰の目にも明らかな感情を表す表情とは別に、押し殺した感情が、無意識のうちに微細な顔の動きに現れることがある」。その間「約0.2秒」で、ここに「人の本心が隠れている」とのこと。そしてこれを読み解けば夫婦関係・仕事関係・ご近所付き合いもうまくいくそう。それならば今すぐにでも微表情を習得したいところですが、「非言語の習得は、語学と同様、時間がかかります」……。とはいえ、あきらめないで! 「自分で表情が作れるようになると、読み取り率が高くなる」ということで、同ページには微表情を作る1人レッスン指南もあります。面白いのは実際にこのレッスンを受けたライター氏がわが身を振り返るコラム。「だから、私は男に騙されたのね!」です。
「空気が読めないがため、私は不用意なことを口走り、『なぜわざわざ波風を立てることを言うの!』と怒られることがしばしば」というこの女性。悲しい生い立ちの追憶が始まり、「大人になってからは、何度も男のウソに騙された。20代後半に離婚した男は、学歴と職歴がウソだった。私と暮らし始めたら、勤めていた会社をすぐに辞めてパチンコ三昧」。そしてこう反省するのです。「結婚していた頃の私には、心の余裕がなかった。相手が“軽蔑”の微表情を浮かべたとき、優越感を満たすようにして、発散させてあげるという発想が、あの時の私にあれば……」。ええええ!!! ウソつきギャンブル男の優越感満たしてどうするの!!!
これを読んで気づいたのです、空気を読むべき人間は、相手のわずかな表情からその機微を感じ取ろうなど思いもしない、ということを。このページを真剣に読むような真面目な人は、約0.2秒に余計な思いを馳せ、さらに考え込んでしまうことでしょう。空気読み合い合戦は、イチ抜けした人が勝ち……ということでしょうか。
■ラスボス・八千草薫の存在感
続いては「『熟年結婚』してみたら」。この企画の冒頭のインタビューが「恋に生きる女」の代名詞、女優の荻野目慶子というところから心躍ります。
「20代、30代に恋愛スキャンダルで好奇の目に晒されたことなどから」トラウマを抱え、男性不信に苦しんでいたという荻野目が結婚したのは48歳のとき。相手は医師。荻野目いわく、今まで付き合ってきた芸術家肌の男たちとは異なるタイプだったよう。お互い大事な人を失ったという共通の経験があり、すぐに惹かれあったものの、「若くはない年齢で出会った私たちは、互いに苦労を重ねてきたため、一緒に暮らし始めてからも結婚相手としてやっていけるか、探り合い、確かめ合っていた気がします」とごく慎重。「夫婦であっても他人です。結婚したら孤独でなくなるというのは幻想」という言葉は、熟年結婚ならではなのかもしれません。
いやしかし、本当に知りたいのは恋愛経験が芸の肥やしになる女優の熟年結婚論ではなく、実際現場で戦っている女たちの叫び。「写真はプロに、そして個性は消すべし!? オトナ婚活の必勝法は」は熟年婚活真っただ中にいる女の座談会。56歳、59歳、48歳、全員離婚経験あり。
「気づけば50代半ば、このままトシを取るのも寂しい」「ひとり暮らしも悪くないなあと思うけれど、ふと『こんなときに誰かがいたら』」と、婚活を始めたのは経済的理由よりも「ひとりの寂しさ」が大きいと語っています。女性たちの主戦場は、結婚相談所、マッチングサイト、お見合いパーティーなど。「女性が並ぶなか、男性の視線が私をまたぐのがわかるのよ(笑)。その相手の視線の先にあるのは、明るいピンクのスーツを着た八千草薫っぽい雰囲気の女性」「わかる~。男はホント、八千草薫系が好きですよね」。石原さとみ、新垣結衣、深津絵里、永作博美、檀れいらの後ろに控える、ラスボス八千草。我々は永遠にふんわり美人の呪縛から逃れられないのです。
そして経験者はこう語ります。「個性を消すこと」「ニコニコしてうなずく。あと、『えっ、ほんと?』『その話、聞かせてくださ~い』を多用する」「こちらから賢いことを言ってはダメ。『人間性を尊重』とか漢字が並ぶ言葉も控える」「メールには、『キャッ』という言葉を入れると、男性は食いつきはいいです(笑)」。マジですか。「キャッ」が「キヤツ」になってる未来しか想像できません……。
男が放つ微表情を読み取ったり、男が喜ぶよう「キヤツ」……じゃなかった「キャッ」としちゃう女を演じたり。既視感があると思いきや、「まず、女性は30代から結婚の市場価値が落ちるという認識を持つことが重要」「会話の最初に『さ(さすがですね)し(知らなかったです)す(素敵ですね)せ(センスがいいですね)そ(それはすごいですね)」を入れる』」「『笑顔でうなずきながら相槌』を徹底」「声のトーンは『ミ』か『ファ』」と婚活術をアドバイスしていた「CLASSY.」(光文社)と一緒じゃないですか! 結婚って結局、何歳になっても女が同じような自縄自縛を味わわなければ達成されないものなのでしょうか……。
(西澤千央)