「婦人公論」の熟年婚活必勝法が、「CLASSY.」のトンデモ婚活と同じだった絶望感よ……

 「婦人公論」(中央公論新社)、今号の特集は「前向きに生きる感情コントロール」です。表紙は「婦人公論」三福神の1人、美輪明宏(※ちなみにあと二人は瀬戸内寂聴、氷川きよし)。美輪センセイといえば“日本人の精神的劣化を嘆く”芸でおなじみですが、今回もまた嘆きまくっています。「日本人の精神性は完全な栄養失調の状態にあります」「最近の言葉づかいの貧しさと言ったらひどいものです。『あの映画見た? すげぇ、カッケー』ではなく『あの映画ごらんになって? おもしろいことよ。ご覧なさいまし』」などなど。「ご覧なさいまし」と同じくらい「すげぇ、カッケー」と言ってる人もあまり見たことない……。精神を豊かにすること、そして誰もが自分と同じように悩みを抱えていると想像することを説く美輪センセイ。しかしその方法が「『あの人は幸せで羨ましい。それに比べて私は』とひがみたくなったら、通りすがりの人に聞いてみましょう」と、ダイレクトマーケティング。そんな街角問答が許されるの、乱一世くらいじゃないですか!!

<トピックス>

◎特集 前向きに生きる感情コントロール

◎「微表情」がわかればコミュニケーションの達人になれる

◎「熟年結婚」してみたら

■空気を読んでほしい人というのは、そもそもその能力を持ってない

 さて、今号の特集は「前向きに生きる感情コントロール」ですが、最近は「老人性うつ」なんて言葉もよく聞きます。リードにも「いつも楽しく穏やかに過ごしたいと思っていても、ときには怒ったり落ち込んだり悩んだりしてしまうもの。しかも、年齢とともに気持ちの切り替えはしづらくなるとか」とあります。加齢により難しくなる感情のコントロール法を美輪センセイの説法を筆頭に、精神科医のアドバイス、野際陽子×浅野ゆう子の大女優対談などを通して探っていこうという企画のようです。

 その中で紹介したいのは「『微表情』がわかればコミュニケーションの達人になれる」というページ。この聞き慣れない「微表情」とは、「誰の目にも明らかな感情を表す表情とは別に、押し殺した感情が、無意識のうちに微細な顔の動きに現れることがある」。その間「約0.2秒」で、ここに「人の本心が隠れている」とのこと。そしてこれを読み解けば夫婦関係・仕事関係・ご近所付き合いもうまくいくそう。それならば今すぐにでも微表情を習得したいところですが、「非言語の習得は、語学と同様、時間がかかります」……。とはいえ、あきらめないで! 「自分で表情が作れるようになると、読み取り率が高くなる」ということで、同ページには微表情を作る1人レッスン指南もあります。面白いのは実際にこのレッスンを受けたライター氏がわが身を振り返るコラム。「だから、私は男に騙されたのね!」です。

 「空気が読めないがため、私は不用意なことを口走り、『なぜわざわざ波風を立てることを言うの!』と怒られることがしばしば」というこの女性。悲しい生い立ちの追憶が始まり、「大人になってからは、何度も男のウソに騙された。20代後半に離婚した男は、学歴と職歴がウソだった。私と暮らし始めたら、勤めていた会社をすぐに辞めてパチンコ三昧」。そしてこう反省するのです。「結婚していた頃の私には、心の余裕がなかった。相手が“軽蔑”の微表情を浮かべたとき、優越感を満たすようにして、発散させてあげるという発想が、あの時の私にあれば……」。ええええ!!! ウソつきギャンブル男の優越感満たしてどうするの!!!

 これを読んで気づいたのです、空気を読むべき人間は、相手のわずかな表情からその機微を感じ取ろうなど思いもしない、ということを。このページを真剣に読むような真面目な人は、約0.2秒に余計な思いを馳せ、さらに考え込んでしまうことでしょう。空気読み合い合戦は、イチ抜けした人が勝ち……ということでしょうか。

■ラスボス・八千草薫の存在感

 続いては「『熟年結婚』してみたら」。この企画の冒頭のインタビューが「恋に生きる女」の代名詞、女優の荻野目慶子というところから心躍ります。

 「20代、30代に恋愛スキャンダルで好奇の目に晒されたことなどから」トラウマを抱え、男性不信に苦しんでいたという荻野目が結婚したのは48歳のとき。相手は医師。荻野目いわく、今まで付き合ってきた芸術家肌の男たちとは異なるタイプだったよう。お互い大事な人を失ったという共通の経験があり、すぐに惹かれあったものの、「若くはない年齢で出会った私たちは、互いに苦労を重ねてきたため、一緒に暮らし始めてからも結婚相手としてやっていけるか、探り合い、確かめ合っていた気がします」とごく慎重。「夫婦であっても他人です。結婚したら孤独でなくなるというのは幻想」という言葉は、熟年結婚ならではなのかもしれません。

 いやしかし、本当に知りたいのは恋愛経験が芸の肥やしになる女優の熟年結婚論ではなく、実際現場で戦っている女たちの叫び。「写真はプロに、そして個性は消すべし!? オトナ婚活の必勝法は」は熟年婚活真っただ中にいる女の座談会。56歳、59歳、48歳、全員離婚経験あり。

 「気づけば50代半ば、このままトシを取るのも寂しい」「ひとり暮らしも悪くないなあと思うけれど、ふと『こんなときに誰かがいたら』」と、婚活を始めたのは経済的理由よりも「ひとりの寂しさ」が大きいと語っています。女性たちの主戦場は、結婚相談所、マッチングサイト、お見合いパーティーなど。「女性が並ぶなか、男性の視線が私をまたぐのがわかるのよ(笑)。その相手の視線の先にあるのは、明るいピンクのスーツを着た八千草薫っぽい雰囲気の女性」「わかる~。男はホント、八千草薫系が好きですよね」。石原さとみ、新垣結衣、深津絵里、永作博美、檀れいらの後ろに控える、ラスボス八千草。我々は永遠にふんわり美人の呪縛から逃れられないのです。

 そして経験者はこう語ります。「個性を消すこと」「ニコニコしてうなずく。あと、『えっ、ほんと?』『その話、聞かせてくださ~い』を多用する」「こちらから賢いことを言ってはダメ。『人間性を尊重』とか漢字が並ぶ言葉も控える」「メールには、『キャッ』という言葉を入れると、男性は食いつきはいいです(笑)」。マジですか。「キャッ」が「キヤツ」になってる未来しか想像できません……。

  男が放つ微表情を読み取ったり、男が喜ぶよう「キヤツ」……じゃなかった「キャッ」としちゃう女を演じたり。既視感があると思いきや、「まず、女性は30代から結婚の市場価値が落ちるという認識を持つことが重要」「会話の最初に『さ(さすがですね)し(知らなかったです)す(素敵ですね)せ(センスがいいですね)そ(それはすごいですね)」を入れる』」「『笑顔でうなずきながら相槌』を徹底」「声のトーンは『ミ』か『ファ』」と婚活術をアドバイスしていた「CLASSY.」(光文社)と一緒じゃないですか! 結婚って結局、何歳になっても女が同じような自縄自縛を味わわなければ達成されないものなのでしょうか……。

(西澤千央)

最強の“自分語り”降臨! 「婦人公論」小保方晴子氏の新連載に見る、完璧な自己プロデュース

 2017年最初の「婦人公論」(中央公論新社)、特集は「今年こそ幸福体質になる!」です。年始になると、うわごとのように「幸運体質」「福を招く体質」と言っている「婦人公論」ですが、なかなかその望みは達成されないよう。特集冒頭を飾るのは、登場するたびに負の爪痕を残していくことでおなじみの作家・曽野綾子センセイ。新年だからか、それとも年齢が綾子パワーを減退させているのか、今回はややおとなしめ。ただ、テレビで見たという「家でやることがないから毎日ゲーム喫茶で遊んでいる」親子を、「どんなに狭いおうちでも、毎日することがないなんてことはないでしょう。私だったら、どこかをぴかぴかに磨きます。(中略)その方は目的を持たずにいられるという才能を持った方なんですね」と、皮肉る元気はまだおありのようで安心しました。しかし曽野センセイ、それ本当にゲーム喫茶だった? ネットカフェでもゲーセンでもなく、ゲーム喫茶!?

<トピックス>
◎特集 今年こそ幸福体質になる!
◎新連載 小保方晴子日記
◎2017年「傾斜宮占い」運勢篇

■「神様」便利に使われすぎ

 そんな曽野センセイ「幸運は与えられるものだから、当てにはしないこと」と前置きつつ、ご自身は、過去に初めて行ったマダガスカルのカジノで二度の大当たりをしたことを激白しています。そのとてつもない大金を元手に、海外で働くシスターたちを支援するNGO団体を立ち上げたというのですから、やはり幸運はデカイ肝に吸い寄せられるのだなぁと痛感。「普通、神様は教会にいらっしゃるけど、私の場合はカジノにもいらっしゃった」とは、名文ですわ。

 しかし誰しもが曽野センセイのような鬼のバイタリティを持っているわけではなく、大抵の方は、ささやかなハッピーでもいいから引き寄せたいと考えているのではないでしょうか。「浸かってパワーチャージ 吉方位の温泉で“ツキ”を得る!」「『ポジティブ変換言葉』で、いつも気分上々に」etc……すぐマネできそうな体質改善プログラムが今号に並んでいます。

 その中でひときわ目を引いた企画がこちら、「みるみるうちに人生が好転する『神様ごはん』のつくり方」です。登場するのは「『食を変えると人生が変わる』ことを会得し、『声なき声を聞き、香りなき香りを聞く』ゆにわ流を確立」したという「開運料理人」。この方が「運を巡らせるための食のルール5カ条」について語っているのですが、開運というよりほぼ宗教。「縁あって私のもとに届いた食材に感謝を捧げ、丁寧に扱うのが流儀。そして、食べる人が心から喜んでくれる姿をイメージしながら料理をするのです。私はこれを『神様ごはん』と呼んでいます」「ざわざわした気持ちで料理をすると、食べた人にもそれが伝染します。(中略)私たちはそれを『毒』と呼んでいるのです」。多くの主婦たちが、この開運料理人が作る料理を食べ「私は間違っていました!!」と、イヤイヤおさんどんしていた自分を反省し、“神様ごはん”信者になっていくようです。

 「水で研ぐ前のお米に手を合わせる」「ごはんを炊く際も、必ず『このごはんが食べる人の力になりますように』と祈りを」「炊飯器で炊く場合も『気』を込めてスイッチを入れる」など、誌面は「気」と「感謝」のオンパレード。365日3食ごはんを作っていたら、そりゃ絶望的な気持ちになることもございましょうや。こういう料理への過大な“意味づけ”が、かえって主婦を追い詰めていくとしたら、やっぱ神様っていけずですね。

■平成の和泉式部誕生か

 さて、今号のビッグニュースといえばこちらかもしれません。昨年「婦人公論」で瀬戸内寂聴と対談し、世間の話題をかっさらった小保方晴子さん。その対談中「第二の瀬戸内寂聴に」なんて話も飛び出していた小保方さんですが、なんと、満を持して「婦人公論」で連載を持つことになったようです。その名も「小保方晴子日記」。サブタイトルは「『あの日』からの記録」。「彼女は理研を退職した2014年12月から、身の回りに起きた出来事と心情を日記に書き留めていました」とのことで、今回ここに日記の連載が実現!

 初回特別版は「近況報告を兼ね、連載を始めるまでの経緯が綴られた2週間の記録」が公開されています。淡々とつづられる日常の中に、潜んでいますよ、小保方節。おもわしくない体調や不安定な精神状態、自分を支えてくれる人々への思い、アメリカ時代の思い出……それらを季節が移り変わる様子や、作った料理(かなり凝っている)の話から喚起させるという、かなり高度なテクを駆使しております。例えば11月24日の日記は、こんな一文で始まるのです。

「いつもより日の出が遅いような気がして窓の外を見ると雪が降っていた」。雪を見ながら朝風呂に入り、「玄米の栗ごはんとフルーツを入れた豆乳ヨーグルト」を食べ、なかなか送ることのできなかった「『婦人公論』に最初の原稿を送った」。「降り続く雪がすごく綺麗に見えた。こんなに劇的に、しかも綺麗に景色を変えてしまうなんて雪は凄い。魔法のようである。雪の降る中、外に出て雪だるまを作った。久しぶりに触った雪は記憶にあるより柔らかくて温かかった」。

 徐々に変わっていく心境を「雪」になぞらえる小保方さん。入試の国語で使われそうな良作です。「作者は『雪』にどんな思いを込めていますか?」とか、ありそう。編集の手もいくらか入っているのでしょうが、「日記」という内なるものを語るメディアでも、自分の見せ方を完璧に心得た、過剰ともいえるセルフプロデュースをさく裂させていました。

 何度もレビューでは書いている気がしますが、「婦人公論」で大事なのは「善悪」ではないのです。自分をいかに語れるか。たとえ世間的に「悪」の烙印を押されたとしても、「世間で悪の烙印を押されてしまった自分」をストーリーとして語ることができれば、「婦人公論」では勝ちなんです。小保方さんの自分語りは、“私はゼッタイに悪くない”が真骨頂の「婦人公論」読者のヒロイニズムをどう刺激してくるのか。今後の展開が楽しみでなりません。
(西澤千央)

「婦人公論」の老後資金特集、キリギリスに優越感を抱くアリのコツコツ節約

 今号の「婦人公論」(中央公論新社)の特集は、「老後資金、この先5年でできること」です。そういえば去年の年末特大号は「女の年金スペシャル」でしたね。バタバタ金が出て行きがちなこの時期に、しっかり財布の紐を締め直そうという「婦人公論」の心配りでしょうか。

 ということで今号は、どこを開いてもカネカネカネの実用路線。「『個人型確定拠出年金』で、“節税”しながら年金を増やそう」「50代から始める『3000円投資』」「1日5分書くだけで貯金体質になる魔法の家計簿」など中年女性が飛びつきそうな甘い誘い文句が満載です。お金を守る/増やす術を紹介しながら、「貯蓄を増やそうと、手を出した株。時代の波にのまれ、総額2000万を失って」というトホホな読者体験手記でオトす。そして結局来年も「カネがない」「老後が不安」とうわ言を繰り返す、そんな「婦人公論」が大好きです!

<トピックス>

◎特集 老後資金、この先5年でできること

◎福原愛 家庭を持って、ラケットも握る。彼とならば、できそうです

◎『婦人公論』創刊100周年記念読者ノンフィクション大賞発表!

■貯蓄に秘められた女の人生

 お金特集で面白いのは、やはり読者のお財布事情。「ルポ 1300万から6000万まで 読者10人が明かす資産額と貯め方のコツ」に登場するのは、当たり前のように貯蓄1000万円超えの方ばかり。そこに軽いめまいを覚えながら読み進めますと、「貯蓄上手な読者10人のアンケートを見ると、ほぼ全員きっちりと家計簿をつけている。収支のフローを正確に把握するのは、基本中の基本」と、ズボラな人には二度目のめまいが訪れます。しかし、「給与天引きなどできまった額を貯金に回したり」「家庭菜園で食費を浮かせたり」と、成功の秘訣はおおむねコツコツ型。それで2,000~3,000万貯めるって、もはや家庭菜園というより豪農では……。

 みなさんの“私の貯蓄ライフ”には、それぞれにストーリーと哲学があり、非常に読み応えがあります。特に「人生で2度、貯蓄額が0円になりながらも、現在2600万円まで貯めた」という北海道在住57歳の女性。「結婚する前、私には400万円ぐらい貯金があったんです。それが、夫がギャンブルで作った借金の返済で一度0円に。その後2人で一所懸命働いて、900万円の土地と家を25年ローンで買い、もう一度貯蓄ゼロになったんです」。さだまさしの「アーアー」が聞こえてきそうな、女の壮絶人生from北の国。「北海道は暖房代が結構かかるんですが、うちは薪ストーブで、薪は山で拾ってきます。食費もあまりかかりません。地元金融機関の『100万円預金すると米10キロプレゼント』というキャンペーンを利用したり、親戚の農家が収穫物を持ってきてくれたり」

 そして、ここからが面白い。「夫の職場が牧場で、掃除用のボロ布が大量に必要なんです。そこで、使い古したタオルがあったらほしいと仲のいい友人に頼みました。すると、タオルだけじゃなく、着ない洋服もくれるようになって。そういう人たちはウチよりずっといい生活をしているけど、貯金がないと言います。給料日の少し前になると金欠になって、何か食材ない? と来たりして」。まさに現代版アリとキリギリス。いつもはタグつきの服をくれる人が、恥を忍んで食材をもらいにくる。こういうちょっとした優越感が、彼女をまた貯蓄の道へと駆り立てるのでしょうね。

■例外を例外としないために……

 さて、そんな貯蓄特集に登場する、ナレーター坂上みきのインタビュー「53歳で授かった息子のために、自分の老後は後回し」。坂上といえば10年以上に及ぶ不妊治療の末、2012年に53歳で出産したことが話題になりました。夫は一回り年下のニュージーランド人。超高齢出産ゆえの老後の不安も「夫はたいていのことはなんとかなると考えているので、『いざとなったら、僕がマグロ船に乗って稼ぐ』なんて、冗談めかして言うんです。趣味の域を超えた料理上手なので、彼ならマグロ船のシェフも務まるかもしれません(笑)」と明るく受け流す。このあっけらかんさは外国人特有のものなのか、個人由来のものなのか。

 先日台湾人の男性と結婚した福原愛の表紙インタビュー「家庭を持って、ラケットも握る。彼とならば、できそうです」も、夫に追従することが美徳だと育てられた「婦人公論」世代には考えさせられる内容です。たとえばプロポーズ。以前から台湾で家を探していたという夫(江宏傑選手)。たまたま福原が台湾に遊びに行った際、彼が見つけた物件に連れて行かれ「どう思う?」と聞かれたそう。「すごく素敵だと思う」と答えたら「これ、愛の」と鍵を手渡されて……。それは「この家の主人になっていただきたい」という意味のプロポーズだったのだとか。男性から女性に向けて「主人」という言葉がサラリと出てくるあたり、「婦人公論」世代には衝撃的なプロポーズではないでしょうか。そんな夫だからこそ、福原自身の結婚観も変わったといいます。

「私にとっての『なりたい自分』は、家庭を持って、さらにラケットも握っている、そんな姿です。以前は、そんなことは絶対不可能だと決めつけていました。私は器用ではないし、要領がいいほうでもないから、結婚したら、夢や目標はあきらめるしかないのだろう、と。実際、卓球界の女性の先輩たちはみなさん、結婚を機に引退なさっていました」

「でも、その考えは彼と出会ったことで変わりました。『愛のやりたいことを僕は全力で応援する、愛は何も変わらなくていい』おつきあいの中で彼が口にしたこの言葉を、折に触れて思い返し、どうしたら自分の好きな自分でいられるかを、考え続けています」

「そして、できれば、卓球界の後輩たちが、好きな人に巡り合い『結婚したいな』と思ったとき、『福原さんみたいなやり方もあるよね』と参考にしてもらえるような存在になれたらいいなあ、と思います」

 江選手の「何も変わらなくていい」は器の大きい言葉である一方で、相手に「自分の人生のビジョンは自分で描け」と通告するような厳しさもあるのでしょう。「福原さんみたいなやり方もあるよね」という“例外”を“原則”にできるほど、いまの社会は寛容なのか。それを阻止しているのは誰なのか。それを突き詰めない限り、“例外”は“例外”であり続けるような気がします。

(西澤千央)

「婦人公論」の老後資金特集、キリギリスに優越感を抱くアリのコツコツ節約

 今号の「婦人公論」(中央公論新社)の特集は、「老後資金、この先5年でできること」です。そういえば去年の年末特大号は「女の年金スペシャル」でしたね。バタバタ金が出て行きがちなこの時期に、しっかり財布の紐を締め直そうという「婦人公論」の心配りでしょうか。

 ということで今号は、どこを開いてもカネカネカネの実用路線。「『個人型確定拠出年金』で、“節税”しながら年金を増やそう」「50代から始める『3000円投資』」「1日5分書くだけで貯金体質になる魔法の家計簿」など中年女性が飛びつきそうな甘い誘い文句が満載です。お金を守る/増やす術を紹介しながら、「貯蓄を増やそうと、手を出した株。時代の波にのまれ、総額2000万を失って」というトホホな読者体験手記でオトす。そして結局来年も「カネがない」「老後が不安」とうわ言を繰り返す、そんな「婦人公論」が大好きです!

<トピックス>

◎特集 老後資金、この先5年でできること

◎福原愛 家庭を持って、ラケットも握る。彼とならば、できそうです

◎『婦人公論』創刊100周年記念読者ノンフィクション大賞発表!

■貯蓄に秘められた女の人生

 お金特集で面白いのは、やはり読者のお財布事情。「ルポ 1300万から6000万まで 読者10人が明かす資産額と貯め方のコツ」に登場するのは、当たり前のように貯蓄1000万円超えの方ばかり。そこに軽いめまいを覚えながら読み進めますと、「貯蓄上手な読者10人のアンケートを見ると、ほぼ全員きっちりと家計簿をつけている。収支のフローを正確に把握するのは、基本中の基本」と、ズボラな人には二度目のめまいが訪れます。しかし、「給与天引きなどできまった額を貯金に回したり」「家庭菜園で食費を浮かせたり」と、成功の秘訣はおおむねコツコツ型。それで2,000~3,000万貯めるって、もはや家庭菜園というより豪農では……。

 みなさんの“私の貯蓄ライフ”には、それぞれにストーリーと哲学があり、非常に読み応えがあります。特に「人生で2度、貯蓄額が0円になりながらも、現在2600万円まで貯めた」という北海道在住57歳の女性。「結婚する前、私には400万円ぐらい貯金があったんです。それが、夫がギャンブルで作った借金の返済で一度0円に。その後2人で一所懸命働いて、900万円の土地と家を25年ローンで買い、もう一度貯蓄ゼロになったんです」。さだまさしの「アーアー」が聞こえてきそうな、女の壮絶人生from北の国。「北海道は暖房代が結構かかるんですが、うちは薪ストーブで、薪は山で拾ってきます。食費もあまりかかりません。地元金融機関の『100万円預金すると米10キロプレゼント』というキャンペーンを利用したり、親戚の農家が収穫物を持ってきてくれたり」

 そして、ここからが面白い。「夫の職場が牧場で、掃除用のボロ布が大量に必要なんです。そこで、使い古したタオルがあったらほしいと仲のいい友人に頼みました。すると、タオルだけじゃなく、着ない洋服もくれるようになって。そういう人たちはウチよりずっといい生活をしているけど、貯金がないと言います。給料日の少し前になると金欠になって、何か食材ない? と来たりして」。まさに現代版アリとキリギリス。いつもはタグつきの服をくれる人が、恥を忍んで食材をもらいにくる。こういうちょっとした優越感が、彼女をまた貯蓄の道へと駆り立てるのでしょうね。

■例外を例外としないために……

 さて、そんな貯蓄特集に登場する、ナレーター坂上みきのインタビュー「53歳で授かった息子のために、自分の老後は後回し」。坂上といえば10年以上に及ぶ不妊治療の末、2012年に53歳で出産したことが話題になりました。夫は一回り年下のニュージーランド人。超高齢出産ゆえの老後の不安も「夫はたいていのことはなんとかなると考えているので、『いざとなったら、僕がマグロ船に乗って稼ぐ』なんて、冗談めかして言うんです。趣味の域を超えた料理上手なので、彼ならマグロ船のシェフも務まるかもしれません(笑)」と明るく受け流す。このあっけらかんさは外国人特有のものなのか、個人由来のものなのか。

 先日台湾人の男性と結婚した福原愛の表紙インタビュー「家庭を持って、ラケットも握る。彼とならば、できそうです」も、夫に追従することが美徳だと育てられた「婦人公論」世代には考えさせられる内容です。たとえばプロポーズ。以前から台湾で家を探していたという夫(江宏傑選手)。たまたま福原が台湾に遊びに行った際、彼が見つけた物件に連れて行かれ「どう思う?」と聞かれたそう。「すごく素敵だと思う」と答えたら「これ、愛の」と鍵を手渡されて……。それは「この家の主人になっていただきたい」という意味のプロポーズだったのだとか。男性から女性に向けて「主人」という言葉がサラリと出てくるあたり、「婦人公論」世代には衝撃的なプロポーズではないでしょうか。そんな夫だからこそ、福原自身の結婚観も変わったといいます。

「私にとっての『なりたい自分』は、家庭を持って、さらにラケットも握っている、そんな姿です。以前は、そんなことは絶対不可能だと決めつけていました。私は器用ではないし、要領がいいほうでもないから、結婚したら、夢や目標はあきらめるしかないのだろう、と。実際、卓球界の女性の先輩たちはみなさん、結婚を機に引退なさっていました」

「でも、その考えは彼と出会ったことで変わりました。『愛のやりたいことを僕は全力で応援する、愛は何も変わらなくていい』おつきあいの中で彼が口にしたこの言葉を、折に触れて思い返し、どうしたら自分の好きな自分でいられるかを、考え続けています」

「そして、できれば、卓球界の後輩たちが、好きな人に巡り合い『結婚したいな』と思ったとき、『福原さんみたいなやり方もあるよね』と参考にしてもらえるような存在になれたらいいなあ、と思います」

 江選手の「何も変わらなくていい」は器の大きい言葉である一方で、相手に「自分の人生のビジョンは自分で描け」と通告するような厳しさもあるのでしょう。「福原さんみたいなやり方もあるよね」という“例外”を“原則”にできるほど、いまの社会は寛容なのか。それを阻止しているのは誰なのか。それを突き詰めない限り、“例外”は“例外”であり続けるような気がします。

(西澤千央)

「結婚話にはのっておく」「近所に親友を」、「婦人公論」の長寿企画で先輩からガチなアドバイス

 今号の「婦人公論」(中央公論新社)、特集は「『長寿で幸せ』な生き方」です。特集に「あなたの生活は長生きタイプ?」という診断テストがありましたので、恐々やってみましたが……結果は「長寿を妨げる性格の持ち主」とのこと。え~~。これは生活習慣ではなく、「性格」的に長寿か否かを診断するというもので、「真面目さ」や「愛着の安定性」が高い方が「もっとも寿命が長くなる」とのこと。え~~(2回目)。「気質的な部分の『真面目さ』は変えることが難しいかもしれません。しかし『愛着』は努力次第で改善することができます。そのために、まずは身近な人との関係を良くしましょう。夫、子ども、友達など周囲の人たちの良いところを見つける」。いやいや「婦人公論」的に努力でどうにもならないのは、「真面目さ」ではなく「愛着」の方なのでは……?

<トピックス>

◎特集 「長寿で幸せ」な生き方

◎ハッピー高齢者が明かす「40代、50代からやっておきたいこと」

◎がんを恐れない

■実は長い「若くもなく、老人でもない」時間

 「2016年の統計では、100歳以上の高齢者は全国で6万5000人以上。平均寿命が延びるなか、将来、体に衰えを感じてもできるだけ健康で穏やかに暮らしたい」とはリード弁。作家・中島京子と女優・室井滋の対談「あと50年生きるとしたら私たち、どんな老人になろう」や認知症予防のトレーニング法、長寿者が直面している貧困や老老介護問題に焦点を当てたルポもあります。そんな中で注目したいのが、冒頭の読者アンケート「ハッピー高齢者が明かす『40代、50代からやっておきたいこと』」。回答者年齢は75歳~103歳、平均年齢82歳というガチな先輩からのありがたいメッセージが満載です。

 「長生きして良かったことは?」という問いには「杖をついてよぼよぼ歩くようになり、他人様の優しさにふれると嬉しいです。年寄りを見守ってくれてありがとう」(91歳)、「鳥の声やいつもの景色、何気ないことに幸せを感じます。若い頃にはなかったこと」(75歳)といった我々が憧憬する“善なる老い”の姿があれば、「夫に何も逆らえず、自分を抑えて静かに生きてきたが、夫の没後、ようやく本来の私に戻ることができました」(92歳)というTHE婦人公論的なコメント、そして「15歳年下の彼を心から好きになって8年。(中略)私が年上なので何かにつけ嫉妬してしまい、苦しい思いでいっぱいです。彼なしでは生きていけません」(82歳)というパッションほとばしるものまで。「老人」なんて言葉でひとくくりにはできませんな。

 また「若い人へのアドバイス『これをやっておきましょう!』」には、パイセンたちの後悔から生まれた至言がズラリ。「夫に家事をさせましょう。自分のことは自分でできるように」(75歳)、「子どものしつけ。あんなに愛情とお金をかけたのに、今は寄り付きもしない」(77歳)、「結婚話には、のっておく」(80歳)、「夫と仲良くしておくと、歳を取ってから良くしてくれます」(77歳)、「近所に親友を」(83歳)などなど。

 ここでいう「若い人」というのは、50代、60代の人たち。世間的には決して「若い」わけではありませんが、次ページの俳人・宇多喜代子(81歳)のエッセイ「よき哉、懐炉執心の日々」にはこんな一文が。「かつての人生五十年時代からみれば夢のような六十歳だが、九十、百がそう珍しくなくなった今、若者でもない老人でもないという時間をどう設計実践するかということはかなり重大なのではないか」「それまで出来ていたことがそろそろ出来なくなる。かわりにそれまで出来ていたことを基にした新たな時間を授かるようになる。それがその頃かなと思う」。

 「婦人公論」世代をどう生きるかで、老後の在り様はだいぶ変わってくる。貧困老人や老老介護のページは見るもつらい現実ではありますが、若くもない、老人でもない時代にもしかしたらもう一度人生をやり直せるのではないか……といううっすらとした希望も読み取れるのです。

■どう生き直すのか

 続いては、巻末の小特集「がんを恐れない」。「長寿で幸せな生き方」にとって「がん」は敵なのか、それとも長寿の時代だからこそ問答無用に「死」を突き付ける「がん」は必要悪なのか。特集にはさまざまな形で「がん」や「死」と向き合った人が登場します。

 最初のインタビューは女優の仁科亜季子「60代で4度目の手術。それでも健やかに生きているのは」。改めてすさまじい病歴にびっくり。38歳で子宮頸がん、その手術の際にC型肝炎に感染、排尿障害、腸閉そく、盲腸にできた腫瘍、胃がん、大腸がん……「がんは一生ものというか、がん細胞を取り除くことができたとしても、一生つき合っていかなければならないことがあれこれ出てきてしまう。これががんという病気をやっかいなものしているのかもしれません」。そんな、放射線治療も抗がん剤ももちろん外科的手術もすべて行ってきた仁科と対照的なのは、「川島なお美が亡くなる1週間前まで舞台に立てた理由」。夫でパティシエの鎧塚俊彦が、昨年胆管がんで亡くなった妻で女優の川島なお美の死を振り返ります。

 女優として体にメスを入れることを拒み、手術以外のあらゆる方法を模索していたという川島。「自分でつくった腫瘍なのだから、生活を改善し自然治癒力を高めて治す」と専門書を「軽く50冊は読破」し、さまざまな治療法を見つけては試してみたそう。その中には「純金の棒で体をこするマッサージ」のような怪しげなものも。しかしその真剣な姿に、手術をすすめていた鎧塚も「たとえ僕自身が信用しきれない療法であれ、女房が『身体にプラスになる』と心底感じたのなら、止めないでいよう」と心に決めたと言います。

 腹腔鏡手術だけは受けたものの、5カ月でがんが再発。再発を告知されてからは「免疫療法」「霊能者」「O・リングテストを用いる漢方薬医」など、さらに怪しげな代替療法にのめり込む。結局は「肝臓で分解しきれなくなったアンモニアが脳に至ったがために台詞を忘れる症状が表れ」、舞台を降板した1週間後に帰らぬ人となりました。

 仁科と川島。がんに直面して選んだ道は違えど、それぞれのインタビューで出てきたのは同じ「QOL(クオリティ・オブ・ライフ)」という言葉。「残り少ない人生のQOLを高めたほうがいいなと思い」「子どものために何とか生き延びようとしていた38歳の私とは違う、60代の私の決断」として、仁科もまた負担のかかる抗がん剤治療を打ち切ったと言います。

 先述の「若者でもない老人でもないという時間をどう設計実践するか」という宇多の言葉は、ここでいうQOLに近いのかもしれません。50代、60代での「生き直し」。仁科にとっての子ども、川島にとっての舞台のような、生きる希望をどれだけ持てるかがQOLの鍵になるのでしょう。そう考えると「長寿で幸せ」の意味も少し違って見えてきますね。

(西澤千央)

「結婚話にはのっておく」「近所に親友を」、「婦人公論」の長寿企画で先輩からガチなアドバイス

 今号の「婦人公論」(中央公論新社)、特集は「『長寿で幸せ』な生き方」です。特集に「あなたの生活は長生きタイプ?」という診断テストがありましたので、恐々やってみましたが……結果は「長寿を妨げる性格の持ち主」とのこと。え~~。これは生活習慣ではなく、「性格」的に長寿か否かを診断するというもので、「真面目さ」や「愛着の安定性」が高い方が「もっとも寿命が長くなる」とのこと。え~~(2回目)。「気質的な部分の『真面目さ』は変えることが難しいかもしれません。しかし『愛着』は努力次第で改善することができます。そのために、まずは身近な人との関係を良くしましょう。夫、子ども、友達など周囲の人たちの良いところを見つける」。いやいや「婦人公論」的に努力でどうにもならないのは、「真面目さ」ではなく「愛着」の方なのでは……?

<トピックス>

◎特集 「長寿で幸せ」な生き方

◎ハッピー高齢者が明かす「40代、50代からやっておきたいこと」

◎がんを恐れない

■実は長い「若くもなく、老人でもない」時間

 「2016年の統計では、100歳以上の高齢者は全国で6万5000人以上。平均寿命が延びるなか、将来、体に衰えを感じてもできるだけ健康で穏やかに暮らしたい」とはリード弁。作家・中島京子と女優・室井滋の対談「あと50年生きるとしたら私たち、どんな老人になろう」や認知症予防のトレーニング法、長寿者が直面している貧困や老老介護問題に焦点を当てたルポもあります。そんな中で注目したいのが、冒頭の読者アンケート「ハッピー高齢者が明かす『40代、50代からやっておきたいこと』」。回答者年齢は75歳~103歳、平均年齢82歳というガチな先輩からのありがたいメッセージが満載です。

 「長生きして良かったことは?」という問いには「杖をついてよぼよぼ歩くようになり、他人様の優しさにふれると嬉しいです。年寄りを見守ってくれてありがとう」(91歳)、「鳥の声やいつもの景色、何気ないことに幸せを感じます。若い頃にはなかったこと」(75歳)といった我々が憧憬する“善なる老い”の姿があれば、「夫に何も逆らえず、自分を抑えて静かに生きてきたが、夫の没後、ようやく本来の私に戻ることができました」(92歳)というTHE婦人公論的なコメント、そして「15歳年下の彼を心から好きになって8年。(中略)私が年上なので何かにつけ嫉妬してしまい、苦しい思いでいっぱいです。彼なしでは生きていけません」(82歳)というパッションほとばしるものまで。「老人」なんて言葉でひとくくりにはできませんな。

 また「若い人へのアドバイス『これをやっておきましょう!』」には、パイセンたちの後悔から生まれた至言がズラリ。「夫に家事をさせましょう。自分のことは自分でできるように」(75歳)、「子どものしつけ。あんなに愛情とお金をかけたのに、今は寄り付きもしない」(77歳)、「結婚話には、のっておく」(80歳)、「夫と仲良くしておくと、歳を取ってから良くしてくれます」(77歳)、「近所に親友を」(83歳)などなど。

 ここでいう「若い人」というのは、50代、60代の人たち。世間的には決して「若い」わけではありませんが、次ページの俳人・宇多喜代子(81歳)のエッセイ「よき哉、懐炉執心の日々」にはこんな一文が。「かつての人生五十年時代からみれば夢のような六十歳だが、九十、百がそう珍しくなくなった今、若者でもない老人でもないという時間をどう設計実践するかということはかなり重大なのではないか」「それまで出来ていたことがそろそろ出来なくなる。かわりにそれまで出来ていたことを基にした新たな時間を授かるようになる。それがその頃かなと思う」。

 「婦人公論」世代をどう生きるかで、老後の在り様はだいぶ変わってくる。貧困老人や老老介護のページは見るもつらい現実ではありますが、若くもない、老人でもない時代にもしかしたらもう一度人生をやり直せるのではないか……といううっすらとした希望も読み取れるのです。

■どう生き直すのか

 続いては、巻末の小特集「がんを恐れない」。「長寿で幸せな生き方」にとって「がん」は敵なのか、それとも長寿の時代だからこそ問答無用に「死」を突き付ける「がん」は必要悪なのか。特集にはさまざまな形で「がん」や「死」と向き合った人が登場します。

 最初のインタビューは女優の仁科亜季子「60代で4度目の手術。それでも健やかに生きているのは」。改めてすさまじい病歴にびっくり。38歳で子宮頸がん、その手術の際にC型肝炎に感染、排尿障害、腸閉そく、盲腸にできた腫瘍、胃がん、大腸がん……「がんは一生ものというか、がん細胞を取り除くことができたとしても、一生つき合っていかなければならないことがあれこれ出てきてしまう。これががんという病気をやっかいなものしているのかもしれません」。そんな、放射線治療も抗がん剤ももちろん外科的手術もすべて行ってきた仁科と対照的なのは、「川島なお美が亡くなる1週間前まで舞台に立てた理由」。夫でパティシエの鎧塚俊彦が、昨年胆管がんで亡くなった妻で女優の川島なお美の死を振り返ります。

 女優として体にメスを入れることを拒み、手術以外のあらゆる方法を模索していたという川島。「自分でつくった腫瘍なのだから、生活を改善し自然治癒力を高めて治す」と専門書を「軽く50冊は読破」し、さまざまな治療法を見つけては試してみたそう。その中には「純金の棒で体をこするマッサージ」のような怪しげなものも。しかしその真剣な姿に、手術をすすめていた鎧塚も「たとえ僕自身が信用しきれない療法であれ、女房が『身体にプラスになる』と心底感じたのなら、止めないでいよう」と心に決めたと言います。

 腹腔鏡手術だけは受けたものの、5カ月でがんが再発。再発を告知されてからは「免疫療法」「霊能者」「O・リングテストを用いる漢方薬医」など、さらに怪しげな代替療法にのめり込む。結局は「肝臓で分解しきれなくなったアンモニアが脳に至ったがために台詞を忘れる症状が表れ」、舞台を降板した1週間後に帰らぬ人となりました。

 仁科と川島。がんに直面して選んだ道は違えど、それぞれのインタビューで出てきたのは同じ「QOL(クオリティ・オブ・ライフ)」という言葉。「残り少ない人生のQOLを高めたほうがいいなと思い」「子どものために何とか生き延びようとしていた38歳の私とは違う、60代の私の決断」として、仁科もまた負担のかかる抗がん剤治療を打ち切ったと言います。

 先述の「若者でもない老人でもないという時間をどう設計実践するか」という宇多の言葉は、ここでいうQOLに近いのかもしれません。50代、60代での「生き直し」。仁科にとっての子ども、川島にとっての舞台のような、生きる希望をどれだけ持てるかがQOLの鍵になるのでしょう。そう考えると「長寿で幸せ」の意味も少し違って見えてきますね。

(西澤千央)

サバサバした人間関係は寂しさしかもたらさない……「婦人公論」で60代作家が漏らす切実な本音

 今号の「婦人公論」(中央公論新社)、特集は「人づき合いは楽しく、賢く、細長く」です。リードには「無理なく心地よい関係を築くための方法を探ります」とありますが、そんな夢のような方法あったらそもそも「婦人公論」が100年も続いていない気が……。

 

 特集冒頭のインタビューには脚本家・大石静が登場。「誰かに癒されるより、一人でヒリヒリした時間を過ごしたい」というタイトルからもわかるように、大石の人づき合い法は、ベクトルが最終的に「自分」へと向く、極めてクリエイター的なもの。「苦しい時、他人に相談するのではなく、自分と向き合うことが、私にとってはかけがえのない時間」「大人にとって本当に大事なことは、他人とのつき合い方をみつめ直すことより、この先、自分とどうつき合うか、ではないかという気がします」。自分の人生がうまくいかないのは、自分以外の誰かのせいだと思いたい「婦人公論」読者に、大石先生のお言葉はどのように届くのでしょうか。

<トピックス>

◎特集 人づき合いは楽しく、賢く、細長く

◎親友と呼び合えるのはめったに会わない仲だから

◎若い人に誘われなくなったら要注意。60歳からは、謙虚に誠実に

■自分たちだけは「面倒くさくない」と思いたい

 確かにこの世はめんどくさい人づき合いばかり。自分自身と向き合い「そのつき合い、本当に必要?」と精査していくことは必要な作業なのでしょう。「婦人公論」でも取り上げている、“人間関係の断捨離”というやつです。

 さて続いては「親友と呼び合えるのはめったに会わない仲だから」。こちら「毒舌辛口トークなのに視聴者から好感度の高い」島崎和歌子とマツコ・デラックスの親友対談です。「私たちどこか似ている部分があったのよ。世間や人に対して、少し斜に構えて生きているところとか」とマツコが言えば、島崎も「私はアイドル時代、仲間との関係が苦痛だった記憶があるの。あの頃のアイドルは、みんなでつるまなきゃいけないことが多かったのよ。私にはそういう関係があまり向いてなかったんだと思う。まわりから浮いていたもの」。ともに“べったりとした関係は無理”と話すアラフォーの2人が、友達とのちょうどいい距離感について語っています。2人の対談でよく出てくるのが「面倒くさい」という言葉。

島崎「主婦をしている年下の友だちから、ママ友づき合いの苦労話をよく聞かされる」

マツコ「子どもをどこの学校へ入れるかで張り合ったりするんでしょう? 人として大切なのはそういう問題じゃないのに、バカらしい!」

島崎「そういう関係って、聞いているだけで面倒くさいなって思う」

マツコ「そこまでしないとつき合えない友だちなんて、こっちから願い下げって言ってやればいいのよ」

島崎「子どものことを考えたりすると、それも難しいんじゃない。でも、無理して関係を続けるのは、無駄よね」

マツコ「アンタと私との間には、そういう面倒くささがない」

島崎「主婦の友だちの愚痴を聞いていると、家庭も子どもも持たずにいてよかったとつくづく思っちゃう」

(さらに…)

毒母問題において母娘が“共犯関係”になる理由を、「婦人公論」の特集に見た

<p> 今号の「婦人公論」(中央公論新社)、特集は「母と娘、年を重ねてどう向き合う」です。まずはおなじみの読者アンケートから。「『長生きして』から『死んでくれ』まで母への本音を明かします」というタイトルがもう刺激的。そして中身も刺激的。「あなたの母は『毒母』だと思いますか?」という質問には、なんと44%が「はい」と回答。「母に対する『心の叫び』」にも罵詈雑言があふれます。「お金の無心をしないでほしい」「近所に迷惑をかけないように」など“お願い”系ならまだいいほう。「死ね! 1日でも、1時間でも早く死ね! 消えろ! 消えてくれ!」「家に放火し、一家心中したい。一歩手前です」など、穏やかではないもの多数。しかもこれが「娘・75歳/母・96歳」だったりするので、この問題、根が深いです。</p>

毒母問題において母娘が“共犯関係”になる理由を、「婦人公論」の特集に見た

<p> 今号の「婦人公論」(中央公論新社)、特集は「母と娘、年を重ねてどう向き合う」です。まずはおなじみの読者アンケートから。「『長生きして』から『死んでくれ』まで母への本音を明かします」というタイトルがもう刺激的。そして中身も刺激的。「あなたの母は『毒母』だと思いますか?」という質問には、なんと44%が「はい」と回答。「母に対する『心の叫び』」にも罵詈雑言があふれます。「お金の無心をしないでほしい」「近所に迷惑をかけないように」など“お願い”系ならまだいいほう。「死ね! 1日でも、1時間でも早く死ね! 消えろ! 消えてくれ!」「家に放火し、一家心中したい。一歩手前です」など、穏やかではないもの多数。しかもこれが「娘・75歳/母・96歳」だったりするので、この問題、根が深いです。</p>

「婦人公論」読者の不倫への言い訳にも防止策にもなる、「女がセックスしがたるなんて」という自縛

<p> 今号の「婦人公論」(中央公論新社)、特集は「モノの見極め、整理、処分」です。衣替えシーズン、年末などに必ずやってくる断捨離特集。号によっては「捨てられない心に潜む病理」とか「本当に捨てたいのはモノではなく夫」など変化球もからめてくるのですが、今号はストレート勝負。「捨てる」「掃除」「整理」などテクニカルな記事が大半を占めています。女性誌レビューとしての読みどころを挙げるとするなら、「読者体験手記 どうしても捨てられない理由」でしょうか。夫の鬱病を理由に離婚した女性が、2度目の結婚式で赤いウエディングドレスを着たという話。「再婚後に選んだドレスの赤は、実は心にあいた傷口から流し続けてきた血の色」と、最初の結婚式での白いウエディングドレス姿の写真を見ては「泣き出しそうになる」女性。きっと断捨離とは、こういう念の強さとの戦いなのでしょうね。</p>