「婦人公論」(中央公論新社)の5月25日号が発売中です。同誌のカナメといえば、濃い読者手記ですが、今回の特集はその傑作選「私たちのノンフィクション 幸せは涙のあとに」。読者より寄せられたノンフィクション原稿の中から、編集部が選び抜いた「珠玉の6篇」がドドンと掲載されています。胸やけするほど読み応えのある今号の中身、さっそく見ていきましょう!
<トピックス>
◎私たちのノンフィクション 幸せは涙のあとに
◎私はこう読んだ 伊藤比呂美、内田樹
◎鈴木保奈美 獅子座、A型、丙午。
読者の暴走プラトニックブ体験記
特集「私たちのノンフィクション 幸せは涙のあとに」に掲載された6篇の手記の内容は、とてもヘビー。認知症、不倫、がん闘病、精神科入院、借金、遺産争い、兄からの性的虐待――と、盛りすぎの昼ドラのようなラインナップです。
そんな中、わずかながら希望が感じられなくもない1篇も。そのテーマは「片思い」。ずっと離婚したいと思っていた夫が亡くなったあと、絵画教室の「若い素敵な」男性の先生(60歳・既婚)に恋している76歳女性による手記です。
「レッスン日のあとは、絵の仲間には知らせずいつも2人きりで夕食をご一緒している」とあり、イイ感じなのでは!? と思ったのも束の間、「支払いは私持ちというのがちょっと気にかかる」。それってタダ飯要員では。
しかし、夫の遺産がそれなりにあるこの女性、「払える私が払うのが当然かな」と納得したそうで、ある日、先生に愛を告白。結果は、「不義です。それは罪です」と振られてしまったとのこと。なんてイケ好かない野郎。“生徒を惑わすオレ”に酔っていやがる……!
先生とは振られたあとも食事を続けているそう。つまり、夫の遺産でタダ飯を与え続けているだけなのですが、女性は「もしかして先生もプラトニックラブと思ってくれているのでは」「ああ、身も心も愛されたい」「せめて指一本くらい触らせて」と暴走ぎみです。恋心はいくつになっても人を狂わせるようだ……と教えられました。
読者手記のあとには、プロがその内容に感想を述べる「私はこう読んだ」という企画も。詩人の伊藤比呂美氏、思想家の内田樹氏によるコメントが掲載されています。読んでみると、意外と厳しい。
伊藤氏は「『〇〇さ~ん』の”〜”は禁止(中略)。文芸作品に、こういう記号は不要です。『さーん』でいい」等、こまやかな修正を提案。
内田氏は「感情を自制できていることを示そうとすると、なかなかこれほど生々しいものは書けません」と絶賛する一方で、「もちろん実際にいろいろご苦労をされたわけで、大変な人生だったと思います。しかし、少々厳しく聞こえるかもしれませんが、そのご苦労のいくぶんかは無意識のうちに自分で招き寄せたもののようにも見える」とも指摘。「みなさん自分で『穴』を掘って、その定型の中に自分から進んではまり込んでいるような印象」と語っています。
一歩間違えば読者による“不幸自慢大会”や“悲劇のヒロイン博覧会”になってしまう手記特集に対する、冷静なツッコミだと感じました。
読者の超力作手記を読んだあと、ほっと一息つける(気が抜けるとも言える)のが鈴木保奈美の連載エッセイ「獅子座、A型、丙午。」です。
80年代を引きずったホナミ文体による、THEトレンディー・エッセイ。今回は“女優なのにPASMOを使って電車で現場入りしちゃったホナミ”という自意識を直球アピールする、ほほ笑ましい内容となっています。
それは「新調したバーミキュラのフライパンで自分史上最高のベーコンエッグができた朝」のできごと。マネジャーから、“高速が大渋滞しているから電車で現場入りするように”と連絡を受けたホナミさん。
「え? 一人で電車? と思われたあなた、あのね、アンジェリーナ・ジョリーじゃないんだから、女優だって電車乗るわよ」
「PASMOも持ってるって」
「撮影現場についたら、『ホナミさん電車で来たの!?』とみんなに言われた。だからさ、ジェニファー・ロペスじゃないんだから」
「PASMOをピローン、って乗ってきたのよ」
非日常のワクワクどきどき感がダダ漏れです。
読者の人生全てを注ぎ込んだかのような手記を読んだあとでは、“電車に乗った”というだけでエッセイを一本書けてしまうホナミさんの特殊さが染み入ります。
ちなみにPASMOは「ピローン」とは鳴りません。「ピピッ」です。次に電車に乗るときには(いつになるのかわかりませんが)ぜひ耳を澄ましてみてください、とホナミさんに伝えたいです。