金子恵美の「恵まれてる自慢」「シングルマザーへの言及」にイライラ! 『許すチカラ』を“許せなかった”既婚女性3人の主張【既婚・未婚座談会】

 元衆議院議員で、現在はコメンテーターとして活動する金子恵美が、著書『許すチカラ』(集英社)を上梓。夫・元衆議院議員の宮崎謙介の不倫を「許せた理由」について書かれた本書だが、夫を持つ妻の目線からは、どのように映っているのだろうか? 金子の“指南”に疑問を持つという3名の女性(A:バツイチ&子あり、B:未婚&子あり、C:既婚&子なし)に、語り合ってもらった。

(前編:妊娠中に夫が不倫……妻はどうする? 金子恵美『許すチカラ』から考える、「許す・許さない」の境界線

許せずに「怒る」ことは間違っているのか?

――3人とも、「許せないことがあってもいい」というスタンスだと前編でわかりました。しかし、『許すチカラ』をはじめ、最近は「許したほうがいい」といった論調の指南書が増えています。例えば、9月発売の『いつまでも消えない怒りがなくなる 許す練習』(杉山崇著、あさ出版)では、人間関係を円滑にするために「許す(わかり合う)」ことを勧めていますし、1月には『人は、なぜ他人を許せないのか?』(中野信子著、アスコム)という、ネット炎上を主に分析する本が出ています。

C ネット炎上だと、確かに「そんなに怒る?」って人もいますし、中野さんの本では、「他人を叩くことが快楽になる」といったことも書かれているので、そこまでいくとさすがにやりすぎだなと思います。でも、それくらい怒るのは、その人にとって本当に「許せないこと」なのかもしれないという可能性も、忘れちゃいけないような。それに、「本当にダメなこと」「怒られてしかるべきこと」は、許しちゃいけないですよね? 「相手を許せば幸せになれる」という金子の主張は、ちょっと楽観的すぎだと感じます。

B 『許すチカラ』で金子は、不倫が発覚した当時、宮崎が世間に叩かれたことについて「社会が不寛容」だったと主張していますよね。それはさすがに、「話を広げすぎだろ!」と思いました。宮崎は芸能人ではなく国会議員という立場だったので、「育休宣言しておいて何やっているんだ?」「我々の税金で不倫するなんて許せない!」と怒る人は、当たり前にいますよ。「妻の私が夫を許せました」と「国民が政治家を許せました」は全く別の話だし、支持率が下がっても、選挙に落選しても仕方がない。誹謗中傷は絶対によくないけど、批判は受けてしかるべきですよね。

A 日常生活でも、「まあまあ、そう怒るなよ」「カリカリすんなよ」「スルーしろよ」という流れになること、あるなあ……。でも、怒ったっていいじゃないですか? 不条理に対して「ふざけるな!」と怒るのは、まっとうなことですよね。

C どうでもいいことに怒ってばかりはよくないけど、どうでもよくないから許せないのであって、だったら怒っているほうが健全な気がします。許せないことに罪悪感を持つ必要はないですよね。犯罪まがいの復讐を企てるとか、怒りすぎて仕事に手がつかないとなると、話は別ですけど。

B 金子も本の後半で、「誹謗中傷をなくすことがなによりも大切ですが、それに負けないような、またスルーできるような自分の確固たる価値観を養う教育をしていくことも……」って書いてるんですよね。「スルーできるような教育」って、何?(笑)

C 「自分の価値観がちゃんとあれば、批判や誹謗中傷をされてもスルーできるようになるよ」ってことですかね? いやいや、誹謗中傷は法的手段を使って訴えたほうがいいし、間違ったことを指摘してるのにスルーされたら、普通に困りますよね。それがいじめやハラスメントだった場合、しっかり相手を怒らないと、負の連鎖が後の世代にも続くじゃないですか。スルーし続けるとか、許し続けるほうが、不幸になる可能性もありそうですけど……。

――では、「『許すチカラ』のここが許せなかった」ポイントはありましたか?

A とりあえず、「一般的な夫婦の物語ではない」という大前提を念頭に置いて読まなければいけない本だと思います。金子自身、折に触れて「自分たちは特殊である」というようなことを書いていますが、そのくせ、本の帯には「人はなぜ過ちを許せないのか?」ってあるんですよ。いち夫婦の話なのに「人は~」って、主語がデカすぎる! さらに、裏表紙側の帯には「妻として母として女として――許すことで私は幸せになれた!」だって……。「許せる女は幸せになれる」「幸せになりたければもっと夫に優しくしなさい」みたいな主張が見え隠れしていて、ハッキリ言ってうんざりですよ。

C 結局、特殊な夫婦の事例だから、不倫されて苦しんでいる大半の人はこの本を読んでも参考にならないし、許せる気持ちも持てない気がしますよね。参考にならないうえ、後半にかけて、どんどん金子にイライラさせられるじゃないですか? 「自分は環境に恵まれている」といったことも散々書いているし、結局この人って、常に心の余裕があるんだなあって。だから許せるんだろって、読み進めるほどそう感じましたね。

A ところどころに自慢が入っているのが、またしゃくに障るんですよね~。

B、C 超わかる!

B そもそも、経済的な不安がないから、離婚するかしないかを自分で選べたわけだし。生い立ちについても、「小さいころから優秀で快活な姉ふたりに比べて、学力も劣り」「私は精一杯努力しなければ勉強もできないタイプだ」とかあるけど、あなたも早稲田大学に受かって、政治家にまでなっただろう、という。もちろん、悩みやコンプレックスは人それぞれありますけど、こっちからすれば「あ、そ」の一言。

A 顎関節症のために通院してる時、口唇口蓋裂の女の子に出会って、「金子さんは贅沢だ」って言われる場面があるじゃないですか? 続けて「自分で自分の人生を選べる、それだけで幸福」だと気づいた、とつづっていますけど、この人、自分のことしか考えてないんだなと驚きましたよ。その後、母親が申し込んだ「きものの女王コンテスト」に選ばれただの「ミス日本コンテスト」に出場しただの、いちいちイラッとくるエピソード出してくるんですよね。その話、この本にいる?(笑)

B 自分が恵まれた環境にいすぎて、幸せなことに気づかなかった……とか言いたいんでしょうね。で、自分の成功経験をいろいろ語った末に、「多くの若い女性たちにも挑戦する心、冒険心を捨てないで、と言いたいのです」と叱咤激励しているんですが、金子のような立場の人に言われても、大して頑張る気になれないでしょ。

C 「私は女性の味方!」「若い女性には、さまざまな可能性がある!」とかなんとか言いたいのかもしれないけれど、励まし方の一番悪い例ですよ、コレ。

――『許すチカラ』への不満がボロボロ出てきますね(笑)。「特にこれが許せなかった」一文を決めるとすると、どこですか?

A 私が一番許せなかったのは、シングルマザーへの言及ですね。「日本では、妊娠したとき、たとえば相手の男性に子供は嫌だと言われると、自分ひとりで抱えて、また他人からも好奇の目で見られるとなれば、女性が望んだとしても産むのは難しいでしょう」とあるんですが、すごいひどいこと書いているなと……。

B そこ、私もイラッときました! 私、まさにその状況で産みましたけど!?

A 私もすぐに離婚したから、似たような状況でしたよ。「産むのは難しい」って、まるで「男に嫌だと言われたら、女は子どもを堕ろしてしまうもの」みたいに聞こえませんか? 「こいつ、自分が何書いているかわかってんの?」って腹が立って……。不倫よりも、むしろこの一言が許せないです。

B 保育園の話もしているけど、「企業内保育園や託児所があれば母親としても安心」とか、感覚がズレているんですよね。子どもと一緒に満員電車に乗って、出勤しろってことでしょ? それより、認可保育園を増やして、子どもを入りやすくしてほしい。私の周りのママたちはほとんど、最初から家の近所の認可保育園に預けて、小学校入学までずっとそこに通わせたいと思っています。それと、“母親の職場”に連れていくのを前提としてるのもおかしいし。“父親の職場”でもいいでしょ? 本人にその気はないのかもしれないけど、母親ばかりに育児を押し付けてるように読めましたね。

C 会社に子どもを連れてきていいという案は、一見、画期的に見えるから、「いいこと言っている」と受け止める人もいるんでしょうね。でも、実態には見合っていないから、「こいつわかってないな」と思われているという。でも、本を読んでいると、金子は「すげぇ悪いヤツ」ってわけでもないと思うんですよね。子育て政策や不妊治療についてなど、彼女が議員を続けていたら、今よりもうちょっとマシだったのかもしれない、と感じる部分もなくはない。だけど、一般市民とはどうも感覚がズレちゃってるから、こうやってツッコまれちゃうんでしょう。

B 「夫の不倫をなぜ許せたのか?」から始まった本の内容が、どんどんマニフェストと化していきますよね。政界に戻りたいアピールなのかな? 『許すチカラ』は人生指南書に見せかけて、中身は「夫を許した私はこんなに幸せになれました」という金子の自己顕示と、「政治家だった私はこんなことを考えています(選挙に出たらよろしくね!)」っていう、宣伝がたっぷり詰まった一冊だったなと。

A 結論は、この本が全体的に許せないってことですね(笑)。

金子恵美の「恵まれてる自慢」「シングルマザーへの言及」にイライラ! 『許すチカラ』を“許せなかった”既婚女性3人の主張【既婚・未婚座談会】

 元衆議院議員で、現在はコメンテーターとして活動する金子恵美が、著書『許すチカラ』(集英社)を上梓。夫・元衆議院議員の宮崎謙介の不倫を「許せた理由」について書かれた本書だが、夫を持つ妻の目線からは、どのように映っているのだろうか? 金子の“指南”に疑問を持つという3名の女性(A:バツイチ&子あり、B:未婚&子あり、C:既婚&子なし)に、語り合ってもらった。

(前編:妊娠中に夫が不倫……妻はどうする? 金子恵美『許すチカラ』から考える、「許す・許さない」の境界線

許せずに「怒る」ことは間違っているのか?

――3人とも、「許せないことがあってもいい」というスタンスだと前編でわかりました。しかし、『許すチカラ』をはじめ、最近は「許したほうがいい」といった論調の指南書が増えています。例えば、9月発売の『いつまでも消えない怒りがなくなる 許す練習』(杉山崇著、あさ出版)では、人間関係を円滑にするために「許す(わかり合う)」ことを勧めていますし、1月には『人は、なぜ他人を許せないのか?』(中野信子著、アスコム)という、ネット炎上を主に分析する本が出ています。

C ネット炎上だと、確かに「そんなに怒る?」って人もいますし、中野さんの本では、「他人を叩くことが快楽になる」といったことも書かれているので、そこまでいくとさすがにやりすぎだなと思います。でも、それくらい怒るのは、その人にとって本当に「許せないこと」なのかもしれないという可能性も、忘れちゃいけないような。それに、「本当にダメなこと」「怒られてしかるべきこと」は、許しちゃいけないですよね? 「相手を許せば幸せになれる」という金子の主張は、ちょっと楽観的すぎだと感じます。

B 『許すチカラ』で金子は、不倫が発覚した当時、宮崎が世間に叩かれたことについて「社会が不寛容」だったと主張していますよね。それはさすがに、「話を広げすぎだろ!」と思いました。宮崎は芸能人ではなく国会議員という立場だったので、「育休宣言しておいて何やっているんだ?」「我々の税金で不倫するなんて許せない!」と怒る人は、当たり前にいますよ。「妻の私が夫を許せました」と「国民が政治家を許せました」は全く別の話だし、支持率が下がっても、選挙に落選しても仕方がない。誹謗中傷は絶対によくないけど、批判は受けてしかるべきですよね。

A 日常生活でも、「まあまあ、そう怒るなよ」「カリカリすんなよ」「スルーしろよ」という流れになること、あるなあ……。でも、怒ったっていいじゃないですか? 不条理に対して「ふざけるな!」と怒るのは、まっとうなことですよね。

C どうでもいいことに怒ってばかりはよくないけど、どうでもよくないから許せないのであって、だったら怒っているほうが健全な気がします。許せないことに罪悪感を持つ必要はないですよね。犯罪まがいの復讐を企てるとか、怒りすぎて仕事に手がつかないとなると、話は別ですけど。

B 金子も本の後半で、「誹謗中傷をなくすことがなによりも大切ですが、それに負けないような、またスルーできるような自分の確固たる価値観を養う教育をしていくことも……」って書いてるんですよね。「スルーできるような教育」って、何?(笑)

C 「自分の価値観がちゃんとあれば、批判や誹謗中傷をされてもスルーできるようになるよ」ってことですかね? いやいや、誹謗中傷は法的手段を使って訴えたほうがいいし、間違ったことを指摘してるのにスルーされたら、普通に困りますよね。それがいじめやハラスメントだった場合、しっかり相手を怒らないと、負の連鎖が後の世代にも続くじゃないですか。スルーし続けるとか、許し続けるほうが、不幸になる可能性もありそうですけど……。

――では、「『許すチカラ』のここが許せなかった」ポイントはありましたか?

A とりあえず、「一般的な夫婦の物語ではない」という大前提を念頭に置いて読まなければいけない本だと思います。金子自身、折に触れて「自分たちは特殊である」というようなことを書いていますが、そのくせ、本の帯には「人はなぜ過ちを許せないのか?」ってあるんですよ。いち夫婦の話なのに「人は~」って、主語がデカすぎる! さらに、裏表紙側の帯には「妻として母として女として――許すことで私は幸せになれた!」だって……。「許せる女は幸せになれる」「幸せになりたければもっと夫に優しくしなさい」みたいな主張が見え隠れしていて、ハッキリ言ってうんざりですよ。

C 結局、特殊な夫婦の事例だから、不倫されて苦しんでいる大半の人はこの本を読んでも参考にならないし、許せる気持ちも持てない気がしますよね。参考にならないうえ、後半にかけて、どんどん金子にイライラさせられるじゃないですか? 「自分は環境に恵まれている」といったことも散々書いているし、結局この人って、常に心の余裕があるんだなあって。だから許せるんだろって、読み進めるほどそう感じましたね。

A ところどころに自慢が入っているのが、またしゃくに障るんですよね~。

B、C 超わかる!

B そもそも、経済的な不安がないから、離婚するかしないかを自分で選べたわけだし。生い立ちについても、「小さいころから優秀で快活な姉ふたりに比べて、学力も劣り」「私は精一杯努力しなければ勉強もできないタイプだ」とかあるけど、あなたも早稲田大学に受かって、政治家にまでなっただろう、という。もちろん、悩みやコンプレックスは人それぞれありますけど、こっちからすれば「あ、そ」の一言。

A 顎関節症のために通院してる時、口唇口蓋裂の女の子に出会って、「金子さんは贅沢だ」って言われる場面があるじゃないですか? 続けて「自分で自分の人生を選べる、それだけで幸福」だと気づいた、とつづっていますけど、この人、自分のことしか考えてないんだなと驚きましたよ。その後、母親が申し込んだ「きものの女王コンテスト」に選ばれただの「ミス日本コンテスト」に出場しただの、いちいちイラッとくるエピソード出してくるんですよね。その話、この本にいる?(笑)

B 自分が恵まれた環境にいすぎて、幸せなことに気づかなかった……とか言いたいんでしょうね。で、自分の成功経験をいろいろ語った末に、「多くの若い女性たちにも挑戦する心、冒険心を捨てないで、と言いたいのです」と叱咤激励しているんですが、金子のような立場の人に言われても、大して頑張る気になれないでしょ。

C 「私は女性の味方!」「若い女性には、さまざまな可能性がある!」とかなんとか言いたいのかもしれないけれど、励まし方の一番悪い例ですよ、コレ。

――『許すチカラ』への不満がボロボロ出てきますね(笑)。「特にこれが許せなかった」一文を決めるとすると、どこですか?

A 私が一番許せなかったのは、シングルマザーへの言及ですね。「日本では、妊娠したとき、たとえば相手の男性に子供は嫌だと言われると、自分ひとりで抱えて、また他人からも好奇の目で見られるとなれば、女性が望んだとしても産むのは難しいでしょう」とあるんですが、すごいひどいこと書いているなと……。

B そこ、私もイラッときました! 私、まさにその状況で産みましたけど!?

A 私もすぐに離婚したから、似たような状況でしたよ。「産むのは難しい」って、まるで「男に嫌だと言われたら、女は子どもを堕ろしてしまうもの」みたいに聞こえませんか? 「こいつ、自分が何書いているかわかってんの?」って腹が立って……。不倫よりも、むしろこの一言が許せないです。

B 保育園の話もしているけど、「企業内保育園や託児所があれば母親としても安心」とか、感覚がズレているんですよね。子どもと一緒に満員電車に乗って、出勤しろってことでしょ? それより、認可保育園を増やして、子どもを入りやすくしてほしい。私の周りのママたちはほとんど、最初から家の近所の認可保育園に預けて、小学校入学までずっとそこに通わせたいと思っています。それと、“母親の職場”に連れていくのを前提としてるのもおかしいし。“父親の職場”でもいいでしょ? 本人にその気はないのかもしれないけど、母親ばかりに育児を押し付けてるように読めましたね。

C 会社に子どもを連れてきていいという案は、一見、画期的に見えるから、「いいこと言っている」と受け止める人もいるんでしょうね。でも、実態には見合っていないから、「こいつわかってないな」と思われているという。でも、本を読んでいると、金子は「すげぇ悪いヤツ」ってわけでもないと思うんですよね。子育て政策や不妊治療についてなど、彼女が議員を続けていたら、今よりもうちょっとマシだったのかもしれない、と感じる部分もなくはない。だけど、一般市民とはどうも感覚がズレちゃってるから、こうやってツッコまれちゃうんでしょう。

B 「夫の不倫をなぜ許せたのか?」から始まった本の内容が、どんどんマニフェストと化していきますよね。政界に戻りたいアピールなのかな? 『許すチカラ』は人生指南書に見せかけて、中身は「夫を許した私はこんなに幸せになれました」という金子の自己顕示と、「政治家だった私はこんなことを考えています(選挙に出たらよろしくね!)」っていう、宣伝がたっぷり詰まった一冊だったなと。

A 結論は、この本が全体的に許せないってことですね(笑)。

宇佐美りん『推し、燃ゆ』で描かれる、誰かを「推す」ことの不毛さと偶像を尊ぶアイドルファンのリアル

――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します。

『推し、燃ゆ』(著:宇佐見りん/河出書房)

【概要】

 2019年『かか』(河出書房)で文藝賞を受賞しデビュー、20年には同作で三島由紀夫賞を史上最年少で受賞した宇佐見りんの第2作。全力で推していた男性アイドルが、ファンを殴って炎上した。たったそれだけで、ひとりのファンの人生が揺らぎ始めるーー。

*********

「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。まだ詳細は何ひとつわかっていない。何ひとつわかっていないにもかかわらず、それは一晩で急速に炎上した」

 アイドルでも声優でも俳優でも、芸能人の「推し」がいる人には端的に伝わる最低な朝の描写から始まる『推し、燃ゆ』(著: 宇佐見りん/河出書房刊)は、男性アイドルを推しながらじわじわと崩れていく女子高生の日常を、高い解像度で書き起こした中編小説だ。

 アイドルグループ「まざま座」のメンバー・上野真幸を見つめ、ブログに記し、彼を“解釈する”ことに全てをささげていた女子高生・あかり。家族とうまくいかず、学校生活もままならない彼女にとって、上野真幸は人生の支柱だった。そんな大切な推しが、暴力行為で炎上。世間に飛び交う雑な“解釈”が推しの人気をあからさまに削いでいく状況に、あかりはかえって身を持ち崩すほど「推し」にのめり込むようになる。高校を退学し、アルバイトを解雇され、十分な自活能力もないまま家族から追い立てられるように一人暮らしを始める中で、「まざま座」の解散が発表される――。

 『推し、燃ゆ』には、アイドルを「推す」ことで前向きになれるような出会いがあったり、奇跡の采配で「推し」と遭遇したりするような、わかりやすいドラマチックな展開は生まれない。それでも、無為に過ごした休日の夕方、荒れた部屋で「推し」だけが輝く虚無、そんな光景に覚えがある人ならこの物語に魅了されてしまうかもしれない。

 本作の最も特徴的な点は、徹底的に主人公・あかりの視点で淡々と語られる独特の文体だ。彼女の興味の向く事象のみが語られるため、「推し」であるアイドル・上野真幸の容貌やちょっとした癖、彼を取り巻くSNSやメディアの動向は細やかに伝わるのに、あかり本人の容姿は髪型すらわからない。頻発する忘れ物やバイト先の居酒屋での混乱などから、彼女が軽度の発達障害を抱えているかもしれないことがおぼろげに伝わってくるが、病院で診断されたというその病名すらなおざりだ。

 推しを思う時の色彩豊かで感傷的な記述も、「今やるべきこと」と「後でやりたいこと」が絡まり、行動の優先順位がなし崩しになってしまう視野狭窄気味な思考の流れも、どちらにもぴったりと沿う文体が、じわじわと引きつっていくような本作の世界観を巧みに主導する。癖になるリズムのある文章で読者を惹きつけた宇佐見氏のデビュー作『かか』(同)に続き、本作においても、映画でも漫画でもない「小説」を読む楽しみを味わわせてくれる。

 ドライブ感のある文体で浮き彫りになるのは、誰かを「推す」という人によっては理解不能な行為の一端だ。「推す」と一口に言っても多種多様で、あかりのように「推しの存在を愛でること自体が幸せ」というタイプもいれば、あかりの友人のように「触れ合えない地上より触れ合える地下」と認知と接触を求める人もいる。

 「推し」を巡る、SNSを通じた交流の生ぬるい温かさも、嗜虐的なアンチの揶揄も、誰かを推した経験のある人ならたいてい見覚えのある光景だろう。そんな「推しを推す」人々とその周辺の描写を通じて、一方的で不毛な「推す」という行為から生まれる、「正とも負ともつかない莫大なエネルギーが噴き上がる」ような瞬間が、角度を変えて何度もすくい取られている。

 推しに対して、「触れ合いたいとは思わなかった」「有象無象のファンでありたい。拍手の一部になり歓声の一部になり、匿名の書き込みでありがとうって言いたい」と一定の距離を保っていたあかり。「ステージと客席には、そのへだたり分の優しさがある」と思っていた彼女は、一度だけその「へだたり」を越えかけるものの全力で引き返し、その勢いのまま初めて「推し」抜きの自分自身と対峙する。

 全身全霊を傾けていた推しを見つめる力が自らの荒れた心身に向けられた時、彼女が感受した世界は荒涼としたものだ。ヘビーで持て余すような日常生活に、先の見えない未来に、思うままに動かない肉体。不本意でもそれらと死ぬまで一生付き合っていくしかないという現実。それはどんなに絶望に似ていても、しかしやはり希望なのだと私は思う。
(保田夏子)

妊娠中に夫が不倫……妻はどうする? 金子恵美『許すチカラ』から考える、「許す・許さない」の境界線【既婚・未婚座談会】

 元衆議院議員で、現在はコメンテーターとして活動する金子恵美が、著書『許すチカラ』(集英社)を上梓した。彼女の夫で元衆議院議員の宮崎謙介は、2015年に「育休宣言」で脚光を浴びるも、翌16年、金子の妊娠中に不倫していたことを「週刊文春」(文藝春秋)に報じられ、議員を辞職。しかし、金子はそんな宮崎と離婚せず、夫婦でテレビ出演をするなど、“有名人の不倫”に厳しいこのご時世において、異例の動きを見せていた。

 しかし、今月27日にニュースサイト「文春オンライン」にて、宮崎の“二度目の不倫”が報じられることに。ネット上では「金子はこの不倫も許すのか?」「1回目で大丈夫だったから、またやったんだろう」といった声も聞こえてくる。

 『許すチカラ』で金子は、「私は夫を許して幸せになれた」と高らかに宣言している。夫婦が、そして女性が幸せに生きるために、「許すチカラ」は本当に必要なのだろうか? 疑問を抱いた女性3名(A:バツイチ&子あり、B:未婚&子あり、C:既婚&子なし)が語り合った。

金子恵美は「夫の不倫」に怒っていなかった?

――『許すチカラ』を読んで、どんな感想を持ちましたか?

C まず思ったのは、そもそも金子は、「夫の不倫」に怒っていないのでは? ということです。出産直後に宮崎から週刊誌に載ると聞かされた時、彼女は真っ先に「金銭問題」を恐れ、「女性問題」だと知ると安堵しているんです。宮崎から洗いざらい話を聞いてからも、「女性として裏切られたという腹立たしさ」より、「政治家としての彼の立場」に思いが向いていた、育休宣言をしておいて真逆の行動を取ったことが「同じ政治家として許せない」という思いだったと書いてある。彼女は最初から、不倫に対して特に怒っていないんですよね。

B この夫婦の場合、不倫よりパートナーにされたら困ることが山ほどあるんでしょうね。だから「不倫ぐらいなら」という気持ちになる、と。

C そうそう。彼女たちは当時、議員という立場があったので、汚職的なことをやったら逮捕されるかもしれないし、致命的。となると、もともとこの夫婦にとって、不倫はそこまで深刻な問題ではなかったのではないでしょうか。それを「私は許せました」って言われても……ねえ? 

A 不倫が「どうしても許せないこと」だったのかというと、どうやらそういうわけではなさそう。「夫の不倫が許せなくて苦しんだけれど、こうしたら許せました!」という話とは、全然違いますよね。

B 私が気になったのは、金子が育った家庭環境の話です。彼女の父親は新潟県で村長をやっていた人で、宮崎の不倫を聞いて、「政治家の女性問題なんて、昔だったらいくらでもあったよ」と言ったとか。そういう考え方の親の元で育っているから、夫の不倫にも寛容だったんじゃないのかと思ったんですよね。親から「別れろ」と言われることもないだろうし。なんか、この1行を読んで、残りのページがどうでもよくなりました(笑)。

A 一方で、後半のページでは、「男性が不倫相手の女性に『妻とは別れる』と言って口説いたことが許せない」みたいに書いてありましたよね。「妻の尊厳はしっかり守ったうえでなければルール違反だ」とか……。いや、不倫している時点でルール違反なんですけど? 奥さんの尊厳を守りながら不倫するって、どういうこと!?

C 「妻とは別れないけど、不倫相手の君とも関係を持つ!」って口説けばOKなんですかね。よくわからん(笑)。

――みなさんは、パートナーに不倫されたことってありますか?

A 私は妊娠中、元夫がキャバ嬢とLINEで親密に連絡を取り合っていることを知りました。当時はもう気が狂いそうに……いや、本当に狂ってしまって、そのキャバ嬢に電話で詰め寄ったんです。「もうすぐ子どもが生まれるのに、どういう関係なんですか!?」って。実際は営業半分、友だち感覚で連絡してたみたいだったんですが、元夫はそれから、携帯電話を会社に置いてくるようになり……ほかにもいろいろ許せないことがあって、子どもが1歳の頃に別れました。

C 携帯を会社に置いてくるって、明らかに何か隠そうとしてるじゃないですか?

A わかりやすいですよね(笑)。で、『許すチカラ』を読むと、宮崎って不倫がバレたあとのフォローがすごくうまいんですよ。記者会見を開いたり、日記に妻への愛情をつづったり、精神誠意反省しているかのように見える。これくらいしてくれたら、私も元夫を許せたのかもしれない。一方で、世間からのバッシングを受けて精神的には不安定で、金子はそんな夫を「守らなければいけない」と思ったという。

B 夫が懴悔と贖罪の日々を送っていることや、社会的制裁を受けていることがはっきりわかるのは、「許す」うえで大きいと思います。ちなみに私は妊娠前後の時期に、相手と価値観の違いなどから別れ話が出るようになり、結局別れて未婚で出産しました。安定期に入り、「無事に生まれるだろうな」とわかってきたところで、彼へのわだかまりが薄れていったので、浮気されていたとしても、多分どうでもよかったと思います。でも、それはあくまでも、自分の子どもが無事に生まれたから言えることであって、出産リスクの大きい状況だったらまた違ったかもしれません。

C 「不倫をしていた」という事実は変わらないし、やったことはしょうがない。問題は、相手が「その後どうするのか」と、自分自身の状況によって、許す・許さないが決まるんですかね。『許すチカラ』では、宮崎が不倫を反省しながら苦しんでいる様子が書かれていましたが、読む前と読んだ後で彼のイメージって変わりました?

B うーん、私はあまり変わらないかも。育休宣言当時、宮崎はいかにも“イケイケの議員”って感じでチャラそうだったけど、男性議員の育休自体はいいことだと感じていました。それが不倫騒動を起こし、「こいつ、何やってんだよ?」とは思ったけど、彼自身にはあまり興味がなかったかも(笑)。当時からずっと、「こういう人たちもいるんだな」ぐらいの印象です。

A 私も育休宣言の時は「いい人だ」と思いました。でも、読んだ後は、「うわー、やっぱりぶっ飛んだ夫婦なんだ!」と(笑)。普通の夫婦、普通の家庭の話じゃないな、と思っちゃいましたね。

――もし自分が金子の立場だったら、宮崎を許しますか?

C 私は、さっさと離婚します(笑)。読んでいて気になったのが、「許す・許さない」という判断だと、夫婦間で上下関係が発生しそうだと思ったんですよね。金子は「夫を許して幸せになれた」と言っていますけど、どうしたって“許してあげた側”の立場が上になるじゃないですか。もし自分が何かしらのミスをして、夫から「許してあげた=立場が上」だと思われていたら、すごく嫌だと感じたんですよね。夫婦なのに対等な関係じゃなくなるのは、ちょっと変だなというか。まあ一番の理由は、不倫するやつはバレてもどうせまたやると思うので、早めにサヨナラしておきたいからですが。

A 私も、基本的に不倫は許せないですね。ただ、金子たちの置かれた状況だと……「許さないとダメ」なのかもしれない、とも思うんです。宮崎が自分の妊娠中に不倫していたことは世間に知れ渡っているので、これで別れると、子どもも「お前のパパ不倫しただろ!?」とか言われちゃいそう。不倫したことを知られてしまっているからこそ、もっと深刻な状況にならないように、丸く収めたいかな。

B 子どもの存在は引っ掛かりますよね。離婚はしないで、騒動を丸く収めるための方法を考えるとか、夫に何かしら手を差し伸べるという選択肢はあり得ると思います。ただ、それが気持ちの上でも「許している」のかと聞かれると、別問題かも。「許す=離婚しない」「許さない=離婚」とは、限らないじゃないですか。

 ただ、あれだけの騒動を起こしたんだから、「この先は私の好きにさせろよ」とは思うかもしれません。離婚する・しないを決めるのは私だし、子どものことにしろ、家庭内のあらゆることもすべからく自分が主導権を握る、みたいな。そこは不安感や悔しさから、夫婦間で上下関係を作り上げてしまいそう。

C 私は子なしかつ、欲しいとも思っていないので「さっさと離婚」を選択しますけど、やっぱり子どもの存在は、かなりネックになるようですね。

B 子どもがいなかったとしても、子どもを望んでいる場合は、いろいろな計算をするじゃないですか。妊活中に夫の不倫がわかったとして、離婚して別の相手を見つけて結婚して子どもを産む……と考えると、結構な時間をロスしそう。だったらとりあえず、表面上は許したことにして、妊娠・出産をして、子どもがある程度育ってきたらまた考えよう、となる人がいてもおかしくはないと思います。

C 確かに、妊娠や出産のタイミングが関わると、自分の“気持ち”だけで動けない部分が出てきそう。結局、不倫を許す・許さない、離婚する・しないは、個人の価値観や子どもの存在など、状況によっても大きく変わるものですよね。許した人が素晴らしいわけでもなければ、許さない人の心が狭いわけでもない。「夫を許せた」は、単なる自己満足って思ったほうがよさそうですね。

――実際、金子もこの本に関連するインタビューで、「許さないことを否定するものではない。 許す人は心が広くて強い女性だと捉えられたくないし、 それを押し付けるものでもないということだけは、 ちゃんと伝えておきたい」と語っていました(10月23日配信マイナビニュース「金子恵美、夫の不倫から4年…許す決断は『間違ってなかった』 真のパートナーに」より)。

A これは金子の言う通り(笑)。彼女が許したからといって、この世の不倫された妻が全員夫を許すわけじゃないので、勘違いしてほしくないですね。

――この本を読んで、「許すチカラ」は必要だと感じましたか?

A ちょっとしたことを「許すチカラ」は、必要だと思います。でも、私は誰かにすごくムカついたり、嫌なことをされたりした時に、「絶対こいつには負けない!」と思って、「許さないチカラ」で頑張るんですよね。だから、なんでもかんでも許さなくていいと思う。

B 「許さないチカラ」が活力になることは、私もあります。個人的には、「許したい」と思っているなら、許せるように頑張ればいい。許せないし、許したいとも思っていないなら、ずっと許さずにいてもいいよね、って感覚です。そこは自分が思うようにするべきところ、というか……。

C むしろ「許したほうがいいよ」「許さないとあなたが損するよ」とか言われるほうが、私は苦痛。相手が死ぬほど後悔して、日常生活に支障が出るくらい苦しんでいるなら許してもいいかもしれないけど、他人の心の中なんて実際にはわからないし。まあ金子は、宮崎が苦しんでいることや償おうとしていることがはっきり見えたから、許す気になったんでしょうが、そういうケースばかりじゃないですし。

B 「許す・許さない」って、実は個人差がめちゃくちゃ大きいのかもしれないですね。そういう繊細な判断に対して、「許す」ことを押し付けるようなタイトルの本が出ることが、今一番許せないかも(笑)。

(後編に続く)

妊娠中に夫が不倫……妻はどうする? 金子恵美『許すチカラ』から考える、「許す・許さない」の境界線【既婚・未婚座談会】

 元衆議院議員で、現在はコメンテーターとして活動する金子恵美が、著書『許すチカラ』(集英社)を上梓した。彼女の夫で元衆議院議員の宮崎謙介は、2015年に「育休宣言」で脚光を浴びるも、翌16年、金子の妊娠中に不倫していたことを「週刊文春」(文藝春秋)に報じられ、議員を辞職。しかし、金子はそんな宮崎と離婚せず、夫婦でテレビ出演をするなど、“有名人の不倫”に厳しいこのご時世において、異例の動きを見せていた。

 しかし、今月27日にニュースサイト「文春オンライン」にて、宮崎の“二度目の不倫”が報じられることに。ネット上では「金子はこの不倫も許すのか?」「1回目で大丈夫だったから、またやったんだろう」といった声も聞こえてくる。

 『許すチカラ』で金子は、「私は夫を許して幸せになれた」と高らかに宣言している。夫婦が、そして女性が幸せに生きるために、「許すチカラ」は本当に必要なのだろうか? 疑問を抱いた女性3名(A:バツイチ&子あり、B:未婚&子あり、C:既婚&子なし)が語り合った。

金子恵美は「夫の不倫」に怒っていなかった?

――『許すチカラ』を読んで、どんな感想を持ちましたか?

C まず思ったのは、そもそも金子は、「夫の不倫」に怒っていないのでは? ということです。出産直後に宮崎から週刊誌に載ると聞かされた時、彼女は真っ先に「金銭問題」を恐れ、「女性問題」だと知ると安堵しているんです。宮崎から洗いざらい話を聞いてからも、「女性として裏切られたという腹立たしさ」より、「政治家としての彼の立場」に思いが向いていた、育休宣言をしておいて真逆の行動を取ったことが「同じ政治家として許せない」という思いだったと書いてある。彼女は最初から、不倫に対して特に怒っていないんですよね。

B この夫婦の場合、不倫よりパートナーにされたら困ることが山ほどあるんでしょうね。だから「不倫ぐらいなら」という気持ちになる、と。

C そうそう。彼女たちは当時、議員という立場があったので、汚職的なことをやったら逮捕されるかもしれないし、致命的。となると、もともとこの夫婦にとって、不倫はそこまで深刻な問題ではなかったのではないでしょうか。それを「私は許せました」って言われても……ねえ? 

A 不倫が「どうしても許せないこと」だったのかというと、どうやらそういうわけではなさそう。「夫の不倫が許せなくて苦しんだけれど、こうしたら許せました!」という話とは、全然違いますよね。

B 私が気になったのは、金子が育った家庭環境の話です。彼女の父親は新潟県で村長をやっていた人で、宮崎の不倫を聞いて、「政治家の女性問題なんて、昔だったらいくらでもあったよ」と言ったとか。そういう考え方の親の元で育っているから、夫の不倫にも寛容だったんじゃないのかと思ったんですよね。親から「別れろ」と言われることもないだろうし。なんか、この1行を読んで、残りのページがどうでもよくなりました(笑)。

A 一方で、後半のページでは、「男性が不倫相手の女性に『妻とは別れる』と言って口説いたことが許せない」みたいに書いてありましたよね。「妻の尊厳はしっかり守ったうえでなければルール違反だ」とか……。いや、不倫している時点でルール違反なんですけど? 奥さんの尊厳を守りながら不倫するって、どういうこと!?

C 「妻とは別れないけど、不倫相手の君とも関係を持つ!」って口説けばOKなんですかね。よくわからん(笑)。

――みなさんは、パートナーに不倫されたことってありますか?

A 私は妊娠中、元夫がキャバ嬢とLINEで親密に連絡を取り合っていることを知りました。当時はもう気が狂いそうに……いや、本当に狂ってしまって、そのキャバ嬢に電話で詰め寄ったんです。「もうすぐ子どもが生まれるのに、どういう関係なんですか!?」って。実際は営業半分、友だち感覚で連絡してたみたいだったんですが、元夫はそれから、携帯電話を会社に置いてくるようになり……ほかにもいろいろ許せないことがあって、子どもが1歳の頃に別れました。

C 携帯を会社に置いてくるって、明らかに何か隠そうとしてるじゃないですか?

A わかりやすいですよね(笑)。で、『許すチカラ』を読むと、宮崎って不倫がバレたあとのフォローがすごくうまいんですよ。記者会見を開いたり、日記に妻への愛情をつづったり、精神誠意反省しているかのように見える。これくらいしてくれたら、私も元夫を許せたのかもしれない。一方で、世間からのバッシングを受けて精神的には不安定で、金子はそんな夫を「守らなければいけない」と思ったという。

B 夫が懴悔と贖罪の日々を送っていることや、社会的制裁を受けていることがはっきりわかるのは、「許す」うえで大きいと思います。ちなみに私は妊娠前後の時期に、相手と価値観の違いなどから別れ話が出るようになり、結局別れて未婚で出産しました。安定期に入り、「無事に生まれるだろうな」とわかってきたところで、彼へのわだかまりが薄れていったので、浮気されていたとしても、多分どうでもよかったと思います。でも、それはあくまでも、自分の子どもが無事に生まれたから言えることであって、出産リスクの大きい状況だったらまた違ったかもしれません。

C 「不倫をしていた」という事実は変わらないし、やったことはしょうがない。問題は、相手が「その後どうするのか」と、自分自身の状況によって、許す・許さないが決まるんですかね。『許すチカラ』では、宮崎が不倫を反省しながら苦しんでいる様子が書かれていましたが、読む前と読んだ後で彼のイメージって変わりました?

B うーん、私はあまり変わらないかも。育休宣言当時、宮崎はいかにも“イケイケの議員”って感じでチャラそうだったけど、男性議員の育休自体はいいことだと感じていました。それが不倫騒動を起こし、「こいつ、何やってんだよ?」とは思ったけど、彼自身にはあまり興味がなかったかも(笑)。当時からずっと、「こういう人たちもいるんだな」ぐらいの印象です。

A 私も育休宣言の時は「いい人だ」と思いました。でも、読んだ後は、「うわー、やっぱりぶっ飛んだ夫婦なんだ!」と(笑)。普通の夫婦、普通の家庭の話じゃないな、と思っちゃいましたね。

――もし自分が金子の立場だったら、宮崎を許しますか?

C 私は、さっさと離婚します(笑)。読んでいて気になったのが、「許す・許さない」という判断だと、夫婦間で上下関係が発生しそうだと思ったんですよね。金子は「夫を許して幸せになれた」と言っていますけど、どうしたって“許してあげた側”の立場が上になるじゃないですか。もし自分が何かしらのミスをして、夫から「許してあげた=立場が上」だと思われていたら、すごく嫌だと感じたんですよね。夫婦なのに対等な関係じゃなくなるのは、ちょっと変だなというか。まあ一番の理由は、不倫するやつはバレてもどうせまたやると思うので、早めにサヨナラしておきたいからですが。

A 私も、基本的に不倫は許せないですね。ただ、金子たちの置かれた状況だと……「許さないとダメ」なのかもしれない、とも思うんです。宮崎が自分の妊娠中に不倫していたことは世間に知れ渡っているので、これで別れると、子どもも「お前のパパ不倫しただろ!?」とか言われちゃいそう。不倫したことを知られてしまっているからこそ、もっと深刻な状況にならないように、丸く収めたいかな。

B 子どもの存在は引っ掛かりますよね。離婚はしないで、騒動を丸く収めるための方法を考えるとか、夫に何かしら手を差し伸べるという選択肢はあり得ると思います。ただ、それが気持ちの上でも「許している」のかと聞かれると、別問題かも。「許す=離婚しない」「許さない=離婚」とは、限らないじゃないですか。

 ただ、あれだけの騒動を起こしたんだから、「この先は私の好きにさせろよ」とは思うかもしれません。離婚する・しないを決めるのは私だし、子どものことにしろ、家庭内のあらゆることもすべからく自分が主導権を握る、みたいな。そこは不安感や悔しさから、夫婦間で上下関係を作り上げてしまいそう。

C 私は子なしかつ、欲しいとも思っていないので「さっさと離婚」を選択しますけど、やっぱり子どもの存在は、かなりネックになるようですね。

B 子どもがいなかったとしても、子どもを望んでいる場合は、いろいろな計算をするじゃないですか。妊活中に夫の不倫がわかったとして、離婚して別の相手を見つけて結婚して子どもを産む……と考えると、結構な時間をロスしそう。だったらとりあえず、表面上は許したことにして、妊娠・出産をして、子どもがある程度育ってきたらまた考えよう、となる人がいてもおかしくはないと思います。

C 確かに、妊娠や出産のタイミングが関わると、自分の“気持ち”だけで動けない部分が出てきそう。結局、不倫を許す・許さない、離婚する・しないは、個人の価値観や子どもの存在など、状況によっても大きく変わるものですよね。許した人が素晴らしいわけでもなければ、許さない人の心が狭いわけでもない。「夫を許せた」は、単なる自己満足って思ったほうがよさそうですね。

――実際、金子もこの本に関連するインタビューで、「許さないことを否定するものではない。 許す人は心が広くて強い女性だと捉えられたくないし、 それを押し付けるものでもないということだけは、 ちゃんと伝えておきたい」と語っていました(10月23日配信マイナビニュース「金子恵美、夫の不倫から4年…許す決断は『間違ってなかった』 真のパートナーに」より)。

A これは金子の言う通り(笑)。彼女が許したからといって、この世の不倫された妻が全員夫を許すわけじゃないので、勘違いしてほしくないですね。

――この本を読んで、「許すチカラ」は必要だと感じましたか?

A ちょっとしたことを「許すチカラ」は、必要だと思います。でも、私は誰かにすごくムカついたり、嫌なことをされたりした時に、「絶対こいつには負けない!」と思って、「許さないチカラ」で頑張るんですよね。だから、なんでもかんでも許さなくていいと思う。

B 「許さないチカラ」が活力になることは、私もあります。個人的には、「許したい」と思っているなら、許せるように頑張ればいい。許せないし、許したいとも思っていないなら、ずっと許さずにいてもいいよね、って感覚です。そこは自分が思うようにするべきところ、というか……。

C むしろ「許したほうがいいよ」「許さないとあなたが損するよ」とか言われるほうが、私は苦痛。相手が死ぬほど後悔して、日常生活に支障が出るくらい苦しんでいるなら許してもいいかもしれないけど、他人の心の中なんて実際にはわからないし。まあ金子は、宮崎が苦しんでいることや償おうとしていることがはっきり見えたから、許す気になったんでしょうが、そういうケースばかりじゃないですし。

B 「許す・許さない」って、実は個人差がめちゃくちゃ大きいのかもしれないですね。そういう繊細な判断に対して、「許す」ことを押し付けるようなタイトルの本が出ることが、今一番許せないかも(笑)。

(後編に続く)

韓国のベストセラー作家による注目の新刊! 現代社会の不条理と闘う女性たちの「強さ」に励まされる短編小説集『彼女の名前は』

――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します。

■『彼女の名前は』(著:チョ・ナムジュ、訳:小山内園子、すんみ/筑摩書房刊)

【概要】

 韓国で社会現象を巻き起こし、130万部のヒットとなったベストセラー小説『82年生まれ、キム・ジヨン』(訳:斎藤真理子、筑摩書房刊)で知られるチョ・ナムジュによる短編集。60人余りの“普通の女性”へのインタビューを元に書かれた、日々の暮らしのなかで遭う不条理に声を上げる女性たちの28編の物語。

 

■『文豪春秋』(著:ドリヤス工場/文藝春秋刊)

【概要】

 「芥川龍之介」とノートにびっしり書き込み、芥川賞になりふりかまわず執着した太宰治、女優と中原中也と小林秀雄の三角関係、里見弴の志賀直哉への恋心、孤独と幻想を愛し押し入れにこもった江戸川乱歩——。名だたる文豪たちの知られざる人間くさいエピソードを、『有名すぎる文学作品をだいたい10ページぐらいのマンガで読む。』シリーズ(リイド社)で知られるドリヤス工場氏が描く漫画版文壇事件簿。

***********

 今年、外国語映画として史上初となる『第92回アカデミー賞』作品賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督は、授賞式のスピーチで、映画を作る際に大切にしている言葉として、賞を競い合った『アイリッシュマン』のマーティン・スコセッシ監督による「最も個人的なことは、最もクリエイティブなことだ」という寸言を挙げた。『パラサイト』と同じ韓国で生まれた短編集『彼女の名前は』(筑摩書房刊)も、まさにそうした作品の一つといえる。

 1人の女性の半生を通じて韓国社会におけるジェンダーの理不尽を描き出し、130万部を超えるベストセラーとなった『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房刊)。その著者であるチョ・ナムジュが実際に幅広い層の女性に取材し、その声を短篇小説にするという試みから誕生したのが本作だ。児童会会長に立候補した少女から、梨花女子大学総長問題やTHAAD配備など韓国で議論を呼んだ社会問題に向き合った当事者まで、職業も生き方も家族環境も異なる28名の女性の声が、小説となって収録されている。ほとんどの作品が1編10ページ未満の掌編で、どこからでも気軽に読み始めやすい。しかしその口当たりは1作1作が重く、ずっしりとしたものだ。

 先述したような韓国特有のエピソードもあるが、格差の拡大、非正規雇用者への扱い、子どもの貧困など本作で女性たちが向き合うほとんどは日本人にとっても他人事ではない。特に、セクハラやマタハラ、共働きでも介護や育児を一手に任されがちな不均衡など、「よくあること」と淡々とつづられていく理不尽は、多かれ少なかれ日本で生きるほとんどの女性にとって「私たちの物語」でもある。ただ本作は「現実ってこんなものだから」と泣き寝入りしたり、ハラスメントをうまくかわすことを「大人のスマートな振る舞い」と称したりするものではない。堂々とした主張や抵抗もあればそっと胸に秘めるひそやかな決意もあるが、どの作品にもこの社会の不合理を変えたいと願う女性の精悍な一歩が込められている。

 そんな理不尽や落胆の苦いエピソードが続く中でひときわ優しく光るのが、女性と女性の連帯と、次の世代への祈りだ。小学生の母親たちは、専業主婦も兼業主婦もグループトークで相談し合い1年中助け合う。階下に住む男性に不法侵入された女性は、警察官にすげない対応を取られる一方で、親身になってくれる大家の女性に助けられる。以前も女性部下を退社させた上司のセクハラを訴えた女性は、不当な中傷に心身を病みながら「訴えたことは今も後悔しているけど、それでも黙ってやり過ごす『2番目の人』になって次の被害者を生みたくない」と闘い続ける。第1章から3章にかけて、20代から70代へと徐々にフォーカスされる女性の年代が上がっていくが、最終章となる4章ではぐっと年齢層が下がり10代の少女が主軸となる。そんな本作の構成が、「次の世代が、より生きやすい世界を」という語り手たちの熱い願いを意識させるものとなっている。

 さざ波がいつか大きなうねりになるように、一人ひとりのつぶやきは小さく無力に思えても、未来へのたすきになると信じて繋いでいくしかない。どこに進めばいいのかわからないような暗闇を歩いているような気持ちになる時、今この瞬間も必死に生きているであろう女性たちの声をすくい上げた本作が、かすかに光る明かりのような役割を果たすだろう。

 アニメ化もされた人気漫画『文豪ストレイドッグス』(原作:朝霧カフカ、作画:春河35/KADOKAWA刊)やゲーム『文豪とアルケミスト』(DMM GAMES)など、文学史に残る作家に着想したコンテンツが幾つか出てきたことで、近年、SNS上では教科書でしかなかなか知られてこなかったような作家の存在感が増している。そんな人気作に登場するキャラクターに負けない、日本近代文学を担った文豪たちの濃い魅力あふれるエピソードを、ユーモアを添えて存分に見せてくれるコミックが『文豪春秋』(著:ドリヤス工場/文藝春秋刊)だ。

 水木しげる氏リスペクトの画風で知られるドリヤス工場氏によって、“乙女ゲームや2.5次元舞台にハマっている文藝春秋社の若手社員が、社内にふらりと出現する菊池寛の昔語りを聞く”スタイルで描かれる本作。文藝春秋社を創業した菊池寛は、人気作家であり、編集者としても「芥川賞」「直木賞」を創設した文壇の中心人物の1人だ。「菊池視線」という体で、太宰治、芥川龍之介、中原中也、中島敦、与謝野晶子、樋口一葉、吉屋信子ら、そうそうたる面々の、良い面も悪い面も含めた人間らしい人となりを示すエピソードがイメージ豊かに紡がれる。

 今でこそ「近代文学」といえば重々しく、真面目な学問としてのイメージも強いが、明治から昭和初期にかけては「小説」という表現ジャンル自体が若く、発展途上で勢いのあった時代だ。本作を通して、その担い手である作家たちも、最先端の芸術・エンターテインメントの送り手として、強い存在感を見せていたことが伝わってくる。

 妻を佐藤春夫に“譲った”谷崎潤一郎、薬物中毒に苦しんだ坂口安吾、「借金の天才」と呼ばれ、借りた金を遊興につぎ込んでいた石川啄木、なまものや埃を過剰に恐れた泉鏡花、長年夫と愛人と同居し続けた岡本かの子、虚飾と嫉妬心に苛まれた林芙美子――。比較的有名なエピソードも多いが、谷崎潤一郎の小説にも登場するある男性と、アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』などで知られる脚本家・虚淵玄との関わり、生前ほぼ無名だった中島敦が、なぜ死後に教科書に載るほどメジャーな存在となったかなど、あまり言及されていない秘話も収められている。また、永井荷風が、著作で菊池や文藝春秋社を罵倒したエピソードを取り上げつつ、「まるで文藝春秋がゴシップ雑誌の出版社であるかのような扱いだ」と菊池に憤らせるなど、メタ的な皮肉が効いた小ネタも散りばめられており、幅広い層が楽しめる1冊となっている。

 取り上げられる文豪たちのエピソードは、清廉潔白な人格ばかりとは限らない。ひどく軽率な行動を繰り返したり、取り返しのつかない過ちを犯したりもする。そんな人々から、多くの人の心に豊かな彩りを加える名作が生み出されてきたのも事実だ。何を間違い、どう失敗したかということより、何を生み出し育てたかが、良くも悪くも後世に残っていくものかもしれない。綻びのない人生が良しとされる規律正しい現代ではあるが、過ちや矛盾を抱えつつパワフルに生きた作家たちの姿に、おおらかなパワーを得られる1冊でもある。

(保田夏子)

「オヤジ社会で頑張るオバサン」を大演出! 小池百合子、ベストセラー『女帝』に見る「ホステス脱却」の技巧

 女性は正義感が強くて欲や利権に流されない!? そんな思いを有権者は抱えているのだろうか――。7月の都知事選で圧勝した小池百合子。彼女はなぜ人気があるのか、今後もその人気は続いていくのか。百合子の生い立ちから政界での立ち回りについてを追ったノンフィクション『女帝 小池百合子』(石井妙子著/文藝春秋)にハマった女性3人、A(28歳・墨田区在住)、B(39歳・豊島区在住)、C(35歳・杉並区在住)が、なぜ百合子が気になってしまうのかを分析する。

(前編:魅せられた女たちが語る、ベストセラー『女帝』座談会

ホステス路線からオバサン路線に鞍替えした?

C 百合子って政界に入ってからは、権力者に取り入ることで“上”にあげてもらってきたんだよね。新進党時代は、党首の小沢一郎のポスターを撮影する際に眉毛を整えてメイクしてあげたり、自民党時代に小泉純一郎が首相になると、小泉と結婚説が出るほど仲よくなったり。率先して権力者の“妻”みたいに振る舞うことにビックリしたよ。『女帝』で、「彼女の立場は、やくざの世界でいうところの『姐さん』や」という言葉がある。

B ホントにホステス業がうまいよね。面白いのは、初めて選挙に出た時は「私はミニスカートとハイヒールで戦う。タスキをしたり、ズボンや平べったい靴を履くようなダサイ格好はしない」「オバタリアンと一緒にされたくない」と、暗に土井たか子をバカにしてたのに、自分が60代半ばになってホステスができないと悟ると、緑のハチマキを巻いて急にオバサン側になって「もう女は聞き分けがいい、使い勝手がいい、なんて言わせない!」と言い出したところ。「居場所はここだ!」とみつけたんだろうね。セルフプロデュースの切り替え方もタイミングも絶妙!

C その場その場で自分の立ち位置を押し上げてくれる人を見極めて、身の振り方を考えてるよね。だから石原慎太郎に「大年増の厚化粧」と揶揄されたときに、おばさん側に回ったほうが得だと考えた。顔のアザのことも、46歳で子宮筋腫のために子宮摘出手術を受けたこともおばさんの同情を引くための道具で、「それでも頑張る百合子」を演出している感じがするんだよなぁ。

B 使えるものはなんでも使ってるね。アスベスト問題では、被害者がたこ焼き屋を経営していると知ると「そのお店なら知ってる」と答えて場をなごませたり(2005年)、築地の移転問題では「母親がエジプトで日本料理店を始めて母からファクスで頼まれて食材を買い出ししていた」「築地には私、大変お世話になってたんです」と言ったり(17年)、ちょっとした小話で関心を引いて、イメージアップをしようとする。

C ちゃんとした政策を説明するよりも、そういう親しみのあることを言ったほうが人の心をつかめるんだろうね。ヒョイヒョイとやってきて都知事までなったけれど、本書を読むと何も政策がないことがわかったよ。

A なんだか、心理学を勉強したほうが政治家になれそう……。

B この本を読んで、マスコミはチョロいなと思ったよ。経歴のウソも、壮大なウソのエピソードも、無計画な政策もまったく問題視されずに駆け上がってこれた。百合子も、そう思っているんじゃないかな。

A 私も、この本を読んでマスコミはよくないと思った。本当にカイロ大学を卒業しているのか誰も調べない。百合子が語る鉄板エピソードに、飛行機事故を2度も回避できたという“強運物語”があるけど、そもそもその時期に事故はなかったとか、その日にフライトはなかったとか、ちょっと調べればわかるウソ。なのに、ホラ話を続けるのは、どうせわからないだろうと、テレビ業界や視聴者をなめているからだよ。

C そうそう。16年の都知事選で、対抗馬でがんサバイバーの鳥越俊太郎のことを街頭演説で「病み上がりの人」と言って、それがテレビでも流されたのに、テレビ番組の討論会でそのことが指摘されると、「いいえ、言ってませんねえ」と言い切っちゃう。それも「どうせ視聴者は真剣に見ちゃいない」と思ってるからだろうね。

A 結局、テレビの視聴者は、小綺麗な女性が男相手に頑張っていれば、それだけで盛り上がる。百合子自身には興味がないんだよ。百合子をここまで増長させたのは、いったい誰なんだろうと考えると、つらいな……。

B 女ってどうでもいいと思われてるんだね。だから、百合子はここまで放置されてしまった。実際、私自身もそう思ってたし。百合子じゃなくてもいい。女だったら誰でもいい。ただ男がトップにいる構造は見たくない。男に幅を利かされるよりも、女性に頑張ってほしい。そう思ってた。そういった気持ちを、百合子はうまく利用してきたんだなって、ようやく気づいたよ。

A そういう気持ちで百合子に票を投じている人は多いと思う。「築地女将さん会」のメンバーも「小池さんは環境大臣もしているから、さすがだって思ってた。女性だから正義感が強くて男の人と違って欲や利権に流されないんだろうって」「女の人が嘘をつくなんて。私、思わなかった⋯⋯」と言っていたね。

C 私もそう。百合子に対して悪いイメージはなかった。政策がからっぽでも、ファッションやメイク、話術でいいイメージがあった。それともう一つ、敵を自分でつくって攻撃するのもうまい。非常事態宣言を出す出さないで安倍晋三を敵に回したとき、生き生きしてた。

B 私もあのときは「百合子、頑張ってる」と思ったもん。

C 結局、女がトップに就いたとしても後ろで操っているのは男。政治の世界で女性はイメージアップの材料で、女性大臣を立てるのも男の言うことを聞くからなんだね。本書でそれがわかってしまって、本当に虚しいよ。

B 昔より女の政治家は人数こそ増えたけど、「女ならイメージがいい」という理由でポジションが与えられてるだけだったね。任されていることも、男がやりにくい仕事を“特攻部隊”としてやらせてるだけ。使い捨てできるコマ。そう考えると暗澹たる気持ちになるよね。

A 百合子がまた今後4年間も東京都のトップだよ。しかもぶっちぎりで再選。『女帝』は百合子になんのダメージも与えなかったってこと? 書店で売り切れが続いていたけど、実際に読んでる人は多くなかったのかもしれないね。

C でも、それまで卒業証書をはっきりと見せてこなかった百合子が、都知事選ギリギリ前の6月15日に、卒業証書と卒業証明書の原本を公開したから、ちょっと弱ってるのかと思った。以前の百合子なら、会見で疑惑を問いただされても、「なぜ今さら見せなきゃいけないんですか」とつっぱねてたはず。今回はヤバいと思ったのかな? 世間が「イメージに踊らされるのはもうやめよう」という空気になってきているのを察したのかもしれないね。

B 16年の公約「7つのゼロ」をほとんど果たしていないことが、世間にバレてると察したのかも。さすがの百合子も、弱ってきた?

A 百合子は絶対、東京オリンピックを開催したいから、今回の都知事選はなんとしてでも当選したかったと思うんだよね。そこで本書が出て風向きが危ういと悟り、非があることは認めて「それでも私を支持してください」と言いたかったのかも。

B オリンピックは百合子にとっちゃ、最高のステージだもんね。どんな着物やコスチュームを着て登場しようか、そればっかり考えてると思う(笑)。

C そういえば、環境大臣時代、水俣問題にもアスベスト問題にも無関心なのに「大臣の大FUROSHIKI」(06年)というイベントに参加して、オリジナル風呂敷を披露したね。レジ袋や紙袋ではなく風呂敷を使いましょう、という活動らしいけど、百合子らしい発想。自民党の女性議員は、「実効性を無視し人が手をつけてないことをやりたい、というお気持ちが強い」と百合子の性質をコメントしてた。たしかに、実効性ないよね。「東京アラート」も、「はい?」って感じだったし……。コロナ禍で生活が脅かされている人が増えてる中、お得意のパフォーマンスだけでは通用しなくなってきたと思うよ。

A もしかしたら都知事なんて本当は誰でもいいポジションだったのに、コロナやオリンピックがあって、百合子に負担がかかりすぎているのかもしれない。本来はこんなに頑張らなくても、打ち水したりコスプレしたり、キャッキャしてるだけで済んだのかもね。

B これまで百合子はお遊び担当だったけど、今は遊べる状況でないよ。世間的に、百合子を笑う余裕がないからね。

C 百合子を笑える時代はいい時代なんだね……。これから百合子は、また新たな武器を手に入れるのかな。

B 政治に興味がなかったけど、『女帝』を読んで政治の読み解き方を教えてもらえたように思う。その点は、百合子に感謝だよ!

なぜ小池百合子に人は熱狂するのか!? 魅せられた女たちが語る、ベストセラー『女帝』座談会

 新型コロナウイルスという国難のさなか、たとえ首相が変わろうとも、大きな変革が期待できそうにない日本。男性優位の政治に不信感は募るばかり。しかし、そんな中で異色の存在となっているのが小池百合子だ。7月の都知事選では次点の候補者に280万票以上の差を付けて再選を果たした。

 5月に学歴詐称疑惑に迫ったノンフィクション『女帝 小池百合子』(石井妙子著/文藝春秋)が発売されたが、そのダメージは一切なかったかのような人気ぶりだ。百合子の魅力はいったいなんなのか。『女帝』にハマった女性3人が、A(28歳・墨田区在住)、B(39歳・豊島区在住)、C(35歳・杉並区在住)が語り合う。

派手な服を着てアイドル気取りでイベントに登場

A 都知事2期目に入った百合子だけど、任期途中で国政に復帰するのではないかという説があるね。百合子はかつて「日本初の女性首相になるのでは?」と言われた人なんだよね。都知事選前、百合子のことを詳しく知らなかったので、「このまま百合子を応援していいのか」と思って『女帝』を読んだんだけど、ものすごい野心家だとわかったよ。

B すごいよね。それまで私も、百合子については「頑張ってるおばちゃん」という印象くらいしかなくて。学歴が疑われていることは知っていたけど、それは百合子を敵視している男連中が騒いでるんだろうなという認識だった。

C 2019年9月に豊洲市場で行われた「エビフェス!『海老の日』祭り in 豊洲」に行ったとき、百合子を生で見たんだけど、桜エビ色の派手なジャケットを着て、登場した瞬間に会場がワーッと沸いたことが印象に残ってるんだよね。ゲストにジャニーズのA.B.C-Zも来たんだけど、歓声の大きさは百合子も同じくらいで、本人もあれはアイドル気取りだった! 本書を読んだら、百合子は築地移転に反対する「築地女将さん会」を最初は支持すると言っておきながら、最終的には裏切った立場。よく豊洲に「イエーイ」なんてノリノリで出てこられたなと呆れるよ。

B その姿、目に浮かぶ(笑)。衆議院議員時代の15年にも「池袋ハロウィンコスプレフェス2015」のオープニング・セレモニーに「魔法使いサリー」のコスプレをして出てきて、「魔法使いユリーで~す!」とノリノリで挨拶していたんだって。YouTubeに動画も出てるんだけど、「女帝」を読んで、そういうタレントみたいな仕事が好きな人なんだな〜って。カイロ大学留学時代から、男性たちに囲まれてアイドル的存在だったらしいね。

C ぶりっ子って女だけでなく男も嫌う人がいるけど、そこをうまいこと出さずに、すり寄っていく。そういう人づきあいのうまさ、人を引き寄せる力はもともとあるんだろうなと思った。

B 同じことをやって百合子と同じ結果を残せるかといったら……できないね。私、こんなに「女」 に夢中になったのは木嶋佳苗以来なんだよ。死刑囚と比べるのも申し訳ないけど、女をフルに使って一大事を起こしたという意味では似ていると思う。

C 本書の一番の読みどころとなっている、「カイロ大学を首席で卒業」という学歴の詐称疑惑はどうだった? 「首席」については、18年6月15日の記者会見で「先生から『非常に良い成績だったよ』とアラビア語で言われたのは覚えておりますので、うれしくてそれ(主席)を(自著に)書いたということだと思います」と、勘違いだったと言い訳している。

A そんな小学生みたいな言い訳をするんだと驚いたよ(笑)。都知事が言うことじゃないでしょ。あまりにも、すぎてツッコめない。卒業については、カイロ大学側も卒業したことを公式に認めているものの、大学と癒着しているのではないかという疑惑もくすぶってはいるよね。

B 「アラビア語が堪能」というのが百合子の武器だけど、専門家に言わせたら「中1レベル」。ごく簡単な日常会話レベルとも本書に書いてあるね。これが事実だとして、美智子皇太子妃(当時)とサウジアラビアの商工大臣夫人の通訳に行ってしまう百合子、すごい。普通は怖くて行けないよね? バレたらいろんなものを失ってしまうとか、考えてないのかな。

C それよりも、そこで得られるもののほうが重要だと考えてるんだろうね。百合子は常に攻めてる!

A それで、なんとかなっちゃってるしね……。アラビア語ができると売り込んだことで、テレビの世界に飛びこみ、ほとんど実績もないのに『ワールドビジネスサテライト』(テレビ東京系)の初代メインキャスターに。そうやって、うまくいったのは、女だからだよね? 「カイロ大卒でアラビア語が話せるきれいな女」は、テレビ的に価値になるから、多少経歴が怪しくても、「このまま起用しちゃえ」ということなんだろうね。男だったらもっと徹底的に過去を調べられていたはず。

B アラビア語に加え、ミニスカートとハイヒールを武器にしてキャスターから都知事まで登り詰めたってわけだ。ミニスカートやハイヒールがウケるというのは、ほとんどの女はわかってると思う。ただ、それをやるかやらないかの違い。そして百合子は、何か手にいれるためには差し出せる。その気持ちが私にはわからないし、そこまでして成り上がりたいのはなんで? って思うんだよね。

C ミニスカートとハイヒールで何かを得ても虚しくなるような気がするけど、百合子は全然ならない。環境大臣時代には「クールビズ」を打ち出したり(05年)、自民党の応援歌を作詞してあべ静江に歌わせてCDを作ったり(10年)、「東京アラート」や「密です」といったキャッチーな言葉を作ったり、時流を読んでうまく乗っているところがすごいよね。やってることが、広告代理店っぽいな。ただ、上手なのはイメージ作りだけで、よくよく考えると何しているのかよくわからない(笑)。

B 「政治こそマーケティングであります」と、16年の都知事選のときに訴えていたらしいね。百合子、マーケティング大好きそうだもん。ただ、こないだの都知事選のキャッチコピーは「東京大改革2.0」。「2.0」って、確かにはやってたけど、いまさら!? 「ちょっと百合子、鈍ってきてるんじゃない?」とガックリきたよ。

B そうやって成り上がってきた百合子だけど、本書では「右頬の赤いアザ」がコンプレックスになっていたと何度も書かれているね。私、これはこじつけ感があるように思う。本人は、そんなにネガティブにとらえていたのかな? 著者の思い込みが強いように感じた。

C 中高生時代の写真については「眉よりも細い、小さな眼」と表現していたのに、カイロ大留学時代にルームシェアをしていた「早川さん」が後に百合子の著書の表紙を見たときは「目頭から、くっきりと線の入った大きな二重瞼、粒の揃った白い歯」「早川さんが知る小池百合子とは、あまりにも顔が違って見えた。著者紹介欄を読むと、やはり自分の知る『小池百合子』のようだった」と書かれていて、暗に整形を指摘してたよね。容姿にコンプレックスがあったようにしたいんだろうけど、私もそんなわかりやすい動機で今の百合子が作られたわけではないと思う。

B 母親が「アザがあるから良縁には恵まれない」「手に職を持って自立するように」と強く言っていたというから、自分でも「そんなにヤバいのかな」と思い始めた可能性はあるね。周辺から言われ続けると、呪縛になっちゃうからね。貧乏な庶民なのに、お嬢さん学校の甲南女子中高に入学させられたのは、気の毒だったな。百合子に同情しちゃった。

C 上流階級の生活を知らなかったら憧れることもないのに、学校で本物のお嬢様と机を並べているから野心が爆発したのかな? 本書に登場する甲南の元同級生はみんな「ラージはとにかく英語がペラペラ」「ラージは気遣いの人」と、当時の愛称・ラージで好意的なコメントをしてたのが印象的で。中高時代にすでに英語がペラペラなんて、相当勉強を頑張ったんだろうね。そんな努力家なのに、なぜカイロでは勉強しなかったんだろう?

全員 確かに(笑)!

B オジサンみたいなヒドいことを言うけど、カイロで男を知ったとか……?

C 男と遊びまくったことで、「努力するより女を使ったほうがいい」と味をしめたのかもね。甲南時代の努力を続けていれば、何年かかろうとカイロ大学をちゃんと卒業できただろうに……。

A 百合子の名シーンの一つだと思うのが、阪神淡路大震災で家を失った被災者の女性が窮状を訴えたところ、マニキュアを塗りながら応じて「もうマニキュア、塗り終わったから帰ってくれます?」と言ったというエピソード(1996年)。人情のかけらもなくて震えた。百合子、ホントすごいよね。

全員 すごい。

B 北朝鮮拉致被害者の記者会見が終わった後、被害者家族がいる前で「私のバッグがない」「あったー、私のバッグ、拉致されたかと思った」と言ったというエピソード(02年)もすごい。こんな人がいるんだと信じられない。

全員 すごい(笑)。

B 13年には玉城デニー(当時は衆議院議員、現沖縄県知事)に対して「日本語読めるんですか」「日本語わかるんですか」というとんでもない差別的ヤジを飛ばしている。

C 19年には、東京オリンピックのマラソンについて「涼しい所でと言うなら北方領土で」と発言。散々イメージを大事にしてきた人なのに、なんでそういうことを言うのかが不思議じゃない? 戦略家だけど天然か、よほど他人の心が考えられない人なんだろうね。

B そういえば、小学5年生の時に校内の弁論大会で優勝したときのタイトルが「ウソも方便」だったんでしょ? 小5でその精神が宿ってるって、気合と年季が違う。百合子って、政治家じゃなければ素晴らしいエンターテイナーだと思う。

C 名人芸のようだよね。水俣病関西訴訟最高裁判決で、原告の水俣病患者に対して官僚が作った原稿を棒読みしたり(04年)、沖縄の基地問題については「沖縄のマスコミは理想主義で現実と乖離している」と発言したり(06年)、いろいろと「クズだな」と思うエピソードはあるんだけど、16年の都知事選で石原慎太郎を打ち負かして自民党推薦候補を大敗させたというのを見ると、グッときちゃう。かっこいい。百合子のこと、嫌いになれないんだよね。

――後編につづく(10月11日公開)

『鬼滅の刃』27の名言を哲学専門家が解説! 仕事や家族関係に響くメッセージとは?

 コミックス累計発行部数が1億冊を突破し、社会現象と言ってもいいほどの大ブームを巻き起こしている大人気漫画『鬼滅の刃』(集英社)。漫画やアニメは見ていなくても、「名前は知っている」という方も多いのではないだろうか。かくいう私は、連載当初から『鬼滅の刃』目当てに「週刊少年ジャンプ」(同)を購入して愛読していた大ファンである。

 『鬼滅の刃』は、大正時代を舞台に、炭を売って慎ましく暮らしていた主人公の炭治郎が、一家を「鬼」に惨殺され、唯一生き残った妹・禰豆子(※)は鬼にされてしまうという悲劇から始まる。その後、炭治郎は妹を元の姿に戻すため、そして鬼を滅ぼすために鬼殺隊(鬼狩り)という厳しい道へと進んでいく。
※禰豆子の「禰」は「ネ+爾」が正しい表記

 シリアスな設定ではあるものの、節々にコメディシーンも描かれており、“笑って泣ける漫画”に仕上がっているのも人気のポイント。しかし、何より特筆すべきは、個性豊かなキャラクターたちのセリフだ。『鬼滅の刃』は、現代の人々の胸を打つ名言が非常に多いのである。

 そんな『鬼滅の刃』の「名言」に着目した本がある。「『鬼滅の刃』に学ぶ絶望から立ち上がるための27の言葉」(笠倉出版社)は、哲学の専門家である合田周平氏と、人生の歩み方に迷うライター・堀田孝之氏が、『鬼滅の刃』の名言を素材に、2人の対話形式で、その名言に秘められた哲学的メッセージに迫っている。

 本書は「仕事や勉強から『逃げない』ための言葉」「家族や仲間と『絆を築く』ための言葉」「失敗や挫折から『立ち上がる』ための言葉」など、セッション1~5までに分けられており、27つの名言が取り上げられている。その中から、いくつかご紹介しよう。

<SESSION1 仕事や勉強から「逃げない」ための言葉>
「頑張れ炭治郎頑張れ!! 俺は今までよくやってきた!! 俺はできる奴だ!! そして今日も!! これからも!! 折れていても!! 俺が挫けることは絶対に無い!!」
(3巻24話 竈門炭治郎)

 脚とあばらの骨を折りながら鬼と戦っていた炭治郎が、心まで折れそうなとき、自分を鼓舞するために放ったこの言葉。一見ただの強がりのようにも聞こえるが、合田氏いわく、「心を前向きにするのに、『自分で自分をほめる』ことが有効なのは脳科学の世界でも解明されている」のだという。さらに重要なポイントは、「自分に向けて大声で叫んでいる」ということ。実際に声に出すと、自己の聴覚が刺激されるため、より強く言葉が心に焼きつけられるのだという。

 人間は、自ら考えたことや発した言葉に、知らず知らずのうちに無条件に同化してしまう性質があるらしく、炭治郎は言葉が持つ暗示力を利用して己を奮い立たせ、結果的に勝利をおさめることができた。炭治郎のように、追い込まれて心が折れそうなとき、声に出して自分を褒めてみるのもいいかもしれない。

<SESSION3 失敗や挫折から「立ち上がる」ための言葉>
「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」
(1巻1話 冨岡義勇)

 鬼になった禰豆子を狩ろうとする鬼殺隊に対し、土下座して命乞いをする炭治郎に鬼狩りの剣士・義勇が放った言葉。第1話ということもあり、印象に残っている人も多いかもしれない。義勇は続けて、「鬼共がお前の意志や願いを尊重してくれると思うなよ」 「当然俺もお前を尊重しない それが現実だ」と厳しい言葉をかけるが、合田氏は「とはいえ、現実世界で、自分を傷つけるような人や、話の通じない、まさに『鬼』のような人と対峙したとき、やみくもに闘う必要はない」と説く。

 『鬼滅の刃』では、努力や諦めない心、乗り越える力などが大切であると学ぶ場面が多いが、だからといって、「逃げたらダメ」というわけではない。重要なのは、「生殺与奪の権を他人に握らせない」こと。本心から「逃げたい」と思うのであれば、その判断は正しいということも、また教えてくれているのだという。

<SESSION4 「小さな幸せ」を見つけるための言葉>
「幸せかどうかは自分で決める 大切なのは“今”なんだよ」
(11巻92話 竈門禰豆子)

 鬼と戦い気を失った炭治郎の脳裏に蘇った、過去の禰豆子の発言。貧しいことを謝る炭治郎に対して、「前を向こう」「一緒に頑張ろうよ」と兄を鼓舞した。“未来”は“今”の延長線上にある。「『今この瞬間幸せになる』という意思がなければ、未来でも幸せを感じることができない」と合田氏。確かに、何もしていないのに急に幸せが振ってくることは、ほぼない。運任せの宝くじでさえ、買わなければ当たらない。禰豆子や合田氏が言う通り、大切なのはまさに“今”なのだ、と気づかされる名言。

 哲学書や自己啓発本は世にたくさんあるが、ここまで読みやすいものは珍しいだろう。『鬼滅の刃』ファンなら新たな魅力を発見することができるだろうし、読んだことがなくても本書を読めば作品が気になってしまうはず。人生がうまくいかない、でも何をどう変えればいいかわからないという人は、まずは本書を読んで心の持ち方から変えてみてはどうだろうか。
(ヨコシマリンコ)

「『鬼滅の刃』に学ぶ絶望から立ち上がるための27の言葉」(笠倉出版社)

※当記事はPRです

「偉人」と呼ばれる女性たちの“人間臭い”裏の顔を暴く! 『スゴ母列伝』『目の見えない私がヘレン・ケラーにつづる怒りと愛をこめた一方的な手紙』【サイゾーウーマンの本棚】

――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します。

 何かを成し遂げたり、優れた物を生み出したことで「偉人」と呼ばれる人々。時代を経るにつれて、成し遂げたものが大きいほどその功績が強調され、偉大な物語にそぐわない言動は排除されるようになり、次第に無味無臭の「聖人性」を帯びてくる。しかし、当時の資料を丹念に追えば、突出した才能を持つ人ほど良くも悪くも人間味にあふれていることが多い。ダイナミックな人間性を知ることで、明日への活力になるような2冊を紹介する。

■『目の見えない私がヘレン・ケラーにつづる怒りと愛をこめた一方的な手紙』(著:ジョージナ・クリーグ、訳:中山ゆかり/フィルムアート社)

【概要】

 「どうしてヘレン・ケラーのようにできないの」と、ヘレン・ケラーと比較され育った視覚障害をもつ著者。ヘレン・ケラーについてのあらゆる本、インタビュー、記事、その他の資料にあたってヘレンの実人生を研究しつくし、「奇跡の人」という偶像ではなく、一人の盲目の女性としてのヘレンの姿をよみがえらせる「創造的ノンフィクション」。

 

■『スゴ母列伝 いい母は天国に行ける、ワルい母はどこへでも行ける』(堀越英美/大和書房)

【概要】

 「いい母は天国に行ける、ワルい母はどこへでも行ける」というサブタイトル通り、完璧ではないかもしれないが、自らの人生に沿わせた育児をした母親たちを紹介する評伝集。岡本かの子、マリー・キュリー(キュリー夫人)、三島和歌子、マリア・モンテッソーリ、黒柳朝、養老静江(養老孟司の母)、山村美紗ら古今東西のパワフルな“母”エピソードが紹介される。

***********

 「奇跡の人」ヘレン・ケラーの知られざる横顔をあぶり出すのは、『目の見えない私がヘレン・ケラーにつづる怒りと愛をこめた一方的な手紙』。

「なぜ、もっとちゃんとヘレン・ケラーのようにできないの?」

「確かにあなたは目が見えませんよ。でも可哀想な小さなヘレン・ケラーは、目も見えなければ、耳も聞こえなかったのですよ」

 視覚障害を抱える著者にとってヘレンは、少女時代から常に引き合いに出され、模範にするべきと教えられてきた「悪霊」だった。そんな彼女に向けた「手紙」というスタイルで、できすぎた美しい物語のように語られがちなヘレンの人生の真実を検証していく。

 冒頭から「あなた(編註:ヘレン)を憎んで成長してきた」と綴られる本書は、対象への負の思い入れを隠さないという点で、一般のノンフィクションや伝記とは一線を画している。公式に残っているあらゆる資料を根気強く読み込み、歴史的事実を踏まえた上で、まるでその場にいたかのような物語を編んでいく「創造的ノンフィクション」であり、 “公式”の情報からその行間にあり得る可能性を活写していく、というスタイルは、ヘレンを対象にした「二次創作」とも言えるかもしれない。

 ヘレンの生涯には、詳細に綴られた伝記や資料でも埋められない“空白”が多数存在している。盗作の嫌疑をかけられた少女時代、理不尽な仕打ちに彼女は本心ではどう感じていたのか。生涯処女であったとされているが、本当に彼女は性行為を経験しなかったのか。ヘレン、サリヴァン、サリヴァンの夫・ジョンという3人で居を共にした共同生活の理由。公式に記録が残っている、年下男性との結婚申請書。ショービジネス興業に加わり、自身を見世物のように扱うことを許した背景。そして、約50年間ほぼ離れることのなかった「先生」アン・サリヴァンとの関係――。その多くはヘレンら本人たちにしかわからず、もはや「正解」があるものではない。それでも著者は、残された資料から考えうるあらゆる物語を想像し、矢継ぎ早にシチュエーションを妄想して畳み掛けるように提示していく。

 ヘレンの「聖女でない部分」をあらわにする、それはともすれば露悪的な行為にも思えるが、著者の執拗な追究で顕在化されるのは、いわゆる“健常者”が障害者に無意識に押し付けがちな聖人性でもある。ヘレンが聖人然と振る舞っていたのは、そのプレッシャーに抵抗するより、いっそ楽だったからかもしれない。彼女への手紙を通して、ヘレンが健常者に向けて無意識に押し込めていた、説明し難いふとした日々の違和感、理不尽な世界への怒りと向き合っていたことに気づいた著者は、彼女への愛憎を次第に自らの内的成熟に昇華させていく。そのさまは、著者の精神的な旅路を共にした読者にも、大きな感動をもたらしてくれるだろう。

 さらにもう一つ本作で特筆すべき点は、「見えない」著者が感受している視覚以外の感覚の圧倒的な情報量だ。香り、触覚、温度、人が動くことで生まれる空気の揺れや振動……著者の表現する世界には、視覚情報に頼りがちな私たちが受け取りそびれている要素が詰まっており、まるで知らない新鮮な世界が広がっている。何かを失ったということは、その代わりに他の何かを得ているということでもある。目が見えないことが「かわいそう」であり「不幸」である、それが事実だとしたら、“目が見える私たち”の無理解がその責任の一端を担っているのだろう。そんなことにも気づかされる一冊だ。

読めば「母親らしく」の呪縛から解き放たれる『スゴ母列伝』

 

 「聖母」という言葉が象徴するように、「母親」という役割にも必要以上に聖人性を求められがちだ。『スゴ母列伝』は、偉人や著名人の「母」という側面に焦点を当て、「聖母」「良い母親」といった言葉ではくくりきれない、知られざる破天荒な育児エピソードを綴る評伝短篇集だ。

 時に教育熱心になり過ぎたり、娘の多感な時期に不倫疑惑で激しいバッシングまで受けるなど、“完璧な母”像からは遠かったものの、生涯娘たちから愛され大切にされたマリー・キュリー(キュリー夫人)。泣きわめく幼い息子(岡本太郎)を、柱にくくりつけて仕事をした小説家・岡本かの子。「未婚の母」として周囲から向けられる冷たい視線を意に介さず子どもと共に遊びまわり、路面電車にダッシュで飛び乗って近所の子どもたちの人気者になる『長靴下のピッピ』の作者・アストリッド――。

 現代においても(当時においても)、一部の人々からは「信じられない」「母親としてありえない」と誹りを受けたであろうアクの強い子育てをしてきた彼女らのエピソードは、品行方正で、子どものために最適な環境を作る「良い母」だけが母親ではないことを示してくれる。

 著者は、「職業人として生きた女性の人生を伝える時、母・妻の部分を強調するのは、フェミニズムの観点からはよろしくない」と前置きしつつ、「妊娠・出産・育児はどんな女性であっても命がけで、多大なリソースを割く大事業である」と、母親としてにじみ出る豊かな個性をつまびらかにし、ユーモアあふれる語り口でそのあり方を肯定していく。

 育児にたった一つの正解はないと頭ではわかっていても、つい「100%正しいお母さん像」を内面化してしまい、理想の母親になれない自分を責めてしまう――そんな人にとっては、「自分は自分にしかなれない」と達観させ、からっと風穴を開けてくれる本になるだろう。
(保田夏子)