新年、新しいエンタメに出会いたい人への2冊『新しい出会いなんて期待できない~』『小説の惑星』

 ここはサイゾーウーマン編集部の一角。ライター保田と編集部員A子が、ブックレビューで取り上げる本について雑談中。いま気になるタイトルは?

◎ブックライター・保田 アラサーのライター。書評「サイジョの本棚」担当 で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。とはいっても、「女性の生き方」にまつわる本がどうしても気になるお年頃。趣味(アイドルオタク)にも本気。

◎編集部・A子 2人の子どもを持つアラフォー。出産前は本屋に足しげく通っていたのに、いまは食洗器・ロボット掃除機・電気圧力鍋を使っても本屋に行く暇がない。気になる本をネットでポチるだけの日々。読書時間が区切りやすい、短編集ばかりに手を出してしまっているのが悩み。

保田 1月は年も改まって、新しいことを始めたくなる時期ですよね。

A子 とはいっても再びコロナ感染も広がる中、できることは限られていますよね……。

保田 今月は、こんな時期でもお勧めできる「新たな世界の扉を開く」本を紹介したいと思います。まずは、対談(+エッセイ)集『新しい出会いなんて期待できないんだから、誰かの恋観てリハビリするしかない』。私は年末年始の間にこの本を読んで、新ジャンルに開眼したんです!

A子 エッセイ集『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)などで知られるコラムニストのジェーン・スーさんと、音楽ジャーナリスト高橋芳朗さんによる、ラブコメ洋画に特化した対談なんですね。

保田 私は、そもそも恋愛映画に苦手意識があったんです。恋愛が成立することがすべてのような世界観に共感できなかったり、同性同士の足の引っ張り合いの描写にイライラしちゃったりして……。その流れで恋愛要素の強いコメディーも避けていたんですが、そんなジャンル自体への根深い偏見を取り払うような勢いを持った本でした。

A子 どのジャンルにも面白い作品/面白くない作品はありますから、ジャンルごと食わず嫌いしてしまうのはもったいないですよね。

保田 そうなんです。2人のラブコメ愛あるトークによって、恋愛至上主義だけに陥らない作品、現代の価値観に沿ってアップデートされている作品や、今見ても色褪せない名作がピックアップされているので、ジャンルに詳しくない人でも、自分に合う未知の作品を見つけることができると思います。

A子 ラブコメ映画だからこそ、観客を笑わせながらも女性の日常生活に立ちはだかるジェンダーやルッキズムの構造を浮き彫りにすることもできたりするんですよね。ラブコメ初心者にとってはもちろん、この2人ならではの劇中の音楽や社会背景からの考察もあって、もともと映画好きな人でも楽しめそう。

保田 私みたいな「恋愛映画? パスパス!」というタイプにとっては、視界を広げてくれるような1冊だと思います。私はこの本をきっかけに、ルッキズムに苦しめられた女性が自分らしくいられる道を探した『キューティ・ブロンド』や、生粋のNY育ちであるアジア系女性レイチェルと、嫁姑問題で苦労したレイチェルの恋人の母の“「『仁義』ある女たちの闘い」(本書より)を描いた『クレイジー・リッチ!』を鑑賞して楽しみましたし、もっと早く出会いたかったなーと感じました。寒くて外に出たくない冬の間に、たくさんラブコメ映画を楽しみたいです!

保田 もうひとつお勧めしたい本は、新たな作家を発見したい人や、単に「新しい小説を読みたい」という人に向けた、伊坂幸太郎氏による短編集アンソロジー『小説の惑星 ノーザンブルーベリー篇/オーシャンラズベリー篇』です。

A子 伊坂さんといえば、『ゴールデンスランバー』『グラスホッパー』『重力ピエロ』など映画化された作品も数多い、押しも押されもせぬ現代日本の人気作家のひとりですね。

保田 収録された作品には、絲山明子さん(「恋愛雑用論」)や宮部みゆきさん(「サボテンの花」)、町田康さん(「工夫の減さん」)ら現代の日本文学を引っ張る作家から、中島敦(「悟浄歎異」)や井伏鱒二(「休憩時間」)、芥川龍之介(「杜子春」)など教科書に掲載されているような作家まで、古今の名作がそろっています。

A子 今回念頭に置かれたのは読書家ではなく、どちらかというと、あまり好きな小説が見つけられない人に向けた作品集ということで、読後感の良い作品を多めに扱っているという点も魅力的ですね。

保田 伊坂氏が「『小説を見限るのはこれを読んでからにして!』と渡したい、そう思える本」とまで言い切る作品群だけあって、人間の抱えるおかしみをさりげなく伝える作品や展開に引き込まれるミステリーなど、どれも短い中にギュッと濃い世界観が詰まっています。アンソロジーって、長編ではなかなか手に取りにくい未知の作家の作品に触れられるのも魅力だと思っているので、ぜひ2022年に、新たな“推し作家”を見つけてほしいです!

『新しい出会いなんて期待できないんだから、誰かの恋観てリハビリするしかない』(ジェーン・スー、高橋芳朗、ポプラ社)

 ラブコメ映画を愛する人気コラムニストのジェーン・スーと、音楽ジャーナリスト高橋芳朗が34本を語り尽くす対談+エッセイ集。「気恥ずかしいまでのまっすぐなメッセージがある」「それをコミカルかつロマンティックに伝える術を持つ」「適度なご都合主義に沿って物語が進む」「『明日も頑張ろう』と思える前向きな気持ちになる」という「ラブコメ映画4つの条件」を掲げ、「正解のない人生」を突き進む女を賛美するラブコメティ作品について徹底対談。ラブコメ映画カタログも収録。

『小説の惑星 ノーザンブルーベリー篇/オーシャンラズベリー篇』(伊坂幸太郎編、筑摩書房)

 小説以外に漫画や映画、アニメ、舞台、あまたのエンタメ作品はある――。そんな人にこそ届けたい、作家・伊坂幸太郎が選んだ「究極の小説選集」。編者による書き下ろしまえがき、各作品へのコメント付き。

シスターフッドに支えられながら道を切り開いた女性を描く、『らんたん』『マリメッコの救世主』

 ここはサイゾーウーマン編集部の一角。ライター保田と編集部員A子が、ブックレビューで取り上げる本について雑談中。いま気になるタイトルは?

◎ブックライター・保田 アラサーのライター。書評「サイジョの本棚」担当で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。とはいっても、「女性の生き方」にまつわる本がどうしても気になるお年頃。趣味(アイドルオタク)にも本気。

◎編集部・A子 2人の子どもを持つアラフォー。出産前は本屋に足しげく通っていたのに、いまは食洗器・ロボット掃除機・電気圧力鍋を使っても本屋に行く暇がない。気になる本をネットでポチるだけの日々。読書時間が区切りやすい、短編集ばかりに手を出してしまっているのが悩み。

A子 早いものでもう12月ですね。2021年は、この「サイジョの本棚」で何度か取り上げた、作家・瀬戸内寂聴さんが死去されましたね……。

保田 寂聴さんは幅広いジャンルの作品を残しましたが、「サイジョの本棚」では岡本かの子や河野多惠子、大庭みな子ら近現代を生きた女性の生涯を、エッセイと評伝の間のような手法で描き出した作品群を特に取り上げてきました。

というわけで今回は、近現代を生きた人々に焦点を当てた魅力的な書籍を紹介したいです。

A子 まず、『らんたん』(柚木麻子・著、小学館)ですね。

保田 恵泉女学園の創設者・河井道を主軸に、明治から戦後にかけて活躍した女性たちを描いた長編小説です。大まかな流れは史実ですが、細かなエピソードは脚色・創作され、起伏に富むエンターテインメント性の高い作品になっています。

A子 津田梅子や新渡戸稲造、朝ドラでもモデルになった村岡花子や広岡浅子ら、当時の著名人が自然に絡む絶妙なキャラクター造形が、ウェブ連載段階から話題になっていました。

保田 彼女ら彼らについてまったく知らない状態で読んだとしても、パワフルで人を巻き込むことが上手な主人公にぐいぐい引っ張られるように一気に楽しめます。主人公はもちろん、津田と大山捨松、村岡と柳原白蓮ら女性同士の親密なエピソードを意識的に盛り込んでいるように思いました。特に私が現代性を感じたのは、主軸となる河井道の恋愛が“描かれない”ところです。

A子 小説に限らず、実在の人物をモデルにしたエンタメは数多くありますが、女性となると、実際に成し遂げた業績より“恋愛が見せ場”であったりすることも多い。もちろん、そういう作品にも名作はありますが……。

保田 実際に河井道は“同志”である一色ゆり、およびその夫と生涯同居していて、恋愛らしいエピソードは見られないようです。けれども男女問わず、多くの人々と、一口には言えないような濃い人間関係をたくさん紡いでいて、物語を深く豊かに彩っています。

A子 「女性=恋愛への憧れ」という意識もまだ強いですが、恋愛に溺れた男性もいれば、特に必要としない女性もいますからね。

保田 そして、同時に、日本の女性教育史を追える作品でもあります。私たちが受けた教育は彼女らの尽力あってこそで、次の世代へ大事につなげるべきものであることに気づかされました。

保田 次に紹介する本は『マリメッコの救世主 キルスティ・パーッカネンの物語』(ウッラーマイヤ・パーヴィライネン著、セルボ貴子・訳、祥伝社)です。今では日本でも人気の高いフィンランドのブランド「マリメッコ」を、世界的な人気ブランドに押し上げた女性経営者キルスティ・パーッカネンの生涯を取材した評伝です。

A子 マリメッコといえば北欧の伝統的ブランドというイメージがありますが、キルスティが関わる前は倒産目前だったことは知りませんでした。彼女がマリメッコを私財で買い取り、経営に携わったのは60代からなんですね。

保田 その前には、女性だけの広告代理店を立ち上げています。1960年代当時はフィンランドでも、女性が企画した仕事を顧客には「男性の仕事」と伝えなければ断られてしまうような時代だったとキルスティは語っています。

A子 そんな中で女性だけの会社を成功させ、世間の大きな注目を集めたキルスティは、当時のフィンランドにおいて、女性に対する意識を変えた一人なのかもしれません。

保田 少女・青年期にメディアを通して彼女を知り、勇気づけられた人々の話も盛り込まれています。次の世代に大きな影響を与えたキルスティも、本作を通読すると、言うことが矛盾していたり、今となっては肯定しにくい面もそのまま描かれていたりします。けれども、欠点はあっても誰よりも情熱を持って、人生を懸けて仕事を愛した彼女が台風の目となり、周囲を惹きつけ、大きな仕事を成し得たことが伝わります。

A子 後世に名を残すような人々だからといって、パーフェクトな人間ではない場合がほとんどですよね。

保田 男女限らず、無傷であることが重視される昨今ですが、欠点もなく一生間違いも犯さない人なんていない。それでも、やはり最終的には、人はどれだけ間違ったかではなく、何を創り上げ、愛し、育てたかが残り、それが周囲の人や後世に希望をつないでくれるのだと思いました。
(保田夏子)

『らんたん』

 日本における女子学校教育の黎明期に、自身の理想を追求した河井道。日本の女子教育に情熱を燃やし、恵泉女学園を創立した彼女の生涯を中心に、明治から戦後にかけて生きた女性たちを明るく描く。彼女を支えるゆりとのシスターフッドや、津田梅子、平塚らいてう、伊藤博文、野口英世、伊藤野枝、山川菊栄、白洲次郎といった当時さまざまな分野で活躍した人々との交流、波乱に満ちた生涯を描く大河小説。

『マリメッコの救世主』

 1960年代、フィンランドでは女性一人でレストランに入ることが物議を醸した時代に、前代未聞ともいえる女性だけの広告代理店を立ち上げたキルスティ・パーッカネン。60代で私財を投じてマリメッコを買い取り、レトロ柄を復刻させて世界的ブランドに押し上げた名経営者の半生を描いたノンフィクション。

話題のエッセー『常識のない喫茶店』と、『スカートのアンソロジー』に通底するハラスメントにNOを突き付けるための姿勢

 ここはサイゾーウーマン編集部の一角。ライター・保田と編集部員A子が、ブックレビューで取り上げる本について雑談中。いま気になるタイトルは……?

◎ブックライター・保田 アラサーのライター。書評「サイジョの本棚」担当 で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。とはいっても、「女性の生き方」にまつわる本がどうしても気になるお年頃。趣味(アイドルオタク)にも本気。

◎編集部・A子 2人の子どもを持つアラフォー。出産前は本屋に足しげく通っていたのに、いまは食洗器・ロボット掃除機・電気圧力鍋を使っても本屋に行く暇がない。気になる本をネットでポチるだけの日々。読書時間が区切りやすい、短編集ばかりに手を出してしまっているのが悩み。

エッセーという気軽に読める形式ながらも芯が通った作品

保田 少し前の話になるんですが、8月に純烈・酒井一圭が『百獣戦隊ガオレンジャー』関連イベントで、女性の役である「ガオホワイト」のお尻を触り共演者にたしなめられて笑いが起きた動画をTwitterに投稿した件ってご存じですか?

A子 サイゾーウーマンでも記事になりました。ツイートには「ガオホワイトの尻」というハッシュタグが付けられるなど、おそらく「ジョークだから問題ない」と判断した投稿だったと思われますが、「セクハラは笑って消費できるもの」という認識自体が問題なんですよね。いつの間にか投稿は削除されていますが……。

保田 ガオホワイトの演者の心中はわかりませんが、仕事上、明らかに「嫌だ」と言いにくい環境でのセクハラを経験している人も多いなか、いまだに「笑えるネタ」として扱われることにあきれたり、トラウマを呼び起こされた人も大勢いるんじゃないでしょうか。そんな人に読んでほしい本が『常識のない喫茶店』(僕のマリ・著、柏書房)です。

A子 ウェブで連載されていた時から、「失礼なお客さんとはケンカしてもいい」「スタッフの判断で、客を出禁にしてもいい」という喫茶店のルールが話題になっていた作品ですね。

保田 著者が勤めているのは「働いている人が嫌な気持ちになる人はお客様ではない」という理念を持つ喫茶店。基本的には個性の強い店長や同僚、同じくらいアクの強い客の観察記であり、著者の濃い“喫茶店愛”が味わえるエッセーです。でも、店員をしつこく誘う男性などセクハラや非常識な行為をやめない客にはその場で「もう来ないでください」と言える環境、出禁にクレームを入れられても守ってくれる店長……率直に「うらやましいな」と思ってしまいました。

A子 9月下旬には、元「バイトAKB」のラーメン店経営者・梅澤愛優香さんが、セクハラ被害などを理由にラーメン評論家の“出禁”を表明したところ、その出禁対象者とおぼしき男性がブログでセクハラをほぼ認めたうえで「梅澤さんの件は、まだまだ良い方ですよ」とちゃかした件もありました(後に当該文言は削除)。嫌がらせを受けても、若い女性は特に、周囲がその深刻度を理解しようとしないケースがあるんですよね。

保田 もともと大企業に勤め、セクハラや理不尽なクレーム対応が重なって心身のバランスを崩した著者の過去もつづられていて、「『違う』と思うことに自分を曲げ続けていると、気づかないうちに尊厳を失う」「自分を殺しながら働くことが社会ならば、そんなところで息をしていたくない」という言葉が説得力を持って響きました。エッセーという気軽に読める形式ながらも芯が通った作品ですので、なにか社会の不条理にモヤモヤしている人に。

保田 もう1冊紹介したい本は『スカートのアンソロジー』(朝倉かすみ・選、光文社)です。スカートを媒介に多彩でイメージ豊かな世界をいくつも旅することができる、読書の醍醐味を満喫できる作品集でした。「老若男女問わず、着たいスカートを穿ける世界」を肯定したいという祈りが込められているような作品が多いです。

A子 “スカートが性犯罪に文字通り牙をむくようになった世界”を書いた「スカート・デンタータ」(藤野可織・著)も気になるし、スカートを“男性しかはけない特権的な衣服”とする架空の民族記録を書いた「スカートを穿いた男たち」(佐藤亜紀・著)もジェンダーを再構築する世界観で面白そうです。

保田 どれも良作ですが、ここでは『常識のない喫茶店』で描かれた「嫌なものを嫌と言える人の強さ」を真裏から見せるような「半身」(吉川トリコ・著)を紹介したいです。

A子 幼少期、短いスカートで下着を見せて踊るCMに出演していた女性・きよみが、一児の母として生きる姿を描いた短編ですね。

保田 幼少期から仕事を始めているので彼女も被害者ですが、きよみは嫌な仕事に嫌と言えずに育った女性なんですね。自分の感情を無視して生きてきたから、周囲の人の感情を推し量ることも苦手で、ママ友や夫から距離を置かれるような言動を頻繁に繰り返してしまう。娘も愛しているけど、どこかで自分の好きにしていいと思っているんです。

A子 自分が母親からそう扱われていたから……現実でも起こり得る、悲しい連鎖ですね。

保田 けれども娘を育てることで、理不尽な環境に置かれていた自身の幼少期に向き合い、何が正しいかはまったくわからないまま、娘は自分と違う道を進んでほしいともがいてもいるんです。終盤、不穏ながらもきよみに「嫌」と言えるかもしれない娘の姿に、希望を映し出す構成が巧みでした。多様な価値観が併存する現代の困難を見据えつつ、もがきながら1ミリでも前へ進むことの美しさが繊細に描かれています。
(保田夏子)

『常識のない喫茶店』

嫌いな客には「いらっしゃいませ」も言わない、タメ口で注文されても無視――世間のルールは通用しない、異色の喫茶店で繰り広げられる日々のエピソードと、スタッフや素敵な客との関わりをつづるお仕事エッセー。

『スカートのアンソロジー』

 朝倉かすみ選出による短編アンソロジー。著者には、朝倉かすみ、北大路公子、佐藤亜紀、佐原ひかり、高山羽根子、津原泰水、中島京子、藤野可織、吉川トリコが名を連ねている。圧倒的に女性が着用することの多い「スカート」をテーマに置くことで、日常生活の傍らにあるジェンダーやフェミニズムに光を当てる作品も多い。

女性の幸せは「不当」なの?/愛情は素晴らしいが、すがって生きるものではない/差別心は「親しみ」の裏返し【サイ女の本棚】

 ここはサイゾーウーマン編集部の一角。ライター保田と編集部員A子が、ブックレビューで取り上げる本について雑談中。いま気になるタイトルは?

◎ブックライター・保田 アラサーのライター。書評「サイジョの本棚」担当。一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。とはいっても、「女性の生き方」にまつわる本がどうしても気になるお年頃。趣味(アイドルオタク)にも本気。

◎編集部・A子 2人の子どもを持つアラフォー。出産前は本屋に足しげく通っていたのに、いまは食洗器・ロボット掃除機・電気圧力鍋を使っても本屋に行く暇がない。気になる本をネットでポチるだけの日々。読書時間が区切りやすい、短編集ばかりに手を出してしまっているのが悩み。

女が連帯し、“不当に”幸せになる『わたしたちに手を出すな』

ライター保田(以下、保田) 私がまずオススメしたいのは小説『わたしたちに手を出すな』です。8月の小田急線刺傷事件に静かに傷つく女性が多いなか、ちょっと無茶な展開でも女性が幸せになる作品を紹介したいなと。

編集A子(以下、A子) 8月6日に起きた、東京・小田急線の車内で男性が乗客を切りつけ、10人が重軽傷を負った事件ですね。「幸せそうな女性を見ると殺してやりたい」「男にチヤホヤされてそうな女性を殺してやりたい」といった供述も注目されました。

保田 容疑者の発言や、その後のネットの反響の一部には、容疑者に共鳴するかのように、「女性は楽をして幸せを得ている」「不当に得たものだから奪われてもいい」という認識が透けて見えるものもあり、こんなにも見える景色が違う場所から言葉を探らなければならないのかという絶望を感じました。『わたしたちに手を出すな』は、現実に起こりえないような展開もある“THEエンタメ”な作品ですが、「女性の幸せは不当である」という世界観に、はっきりと「NO」を突きつけている作品でもあると思います。

A子 あらすじを読みましたが、「夫を亡くした女性リナが、近所の男性に力ずくで性交渉を迫られ、とっさに灰皿で殴ってしまう。『殺してしまった』と思い込み、娘の元に駆け込むが……」って、初めから嫌な予感がしますね……。

保田 その序盤からは想像できないほど、雪だるま式に話が大きくなっていくんです。60歳のリナと孫娘のルシア、ルシアの隣人でリナと同世代の元ポルノ女優ウルフスタインが行きがかり上団結し、マフィアの殺し屋ら男たちから逃げることになる、クライム・ロードムービーのような作品です。

A子 序盤のあらすじや、女性を軸にしたロードムービーという要素が、名作『テルマ&ルイーズ』(1991年)を想起させますね。

保田 『テルマ&ルイーズ』のラストを知っている方なら、私が今こそこの小説を薦めたくなった理由がより伝わるかもしれません。そこかしこに散りばめられた女同士の友情も本作の特徴ですが、もうひとつ、他人からの愛情・関心によって救われようとする登場人物が、ことごとくその期待を裏切られる点も印象的です。リナに迫った男、娘の愛情に期待したリナ、会ったこともない実父へ思いを募らせるルシア……「恋人や家族の愛情は素晴らしいが、すがって生きるものではない」というメッセージが、形を変えて何度も提示されています。

A子 展開を楽しみつつ、精神的な自立を後押しする話でもあるんですね。

保田 原題「A Friends is a Gift you Give Yourself」が示す通り、友情を大事にしつつ、誰かに依存せず生きるウルフスタインたちが痛快で、「実際こうはいかないよ」とは思いつつ、一息で読める1冊です!

保田 小説は直接社会を救うことはできませんが、他者に少しでも何かを伝えたい時に必要になる想像力を養うためにも、必要なものだと思います。というわけで、今回はもう1冊も、小説『短くて恐ろしいフィルの時代』をおススメしたいです。日本では2011年に出版され、8月に文庫版が発売されました。

A子 17年ごろ、本作訳者である岸本佐知子氏がSNSで紹介したことで、話題になった覚えがあります。

保田 国民が1人しか入れないほど小さい「内ホーナー国」と、巨大な「外ホーナー国」を中心に、牧歌的な雰囲気が漂うおとぎ話のような文体でつづられる小説です。登場人物の体は植物や機械などからできていて、造形が独特なので、読者が頭の中で想像する形も色彩も、一人ひとりかなり異なると思います。

A子 同じ作品を読んでも、それぞれ全く違うビジュアルを想像して楽しめるのは読書の醍醐味ですね。その概要を聞くと、かわいらしい話にも聞こえます。

保田 朴訥とした雰囲気のまま、外ホーナー国から内ホーナー国への弾圧が始まり、独裁者フィルを中心に過激化し、独裁国家となる一部始終が描かれます。詩的な世界観の下で、異質な他者は弾圧してよいと結論付ける人々の滑稽さを風刺するというミスマッチさが、この本の魅力を深めています。他人を見下す差別心の萌芽は、「自分に似ている人を親しく思う」という、誰でも持っている自然な心理の裏返しであることが明確に指摘されていてぞっとしました。

A子 抽象化されているからこそ、国を超えて響く強度のある作品になっているんですね。独裁者を歓迎する心理や差別心も、人ごとではなく自身含めて誰の心の内にあるもの――と、言うのは簡単ですが、実際自覚するのは難しい……。

保田 最終的には「創造主」が世界をリセットしてしまうので、『短くて恐ろしい~』で済みますが、国内を見ても世界を見ても、現実では『“短くはない”恐ろしいフィルの時代』が生まれる素地はどこにでもありうると感じます。
(保田夏子)

 マフィアのボスだった夫を亡くし、静かに生きていた老女リナ。言い寄ってきた近所の男性老人を「殺してしまった」と思い込み、娘の元に駆け込んだが冷たく追い返され、途方に暮れていたところを見かねた隣の家の同年代女性・ウルフスタインが手を差し伸べる……。「老女×老女×少女」による逃避行サスペンス。2019年の「アマゾン・ベスト・ブック」に選ばれ、フランスでも「Transfuge」誌の「最優秀翻訳スリラー賞」を受賞。

 『リンカーンとさまよえる霊魂たち』でブッカー賞を受賞したジョージ・ソーンダーズが生みだした、「大量虐殺」を主題にしたおとぎ話。国民が一度に一人しか住めない小さな国と、その国を囲む大国を巡る物語。熱狂的だが何も言っていない演説で民衆に訴える独裁者、その権力に寄生し甘い汁を吸えればよい側近たち、定型句で大衆の興味を煽るマスメディア、問題から目を逸らして団結できない小国……ユーモアと風刺をこめて、現代社会が抱える困難を炙り出す。

ドラマ『アンという名の少女』副読本にオススメ! 斎藤美奈子『挑発する少女小説』氷室冴子『いっぱしの女』

 ここはサイゾーウーマン編集部の一角。ライター保田と編集部員A子が、ブックレビューで取り上げる本について雑談中。いま気になるタイトルは?

◎ブックライター・保田 アラサーのライター。書評「サイジョの本棚」担当で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。とはいっても、「女性の生き方」にまつわる本がどうしても気になるお年頃。趣味(アイドルオタク)にも本気。

◎編集部・A子 2人の子どもを持つアラフォー。出産前は本屋に足しげく通っていたのに、いまは食洗器・ロボット掃除機・電気圧力鍋を使っても本屋に行く暇がない。気になる本をネットでポチるだけの日々。読書時間が区切りやすい、短編集ばかりに手を出してしまっているのが悩み。

社会を挑発してきた!? 少女小説の真の魅力

編集・A子 長引くコロナ禍で、定額動画配信サービスが好調みたいですよ。春の調査では、利用率が2年連続で大きく伸びているとか(※1)。保田さんは何か見ています?。

ライター・保田 私は、本と漫画とアイドルで手いっぱいなんです。でも、おすすめ作品は知りたい!

編集・A子 この1年ほどは韓国ドラマが何度目かのブームになってますよね。韓国ドラマもいいんですが、カナダ制作の『アンという名の少女』(Netflix/8月からNHKで再放送)も面白いんですよ! 原作『赤毛のアン』に大胆な解釈を加え、現代版の『アン』として再構築したと、海外ドラマファンの間でめちゃくちゃ評価されています。シーズン3で終了なんですが、ファンは継続嘆願署名150万筆を集めているんですよ。すごくないですか? こういうドラマを見ると、原作読み返したくなる!

ライター・保田 それなら、斎藤美奈子さんの『挑発する少女小説』(河出書房新社)と併せて読むことをオススメします! 『赤毛のアン』をはじめ、『若草物語』『小公女』『あしながおじさん』など世界中で読み継がれている少女向け翻訳小説を読み直し、現代の視点を加えて再解釈を試みる評論集なんです。

編集・A子 書名を聞くだけで懐かしい! でも、どの作品もなんとなく“良妻賢母”を推奨する雰囲気だったような……。

ライター・保田 そう! 現代の視点で見れば保守的な面もあるんです。ただ、著者が「世界中の女性を100年もの間魅了する物語が『女はおとなしく家にひっこんでな』式の後進的かつ差別的な物語であるはずがない」と言う通り、これらの名作は共通して少女に「自分で考える」「世界は広い」「『オンナコドモ』と見下す人とは戦え」と、旧来のジェンダー観から逸脱して生きる少女像を伝えています。

編集・A子 社会を「挑発する少女小説」なんですね。確かに、アンも『若草物語』きってのおてんばジョーも、黙って大人に従うような少女ではなかったはず!

ライター・保田 だからこそ時代や国を超えて、少女を惹きつけ、勇気づける力があるんですよ。斎藤氏による、作品の時代背景、社会情勢を含んだ丁寧な解説で、ジェンダー史の一端をつかむこともできます。

編集・A子 なるほど~。子どもの頃には気づかなかった、新たな発見とともに読むことができそう。

ライター・保田 子どもの頃読んでいた本といえば、私はコバルト文庫を中心に活躍されていた、氷室冴子さんが好きなんです。ちょうど7月に、氷室さんのエッセイ『いっぱしの女』(筑摩書房)が復刊したんですよ!

編集・A子 氷室さんといえば、漫画化された『なんて素敵にジャパネスク』(山内直実、白泉社)やジブリ作品『海がきこえる』の原作者でもありますね。氷室さんが男性記者から「ああいう小説は処女でなきゃ書けないんでしょ」と非常識な取材を受けたエピソードが、ネットでも話題になっていました。

ライター・保田 その話を筆頭に、「いったい世間では三十女にどういうイメージを持っているんだろう」と疑問を持った著者が、日常で感じたことや、当時、社会から女性に向けられていた視線への違和感を自由につづっています。

編集・A子 初版は90年代初めなんですね。日本では、やっと「セクシャルハラスメント」という言葉が使われ始めた時期ですかね。

ライター・保田 本作に通底する女性への信頼や愛情は、今でもストレートに届くと思います。特に、ファンレターに交じって時折届く、性的暴行を想起させる嫌がらせの手紙に「この写真が送られるのは、私でなくてもよかったのだという予感、(略)この写真によって衝撃をうける誰か、つまり女であれば」と、女性としての怒りと無力感を率直につづるエッセイ「それは決して『ミザリー』ではない」。これは、同様の被害を受けているであろう無数の女性、そしてその傷に鈍感でいられる男性に思いをはせていて、現代にも通じる社会構造のうみを明確に描いたものだと感じました。

編集・A子 数年前、駅などで女性だけを選んで体当たりをする「ぶつかり男」の存在が話題になりましたが、女性というだけで受ける嫌がらせや不利益は、現代でもまだ可視化されにくい。SNSが普及したことで、当時より一部の男性の悪意が顕在しやすい時代とはいえますが……。

ライター・保田 そういう意味では、現代のほうが、実感と連帯を持って彼女のメッセージを受け取る読者が多いかも。復刊の意義を感じるエッセイ集でした。

編集・A子  90年代に、30歳を超えて独身で働いた女性の記録としても価値がありそう。普段は意識しないですが、こういった強い向かい風を受け止めた世代の後ろを私たちは歩いているんですね。

ライター・保田 そうなんです。すべての女性に向けられた愛情深い文章を、いろんな人に発見してほしいです。
(保田夏子)

『赤毛のアン』『ハイジ』『長くつ下のピッピ』『ふたりのロッテ』などの名作翻訳少女小説を現代のジェンダー的な視点から読み直し、その立ち位置を見直す評論集。従来の少女小説のイメージを一変させる、共通する「戦う少女像」をあぶり出す。

 1980~90年代に少女小説作家としてベストセラーを多数送り出した氷室冴子。『なんて素敵にジャパネスク』(集英社)は初版で2巻合わせて100万部近く発行されるなど、少女から高い人気を集めた氷室が一般読者向けに書いたエッセイの30年ぶり復刊版。「いっぱし」の年齢・30歳を越えた日々を楽しみつつ、女としてただ社会に在るだけで世間から向けられる視線への違和感をまっすぐに描く。

誰も信用できない不安と、家族から受ける屈辱――認知症患者の日常を追体験できる村井理子『全員悪人』の悲しさ

――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します。

『全員悪人』(著・村井理子、CCCメディアハウス)


【概要】

 何年も疎遠だった兄の突然の死と、兄の元妻・甥と共に “後始末”に駆け回った日々をつづったエッセイ『兄の終い』(CCCメディアハウス)。同作が大きな反響を呼んだ、翻訳家・エッセイストの村井理子による小説。知らない女性が毎日自宅に上がり込み、何十年も担ってきた家事を取り上げられ、処方された覚えのない薬を飲まされ、夫はロボットになってしまった……。認知症を患った女性視点で、老いや認知症と正面から向き合った短編集。

*********

 『全員悪人』は、誰の身にも起こり得る「老いによる介護」や「認知症」を扱った連作短編集。同様のテーマを扱った小説やエッセイの多くは介護者の視点から描かれているが、本作は全編通して介護を受ける認知症患者の一人称視点でつづられる。記憶があやふやになり誰も信頼できない恐怖や、愛する家族に話を聞いてもらえず、どこかバカにされているような屈辱感――。認知症患者にとって、日常生活は本当に「全員悪人」に見えるのかもしれない、そんな患者の混乱を疑似体験できる小説だ。

「私が何度も同じことを言うだとか、何度も同じ失敗をするだとか、まるで私が認知症患者のように周りは言う。まるで責められているようだ。だから、何をするにも自信がない。何をやっても不安になる。それが怖くて仕方がない」(第二章 パパゴンは悪人――師走)

 本作の「私」は80歳。学生時代は成績優秀で卒業後は銀行に勤め、結婚後は家事育児を一手に引き受けながら華道師範として多数の生徒を抱える、アクティブな半生を送った女性だ。一人息子は結婚し、孫も生まれ、60年連れ添った夫とのどかな晩年を迎えるはずだったが、「あなた」(=義理の娘)と「ケアマネ」と呼ばれる女性が「この家を乗っ取ろうとしている」ことに気づく……。

 認知症により昔の記憶と現在がうまく接続されない主人公にとって、代わる代わる自宅を訪れ家事をしてくれる訪問介護ヘルパーは、台所を奪う「知らない女」であり、自宅の金品を盗んでいく悪人だ。週2回のデイサービスセンター通いを強制する「あなた」や「ケアマネ」も、若い女性スタッフに愛想よく接して自分には嘘をつく夫も、身に覚えのない行動について質問してくる白衣の女も、彼女の世界では“全員悪人”だ。義理の娘との掛け合いなどテンポよく時にコミカルでもあるが、記憶の飛び地に立たされて右往左往する主人公は基本的に孤独で、何もかも信用しにくい不穏な世界を生きている。

 人に対する記憶もあいまいで自信が持てないから、水道業者や「夫の友人」かもしれない男性など、よく知らない相手にはつい話を合わせてしまう。そんな違和感ばかりの日常でたまったストレスが、夫や義理の娘といった信頼できる家族の前で手ひどく暴発してしまう――という老いによる負の循環が、やるせなくもどかしい。

 夫を偽物と決めつけ暴力を振るってしまったり、事故を起こしても車の運転をやめようとしなかったり、嫁や介護士が金品を盗んだと言い張ったりする主人公は、よく聞く認知症の患者そのものだ。しかし、その背景には彼女なりの苦悩と恐怖があり、理不尽な激高は、全員悪人の世界から自身と家族を必死に守ろうとした結果でもある。外部からは理解し難い主人公の言い分を淡々とあぶり出す本作には、認知症を患った高齢者のケアの困難さが、くっきり示されている。それでも絶望だけに終わらないのは、彼/彼女らの心中を少しでも理解しようと願う、著者のタフであたたかい視線が常に感じられるからだろう。

 認知症患者に限らず他者の心は理解できるものではないが、「理解しよう」と想像力を懸命に働かせ、相手に思いをはせることで、おぼろげに見えてくるものはある。それが時に、他者とのコミュニケーションを深めたり、分断を埋める助けになってくれるものだが、今まさに介護を担い疲弊している人々に、被介護者の心中を冷静に推し量れというのは酷な要求だ。『全員悪人』はその労力を、いわば少し肩代わりし、老いや認知症による理不尽な言動を優しく受け止めざるを得ない介護者の痛みや疲れを、少しでも軽減しようと手を差し伸べる強度を持っている。

 そして超高齢化社会を突き進んでいく日本において、介護や認知症にまつわる問題は誰にとっても他人事ではない。今は関わりがなくても、家族や自分自身、地域の問題として、ほとんどの人がいずれ対峙せざるを得なくなるだろう。エンタメ作品としても読みやすい本作は、この問題について触れる第一歩としても適している。ひとりでも多くの人が認知症患者、またその介護者への理解を深めれば、おのずとそのぶん、社会の選択も変わる。高齢者やその介護を担う人々――つまりは私たちが、より生きやすい世界につながっていくはずだ。

(保田夏子)

コロナ禍の今こそ読みたい! 近現代の作家たちの“死生観”から死への「うろたえかた」を見つめ直す『正しい答えのない世界を生きるための死の文学入門』

――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します。

『正しい答えのない世界を生きるための死の文学入門』(著:内藤理恵子/日本実業出版社)


【概要】

 “アニメやゲームに育てられてきた”と述べるロストジェネレーション世代の宗教研究者・内藤理恵子氏が、聖書、夏目漱石の『こころ』、コロナ禍でベストセラーとなったカミュの『ペスト』、ドストエフスキーやカフカから、村上春樹や手塚治虫、水木しげる、映画やゲームなど、古典から現代エンタメまで縦横無尽に「死生観」にフォーカスを当てて読解した評論集。

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 新型コロナウイルスに世界中が振り回されたこの一年。誰もが人ごととは思えないレベルで日常生活が侵食され、生活の変容を余儀なくされたこの年、環境が変わったり独りの時間が増えたりしたことで、「死」や「命」について世間や身近な人との考えのズレに気づき、平常時には考えてこなかった自身の死生観と向き合った人も多いだろう。

 『正しい答えのない世界を生きるための死の文学入門』は、文学は「鬱々とした死の不安に立ち向かうための『盾』になる」と信じる著者が、普段は敬遠されがちな「死への思索」をフックに、文芸作品や哲学思想がどのように死と対峙してきたかを、ユーモアを込めて親しみやすく提示してくれる評論集だ。さらに、漫画や映画など文学以外の現代エンタメ作品に受け継がれているそれらの思想も読み解き、現代に生きる私たちと縁遠い文豪や哲学者の思想に梯子をかけてくれる、まさに「入門」の1冊となっている。

 漫画家・水木しげるが戦地で自己を保つため『ゲーテとの対話』を携えて前線に立ったエピソードに触れつつ、現代を「古典から死生観を学び直す時期にさしかかっていると思う」と見る著者は、文学に現れる死を、独自の切り口で解釈し、哲学者・宗教研究者ならではの知見を加えて現代の読者に向けて再構築してみせる。

 例えば、第2章では自死した芥川龍之介の著作から、彼がショーペンハウアーを源流とするペシミズム(厭世主義)やキリスト教からどのような影響を受けたかを読み取ると同時に、ショーペンハウアー自身は現実の厭世観を癒やすために、「筋トレ」「睡眠」「美しい人(をベースとした芸術)」を勧めていたことを読者に示す。

 第3章では、夏目漱石『こころ』と村上春樹『7番目の男』(『こころ』のオマージュ作であるともいわれる)の相違を論じつつ、一貫して自決の美学を否定し、「グズグズした生」を肯定する春樹作品の死生観の源流を探る。第8章では、半年後に人類の滅亡が決定している、というシチュエーションで展開されるSFミステリー『地上最後の刑事』(ベン・H・ウィンタース)を取り上げ、「どうせ死ぬのになぜ生きる?」という究極の命題から哲学者・ベルクソンの思想につなげつつ、読者自身の“答え”を促す。

 さらにコラムでは“悪魔(メフィスト)が語る”というスタイルで、カジュアルな語り口で論を補足する。著者自身による、少しゆるめの作品図解イラストなど、折々に挟み込まれた遊び心が「死」という深刻なテーマの箸休めとなりつつ、「死」への不安や怖れなど、いわばネガティブな感情が、芸術の発展に大きく寄与してきた側面もあぶり出していく。

 加えて本書の特筆すべきもう一つのポイントは、中盤以降は新型コロナウイルスの感染拡大下で書かれたことだろう。2020年にあらためて世界的なベストセラーとなったカミュ『ぺスト』から、現代にも通じる不条理との向き合い方を抽出し、ブッツァーティ『七階』やフーコー『監獄の誕生』から、人の生死を管理・監視するシステムが生む連帯感や分断の功罪を鮮やかに示す。コロナ禍で生まれた新たな不安に寄り添うような、まさに今読まれるにふさわしい作品が多く取り上げられている。

 本書には、わかりやすく「正しい死との向き合い方」が書かれているわけではない。タイトルにも明示されているように、それらに「正しい答えはない」のかもしれない。しかし、「死」という暗く深い穴のふちにとどまり、考え続けた人々の思索や想像の歴史から、死に対する「うろたえかた」のバリエーションを知ることはできる。それは、不安を抱えたまま進まざるを得ない人々にとって、歩みを助ける杖のように時に力強い支えになるものだ。

 現代は、魅力的なエンターテインメントにあふれ、過去の文学など手に取らなくても十分生きていける時代だ。しかし激動の時代をくぐり抜け、それでも今に残った古典名作には、個人ではコントロールできない世界的な災いや病、それらからくる死の不安を受け止め、共に生きてくれる強度を携える作品も数多ある。本書は、そんな今日に生きる人々のための作品・作家を見つけるための助けになってくれるだろう。

(保田夏子)

“飯テロ”エッセイ『きょうの肴なに食べよう?』『キッチハイク!突撃!世界の晩ごはん』、日常のなにげない「おうちごはん」が愛おしくなる

――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します。

 どの国に住んで、どんな暮らしをしていても、生きていれば欠かせない「食」。食事は世界共通の楽しみだ。外食もままならないこの時期、自宅で作るなにげない日常の食事とあらためて向き合った人も多いだろう。今回は、海の向こうの“日常の食事”を通して、読後には日々の食事がもっと愛おしくなる“飯テロ”なエッセイ3作を紹介したい。

■『きょうの肴なに食べよう?』(著:クォン・ヨソン、翻訳:丁海玉/KADOKAWA)

【概要】

 韓国の人気女性作家がつづるリアルな韓国の食エッセイ。腸詰め、ギョウザ、ノリ巻き、お粥と塩辛、水冷麺、激辛青唐辛子……。どんな食べ物にも、味の中には人と記憶が潜んでいる。韓国の人気作家が綴る韓国の食エッセイ。

韓国好きは必見の『きょうの肴なに食べよう?』

 『きょうの肴なに食べよう?』は、ソジュ(韓国焼酎)をこよなく愛する韓国人女性作家による、日々の食にまつわるエッセイ。日本でも定番的人気を誇る韓国料理だが、本作に出てくる食事は、韓国料理店に出てくるようなメニューよりもっと日常に根差したものだ。ごく普通の韓国女性が、自宅の冷蔵庫に置いてある食材で作ったり、普段着で出かけるような飲食店で食べる、飾らない食事の様子が季節を追って生き生きと綴られている。

 もともと病弱で偏食家だった著者の食生活は、大人になり酒を覚えたことで急速に発展する。今まで食べられなかったものが、「酒の肴」として愛すべき食材に変わっていったのだ。彼女にとってすべての「家ごはん」(=家で作って食べる食事)は、ソジュをおいしく飲むための酒肴だ。料理好きの著者による派手ではないが豊かな食生活や、食べ物にまつわる思い出はどれも食欲をそそられる。

 美しい大人の女性がかぶりつく、切り分けられていないノリ巻き(キムパプ)、夏場に母を思い出しながら調理する作り置きメニュー、中学生の時に友達とケンカしたまま食べたピビン冷麺とオムク麺、選挙の時だけ必ず作って食べるスルメの天ぷら――日本では聞きなれない料理や食材も頻出するが、著者が食を通して紡ぐ思い出と見知らぬ味は不可分に絡み合い、不思議と鮮やかな印象を残す。韓国料理に詳しくなくても、著者とともに食べたような感覚を覚え、知らず知らずのうちに読者自身が眠らせていた食の思い出も掘り起こしてくれるだろう。

 そんな少女時代の食卓の幸せもふんだんに語りつつ、単純に家庭食の礼賛では終わらないところも本作の魅力だ。「家ごはんの時代」の章では、幼少期に著者の味覚を育ててくれた母親が宗教に傾倒し、戒律によって肉類や香味野菜が食卓から消えた経緯が淡々と綴られる。著者が日々の食卓を再び愛せるようになったのは、20代後半に一人暮らしを始め、半地下の部屋で小さな自分の台所を持つようになってからだ。

「家ごはんは絶対おいしい。そう信じる人は幸せな人に違いないが、正しくはない」と語る彼女にとって、「家ごはん」の幸せはよくある“おふくろの味”を意味しない。そこには自分で食べるものを自身でコントロールする喜びが含まれているから、彼女のエッセイにはからっとした自由があり、国境を越えて普遍的な共感を呼ぶ。食にまつわる甘い思い出も苦い思い出もまとめて、複雑な深い味わいを楽しめる1冊だ。

【概要】

「あなたの家のごはん、食べさせてもらえませんか?」そんなお願いを世界中でくり返し、インターネットや知人を介して世界各地の一般家庭におじゃまして、見て食べて体験した、普段のおうちごはんと人々の暮らしを綴った紀行エッセイ。2017年に単行本化されたものを文庫化に当たり分冊化。エピソードを厳選し、未収録コラムも加えて再編集されている。

 『キッチハイク! 突撃! 世界の晩ごはん』シリーズは、約1年半をかけて世界120都市をめぐった著者が、各国の「ふつうの人が暮らすふつうの食卓」を訪ねて食事を共にした探訪記だ。キッチハイクとは、「旅先の見知らぬお宅を訪ねてごはんを食べる、言語や国籍、宗教の違う人たちと食卓を囲む、いわばキッチンをヒッチハイクする」行為を指す、著者による造語。『アンドレアは素手でパリージャを焼く編』には16カ国、『ソフィーはタジン鍋より圧力鍋が好き編』には15カ国を巡ったエッセイが収録されている。

 世界各地に旅行すれば、その国の名物料理を口にする機会は多いものの、意外と「家庭では何を食べているのか」については知らないことも多い。多くの日本人が普段寿司や天ぷらばかり食べているわけではないように、アメリカでは、ボリビアでは、フィリピンでは、ポルトガルでは……などなど世界各国では日々何が食べられているのか――その実際が、著者の「突撃」によって明らかになっていく。

 モロッコで「タジン鍋は盛りつけ用。だって、時間かかっちゃうもんね」と圧力鍋で調理された料理を供されたり、ブルネイでは無味無臭の水あめのようで、噛んではいけない料理「アンブヤット」に困惑したり、オーストリアの高級住宅地に身構える著者を、全身真っ黄色のスーツを着てレッドブルを持ったハイテンションな男性が出迎えたり――。

 料理も人も、前知識や見た目から連想する先入観通りの時もあれば、イメージを覆すようなケースもある。旅行が続くにつれ著者は次第に「○○人はこんな性質だ」という先入観を外していく。「現地の人と交流して、暮らしのど真ん中を知れば知るほど、『この国はこうだ! この街はどうだ!』なんて、決めつけられなくなる気がする」「先入観や偏見がすべて間違いとは言わないが、事実と異なることは山ほどある。皮肉なことに、目で見て確かめて知れば知るほど、物事をひと言で語れなくなる」という彼の知見は、いくつものエピソードを経て説得力を持って響く。

 「同じ釜の飯を食った仲間は、たとえ一期一会でも、尊く深い絆を得る」と信じる著者のエッセイは、どの頁にも食事を共にするホストへの信頼、そして人間そのものへの愛情が詰まっている。そんな著者だからこそ、時には言葉がほぼ通じない国でも初対面から友人のように迎えられ、なんとなく台所に入って共に料理を作ったり、一晩泊まってしまうほど馴染んでしまうのだろう。

 食事は栄養を補給する行為だが、同時に人間関係を親密にしてくれるコミュニケーションのひとつでもある。いち家庭に、言わば突然飛び込んだ著者と、それを懐深く受け止めた各国の人々が交わす優しさとユーモアに富んだ会話は、食事以上のあたたかさで読者を満たしてくれる。

 コロナ禍で、他人との気軽な会食や海外旅行はしばらく困難な時代になった。けれども、きっと今日も世界中のテーブルにはそれぞれの国の「普通の食事」が並べられていて、私たちの食卓も、その多様な「普通の食事」のひとつだ。本作を読んだ後なら、どんなに今日のメニューがあり合わせで適当だったとしても、何気ない食事の時間を愛おしく感じ、より楽しむことができるだろう。
(保田夏子)

トップ男優・しみけんが明かす、“AV男優トリビア”に女性も共感!? 『AV男優って稼げるの?-しみけん式本気で目指すAV男優-』に学ぶ、「かわいげ」とは?

 さて、問題です。皆さんは日本のAV業界にAV男優は何人いると思いますか? 答えはたったの70人。絶滅危惧種に指定されている「ベンガルトラ」よりも少なく、それも実際に仕事が回っているのは「30人程度」なんだとか。

 2014年8月、そんな衝撃的な内容をTwitterに投稿し、世間を驚かせたAV男優・しみけんさんが、“AV男優トリビア”をギュギュっと詰めた1冊の本を出版しました。その名も『AV男優って稼げるの?-しみけん式本気で目指すAV男優-』(笠倉出版社)。AV男優を目指す人へ向けたバイブル的な本ですが、女性の私が見ても、ハッキリ言って最高に面白かったです!

 本書では、AV男優にまつわるさまざまな疑問についてQ&A形式で解説し、長きにわたってトップ男優として活躍してきたしみけんさんならではの実践テクニックもふんだんに紹介されています。その中でまず、最初に私が「ええ!?」と声を上げてしまったのは、お金の話。AV業界にはたった70人のAV男優しかいないにもかかわらず、その半分以上が年収400万円以下だというのです。

 「人前で裸になってセックスをする」というさまざまなストレスやプレッシャーと闘わなければならない職業ながらも、収入はサラリーマンの平均以下……。しみけんさんは、「性に対する好奇心のみでAV業界に入ってきた人にしか、高みは目指せない」と断言していましたが、その言葉を見て私も思わず、ウンウンと頷いてしまいました。

 また、この本を最後まで読み進めると、「AV男優」という未知の世界を覗きながら豆知識を得られる一方で、自分がどのように社会生活を送っているかについて、ハッと考えさせられます。

 例えば、「AV男優の審査に通るためのポイントは?」という疑問に対する答え。しみけんさんいわく、男優に必要なのは、性欲の強さや1日に何回もセックスができる体力、大きいペニスではなく、意外にも「かわいげ」でした。AV業界は基本的に人間関係で成り立っているため、監督は「かわいがりたい」とか「面白そうだ」と思う人を引き入れる傾向にあるのだそう。きちんと挨拶ができる、謙虚である、向上心がある人が周囲から好印象を持たれるのは、一般社会でも同じですよね。たとえ仕事をする上でのスキルを持っていたとしても、かわいげがないと上司の印象はイマイチ、というケースも多いのではないでしょうか?

 さらに、AV業界は「初めまして」の相手とセックスをすることが多いため、第一印象も大事。相手に「生理的に無理!」と思われてしまうと、その後の絡みはまるで“地獄の時間”になってしまいますから、清潔感のある容姿が大切だとか。しみけんさんの場合、オーラルセックスの際にヒゲがこすれて痛がる女優さんを気使って医療脱毛したそう。さらに、体毛が濃いことからその後は見映えも意識して全身脱毛をしたほか、生活習慣を見直し、体臭改善にも努めたといいます。

 「雑用同然の端役」からスタートし、今ではオンリーワンの存在としてAV界を牽引する存在となったしみけんさんですが、その裏では、さまざまな仕事にチャレンジして自身の引き出しを増やす努力をしていたことも、本書の中で語られています。ニューハーフのペニスをしゃぶったり、逆アナル(女の子にペニスバンドを着けてもらう)を試したことで、女の子の気持ちがわかるようになったとか。

 常に相手が考えていることを推測し、次の行動に反映する。そして仕事場の人に「かわいがられる人間」になる。これは性別問わず、どんな職業でも通ずるであろう“愛されキャラ”になるための秘訣ではないではないでしょうか。なによりも、しみけんさんが仕事を楽しんで探求している様子は、見ていて爽やかです。

 全頁にわたりエロいことが書かれていますが、“エロ”を職業として真面目に突き詰めていくと、スターになる人は一般社会でも成功するのだろうと納得できる一冊です。後半には「微乳でもできるパイズリの方法」や「ローター責めのコツ」「スムーズな体位の変え方」など、女性でも勉強になるテクニックがたくさん紹介されています。パートナーとのコミュニケーションのコツや、社会人として好かれるノウハウが、これ一冊でわかっちゃうかもしれませんよ!

(千葉佳代)

『AV男優って稼げるの?-しみけん式本気で目指すAV男優-』(笠倉出版社)

※当記事はPRです

トップ男優・しみけんが明かす、“AV男優トリビア”に女性も共感!? 『AV男優って稼げるの?-しみけん式本気で目指すAV男優-』に学ぶ、「かわいげ」とは?

 さて、問題です。皆さんは日本のAV業界にAV男優は何人いると思いますか? 答えはたったの70人。絶滅危惧種に指定されている「ベンガルトラ」よりも少なく、それも実際に仕事が回っているのは「30人程度」なんだとか。

 2014年8月、そんな衝撃的な内容をTwitterに投稿し、世間を驚かせたAV男優・しみけんさんが、“AV男優トリビア”をギュギュっと詰めた1冊の本を出版しました。その名も『AV男優って稼げるの?-しみけん式本気で目指すAV男優-』(笠倉出版社)。AV男優を目指す人へ向けたバイブル的な本ですが、女性の私が見ても、ハッキリ言って最高に面白かったです!

 本書では、AV男優にまつわるさまざまな疑問についてQ&A形式で解説し、長きにわたってトップ男優として活躍してきたしみけんさんならではの実践テクニックもふんだんに紹介されています。その中でまず、最初に私が「ええ!?」と声を上げてしまったのは、お金の話。AV業界にはたった70人のAV男優しかいないにもかかわらず、その半分以上が年収400万円以下だというのです。

 「人前で裸になってセックスをする」というさまざまなストレスやプレッシャーと闘わなければならない職業ながらも、収入はサラリーマンの平均以下……。しみけんさんは、「性に対する好奇心のみでAV業界に入ってきた人にしか、高みは目指せない」と断言していましたが、その言葉を見て私も思わず、ウンウンと頷いてしまいました。

 また、この本を最後まで読み進めると、「AV男優」という未知の世界を覗きながら豆知識を得られる一方で、自分がどのように社会生活を送っているかについて、ハッと考えさせられます。

 例えば、「AV男優の審査に通るためのポイントは?」という疑問に対する答え。しみけんさんいわく、男優に必要なのは、性欲の強さや1日に何回もセックスができる体力、大きいペニスではなく、意外にも「かわいげ」でした。AV業界は基本的に人間関係で成り立っているため、監督は「かわいがりたい」とか「面白そうだ」と思う人を引き入れる傾向にあるのだそう。きちんと挨拶ができる、謙虚である、向上心がある人が周囲から好印象を持たれるのは、一般社会でも同じですよね。たとえ仕事をする上でのスキルを持っていたとしても、かわいげがないと上司の印象はイマイチ、というケースも多いのではないでしょうか?

 さらに、AV業界は「初めまして」の相手とセックスをすることが多いため、第一印象も大事。相手に「生理的に無理!」と思われてしまうと、その後の絡みはまるで“地獄の時間”になってしまいますから、清潔感のある容姿が大切だとか。しみけんさんの場合、オーラルセックスの際にヒゲがこすれて痛がる女優さんを気使って医療脱毛したそう。さらに、体毛が濃いことからその後は見映えも意識して全身脱毛をしたほか、生活習慣を見直し、体臭改善にも努めたといいます。

 「雑用同然の端役」からスタートし、今ではオンリーワンの存在としてAV界を牽引する存在となったしみけんさんですが、その裏では、さまざまな仕事にチャレンジして自身の引き出しを増やす努力をしていたことも、本書の中で語られています。ニューハーフのペニスをしゃぶったり、逆アナル(女の子にペニスバンドを着けてもらう)を試したことで、女の子の気持ちがわかるようになったとか。

 常に相手が考えていることを推測し、次の行動に反映する。そして仕事場の人に「かわいがられる人間」になる。これは性別問わず、どんな職業でも通ずるであろう“愛されキャラ”になるための秘訣ではないではないでしょうか。なによりも、しみけんさんが仕事を楽しんで探求している様子は、見ていて爽やかです。

 全頁にわたりエロいことが書かれていますが、“エロ”を職業として真面目に突き詰めていくと、スターになる人は一般社会でも成功するのだろうと納得できる一冊です。後半には「微乳でもできるパイズリの方法」や「ローター責めのコツ」「スムーズな体位の変え方」など、女性でも勉強になるテクニックがたくさん紹介されています。パートナーとのコミュニケーションのコツや、社会人として好かれるノウハウが、これ一冊でわかっちゃうかもしれませんよ!

(千葉佳代)

『AV男優って稼げるの?-しみけん式本気で目指すAV男優-』(笠倉出版社)

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