アパレルショップが苦手。ちょっと気になる服を手に取ったが最後、ものすごいスピードで近づいてきた店員さんに「それかわいいですよね~」「私も色違い持っているんですよ~」などと張り付いたような笑顔で話しかけられ、こちらも気を使って、あまり買う気もない洋服を褒めたり、互いの乾いた笑いが続く。あの時間が、ドッと疲れてしまう。
できれば実物を見て生地やサイズ感をじっくり確かめたいが、店員さんに話しかけられることの煩わしさを考えると、だんだんと足が遠のくようになり、最近は通販で購入することも多くなってしまった。そんな人は少なくないのではないだろうか?
女優の石田ゆり子もアパレル店員に対し、Instagramで次のように綴っていた。
「あの、わたしいつも思うんですが 用事があるときは呼びますから どうかどうか 放っておいてください…ゆっくり見たいんです 黙って見たいんです 自分と対話しながら見たいんです (中略)でも、手に取るものすべてを、それは~です それ、わたしも持ってます それは素材が~~…と それはやはりちょっと疲れてしまうんですね。つかずはなれず。距離を保つ。察する。というのはやはり必要かと思うのです。ふぅ~」(原文ママ)
この投稿はネットを中心に炎上し、現在は削除されてしまったが、石田が苦言を呈したように、アパレル業界では「過剰」ともいえる接客術がまん延している。過剰に接客されるほど購入意欲は削がれて、むしろ逆効果なのではと思えるが、この手法が一向になくならないのはなぜなのだろうか?
その背景には、ファッション業界の“旧態依然”とした販売マニュアルがいまだ継承され続けている現実があるという。
「『お客様にはできるだけ早く声を掛けましょう』と促す販売マニュアルは、百貨店などを中心にいまでも多く存在します。戦後の高度成長期などは、極端に言えば、在庫がそろっていて声を掛けさえすれば売れた時代。その成功体験を引きずって、現在のお客様の買い方の変化に対応しきれていないところが、ファッション業界には見られると思います」
こう教えてくれたのは「『売れる販売員』と『ダメ販売員』の習慣」(アスカビジネス)など、接客に関する著作を多数持つ、ビジュアルマーチャンダイジング(VMD)コンサルタントの内藤加奈子さん。内藤さんによると、ファッション業界では、「売るために積極的に声掛けを」という空気感が昔から存在しているのだという。
「ブランドの売り上げが下がると『なぜ売れないのか?』という社内会議が行われ、スタッフの販売力不足が指摘される場面があります。そこで販売マニュアルを見直せばいいのですが、やみくもに『よりお客様に声掛けを』という方針になってしまう。そのような追い詰められた状況でスタッフが話し掛けると、お客様にそのプレッシャーを伝染させるようになって、より嫌悪感を抱かせてしまうという負のスパイラルに陥ることがあります」
一方で、近年、台頭してきたファストファッションの代表格といえるユニクロやH&Mなどでは、店員から声を掛けるということは基本的にない。ネットでの買い物に慣れてしまうと、放っておいてくれる接客スタイルは非常に心地よいのだが、ブランドによってこのような接客姿勢の違いが見られるのは、なぜなのか?
「ファストファッションは、トレンドのものがメインですので、特に説明がなくてもお客様が欲しければ買う商品です。メディアで目にする機会も多く、お客様自身もすでにその商品の着方をわかっていることが多いので、提案型の接客をする必要がないのです。逆に目新しいものやデザイン性の強い洋服は、販売員が説明することで魅力も増し、売り上げにつながると考えられます」
確かにユニクロで「この服って、何に合わせればいいんだろう……」などと思い悩んだ記憶は一切ない。逆にいえば、特定のブランドや店舗、そして店員を目当てにやってくる客の中には、当然、話し掛けてほしいと思っている人も少なくないということだ。しかも、販売員が話し掛けないことで「接客態度が悪い!」とクレームを入れてくる客もいるのだというから、客と店員の適切な距離感は測りにくい。
「話し掛けられたい」客と「話し掛けられたくない」客が混在する中で、販売員はどう対応することが正解なのだろうか?
「いきなり声を掛けず、まずは離れた場所からお客様を観察することが重要です。さまざまなお客様に対応するためには、『何かお困りの時にはすぐに参りますので、ごゆっくりご覧ください』という意味合いのお声掛けをして、必要な時には目が合うようにしておく。そうすると『気がついてくれるお店』としてリピートされる可能性が高くなります」
まさに接客の基本であり、極意だ。さらにその「声掛け」の内容も重要だという。
「私は『どんな内容でお話し掛けをするか』を重要視しており、その内容としては商品の売り込みではなく『挨拶』や『会話』として成立するものを大切にしています」
ちなみに、筆者が店員に言われて一番困ってしまうのは、「これ人気ですよ」というセリフ。それだけ売れているのであれば、人とカブる率が高くなるような気がして、購買欲が薄れてしまう。
「その場合、販売員は『これ人気ですよ』ではなく、『これを選ばれるお客様は、おしゃれな方が多いんですよ』などと表現すれば角が立たないと思います」
接客で重要なのは「人と人」として関われているかどうかであって、とにかく声を掛ければいいというものではない。過剰な接客で満たされるのは、店員の「仕事した感」だけなのではないだろうか。ネット通販に押されて百貨店など実店舗の売り上げが落ちているというが、こうした商売優先で旧態依然とした接客方法が、その原因の1つなのかもしれない。
(ジョージ山田/清談社)
