毎年12月、映画製作会社の重役が「映画化していない脚本」の中から優秀な脚本を選びリストアップする、「ブラックリスト」が発表される。上位に入った脚本の多くが映画化され、アカデミー賞やゴールデン・グローブ賞を獲得することも少なくないため、非常に注目されているリストだ。
昨年、その「ブラックリスト」で最も優秀な脚本だとされたのは、先日映画化が発表されたマドンナの伝記映画だった。そのマドンナは、長年映画界に強い憧れを抱いてきた。1996年に公開されたミュージカル映画『エビータ』ではゴールデン・グローブ賞主演女優賞を獲得したが、演技力のみが問われる映画では「演技がわかっていない」と酷評されてきたため、彼女の伝記映画が作られるのは皮肉だ、という声が上がった。
成功を収めた歌手が、役者を夢見るのはよくある話。マドンナだけでなく、マライア・キャリーの『グリッター きらめきの向こうに』、ブリトニー・スピアーズの『ノット・ア・ガール』など、「映画に出なければよかったのに……」と気の毒がられる歌手は少なくない。今回はそんな「一流歌手の超駄作映画」の中から、選りすぐりの5作を紹介しよう。
■プリンス『グラフィティ・ブリッジ』(1990)
昨年4月に急死し、世界中にショックを与えたプリンス。唯一無二の音楽センスを持ち、80~90年代前半に「時代の寵児」と持てはやされた彼は、亡くなるまでに3作の映画に主演している。
1作目は、84年に公開されたロックミュージカル映画『パープル・レイン』。青年が挫折しながらもスーパースターになるまでを描いた自伝的映画であり、迫力ある演奏シーンがカッコいいと大ヒット。アカデミー賞の歌曲/編曲賞を獲得した。評論家の中には、「プリンスのファンでなければ拷問のような作品」「演奏シーンは素晴らしいが、演技が下手すぎて中身が薄く感じる」と酷評する者もいたが、同作は興行的に大成功を収めた。
2作目は86年に公開された『プリンス/アンダー・ザ・チェリー・ムーン』。プリンスが監督デビューを果たした本作は、金持ちの娘を手に入れたピアニストの物語で、恋敵や娘の父親から受ける嫌がらせを愛の力で乗り越えていくという内容だった。今作は「ナルシストなプリンスが、くどいまでに光り輝いている」「ファンでなければ楽しめない」と叩かれ、「あまりにも演技力がなく内容も『パープル・レイン』以上に薄っぺらい」と酷評され、最低映画に贈られる「ゴールデン・ラズベリー賞」8部門にノミネートされ最低主演男優賞、最低監督賞、最低主題歌賞を含む5部門を受賞するという屈辱も受けた。
ここまで叩かれたら、もう映画には手を出さないだろうと思いきや、プリンスは90年に再び映画を製作してしまう。ジェイソン・ドレイパーの評伝『Prince:Life and Times』によると、プリンスは自身が手掛けた大作映画『バットマン』(89)のサントラが大ヒットし、同作のヒロイン役を演じていたキム・ベイシンガーと交際したことで、「キムを主役にした映画を製作したい」という意欲が湧いてしまったとのこと。それを聞いたワーナーブラザーズは『パープル・レイン』の続編ならと了承。周りをイエスマンで固め、監督・脚本・主演の『グラフィティ・ブリッジ』を製作してしまったのである。
直前にキムと別れためにヒロイン役には別の女性をキャスティング。2人組音楽プロデューサーとして有名なジャム&ルイスらを出演させた。音楽好きな喜びそうなキャスティングだったのだが、「クラブ経営で対立した男が、バンド合戦を繰り広げる」という内容だったため、「どこが『パープル・レイン』の続編!?」と戸惑う観客が続出。今回も「ナルシストなプリンスが妖艶に輝いているだけの作品」だったため、ファンでさえも「歌は最高だけれど、演技を全部見るのはしんどい」と感じた者が少なくなかった。
『グラフィティ・ブリッジ』で、またもやゴールデン・ラズベリー賞の5部門にノミネート。幸いこの年は、ドナルド・トランプが最低助演男優賞を受賞した『ゴースト・ラブ』など駄作が粒ぞろいの年だったため受賞を免れた。そして、プリンスはもう二度と映画製作には手を出さなかった。
■ボブ・ディラン『ハーツ・オブ・ファイヤー』(1987)
今年3月、自身の公式ウェブサイトで、往年の名作『俺たちに明日えはない』のクライド役を断った理由を明かしたボブ。その理由とは、「当時のマネジャーとは犬猿の仲でね。口もきいてなかったんだ。だからオファーがきてたなんて知らなかったんだ」。それを聞いた世間は「そんな理由でハリウッド大スターになるチャンスを逃したのか」とあぜんとした。クライド役を演じたウォーレン・ベイティは、この作品が出世作となり、大御所俳優となったからだ。
一方で「ボブが出演してたらB級で終わっていたはず」という声も上がっている。というのも、のちにボブが主演した映画『ハーツ・オブ・ファイヤー』は、「ボブのせいで駄作になった」と叩かれているからだ。同作は、ボブ演じる引退した大物ミュージシャンに発掘された田舎の少女がロック歌手としてデビューし一気にスターダムを駆け上がるものの、イケメンのロックスターとのスキャンダルに見舞われてしまい、「地元がいい」と田舎に帰ってしまうストーリー。1時間半の上映時間なのに、あまりにも目まぐるしい展開となり、見る者はまるでローラーコースターに乗っているような感覚に陥ってしまう。が、所々でハッとさせられる。ボブの「ドヤっているキメ顔」や「投げやりすぎる演技」が目に入ってくるからだ。
監督は映画『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還』を手掛けたリチャード・マーカンド、脚本は『フラッシュダンス』『氷の微笑』で知られるジョー・エスターハスと才能あるクリエーターに恵まれたのだが、ボブの「絶望的なまでの演技力のなさ」のせいか、先行公開されたイギリスでは大コケ。「いたたまれなくなる」「頭が痛くなる」と酷評され、たった2週間で打ち切られてしまった。散々な評判ゆえ、アメリカの映画館で公開されることなく、DVD販売のみとなった。そのDVDも現在では販売されていない。完全にボブの黒歴史と化してしまったのだ。
73年公開の『ビリー・ザ・キッド/21歳の生涯』の音楽を担当、78年公開の『レナルド&クララ』の監督を務め、両方に出演。こちらも「投げやりすぎる演技」でB級映画にカテゴライズされてしまい、「ボブは役者としては最悪」と認定されてしまった。
世間がボブの大根演技をすっかり忘れ去った2003年、ボブは再び映画出演。『ボブ・ディランの頭のなか』という音楽コメディで、ペネロペ・クルス、ジェフ・ブリッジス、ジョン・グッドマンら一流の役者たちがこぞって出演。ボブの大根演技がより際立ってしまい、「もう二度と演技は見たくない」と叩かれるハメになった。
■ミック・ジャガー『フリージャック』(1992)
ロックバンド「ローリング・ストーンズ」のボーカルとして、60年代から第一線を走り続けているミック。彼は演技にも並々ならぬ興味を抱いており、テレビ映画やドラマを含め、20近くもの作品に出演している。映画『パフォーマンス/青春の罠』で演じたエキセントリックなロックスター役など、ミック本人と重なる部分が多いミュージシャンに扮する作品は「ハマり役」と好評。しかし、本人と似ても似つかない役を与えられると、「演技ができない」ことがバレてしまうのだ。
実在した盗賊ネッド・ケリーの生涯を描いた『太陽の果てに青春を』は、つけヒゲと下手すぎるミックの演技だけが印象に残る作品だと手厳しい評価を受けた。しかし、これ以上に辛辣にコキ下ろされた映画がある。92年に公開されたSF映画『フリージャック』だ。
『フリージャック』は、F1レース中の大事故で09年にタイムスリップしてしまったエミリオ・エステベス演じる主人公が、「09年では若くて健康な体に他人の魂を移入することができる」こと、「自分はそのためにハンティングされた」ことを知り、人生を取り戻すために奮闘するという近未来が舞台の作品。ミックが演じるのは“冷酷なハンター役”なのだが、ガリガリ体形のため悪役の迫力に欠ける。そして、台詞を口にするたび演技力のなさをさらけ出してしまい、ミックが登場するたびに頭が痛くなってくる。
ファンからも酷評だった『フリージャック』だが、ミックは懲りることなく映画『ベント/堕ちた饗宴』『The Man From Elysian Fields』に出演。しかし、この2作ともヒットせず、ミックはようやく俳優業からは退くことにしたようだ。今でも映画やテレビドラマに顔を出しているが、「ミック・ジャガー」としてカメオ出演するのみにとどまっている。
しかし映画・ドラマへの情熱を燃やし続けており、95年に立ち上げた映画製作会社「Jagged Films」で、監督、脚本家、プロデューサーとして活躍。昨年は巨匠マーティン・スコセッシとタッグを組んで製作総指揮を務めたドラマシリーズ『VINYL/ヴァイナル』が話題に。シーズン1で打ち切りになったが、今後も意欲的に作品を生み出していくものと見られている。
■ジェシカ・シンプソン『ジェシカ・シンプソンのワーキング・ブロンド』(2007)
前夫ニック・ラシェイとの新婚生活をカメラに追わせたリアリティ番組『ニューリーウェッズ 新婚アイドル:ニックとジェシカ』で大ブレイクしたことから、女優だと思われがちだが、ジェシカはもともとはアイドル歌手。同世代のブリトニー・スピアーズやクリスティーナ・アギレラより歌唱力が高いと言われたこともある、実力派だったのだ。
ジェシカは結婚直前に人気コメディ『ザット ’70sショー』シーズン5にゲスト出演している。しかし話題作りが目的だったため、登場シーンは少なく、頭から水をかぶって濡れるセクシーシーンや、アシュトン・カッチャーとのキスシーンだけが注目された。
そんなジェシカだが、リアリティ番組で老若男女に名が知られると映画のオファーが届くようになり、2005年に『デュークス・オブ・ハザード』で銀幕デビューを果たした。この作品は、大ヒット人気コメディ『爆発!デューク』の映画版ということからヒット。ジェシカも全米が期待する「色気ムンムンのブロンドのお姉ちゃん」を素で演じ、好評を得た。
しかし、その2年後に公開された初主演映画『ジェシカ・シンプソンのワーキング・ブロンド』は、彼女がいかに大根役者かということを世に知らしめてしまったのである。
ジェシカ演じる主人公が、恋人を追いかけてニューヨークに行くものの、浮気され捨てられる。ひょんなことから大企業の社長秘書に就き、機転を利かせながら大奮闘するというアメリカンドリームを描いた同作。映画『ワーキング・ガール』(88)のリメイク版とあり、上映前から注目され、興行成績も悪くなかったが映画評論家たちのウケは最悪。映画評論家による映画レビューサイト「Rotten Tomatoes」では「10点満点中2.8」と稀に見る低評価で、「救いようがない駄作」「ストーリーはそんなに悪くない。演技がひどいだけ」などとこき下ろされた。
大根役者と酷評されたジェシカだが、ブロンドの巨乳は需要があるのか、08年には『ジェシカ・シンプソンのミリタリー・ブロンド』が製作された。しかし、前評判は散々で、結局劇場では上映されず。DVD販売のみとなってしまった。
ジェシカはその後、テレビコメディ『アンドラージュ★オレたちのハリウッド』シーズン7にゲスト出演したが、それ以降、女優としての活動を停止。10年からは歌手活動も行っておらず、現在はファッションブランドのデザイナー兼オーナー業に専念し、大金を稼いでいる。
■エンリケ・イグレシアス『レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード』(2003)
伝説的歌手フリオ・イグレシアスの息子で、父同様世界的な歌手になったエンリケ。情熱の国・スペイン出身で、“セックスアピールの象徴”な彼もまた銀幕俳優になることを夢見てしまった歌手の1人である。
まずは、アントニオ・バンデラス&サルマ・ハエックが主演を務めた大作映画『デスペラード』にちょい役として出演。登場していた時間が短いことから、お宝作品としても大きな話題になった。しかしその後、メイン出演した『レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード』は、「あまりにも演技力がなさすぎる」「がんばっているのがわかるだけにつらい」と散々な評価を受けてしまったのである。
『デスペラード』の続編である『レジェンド~』は、ギターケースを抱えた伝説的ガンマン、エル・マリアッチが主人公の壮絶なアクション映画。アントニオとサルマが引き続き主演し、ジョニー・デップ、ミッキー・ロークら豪華な顔ぶれが出演。それぞれが個性的で味のあるキャラクターに扮し、生きるか死ぬかの戦いを華麗に繰り広げる。最後まで目が離せないストーリーとなっているのだが、エンリケだけ拍子抜けするほど演技が下手なのだ。
エンリケの最大の武器であるセクシーさも、濃いメンツの中では光らず。気の毒に思ったのか、はたまたコメントする価値もないと思われたのか、映画評論家たちはエンリケの演技にはほとんど触れず。ファンの間からは「ビッグスクリーンでエンリケが見られてうれしかったけど、もう役者には挑戦しないてほしい」という声が多数上がった。
その後のエンリケだが、『チャーリー・シーンのハーパー★ボーイズ』『ママと恋に落ちるまで』などテレビコメディにもゲスト出演。大好きなシットコムに出演したのはとても楽しかったと明かしたが、近年は歌手に専念している。