1969年のハリウッドを舞台に、映画スターへの転身をもくろむテレビ俳優リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と、リックのスタントマンを務めるクリフ・ブース(ブラッド・ピット)を通して、業界の光と闇、そして不気味なカルト教団マンソン・ファミリーの姿を描いた話題作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』。
コミカルだがシリアスでもある同作は、鬼才クエンティン・タランティーノ監督の長編映画。実際に起きた、カルト集団「マンソン・ファミリー」による女優シャロン・テート殺害事件が題材になっていることから、製作決定の時点から大きな注目を集め、世界的大ヒットとなった。現地時間2月9日に開催されたアカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞、助演男優賞など10部門にノミネートされ、うち助演男優賞、美術賞を受賞。今回は、そんな『ワンス~』の、あまり知られていないトリビアをご紹介しよう。
レオは通常の半額のギャラで出演に同意:『ワンハリ』トリビア1
70年代に子役としてキャリアをスタートさせてからというもの、出演料は右肩上がり。現在の総資産は2億ドル(約220億円)以上だと伝えられているレオナルド・ディカプリオ。40代に入っても役者としての人気は衰えず。そんなレオナルドだが、米エンタメ業界誌「Variety」によると、『ワンス~』のギャラは、通常要求する額の半額である1,000万ドル(約11億円)だったとのこと。
同作の製作費は1億ドル(約110億円)であり、人気役者であるブラッドやマーゴット・ロビー、アル・パチーノやカート・ラッセルら大御所俳優、ダコタ・ファニングらの人気女優、ほかにも知名度の高い役者が多く出演しているため、レオナルドは少しでも費用を抑えるためにと「自分の出演料は1,000万ドルでよい」と同意したという。
あの子役はオーディションなしで即決:『ワンハリ』トリビア2
テレビをつけたまま脚本を執筆するというタランティーノ監督。『ワンス~』執筆中、トルーディ・フレイザーという子役が出てくるシーンを書いている時に、たまたまテレビでシットコムの『アメリカン・ハウスワイフ』で子役が登場するシーンが放送されていたとのこと。その子役を見て、クエンティンは「今書いているシーンは、この子に演じさせよう」とひらめき、演じていたジュリア・バターズに出演をオファーした。
レオナルド演じる“泣き虫俳優リック”を励ます、プロ意識を持った大人びた子役という難しい役どころをオファーされたジュリアは、タランティーノ映画もレオナルド出演作も見たことがなかったそうで、「そんなすごい人たちと一緒に働くとは思っていなかった」とのこと。米エンタメサイト「The Wrap」のインタビューでは、台本の読み合わせをした後、監督の提案でしばらくレオナルドと雑談したそう。「これまで会った中で一番すごい役者は?」という質問には、「レオ」と即答。「彼のおかげで、セリフではなく心で会話をするという、そんな演技ができた」とコメントしている。
ラスト30分が予想だにしない展開となり、多くの観客を驚かせた『ワンス~』。タランティーノ監督は、流出を防ぐために、脚本をガッチリとガードした。撮影前に作った台本は、たったの1冊。その台本をレオナルドやブラッドらと契約する時に読ませたのだが、監督の目の前でしか読むことが許されなかった。
その後も、台本をすべて通して読むことが許されたのは、主要キャストであるレオナルド、ブラッド、マーゴットと、プロデューサーのデヴィッド・ハイマンだけ。ほかの俳優に手渡された台本からは少なくとも30ページ以上が取り除かれ、展開が読めないようにした。
タランティーノは以前『ヘイトフル・エイト』(15)の脚本がリークしたことが相当トラウマになっており、早い段階から脚本を金庫にしまうなどしていたため、今回は流出を防ぐことができたとも伝えられている。
オーディションで2度落とされたブルース・ウィリスの長女:『ワンハリ』トリビア4
ブルース・ウィリスとデミ・ムーアの長女で、子どもの頃から両親の映画に出演するなど役者歴は長いルーマー・ウィリス。ハリウッドでは2世だからと優遇されることはほとんどないため、彼女も地道にオーディションを受け、仕事を得ている。
『ワンス~』には是が非でも出演したいと強く思ったルーマーは、2つの役のオーディションを受けたが落選。「オーディションを受けられただけよかった。記念だと思おう」と気を取り直していた30歳の誕生日の3日前。「ある役を演じてほしい」と連絡を受けたそうで、「どんな役でも演じます!」と即答。こうしてマーゴット演じるシャロンの友人で、女優ジョアンナ・ペティット役にキャスティングされた。
ジョアンナは、シャロンが殺害される前に彼女の邸宅を訪問していた、生前の彼女を最後に見た生き証人と伝えられている女性。出演時間は短いが観客の印象に残る役で、ルーマーは見事に演じた。ちなみにルーマーが同作で最初に撮影したのは、車を運転するシーン。タランティーノ監督は彼女をリラックスさせようと、「ブルース・ウィリスの娘さんなんだから、威勢よく運転してくれよ」と声をかけてくれたとのこと。彼女はタランティーノ監督について、50人を超える役者一人ひとりを気遣う素晴らしい監督だとたたえていた。
ぶっ続けて12時間オーディションを受けさせられたオースティン・バトラー:『ワンハリ』トリビア5
カルト集団「マンソン・ファミリー」の一員で、シャロンを襲撃したグループの一人、テックスを演じたオースティン・バトラー。彼は、米業界紙「Hollywood Reporter」のインタビューで、同作のオーディションについて「どのキャラクターのオーディションを受けているのか知らなかったから、(最初のオーディションには)デニムシャツを着て行ったんだ。タランティーノ監督からは『いい人と悪い人と、それぞれ演じ、撮影して欲しい』と指示されてね」「そのテープを見た監督から、出演していた舞台の休演日にロスに来てほしいといわれて、月曜日に劇場から空港に直行してロスに飛んだんだ。数時間だけしか寝てない状態で、監督と1日中会うハメになってね。12時間、次から次へとさまざまなシーンを演じさせられたんだ」と説明。
「通常のオーディションにかかる時間は20分程度。でも、この作品のオーディションは12時間も続いて、びっくりした。しかもオーディション終了後、すぐに『で、この役やる?』とオファーされ、即決してもらえたんだと、さらにびっくりした」と明かしている。
『ワンス~』には、伝説的アクションスター、故ブルース・リーが登場する。演じるのは韓国系アメリカ人俳優マイク・モーなのだが、このシーンを見たブルースの娘シャノン・リーが「父があまりにも傲慢で失礼な人間に描かれている」と大激怒。中国の国家電影局に抗議の文書を送った。
残酷で過激なシーンが多いタランティーノ作品は、これまでにも同局から「中国の基準に適合するよう編集し直すべし」と命じられ、大いに揉めてきた。ラスト30分のシーン以外は残酷なシーンがほとんどない『ワンス~』は、中国で初めてノーカットで公開されたかもしれないタランティーノ作品になるはずだったのだ。
クエンティンは、シャノンの抗議に対して「いやいや。ブルース・リーは傲慢な嫌な奴だったんだよ。しゃべり方とか。勝手に捏造したわけじゃない」と言い放ち、編集版の製作を拒否。公開は取りやめとなってしまった。
中国映画市場は年間興収1兆円ともいわれており、ハリウッド映画にとっても巨大マーケットなっている。この公開取りやめを受け、同作を製作したソニー・ピクチャーズと、出資した北京に本社があるボナ・フィルム・グループは大打撃を受けたと伝えられている。
キャスティング候補に挙がっていた!? 大物スターたち:『ワンハリ』トリビア7
タランティーノ作品の常連である俳優サミュエル・L・ジャクソンは、米映画サイト「Cinemablend」のインタビューで「今回、なんでキャスティングされなかったのかわからないよ。連絡なかったんだよ」とぼやいていたが、2017年に米芸能紙「Page Six」は「大手業界誌『Deadline』が、サミュエルが主要キャラクターの一人を演じるという情報をつかんだ。(監督とサミュエルは)相棒的な関係だからね」と報道していた。そのため、一時は主要キャラクターの有力候補に挙がっていたとみられている。
同じく17年には、タランティーノ監督が、シャロン役のキャスティングを、マーゴット・ロビーかジェニファー・ローレンスで迷っていると、複数のメディアが報道。米ニュースサイト「TMZ」から、どちらにシャロン役を演じてほしいかと聞かれたシャロンの妹デブラは、「マーゴット・ロビーね」「別に嫌いとかじゃないんだけど、ジェニファーは姉を演じるほど美しくないわ」と発言。この意見が反映されたのか、マーゴットが見事役を射止めた。
また、ブラッドが演じるクリフ役の候補にトム・クルーズが入っていたことを、タランティーノ監督がポッドキャスト『Happy Sad Confused』で認め、「レオナルドとブラッドのペアが完璧だったから、ブラッドにした。もしどちらかが出演できなければ、まったく別の役者を組み合わせていた」「レオナルドとブラッドのバディは完璧。なかなかないこと」と発言。改めて奇跡的なキャスティングが実現したのだと語った。

