『黒革の手帖』が現実に!? 客への復讐として “月収400万円”ホステスとなった女性

 武井咲演じる原口元子が、親の残した借金返済のために銀座のホステスとしてのし上がってゆくドラマ『黒革の手帖』(テレビ朝日系)。派遣先の銀行から横領した1億8,000万円をもとに、銀座の一等地にクラブ「カルネ」をオープン。先週放送の5話では、元子が銀座のクラブの最高峰である「ルダン」を手に入れるため、オーナーである政財界のフィクサー・長谷川庄治(伊東四朗)と交渉するという展開だった。

 実際に、ドラマのように貧しかった家庭から、トップホステスにのし上がった女性がいる。その人は大きな目が印象的なミユキさん(仮名・31歳)。水商売を始める前はフルタイムでバリバリ働く会社員だったという。

「16歳で家を出て、大阪でアパレル企業のアルバイトを経て正社員になりました。マネジャーを任され、月収は35万円と業界内では高給でした」

 母子家庭だったミユキさんは21歳のとき、「祖父母と暮らしたい」という母のためにマンションをプレゼントした。しかし、そのわずか1年後……。

「祖母が自殺しました。母は幼いころ裕福な家庭で育ち、祖父母よりも家政婦と過ごす時間が多く、わがままな性格でした。母と暮らし始めた祖母は、奴隷のように扱われていたそうです。祖母の相談を、私は仕事が忙しくてなかなか聞いてあげることができませんでした。祖母から最後の着信があった3日後、祖母は遺書を残して自宅のベランダで首を吊ったのです」

■自殺した祖母の気持ちに気づかなかったことを悔やんで生きてきた

 「祖母からの『SOS』に気づいてあげられなかったことを悔やんで生きてきた」とミユキさんは言う。それでも残された祖父と母のために、実家のローンを払い続けた。

「24歳のときにアパレル会社を辞めることになりました。同僚同士の派閥や陰口など、人間関係のトラブルが原因です。他社から引き抜きの話もありましたが、これ以上の昇給は望めないと考え、業界から身を引きました。マンションのローンも含め、これからどうしようと悩んでいるときに声を掛けられたのがキャバクラの仕事だったんです」

 祖父、母、そして自身の生活のためにキャバクラで働くことを決意した。源氏名の「ミユキ」は祖母の名前から付けた。

「水商売には少し抵抗がありましたが、実際に働いてみると、お客さんが自分のために1時間1万円を使うことが、すごくありがたいことだと思いました。昼職をしてお金の大切さを知っていたからかもしれません。ホステスは自分が商品であってマニュアルなどがないので、接客は漫画『女帝』(芳文社)を読んで勉強しました。源氏名に祖母の名前を付けたのは、なるべく自分を嘘で固めたくなかったからで、お客さんを騙すよりも楽しんでもらうことを一番に考えました」

 ミユキさんはわずか2カ月でナンバー(トップ10)入りした。その後キャバクラで初めてのバースデーイベントを行い、ひと月の売り上げは300万円に上った。そして、1人の客と恋に落ちる。相手は3歳年上で、優しい性格に惹かれたという。彼との交際も順調なとき、ミユキさんの妊娠が発覚した。

「彼に報告すると『好きだけど、まだ責任は取れないから堕ろしてほしい』と耳を疑うような言葉が返ってきました。その後、彼とは連絡が取れなくなり、バレンタインの日に1人で堕胎手術を受けました。その時、『もう客は信じない、金のみ搾り取ってやろう』と、客への復讐を誓ったのです」

 25歳になったミユキさんは、ミナミのニュークラブ(高級キャバクラ)に移籍する。客を持っていたので時給は8,000円からのスタートだった。

「ナンバー1になるのは嫌だったので、売上げ管理をしながらナンバー2か3をキープしました。ナンバー1になるのは簡単ですが、維持するのが大変なんです。一度トップになっても、落ちたときのプレッシャーに耐えられず辞めてゆく人たちをたくさん見てきたので。また、裏引き(お店を通さずに客から金をもらうこと)やプレゼントは一切もらわず、店でお金を使わせることを徹底しました。目先のお金よりも安定したお給料を求めたので、成績を安定させて、店から良い客を優先的につけてもらうようにしました」

 当時、ミユキさんの月収は150万円以上あったが、半分は親のマンションのローンと仕送りに充て、自分で使うのは最低限の生活費と店の衣装代やヘアメイク代だけで、残りは貯金していた。生活は質素だったという。

■「このまま水商売を続けていいのか」と自問自答

 そんなある日、客から打ち明けられた。

「Aさんというお客さんが、『ミユキに会いたいけど会いに行くお金がなくなったから、借金をして、妻と別れることになった』と店で泣き出したんです。大の大人が泣くなんてよっぽどだなと思い、『こうやって人の人生を狂わせながら生きていっていいのかな』と、仕事に対して疑問を抱くようになりました」

 罪悪感を持ったミユキさんは1カ月の休暇をとった。その間もマメに連絡をくれていたAさんに、少しずつ恋愛感情が芽生えたという。休暇が終わって店に復帰したが、仕事に対する気持ちは晴れなかった。自問自答する中、この月ミユキさんは初めてナンバー1になった。

「ナンバー1になった途端、今までトップだったキャストから嫌がらせを受けるようになったんです。 客席で無理矢理飲ませようとしてきたり、 アフターで客との枕を勧められたり……。数カ月間ナンバー1争いを繰り返した結果、元ナンバー1は逃げるように退店しました。安心もつかの間、今度は自分がナンバー1を守る立場になり、プレッシャーで押し潰されそうになりましたね」

 心のよりどころはAさんだけだった。Aさんと交際し、実家のローンにも終わりが見えてきたミユキさんは「このまま夜の仕事をあがってAさんと落ち着こう」と店を辞める決意をする。ナンバー1を維持して数カ月、ミユキさんの月収は400万円に上っていた。

「店を辞めた後にAさんの嘘が発覚したんです。借金もないし、離婚もしてない。私はただの浮気相手だと知りました。結局、この男も逃げた元彼と同じ……。でも、すべて自分がまいた種なんだ。仕事でしたこと、ついた嘘が、裏切りとして自分に返ってきただけ。自暴自棄になり、ついにパニック障害と診断されました」

 それ以来、ミユキさんは抗うつ剤が手放せなくなった。実家に戻ることも考えたが、ある大衆キャバクラから誘いを受けた。

「今までの店とは違い派閥もなく働きやすいと聞き、しばらく休んだ後に、お手伝いとして働かせてもらうことになりました。以前のお客さんはほとんど切って、抗うつ剤でお酒は飲めないから、時給は3,000円からのスタートでした」

 給料はそれまでの3分の1以下になったが店の居心地は良かった。そんな中、同業の経営者という客に出会う。

「話が合って楽しい人というのが最初の印象です。この仕事を理解してくれて『お付き合いしてください』と言われたのですが、過去の経験からまた傷つくのが嫌だったので、全て話してお断りしようと思いました」

 ミユキさんが彼に全てを話した後、彼の返事は意外なものだった。

「『過去もすべて受け入れる。一緒に住む家も用意して、婚姻届を出したら信用してくれる?』と言われました。しばらく考えて、『この人なら信じられるかも』と思ったんです。そこから彼の宣言通りに話が進み、仕事をあがることになりました。店を辞めるときの貯金は100万円くらい。まさに電撃結婚ですね」

 現在は夫と2人暮らし。パニック障害の症状も落ち着き、好きだったアパレルのネットショップも始めた。水商売の世界に入り、数々の裏切りを経験し、パニック障害を発症したミユキさん。彼女は今、水商売について何を思うのだろうか?

「その世界でしか出会えない人たちにもたくさん出会えましたし、今はホステスの仕事をして良かったと思います。お金は、人が生きていく上で必要不可欠だけど、人を惑わす悲しい道具だとも思います。夜の世界は大金を簡単に稼げるけれど、出ていくのも簡単です。お金が湯水のように溢れ出るものと勘違いすると、痛い目に遭う。水商売は欲に流されず、目指すものや、やるべきことがある人が輝ける場所だと思いますね」
(カワノアユミ)

『黒革の手帖』のような“成り上がり”! 16歳から水商売、歌舞伎町で稼いだ「億の金」の行方は……?

 武井咲演じる原口元子が、借金返済のために銀座のホステスとしてのし上がってゆくドラマ『黒革の手帖』(テレビ朝日系)。派遣先の銀行から横領した1億8,000万円をもとに、銀座にクラブ「カルネ」をオープン。今日放送の第5話では、元子が銀座のクラブの最高峰「ルダン」を手に入れるため、オーナーである政財界のフィクサー・長谷川庄治(伊東四朗)と交渉するという展開だった。

■母子家庭で貧しく、16歳で水商売の世界へ

実際に、ドラマのように貧しかった家庭から、トップホステスにのし上がった女性がいる。その人の名は舞さん(仮名・34歳)、和服が似合いそうな、キリッとした美人だ。幼い頃から母子家庭だった舞さんの家は、決して裕福ではなかったと話す。

「地元が神戸で、周りは裕福な家庭が多かったです。中学の同級生は高校から私立へ行き、ブランド物のバッグを持つのが当たり前。私はお小遣いももらえず、家での食事もウインナーと玉子焼きだけなど、質素なものでした」

 家に借金はなかったものの、舞さんの高校の学費を払うだけで手一杯だった。家計の助けと自身のお小遣いほしさに、舞さんが水商売の世界に入ったのは16歳のときだ。

「最初に働いたのは、時給1,800円の地元のスナックでした。私の年齢を知っているのはママだけで、お客さんには18歳と言ってました」

 舞さんは昼は学校、夜はスナックという生活を続けた。お酒も強く、毎日のように出勤。すぐに店にも慣れ、次第に学校へ行かなくなっていた。高校を中退した舞さんはキャバクラへ移り、18歳になると大阪・北新地の高級クラブに入店。そこでの日当は4万円で、当時の界隈ではトップクラスだったという。

「北新地のお客さんはレベルが違いました。見たことないような額のボトルや、キャバクラとは全く違う会話に初めは戸惑いました。会話の内容は難しくてついていけなくても、せめて言葉遣いだけは品良く話すよう努力しました。若いうちにクラブで働いて、水商売の最低限のマナーを身につけられたことは、貴重な経験ですね」

 舞さんがホステスとして安定してきた頃、世の中はキャバクラブームになっていた。毎日のようにメディアで取り上げられる「カリスマキャバ嬢」を見て、舞さんの心境に変化が訪れる。

「東京の華やかな有名キャバ嬢を見て、どうしても歌舞伎町で働きたくなったんです。大阪にお客さんもいたけど、『水商売で一から自分を試したい』と思い、21歳で上京しました。歌舞伎町は当時プチバブルで、裏稼業から会社経営者まで、関西とは全く違う層のお金持ちに圧倒されました。初めてついたお客さんは某有名金融会社の人だったんですけど、無造作に500万円ほどコンビニ袋に入れているのを見て『やっぱり東京はすごいな』と感じましたね」

 しかし、物おじしてはいられない。見知らぬ土地で舞さんが実践した接客は、どのようなものだったのだろうか?

「関西人らしい『明るい接客』を心がけました。私、根はそんなに明るくないんですけど、『人は明るいところに集まる』という言葉があるように、明るく振る舞っていれば、お客さんも来てくれると思うんです。私を指名してくれるお客さんは、ちょっと怖い感じの方が多かったです。カタギじゃなかったり、会社で立場が上の人ですね。そういう人たちは仕事で悩むことが多く、よく相談を受けるんですが、男性が悩みを打ち明けるって、めったにないと思うんです。そんなときは親身になって聞くように心がけていました」

 真面目な性格が通じ、舞さんは歌舞伎町に来てわずか1カ月でその店のナンバー1になり、月収は3桁に上った。

「きっかけは、1人のお客さんが友達を大勢連れてきて、店を私の指名客で埋めてくれたんです。その友達というのも経営者や有名ホストといった方たちばかりでした。皆さんが以後もずっと来店してくださったため、ナンバー1を維持することができました」

 不動のナンバー1になった舞さんは、ニューオープンのキャバクラ「A」にスカウトされる。「A」とは現在も歌舞伎町でトップクラスの店である。オープニングメンバーとして引き抜かれた舞さんに提示された時給は、1万2,000円であった。

「『A』には、各店のナンバー1が引き抜かれていました。皆、容姿も接客もトップクラス。私はそれまで通りの接客を続けましたが、毎日の同伴とアフターは欠かせませんでした。睡眠は1日3時間で、起きている間は、ずっとお酒を飲んでいました」

 「A」入店後、舞さんの月収は300万円を超えていた。しかし、飲み続ける舞さんの体に、ある異変が起き始める。

「ずっとお酒を飲んでいるせいか、体中に発疹が出たり、手の震えが止まらなくなったんです。寝ても疲れが取れなくて、ついに出勤の日もベッドから動けなくなったんです」

 病院へ行くと、「このまま飲み続けると、肝臓病になる恐れがある」と診断された。舞さんは「A」の出勤を大幅に減らし、給料は時給から売り上げ制になった。月に一度は出勤するようにしたが、ほとんど飲めず、収入は減ってゆく一方だった。そんな舞さんを見かねたのが「A」の常連客だ。

「体を壊してから、お客さんたちが経済的支援をしてくれるようになりました。額は1回食事して300~800万円、月平均して1,000万円ほどですね。体の関係はありません。マンションの敷金から引っ越し代まで、生活に必要なものはすべて出してくれた人もいたんです」

 かなりの額だが、「当時の歌舞伎町ではよくある話」と舞さんは言う。もらったお金は何につかっていたのか?

「もらったとはいえ、自分で稼いだお金ではないので、豪遊はしてません。私、もともと浪費するタイプではないんですよ。たまに時計とか大きい買い物はしますけど、あとは貯金していました。国税局が怖いので銀行には入れず、タンス貯金でしたけど、一時は億はあったと思います」

■キャバクラを辞めて始めた事業に失敗

 そんな舞さんは、28歳のときに水商売をあがる決意をしたという。

「28歳で『A』を退店し、貯めたお金でマツエクサロンを開業したんですが、失敗しました。真面目に働くことから長い間離れていたので、いざ社会に戻ろうと思っても、うまくいきませんでしたね。当時、同棲していた彼氏も事業に手を出して失敗し、私が生活費などを工面していたら、貯金も底をついてしまいました。その彼氏と別れ、クラブで働きだしたときに出会ったのが今の夫でした」

 その後、舞さんは子どもをもうけ、主婦として新たな人生を歩み始めている。現在の生活は、世間一般から見ても平均的なレベルだという。貧しかった幼少期から月に何百万も稼ぐホステスの暮らしを経て、舞さんは、お金に対して何を思うのだろうか?

「子どものころ貧しかった分、お金に対してハングリーな部分は、今も変わりませんね。お金に好かれるためにはどうしたらいいのかは、常に考えています。キャバ時代のお客さんには感謝してますし、出してもらって当たり前という考えもありません。今の生活はキャバ時代に比べると質素になりましたが、家族もできて、毎日がすごく幸せだなと感じます」
(カワノアユミ)

『黒革の手帖』のような“成り上がり”! 16歳から水商売、歌舞伎町で稼いだ「億の金」の行方は……?

 武井咲演じる原口元子が、借金返済のために銀座のホステスとしてのし上がってゆくドラマ『黒革の手帖』(テレビ朝日系)。派遣先の銀行から横領した1億8,000万円をもとに、銀座にクラブ「カルネ」をオープン。今日放送の第5話では、元子が銀座のクラブの最高峰「ルダン」を手に入れるため、オーナーである政財界のフィクサー・長谷川庄治(伊東四朗)と交渉するという展開だった。

■母子家庭で貧しく、16歳で水商売の世界へ

実際に、ドラマのように貧しかった家庭から、トップホステスにのし上がった女性がいる。その人の名は舞さん(仮名・34歳)、和服が似合いそうな、キリッとした美人だ。幼い頃から母子家庭だった舞さんの家は、決して裕福ではなかったと話す。

「地元が神戸で、周りは裕福な家庭が多かったです。中学の同級生は高校から私立へ行き、ブランド物のバッグを持つのが当たり前。私はお小遣いももらえず、家での食事もウインナーと玉子焼きだけなど、質素なものでした」

 家に借金はなかったものの、舞さんの高校の学費を払うだけで手一杯だった。家計の助けと自身のお小遣いほしさに、舞さんが水商売の世界に入ったのは16歳のときだ。

「最初に働いたのは、時給1,800円の地元のスナックでした。私の年齢を知っているのはママだけで、お客さんには18歳と言ってました」

 舞さんは昼は学校、夜はスナックという生活を続けた。お酒も強く、毎日のように出勤。すぐに店にも慣れ、次第に学校へ行かなくなっていた。高校を中退した舞さんはキャバクラへ移り、18歳になると大阪・北新地の高級クラブに入店。そこでの日当は4万円で、当時の界隈ではトップクラスだったという。

「北新地のお客さんはレベルが違いました。見たことないような額のボトルや、キャバクラとは全く違う会話に初めは戸惑いました。会話の内容は難しくてついていけなくても、せめて言葉遣いだけは品良く話すよう努力しました。若いうちにクラブで働いて、水商売の最低限のマナーを身につけられたことは、貴重な経験ですね」

 舞さんがホステスとして安定してきた頃、世の中はキャバクラブームになっていた。毎日のようにメディアで取り上げられる「カリスマキャバ嬢」を見て、舞さんの心境に変化が訪れる。

「東京の華やかな有名キャバ嬢を見て、どうしても歌舞伎町で働きたくなったんです。大阪にお客さんもいたけど、『水商売で一から自分を試したい』と思い、21歳で上京しました。歌舞伎町は当時プチバブルで、裏稼業から会社経営者まで、関西とは全く違う層のお金持ちに圧倒されました。初めてついたお客さんは某有名金融会社の人だったんですけど、無造作に500万円ほどコンビニ袋に入れているのを見て『やっぱり東京はすごいな』と感じましたね」

 しかし、物おじしてはいられない。見知らぬ土地で舞さんが実践した接客は、どのようなものだったのだろうか?

「関西人らしい『明るい接客』を心がけました。私、根はそんなに明るくないんですけど、『人は明るいところに集まる』という言葉があるように、明るく振る舞っていれば、お客さんも来てくれると思うんです。私を指名してくれるお客さんは、ちょっと怖い感じの方が多かったです。カタギじゃなかったり、会社で立場が上の人ですね。そういう人たちは仕事で悩むことが多く、よく相談を受けるんですが、男性が悩みを打ち明けるって、めったにないと思うんです。そんなときは親身になって聞くように心がけていました」

 真面目な性格が通じ、舞さんは歌舞伎町に来てわずか1カ月でその店のナンバー1になり、月収は3桁に上った。

「きっかけは、1人のお客さんが友達を大勢連れてきて、店を私の指名客で埋めてくれたんです。その友達というのも経営者や有名ホストといった方たちばかりでした。皆さんが以後もずっと来店してくださったため、ナンバー1を維持することができました」

 不動のナンバー1になった舞さんは、ニューオープンのキャバクラ「A」にスカウトされる。「A」とは現在も歌舞伎町でトップクラスの店である。オープニングメンバーとして引き抜かれた舞さんに提示された時給は、1万2,000円であった。

「『A』には、各店のナンバー1が引き抜かれていました。皆、容姿も接客もトップクラス。私はそれまで通りの接客を続けましたが、毎日の同伴とアフターは欠かせませんでした。睡眠は1日3時間で、起きている間は、ずっとお酒を飲んでいました」

 「A」入店後、舞さんの月収は300万円を超えていた。しかし、飲み続ける舞さんの体に、ある異変が起き始める。

「ずっとお酒を飲んでいるせいか、体中に発疹が出たり、手の震えが止まらなくなったんです。寝ても疲れが取れなくて、ついに出勤の日もベッドから動けなくなったんです」

 病院へ行くと、「このまま飲み続けると、肝臓病になる恐れがある」と診断された。舞さんは「A」の出勤を大幅に減らし、給料は時給から売り上げ制になった。月に一度は出勤するようにしたが、ほとんど飲めず、収入は減ってゆく一方だった。そんな舞さんを見かねたのが「A」の常連客だ。

「体を壊してから、お客さんたちが経済的支援をしてくれるようになりました。額は1回食事して300~800万円、月平均して1,000万円ほどですね。体の関係はありません。マンションの敷金から引っ越し代まで、生活に必要なものはすべて出してくれた人もいたんです」

 かなりの額だが、「当時の歌舞伎町ではよくある話」と舞さんは言う。もらったお金は何につかっていたのか?

「もらったとはいえ、自分で稼いだお金ではないので、豪遊はしてません。私、もともと浪費するタイプではないんですよ。たまに時計とか大きい買い物はしますけど、あとは貯金していました。国税局が怖いので銀行には入れず、タンス貯金でしたけど、一時は億はあったと思います」

■キャバクラを辞めて始めた事業に失敗

 そんな舞さんは、28歳のときに水商売をあがる決意をしたという。

「28歳で『A』を退店し、貯めたお金でマツエクサロンを開業したんですが、失敗しました。真面目に働くことから長い間離れていたので、いざ社会に戻ろうと思っても、うまくいきませんでしたね。当時、同棲していた彼氏も事業に手を出して失敗し、私が生活費などを工面していたら、貯金も底をついてしまいました。その彼氏と別れ、クラブで働きだしたときに出会ったのが今の夫でした」

 その後、舞さんは子どもをもうけ、主婦として新たな人生を歩み始めている。現在の生活は、世間一般から見ても平均的なレベルだという。貧しかった幼少期から月に何百万も稼ぐホステスの暮らしを経て、舞さんは、お金に対して何を思うのだろうか?

「子どものころ貧しかった分、お金に対してハングリーな部分は、今も変わりませんね。お金に好かれるためにはどうしたらいいのかは、常に考えています。キャバ時代のお客さんには感謝してますし、出してもらって当たり前という考えもありません。今の生活はキャバ時代に比べると質素になりましたが、家族もできて、毎日がすごく幸せだなと感じます」
(カワノアユミ)

熟女キャバクラ急増のワケとは? いま求められる“熟女”力

 栄枯盛衰、かつて栄えていたものも、時代の移り変わりにより突如終焉が訪れる。2017年2月、大阪のとあるキャバクラが20年の歴史に幕を閉じようとしていた。繁華街の中心に店を構える「クラブL」。40坪の店内には、常に20名以上のキャストが在籍。20代の若い女性をメインに揃え、リーズナブルな価格設定で、週末には必ず満席になるほどの賑わいだったという。人気のキャバクラに、いったい何があったのだろうか。周辺事情に詳しい人に話を聞いた。

■30代から40代女性のキャストがメイン

「年末にはお客さんが並ぶほどの盛況ぶりでした。それでも往年に比べると、売り上げは伸び悩んでいたそうです」(キャバクラの客引き)

 ここ数年、業績不振といわれているキャバクラ業界だが、ある変化が起きているという。

「最近は若いコがいる店より、熟女キャバクラのほうがお客さんは入っていますね。『クラブL』もオーナーが変わり、跡地には熟女キャバクラができるそうです」(同)

 数年前から人気が高まっているといわれる熟女キャバクラだが、ここ1年ほどで、その人気は急上昇しているという。ひと昔前まで、熟女キャバクラとは30代前後の女性キャストが在籍する店のことを指していたが、最近では30代から40代の女性のキャストがメインだという。しかしなぜ今、若手メインのキャバクラが減少し、熟女キャバクラが増え続けているのだろうか。

■風営法改正による、「若者のキャバクラ離れ」

「2000年初頭、キャバクラに来る客はヤミ金や振り込め詐欺などの犯罪を働く若者が中心となり、年齢層は一気に低下しました」(元キャバ嬢)

 90年代後半まで、若い客などほとんど来なかったキャバクラ。だが2000年に入り、ヤミ金融やオレオレ詐欺、テレクラのサクラなどの職業が流行し、大金を持った若者たちがキャバクラで豪遊するようになった。05年には雑誌「小悪魔ageha」(インフォレスト、現・主婦の友社)が創刊。派手な盛り髪にデコネイルの「age嬢」ファッションは社会現象にもなり、キャバクラ嬢は「小中学生の将来なりたい職業ランキング」にランクインする。しかし、時代は長く続かない。

「ヤミ金、振り込め詐欺の摘発強化により、それまで豪遊していた若者連中が姿を消しました。さらに追い打ちをかけたのが、2005年に改正された風俗営業法(風営法)です。今まで深夜過ぎまで営業していたキャバクラが、深夜1時閉店となったことで、終電を逃した若者たちが来なくなりました」(同)

 最近、よく目にするようになった「若者の酒離れ」など、キャバクラから足が遠のいた理由は諸説あるが、風営法の改正は大きく影響したと見られる。こうした「若者のキャバクラ離れ」により、客の年齢層が上昇。これに目をつけたキャバクラ経営者がオープンさせたのが、正午から夕方まで営業する「昼キャバ」だった。

■昼キャバから始まった熟女需要

「昼キャバ客のターゲット層は、定年退職者などの高齢者。それに合わせ、通常よりも年齢の高い30代以上のキャストを採用しました。キャストのほとんどが、昼間子どもを預けられる主婦や、離婚歴のある子持ちの女性です。苦労している分、若いコにはできない気配りがあります。また、若いコに比べ、低コストで雇えるのも大きいです。生活がかかってる分、仕事熱心で、経験者も多いので、一から教えなくて済む。今や熟女は、若いキャバ嬢よりも経営者側にとって需要が高いといわれています」(熟女キャバクラ経営者)

 昼間は30代前後のキャスト、夜は20代のキャストと二部制にすることで、一時、落ち込んでいた売り上げも同店では戻ってきたという。さらに二部(夜の営業)にも30代以上の女性を起用し、客層も幅広い年齢へと広げていった。そんな中、同氏が熟女キャバクラをつくるきっかけとなる出来事が起こったという。

「昨年から始まったマイナンバー制度の導入で、『昼の仕事にキャバクラの副業がバレてしまうのではないか』と、昼夜掛け持ちする副業キャバ嬢が一斉に辞めてしまいました。彼女らのほとんどが20代半ば頃から後半、店の中堅層といわれる年齢のキャストたちでした。結果、キャストの平均年齢が上がってしまったので、思い切って熟女キャバクラに変えることにしました」(同)

■クラブより安く、キャバクラより落ち着いた雰囲気

 客に続き、働き手側にも「若者のキャバクラ離れ」が始まった。店は30代から40代のキャストをメインに集め、熟女キャバクラへと生まれ変わった。しかし、ただ年齢層が高いだけのキャバクラではいずれ飽きられてしまう。そこで秘策を打ち出した。

「銀座や北新地のクラブのように、接待で使ってもらえる店を目指しました。今まで企業の接待は、座って数万円する高級クラブが使われていましたが、1人のお客様に対して、ホステスが数人着くことがある。キャバクラの特徴である1対1の接客を武器にして、接待で使っていただけたらと。キャストの年齢自体は高級クラブのホステスと変わりません。教育を徹底的に行いました」(同)

 この店では料金は指名しても、1人1時間1万円。ハウスボトルがあるので、クラブに比べると、かなり安い価格設定だ。

「料金もですが、クラブのような厳しさがないのも特長です。店内カラオケ禁止とか、出勤の時は必ずドレスにハイヒールとか、そういう規則はうちにはありません」(同)

 働くキャストは、若いキャバ嬢やクラブホステスのような派手さはないが、背中のあいたロングドレスにショールといった落ち着いた衣装が主流だ。

「熟女キャバクラ嬢の魅力は、気を使わなくていいとこ。年齢が近いので話が合います。若いコ相手だと話が合わないので疲れちゃうんですよね。高級クラブのように、同伴で高級店に連れていかなきゃ、というプレッシャーもないし。あと、多少のオサワリを許してくれるのも良いですね(笑)」(熟女キャバクラ常連客)

 そんな熟女キャバクラだが、中には比較的若いキャストもいるようだ。

「もともと、キャバクラで働いていたのですが、若いお客さんや女のコのノリに付いていけなくて、こっち(熟女キャバクラ)に移ってきました。お客様は年配の方が多いので働きやすいです。キャバ嬢のような派手な服装も苦手なので、熟女キャバクラの落ち着いた雰囲気は自分に合っていると思います」(熟女キャバクラ嬢28歳)

■若手キャバ嬢たちが路頭に迷っている

 いまや、熟女キャバクラは勢いを増している。しかし一方で、減りつつある若手のキャバ嬢たちはどう思っているのだろうか。閉店を間近に控えた「クラブL」のキャストに、先行きを聞いた。

「売り上げがあるキャストは、熟女キャバクラに残れる方針でいるそうです。でも、全員を今まで通りの時給で、というわけにはいかないみたいです。私はほかの店を探そうと思ったのですが、時期が時期なので、しばらく熟女キャバに残りながら、ほかの店を探すことにしました。また、売り上げや出勤が少ないキャストは、遠まわしにクビを宣告されているそうです。新しい店を探したり、キャバクラの派遣会社に登録するというコもいますが、皆、なかなか移動先が見つからないとぼやいています」(「クラブL」古株キャスト・27歳)

 水商売で2月は、暇な月といわれている。実績がないと、働き口はなかなか見つからないという。

「同じエリアなら、今まで来てくれてたお客さんも引っ張りやすいけれど、この辺りで『L』と同じ料金で飲める店はない。新天地で一からお客さんをつかんでいくのも厳しいけど、時給が下がるのも困る」(同)

 相次いでオープンする熟女キャバクラの裏側で、多くの若手キャバ嬢たちが路頭に迷っているようだ。「小悪魔ageha」全盛期の頃のように、彼女らがふたたび日の目を見ることはあるのだろうか。
(カワノアユミ)

「キャバ嬢としての全盛期が忘れられない」夜の世界から足抜けできなかった女たちの今

 夜の商売で働く女性たち。彼女たちはそれぞれに事情を抱え、本当はやめたいのにやめられずにいる……などというのは昔の話。ヘルスなどの射精産業には暗い裏事情を持つ女性たちもいるというが、キャバクラ嬢たちの中には、至ってカジュアルに夜の世界で働いている女性たちも多い。

■キャバクラを辞めた後は株を始めたり、会社を立ち上げる子

「こないだ昔なじみの黒服がぼやいていましたよ。指名もついて、さあこれから稼いでくれるぞ! って期待していた子が、『彼氏ができたから辞める』ってLINEで送ってきたってね(笑)。それからひと月もたたないうちに別の店で働いているってうわさを聞いて、その店に行ったという客に聞いたら『彼氏と別れたから復帰した』って笑って話していたそうです。店は売れっ子のキャストがひとり抜けたら、けっこうダメージを受けるんですけどね」

 そう話すのは、かつてキャバクラを経営し、今でも店にドレスやスーツを販売する外商として夜の世界に関わるM氏。長年この世界で生きているM氏を慕うキャバクラ関係者は多く、そんな愚痴を聞くのも仕事のうちだ。

「キャバ嬢が店を辞める理由としてよく聞くのは、彼氏がらみですね。彼女が客とはいえ他の男とLINEやメールのやり取りをし、仲良く話をしているのに焼きもちを焼いてしまうんだとか。目端の利く子の中には、キャバ嬢として働いている間に人脈をつくったり、いろんな知識を身につけたりして、店を辞めた後は株を始めたり、会社を立ち上げる子もいます。どんな会社かって? よく聞くのはペット関連です。ペットを飼っているキャバ嬢は多いから、その延長でビジネスを始めるみたいです」

■夜の商売の門戸は広くなっているから、働き口に困らない

 M氏によれば、キャバで働くのは20代。できれば20代半ばまでで足を洗いたいと思っているキャバ嬢が多いという。キャバを抜けた後の身の振り方は結婚、企業の一般職への就職などさまざまだが、中には夜の世界にどっぷりつかり、抜け出せなくなる子も多い。

「見た目が若ければ年齢をごまかして働くこともできるし、ただ若いだけの子より、アラサーくらいの落ち着きのある子の方がいいっていう客もいますからね。30代、40代になっても熟女キャバクラがあるから、働く場所には困らない。太っている子を雇うポチャ専の店もありますしね。夜の商売の門戸は広くなっているから、働き口に困らないという『いい面』がある反面、抜け出せなくなるという『悪い面』もあるんです。選ぶのは本人の自由だから、私がとやかく言うことじゃありませんが、歩けなくなるくらい酒を飲んで、泣きながら愚痴を言っている子を見ると、『ああ、辞めた方が体にもいいのにな』と思います。気楽に働いているように見えても、指名や売り上げなど、彼女たちもいろんなプレッシャーと戦い続けていますから」

 そういうキャバ嬢たちを見ていると、M氏は若かりし頃の顧客だった、キャバレー嬢たちを思い出すという。バブル真っ只中で羽振りの良かった頃、景気よく金を使ってくれた彼女たちも、バブル崩壊による景気の低迷、それに伴い夜の世界も大箱のキャバレー全盛からキャバクラがメインとなっていく中で、ひとり、またひとりと夜の世界から足を洗っていったというが……。

「たまに商売で顔を出す店にね、バブルの頃からの顔なじみがいるんです。キャバレー、キャバクラ、スナックと流れて、今はまたキャバレーに戻ったそうです。あのドラマ、『キャバすか学園』(日本テレビ系)でしたっけ? 全国のキャバクラを渡り歩いているっていう子(小嶋陽菜演じる「こじはる」)が出てきましたが、あの子みたいに、いろんな土地の店を渡り歩いているベテラン嬢は意外といるんですよ」

■自分にとっての“一番いいとき”を忘れられない

 しかし、かつてのキャバレー全盛時代のような収入は望むべくもなく、時給は1,000円ちょっとと、アルバイトや一般職のパートの時給とそれほど変わらない。なぜ、収入の高さというメリットがないのに、夜の世界にこだわるのだろうか?

「ちょっと前に、あるAV女優のドキュメントを見たんですが、売れっ子のときはトップアイドル並みの待遇を受けていたけど、人気が落ちてからは、複数の女優が出演する、ひと山いくらみたいな扱いの作品しかオファーが来ないんだそうです。それなのに辞めない理由を聞かれると、『また昔みたいになりたい』と答えていました。上ったはしごの先から降りられなくなったというのかな? ちやほやされて、はしごを上ったけど、人気がなくなったからとはしごを外されたら、落ちるしかないですよね? そうなったらほとんどの人はあきらめるけど、自分にとっての“一番いいとき”を忘れられず、支える足場がないのに、そこにしがみついてしまう人間もいます。夜の世界から抜けられなくなった女性たちは、『自分にはこの仕事しかできない』と口を揃えて言うのですが、良き時代をいまだに忘れられずにいるのかもしれません」

 自分が一番輝いていた瞬間。「本人にとっての武勇伝」をいい年になっても自慢げに話す男が多いように、それを忘れられないのは女も同じなのかもしれない。夜の世界にこだわるのは本人の自由だ。しかし、M氏はベテラン嬢たちのどこか疲れた背中を見ると、なんともやるせない気持ちになるという。

キャバクラ経営者がキャバ嬢にハマらなかった理由 夜の世界の本音と建前

 キャバクラには指名なしで入店し、接客が気に入った子をその場で指名する「場内指名」と、最初から特定のキャバ嬢目当てで来店する「本指名」がある。キャバ嬢たちの時給は「本指名」の数で決まることが多く、だからキャバ嬢たちは「本指名」をとるために懸命に接客し、また、多くの「本指名」を持つキャバ嬢たちは、顧客を逃がさないために必死だ。

 元キャバクラ経営者で、現在はキャバ嬢たちにドレスやスーツを販売する外商のM氏は、「本指名」をとる子たちには共通する特徴があるという。

■かわいい子より熱心な子が人気になる

「ボディタッチが多い、聞き上手、営業メールがうまい、かわいいとか、人気が出る子のタイプはいろいろありますが、正直ね、かわいいかどうかはあんまり関係ないんです。人気が出る子に共通しているのは、熱心さ。本指名がない子は指名なしのフリーの客につき、場内指名を増やしていく場合が多いんですが、その前段階としてマネジャーの話をメモをとりながら熱心に聞く、接客がうまくいかなかったときには、客にどの子をつけるかを決めるつけ回しやボーイに相談して次に生かす、とかね。

 何人か本指名の客を持っていても、フリーやヘルプに回ると途端に不満を持つ子はダメ。そういう気分や態度はスタッフにも客にも伝わるから、本指名が増えません。逆に、熱心な子は金を持っていそうな客につけてもらえるし、トップの子のヘルプに入ったときなんかに、一緒に遊びに来ていた客に気に入られて次は指名してもらえることもありますからね」

 そうして「場内指名」の客をつかんでおけば、他の店に移ったとき、今度は「本指名」の客として来てくれる。そうなると、給料もぐっと上がる。

「私が店をやっているとき、まあ、ほとんど人に任せていたわけですが……。入店したときは『なんだかあか抜けない子だな』と思っていた子が、しばらくしたらトップ3に入っている。理由を聞いてみたら、『聞き上手で会社の役職付にウケがいい』とかね。言い方は悪いですが、そういう“人たらし”がうまい子はどんどん上にいくようです」

 そうした“人たらし”に魅力を感じるのは客だけではなく、店のスタッフも勘違いしてしまうこともあるのだとか。実際のところ、M氏も心が揺れたことがあるそうだ。

「私の目をじっと見つめて話を聞いている姿を見ているとね。まあ、私も店をやっている頃は若かったし、『もしかして俺のこと……』なんて勘違いをしたこともありました。バカですよね(笑)。でもね、わざと思わせぶりな態度をして店の上層部に気に入られて優遇されようというあざとい子もいるから油断ならない。まあ、そういう疑似恋愛をさせるのが彼女たちの仕事ですからね。しかし、店の総責任者である以上、『彼女たちは店の大切な商品だ』と自分に言い聞かせて、絶対に手を出すようなことはしませんでした」

■熱心な接客に勘違いした客がトラブルを起こす

 キャバクラの世界を舞台にしているドラマ『キャバすか学園』(日本テレビ系)の第5話では、カタブツ(岡田奈々)に惚れた客が、ほかの客に接客する彼女に嫉妬するというエピソードが描かれた。これはまったくのフィクションというわけではなく、キャバ嬢たちの熱心な接客に客が勘違いして起こすトラブルを、M氏は何度も見てきたという。

 やがて店をたたんだ後、M氏はもとからやっていた外商一本に絞った。そして、“自分が関わる店のキャバ嬢には絶対にハマらない”ことを自分のルールにしてきたという。

「今では『おじちゃん』と呼ばれる年齢になりましたが、若い頃はモテたこともあったんですよ(笑)。女の子たちも店のスタッフでもない、客でもない私に対しては素の自分を出せるから、接客しながら話を聞いているうちに、告白めいた言葉を言われたこともありました。でもね、それは結局、普段の寂しさを埋める代償行為のようなもので、そこにつけ込んだら、キャバ嬢に手を出すろくでもない黒服や店長と変わりません。

 あと、『店に来て指名してよ』なんてことを言われたときもありました。そこの経営者にも『うちで稼いでいるんだから、少しは金を落としていけ』とかね(笑)。経営者の方が言っていることは冗談でも、キャバ嬢の方は意外と本気だったかもしれません。でもね、それをすると仕事とプライベートの線引きが曖昧になってしまうし、彼女たちがどれだけ本指名をとるために必死になっているかを知っているから、ひとりの子を指名したら他の子との関係が悪くなりかねないですからね。だから、自分の取引先とはぜんぜん関係ない店に遊びに行き、そこでうっぷんを晴らしていました(笑)」

 キャバ嬢たちの言葉や態度には、常に本音と嘘が入り交じっている。それは、客に疑似恋愛をさせ、ひとときの癒やしを提供するキャバクラという店の性質上、仕方のないことだ。

「私みたいに長く夜の世界に関わっていると、そうした本音と建前が透けて見えてしまうんですよ。同業では店の子にハマって口説き落としたなんて奴もいましたが、この世界で働いていると、女の子の態度の裏にあるドロドロとしたものや、もの悲しさが気になってしまう。ある意味、そんなことを気にせず楽しめていた頃が懐かしくはありますね」

キャバクラ経営者がキャバ嬢にハマらなかった理由 夜の世界の本音と建前

 キャバクラには指名なしで入店し、接客が気に入った子をその場で指名する「場内指名」と、最初から特定のキャバ嬢目当てで来店する「本指名」がある。キャバ嬢たちの時給は「本指名」の数で決まることが多く、だからキャバ嬢たちは「本指名」をとるために懸命に接客し、また、多くの「本指名」を持つキャバ嬢たちは、顧客を逃がさないために必死だ。

 元キャバクラ経営者で、現在はキャバ嬢たちにドレスやスーツを販売する外商のM氏は、「本指名」をとる子たちには共通する特徴があるという。

■かわいい子より熱心な子が人気になる

「ボディタッチが多い、聞き上手、営業メールがうまい、かわいいとか、人気が出る子のタイプはいろいろありますが、正直ね、かわいいかどうかはあんまり関係ないんです。人気が出る子に共通しているのは、熱心さ。本指名がない子は指名なしのフリーの客につき、場内指名を増やしていく場合が多いんですが、その前段階としてマネジャーの話をメモをとりながら熱心に聞く、接客がうまくいかなかったときには、客にどの子をつけるかを決めるつけ回しやボーイに相談して次に生かす、とかね。

 何人か本指名の客を持っていても、フリーやヘルプに回ると途端に不満を持つ子はダメ。そういう気分や態度はスタッフにも客にも伝わるから、本指名が増えません。逆に、熱心な子は金を持っていそうな客につけてもらえるし、トップの子のヘルプに入ったときなんかに、一緒に遊びに来ていた客に気に入られて次は指名してもらえることもありますからね」

 そうして「場内指名」の客をつかんでおけば、他の店に移ったとき、今度は「本指名」の客として来てくれる。そうなると、給料もぐっと上がる。

「私が店をやっているとき、まあ、ほとんど人に任せていたわけですが……。入店したときは『なんだかあか抜けない子だな』と思っていた子が、しばらくしたらトップ3に入っている。理由を聞いてみたら、『聞き上手で会社の役職付にウケがいい』とかね。言い方は悪いですが、そういう“人たらし”がうまい子はどんどん上にいくようです」

 そうした“人たらし”に魅力を感じるのは客だけではなく、店のスタッフも勘違いしてしまうこともあるのだとか。実際のところ、M氏も心が揺れたことがあるそうだ。

「私の目をじっと見つめて話を聞いている姿を見ているとね。まあ、私も店をやっている頃は若かったし、『もしかして俺のこと……』なんて勘違いをしたこともありました。バカですよね(笑)。でもね、わざと思わせぶりな態度をして店の上層部に気に入られて優遇されようというあざとい子もいるから油断ならない。まあ、そういう疑似恋愛をさせるのが彼女たちの仕事ですからね。しかし、店の総責任者である以上、『彼女たちは店の大切な商品だ』と自分に言い聞かせて、絶対に手を出すようなことはしませんでした」

■熱心な接客に勘違いした客がトラブルを起こす

 キャバクラの世界を舞台にしているドラマ『キャバすか学園』(日本テレビ系)の第5話では、カタブツ(岡田奈々)に惚れた客が、ほかの客に接客する彼女に嫉妬するというエピソードが描かれた。これはまったくのフィクションというわけではなく、キャバ嬢たちの熱心な接客に客が勘違いして起こすトラブルを、M氏は何度も見てきたという。

 やがて店をたたんだ後、M氏はもとからやっていた外商一本に絞った。そして、“自分が関わる店のキャバ嬢には絶対にハマらない”ことを自分のルールにしてきたという。

「今では『おじちゃん』と呼ばれる年齢になりましたが、若い頃はモテたこともあったんですよ(笑)。女の子たちも店のスタッフでもない、客でもない私に対しては素の自分を出せるから、接客しながら話を聞いているうちに、告白めいた言葉を言われたこともありました。でもね、それは結局、普段の寂しさを埋める代償行為のようなもので、そこにつけ込んだら、キャバ嬢に手を出すろくでもない黒服や店長と変わりません。

 あと、『店に来て指名してよ』なんてことを言われたときもありました。そこの経営者にも『うちで稼いでいるんだから、少しは金を落としていけ』とかね(笑)。経営者の方が言っていることは冗談でも、キャバ嬢の方は意外と本気だったかもしれません。でもね、それをすると仕事とプライベートの線引きが曖昧になってしまうし、彼女たちがどれだけ本指名をとるために必死になっているかを知っているから、ひとりの子を指名したら他の子との関係が悪くなりかねないですからね。だから、自分の取引先とはぜんぜん関係ない店に遊びに行き、そこでうっぷんを晴らしていました(笑)」

 キャバ嬢たちの言葉や態度には、常に本音と嘘が入り交じっている。それは、客に疑似恋愛をさせ、ひとときの癒やしを提供するキャバクラという店の性質上、仕方のないことだ。

「私みたいに長く夜の世界に関わっていると、そうした本音と建前が透けて見えてしまうんですよ。同業では店の子にハマって口説き落としたなんて奴もいましたが、この世界で働いていると、女の子の態度の裏にあるドロドロとしたものや、もの悲しさが気になってしまう。ある意味、そんなことを気にせず楽しめていた頃が懐かしくはありますね」

キャバクラのルールを破った黒服の末路は? “深くて暗い”悲惨な行方

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Photo by Joshua Rappeneker from Flickr

これまでにも数々のドラマや漫画などの題材になってきたキャバクラだが、10月から放送中のドラマ『キャバすか学園』(日本テレビ系)では、国民的アイドルAKB48とその姉妹グループがキャバ嬢を演じている。“夜の蝶”をモチーフとする作品では、さまざまな人間模様が描かれ魅力的だが、そんな世界の裏側を、業界歴40年の元経営者が明かす。

■黒服は、キャスト以上にルールに縛られている

 一般企業と違い、働き手の自由度が高いように見えるキャバクラの仕事だが、実は店やグループごとにさまざまなルールを設けている。そうしないと、経営が立ち行かなくなるからだ。

「キャスト(キャバ嬢)が連絡もなしに遅刻したら罰金、欠勤したらその日の稼ぎ以上のペナルティを取られる。そのくらいは、どこでもやっています。キャストがしっかり働くよう、店もいろいろ考えます」(風俗ライター)

 しかし、キャバ嬢がいなければ、店は成り立たない。そのため、致命的なルール違反をしない限り、締め付けはそれほど厳しくない。どちらかといえば、キャバ嬢よりも厳しいルールが課せられているのは黒服たちだと、水商売の女性たちにドレスやスーツを売る外商として約40年働くM氏は語る。

「私たちの仕事は、キャバ嬢たちの空き時間に商品を売るわけですが、商品に夢中になって、なかなか店に戻らない子もいるんです。そんなとき、黒服の子たちが呼びにくるんですが、いろんなタイプがいますよ。『〇〇さん、指名なんで、店に戻ってください』などと言う穏やかなタイプもいれば、『早く戻れよ』と怒鳴りつける乱暴な奴もいる。私に対しても『外商風情が、店の邪魔すんなよ』と、あからさまに邪魔者扱いしてくる奴もいます(笑)。でもこっちもそんな態度は慣れっこだし、店の経営者と話をつけて商売しているし、大概後で怒られるのは向こうですからね」

 自分の子供より年下の黒服に無礼な態度を取られたら頭にきそうなものだが、M氏は腹も立たないという。そんな連中も働き続けるうちに態度を改めるし、外部の人間にそんな態度を取っている連中は、自然と店から消えていくからだという。

「キャストの子たちもいろんなルールに縛られていますが、それ以上に、黒服の子たちはルールに縛られています。接客、女の子への態度、フロア内での振る舞い方とかね。上の人間がまともなら、外部の人間への礼儀がしっかりしていない奴は排除されます。そういう奴って、だいたい女の子への態度も悪いから嫌われるし、女の子との信頼関係がないと、言うことを聞かせられませんから。かといって、恋愛感情を持ってはいけないし、持たれてもいけない。なかなかつらい立場だと思いますよ」

■店内での色恋沙汰は、キャバクラ最大のタブー

 黒服とキャストの恋愛は、ご法度。よく聞く言葉だが、本当にあることなのだろうか? 男たちを手玉に取るキャバ嬢たちが、そう簡単にひとりの男になびくとは考えにくいのだが……。

「キャバ嬢たちは、何かとストレスを感じることが多いんです。嫌な客とか、プライベートの恋愛がうまくいっていないとかね。キャバ嬢だって女の子ですから、そんな弱っているときに親身になって話を聞いてくれた相手には、つい心を開いてしまう。そこにつけ込んで色恋沙汰に発展したら、ルール違反になりますが……でもね、女の子の客のテーブル間の移動を指示するつけ回し(フロアマネジャー)とかになるなら、女の子に惚れられるくらいじゃないとダメなんです。その加減が難しいんですよ」(M氏)

 もし、その加減を間違えたら、キャバクラで最大のタブーである色恋沙汰に発展することもある。そうした場合、厳しいペナルティが科せられる。

「キャストに手を出したら罰金です。この話は有名ですよね。額は店によって違うと思いますが、だいたい100万円くらいかな? 法外な値段ですが、これは絶対にやらせないために、高額にしているんです。店内に彼氏、彼女がいたら、仕事に支障が出ますから。それでも、デキちゃう連中はいるんですが、うまくいっているときはいいけど、ケンカなんかしたら最悪です。前に、ケンカしたままお互い出勤して、客の前で言い争いをしたなんてバカップルもいました(笑)」(同)

 当然、その黒服とキャストにはペナルティが科せられ、黒服は店を異動することに。しかし、それはまだいい方だとM氏は言う。

「昔、オーナーがそっち系の店で、バカな黒服がオーナーの愛人だったキャストに手を出した。数日後、その黒服は、店から姿を消していました。マネジャーに聞いてみたら『罰金を払うために、別の場所で働いている』と、そして『しばらく女を抱く気にならないだろう』と苦笑いしていました。具体的に何をしたのかは、さすがに聞けませんでしたよ。今でこそ、そういう連中がオーナーの店は減りましたが、なくなったわけではありません。それに、逃げたとしても追い込みが厳しいから、それをわかっていてルールを破るバカは少ないです」(同)

■大きなトラブルを起こした者の素性は、業界中に知れ渡る

 ただ、少ないとはいえ、ルール違反を犯す者はいまだにいるらしい。ルールを破り続けた黒服には、どんな末路が待っているのだろうか?

「あちこちで色恋が絡むトラブルを起こす奴や、金絡みのトラブルを起こした奴は、グループ店なら全店舗で、従業員としても客としても出入り禁止になります。それにね、この業界は、横のネットワークが意外に強いんですよ。店同士の交流がなくても、何か大きなトラブルを起こした奴の素性は、たちまち知れ渡ります。悪質な奴の場合、別のキャバクラはもちろん、キャバレーや風俗、夜の商売の店では働けなくなるし、全国にお達しが回ることも少なくありません。そうなったら、この業界から足を洗うしかなくなります。それでも、ヒモになってしぶとく生きている奴もいますが、この商売しかやったことがない奴にとっては致命傷でしょう。なんでもありに見えるかもしれませんが、夜の商売のルールは、一般の人が思っている以上に厳しいんです」(M氏)

 ルールを破り、夜の街から消えていった男たちを、M氏は大勢見てきたという。どんな仕事でも、ルールという枠を超えたら、悲惨な末路が待っている。しかし、夜の商売のルールを破った者の末路は、一般の仕事のルールを破った者より、深くて暗いようだ。

売り上げをごまかす社長、キャストに手を出す黒服……元キャバクラ経営者が見た夜の世界の裏側

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Photo by shibainu from Flickr

 カリスマキャバ嬢のメディアへの進出、また、ホストクラブがドキュメント番組に取り上げられる機会も増え、最近では夜の世界もクリアになってきたように思える。

 しかし、その一方で経営に失敗して借金を抱える経営者、その世界特有の人間関係で心身を壊すスタッフもいる。また、表の社会も同じだが、金が集まるところには、金目当ての悪い連中も集まってくる。

■店を任せた社長に金をごまかされていた

「夜の業界には、相手を騙してでも金をせしめようとする連中はいますよ。それは昔も今も変わりません」

 そう話すのは、夜のお店でドレスやスーツを販売する外商のM氏。かつてM氏は本業のかたわら、2店のキャバクラを経営したことがある。

「1人で立ち上げたわけではなく、こういう仕事柄、夜の業界の人間とも関係があるから、そのつてで店を開くことになったんです。1軒目は渋谷、2軒目は新橋でした。女の子も2つの店を合わせて60人くらいは雇っていました。いいときは、売り上げもまあまあいきましたよ」

 本業で懇意にしていた夜の業界の人々のバックアップもあり、オープンしてしばらくは店の状態は順調だった。しかし、数カ月もたつとほころびが出始めたという。

「それなりに利益は上がっていましたが、私も本業があったから、店は一緒に立ち上げた奴に任せていたんです。私がオーナー、そいつが社長という形でね。夜の店を開く場合、どんな形にせよ裏社会の連中と付き合う必要があります。漫画やドラマの中の話みたいでしょう(笑)。でもね、その土地を仕切っているヤクザから、みかじめを請求されるんですよ。裏についてやる代わりにってね。私は極力そういう連中との付き合いを避けるよう社長にも言っていたんですが、裏で金を渡していましてね。気がついたときには、ずぶずぶの関係になっていました」

 今でも夜の業界と裏社会は切っても切れない関係で、M氏も店を守るためならと、それを容認したという。しかし、最高責任者に話を通さず、現場の判断で重要事項を決めた、そのこと自体が問題だったと振り返る。

「自分以外の人間に店を任せるなら、信頼できる人間にする。そんな人間がいないなら、自分で店を管理する。この業界はそれが鉄則です。私は店の経営をその社長に任せていたから、大まかな金の動きは知っていても、その日何人客が来て、何を飲んでいくらずつ支払ったとか、卸業者にそれぞれいくら支払ったかとか、現場レベルの細かい金の動きは知りませんでした。そんな状態なら、その社長や経理担当がグルになって売り上げをごまかしていても気づきませんよね。後になって、百万単位で金をちょろまかされていたのを知りました」

■店のスタッフがキャストの女の子に二股をかけ刃傷沙汰に

 社長も含め、ルールを破ったスタッフは厳しく罰したM氏だが、スタッフの勝手な振る舞いはM氏のいないところで続き、やがて男女間のトラブルも頻発するようになったという。

「こういう店に来る客は、女の子と楽しくおしゃべりして酒が飲みたいという人がほとんどです。しかし、中には仕事で嫌なことがあって、その愚痴をこぼしに来る客もいます。キャバクラとか、風俗なんかもそうですが、心が病んでしまう女の子がけっこう多いんですよ。客の中にあるドロドロしたものを受け止めるわけですからね。そんなことを毎日していたら、心が疲れてしまうのは仕方がないことだと思います。そういうとき、黒服がフォローしてあげるべきなんですが、弱ったところにつけ込むような奴もいるんです」

 夜の業界に共通するルールとして、金を稼いでくれるキャストの女の子に男性スタッフが手を出すのは最大級のタブーだ。M氏によれば「さすがに東京湾に沈めることはしません」とのことだが、このルールを破ったスタッフは店を追い出されるのはもちろん、悪質なら夜の業界から追放されることもあるという。

「うちの場合、1人とできちゃうならまだしも、店の中で二股をかけていた奴がいましてね。表沙汰にはしませんでしたが、刃傷沙汰になったこともありました。そんなことが起きると私もスタッフを信じられなくなるし、店の雰囲気も悪くなる。店の雰囲気が悪くなると客も寄り付かなくなる……。どんどん悪い方向に向かっていったんです。女の子やスタッフの給料などの店の維持費、みかじめ料で毎月数百万はかかりますから、傷が深くなる前に、1周年を待たずに店をたたみました。オープン資金として投資した600万円ほどの金は取り戻せませんでしたが、その程度で済んだので良かったと思います」

■不義理をした相手に「出資して」と笑う元社長

 店をたたむ際に、社長が売り上げを持ち逃げしようとしたが、それは未然に防ぐことができたという。その社長はM氏の前から姿を消したが、つい最近、歌舞伎町でばったり出会ったという。

「私ならそんな不義理をした相手と出くわしたら、合わせる顔なんてないですけどね。そいつ、何て言ったと思います? へらへら笑った後、『今度店を出すから出資してよ』ですよ。宇宙人と会話をしている気分になりました。思い返してみれば、スタッフの中には真面目な奴もいましたが、トラブルを起こす奴はその社長みたいに、金とか欲望に目がくらんだ、歪んだ顔をしている奴らばかりでした。懇意にしている店のオーナーが、『店を持たせてやる』と言ってくれることもあるんですが、金目当てにすり寄って来る、ああいう連中と付き合うのはもうこりごりです。金は堅実に稼ぐのが一番ですよ」

 最近のキャバクラは企業化が進み、ルール違反は厳しく罰している。しかし、M氏が経験したようなトラブルは、そこかしこから聞こえてくるという。「何よりも怖いのは人」よく使われる言葉だが、欲望というドロドロしたものが浮き彫りになる夜の業界で生きる人々は、誰よりもその言葉を実感しているようだ。

夜のファッション業界の栄枯盛衰 ゴルフ会員権が運命の分かれ目

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Photo by Jun K from Flickr

 長らく続く不況は、アパレル業界にも大きな影響を与えている。老舗のブランドも規模を縮小し、小さいメーカーになると会社をたたむことも。しかし、夜の店で働く女性たちに衣装を販売する外商として40年近く働くM氏によれば、バブルがはじけたときにはもっとひどく、それこそ天国から地獄に落ちた経営者も少なくないという。

 日本全体がバブル景気という熱に浮かされていた時代、アパレル業界も例外ではなく、消費者は自分のステイタスを高めるために、こぞって高級ブランドを買いあさった。また、キャバ嬢たちも上客をつかもうと、「ほかの子が着ていない服」を買うため金に糸目をつけず、M氏もずいぶんいい思いをさせてもらったと当時を振り返る。

「バブル期のアパレル業界、特にお水のスーツやドレスを扱っているメーカーの羽振りは、半端ではありませんでした。100万円以上する毛皮のコートが月に何枚も売れたこともありましたからね。私みたいな末端の販売業者でも、月の売り上げが数百万も珍しくもなかったから、メーカーがどれだけ儲けていたかは想像がつくと思います。内装をエルメスやヴィトンに別注した高級車に乗る経営者もたくさんいました。夜の商売の服を作るメーカーには遊び好きが多かったから、毎日のようにキャバレーで遊んで、『このボトルを一気に空けたら100万円やる』なんて金をばらまいていました」(M氏)

 しかし1991年、永遠に続くと思っていたバブル景気は突然終わり、多くの企業が破たんした。1,000人近い女性を揃えていた大型キャバレーも規模を縮小してキャバクラへと変わり、キャバレーの女性たちが主な顧客だったアパレルメーカーも、バタバタと潰れていった。

「仲間内での笑い話で、タクシー運転手の待合所に行って『社長!』と呼ぶと半分以上振り返るなんて話がありましてね(笑)。ああいう業界で生きてきた人は普通の会社に馴染めないことが多くて、基本的に1人で業務を行い、収入もいいタクシー運転手になることが多いんです。借金を踏み倒して行方をくらました社長もいたし、奥さんに愛想を尽かされて家を追い出されて、面倒を見ていた愛人のところに転がり込んだけど、愛人にも見捨てられたなんていう、漫画みたいなことになった社長もいます」(同)

 笑える話がある一方で、笑えない話もある。

「自殺した経営者もたくさんいました。私も付き合いのあった社長とまったく連絡が取れなくなって、懇意にしていたその会社の社員と社長の家に行ったら、社長が天井からぶら下がっていたことがありました」(同)

 バブル崩壊で多くの人を破産させた投資先として、真っ先に思いつくのが不動産だ。「土地の値段は下がらない」という根拠のないうわさに踊らされた多くの人々が、とんでもない僻地の土地を高額で買い、バブル崩壊とともに破産した。しかしM氏によれば、夜のアパレル業界の経営者を破綻させたのは不動産ではなく、ゴルフの会員権だという。

「今でこそゴルフはカジュアルな趣味になりましたが、あの頃のゴルフはとても敷居の高いスポーツでした。最近は日曜日でも1万円ほどで回れますが、あの頃、1ラウンド5万円はかかりましたからね。しかし、アパレルメーカーの人たちが気にしていたのは、値段ではなくステイタスです。地方よりも都内近郊のゴルフ場の会員権を欲しがって、最盛期には6,000万円もする会員権を、投資目的でいくつも買ったという社長もいましたよ。そこに女性を連れて、高級車で乗り付けるのがかっこよかったんです。私ですか? もちろん買いましたよ、付き合いで。でも、東京近郊は高くて手が出せなくて、関東の端っこにあるゴルフ場の会員権を買いました。それでも、うれしくてね、何時間もかけて通いました」(同)

 しかし、バブル崩壊とともにゴルフの会員権の価格も暴落。リッチな人々のステイタスだったゴルフ会員権は、ただの紙切れになってしまった。

「いつの時代も悪い奴がいてね、そういう奴らに『これからどんどん価値が上がるから、いらなくなれば売ればいい。投資目的だと思えばいい』と騙された社長がたくさんいました。そして、バブルが崩壊したときには、そいつは行方をくらましていました。さっき話した首を吊った社長も、そうやって何口も会員権を買っていた1人です。私たちの世代にはゴルフ好きが多いから、ゴルフ会員権と聞くと、ついほしくなってしまうんですよ。表沙汰にはなりませんが、今でも会員権絡みのトラブルはあるようですよ」(同)

 M氏によれば、バブルを生き抜いたのは「バブルの熱に浮かされずに将来のことを考えてブランドを強化し、無謀な投資をしなかった会社」だけだという。それは、夜の業界専門メーカーだけでなく、一般のアパレルメーカーも同様だ。そうはわかっていても、共にバブル期の恩恵を受けた仲間が落ちぶれた姿を見たり、亡くなった仲間のことを思い出したりすると、胃の底が重くなるような気分になるという。

 夢のような好景気を味わった“バブル世代”をうらやむ人、懐かしむ人は多い。しかし、その陰には、バブルの犠牲になった多くの人々がいることを忘れてはいけない。