明石家さんまが企画・プロデュース、主演は大竹しのぶ、木村拓哉と工藤静香の長女・Cocomiが声優デビューと、なにかと話題のアニメ映画『漁港の肉子ちゃん』が6月11日に公開された。
本作は、直木賞作家・西加奈子氏の同名ベストセラー小説(幻冬舎)を原作とし、船で暮らすワケアリ母娘の肉子ちゃん(大竹)とキクコ(Cocomi)を中心に、港町で暮らす人々の日常を描いた物語だ。
名作を映像化する際、原作ファンからを中心に、ネット上にはさまざまな反響が寄せられる。コロナ禍の中、映画館の休業や作品の公開延期が相次ぐなど、映画業界は暗いニュースが続いているだけに、そんな中でも作品の“中身”が話題になるのは、制作陣にとってはある意味うれしいことかもしれない。
だが、その「話題」は純粋な作品への評価や興味からくるものとは限らない。今作の情報解禁時、ネット上には「原作大好きだから、映画化はうれしい!」「劇場で見るの楽しみ」と喜びの声が寄せられた一方で、「なぜこのスタッフ、キャストで?」と、批判的な声も多数上がっていた。そもそも、さんまプロデュース作品の主演に、元妻の大竹がキャスティングされている時点で、制作サイドが“話題性”に重きを置いている様子がうかがえる。
さらに、声優経験はおろか、演技経験もないCocomiの起用には、「さんまが木村と仲良いから、出演がかなったのでは?」と、世間から疑問の声が上がるのも無理はないだろう。そのほかの出演陣も、吉岡里帆、マツコ・デラックスといった人気芸能人と、花江夏樹、下野紘という一大旋風を巻き起こしたアニメ『鬼滅の刃』出演声優を起用するなど、「話題だらけ」の作品なのだ。
映画公式サイトを見ると、「母娘の愛がテーマの感動ハートフルコメディ」と銘打っているが、果たしてそのテーマに見合うだけの作品になっているのだろうか。怖いもの見たさで実際に映画館に足を運んでみた。
真のヒロインを演じたCocomiの実力は……
今作は、「第23回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞」を受賞した『海獣の子』(2019)の渡辺歩監督と、興行収入20億円を超えるヒットを記録した『えんとつ町のプペル』(20)を手掛けたアニメ制作会社・STUDIO4℃のタッグということで、映像は目を奪われる美しさがあった。漁港の街と、Cocomi演じる娘・キクコの目に映る日常を鮮やかに描いており、視界いっぱいに広がる映像美に引き込まれる。
『漁港の肉子ちゃん』というタイトルながら、この作品の真のヒロインはキクコだ。冒頭の美しい映像に引き込まれた後、キクコのモノローグで物語はスタートする。
しかし、そこで物語と視聴者の間に距離ができる。映像に目を奪われているからか、そのモノローグが頭に入ってこないのだ。Cocomiは、“キムタクの娘”という抜群のネームバリューがあるが、前述の通り、声優としての実績は皆無。アニメオタクで中学生のころに声優養成所に通ったこともあるらしいが、ヒロインを演じるには実力不足に思えた。
毎年新作が作られるような、国民的アニメのゲスト声優としてなら、彼女の起用はありかもしれない。しかし、冒頭のモノローグの時点で、このキクコという役がCocomiである必要はないと思わされた。
物語の“象徴”ともいえる肉子ちゃん役の大竹しのぶがコミカルな演技をやり切っているだけに、よく言えば「ナチュラルな演技」、しかし悪く言えば「素人演技」であり、主演と並ぶと、物足りなさが際立ってしまう。
スタジオジブリ出身の小西賢一氏がキャラクターデザインということで、所々にジブリを思わせる描写が見られ、ファンタジー色の強い物語のようにも感じた。肉子ちゃんのコミカルな動きや、なぜか言葉を話すトカゲやヤモリ、セミやカモメなど、世界観も実にそれっぽい。しかし、ファンタジーな描写とは裏腹に、小学5年生のキクコという少女を通して生々しい世界が描かれる。
印象的だったのが、学校における女子特有のコミュニティ内で起こる“いざこざ”だ。小学生だとしても、女子同士が集まるだけで何かしらの問題が起こってしまうもの。誰が悪口を言っていた、生意気だと思う、かわいい、かわいくない……と、お互い必死に自分の立場を守ろうとする。波風を立てたくないキクコは、のらりくらりとこの問題をかわすが、友人・マリア(石井いづみ)がうまく対処できずに孤立してしまう。女子なら誰もが経験したことがあるだろう、リアリティあふれるシーンだ。
特に、キクコが気にかけている男子・二宮(花江)がマリアを褒めた時に出たキクコの言葉には、“女子の本音”が色濃く表れており、その後に取った彼女の行動もまた、女子の中に存在する“矛盾”をよく表しているように感じられた。
学校内の描写がやけに生々しかっただけに、メインとなる肉子ちゃんとキクコの親子関係に関する展開には、物足りなさを感じた。肉子ちゃんの回想とキクコとの対話は突然始まるし、BGMをはじめとした演出のあおりもあり、「ここが感動するシーンですよ!」と明示されているような気がして、鼻白んでしまう。
また、そこかしこに潜む「さんま節」が気にかかる。このノリ面白いだろ、これ感動するだろ、これだけ豪華にしたんだからすごいだろ、これが今はやってるだろ……という意図が透けて見えてしまっていた。過剰な装飾と言わざるを得ない。もっともっと、良い作品になったはずなのに、どこまでもさんまの名前がチラついてしまった。
とはいえ、豪華な出演陣で話題性が高いことは間違いない。多くの人が映画館に足を運び、コロナで困窮する映画界の活性化につながってほしい。原作未読だったのをいいことに、これからあらためて『漁港の肉子ちゃん』の世界に飛び込み、まっさらな目で物語を楽しみ、自分の脳内で最高のキャスティングをしたいと思う。
三澤凛(みさわ・りん)
劇場アニメはもちろん、毎クールの深夜アニメもくまなくチェックしている大のアニメ好きライター。最近は『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』にドはまりしている。


