ビートたけしのバイク事故、又吉直樹の芥川賞……ラリー遠田『教養としての平成お笑い史』

 3月15日、お笑い評論家のラリー遠田の著書『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)が出版された。この本では、「ビートたけしバイク事故」「又吉直樹、芥川賞受賞」など14の事件を題材にして、平成のお笑いの歴史を振り返っている。お笑いにおける平成とはどんな時代だったのか? 著者であるラリー遠田氏にインタビューを行った。

――この本を書こうと思ったきっかけは?

ラリー ディズカヴァー・トゥエンティワンの編集の方から「本を書きませんか」とお誘いを頂いたので、どんなことを書くか話し合うことにしました。その打ち合わせの場で「平成が終わろうとしている時期なので、平成のお笑いを振り返るというテーマがいいのではないか」という話になりました。

 ただ、その時点では、具体的にどういう切り口で書けばいいのかということが見えていませんでした。例えば、平成のバラエティ番組を列挙していくことで平成お笑い史を概観することはできるのかもしれませんが、それだと普段テレビを見ない人はあまり興味を持てないかもしれないと思いました。

 また、「この時期に天下を取ったのは誰々である」というような形で、芸人の覇権争いを歴史としてまとめる、というのも考えましたが、実は平成というのはそうやってまとめるのに向かない時代なんですよね。芸人の数が圧倒的に増えているので、その歴史を単純な図式で説明するのが難しいのです。

 そこでいろいろ考えた末、「事件」という切り口が思い浮かびました。私はもともとお笑いに限らず歴史に興味があり、特に「事件」というものが好きなんです。事件を軸にして、そこに関連する芸人や当時の時代背景などを絡めて書いていけば、内容としてまとまりやすいし、多くの人に興味を持ってもらうことができるのではないかと思いました。

――本書に収録されている14のテーマはどういうふうに選んだのですか?

ラリー 事件とひとくちに言っても、日本中を騒がせたような大事件もあれば、お笑い界内部のちょっとした出来事もあります。この本ではその両方を取り上げています。

 選ぶ基準としては、時代を象徴する出来事であるかどうか、ということですね。例えば、1992年に明石家さんまさんが女優の大竹しのぶさんと離婚してしまったという事件があります。これは、お笑いの歴史においては、さんまさんが結婚したことで守りに入り、スランプに陥った時期として知られています。

 一方、2人の結婚生活が破綻した原因を読み解いていくと、さんまさんが大竹さんに子育てに専念してもらうことを望んでいて、女優業を続けたかった大竹さんとの間に溝ができた、という事実が浮かび上がってきます。

 平成の初期にはまだ子持ちの女性が仕事と育児を両立させるような働き方は一般的ではなかった、という時代背景がここにはあります。このように、1つの事件がお笑い史において重要であり、それ以外の意味でもその時代を象徴するものである、ということをテーマ選びの基準にしました。

――14のテーマの中で特に思い入れのあるものはありますか?

ラリー 「スリムクラブ『M-1』で放射能ネタ」です。これ自体は、たぶん多くの人にとっては「そんなことあったっけ?」というレベルのことで、特に事件として取り上げるほどのことではないと思われるかもしれません。

 でも、私としては、あの時代のことを描くにはちょうどいい素材になると思ったんですね。2010年12月26日に行われた『M-1グランプリ』の決勝で、スリムクラブは「放射能」という単語を笑いどころとして取り入れた漫才で大爆笑を取り、準優勝を果たしました。当時の日本ではまだ「放射能」という単語が笑いになりうる言葉だったのです。

 ところが、その約3カ月後の2011年3月11日、東日本大震災が起こり、原発事故を含む未曾有の大災害で日本中に衝撃が走りました。「放射能」という単語で気軽に笑っていた過去は、もう二度と取り戻せない過去になってしまったわけです。その時代の空気を描くためにあえてこの出来事を取り上げることにしました。

――執筆にあたって苦労したことはありますか?

ラリー 平成初期の事件は、自分自身が当時まだ子供だったので、直接の体験としてはあまり印象に残っていません。でも、昔の出来事は資料が豊富にあるので、事件の概要はつかみやすいんです。

 一方、最近の事件は、私自身もお笑い好きの読者も誰もが知っていることです。でも、新しい出来事なのでそれをどう解釈すべきかという評価がまだ定まっていない、という難しさがあります。昔のことも最近のことも、書くときにはそれぞれに考えるべきところはありました。

――お笑いに関して言うと、平成とはどういう時代だったのでしょうか?

ラリー テレビに限定して言うなら「昭和に確立されたバラエティ番組の作り方が完成されて、行くところまで行った時代」ということになると思います。その象徴が2014年の『笑っていいとも!』(フジテレビ系)終了です。あの番組の最終回特番で、大物芸人たちの豪華共演が話題になりましたが、昭和の時代から続いたバラエティ番組の歴史は、あそこでいったん大団円を迎えたのではないかと思いました。

 例えば、ダウンタウンととんねるずの共演自体が話題になるのは、彼らがそれだけ強い存在感を持ったスターだったからです。それより下の世代の芸人では、誰と誰が共演してもそれほどの驚きはありません。

 今後も、時代に合わせて面白いバラエティ番組はたくさん出てくるとは思いますが、『笑っていいとも!』や『オレたちひょうきん族』(同)のような番組はもう出てこないかもしれない。あの場面を見ていてそういう意味での「終わり」を感じました。

 本書で取り上げている14の事件の中で、最近の事件である「又吉直樹、芥川賞受賞」と「ピコ太郎『PPAP』が世界中で大ヒット」だけは、地上波テレビの枠の外で起こった事件なんですよね。この2つに象徴されるように、テレビの外側の世界で芸人が活躍する事例は今後も増えていくと思います。

――ラリーさん自身は平成時代にどんなお笑いを見てきたんでしょうか?

ラリー 私自身は、中高生の頃に『ごっつええ感じ』(同)や『ガキの使いやあらへんで!!』(日本テレビ系)を見てダウンタウンにハマった典型的なダウンタウン世代のお笑いファンです。それまでにもドリフや志村けんやビートたけしやウッチャンナンチャンの番組は好きで見ていましたが、ダウンタウンの笑いの感覚はそれらとは根本的に違っていた。そこに衝撃を受けました。

――ちなみに、時代が昭和から平成に変わったときのことは覚えていますか?

ラリー 小学3年生だったのでうっすらと覚えています。テレビからCMやバラエティ番組がすべて消えて、たしか延々と皇居のお堀の映像みたいなのが映し出されていたような記憶があります。テレビ全体が喪に服している感じが印象に残っています。2011年の東日本大震災のときにもそうやってテレビが一色に染まる状態になり、そのときのことを思い出しました。

――本書をどういう人に読んでほしいですか?

ラリー 昭和生まれの人たちはもちろん、平成生まれの若い人たちにも読んでもらいたいですね。本書の担当編集者は平成生まれなので、この本の前半で書かれている出来事はほとんど知らないようでした。そういう人が読むと「こんなことがあったのか」と新鮮な感覚で楽しんでもらえると思います。

 この本に載っているようなお笑い史に残る事件は、お笑いファンにもそうではない人にも共通の話題として興味を持ってもらえるものだと思います。ぜひ多くの人に読んでいただきたいですね。
(取材・文=編集部)

●ラリー遠田
1979年生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社を経て、ライター、お笑い評論家として多方面で活動。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務める。

ビートたけしのバイク事故、又吉直樹の芥川賞……ラリー遠田『教養としての平成お笑い史』

 3月15日、お笑い評論家のラリー遠田の著書『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)が出版された。この本では、「ビートたけしバイク事故」「又吉直樹、芥川賞受賞」など14の事件を題材にして、平成のお笑いの歴史を振り返っている。お笑いにおける平成とはどんな時代だったのか? 著者であるラリー遠田氏にインタビューを行った。

――この本を書こうと思ったきっかけは?

ラリー ディズカヴァー・トゥエンティワンの編集の方から「本を書きませんか」とお誘いを頂いたので、どんなことを書くか話し合うことにしました。その打ち合わせの場で「平成が終わろうとしている時期なので、平成のお笑いを振り返るというテーマがいいのではないか」という話になりました。

 ただ、その時点では、具体的にどういう切り口で書けばいいのかということが見えていませんでした。例えば、平成のバラエティ番組を列挙していくことで平成お笑い史を概観することはできるのかもしれませんが、それだと普段テレビを見ない人はあまり興味を持てないかもしれないと思いました。

 また、「この時期に天下を取ったのは誰々である」というような形で、芸人の覇権争いを歴史としてまとめる、というのも考えましたが、実は平成というのはそうやってまとめるのに向かない時代なんですよね。芸人の数が圧倒的に増えているので、その歴史を単純な図式で説明するのが難しいのです。

 そこでいろいろ考えた末、「事件」という切り口が思い浮かびました。私はもともとお笑いに限らず歴史に興味があり、特に「事件」というものが好きなんです。事件を軸にして、そこに関連する芸人や当時の時代背景などを絡めて書いていけば、内容としてまとまりやすいし、多くの人に興味を持ってもらうことができるのではないかと思いました。

――本書に収録されている14のテーマはどういうふうに選んだのですか?

ラリー 事件とひとくちに言っても、日本中を騒がせたような大事件もあれば、お笑い界内部のちょっとした出来事もあります。この本ではその両方を取り上げています。

 選ぶ基準としては、時代を象徴する出来事であるかどうか、ということですね。例えば、1992年に明石家さんまさんが女優の大竹しのぶさんと離婚してしまったという事件があります。これは、お笑いの歴史においては、さんまさんが結婚したことで守りに入り、スランプに陥った時期として知られています。

 一方、2人の結婚生活が破綻した原因を読み解いていくと、さんまさんが大竹さんに子育てに専念してもらうことを望んでいて、女優業を続けたかった大竹さんとの間に溝ができた、という事実が浮かび上がってきます。

 平成の初期にはまだ子持ちの女性が仕事と育児を両立させるような働き方は一般的ではなかった、という時代背景がここにはあります。このように、1つの事件がお笑い史において重要であり、それ以外の意味でもその時代を象徴するものである、ということをテーマ選びの基準にしました。

――14のテーマの中で特に思い入れのあるものはありますか?

ラリー 「スリムクラブ『M-1』で放射能ネタ」です。これ自体は、たぶん多くの人にとっては「そんなことあったっけ?」というレベルのことで、特に事件として取り上げるほどのことではないと思われるかもしれません。

 でも、私としては、あの時代のことを描くにはちょうどいい素材になると思ったんですね。2010年12月26日に行われた『M-1グランプリ』の決勝で、スリムクラブは「放射能」という単語を笑いどころとして取り入れた漫才で大爆笑を取り、準優勝を果たしました。当時の日本ではまだ「放射能」という単語が笑いになりうる言葉だったのです。

 ところが、その約3カ月後の2011年3月11日、東日本大震災が起こり、原発事故を含む未曾有の大災害で日本中に衝撃が走りました。「放射能」という単語で気軽に笑っていた過去は、もう二度と取り戻せない過去になってしまったわけです。その時代の空気を描くためにあえてこの出来事を取り上げることにしました。

――執筆にあたって苦労したことはありますか?

ラリー 平成初期の事件は、自分自身が当時まだ子供だったので、直接の体験としてはあまり印象に残っていません。でも、昔の出来事は資料が豊富にあるので、事件の概要はつかみやすいんです。

 一方、最近の事件は、私自身もお笑い好きの読者も誰もが知っていることです。でも、新しい出来事なのでそれをどう解釈すべきかという評価がまだ定まっていない、という難しさがあります。昔のことも最近のことも、書くときにはそれぞれに考えるべきところはありました。

――お笑いに関して言うと、平成とはどういう時代だったのでしょうか?

ラリー テレビに限定して言うなら「昭和に確立されたバラエティ番組の作り方が完成されて、行くところまで行った時代」ということになると思います。その象徴が2014年の『笑っていいとも!』(フジテレビ系)終了です。あの番組の最終回特番で、大物芸人たちの豪華共演が話題になりましたが、昭和の時代から続いたバラエティ番組の歴史は、あそこでいったん大団円を迎えたのではないかと思いました。

 例えば、ダウンタウンととんねるずの共演自体が話題になるのは、彼らがそれだけ強い存在感を持ったスターだったからです。それより下の世代の芸人では、誰と誰が共演してもそれほどの驚きはありません。

 今後も、時代に合わせて面白いバラエティ番組はたくさん出てくるとは思いますが、『笑っていいとも!』や『オレたちひょうきん族』(同)のような番組はもう出てこないかもしれない。あの場面を見ていてそういう意味での「終わり」を感じました。

 本書で取り上げている14の事件の中で、最近の事件である「又吉直樹、芥川賞受賞」と「ピコ太郎『PPAP』が世界中で大ヒット」だけは、地上波テレビの枠の外で起こった事件なんですよね。この2つに象徴されるように、テレビの外側の世界で芸人が活躍する事例は今後も増えていくと思います。

――ラリーさん自身は平成時代にどんなお笑いを見てきたんでしょうか?

ラリー 私自身は、中高生の頃に『ごっつええ感じ』(同)や『ガキの使いやあらへんで!!』(日本テレビ系)を見てダウンタウンにハマった典型的なダウンタウン世代のお笑いファンです。それまでにもドリフや志村けんやビートたけしやウッチャンナンチャンの番組は好きで見ていましたが、ダウンタウンの笑いの感覚はそれらとは根本的に違っていた。そこに衝撃を受けました。

――ちなみに、時代が昭和から平成に変わったときのことは覚えていますか?

ラリー 小学3年生だったのでうっすらと覚えています。テレビからCMやバラエティ番組がすべて消えて、たしか延々と皇居のお堀の映像みたいなのが映し出されていたような記憶があります。テレビ全体が喪に服している感じが印象に残っています。2011年の東日本大震災のときにもそうやってテレビが一色に染まる状態になり、そのときのことを思い出しました。

――本書をどういう人に読んでほしいですか?

ラリー 昭和生まれの人たちはもちろん、平成生まれの若い人たちにも読んでもらいたいですね。本書の担当編集者は平成生まれなので、この本の前半で書かれている出来事はほとんど知らないようでした。そういう人が読むと「こんなことがあったのか」と新鮮な感覚で楽しんでもらえると思います。

 この本に載っているようなお笑い史に残る事件は、お笑いファンにもそうではない人にも共通の話題として興味を持ってもらえるものだと思います。ぜひ多くの人に読んでいただきたいですね。
(取材・文=編集部)

●ラリー遠田
1979年生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社を経て、ライター、お笑い評論家として多方面で活動。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務める。

池江璃花子選手、堀ちえみさん……有名人から「がん公表」を受けた我々が“すべきでないこと”

 2月12日、競泳女子・池江璃花子選手が、自身のTwitterで「白血病」と診断されたことを明かし、世間に衝撃が走った。2020年の東京五輪でメダル獲得を目指す中、18歳という若さで白血病に冒された池江選手に、多くの人がショックを受け、励ましの言葉を送る中、アメリカ在住のがん研究者である大須賀覚氏のツイートが注目を集めた。

「池江選手の報道を見ると、日本でがんを公表する難しさを感じます。公表すると患者は『善意の攻撃』を受けてしまいます。皆さんが心から良くなって欲しいと願う気持ちは分かります。しかし科学的根拠のない治療を勧められたり、『絶対に治る』のような根拠のない励ましは患者に負担となることもあります」

 このツイートは大きな反響を呼ぶとともに、人々が、あらためて「がん公表をめぐる世間の反応」について考える契機となった。

 同19日には、タレントの堀ちえみさんがステージ4の口腔がん(舌がん)を公表。がん発覚の経緯や治療の経過、闘病の葛藤など、随時ブログを通して発信しており、多くの人がその動向を見守っているが、有名人のがん公表やがんに関する情報発信を、我々はどう受け取るべきなのだろうか。今回、大須賀氏に見解をQ&A方式で寄稿していただいた。

【Q1】有名人のがん公表や情報発信から、我々は何を受け取るべき?
【A】「“真剣”に病気のことを考えるきっかけになる」

 有名人のがん公表は、がんについて勉強する良い機会なので、報道を介して病気への理解を深めてもらいたいと思います。

 皆さん、がんという病気について詳しく勉強する機会を持つことは多くないので、どのような病気があって、どのような症状で発見されて、どのような治療がなされて、どのような経過をたどるのかを知ることができる点では、情報発信も貴重なのではないでしょうか。

 ただ、これには報道される情報が「正しいのであれば」という注釈が入ります。正しい情報でないと誤解を招いてしまい、逆に良くありません。

 病気そのものの理解という以外には、がん患者さんにどのように接するべきなのか、何をしてあげるべきなのかを勉強できるという面もあります。まったくの他人ががんになったという話を聞いても、多くの人は実感がわきにくいです。親身になってどうしようかと考えるまでには至りません。

 それに対して、普段からテレビで良く見ている芸能人などの場合には、比較的身近な人にがんが起こった時のように、かわいそうだ。何かできないか。励ましたいというような感情が湧き、真剣に病気のことを考えることでしょう。自分が好きな芸能人だと、なおさら感情が入ると思います。

 それは、自分が病気になった時にはどうしようかとか、家族や大切な友人が病気になったら、どのように対処しようかとあらかじめ考えることにもつながります。

 ただ、この病気になった人への対処については、報道が必ずしも正しい方向性の報道をしているとは限らず、中には明らかに間違っているのではということを推奨していることもあり、この辺りはまだまだマスコミ側にも改善をお願いしたいところではあります。

【Q2】有名人のがん公表、「マスコミ報道」の問題点は?
【A】「がんになった要因を探るため、過去の行いを振り返るのはよくない」

 まず、マスコミが正確性の低い医療情報を提供するのは大きな問題です。正確性を欠いてしまう原因はいくつかあります。

 一つはがんという病気が多種類の病気の集まりということの理解が低いことに起因します。肺がんと大腸がんでは違う病気ということくらいは配慮していても、例えば乳がん一つとっても、どの種類の乳がんか、どのぐらい進行しているのかで、症状・治療・予後も大きく変わってきます。その辺りの配慮が低いことがあり、時折、誤解を招いていることがあります。

 予防手段の情報についても適切でないことがあります。肺がんはタバコを吸ったことでなるということを、極端に単純化して、過度に強調してしまうことで、タバコを吸わなければ肺がんを完璧に防げたのではないかというような印象を与えてしまったりもします。実際にはタバコを吸っておらず肺がんになる人もたくさんいるわけで、正確性の欠く情報は誤解を与えていることがあります。

 がん検診に関しても、その効果を過度に強調していることがあり、これも検診を受けていれば早くに見つかったのに、それを患者は怠ったというような印象を与えてしまい問題です。検診で早期発見できるがんはごく一部であることや、それも完璧なものでないことなどを、正確に伝えることが重要だと思います。

 もちろん、がんを予防するために喫煙の害を強調することや、がん検診にしっかりとかかるように報道することは、とても大事なことです。ただ、がんという病気の発症機序はとても複雑で、検診も万能ではないので、過度の単純化は時に違う問題を引き起こすことがあるので、注意が必要です。

 あと、芸能人のがん報道で問題なのは、過去を振り返る報道。なぜ、がんになってしまったのか、過去のどのような行いがあって、それが影響したのかを、勝手に詮索して、現在の状況との因果関係を見つけようとすることです。この人はヘビースモーカーだったとか、大酒飲みだったとか、検診を受けていなかったとか、根拠のない治療を受けていたからがんが進行したなどは、典型的な過去を追及する報道です。これは本当に良くないです。

 がんはとても複雑な病気で、たとえ典型的な因果関係があるような生活習慣が過去にあったとしても、それが必ずしも関わっているとは限りません。また、人という生き物は常に完璧な生活をできるわけでは、もちろんありません。誰だって細かく探せば、悪い生活習慣はあるものです。過度に責任追及することは良くないです。また、このような報道は、間接的にほかのがん患者や家族も傷つけることになっています。

 マスコミのこのような報道が影響して、一般の方は、がんに関するさまざまな勘違いをしてしまいます。例えば、生活習慣を完璧にあらためて、検診も毎年受けていたら、がんはならないものだと思い込んでしまうことや、自分や家族ががんになってしまった場合に、強く後悔してしまうこともあるでしょう。がんは誰にでも起こりうる病気です。
報道はどうしても単純明快で、センセーショナルなものを好みます。そのため、誤解を誘導してしまうことが多く、そのことがさまざまな問題を引き起こしています。

【Q3】がんになった有名人に、我々が「してはいけないこと」とは?
【A】「自分の信じる価値観や治療方法を押し付けてはいけない」

 次に、患者さんにどのように接すれば良いのか、どのような声をかけてあげれば良いのかという点について触れます。この点では、個人的にあまり好ましくないと感じる場面に出会うこともあります。

 がん患者さんへの対処というものは、人と人との関係ですので、もちろん100%の人に当てはまる一つの答えがあるわけではありません。そのため、患者さんによっても変わります。それは大前提です。

 ただ、患者さんが不快に思う接し方が、あたかも「良いこと」と誤解されているケースもあり、この点に関しては知っておいてもらった方が良いのかなと思っています。
有名人に限らずですが、家族ではない周囲の人ががん患者さんに対して取る基本的姿勢としては、「距離を保ったまま、とにかく静かに見守ってあげること」「何か困ったことがあったら、いつでも相談に乗ること」だと思います。

 良くないと思うのは、「善意の攻撃」をしてしまうことです。自分が何か行動して、患者さんのためになる何かをしないといけないと思ってしまい、本人や家族に頻回に会いに行ったり、自分が良いのではと思うがん治療に関する情報を、一生懸命に送ったりなどは好ましくありません。自分も不安で何かをしてあげたい、それをぬぐうためにも自分も何か具体的な行動をしてあげたい、その思いは大変にわかります。しかし、患者さんに必要なのは適切な治療をしっかりと進めていくことであり、それを静かに見守ってもらうことです。

 こと有名人の患者さんに対しては、SNSなどを通じて、自分の信じる価値観や治療方法を押し付けようとする人がいますが、これは、むしろ迷惑になってしまうことも多いです。この治療は効果があると根拠のはっきりとしない治療を勧めたりするのも問題になることがあります。がんはとても難しい病気ですので、専門家でない人がネットなどで調べた情報では、正確性が低く、逆に患者さんを混乱させることも、残念ながらあります。

 また、マスコミも誤解をさせていることが時にあると思います。報道では、「みんなで励まそう」とするような傾向がとても強く、本人に積極的に関わるような行動を、素晴らしいというように推奨してしまうものもあり、それも良くないと思います。「静かに見守ってあげる」とことを第一に、患者本人が積極的に関わってくれることを望む時には行うと考えてもらった方が良いのではと思います。

 また、マスコミの行動の中で良くないと思うのは、本人や家族にインタビューをすることです。突然の病気で、本人も家族も混乱していますし、病気治療で本当に大変です。家族自体も第2の患者といわれるように、大変な精神状態にあったりします。家族なら良いわけではなく、そっとしておいてあげるべき対象です。もう少し配慮が必要ではと思います。

【Q4】がんの有名人に「かけるべき言葉」「かけるべきではない言葉」とは?
【A】「『必ず治るよ』の安易な励ましは適切ではない」

 言葉というのはとても難しくて、人により感じ方も違うので、これは必ず良い/良くないというのは言い切れないです。しかし、皆さんが多くかけてしまう言葉である「必ず治るよ」などの安易な励ましはあまり適切でないと思います。

 がんの患者自身も、そう簡単なものではないという現実を痛いほど知っているので、その安易な励ましは、うれしくは思わなかったり、逆に傷つけさえすることもあります。もちろん患者にもよるとは思いますが、気をつけないといけない言葉でしょう。

 逆に「見守っているよ」「困ったことがあったら言ってね」というような、静かに見守っていることを伝える言葉が良い場合もあります。

【Q5】日本でのがん公表が患者にとってプラスになるためには?
【A】「そもそも公表しないことも立派な手段。がんへの理解が進めば……」

 そもそもとして、がん患者さんは病気を公表しないといけないわけではありません。とてもプライバシーに関わることですし、日本の現状では多くの誤解や攻撃も受けることですので、公表しないことも立派な手段です。

 この点でも、マスコミは病気の公表を称賛するような報道を行うことがあり、問題だと思っています。このような報道が「病気を公表しなければならない」という圧力になってしまうので注意が必要です。

 公表自体に伴う現在の問題は、先ほど触れた点です。繰り返しになりますが、日本は病気と過去の行いを結びつける傾向の強い国なので、「がんになったということは、何か過去に悪いことをしたのでは」と発想をする人が多く、そのため、がん患者さんは何か悪い生活習慣をしていたのではと責められることがあります。また、検診の効果を過度に理解している人もいて、検診をサボっていたからだというような批判も、患者が公表しにくくしている点です。

 「善意の攻撃」も怖いものです。多くの人が良かれと思って、たくさんの善意からくるアドバイスを押し付けてきます。それを断ると人間関係が悪くなることもあり、効果がないとわかっているものに付き合わされたりということもあるので、とても難しい問題です。

 現時点では、がんの公表にはさまざまな問題があるのが事実です。しかし、それも将来変わってもらえればと私は望んでいます。

 がんという病気自体、またがん患者さんへの関わり方への理解が進み、善意の攻撃や、病気の誤解からくる攻撃が減れば、がん患者さんも安心して病気を公表できるようになるのではと思います。そして、周囲の人からたくさんの温かいサポートを受けられて、安心してがん治療が進められるようになれば良いなと願っています。

大須賀覚(おおすか・さとる)
がん研究者。筑波大学医学専門学群卒業。医学博士。現在、米国エモリー大学ウィンシップ癌研究所に所属。日本では脳神経外科医として、脳腫瘍患者の手術・治療に従事。一般人に向け、がん治療を解説する活動を積極的に行い、がん患者やその家族はもちろん、多くの人々から支持を受けている。

ツイッター:@SatoruO
ブログ:「がん治療で悩むあなたに贈る言葉 米国在住がん研究者のブログ」(http://satoru-blog.com/)

池江璃花子選手、堀ちえみさん……有名人から「がん公表」を受けた我々が“すべきでないこと”

 2月12日、競泳女子・池江璃花子選手が、自身のTwitterで「白血病」と診断されたことを明かし、世間に衝撃が走った。2020年の東京五輪でメダル獲得を目指す中、18歳という若さで白血病に冒された池江選手に、多くの人がショックを受け、励ましの言葉を送る中、アメリカ在住のがん研究者である大須賀覚氏のツイートが注目を集めた。

「池江選手の報道を見ると、日本でがんを公表する難しさを感じます。公表すると患者は『善意の攻撃』を受けてしまいます。皆さんが心から良くなって欲しいと願う気持ちは分かります。しかし科学的根拠のない治療を勧められたり、『絶対に治る』のような根拠のない励ましは患者に負担となることもあります」

 このツイートは大きな反響を呼ぶとともに、人々が、あらためて「がん公表をめぐる世間の反応」について考える契機となった。

 同19日には、タレントの堀ちえみさんがステージ4の口腔がん(舌がん)を公表。がん発覚の経緯や治療の経過、闘病の葛藤など、随時ブログを通して発信しており、多くの人がその動向を見守っているが、有名人のがん公表やがんに関する情報発信を、我々はどう受け取るべきなのだろうか。今回、大須賀氏に見解をQ&A方式で寄稿していただいた。

【Q1】有名人のがん公表や情報発信から、我々は何を受け取るべき?
【A】「“真剣”に病気のことを考えるきっかけになる」

 有名人のがん公表は、がんについて勉強する良い機会なので、報道を介して病気への理解を深めてもらいたいと思います。

 皆さん、がんという病気について詳しく勉強する機会を持つことは多くないので、どのような病気があって、どのような症状で発見されて、どのような治療がなされて、どのような経過をたどるのかを知ることができる点では、情報発信も貴重なのではないでしょうか。

 ただ、これには報道される情報が「正しいのであれば」という注釈が入ります。正しい情報でないと誤解を招いてしまい、逆に良くありません。

 病気そのものの理解という以外には、がん患者さんにどのように接するべきなのか、何をしてあげるべきなのかを勉強できるという面もあります。まったくの他人ががんになったという話を聞いても、多くの人は実感がわきにくいです。親身になってどうしようかと考えるまでには至りません。

 それに対して、普段からテレビで良く見ている芸能人などの場合には、比較的身近な人にがんが起こった時のように、かわいそうだ。何かできないか。励ましたいというような感情が湧き、真剣に病気のことを考えることでしょう。自分が好きな芸能人だと、なおさら感情が入ると思います。

 それは、自分が病気になった時にはどうしようかとか、家族や大切な友人が病気になったら、どのように対処しようかとあらかじめ考えることにもつながります。

 ただ、この病気になった人への対処については、報道が必ずしも正しい方向性の報道をしているとは限らず、中には明らかに間違っているのではということを推奨していることもあり、この辺りはまだまだマスコミ側にも改善をお願いしたいところではあります。

【Q2】有名人のがん公表、「マスコミ報道」の問題点は?
【A】「がんになった要因を探るため、過去の行いを振り返るのはよくない」

 まず、マスコミが正確性の低い医療情報を提供するのは大きな問題です。正確性を欠いてしまう原因はいくつかあります。

 一つはがんという病気が多種類の病気の集まりということの理解が低いことに起因します。肺がんと大腸がんでは違う病気ということくらいは配慮していても、例えば乳がん一つとっても、どの種類の乳がんか、どのぐらい進行しているのかで、症状・治療・予後も大きく変わってきます。その辺りの配慮が低いことがあり、時折、誤解を招いていることがあります。

 予防手段の情報についても適切でないことがあります。肺がんはタバコを吸ったことでなるということを、極端に単純化して、過度に強調してしまうことで、タバコを吸わなければ肺がんを完璧に防げたのではないかというような印象を与えてしまったりもします。実際にはタバコを吸っておらず肺がんになる人もたくさんいるわけで、正確性の欠く情報は誤解を与えていることがあります。

 がん検診に関しても、その効果を過度に強調していることがあり、これも検診を受けていれば早くに見つかったのに、それを患者は怠ったというような印象を与えてしまい問題です。検診で早期発見できるがんはごく一部であることや、それも完璧なものでないことなどを、正確に伝えることが重要だと思います。

 もちろん、がんを予防するために喫煙の害を強調することや、がん検診にしっかりとかかるように報道することは、とても大事なことです。ただ、がんという病気の発症機序はとても複雑で、検診も万能ではないので、過度の単純化は時に違う問題を引き起こすことがあるので、注意が必要です。

 あと、芸能人のがん報道で問題なのは、過去を振り返る報道。なぜ、がんになってしまったのか、過去のどのような行いがあって、それが影響したのかを、勝手に詮索して、現在の状況との因果関係を見つけようとすることです。この人はヘビースモーカーだったとか、大酒飲みだったとか、検診を受けていなかったとか、根拠のない治療を受けていたからがんが進行したなどは、典型的な過去を追及する報道です。これは本当に良くないです。

 がんはとても複雑な病気で、たとえ典型的な因果関係があるような生活習慣が過去にあったとしても、それが必ずしも関わっているとは限りません。また、人という生き物は常に完璧な生活をできるわけでは、もちろんありません。誰だって細かく探せば、悪い生活習慣はあるものです。過度に責任追及することは良くないです。また、このような報道は、間接的にほかのがん患者や家族も傷つけることになっています。

 マスコミのこのような報道が影響して、一般の方は、がんに関するさまざまな勘違いをしてしまいます。例えば、生活習慣を完璧にあらためて、検診も毎年受けていたら、がんはならないものだと思い込んでしまうことや、自分や家族ががんになってしまった場合に、強く後悔してしまうこともあるでしょう。がんは誰にでも起こりうる病気です。
報道はどうしても単純明快で、センセーショナルなものを好みます。そのため、誤解を誘導してしまうことが多く、そのことがさまざまな問題を引き起こしています。

【Q3】がんになった有名人に、我々が「してはいけないこと」とは?
【A】「自分の信じる価値観や治療方法を押し付けてはいけない」

 次に、患者さんにどのように接すれば良いのか、どのような声をかけてあげれば良いのかという点について触れます。この点では、個人的にあまり好ましくないと感じる場面に出会うこともあります。

 がん患者さんへの対処というものは、人と人との関係ですので、もちろん100%の人に当てはまる一つの答えがあるわけではありません。そのため、患者さんによっても変わります。それは大前提です。

 ただ、患者さんが不快に思う接し方が、あたかも「良いこと」と誤解されているケースもあり、この点に関しては知っておいてもらった方が良いのかなと思っています。
有名人に限らずですが、家族ではない周囲の人ががん患者さんに対して取る基本的姿勢としては、「距離を保ったまま、とにかく静かに見守ってあげること」「何か困ったことがあったら、いつでも相談に乗ること」だと思います。

 良くないと思うのは、「善意の攻撃」をしてしまうことです。自分が何か行動して、患者さんのためになる何かをしないといけないと思ってしまい、本人や家族に頻回に会いに行ったり、自分が良いのではと思うがん治療に関する情報を、一生懸命に送ったりなどは好ましくありません。自分も不安で何かをしてあげたい、それをぬぐうためにも自分も何か具体的な行動をしてあげたい、その思いは大変にわかります。しかし、患者さんに必要なのは適切な治療をしっかりと進めていくことであり、それを静かに見守ってもらうことです。

 こと有名人の患者さんに対しては、SNSなどを通じて、自分の信じる価値観や治療方法を押し付けようとする人がいますが、これは、むしろ迷惑になってしまうことも多いです。この治療は効果があると根拠のはっきりとしない治療を勧めたりするのも問題になることがあります。がんはとても難しい病気ですので、専門家でない人がネットなどで調べた情報では、正確性が低く、逆に患者さんを混乱させることも、残念ながらあります。

 また、マスコミも誤解をさせていることが時にあると思います。報道では、「みんなで励まそう」とするような傾向がとても強く、本人に積極的に関わるような行動を、素晴らしいというように推奨してしまうものもあり、それも良くないと思います。「静かに見守ってあげる」とことを第一に、患者本人が積極的に関わってくれることを望む時には行うと考えてもらった方が良いのではと思います。

 また、マスコミの行動の中で良くないと思うのは、本人や家族にインタビューをすることです。突然の病気で、本人も家族も混乱していますし、病気治療で本当に大変です。家族自体も第2の患者といわれるように、大変な精神状態にあったりします。家族なら良いわけではなく、そっとしておいてあげるべき対象です。もう少し配慮が必要ではと思います。

【Q4】がんの有名人に「かけるべき言葉」「かけるべきではない言葉」とは?
【A】「『必ず治るよ』の安易な励ましは適切ではない」

 言葉というのはとても難しくて、人により感じ方も違うので、これは必ず良い/良くないというのは言い切れないです。しかし、皆さんが多くかけてしまう言葉である「必ず治るよ」などの安易な励ましはあまり適切でないと思います。

 がんの患者自身も、そう簡単なものではないという現実を痛いほど知っているので、その安易な励ましは、うれしくは思わなかったり、逆に傷つけさえすることもあります。もちろん患者にもよるとは思いますが、気をつけないといけない言葉でしょう。

 逆に「見守っているよ」「困ったことがあったら言ってね」というような、静かに見守っていることを伝える言葉が良い場合もあります。

【Q5】日本でのがん公表が患者にとってプラスになるためには?
【A】「そもそも公表しないことも立派な手段。がんへの理解が進めば……」

 そもそもとして、がん患者さんは病気を公表しないといけないわけではありません。とてもプライバシーに関わることですし、日本の現状では多くの誤解や攻撃も受けることですので、公表しないことも立派な手段です。

 この点でも、マスコミは病気の公表を称賛するような報道を行うことがあり、問題だと思っています。このような報道が「病気を公表しなければならない」という圧力になってしまうので注意が必要です。

 公表自体に伴う現在の問題は、先ほど触れた点です。繰り返しになりますが、日本は病気と過去の行いを結びつける傾向の強い国なので、「がんになったということは、何か過去に悪いことをしたのでは」と発想をする人が多く、そのため、がん患者さんは何か悪い生活習慣をしていたのではと責められることがあります。また、検診の効果を過度に理解している人もいて、検診をサボっていたからだというような批判も、患者が公表しにくくしている点です。

 「善意の攻撃」も怖いものです。多くの人が良かれと思って、たくさんの善意からくるアドバイスを押し付けてきます。それを断ると人間関係が悪くなることもあり、効果がないとわかっているものに付き合わされたりということもあるので、とても難しい問題です。

 現時点では、がんの公表にはさまざまな問題があるのが事実です。しかし、それも将来変わってもらえればと私は望んでいます。

 がんという病気自体、またがん患者さんへの関わり方への理解が進み、善意の攻撃や、病気の誤解からくる攻撃が減れば、がん患者さんも安心して病気を公表できるようになるのではと思います。そして、周囲の人からたくさんの温かいサポートを受けられて、安心してがん治療が進められるようになれば良いなと願っています。

大須賀覚(おおすか・さとる)
がん研究者。筑波大学医学専門学群卒業。医学博士。現在、米国エモリー大学ウィンシップ癌研究所に所属。日本では脳神経外科医として、脳腫瘍患者の手術・治療に従事。一般人に向け、がん治療を解説する活動を積極的に行い、がん患者やその家族はもちろん、多くの人々から支持を受けている。

ツイッター:@SatoruO
ブログ:「がん治療で悩むあなたに贈る言葉 米国在住がん研究者のブログ」(http://satoru-blog.com/)

映画やTVドラマでよく見るおじさん俳優の素顔!! 川瀬陽太は演技だけでなく、トークも味わい深い

 俳優が売れるか売れないかは、大きな事務所に所属しているかどうか次第。長い間、ずっとそう思っていた。だが、そんな固定概念はひとりの男によって砕かれた。川瀬陽太、49歳。フリーランスの俳優だ。ピンク映画やインディーズ映画で活躍し、近年は『64 ロクヨン』『シン・ゴジラ』(16)などのメジャー映画、テレビドラマ『anone』(日本テレビ系)や『この世界の片隅に』(TBS系)にも出演。味のある個性派俳優として評価される一方、ここに来て主演&メインキャストを務めた新作映画が続々と公開されている。2月に公開された主演映画『おっさんのケーフェイ』に続き、大阪・釜ヶ崎でロケを行なった16ミリフィルム作品『月夜釜合戦』が公開中、3月23日(土)からおじさん愛に溢れた『天然☆生活』、そして4月6日(土)からはピンク映画時代からの盟友・いまおかしんじ監督とのタッグ作『こえをきかせて』の劇場公開が待っている。50歳を目前にし、さまざまな現場から引っ張りだこ状態となった川瀬陽太の人気の秘密に迫った。

──平成最後の春、川瀬さんの主演映画が目白押し状態です。

川瀬陽太(以下、川瀬) たまたまです。撮影時期はバラバラなんです。『月夜釜合戦』は4年前に、『ローリング』(15)と並行して撮ったものです。『おっさんのケーフェイ』は2年前。『天然☆生活』は比較的最近ですが、どうしても自主映画は撮影から劇場公開まで時間が空いてしまいますね。『こえをきかせて』も劇場公開されることになり、なぜか出演作がこの春に集中したんです。

──俳優業24年目にしての大ブレイク!

川瀬 いやいや。ブレイクと言われてみても我が暮らし楽にはならず、じっと手を見る―ですよ(苦笑)。

──地道に現場でキャリアを積み重ねて人気俳優に。フリーランサーの鑑です。

川瀬 ははは、そうですかね。まぁ、フリーの役者でもこのくらいはできますよ、と見せられたことはちょっと良かったかなとは思っています。

──最近は映画だけでなく、テレビドラマでも川瀬さんを観る機会が増えてきました。川瀬さんがワンポイントで出演することで、作品のアクセントや隠し味になっていますよね。

川瀬 僕自身は隠れている気はないんですが(笑)、隠し味でも重宝されているのならありがたいと思っています。たまに僕が出演していない映画でも、「よかったです」と言われることがあり、「ありがとうございます」と答えるようにしているんです(笑)。

──個性派俳優・川瀬陽太によく似た俳優がもう一人いる!?

川瀬 多分、宇野祥平くんあたりじゃないかなと。あいつも映画にいろいろ出ていますからね。それで、あいつの手柄は俺がもらおうと。逆のこともあるのかもしれませんが(笑)。宇野くんとも話したんですが「単館ではサインを求められるけど、シネコンじゃ声を掛けられることもないよな」と。売れているといっても、そんな感じです。そんな状況を楽しみながら、気楽に俳優業をやっています。

 

映画をつくるつもりが演じる側に

──売れっ子俳優の川瀬さんですが、桑沢デザイン研究所を卒業。もともとは俳優ではなく映画スタッフを目指していた?

川瀬 そうなんです。『SRサイタマノラッパー マイクの細道』(テレビ東京系)に出演したとき、主題歌を歌っていたライムスターのMummy Dさんから「僕、後輩です」と言われました。けっこう有名なアーティストやデザイナーが育っている学校なんです。僕も本当は研究所を卒業したら、映画の美術スタッフになるつもりでした。それで福居ショウジン監督の自主映画に参加していたときに、「お前しかいない」と頼まれて、カメラの前に立つことになって。多分、内容がハードで、暴力的なシーンもあったので、事務所に所属している俳優に頼めなかったんでしょうね。その後、瀬々敬久監督のピンク映画に出て、初めてギャラをもらいました。お金をもらえたこと以上に、「俺を必要としてくれる現場があるんだ」と思えたことが大きかった。だから、今までこの仕事が続いたんじゃないかと思います。

──監督の意図を汲み取る大道具みたいな……?

川瀬 そうですね。映画のスタッフには演出部や技術部などありますが、俳優部という感覚ですね。芝居をするスタンドインみたいな感じでやってきました(笑)。いまおか監督の『こえをきかせて』はピンク映画と同じくらいの低予算映画ですが、このくらいのバジェットと撮影期間だと自分に何ができるかなぁって考えます。現場に入って、「こういうロケ地なら、こんなことができるな」とか思いつくことが多いですね。

──事前に台本を読み込んで、徹底的に役づくりするタイプではないんですね。

川瀬 台本は読みますが、あまり役づくりはし過ぎないようにしています。大喜利に参加するような感覚ですね。脇役のときはかなり自由に遊ばせてもらっていますが、主演のときはさすがに変わります。ストーリーだけでなく、周囲も引っ張っていく必要がありますから。その点では、主演俳優は大変だと思います。大きな映画で主演を張る俳優になると、興収結果が今後のキャリアにも関わってくるわけでしょ。僕は主演といっても大規模な作品ではないので、楽しみながらやっています。僕に求められているのはカメレオン俳優的なものではなく、ある種のタイプキャストであることが多いので、やりやすいですよ。

──いまおか監督は林由美香主演作『たまもの』(04)など珠玉のピンク映画を生み出してきた才人。長い付き合いになるそうですね。

川瀬 瀬々監督のボスに向井寛さんという監督兼プロデューサーがいたんですが、向井さんがやっていた「獅子プロダクション」で僕が仕事をするようになった頃、いまおか監督が助監督から監督になったんです。いまおか監督の監督デビュー2作目『痴漢電車 感じるイボイボ』(96)に僕も出ています。そこから20数年間の付き合いですね。いまおか監督がデビュー作『彗星まち』(95)を撮ったとき、上の世代が「ミトコンドリアが風邪をひいたみたいな映画を撮りやがって」と評していたんです。それを聞いて、「うまいこと言うなぁ」と(笑)。それで、「俺はそんなミトコンドリアが風邪をひいたみたいな映画を観たい」と思ったんです。いまおか監督は神代辰巳監督に憧れ、助監督をやっていました。いまおか監督も登場キャラクターたちを突き放して描くことが多いんですが、そのキャラクターたちがもがく姿がいいんです。いまおか監督は基本的にネガティブなことは描かない。ネガティブなことは起きるけれど、みんな幸せになってほしいと願いながら撮っている監督だと思うんです。

──そんな世界に、社会からドロップアウトしたおじさん役の川瀬さんはよく似合うわけですね。

川瀬 なんで、みんな俺のことを社会からドロップアウトさせたがるんでしょうか。こんな、ええとこの坊を捕まえて(笑)。僕はこう見えてもインテリ家族のもとで育ったんですよ(※お父さんは理系の大学講師)。まぁ、ピンク映画から僕のキャリアは始まったわけで、真っ裸からのスタートでした。失うものは何もありませんし、ストレスも感じません。

 

発見された原始人!?

──殺人犯などの犯罪者役を演じていても、観客は川瀬さんにどこか人のよさを感じてしまうのかもしれません。

川瀬 そうだといいですね。実はゴリゴリにハードな役はあまり得意ではないんです。「やれ」と言われればやりますが、個人的には本当の悪人はいないと思っています。加虐側の人間を演じるときは、そいつがそうなったのには何か理由があったんじゃないかと考えるんです。みんな幸せになりたいのに、その方法が分からずにそんなことになっちゃうわけです。ゼロ年代あたりは理解不能なモンスター的なキャラを描く作品が多くて、そんな役にけっこう呼ばれましたが、これからの若い監督には「俺はただの書き割りじゃねぇんだからな」と、その監督のためになればと思って言うこともありました。

──『こえをきかせて』ではヒロインの渡辺万美とテレフォンセックスならぬテレパシーセックスするシーンが印象に残ります。

川瀬 いいシーンですよね。台本を読みながら、いちばんおもろいシーンだなと思いました。カメラの前で一人でおっぱいを揉むマネを延々と続けるわけです。すっごいアホな絵ですよ。いまおか監督は「アホやなぁ」と笑いながら撮っている。やらされる身になってみろと(笑)。でも、僕はベタな泣かせるシーンで泣いたことがないんです。どこか、滑稽な姿のほうが胸が熱くなる。本人が一生懸命な分だけ、おかしみも生じるし、観ている人にも伝わるんじゃないかと思うんです。

──川瀬さん演じる精肉屋の安春は、ハルカ(渡辺万美)の心の叫びが聴こえてしまう。SFの世界でなくても、ありうる話じゃないかなと思うんです。

川瀬 そうかもしれませんね。俺の体験談で言うと、20代の頃は携帯電話を持っていませんでしたが、友達の電話番号を4~5件は覚えていました。待ち合わせで、30分くらいは普通に待っていましたよね。それって、相手のことを察している、相手のことを考えているからだと思うんです。今は友達の電話番号を覚えなくなったし、相手が5分遅れただけで携帯電話に連絡を入れますよね。ひと昔前までは、実はテレパシーみたいなすごいことを交わし合っていたのかもしれません。いろんな人のことを想いながら暮らしていたんじゃないのかなと思うんです。この業界の先輩でも「あの人はなんで他人の気持ちが分かるんだろう」と驚かせられる人がいました。人の心の機微が分かるパイセンたちがいたこの業界は、僕が好きな世界でもあったんです。

──デジタル化が進む現代社会に抗うように生きているんですね。

川瀬 ははは、原始人みたいな役が多いんですよ。僕は昔からやっていることは変わらないんです。ここに来て、みなさんに気づいてもらえた。「原始人、発見!」みたいな感じじゃないですか(笑)

40代になれば何とかなる

──フリーランスの俳優として、四半世紀を過ごしてきたわけですよね。

川瀬 数年間だけ事務所に入っていたことはありますが、辞めてからもう10数年になりますね。今は仕事がありますが、それは単価が安いからでしょう。銀行口座の残高はちっとも増えません(苦笑)。伊藤猛って先輩俳優がいたんですが、「30代はつらいぞ。40代になれば何とかなる」と言われていました。本当、30代は地獄でした。数カ月間、電話がまったく鳴らないんです。気が狂いそうになりました。40代になって少しずつ仕事が来るようになったんです。伊藤猛さんの予言したとおりでした。そう言った伊藤猛さんは52歳で亡くなったんですけどね。40歳を過ぎると、役者仲間たちがこの仕事を辞めていったり、それこそ亡くなったりして、その分だけ仕事が回るようになってきた。それもあって、余計にこの仕事を辞めることができずにいるんです。『anone』など地上波のテレビドラマに出るようになって、女優業を辞めて地方に引っ込んだ知り合いの女性から「がんばってるね」とLNEが来たときは、ちょっと泣きそうになりました。何だか『北の国から』(フジテレビ系)みたいなだなって。

──業界を去っていった、いろんな人たちの声が聴こえてきたんですね。それこそ『こえをきかせて』の安春のように。

川瀬 そうですね。こんな俺でも、ほんの少しは誰かを励ます足しにはなっているのかなぁって。でも、基本的にはあまり考え込むタイプではありません(笑)。

──多忙すぎて、現場をダブルブッキングしたことはありませんか?

川瀬 今のところはありません。昔は助監督の下のほうだったのが、長いことやっているとチーフ助監督になっていたりするんです。撮影日が被ってしまったときは、両作品のチーフ助監督同士が知り合いだったりして、うまくスケジュールをずらしてもらったりしました。そういうことができるようになったのも、40歳過ぎてからです。恥ずかしながら、食べていけるようになったのも40歳になってから。小さい現場も大きな現場も関係なく、声を掛けてもらえるようになった。「あ~、ここが俺の職場かもしれないな」と思えるようになりましたね。

──今や名バイプレイヤーに。

川瀬 その言葉も違和感あるんです(苦笑)。光石研さんや松重豊さんがバイブレイヤーなら、俺なんか路傍の石ですよ。『シン・ゴジラ』で共演した大杉漣さんとは少し面識がありましたが、現場でご一緒したことはありません。でも、大杉さんもそうですし、蛍雪次朗さんもピンク映画から一般映画にも出るようになった。勝手に繋がりを感じています。ピンク映画は予算も人数も少なく、そこからスタッフと一緒にキャリアを重ねていくことができた。そのことが自分にとってはベースになっているし、ありがたいなと思っているんです。自分がどこまでやれるのかは分かりません。体調管理なんて、インフルエンザに罹らないように気をつけているぐらいです。でも、20代でピークが来なくてよかった。こんな劣化したおじさんになってから、仕事が来るようになったわけですから。これでいいんだ、よかったなと思っています(笑)。

「付き合いが長いので、もはやプライベートでは話すことがない」という川瀬陽太といまおか監督だが、そんないまおか監督からも彼の俳優評をもらった。

いまおか「川ちゃんは脇役もできるし、俳優としての“華”もあるので主演もできるタイプ。ピンク映画に出てくれた俳優は、次第に出なくなるものなんですが、川ちゃんは今でも呼ぶと出てくれる。うれしいですよ。メジャー映画にも出るし、ピンク映画や今回みたいな低予算の映画にも出てくれる貴重な役者です。役者って呼ばれてナンボの芸者みたいな職業ですが、川ちゃんは出逢いとか運とかをつかむ才能もあるんでしょう。日本映画を観るとき、リリー・フランキーが出ていると安心するところがありますよね。川ちゃんもスクリーンに出てくると、観客は『この映画は面白そうだ』と期待できる。そんな存在になっているんじゃないですか」

 事務所の力ではなく、現場を愛する力で人気俳優となった川瀬陽太。これから、ますます頻繁に出没するだろう“映画原人”川瀬陽太をぜひスクリーンで目撃してほしい。

(取材・文=長野辰次/撮影=尾藤能暢)

『こえをきかせて』
モデルのハルカ(渡辺万美)は精肉屋の安春(川瀬陽太)の心の声を聞いてしまう。以来、2人は悩みを打ち明け合う仲となっていく。
監督・脚本/いまおかしんじ
出演/渡辺万美、吉岡睦雄、今川宇宙、長屋和彰、広瀬彰勇、古藤真彦、丸純子、川瀬陽太
配給/アルゴ・ピクチャーズ、レジェンド・ピクチャーズ R15+ 4月6日(土)~8日(月)、渋谷ユーロライブにて限定公開
(C)2019キングレコード

『月夜釜合戦』
労働者の街・釜ヶ崎で撮影した16ミリフィルム作品。古典落語「釜泥」をベースに、ヤクザ、旅芸人、活動家たちがお釜争奪戦を繰り広げる。
監督・脚本/佐藤零郎
出演/太田直里、川瀬陽太、渋川清彦、門戸紡、西山真来、カズ、デカルコ・マリィ、緒方晋、赤田周平、下田義弘、大宮義治、北野勇作、海道力也、角田あつし、大宮将司、日野慎也、柴哲平、岡元あつこ、得能洋平、福井大騎、足立正生
配給/映画「月夜釜合戦」製作委員会 3月22日(金)まで渋谷ユーロスペース、4月20日(土)より横浜シネマリンほか全国順次公開中
(C)映画「月夜釜合戦」製作委員会 
http://tukikama.com

『天然☆生活』
『トータスの旅』でゆうばり国際映画祭グランプリを受賞した永山正監督の新作インディーズ映画。川瀬陽太のボンゴ演奏も見どころ、聴きどころ。
監督・製作・脚本・編集/永山正史 脚本/鈴木由理子
出演/川瀬陽太、津田寛治、谷川昭一朗、鶴忠博、三枝奈都紀、秋枝一愛
配給/Spectra film 3月23日(土)より新宿K’s cinemaにてレイトショー
(C)TADASHI NAGAYAMA
https://www.tennen-seikatsu.com

●川瀬陽太(かわせ・ようた)
1969年北海道生まれ、神奈川県出身。桑沢デザイン研究所を卒業後、映画スタッフを経て、福居ショウジン監督の『RUBBER’S LOVERS』(96)で俳優デビュー。瀬々敬久監督のピンク映画『すけべてんこもり』(95)に主演以降、『64 ロクヨン』(16)や『菊とギロチン』(18)など多くの瀬々監督作に出演。冨永昌敬監督の『ローリング』(15)と山内大輔監督の『犯る男』(15)で2016年日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞。近年の映画出演作に『シン・ゴジラ』(16)、『バンコクナイツ』(17)、『トータスの旅』(17)、『blank13』(18)、『おっさんのケーフェイ』(19)など多数。『SRサイタマノラッパー マイクの細道』(テレビ東京系)、『anone』(日本テレビ系)、『この世界の片隅に』(TBS系)などテレビドラマへの出演も増えている。

映画やTVドラマでよく見るおじさん俳優の素顔!! 川瀬陽太は演技だけでなく、トークも味わい深い

 俳優が売れるか売れないかは、大きな事務所に所属しているかどうか次第。長い間、ずっとそう思っていた。だが、そんな固定概念はひとりの男によって砕かれた。川瀬陽太、49歳。フリーランスの俳優だ。ピンク映画やインディーズ映画で活躍し、近年は『64 ロクヨン』『シン・ゴジラ』(16)などのメジャー映画、テレビドラマ『anone』(日本テレビ系)や『この世界の片隅に』(TBS系)にも出演。味のある個性派俳優として評価される一方、ここに来て主演&メインキャストを務めた新作映画が続々と公開されている。2月に公開された主演映画『おっさんのケーフェイ』に続き、大阪・釜ヶ崎でロケを行なった16ミリフィルム作品『月夜釜合戦』が公開中、3月23日(土)からおじさん愛に溢れた『天然☆生活』、そして4月6日(土)からはピンク映画時代からの盟友・いまおかしんじ監督とのタッグ作『こえをきかせて』の劇場公開が待っている。50歳を目前にし、さまざまな現場から引っ張りだこ状態となった川瀬陽太の人気の秘密に迫った。

──平成最後の春、川瀬さんの主演映画が目白押し状態です。

川瀬陽太(以下、川瀬) たまたまです。撮影時期はバラバラなんです。『月夜釜合戦』は4年前に、『ローリング』(15)と並行して撮ったものです。『おっさんのケーフェイ』は2年前。『天然☆生活』は比較的最近ですが、どうしても自主映画は撮影から劇場公開まで時間が空いてしまいますね。『こえをきかせて』も劇場公開されることになり、なぜか出演作がこの春に集中したんです。

──俳優業24年目にしての大ブレイク!

川瀬 いやいや。ブレイクと言われてみても我が暮らし楽にはならず、じっと手を見る―ですよ(苦笑)。

──地道に現場でキャリアを積み重ねて人気俳優に。フリーランサーの鑑です。

川瀬 ははは、そうですかね。まぁ、フリーの役者でもこのくらいはできますよ、と見せられたことはちょっと良かったかなとは思っています。

──最近は映画だけでなく、テレビドラマでも川瀬さんを観る機会が増えてきました。川瀬さんがワンポイントで出演することで、作品のアクセントや隠し味になっていますよね。

川瀬 僕自身は隠れている気はないんですが(笑)、隠し味でも重宝されているのならありがたいと思っています。たまに僕が出演していない映画でも、「よかったです」と言われることがあり、「ありがとうございます」と答えるようにしているんです(笑)。

──個性派俳優・川瀬陽太によく似た俳優がもう一人いる!?

川瀬 多分、宇野祥平くんあたりじゃないかなと。あいつも映画にいろいろ出ていますからね。それで、あいつの手柄は俺がもらおうと。逆のこともあるのかもしれませんが(笑)。宇野くんとも話したんですが「単館ではサインを求められるけど、シネコンじゃ声を掛けられることもないよな」と。売れているといっても、そんな感じです。そんな状況を楽しみながら、気楽に俳優業をやっています。

 

映画をつくるつもりが演じる側に

──売れっ子俳優の川瀬さんですが、桑沢デザイン研究所を卒業。もともとは俳優ではなく映画スタッフを目指していた?

川瀬 そうなんです。『SRサイタマノラッパー マイクの細道』(テレビ東京系)に出演したとき、主題歌を歌っていたライムスターのMummy Dさんから「僕、後輩です」と言われました。けっこう有名なアーティストやデザイナーが育っている学校なんです。僕も本当は研究所を卒業したら、映画の美術スタッフになるつもりでした。それで福居ショウジン監督の自主映画に参加していたときに、「お前しかいない」と頼まれて、カメラの前に立つことになって。多分、内容がハードで、暴力的なシーンもあったので、事務所に所属している俳優に頼めなかったんでしょうね。その後、瀬々敬久監督のピンク映画に出て、初めてギャラをもらいました。お金をもらえたこと以上に、「俺を必要としてくれる現場があるんだ」と思えたことが大きかった。だから、今までこの仕事が続いたんじゃないかと思います。

──監督の意図を汲み取る大道具みたいな……?

川瀬 そうですね。映画のスタッフには演出部や技術部などありますが、俳優部という感覚ですね。芝居をするスタンドインみたいな感じでやってきました(笑)。いまおか監督の『こえをきかせて』はピンク映画と同じくらいの低予算映画ですが、このくらいのバジェットと撮影期間だと自分に何ができるかなぁって考えます。現場に入って、「こういうロケ地なら、こんなことができるな」とか思いつくことが多いですね。

──事前に台本を読み込んで、徹底的に役づくりするタイプではないんですね。

川瀬 台本は読みますが、あまり役づくりはし過ぎないようにしています。大喜利に参加するような感覚ですね。脇役のときはかなり自由に遊ばせてもらっていますが、主演のときはさすがに変わります。ストーリーだけでなく、周囲も引っ張っていく必要がありますから。その点では、主演俳優は大変だと思います。大きな映画で主演を張る俳優になると、興収結果が今後のキャリアにも関わってくるわけでしょ。僕は主演といっても大規模な作品ではないので、楽しみながらやっています。僕に求められているのはカメレオン俳優的なものではなく、ある種のタイプキャストであることが多いので、やりやすいですよ。

──いまおか監督は林由美香主演作『たまもの』(04)など珠玉のピンク映画を生み出してきた才人。長い付き合いになるそうですね。

川瀬 瀬々監督のボスに向井寛さんという監督兼プロデューサーがいたんですが、向井さんがやっていた「獅子プロダクション」で僕が仕事をするようになった頃、いまおか監督が助監督から監督になったんです。いまおか監督の監督デビュー2作目『痴漢電車 感じるイボイボ』(96)に僕も出ています。そこから20数年間の付き合いですね。いまおか監督がデビュー作『彗星まち』(95)を撮ったとき、上の世代が「ミトコンドリアが風邪をひいたみたいな映画を撮りやがって」と評していたんです。それを聞いて、「うまいこと言うなぁ」と(笑)。それで、「俺はそんなミトコンドリアが風邪をひいたみたいな映画を観たい」と思ったんです。いまおか監督は神代辰巳監督に憧れ、助監督をやっていました。いまおか監督も登場キャラクターたちを突き放して描くことが多いんですが、そのキャラクターたちがもがく姿がいいんです。いまおか監督は基本的にネガティブなことは描かない。ネガティブなことは起きるけれど、みんな幸せになってほしいと願いながら撮っている監督だと思うんです。

──そんな世界に、社会からドロップアウトしたおじさん役の川瀬さんはよく似合うわけですね。

川瀬 なんで、みんな俺のことを社会からドロップアウトさせたがるんでしょうか。こんな、ええとこの坊を捕まえて(笑)。僕はこう見えてもインテリ家族のもとで育ったんですよ(※お父さんは理系の大学講師)。まぁ、ピンク映画から僕のキャリアは始まったわけで、真っ裸からのスタートでした。失うものは何もありませんし、ストレスも感じません。

 

発見された原始人!?

──殺人犯などの犯罪者役を演じていても、観客は川瀬さんにどこか人のよさを感じてしまうのかもしれません。

川瀬 そうだといいですね。実はゴリゴリにハードな役はあまり得意ではないんです。「やれ」と言われればやりますが、個人的には本当の悪人はいないと思っています。加虐側の人間を演じるときは、そいつがそうなったのには何か理由があったんじゃないかと考えるんです。みんな幸せになりたいのに、その方法が分からずにそんなことになっちゃうわけです。ゼロ年代あたりは理解不能なモンスター的なキャラを描く作品が多くて、そんな役にけっこう呼ばれましたが、これからの若い監督には「俺はただの書き割りじゃねぇんだからな」と、その監督のためになればと思って言うこともありました。

──『こえをきかせて』ではヒロインの渡辺万美とテレフォンセックスならぬテレパシーセックスするシーンが印象に残ります。

川瀬 いいシーンですよね。台本を読みながら、いちばんおもろいシーンだなと思いました。カメラの前で一人でおっぱいを揉むマネを延々と続けるわけです。すっごいアホな絵ですよ。いまおか監督は「アホやなぁ」と笑いながら撮っている。やらされる身になってみろと(笑)。でも、僕はベタな泣かせるシーンで泣いたことがないんです。どこか、滑稽な姿のほうが胸が熱くなる。本人が一生懸命な分だけ、おかしみも生じるし、観ている人にも伝わるんじゃないかと思うんです。

──川瀬さん演じる精肉屋の安春は、ハルカ(渡辺万美)の心の叫びが聴こえてしまう。SFの世界でなくても、ありうる話じゃないかなと思うんです。

川瀬 そうかもしれませんね。俺の体験談で言うと、20代の頃は携帯電話を持っていませんでしたが、友達の電話番号を4~5件は覚えていました。待ち合わせで、30分くらいは普通に待っていましたよね。それって、相手のことを察している、相手のことを考えているからだと思うんです。今は友達の電話番号を覚えなくなったし、相手が5分遅れただけで携帯電話に連絡を入れますよね。ひと昔前までは、実はテレパシーみたいなすごいことを交わし合っていたのかもしれません。いろんな人のことを想いながら暮らしていたんじゃないのかなと思うんです。この業界の先輩でも「あの人はなんで他人の気持ちが分かるんだろう」と驚かせられる人がいました。人の心の機微が分かるパイセンたちがいたこの業界は、僕が好きな世界でもあったんです。

──デジタル化が進む現代社会に抗うように生きているんですね。

川瀬 ははは、原始人みたいな役が多いんですよ。僕は昔からやっていることは変わらないんです。ここに来て、みなさんに気づいてもらえた。「原始人、発見!」みたいな感じじゃないですか(笑)

40代になれば何とかなる

──フリーランスの俳優として、四半世紀を過ごしてきたわけですよね。

川瀬 数年間だけ事務所に入っていたことはありますが、辞めてからもう10数年になりますね。今は仕事がありますが、それは単価が安いからでしょう。銀行口座の残高はちっとも増えません(苦笑)。伊藤猛って先輩俳優がいたんですが、「30代はつらいぞ。40代になれば何とかなる」と言われていました。本当、30代は地獄でした。数カ月間、電話がまったく鳴らないんです。気が狂いそうになりました。40代になって少しずつ仕事が来るようになったんです。伊藤猛さんの予言したとおりでした。そう言った伊藤猛さんは52歳で亡くなったんですけどね。40歳を過ぎると、役者仲間たちがこの仕事を辞めていったり、それこそ亡くなったりして、その分だけ仕事が回るようになってきた。それもあって、余計にこの仕事を辞めることができずにいるんです。『anone』など地上波のテレビドラマに出るようになって、女優業を辞めて地方に引っ込んだ知り合いの女性から「がんばってるね」とLNEが来たときは、ちょっと泣きそうになりました。何だか『北の国から』(フジテレビ系)みたいなだなって。

──業界を去っていった、いろんな人たちの声が聴こえてきたんですね。それこそ『こえをきかせて』の安春のように。

川瀬 そうですね。こんな俺でも、ほんの少しは誰かを励ます足しにはなっているのかなぁって。でも、基本的にはあまり考え込むタイプではありません(笑)。

──多忙すぎて、現場をダブルブッキングしたことはありませんか?

川瀬 今のところはありません。昔は助監督の下のほうだったのが、長いことやっているとチーフ助監督になっていたりするんです。撮影日が被ってしまったときは、両作品のチーフ助監督同士が知り合いだったりして、うまくスケジュールをずらしてもらったりしました。そういうことができるようになったのも、40歳過ぎてからです。恥ずかしながら、食べていけるようになったのも40歳になってから。小さい現場も大きな現場も関係なく、声を掛けてもらえるようになった。「あ~、ここが俺の職場かもしれないな」と思えるようになりましたね。

──今や名バイプレイヤーに。

川瀬 その言葉も違和感あるんです(苦笑)。光石研さんや松重豊さんがバイブレイヤーなら、俺なんか路傍の石ですよ。『シン・ゴジラ』で共演した大杉漣さんとは少し面識がありましたが、現場でご一緒したことはありません。でも、大杉さんもそうですし、蛍雪次朗さんもピンク映画から一般映画にも出るようになった。勝手に繋がりを感じています。ピンク映画は予算も人数も少なく、そこからスタッフと一緒にキャリアを重ねていくことができた。そのことが自分にとってはベースになっているし、ありがたいなと思っているんです。自分がどこまでやれるのかは分かりません。体調管理なんて、インフルエンザに罹らないように気をつけているぐらいです。でも、20代でピークが来なくてよかった。こんな劣化したおじさんになってから、仕事が来るようになったわけですから。これでいいんだ、よかったなと思っています(笑)。

「付き合いが長いので、もはやプライベートでは話すことがない」という川瀬陽太といまおか監督だが、そんないまおか監督からも彼の俳優評をもらった。

いまおか「川ちゃんは脇役もできるし、俳優としての“華”もあるので主演もできるタイプ。ピンク映画に出てくれた俳優は、次第に出なくなるものなんですが、川ちゃんは今でも呼ぶと出てくれる。うれしいですよ。メジャー映画にも出るし、ピンク映画や今回みたいな低予算の映画にも出てくれる貴重な役者です。役者って呼ばれてナンボの芸者みたいな職業ですが、川ちゃんは出逢いとか運とかをつかむ才能もあるんでしょう。日本映画を観るとき、リリー・フランキーが出ていると安心するところがありますよね。川ちゃんもスクリーンに出てくると、観客は『この映画は面白そうだ』と期待できる。そんな存在になっているんじゃないですか」

 事務所の力ではなく、現場を愛する力で人気俳優となった川瀬陽太。これから、ますます頻繁に出没するだろう“映画原人”川瀬陽太をぜひスクリーンで目撃してほしい。

(取材・文=長野辰次/撮影=尾藤能暢)

『こえをきかせて』
モデルのハルカ(渡辺万美)は精肉屋の安春(川瀬陽太)の心の声を聞いてしまう。以来、2人は悩みを打ち明け合う仲となっていく。
監督・脚本/いまおかしんじ
出演/渡辺万美、吉岡睦雄、今川宇宙、長屋和彰、広瀬彰勇、古藤真彦、丸純子、川瀬陽太
配給/アルゴ・ピクチャーズ、レジェンド・ピクチャーズ R15+ 4月6日(土)~8日(月)、渋谷ユーロライブにて限定公開
(C)2019キングレコード

『月夜釜合戦』
労働者の街・釜ヶ崎で撮影した16ミリフィルム作品。古典落語「釜泥」をベースに、ヤクザ、旅芸人、活動家たちがお釜争奪戦を繰り広げる。
監督・脚本/佐藤零郎
出演/太田直里、川瀬陽太、渋川清彦、門戸紡、西山真来、カズ、デカルコ・マリィ、緒方晋、赤田周平、下田義弘、大宮義治、北野勇作、海道力也、角田あつし、大宮将司、日野慎也、柴哲平、岡元あつこ、得能洋平、福井大騎、足立正生
配給/映画「月夜釜合戦」製作委員会 3月22日(金)まで渋谷ユーロスペース、4月20日(土)より横浜シネマリンほか全国順次公開中
(C)映画「月夜釜合戦」製作委員会 
http://tukikama.com

『天然☆生活』
『トータスの旅』でゆうばり国際映画祭グランプリを受賞した永山正監督の新作インディーズ映画。川瀬陽太のボンゴ演奏も見どころ、聴きどころ。
監督・製作・脚本・編集/永山正史 脚本/鈴木由理子
出演/川瀬陽太、津田寛治、谷川昭一朗、鶴忠博、三枝奈都紀、秋枝一愛
配給/Spectra film 3月23日(土)より新宿K’s cinemaにてレイトショー
(C)TADASHI NAGAYAMA
https://www.tennen-seikatsu.com

●川瀬陽太(かわせ・ようた)
1969年北海道生まれ、神奈川県出身。桑沢デザイン研究所を卒業後、映画スタッフを経て、福居ショウジン監督の『RUBBER’S LOVERS』(96)で俳優デビュー。瀬々敬久監督のピンク映画『すけべてんこもり』(95)に主演以降、『64 ロクヨン』(16)や『菊とギロチン』(18)など多くの瀬々監督作に出演。冨永昌敬監督の『ローリング』(15)と山内大輔監督の『犯る男』(15)で2016年日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞。近年の映画出演作に『シン・ゴジラ』(16)、『バンコクナイツ』(17)、『トータスの旅』(17)、『blank13』(18)、『おっさんのケーフェイ』(19)など多数。『SRサイタマノラッパー マイクの細道』(テレビ東京系)、『anone』(日本テレビ系)、『この世界の片隅に』(TBS系)などテレビドラマへの出演も増えている。

「芸歴5年目、なのに全員オーバー30」人力舎のトリオコント師・アンダーパーに注目せよ!?

 芸歴5年目、なのに全員オーバー30という、人力舎の”若手”トリオコント師「アンダーパー」が、じわじわと注目を集めつつある。この4月には、2回めとなる単独ライブを開催予定だ。年若いトリオが勢いを見せるお笑い界で、年齢高めの3人はどんな戦略を練っているのか――。(取材・文=斎藤岬/撮影=荒熊流星)

――2018年『ABCお笑いグランプリ』で準決勝に進出され、少しずつ地上波への出演も増えてきているところだと思います。とはいえ、失礼ながら若手芸人ファンでないとまだまだ知らないと思うので、トリオの成り立ちから聞かせてください。

近藤 若手好きでも知らないと思います。

――そんなことないと思いますよ……。芸歴5年目ながら、3人とも30代という平均年齢の高さが特徴だと思います。現在はトリオですが、もともとは藤原さんと近藤さんのコンビだったんですよね?

藤原 そうです。でもコンビだったのは、養成所に入ってすぐの3カ月間くらいですね。

近藤 柏信さんは養成所の頃にコンビを解散しまくってて、また解散した後に「アンダーパーに入りたいんだけど……」って言ってきたんです。お互い東京03さんが好きでしたし、一度トリオを試してみるのもいいかなと思って組みました。

藤原 僕としては、マッチ(近藤)と柏信さんで対比がつくれるからいいかも、という考えはありました。男前の横にちょっと違う人を置いておくと、ネタを作るのがなんとなく楽かなって。

柏信 いま、相当オブラートに包んでくれましたよ。ありがたいですね。

「芸歴5年目、なのに全員オーバー30」人力舎のトリオコント師・アンダーパーに注目せよ!?の画像2

――コンビ時代から名前は「アンダーパー」だったんですか?

藤原 はい。近藤がもともとゴルフ場で働いていたことと、人力舎の先輩はアンジャッシュさんとかアンタッチャブルさんとか、「アン」がついてる人が売れてるから、それにあやかって「アン」をつけよう、と。それと、濁点がついてると売れるっていうジンクスがあるじゃないですか。その条件でゴルフ用語の中から探したら「アンダーパー」が見つかりました。意味を調べたら「平均より上」という感じで、トップとかナンバーワンとかあんまり大きいこと言うのはおこがましいから、我々も平均より上くらいを目指そうという意味で……。

柏信 そのへんに年齢が出てますね。

近藤 でもゴルフの世界でいったら、アンダーパーはめちゃくちゃ成績いいから。

――ただ、ネットでの検索性はすごく低いですよね? 今回調べたら、ゴルフの情報ばかり出てきました。

藤原 そうなんですよね……。名前をつけたときは、そういうことを知らなかったんです。

柏信 ツイッターでエゴサすると、ゴルフの大会があった土日の後は「ダンロップオープン、松山英樹アンダーパーでスタート」みたいなのがいっぱい出てきちゃう。だからもう松山英樹のすごさがよくわかるようになりました。めちゃくちゃアンダーパーでスタートしてるもん。

近藤 俺たちも「松山英樹」で検索しようか。

藤原 意味ないでしょ(笑)。オーディションでも「アンダーバー」と間違われることは多々あります。

柏信 みんな目が悪いのかな? って思うよね。

近藤 耳も悪いよね。「アンダーパーです」って言ってるのに「アンダーバー」って書かれるもん。

「芸歴5年目、なのに全員オーバー30」人力舎のトリオコント師・アンダーパーに注目せよ!?の画像3

――名前といえば、過去に柏信さんが一瞬だけ芸名を「小道具」にしていましたよね。あれはなんだったんでしょうか。

柏信 本当に一瞬の気の迷いです。2016年ですね。「売れなきゃいけない」っていう思いが強すぎたんだと思うんですけど、人間をやめようと思って。

藤原 怖いよ。説明不足すぎる(笑)。

柏信 僕みたいなタイプって、ボケの人にいっぱいいるんですよ。だからその中でトップになるのは難しいな、と。それで「じゃあ人間をやめて、物になろう」と思ったんです。物だとしたら、しゃべれるし万能じゃん、っていうトチ狂った考えが生まれて、「小道具」になりました。でも定着しなかったんで、しれっと1年で戻しました。

近藤 その1年はきっちり低迷期間でしたね。

――誰が提案したんですか?

藤原 僕です(笑)。変えて1カ月で「失敗した」と思ったんですけど、自分の非を認めたくなかったんです。僕の立場で非を認めてしまうと、バランスが崩れるんで。1年後に「(間違いだと)悟りました」みたいな雰囲気出して戻しました。

「芸歴5年目、なのに全員オーバー30」人力舎のトリオコント師・アンダーパーに注目せよ!?の画像4

――そのおかげで今は順調になってきているのかもしれませんね。でも、去年の『キングオブコント』ではハナコが優勝しましたし、四千頭身も売れつつあります。年齢も芸歴も若いトリオが台頭しているのは、焦りませんか?

藤原 むしろ、そこと張り合うのをやめてから調子が良くなってきています。ハナコさんも四千頭身も華があってネタも面白い。芸人だったら、切れ味のある設定で大喜利として強いボケがあって、というネタにみんな一回は憧れるし、そこからつくりはじめるんですよ。僕らもそうだったんですけど、2017年の終わりくらいに「それじゃ意味がない」って気づいて、ネタの作り方を一気に変えたんです。結局のところ、人が強くないとコントも面白くない。僕はもともとマッチが人として変だと思ったから最初にコンビを組んだし、その対比として柏信さんを入れてトリオになったのに、その部分を全然使ってないな、ってことに気が付きました。だから設定や切り口はいったん置いておいて、2人の人柄が出るコントをやってみよう、と。いざ作ってみるとこの作り方のほうが楽だし、面白いネタが量産できると判明しました。

近藤 だいたいあってますけど、一個訂正です。僕は変じゃないです。

藤原 変だよ。

柏信 そうやって言うやつは変だよ。

――それはあとで詳しく聞くとして、おふたりにとってその変化はどうでしたか? 藤原さんが書いてきたネタをやっている中で、「作り方が変わったな」とわかるわけですよね。

柏信 僕はあんまりわかってなかったです。正直、いま言ってたのも「あ、そうなんだ」って聞いてました。

近藤 僕は全然やりやすい……やりやすいって言うと多分認めたことになっちゃうんですけど。でもそれでハマった感じはたしかにあります。僕らにしかできないネタになってきてる実感はある。

藤原 そのぶん、柏信さんのセリフ量は極端に減ったけど。

柏信 僕としては、覚える能力にあんまり長けてないので、すごい助かってます。へっへっへ。

藤原 「へっへっへ」じゃねぇよ(笑)。

柏信 いま自然と出た(笑)。

「芸歴5年目、なのに全員オーバー30」人力舎のトリオコント師・アンダーパーに注目せよ!?の画像5

――いい笑い方ですね(笑)。さてそれで、近藤さんが「変」という話なんですが。

柏信 異常性があるよね。

藤原 過去に、マッチが彼女から音が出るスイッチ付きのカードで手紙をもらったんですよ。それを「変なのが入ってる。盗聴器だ」って言い出して、一回洗って干して、壊してから手紙読んでましたね。

近藤 その場にいたら絶対盗聴器だと思うから。普通そういうカードって、開いたら鳴るじゃん。鳴らないのに何か紙の中に入ってるし、「え、怖」って思って。

柏信 だとしても、彼女なんだから信用してあげてよ。あと、そもそもそんなバレバレの盗聴器仕掛けないよ。

藤原 ほかにも、昔テコンドーやってたらしいんですけど、試合中に「つまらない」と思ってやめたとか。

――試合中に!?

藤原 ありえなくないですか? 試合に負けて「もうやりたくないな」って思うならわかるけど、いちばん熱くなってる試合中に思うんですよ。言い出したらキリがないくらい、多々ありますね。

柏信 団体競技も嫌いだし。

藤原 だからもう、よくトリオやってるなって思う。

近藤 めちゃくちゃ大まかに言ったら、俺あんまり人間が好きじゃないからね。大きな声では言えないけど。

――どんな声量でも文字にしたら同じなので……。その変さは、どういうふうにネタに反映されてるんですか?

藤原 最近は、この人の変な考えから生まれたネタも多いです。「ストーカーを追い払うために、自分がストーカーより変なやつになる」っていうネタも、もともと喫茶店での会話から生まれました。ちょうどストーカー事件がニュースになっていたときで、その話をしていたらマッチが「そいつよりヤバい人になれば追い払えるのにね」ってシンプルに言ってきたんです。1~2年後くらいに、ネタに詰まってるときにそれを思い出して。

近藤 藤原がそのネタ書いてきたとき、「俺は普通のこと言っただけだし、なんにもおもしろくないな」って思いました。

藤原 マッチにとってはあたりまえのことだからね(笑)。いざやってみたら、むちゃくちゃハネました。今回の単独も、2本くらいはマッチが言ってたことから生まれたネタがあります。

近藤 そのネタは本当に笑えないと思いますよ。全然おもしろくないと思う、ただの事実だから(真顔で)。

「芸歴5年目、なのに全員オーバー30」人力舎のトリオコント師・アンダーパーに注目せよ!?の画像6

――4月の単独ライブ『バイナル』は、ネタの作り方を変えてから初めての単独になりますね。

藤原 このやり方で正解なのかどうかの答え合わせを単独でやろうと思って、いまの方向性を強化して作ってますが、全ネタいいです。自信があるネタをちゃんとやれる安心感があります。いろんな人に見てほしいですね。新ネタをやるときはいつもめちゃくちゃ不安ですけど、やっぱり良いネタは最初から「これはイケる」って思うことが多いんです。今回はそういうネタしか集めてないので、自信があります。

――おふたりはどうですか?

柏信 僕はもう、何も考えずがんばるだけです。こういうときだけ小道具です。

近藤 楽しみたいですね。2日あるので、1日目でやったものを2日目は修正しながら自由にやりたいです。自分なりのアドリブを入れたりして、困らせたい。

藤原 「こいつら、これからこういうスタイルでやっていくんだな」っていうのがわかるライブになると思います。たくさんの人にはウケないかもしれないけど、見たうちの何人かに刺さるようなネタの作り方にしてるので。

近藤 でも、刺さる人は多くなくても、ライブにはたくさんの人に来てほしい。

――人間が嫌いなのに……。

柏信 めちゃめちゃ矛盾してるなぁ……。

「芸歴5年目、なのに全員オーバー30」人力舎のトリオコント師・アンダーパーに注目せよ!?の画像7

■アンダーパー
藤原丞(1985年生まれ、岩手県出身)、柏信圭吾(1984年生まれ、広島県出身)、近藤雅彦(1986年生まれ、愛知県出身)のトリオ。2013年結成。『ABCお笑いグランプリ』2018準決勝進出。

■アンダーパー単独ライブ『バイナル』
【日時】
4月8日(月)18:30開場 19:00開演
4月9日(火)18:30開場 19:00開演
【会場】東京・新宿バティオス
【料金】前売2000円/当日2300円(共に全席自由)
パスマーケットおよび本人出演ライブにて販売中

「芸歴5年目、なのに全員オーバー30」人力舎のトリオコント師・アンダーパーに注目せよ!?

 芸歴5年目、なのに全員オーバー30という、人力舎の”若手”トリオコント師「アンダーパー」が、じわじわと注目を集めつつある。この4月には、2回めとなる単独ライブを開催予定だ。年若いトリオが勢いを見せるお笑い界で、年齢高めの3人はどんな戦略を練っているのか――。(取材・文=斎藤岬/撮影=荒熊流星)

――2018年『ABCお笑いグランプリ』で準決勝に進出され、少しずつ地上波への出演も増えてきているところだと思います。とはいえ、失礼ながら若手芸人ファンでないとまだまだ知らないと思うので、トリオの成り立ちから聞かせてください。

近藤 若手好きでも知らないと思います。

――そんなことないと思いますよ……。芸歴5年目ながら、3人とも30代という平均年齢の高さが特徴だと思います。現在はトリオですが、もともとは藤原さんと近藤さんのコンビだったんですよね?

藤原 そうです。でもコンビだったのは、養成所に入ってすぐの3カ月間くらいですね。

近藤 柏信さんは養成所の頃にコンビを解散しまくってて、また解散した後に「アンダーパーに入りたいんだけど……」って言ってきたんです。お互い東京03さんが好きでしたし、一度トリオを試してみるのもいいかなと思って組みました。

藤原 僕としては、マッチ(近藤)と柏信さんで対比がつくれるからいいかも、という考えはありました。男前の横にちょっと違う人を置いておくと、ネタを作るのがなんとなく楽かなって。

柏信 いま、相当オブラートに包んでくれましたよ。ありがたいですね。

「芸歴5年目、なのに全員オーバー30」人力舎のトリオコント師・アンダーパーに注目せよ!?の画像2

――コンビ時代から名前は「アンダーパー」だったんですか?

藤原 はい。近藤がもともとゴルフ場で働いていたことと、人力舎の先輩はアンジャッシュさんとかアンタッチャブルさんとか、「アン」がついてる人が売れてるから、それにあやかって「アン」をつけよう、と。それと、濁点がついてると売れるっていうジンクスがあるじゃないですか。その条件でゴルフ用語の中から探したら「アンダーパー」が見つかりました。意味を調べたら「平均より上」という感じで、トップとかナンバーワンとかあんまり大きいこと言うのはおこがましいから、我々も平均より上くらいを目指そうという意味で……。

柏信 そのへんに年齢が出てますね。

近藤 でもゴルフの世界でいったら、アンダーパーはめちゃくちゃ成績いいから。

――ただ、ネットでの検索性はすごく低いですよね? 今回調べたら、ゴルフの情報ばかり出てきました。

藤原 そうなんですよね……。名前をつけたときは、そういうことを知らなかったんです。

柏信 ツイッターでエゴサすると、ゴルフの大会があった土日の後は「ダンロップオープン、松山英樹アンダーパーでスタート」みたいなのがいっぱい出てきちゃう。だからもう松山英樹のすごさがよくわかるようになりました。めちゃくちゃアンダーパーでスタートしてるもん。

近藤 俺たちも「松山英樹」で検索しようか。

藤原 意味ないでしょ(笑)。オーディションでも「アンダーバー」と間違われることは多々あります。

柏信 みんな目が悪いのかな? って思うよね。

近藤 耳も悪いよね。「アンダーパーです」って言ってるのに「アンダーバー」って書かれるもん。

「芸歴5年目、なのに全員オーバー30」人力舎のトリオコント師・アンダーパーに注目せよ!?の画像3

――名前といえば、過去に柏信さんが一瞬だけ芸名を「小道具」にしていましたよね。あれはなんだったんでしょうか。

柏信 本当に一瞬の気の迷いです。2016年ですね。「売れなきゃいけない」っていう思いが強すぎたんだと思うんですけど、人間をやめようと思って。

藤原 怖いよ。説明不足すぎる(笑)。

柏信 僕みたいなタイプって、ボケの人にいっぱいいるんですよ。だからその中でトップになるのは難しいな、と。それで「じゃあ人間をやめて、物になろう」と思ったんです。物だとしたら、しゃべれるし万能じゃん、っていうトチ狂った考えが生まれて、「小道具」になりました。でも定着しなかったんで、しれっと1年で戻しました。

近藤 その1年はきっちり低迷期間でしたね。

――誰が提案したんですか?

藤原 僕です(笑)。変えて1カ月で「失敗した」と思ったんですけど、自分の非を認めたくなかったんです。僕の立場で非を認めてしまうと、バランスが崩れるんで。1年後に「(間違いだと)悟りました」みたいな雰囲気出して戻しました。

「芸歴5年目、なのに全員オーバー30」人力舎のトリオコント師・アンダーパーに注目せよ!?の画像4

――そのおかげで今は順調になってきているのかもしれませんね。でも、去年の『キングオブコント』ではハナコが優勝しましたし、四千頭身も売れつつあります。年齢も芸歴も若いトリオが台頭しているのは、焦りませんか?

藤原 むしろ、そこと張り合うのをやめてから調子が良くなってきています。ハナコさんも四千頭身も華があってネタも面白い。芸人だったら、切れ味のある設定で大喜利として強いボケがあって、というネタにみんな一回は憧れるし、そこからつくりはじめるんですよ。僕らもそうだったんですけど、2017年の終わりくらいに「それじゃ意味がない」って気づいて、ネタの作り方を一気に変えたんです。結局のところ、人が強くないとコントも面白くない。僕はもともとマッチが人として変だと思ったから最初にコンビを組んだし、その対比として柏信さんを入れてトリオになったのに、その部分を全然使ってないな、ってことに気が付きました。だから設定や切り口はいったん置いておいて、2人の人柄が出るコントをやってみよう、と。いざ作ってみるとこの作り方のほうが楽だし、面白いネタが量産できると判明しました。

近藤 だいたいあってますけど、一個訂正です。僕は変じゃないです。

藤原 変だよ。

柏信 そうやって言うやつは変だよ。

――それはあとで詳しく聞くとして、おふたりにとってその変化はどうでしたか? 藤原さんが書いてきたネタをやっている中で、「作り方が変わったな」とわかるわけですよね。

柏信 僕はあんまりわかってなかったです。正直、いま言ってたのも「あ、そうなんだ」って聞いてました。

近藤 僕は全然やりやすい……やりやすいって言うと多分認めたことになっちゃうんですけど。でもそれでハマった感じはたしかにあります。僕らにしかできないネタになってきてる実感はある。

藤原 そのぶん、柏信さんのセリフ量は極端に減ったけど。

柏信 僕としては、覚える能力にあんまり長けてないので、すごい助かってます。へっへっへ。

藤原 「へっへっへ」じゃねぇよ(笑)。

柏信 いま自然と出た(笑)。

「芸歴5年目、なのに全員オーバー30」人力舎のトリオコント師・アンダーパーに注目せよ!?の画像5

――いい笑い方ですね(笑)。さてそれで、近藤さんが「変」という話なんですが。

柏信 異常性があるよね。

藤原 過去に、マッチが彼女から音が出るスイッチ付きのカードで手紙をもらったんですよ。それを「変なのが入ってる。盗聴器だ」って言い出して、一回洗って干して、壊してから手紙読んでましたね。

近藤 その場にいたら絶対盗聴器だと思うから。普通そういうカードって、開いたら鳴るじゃん。鳴らないのに何か紙の中に入ってるし、「え、怖」って思って。

柏信 だとしても、彼女なんだから信用してあげてよ。あと、そもそもそんなバレバレの盗聴器仕掛けないよ。

藤原 ほかにも、昔テコンドーやってたらしいんですけど、試合中に「つまらない」と思ってやめたとか。

――試合中に!?

藤原 ありえなくないですか? 試合に負けて「もうやりたくないな」って思うならわかるけど、いちばん熱くなってる試合中に思うんですよ。言い出したらキリがないくらい、多々ありますね。

柏信 団体競技も嫌いだし。

藤原 だからもう、よくトリオやってるなって思う。

近藤 めちゃくちゃ大まかに言ったら、俺あんまり人間が好きじゃないからね。大きな声では言えないけど。

――どんな声量でも文字にしたら同じなので……。その変さは、どういうふうにネタに反映されてるんですか?

藤原 最近は、この人の変な考えから生まれたネタも多いです。「ストーカーを追い払うために、自分がストーカーより変なやつになる」っていうネタも、もともと喫茶店での会話から生まれました。ちょうどストーカー事件がニュースになっていたときで、その話をしていたらマッチが「そいつよりヤバい人になれば追い払えるのにね」ってシンプルに言ってきたんです。1~2年後くらいに、ネタに詰まってるときにそれを思い出して。

近藤 藤原がそのネタ書いてきたとき、「俺は普通のこと言っただけだし、なんにもおもしろくないな」って思いました。

藤原 マッチにとってはあたりまえのことだからね(笑)。いざやってみたら、むちゃくちゃハネました。今回の単独も、2本くらいはマッチが言ってたことから生まれたネタがあります。

近藤 そのネタは本当に笑えないと思いますよ。全然おもしろくないと思う、ただの事実だから(真顔で)。

「芸歴5年目、なのに全員オーバー30」人力舎のトリオコント師・アンダーパーに注目せよ!?の画像6

――4月の単独ライブ『バイナル』は、ネタの作り方を変えてから初めての単独になりますね。

藤原 このやり方で正解なのかどうかの答え合わせを単独でやろうと思って、いまの方向性を強化して作ってますが、全ネタいいです。自信があるネタをちゃんとやれる安心感があります。いろんな人に見てほしいですね。新ネタをやるときはいつもめちゃくちゃ不安ですけど、やっぱり良いネタは最初から「これはイケる」って思うことが多いんです。今回はそういうネタしか集めてないので、自信があります。

――おふたりはどうですか?

柏信 僕はもう、何も考えずがんばるだけです。こういうときだけ小道具です。

近藤 楽しみたいですね。2日あるので、1日目でやったものを2日目は修正しながら自由にやりたいです。自分なりのアドリブを入れたりして、困らせたい。

藤原 「こいつら、これからこういうスタイルでやっていくんだな」っていうのがわかるライブになると思います。たくさんの人にはウケないかもしれないけど、見たうちの何人かに刺さるようなネタの作り方にしてるので。

近藤 でも、刺さる人は多くなくても、ライブにはたくさんの人に来てほしい。

――人間が嫌いなのに……。

柏信 めちゃめちゃ矛盾してるなぁ……。

「芸歴5年目、なのに全員オーバー30」人力舎のトリオコント師・アンダーパーに注目せよ!?の画像7

■アンダーパー
藤原丞(1985年生まれ、岩手県出身)、柏信圭吾(1984年生まれ、広島県出身)、近藤雅彦(1986年生まれ、愛知県出身)のトリオ。2013年結成。『ABCお笑いグランプリ』2018準決勝進出。

■アンダーパー単独ライブ『バイナル』
【日時】
4月8日(月)18:30開場 19:00開演
4月9日(火)18:30開場 19:00開演
【会場】東京・新宿バティオス
【料金】前売2000円/当日2300円(共に全席自由)
パスマーケットおよび本人出演ライブにて販売中

小室圭さん、「祖母の自殺」「母と元暴力団の関係」まで報道も……宮内庁が対応しないワケ

 秋篠宮家の長女・眞子さまとの結婚延期問題に揺れる小室圭さんに関して、ある衝撃の事実が報じられた。圭さんは10歳のとき、父親が自殺によって亡くなっており、その1週間後、父方の祖父も後を追うように自ら死を選んだことが明らかとなっているが、父方の祖母もまた約1年後、同様に自死していると「女性セブン」(小学館)が伝えたのだ。

 さらに同誌によると、圭さんの母・佳代さんは、祖父の死直後から、元暴力団関係者の知人の力を借り、遺産相続の相談を行っていたといい、父方の親族から眉をひそめられるようになったという。そして、現在、小室さん親子と親戚は没交渉になっているそうだ。

 「自殺」「遺産」「暴力団」……まがまがしい言葉の並ぶ記事に、世間は騒然。あらためて「圭さんとの結婚を取りやめるべき」といった世論が高まる中、一方では、「報道の自由があるとはいえ、さすがにプライバシーを侵害しすぎているのでは」という声もまた徐々に広がりつつある。

 また、皇室問題に詳しい弁護士X氏も、サイゾーウーマンの取材に対し、以前から「結婚問題解決の足がかりは、マスコミが小室さん親子に関する報道を自粛すること」を挙げているが、世間からは「ではなぜ宮内庁は、マスコミに対して、報道自粛の要請を行わないのか?」という疑問も散見される状況だ。そこで今回X氏に、小室さん親子をめぐる報道がやまない背景について話を聞いた。

 宮内庁のホームページには、「皇室関連報道について」というページが存在している。「最近の報道の中には,事実と異なる記事や誤った事実を前提にして書かれた記事が多々見られます」とし、「必要に応じ宮内庁として,正確な事実関係を指摘することといたしました」と、いくつかの週刊誌記事などに対して、訂正を行っているのだ。

 眞子さまの結婚問題に関しては、昨年5月、「眞子内親王殿下に関する最近の週刊誌報道について」という文書を発表。週刊誌には、皇后さまが眞子さまのご結婚に関してさまざまなご発言をされていると掲載されているが、「(皇后さまは)細心の注意を払って固く沈黙を守り続けて」いるとして、暗に報道内容を否定しているのだ。しかし、小室さん親子に関する記事を取り上げ、否定するということはなく、そもそもこの「皇室関連報道について」をよく読むと、こと皇后さまの記事に関してのみ、宮内庁が指摘を入れていることがわかる。

「かつて、一部のマスコミが、 美智子さまが皇居内の自然林を伐採したうんぬんといった事実無根の記事を書いたことがあります。そのことで美智子さまが大変心を痛められたことがあり、このような“実害”が二度と起こることがないように、宮内庁が注意しているものと考えられます。最近も『美智子さまが誰々にこう話された』などという話が多いことから、特に注意しているのではないでしょうか」

 宮内庁はこうしたチェックの目を、圭さんの報道にも向けることはないのだろうか。

「圭さんは、現時点では一般の国民ですし、たとえ将来、眞子内親王殿下と婚姻されても一般の国民です。そのため、宮内庁がどうのこうの言う立場にはないと考えられます」

 眞子さまと婚約内定しているとはいえ、圭さんはこれまでもこれからも皇族ではない。それゆえに宮内庁は、マスコミに対して何も言えないのが、過熱し続ける報道の背景にあるようだ。

 しかし、わが国のプリンセスの結婚相手に関心を抱く国民は多い。その期待に応えるため、マスコミは「報道の自由」のもと、今後も小室さんサイドの取材を進める可能性は高いとみられるが、「報道の自由」と「プライバシーの侵害」は、どのように考えるべきなのだろうか。

「芸能人や文化人などの著名人は、テレビやマスコミに露出すること、また自分のプライベートも“売り物”にして、いわば“カネ”を得ています。そんな彼らが、『プライバシーに配慮してほしい』などと要望することは、言ってみればおこがましいこと。例えば先日、麻薬取締法違反で逮捕されたピエール瀧さんなどは、一般人が麻薬を使用して逮捕された時の報道よりもニュースバリューがあるため、大きくかつ大げさに報道されましたが、やはり普段、テレビやマスコミに出て“カネ”を得ていますから、逮捕の時だけ『一般人より大きく大げさに報道しないでくれ』などとは言えないわけです」

 対して圭さんは、一般の国民である。普段から、テレビやマスコミに露出することで名声やカネなどを得ていないため、「報道の自由」より「プライバシーの侵害」が優先されると、X氏は言う。

「著名人はある程度、『報道の自由』がリードすることでしょう。しかし一般人の場合は、大きく大げさに報道されるいわれもないということです。『報道の自由』と『プライバシーの侵害』は、 報道の対象者によって、どちらが優先されるか、 どちらを控えるべきかというマトリックスが描かれることになります」

 かつてフジテレビが、『めちゃ×2イケてるッ!』で、STAP細胞騒動の渦中にいた理化学研究所元研究員・小保方晴子氏のパロディを扱ったことがあるが、現在の圭さんには、それと同様の事態が降りかかっているという。小保方氏の一件の際には、視聴者から番組への批判が巻き起こっていたが、圭さんに関してはそういった声は少数なのかもしれない。

「マスコミは、眞子内親王殿下を小室さんと結婚させたくないために、このような報道をしていると誤解されても仕方がないのではないでしょうか。もはや“面白おかしく”のレベルすら超えて、“結婚させない”ための努力をしていると考えざるを得ません」

 そう強い言葉で疑問を呈したX氏。まもなく天皇陛下の退位、皇太子さまの新天皇即位となるが、果たしてそれまでに、結婚問題に何らかの答えは出るのだろうか。

「Tinder」「Pairs」マッチングアプリの落とし穴! 「街中で『これ君だよね?』」恐怖の一幕も

 大学生や20代の若者を中心に、もはや定番となっている「Tinder」や「Pairs」といったマッチングアプリ。出会いを求める男女を“つなぐ”アプリで、実際に恋愛に発展したり、結婚に至ったというカップルも増えているという。「出会いがない……」と悩む人にとっては、まさに救いのアプリだが、一方で、上の世代の人たちは、ひと昔前にはやった「出会い系サイト」を想起し、「知らない人と出会うなんて、危険ではないか?」と疑問を漏らすことも。今回、ITジャーナリスト・高橋暁子氏に、マッチングアプリが若者の間で市民権を得た理由や、注意すべき“落とし穴”について話を聞いた。

「外部の人と付き合いたい」SNS時代の若者たち

 ひとたび、インターネットで「マッチングアプリ」と検索すると、「Tinder」「Pairs」「Omiai」「ゼクシィ縁結び」など、多種多様なアプリがずらりと並ぶ。それだけ今、マッチングアプリの需要があるということだが、その人気の理由はどこにあるのだろうか。

「以前、大学に講演に行った際、学生さんからいろいろと話を聞いたのですが、『大学内で恋愛をすると、みんなSNSでつながっているので、元カレや元々カレ、また“いま付き合いそうになっている男子”など、全てが筒抜けになるので、正直やりづらい。別れた後も面倒だ』と言っていました。そのため、外部の人と付き合いたいという願望があり、マッチングアプリを使うのだそうです。友達もみんな使っていて、ある時、大学内でGPS機能付きのマッチングアプリを立ち上げたところ、同じ大学のユーザーが表示され、すぐに閉じたという話も耳にしましたね。それだけマッチングアプリは一般的になっています」

 SNSを使うことが当たり前の世代は、ネットに費やす時間が長い。「そこで失敗すると、自分の立場がなくなってしまう」という理由から、大学用や高校用、趣味用など、複数のアカウントを作り、それぞれの場でウケるためにはどうすればいいのかを考えた投稿を行うそうだ。こうした背景から、「しがらみがなく、切ろうと思えば切れるマッチングアプリが重宝されるようになった」という。

 また、以前の出会い系サイトとは違い、最近は大手企業が手がけるマッチングアプリもあり、「目視による監視体制が敷かれている点や、Facebook認証の導入、公的証明書での本人確認を必須とするなど、安全性が高いシステムとなっていることも、若者の間で人気を得た理由ではないでしょうか」と、高橋氏は考察する。

「その人の“出会いに対する本気度”によって、使うマッチングアプリを選べるのも人気の理由だと思います。マッチングアプリと一口に言っても、例えば、『ちょっと出会いたいな』という人は『Tinder』を、結婚を視野に入れた恋人がほしい人は、『恋活』『婚活』を謳う『Pairs』をといった具合です。男性は有料というアプリは、より本気度が高いのではないでしょうか」

 ユーザーの本気度がわからず、サクラも多かったかつての出会い系サイトと比較すると、マッチングアプリは信頼を置けると言えそうだ。

 しかし、そんなマッチングアプリにも落とし穴があるという。アプリ上でのやりとりだけでも、さまざまなトラブルが発生しているようだ。

「アプリ上のプロフィール写真を、SNSと同じものにしていたところ、相手とのやりとりの中で、『君のSNSアカウントってこれだよね?』『住所近いね』とメッセージがきて、怖い思いをしたという人の話を聞きました。また、GPS機能付きで近くの人と出会えるアプリを使っていたら、家の近所でユーザーと何度もすれ違い、街中で『これ君だよね?』と声をかけられたケースも」

 ネットでは、マッチングアプリ上で、相手から暴言を吐かれたといったトラブルも目にするが、「『Tinder』のような顔だけで相手を判断するようなアプリのユーザーは、軽い気持ちかつ相手の体目的という人も多く、ネットに対するスタンスがかなりゆるいので、そういったトラブルが起こりやすいのではないでしょうか」という。ほかにも、「いい感じでやりとりをしていたのに、突然切られてしまうなど、マッチングアプリで人間不信になりそうになったという話も聞きますね。人を人と思わないようなユーザーも中にはいるようです」。

 実際に会ってからだと、さらに多くのトラブル事例があるそうだ。昨年3月に起こった「大阪民泊バラバラ殺人」もその一つで、加害者と被害者が最初に知り合ったのが「Tinder」だったと報じられている。

「先日、婚活アプリで知り合った複数の女性から現金を騙し取った男性が逮捕される事件もありましたね。また、マルチ商法やネットワークビジネスなどを紹介されたというケースも多く、最初は会話が盛り上がっていたのに、突然風向きが変わり、“別の会”に誘われたりするそうです。それから、婚活目的で会ってみたら、実は既婚で子どもがいたことが後から発覚したり、職業や年収がウソだったりという話もよく聞きます。先ほど、マッチングアプリは、本気度によって使い分けることができると言いましたが、婚活アプリなのに体目的のユーザーが混じっているといったことも珍しくないようです」

 ほかにも、プロフィール写真詐欺は頻繁にあるそうで、「若い頃の写真ならまだしも、まったく別人の写真を使っているユーザーも。顔だけで相手を判断するようなアプリでマッチングして、実際に会ってみたら、びっくりしてしまいますよね。日本ではあまり知られていない、台湾や中国のアイドルの顔写真を使うユーザーもいるようです。アプリ側がユーザーの本人確認をしても、顔までは確認できないこともあるので、そういったことが起こるのでしょう」。

 では、マッチングアプリで危険な目に遭わないようにするためには、どうしたらいいのだろうか。

「会ったばかりなのに、個人情報を渡しすぎないこと。アプリ上で切っても、LINEや電話番号を教えていたため、そちらに連絡が来るようになったという人もいます。また、最初は密室で会わないなど、最低限の自分を守るための手立てを持ってから会うようにすべきでしょう。数回会って、本当に信頼の置ける人かどうかを確認することが大切です」

 こうしてマッチングアプリの落とし穴について話を聞くと、今まで使ったことがない人は「やっぱり怖い」と思うかもしれない。しかし、最後に高橋氏は、マッチングアプリを使うメリットを教えてくれた。

「婚活アプリで出会ったカップルは成婚率が高く、しかもなかなか別れないという話も聞きます。というのも、プロフィールなどから“相性の良さ”を計測してくれるというアプリもあり、その精度は利用すればするほど上がるそうです。うまく使えば、いい人と出会えると思うので、最初から“ノーサンキュー”と拒まず、選択肢の一つとして取り入れてみてもいいのでは」

 マッチングアプリに限らず、どんなものにもメリット/デメリットがある。だからこそ、自分にとってどう使うのがベストかを十分考えることが重要と言えるだろう。