整形男子アレンもボロボロに!? セラミックやジルコニア、人工歯トラブルの実態をきぬた歯科解説

 歯みがき粉「アパガード」CMの「芸能人は歯が命」というキャッチコピーが、かつて大きな話題を呼んだことを覚えているだろうか。このCMは今から20年以上も前のものだが、「歯の印象が、人の見た目に大きな影響を与える」のは、いまや常識となっている。人から見られる職業である芸能人はもちろんのこと、一般人の中にも「見た目の美しい歯を手に入れたい」と、ホワイトニングに力を入れたり、歯列矯正をする人は多く、中には、健康な歯を削って、セラミックなどの人工歯を被せる人も珍しくなくなった。

 しかしそんな中、「整形男子」としてメディアに登場するタレント・アレンが、ブログで人工歯のトラブルを告白。アレンは5年前、自身の歯16本を小さく削り、神経を抜き、そこにジルコニアと呼ばれる人工歯を被せたというが、「土台からジルコニアが揺れるようになった」とのこと。差し替えた際に、歯をより綺麗に見せるため、元の前歯を削って、ジルコニアを4mmほど内側に倒したといい、その負荷が原因なのではとつづっている。応急処置として、前歯のジルコニアの後ろ側を少し削ったものの、今度は顎関節症のような症状が出て、アゴには疲労感が、また頭と首にも痛みが走るようになり、「自殺したくなるほど」の心境にまで陥ったという。

 アレンのこの告白は、人々に「健康な歯を削るリスク」について、あらためて知らしめることとなったが、果たしてこの事態を、歯科医はどう見るのか。今回、インパクトの強い看板でお馴染みの八王子きぬた歯科院長・きぬた泰和先生に取材を行うと、「アレンさんのトラブルは、実は日常的によくある話なんです」とのこと。歯の美しさを求める人にとっては他人事ではないこのトラブルを解説してもらった。

――アレンさんの人工歯トラブルですが、率直にどのような感想を抱かれましたか。

きぬた泰和先生(以下、きぬた) まず、アレンさんはブログで「神経を抜いた」と書いていましたが、神経を抜くと歯が弱くなるため、そもそも「神経を抜かなければよかったのではないか」という話なんです。しかし神経を抜くと、水や空気が当たって凍みることがなくなるので、歯をより多く切削できる面があります。元の歯を小さく削れば削るほど、人工歯の角度を自由自在にできる、つまり見た目の美しい歯にしやすいのです。これが彼を担当した歯科医の作戦だったのではないでしょうか。気持ちはわかります。

 また、彼はジルコニアの人工歯ですが、セラミックの人工歯は、パウダーを焼き付けて重ねていくことで多層構造を作り、よりリアル感のある色にしていくものでして、その場合、元の歯は小さければ小さいほど、色合わせが自由自在となる。ただし、繰り返しますが、彼が被せたのはジルコニアであり、これはセラミックとは違ってパウダーを重ね合わせて色合いを調整する素材ではないんです。恐らく担当した歯科医が、セラミックと同じ要領で神経を抜いて、歯を小さく削ったのではないかと思われます。

――歯科医が、そんなミスをするものなんですか。

きぬた ミスかどうかはわかりませんが、サメの歯のように小さく削るのは、美容歯科系に多いですね。セラミックをきれいに作るための訓練をしているので、「ジルコニアを被せる」という認識がなく、自動的に歯を小さく削ってしまった可能性はあります。また、ジルコニアの歴史が浅いのも、セラミックと同じ要領で削ってしまったことに関係しているかもしれません。ジルコニアが歯科領域に登場したのは、ここ10年くらい。人工ダイアモンドと呼ばれるほど硬い素材で、当初は土台として使用されていました。神経を抜くと歯が弱くなるので、それを補強するために、歯の中に芯を入れて土台を作るんです。被せ物として使われるようになったのはまだ5年くらいで、彼が差し替えたのは、まさに「出始めの頃」だったのでしょう。

――被せ物としてのジルコニアの安全性は、まだ確立されていないんですね。

きぬた ジルコニアであれば、大きく切削する必要はないし、神経を残したままにしてもよかったかな? とは思います。それでも彼の場合、やはり歯の角度を変えるため、神経を抜いて元の歯を小さくしなければならなかったのかもしれません。ちょっとくらい角度を調整するのなら、神経を抜かなくてもよかったはずですが、彼は前歯を内側に4mm倒したと。これって、かなり思い切った数字で、僕がやるとしたら、MAXで1mm。普通は倒したとしても1mm以下です。あくまでも僕の基準ですが。

――アレンさんはそれが原因で前歯部分のジルコニアに負荷がかかり、「土台からジルコニアが揺れるようになった」と言っています。

きぬた 顎というのは上下、前後、左右と、あらゆる角度で自由自在に動くものですが、アレンさんはジルコニアに差し替えた際、前歯を内側に倒したため、上の前歯と下の前歯がクローズ状態となり、稼動域が限られてしまった。それでも、今まで通りに顎を動かそうとして、上の前歯と下の前歯がガンガンぶつかり、負荷がかかったというわけです。セラミックは、負荷がかかると割れて、それが「このままでは歯根に無理が生じますよ」という警告になるのですが、いかんせんジルコニアは強力に硬い。すると、歯根が衝撃を受け続ける状態になるのです。

――ジルコニアは無傷なのに、その中の歯根がダメになるのですか?

きぬた 車を例に説明しましょう。昔、車のボディーというのは硬かったのですが、最近は柔らかい材質になっています。というのも、車がぶつかった際、ボディーが硬いと、ボディー自体は平気なのですが、衝撃が中に乗っている人に伝わるのです。なので、死亡事故も多かった。一方、ボディーが柔らかいと、ボディー自体はグシャッと潰れるものの、そこで衝撃を吸収してくれるので、中の人への影響は少なくなります。ジルコニアに負荷を与え続けると歯根がダメになる原理と同じです。

――アレンさんは土台については言及していましたが、歯根に関しては特に何も言っていなかったので、歯根が折れるまではいっていなかったかもしれません。

きぬた 土台がそもそも「浅かった」ので、土台がグラついたという面もあるのではないでしょうか。実はこれ、不幸中の幸いなんです。土台が深かったらその衝撃がより歯根に響いて、折れていたと思いますよ。

――結局、アレンさんは、土台ごと抜けた上の歯の部分は、土台ごと作り直し、ジルコニアをスーパーボンドで固定したそうですが、それは正しい治療法と言えるのでしょうか。

きぬた アレンさんは、サメのようになった小さな歯が「ボロボロ崩れちゃって」と書いていたので、歯根状態になっているとみられます。そこに自分の歯と近い、けれど少しだけ内側に入れた土台を作り、そこに「仮歯」を被せて様子を見るのがいいと、僕は思いました。もしそれで調子が悪いならば、さらに土台と仮歯を調整していき、問題ないとなったら、正式な歯を取り付けるんです。歯根があるのだから、土台を何度も作り変えればいいのではないでしょうか。

 また、彼は、前歯部分のジルコニアの裏側を少し削ってもらったとも書いていましたが、それは、上の前歯と下の前歯がクローズ状態となっている噛み合わせの当たりを、弱くするのが狙いでしょう。歯の動きに多少、遊びができるようにしたわけです。確かに急場をしのぐにはその方法しかありません。しかし、それは同時に奥歯への負担が大きくなることにもつながります。つまり、前歯に遊びができた分、ものを噛んだときに、奥歯だけしか上下の歯が噛み合わなくなり、異様な感覚が口内に広がっていると思いますよ。

――顎関節症の症状が出たり、頭や首に痛みが走るようになった原因は噛み合わせの変化なのでしょうか。

きぬた いえ、噛み合わせとの因果関係は証明しにくいですね。顎関節症は、メンタルの不調が原因だとも言われているので、恐らく噛み合わせが急激に変化したことにより、アレンさんの精神の均衡が崩れたのではないかと思われます。

――先生の話を聞いていると、安易に見た目のために健康な歯を削るべきではないと感じます。

きぬた そうですよね。でも、リスクを背負ったとしても、芸能人の方など「どうしても今、歯を綺麗にしなければいけない」という人はいると思います。じゃあ、どうするのか。僕だったら、神経を抜かないで、元の歯をサメの歯のように小さく削らないようにします。そして、ジルコニアではなくセラミックを使います。強度を不安視されるかもしれませんが、最近のセラミックは硬くなっていますし、その半面、先ほど言った通り、負荷がかかったときは、欠けることでちゃんと“警告”してくれるんです。そして、そのセラミックを「仮止め」します。今はいろいろな種類の接着剤があるので、仮止めといっても日常生活にはまったく問題はありません。また、自分の歯の表面に、0.5mmくらいの厚さでセラミックを貼り付ける「ラミネート」という方法もあります。それだけだと剥がれ落ちてしまうことがあるので、歯の裏側にも少しだけセラミックを引っ掛ける方法もあるんです。刺青と同じで、今はいいけどのちのち後悔することがあると思うので、このような“引き返せる”治療を選ぶのが大事なんですね。

――美容目的の治療で、健康な歯の神経を抜いたり、小さく削ることで、将来的に自分の歯がなくなってしまうのは怖いです。

きぬた 歯がなくなったり入れ歯になると、ものを噛んでも脳に刺激がいかず、認知症のリスクが上がるという話もあるので、確かに怖いですよね。ただ、インプラントにすればその心配はありません。インプラントは、口腔内の骨に人工の歯根を作り、その上に新しい歯を作るという方法で、もしアレンさんも歯根がダメになったら、最終的にはインプラントにすることになるでしょう。

 最近では、それ以外に美容目的で「スピード矯正」を謳う歯科医院で治療を受ける女性もいますが、実際の矯正と違い、噛み合わせをあまり考慮せずに、綺麗に並んだセラミックを短期間で、ケースによっては 1日で被せてしまうため、以前からトラブルがささやかれています。その人それぞれのケースによるので一概には言えませんが、怖いですよね。そういった心配のない一般矯正や舌側矯正、最近ではマウスピース矯正が人気になっているようです。美容目的で歯科治療をする人は、そのリスクをしっかり考えた上で臨んでほしいと思います。

きぬた泰和(きぬた・やすかず)
日本歯科大学新潟生命歯学部卒。東京・八王子のきぬた歯科/インプラントセンター八王子院長。都内をはじめ神奈川、埼玉のあらゆる場所に設置される「看板」が話題に。好きな言葉は「すべての業には時がある」。
公式サイト

【試し読みあり】関西の人気飲食店が59店登場! 失恋×グルメで読ませる新たなグルメコミックガイド

 3月に刊行されたコミック『失恋めし 京都・奈良・大阪・神戸編』(KADOKAWA)には、59の失恋物語と、そこに寄り添うメニューが描かれている。作者は、TOCANAで魔女修行漫画「かげのしょ」を連載中の木丸みさきさん。第23回コミックエッセイプチ大賞審査員特別賞「書店員賞」を受賞した大衆演劇漫画『わたしの舞台は舞台裏~大衆演劇裏方日記』(KADOKAWA)でデビューして以降、幅広いジャンルを手がけてきた。

 新刊『失恋めし』は「関西ウォーカー」(KADOKAWA)の連載をまとめたもの。大阪、京都、奈良、兵庫・神戸と、関西に実在する飲食店を舞台に、老若男女、さまざまな世代の失恋模様が描かれている。

「執筆の依頼をいただいた際に、編集さんから『ヤケ食いの話はなしで』と言われていたこともあって、毎回失恋と食でどう話をひねるか、かなり悩みました。単に思い出の味に浸る話ではワンパターンになってしまうし、暗い話にもしたくなかった。意外性のある話になるように展開を考えるのは難しかったです」(木丸みさきさん、以下同)

 さらに、実在する店を舞台にすることで、こんな悩みもあったそう。

「どこも関西では人気の、美味しい飲食店ばっかりだったんです。だから、その店で食事をしたことがきっかけで別れるとか、お店の印象が悪くなるような話にはしたくなくて。あ、もちろん人気店じゃなかったらいいってわけではないでんすけど(苦笑)。ただ、そもそも『失恋』というマイナスな状態から話が始まるので、毎回どう楽しいオチにするか、そこにどう共感してもらうか、しかもそれを2ページのショートストーリーでどうまとめるか、頭を使いました」

 中には、木丸さん自身の体験談なども盛り込まれているのだろうか。

「エッセンスとしては、実体験を参考にした部分もありました。例えば大阪のハーブカフェ『SORA』さんの話は、『初めてのお店にひとりで入る』っていう主人公の女の子の不安が、自分の体験からきているものです。知らないお店に入ることって、不安と出会いの繰り返しじゃないですか。その気持ちを恋愛に絡めて描きたくて。

 それから、大阪の熱帯魚バー『近藤熱帯魚店』さんを舞台にしたのは、彼氏と別れてから化粧が濃くなった、でも実はそのほうが本来の自分らしいっていう女の子の話。男性って、奇抜な髪型とか派手な服装が嫌いな人もけっこういるじゃないですか。私も、彼氏が嫌がるような派手な服とか髪色が好きだったことがあって、付き合ってる間は彼の好みに合わせておとなしくしてましたけど、別れたてまた自由にできると思ったら開放感があった、っていう体験をしたことがあったんです」

 紹介されている飲食店59店には、すべて店舗情報やMAPが載っているのも、同書の魅力になっている。連載時には60店以上の飲食店を取材したというが、印象に残った店はあるのだろうか。

「どこも思い出深いですが、個人的には奈良の『茶粥ののんのん』さんが印象的でした。江戸時代の茅葺きをそのまま使っていて、お店のある建物自体が文化財としても重要なものなんです。取材時は真夏で、夏場に庭を眺めながらアツアツの茶粥を食べるのも、なんだか風情があって格別でした。しかもこのお店ではストーリーにも関係する、ちょっとラッキーな出会いもあったんですよ。誰に出会ったかは、秘密なんですけどね(笑)」

★試し読みは次ページにも!

 関西というと、大阪、京都、兵庫、奈良と、それぞれの県民性の違いが面白おかしく取り上げられることも少なくない。これだけの店舗数を取材すると、飲食店にも、地域性を感じることはあったのだろうか。

「改めて読み返してみて気づいたことですけが、例えば大阪は商店街や繁華街など、賑やかな場所にあるお店を多く紹介していて、どこも安くて美味しくて気取ってなかった。京都や奈良はやっぱり和食が多くて、上賀茂神社の横にある今井食堂サバ煮だったり、龍安寺・西源院の湯豆腐だったり、清水寺の冷やし飴だったり、神社仏閣やその土地に所縁のあるお店が多く登場しました。それから神戸は独特な食文化があって、外国と日本の食のミックスが面白かったです。

 そういう背景に引っ張られた部分もあったのか、大阪は下町的な人情話が多くなったし、失恋してもタダでは起きない主人公が多くなりました。京都奈良は神社仏閣や土地にちなんだ話が中心だったし、神戸はその非日常的な感じがにじみ出るようなひねった話が出てきたかなあと」

 そんな関西の文化やさまざまな世代の恋模様を描いた本作について、木丸さんは改めて、「恋愛をしたことがあって、食べることが好きな人ならぜひ手にとってもらえたら」と話す。

「同棲して別れた彼氏より、一緒に飼っていたペットが恋しい! とか、自分はいつも人の失恋話を聞くばっかりだとか、好きになる男が筋肉バカだったり、音楽とか芸術とか趣味に走って『私、あんたの人生に関係ないやん!』ってツッコミたくなるような人を好きになってしまったりとか、とにかく、いろんな方向から失恋の話を切り取ったつもりです。

 同時に、関西に住んでいる人なら、知ってるお店が舞台になっていて楽しんでもらえるでしょうし、そうじゃない方も、グルメガイドとしても面白く読んでいただけるんじゃないかと思います。私自身は失恋したら甘い物に走っちゃうんですけど、この取材を通して、そうじゃないお店もたくさん開拓することができました。お店と料理の雰囲気が伝わるように描いたので、ぜひ、ショートストーリーとあわせて楽しんでください」

 GWに関西旅行を予定している人は、同書を片手に、その店で起こっているかもしれないさまざまな人間模様に思いを馳せながら、旅してみてはいかがだろうか?

■著者プロフィール

●木丸みさき
大阪生まれの大阪育ち、京都府在住。大阪の某大衆演劇場スタッフとして働いた経験をもとに、劇場で出会った役者やお客さんたちとの交流を描いた「わたしの舞台は舞台裏 大衆演劇裏方日記」でマンガ家デビュー。同作は、第23回コミックエッセイプチ大賞で「書店員賞」を受賞。

【試し読みあり】関西の人気飲食店が59店登場! 失恋×グルメで読ませる新たなグルメコミックガイドの画像5

『失恋めし 失恋めし 京都・奈良・大阪・神戸編』(KADOKAWA/1,188円)

 恋が終わった時、あの人を忘れさせてくれたもの、元気をくれたもの、あの味だった! 失恋をテーマに、1つの恋が終わった女性が街で初めて出会う店の味、友人に連れられて食べた懐かしの味など、おいしい食べ物を通じて元気をもらっていく1話完結の失恋×グルメコミック。登場するのは、

・  京都「西源院(龍安寺内)」/心を穏やかにしてくれる精進料理の湯豆腐

・  大阪「美味卯」/「好きなブランド卵で食べる優しい卵かけご飯

・  京都「メゾン・ド・フルージュ」/一年中イチゴが食べられるイチゴ専門店の「イチゴミルフィーユ」

 など、京都・奈良、大阪、兵庫・神戸に実在する59店。

 

ディズニー裁判で「私も」の声続々……パワハラ解雇も発覚で「暴走する現場」浮き彫りに

 オリエンタルランドの社員による「過重労働」「パワハラ」裁判の第一回公判が、2018年11月13日に千葉地方裁判所で行われ、大きく報道された。東京ディズニーランドでキャラクター出演者として働いていた女性契約社員AさんとBさん2人が、過重労働やパワーハラスメントで体調を崩したとして、オリエンタルランドの安全配慮義務違反を訴えている裁判である。今年3月26日に行われた第二回公判では、「過重労働」を訴えていた原告Aさんがパワハラ被害も追加提訴。そんな中、オリエンタルランドで「私も」と声を上げる動きが起こっていることがわかった。『ディズニーの労働問題 「夢と魔法の王国」の光と影』(三恵社)著者であり、東京経営短期大学専門講師も務めるジャーナリスト・中島恵氏が、その現状について寄稿する。

職場復帰時に「どの面下げて」と言われた

 10~30キロあるキャラクターの衣装を着て、ショーやパレードなどに出演していたところ、2017年1月、神経などを圧迫される「胸郭出口症候群」を発症したというAさん。当初、オリエンタルランド側は労災申請を渋り、休業補償もないとの対応だったそうだが、労働組合「なのはなユニオン」と支部であるオリエンタルランド・ユニオンによる交渉の結果、会社は労災申請をし、同年8月に労災認定を受け、昨年7月に会社側の安全配慮義務違反を提訴。その後、Aさんは復職したものの、仕事に行くことができなくなり、今年3月の第二回公判では、「パワハラを受けた」と追加提訴したAさんが、意見陳述を行った。

 Aさんは出演者として働き続けたいという思いから、復職に関してできる限り努力したものの、現在「反応性うつ状態」を発症し、復職できずにいるという。なんでも労働災害に認定されたと新聞報道があってから、「Aさんが悪いことをした」などと、同期たちから怒りをぶつけられ、「謝罪がないことがおかしい」と、責められたそうだ。Aさんは、「安心して職場に行けない恐怖感があった」ため、団体交渉の場で会社に「出演者が労災認定されたとの報道については守秘義務違反にあたらない」と認めてもらっていたが、職場復帰の際、周囲のスタッフの反応はひどく冷たいものだったという。

 例えば、職場復帰初日にほかのスタッフから「どのツラ下げて来てんのか見に行ってやろうぜ」と言われていたことを耳にしたほか、復帰2日目には、先輩から「謝った方がいい。」「謝るんだよ。」と言われたとのこと。Aさん自身、ある程度想定したことだったが、実際に直接言われるとやはり心が折れ、会社に行くことはできなくなったそうだ。

 Aさんにとって職場は、夢を守らなければならない、守りたい場所であると同時に、働き続けたい場所。働く者が会社に行くこと自体が怖いなんて「夢の国」にあってはならない……そんな思いから、Aさんはパワハラも提訴したという。なお、第一回公判後の記者会見で、Aさんは現在、心療内科にかかっていることも明かしていた。

 千葉地裁は、次回からAさんに関して安全配慮義務違反とパワハラ問題を合わせて審議すること、さらにAさんとBさんとの弁論を分離すると説明した。

 現場の同僚から理解が得られず、攻撃される……原告側が抱える問題が浮き彫りとなったが、その一方で、別の動きも出てきている。オリエンタルランド・ユニオンが1月12日、Twitterに「今、OLC裁判をしている原告二人以外で、最近パワハラで解雇され交渉申し入れをしている別件もあります!毎日いろんなキャストの方から『私も同じです!』の声上がってます!お気軽にご相談ください!ひとりじゃない!」(原文ママ)とツイートしたのだ。パワハラ裁判中に、別の非正規従業員がパワハラ解雇に遭うという、想像し難い事態が起こったのだ。そこで筆者は、なのはなユニオンの委員長・鴨桃代氏に取材を申し込んだ。

 4月2日現在、団体交渉を開始しているのは、女性キャストCさん。裁判の報道を見て、ユニオンに助けを求めて駆け込んできたそうだ。Cさんの受けたパワハラとは、一体どのようなものだったのか。

「Cさんは、『協調性がない』『空気を乱す』『通常の指導や説明に対する意見・反論批判が多い』などの理由で2019年1月末をもって解雇されました。Cさんは何度も上司に個室へ呼び出され、『同僚のキャストがCさんについてこう言っている』と指摘され、『それについて反省や改善はないのか』と責められたものの、Cさんにとっては、“意味がわからない抽象的なこと”ばかり。『わかりました』と言えば、自分が非を認めることになってしまうので、Cさんは同意できなかったとのこと。現在、裁判中のBさんは『30歳過ぎのババアはいらない』『ケガで働けないなら辞めちまえ』など明確なパワハラ暴言を受けましたが、Cさんはここまで直接的な暴言を受けてないが、解雇されました」(鴨氏)

 オリエンタルランドには、ゲストや同僚キャストからクレームが入ったりした場合、上司に呼ばれて書かされる「パフォーマンステーマ・スキル指導確認書」という書類があるという。

「上司からの改善を要する事実および指導内容について、『指摘事実及び指導内容を受け止め、改善することを約束します』と本人が署名・押印するものです。そのなかに、『改善が出来なかった場合、時給およびグレードの変更、あるいは契約が終了となる可能性がある』と書かれています。『これは始末書ではない』と、交渉の場で会社の人事部の人は公言しましたが、現場では始末書の性格を持っています。Cさんだけでなく、これまでユニオンに駆け込んできた人たちが言うには、上司に個室に呼ばれて書かされるもので、この書類自体がキャストにとって相当なストレスとなっており、パワハラと感じるようです」(同)

 近年、ディズニーランドでは、ゲストの迷惑行為が問題になるケースも少なくない。鴨氏も「キャストの対応が悪かったのではなく、客側が“モンスター化”して、理不尽なクレームを入れているケースもあり、カスタマーハラスメントも横行していると思う。」と述べる。

「ところが、オリエンタルランドは“ゲスト第一主義”なので、いかなるクレームもキャストが悪いとして、改善されなかったら時給減額か契約終了という書類にサインさせています。ユニオンは、それでは問題が隠され、真の接客改善につながらないと主張しています。キャストがみんな『私が悪い』と思わせてしまうホスピタリティ教育……そんな社風だと感じます」(同)

 Cさんは解雇通告をされたものの、解雇理由は「不明」だという。ユニオン側はその点も疑問視しているそうだ。

「現場の上司であるスーパーバイザーや店長が解雇を言い渡すのですが、第二回目の交渉で、Cさんの解雇理由を会社側に問うたところ、『今は正確に言えないので、次回、回答します』と言われました。解雇を通告したのに、解雇理由を言えないのはおかしいでしょ。人事部は具体的解雇理由を把握していないのではないか、現場が暴走しているのではないかと感じます」(同)

 3月19日には、また別のディズニー裁判が明るみに。元ダンサー(出演者)の大川英典氏(51歳)がオリエンタルランドの安全配慮義務違反を問う裁判を起こし、同社は請求棄却を求め、争う姿勢を見せている。

 大川氏は1995年6月から、「パレードで大きな旗を持ちながら踊る」といった労働を続けたことでひざや腰を痛め、96年9月に退職。その後、「ジャンパーひざ(ジャンプ動作などの繰り返しによって発生する、膝蓋靭帯炎および大腿四頭筋腱付着部炎)」や「反射性交感神経性ジストロフィー(神経因性疼痛)」と診断され、2005年に船橋労働基準監督署から労災認定を受けたという。現在も治療は続き、杖を使っての歩行を余儀なくされているそうだ。大川氏は記者会見で、会社側から出演中のケガは、労災ではなく民間の保険で治療することを指導されたほか、上司に痛みを訴えても叱責されたことも明かしている。

 SNS上で、「私も」を意味する「#MeToo」というハッシュタグを用い、セクシャルハラスメントや性的暴行の被害体験を告白・共有する運動を「#MeToo運動」というが、オリエンタルランドのキャストの間でもパワーハラスメントや過重労働に関して「私も」と声を上げる動きが広がりつつある。 鴨氏いわく、Cさんのほかにもオリエンタルランドとの団体交渉を控えている人がいるという。AさんとBさんが、勇気を振り絞って訴訟に踏み切ったことは想像に難くないが、その思いは確実に“誰か”に伝わっているはずだ。

次回の裁判は「オリエンタルランドの希望で非公開」

 次回の裁判は6月4日16時と決まったが、「非公開」で行われるという。鴨氏は「私たちは多くの人に知っていただきたいが、オリエンタルランドは非公開を強く求め、裁判所も非公開と判断を下しました」という。

 一般的に、こうした裁判の進行はとても遅く、大手企業はそれでいいとしても、労働者側は「生活に困る」といった現実的な問題に直面し、戦意喪失につながるなど、不利になるケースもある。非公開とするならば進行が早まることを願う。

 原告たちの目的はオリエンタルランドを攻撃することではなく「本当の夢の国にしたい」、そして働き続けたいということである。ディズニーが好きだから働いてきたというAさん、Bさん、Cさんが、3人とも職場復帰を果たし、働き続けられることを切に祈る。
(中島恵)

“キング・オブ・アウトロー”瓜田純士が見たピエール瀧出演作『麻雀放浪記2020』

キング・オブ・アウトロー瓜田純士が見たピエール瀧出演作『麻雀放浪記2020』の画像1

“キング・オブ・アウトロー”こと瓜田純士(39)が、森羅万象を批評する不定期連載。今回のテーマは、ピエール瀧の逮捕で一時は上映が危ぶまれたが、最終的にはノーカットでの公開が決まった話題作『麻雀放浪記2020』(白石和弥監督)だ。「麻雀はあまり好きじゃないけど、白石監督とピエール瀧は好き」という瓜田は、果たしてこの映画を気に入るのかどうか――。

 原案は、阿佐田哲也の250万部を超えるベストセラー小説『麻雀放浪記』。1984年には、和田誠監督、真田広之主演で映画化もされた。

 それから35年ぶりの映画化となった『麻雀放浪記2020』は、白石和彌が監督を務め、斎藤工が主人公の“坊や哲”を演じる。1945年の戦後から、第三次世界大戦により東京オリンピックが中止になった2020年の新たな戦後へ、主人公がタイムスリップする設定でリメイク。20台のiPhoneを駆使して全編を撮影したらしく、これは邦画では初の試みだという。

「原案の本は読んでないし、前作の映画も見てない」という瓜田だが、「白石監督の作品はこれまでハズレがないし、ピエール瀧の演技も楽しみ」と言って、愛妻と共に映画館に入っていった。ピエール瀧逮捕によるPR効果もあってか、キャパ80席ほどの場内は満員。客層は20代風から60代風まで幅広く、男女比は7:3といったところか。

 以下は、上映終了後の瓜田夫婦のコメントである。

 * * *

――まず映画の感想に入る前に、おふたりの麻雀歴を教えてください。

瓜田純士(以下、純士) 小学生のときに麻雀の教本を買って、一生懸命ルールを覚えようとしたけど、点数計算や役が頭に入らず、麻雀ゲームをやっても負けっぱなしだったから、以後ドンジャラに逃げました(笑)。でも、ある程度の役や、燕返しとかのイカサマは知ってますよ。少年マガジンで『哲也-雀聖と呼ばれた男』を読んでたからかな。

瓜田麗子(以下、麗子) ウチは小学生の頃、ファミコンの麻雀ゲームにハマって、一時期やりまくってました。ルールや役はほどんどわかりませんが、この映画に出てくる麻雀シーンの意味は、イカサマも含め、ある程度理解できました。

――そんなおふたりから見て、この映画はいかがでしたか?

純士 最初の30分ぐらいはあまりに幼稚くさい展開に目と心が追いつかなかったけど、「あ、これは完全にコメディタッチなのか。原案や前作とはまるで別物なんだろうな」とわかってからは、そこそこ楽しめました。ただ、二度見たいとは思わない。

麗子 軽くて薄くて、おもんなかった。悪く言えば、学生の映画研究会の作品を見てる感じ。よく言えば、『世にも奇妙な物語』(フジテレビ)の中の一話をスペシャル版として映画化した感じ。どっちにせよ、内容的には15分で十分。2時間以上はきつかったわ~。

純士 確かに。でも原案や前作に失礼がないように、タイムスリップという新たな構想を入れてるところは面白いと思った。設定や作風をガラリと変えたんでしょうね。僕、あれを思い出したんですよ。北野武監督の『座頭市』を。昔の『座頭市』があまりにも素晴らしかったから、北野監督は金髪やタップダンスを交えたりして別物に仕上げたでしょう。それに近いんじゃないか。北野監督が昔の作品を傷つけまいとしたように、白石監督もあえてポップにAIとかも入れてエンタメにした。そういう作り手の仁義みたいなものを感じたし、そこがたいしもんだと思いました。

麗子 でも、白石監督のカラーが出てへんかったんちゃう? 『凶悪』とか『日本で一番悪い奴ら』とか『孤狼の血』は、めっちゃおもろかったのになぁ……。

純士 映像では(白石カラーが)出てたよ。戦後の雰囲気とか、暴力シーンとか、お札の置き方とか。

――話題のピエール瀧はいかがだったでしょう?

純士 いてもいなくても一緒。これまでの白石作品のピエール瀧はすごくよかったけど、今回の役は、彼じゃなくてもよかったんじゃないかな。

麗子 出番もそれほど多くないしな。

純士 逮捕者が出演することによる社会的影響が問題視されてるけど、心配しないでも、「そんなにヒットしねえよ!」って思いました。

キング・オブ・アウトロー瓜田純士が見たピエール瀧出演作『麻雀放浪記2020』の画像2

――この作品は、斎藤工が10年間構想を温めていたものらしいですね。

純士 斎藤工はしょっぱいからなぁ……。

――しょっぱい、とは?

純士 しょっぱいじゃないですか。クセというか生き方がにじみ出てないから、オーラがないというか全部が軽い。そんな彼がコメディをやっても面白くはなりづらいですよ。

――斎藤工はテレビでお笑い芸人と度々コラボをするなど、いろいろなことに挑戦していますが。

純士 彼のこと、好きなんですよ。根性あるし。ただ、それでコメディ映画が面白くなるかどうかは別なんで。一人間としては好感を持ってるけど、演じることに関してはやっぱ、ピエール瀧の方が魅力的。ちょっと可哀想なんだけど、ルックス先行で出てきた人たちの性(さが)で、何をしても軽いんですよ。役者って、生き方や経験で味が出てくるものだと思うんだけど、斎藤工はまだまだ味が薄い。

――フンドシ姿で頑張っていましたが。

純士 福山雅治にも同じことを感じるんだけど、「イケメンが下品なことをするのが格好いい」という世界観って、ダサいんですよ。せっかくモデル体型で格好いいんだから、そんな柄にもないことをせずに、イケメンキャラでいればいいのにって思う。

麗子 痛いねん、見てて。

純士 彼が、阿佐田哲也の『麻雀放浪記』やコメディを好きなのはわかる。でも「俺はなんでもできる」というのは、ファンが求めてない気がする。そういうのは得意な人がやればいい。竹中直人だけがシモに徹してりゃよかったんですよ。

――本作の竹中直人はどうでしたか?

純士 竹中はクセがありすぎて昔から苦手だったけど、この映画を見て好きになりました。彼はいつも「クセがあるアピール」がすごいんですよ。本当に味があってうまいのは香川照之であって、竹中じゃない。竹中までいくと、ただの変な人なんですよ。でも今回はよかった。荒唐無稽な作品の世界観に合ってたからかな。

麗子 ウチも竹中直人の頑張って変なことしてる感が今まであんま好きちゃうかったけど、今日のはちょっと見やすかった。ただ、オナラ連発とかは誰も求めてないし、おもんないどころか汚くて生理的に無理やから、ない方がよかったと思う。

純士 一番よかった役者は、ヒロインのドテ子を演じた子(チャラン・ポ・ランタン「もも」)かもしれない。いい塩梅なんですよ、スタイルや顔の垢抜けなさが。オンライン麻雀に没頭する斎藤工から、タブレットを取り上げるシーンとか可愛かったじゃないですか。サセ子の私なんかどうせダメでしょと思いつつ、斎藤工のことをどんどん好きになっちゃう様子にリアリティがありました。

――AI搭載のアンドロイド役を演じたベッキーはどうだったでしょう?

純士 話題性重視のキャスティングでしょうけど、アンドロイドを演じるのは年齢的に無理があった気がします。

麗子 ほうれい線とか生活感が出てて、アンドロイドっぽくなかったもんな。芝居はうまいし、よかったけど。

純士 まあでもこの映画は、近未来のリアリティはハナから追求してないと思う。2020年つったら来年の話なのに、セグウェイでオフィスを走り回ったりしてるやりすぎな感じは、明らかに意図的なギャグでしょう。

 近未来なのに子どもたちが路地裏でチンチロリンをしてる感じや、警察が制圧にくるあの感じは、園子温監督の『TOKYO TRIBE』の世界観にも近かったですね。それをよしとするか否とするかは、好き嫌いでしょう。僕個人の感想を言うと、昭和テイストの犯罪ものやヤクザものを撮らせたら天下一品の白石監督も、ことコメディになると、古い人が無理して若ぶってる感が出ちゃってる気がした。でも、『TOKYO TRIBE』よりはよかったです。一応、笑いもあったし。

――麻雀シーンの緊迫感はどうでしたか?

純士 誰も強そうに見えなかったから、まったくヒリヒリしなかった。たとえば、斎藤工とか竹野内豊とか福山雅治が凶悪犯の役をやって、女を誘拐して「おまえを殺すぞ!」と言っても、「100%殺さないな」ってわかるじゃないですか。でも、ピエール瀧とかリリー・フランキーが同じセリフを言うと、話は変わってくる。やっぱ生死に関わることや、人間のドロドロした欲望に関わることは、イケメンが演じると嘘くさくなるんですよ。

 作品に対する斎藤工の愛情は伝わってきたけど、「ヒリヒリした勝負をしたい」という男には見えなかった。「賭けるものは何もねえ」みたいなホームレス風のジジイ相手に、何をそんなにうろたえてるんだって。「俺の方が腹をくくれてない」というシーンが必要だったんだろうけど、とりまきがいるわけじゃないんだから、あんなジジイ、ほっぽって逃げればいいじゃないですか(笑)。

 ドサ健を演じた的場浩司もヤカってるだけで全然強そうに見えなかった。よって、ミスターKの強さにも説得力を感じませんでした(笑)。

――全体的に辛口なので、よかった点をもう少し挙げてもらえますか。

純士 坊や哲とドテ子のラブストーリーかな。ただ、惜しむらくは、「最終的に結ばれるふたり」だということに説得力を加える描写が欲しかった。「かつて坊や哲が愛した女の孫だった」などの腑に落ちる設定があれば、なおよかったですね。

 あとは、キーとなる牌の使い方が、さりげなくてよかった。それと、なんかの記事で読んだんだけど、この作品ってiPhoneだけで撮影したんでしょ? それは素直にすごいと思った。

麗子 え? マジで? それはすごいわ!

――この映画は、麻雀人気復活の起爆剤になりえますかね?

純士 それは無理でしょう。今どき麻雀なんか流行るわけがないですよ。そもそも麻雀をやらない人たちは、この映画を見に行こうなんて思わないんじゃないですか?

――いやいや、後ろの席にいた麻雀をやりそうにない若い二人組の女性客も、終始楽しそうに笑っていましたよ。

純士 ああ、あいつらね。笑いすぎてて「うるせーよ!」と思いましたし、「人間的にレベルの低い奴らだな」とも思いました。

――そこまで言わなくても……。

純士 思ったことを正直に言うし、感情がすぐ顔に出る。そういうストレートな性格だから、僕は麻雀が弱いんですよ!(笑)
(取材・文=岡林敬太、撮影=おひよ)

『麻雀放浪記2020』瓜田夫婦の採点(100点満点)
純士 20点
麗子 3点

※瓜田純士のYouTube好評配信中!(瓜田純士プロファイリング)
https://www.youtube.com/channel/UCv27YAy0FZ-4wwisy5zPmeg

※「“キング・オブ・アウトロー”瓜田純士、かく語りき」の記事一覧
https://www.cyzo.com/cat8/outlaw_charisma/

岡野陽一『R-1ぐらんぷり』で刻んだ爪跡「悲鳴──でも、それでいい」

 3月に行われた『R-1グランプリ』(関西テレビ系)決勝で、観覧客からひときわ大きな悲鳴を引き出したのが、人力舎所属の岡野陽一だ。「鶏肉に風船をつけて飛ばす」という衝撃的なネタで話題を呼んだ岡野は、1,000万円の借金を抱えながらギャンブル好きな“クズ芸人”でもある。その独特すぎる金銭感覚とは――。

――まずは今年の『R-1ぐらんぷり』決勝進出、おめでとうございます。敗者復活から勝ち上がって、見事「鶏肉を空に返す」ネタを披露されました。非常におもしろかったのですが、会場では悲鳴も、かなり上がっていましたね。

岡野 そうですね……あのー、本当に変な話なんですけど、うっかりチンコ出ちゃったのかと思いました。急に悲鳴が上がったので「あれ!?」って。でも、仕方ないですよね。冷静に考えたら、ちょっと気持ち悪いですもん。分析すると、ガチもんだと思われたんだと思います。お客さんは僕のことを当然知らないわけだから、ガチっぽい服を着たおじさんが敗者復活から来て、急に生の鶏肉を飛ばしたら、そりゃ悲鳴ですよ。いろいろ言われてますけど、それでいいと思いますし。

――あのネタは、『マイナビラフターナイト』(TBSラジオ)の昨年のチャンピオン大会でも披露されていました。ラジオで聞いたとき、「おもしろいけど、このネタは一体なんだ?」と思ったのを覚えています。

岡野 ラジオで聞くと、自分でも意味がわかんないですね。ただただ鶏肉飛ばしてるだけですから。2年くらい前にコンビを解散してピンになったときに作った、最初のネタのひとつなんですよ。1回だけライブでやったんですけど、そのときはセリフなしで音楽だけでやった気がします。『ラフターナイト』チャンピオン大会に出させてもらったのに、とにかくネタがなくて、「やばいやばい」って、そのネタを掘り起こしてきてセリフを入れて。大会当日の朝に完成しました。

――そんなギリギリに。

岡野 「鶏肉飛ばそう」と思って、とにかく風船と鶏肉を買って。飛ばす仕組みが自分でもいまいちわからなかったから、入り時間から本番までずっとその調整をしてました。とにかく飛びさえすれば時間がもつだろう、と。『ラフターナイト』では運良くウケましたけど、正直ネタにはなってなかったです。そこから『R-1』ではボケを足したり、いろいろ変更しています。

――そもそも、なぜ鶏肉を飛ばそうと思ったんですか?

岡野 飛ばすというか、「空に返してあげる」です。かわいそうだからですよ。そうに決まってるじゃないですか(笑)。

――でも、ニワトリって飛ばないですよね?

岡野 いや、もともとは屋根くらいの高さは飛べたんですよ。人間が家畜として飼ってから飛ぶ機能を失ったっていうのが、調べたら出てきたんです。最初はそれもネタに入れてたんですけど、「俺が言っても説得力ないし野暮だな」と思ってやめました。人間を敵に回しちゃいますし。

――なるほど、そのあたりは背景があるんですね。ちなみにいま、ネタの数はいくつくらいあるんですか?

岡野陽一『R-1ぐらんぷり』で刻んだ爪跡「悲鳴──でも、それでいい」の画像2

岡野 「鶏肉」入れて4つですかねぇ。パチンコのネタと、「大阪のおばちゃん」っていうネタがあります。あ、3つですね。あとは、ちょっとだけ面白くないネタが何本かあります。ピンのネタが難しいんですよね。なかなかつくれないんですよ。

岡野陽一『R-1ぐらんぷり』で刻んだ爪跡「悲鳴──でも、それでいい」の画像3

――去年はライブやネタ番組で「小学生にパチンコを教えるおじさん」のネタをよく観た覚えがあります。

岡野 よく知ってますね。もう自分でできるんじゃないですか?(笑)

――いえ、できないです(笑)。以前、『空気階段の踊り場』(TBSラジオ)に出演されたとき、「ネタを作ろうと思って3万のホテルにカンヅメしたのに、何もしないで寝た」という話をしていましたよね。あれはすごい衝撃でした。

岡野 やっぱり家はできないんですよ。寝ちゃうし、テレビもあるし。それでマンガ喫茶に行ってみたんですけど、マンガ読んじゃうんですよね。「じゃあ」ってことでファミレスに行っても、家の近くだと「家でやったほうが浮かぶんじゃないか」とか理由つけて帰っちゃうんです。それでたまに遠くの、八王子のファミレスとか行ってみるんですけど、でもねぇ、やっぱり帰っちゃんですよ、タクシーで。

――タクシーで!

岡野 それでいろいろ考えた結果、ホテルしかない、と。3万円の、東京タワーが見えて夜景が綺麗なホテルに泊まりました。

――ビジネスホテルじゃないんですね。

岡野 1万円以下だと、僕は絶対帰っちゃうんですよ。だって八王子からタクシーで帰っちゃうんですから。なので3万円も負荷をかけたら絶対つくるだろうと思ったんです。でもねぇ……ダメですね。3万円のホテルは、ベッドが違うんですよ。だから寝ちゃったな~。自分に甘いんでしょうね。

――以前にテレビ番組で話していた、「朝起きられないから、目覚ましがわりで起床時刻に寿司の出前が届くように頼んでおく」というのも印象に残っています。借金がある人とは思えないお金の使い方だな、と。

岡野 借金があるので、お金がすごく好きだと思われてるんですけど、逆なんです。お金は嫌いというか、どうでもいい。だからお金で済むことはお金で済ませたい。出前もそうですね。だって、どうしても起きられないんだから、仕方ない。それと出前はケータイ払いにしてるので、その日は一銭も払わないでいいし。

――月末の自分が払う、と。

岡野 エグいですよ。ケータイ代、4~5万円いきますもん。最悪ですよ。だからダメだとは思ってるんですけどねぇ、あとのことを考えられないんですよね。

――「お金で済むことは、お金で済ませたい」というのは合理的な考え方だと思います。でもそれって、お金持ってる人が言えることだと思いますが……。

岡野 そっか、たしかにそうですね(笑)。

岡野陽一『R-1ぐらんぷり』で刻んだ爪跡「悲鳴──でも、それでいい」の画像4

――結局いま借金は総額1,000万円なんですか?

岡野 うーん、人に聞かれたらそう答えてるんですけど、リアルに言うと1,500万円くらいあってもおかしくないです。私が管理している状態じゃないというか、総額を把握している人はこの世にいないので。お金の揉め事が嫌なので、向こうの言い値で返すと決めてるんです。でも1,000万円は確実にありますね。

――ツイッターを見ていると、最近“三重の大口”のご友人に一括返済されたそうですね。

岡野 そうなんです。「好きな人ができて結婚したい」ということだったので、返しました。返したときは、お互いちょっと悲しかったです。友人がちょうど三重から東京に来ていたので、品川で受け渡しをしたんですけど、「これで終わっちゃうんだね」って、恋人たちの別れみたいになりました。10年くらい借りてましたから、10年付き合った人と別れるときと同じ気持ちだったと思うんですよ。お互い、なぜか恥ずかしくて目を見られない、みたいな。でも返せてよかったです。これで返せなかったら本当にヤバい人になっていた。そこをギリギリ守っているっていう自負があるから、借りられる。

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――その返済費用はどうやって捻出したんですか?

岡野 新たに三鷹の大口の友人から借り換えをしました。そのおかげで、毎週木曜の人権が失われました。

――人権が……?

岡野 無利子・無担保で貸していただいた代償に、木曜日を差し出してるんです。おかげで私は1週間が6日になりました。

――あれ、でも今日は木曜日ですよね? 大丈夫なんですか?

岡野 仕事が入ったので、明日に振替になりました。今日は人権があります(笑)。

――人権って振替が効くんですね……。なんというか、お金との付き合い方が非常に独特ですよね。「クズ芸人」といわれることも多いですが、謎の清々しさを感じます。以前に『空気階段の踊り場』で言っていた「借金100万円くらいのヤツがいちばんたちが悪い」という理論もおもしろかったです。

岡野 あぁ、“ランカー”の話ですね。「俺は100万借金がある。30万なんて借金じゃないよ」みたいなヤツを見ると、許せないんですよ。借金があることを誇りに思ってる。僕もそう見えちゃうのかもしれないですけど、それはダメですよ。そもそも、100万くらいは余裕で回るんです。(小声で)300万くらいから、怖いですよ。単純に、返せなくなりますから。

――経験に裏打ちされた感覚ですね。もはや300万円どころではないですし。

岡野 僕は人に恵まれていて、友人からしか借りていないので1,000万円まで来ました。本当に良い債権者様に出会いましたね。最近、ツイッターで知らない人から「僕も借金があって苦しいです」みたいなDMが来たんです。少しやりとりをしていたら、「もしよろしかったら、岡野さんの債権者を紹介してくれないか」と言われて、それは怒りました。「お前の債権者様じゃないぞ」って。やっぱり信頼関係が大事ですから。債権者様も貸してうれしい……貸してうれしいってことはないですけど、何かのメリットを返せないと。「こいつに貸しててよかったな」と思われるのがベストです。

――世間では「借金があること自体が気を滅入らせる」とも聞くんですが、岡野さんはそんなことはなさそうですね。

岡野 そうですね。冷静に考えたら、マジでキツいんですよ、たぶん。ちゃんと向き合っちゃダメなことって、人生であると思います。変な話、僕は借金してるのが自分じゃないと思ってる感覚があるんですよね。「こいつ、めっちゃ借金あるな」って自分のことを思ってるというか。お堅い方からは怒られると思いますけど、いちばん優しくしないといけないのは自分じゃないですか。だから僕は自分へのケアを怠りません。家にいるときまで畳の上で膝抱えて「借金どうしよう」って思ってると、そういう人間になっちゃうんですよ。だから僕は家では“借金がない生活”をしてます。間接照明つけて、ソファでデカいテレビを観てますから。玄関のドアを一歩出たら借金がありますよ? でも家にいるときは、ない。そうすることでバランスをとってます。もちろん、お借りしてることは申し訳ないと思ってますけど。

――『R-1』で優勝していたら、賞金を返済に当てる予定はあったんですか?

岡野 タバコ1,000カートン買うと決めてました。500万円だと全額返せないんですよ。返済の優先順位を付けないといけなくなっちゃうから、それを避けたくて。タバコ1,000カートンなら、みんなが平等にちょっと嫌な思いをするだけですから(笑)。

――いつか完済できるといいですね。

岡野 返したらいろいろやりたいこともありますからね。まずは犬を飼いたいです。

――どんな犬を?

岡野 ゴールデンレトリバーとラブラドールレトリバーにしましょうかねぇ。

(構成=斎藤岬/写真=鈴木渉)

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■岡野陽一(おかの・よういち)
1981年、福井県生まれ。2008年から16年まで、コンビ「巨匠」で活動。『キングオブコント』2014・2015決勝進出。現在、Abema TV『矢口真里の火曜TheNIGHT』にレギュラー出演中。
https://twitter.com/kyoshouokano

瀬地山角氏に聞く、「SPA!」ヤレる女子大学生記事の炎上と「東大生の性犯罪問題」の背景

 週刊誌「SPA!」2018年12月25日号(扶桑社)が、「ヤレるギャラ飲み」特集内で「ヤレる女子大学生RANKING」として、ギャラ飲み(男性が女性に謝礼を支払う飲み会)の後に性交渉に発展しやすいとする大学を実名で掲載した。オンライン署名収集サイト「Change.org」で「女性を軽視した出版を取り下げて謝って下さい」という署名運動が起こり、目標の5万人を突破。2019年1月9日、ランク付けされた5大学が扶桑社に抗議文を送り、同日「週刊SPA!」犬飼孝司編集長は謝罪文を発表。また、同14日には、編集部で署名活動を行った大学生ら4人と話し合いが行われた。ネット上では、こうした一連の抗議や対話に賛同する者が多かった一方で、主に男性から「女性も『抱かれたい男/抱かれたくない男ランキング』を笑いながら読んでるだろう」といった反応がみられたのも事実。女性も“男性の性を商品化”しているのか、それに鈍感になっているのではないかといった葛藤を抱えている人もいるのではないだろうか。

 今回、ジェンダー論を研究する東京大学大学院 総合文化研究科 教授・瀬地山角氏に取材を行い、「ヤレる女子大学生RANKING」と抗議運動、そしてそれに伴うネットの議論をどのように見たか、話を聞くことに。内容は、昨年末東大で開催された『彼女は頭が悪いから』(姫野カオルコ著、文藝春秋)ブックトークでの“炎上”にも発展した。

「性的同意」について要望を出したことが見事だった

――まず「ヤレる女子大学生RANKING」についてどのように思われましたか。

瀬地山角氏(以下、瀬地山) 調査としてなってない、ランキングの是非以前にまったく意味がない妄想の産物だということが明らかです。しかも、このランキングに挙げられて喜ぶ人はいません。選ばれた人が不愉快に感じるという点が一番問題。「美人ランキング」「結婚したいランキング」といった肯定的なものであれば、それがいいかどうかは別にして、ここまで問題にならなかったかもしれません。しかも当該大学に所属する多数の学生が迷惑を被る。二重、三重に論外ですね。

――女子学生が抗議、署名活動を行ったことについてはどうでしょうか。

瀬地山 署名サイトを使うことで、「ヤレる女子大学生RANKING」に抗議の声を上げるハードルを上手に下げ、編集部との対話まで持ち込んだ。見事だと思いました。特に編集部との対話で「セックスを扱うときは性的同意についても触れてほしい」という要望まで入れたことが最も評価すべき点です。本学(東京大学)の学生が起こした強制わいせつ事件(2016年)、強制性交事件(18年)も含めて、性的同意が日本社会のなかで担保されていないことが大きな問題。「ヤレる女子大生RANKING」は、性的同意を無視しています。女子学生にとって、こんな目線で男性が飲み会に来るとしたら恐怖を感じると思います。

――その後、「SPA!」3月12日号では、「SEXしたい!の新常識」という特集が組まれ、「性的同意」についても取り上げられています。一方で、ウェブメディア「felice」の「恋愛四季報」や、「SPA!」の「合コン四季報」など、女性が男性の年収や合コン満足度を評価している企画もあり、一部の男性を中心に「それはいいのか」といった意見が出ています。

瀬地山 私はこの件が、「男性の性を商品化」している事例だとは考えていません。バブル期の「三高」がそうであるように、相手がある基準でモノ化され、ランク付けされる。それ全体を悪だというのは無理です。“値踏み”は男性も女性も行っているでしょう。ただ、「この合コンはいい男性が集まる」というものであれば、選ばれた当人にとって肯定的な企画として受け取れるかもしれません。ですが「ヤレる女子大学生RANKING」は、上位だろうが下位だろうが肯定的に受け取れないものではないでしょうか。「ヤレる」という表現自体が、女性の主体性と尊厳を完全に無視しており、さらに目の前の個人どころか、大学ごとひとくくりにされたら、とてつもない迷惑です。

――男性も女性も、それぞれ自身が帰属するものへの差別や蔑視には敏感に反応しますが、それ以外には鈍感な面があるように思ってしまいます。

瀬地山 東大には「女子学生向けの住まい支援」(家賃補助)制度がありますが、あれを「逆差別だ」という男性がいます。しかし、女子には「浪人させない」「東京に出さない」という差別がいまだにあり、男性が履いている下駄の高さに気づいていないんですね。女性専用車両も「逆差別だ」と言う男性がいる。性犯罪の恐ろしさを知らないから、そんな暢気なことが言えるのです。背後には明らかな性差別があり、それを少しでも是正するための制度だということを知ってほしいと思います。

――女性差別/蔑視に当たるCMが問題視されるなど、Twitterではたびたびジェンダーに関する議論が白熱しています。しかし、そういった女性の声に、男性が反論するなど、「女性VS男性」という炎上の構図になることがしばしばあり、議論が平行線となるケースも多いようです。どういった議論のあり方がいいのでしょうか。

瀬地山 Twitterの文字制限は140字。それでは、きちんとした議論ができません。それに、引用や2次引用で広がるので、数が多いように感じられますが、言論空間の全てではない。「Twitter=世論」ではありません。「#MeToo」のように匿名の力を活かして議論を立ち上げることができるようになったことは高く評価しています。一方でネット空間は広告も含めてターゲット・マーケティングが進んでおり、自分にとって関心がある、好ましいニュースばかりが並ぶようになっている。つまり、自分を相対化する意見に触れる可能性すらなくなるように誘導されるので、世論形成がゆがんでいくのです。今後も、その傾向は強まっていくと思いますね。そうならないためには、反論と、反論に対する反論を併記し、論点を整理して議論する必要があると感じています。

――先ほど、東大生の強制わいせつ事件の話が出ましたが、「ヤレる女子大生RANKING」が炎上した際、この事件を思い出す人も多かったようです。被害者はインカレサークルの飲み会に参加した女子学生で、東大生や東大大学院生ら3人が逮捕されました。犯行現場は加害者の1人の自宅マンションだったことから、「女子学生も、東大生に近寄りたいという下心があった」「マンションまでついて行った女子学生も悪い」など、被害者に批判的な意見が、男性側、女性側からも出ていました。

瀬地山 それは典型的なセカンドレイプです。男性・女性の属性だけで意見が全て決まるわけではありませんから、女性のなかにも「ついていった方も悪い」と言う人もいるでしょう。私たちは「それは違う」ということを断固言っていかなければなりません。誘いについて行こうがなんだろうが、「If it’s NOT yes, it’s NO!」……これは「明示的なイエスでない限りノー」という意味であり、それを無視したらその瞬間に犯罪となります。刑法がそのように運用されている、もしくは運用されなければならないわけです。言い換えれば「相手がノーと言わなかった」というのは、「性犯罪ではない」という言い訳にはならないのです。しかも、一度「イエス」と言っても、全て「イエス」ではありません。最後の瞬間でも「ノー」と言えば立件しなければなりません。東大では、性犯罪の防止策を取ってきたつもりでしたが、事件が立て続けに起きたということは、つまり「機能していなかった」ということ。ですので今回の4月の新入生ガイダンスでは性犯罪防止について取り扱うようにと、私が働きかけました。

――2018年12月12日、東大生による強制わいせつ事件をモチーフにした小説『彼女は頭が悪いから』のブックトークが、東大で開かれました。
※参考記事:東大新聞オンライン「姫野カオルコ『 彼女は頭が悪いから』ブックトーク」レポート ~「モヤモヤ」とともに振り返る~」(2019年2月5日)

瀬地山 私が批判された件ですね。

――先生が、同作における「東大男子の描き方」について抗議したことについて、「なぜそこにこだわる必要があるのか」と疑問の声が出ていました。

瀬地山 私の悪かった点は「東大は性犯罪防止の取り組みを強化しなければならない。今後、新入生全員に伝える仕組みを構築する必要がある。それは我々が責任を持って行うべきことであり、遅きに失したが、そうした取り組みを始めている」ときちんと伝えなかったことだと思っています。その前の準備作業の一つとして、同作のファクトチェックを始めたら、「ファクトチェックだけをしている」ように受け取られてしまいました。ゼミ生とも「ダメ出しの会」をやり、批判してもらいました。

 一方で「東大生の性犯罪を防止する」という観点から見たときに、あの小説はあまり役に立たないと今でも思っています。「東大生向けに書かれたものではない」「フィクションだ」といわれれば、それまでで、そこは作者のご判断でしょう。ただ東大の描き方についておかしなところが多く、東大生の一部はとても読み続けられないのです。少なくとも事前のゼミではそういう意見がたくさん出ました。まず女子学生の比率が間違っている。寮の描写も違う。「そんな細かいことどうでもいい」とおっしゃる方もいましたが、寮は一部屋13平米で、苦学生が寮費8,000円で入るところ。「あの苦学生の狭い空間を『広い』と言うのは、おかしい」という意見が出ました。単に広さの問題ではないのです。それだけなら、そんなにこだわりません。たぶん三鷹寮の学生は読めなくなるし、それ以上に「三鷹寮生=苦学生」という東大内の常識に反して、恵まれているように記述されているので、読み進められなくなる。大学の実名を出して書くのに、ネットで「東大 三鷹寮」で検索すれば間取りまですぐわかるような簡単なファクトチェックをしなくていいのかとは思いましたが、それは作者のご判断です。

――あらためて、先生が抱いた違和感について教えていただけますか。

瀬地山 まず違和感を持ったのは、当該加害者が「心がぴかぴかしてつるつる」と、挫折感がないように描かれている点。そんなことはあり得ない。入学したらいきなり英語の成績トップ10%だけ、特別なプログラムが用意されているし、期末試験の点数によって3~4年生の進学先の学部や学科が振り分けられるというかなり強烈な競争が起きる。ほとんどの学生は挫折感を味わいます。そこで学内でうまく行かないから、“外に向かって火を吹いた”んだと私は思っています。「東大生」という言葉が意味を持つのは東大の外に対してのみですから。学内ではそういう学生は「ちゃらい」と形容されます。18年にレイプ事件を起こした東大生は、ミスター東大のファイナリストでした。

 「ちゃらい」を「つるつるぴかぴか」に置き換えるとリアリティから離れすぎているし、「ちゃらい」の背後にある屈折が描かれておらず読み続けられない。さらにそれ以上にリアリティから乖離しているのが、「理Ⅰに入ったら女子カードが2枚くる」という記述です。東大男子の一番の悩みはモテないこと。加えて理Ⅰは特に女子が少なく、一番女性から縁遠い科類なので、「女子カード2枚」はあり得ません。理Ⅰの学生はこれには相当違和感を持つでしょうし、読み進められなくなる学生が多くなります。作者が作り上げた、現実ではない別世界のようなものに映ってしまいます。犯罪を犯した肝心の理Ⅰに言葉が届かないのです。そして逆に圧倒的にモテないという前提があるから、自分に女性が寄ってくる空間のなかで暴走した。モテているということが、勉強ができないことの代償行為になるわけです。

――単純に、頭のいい男性が、自分より頭の悪い女性を見下して性犯罪に走った……だけではない側面があるということでしょうか。

瀬地山 「学歴の上下関係が男女関係に影響を与えた」という広い意味で、「東大」を使っているなら、それは「東大」に限った話ではないと思います。早稲田大学でも慶應義塾大学でも京都大学でも、大学名を聞いて「へえ、すごい」と言ってもらえる大学では起きる可能性がある。ただ東大固有に発現するメカニズムを考えるなら、少し別の捉え方をする必要があると思っています。東大は入学後も点数による序列化が明確に起きてしまい、それによって進学する学部・学科が変わってしまう大学です。入学後も成績や進学先が序列として意識されやすく、だからこそ外に対してしか、大学名が意味を持たないという現象が起きやすいと思っています。劣等感の反転です。

 ある東大院生の女性が、周りの男性から仲間はずれにされるという話を聞きました。よく聞けば、その女性は他大出身で、修士から東大に入ったとのこと。大学院の試験は学部入試とはかなり違うので、「学外出身者」に対してそういう言動が出てしまうとしたら、やはり“外に向かって火を吹いている”ということになります。これも劣等感の反転です。

――瀬地山先生が、『彼女は頭が悪いから』に対して抱いた疑問は、「東大生の性犯罪防止に役立つのか」という視点で読んだ上でのものだったということがわかりました。

瀬地山 あの場の発言だけで何もしなければ批判をされるのは当然です。ただ理Ⅰの学生に「この本読んで反省しろ」といってもあまり効果がないと私は考えます。理Ⅰのリアリティと乖離しすぎているからです。繰り返しますが、「東大生向けに書かれたものではない」「フィクションだ」といわれれば、「ごもっともです」と言うほかなく、それ自体に異を唱えるものではありません。ですから私は自分の仕事として、4月の新入生ガイダンスに性犯罪防止を入れるべく奔走したわけです。

 3,000人を対象とするガイダンスというのは、一度には行えず、午前中計7教室に分かれて、複雑な履修制度から学生生活、保健センター、各種相談所などなどガチガチにスケジュールが入っており、そもそも新規の枠をもらうという案は相手にもされませんでした。なので、男女共同参画関連の枠に入れてもらうように働きかけ、なんとか担当の総長補佐や理事の理解と協力を得て、文案を練り……。時間はわずかですから、性犯罪の加害者となった東大生が複数いることを告げ、「明示的な合意がない性的行為は全て性犯罪」という性的同意の基本を繰り返して伝えました。構成員4万人弱の巨大な組織で、私が手を挙げて数カ月でできるのはここまでです。ただ私はあの本は肝心の理Ⅰに読み進められない学生がいるだろうと思い、違うアプローチをとったつもりです。ブックトークの場ではその説明をしなかったので、批判されたのは当然だと思います。これが私にとって現時点でできる、東大生による性犯罪の被害者となってしまった方々へのほんのわずかな罪滅ぼしです。次の性犯罪を絶対に起こさないための第一歩にしたいと思っています。

――大きな質問になりますが、性犯罪をなくすためにはどうすればいいのでしょうか。また、その背景にあるジェンダー問題にどう取り組むべきか、ご意見をお聞きしたいです。

瀬地山 問題が大きすぎて、どう答えてよいのかわかりませんが、私は、高校で教えるとしたら家庭科の先生になってみたいと思っているんです。現在、性教育は中学高校の保健体育の時間で教えていますが、本来は家庭科で教えるべきだと考えています。私はこれまで20校くらいの高校に行って講義をしていて、まず「性的同意のないセックス、コンドームを使わないセックスは、女性に対する暴力だ」と教えています。これを明言できる高校の先生がいない。「モーニングアフターピルには、ノルレボとプラノバールがあってノルレボの方が高いけど、ここでは絶対にケチらずに、ノルレボを使え。副作用と避妊の確率が違うから。でもこれは最後の手段で、手前でちゃんと避妊しろ」。「踏み込んだ性教育」なんて言われますが、当たり前の話です。

 それから、望んでいない妊娠をすることが女性の心身とキャリアにとってどれほど恐ろしいことか、男女問わず理解しなくてはいけないと思います。その上で、次のように言います。「女子生徒のみなさんは1億円の当たりくじを持っています。第1子出産後、正社員を続けていればその後30年で1億円が間違いなく手に入ります。会社によっては2億円になるでしょう。当たりくじを現金化するのは男子生徒のみなさんの仕事です。総務省『社会生活基本調査』(16年)では、共働き夫婦が担う家事関連時間(家事に加え介護、看護、育児、買い物を含む)は週平均1日夫が46分に対し、妻は4時間54分。妻が正社員として働き続けられるよう家事を分担すべき。夫と妻の家事時間を足して2で割れば、約3時間。土日を含むので、十分に可能。この男の3時間の家事が女性のフルタイムでの就業を可能にする。女性の年収300万として、生涯で1億円。一日平均3時間なら、年間の男性の家事が約1000時間で、女性が300万稼げば、男性の家事の時給は3,000円となり、男性の残業代より高い。家事育児の分担は男性にとって極めて経済合理的なんです」と。今回、「ヤレる女子大学生RANKING」に大学名を挙げられてしまい、腹を立てている女子学生にも伝えたいです。「みなさんには2億円の価値があるのだ」と、自信を持ってほしいと思っています。
(取材・文=安楽由紀子)

瀬地山角(せちやま・かく)
1963年生まれ、奈良県出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。北海道大学文学部助手などを経て、1994年東京大学助教授。2009年より現職。この間に韓国のソウル大学に留学し、ハーバード大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員。専門はジェンダー論、主な著書に『お笑いジェンダー論』『ジェンダーとセクシュアリティで見る東アジア』『東アジアの家父長制』(いずれも勁草書房)など。

“吉本No.1営業芸人”くまだまさしを直撃! 芸人の世界で起こりつつある「さよならテレビ」現象とは?

「くまだまさしは、テレビのオファーを断っている」

 その情報がわれわれの耳に飛び込んできたのは、千鳥MCの『相席食堂』(朝日放送)にて。くしくも『水曜日のダウンタウン』(TBS系)で、ベテランコンビ・リットン調査団が「大衆に迎合するような芸はやりたくない」と、テレビはおろかルミネへの出演も断っていると放送されたばかり。いま、芸人とテレビの関係に、どんな地殻変動が起きているのか?

「営業を優先させるため、テレビの仕事を断っているというのは本当なんですか?」――。出番を終え、ルミネの控え室でくつろぐ、くまだを直撃した。

***

くまだ あ、ああアレですね、話題の、千鳥先生の『相席食堂』。もちろんすべてを断ってるわけではないんですが、結構断ることが多いというだけで……。

――それはもう、テレビに魅力はないと?

くまだ いやいやいや。単純に、オファーいただく前に、劇場と営業のスケジュールが入っちゃってるだけですよ。もちろん、劇場や営業をなくしてテレビのほうに行くこともできますが、僕自身がいま、営業を大事にさせてもらっていると。そこは本当に申し訳ございません、ウソ抜きで言わせていただくと……。

――(ゴクリ)

くまだ 営業のほうが、お金がいいんです。

――えーーーーー!

くまだ サイゾー先生、誠に申し訳ございません。やはり、マネーのほうが……。でも、劇場・営業をとにかく大事に、と思い始めたのが、昨日今日とかではなくて、もう10年以上前から思っていたことなんです。

――そんな前から……。

くまだ 昔はやはり、まず劇場で人気者になって、そこから深夜番組に出て、MCの人に気に入られてひな壇に出て、やがて自分がMCをやるっていうのがスター街道といいますか……。それこそ、10人中9人がそこを目指してたので、勝てないと思ったんです。もしかして、違うほうへ行けば、逆に簡単に勝てるんではないのかなって。

――生存戦略ですね。

くまだ そうですね。もうとにかく、芸がどうのこうのというよりは、単純に僕は……キレイごとに聞こえるかもしれませんが、家族を大事にしなければいけないというのが第一条件だったので。芸よりも、とにかくお金だと。

――なんだか、すがすがしい気持ちです。お金が一番!!

くまだ 現実的に言えばごめんなさい、ちょっとわがままになってるくまちゃんもいるのかもしれません。

――ただお茶の間の目線で言うと、なんとなくテレビに出ないっていうだけで「ちょっと売れなくなってきたのかな」って見られてしまうのかもしれないですよね。実際には断ってる状態なのに。

くまだ もちろん「売れてない」「もう売れなくなったのかな」よりも「売れてる」っていうほうが、気分はいい。それは重々承知でございます。けれども、そんな僕の見栄だうんぬんは、もう関係ない。現実的にお金が、家族を食わせなければいけないというのがあったので、割り切れるんです。でもまぁ、本当に始まりはそうだったんですけど、だんだんそれが変わってきちゃって……。

――どのように変わったのですか?

くまだ いま吉本興業に6,000人ぐらいタレントがいる中、僕、営業回数が歴代第1位なんですよ。初めはお金のためだったんですけど、今度はそれを守りたいという気持ち。お笑いの総本山である吉本興業で、一番営業に行ってる男だという誇り、それを守らなければという。

――ナンバーワンの自負。

くまだ (照)。周りの芸人さんも「営業のくまだ」と言ってくれてる。だから、自分の中でも、ちょっと自負しているところがあるかもしれないです。営業では誰にも負けたくないって。

――スケジュール的には、営業はどれくらいの割合で行ってるんですか?

くまだ これは吉本興業のシステムなんですけど、営業、テレビ、劇場といろんな仕事がある中で、一番最初にスケジュールを押さえられるのが劇場なんですよ。そうなると、土日に多くあるショッピングモールの営業が、最近なかなか入れにくくて。本当にごめんなさい。これはお恥ずかしい……自分で言うのもあれなんですけど、みんなが僕を欲しがる。

――争奪戦!!

くまだ すみません。劇場がね、やっぱり一番お客さんが入る土日の劇場にくまだを押さえたいっていうのが、実際ありまして。そうなると、営業は平日が中心になる。一般的に土日の営業っていうのは家族連れで和気あいあい楽しい雰囲気のものが多いんですが、平日の営業というのは、大人たちの真面目な話の後に「さあ、どうぞ!」という、結構難しいものが多いんです。ヘタしたら、何億、何十億、動くかもしれない商談の後に「くまださん! お願いします!!」っていうのが、平日にドンッて入る。昔は土日が営業、平日劇場だったんですけど、今はもう逆転してしまいましたね。

――「くまだまさしがスベッているところを見たことがない」っていう都市伝説は、ご存じですか?

くまだ いやいや、22年やっていれば、そりゃスベる時はもちろんありますよ。ただ僕の記憶が確かだったら、スベッたのは5回だけ。

――22年で5回! 逆にその5回が気になります。

くまだ あら、そうでございますか。でもそれはたぶん、一般の方にはわからない。これは芸人さん特有の……これなんでスベッたんだ? っていう体験。ステージとお客さんの間に直径10メートルの池があるとか。あれはやりづらい

――すごいシチュエーション。

くまだ もう本当ちっちゃいことを言えば、マイクがちょっと悪かったりとか、その昔まだ実力がない頃に、お客さんが全員80歳以上だったとか、それだけですごい変わってしまう世界なので。

――今、くまださんのような選択をされている芸人さんは、ほかにもいらっしゃいますか?

くまだ 昔だったら、それこそ先ほど言ったようにテレビでスターになって売れる、お金を稼ぐっていうのがマストだったんですけど、そこだけじゃないよと、劇場、営業でも頑張れば食べられるんですよっていう、パイオニアになってしまいました。本当、自分で言うのもおこがましいですけども……。こんなに稼げるのかっていうが周りの芸人さんもわかっちゃったので、ならばこっちに……っていう人が増えてきましたね、正直。

――扉を開けてしまった。

くまだ もう家も2軒目も買い……でもね、僕は成功者ではないんです。

――えーー! 家2軒買ったのに!?

くまだ 成功者じゃない、大成功者です。もうはっきり言いましょう! まだここからどうなるかわからない、ここからまだまだ先の人生長いですけども、今の段階だけで言えば……勝ち組でございます、私。でもそれは逆に言えば、テレビで売れるっていうのがまだ難しいということです。上はさんまさんだ、ダウンタウンさんだって、詰まってるって、よく聞くじゃないですか。だから余計に、営業第一っていうふうになってるのかもしれません。

――私は世代的にはテレビがすべて、テレビが世界の中心だと思って生きてきて、でもだんだんだんだん変わってきてるなって思うんです。若い世代はそれこそ、YouTubeしか見ないとか。

くまだ 確かにそうでございますよね。ただ、テレビの人も、それは絶対感じてると思うんですよ。だから、これからテレビの逆襲が始まるんじゃないのかなって。もちろん芸人の間でも「でも、テレビだ」と。やっぱりまだテレビに出たいっていうのはあると思います。ただ、ごめんなさい。私は、そういうのがまったくなく……すみません。

――くまださんにとって、テレビはもう、魅力的なメディアではないということですか?

くまだ 志が低いのかもしれませんけれど「とにかく売れたい」「億が欲しい」よりも、目標は「食わせたい」だから。それが今のところクリアしてますってなったら、次はその維持ですよね、目指すのは。

――でも、それが可能なのも、やっぱりくまださんだからでは?

くまだ ちょ、ちょっと待ってください、くまださんじゃないです。

――え!?

くまだ 「くまだ大先生」です! 大先生でございますよ、私は!!

――し、失礼しました! くまだ大先生!!

くまだ (笑)。ちょっと話戻しますけれども、何もテレビを全部断るわけではないんです。この前ね、CSのボウリング番組に出たんですよ。最初はお断りしようと思ってたんですけど、その番組のプロデューサーさんが、お世話になった『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)をやられていた方で。仕事の内容より「この人だから出る」って、「人」で決めてしまっている部分もあるかもしれないです。『相席食堂』も、正直言うと、初めは断ったんです。ロケは拘束時間が長い、絶対に疲れる。次の日の営業や舞台に支障が出る……って。でも、千鳥先生の番組だと。前にノブくんのインスタに載っけてもらったことがあって、これはお礼をしなければいけないって、ずっと思ってました。

――テレビも「自分たちのところに一番出たいでしょ?」みたいなスタンスではいられなくなってるということですね、くまださん……間違いました。くまだ大先生タイプが増えている。

くまだ 頼みますよ、サイゾー先生!! もちろんおごることなく、お断りするのも誠心誠意の気持ちです。テレビに憧れて今があるのは本当ですし、初心忘るべからずです。

――その感覚は、やはり営業で培われたものですか?

くまだ やっぱりそうだと思います。すべて営業だと思います。そうだ、吉本に6,000人いるタレントさんの中で、僕だけが唯一やってることがあるんですよ。

――なんでしょうか?

くまだ 営業が終わったら、私を呼んでくださった社員さんにお礼のメールをすることです。

――ああ……デキるビジネスマン……。

くまだ これをもうこの十何年、ずっと続けてるんです。いやらしい言い方ですけど、お礼されたら「あ、また入れよう」ってなってくれるんじゃないかって。

――芸人さん自らがそれをするっていう。

くまだ 向こう様は「わざわざご本人様から、ご丁寧なメールありがとうございます」って感激してくれるんです。それって、逆に言えば、そういうことをやる芸人がいないからではないでしょうか。

――はぁぁ……そもそも面白い人にそれやられたら、もう勝ち目はない……。

くまだ 先生! 本当ごめんなさい、また格好いいこと言っていいですか? 120点の仕事をしていれば、絶対に仕事は減ることがないと僕は思ってます。僕の仕事としては、ウケるっていうのは、ある意味、当たり前。その合格ラインが80点。それ以外のことで、100点、120点にしていくんです。相手の人を先生と呼んだり。

――あ、サイゾー先生というのも!!

くまだ フフフ。

――自分の正しい場所を見つけるというのは、とても大切なことなんですね、大先生。

くまだ でも、それが正解かどうかっていうのは、そればっかりは自分では正直わからなかった。自分のやってきた道が正解か正解じゃないかの答え合わせは、ひとつは再三申し上げておりますが、やっぱりお金。もうひとつは、天才と呼ばれている人たちに認めてもらったっていうことです。松本人志さん、千原兄弟さん、日村勇紀さん……そうそうたるメンツに「おまえはすごいな、おまえこれだな」って言っていただいて「あ、これは間違いではなかったんだ」と。これちょっと話逸れますが、この前、千原ジュニア大統領に……。

――大統領!!

くまだ 打ち上げの席で、ジュニア大統領の前に、僕、フットボールアワーの岩尾望さん、あと芥川賞を取った本当の先生・又吉直樹先生、3人がいて。そこで大統領が「この中で誰が一生安泰か? 第1位はくまだだ」っておっしゃった。もう、このまんまで行くしかありませんよ。もちろん、23年前に吉本の養成所入った時は……まさか自分がこんな姿に、あんなブルマそうそうたるメンツくなんて思ってもおりませんでした。ですから、これから先5年後、10年後、またどうなってるかもわかんないですし。でもとりあえずごめんなさい、なんかウケちゃってるので(笑)。

――自分で居場所を作る時代になったのかもしれないですよね。セルフマネージメントというか。

くまだ 必要かもしれないですね。

――テレビでも営業でも、まずは自分の名前を知ってもらう必要があり、そんな中で『R-1』は認知という点でものすごく有効だと思うのですが、一方でキートンさんのあのSNS炎上騒動のような公平性の問題も根強くあります。

くまだ なるほど。これは大事なことです。やっぱり僕もピン芸人でございますから、気になってました。正直言えば、本当に皆さん言ってる通りだと思います。やっぱり大人の社会、世界であることは否めない。正直言えば、僕が『R-1』に出なくなった理由もそこでした。だいぶ昔ですけど、「これだけウケたらいっただろう」っていうのが何度か裏切られて、ああやっぱりそういう世界なんだろうなって。一言言いたくなるキートン君の気持ちもよくわかる……ただやっぱり、それは言わないほうがお利口だなっていうね。

――キートンさんを見て笑ったお客さんの記憶は、ずっとありますから。

くまだ そうですね。ただ、僕は何より『R-1』だけで言えば……もっと盛り上がってほしい。僕自身「あ、今日が『R-1』だ」って、当日に気づいたぐらいなので。なんでもっと宣伝をしてくれないの? っていうほうが強いですね。

――確かに。見る目が多くなれば、自浄作用が働くというのもありますよね。

くまだ いろいろ合わせて相乗効果で良くなっていけばいいなっていうのが、『R-1』への私の思いですね。

――ありがとうございます。なんかもう……世界が平和になりました。

くまだ いや、お金の話ばっかりですいません!!
(取材・文=西澤千央)

“吉本No.1営業芸人”くまだまさしを直撃! 芸人の世界で起こりつつある「さよならテレビ」現象とは?

「くまだまさしは、テレビのオファーを断っている」

 その情報がわれわれの耳に飛び込んできたのは、千鳥MCの『相席食堂』(朝日放送)にて。くしくも『水曜日のダウンタウン』(TBS系)で、ベテランコンビ・リットン調査団が「大衆に迎合するような芸はやりたくない」と、テレビはおろかルミネへの出演も断っていると放送されたばかり。いま、芸人とテレビの関係に、どんな地殻変動が起きているのか?

「営業を優先させるため、テレビの仕事を断っているというのは本当なんですか?」――。出番を終え、ルミネの控え室でくつろぐ、くまだを直撃した。

***

くまだ あ、ああアレですね、話題の、千鳥先生の『相席食堂』。もちろんすべてを断ってるわけではないんですが、結構断ることが多いというだけで……。

――それはもう、テレビに魅力はないと?

くまだ いやいやいや。単純に、オファーいただく前に、劇場と営業のスケジュールが入っちゃってるだけですよ。もちろん、劇場や営業をなくしてテレビのほうに行くこともできますが、僕自身がいま、営業を大事にさせてもらっていると。そこは本当に申し訳ございません、ウソ抜きで言わせていただくと……。

――(ゴクリ)

くまだ 営業のほうが、お金がいいんです。

――えーーーーー!

くまだ サイゾー先生、誠に申し訳ございません。やはり、マネーのほうが……。でも、劇場・営業をとにかく大事に、と思い始めたのが、昨日今日とかではなくて、もう10年以上前から思っていたことなんです。

――そんな前から……。

くまだ 昔はやはり、まず劇場で人気者になって、そこから深夜番組に出て、MCの人に気に入られてひな壇に出て、やがて自分がMCをやるっていうのがスター街道といいますか……。それこそ、10人中9人がそこを目指してたので、勝てないと思ったんです。もしかして、違うほうへ行けば、逆に簡単に勝てるんではないのかなって。

――生存戦略ですね。

くまだ そうですね。もうとにかく、芸がどうのこうのというよりは、単純に僕は……キレイごとに聞こえるかもしれませんが、家族を大事にしなければいけないというのが第一条件だったので。芸よりも、とにかくお金だと。

――なんだか、すがすがしい気持ちです。お金が一番!!

くまだ 現実的に言えばごめんなさい、ちょっとわがままになってるくまちゃんもいるのかもしれません。

――ただお茶の間の目線で言うと、なんとなくテレビに出ないっていうだけで「ちょっと売れなくなってきたのかな」って見られてしまうのかもしれないですよね。実際には断ってる状態なのに。

くまだ もちろん「売れてない」「もう売れなくなったのかな」よりも「売れてる」っていうほうが、気分はいい。それは重々承知でございます。けれども、そんな僕の見栄だうんぬんは、もう関係ない。現実的にお金が、家族を食わせなければいけないというのがあったので、割り切れるんです。でもまぁ、本当に始まりはそうだったんですけど、だんだんそれが変わってきちゃって……。

――どのように変わったのですか?

くまだ いま吉本興業に6,000人ぐらいタレントがいる中、僕、営業回数が歴代第1位なんですよ。初めはお金のためだったんですけど、今度はそれを守りたいという気持ち。お笑いの総本山である吉本興業で、一番営業に行ってる男だという誇り、それを守らなければという。

――ナンバーワンの自負。

くまだ (照)。周りの芸人さんも「営業のくまだ」と言ってくれてる。だから、自分の中でも、ちょっと自負しているところがあるかもしれないです。営業では誰にも負けたくないって。

――スケジュール的には、営業はどれくらいの割合で行ってるんですか?

くまだ これは吉本興業のシステムなんですけど、営業、テレビ、劇場といろんな仕事がある中で、一番最初にスケジュールを押さえられるのが劇場なんですよ。そうなると、土日に多くあるショッピングモールの営業が、最近なかなか入れにくくて。本当にごめんなさい。これはお恥ずかしい……自分で言うのもあれなんですけど、みんなが僕を欲しがる。

――争奪戦!!

くまだ すみません。劇場がね、やっぱり一番お客さんが入る土日の劇場にくまだを押さえたいっていうのが、実際ありまして。そうなると、営業は平日が中心になる。一般的に土日の営業っていうのは家族連れで和気あいあい楽しい雰囲気のものが多いんですが、平日の営業というのは、大人たちの真面目な話の後に「さあ、どうぞ!」という、結構難しいものが多いんです。ヘタしたら、何億、何十億、動くかもしれない商談の後に「くまださん! お願いします!!」っていうのが、平日にドンッて入る。昔は土日が営業、平日劇場だったんですけど、今はもう逆転してしまいましたね。

――「くまだまさしがスベッているところを見たことがない」っていう都市伝説は、ご存じですか?

くまだ いやいや、22年やっていれば、そりゃスベる時はもちろんありますよ。ただ僕の記憶が確かだったら、スベッたのは5回だけ。

――22年で5回! 逆にその5回が気になります。

くまだ あら、そうでございますか。でもそれはたぶん、一般の方にはわからない。これは芸人さん特有の……これなんでスベッたんだ? っていう体験。ステージとお客さんの間に直径10メートルの池があるとか。あれはやりづらい

――すごいシチュエーション。

くまだ もう本当ちっちゃいことを言えば、マイクがちょっと悪かったりとか、その昔まだ実力がない頃に、お客さんが全員80歳以上だったとか、それだけですごい変わってしまう世界なので。

――今、くまださんのような選択をされている芸人さんは、ほかにもいらっしゃいますか?

くまだ 昔だったら、それこそ先ほど言ったようにテレビでスターになって売れる、お金を稼ぐっていうのがマストだったんですけど、そこだけじゃないよと、劇場、営業でも頑張れば食べられるんですよっていう、パイオニアになってしまいました。本当、自分で言うのもおこがましいですけども……。こんなに稼げるのかっていうが周りの芸人さんもわかっちゃったので、ならばこっちに……っていう人が増えてきましたね、正直。

――扉を開けてしまった。

くまだ もう家も2軒目も買い……でもね、僕は成功者ではないんです。

――えーー! 家2軒買ったのに!?

くまだ 成功者じゃない、大成功者です。もうはっきり言いましょう! まだここからどうなるかわからない、ここからまだまだ先の人生長いですけども、今の段階だけで言えば……勝ち組でございます、私。でもそれは逆に言えば、テレビで売れるっていうのがまだ難しいということです。上はさんまさんだ、ダウンタウンさんだって、詰まってるって、よく聞くじゃないですか。だから余計に、営業第一っていうふうになってるのかもしれません。

――私は世代的にはテレビがすべて、テレビが世界の中心だと思って生きてきて、でもだんだんだんだん変わってきてるなって思うんです。若い世代はそれこそ、YouTubeしか見ないとか。

くまだ 確かにそうでございますよね。ただ、テレビの人も、それは絶対感じてると思うんですよ。だから、これからテレビの逆襲が始まるんじゃないのかなって。もちろん芸人の間でも「でも、テレビだ」と。やっぱりまだテレビに出たいっていうのはあると思います。ただ、ごめんなさい。私は、そういうのがまったくなく……すみません。

――くまださんにとって、テレビはもう、魅力的なメディアではないということですか?

くまだ 志が低いのかもしれませんけれど「とにかく売れたい」「億が欲しい」よりも、目標は「食わせたい」だから。それが今のところクリアしてますってなったら、次はその維持ですよね、目指すのは。

――でも、それが可能なのも、やっぱりくまださんだからでは?

くまだ ちょ、ちょっと待ってください、くまださんじゃないです。

――え!?

くまだ 「くまだ大先生」です! 大先生でございますよ、私は!!

――し、失礼しました! くまだ大先生!!

くまだ (笑)。ちょっと話戻しますけれども、何もテレビを全部断るわけではないんです。この前ね、CSのボウリング番組に出たんですよ。最初はお断りしようと思ってたんですけど、その番組のプロデューサーさんが、お世話になった『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)をやられていた方で。仕事の内容より「この人だから出る」って、「人」で決めてしまっている部分もあるかもしれないです。『相席食堂』も、正直言うと、初めは断ったんです。ロケは拘束時間が長い、絶対に疲れる。次の日の営業や舞台に支障が出る……って。でも、千鳥先生の番組だと。前にノブくんのインスタに載っけてもらったことがあって、これはお礼をしなければいけないって、ずっと思ってました。

――テレビも「自分たちのところに一番出たいでしょ?」みたいなスタンスではいられなくなってるということですね、くまださん……間違いました。くまだ大先生タイプが増えている。

くまだ 頼みますよ、サイゾー先生!! もちろんおごることなく、お断りするのも誠心誠意の気持ちです。テレビに憧れて今があるのは本当ですし、初心忘るべからずです。

――その感覚は、やはり営業で培われたものですか?

くまだ やっぱりそうだと思います。すべて営業だと思います。そうだ、吉本に6,000人いるタレントさんの中で、僕だけが唯一やってることがあるんですよ。

――なんでしょうか?

くまだ 営業が終わったら、私を呼んでくださった社員さんにお礼のメールをすることです。

――ああ……デキるビジネスマン……。

くまだ これをもうこの十何年、ずっと続けてるんです。いやらしい言い方ですけど、お礼されたら「あ、また入れよう」ってなってくれるんじゃないかって。

――芸人さん自らがそれをするっていう。

くまだ 向こう様は「わざわざご本人様から、ご丁寧なメールありがとうございます」って感激してくれるんです。それって、逆に言えば、そういうことをやる芸人がいないからではないでしょうか。

――はぁぁ……そもそも面白い人にそれやられたら、もう勝ち目はない……。

くまだ 先生! 本当ごめんなさい、また格好いいこと言っていいですか? 120点の仕事をしていれば、絶対に仕事は減ることがないと僕は思ってます。僕の仕事としては、ウケるっていうのは、ある意味、当たり前。その合格ラインが80点。それ以外のことで、100点、120点にしていくんです。相手の人を先生と呼んだり。

――あ、サイゾー先生というのも!!

くまだ フフフ。

――自分の正しい場所を見つけるというのは、とても大切なことなんですね、大先生。

くまだ でも、それが正解かどうかっていうのは、そればっかりは自分では正直わからなかった。自分のやってきた道が正解か正解じゃないかの答え合わせは、ひとつは再三申し上げておりますが、やっぱりお金。もうひとつは、天才と呼ばれている人たちに認めてもらったっていうことです。松本人志さん、千原兄弟さん、日村勇紀さん……そうそうたるメンツに「おまえはすごいな、おまえこれだな」って言っていただいて「あ、これは間違いではなかったんだ」と。これちょっと話逸れますが、この前、千原ジュニア大統領に……。

――大統領!!

くまだ 打ち上げの席で、ジュニア大統領の前に、僕、フットボールアワーの岩尾望さん、あと芥川賞を取った本当の先生・又吉直樹先生、3人がいて。そこで大統領が「この中で誰が一生安泰か? 第1位はくまだだ」っておっしゃった。もう、このまんまで行くしかありませんよ。もちろん、23年前に吉本の養成所入った時は……まさか自分がこんな姿に、あんなブルマそうそうたるメンツくなんて思ってもおりませんでした。ですから、これから先5年後、10年後、またどうなってるかもわかんないですし。でもとりあえずごめんなさい、なんかウケちゃってるので(笑)。

――自分で居場所を作る時代になったのかもしれないですよね。セルフマネージメントというか。

くまだ 必要かもしれないですね。

――テレビでも営業でも、まずは自分の名前を知ってもらう必要があり、そんな中で『R-1』は認知という点でものすごく有効だと思うのですが、一方でキートンさんのあのSNS炎上騒動のような公平性の問題も根強くあります。

くまだ なるほど。これは大事なことです。やっぱり僕もピン芸人でございますから、気になってました。正直言えば、本当に皆さん言ってる通りだと思います。やっぱり大人の社会、世界であることは否めない。正直言えば、僕が『R-1』に出なくなった理由もそこでした。だいぶ昔ですけど、「これだけウケたらいっただろう」っていうのが何度か裏切られて、ああやっぱりそういう世界なんだろうなって。一言言いたくなるキートン君の気持ちもよくわかる……ただやっぱり、それは言わないほうがお利口だなっていうね。

――キートンさんを見て笑ったお客さんの記憶は、ずっとありますから。

くまだ そうですね。ただ、僕は何より『R-1』だけで言えば……もっと盛り上がってほしい。僕自身「あ、今日が『R-1』だ」って、当日に気づいたぐらいなので。なんでもっと宣伝をしてくれないの? っていうほうが強いですね。

――確かに。見る目が多くなれば、自浄作用が働くというのもありますよね。

くまだ いろいろ合わせて相乗効果で良くなっていけばいいなっていうのが、『R-1』への私の思いですね。

――ありがとうございます。なんかもう……世界が平和になりました。

くまだ いや、お金の話ばっかりですいません!!
(取材・文=西澤千央)

「美容整形のオペ動画」でインスタ炎上! 「患者の許可は」「投稿者は何者?」クリニックが回答

 東京美容外科の東京銀座院、また銀座国際美容外科の銀座院に勤務するスタッフとみられる栗田玲奈氏が、自身のインスタグラムのストーリーに、手術中の患者の写真や動画をアップしていたことが発覚し、ネット上で大バッシングが巻き起こっている。

 現在、ネット上で拡散されている写真や動画を見るに、栗田氏は「銀座国際美容外科」という刺繍が入ったユニフォームを着用し、「室長」という名札をつけ、自らを医師ではなく「どっちかと言うと美容外科のアドバイザー」と名乗っている。東京美容外科の東京銀座院院長・木村幸志伊氏が服をめくって腹筋を見せる動画も投稿していることから、東京美容外科との関係もあると目されている。

 そんな栗田氏は、手術室とみられる場所での自撮りや、「また難しい手術w」「今日は凄い手術失敗のおばはんが来院した」などのコメントを添えた手術中の患者の動画をインスタグラムに投稿しており、ネット上では「オペ室にスマホを持ち込むなんて不衛生」「医療従事者としてあり得ない」など批判の声が噴出しているのだ。

 この件を受けて、栗田氏は、自身のインスタグラムに謝罪文を投稿。「誤解して欲しくないのでこんな形で失礼します。手術風景アップした5本の動画中、2つは私自分自身で1つはお姉ちゃんで、一人だけモニターのお客様だったけど、確実にモニターとして契約書もかわし、すべて動画許可は得て、公開の場でアップしました」と事情を説明し、「私はただ皆様にもっと正確な手術をして欲しく、失敗して欲しくないから、リアルな風景を発信したのが目的であって、それを軽く思ってしまった行為と、誤解を招いた文章を投稿したことは反省しております。でも、それは病院側とかとは関係なく、私自身の問題です。本当に申し訳ございませんでした」とつづっている。

 しかし、この謝罪文に対しても「患者さんがモニターだとしても、『おばはん』呼ばわりはおかしい」「本当に自分と姉の動画なの?」「クリニック側は知っているのか」など、疑問の声は鳴り止まない。この騒動をTwitterで知った高須クリニック院長・高須克弥氏は、「患者さまをもてあそぶな!」と怒りのツイートを投稿し、ネット上には共感の声が広がっている。

 もし「患者に許可を取っていなかったら」「クリニック側の許可を取っていなかったら」……そんなネット上の疑問について、弁護士法人ALG&Associatesの山岸純弁護士に話を聞いた。山岸氏いわく「もし患者さんの許可なく手術中の映像を撮影して、これをSNSに投稿したとなれば、『プライバシー権侵害』を理由とする不法行為責任(民法709条)が成立する可能性が極めて高いと考えられます」とのことだ。

「ここでの『プライバシー権』とは、自分の情報をコントロールする権利とされております。要するに、『自分の情報を、誰にどのタイミングで知ってもらうか、誰に知られたくないか』を自分で管理する権限を言うので、自分の顔などを勝手にSNSなどに投稿されないということも当然に含まれます。したがって、手術中ではなくても、他人の顔や姿を勝手に撮影して世間に広く公開する行為も『プライバシー権侵害』となるわけで、これが手術中ともなれば、なおさらです」

 しかし、「この人」と特定されないような動画なら、「そもそも誰のプライバシーかわからないので『プライバシー権侵害』ではないということも付け加えておきます」とのこと。また、この動画がもしクリニックの許可を得ずに撮影され、投稿されていたのであれば、「よくある“バイトテロ”と同レベルの責任が生じる」そうだ。

「この行為によって、風評被害、信用の失墜などの損害が発生することでしょうから、クリニックから不法行為責任(民法709条)を追及されることでしょう。今回の件も、許可なくやっているのであれば、要するに『見てみて、私を見て!』といった“バイトテロ”の一種です。牛丼屋やコンビニのバイトテロから、ついに医療業界にまでバイトテロが浸透してしまっては、もはや命に係わる社会的問題となります。もしそのようなことが現実に起これば、業務妨害罪(3年以下の懲役か50万円以下の罰金)か、最低でも軽犯罪法違反(1条31号)で厳しく処罰するべきでしょう」

 では、クリニック側は、今回の件をどのように捉えているのだろうか。サイゾーウーマンでは、栗田氏がユニフォームを着用していた「銀座国際美容外科」の銀座院に問い合わせを行い、以下の回答を得た。

 銀座国際美容外科は、栗田氏について「アドバイザーとして、彼女のWeibo、インスタグラムなどをきっかけに来日される中国人の方々の対応をしています。その中で、彼女に憧れて来院される日本の患者様も実際に増えてきています。彼女の投稿を見て、実際に彼女と同じ医師に手術をしてほしいという問い合わせが多くあります」と述べる。

また今回の炎上の争点になっている、患者への許可の有無については、「患者様に許可をいただいております」とのこと。「書面で、通常の院内モニター(部分モニター、全顔モニター)とは別に、SNSでの投稿可能なモニター契約をいただいております」といい、「個人情報保護法などのコンプライアンス違反があった場合は処分が必要になりますが、今回は彼女自身と親戚者の動画投稿で、顔も名前も出ていないので特に大きな問題はないと思います」との見解を示した。そして、この騒動の発端となった栗田氏についても、以下のように回答する。

「彼女は普段から明るく患者様に誠実に対応しており、周囲からの信頼もあります。インスタグラムの投稿内容に賛否あるようですが、彼女に対しての誹謗中傷は、事実と異なるところも多く、度が過ぎているのではないかと思います」

一方で、栗田氏との関係がウワサされている東京美容外科は4月5日、公式サイトにおいて、「一部SNS・メディアにおいて報道されている内容につきまして」というお知らせを更新。栗田氏について、「コーディネーター兼通訳として当院に出入りはしておりましたが、現在当院に在籍している事実はございません」と発表し、また、「発端となりました該当の投稿に写っている手術室や医師に関しては、当院で撮影されたものではなく、当院とは一切関係の無い美容外科クリニックとなります」と説明している。

 同クリニックの麻生統括院長も同日、自身のブログで、「(栗田氏が)4~5年前に当院の銀座院の受付スタッフとして従事していた事実もございます」と説明を加えた上で、あらためて「当院は、この画像が撮影されている、銀座国際美容外科との関連もございません」と断言したが、当該院の院長である木村氏の映像や画像については、「手術室ではなくバックヤードで営業後に撮影をされたものであると事実を確認しております」と述べた。

 また問題視されていたオペ室へのスマホやカメラの持ち込みに関しては、「不衛生であるということもございません。行っている医療に対して自信があるので、セミナーや勉強会を通じて、ライブサージェリーも積極的に行っています。高性能のカメラやスマートフォンを使用して撮影や配信も院全体として、積極的に行っております。希望がある場合には、ご家族に手術のモニター画面をライブでお見せすることもございます」とし、また「ただし、撮影、インターネット配信をさせていただくのは、モニター契約を結び、撮影及び動画配信の御許可をいただいた患者様のみです」と説明。麻生氏の文書は、東京美容外科が世間を騒がせたことに対する謝罪で締めくくられている。

 山岸氏が指摘した通り、オペ中の動画公開は、もし許可が取られていなければ、大問題に発展する可能性がある。世間に誤解を与えかねない投稿には重々注意し、今後も、美容整形患者に寄り添うクリニックであってほしいと願いたい。

東京ディズニーR「ミッキーとミニーの顔」はどう変わった? 顔面評論家が「新旧」を徹底分析

 去る3月下旬、ディズニーファンにとって、ある“大事件”が起こった。東京ディズニーリゾートのミッキーマウスとミニーマウスの「顔」が新しくなったというのだ。事の発端は2月下旬、公式サイトにて、4月から開催されるディズニーシーのスペシャルイベント「ディズニー・イースター」の告知が行われると、そこに掲載されたミッキーとミニーの顔が「全然違う!」とファンが騒然。実は、世界各国のディズニーランドではここ数年の間に、ミッキーとミニーの顔が新しくなっており、その流れを受けて東京ディズニーリゾートでも、ニューフェイスがお目見えしたとみられる。

 ファンはSNSにこぞって新旧の顔写真をアップ。「新しい顔、可愛い!」「前の顔の方が良かったので戻してほしい」「新しい顔でも、前の顔でも、ミッキーがミッキーであることに変わりない」など、さまざまな反応が上がっているが、果たしてミッキーとミニーの顔は、どのように変化したのだろうか。今回、観相家・顔研究家・顔面評論家である池袋絵意知氏に、新旧の顔を比較/分析していただき、人に与える印象がどう変わったのか、解説をいただいた。

■ミッキーの目が変わり、大人っぽい顔立ちに

 ミッキーとミニーは、1928年公開のディズニー制作の短編アニメーション作品『蒸気船ウィリー』でスクリーンデビュー。それから約100年、全世界から愛されるキャラクターとして不動の地位を築いている。池袋氏はまず、なぜミッキーとミニーは、世界中の人々から愛されるのかという“基本の部分”を解説してくれた。

「人は、“笑顔”という表情を、『口角が上がっていること』『目尻が下がっていること』『頬が隆起していること』の3つの大きなポイントから判断しています。ミッキーの顔で最も特徴的なのは頬が隆起している点で、これが見る者に『常に笑顔』という印象を与え、愛される理由になっているのでしょう。ちなみに、アンパンマンやくまモンは、頬に丸を描くことで“隆起”を表現しています」

 この判断基準は“世界共通”というだけに、ミッキーの顔は誰の目にも“笑顔”に映るそうで、新旧の顔を比較しても、頬の隆起の部分は変わらないように見える。また、ミッキーとミニーはともに、眉と目の間が非常に広いのも特徴的で、「穏やかな印象を与える」とのこと。ちなみにフィギュアスケート選手として活躍した浅田真央さんの顔にも同様の特徴があり、「実は彼女は、眉と目の間隔や額の感じがミッキーに似ている」そうだ。

 では、新旧でどこが変化したのだろう。まずミッキーに関して、池袋氏は「目元」に着目した。

「人間が人の顔を見たとき、最もパッと印象に残るのが目元。私もミッキーの新旧の顔を見た際、最初に目元が変わったと注目しました。旧は丸みのある、キャラクター的に可愛らしい目ですが、新の方は縦長の目になり、白目に対して黒目が下寄りに、さらに目の上の白目部分が大きくなり、旧に比べてやや冷たい印象になっていると思います。また、顔全体で見たときの黒目の位置は変わっていないようなのですが、目の形が縦長になったことで、目そのものが顔の上の方に位置し、新の方が大人っぽい顔立ちとなっています」

 赤ちゃんは、顔の真ん中辺りに目があるが、成長とともに、その位置は上がってくる。そのため、目の位置は、下にあればあるほど、子どもっぽい印象の顔になるという。

「ミッキーの目元でいうと、眉間も変わりましたね。旧より新の方が閉じていると思うのですが、眉間は開いている方が人を受け入れる印象になります。目元に関してだけいえば、新より旧の方が可愛らしく、親しみやすい顔をしていると言えるでしょう」

 逆に、口元に関しては、新しい顔の方が親しみやすさを覚えるそうだ。というのも、旧の顔は口の上部が直線だが、新の顔は曲線を描いているので、可愛らしくなっていったという。各パーツにそれぞれ変化はありつつも、顔全体で見たときに、過度に大人っぽく/子どもっぽくなりすぎないよう、絶妙なバランスの仕上がりを目指したのかもしれない。

■ミニーの鼻は、時代背景を反映している?

 一方でミニーの顔はどうだろう。目元に関しては、ミッキーと同様の変化が見られるというが、特に気になったのが「鼻」だそうだ。

「旧より新の方が、鼻が大きくなっています。ミッキーの鼻が若干小さくなっているようにも見えますが……『2人の鼻のサイズに差がなくなった』のは確かでしょう。鼻というのは、大きい方が大人顔/男顔、小さい方が子ども顔/女顔になり、ミニーは鼻が大きくなったことで、『主張の強い顔になった』と言えます。女性が社会進出を遂げ、社会における性差がなくなってきたという時代背景が、ミニーの顔に反映されているとも考えられます。しかし、鼻の主張が増したのを和らげるためか、光沢のある黒からマットな黒に色を変えているんですよね。さらに、眉尻が下がったことで協調性のある印象も与えており、顔全体のバランスが取れていると思います」

 そして、ミニーの変化で最も目立つのは、アイシャドーと口紅がなくなったことだと池袋氏。これにより、ミッキーとミニーの顔の大きな違いは「ま つげの有無くらい」に。「ブルーのアイシャドーや赤い口紅は、日本においては、大人っぽさや海外の女優をイメージさせますが、一方で、時代遅れの印象にも。また、ナチュラルの方がより幅広い年齢 層の人に好まれる傾向があるのでは」という。

 ミッキーとミニー、それぞれの大きな顔の変化について見てきたが、池袋氏は「ほかにも細かいところで気がついたところがある」として、以下の点を挙げてくれた。

「特にミッキーなのですが、旧の鼻が上向きで、新の鼻は低くなっています。旧は正面から見たときに、目が隠れるくらい鼻が上向いていたのですが、低くなったことにより、子どもっぽい可愛らしい印象になったと思います。また、ミッキー、ミニーともに、新になって笑い方が変わりました。旧は、口全体で大きく笑っている感じでしたが、新は口の一部、舌だけしか見えていません。口の中をあまり見せない方が上品な印象になるんです。いわゆる皇室スマイルや仏像などに見られるアルカイック・スマイルも、口の中を見せませんよね。それから、これもミッキー、ミニーともに、顔の黒い部分が減りました。具体的に言うと、顔全体を見たとき、新は旧に比べて、輪郭や口の縁取り、目の大きさなどの黒い部分が少なくなり、肌色の部分が多くなっている。よりキャラクターっぽくない、人間味のある印象になったのではないでしょうか」

■新しいミッキーとミニー、最大の魅力は「口」

 そんな新しいミッキーとミニーの顔だが、池袋氏は、最大の愛されポイントは「口」と断言する。

「先ほども述べた通り、口が曲線を描くようになったことで、親しみやすさや可愛らしさが増し、旧より新の方がよりいい顔になったと思いました。それから、ミッキーとミニーの新しい口元には、はっきりとした『モテモテ口角ライン』があるんです。これは、口を結んだ際、口角がキュッと上がって唇の両端に長くできる線のことを指し、なかなか珍しい“愛され顔” の要素なんですよ。以前私が『バイキング』(フジテレビ系) に出演した際、YOUさんの顔をわかりやすく説明するのに、ディレ クターの方が考案してくださった名前なのですが、当時MCだった三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEのNAOTOさんもモテモテ口角ラインの持ち主でした。あと、King&Princeの永瀬廉さんにも、このラインがあります」

 人の印象を決定付けるのは目元と言われ、アイメイクに力を入れる女性も多いが、「実は口元も大事」とのこと。「モテモテ口角ライン」により、新ミッキーとミニーの顔は、老若男女から愛されるはずと池袋氏は指摘する。

 ディズニーファンの中には、「旧の顔の方が良かった」と漏らす人もいるようだが、新たな顔の魅力についても、ぜひじっくり考えてみてほしいものだ。

池袋絵意知(いけぶくろ・えいち)
観相家、顔研究家、顔面評論家。1999年より顔の研究を開始。 古くからの観相学だけでなく、自然人類学や色彩心理等の研究を取り入れ、独自の顔面観相術「ふ くろう流観相学」を確立。個人鑑定、開運相談、セミナーなどのほか、著書の執筆やスマホア プリの監修なども手がけ、多くの人に幸せな顔になるためのアドバイスをしている。著書に『 最強モテ顔講座』(オークラ出版)『顔相恋占い』(池田書店) 『あなたは何顔美人?』(WAVE出版)など。日本顔学会会員、化粧文化研究者ネットワーク会員、美人画研究会 会員。
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