女性ゲーマー座談会【前編】私たちは「恐怖」と戦っている――“男性社会”なゲーム業界を語る

 米Time誌が選ぶ「世界で最も影響力のある100人」に、テイラー・スウィフトやドナルド・トランプ大統領と並び、ゲーム配信者でプロゲーマーのNinjaが選出された。彼は20代後半ながら、年収は10億円ともいわれており、ゲーム好きなら知らない人はいないほどの有名人だ。

 昨年発表された「新語・流行語大賞」に“eスポーツ”という言葉がノミネートされ、ゲームは遊ぶものとしてだけでなく、“競技”や“仕事”としても注目され始めている。日本国内では、日本テレビや吉本興業などの大手メディアがプロチームを作り、若手選手に活躍の場を提供。さらに、ロート製薬やUCCといったゲームに直接関係のない企業も選手のスポンサーに乗り出し、海外での活躍を支援している。

 野球やサッカーのようなプロスポーツを彷彿とさせるeスポーツ業界だが、その中で“少数派”とされているのが、女性選手だ。現在、プロシーンで活躍する選手はほとんどが男性で、女性はほんの一握り。体格などの性差にとらわれず、男女平等に戦えるのがeスポーツの良さでもあるはずだが、圧倒的な“男性社会”だと言えるだろう。また最近では、とあるゲームの公式大会で優勝したにもかかわらず、容姿に対する誹謗中傷を受けたという女性選手が、自身のブログでその悲痛な思いを吐露したことが話題となり、ゲーム業界を超えて、ネット上で議論を呼んでいる。

 そこで、女性ゲーミングチーム「花鳥風月」のメンバーである、ドスコイ☆花子さん、あさいさん、razさん、そしてイベントMCやゲーム配信者として活動するセリーナさんに、男性中心の業界で女性が直面している問題について語っていただいた。

【座談会出席者プロフィール】
セリーナ……忍ismストリーマー部門所属。『キャサリン』やホラーゲームなどを配信するバイリンガル女子ゲーマー。
ドスコイ☆花子……花鳥風月所属。『スプラトゥーン2』をメインに、 格闘ゲームや『Dead by Daylight』をプレイ。
あさい……花鳥風月所属。『スプラトゥーン2』をメインに配信を行っている。『Apex Legends』などFPSゲームもプレイ。
raz……花鳥風月所属。『スプラトゥーン2』の動画投稿など、 YouTubeでの配信を中心に活動を行っている。

ゲームをしていて感じる“恐怖感”の正体

――今日はお時間いただきありがとうございます。まず大前提からお聞きしたいのですが、ゲーム業界は女性にとってどのような場所なのでしょうか。

セリーナ 今のところ、「活動しにくい世界」という感じでしょうか……。

――特にどんな場面で感じますか。

ドスコイ☆花子(以下、花子) 私はアーケードゲームが好きで、ゲームセンターによく行ってたんですよ。でもゲームセンターって、女子1人では相当入りにくい場所ですよね。一歩踏み出すまでが、本当に大変です。

――「入りにくい」というのは、感情としては何が近いんでしょうか。

花子 「怖い」……ですかね。

セリーナ やっぱり怖さはありますね。新しいゲームが話題になって気になっても、友達と一緒じゃないと行けないというか。ゲームにもよりますけど、女子のプレイヤーはどうしても少ないので、普通に遊んでいるだけでも、ジロジロ見られることが多い。でも、今はオンラインでいろんなゲームができるので、遊びやすくはなったと思います。

あさい 私はもともとゲームセンターには行かず、家でゲームをしているんですけど、オンラインゲームの世界でも、女性への風当たりはやっぱりキツいです。大会に出て結果を残しても、SNSで「チームメイトの男が強かったんでしょ?」とか、「女の子だから強い人と組めてよかったね」って言われたり……。

raz 私がプレイしている『スプラトゥーン2』というゲームは、オンライン対戦中にボイスチャットでコミュニケーションを取ることが多いんですけど、自分と近いレベルの人はだいたい男性でした。なので、最初はマイクを使わないで他の人の会話を聞くだけにして、女だっていうことがバレないようにしてましたね。何か言われるんじゃないかとか、見下されるんじゃないかって、“恐怖感”があったので。

――その恐怖感は、どこから生まれるんですか。

セリーナ 同じ女性プレイヤーが悪口を言われたとも聞きますし、自分の体験もあります。例えば、ゲームの大会に出てネット中継の映像に映った時、コメント欄が「女だ、女だ!」で埋まるんですよ。男性が出ても「男だ!」とはならないのに、不思議ですよね。そういう時に、やっぱり1人のプレイヤーとしてではなく、“女”という属性でしか見てもらえてないんだなと感じます。

raz ゲーム配信は今、世界中の人がやってますけど、特に日本は顔や外見のことを言われやすい気がするんですよね。ゲームがうまいかどうかより、「とにかく顔」みたいな。

あさい 私も配信している時に、心ないコメントをされたことがあります。「あさいさん老けた」とか、「声がかわいくない」とか。ゲームに全然関係ないことばっかり(苦笑)。あと、SNSで「やばい女子ゲーマーランキング」とか勝手に作ってる人がいて……もちろん無視しますけど! でも、やっぱりいい気持ちはしないです。

――そういうことを言ってくるのも、男性なんですか?

花子 もともとゲーマーは男性が多いからっていうのもありますけど、やっぱり男性が多いのかな? でも、女性も同じようなことを言う人はいるし、女性が男性のフリをして目立つ女性を攻撃することもあります。なので性別以前に、ゲーム業界全体として、「誰に何を言ってもいい」空気になっているのかもしれないですよね。

――みなさんは、男性も含めてほとんどのゲーマーより技術があって、単純に強いと思うんですが、それでも「女だから」誹謗中傷されてしまうんですね……。

セリーナ 本当にゲームが好きで、真剣に勝とうとしてる女性がいる、という感覚がまだ薄いんだと思います。確かに、ゲーム業界で活躍して注目されるのはほとんどが男性だから、珍しくてちやほやされるのがうれしい女性ゲーマーがいるのも事実だとは思います。でも、周りのことなんてどうでもよくて、ただただゲームが好きな女性も結構いるよ? っていうことは、わかってほしいです(笑)。

あさい 普通に勝ちたいし、うまくなりたいよね。まあ、私たちが相当負けず嫌いなのは確かだけどさ(笑)。ただ、実は私自身も「女の子には絶対負けたくない」と思うことも正直あるので、自分が“女性”にとらわれている部分もあると思います。女性のゲーム人口が増えてきたら、今ほどはライバル視しなくなると思うんですけどね。

――今、「女性をライバル視する」といった話もありましたが、女性プレイヤー同士の距離感はどんな感じですか。

raz 私は“競技”としてゲームをしている意識の方が強いですが、ゲームの話ができて、仲良くできれば、勝ち負けにこだわらない遊び方でも気にならないです。とにかく、1人でも多く女性プレイヤーが増えてくれるのがうれしいです。

花子 女性だけのオフイベントを開いてるのも、それが目的なんですよ。男性と一緒だと、参加しにくい方もいるので。でも、そういうイベントにわざわざ遠方から来てくれて、「ゲームセンターに初めて入りました!」っていう子がいたりするんですよね。その子にとっては、地元のゲーセンよりも、東京の女性限定イベントの方が、心理的に距離が近かったというか。自分がガチのゲーマーってことを言えずにいる女性も含めたら、実はすごく多いと感じてます。その人たちが楽しく遊んだり、「ゲームが好きです」って自信を持って言えるような環境を作っていきたいです。

セリーナ ゲーマーが集まる対戦会でも、女の子ってどうしても目立ちます。周りの人にキツく当たられるのはもちろん怖いけど、逆に優しくされすぎても、「あいつは男漁りに来た」って見られたりして……。「行くだけで叩かれるから嫌だ」って、ほかの人と交流を避ける子も多いんです。

――なるほど、「女の子だから嫌な思いさせないようにしよう」と思われすぎても、困ることがあるんですね。

あさい 自分よりうまい人は男性の方が多いし、本当はそういう人にアドバイスをもらいたいんですけど、叩かれるかもしれないと思うと、それもしづらくなっちゃったり……。だから、性別について意識せず、単純にいちゲーマーとして教えてくれる人は、本当にありがたいし尊敬してます。

raz 私たちは、とにかくうまくなりたいだけです。最後は男の人たちも含めて、性別関係なくプレイヤー全員に勝ち、1番になりたい。それだけを思って、日々練習に取り組んでいることは知っておいてほしいと思います。
(後編へ続く)

女性ゲーマー座談会【前編】私たちは「恐怖」と戦っている――“男性社会”なゲーム業界を語る

 米Time誌が選ぶ「世界で最も影響力のある100人」に、テイラー・スウィフトやドナルド・トランプ大統領と並び、ゲーム配信者でプロゲーマーのNinjaが選出された。彼は20代後半ながら、年収は10億円ともいわれており、ゲーム好きなら知らない人はいないほどの有名人だ。

 昨年発表された「新語・流行語大賞」に“eスポーツ”という言葉がノミネートされ、ゲームは遊ぶものとしてだけでなく、“競技”や“仕事”としても注目され始めている。日本国内では、日本テレビや吉本興業などの大手メディアがプロチームを作り、若手選手に活躍の場を提供。さらに、ロート製薬やUCCといったゲームに直接関係のない企業も選手のスポンサーに乗り出し、海外での活躍を支援している。

 野球やサッカーのようなプロスポーツを彷彿とさせるeスポーツ業界だが、その中で“少数派”とされているのが、女性選手だ。現在、プロシーンで活躍する選手はほとんどが男性で、女性はほんの一握り。体格などの性差にとらわれず、男女平等に戦えるのがeスポーツの良さでもあるはずだが、圧倒的な“男性社会”だと言えるだろう。また最近では、とあるゲームの公式大会で優勝したにもかかわらず、容姿に対する誹謗中傷を受けたという女性選手が、自身のブログでその悲痛な思いを吐露したことが話題となり、ゲーム業界を超えて、ネット上で議論を呼んでいる。

 そこで、女性ゲーミングチーム「花鳥風月」のメンバーである、ドスコイ☆花子さん、あさいさん、razさん、そしてイベントMCやゲーム配信者として活動するセリーナさんに、男性中心の業界で女性が直面している問題について語っていただいた。

【座談会出席者プロフィール】
セリーナ……忍ismストリーマー部門所属。『キャサリン』やホラーゲームなどを配信するバイリンガル女子ゲーマー。
ドスコイ☆花子……花鳥風月所属。『スプラトゥーン2』をメインに、 格闘ゲームや『Dead by Daylight』をプレイ。
あさい……花鳥風月所属。『スプラトゥーン2』をメインに配信を行っている。『Apex Legends』などFPSゲームもプレイ。
raz……花鳥風月所属。『スプラトゥーン2』の動画投稿など、 YouTubeでの配信を中心に活動を行っている。

ゲームをしていて感じる“恐怖感”の正体

――今日はお時間いただきありがとうございます。まず大前提からお聞きしたいのですが、ゲーム業界は女性にとってどのような場所なのでしょうか。

セリーナ 今のところ、「活動しにくい世界」という感じでしょうか……。

――特にどんな場面で感じますか。

ドスコイ☆花子(以下、花子) 私はアーケードゲームが好きで、ゲームセンターによく行ってたんですよ。でもゲームセンターって、女子1人では相当入りにくい場所ですよね。一歩踏み出すまでが、本当に大変です。

――「入りにくい」というのは、感情としては何が近いんでしょうか。

花子 「怖い」……ですかね。

セリーナ やっぱり怖さはありますね。新しいゲームが話題になって気になっても、友達と一緒じゃないと行けないというか。ゲームにもよりますけど、女子のプレイヤーはどうしても少ないので、普通に遊んでいるだけでも、ジロジロ見られることが多い。でも、今はオンラインでいろんなゲームができるので、遊びやすくはなったと思います。

あさい 私はもともとゲームセンターには行かず、家でゲームをしているんですけど、オンラインゲームの世界でも、女性への風当たりはやっぱりキツいです。大会に出て結果を残しても、SNSで「チームメイトの男が強かったんでしょ?」とか、「女の子だから強い人と組めてよかったね」って言われたり……。

raz 私がプレイしている『スプラトゥーン2』というゲームは、オンライン対戦中にボイスチャットでコミュニケーションを取ることが多いんですけど、自分と近いレベルの人はだいたい男性でした。なので、最初はマイクを使わないで他の人の会話を聞くだけにして、女だっていうことがバレないようにしてましたね。何か言われるんじゃないかとか、見下されるんじゃないかって、“恐怖感”があったので。

――その恐怖感は、どこから生まれるんですか。

セリーナ 同じ女性プレイヤーが悪口を言われたとも聞きますし、自分の体験もあります。例えば、ゲームの大会に出てネット中継の映像に映った時、コメント欄が「女だ、女だ!」で埋まるんですよ。男性が出ても「男だ!」とはならないのに、不思議ですよね。そういう時に、やっぱり1人のプレイヤーとしてではなく、“女”という属性でしか見てもらえてないんだなと感じます。

raz ゲーム配信は今、世界中の人がやってますけど、特に日本は顔や外見のことを言われやすい気がするんですよね。ゲームがうまいかどうかより、「とにかく顔」みたいな。

あさい 私も配信している時に、心ないコメントをされたことがあります。「あさいさん老けた」とか、「声がかわいくない」とか。ゲームに全然関係ないことばっかり(苦笑)。あと、SNSで「やばい女子ゲーマーランキング」とか勝手に作ってる人がいて……もちろん無視しますけど! でも、やっぱりいい気持ちはしないです。

――そういうことを言ってくるのも、男性なんですか?

花子 もともとゲーマーは男性が多いからっていうのもありますけど、やっぱり男性が多いのかな? でも、女性も同じようなことを言う人はいるし、女性が男性のフリをして目立つ女性を攻撃することもあります。なので性別以前に、ゲーム業界全体として、「誰に何を言ってもいい」空気になっているのかもしれないですよね。

――みなさんは、男性も含めてほとんどのゲーマーより技術があって、単純に強いと思うんですが、それでも「女だから」誹謗中傷されてしまうんですね……。

セリーナ 本当にゲームが好きで、真剣に勝とうとしてる女性がいる、という感覚がまだ薄いんだと思います。確かに、ゲーム業界で活躍して注目されるのはほとんどが男性だから、珍しくてちやほやされるのがうれしい女性ゲーマーがいるのも事実だとは思います。でも、周りのことなんてどうでもよくて、ただただゲームが好きな女性も結構いるよ? っていうことは、わかってほしいです(笑)。

あさい 普通に勝ちたいし、うまくなりたいよね。まあ、私たちが相当負けず嫌いなのは確かだけどさ(笑)。ただ、実は私自身も「女の子には絶対負けたくない」と思うことも正直あるので、自分が“女性”にとらわれている部分もあると思います。女性のゲーム人口が増えてきたら、今ほどはライバル視しなくなると思うんですけどね。

――今、「女性をライバル視する」といった話もありましたが、女性プレイヤー同士の距離感はどんな感じですか。

raz 私は“競技”としてゲームをしている意識の方が強いですが、ゲームの話ができて、仲良くできれば、勝ち負けにこだわらない遊び方でも気にならないです。とにかく、1人でも多く女性プレイヤーが増えてくれるのがうれしいです。

花子 女性だけのオフイベントを開いてるのも、それが目的なんですよ。男性と一緒だと、参加しにくい方もいるので。でも、そういうイベントにわざわざ遠方から来てくれて、「ゲームセンターに初めて入りました!」っていう子がいたりするんですよね。その子にとっては、地元のゲーセンよりも、東京の女性限定イベントの方が、心理的に距離が近かったというか。自分がガチのゲーマーってことを言えずにいる女性も含めたら、実はすごく多いと感じてます。その人たちが楽しく遊んだり、「ゲームが好きです」って自信を持って言えるような環境を作っていきたいです。

セリーナ ゲーマーが集まる対戦会でも、女の子ってどうしても目立ちます。周りの人にキツく当たられるのはもちろん怖いけど、逆に優しくされすぎても、「あいつは男漁りに来た」って見られたりして……。「行くだけで叩かれるから嫌だ」って、ほかの人と交流を避ける子も多いんです。

――なるほど、「女の子だから嫌な思いさせないようにしよう」と思われすぎても、困ることがあるんですね。

あさい 自分よりうまい人は男性の方が多いし、本当はそういう人にアドバイスをもらいたいんですけど、叩かれるかもしれないと思うと、それもしづらくなっちゃったり……。だから、性別について意識せず、単純にいちゲーマーとして教えてくれる人は、本当にありがたいし尊敬してます。

raz 私たちは、とにかくうまくなりたいだけです。最後は男の人たちも含めて、性別関係なくプレイヤー全員に勝ち、1番になりたい。それだけを思って、日々練習に取り組んでいることは知っておいてほしいと思います。
(後編へ続く)

『恋ステ』小山開と石丸晴久に法的措置! ファンに対する「侮辱動画」の代償を弁護士解説

 恋愛リアリティーショー『恋する週末ホームステイ』(AbemaTV)に出演していたモデルの小山開と石丸晴久。去る5月19日、2人が「メンズフェスin大阪」の楽屋で、ファンからのプレゼントを蹴飛ばして踏みつけた上、「俺にいくら、あいつら貢いだと思う? 10万」(小山)「(ファンは)ブスやんな」(石丸)「ブスやし、全然いらんし」(小山)などと暴言を吐くSNS投稿動画がネット上で拡散され、批判の嵐を巻き起こした。

 2人はすぐさま自身のTwitterに謝罪文を掲載したが、同20日には「メンズフェスin大阪」事務局が、2人の今後一切の出演を禁止すると発表。さらに、今回の事態を重く見た小山の所属事務所・ワイケーエンタテインメントは同22日、小山の契約解除を発表した。さらに、同日には、「不適切動画をとった小山開含む一同の今後について」という文書を公表し、そこには、「小山開含む今回の不適切動画投稿(以下本件という)に関与した当事者達(以下当事者達という)に対し、刑事、民事、での法的準備に入ったことをご報告致します」とあり、その理由は「本件同様全国で多発するSNSなどでの不適切動画の投稿やそれを悪意もなくあげてしまう現在の風潮を正し今後の規律として弊社が一石を投じ、今後同様の事件への再発防止の抑止力とする為」と説明されている。

 この一報がニュースサイトに取り上げられると、ネットを中心に「事務所の決断は正しい」「解雇だけでは済まされない問題だと思う」といった法的措置に賛成する声が多数上がることに。しかし、事務所サイドが、具体的に何の罪で訴えるかを明かしていないため、「どういった罰を受けるのだろうか」という疑問も少なからず飛び交っている状況だ。そこで今回、弁護士法人ALG&Associatesの山岸純弁護士に、小山、石丸らに待ち受ける展開について、見解をお聞きした。

 今回の騒動を受け、事務所サイドは「刑事」「民事」での法的準備に入ったと説明しているが、これはどういうことなのだろうか。

 そもそも「『民事で訴える』とは、民事事件として、所属事務所が主体(原告)となって訴訟を提起するという意味であり、一方『刑事で訴える』とは、刑事事件として、捜査機関や検察官に対し、告訴状を提出して刑事告訴をするという意味。刑事事件で訴訟の提起(公訴の提起)ができるのは検察官のみなので、『刑事で訴える』とは『刑事告訴をする』ということなのです」(山岸氏、以下同)という。

「民事事件としては所属事務所の評判を落とされた、予定していたイベントなどの中止を余儀なくされたなどを理由に『損害賠償請求』訴訟を提起することが考えられます。一方で、刑事事件としては、所属事務所の円滑な経営を妨害されたとして、『業務妨害罪(刑法234条)』として刑事告訴することが考えられるでしょう。これは、有形力(物理的な力)を使って人様の業務を妨害することに対する罪で、3年以下の懲役か50万円以下の罰金が科されます」

 動画を見て憤りを覚えたという人にとっては、小山や石丸が損害賠償請求をされたり、業務妨害罪に問われることを「胸のすく思い」と感じるかもしれないが、小山は2002年生まれの高校2年生。その点を踏まえると「刑事事件においては、警察が小山氏に事情を聞くことになったとしても、恐らく “お叱り”だけで終了となるでしょう。起訴はされません」とのことだ。

「しかし民事事件においては、イベントの中止などで所属事務所の売り上げが減少しているでしょうから、この減少した分を損害として賠償しなければならなくなる可能性が高いと思われます」

 昨今、バイト従業員が勤務先での悪ふざけ動画をSNSにアップして、大炎上するバイトテロが流行している。今回の炎上も同様のものだと、山岸氏は見ているようだ。

「未成年であろうとなんであろうと、どんどん責任追及しなければなりません。自分の犯した行動の責任をしっかりと取らせ、それを大々的に報道しないと、こういった若者たちの意識は改まりません」

 今回の法的措置をきっかけとして、何の気なしに不適切動画をSNSにアップしてしまう悪しき風潮がなくなっていけばいいが……。

小学校卒業式の「はかま」に賛否 ――“貧困層”と“子どもの意思”どちらを優先すべき!?

 公立小学校の卒業式で、女子児童を中心に「はかまの着用」が増えており、2017年頃からテレビやネット上で物議を醸している。テレビ番組では、「節目と言えるイベントに服装の自由を認める声がある一方、経済的な事情や着付けの手間を考慮して自粛を求める動きが出ている」などと報道された。

 そんな中、東北を中心に発行している地方紙「河北新報」は2018年12月12日、「卒業式『華美過ぎる』東松島市長が小学生のはかま疑問視 服装で優劣が出ないよう」の記事を掲載。記事によると、宮城県東松島市の渥美巌市長は12月11日、市議会12月定例会の一般質問で、はかまや着物を着て卒業式に出席する女子児童が近年増えている現状に疑問を呈したという。17年度の卒業式における同市8校のはかま着用率は、ばらつきがあるものの、最も多い学校で約9割という高い結果となったとのこと。渥美市長の発言は、各家庭の経済格差を考慮したもので、「はかまを着られない少数の児童が劣等感を抱き、卒業式を心から喜べていないと危惧している。経済的な事情で着たくても着られない女の子の心情は果たしてどうなのか」という意図があったそうだ。

 また、奈良県生駒市の教育委員会も、19年4月22日に行われた定例委員会で、保護者に向け自粛を求める通知を近く各学校を通じて出すことを決めた。はかまを着なれていない児童が、トイレを我慢し「体調不良」を起こすケースや、舞台上での転倒を危惧し「安全面」を考慮した結果だという。今回の決定に際して、市教委は「『禁止』まではしないが各家庭に配慮を求める。(来春の卒業式向けのレンタル予約などがすでに始まっているため)なるべく早く通知したい」とコメントしている。

 Twitter上では「今の小学生はロングスカートやガウチョパンツを着こなしているし、そこまで転倒の心配をする必要はないのでは?」「晴れの日に正装を着ることは賛成」といった声がある一方で、「早朝に着付けをする手間やお金がかかりすぎる」という否定的な声まで、さまざまな意見が散見されたが、いまだ「はかま着用」の是非は問われている状況だ。

 卒業式ではかまを着用する風潮が生まれた理由はなんなのだろうか。大正大学人間学部教授で、子どもにかかわる消費ビジネスを研究する白土健氏は、メディアの影響を挙げ、「大ヒット漫画『ちはやふる』(講談社)がきっかけだと考えられます。具体的に、はかまの着用が増加し始めたのは13年~14年頃」と話す。

 『ちはやふる』は競技かるたに打ち込む高校生の青春を描いた漫画で、11年にテレビアニメ化、16年には女優・広瀬すずの主演で実写化されており、いずれも主人公らは、はかまを着用している。これらを見た児童が「かわいい! 真似したい」と飛びつき、はかまの着用が広まったと考えられるという。

 また、白土氏によると「少子化」が、児童を取り巻く経済活動の変化をもたらしているとのこと。

「両親2人、両祖父母4人の合計6人の財布を示す『6ポケット現象』という言葉があります。少子化の影響により、子ども一人当たりに投じる金額が増えているのです。『6ポケット現象』という言葉からも、ランドセル商戦やはかまの着用などの“お金がかかる”ことへの抵抗が薄れているのでは」

 さらに白土氏は、「小学生の娘が実際にはかまを着た」という知人がいるといい、「娘さんが『仲の良い○○ちゃんがはかまを着るから、私も着たい!』と言ったそうで、子ども主導で衣装を決めたとのこと。そのことに対して、保護者は止めるのではなく、むしろ七五三の延長のような感覚で晴れの日を楽しんでいたようです」という。

 「6ポケット現象」と子どもの成長を「祝う」気持ちが重なれば、はかまの着用率が増加したことは自然なことかもしれない。

 「6ポケット現象」という言葉が生まれた一方で、保護者の所得が低く、相対的貧困状態に陥っている児童も少なくないという現状もあるだろう。渥美市長は、貧困層と言われる児童への配慮として「はかまの着用」に苦言を呈しており、確かに周りの友達がはかまを着用しているのに、自分だけ着ていないという状況は、児童に“劣等感”を覚えさせるのは想像に難くない。

 経済的な事情から学習塾に通うことが難しい中学生を対象にした無料塾「中野よもぎ塾」の代表・大西桃子氏は、「成人式でさえも経済的な理由から、はかまの着用が難しい家庭がある中、小学校の卒業式でもはかまを着用するが一般的になってしまうようであれば、貧困家庭にとっては厳しい風潮です。ただ、各家庭の経済状況がバラバラな公立小学校で、『禁止』と一言でまとめるのは難しいでしょう」と、はかま着用問題への見解を話す。

「昔と比べ、相対的貧困状態にある子どもがわかりづらくなっています。というのも、ファストファッションが広がり、安くてオシャレな物が手に入るため、ボロボロの服を着ている子どもは減りました。そのため、パッと見て『貧困』という問題を抱えているのか見えづらいのです。学校側が、禁止を発するのは難しいと思いますが、そうした背景をもとに自粛を発する配慮は必要かもしれません。また、“隠れ貧困”の児童がどれだけ存在するのかを、把握することも重要だと思います」

 小学生を取り巻く経済活動や経済格差が大きく変化する中で生じた「はかま着用問題」。5月のゴールデンウィークの時点で、レンタル衣装会社などは、「かわいい衣装は早いもの勝ち」と銘打ち、20年の卒業式に向けた展示会や予約を始めており、着用を自粛する動きは見えてこない。

 卒業式などの節目に限ったことではなく、日々の教育や生活のあらゆる面において、格差が生じていくことも予想されるだけに、常日頃から児童と保護者、学校、行政の間でコミュニケーションを取り、信頼関係を築いていくことが重要なのかもしれない。

1回1,000円で担当とハグ……男性地下アイドルが“過剰な”ファンサービスを続ける本当の理由

 昨今、男性地下アイドルの“過激なファンサービス”が注目を集めている。ライブ会場に訪れたファンとアイドルがハグをしたり、指越しにキスをしたりと、「粘膜の接触以外はOK」とされているグループは少なくない。彼らのファンはその過剰なサービスを求め、1人で月に数十万円、数百万を消費することも珍しくないという。しかし、このようなビジネスモデルは、今後も“安泰”でいられるのだろうか。モノを売らずにサービスを売るアイドルの未来について、外資系戦略コンサルタントでアイドルビジネスのアドバイザーも務めるCuteStrategy氏に分析、寄稿いただいた。

男性地下アイドルグループの誕生と、現在の状況

 2005年に東京・秋葉原の小劇場で生まれた「AKB48」は、「会いに行けるアイドル」としてファンとメンバーの距離を縮め、これまでの女性アイドル像を大きく覆した。さらに、CDを購入したファンが、次回シングル曲の歌唱メンバーを投票で決める「選抜総選挙」というセンセーショナルなイベントがテレビで放送され、一般認知されるように。「SKE48」「NMB48」といったファミリーグループの展開も、一時的なブームではなく、持続的に活動できる基盤を作り、“地下”から芸能界全体に大きな変化をもたらすほどの女性アイドルグループに成長した。

 そんなAKB48の成功に続けとばかりに、2,000~3,000組とも言われる女性アイドルグループが全国各地に誕生。音楽・映像制作ソフトの低コスト化による初期投資の低さと、「モノの消費」から「経験の消費」へと変化する時代の流れを受け、「アイドル戦国時代」と呼ばれるブームが生まれた。しかし、16年ごろよりその勢いは収束し始め、「乃木坂46」「欅坂46」といった一部人気グループを除き、徐々にライブ会場が小規模化。戦国時代に生まれた多くのグループが、解散する憂き目に遭う。

 一方、男性アイドルグループも、ジャニーズ事務所による独占状態を切り崩そうと、AKB48の戦略やビジネスモデルを参考にし、「会いに行けるアイドル」をコンセプトとした接触サービスや、SNSなどのWebメディアを活用するグループが増加。10年代初めには、大手芸能事務所から「超特急」「DISH//」、名古屋のご当地アイドルとして「BOYS AND MEN」などが誕生し、ジャニーズに一極化していた男性アイドル市場を動かした。

 しかし18年、ジャニーズ事務所の若手グループ「King&Prince」が、デビューシングル「シンデレラガール」を初週57.7万枚売り上げたのに対し、超特急は結成5年目の17年にリリースしたシングル「超ネバギバDANCE」は、初週7.3万枚という結果だった。BOYS AND MENはここ最近、シングルを10万枚以上安定的に売り上げているものの、やはり初週ランキングではジャニーズグループに第1位を奪われる現状だ。

 10年代初めにデビューしたジャニーズ以外の男性アイドルが伸び悩む中、10~15年には新たな男性アイドルも多く誕生。しかし、前述した通り、ジャニーズ以上の人気を誇る男性アイドルグループを生み出すことは難しく、必然的に、ジャニーズ以外の男性アイドルファンも増えにくい。そのため、多くの男性アイドルは、キャパシティ200~300人程度の小規模なライブハウスなどを活動の主体としており、“地下アイドル化”している現状がある。

 男性地下アイドルが収益の柱としているのは、ジャニーズアイドルが絶対にやらない、“チェキ券”などを用いた接触サービスの提供だ。このような手法は、大手芸能事務所の男性アイドルと争わない代わりに、同じような地下男性アイドルと対抗することになる。数多のグループが存在する激しい競争環境の中にあっては、音楽の質やパフォーマンス、ビジュアル的な面ではなく、「いかにファンが満足するサービスを提供するか」が重要になってくる。その結果、冒頭で述べたような、ハグ・指越しのキスなどの、過激なファンサービスが生まれることになるわけだ。

 ファンの多くは、メンバーからのファンサービスを受けるため、1,000円~3,000円の“チェキ券”を購入している。このチェキ券を買えば買うだけ、長い時間お目当てのメンバーと会話やふれあいが楽しめるという仕組みだ。実はこのやり方、ビジネスモデルとしては非常に効率がいい。その理由としては、CDやグッズを販売すると原価が掛かり、さらに在庫を抱えるため、小規模な市場ではリスクが大きい。しかし、モノを売らずにサービスだけを売るとなれば、会場とメンバーのスケジュールだけ押さえておけばよいため、もっとも素早く、かつ高い利益を生む販売方法と言える。

男性地下アイドルが陥る2つのジレンマ

 しかし、このような“高利益率”の身体的な接触サービスが収益の柱となる場合、男性地下アイドルは2つのジレンマに陥ると推測される。1つは、人気の獲得とファンのサービスの満足度が反比例してしまうことである。接触サービスはデジタル情報のようにコピーできないため、必ず物理的・時間的な制約が生じる。つまり、人気が出てファンが増えれば増えるほど、そのサービスはより簡易に、より短時間になるため、今までのファンサービスに満足していた既存ファンの満足度が下がり、結果的にファン離れを起こす可能性が高まるのだ。

 そしてもう1つは、利益率低下のジレンマである。先ほど述べた通り、高利益率の身体的な接触サービスを提供するには、物理的・時間的な制約がある。ならば、収益の柱を「接触サービス」から「ライブ活動のチケット収入」「CD・DVD・写真集等の販売」などにシフトしていけばいいと思われるが、そのためにはまず制作費用が必要となり、同時に在庫を抱えるリスクも生まれるため、必然的に利益率は下がってしまう。利益率が下がれば、メンバーやスタッフへ支払われるギャラが減り、最悪の場合、グループが存続できなくなるかもしれない。

 そのため、利益の減少を招くアクションに躊躇し、より大勢のファンを獲得する行動に移りづらくなってしまう。これら2つのジレンマを抱えてしまうと、中~大規模ライブ会場に達する人気の獲得が難しくなり、“地下”でしか活動できない男性アイドルが増える。その結果、さらなる過剰な接触サービスにつながっていくのだ。

 現在、男性地下アイドルにとって、最も理想的なサクセスストーリーは、小規模会場でのライブや、SNSでの発信がネットで注目を浴び、マスメディアに進出してファンを大きく増やし、大規模会場でのライブ活動を実施することであろう。しかし、そのストーリーを実現するために彼らの行く手を妨げる大きな存在が、本来競合するはずがない“ジャニーズ”である。

 テレビ、映画、雑誌などのマスメディアを活動の主体にしたジャニーズは、TOKIOや嵐など、一般的な認知度と人気を誇るグループのメディア出演を交渉カードに、若手グループのメンバーをマスメディアに出演させる、いわゆる“バーター出演”を利用して、認知度と人気を継承していく流れを作った。しかし、近年のWebメディアの台頭は、ジャニーズの独占状態を脅かすこととなる。

 ジャニーズの人気を支える10~20代や、消費を支える30代以降の女性が、スマートフォンを起点としたWebへのアクセスからメディア消費をするようになる一方、ジャニーズはマスメディア中心の戦略を変えず、ネット上には顔写真すら使用していなかった。その結果、若手グループの一般知名度を著しく下げてしまった。

 いよいよ危機感を持ったのか、Webメディアへの露出を実質的に“禁止”してきたジャニーズも、昨年ようやくネットニュースでの写真使用を解禁し、動画サイト「YouTube」にチャンネルを開設するなど、マスメディア以外にも露出するように。しかしこれらの動きは、ジャニーズ唯一の未開の地だったWebメディア戦略にシフトする男性アイドルにとって、新規ファンの獲得を一層難しくしたと言えるだろう。

ネット時代だから出現した、意外な競争相手

 男性地下アイドルの競争相手は、ジャニーズや中堅男性アイドルグループだけではない。実は最も大きな脅威となるのが、「東海オンエア」や「Fischer’s」など、男性グループで活動するYouTuberである。彼らは女性ファンを中心に、数百万人ものチャンネル登録者=ファンを有し、Webメディアを巧みに活用している。最近では、18年6月~19年1月に「Fischer’s」がイベントを開催し、Zeppダイバーシティ東京を2日間満員にしただけでなく、大阪、福岡、札幌でもキャパシティ最大2,000~3,000人の中規模会場を埋めている。

 彼らYouTuberの収益は、その膨大なチャンネル再生回数から生まれる動画サイトの広告料や、企業とのタイアップに依存しているため、前述した男性地下アイドルが陥る2つのジレンマに悩まされることもない。つまり、マスメディアはジャニーズ、WebメディアはYouTuberによって、大きなアピールの場をふさがれている状態なのだ。接触サービスに依存することでジレンマを抱える男性地下アイドルに待ち受けているのは、明るい未来ではなく、男性地下アイドル同士で数少ないファンを奪い合う、“レッドオーシャン”なのである。

■CuteStrategy
京都大学・大学院を卒業後に、外資系戦略コンサルティングファームへ。 企業や政府、自治体などのグローバルリサーチ、事業戦略立案に携わる。激務のプロジェクトに苦悩している中、アイドルに一命を救われてから一転アイドルオタクに。経営学的観点からエンタメ業界を分析する視点が好評で、多くのメディアで紹介されている。
ブログ「外資系戦略コンサルタントの視点から見たアイドル・ビジネス」/Twitter

娘と性交する父親は「許されない」のに「無罪」――日本の「近親姦」をめぐる“捩れ”

 抵抗できない状態の実の娘に、二度に渡って性交をしたとして、準強制性交の罪に問われた父親が無罪判決を言い渡された――4月中旬、この一件がニュースになるやいなや、世間の人々から「おかしい!」という怒りと疑問の声が巻き起こった。

 女性は、中学2年生の頃から父親による性虐待を受け、抵抗すると暴力を振るわれた経験もあったというが、名古屋地裁岡崎支部は「以前に性交を拒んだ際に受けた暴力は恐怖心を抱くようなものではなく、暴力を恐れ、拒めなかったとは認められない」「従わざるを得ないような強い支配、従属関係にあったとまでは言い難い」と判断。2017年に新設された「監護者性交等罪」(18歳未満の子どもを監護する親や児童養護施設職員など、その影響力に乗じて性交・わいせつ行為をした者を処罰できる罪)も、起訴内容が19歳当時に受けた被害だったため適応されず、無罪判決となった。しかし、ネット上では「普通に考えておかしい」と法律自体を疑問視する声が高まり、同時に「近親姦はなぜ罪ではないのか?」「近親姦罪があったら、この父親は有罪になったのに」といった意見も目立っていた。

 実は日本には、かつて「親族相姦」という犯罪が存在していた。1868年制定の「仮刑律」、1870年制定の「新律綱領」、1873年制定の「改定律例」では近親姦が処罰対象であり、場合によっては極刑が下されることもあったのだ。しかし1880年に制定された「旧刑法」から廃止され、現在に至っている。なぜ「親族相姦」罪は消えたのか――今回、千葉大学大学院専門法務研究科長の後藤弘子氏に話を聞いたところ、「かつての『親族相姦』罪の対象には、『自分の子ども』が含まれていなかった」という事実が明らかに。さらに、日本における性虐待問題の病巣が浮き彫りになった。

――なぜ、日本の現行刑法には近親姦罪がないのでしょうか。

後藤弘子氏(以下、後藤) 現在の刑法は1908年に施行されました。明治初期の刑法は、江戸時代のものを参考にしたもので、「仮刑律」「新律綱領」「改定律例」といった唐・明の律系の色彩の強いものでした。欧米諸国と肩を並べるためには、刑法の近代化が必要だとされ、「旧刑法」が制定されたのです。

 そのプロセスの中で参考にされたのが、フランスやドイツの法律です。フランスでは当時すでに近親姦罪はなく、旧刑法を作るにあたって大きな役割を果たした、フランスの法学者、ギュスターヴ・エミール・ボアソナードの草案にも、近親姦罪に関する規定はありませんでした。ボアソナードは、それまで処罰されていた合意に基づく成人間の近親姦に対して、「公権力が家庭における私事に介入すること」は適切ではなく、道徳や宗教によって規律されるべきであると強力に主張。それに対して、日本の関係者も「このような醜態の罪は刑法に置かない方がよい」と賛成しました。もちろん、現行刑法と同様に律の時代でも、「幼児姦」(12歳以下)の場合は合意があっても犯罪だとしていましたし、旧刑法でもそれは踏襲され、現在に至っています。ですから、現在でいえば、小学生以下の子どもの場合は、誰が加害者であっても処罰するべき犯罪だという考えが、明治の時代から存在していました。ただ、親による子に対する性交を特別扱いすべきだという発想は、明治の初めからなかったと言えます。

――日本の社会背景などの影響はありますか。

後藤 当時の封建的な家族観も強く影響していると思います。刑法と同時期に明治民法を作る動きもあるのですが、1908年に成立した明治民法では、家制度という封建的な家族制度を採用することになります。旧民法(1890年公布。未施行)は、先ほどのボアソナードの影響で、自由主義・個人主義的色彩の強い近代的な家族法を目指しましたが、「民法いでて忠孝滅ぶ」と強い反対にあい、結局施行されませんでした。

 家制度では、戸主(ほとんどの場合、父親)が強い権限を持っており、例えば結婚をするにしても、戸主の同意がなければできないなど、女性や子どもは、戸主の「所有物」と考えられていました。絶対的な権限を戸主に持たせることで、近代化を進めようとしていた明治政府にとって、そもそも近親姦のように「戸主の権限を制限する」法律を成立させることは無理だったと思います。

――家制度の基となる家父長制が強かった時代の「仮刑律」「新律綱領」「改定律例」では、「親族相姦」罪があり、近親姦が処罰対象になっていましたが。

後藤 確かにそうですが、その対象に「自分の子ども」は含まれていません。父親や尊属の妾、姑、姉妹、子孫の妻、兄弟の妻といった「子どもを産める女性」が対象だったんです。誰かの「所有物」を姦する/強姦することは、儒教的、道徳的に問題視されるだけでなく、子どもの親の確定が困難になり、血統が混乱することにもつながります。それを避けるといった意味合いから、「親族相姦」罪が存在したのではないでしょうか。

 そう考えると、所有物である自分の子どもが「自分の子ども」を産んだって、家制度は守られていくわけですし、むしろ当時は「子どもがいない」ことの方が問題だとされた時代でした。「(自分の子どもを対象とする)近親姦を処罰する」ことより「家制度を守る」方が重要視されていた、極端な言い方になりますが、「親と子の性的関係は、そこまで悪いことではない」といった考えがあったように思います。

――今の時代から考えると、「家」制度はかなり理解に苦しみます。

後藤 そうでしょうか? 愛知県の事件からもわかるように、実際に今でも「娘は自分の所有物だ」という家制度的な考え方を持つ人がいるのです。被告人は、「女性より男性の方が力を持つべき」というジェンダー的価値観にかなり共感しているように思いますし、性暴力によって、娘を支配し、コントロールしていたと感じます。性暴力は、相手に恥や羞恥心を抱かせるものであり、単純な身体的暴力よりも相手を支配/コントロールしやすいのです。それに、相手を殴ったら、加害者は自分の手も痛めますが、性暴力は痛いどころか、快感や満足感を得られます。強い立場の人が弱い立場の人を支配するのに、性暴力は、逆説的でありますが、「最も優れた手段」なのです。

――そうした中、「監護者性交等罪」が新設されたのは、非常に意味のあることだと思いました。どのような流れで生まれたものなのでしょうか。

後藤 2000年に「児童虐待防止法」ができたことにより、「親が子どもを虐待するのはいけない」ということが、初めて規範として明らかにされました。もちろん以前から、「児童福祉法」の中に「要保護児童」の項目があり、虐待された児童は保護されることになっていたのですが、「虐待」という言葉は前面に出ていなかったのです。児童虐待への問題意識が高まる中で、「性虐待は処罰の対象」と考える人も増えてきたように思います。

 しかし、児童虐待防止法は子どもを保護することに焦点を当てている「防止法」ですので、「児童虐待罪」を規定していません。また現在の刑法では、性交同意年齢が「13歳未満」とされ、つまり被害者が「13歳未満」であれば、暴行・脅迫がなく、たとえ抵抗しなくとも、加害者は罪に問われるのですが、「13歳以上」の場合、暴行・脅迫があったことや抗拒不能だったことが立証できなければ、加害者は罪に問われない。ほかの経済先進諸国に比べて性交同意年齢が「13歳未満」と低く設定されていることで、年長の児童に対する、刑法による近親姦処罰のハードルは高いままでした。もちろん、児童福祉法の「淫行をさせる罪」での処罰は可能ですが、犯罪の重さは異なります。性虐待は発覚しづらいという面を考えると、事件化するハードルはかなり高く、それを解消するためにできたのが「監護者性交等罪」。ただ、性交同意年齢が13歳未満ではなく、「16歳未満」であったら、そもそも監護者性交等罪を作る流れはなかった可能性もあると思っています。監護者性交等がいけないことであると、条文で明文化されたことは、とても大事なことだったと感じていますが、性交同意年齢の改正も引き続き必要だと思います。

――児童虐待相談件数自体はうなぎのぼりであるのに対し、性虐待の相談件数は増えていないようですが、やはり「発覚しづらい」という点があるのでしょうか。

後藤 愛知県の事件でも、被害者女性は中2の頃から性虐待を受けていましたが、その事実は19歳になるまで外に出ませんでした。彼女は「弟たちを犯罪者の息子にしたくないことから通報をためらった」と言っていましたが、性虐待を訴えることにおいて「自分の親を犯罪者にする」という心理的ハードルは高い。母親も、自分の夫が子どもに不適切な行為をすることを信じたくないと、見て見ぬふりをするケースも多いのです。ただ表に出ないからといって、性虐待は珍しいことではないのです。私が理事長を務める「特定非営利活動法人子どもセンター帆希」は、おおむね15~19歳の女子を受け入れるシェルターを運営しているのですが、そこにいる子たちは、ほとんどが性虐待を受けています。父親の子どもを妊娠し、出産しなければいけなかった中学生も、少なからずいるのです。

――1968年、栃木県で15年にわたって実の父親から強姦され続け、子どもを妊娠・出産した女性が、父親を殺害した事件を思い出します。

後藤 この父親は、娘が幼い頃は性虐待を、大人になってからは夫婦同然のように生活し、娘が結婚すると言い出したことに激高して監禁した。まさに「児童虐待+DV」のケースですね。ただこの件は、近親姦というより「尊属殺」という点で注目を集めた事件でした。一方で、実はちょうど同じ頃に、刑法を改正する動きがあり、1974年の「改正刑法草案」には、「第301条 身分、雇用、業務その他の関係に基づき自己が保護し又は監督する18歳未満の女子に対し、偽計又は威力を用いて、これを姦淫した者は、5年以下の懲役に処する」という条文がありました。「偽計や威力を用いて」とあるので、暴行脅迫要件のない「監護者性交等罪」の方が被害者保護には優れていますが、「監護者性交等罪」に通ずるものが、今から40年以上前に、一度、草案としてあがっていたのです。しかし結局、改正刑法草案を反映した法律は実現されませんでした。

――「改正刑法草案」から「監護者性交等罪」ができるまで、かなり時間がかかったのですね。

後藤 43年かかりました。1994年に子どもの権利条約が批准され、子どもの最善の利益が保障されなければらならないとされながら、性虐待への対応はまったく進んできませんでした。2019年国連子どもの権利委員会は、子どもへの暴力、性的な虐待や搾取が高い頻度で発生していることに懸念を示しています。そこでも、子ども自身が虐待被害の訴えや報告が可能な機関の創設や、加害者に対する厳格な処罰が求められているのです。「監護者性交等罪」の成立で、少しは状況が変わることを期待しています。

――愛知の事件でも、多くの人が「おかしい」と感じる無罪判決が出ました。法律が実情と追いついていないのは問題だと盛んに指摘されています。

後藤 近親姦は児童虐待であり、2000年にできた「児童虐待防止法」で、すでに「禁止された行為である」とされています。愛知県の事件では、「実の娘に性交した父親が、なぜ許されるのか」といった声が出ていましたが、現在の日本では「許されない」のです。当時彼女は19歳だったため、「児童虐待防止法」の「18歳未満の子ども」という対象から外れているものの、それでも、実の娘に性交した父親は「許されない」。裁判では、合意があったか/なかったか、抵抗できたか/できなかったかが話し合われていたものの、そもそも「許されない」のだから、本当は議論の余地すらないはずなのです。許されないのに、なぜ無罪なのか――その「捩れ」にこそ、着目してほしいと思います。

――今後、近親姦、また性犯罪をめぐって、社会がすべきことは何でしょうか。

後藤 日本の社会全体が、子どもに対する暴力を容認している、また暴力による影響を軽視していると感じます。「家」制度の影響は法律上も社会生活上もまだ亡霊のように存在していて、親は親権という権力を持ち、また民法では親の懲戒権が定められています。民法では、体罰を明文で禁止していないので、「しつけの名目であれば殴ってもいい」かのように理解する人が少なくありません。、性暴力は、「しつけ」をも超えるもので、いかなる言い訳もそもそも通用しないはずです。いまの通常国会で、この点について児童虐待防止法に、体罰の禁止を盛り込む法律案が審議されていて、もし成立すれば、一歩前進とは言えますが、性虐待に対する対応はまだまだです。

 親からの虐待に限定した児童虐待は「監護者性交等罪」である程度カバーできるので、私は「子ども性虐待罪」を作ればいいと思っています。親はもちろんですが、家庭の外にも懲戒権を持つ「先生」や「コーチ」などがいるので、そうした人も対象となる法律を作る。そして大前提として、性交同意年齢13歳未満を変えることは絶対です。「13歳未満」は変えないというのであれば、そのような性教育を行うべきなのに、現実問題、なされていないのも問題です。さらに、現在日本では、同意がなかっただけでは、罪に問われない条文になっていることもあって、これまであまり「同意とは何か」が自分の問題として考えられてこなかった。この点について、もっと議論されるべきだと思います。

後藤弘子(ごとう・ひろこ)
1958年生まれ。千葉大学大学院専門法務研究科長。専門は刑事法。著作に『ビギナーズ少年法』(守山正氏との共著、成文堂)『よくわかる少年法』(PHP出版)などがある。

Hey!Say!JUMP、アリーナツアー中止は得策? 心理学博士がジャニーズの決断を「ファン心理」から考察

 5月19日、ジャニーズ事務所が、今年のHey!Say!JUMPのアリーナツアーを中止することを発表し、ファンの間で大きな動揺が広がっている。かねてから、一部ファンの追っかけ行為が激化し、公共交通機関のマナー違反を繰り返されていることが問題視され、事務所やメンバーが直接ファンに対して注意を行っていたものの、「改善に至らなかった」という理由から、今回ついにツアーの中止が決定したという。

 ネット上には、ファンから「ツアー中止なんて悲しすぎる」「メンバーが何度も何度も注意してくれていたのに、一部の過激なファンのせいで……」など、怒りと悲しみの声が飛び交っている中、今回のジャニーズ事務所の措置には、懐疑的な意見も出ているようだ。というのも、再三注意をされているのにもかかわらず、マナー違反を続けていたファンが、「アリーナツアー中止で改心するかどうか疑わしい」と見るものが少なくない様子。果たして、この決断は正しかったのか、間違いだったのか。今回、経営コンサルタントで心理学博士の鈴木丈織(すずきじょうじ)氏に見解をお聞きした。

過激なファンにとって、アイドルは自己所有物

 まず鈴木氏は、メンバーだけでなく周囲の人々にも多大な迷惑をかける「過激なファン」の心理状態について解説をしてくれた。

「過激なファンは、常に頭の中で、自分とアイドルを『1対1』の関係であると思い描いているように思います。恋人や夫婦は、『1対1』のペアで行動をともにすることが多いですが、それと同じ発想で、自分とアイドルも一緒に行動して当然だと認識しているのです。新幹線のホームまでアイドルを追いかけていく過激なファンは、『彼が先に行ったので、置いてきぼりにならないよう、私もついていく』ぐらいの感覚なのでしょう」

 過激なファンの心理を不可解と感じる人は多いだろうが、彼女たちの中で「アイドル=自分のパートナー」であるならば、確かにその行動は「当たり前」のことなのかもしれない。

「アイドルを自己所有物であると認識し、『私の所有物なんだから、私には彼に会う権利も、追いかける権利もある』『私の所有物だから、逃げるのはおかしい』『私の所有物が、私を嫌いになるはずがない、私を愛している』といった価値観になるのです。つまり、『自分の所有物なのだから、正当性は私にある』と思い込んでしまっている状態で、いくらアイドルが『マナー違反はやめて』と注意しても、『建前上そう言っているだけ』としか受け止められないのでは」

 また、ファンが暴徒化する背景には、「集団」という要素が深く関係しているようだ。

「ファンの間でさまざまな情報が共有されることによって、個が集団となり、一つの大きな“個”と化すと、そこに一体感が生まれ、マナー違反の意識が欠如するというのもあります。もう少し噛み砕いて言うと、自分一人で抜け駆けするのではなく、大勢で追いかけることにより、その行為に違和感を覚えなくなって、暴徒化してしまう。自分が周囲にどういった危害を加え、どれほどの迷惑をかけているか、素直に見ることができなくなるんですね」

 こうした過激なファンには、きっかけさえあれば、誰しもがなり得る可能性があると、鈴木氏。アイドルは、コンサートなどで「1対多数」に向けて、目線を送ったり、手を振るのが基本だが、「ファンはよく『私を見てくれた』『私に手を振ってくれた』と言いますよね。そういった“たまたま”が連なったことがきっかけとなり、自分とアイドルを『1対1』の関係だとする“錯覚”が根付くことはあるでしょう。アイドル側も、ファンサービスとして『あなたを見ているよ』『あなたに手を振っているよ』と錯覚させることを狙っている部分はあると思いますが」と指摘する。

 応援グッズのうちわに「アイドルにしてほしいファンサービス」を書く文化は、ジャニーズファンの間で広く浸透しており、コンサートの楽しみの一つになっているが、「私にだけ特別にしてくれた」と思い込みすぎることは、過激なファンを生むきっかけになりそうだ。

 今回そんなマナー違反を繰り返す過激なファンに対し、ジャニーズ事務所が下したアリーナツアー中止という決断を、鈴木氏は「正しいと思っています」ときっぱり断言する。その理由は一体どこにあるのだろうか。

「Hey!Say!JUMPのファンは、連帯責任を負わされたことに対し、最初は、事務所に対して怒りを覚えたと思います。そもそもの原因を作ったのは過激なファンなのですが、彼女たちは特定できないので、まずは特定でき、クレームを入れやすい相手――つまり事務所を攻撃するといった心理が働くのではないでしょうか。しかし時間がたつと、自分がコンサートに行けないという損失を被った真の原因は、一部の過激なファンであると認識し、そちらに怒りの矛先が向くのです。すると、ファンたちの間に自制心が生まれるとともに、『私たちが過激なファンを制していこう』といった心理状況が生まれるようになります。つまり、ファンが過激なファンに対し、これまでの行動を見直さざるを得ないほどの“圧力”を掛け始めるのです。こうした状況は、やはり事務所が、ファン全体に平等に不利益を与えることによって生まれたので、アリーナツアー中止の決断は正しかったと感じますね」

 事務所が行ったのは、「ファン全体の空気を変えること」だと、鈴木氏は言う。しかしこの措置によって、過激なファンが少数にこそなれゼロにはならないのではないかと続ける。

「目を覚まして穏健化する過激なファンの方が多いとは思いますが、さらに過激化するファンもいるでしょう。集団になることで暴徒化が進むという話をしましたが、過激なファン仲間がいなくなっても『一人で追っかける』という人は絶対いるでしょうし、また、今後は人目につかないところで、隠れて違反行為を行うようになるかもしれません」

 鈴木氏は最後に、マナー違反をする過激なファンに対して、「これをきっかけに、自分を見つめてほしいです」と言葉をかける。

「善良なファンは、中止の発表にため息をついたと思います。この『あぁ、残念……』というため息を、過激なファンはどう感じるか。アイドルは自分の所有物ではなく、みんなのものであることを、あらためて考えてほしいですね」

岩井ジョニ男、コスプレだった“おじさん”が本当の“おじさん”になった日

 いま「おじさん」は、かつてないほど苦境に立たされている。ズレた発言、ズレたLINEは即さらされ、世間から厳しいジャッジを受ける。そんな中、インスタでの「昭和おじさん」っぷりが話題を呼び、このたびフォトブック『幻の哀愁おじさん』(文藝春秋社)を出版することになったのが、浅井企画所属・イワイガワの岩井ジョニ男だ。三つ揃えのスーツにくたびれた革のカバンを抱え、びっちり七三分けのちょびひげで東京にたたずむ。芸人界最後の秘宝、岩井ジョニ男に聞く、「愛されるおじさん」の作り方。

***

――以前、日刊サイゾーで、ずん飯尾さんのインタビューをさせていただきまして(参照記事)。

岩井ジョニ男(以下、ジョニ男) え! この前も一緒に野球見に行きましたよ。出川(哲朗)さんと3人で。おじさん3人で、はしゃいじゃいましたね。飯尾さんとは普段から仲がよくて、よく飲みに行くんです。

――同じ事務所だからでしょうか、お2人にはなんかこう近いものを感じます。

ジョニ男 そうですね。やっぱり伝統なんですかね。関根(勤)さんも小堺(一機)さんもキャイ~ンさんも、みんなそうなんですよ。

――温かい、人を傷つけない笑いというか。

ジョニ男 人を傷つけない……それはありますね。そういう人が偶然集まったのかもしれないんですけど。争いごととかが本当嫌いなんです。みんなで助け合って、結果みんなで溺れちゃうことのほうが多いんですけど。

――コントですよね(笑)。

ジョニ男 笑っちゃう。でも、「受けなかったけど全力でやったからね」っていう暗黙の了解があるんですよ。仕事終わった後のレモンサワーの味がね……違うわけですよ。

――レモンサワー?

ジョニ男 スベった時は、すごい酸っぱい。でも、そもそも何もなかった時は味がわかんないから、味がするってことはまだいいんだよ、って。

――レモンサワーの味に響いてくるわけですね、今日の仕事は。

ジョニ男 そうなんです。それはレモンサワーですね、やっぱり。あの酸っぱさを感じたいっていう。

――『幻の哀愁おじさん』拝読させていただきました。こちらもまた、甘くて酸っぱい。

ジョニ男 本当にみなさんのお力で、なんとか形にしていただけました。

――今「おじさん」というものが、非常に生きづらいと言われております。何かあると「○○おじさん」とひとくくりにされたり。おじさん独特のLINEをネットにさらされたり。

ジョニ男 そういうのあるんですか!? ドキッ。これは気をつけなきゃいけませんね。

――おじさんが嘲笑の的になりがちな世の中で、若い女性たちがジョニ男さんを「おじさん、めっちゃかわいい」と歓迎しているのです。

ジョニ男 お笑いでワーキャー言われたことは1回もないですよ。お客さんは、とにかくおじさん。家族連れには声かけられたことありますけど。たぶんそれは『ピタゴラスイッチ』(Eテレ)の影響で。ライブ出待ちのワーキャーはゼロですよ。

――ちなみに、ライブの出待ちには、どんな方がいらっしゃるんですか?

ジョニ男 悩んでる方……でしょうか。まれにですが、「いろんな宗教に行って最後警察にも相談したんだけど、解決しなかったから、ジョニ男さんにお願いします」って……。

――ど、どういうことですか?

ジョニ男 まぁ、それは手紙だったんですけど。最後終着駅がここだったのかと。

――すごい……。

ジョニ男 人の相談に乗ったこともないような人間に……。

――ジョニ男さんの中の何かを見抜いていたのでしょうか?

ジョニ男 ああでも、今までお笑いやってる時は何も言わなかった芸人が、辞める時だけ僕に相談するっていうのはある。

――やっぱり終着駅(笑)。

ジョニ男 「辞める」って言った時に、唯一優しい言葉をかけてくれそうな感じがあるのかもしれないんですよね。

――何かの答えを求めて相談するわけではなく?

ジョニ男 そうじゃないんです。「辞める」っていうのは決めてくるんです。だからこっちもなかなか……まぁ「どうして?」くらいは聞きますけど。

――本人が決めた答えを肯定する役割ですね。

ジョニ男 そう、肯定して、次の道に……旅立ちですよね。旅立ちの言葉です。最近ね、飯尾さんと一緒に行く店行く店、初めて入った店でさえも「今週いっぱいで終わります」って、そういうことが立て続けにあったんですよ。それで僕が会計の時に「旅立ちですね」って言ったのを、階段下りて外に出た瞬間に「なにが旅立ちだよ!」って飯尾さんが(笑)。でも、それぐらいしか言うことがないから。よかったですね、ってことでもないですし。

――確かに(笑)。

ジョニ男 なぜか飯尾さんと行くところばかり。それがまた「いい店見つけたね」なんて話をしてるところへ、後ろからマスターに「いや、今週で終わりなんです。店閉めるんです」って言われて。確かに、僕らしかお客さんがいないんですよ、だいたい。その状況で、かける言葉難しいじゃないですか。

――そうですね。「おいしかったです」のひとつも、なんか意味ありげになっちゃいますよね。

ジョニ男 初めて来た店で「いや、もったいない」とか言うのもねえ。「じゃあなんで、今まであなたたちは来なかったんだ」っていうふうにね、責められるから。やっぱり、旅立ちですね。その手の言葉は、結構今までも送ってきてるなとは思ってたんですよね。やっぱり辞めるのを止めたところで、なんの保証もないじゃないですか。

――「あの時止められたから、もうちょっと頑張ったけど、やっぱりダメだった」とか言われても困りますね。

ジョニ男 そうですね。助成金みたいなのをこっちが出せればいいけどね。いつ売れるかわからないし、いつ落ちるかわからないみたいな仕事なんで。なかなか引き止める勇気も……っていう。

――芸人さんは今、新しい世代も台頭してきて。お笑い第7世代と呼ばれている……。

ジョニ男 え!? もうそんなですか? 7!?

――霜降り明星とかハナコとか、20代で賞レースを制する芸人さんが出てきてます。

ジョニ男 賞レース……みんななんか戦いにきてるよなぁ。僕が子どもの頃は、お笑い芸人がそういう「戦い」をしてると思ってなかったんですよ。関根さんや小堺さんしかり、選ばれた人だけがテレビに出てるんだなっていうのが、この世界に入ってようやくわかったくらい。でも、僕は賞レースがどうも苦手で……。

――以前『『内村さまぁ~ず』の出演をかけたネタバトルの取材をしたことがあったんです。そこの控室にジョニ男さんもいらっしゃって。みなさん結構ピリピリとネタ合わせをしている中、ジョニ男さん1人、テーブルの上に散らかっているお菓子の袋とかを片付けていたんですよ。ちょっとニヤニヤ笑いながら片付けてて「あぁ、なんて肝の据わった方なんだろう」って。

ジョニ男 全然据わってないですよ!! めちゃくちゃ緊張してるんですけど、そういうふうに追い込んでいったら、なんかもっとダメになっちゃうんで。たぶん普段通りの、家でやってるような感じの方がいいんじゃないかなって思ってやってたと思います。まさか、そんなところを見られているとは(照)。

――誰かに勝とうとか、あまり思わないですか?

ジョニ男 そうなんです。なんか戦ってね……『爆笑オンエアバトル』(NHK)とか、勝っても負けてもやっぱり嫌だったなと思って。でも、それじゃダメじゃないですか。だから自分の性格をよくよく見直したけど、やっぱり「よっしゃぁ」みたいな気持ちになれないんですよね。それを最初に感じたのは高校生の時。麻雀に誘われたんです。負けたらジュースおごるとか、そんくらいのやつですけど、やっぱり友達からね、お金をとったりするっていうことがすごい嫌だなと思っちゃった。どっちにしても気分悪いなっていうのが、その後の関係性にも響くじゃないですか。それで麻雀覚えなかったんです。

――ああでも、すごくわかります。

ジョニ男 比較的、浅井企画の人はやらないんですよ。見栄晴さんぐらいじゃないですか?

――見栄晴さんは、それお仕事にされてますし(笑)。

ジョニ男 そうでした。本物のギャンブラーでした。

――浅井企画には、今回の企画趣旨である「愛されるおじさん」が、たくさんいらっしゃる感じがします。

ジョニ男 「愛されるおじさん」かぁ。あまりそういうことは考えたことないですけど。でも……自分は、人が好きなんですよ。それはもう年齢関係なく。あと、すっごい年下でも、尊敬してたらおのずと「さん付け」になってますね。流れ星も「ちゅうえいさん」って呼んでるし。

――芸人さんの世界は上下関係が厳しそうですが、ご自身の中にあんまりそういう感情はない?

ジョニ男 それ、面白くないですもんね。

――ああ。

ジョニ男 自分も面白くなくなっちゃう。後輩たちも最初は「ジョニ男さん」って言ってくれるけど、途中から「おっちゃん」「おっちゃん」って言い始めるんです。まぁ、それが一番いいなっていう。結構若い頃から「おじさん」「おじさん」って言われてたんで、最近やっとそれに年齢が追いついてきて……まぁ40~50ですけど、一応年齢は非公表なんで(笑)。最近「思ったより若いですね」みたいなことを言われるようになったのもあるし。やっと本当のおじさんになれたんだなーって。

――ちょっと樹木希林さんみたいな感じですよね。

ジョニ男 ああ……希林さん、まさに。

――若い頃から、おばあちゃん役をやっていた。

ジョニ男 『寺内貫太郎一家』とか。自分は、昔から「おじさん」的なものが好きだったんです。ゴルフとか将棋とか、まぁお酒も好きだし、今もうやめちゃったんですけどタバコも吸ってましたし。オヤジがタバコケースからタバコを取り出して、それをね、縁側でこうやって吸ってるんですよ。それを見てね、なんかずいぶんおいしそうだなぁと思って。まぁ子どもながらに好奇心でちょっとやってみたら「うぇぇマズイ」。でも、おじさんになったらきっとああいうのがわかるんだなぁって思った。そしてやっと今、そういうものが、フキの味がわかってきましたよ。

――本当に小さい頃から憧れていたんですね、おじさんに。

ジョニ男 憧れていましたね。おじさんがお笑いをやってるんだと思ってたんですよ。ドリフもそうですけど、漫才だと瀬戸てんやわんやさんとかね、団しん也さんとか、みんなスーツでやってた。いま思えば皆さん30ぐらいだったと思うんですけど、ものすごいおじさんに見えて。

――確かに昔の動画を観たりすると「え、この人まだ25?」みたいな感じ……八代亜紀さんとか。

ジョニ男 いや、八代亜紀さんは本当貫禄ありましたよね。あの歌を、あの若さで歌ってたんです。「お酒はぬるめの燗がいい」なんてわかりませんよ、20代には。

――20代なんてカルアミルクとかじゃないですか。

ジョニ男 そうです。今になってやっと夏でも燗飲むっていうね、わかってきました。冷房が強くて燗酒飲むという。

――方向によっては冷風が直撃してきますしね。

ジョニ男 そうなんですよ。まぁ、みんな貫禄あっておじさんだった……いや、おじさんに見えた。三船敏郎さんとかハンフリー・ボガートとか。あっという間に時代も変わってね。30で若いっていう、今は。

――よくうちの祖母が俳優さんを見て「苦み走ったいい男」って言ってたんですよ。全然意味がわからなかったんですけど、きっとそういう……ジョニ男さんが見て憧れていたおじさんって、そういう感じなのかなと。

ジョニ男 そうです、ビターな感じです。もうそれはね、いろんなものを経てじゃないと出てこないものなんですよね。今の女性たちは、そういうものを男性に求めなくなったのかもしれませんが。

――今の若い女の子たちは、ジョニ男さんのインスタを見て「かわいい」ってなっています。

ジョニ男 「かわいい」か……。僕、20代の頃にタモリさんに言われて強烈に覚えていることがあって。「お前、絶対にかわいこぶるなよ」って。それはたぶんタモリさんのダンディズムみたいなものだと思うんですけど、かわいこぶってるやつを異常に嫌うんですよ、タモリさんって。前にですね、ちょっと袖の長いジャケットを着た男性マネジャーがいたんですよね。ちょっと手が隠れる感じの。

――「萌え袖」っていうやつですね。

ジョニ男 萌え袖っていうんですか? そのちょっとかわいこぶってる仕草を、タモリさんが嫌がって。タモリさんと4年半一緒にいたんですけど、この人はかわいこぶることを異常に嫌うんだな、と。だから俺も気をつけようと思って。

――「かわいい」に自覚的になると、結局かわいくはならないですからね。ジョニ男さんとしては、小さい頃に憧れていたおじさんを、ずっと今までやってきただけ。

ジョニ男 もともとは、スーツに関してはデヴィッド・ボウイの影響なんですけど。学生の頃からスーツを着てましたし、ポマードつけて。いま学園モノの映画はやってますけど、あそこに私服でスーツ着てポマードつけてる学生なんています? 山崎賢人くんや竹内涼真くんは、そんなことしないじゃないですか。だから、今考えるとだいぶ気持ち悪いです。

――当時の自分を冷静に振り返ると……?

ジョニ男 気持ち悪い。ポマードをつけてサイドにメッシュを入れて、それで学ランにヨーロピアン……尖った靴を履いて、セカンドバッグで学校に行ってたんですよ。偽物のルイ・ヴィトンとかヴァレンチノとか持って。

――ちょっと目は合わせられないかも(笑)。

ジョニ男 ですよ。好きな俳優やミュージシャンの格好をひたすら真似てましたけど、でもあれって人前に出る人だから着こなせたんであって。千葉の田舎の普通のやつが、なにも成し遂げてないやつがスカーフ巻いてバルーンジャケット着てるんですよ。それで気取ってサングラスしてあぜ道を歩いてる。

――あぜ道……。

ジョニ男 トラクターの跡があるあぜ道を……。そりゃ、やっぱり周りの人は声かけられないですよ。異様ですもん。

――でもそれが、ジョニ男さんが憧れた「大人」だった。

ジョニ男 同世代の人間には憧れないじゃないですか。やっぱりちょっと上の人たちが格好いいなぁと思って、音楽でもなんでも。

――国内外のかっこいい俳優やミュージシャンに憧れてやってきたことが、今は「昭和のおじさん」イメージになってるのも、なんか不思議ですよね。

ジョニ男 確かになぁ。僕が司会者で相方がラッパーのネタがあるんですけど、「NHKの堅い司会者をイメージしてるから、なんかスーツ持ってきて」って言われて持っていったら、ああいうスーツだったわけですね。それまで私服では、一応普通のスラックスとかジーパンとかはいてたんですよ。だけど、ある時期からそういうネタをいっぱいやるようになって、お客さんから「あのスーツの衣装で今度写真撮ってください」って言われるようになったんです。「だったら毎日スーツで行きゃいいんじゃない」って。もちろんスーツは好きですから。それからは、ワイシャツを着てカフスをはめてネクタイを締めて。髪の毛も、メイクさんにやってもらったことないんですよ。ぼさぼさの頭でスーツを着て行きたくないから、家出るときにはこうなってる。

――すごい。やっぱり美学があるんですね。

ジョニ男 飯尾さんはサンダルで登場したりするんで、よく言われるんです。「ジョニ男さん、面倒臭くないの? それ」って。「いや、僕はこれが好きなんですよ」と。

――スーツはすべてリサイクル品だから、元の持ち主の名前の刺繍が入っていたり。

ジョニ男 歴史を感じるんです。いま僕が着てますよ、と。まさかちょびひげ生やしてるやつが着てるとは思わないでしょうけど(笑)。すごく気が弱いんで、その人の力も借りてなんとか、という気持ちもあるんですよ。

――そうやって、見知らぬおじさんの魂を受け継ぎながら……。

ジョニ男 いま本当のおじさんになりました(笑)。
(取材・文=西澤千央)

●『幻の哀愁おじさん』(講談社)

「インスタ映えしすぎるおじさん」として注目を集める岩井ジョニ男。
そのインスタ(ジョニスタグラム)写真を中心に編んだ、おじさん愛とノスタルジーに満ちた心癒されるフォトエッセイ

岩井ジョニ男、コスプレだった“おじさん”が本当の“おじさん”になった日

 いま「おじさん」は、かつてないほど苦境に立たされている。ズレた発言、ズレたLINEは即さらされ、世間から厳しいジャッジを受ける。そんな中、インスタでの「昭和おじさん」っぷりが話題を呼び、このたびフォトブック『幻の哀愁おじさん』(文藝春秋社)を出版することになったのが、浅井企画所属・イワイガワの岩井ジョニ男だ。三つ揃えのスーツにくたびれた革のカバンを抱え、びっちり七三分けのちょびひげで東京にたたずむ。芸人界最後の秘宝、岩井ジョニ男に聞く、「愛されるおじさん」の作り方。

***

――以前、日刊サイゾーで、ずん飯尾さんのインタビューをさせていただきまして(参照記事)。

岩井ジョニ男(以下、ジョニ男) え! この前も一緒に野球見に行きましたよ。出川(哲朗)さんと3人で。おじさん3人で、はしゃいじゃいましたね。飯尾さんとは普段から仲がよくて、よく飲みに行くんです。

――同じ事務所だからでしょうか、お2人にはなんかこう近いものを感じます。

ジョニ男 そうですね。やっぱり伝統なんですかね。関根(勤)さんも小堺(一機)さんもキャイ~ンさんも、みんなそうなんですよ。

――温かい、人を傷つけない笑いというか。

ジョニ男 人を傷つけない……それはありますね。そういう人が偶然集まったのかもしれないんですけど。争いごととかが本当嫌いなんです。みんなで助け合って、結果みんなで溺れちゃうことのほうが多いんですけど。

――コントですよね(笑)。

ジョニ男 笑っちゃう。でも、「受けなかったけど全力でやったからね」っていう暗黙の了解があるんですよ。仕事終わった後のレモンサワーの味がね……違うわけですよ。

――レモンサワー?

ジョニ男 スベった時は、すごい酸っぱい。でも、そもそも何もなかった時は味がわかんないから、味がするってことはまだいいんだよ、って。

――レモンサワーの味に響いてくるわけですね、今日の仕事は。

ジョニ男 そうなんです。それはレモンサワーですね、やっぱり。あの酸っぱさを感じたいっていう。

――『幻の哀愁おじさん』拝読させていただきました。こちらもまた、甘くて酸っぱい。

ジョニ男 本当にみなさんのお力で、なんとか形にしていただけました。

――今「おじさん」というものが、非常に生きづらいと言われております。何かあると「○○おじさん」とひとくくりにされたり。おじさん独特のLINEをネットにさらされたり。

ジョニ男 そういうのあるんですか!? ドキッ。これは気をつけなきゃいけませんね。

――おじさんが嘲笑の的になりがちな世の中で、若い女性たちがジョニ男さんを「おじさん、めっちゃかわいい」と歓迎しているのです。

ジョニ男 お笑いでワーキャー言われたことは1回もないですよ。お客さんは、とにかくおじさん。家族連れには声かけられたことありますけど。たぶんそれは『ピタゴラスイッチ』(Eテレ)の影響で。ライブ出待ちのワーキャーはゼロですよ。

――ちなみに、ライブの出待ちには、どんな方がいらっしゃるんですか?

ジョニ男 悩んでる方……でしょうか。まれにですが、「いろんな宗教に行って最後警察にも相談したんだけど、解決しなかったから、ジョニ男さんにお願いします」って……。

――ど、どういうことですか?

ジョニ男 まぁ、それは手紙だったんですけど。最後終着駅がここだったのかと。

――すごい……。

ジョニ男 人の相談に乗ったこともないような人間に……。

――ジョニ男さんの中の何かを見抜いていたのでしょうか?

ジョニ男 ああでも、今までお笑いやってる時は何も言わなかった芸人が、辞める時だけ僕に相談するっていうのはある。

――やっぱり終着駅(笑)。

ジョニ男 「辞める」って言った時に、唯一優しい言葉をかけてくれそうな感じがあるのかもしれないんですよね。

――何かの答えを求めて相談するわけではなく?

ジョニ男 そうじゃないんです。「辞める」っていうのは決めてくるんです。だからこっちもなかなか……まぁ「どうして?」くらいは聞きますけど。

――本人が決めた答えを肯定する役割ですね。

ジョニ男 そう、肯定して、次の道に……旅立ちですよね。旅立ちの言葉です。最近ね、飯尾さんと一緒に行く店行く店、初めて入った店でさえも「今週いっぱいで終わります」って、そういうことが立て続けにあったんですよ。それで僕が会計の時に「旅立ちですね」って言ったのを、階段下りて外に出た瞬間に「なにが旅立ちだよ!」って飯尾さんが(笑)。でも、それぐらいしか言うことがないから。よかったですね、ってことでもないですし。

――確かに(笑)。

ジョニ男 なぜか飯尾さんと行くところばかり。それがまた「いい店見つけたね」なんて話をしてるところへ、後ろからマスターに「いや、今週で終わりなんです。店閉めるんです」って言われて。確かに、僕らしかお客さんがいないんですよ、だいたい。その状況で、かける言葉難しいじゃないですか。

――そうですね。「おいしかったです」のひとつも、なんか意味ありげになっちゃいますよね。

ジョニ男 初めて来た店で「いや、もったいない」とか言うのもねえ。「じゃあなんで、今まであなたたちは来なかったんだ」っていうふうにね、責められるから。やっぱり、旅立ちですね。その手の言葉は、結構今までも送ってきてるなとは思ってたんですよね。やっぱり辞めるのを止めたところで、なんの保証もないじゃないですか。

――「あの時止められたから、もうちょっと頑張ったけど、やっぱりダメだった」とか言われても困りますね。

ジョニ男 そうですね。助成金みたいなのをこっちが出せればいいけどね。いつ売れるかわからないし、いつ落ちるかわからないみたいな仕事なんで。なかなか引き止める勇気も……っていう。

――芸人さんは今、新しい世代も台頭してきて。お笑い第7世代と呼ばれている……。

ジョニ男 え!? もうそんなですか? 7!?

――霜降り明星とかハナコとか、20代で賞レースを制する芸人さんが出てきてます。

ジョニ男 賞レース……みんななんか戦いにきてるよなぁ。僕が子どもの頃は、お笑い芸人がそういう「戦い」をしてると思ってなかったんですよ。関根さんや小堺さんしかり、選ばれた人だけがテレビに出てるんだなっていうのが、この世界に入ってようやくわかったくらい。でも、僕は賞レースがどうも苦手で……。

――以前『『内村さまぁ~ず』の出演をかけたネタバトルの取材をしたことがあったんです。そこの控室にジョニ男さんもいらっしゃって。みなさん結構ピリピリとネタ合わせをしている中、ジョニ男さん1人、テーブルの上に散らかっているお菓子の袋とかを片付けていたんですよ。ちょっとニヤニヤ笑いながら片付けてて「あぁ、なんて肝の据わった方なんだろう」って。

ジョニ男 全然据わってないですよ!! めちゃくちゃ緊張してるんですけど、そういうふうに追い込んでいったら、なんかもっとダメになっちゃうんで。たぶん普段通りの、家でやってるような感じの方がいいんじゃないかなって思ってやってたと思います。まさか、そんなところを見られているとは(照)。

――誰かに勝とうとか、あまり思わないですか?

ジョニ男 そうなんです。なんか戦ってね……『爆笑オンエアバトル』(NHK)とか、勝っても負けてもやっぱり嫌だったなと思って。でも、それじゃダメじゃないですか。だから自分の性格をよくよく見直したけど、やっぱり「よっしゃぁ」みたいな気持ちになれないんですよね。それを最初に感じたのは高校生の時。麻雀に誘われたんです。負けたらジュースおごるとか、そんくらいのやつですけど、やっぱり友達からね、お金をとったりするっていうことがすごい嫌だなと思っちゃった。どっちにしても気分悪いなっていうのが、その後の関係性にも響くじゃないですか。それで麻雀覚えなかったんです。

――ああでも、すごくわかります。

ジョニ男 比較的、浅井企画の人はやらないんですよ。見栄晴さんぐらいじゃないですか?

――見栄晴さんは、それお仕事にされてますし(笑)。

ジョニ男 そうでした。本物のギャンブラーでした。

――浅井企画には、今回の企画趣旨である「愛されるおじさん」が、たくさんいらっしゃる感じがします。

ジョニ男 「愛されるおじさん」かぁ。あまりそういうことは考えたことないですけど。でも……自分は、人が好きなんですよ。それはもう年齢関係なく。あと、すっごい年下でも、尊敬してたらおのずと「さん付け」になってますね。流れ星も「ちゅうえいさん」って呼んでるし。

――芸人さんの世界は上下関係が厳しそうですが、ご自身の中にあんまりそういう感情はない?

ジョニ男 それ、面白くないですもんね。

――ああ。

ジョニ男 自分も面白くなくなっちゃう。後輩たちも最初は「ジョニ男さん」って言ってくれるけど、途中から「おっちゃん」「おっちゃん」って言い始めるんです。まぁ、それが一番いいなっていう。結構若い頃から「おじさん」「おじさん」って言われてたんで、最近やっとそれに年齢が追いついてきて……まぁ40~50ですけど、一応年齢は非公表なんで(笑)。最近「思ったより若いですね」みたいなことを言われるようになったのもあるし。やっと本当のおじさんになれたんだなーって。

――ちょっと樹木希林さんみたいな感じですよね。

ジョニ男 ああ……希林さん、まさに。

――若い頃から、おばあちゃん役をやっていた。

ジョニ男 『寺内貫太郎一家』とか。自分は、昔から「おじさん」的なものが好きだったんです。ゴルフとか将棋とか、まぁお酒も好きだし、今もうやめちゃったんですけどタバコも吸ってましたし。オヤジがタバコケースからタバコを取り出して、それをね、縁側でこうやって吸ってるんですよ。それを見てね、なんかずいぶんおいしそうだなぁと思って。まぁ子どもながらに好奇心でちょっとやってみたら「うぇぇマズイ」。でも、おじさんになったらきっとああいうのがわかるんだなぁって思った。そしてやっと今、そういうものが、フキの味がわかってきましたよ。

――本当に小さい頃から憧れていたんですね、おじさんに。

ジョニ男 憧れていましたね。おじさんがお笑いをやってるんだと思ってたんですよ。ドリフもそうですけど、漫才だと瀬戸てんやわんやさんとかね、団しん也さんとか、みんなスーツでやってた。いま思えば皆さん30ぐらいだったと思うんですけど、ものすごいおじさんに見えて。

――確かに昔の動画を観たりすると「え、この人まだ25?」みたいな感じ……八代亜紀さんとか。

ジョニ男 いや、八代亜紀さんは本当貫禄ありましたよね。あの歌を、あの若さで歌ってたんです。「お酒はぬるめの燗がいい」なんてわかりませんよ、20代には。

――20代なんてカルアミルクとかじゃないですか。

ジョニ男 そうです。今になってやっと夏でも燗飲むっていうね、わかってきました。冷房が強くて燗酒飲むという。

――方向によっては冷風が直撃してきますしね。

ジョニ男 そうなんですよ。まぁ、みんな貫禄あっておじさんだった……いや、おじさんに見えた。三船敏郎さんとかハンフリー・ボガートとか。あっという間に時代も変わってね。30で若いっていう、今は。

――よくうちの祖母が俳優さんを見て「苦み走ったいい男」って言ってたんですよ。全然意味がわからなかったんですけど、きっとそういう……ジョニ男さんが見て憧れていたおじさんって、そういう感じなのかなと。

ジョニ男 そうです、ビターな感じです。もうそれはね、いろんなものを経てじゃないと出てこないものなんですよね。今の女性たちは、そういうものを男性に求めなくなったのかもしれませんが。

――今の若い女の子たちは、ジョニ男さんのインスタを見て「かわいい」ってなっています。

ジョニ男 「かわいい」か……。僕、20代の頃にタモリさんに言われて強烈に覚えていることがあって。「お前、絶対にかわいこぶるなよ」って。それはたぶんタモリさんのダンディズムみたいなものだと思うんですけど、かわいこぶってるやつを異常に嫌うんですよ、タモリさんって。前にですね、ちょっと袖の長いジャケットを着た男性マネジャーがいたんですよね。ちょっと手が隠れる感じの。

――「萌え袖」っていうやつですね。

ジョニ男 萌え袖っていうんですか? そのちょっとかわいこぶってる仕草を、タモリさんが嫌がって。タモリさんと4年半一緒にいたんですけど、この人はかわいこぶることを異常に嫌うんだな、と。だから俺も気をつけようと思って。

――「かわいい」に自覚的になると、結局かわいくはならないですからね。ジョニ男さんとしては、小さい頃に憧れていたおじさんを、ずっと今までやってきただけ。

ジョニ男 もともとは、スーツに関してはデヴィッド・ボウイの影響なんですけど。学生の頃からスーツを着てましたし、ポマードつけて。いま学園モノの映画はやってますけど、あそこに私服でスーツ着てポマードつけてる学生なんています? 山崎賢人くんや竹内涼真くんは、そんなことしないじゃないですか。だから、今考えるとだいぶ気持ち悪いです。

――当時の自分を冷静に振り返ると……?

ジョニ男 気持ち悪い。ポマードをつけてサイドにメッシュを入れて、それで学ランにヨーロピアン……尖った靴を履いて、セカンドバッグで学校に行ってたんですよ。偽物のルイ・ヴィトンとかヴァレンチノとか持って。

――ちょっと目は合わせられないかも(笑)。

ジョニ男 ですよ。好きな俳優やミュージシャンの格好をひたすら真似てましたけど、でもあれって人前に出る人だから着こなせたんであって。千葉の田舎の普通のやつが、なにも成し遂げてないやつがスカーフ巻いてバルーンジャケット着てるんですよ。それで気取ってサングラスしてあぜ道を歩いてる。

――あぜ道……。

ジョニ男 トラクターの跡があるあぜ道を……。そりゃ、やっぱり周りの人は声かけられないですよ。異様ですもん。

――でもそれが、ジョニ男さんが憧れた「大人」だった。

ジョニ男 同世代の人間には憧れないじゃないですか。やっぱりちょっと上の人たちが格好いいなぁと思って、音楽でもなんでも。

――国内外のかっこいい俳優やミュージシャンに憧れてやってきたことが、今は「昭和のおじさん」イメージになってるのも、なんか不思議ですよね。

ジョニ男 確かになぁ。僕が司会者で相方がラッパーのネタがあるんですけど、「NHKの堅い司会者をイメージしてるから、なんかスーツ持ってきて」って言われて持っていったら、ああいうスーツだったわけですね。それまで私服では、一応普通のスラックスとかジーパンとかはいてたんですよ。だけど、ある時期からそういうネタをいっぱいやるようになって、お客さんから「あのスーツの衣装で今度写真撮ってください」って言われるようになったんです。「だったら毎日スーツで行きゃいいんじゃない」って。もちろんスーツは好きですから。それからは、ワイシャツを着てカフスをはめてネクタイを締めて。髪の毛も、メイクさんにやってもらったことないんですよ。ぼさぼさの頭でスーツを着て行きたくないから、家出るときにはこうなってる。

――すごい。やっぱり美学があるんですね。

ジョニ男 飯尾さんはサンダルで登場したりするんで、よく言われるんです。「ジョニ男さん、面倒臭くないの? それ」って。「いや、僕はこれが好きなんですよ」と。

――スーツはすべてリサイクル品だから、元の持ち主の名前の刺繍が入っていたり。

ジョニ男 歴史を感じるんです。いま僕が着てますよ、と。まさかちょびひげ生やしてるやつが着てるとは思わないでしょうけど(笑)。すごく気が弱いんで、その人の力も借りてなんとか、という気持ちもあるんですよ。

――そうやって、見知らぬおじさんの魂を受け継ぎながら……。

ジョニ男 いま本当のおじさんになりました(笑)。
(取材・文=西澤千央)

●『幻の哀愁おじさん』(講談社)

「インスタ映えしすぎるおじさん」として注目を集める岩井ジョニ男。
そのインスタ(ジョニスタグラム)写真を中心に編んだ、おじさん愛とノスタルジーに満ちた心癒されるフォトエッセイ

楳図かずお×クローネンバーグ×探偵ナイト!! かつてない衝撃作『バイオレンス・ボイジャー』

 デジタル化の進む現代社会において、アナログ感たっぷりな新しい恐怖の扉が開いた。京都出身・宇治茶監督が3年半の歳月を費やして完成させたゲキメーション『バイオレンス・ボイジャー』は、観客にどこか懐かしく、そしてとんでもない恐怖のズンドコを体験させてくれる怪作だ。ざっくり説明するならば、楳図かずお先生が描くような恐怖漫画の世界に、SF映画『ザ・フライ』(86)などで知られるデヴィッド・クローネンバーグ監督っぽい気持ち悪さを加え、さらに関西の人気番組『探偵!ナイトスクープ』(朝日放送)の笑いと感動をミックスさせた闇鍋風味の映像作品なのである。いや、まるで分かんないよ、という人はもう観るしかない。

 物語はこんな感じ。日本の山村に暮らす米国人の少年・ボビー(声:悠木碧)は親友のあっくん(声:高橋茂雄)と山を越えて、隣村にいる友達に逢いに行こうとする。その途中で見つけたのが、「バイオレンス・ボイジャー」と名付けられた寂れた娯楽施設。この施設を運営するおっさん・古池(声:田口トモロヲ)の好意で無料入場したボビーらだったが、そこは子どもたちを生け捕りにするための狩猟場だった。古池に捕まった子どもたちは次々と改造手術を受け、グロテスクなクリーチャーへと姿を変えるはめに。ボビーたちは施設内で倒れていた少女・時子(声:前田好美)を助けながら、懸命の脱出を図る―。京都から上京した宇治茶監督にゲキメーションの世界について語ってもらった。

***

――「とんでもないものを観てしまった!」というのが『バイオレンス・ボジャー』を見終わっての感想です。楳図かずおワールドに、『悪魔のいけにえ』(74)などの米国のホラー映画を掛け合わせたような内容ですね

宇治茶 そういっていただけると、うれしいです。スルーされるのが、いちばん哀しいので。「なんじゃこりゃ」的に楽しんでもらえればと思っています。大好きな楳図かずおさんの世界に、いろんなホラー映画の要素など、自分の好きなものを次々に押し込んだ作品なんです。他にも諸星大二郎さんの漫画や松本人志さんの笑いなどからも大きな影響を受けています。

――楳図かずお原作のアニメ『妖怪伝 猫目小僧』(1976年/東京12チャンネル)は「ゲキメーション」と称した切り絵風の映像作品でしたが、その系譜を受け継ぐものでしょうか?

宇治茶 はい。『妖怪伝 猫目小僧』はリアルタイムでは観ていませんが、ネットで見つけて、ゲキメーションという手法を知ったんです。大学の卒業制作を何にしようか考えているときに、『墓場鬼太郎』(2008年/フジテレビ系)のオープニング曲にもなっていた電気グルーヴの「モノノケダンス」のプロモーションビデオも観ました。これも妖怪たちが紙人形化されていて動くゲキメーションの手法でした。それがあって、大学の卒業制作でゲキメーション手法の作品をつくり、前作『燃える仏像人間』(13)で商業監督デビューすることになったんです。なので、この世界で商業作品として存在するゲキメーションは、『猫目小僧』と「モノノケダンス」、僕がつくった『燃える仏像人間』『バイオレンス・ボイジャー』の4作品しかありません。

――普通のアニメーションをつくろうとは思わなかった?

宇治茶 普通のアニメーションはつくるのが大変そうだなぁと(笑)。以前から僕は絵を描くのが好きで、アクリル絵の具で描いていたんです。このタッチを活かすには、ゲキメーションがいちばんよかった。映画もつくりたかったし、自分の描いた絵もそのまま活かせる。僕の求めていた手法がゲキメーションだったんです。

――『バイオレンス・ボイジャー』は恐怖だけでなく、油断していると笑いもふいに襲ってきますね。

宇治茶 笑いも好きなんです。松本人志さんの笑いが大好きで、『バイオレンス・ボイジャー』はほぼ一人で原画を描いたんですが、作業中はずっと松本さんのラジオを聴いていました。楳図かずおさんの恐怖漫画も、怖いシーンの連続の中にふと「なにこれ?」と吹き出したくなるような笑いが混ざっていますよね。狙いすぎると寒い感じになってしまうので、自然と面白さが出てくるようにしました。『探偵!ナイトスクープ』からも影響を受けています。桂小枝さんが寂れた遊園地をレポートする「パラダイス」が好きなんです。「パラダイス」はおかしなおっさんが経営者として現われることが多いんですが、そんな「パラダイス」でもし殺戮が行われていたら……という妄想を膨らませたのが『バイオレンス・ボイジャー』なんです。

――子どもたちに確実にトラウマを植え付ける『バイオレンス・ボイジャー』ですが、宇治茶監督自身の恐怖体験を教えてください。小学生の頃、好きだった女の子に遠足中のバスでゲロを浴びせられた……みたいな恐ろしい目には遭っていませんか?

宇治茶 いや、そんな体験はしていません(笑)。実生活ではあんまり恐ろしい目には遭ってないかもしれません。やっぱり、テレビや映画から受けた恐怖が今でも残っていますね。小学校へ上がる前にテレビで、特撮映画『シンドバッド 虎の目大冒険』(77)を観たんですが、特撮監督レイ・ハリーハウゼンの手掛けるストップモーションアニメがすごく不気味で印象に残っています。デヴィッド・クローネンバーグ監督の『ザ・フライ』(86)やポール・バーホーベン監督の『ロボコップ』(87)も小学生のときにテレビ放映で観て、すごくショックを受けました。

――人間がハエと融合したり、殉職した警官が勝手にサイボーグ化されてしまう。宇治茶監督の作品と通じるものがありますね

宇治茶 一度改造されたら、もとの姿には戻れないという不可逆な怖さがありますよね。『仮面ライダー』(毎日放送)も改造人間ですが、変身した後に人間の姿に戻ることができるので、あんまり怖くないんです。クローネンバーグ監督がインタビューで面白いことを話していました。「主人公は別の存在に変わってしまうが、本人視点にしてみれば新しい次元に移ることができたわけで、それほどの悲劇ではない」みたいなことを語っていたんです。よく分からないけど、面白いなぁと。『バイオレンス・ボイジャー』のラストシーンは、クローネンバーグ監督のその言葉に感化されたものになっています。クローネンバーグの難しい言葉が、自分で作品にしてみたことでようやく理解できたような気がしています。

――あぁ、宇治茶監督自身も別の次元に移っちゃったんですね。この気持ち悪〜い感じは、デヴィッド・リンチ監督の作品も彷彿させますが……。

宇治茶 リンチ監督のデビュー作『イレイザーヘッド』(77)は好きなんですが、その後の作品はクローネンバーグほどは好きじゃないんですよね。どうしてかは自分でも分からないんですが。

――あまりオシャレすぎるとダメなんでしょうか?

宇治茶 そうなのかもしれません。アートっぽいところが鼻につくのかもしれませんね(笑)。

――原画3,000枚をほぼひとりで黙々と描いたそうですが、ご家族から心配されませんか?

宇治茶 はっきりと口にはしませんが、心配されていると思います。『燃える仏像人間』は、家族に「これ、面白いの?」と言われました(苦笑)。今回、よしもとの芸人さんたちに声優のオファーをしたところ、理想のキャスティングができました。テレビで活躍している人気芸人さんたちに出てもらえて、よかったです。家族には「すごいやろ?」と自慢しています(笑)。

――ナレーションは、なんと松本人志!

宇治茶 はい。前作『燃える仏像人間』を松本さんに観ていただき、「面白かった。手伝えることあったら言ってな」という言葉をいただいていたので、ダメもとでオファーしたらOKいただいたんです。松本さんのオリジナルビデオ『ヴィジュアルバム』(98〜99年)も大好きです。コメディコメディしていないというか、不条理な世界に真剣に生きているというか。でも、それでいて、どっか笑えてくるんですよね。今回のナレーション録りのときは、緊張しすぎて1回収録し終わった直後に、「はい、OKです」と言ってしまったんです。でも、松本さんが「いや、もう1回とっとこうか」と言ってくださって、合計3回録りました。最後の3回目が素晴しかったので、本編ではそれを使っています。松本さんの厚意は本当にうれしかったし、それを無駄にしないようにしたいです。

――ゲキメーションという手法ですが、原画のテイストを最大限に活かすこの手法は、まだまだ可能性があるように思います。映像化が不可能とされている楳図かずお先生の代表作『14歳』なども、ゲキメーションなら可能ですよね。

宇治茶 そうですね、確かに! 楳図さんの『14歳』は、僕のこれまでの人生の中で最大に好きな漫画です。もし可能ならやってみたいし、僕自身が映像化された『14歳』をぜひ観てみたいです。恐れ多いんですが、『14歳』のパイロット版を一度つくってみましょうか。ゲキメーションに関しては、僕以外にも作り手が現われれば、さらに面白くなってくると思うんです。基本、オリジナルストーリーのものを僕はつくっていくつもりですが、チャンスがあれば僕が好きな漫画家さんの原作ものにも挑戦してみたいです。『バイオレンス・ボイジャー』はPG12ですが、大人が同伴すれば小っちゃい子でも観ることができます。先行上映された「沖縄国際映画祭」では子どもたちが怖がって、次々と退席していきました。多くの人のトラウマになれればいいなと思っています。きっと、10年後とかに「昔観た不気味な映画なんだっけなぁ。あっ、これや!」と懐かしく楽しめると思います(笑)。

(取材・文=長野辰次)

『バイオレンス・ボイジャー』

監督・脚本・編集・キャラクターデザイン・撮影/宇治茶

声の出演/悠木碧、田中直樹(ココリコ)、藤田咲、高橋茂雄(サバンナ)、小野大輔、田口トモロヲ、松本人志

配給/よしもとクリエイティブ・エージェンシー PG12

5月24日(金)よりシネ・リーブル池袋ほか全国順次ロードショー

(c)吉本興業

http://violencevoyager.com/

●宇治茶(うじちゃ)

1986年京都府宇治市出身。京都嵯峨芸術大学観光デザイン学科卒業。大学の卒業制作でゲキメーション『RETNEPRAC2』(09)を制作。ゲキメーション第2弾『宇宙妖怪戦争』(10)を経て、安斎レオプロデュースによる長編『燃える仏像人間』(13)で商業監督デビュー。文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞を受賞。『燃える仏像人間』は冒頭と最後に実写パートがあるため、純度100%の長編ゲキメーションは『バイオレンス・ボジャー』が初となる。楳図かずおと諸星大二郎の漫画が大好き。