「30歳までにドデカいことをやってやるんやッ」宇崎竜童は実在の銀行襲撃犯に感情移入していた!?

 チロル帽を被った男が猟銃を手に大阪・三菱銀行北畠支店を襲撃し、行員らを人質に立て篭った事件は、大々的にテレビ中継され、日本中を震撼させた。1979年1月26日から3日間にわたって続いたこの「三菱銀行人質事件」を題材にした映画が、高橋伴明監督の『TATOO〈刺青〉あり』(82)だ。人気バンド「ダウン・タウン・ブキウギ・バンド」のリーダーだった宇崎竜童が犯人役を演じたことでも大いに話題を呼んだ。現在もミュージシャン、作曲家、俳優として多彩な才能を発揮する宇崎が、俳優としての代表作である『TATOOあり』、そして同じく実在の事件を題材にした初主演映画『曽根崎心中』(79)など過去の話題作&問題作について語った。

――三菱銀行を襲撃した梅川昭美は行員2名、警官2名を殺害した凶悪犯です。どういう経緯で、梅川をモデルにした映画に主演することになったんでしょうか。

宇崎竜童(以後、宇崎) 高橋伴明監督から、「ちょっと話がある」と呼び出されたんです。伴明さんとは多少面識がありました。当時は夜になると新宿にゴジ(長谷川和彦、『太陽を盗んだ男』の監督)ら映画監督や俳優たちが集まって酒を呑んでいたんです。僕はあまり酒は呑まないんだけど、面白いヤツらが夜な夜な集まって、仲良くなったり、ケンカしたりしてたんですよ(笑)。それでね、伴明さんが1枚の写真を取り出して、僕に見せたんです。それが当時1枚だけあった梅川の写真でした。伴明さんは「似てるだろ?」と言うわけです。僕はそのとき「そうかなぁ」としか思わなかったんだけど、「これ、映画にするから。(梅川役を)やってよ」と頼まれたんです。それがこの映画のスタートでした。

――実在した凶悪犯役を演じるのは容易ではなかった?

宇崎 大変でした。当然、梅川がどんな人間だったか知りようもありません。どうすれば主人公になれるのか悩みましたが、「監督の言う通りにやればいいんだ。監督の望むような男になればいいんだ」と思い、自分で独自に役づくりすることはやめ、台詞だけきちんと覚えて現場に入ったんです。関西弁の台詞は譜面にして覚えました。

――台詞を譜面にするとは?

宇崎 主人公はリアルな関西弁を使うので、台詞のイントネーションの上げ下げを波形にして、平坦なところは真っすぐに書いて、それで台詞を覚えたんです。大阪弁ってメロディーがあるからね。他の人が作ったメロディーを、自分で譜面に書き移すような感じで覚えていったんです(笑)。

グロテスクショーではない伴明流美学

――『TATOOあり』で強烈な印象が残っているのは、主人公・明夫が「男は30歳までにデカいことをやらなくちゃいけない」と思い込んでいること。“早く大きなことを”という野心と焦燥感は、多くの若者が感じていたことじゃないでしょうか。

宇崎 平成生まれの人はどうか分かりませんが、確かに昭和生まれにはそういう意識を持った人が多かったように思います。僕の場合、「ダウン・タウン・ブキウギ・バンド」を26歳のときに結成しました。初めて逢うミュージシャンたちに声を掛けて回ったんですが、そのときの殺し文句が「レコードデビューできる」「有名になれる」でした。俺のバンドに入れば、レコードデビューできるし、有名になれるぞと(笑)。当時の僕の周りには、善かれ悪しかれ「のし上がってやる」という意識の奴らばかりだった。もちろん、のし上がれないままの奴もいれば、一度はのし上がってもすぐに堕ちていく奴もいた。当時の一人の人間の中にも、そんなテンションの激しい上り下がりがあったように思います。そんなふうに考えることで、事件を起こした犯人・梅川の心情を少しだけ理解できたのかもしれません。梅川が銀行内で人質に対してやったことは理解しようとしても到底理解できませんが、野心を持った昭和の男が多かったことは確かでしょう。

――主人公の明夫は「30歳までにデカいことをやる」と一種の強迫観念に囚われている。マーティン・スコセッシ監督の『タクシードライバー』(76)の主人公トラヴィス(ロバート・デニーロ)と通じるものを感じさせます。トラヴィスは運良く正義のヒーローになるが、明夫はダークサイドへと堕ちていく。

宇崎 あぁ、そうかもしれません。伴明さんからは撮影前に『破滅 梅川昭美の三十年』(毎日新聞社)という分厚いノンフィクション本を渡されていたけど、それを読んでも梅川はどんな人間だったのか、なんで銀行を襲撃したのかは結局分かりませんでしたね。伴明さんも最初から主人公が銀行を襲撃するまでを描き、立て篭りシーンを撮る考えは持っていなかったんです。犯行そのものを撮ってしまうと、ただのグロテスクショーになってしまいますから。そこが伴明流の美学でしょう。

――共演は旧姓・関根恵子、現・高橋惠子さん。『TATOOあり』を若い頃に観ると、「すごい美女と付き合うと、男は大変な目に遭う」という女性恐怖症に陥りそうです。

宇崎 劇中にも台詞がありますよね(笑)。「あの女は男をダメにする女や」と。艶女(いろおんな)ということなんでしょう。艶女って言葉はないけど(笑)。男の心をすっと引き寄せてしまう魔力が、あのときの関根さんの演技にもありました。それに関根さん、撮影現場でキャストやスタッフにお茶を淹れて、お盆に載せて「はい」って渡してくれるんですよ。それって主演女優のやることじゃないでしょう。「もしかしたら、自分に気があるのかな」とみんな思っていたはずです。僕もその一人です(笑)。僕の場合は役柄でも惚れ込むわけですから「関根さんって、いい役者だし、いい女だなぁ」って。それがね、劇中の2人が訣別するシーンで「私はほんまもんの男が好きや」と関根さんは言って、ペッと唾を吐くんです。その瞬間、「えっ、噓! 今までの俺への好意は何だったの?」と(苦笑)。すごいな、この女性は。これが女優なんだなと思わずにはいられませんでしたね。

――豪雨の中での訣別シーン。関根さんに本当に振られたようなショックを受けたんですね。

宇崎 持ち上げられて、ズドーンと突き落とされた気分ですよ(笑)。関根さん、この映画の後に伴明さんと結婚して、高橋惠子になるんです。思わず「噓ッ〜!!」と叫びそうになりました。撮影中は伴明さんも関根さんも、まったくそんな雰囲気じゃなかった。僕が関根さんを蹴ったり殴ったりするシーンで伴明さんは「手加減しろよ」みたいなことは言わなかったし、関根さんも撮り終わった後、僕が「すみません」と謝っても「あっ、大丈夫、大丈夫」としか言いませんでした。今だったらパワハラ問題とかになるくらい激しい現場でした。関根さんもすごい女優だし、伴明さんもピンク映画はずいぶん撮っていたけど、一般映画はこれが初めてだったんで熱の入れ方がハンパじゃなかった。

――高橋伴明監督自身が『TATOOあり』で「男になってやる」という熱い想いがあったんですね。

宇崎 それは確実にあったでしょう。伴明さん、スタッフに「ぶっ殺すぞ!」とかすごいこと言っていましたしね。助監督たちはその後、次々と売れっ子監督になっていきましたし、プロデューサーは井筒和幸監督だったんです。あの井筒監督が1円も間違えないよう勘定していましたからね。

スクリーンに映った自分にショックを受けた

――宇崎さんの俳優デビュー作は、『トラック野郎』(75)のシリーズ第1作。当時大人気だった「ダウン・タウン・ブキウギ・バンド」として出演したんですね。

宇崎 そうです。最初は菅原文太さんと深作欣二監督が「銀行強盗の映画を撮るんで、出演してほしい」と僕が赤坂でやっていたバーを訪ねてきたのが始まりでした。文太さんと一緒に銀行襲撃する犯人役に僕を考えていたそうです。それがしばらくして、文太さん一人で現われて、銀行襲撃の映画の代わりに愛川欽也さんが東映に企画提案した『トラック野郎』を撮ることになったので、そっちに出てくれないかと。それからずいぶんたって、東映から台本も渡されず、役名も教えてもらえずに撮影現場に呼び出されたわけです。ロケ場所がガソリンスタンドだったので、嫌な予感がしていたら、ステージ衣装として使っていたツナギのまま出てほしいと(苦笑)。そのときの台詞は「はい、いらっしゃい」「いい女(スケ)、乗せてますね。桃次郎さん」のふた言だけでした。映画に出た気はまったくしませんでした。その後に出演した『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』(75)も同じようにバンドでの出演でした。ちゃんと役に向き合うようになったのは『曽根崎心中』からです。

――『曽根崎心中』も、江戸時代に実際にあった心中事件を題材にしたものですね。宇崎さんがサングラスを外すとこんな顔なんだなという新鮮な驚きがありました。

宇崎 僕も悩みました(苦笑)。サングラスを掛けていることで、辛うじてキャラクターを成り立たせていた僕が、素顔で映画に出て大丈夫だろうかとずいぶん考えました。映画が完成した後もなかなか上映が決まらなかったんです。『曽根崎心中』の前に公開していた永島敏行さんが主演した同じATG映画『サード』(78)がロングランヒットしていて、それで公開日が決まらずにいたんです。気になって僕も映画館へ観に行きました。ところが『サード』の上映が始まる前に、『曽根崎心中』の予告編が流れ、カツラを被った僕の顔が大写しになって「宇崎竜童」と名前が出た瞬間に、客席でクスクス笑いが起きたんです。ショックのあまり、『サード』を観ないまま後ろの扉から出て行きました(笑)。

――当時は不良イメージの強かった宇崎さんですが、繊細な心の持ち主だったんですね。でも、『曽根崎心中』は物語が進むにつれ、徳兵衛(宇崎竜童)とお初(梶芽衣子)の危険な道行きに引き込まれていきます。

宇崎 それはやっぱり増村保造監督の演出力でしょうね。増村リアリズムというのかな、登場する人物はみんな口角泡を飛ばすようなエネルギッシュさが溢れています。僕以外の役者のみなさんの力と増村監督の演出やスタッフのお陰だと思います。僕自身は完成した映画を観て、役者として自分はダメだなと感じたんです。やっぱり『曽根崎心中』は美男美女の物語なんです。でも、不思議なことにその後、文楽と僕らの音楽がジョイントする「ロック曽根崎心中」をやることになり、近年は僕のパートナーである阿木燿子と一緒に「フラメンコ曽根崎心中」をやっています。いつの間にか『曽根崎心中』が僕のライフワークになっていったんです。僕と阿木にとって、とても大事な作品です。増村監督から受けた演出が僕らの背中を押しているのか、近松門左衛門のエネルギーが働いているのかは分かりませんが、何かにずっと突き動かされて『曽根崎心中』を続けているような気がしています。

――『曽根崎心中』『TATOOあり』に主演された後も、個性派俳優としての活躍が続きました。1979年と80年に放映されたNHKドラマ『阿修羅のごとく』も素晴しい作品でした。

宇崎 あれは向田邦子さんの脚本、和田勉さんの演出によるところが大きな作品でした。いしだあゆみさんと交際する、あまりピリッとしない男の役でした。僕はいい女性に岡惚れしてしまう男の役がどうも多い(笑)。脚本を書き上げる前の向田さんに会ったんですが、「こういう素人さんの役には、何か背負わせたほうがいいのよね」と言って、それで僕の演じる役は吃音症という設定になったんです。「あなた、台詞が出てこなくても、演技はそのまま続ければいいんだから」と僕に救いの手を差し伸ばしてくれたんです。共演者も超ベテランたちばかりで、大変勉強になったドラマでした。

――阿木燿子さんと夫婦役で共演された実写版『デビルマン』(04)も忘れられない作品です。

宇崎 あっ〜、『デビルマン』!?

――デビルマンこと不動明を匿っていたために、牧村家は魔女狩りに遭ってしまう。死を覚悟したとき、阿木「浮気をしたことある?」、宇崎「浮気したことないよ」という台詞のやりとりは脳裏に焼き付いて離れません。

宇崎 すごく緊迫した場面なのに、間の抜けたシーンになっちゃったよね(笑)。いや〜、あの監督は変わった方でした。

――那須博之監督ですね。奥さまの那須真知子さんが『デビルマン』の脚本を書いていました。

宇崎 東大出身の頭のいい監督なんですよ。質問すると、ものすごく論理的に説明をしてくれるんだけど、ほとんど理解できなかった。それで、ちょっと質問すると、延々20分くらい説明が続くんです。これだと現場を止めてしまうなと思い、1〜2回質問した後は尋ねるのは止めたんです。阿木との共演は面白かったですよ。自宅に帰れば夫婦なんだけど、撮影中はお互いに夫婦役を楽しんで演じることができたと思います。

――『TATOOあり』で共演された原田芳雄さん、宇崎さんが監督した『魚からダイオキシン!!』(92)に主演した内田祐也さん……、ロックな人たちが次々と亡くなっていきました。

宇崎 そうだね……。やっぱり、若い頃に無茶してたのかな。原田芳雄さんはバーボンを呑みながら、レコーディングしていたからね(笑)。いくら呑んでも歌に全然影響しないのが、すごかった。原田さんは俳優以上に、歌手として才能があったと僕は思っているんです。みんなさっさと逝ってしまうんだよなぁ、今は平均寿命がこれだけ延びたのにね。

(取材・文=長野辰次、撮影=荒熊流星)

●『TATOO〈刺青〉あり』

監督/高橋伴明 脚本/西岡琢也 音楽/宇崎竜童

プロデューサー/井筒和幸 助監督/水谷俊之 監督助手/米田彰、周防正 製作進行/福岡芳穂

出演/宇崎竜童、関根恵子、渡辺美佐子、泉谷しげる、原田芳雄、植木等、西川のりお、上方よしお、ポール牧

(c)1979 有馬孝/東宝

※6月12日(水)よりキングレコードよりHDニューマスター版ブルーレイ&DVDが発売・販売

 

●『曽根崎心中』

原作/近松門左衛門 監督/増村保造 脚本/白坂依志夫 音楽/宇崎竜童

出演/宇崎竜童、梶芽衣子、井川比佐志、左幸子、橋本巧

(c)1978 藤井慶太/東宝

※キングレコードより2019年内にHDニューマスター版ブルーレイ&DVDが発売・販売予定

 

●宇崎竜童(うざき・りゅうどう)

1946年京都府生まれ。73年に「ダウン・タウン・ブキウギ・バンド」を結成し、レコードデビュー。白のツナギファッションで話題を呼び、「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」が大ヒット。76年から作詞家・阿木燿子とのコンビで山口百恵に楽曲提供し、作曲家としても大いに活躍する。俳優としての主な出演作に映画『曽根崎心中』(78)、『その後の仁義なき戦い』(79)、『駅 STATION』(81)、『TATOO〈刺青〉あり』(82)、『上海バンスキング』(84)ほか多数。近年も『破門 ふたりのヤクビョーガミ』(17)や『波乗りオフィスへようこそ』(19)などで存在感のある役を演じている。7月からは全国ツアー「ロックンロールハート2019」がスタート。

“炎上弁護士”唐澤貴洋に盛大なブーメラン!? 「炎上弁護士が教える危機管理」ってナンだ!

 数年間に及ぶ殺害予告を始めとした“ネット炎上”に巻き込まれるも、自ら公に立って情報発信を行うなど、懸命に戦い続ける弁護士・唐澤貴洋。いつしか彼は“炎上弁護士”と呼ばれ、また自称するようになった。日刊サイゾーでは昨年末、初の著書『炎上弁護士 なぜ僕が100万回の殺害予告を受けることになったのか』(日本実業出版社)刊行に際し唐澤弁護士にインタビューを行ったところ、ネットを中心に大反響を呼んだ。

 今回は二冊目となる『そのツイート炎上します! 100万回の殺害予告を受けた弁護士が教える危機管理』(カンゼン)の発売を祝して、再び“炎上弁護士”を直撃した。

 

――早くも二冊目ということで、炎上弁護士もすっかりメジャーな存在になりましたね。

唐澤貴洋(以下、唐澤) いや、全然そんなことはないですよ。でも、サイゾーさんのインタビューはとても好評を頂いておりまして、その節は大変お世話になりました。おかげさまで体感的にですが、殺害予告も減りました。

――そうなんですか(笑)。自らMMDに言及、学生時代は「陰キャの中二病」など、他メディアではあり得ない内容でしたからね。前回はサイゾー編集部にお越しいただき、社内は騒然としていたのですが、今回は「恒心綜合法律事務所」にお邪魔させていただいております。

唐澤 「法律事務所Steadiness」です。

――はい。先ほど東京都港区三田の「日向坂」を通ってきましたが、やはり先生はアイドルとご縁があるようで。

唐澤 いきなりアイドルいじりですか。相変わらず“アイドルオタク”として見られているようですが、私は「48」と「46」の区別もキチンとついていないですよ。それこそテレビでもネタにされてしまったので、むしろ詳しくならないといけないのではないかと思っています。教えてくれる人がいましたらサイゾーまでご連絡ください。

――さっそく本について聞いてまいりましょう。「炎上弁護士が教える危機管理」ということなのですが、先生は「ブーメラン」という言葉をご存知ですか? 狩猟道具ではなく。

唐澤 西城秀樹の「ブーメラン・ストリート」は知っていますが(真顔)。で、この本はネット炎上に際してのHow toを、実在のケースや被害者の方との対談なども交えながら、分かりやすく解説する内容になっています。色々なところでお話させていただいていますが、一番大切なのは「そもそも炎上に巻き込まれない・起こさない」ことなのですが。

――……。おっしゃるとおりですね。

唐澤 本の中でも触れていますが、SNS、特にTwitterは『動物的』な危険性が含まれているサービスです。どういうことかというと、スマホの普及もあって、日常での怒りやふと思ったことについて、一瞬の疑問も抱かぬまま直感的に投稿をするという行為が、ごくありふれたものとなりつつある。これは非常に危険なことで、ほんの1分、数十秒でもいいから、投稿内容が全世界に配信されることについて、考えてほしいんです。それだけでも世の中の炎上は相当減ると思います。いきなり結論ありきで、プロセスもなく直接的な言葉を無意識的に吐くという行為は、あらゆる意味で炎上の危険性をはらんでいます。

――なるほど。被害者側には、対談で登場しているスマイリーキクチさんのように「防ぎようがない」ケースもあるかと思いますが、炎上を根本から止めるには、むしろ加害者側の意識改善が最短ルートに思えますね。ところで動物は好きなんですか?

唐澤 断然犬派ですね。これまでペットを飼ったことはないんですが、疲れて仕事から帰ってきた時にお迎えされたらと思うと、想像するだけで癒やされます。私が犬を好きになったきっかけは、中学生の頃、「少年ジャンプ」を読みながら下校していたのですが、ふと気付くと後ろから野良犬が、静かについてきていたんです。その時は驚きましたが、吠えもせず従順にただ後ろからついてくる犬を見て、なんて可愛いんだと……。

――(動物ネタ、めっちゃ食いつくな……)そういえば前回、YouTube鑑賞が趣味とおっしゃっていましたが、相変わらずですか?

唐澤 就寝前の唯一の癒やしですね。最近はケイタササグリさん、星野るりさんら競馬ユーチューバーにハマっています。

――また意外な趣味が。馬券も買われるんですか?

唐澤 いえ、いまユーチューブで勉強しています。馬券師の方々が様々な予想を展開して、いざレースを見ると「全然間違ってる!」という流れがものすごく面白くて。こんなに競馬アツくなったのは、学生時代にダビスタ(ダービースタリオン、競馬シミュレーションゲーム)をプレイして以来ですね。

――深夜ベッドでYouTubeを観ている先生の姿は、想像するだけで面白いです。

唐澤 あまりにも真剣に観ていると、あっという間に朝になってしまうので、なんとか“ながら観”を意識しています。

――夜中、無音が寂しいので、テレビをつけっぱなしにするみたいな。

唐澤 いや、ラジオ感覚ですね。ここで初めて申し上げますが、実は私、大のラジオファンで。憧れの人は伊集院光さんです。

――またぶっこんできましたね。『馬鹿力』(伊集院光 深夜の馬鹿力、TBSラジオ)ですか?

唐澤 その前にニッポン放送でやっていた『オーデカ』(伊集院光のOh!デカナイト)からのリスナーです。伊集院さんを尊敬するあまり、学生時代ニッポン放送に行って、ノベルティグッズをもらったこともありました。ご本人とはすれ違ったくらいですが、本当に体が震えましたね。「荒川ラップブラザーズ」(伊集院と久保こーじのユニット)のCDも買いました。

――近頃はピエール瀧が騒動になっていますが、電気グルーヴも聞いていた?

「電気グルーヴは、伊集院さんのラジオのつながりで聞いていました。ピエール瀧さんは俳優としても素晴らしいし、復帰してほしいですね。伊集院さんの“トーク一本勝負!”というスタンスが、一番琴線に触れていたんです」

――ラジオ詳しいんですね……。

唐澤 ラジオネタならいくらでも話せますよ! 伊集院さんがテレビのゴールデンに出演し始めた時には、なんか自分の親戚がテレビに出ているくらいの気持ちで、いつも応援していました。この間、大竹まことさんの『ゴールデンラジオ!』(文化放送)に出させていただいたのですが、この番組も受験時代に聞いていて、出るときとても緊張しました。大竹まことさんは、ラジオの印象と同じでとても知的で素敵な方でした。

――今日イチ笑顔が輝いています。ところで先生、ちょっと痩せました?

唐澤 ………(数秒の沈黙後)あれ、気付きました?

――いや、そういうのマジで要らないです。

唐澤 サイゾーの影響か炎上も大分落ち着きがあるものになりまして、そのことからくる精神面の安定からか、過食がなくなりました。以前は深夜にラーメンを食べてしまうこともありましたが。

――事務所の近くには「ラーメン二郎」もありますが、ジロリアンだったり?

唐澤 二郎は神保町の二郎とインスパイア系しか食べていないので、語っちゃいけない気がします。自分は家系派ですね。六角橋にあった「六角家」とか。あ、最近は蒲田にある「ニュータンタンメン」にも通っています。

――カロリー自体はあまり意識していないようですね。では最後に、読者の方に伝えたいことはありますか? マウスの持ち方(※「唐澤 マウス」でご検索ください)についてとか。

唐澤 マウスネタを引っ張りますね……。実はサイゾーは、愛読書の一つなんです。そこで、恐れ多いですが、次はサイゾーさんから本を出したいです! そのためには、是非、連載をいただけましたら幸いです。

――むむ、そうきましたか。サイゾーで連載をするということは、どういう覚悟が必要だか分かっていますか。本を出すとなれば、握手会やトークイベント、サイン会をしたりとか、なんでもやってもらいますよ?

唐澤 ということは、OKということですか。

――(会場に殺害予告がきたらどうしよう……)えー、こちらが「ブーメラン」になりそうなので、要検討とさせていただきます。そして今回もありがとうございました! またのご登場に期待しております!!
(取材=編集部)

 

●唐澤貴洋(からさわ・たかひろ)
1978年1月4日生まれ。法律事務所Steadiness運営。
法律に関するご相談、お問い合わせはオフィシャルサイトへ。
https://steadiness-law.jp/

宮下草薙、どこにも馴染めない2人がたどり着いた「ネガティブ漫才」という王道

 ハナコが「キングオブコント王者」に輝き、霜降り明星が「M-1」を制し……お笑い界を席巻する、20代芸人たち。いわゆる「お笑い第7世代」だ。その中で独特のキャラと立ち位置を築いているのがこの2人、宮下草薙。草薙の燃え上がるネガティブな妄想に、適度に油を注いでいく宮下。「どこにも馴染めなかった」という2人は、お笑いの世界で何を見つけたのか――。

***

――いま最も注目されている「お笑い第7世代」のお2人に、この世代のお笑い観について語っていただこうというのが今日のテーマなのですが……。

宮下 お笑い観……。

草薙 すごい恥ずかしいやつ……。

――確かに。これはやめときましょう。出会いは養成所で、でも宮下さんはピンで、草薙さんはコンビで活動されてたんですよね。

宮下 僕は「養成所内で間違いなく自分が一番面白い」と思ってたんですけど、最初に草薙を見た時に「あ、売れるのってこういうやつだな」って。自分みたいな尖ってるタイプより、こういう本当にキャラの強い人が売れると。まぁ、掘ってみたらすごいセンスもあったんで。でも、本人はセンスを前に出したりするタイプじゃなかった。今って「カリスマが売れない」時代じゃないですか。たぶんこういう人だからこそ、時代とマッチしてるんじゃないかと。

草薙 語ってます、語ってますよね。

宮下 仕事だぞ。本当は俺だって言いたくないよ!

――草薙さんも語ってください。

草薙 恥ずかしい。

宮下 こいつマジひどいんですよ、こういうところ。

草薙 だって、僕はもともと『ごっつ』(『ダウンタウンのごっつええ感じ』/フジテレビ系)すら見たことなくて。それこそ『はねるのトびら』とか『爆笑レッドシアター』(同)とかくらいで。相方は志村けんさんから当時の若手まで、全部見てた。

――ミスターストイック。

草薙 組んでからいろいろ見させられて「あ、ダウンタウンさんって漫才やってたんだ」って知りました。

――コンビを組もうと誘ったのは宮下さん?

宮下 そうです。草薙が前のコンビを解散した時に芸人やめそうだったんで、もったいないなと思って。

草薙 前の相方が「モデルの養成所行く」って言いだしたんですよ。

――モデル事務所!?

草薙 芸人にしてはまぁ……シュッとしたほうだったかもしれない。りゅうちぇるさんとかが出てきた時で、モデルだったら売れるって思ったみたい。僕としては……特にやめてもすることなかったんで……じゃあ、もうちょっとやってみようかな、ぐらいで。

――宮下さんは、お笑いに関してめちゃめちゃストイックじゃないですか。そのあたり、不安はなかったですか?

草薙 最初は、ずっとケンカしてましたね。全然合わなかったんで。なんかわけわかんない街ブラの練習とかさせられたり。

――街ブラロケの?

草薙 もう5年ぐらい住んでる近所を、初見みたいな感じで歩かされたり。「さまぁ~ずさんを参考にしろ」ってDVD見させられて。

宮下 『モヤさま』(『モヤモヤさまぁ〜ず2』/テレビ東京系)です。

――—宮下さんが、草薙さんにお笑いを教えていった?

宮下 いや、教えるってほどじゃないんですけど、最低でもこれくらいは見とかないと始まんないぞと。そもそも、なんで有名なお笑い番組も知らなくてこの世界に入ってきたのかが、よくわかんなかった。

草薙 僕も面白くてびっくりしました(笑)。本当、はんにゃさんが一番面白いと思ってたんですよ。いや、今でも好きですけど。でも、ダウンタウンさんが2人でしゃべってるやつとか「なんかすげぇ」みたいな。めちゃめちゃ面白いし「あれ? 危な!」とも思った。

――「危な」というのは?

草薙 これ知らないまんまいくとこだったと(笑)。

――宮下さんに感謝ですね。

宮下 そうですね(うなずく)。

――(笑)。宮下さんは、何がきっかけでお笑い好きになったんですか?

宮下 ……やだなぁ、こいつの隣でそういうの語るの。

草薙 ……言ってみな。

宮下 子どもの頃から人を笑わすのが好きで。うちの両親、めちゃめちゃケンカが多かったんですよ。よく家庭内がシリアスな場面になるんですけど、そこで僕が笑わせるとケンカが丸く収まったりして。たぶん、それが僕の……。

――原点……。

宮下 ルーツ。

草薙 (ニヤニヤ)

――確か、宮下さんは、お父さんがめっちゃ怖いんですよね。

宮下 そうですね。オヤジは結構ヤンチャやってたんで。

――自分もヤンチャな方面に引っ張られる感じはなかったんですか?

宮下 母親もすごい幼い人というか、自分のことをお姫様だと思ってるような女性で。本当に親を反面教師として僕は育ちました(笑)。この人たちみたいには絶対なりたくない。だから、教育されたことはないんです、僕。

――お笑いに救われたという感じですか?

宮下 そうですね。お笑いがあってよかったなと思ってます。でも、ピンでやってても絶対今みたいな状況にはなってないんで、本当に飛び道具として出てってくれる草薙はありがたいです。

――草薙さんは、どういうきっかけでお笑いの道に?

草薙 高校やめちゃって、通信(高校)通いながら、ゴミ収集車乗ってゴミ集めたり、警備員やったり、宅配の仕事やったり、いろいろしたんですけど、全部本当に続かなくて。1カ月、続いて3カ月ぐらい。で、通信を卒業するってなった時に、することがなんにもなかった。それでとりあえず……お笑い好きだったんで、とりあえず養成所受けて……。

――新しい学校に行く感覚で。

草薙 テレビで島田紳助さんが言ってたんです。『ヘキサゴン』(『クイズ!ヘキサゴンII』/フジテレビ系)だったかな、「来いよ」って。こう、なんていうんですか、あんまり勉強ができない人たちが活躍されてたじゃないですか。

――「おバカタレント」ブームありましたね。

草薙 紳助さんが「テレビ見てるこういうやつらは来いよ!!」みたいに言ってたんですよ。

――テレビを通して。

草薙 語りかけてきたんです。俺、頭悪いから「おお」って思って。

宮下 お前に言ってると思った?

草薙 うん。だけど、NSC(吉本総合芸能学院)受けたら落ちた。

――まさかの。

草薙 養成所に入ってからどうなるかはわからないと思ってましたけど、まさか養成所落ちるとは考えてなかった。

――レアケースかもしれない。

草薙 それで、ほぼなんの説明も見ずに太田プロのスクール(太田プロエンタテイメント学院東京校)に応募しました。

――太田プロじゃなかったら、お2人は出会ってないわけですもんね。宮下さんは、NSCに行こうとは思わなかったんですか?

宮下 思わなかったです。そこはわりとコイツと似てるのかなと思うんですけど。あんまりガチャガチャしたノリが苦手で。養成所で「自分の殻を破ろう」みたいな授業があったんです。みんなで爆弾になって爆発する、丸まってバーンッみたいな。それが嫌で、トイレにこもってたんですよ、その時間。で、その時隣のトイレに誰か入ってて。後から話聞いたらコイツだった(笑)。

草薙 僕も受けたくなくて。

宮下 根本はすげぇ似てるというか。

草薙 馴染めなかった。授業終わると飲みに行く人もたくさんいたんですけど、僕らは誘われなくて。そんなんで仲良くなった。

宮下 人間性は結構似てる。

――いま草薙さんは「ネガティブキレキャラ」という新ジャンルを開拓されていますが、そのネガティブさはいつぐらいから始まったんですか?

草薙 子どもの頃からずっとです。いいことがなんにもなかったんですよね。本当かろうじて生きてきて。いつも1人で遊んでましたね。友達いなかったんで。それこそこの前、初めてスピードワゴンさんの番組で人とボードゲームをやった。

――それまでは1人で……?

草薙 1人でトランプやってました。

――みんなでやるボードゲーム……楽しかったですか?

草薙 楽しかったですね。ただ……楽しいんだろうなって予想はしてたんで。「うわぁ、すごい楽しいぞ」って感じではなかった。そもそも周りに人がいなかったので、暗いと指摘されることもなかったんですよ。養成所入って初めて「暗いなぁ」って言われて、そうなのかと。

――宮下さんは、そのネガティブさが面白いと思ったんですか?

宮下 そうですね、最初に見たネタは、そんなネガティブっていう感じでもなかった。暗いっちゃ暗いんですけど。

草薙 小学校の頃、急に学校でお弁当が必要になったことがあって、でもお弁当箱がなかったんですよ。で、すごい探してやっと見つけたのが、幼稚園の時のお弁当箱だったんです。フタにサンリオのキャラクターの絵が描いてあるやつ。僕、それちょっと嫌だなって思って、深夜に工具箱のマイナスドライバー出して、サンリオのプリントだけこうやって削って。その話をしたらすごい笑ってくれたんですよ、コイツ。あ、やりやすいな、これウケるんだって思いました。

――宮下さん覚えてます?

宮下 はいはい。僕らのライブ、本当に最初ウケなかった。やってることは今と大きくそんなに違わないのに。

草薙 「暗すぎて怖い」ってアンケートに書かれてた。

――あんまり聞いたことないですよね、「暗すぎて怖い」。

宮下 確かに、お笑いで教わったことには反してきましたよ。お笑いでやっちゃいけないってことを、ずっとやってきた。こんなにたどたどしく話ちゃダメだし、もっとテンポよくしないといけないけど。

草薙 できなかったんで。

宮下 逆にそれがなんか個性になって、ほかと比べられなくなったから世に出れたんじゃないですか? テンポの漫才でやってたら、霜降り明星さんに勝てるわけないし。信じてやってきてよかったです。

――お2人の関係って、ちょっと編集者と書き手に似てるのかも。編集者は「読むプロ」で、読者に怒られても「読むプロが『面白い』って言ってくれたから大丈夫だ」っていうのが、ライターの心の支えになるんです。宮下さんが編集者で、草薙さんが書き手とすると。

草薙 そうですね。どんなにこっちが一生懸命作ったものでも、つまんないものはちゃんと「つまんない」って言ってくれるんで。そこはオーソドックスだから、逆に安心しますね。

宮下 僕コンビ組んだ時、「じゃない方」になる覚悟はあったんです。ただ最近思うのは「じゃない方」になるほど無個性でもないんだよな俺、って。自分で思ってるよりヤバいやつみたいなので、そこは二の矢になれればいいかな。

――冷静に分析されてますね。

草薙 後付け……これたぶん後付だと思うんですよね。だって、そんなの聞いたことないよ。

宮下 お前にプラン言ったところでね、計画通りに行えないでしょう。

草薙 いや……。

宮下 営業もそんな得意じゃないんで。なんとかテレビで食ってくしかない。

草薙 めちゃめちゃスベりました、この間営業行って。めちゃめちゃスベりましたよ。

――そんなに……?

草薙 わりとみんなワーッて出ていって「僕らのこと知ってる方~?」みたいな感じでいって、そこからネタをやるんです。ネタもいわゆる営業用のネタというか、わかりやすいやつを。

――おなじみのやつを。

草薙 それなのに僕ら「僕らのこと知ってる方~?」もやらず、いきなりネタを……しかも、一昨年ぐらいの『M-1』の予選でやったゴリゴリのやつを出ていってやって。本当誰も聞いてくれない、みたいな。それ7分ぐらいやって……7分後ぐらいに「僕らのこと知ってる人~?」って最後に聞くっていう。わけわかんない、パニックになって。

――宮下草薙を知らない方が多かった?

草薙 いや、まあまあみんな知っててくれてて。それでスベるんかいっていう。

――(笑)

宮下 うん、俺は「(ネタ前のトークを)やろう」って言ったんですけど、こいつが「やりたくない」って言ったんで。

草薙 恥ずかしい。お前やってくれよ。

宮下 いやいやいや、それは見づらいでしょ。お前がやって、全然できないところに「お前できねぇじゃねぇか」っていうのが一番わかりやすいだろ。

草薙 楽な仕事だよ。ツッコミなんて。

宮下 ちゃんと仕事は果たしてますよ。

草薙 お前はボケない。楽な仕事だよ、本当に!

――本当に仲がいいんですね(笑)。

草薙 ないです、全然。何も出ないです。何が欲しいんですか? 「仲がいい」が欲しいんですか??

――いや、特に何も考えずに言いました。

草薙 何が正解か……わかんない……仲が……仲いいが欲しいか……。

――草薙さん! 大丈夫です!

草薙 でも、その……ずるいポジションを取ってますよね、最近なんか宮下は。お父さんポジションというか。EXITのりんたろー。さんもやってるやつ。

宮下 りんたろー。さんのそのポジションは取ってないよ、俺は。

草薙 あのポジションの取り方はずるいなって、兼近くんとよく話してます。

――宮下さんは、仲のいい芸人さんと飲みに行ったりするんですか?

宮下 僕は飲みがまぁ苦手なので。唯一芸人の中でLINE知ってるのはトム・ブラウンの布川さんぐらい。

――そこは何きっかけで?

宮下 ライブで一緒になることが多くて、そこでお話しするようになって。すごい話しやすい人で、本当にふざけてくるんですよ。ちゃんとこっちがタメ口でツッコめるような空気を作ってくれる。

草薙 お前、普段は『遊戯王』しかやってないから。

宮下 なんか芸人に素性を知られたくないんですよ。口軽いやつしかいないんで。あいつあんなこと言ってた、こんなことやってた、ってすぐ言うんですよ。

草薙 芸人が嫌いなんですよ。

――売れてる先輩と飲みにいって仲良くなってテレビに出る、みたいなことは考えないですか?

宮下 そんなことで仕事ってもらえるんですかね? 知ってたら行きますけど。「仕事をもらえる飲み会だよ」って言われたら、頑張って行くんですけど……。俺たち合コンも行かないし、浮いたウワサひとつない、珍しいコンビだなぁって思います。

――しかし、ネットで「草薙さんかわいい」っておっしゃってる方多いんですよ。

草薙 これ大丈夫かな……教えちゃって。

宮下 いいよ、全然。

草薙 俺好きなやつ……変なんですよ。

宮下 確かにな。

草薙 だって女の人どころか、お客さんが来たことなくて、ライブに。ノルマ制のライブは、場当たり終わってから変装してお客さんの列並んで「宮下草薙で2枚ください」って。

宮下 そうそう、お客さんのフリして。

草薙 自分たちでチケット買ってた。今はそれしなくていいのはありがたいですが、かわいくはない。

――ネガティブ漫才という、ネタの方向性が認知されてきて。これからもそのやり方で行くのか、それとも変えようと思っていますか?

宮下 できるところまでやりたいですよね。このネガティブな想像はすごい面白いし。でも、売れてない時期は「今度バイトしようかと思ってるんだけど」みたいな形は成立しやすいけど、だんだんそれはできづらくなってくる。

草薙 ネガティブに作ってるつもりは……ないんですけどね。

宮下 結構ウケてるんだから、ある程度自覚はあると思うんですけどね。さすがにこれだけやってたら。

草薙 なんの自覚?

宮下 いや、ネガティブな自分ウケてんなぁって。

草薙 だって、作ったネタの原稿全部送るんで。で、こいつが「これ残しで、これ消して」みたいなことやる。それは全然変わんないですけどね。

――本当、編集者みたいですよね。

草薙 ちゃんとやってんのかな、あれ。すごい速いんですよ、選ぶのが。

――敏腕編集者は、パッと見ればすぐわかるらしいですよ。

宮下 そうですね(ニヤリ)。
(取材・文=西澤千央)

宮下草薙、どこにも馴染めない2人がたどり着いた「ネガティブ漫才」という王道

 ハナコが「キングオブコント王者」に輝き、霜降り明星が「M-1」を制し……お笑い界を席巻する、20代芸人たち。いわゆる「お笑い第7世代」だ。その中で独特のキャラと立ち位置を築いているのがこの2人、宮下草薙。草薙の燃え上がるネガティブな妄想に、適度に油を注いでいく宮下。「どこにも馴染めなかった」という2人は、お笑いの世界で何を見つけたのか――。

***

――いま最も注目されている「お笑い第7世代」のお2人に、この世代のお笑い観について語っていただこうというのが今日のテーマなのですが……。

宮下 お笑い観……。

草薙 すごい恥ずかしいやつ……。

――確かに。これはやめときましょう。出会いは養成所で、でも宮下さんはピンで、草薙さんはコンビで活動されてたんですよね。

宮下 僕は「養成所内で間違いなく自分が一番面白い」と思ってたんですけど、最初に草薙を見た時に「あ、売れるのってこういうやつだな」って。自分みたいな尖ってるタイプより、こういう本当にキャラの強い人が売れると。まぁ、掘ってみたらすごいセンスもあったんで。でも、本人はセンスを前に出したりするタイプじゃなかった。今って「カリスマが売れない」時代じゃないですか。たぶんこういう人だからこそ、時代とマッチしてるんじゃないかと。

草薙 語ってます、語ってますよね。

宮下 仕事だぞ。本当は俺だって言いたくないよ!

――草薙さんも語ってください。

草薙 恥ずかしい。

宮下 こいつマジひどいんですよ、こういうところ。

草薙 だって、僕はもともと『ごっつ』(『ダウンタウンのごっつええ感じ』/フジテレビ系)すら見たことなくて。それこそ『はねるのトびら』とか『爆笑レッドシアター』(同)とかくらいで。相方は志村けんさんから当時の若手まで、全部見てた。

――ミスターストイック。

草薙 組んでからいろいろ見させられて「あ、ダウンタウンさんって漫才やってたんだ」って知りました。

――コンビを組もうと誘ったのは宮下さん?

宮下 そうです。草薙が前のコンビを解散した時に芸人やめそうだったんで、もったいないなと思って。

草薙 前の相方が「モデルの養成所行く」って言いだしたんですよ。

――モデル事務所!?

草薙 芸人にしてはまぁ……シュッとしたほうだったかもしれない。りゅうちぇるさんとかが出てきた時で、モデルだったら売れるって思ったみたい。僕としては……特にやめてもすることなかったんで……じゃあ、もうちょっとやってみようかな、ぐらいで。

――宮下さんは、お笑いに関してめちゃめちゃストイックじゃないですか。そのあたり、不安はなかったですか?

草薙 最初は、ずっとケンカしてましたね。全然合わなかったんで。なんかわけわかんない街ブラの練習とかさせられたり。

――街ブラロケの?

草薙 もう5年ぐらい住んでる近所を、初見みたいな感じで歩かされたり。「さまぁ~ずさんを参考にしろ」ってDVD見させられて。

宮下 『モヤさま』(『モヤモヤさまぁ〜ず2』/テレビ東京系)です。

――—宮下さんが、草薙さんにお笑いを教えていった?

宮下 いや、教えるってほどじゃないんですけど、最低でもこれくらいは見とかないと始まんないぞと。そもそも、なんで有名なお笑い番組も知らなくてこの世界に入ってきたのかが、よくわかんなかった。

草薙 僕も面白くてびっくりしました(笑)。本当、はんにゃさんが一番面白いと思ってたんですよ。いや、今でも好きですけど。でも、ダウンタウンさんが2人でしゃべってるやつとか「なんかすげぇ」みたいな。めちゃめちゃ面白いし「あれ? 危な!」とも思った。

――「危な」というのは?

草薙 これ知らないまんまいくとこだったと(笑)。

――宮下さんに感謝ですね。

宮下 そうですね(うなずく)。

――(笑)。宮下さんは、何がきっかけでお笑い好きになったんですか?

宮下 ……やだなぁ、こいつの隣でそういうの語るの。

草薙 ……言ってみな。

宮下 子どもの頃から人を笑わすのが好きで。うちの両親、めちゃめちゃケンカが多かったんですよ。よく家庭内がシリアスな場面になるんですけど、そこで僕が笑わせるとケンカが丸く収まったりして。たぶん、それが僕の……。

――原点……。

宮下 ルーツ。

草薙 (ニヤニヤ)

――確か、宮下さんは、お父さんがめっちゃ怖いんですよね。

宮下 そうですね。オヤジは結構ヤンチャやってたんで。

――自分もヤンチャな方面に引っ張られる感じはなかったんですか?

宮下 母親もすごい幼い人というか、自分のことをお姫様だと思ってるような女性で。本当に親を反面教師として僕は育ちました(笑)。この人たちみたいには絶対なりたくない。だから、教育されたことはないんです、僕。

――お笑いに救われたという感じですか?

宮下 そうですね。お笑いがあってよかったなと思ってます。でも、ピンでやってても絶対今みたいな状況にはなってないんで、本当に飛び道具として出てってくれる草薙はありがたいです。

――草薙さんは、どういうきっかけでお笑いの道に?

草薙 高校やめちゃって、通信(高校)通いながら、ゴミ収集車乗ってゴミ集めたり、警備員やったり、宅配の仕事やったり、いろいろしたんですけど、全部本当に続かなくて。1カ月、続いて3カ月ぐらい。で、通信を卒業するってなった時に、することがなんにもなかった。それでとりあえず……お笑い好きだったんで、とりあえず養成所受けて……。

――新しい学校に行く感覚で。

草薙 テレビで島田紳助さんが言ってたんです。『ヘキサゴン』(『クイズ!ヘキサゴンII』/フジテレビ系)だったかな、「来いよ」って。こう、なんていうんですか、あんまり勉強ができない人たちが活躍されてたじゃないですか。

――「おバカタレント」ブームありましたね。

草薙 紳助さんが「テレビ見てるこういうやつらは来いよ!!」みたいに言ってたんですよ。

――テレビを通して。

草薙 語りかけてきたんです。俺、頭悪いから「おお」って思って。

宮下 お前に言ってると思った?

草薙 うん。だけど、NSC(吉本総合芸能学院)受けたら落ちた。

――まさかの。

草薙 養成所に入ってからどうなるかはわからないと思ってましたけど、まさか養成所落ちるとは考えてなかった。

――レアケースかもしれない。

草薙 それで、ほぼなんの説明も見ずに太田プロのスクール(太田プロエンタテイメント学院東京校)に応募しました。

――太田プロじゃなかったら、お2人は出会ってないわけですもんね。宮下さんは、NSCに行こうとは思わなかったんですか?

宮下 思わなかったです。そこはわりとコイツと似てるのかなと思うんですけど。あんまりガチャガチャしたノリが苦手で。養成所で「自分の殻を破ろう」みたいな授業があったんです。みんなで爆弾になって爆発する、丸まってバーンッみたいな。それが嫌で、トイレにこもってたんですよ、その時間。で、その時隣のトイレに誰か入ってて。後から話聞いたらコイツだった(笑)。

草薙 僕も受けたくなくて。

宮下 根本はすげぇ似てるというか。

草薙 馴染めなかった。授業終わると飲みに行く人もたくさんいたんですけど、僕らは誘われなくて。そんなんで仲良くなった。

宮下 人間性は結構似てる。

――いま草薙さんは「ネガティブキレキャラ」という新ジャンルを開拓されていますが、そのネガティブさはいつぐらいから始まったんですか?

草薙 子どもの頃からずっとです。いいことがなんにもなかったんですよね。本当かろうじて生きてきて。いつも1人で遊んでましたね。友達いなかったんで。それこそこの前、初めてスピードワゴンさんの番組で人とボードゲームをやった。

――それまでは1人で……?

草薙 1人でトランプやってました。

――みんなでやるボードゲーム……楽しかったですか?

草薙 楽しかったですね。ただ……楽しいんだろうなって予想はしてたんで。「うわぁ、すごい楽しいぞ」って感じではなかった。そもそも周りに人がいなかったので、暗いと指摘されることもなかったんですよ。養成所入って初めて「暗いなぁ」って言われて、そうなのかと。

――宮下さんは、そのネガティブさが面白いと思ったんですか?

宮下 そうですね、最初に見たネタは、そんなネガティブっていう感じでもなかった。暗いっちゃ暗いんですけど。

草薙 小学校の頃、急に学校でお弁当が必要になったことがあって、でもお弁当箱がなかったんですよ。で、すごい探してやっと見つけたのが、幼稚園の時のお弁当箱だったんです。フタにサンリオのキャラクターの絵が描いてあるやつ。僕、それちょっと嫌だなって思って、深夜に工具箱のマイナスドライバー出して、サンリオのプリントだけこうやって削って。その話をしたらすごい笑ってくれたんですよ、コイツ。あ、やりやすいな、これウケるんだって思いました。

――宮下さん覚えてます?

宮下 はいはい。僕らのライブ、本当に最初ウケなかった。やってることは今と大きくそんなに違わないのに。

草薙 「暗すぎて怖い」ってアンケートに書かれてた。

――あんまり聞いたことないですよね、「暗すぎて怖い」。

宮下 確かに、お笑いで教わったことには反してきましたよ。お笑いでやっちゃいけないってことを、ずっとやってきた。こんなにたどたどしく話ちゃダメだし、もっとテンポよくしないといけないけど。

草薙 できなかったんで。

宮下 逆にそれがなんか個性になって、ほかと比べられなくなったから世に出れたんじゃないですか? テンポの漫才でやってたら、霜降り明星さんに勝てるわけないし。信じてやってきてよかったです。

――お2人の関係って、ちょっと編集者と書き手に似てるのかも。編集者は「読むプロ」で、読者に怒られても「読むプロが『面白い』って言ってくれたから大丈夫だ」っていうのが、ライターの心の支えになるんです。宮下さんが編集者で、草薙さんが書き手とすると。

草薙 そうですね。どんなにこっちが一生懸命作ったものでも、つまんないものはちゃんと「つまんない」って言ってくれるんで。そこはオーソドックスだから、逆に安心しますね。

宮下 僕コンビ組んだ時、「じゃない方」になる覚悟はあったんです。ただ最近思うのは「じゃない方」になるほど無個性でもないんだよな俺、って。自分で思ってるよりヤバいやつみたいなので、そこは二の矢になれればいいかな。

――冷静に分析されてますね。

草薙 後付け……これたぶん後付だと思うんですよね。だって、そんなの聞いたことないよ。

宮下 お前にプラン言ったところでね、計画通りに行えないでしょう。

草薙 いや……。

宮下 営業もそんな得意じゃないんで。なんとかテレビで食ってくしかない。

草薙 めちゃめちゃスベりました、この間営業行って。めちゃめちゃスベりましたよ。

――そんなに……?

草薙 わりとみんなワーッて出ていって「僕らのこと知ってる方~?」みたいな感じでいって、そこからネタをやるんです。ネタもいわゆる営業用のネタというか、わかりやすいやつを。

――おなじみのやつを。

草薙 それなのに僕ら「僕らのこと知ってる方~?」もやらず、いきなりネタを……しかも、一昨年ぐらいの『M-1』の予選でやったゴリゴリのやつを出ていってやって。本当誰も聞いてくれない、みたいな。それ7分ぐらいやって……7分後ぐらいに「僕らのこと知ってる人~?」って最後に聞くっていう。わけわかんない、パニックになって。

――宮下草薙を知らない方が多かった?

草薙 いや、まあまあみんな知っててくれてて。それでスベるんかいっていう。

――(笑)

宮下 うん、俺は「(ネタ前のトークを)やろう」って言ったんですけど、こいつが「やりたくない」って言ったんで。

草薙 恥ずかしい。お前やってくれよ。

宮下 いやいやいや、それは見づらいでしょ。お前がやって、全然できないところに「お前できねぇじゃねぇか」っていうのが一番わかりやすいだろ。

草薙 楽な仕事だよ。ツッコミなんて。

宮下 ちゃんと仕事は果たしてますよ。

草薙 お前はボケない。楽な仕事だよ、本当に!

――本当に仲がいいんですね(笑)。

草薙 ないです、全然。何も出ないです。何が欲しいんですか? 「仲がいい」が欲しいんですか??

――いや、特に何も考えずに言いました。

草薙 何が正解か……わかんない……仲が……仲いいが欲しいか……。

――草薙さん! 大丈夫です!

草薙 でも、その……ずるいポジションを取ってますよね、最近なんか宮下は。お父さんポジションというか。EXITのりんたろー。さんもやってるやつ。

宮下 りんたろー。さんのそのポジションは取ってないよ、俺は。

草薙 あのポジションの取り方はずるいなって、兼近くんとよく話してます。

――宮下さんは、仲のいい芸人さんと飲みに行ったりするんですか?

宮下 僕は飲みがまぁ苦手なので。唯一芸人の中でLINE知ってるのはトム・ブラウンの布川さんぐらい。

――そこは何きっかけで?

宮下 ライブで一緒になることが多くて、そこでお話しするようになって。すごい話しやすい人で、本当にふざけてくるんですよ。ちゃんとこっちがタメ口でツッコめるような空気を作ってくれる。

草薙 お前、普段は『遊戯王』しかやってないから。

宮下 なんか芸人に素性を知られたくないんですよ。口軽いやつしかいないんで。あいつあんなこと言ってた、こんなことやってた、ってすぐ言うんですよ。

草薙 芸人が嫌いなんですよ。

――売れてる先輩と飲みにいって仲良くなってテレビに出る、みたいなことは考えないですか?

宮下 そんなことで仕事ってもらえるんですかね? 知ってたら行きますけど。「仕事をもらえる飲み会だよ」って言われたら、頑張って行くんですけど……。俺たち合コンも行かないし、浮いたウワサひとつない、珍しいコンビだなぁって思います。

――しかし、ネットで「草薙さんかわいい」っておっしゃってる方多いんですよ。

草薙 これ大丈夫かな……教えちゃって。

宮下 いいよ、全然。

草薙 俺好きなやつ……変なんですよ。

宮下 確かにな。

草薙 だって女の人どころか、お客さんが来たことなくて、ライブに。ノルマ制のライブは、場当たり終わってから変装してお客さんの列並んで「宮下草薙で2枚ください」って。

宮下 そうそう、お客さんのフリして。

草薙 自分たちでチケット買ってた。今はそれしなくていいのはありがたいですが、かわいくはない。

――ネガティブ漫才という、ネタの方向性が認知されてきて。これからもそのやり方で行くのか、それとも変えようと思っていますか?

宮下 できるところまでやりたいですよね。このネガティブな想像はすごい面白いし。でも、売れてない時期は「今度バイトしようかと思ってるんだけど」みたいな形は成立しやすいけど、だんだんそれはできづらくなってくる。

草薙 ネガティブに作ってるつもりは……ないんですけどね。

宮下 結構ウケてるんだから、ある程度自覚はあると思うんですけどね。さすがにこれだけやってたら。

草薙 なんの自覚?

宮下 いや、ネガティブな自分ウケてんなぁって。

草薙 だって、作ったネタの原稿全部送るんで。で、こいつが「これ残しで、これ消して」みたいなことやる。それは全然変わんないですけどね。

――本当、編集者みたいですよね。

草薙 ちゃんとやってんのかな、あれ。すごい速いんですよ、選ぶのが。

――敏腕編集者は、パッと見ればすぐわかるらしいですよ。

宮下 そうですね(ニヤリ)。
(取材・文=西澤千央)

「炎上作家・のぶみ」「道徳、出オチ絵本」――子どもにとって“良質な絵本”とは何か?

 古典を読ませるべきか、今の時代に合った新しい本を読ませるべきか――。親世代を悩ませる絵本選び。親がいいという絵本に子どもが興味を示すとも限らない。一方、子どもが「面白い」と思っても、親にはピンと来ないものもある。読み聞かせに最適な、子どもにとって良質な絵本とはどのようなものか。絵本コーディネーターの東條知美さんと、図書館司書の神保和子さん、絵本の編集者である北尾知子さん、そして「絵本好き」であるワーキングマザーの大内めぐみさんによる座談会の後編をお届けする。

(前編はこちら)

――絵本の選び方について悩んでいる人も多いと思います。大人の考える良質な絵本が、必ずしも子どもが読みたい本ではない場合もあるように感じますが。

神保和子(以下、神保) 親の価値観と子どもの好きなものは違うので、やっぱり親の価値観を押し付けず、その子が興味を持ったことを、大らかに受け止めてほしいですね。知人のお子さんが、電車の絵本しか読みたがらず、「親としてはいろいろ本を読ませたいんだけど……」と最初は悩んでいたんですが、結局あきらめたそうなんです。今、その子は電車の運転手をしていますよ。

北尾知子(以下、北尾) それ素敵なことですね。

神保 子どもには個性があるのに、「これが子どもにとっていいものだから」という同調圧力が強いのでしょうか。

北尾 「よそはよそ、うちはうち」と言わなくなりましたね。子どものとき「◯◯ちゃんの家にはゲームがあるよ」と言っても「よそはよそ」と言われたものですが、今は横並びで同じようにならないといけないという風潮。

東條知美(以下、東條) だから平均的な子が増えるんでしょうね。ただ、親の価値観に合わない本は、親も「嫌」と言っていいと私は思いますよ。

大内めぐみ(以下、大内) そうですよね。「お母さんはこの本は好きではない。それはこういう理由だから……」と伝え合う会話もコミュニケーションの一つ。どんな絵本を読むかより、その時間を持つことの方が大事なのでは。私個人としては、具体的にどの本がいいかといえば、迷うならまず、昔からある名作で足りると思っています。まず親が子どもと一緒に楽しむ一歩としてなら、それくらいの量でいい。時代を経ても残っている名作は、どの時代に読んでも人が心地よく感じるということだと思うので、安全かな……と。

東條 確かに、評価が確立している本にはよいと言われるだけの理由が必ずあります。もちろん新しい絵本にもよいものはありますが、近年は「子どもにとってよい」というよりも、お母さんの共感を得ようとしている絵本が増えてきている印象があります。道徳が教科化されて、道徳絵本も増えてますね。今は私たちが子どもの頃よりも、いろいろな本があふれていて選ぶのが難しい。

北尾 「名作で足りる」というのは、出版界に携わる者としては忸怩たる思いがあります。いい本を作ろうと思っている編集者もいるけれど、紙媒体が売れなくなっているから、どうしても出版社が“大きく売れるもの”を目指してしまうんです。特に、少人数の読み聞かせではなく、図書館や学校など大人数の読み聞かせでは、一発ギャグのようにウケることを求める読み手が少なくない。だから、センテンスが短い“出オチ”みたいな絵本ばかりが出版されてしまう。読み聞かせ対応の絵本は“出オチ”、先ほど東條さんが言っていた親にウケる絵本は“お涙頂戴”という傾向が顕著になってきているような気がします。

東條 学校で読み聞かせのボランティアをしているお母さんに話を聞くと「高学年に読むのはちょっと苦手」という人が多い。素直に反応する低学年と違って、高学年は反応がなく、不安だと言うんです。だからウケる本を選ぶ。でも、40人いたら40人満足できる本なんてあり得ないと思います。

――最近はネットのレビューサイトもあり、自分が面白いと思うかどうかよりも、他人の評価が軸になって絵本を選ぶ人もいるのではないでしょうか。

東條 SNS時代になり、自分の価値観に従うより、周りの目や情報を気にするお母さんが昔よりも増えた印象があります。「仕事もしてます、読み聞かせもしています」と、なんでもできるお母さんが立派のような価値観が広まって、苦しい。ただそういう事情だけでなく、共働き家庭が増えてお母さんが忙しくなり、効率的に時間を使うためにレビューを見るという場合もあります。

北尾 そもそも、読み手が「お母さん」という前提が違うのでは。お父さんが読んでもいいし、おじいちゃん、おばあちゃんでもいい。

神保 土日に図書館で絵本講座を開くと、結構パパが来ますよ。

東條 それは図書館に来る人だからでしょう。図書館は、「常連のため」の施設になってしまっていて、来ない人は、果たして絵本を読んでいるのかいないのかわからない。

神保 図書館に来るのは住民の2割と言われていますね。

大内 新しく出てくる絵本について、いい悪いを判断するのは難しいと感じています。忙しく、時間的にも精神的にも余裕がないお母さんが、「読み聞かせをしなければ」と本屋さんに行って、「売れてます」と平積みされている本を買ったら、実は物議を醸している本だったというのは気の毒ですよね。情報社会は難しい。

東條 のぶみさんの絵本のことですね。たびたび叩かれていますが、騒いでいるのは主に匿名の人。その実体はどこにあるのか? 属性を含め見えにくい部分もあります。

北尾 叩きたいという一派ができていますよね。じゃあ、のぶみさんの絵本が全て「悪い本」かというと、そうではないと思います。例えば、たくさん描かれた洋服の中から、子どもたちが、好きなものを選んで遊ぶという絵本『えらんで!』(KADOKAWA)。この「選んで遊ぶ」というのは、昔から絵本によくある手法なので、さほど問題ないのではないでしょうか。

神保 彼の力量に合う作品であれば否定することもない。ただ“死”や“生命”をテーマにすると掘り下げが足りず、 問題になってしまったと思います。

東條 のぶみさんの『ママがおばけになっちゃった!』(講談社)は、お母さんが亡くなった子どもを描くという内容で、物議を醸しました。ワイドショーで取り上げられたために、内容をよく確認せずにネットで購入する人も多く、“売れすぎた”のが問題だったと思います。というのも、売れすぎたことにより、大勢の子どもの前で、あの絵本を読み聞かせをする場面が、日本全国に広がっていったんです。もしかしたらその中には、実際に親を亡くすという“喪失体験”をした子、また、ショックを受けた子がいたかもしれない。でも、そういった子の“心のケア”が個別にできない状況が生まれてしまったのです。「平積みされているからよい絵本」というのは間違い。ただ逆に言うと、家庭の中で読む分には、親が心のケアをしてあげることはできるのかな……と思う部分はありますね。

北尾 あの本は死をテーマにしているのではなく、「お母さんがいなくなると困るよね」ということを伝えたいがために、死を道具にしてしまっているんです。絵本の権威が、何か言うのではないかと思っていたけど、誰も言ってくれませんでした。

神保 有識者は読んでもいなかったんですよ。ワイドショーで話題になっていたのに、どんな本かも知らない。そもそもそういう人はワイドショーも見ないから。

北尾 絵本の権威が世間とずれたところにいるというのも、それはそれで問題ですよね。そういう人たちの間では、仕掛け絵本は邪道と言われていて、絵本の範疇に入れてもらえなんです。赤ちゃんのために仕掛け絵本を読み聞かせするのも、絵本のスタートとしてあっていいことだと思うんですが、認めてもらえない。

東條 絵本の権威も知らない。絵本に興味のない人も知らない。結局、その中間にいる層がのぶみさんの絵本について騒いでいる。お母さんの中でも分断されていますよね。繰り返しになりますが、読み聞かせは「こうでなければいけない」ということはありません。楽しく読めればいい。苦しいことがいっぱいの子育てで、楽しむためのアイテムの一つが絵本。ピアノでもスポーツでもいい。ただ、私は絵本が好きだから「絵本は面白い」と言いたい。そんな感じですね。

 ちなみに、2018年9月に『タイプライターズ~物書きの世界~』(BSフジテレビ)に出演した際、MCの加藤シゲアキさんに『漂流物』(デイヴィッド・ウィーズナー/BL出版)という絵本をプレゼントしました。その場で読まれて「これ、すごい好きです」とおっしゃってましたよ。ジャニーズファンの方は、そういう取っ掛かりで絵本を手に取ってみてもいいのではないでしょうか。もちろん、ご自身が読む用、子どもが読む用、どちらでもいいと思います。

北尾 そうですね。「読み聞かせをしなければ」ではなく、やっぱり面白いから読んでほしいですね。

“キングオブアウトロー”瓜田純士に聞く!「刃物を持った暴漢に出くわしたら、どうすればいいの!?」

 令和に入り、物騒な事件が相次いでいる。20代女性による新宿ホスト殺人未遂事件、元ヤクザ同士のトラブルに端を発する名古屋のメッタ刺し死亡事件、20人が襲われ2人が犠牲になった川崎殺傷事件、そして埼玉で包丁男が警察官に襲いかかった事件……。いずれも「刃物」が犯行に使われているのが共通点で、今後も似たような事件が連鎖反応的に起こる危険性も指摘されている。街角で刃物を持った暴漢と出喰わしたら、どうすればよいのか?――不良時代、何度も刃傷沙汰を経験してきた“キング・オブ・アウトロー”こと瓜田純士(39)にアドバイスを仰いだ。

――刃物を使った痛ましい事件が相次いでいます。新宿の事件はマンションの中での出来事でしたが、公道での刃傷沙汰も続発中です。もし瓜田さんが街角で刃物を持った暴漢と出喰わしたら、どうしますか?

瓜田純士(以下、瓜田) 究極のアイデアは最後に言いますが、その前に僕の経験を踏まえた一般的な対応策を話させてください。僕は名古屋の事件に似たケースを、当事者として一度経験しているんですよ。車から降りてきたガタイのいい男が、刃物を持って、こちらに向かって走って来た。はっきり言いますが、あのときは足がすくんで何も考えられなかったです。「あ、やばい」と思っても、ほとんど何も対応できず、結果的に僕は刺されてしまいました。

――2013年に千葉で起きた事件(参照記事)のことですね。

瓜田 はい。そのときに思ったんですよ。腹を決めた奴が刃物まで持って来たら、来られたほうはどうしようもない、と。相手が人参を持っているのと刃物を持っているのとじゃ、恐怖心がまるで違うじゃないですか。特に日本人は、刃物に対する恐怖心をお侍さんの時代から植え付けられているから、実物を見たら足がすくむんですよ。

――瓜田さんは千葉の一件以前にも何度か刃傷沙汰を経験していますよね? その瓜田さんですら、なす術なしですか。

瓜田 よく格闘家が「何百本のスパーリングは、試合でそのうちの数パーセントを出すためにやる」って言いますよね。常に本番を意識して鍛えている奴らですら、本番では練習の数パーセントの動きしかできないもの。

 また、「瓜田は刃物に慣れている」と思われがちですが、むしろ逆で、過去に自分が刺されたときの記憶が蘇ってきて、「あ、またこのパターンだ」ってことにビビって、体にロックがかかっちゃうんですよ。よくボクシングでも「相手のパンチが見えているから、もらうとKOされる」って言うじゃないですか。逆に、見えない角度からもらったパンチだと案外効かずに立っていられたりする。

 千葉のときは、自分の腹にブスッと刺さる瞬間が正面から見えたので、脳が「やばい」と判断して、余計に動けなくなってしまいました。

――名古屋のメッタ刺し死亡事件では、多くの男性の通行人は呆然と立ち尽くすのみで、誰も加害者を止められませんでした。そのことを批判する声も上がっていますが、それもやむなしといったところでしょうか。

瓜田 はっきり言って、腹を括ったヤクザもんの刃傷沙汰に対策もクソもないですよ。「仲裁=俺も刺してくれ」って話になります。

――可哀想だが見殺しにするほかない、と。

瓜田 ブレーキの壊れたダンプカーが突っ込んで来たら、身を挺して止めますか? 迷わず逃げるでしょう。怒り狂った刃物男は、暴走ダンプと一緒ですから、まずは自分が生き延びることを考えましょう。人のことを考えるのは、そのあとからでいいと思います。

――でも名古屋の事件では、何人かの外国人とおぼしき女性が、「やめて!」と犯人に声をかけに行ったらしく、「女は度胸があるのに、男は情けない」という声も上がっています。

瓜田 確かに勇気はありますけど、それで巻き添えを食って死んだら元も子もないじゃないですか。それに名古屋の一件は、「女性だから止めに行けた」という部分もあると思います。無差別な通り魔ではなく、明らかなケンカですから、止めに行った女性も「自分が刺される」とは思っていなかったはず。それに止められた男も、女性には手を出す可能性が低いです。女性から力づくで制圧されることはないとわかりますから。

 しかし、男性が止めに行ったらどうなっていたか。犯人は制圧されるかもしれない恐れから、逆上して、止めに来た男性を刺したかもしれない。飲み屋のケンカだってそうでしょう。ママが止めると事態が沈静化するのに、男性客が止めると余計に事態がこじれがちじゃないですか。

 ですから、ああいうヤカラ対ヤカラのケンカ現場を目撃したら、まずは自分の身の安全を確保してから、110番するのが一番です。電車のホームから人が転落した場合も、闇雲に助けに行くと被害が拡大する恐れがあるから、まずは勇気を出して非常停止ボタンを押すのが先。それと一緒です。

――腕に覚えのある人はどう振る舞うべきでしょうか? ちなみにプロ格闘家の那須川天心選手は川崎殺傷事件を受け、「刃物を持った人と遭遇した時に助けに行けるかと言われても行けないと思う。まだそんな勇気ないし、力もない」と苦しい胸の内を明かしました。

瓜田 グレイシー柔術の教えを知っていますか? 一応は刃物に対する護身術を教えるそうです。ただ、「一番肝心なのは自分の安全を確保して逃げることだ」とも教えるらしいんですよ。プロの格闘家だろうが、刃物は怖い。それは当たり前の話ですよ。

――となると、「犯人のやりたい放題」ということになってしまいますね。

瓜田 いや、そうとも限りません。万人にはおすすめしませんが、僕なりに秘策を考えました。身近な“ある道具”を上手く使えば、犯人を戦意喪失させられると思うんですよ。

――その道具とは?

瓜田 消火器です。近くの適当なビルやマンションに入れば、消火器があるはず。こいつを犯人の顔に噴射すれば、目が開かなくなり、動きが止まります。犯人がひるんでいる数分の間に、近くの通行人は逃げることができますし、拳銃を持った警察官も到着するでしょう。

 人間、刃物を握っているときは、手に神経が集中します。つまり、顔はガラ空きなので、消火器の不意打ちを避けることはできない。消火器のいいところは、周囲や犯人を傷つけることなく、そして犯人に触れることなく、事態をしばし沈静化できる点ですね。

――咄嗟の場面で使えるよう、「安全ピンを抜いてから、レバーを握って噴射する」という消火器の使い方を、今一度頭に叩き込んでおくとよいかもしれませんね。

瓜田 本当は消火器だけじゃなく、刺又(2~3メートルの棒の先にU字形の金具が付いている防犯グッズ)も街のあちこちに設置されるようになるといいんですけどね。消火器でひるんだ犯人を、壁に押し込めることができますから。

――行政が新たに行うべき防犯対策はありますかね?

瓜田 凶器になり得る包丁なんかはライセンス制にして、警察の許可がないと買えなくしてほしいですね。料理人なら、店の料理長や責任者が警察署に届け出てから買う。そして、主婦が使う包丁は先を丸く改良するべきです。

――それでは最後に総括をお願いします。

瓜田 繰り返しになりますが、刃物を持った暴漢を見かけたら、まずは自らの安全を確保してから110番を。そして、仮に腕に覚えがあっても、素手では立ち向かわないこと。一番いけないのは正面から両肩を押さえ込む行為です。ブスッとやられちゃいますから。どうしても止めたくなったら、消火器を顔面に噴射するか、背後から複数人で押さえ込む。その際、時間的に余裕があったら、腹にヤンジャンかなんかを仕込んでおくといいです。これは僕がケンカのときに実際やっていたことなんですが、お腹に雑誌を入れておくと、刃物が貫通しにくくなるんですよ。

――本当はこういう事件が減るのが一番なんですけどね。

瓜田 しばらくは要注意です。平成から令和に時代が変わり、トランプが来日し、東京五輪に向けて“クリーンな日本”というイメージづくりが加速する一方、その流れに乗れない人たちもいる。川崎や埼玉の事件を見て思ったのは、時代から落ちこぼれてしまった人たちの“負のパワー”が、ここにきて一気に噴出しているな、ということ。連鎖反応的に似たような事件が起きる可能性もありますから、街に出る際は四方八方に目を光らせましょう。そして、君子危うきに近寄らずです。

(取材・文=岡林敬太/撮影=おひよ)

※瓜田純士のYouTube好評配信中!(瓜田純士プロファイリング)
https://www.youtube.com/channel/UCv27YAy0FZ-4wwisy5zPmeg

※「“キング・オブ・アウトロー”瓜田純士、かく語りき」の記事一覧
https://www.cyzo.com/cat8/outlaw_charisma/

「読み聞かせ」は頭のいい子を育てる? 絵本をめぐる“親の憂鬱”を考える座談会

 頭のいい子に育てるには、毎日の読み聞かせが必要――そんな情報が子育て世代に飛び交って久しい。親子で読み聞かせを楽しんでいるという人も多いようだが、一方で、「頭のいい子を育てる」という情報に縛られ、疲れてしまう人たちもいるようだ。読み聞かせをするにしても「どのように読めばいいのか」「子どもの集中力が続かない」と悩みを抱く親も少なくない様子。そんな絵本をめぐって憂鬱になってしまっている親に向けて、今回、絵本関係者の座談会を開催する。参加者は、絵本コーディネーターの東條知美さん、図書館司書の神保和子さん、絵本の編集者である北尾知子さん、そして「絵本好き」であるワーキングマザーの大内めぐみさん。皆さん、本当に読み聞かせは必要なんですか?

――「読み聞かせが学力の基礎になる」という話をよく耳にし、実践している親御さんも多いと思うのですが、いつ頃から、そのような話が広まったのでしょうか。

東條知美(以下、東條) 調べたところによると、1970年代後半から子どもの言語力を伸ばすことに影響があると言われ始めたようです。

北尾知子(以下、北尾) その少し前に、絵本がたくさん出版されるようになり、機が熟したんでしょうね。

東條 そうですね。80~90年代には、読み聞かせのスタイルが着目されるようになりました。その後2000年代にかけて、愛着形成・脳の発達と読み聞かせの相互関係が謳われるようになり、教育現場での読み聞かせも定着していきました。司書の神保さんは読み聞かせについて講演していますよね。「読み聞かせ」は必ずしなければならないと思いますか。

神保和子(以下、神保) 「しなければいけない」ということはないと思っています。ただ、絵本を読んであげる行為は親子のコミュニケーションですから、子どもの情緒が落ち着きますし、読み聞かせをしてもらった子とそうでない子の語彙数の差は大きいのかなと感じます。小児人工内耳移植に取り組む外科医の著書『3000万語の格差 : 赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ』(ダナ・サスキンド/明石書店)によると、2歳までの間にどれだけの言葉を浴びたかが言葉の発達に大きく影響するそうです。ただ、今の忙しいお母さんに「たくさん言葉をかけてあげて」と言っても、どんな言葉をかけていいかわからないでしょうから、絵本をツールとすればいいのではないかと思っています。また、読み聞かせをたくさんした子どもは、その後、厚い本にも入っていきやすいとも言われています。

東條 神保さんの言っていることに間違いはないと思います。私も読み聞かせを肯定的に捉えている人が集まる講演会では、「“絵本の時間”が宝物となる7つの理由」として、「1:豊かな感情、安定した感情を育む」「2:自己肯定感を育む」「3:言葉の発達に役立つ」「4:さまざまな場面で活動のきっかけとなる」「5:好奇心への入り口となる」「6:多様性を知り、自分自身を知るきっかけとなる」「7:“愛”を知る」と解説しています。ただ「2歳までにどれだけ言葉を浴びたか」と言われると、「2歳以降に読み聞かせをしても手遅れなんだ」と誤解してしまう人もいる。そのフォローはしたいですよね。正しいことに窮屈さを感じたり、そのプレシャーから子育てに苦しんでいるお母さんもいるので。

大内めぐみ(以下、大内) 私は2歳違いの子どもを2人育てているのですが、以前から絵本とは接点を持っていたので、自分自身は、読み聞かせ自体にプレッシャーを感じたことはないです。ただ、うちは0歳から保育園に通わせていて、お迎え後から寝かしつけるまでは本当に大変だったので、「読み聞かせと言われても、いつ読めばいいんだろう? そんな時間はない」というお母さんの気持ちはよくわかります。私もそういうときがありました。

北尾 「賢い子に育てるためには本を読ませればいいの?」とよく質問されますが、本を「これが役に立つ」「ためになる」といやいや読んだら、親も子も両方楽しめないですよね。頭のいい子に育てるには読書が必要、そのための素地として読み聞かせをしなければ……とゴールに向けて前のめりになってる。

東條 『頭のいい子を育てるおはなし366』(主婦の友社)という本などが売れていることが象徴的ですよね。

北尾 冒頭で神保さんも言われたように、絵本は言葉を育む方法の一つに過ぎないのではないでしょうか。絵本でなくても、広告などを一緒に見て、「このリンゴ、おいしそうだね」という会話をしたっていい。絵本はそこにストーリーがあるので会話しやすいということだと思います。

神保 ある図書館で、「子どもと向き合ってたくさん遊びましょう。絵本は遊びの中の一つとして捉えて」と話したときに、若いお母さんが「安心しました」と言ってきたんです。「絵本を読むのは義務だと思って読んでいるけれど、子どもが最後まで聞いてくれなくて悩んでいた」と。そのお子さんはまだ1歳になったばかり。しかも赤ちゃん向けの本ではなく『ぐりとぐら』(福音館書店)などのロングセラーを読み聞かせしていたんです。「いくらいい本でも1歳の子にはそれは無理よ。赤ちゃんは途中で飽きるのが当たり前」と伝えました。真面目なお母さんほど「そんなに必死に読まなくてもいいよ」と声をかけてあげないといけないかもしれない。

大内 私は、読み聞かせの楽しさって、子どもの反応がどうかということより、親である自分が「この絵本、面白いなぁ」と感じることだと思っています。「教育」は専門家に任せる部分でもあると思うので、読み聞かせは「自分が楽しむもの」でいいのかなって。それに子どもは、親が楽しそうにしてるのが好きですよね。あと、「大人一人、赤ちゃん一人で家にいると間が持たないから絵本を読む」ということもあると思います。まだしゃべらない赤ちゃんに話しかけるって、特に初めての育児だと難しいので……絵本を介してだと語りかけるのも自然にできますよね。

北尾 読み聞かせにプレッシャーを感じている人は、「失敗しちゃいけない」と思っているんでしょうね。

東條 特に1人目だと責任重大と思ってしまう気持ちは、私も身に覚えがあります。ここで離乳食をやめて大丈夫なのか、将来、健康に問題が出るのではないか……と。今は「こうでなければ危ない」という情報があふれているので、余計に視野が狭くなるのかもしれないですね。「こうでなければならない」が多すぎると子育ては苦しい。加えて自分がいいと思ったことを他人に躊躇なく言う先輩ママが多い。ありがたいこともあるけど、うまく流す能力を身につけ、「こうでなければならない」ではなく「どっちでもいい」という視点を持っておいた方がラク。母乳神話と読み聞かせは似ているかもしれないですね。

――「読み聞かせをしないと、感情に乏しくなる」などと追い詰められている人もいるような気がします。

北尾 読み聞かせをしていたとしても、お母さんが無表情で棒読みのように読んだり、子どもが質問しても無視して読んでいたらいい影響はないと思いますけどね。

大内 親が「私は子どもを変えられる」「私の思うようにできる」と思ってしまっている部分もあるのかもしれません。読み聞かせというタスクをこなせばいい子に育つ、みたいな。でも、子どもって本当に、どうにもできない。親の思うようにはならないものですよね(笑)。

――読み方にコツはありますか。「あまり表情がにぎやかすぎたり、抑揚をつけすぎたりすると子どもの想像力を育まない」という話を聞いたことがあるのですが。

神保 確かに、「読み聞かせのときは黒子に徹しなさい」と言って、黒い服しか着ないボランティアグループもあります。でも、今の子はある程度パフォーマンスがないと入っていけない。アメリカの子ども図書館で、読み聞かせの様子を見ましたが、身振り手振りを大げさにつけていました。「いろいろな国籍の子がいるので、淡々と読んだだけでは伝わらない。絵本の楽しさを伝えたい。そのためには抑揚や、身振り手振りも必要なこともある」という話でしたね。

東條 自治体主宰の高齢者による読み聞かせグループに講演に行った際、「抑揚をつけちゃいけないと聞きました」とすごく悩んだ顔で質問されました。「程度にもよります。あまり大げさに読んで、子どもたちが絵本ではなく読み手を見てしまうなら意味がない。物語を伝えるために読み聞かせがあるので、子どもたちが楽しく聞ける範囲ならいい」とお答えしました。

神保 作品によって静かに読んだ方が伝わるものもあれば、静かに読んではつまらない本もあるし。

東條 みなさん真面目すぎるんです。例えば、声を張りすぎて、目の前の子どもが怯えた様子であれば、微調整すればいいだけ。子どもとコミュニケーションすることを忘れてしまっているんですよ。

北尾 『ちきばんにゃー』(きくちちき/学研プラス)の「ちきばん ちきばん」といった掛け声などを「どう読んでいいかわからない」というお母さんもいました。

東條 わからないなら無理に読まなくてもいいと思います。例えば、ナンセンスな作風で知られる長新太さんの『キャベツくん』シリーズ(文研出版)という作品があるのですが、「面白さがわからない」というお母さんも多い。でもそれは、相性だと思うんですよね。相性はあってあたりまえですから。

大内 読解力も人それぞれ。専門家の解説が入ることで「こういう見方があるんだ」という発見があることもあれば、やっぱりわからないこともある。ただ、一生わからないかというと、そうではなくて、時期によっても変わってくるのかもしれません。自分に響くキーワードがあれば、ある時「面白い」と感じるようになることもあると思います。

――幼児に読んであげるとおとなしく聞いてくれず、「心がつかめなかった」とがっかりするケースも多いようです。

神保 小さな子はなかなかおとなしく聞いてくれないですよ。

東條 その絵本がその子の発達段階に合ってないという場合もありますし。

――何歳まで読み聞かせればいいのでしょう?

北尾 求められるなら何歳まででもいいと思います。

東條 息子は高校1年ですが、誕生日に読み聞かせしました。私が読みたいから(笑)。

北尾 “効果”を期待すると、何歳から何歳までという話になりますが、効果はどんな形で出るかわからない。

東條 そうですね。どういうわけか幼稚園までは「読み聞かせをしよう」とよく言われるのに、年齢が上がるにつれて軽視されるようになり、もっと目に見える効果が出るもの、わかりやすく「役に立ちそうなもの」に関心が移ってしまう。

大内 読み聞かせは自己肯定感を育むといわれますが、絵本を読んでるときに感じられる“ハッピー”な気持ちが大事だと思うんです。読み聞かせによって「頭が良くなる」など、“どうなるか”という効果に固執するのは違うのではないかなと感じますね。

神保 うちの子は成人しているのですが、一緒に飲むときに、絵本が肴になるんです。それぞれ好きな本は1~2冊程度は記憶しているけど、内容よりも「読んでもらった」という記憶が支えになっていると言っていましたよ。

(後編につづく)

「読み聞かせ」は頭のいい子を育てる? 絵本をめぐる“親の憂鬱”を考える座談会

 頭のいい子に育てるには、毎日の読み聞かせが必要――そんな情報が子育て世代に飛び交って久しい。親子で読み聞かせを楽しんでいるという人も多いようだが、一方で、「頭のいい子を育てる」という情報に縛られ、疲れてしまう人たちもいるようだ。読み聞かせをするにしても「どのように読めばいいのか」「子どもの集中力が続かない」と悩みを抱く親も少なくない様子。そんな絵本をめぐって憂鬱になってしまっている親に向けて、今回、絵本関係者の座談会を開催する。参加者は、絵本コーディネーターの東條知美さん、図書館司書の神保和子さん、絵本の編集者である北尾知子さん、そして「絵本好き」であるワーキングマザーの大内めぐみさん。皆さん、本当に読み聞かせは必要なんですか?

――「読み聞かせが学力の基礎になる」という話をよく耳にし、実践している親御さんも多いと思うのですが、いつ頃から、そのような話が広まったのでしょうか。

東條知美(以下、東條) 調べたところによると、1970年代後半から子どもの言語力を伸ばすことに影響があると言われ始めたようです。

北尾知子(以下、北尾) その少し前に、絵本がたくさん出版されるようになり、機が熟したんでしょうね。

東條 そうですね。80~90年代には、読み聞かせのスタイルが着目されるようになりました。その後2000年代にかけて、愛着形成・脳の発達と読み聞かせの相互関係が謳われるようになり、教育現場での読み聞かせも定着していきました。司書の神保さんは読み聞かせについて講演していますよね。「読み聞かせ」は必ずしなければならないと思いますか。

神保和子(以下、神保) 「しなければいけない」ということはないと思っています。ただ、絵本を読んであげる行為は親子のコミュニケーションですから、子どもの情緒が落ち着きますし、読み聞かせをしてもらった子とそうでない子の語彙数の差は大きいのかなと感じます。小児人工内耳移植に取り組む外科医の著書『3000万語の格差 : 赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ』(ダナ・サスキンド/明石書店)によると、2歳までの間にどれだけの言葉を浴びたかが言葉の発達に大きく影響するそうです。ただ、今の忙しいお母さんに「たくさん言葉をかけてあげて」と言っても、どんな言葉をかけていいかわからないでしょうから、絵本をツールとすればいいのではないかと思っています。また、読み聞かせをたくさんした子どもは、その後、厚い本にも入っていきやすいとも言われています。

東條 神保さんの言っていることに間違いはないと思います。私も読み聞かせを肯定的に捉えている人が集まる講演会では、「“絵本の時間”が宝物となる7つの理由」として、「1:豊かな感情、安定した感情を育む」「2:自己肯定感を育む」「3:言葉の発達に役立つ」「4:さまざまな場面で活動のきっかけとなる」「5:好奇心への入り口となる」「6:多様性を知り、自分自身を知るきっかけとなる」「7:“愛”を知る」と解説しています。ただ「2歳までにどれだけ言葉を浴びたか」と言われると、「2歳以降に読み聞かせをしても手遅れなんだ」と誤解してしまう人もいる。そのフォローはしたいですよね。正しいことに窮屈さを感じたり、そのプレシャーから子育てに苦しんでいるお母さんもいるので。

大内めぐみ(以下、大内) 私は2歳違いの子どもを2人育てているのですが、以前から絵本とは接点を持っていたので、自分自身は、読み聞かせ自体にプレッシャーを感じたことはないです。ただ、うちは0歳から保育園に通わせていて、お迎え後から寝かしつけるまでは本当に大変だったので、「読み聞かせと言われても、いつ読めばいいんだろう? そんな時間はない」というお母さんの気持ちはよくわかります。私もそういうときがありました。

北尾 「賢い子に育てるためには本を読ませればいいの?」とよく質問されますが、本を「これが役に立つ」「ためになる」といやいや読んだら、親も子も両方楽しめないですよね。頭のいい子に育てるには読書が必要、そのための素地として読み聞かせをしなければ……とゴールに向けて前のめりになってる。

東條 『頭のいい子を育てるおはなし366』(主婦の友社)という本などが売れていることが象徴的ですよね。

北尾 冒頭で神保さんも言われたように、絵本は言葉を育む方法の一つに過ぎないのではないでしょうか。絵本でなくても、広告などを一緒に見て、「このリンゴ、おいしそうだね」という会話をしたっていい。絵本はそこにストーリーがあるので会話しやすいということだと思います。

神保 ある図書館で、「子どもと向き合ってたくさん遊びましょう。絵本は遊びの中の一つとして捉えて」と話したときに、若いお母さんが「安心しました」と言ってきたんです。「絵本を読むのは義務だと思って読んでいるけれど、子どもが最後まで聞いてくれなくて悩んでいた」と。そのお子さんはまだ1歳になったばかり。しかも赤ちゃん向けの本ではなく『ぐりとぐら』(福音館書店)などのロングセラーを読み聞かせしていたんです。「いくらいい本でも1歳の子にはそれは無理よ。赤ちゃんは途中で飽きるのが当たり前」と伝えました。真面目なお母さんほど「そんなに必死に読まなくてもいいよ」と声をかけてあげないといけないかもしれない。

大内 私は、読み聞かせの楽しさって、子どもの反応がどうかということより、親である自分が「この絵本、面白いなぁ」と感じることだと思っています。「教育」は専門家に任せる部分でもあると思うので、読み聞かせは「自分が楽しむもの」でいいのかなって。それに子どもは、親が楽しそうにしてるのが好きですよね。あと、「大人一人、赤ちゃん一人で家にいると間が持たないから絵本を読む」ということもあると思います。まだしゃべらない赤ちゃんに話しかけるって、特に初めての育児だと難しいので……絵本を介してだと語りかけるのも自然にできますよね。

北尾 読み聞かせにプレッシャーを感じている人は、「失敗しちゃいけない」と思っているんでしょうね。

東條 特に1人目だと責任重大と思ってしまう気持ちは、私も身に覚えがあります。ここで離乳食をやめて大丈夫なのか、将来、健康に問題が出るのではないか……と。今は「こうでなければ危ない」という情報があふれているので、余計に視野が狭くなるのかもしれないですね。「こうでなければならない」が多すぎると子育ては苦しい。加えて自分がいいと思ったことを他人に躊躇なく言う先輩ママが多い。ありがたいこともあるけど、うまく流す能力を身につけ、「こうでなければならない」ではなく「どっちでもいい」という視点を持っておいた方がラク。母乳神話と読み聞かせは似ているかもしれないですね。

――「読み聞かせをしないと、感情に乏しくなる」などと追い詰められている人もいるような気がします。

北尾 読み聞かせをしていたとしても、お母さんが無表情で棒読みのように読んだり、子どもが質問しても無視して読んでいたらいい影響はないと思いますけどね。

大内 親が「私は子どもを変えられる」「私の思うようにできる」と思ってしまっている部分もあるのかもしれません。読み聞かせというタスクをこなせばいい子に育つ、みたいな。でも、子どもって本当に、どうにもできない。親の思うようにはならないものですよね(笑)。

――読み方にコツはありますか。「あまり表情がにぎやかすぎたり、抑揚をつけすぎたりすると子どもの想像力を育まない」という話を聞いたことがあるのですが。

神保 確かに、「読み聞かせのときは黒子に徹しなさい」と言って、黒い服しか着ないボランティアグループもあります。でも、今の子はある程度パフォーマンスがないと入っていけない。アメリカの子ども図書館で、読み聞かせの様子を見ましたが、身振り手振りを大げさにつけていました。「いろいろな国籍の子がいるので、淡々と読んだだけでは伝わらない。絵本の楽しさを伝えたい。そのためには抑揚や、身振り手振りも必要なこともある」という話でしたね。

東條 自治体主宰の高齢者による読み聞かせグループに講演に行った際、「抑揚をつけちゃいけないと聞きました」とすごく悩んだ顔で質問されました。「程度にもよります。あまり大げさに読んで、子どもたちが絵本ではなく読み手を見てしまうなら意味がない。物語を伝えるために読み聞かせがあるので、子どもたちが楽しく聞ける範囲ならいい」とお答えしました。

神保 作品によって静かに読んだ方が伝わるものもあれば、静かに読んではつまらない本もあるし。

東條 みなさん真面目すぎるんです。例えば、声を張りすぎて、目の前の子どもが怯えた様子であれば、微調整すればいいだけ。子どもとコミュニケーションすることを忘れてしまっているんですよ。

北尾 『ちきばんにゃー』(きくちちき/学研プラス)の「ちきばん ちきばん」といった掛け声などを「どう読んでいいかわからない」というお母さんもいました。

東條 わからないなら無理に読まなくてもいいと思います。例えば、ナンセンスな作風で知られる長新太さんの『キャベツくん』シリーズ(文研出版)という作品があるのですが、「面白さがわからない」というお母さんも多い。でもそれは、相性だと思うんですよね。相性はあってあたりまえですから。

大内 読解力も人それぞれ。専門家の解説が入ることで「こういう見方があるんだ」という発見があることもあれば、やっぱりわからないこともある。ただ、一生わからないかというと、そうではなくて、時期によっても変わってくるのかもしれません。自分に響くキーワードがあれば、ある時「面白い」と感じるようになることもあると思います。

――幼児に読んであげるとおとなしく聞いてくれず、「心がつかめなかった」とがっかりするケースも多いようです。

神保 小さな子はなかなかおとなしく聞いてくれないですよ。

東條 その絵本がその子の発達段階に合ってないという場合もありますし。

――何歳まで読み聞かせればいいのでしょう?

北尾 求められるなら何歳まででもいいと思います。

東條 息子は高校1年ですが、誕生日に読み聞かせしました。私が読みたいから(笑)。

北尾 “効果”を期待すると、何歳から何歳までという話になりますが、効果はどんな形で出るかわからない。

東條 そうですね。どういうわけか幼稚園までは「読み聞かせをしよう」とよく言われるのに、年齢が上がるにつれて軽視されるようになり、もっと目に見える効果が出るもの、わかりやすく「役に立ちそうなもの」に関心が移ってしまう。

大内 読み聞かせは自己肯定感を育むといわれますが、絵本を読んでるときに感じられる“ハッピー”な気持ちが大事だと思うんです。読み聞かせによって「頭が良くなる」など、“どうなるか”という効果に固執するのは違うのではないかなと感じますね。

神保 うちの子は成人しているのですが、一緒に飲むときに、絵本が肴になるんです。それぞれ好きな本は1~2冊程度は記憶しているけど、内容よりも「読んでもらった」という記憶が支えになっていると言っていましたよ。

(後編につづく)

女性ゲーマー座談会【後編】「女性に“ハンデ”はない」――今、訴えたい「ゲームが好き」な気持ち!

 昨年発表の「新語・流行語大賞」にノミネートされた、“eスポーツ”という言葉をご存じだろうか。コンピューターゲームを“競技”と捉える際の名称で、今、数十億円の賞金が出る大会が世界中で開催されるなど、大きな盛り上がりを見せている。国内でも、大手企業が選手のスポンサーに名乗り出て、大会での賞金などで生計を立てる “プロゲーマー”が続々と誕生しているが、そんな中で「活動しにくい」と風当たりの強さを感じているのは、女性ゲーマーだ。

 前編に続き、女性ゲーミングチーム「花鳥風月」のメンバーである、ドスコイ☆花子さん、あさいさん、razさん、そしてイベントMCやゲーム配信者として活動するセリーナさんに話を聞き、男性が9割とも言われるゲーム業界で、「女性だけのチーム」を作った狙いを聞いた。「男女の垣根をなくしたいというゴールに向かって、女性だけのチームで活動する」という、一見ねじれた状況について、本人たちはなにを感じているのだろうか。

【座談会出席者プロフィール】

セリーナ……忍ismストリーマー部門所属。『キャサリン』やホラーゲームなどを配信するバイリンガル女子ゲーマー。
ドスコイ☆花子……花鳥風月所属。『スプラトゥーン2』をメインに、 格闘ゲームや『Dead by Daylight』をプレイ。
あさい……花鳥風月所属。『スプラトゥーン2』をメインに配信を行っている。『Apex Legends』などFPSゲームもプレイ。
raz……花鳥風月所属。『スプラトゥーン2』の配信や動画投稿など、 YouTubeでの活動を中心に行っている。

“男性社会”だからこそ生まれた「女性チーム」

――「花鳥風月」の女性限定ゲーミングチームという発想は、なにがきっかけで出てきたのですか。

ドスコイ☆花子(以下、花子) 「女性がゲームを楽しめる場所が少ない」というのはずっと感じていて、それなら女性限定のイベントを開いたり、女性だけのチームを作れば、もっといろんな人が入ってきやすくなるのでは、という話がスタートでした。

――イベントや大会に出ることが目的であれば、男女同数の混合チームを作る選択肢もあったと思いますが、女性限定としたのはなぜでしょう。

花子 男性がいると、どうしても躊躇してしまう女性ゲーマーの方がいると感じていたので、そこに配慮した形です。あとは、ゲーム業界が“男性社会”だからこそ、「女性だけのチーム」と打ち出した方が、注目されるのではないかという狙いも、正直ありました。偏った部分を逆手に取るというか。その結果、女性ゲーマーが増えたり、横のつながりが広がっていけば、女性チームを作ったことは成功だと思っています。

あさい 私とrazさんは、チームができてから応募して入ったんですけど、やっぱり女性チームというのは、気持ち的にハードルが下がって助かりました。同じゲームをしてる同性の友だちってなかなか見つからないし、そういう意味でも入りやすさがありましたね。

――あさいさんとrazさんが「花鳥風月」の活動の成果でもあるわけですね。女性だけのゲーミングチームというと、過去にいくつもできては消えてという状況が続いていたと思います。正直、“アイドル路線”のグループも多い中で、「花鳥風月」が特別だというのは、どこで感じましたか?

raz 「花鳥風月」のメンバーはアメリカで行われた大会にも出ているし、SNSで練習の過程やゲームの成績を公開していて、“本気度”がすぐにわかりました。まあ、本気でやってるか、ゲームを好きかどうかって、ゲーマーだったら絶対わかりますよね。

セリーナ 私は「花鳥風月」のメンバーではないんですけど、真剣にゲームをやってることは伝わってきますよね。あとやっぱり、最後に残るのは“本当にゲームが好きな人”なんですよ。どういう形であれ、ゲームを楽しんでくれるのはうれしいんですけど、メンバーみんなが「好き」でやってないと、チームとしては続かないのではないかと思います。

――ちょっといじわるな質問かもしれませんが、女性ゲーマーの人口が増えた場合、「女性だけのチーム」としての特異性はなくなってしまいますよね。それはみなさんにとって、あまり喜ばしいことではない気もするのですが……。

セリーナ 確かにその通りだと思いますが、私たちが特別注目されなくなるということは、女性ゲーマーが増えて、活躍しているということと同じですよね。それは素直にうれしいし、今、私たちが目指すべき目標だと思います。

花子 ゲームって、体を動かすスポーツとは違って、男女の差が出にくい、ジェンダーレスな勝負だと思っています。だから、プロゲーマーの数が男女半々ぐらいになってくれたら、ミッションコンプリートですかね。

あさい 女性の数が増えれば、私たちもさらに「同性には負けたくない!」っていう気持ちになるし(笑)。切磋琢磨していきたいですよね。

――ゲームの世界での話をうかがってきましたが、性別による差別や偏見は、ゲーム業界と一般社会を比べると、どのような違いを感じますか。

セリーナ 学校や職場で直接言われることのない悪口も、ネット上だと匿名で言えますよね。今はオンライン対戦が中心の時代なので、ゲームとネットはとても密接につながっています。だから「ゲーマーとしての私」の方が、性差別を受けることが多いですかね。

花子 でも、ゲーム業界に「女性専用車両」みたいなものを作ってほしくはないかな。ゲームをやってて、性別を理由に嫌な気持ちになることもあったけど、ゲームセンターに「女性専用スペース」を作ってほしいわけではない。特別扱いされてしまうと、ハンデがあるとか、弱いことを認めちゃうみたいになるので。

raz なぜ女性プレイヤーが特別視されてしまうかと言うと、「数が少ないから」なんですよね。ゲームの能力に男女で大きな差はなく、誰とでも平等に戦えます。だから私たちには、そもそもハンデなんてないわけです。少数派だからといって、特別扱いしすぎるのは違うかなって思います。

――それでは最後に、これからゲーム業界がどのように変わってほしいと思うか教えてください。

花子 男性も女性も、容姿のことを言われたりしないで、楽しく大会に出られるようになるといいですよね。女の子がどんどん増えてくれば、それが当たり前になって「女だ!」とも言われなくなるだろうし。ゲームが好きなのに、別の理由で躊躇してしまうのは、とてももったいないと思うので。

raz 性別ではなく、もっと個人が尊重されて、好きなことをできるようになれば、それが一番いいですね。

あさい 私たちにできることは、ゲームの面白さを伝えたり、イベントを開催して遊ぶきっかけを作ったりすることだと思っています。その活動を通して、「ゲームって楽しいよ」「女の子も遠慮しなくていいんだよ」って感じられるようになれば、コミュニティは良い方向に向かってくんじゃないかなと思ってます。

セリーナ 「女性ゲーミングチーム」が目立たなくなるくらい、女性ゲーマーが増えてくれたらうれしいです。男性だけのチームがあって、女性だけのチームがあって、混合のチームがあって……その中に「花鳥風月」もある、みたいな。それと最後に、男性ゲーマーは女性ゲーマーにとって“敵”ではない、ということは言いたいです。ゲーマーは性別も年齢も、さらに国籍も関係なくみんな“仲間”ですし、ほとんどの男性ゲーマーが「女性が嫌な思いをしないように」と思ってくれているのも感じてます。なので、みんなで協力して、でも大会ではガチで戦って、そんなふうになっていけば最高ですね。

天皇陛下と雅子さまは「令和の理想の夫婦」になる? 「平成時代との違い」を皇室ウォッチャー解説

 去る5月1日、新天皇が即位し、「令和」が開幕した。上皇さまと美智子さまが国民から「平成の理想の夫婦像」と言われただけに、天皇陛下と雅子さまご夫婦の“関係性”に着目する人も多いが、皇室ウォッチャーX氏は、お二人をどのように見ているのだろうか。

――上皇陛下と美智子さまが「平成の理想の夫婦」として国民から愛されていた理由はどこにあると思いますか。

皇室ウォッチャーX氏(以下、X) 夫婦としてお互いに“支え合う”お姿が、理想の夫婦として国民から尊敬されていたのだと思います。平成の時代、皇室のトップは天皇陛下であり、美智子さまはあくまで2番目の序列でした。美智子さまは、その立ち位置の中でできる最大限のお支えをなされていましたし、上皇さまも美智子さまにとても感謝されていたように感じます。国民はお二人のそんなお姿をよく目にされたのではないでしょうか。

 最近のことで言うと、今年2月の「在位30年式典」で、当時天皇陛下であった上皇さまが、原稿を読む順番を間違えられた際に、そっと美智子さまが近寄って、原稿を読む正しい順番をお伝えしたのです。上皇さまも「ありがとう」とおっしゃって、美智子さまのことを本当に信頼されているのだと感じました。

――天皇陛下と雅子さまは、どのようなご夫婦であると思いますか。

X 私生活では、よく会話されるなど、コミュニケーションを密に取られているご夫婦だそうです。雅子さまが適応障害で療養されてからも、陛下がずっと支えられ、その思いに応えるために少しずつ病状を回復されてきたと言われています。

 一方、公務などの公式の場では、平成の両陛下よりも陛下と雅子さまの方が、“各々”で活躍されているイメージです。今回のトランプ大統領とメラニア夫人との懇談でも、お二人とも通訳をほとんど使わずに英語で会話されていました。今までは、あくまで天皇陛下が主体で、皇后陛下は少し後ろに下がられることが多かったですが、元キャリアウーマンで数カ国語を話すことができる雅子さまだからこそ、このような対応ができたのでしょう。令和流の皇后陛下として、今後もご活躍が期待できると思います。

――お二人のエピソードで心に残っているものをお教えください。

X 雅子さまが療養に入られてからは、しばらく公務にお出ましになっていないこともあって昔の話になってしまいますが、やはり千葉県の鴨場デートでのエピソードは印象に残っています。この場で陛下は「一生全力でお守りします」とプロポーズをされ、そのお言葉を婚約会見で雅子さまが披露されました。そのお言葉通り、ずっと雅子さまを守られてきた陛下だからこそ、今の雅子さまがいらっしゃるのだと思います。

――お二人の夫婦像が、令和時代の「お手本」になりそうだと感じる点はありますか。

X 雅子さまが陛下のお妃候補として報道されていた当時、ちょうど女性の社会進出が始まった頃でした。雅子さまは、まさにその代表格だったのです。ハーバード大学、東京大学を経て外務省に勤務するキャリアウーマンという経歴の女性が、皇太子妃になられるというは当時衝撃的なことだったと記憶しています。社会に出られたことのある雅子さまと、海外留学の経験を持つ陛下というご夫婦は、今の日本国民の感覚に寄り添うことができると思います。また、ご夫婦としてもそうですが、今後、雅子さまご自身の存在感が令和の象徴になってくる気もしています。雅子さまをお手本にしたいという日本女性は増えるのではないでしょうか。

――愛子さまにとって天皇陛下と雅子さまは、どのようなお父さま/お母さまだと思われますか。

X 愛子さまは、勉強でわからないことがあると、よくご両親にお聞きになるそうです。天皇陛下は文系科目、雅子さまは理系科目がそれぞれお得意とのことで、科目に合わせてご両親に教えてもらっているとか。愛子さまは、特に歴史学にご興味があるようで、天皇陛下とは普段の雑談の中でも、そういった話をされているという話も耳にします。きっと愛子さまにとっては「なんでも知っているお父さん」という感覚だと思います。

 一方で、小学生のときに不登校気味になった愛子さまに、ずっと寄り添っておられたのが、お母さまである雅子さま。愛子さまは、雅子さまのことをとても信頼されていると思います。昨年夏、須崎御用邸近くの砂浜で、ご一家が取材対応をされた際、お二人が落ちていたゴミを拾って、“即席コント”のようなユーモラスな会話をされていたのも印象深いです。とても仲のいい母子だと感じました。