「『東京ガールズコレクション』に政治家が出るかも」――文化服装学院生が抱く、“政治と表現”への不安

 ファッション誌「ViVi」(講談社)が自民党の“PR記事”をウェブで公開し、大きな議論を呼んだことが記憶に新しい。ネットでは、「ファッション誌が特定政党の宣伝をするのはおかしい」などと大炎上していたが、「ViVi」世代であり、ファッションを学んでいる学生たちは、これをどう捉えていたのだろうか。リアルな声を聞くべく、文化服装学院・グローバルビジネスデザイン科4年の学生さん5名と、文化服装学院の非常勤講師である、国際政治学者・五野井郁夫氏を交えて話を聞いた。その中で見えてきた、「『ViVi』×自民党の問題点」そして「“PR広告”が雑誌にもたらした弊害」とは。

ファッションが政治の“宣伝”をすることで待ち受ける未来

――今回の「ViVi」の広告に何を思ったか、率直な意見を聞かせてください。

学生Aさん ファッション誌が政治広告を出すことに“違和感”がありました。今までこういったものを、見たことがなかったので。

学生Bさん グロテスク、ですね。まずファッションって、「表現をする」っていう側面があるので、仕事として政治と関わっちゃうと、音楽や芸術にも影響が出るんじゃないかと思います。

五野井氏 表現を自粛しちゃう、みたいなことかな。「この広告に出ちゃったから、もう自民党の悪口は言えない」とか。別に今のところ、自民党がファッションを脅かすようなことはしてないんだけど、「ViVi」はこれから「言えないメディア」になる可能性はありますよね。

学生Bさん それってエンターテインメントからすると、脅威ですよね。批判的な表現ができなくなるって、すごく怖いことだと思う。ここを取っ掛かりに、例えば『東京ガールズコレクション』とかに政治家が出てきそうだと思って……。そうなったら、もうファッションの危機ですよ。でも、あり得ない話じゃないからグロテスクだな、と。

学生Aさん ファッション誌が政治について何かを言うことは悪いことじゃないけど、“自民党”に限ってしまってるから、違和感があります。“自発性”の問題じゃないですかね。誰かから頼まれた“PR”だから、変な感じがするんです。

学生Cさん 自発的に政治を取り上げるなら、内容は批判的でも肯定的でも問題ないと思います。ダサいかカッコいいかは別として。特定政党の要望に応じて記事を出したことが、モヤモヤするポイントなんだと思います。

――ファッションと政治が関わることについては、肯定的ですか。

学生Bさん 政治的なメッセージを伝えるのは、ファッションの役割のひとつだと思います。ファッションは、政治的な主張を抽象的に表現できる力があるじゃないですか。それって、政治にとってはある意味“脅威”だと思うんですよね。

五野井氏 ディオールが2017年の春夏コレクションで発表した「We Should All Be Feminists(私たちはみなフェミニストであるべき)」みたいなメッセージとか。同年には、ミッソーニのショーでプッシーハット(編注:全米各地で行われた反トランプデモ「ウィメンズ・マーチ」で女性たちが身につけていた帽子)をかぶったモデルも登場していました。これらは極めて抽象化されたメッセージとして、政治へ意見を伝えられている。「みんなフェミニストであるべき」というだけで、だから何をしろということではない。そういうメッセージを伝える機能が、ファッションにはありますよね。そう考えると、今回の「ViVi」広告もファッション業界にとっては“脅威”だったのだろうか。

学生Aさん 私たちが唯一表現できる世界に踏み込まれたという点では、危機感を覚えましたね。これが進んでいくと、ランウェイはつまらなくなると思う。言われたものだけを作るみたいな。すでに『東京コレクション』がそんな感じになってるけど。

五野井氏 たしかに、リトゥンアフターワーズが18年春夏コレクションで「戦争反対」的なことを表現してたじゃないですか。棺桶引っ張ったりとか、焼かれた服が使われていたりとか。我々は「すごいな」と思うんだけど、基本的に日本のメディアは黙殺していく。たぶんこういった政治的メッセージを歓迎してないよね、『東京コレクション』自体が。

 1980年代以降のモードの服は、単なる服である以上に「メッセージを伝えたい」とか「コンセプトを伝えたい」といった目的があって、それが当たり前。けれども、今の状態のままだとファッションは「とりあえず服を作っておけ」「文化服装学院は洋裁学校のままでいろ」という旧態依然としたことにもなりかねない。ファッションとそれを扱う雑誌自体の意思ではなく、ファッション雑誌が政権与党の“宣伝”をするような状況が続くと「ファッションで主張するなら、我々に従え」と言われる未来が来るかもしれない。

――みなさんが「ViVi」の編集者だったとして、今回ような広告の依頼が来たらどうしますか。

学生Dさん 私はファッションに関わる人間として、プライドを持って「受けない」という選択をしたいけど……。やるとしたら、広告を掲載した次号で自民党以外の政党について取り上げるとか、一つの政党に偏らないようにします。

学生Bさん 依頼を受けざるを得ない状況だったら、すでに「自民党2019」キャンペーンに参加している人たちをモデルに使えば、「ViVi」としてのダメージは少なそう。芸能人でも自民党を支持してる人はいるし、そういう人を使えば、雑誌が自民党に加担したとはイメージされないのかな。

学生Dさん でも、「ViVi」読者に政治への関心を持ってもらうことが目的だとしたら、「ViVi」のモデルを使わなきゃ意味ないよね。となるとやっぱり、“三方よし”にすることは無理なんだと思う(笑)。そもそも私は、この広告、100%失敗だったと思います。

学生Aさん 話題になったからいいんじゃない?

学生Dさん でも本来の目的は、「ViVi」読者のような若い世代の女性に政治に関心を持ってもらうことだよ? これだけ炎上したら、いい印象ないんじゃない?

学生Cさん 炎上したことで目に留まって、自民党に疑問を持ったり肯定したりしたなら、それは政治参加なんじゃないかな。“宣伝”としてはどうなのかと思うけど、「興味を持ってもらう」という点では、失敗だったと言い切れないような気もする。

――今回、選挙の時にこの広告が頭をよぎったりすると思いますか。

学生Bさん 多分、忘れてると思います(笑)。ネットでは炎上してたけど、自民党が伝えたいメッセージとかは、何も印象に残らなかったし。

学生Eさん でも、「ViVi」を読む世代である高校生から大学に入りたての子たちにとっては、“自民党”って言葉はすごく印象に残ったと思います。親と一緒に投票に行ったときに、「あ、『ViVi』で見たな」って思い出すのは自民党だと思う。政策の中身ではなくて、名前を覚えさせるための広告だったら、ある意味成功してしまってるんじゃないかな。

五野井氏 “AKB選抜総選挙”とか、「ViVi」が主催している“タピオカドリンク総選挙”とか、それくらいしか”選挙”なるものに触れていない子たちにとっては、“自民党”というだけでもインパクトがあったかもしれない。

学生Dさん でもこの“タピオカドリンク総選挙”もさ、お金払って1位にしてもらったんじゃない? って思う(笑)。

学生Aさん 確かに、今回の「ViVi」広告があると、見方が変わっちゃうよね。このランキングも広告なんじゃないかな? とか。

学生Dさん 雑誌の信頼を落としただけじゃなく、政治の知識がまだ浅い自分たちの読者に向けて特定政党の広告を出すって、「『ViVi』は読者をどう思ってるんだろう?」と疑問ですね。

五野井氏 ある種の“擦り込み”ですよね。そういう「ViVi」の見識を疑うきっかけにもなってしまった。

学生Dさん そういえば“コスメランキング”とか、「ViVi」の世代が選ぶようなブランドじゃなくない!?

学生Bさん うわ、どんどん怪しく見えてきた(笑)。

学生Eさん 自分たちの意思じゃなく、サポートしてもらったから真実じゃないことを伝えてるとしたなら、何のために雑誌を作ってるかわからないよね。雑誌としての意義は何なんだろう、って感じ。

学生Bさん そういうふうに広告ばっかりやってるから、雑誌はつまらなくなるんだよ。「恥を知れ!」と言いたいです。

五野井氏 となると、自民党的には名前を覚えてもらっておいしかったけど、「ViVi」は信頼を落としているし、たとえお金をもらっていたとしても、ダメージの方がデカいだろうとも言えますね。

学生Eさん 私、高校生の時「ViVi」を読んでたんですけど、ただファッションを見せるだけじゃなくて、知識を与えるような読み物ページが結構多かったんですよね。周りでも読んでる子が多かったし、「これ『ViVi』に載ってたよね」って話題になることもあったなって、今振り返ると思います。

 そういう大事な雑誌のはずだったのに、今回の件があってから、雑誌に書いてあることを鵜呑みにしていたことが怖いなって……。「ViVi」編集部の人たちには、ネットの炎上以上に、自分たちが作る雑誌の読者に大きなショックを与えたことを、重く受け止めてほしいです。

「『東京ガールズコレクション』に政治家が出るかも」――文化服装学院生が抱く、“政治と表現”への不安

 ファッション誌「ViVi」(講談社)が自民党の“PR記事”をウェブで公開し、大きな議論を呼んだことが記憶に新しい。ネットでは、「ファッション誌が特定政党の宣伝をするのはおかしい」などと大炎上していたが、「ViVi」世代であり、ファッションを学んでいる学生たちは、これをどう捉えていたのだろうか。リアルな声を聞くべく、文化服装学院・グローバルビジネスデザイン科4年の学生さん5名と、文化服装学院の非常勤講師である、国際政治学者・五野井郁夫氏を交えて話を聞いた。その中で見えてきた、「『ViVi』×自民党の問題点」そして「“PR広告”が雑誌にもたらした弊害」とは。

ファッションが政治の“宣伝”をすることで待ち受ける未来

――今回の「ViVi」の広告に何を思ったか、率直な意見を聞かせてください。

学生Aさん ファッション誌が政治広告を出すことに“違和感”がありました。今までこういったものを、見たことがなかったので。

学生Bさん グロテスク、ですね。まずファッションって、「表現をする」っていう側面があるので、仕事として政治と関わっちゃうと、音楽や芸術にも影響が出るんじゃないかと思います。

五野井氏 表現を自粛しちゃう、みたいなことかな。「この広告に出ちゃったから、もう自民党の悪口は言えない」とか。別に今のところ、自民党がファッションを脅かすようなことはしてないんだけど、「ViVi」はこれから「言えないメディア」になる可能性はありますよね。

学生Bさん それってエンターテインメントからすると、脅威ですよね。批判的な表現ができなくなるって、すごく怖いことだと思う。ここを取っ掛かりに、例えば『東京ガールズコレクション』とかに政治家が出てきそうだと思って……。そうなったら、もうファッションの危機ですよ。でも、あり得ない話じゃないからグロテスクだな、と。

学生Aさん ファッション誌が政治について何かを言うことは悪いことじゃないけど、“自民党”に限ってしまってるから、違和感があります。“自発性”の問題じゃないですかね。誰かから頼まれた“PR”だから、変な感じがするんです。

学生Cさん 自発的に政治を取り上げるなら、内容は批判的でも肯定的でも問題ないと思います。ダサいかカッコいいかは別として。特定政党の要望に応じて記事を出したことが、モヤモヤするポイントなんだと思います。

――ファッションと政治が関わることについては、肯定的ですか。

学生Bさん 政治的なメッセージを伝えるのは、ファッションの役割のひとつだと思います。ファッションは、政治的な主張を抽象的に表現できる力があるじゃないですか。それって、政治にとってはある意味“脅威”だと思うんですよね。

五野井氏 ディオールが2017年の春夏コレクションで発表した「We Should All Be Feminists(私たちはみなフェミニストであるべき)」みたいなメッセージとか。同年には、ミッソーニのショーでプッシーハット(編注:全米各地で行われた反トランプデモ「ウィメンズ・マーチ」で女性たちが身につけていた帽子)をかぶったモデルも登場していました。これらは極めて抽象化されたメッセージとして、政治へ意見を伝えられている。「みんなフェミニストであるべき」というだけで、だから何をしろということではない。そういうメッセージを伝える機能が、ファッションにはありますよね。そう考えると、今回の「ViVi」広告もファッション業界にとっては“脅威”だったのだろうか。

学生Aさん 私たちが唯一表現できる世界に踏み込まれたという点では、危機感を覚えましたね。これが進んでいくと、ランウェイはつまらなくなると思う。言われたものだけを作るみたいな。すでに『東京コレクション』がそんな感じになってるけど。

五野井氏 たしかに、リトゥンアフターワーズが18年春夏コレクションで「戦争反対」的なことを表現してたじゃないですか。棺桶引っ張ったりとか、焼かれた服が使われていたりとか。我々は「すごいな」と思うんだけど、基本的に日本のメディアは黙殺していく。たぶんこういった政治的メッセージを歓迎してないよね、『東京コレクション』自体が。

 1980年代以降のモードの服は、単なる服である以上に「メッセージを伝えたい」とか「コンセプトを伝えたい」といった目的があって、それが当たり前。けれども、今の状態のままだとファッションは「とりあえず服を作っておけ」「文化服装学院は洋裁学校のままでいろ」という旧態依然としたことにもなりかねない。ファッションとそれを扱う雑誌自体の意思ではなく、ファッション雑誌が政権与党の“宣伝”をするような状況が続くと「ファッションで主張するなら、我々に従え」と言われる未来が来るかもしれない。

――みなさんが「ViVi」の編集者だったとして、今回ような広告の依頼が来たらどうしますか。

学生Dさん 私はファッションに関わる人間として、プライドを持って「受けない」という選択をしたいけど……。やるとしたら、広告を掲載した次号で自民党以外の政党について取り上げるとか、一つの政党に偏らないようにします。

学生Bさん 依頼を受けざるを得ない状況だったら、すでに「自民党2019」キャンペーンに参加している人たちをモデルに使えば、「ViVi」としてのダメージは少なそう。芸能人でも自民党を支持してる人はいるし、そういう人を使えば、雑誌が自民党に加担したとはイメージされないのかな。

学生Dさん でも、「ViVi」読者に政治への関心を持ってもらうことが目的だとしたら、「ViVi」のモデルを使わなきゃ意味ないよね。となるとやっぱり、“三方よし”にすることは無理なんだと思う(笑)。そもそも私は、この広告、100%失敗だったと思います。

学生Aさん 話題になったからいいんじゃない?

学生Dさん でも本来の目的は、「ViVi」読者のような若い世代の女性に政治に関心を持ってもらうことだよ? これだけ炎上したら、いい印象ないんじゃない?

学生Cさん 炎上したことで目に留まって、自民党に疑問を持ったり肯定したりしたなら、それは政治参加なんじゃないかな。“宣伝”としてはどうなのかと思うけど、「興味を持ってもらう」という点では、失敗だったと言い切れないような気もする。

――今回、選挙の時にこの広告が頭をよぎったりすると思いますか。

学生Bさん 多分、忘れてると思います(笑)。ネットでは炎上してたけど、自民党が伝えたいメッセージとかは、何も印象に残らなかったし。

学生Eさん でも、「ViVi」を読む世代である高校生から大学に入りたての子たちにとっては、“自民党”って言葉はすごく印象に残ったと思います。親と一緒に投票に行ったときに、「あ、『ViVi』で見たな」って思い出すのは自民党だと思う。政策の中身ではなくて、名前を覚えさせるための広告だったら、ある意味成功してしまってるんじゃないかな。

五野井氏 “AKB選抜総選挙”とか、「ViVi」が主催している“タピオカドリンク総選挙”とか、それくらいしか”選挙”なるものに触れていない子たちにとっては、“自民党”というだけでもインパクトがあったかもしれない。

学生Dさん でもこの“タピオカドリンク総選挙”もさ、お金払って1位にしてもらったんじゃない? って思う(笑)。

学生Aさん 確かに、今回の「ViVi」広告があると、見方が変わっちゃうよね。このランキングも広告なんじゃないかな? とか。

学生Dさん 雑誌の信頼を落としただけじゃなく、政治の知識がまだ浅い自分たちの読者に向けて特定政党の広告を出すって、「『ViVi』は読者をどう思ってるんだろう?」と疑問ですね。

五野井氏 ある種の“擦り込み”ですよね。そういう「ViVi」の見識を疑うきっかけにもなってしまった。

学生Dさん そういえば“コスメランキング”とか、「ViVi」の世代が選ぶようなブランドじゃなくない!?

学生Bさん うわ、どんどん怪しく見えてきた(笑)。

学生Eさん 自分たちの意思じゃなく、サポートしてもらったから真実じゃないことを伝えてるとしたなら、何のために雑誌を作ってるかわからないよね。雑誌としての意義は何なんだろう、って感じ。

学生Bさん そういうふうに広告ばっかりやってるから、雑誌はつまらなくなるんだよ。「恥を知れ!」と言いたいです。

五野井氏 となると、自民党的には名前を覚えてもらっておいしかったけど、「ViVi」は信頼を落としているし、たとえお金をもらっていたとしても、ダメージの方がデカいだろうとも言えますね。

学生Eさん 私、高校生の時「ViVi」を読んでたんですけど、ただファッションを見せるだけじゃなくて、知識を与えるような読み物ページが結構多かったんですよね。周りでも読んでる子が多かったし、「これ『ViVi』に載ってたよね」って話題になることもあったなって、今振り返ると思います。

 そういう大事な雑誌のはずだったのに、今回の件があってから、雑誌に書いてあることを鵜呑みにしていたことが怖いなって……。「ViVi」編集部の人たちには、ネットの炎上以上に、自分たちが作る雑誌の読者に大きなショックを与えたことを、重く受け止めてほしいです。

“元アウトローのカリスマ”瓜田純士、ジャニー喜多川氏の”少年愛”にシルク・ドゥ・ソレイユ創業者との共通点を見た!?

 解散、脱退、不祥事など、このところジャニーズ事務所の崩壊を予感させる事象が相次いでいたが、そんな中、社長のジャニー喜多川氏が亡くなった。数多くのアイドルを育ててきたカリスマを失い、今後の“ジャニーズ帝国”はどうなるのか? ジャニー氏に負けない先見性と審美眼を持つ 作家の瓜田純士(39)が、ジャニタレの未来を占った。

――創業以来、半世紀以上にわたりジャニーズ事務所を支えてきたジャニーさんが亡くなりました。この報道を受け、何を思いましたか?

瓜田純士(以下、瓜田) ジャニーズには全然詳しくないですけど、連日やっているニュースを見て、すごい人だったんだなって。所属タレントからしたら、本当にいいおじいちゃんだったと思うんですよ。だって、誰も悪く言わないじゃないですか。言えないのかもしれないけど。でも、悪いところがあったら(事務所を)辞めていると思うし、言われた通り信じて残った奴らはたいてい、いいポストに就いているじゃないですか。

――ジャニーさんの印象は?

瓜田 よく知らないですけど、直感的に思うのは、内部にいるタレントたちにとっては怖い存在だったんじゃないでしょうか。怒らせたらクビが飛ぶし、番組やCDもオシャカになる。「ジャニーさんに嫌われたら最後」って認識が、全員の中にあったはず。そのジャニーさんが提唱したとされる「アイドルは結婚しちゃダメ」みたいな掟を、直じゃなくても会社の人間から聞かされたら、守るしかない。「ジャニーさんの目が黒いうちは」みたいな恐怖心が、みんなの中にあったんじゃないでしょうか。

――近影を見たら、優しそうなお顔ですけどね。

瓜田 ヤクザの親分だってそうですよ。外部の人からは「気の良さそうなおっちゃんだな」と見えることが多い。でも、いざ自分がその組織の中に入り、周りから「あの人は雲の上の存在だ」みたいなことをさんざん聞かされて、みんながペコペコ挨拶しているのを3カ月も見ていると、その気の良さそうなおっちゃんが、だんだん神様みたいに見えてきちゃうものなんですよ。

 でもそんなヤクザの親分も、年老いて病気がちになると、月一の集まりでもただ奥に座っているだけのお飾りみたいになって、神通力も失われていく。ジャニーさんも、そうだったんじゃないかな。年を取り、弱気なおじいちゃんになるにつれ、「SMAP解散」「嵐も活動停止」などのほころびが見られるようになり、盤石なジャニーズ帝国ではなくなっていったのかもしれませんね。

 とはいえ、死後に叩かれる極悪な経営者ではなく、多くの所属タレントに愛されていたのは事実だと思いますよ。本当に純粋な少年のような人で、タレントを大事にしていたんじゃないかなって気がします。

――行きすぎた“少年愛”のウワサもありましたが。

瓜田 闘病中のジャニーさんの元をたくさんの所属タレントたちが代わる代わる訪れて、ジャニーさんの好物をみんなで食べて、そのことで容体も一瞬回復したりしつつ、最後は幸せに看取 られたというニュースを見て、俺は確信しましたよ。本当に体調がヤバいときに、ただのビジネス上の付き合いでしかない人たちに病室に来られたら、しんどいじゃないですか。

 家族しか無理ですよ。いや、家族でも会うのはしんどい。普通は側近に「もうすぐ元気になると伝えておいてくれ」と託して、面会を拒絶するぐらいの距離を保つと思う。それを病室まで呼んじゃうっていうことは、間違いなく肉親以上の感情があったということですよ。肉親以上の感情がなかったら、血もつながってない奴らが病室に来るのは無理ですよ。

――肉親以上の感情とは?

瓜田 愛や恋や性的なものだけでは説明できない「好きの感情」ってあると思うんですよ。息子以上にかけられる情熱というかね。もしかしたら、シルク・ドゥ・ソレイユの生みの親とかもそんな感情なのかも。関わるアーティストやスタッフのことを、心の底から愛している。そんな感じの、家族でも立ち入ることができない、あふれる愛があったんだと思う。

――シルク・ドゥ・ソレイユ、お好きなんですか?

瓜田 いや、見たことないので、勝手なイメージです(笑)。さらに勝手なイメージを膨らませるのであれば、何もない砂漠にカジノをつくったベンジャミン・シーゲルや、マコーレー・カルキンとの友情を育んだマイケル・ジャクソン、もしくは恵まれない子どもたちを養子にしているアンジェリーナ・ジョリーあたりの感情にも近いのかも。「この世界、この絆は、俺たち私たちがつくったんだ」というね。そこには部外者が立ち入れない愛のカタチがあると思う。

 ちなみにうちの嫁は、こう言っていました。「ジャニーさんは男やけど、オカンの気持ちやったんちゃう?」と。言い得て妙だな、と思いました。

――ところで、ジャニーズ事務所のこれまでのビジネスを、視聴者としてどんな思いで見ていましたか?

瓜田 10歳やそこらから目を付けて売り出して、本来ならどんどん新陳代謝させなくちゃならないのに、なんで40オーバーのおっさんたちをアイドル然とさせているんだろう? それで経済が回っちゃっているから、やめるにやめられないのかな? と以前は否定的に見ていたんですよ。ところがここ数年、自分もこの年齢になってくると、見方が大きく変わってきましたね。

 タッキーいるじゃないですか。滝沢秀明。彼がこないだね、(ジャニーさんの訃報を受けての会見で)ほうれい線を作ってしゃべっていたんですよ。あのタッキーがほうれい線って、そのショックがわかりますか? ありえないことなんですよ。でもね、そういう年齢になっても一生懸命前に出てきている姿に、俺は胸を打たれたんですよ。

 元SMAPの中居(正広) くんもそうじゃないですか。白髪隠しなのかハゲ隠しなのか、ピンクだか金髪だかよくわかんない色に髪を染めて、ドライヤーで精いっぱいボリュームを出して、小麦色のタンニングローションみたいなのを顔に塗りたくってでも、ああやって前に出てくるというのは、すごいことだと思うんです。

――どういう意味ですごいのでしょう?

瓜田 お金と手間をかけているとはいえ、あの年齢であそこまでの若さを維持しているっていうのは、すごいことじゃないですか。もともと美少年として出てきたから劣化を取り沙汰されがちだけど、マッチ(近藤真彦)やヒガシ(東山紀之)やタッキーなんかは、新橋あたりの居酒屋で禿げ上がって腹出して呑んだくれている同世代のおっちゃんたちと比べたら、今でもまったく別次元のきれいな人たちなんですよ。

――言われてみれば僕も以前、ヒガシと同じ写真に偶然写り込んでしまったことがあるのですが、その写真を見て愕然としました。「ヒガシと俺、果たして同じ人間なのか……?」と。

瓜田 そうなんですよ。「あいつ最近、宮根(誠司)さんみたいになっちまって 」なんて新橋の居酒屋で悪口を言ったところで、向こうから松潤(松本潤)が歩いてきたら、あまりのきれいさに全員ひれ伏しますって。あ、俺は別ですよ。俺はオーラが別格なんで。俺と並んだら、そんな奴らのオーラもかき消えますけど、コシャ平民から見たら、ジャニーズのタレントたちは別次元に映ることでしょう。

――しかし、今回ジャニーさんが亡くなったことにより、所属タレントたちのジャニーズ離れが加速するのではないかと見る向きもあります。瓜田さんはそのへん、どう読みますか?

瓜田 事務所を離脱して、今まで言えなかった、やれなかった言動をし始めて「えへへ」と調子づく奴も出てくるでしょうけど、その一方で、マッチやヒガシやタッキーといった“保守派”の年長者がビシッと気合を入れて、「フラフラするなよ」という空気を出しつつ、ストイックに事務所の伝統を守っていくんじゃないでしょうか。

――そんなジャニーズに残るほうが幸せなのか。それともジャニーズの呪縛から解き放たれたほうが幸せなのか。

瓜田 解き放たれて好きに生きようとした結果が、ぶくぶくに太った今の野村義男じゃないですか。組織から外れて好き勝手やっている奴は、やっぱ自分に甘いんですよ。もちろん、よっちゃんのギターはすごいんだけど、「見られる立場」から降りると、見た目はああなっちゃうんですよ。こないだ、よっちゃんをテレビで見ましたが、テキ屋のおっちゃんかと思いましたよ(笑)。同じたのきんトリオでも、スマートなマッチと全然違うじゃないですか。

 最近俺ね、キムタク(木村拓哉)のことも見直したんですよ。ずっとチビでダサいな思っていたけど、いまだに役者として第一線にいるし、顔も格好いいままだし、浮いた話のひとつもないじゃないですか。その心がけというか、徹底した自己管理は見事というほかない。俺は最近、自分もボディメイクを始めたせいもあって、自己管理をしっかりできる人らにしか共感できないんですよ。

 タッキーもそう。先日の挨拶のときの姿勢や表情ひとつとっても、新橋のサラリーマンとは全然違うじゃないですか。ああいう意識の高さを、われわれも見習わないとダメ。世のお父ちゃん方の良き見本にもなるはずだから、ジャニーズのタレントたちには還暦を過ぎてもアイドルを続けてほしいですね。……って俺、ジャニーズなんか全然知らないとか言っておきながら、どんだけ熱くジャニーズのことを語っているんだ、っていう(笑)。

(取材・文=岡林敬太)

※瓜田純士のYouTube好評配信中!(瓜田純士プロファイリング )  https://www.youtube.com/channel/UCv27YAy0FZ-4wwisy5zPmeg

※「“キング・オブ・アウトロー”瓜田純士、かく語りき」の記事一覧  https://www.cyzo.com/cat8/outlaw_charisma/

「民主主義の下で同じ事例は見たことない」――文化服装学院・服飾史の専門家が「ViVi」×自民党に警鐘

 ファッション誌「ViVi」(講談社)が自民党の“宣伝”をしたとして、先月ネット上で大きな波紋を呼んだ。同誌公認のインフルエンサーである“ViVigirl”たちが、「ハッピーに生きていける社会にしたい!」「自分らしくいられる世界にしたい」などと“理想の未来”を語り、記事の最後には、「#自民党2019」「#メッセージTシャツプレゼント」のハッシュタグとともに、「どんな世の中にしたいか」という自身の思いをSNSに投稿するよう促し、抽選で“ViVigirl”がデザインしたTシャツがプレゼントされる、との内容が記載されていた。

 このコラボPR記事が出回ると、ネット上では「政治の知識がまだ浅い子に向けて広告を出すのが気持ち悪い」「『ViVi』はファッション誌じゃなくて自民党の“広報誌”に成り下がった」と厳しい声が続出。ファッションが政治的なメッセージを発信することは珍しくないが、それは“反体制的”な意見であることが多い。例えば、クリスチャン・ディオールの2017年春夏コレクションでは、「We Should All Be Feminists(男も女もみんなフェミニストでなきゃ)」というメッセージが書かれたTシャツが登場し、ファッションで「男女平等」を訴えている。

 これまでのファッションと政治の関わり方とは“真逆”の流れともいえる「ViVi」騒動。これは、ファッションの歴史の中でどのような意味を持つのだろうか。文化服装学院専任講師で、近現代西洋服飾史・ファッション文化論を専門とする、朝日真氏に話を聞いた。

ファッションは常に“反体制”の象徴だった

――「ViVi」のPR広告の件について、いつどこで知りましたか。

朝日真氏(以下、朝日) 「朝日新聞」の記事でした。最初に抱いたのは、「なぜ講談社? なぜ『ViVi』だけ?」という疑問でしたね。政治に少しでも興味のあるファッション業界人は、総じてネガティブなイメージを持っているようで、「愉快な話ではないよね」「気味が悪い」と言っています。

――政権与党が特定のファッション雑誌を使いPRを行うといった、「ViVi」のような例は過去にもありましたか?

朝日 私が知る限りではないですね。政権与党がファッションに“擦り寄る”なんて、初めて聞いた気がします。歴史を振り返ると、ファッションは常に、“反体制”の象徴としてありました。一番最初の事例が、1960年代後半、ベトナム戦争下にアメリカで起こった「反戦運動」です。このときは、純粋な反戦の意思表示が大きなムーブメントとなり、ピースマークのTシャツなどファッションも“ヒッピームーブメント”につながっていきました。

――ヒッピームーブメントとは、どのようなものだったのでしょうか。

朝日 一般社会人が着るスーツではなくジーパンをはいたり、襟のあるシャツではなくTシャツを着たり、いわゆる“体制”への反発から、新しい若者のファッションが生まれました。体制側の保守的な格好にアンチテーゼを示しめすためだけでなく、“仲間意識”を高めるために、若者の間で自然発生的に共通のアイテムを持つようになったのではないでしょうか。最近でも、2014年に香港で起きた民主化要求デモ「雨傘革命」や、18年にフランスで起きた「イエローベスト運動」も、やはり共通アイテムを効果的に使って運動を推し進めました。

――ヒッピー以外にも、反体制的な動きがムーブメントにつながった例はありますか。

朝日 イギリスでは70年代に、経済状況の悪化から大学生の就職難など、保守政権に対する批判が相次ぎ、そうした怒りから“パンクムーブメント”が生まれました。ヒッピームーブメントとの違いは、それにデザイナーなどファッションのプロが目をつけたことです。マルコム・マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッドは、パンクムーブメントをファッションの手法としてうまく利用したのです。

――反体制的なことが大衆に受け入れられた、ということでしょうか。

朝日 そもそも“おしゃれ”というのは、“反体制”的なんですよ。大きな権力に対するアンチは、カッコよく見えますよね。だからこそ、マルコム・マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッドは、意図的にビジネスとして仕掛けたのだと思います。

 今年6月に発表されたGUCCIの2020年リゾートコレクションが掲げたテーマは、人工中絶を制限する法制度に反対を示す「My Body My Choice(私の体、私の選択)」で、これはローマン・カトリックという体制への批判です。このように、「体制に反抗することがおしゃれ・カッコいい」というファッションの歴史的な前提を踏まえると、「ViVi」と自民党のしたことは、全然おしゃれじゃない。ファッションらしくないわけです。

――世界的に見て、「体制がファッションを取り込む」ような出来事はありましたか。

朝日 アドルフ・ヒトラーの「ナチス」は、ファッションをプロパガンダに使いましたね。ベニート・ムッソリーニの「ファシスト党」もそう。もっと言えば、ナポレオンもそうです。彼らは“カッコいい軍服”をデザインさせて、軍隊に若者を引き込む手法を用いていました。そうしたファシズム的な、絶対的権力下には、ファッションのプロパガンダ利用がありました。しかし、日本のような民主主義の下では、同じような事例を見たことがありません。もしかしたら、自民党の「メッセージTシャツ」は、党を支持する人たちが着る“ユニフォーム”を意図していたのかもしれませんね。

――日本では、「反体制としてのファッション」が生まれにくいような気がします。

朝日 新しいファッションは若者から生まれますが、日本の若者は諸外国に比べると、政治に対する興味関心が薄い気がします。それが、反体制とファッションが結びつかない理由のひとつかもしれません。

――日本は政治とファッションの関わりが薄いのでしょうか。

朝日 60年代のヒッピームーブメントの時代、日本人も「ベトナム反戦運動」や「フォークゲリラ」に参加し、70年代には日米安保により「学生運動」が起こりました。でも、80年代以降の日本の若者は、体制に逆らわなくなった。2015年に安全保障関連法案に反対する大規模デモが行われましたが、あれが久しぶりだったのではないでしょうか。日本のファッションは基本的に、政治とはあまり関係ない場所で流行が生まれてきたと思うのですが、しかし、影響はされているでしょうね。

――どういった影響が見られますか。

朝日 日本のファッションは60年代~90年代まで、「ヒッピー」とか「コギャル」とか、流行がわかりやすくはっきりしていたんです。でも、2000年代以降って何がはやったかカテゴライズするのが難しくて、10年代になると、流行なんだか流行じゃないんだか、わかりにくいファッションが多くなってしまいました。そんな時代だからこそ「ViVi」の広告が掲載できたとも言えるでしょう。ファッションが好きでこだわりのある人から見れば、これはおしゃれじゃないですから。今までの歴史では、あり得ないことです。

 しかし裏を返せば、これは日本の若者のファッションに対する意識がレベルアップしたということでもあります。「流行の服を着てないと不安」とか、「みんなと同じ横並びという安心感」から脱却したんですよね。

――このPRは、成功したといえるのでしょうか。

朝日 これだけ話題になれば、炎上商法的には成功したんじゃないでしょうか。それに、さほど政治に興味のない人にとっては、印象に残ったという意味で、自民党にプラスに働いているようにも思います。この記事に嫌悪感を抱いた人は、そもそも政治に関心を持っている人でしょうし。ただ、今までの価値観から見ると、“ダサい”ですけどね。

――ファッションと政治は、どのような距離感が最適だと思われますか。

朝日 政治とファッションがつながること自体は、悪いことではないと思います。政治に興味のない人も、ファッションによって興味を持つ入り口になるから。でも今回の件に、「ViVi」読者に対して「政治の興味を持ってほしい」という意図があったとするなら、自民党だけじゃなくほかの政党の話題も取り上げる誌面を作るべきですね。現状だと、“偏り”がありますから。

――こうした現状がいきすぎて、ファッションが体制に取り込まれる可能性はあるのでしょうか。

朝日 それはないと思います。ファッションは、“アンチ”じゃないとファッションじゃない。おしゃれじゃないと、ファッションにはならないです。今も昔も、そこは絶対に揺るぎません。
(番田アミ)

■朝日真(あさひ・しん)
文化服装学院専任教授、専門は西洋服飾史、ファッション文化論。1988年、早稲田大学卒業後、文化服装学院服飾研究科にて学ぶ。『もっとも影響力を持つ50人ファッションデザイナー』(グラフィック社)共同監修。NHK『テレビでフランス語』(NHK出版)テキスト「あなたの知らないファッション史」連載。NHK『美の壺』他テレビ出演。

「民主主義の下で同じ事例は見たことない」――文化服装学院・服飾史の専門家が「ViVi」×自民党に警鐘

 ファッション誌「ViVi」(講談社)が自民党の“宣伝”をしたとして、先月ネット上で大きな波紋を呼んだ。同誌公認のインフルエンサーである“ViVigirl”たちが、「ハッピーに生きていける社会にしたい!」「自分らしくいられる世界にしたい」などと“理想の未来”を語り、記事の最後には、「#自民党2019」「#メッセージTシャツプレゼント」のハッシュタグとともに、「どんな世の中にしたいか」という自身の思いをSNSに投稿するよう促し、抽選で“ViVigirl”がデザインしたTシャツがプレゼントされる、との内容が記載されていた。

 このコラボPR記事が出回ると、ネット上では「政治の知識がまだ浅い子に向けて広告を出すのが気持ち悪い」「『ViVi』はファッション誌じゃなくて自民党の“広報誌”に成り下がった」と厳しい声が続出。ファッションが政治的なメッセージを発信することは珍しくないが、それは“反体制的”な意見であることが多い。例えば、クリスチャン・ディオールの2017年春夏コレクションでは、「We Should All Be Feminists(男も女もみんなフェミニストでなきゃ)」というメッセージが書かれたTシャツが登場し、ファッションで「男女平等」を訴えている。

 これまでのファッションと政治の関わり方とは“真逆”の流れともいえる「ViVi」騒動。これは、ファッションの歴史の中でどのような意味を持つのだろうか。文化服装学院専任講師で、近現代西洋服飾史・ファッション文化論を専門とする、朝日真氏に話を聞いた。

ファッションは常に“反体制”の象徴だった

――「ViVi」のPR広告の件について、いつどこで知りましたか。

朝日真氏(以下、朝日) 「朝日新聞」の記事でした。最初に抱いたのは、「なぜ講談社? なぜ『ViVi』だけ?」という疑問でしたね。政治に少しでも興味のあるファッション業界人は、総じてネガティブなイメージを持っているようで、「愉快な話ではないよね」「気味が悪い」と言っています。

――政権与党が特定のファッション雑誌を使いPRを行うといった、「ViVi」のような例は過去にもありましたか?

朝日 私が知る限りではないですね。政権与党がファッションに“擦り寄る”なんて、初めて聞いた気がします。歴史を振り返ると、ファッションは常に、“反体制”の象徴としてありました。一番最初の事例が、1960年代後半、ベトナム戦争下にアメリカで起こった「反戦運動」です。このときは、純粋な反戦の意思表示が大きなムーブメントとなり、ピースマークのTシャツなどファッションも“ヒッピームーブメント”につながっていきました。

――ヒッピームーブメントとは、どのようなものだったのでしょうか。

朝日 一般社会人が着るスーツではなくジーパンをはいたり、襟のあるシャツではなくTシャツを着たり、いわゆる“体制”への反発から、新しい若者のファッションが生まれました。体制側の保守的な格好にアンチテーゼを示しめすためだけでなく、“仲間意識”を高めるために、若者の間で自然発生的に共通のアイテムを持つようになったのではないでしょうか。最近でも、2014年に香港で起きた民主化要求デモ「雨傘革命」や、18年にフランスで起きた「イエローベスト運動」も、やはり共通アイテムを効果的に使って運動を推し進めました。

――ヒッピー以外にも、反体制的な動きがムーブメントにつながった例はありますか。

朝日 イギリスでは70年代に、経済状況の悪化から大学生の就職難など、保守政権に対する批判が相次ぎ、そうした怒りから“パンクムーブメント”が生まれました。ヒッピームーブメントとの違いは、それにデザイナーなどファッションのプロが目をつけたことです。マルコム・マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッドは、パンクムーブメントをファッションの手法としてうまく利用したのです。

――反体制的なことが大衆に受け入れられた、ということでしょうか。

朝日 そもそも“おしゃれ”というのは、“反体制”的なんですよ。大きな権力に対するアンチは、カッコよく見えますよね。だからこそ、マルコム・マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッドは、意図的にビジネスとして仕掛けたのだと思います。

 今年6月に発表されたGUCCIの2020年リゾートコレクションが掲げたテーマは、人工中絶を制限する法制度に反対を示す「My Body My Choice(私の体、私の選択)」で、これはローマン・カトリックという体制への批判です。このように、「体制に反抗することがおしゃれ・カッコいい」というファッションの歴史的な前提を踏まえると、「ViVi」と自民党のしたことは、全然おしゃれじゃない。ファッションらしくないわけです。

――世界的に見て、「体制がファッションを取り込む」ような出来事はありましたか。

朝日 アドルフ・ヒトラーの「ナチス」は、ファッションをプロパガンダに使いましたね。ベニート・ムッソリーニの「ファシスト党」もそう。もっと言えば、ナポレオンもそうです。彼らは“カッコいい軍服”をデザインさせて、軍隊に若者を引き込む手法を用いていました。そうしたファシズム的な、絶対的権力下には、ファッションのプロパガンダ利用がありました。しかし、日本のような民主主義の下では、同じような事例を見たことがありません。もしかしたら、自民党の「メッセージTシャツ」は、党を支持する人たちが着る“ユニフォーム”を意図していたのかもしれませんね。

――日本では、「反体制としてのファッション」が生まれにくいような気がします。

朝日 新しいファッションは若者から生まれますが、日本の若者は諸外国に比べると、政治に対する興味関心が薄い気がします。それが、反体制とファッションが結びつかない理由のひとつかもしれません。

――日本は政治とファッションの関わりが薄いのでしょうか。

朝日 60年代のヒッピームーブメントの時代、日本人も「ベトナム反戦運動」や「フォークゲリラ」に参加し、70年代には日米安保により「学生運動」が起こりました。でも、80年代以降の日本の若者は、体制に逆らわなくなった。2015年に安全保障関連法案に反対する大規模デモが行われましたが、あれが久しぶりだったのではないでしょうか。日本のファッションは基本的に、政治とはあまり関係ない場所で流行が生まれてきたと思うのですが、しかし、影響はされているでしょうね。

――どういった影響が見られますか。

朝日 日本のファッションは60年代~90年代まで、「ヒッピー」とか「コギャル」とか、流行がわかりやすくはっきりしていたんです。でも、2000年代以降って何がはやったかカテゴライズするのが難しくて、10年代になると、流行なんだか流行じゃないんだか、わかりにくいファッションが多くなってしまいました。そんな時代だからこそ「ViVi」の広告が掲載できたとも言えるでしょう。ファッションが好きでこだわりのある人から見れば、これはおしゃれじゃないですから。今までの歴史では、あり得ないことです。

 しかし裏を返せば、これは日本の若者のファッションに対する意識がレベルアップしたということでもあります。「流行の服を着てないと不安」とか、「みんなと同じ横並びという安心感」から脱却したんですよね。

――このPRは、成功したといえるのでしょうか。

朝日 これだけ話題になれば、炎上商法的には成功したんじゃないでしょうか。それに、さほど政治に興味のない人にとっては、印象に残ったという意味で、自民党にプラスに働いているようにも思います。この記事に嫌悪感を抱いた人は、そもそも政治に関心を持っている人でしょうし。ただ、今までの価値観から見ると、“ダサい”ですけどね。

――ファッションと政治は、どのような距離感が最適だと思われますか。

朝日 政治とファッションがつながること自体は、悪いことではないと思います。政治に興味のない人も、ファッションによって興味を持つ入り口になるから。でも今回の件に、「ViVi」読者に対して「政治の興味を持ってほしい」という意図があったとするなら、自民党だけじゃなくほかの政党の話題も取り上げる誌面を作るべきですね。現状だと、“偏り”がありますから。

――こうした現状がいきすぎて、ファッションが体制に取り込まれる可能性はあるのでしょうか。

朝日 それはないと思います。ファッションは、“アンチ”じゃないとファッションじゃない。おしゃれじゃないと、ファッションにはならないです。今も昔も、そこは絶対に揺るぎません。
(番田アミ)

■朝日真(あさひ・しん)
文化服装学院専任教授、専門は西洋服飾史、ファッション文化論。1988年、早稲田大学卒業後、文化服装学院服飾研究科にて学ぶ。『もっとも影響力を持つ50人ファッションデザイナー』(グラフィック社)共同監修。NHK『テレビでフランス語』(NHK出版)テキスト「あなたの知らないファッション史」連載。NHK『美の壺』他テレビ出演。

RIZINデビューから4連勝! 朝倉兄弟がついにメイン戦へ――兄・未来は「勝って引退」!?

   朝倉兄弟がこの夏、いよいよ主役に躍り出る!――総合格闘家の朝倉未来 (みくる・27)が7月28日(日)開催の「RIZIN.17」(さいたまスーパーアリーナ)で、矢地祐介(29)とメインで対戦。弟の海 (かい・25)も8月18日(日)開催の「RIZIN.18」(ドルフィンズアリーナ/愛知県体育館)で、世界初の総合格闘技2団体同時王者 である堀口恭司(28)とメインで戦うことが決まったのだ。不良の格闘技大会「THE OUTSIDER」出身の兄弟が、ともに「RIZINで4勝無敗」という快進撃の末につかみ取ったメインの座。ここで勝てば一気にスターダムにのし上がれるが、2人の現在の心中やいかに? 爆弾発言連発の独占インタビューをお届けしよう!

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 インタビュー場所は、都内のファミリーレストラン。「好きなものを頼んでください」と告げると、それまで仏頂面だった兄・未来の表情が一瞬ほころんだ。「本当ですか? 俺、めちゃくちゃ食いますよ。食うのも速いですけど」と言って、ステーキとスパゲティとフレンチトーストを矢継ぎ早にオーダー。試合を控えたこの時期に、そんなに食べて大丈夫なのか? と心配になったが、そういえば彼は次戦に向けて増量をしなければならないのだということに、後で気づいた。一方、弟の海は、ハンバーグセット1人前を注文。「ドリンクバーは?」と聞くと、「水でいいです」と答えた。

――兄弟ともどもRIZINデビューから破竹の4連勝を飾り、「早くも」と言うべきか「ついに」と言うべきか、メインの座を勝ち取りました。まずは、お兄さんにお尋ねします。矢地戦が決まった率直な感想をお聞かせください。

朝倉未来(以下、未来) 今年4月のRIZIN.15で俺と(ルイス・)グスタボの試合が決まったとき、RIZINの榊原(信行) 代表が会見で「この試合に勝ったほうが矢地とやる」と言っていたので、いずれやるんだろうな、とは思っていました。ただ、なんで勝ったほうが矢地とやるのかがよくわからなかった。だって、矢地は(RIZIN.12で)グスタボに負けているじゃないですか。俺は結局グスタボに勝ったので、ますます矢地とやる意味がないな、と思いました。

――人として、そしてファイターとして、矢地選手にはどんな印象を抱いていますか?

未来 Twitterの一件(後述)があるまでは、人当たりが良さそうな感じの人だな、一緒にRIZINを盛り上げようぐらいには思っていたんですけど、ファイターとしては正直、気にも留めていませんでした。そもそも階級が違いますからね。ところが、俺が昨年末、ライト級の北岡(悟)選手との試合のオファーを断った後に、矢地が「対戦相手は団体が決めること。選手に選ぶ権利はない」みたいな悪口的なツイートをしたんですよ。そこから「こいつ、偉そうだな」「やってやろうかな」と思うようになりました。

――今回の試合が実現するまでの争点は、体重差でした。未来選手は66 kg、矢地選手は70 kgが適正体重。結局、70 kgで戦うことに決まりましたが、かつては「矢地なら70 kgでもやってやる」と言っていた未来選手が、交渉の過程で「間を取って68 kgでどうか」と打診してきたことなどを受けて、矢地選手は「そもそも70kgで俺とやりたいって言ったの誰だよw」とツイートしています。

未来 「70 kgでもやってやる」と言ったのは、俺がグスタボに勝つ前の話。俺がグスタボに勝った時点で、世間の評価はすべて変わっているんで、俺が矢地とやるメリットは何もないんですよ。もしそれでもやりたいなら、彼の言葉を借りるのであれば、「負けた奴に未来はない」んで、あいつに選択肢はないんですよ。だから俺がやってあげるんであれば、俺の体重(66 kg)に合わせるのが筋じゃないですか。でもそれはキツいだろうから、俺は間を取って「68 kgでやりましょう」と言ったら、あいつはかたくなに断った。だけどRIZINからは「試合をしてほしい」と言われるし。「だったら俺が70 kgに上げてやってやるよ」という話です。

――五味隆典選手がそんな両者の争いを見て、「日本を引っ張ろうってエースが1キロ2キロでガタガタ言って、40歳のおじさんとはやりたいって どっちもエースじゃねーよw」とインスタグラムで苦言を呈したのをご存じですか?

未来 はい。でも俺、エースだのなんだのに、もともとまったく興味がなくて(笑)。俺はエースになりたいだなんて一言も言っていないので、なんとも思わないです。そんなことはどうでもいいから、って感じです。

――そんなことよりも、何が大事なのでしょう?

未来 実際に試合が決まっているので、「どっちが勝つか」が大事なんじゃないですか? 五味選手は昔活躍していたのはすごいと思いますけど、今は呑んだくれているただのオッサンじゃないですか。試合もしていないんだから、グダグダ言うな、と思います。これは俺の推測ですけど、たぶん五味選手は、俺と矢地の勝ったほうとやりたいんでしょう。だから伏線じゃないけど、「ここで一発かましとこう」みたいな考えなんだと思います。でも俺はやりたくないんで、やらないですけどね。

――なぜ、やりたくないんですか?

未来 戦う意味がないからです。こっち、勝って当然の試合。全然やりたいと思わないです。まあでも、尊敬はしていますけどね。彼の功績に関しては。ただ、今のあの人に興味はないです。

――相変わらずズバズバと物を言うので、ヒヤヒヤしてしまいます。しかし、前回大会の挨拶でリングに上がった際に、榊原代表や観客が見守る中、「埼玉(さいたまスーパーアリーナ)のメインでお願いします 」とマイクでアピールし、それを実現させてしまうなど、未来選手の発言には扇動力がありますね。ああいった立ち居振る舞いはすべて、計算ず くなのでしょうか?

未来 場面でも考えますけど、だいたい計算ずくです。俺、将棋が好きで。世の中のすべてのことは、だいたい将棋と一緒だと思っています。詰めて詰めて相手が動けなくなるように仕向けるのが得意ですね(と言いながらスパゲティを平らげる)。

――本当に食べるのが速いですね(笑)。

未来 スパゲティは飲み物なんで。それにしても、順序がおかしくないですか? 普通はステーキから来るはずなのに、先にスパゲティが出てきた。ま、別にいいけど。

――(笑)。ところで最近、YouTubeの配信を始めましたね。コワモテな未来選手の意外な素顔を知ることができて面白いです。特に驚いたのは、歌のうまさでした。

未来 歌は昔からずっと好きで、カラオケにもよく通っていたんですよ。歌がうまいのは、モテる要素じゃないですか。

――YouTubeの配信を始めたことで、格闘技へのしわ寄せなどは来ていないですか?

未来 オフの日曜に3本ほどまとめ撮りしているんで、まったく苦にならないですね。息抜きにもなるし、楽しいです。

――未来選手に、ネット上で絡んでくる奴はいませんか?

未来 コメントでたまに煽られるぐらいですね。でも、全然カチンときたりしないですよ。頭悪いな、とは思いますけど。たとえば、街のケンカ自慢とスパーリングする動画を上げたところ、「弱い者イジメだ」と批判する奴もいたけど、賢い人が見ればそうじゃないことがわかるはずだから、叩かれてもなんとも思わないですね。アンチも含めたくさん見てもらっているおかげで稼げてもいるから、別にいいや、と。

――今、一番欲しいものはなんですか?

未来 自由ですね。そのための手段として、お金が欲しいです。YouTubeの配信も、そのためにやっています。

――矢地戦の後のビジョンはありますか?

未来 特に何も。ただ、試合のときだけは命を懸けます。その先のことは何も考えていないですね。

――将棋的な発想でいうと、先々のことを考えるのが大事だと思うのですが。

未来 障害によっても、いろいろと未来も変わると思うし。格闘技はもう次でやめるかもしれない。いつやめるか本当にわからないですね。勝って引退するかもしれないし。

――おっと、衝撃的な発言が飛び出しました。その発言の真意は後ほど改めてお伺いするとしましょう。さて、ここからは弟さんにインタビューをします。相手のケガや自身のケガなどが重なり、今年になって1試合もしていない海選手ですが、8月に行われる休み明け初戦で、いきなり堀口恭司選手と戦うことになりました。このカードが発表される直前、海選手は「全てのタイミングには意味がある」とツイートしていたのですが、あれはどういう意味なのでしょう?

朝倉海(以下、海) ケガをしたことも、試合が何度も流れてしまったことも、すべてに意味があるんじゃないか、と。いくつか不運も重なりましたが、もし堀口戦が決まれば、それもこれも結果的に良かったことになるんじゃないか、という意味です。

――堀口選手がRIZIN.18に参戦するとわかった途端、海選手は、いの一番に挑戦の意思表示をしましたね。

 RIZIN.18が行われる愛知は俺の地元なので、弱い相手とやって勝っても自分が面白くないし、お客さんも面白くない。俺はやっぱり、格上といわれる相手と常に戦っていたいんです。そういう思いで、堀口選手への挑戦をアピールしました。

――堀口選手は目下13連勝中 の強敵ですが、海選手は彼の実力をどのように評価していますか?

 たぶん今、この階級で世界一強い選手なんじゃないでしょうか。RIZINとベラトール、2団体の王者ですからね。

――堀口選手が最後に負けたのは、2015年4月のデメトリアス・ジョンソン(DJ)戦 。あの頃の彼とは別物ですか?

 全然違うと思います。今やったら、DJに勝つんじゃないでしょうか。

――そんな堀口選手に海選手が挑むのは、「まだ早い」という声も多く聞かれます。

 そう言われるのもわかるけど、もともと俺は世界チャンピオンになることを目標にしているので、一番強い人とやれるチャンスがあるなら迷わずやりますよ。早いとか遅いっていうのは外野が決めることじゃなく、団体の代表なり運営側が決めること。逆に日本人がやらないで誰がやるの? 俺がやるしかないんじゃないの? と思っています。

――お兄さんは、堀口選手のことをどう思っていますか?

未来 (ステーキを頬張りながら)まあ、強いですね。

――彼の最も優れている点を教えてください。

未来 「自信」かな。曇りがないっていうか。雑誌で堀口選手と対談したことがあるんですけど、ある意味、ちょっと頭悪いのかな? と思っちゃいました。マイナスなことをまったく考えないんですよ。自己催眠をかけているんじゃないかっていうぐらい、「自分が絶対勝つ」と信じ込んでいる。だから曇りがないんですね。でもそれって、格闘家にとって重要な資質なんですよ。

――ところでお兄さんは以前、ベラトールのトーナメントへの出場をアピールしていましたが、あの話は進んでいるのでしょうか?

未来 何も進んでいないですね。まあ、どっちでもいいやって感じ。何かに出たいとか、誰かとやりたいとか、全然思っていないですね。最近は。

――いったい、どうしちゃったのでしょう……?

未来 いや、別に。どうしたと言われても(笑)。

――格闘家になる前、愛知の豊橋にいた頃は、刺激を求めてケンカに明け暮れていたとのことですが、あの頃のような精神状態ではなくなってきているのでしょうか?

未来 変わってきましたね。だいぶ落ち着いたというか。最近は特に刺激も求めていないし。だんだん疲れてきましたね、戦うことに。ある程度プロでもやってきたし、だいぶ疲れてきたかな。ほかにも人生でやりたいことがあるし。

――歌ですか?

未来 歌はわからないけど、ブランドを立ち上げるとか、YouTubeを充実させるとか、いろいろやりたいことがあるので、格闘技だけに時間を費やしていられないという感じはしますね。30~40歳になってまで、なあなあで続けたいとは、最初から思っていないんですよ。引退の美学として、一番強いときにやめたい。自分の成長を感じられなくなったら、やめると思います。

――今日が格闘家として最後のインタビューになったりして……。では、おふたりから、次戦への意気込みをお聞かせください。

未来 試合のときは命を懸けて戦うので、その戦いを楽しみにしてほしいですね。

 長いこと試合から離れていたけど、その間ずっと練習を続けてきて、去年の大みそかよりも数段強くなっているので、その成長ぶりを試合で見せたいと思っています。当然、勝てると思っていますし、命懸けで勝ちにいきます。

――海選手の将来のビジョンは?

 行けるとこまで行きたいですね。世界のトップを目指したいです。

――有名になりたいんですか?

 というよりは、格闘技が好きなので、格闘技を広めたい。そのために有名になりたいという感じです。

――お兄さんはその点、どうでしょう? 「歴史に名を刻みたい」みたいな欲はありますか?

未来 全然ないです。もともと有名になりたいと思っていないので。有名になって顔が売れたら、生きづらくなるだけじゃないですか。有名になることは、俺の自由の哲学に反しているんですよ(と言って、フレンチトーストの最後の一切れを口の中に放り込む)。

――本日は試合前の貴重な時間を割いていただき、ありがとうございました。いい食いっぷりも見せてもらいました(笑)。

未来 まだちょっと食い足りないから、俺はこのまま店に残ろうかな。追加分は自分で払うので、どうぞお先にお帰りください。

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 肉食系の野心家に見えて、さめた部分も持ち合わせている兄。クールに見えて、語る内容は熱い弟。タイプは異なるふたりだが、「試合に命を懸ける」という覚悟は一致するようだ。ただのビッグマウスで終わるか? それとも有言実行となるか? 朝倉兄弟の“夏の陣”を見逃すな!

(取材・文=岡林敬太/撮影=長谷英史)

●【RIZIN.17】 ※朝倉未来が出場

日時/2019年7月28日(日) 開場12:30 開始14:00 

会場/さいたまスーパーアリーナ

チケット/VIP席:100,000円(特典付)

     SRS席:25,000円

     S席 :15,000円

     A席 : 7,000円 ※完売

イープラススペシャル 朝倉未来 応援シート受付

https://eplus.jp/sf/sports/rizin17_asakura

 

●【RIZIN.18】 ※朝倉海が出場

日時/2019年8月18日(日) 開場13:00 開始14:00 

会場/ドルフィンズアリーナ(愛知県体育館)

チケット/VIP席:100,000円(特典付)

     SRS席:25,000円

     S席 :15,000円

     A席 : 7,000円

朝倉海 応援シート受付/IACEトラベル 

☎︎043-212-7035(平日9:30〜18:00 土・日・祝休業)

MAIL:makuhari@iace.co.jp(土・日・祝はメール受付可。ただし返信は平日になります)

 

 

「日本女性は恐ろしい状況にいる」避妊の選択肢が示す“女の人権”とは?【早乙女智子×福田和子対談】

  望まない妊娠を防ぐ“避妊”。女性の体やライフプランを形成する上で、大切な行為であるにもかかわらず、「ピルを飲むのは遊び人」「コンドームは男性に着けてもらうもの」などのイメージから、女性が主体的に行いにくい面もあります。しかし、多くの国で避妊について考えることは、「自立」した女性の証しとして当たり前に受け止められており、避妊の種類も豊富で無料で配布される場合や低価格で提供する国もあるほど。そんな日本と海外の避妊事情の違いを、前回、公益社団法人ルイ・パストゥール医学研究センター研究員で産婦人科医の早乙女智子医師と、日本の性を考える「#なんでないの」プロジェクト代表の福田和子さんに対談していただきました。後編となる今回は、日本の避妊事情をクローズアップしながら、女性主体の避妊について考えていきます。

(前回:日本の避妊は「途上国」以下――ガーナ人女性が激怒した現実

コンドームは避妊方法にカウントされていない!

――前回、海外の避妊法を一覧にしたシートを拝見して、選択肢の多さに驚きました。

福田和子さん(以下、福田) 日本で選べるのは、コンドーム、低用量経口避妊薬ピル(以下、ピル)、子宮内避妊システムのIUSとか(以下、IUS)くらいですよね。ただ、IUSは使っている人も少ないし、避妊目的なら原則で経産婦が対象になっているから、出産経験のない女性だとピルかコンドームのほぼ2択になってしまいます。「#なんでないの」プロジェクトの活動をしている中で「ピルが体に合わなくて、でも自分で避妊したい」という相談をいただくこともありますが、すごい切実な問題だと感じています。

――ピルが体質に合わないなら、コンドームを使用すればいいのでは?

早乙女智子医師(以下、早乙女) そもそもコンドームをちゃんと使用しても避妊の失敗率は2%もあり、正しく使えていなければ失敗率は15%とされているため完璧とは到底言えません。例え話ですが、雨が降っている日に会議をするとしたら、傘をさしながら野外で話すのと室内のどちらを選びますか? みなさん当然のように室内を選択すると思いますが、言い換えるとコンドームは傘でしかないんです。傘をさしても雨に濡れるでしょう。つまり、それが避妊失敗ということ。いかにコンドームの避妊率が低いのかわかると思いますが、何も特別なことを言ってるのではなく、当たり前の選択として「室内=成功率の高い避妊法」を使おうという話なんです。

福田 この表は13種類の避妊法が避妊の効果別に3列に分けられていて、一番上の方法が避妊効果の高いもので、下に行くほど低くなっています。多くの日本人が使用しているコンドームは一番下の列に表示されていますが、同列にある膣外射精やオギノ式は“伝統的”や“昔ながらの習慣”という意味の「トラディショナル」と呼ばれているんです。つまり、海外での認識としては、コンドームによる避妊はものすごく遅れていて、避妊法としてカウントされてないようなもの。

――日本では最もポピュラーな避妊法なのに、避妊効果がこんなに低いんですね。

福田 2015年にWHOが発表したTrends in Contraceptive Use Worldwide2015を参考に、現代的避妊法が用いられている場合、どういった方法が使用されているのかを円グラフ化(表1)すると、世界的にはIUDや避妊注射、避妊インプラント、ピルなどいろいろな避妊法に分散している様子がわかります。しかし、日本だけに絞ったグラフを見るとほぼコンドーム一色。さらに、同資料を元に作成した、現代的避妊をする場合の男女主体率を表す棒グラフ(表2)では、日本だけ男性主体率が90%以上になっています。

早乙女 恥ずかしいですよね。確実な避妊法がいくつもある21世紀に、旧態依然として20世紀の避妊法にしがみついている理由がわからない。「男性も避妊に責任を持つべきだから、コンドームを使う」と言っている人もいるけど、それはもう「勝手に使え」って話で、女性が“自分”で避妊を考えることとはまったく別の話。それに、男性が避妊することについては「どうぞ」と思いますが、決して女性がお願いするものじゃない。私たちは自分で自分を守る選択を、確実な選択肢の中からすればいいんだから。

福田 日本は「男の人が避妊をしてくれる素敵な国」っていう考え方の女性もいるけど、逆を言えば、男性が最後の最後で避妊をしないって決めたら、女性はどうしようもないという脆弱性があるんですよね。そもそもコンドーム自体の成功率って一番下なわけじゃないですか。そう考えると、日本女性は恐ろしい状況下にいるよな……と私は思います。女性が主体的にライフプランを組んで、キャリアを積んでかつ家庭やパートナーを持つことって難しすぎますよ。

――産婦人科の現場感覚でも、日本ではコンドームの使用者が大半だと感じますか?

早乙女 カップルでも夫婦間でもコンドーム。ある程度クローズな関係であれば、性感染症のリスクも少ないので、コンドームより“確実”な避妊法を取り入れたほうがいいと思います。リサーチしてみたところ、コンドームを“好き”で使っているという人はほぼおらず、みんな「なんとなく」とか「ほかに方法がないから」という理由で使い続けているようです。

――ピルやIUSという選択肢にはつながらないんですね。

早乙女 特にIUSは、子宮の中に入れるのが怖いという人が結構多いんですよね。でも、ピアスも開けるし、コンタクトも入れるのに(笑)。それに、“みんな”コンドームだからという人もかなり多い印象です。でも、あなたの人生において、どんな仕事をするか、どんな人とお付き合いをするか、どのタイミングで子どもを持つかなど、全部含めて考えたときに、「あなた」のその避妊で、「あなたの人生完結しますか?」 ということを本当に聞きたい。仕事だってみんな違うんだから、避妊法だって“人それぞれ”でいいはずです。「あなたはどうなんですか?」と聞かれたときに、「私はね」と言える女性になってほしいと思いますね。
――日本でコンドームが絶対的になっているのは、どうしてなんでしょうか?

早乙女 性教育の中で“ちゃんと”大事な情報が省いてあるからですよ(笑)。

福田 保健体育などの教科書を調べてみると、最初に出てくるのがコンドームについてで、ピルはその後ろ。しかもその説明も、「コンドームは副作用なし、ピルはあり」とか「コンドームはすぐ買えて安い、ピルは高くて医療機関に行かなきゃいけない」などのお粗末な書き方。避妊をよく知らない学生が授業で習ったら、「絶対にピル買わない」と思ってしまうような説明です。コンドームばかり推されて、全然フェアじゃないんです。

早乙女 ピルは値段とハードルもバカ高いと思わせれば、「コンドームは簡単で手軽」という結論に導かせられます。そして、男性主体の避妊が当たり前になれば、女性を“管理”しやすくなる。

福田 ピルが承認される前夜の国会答弁でも、「コンドームは安くて簡単だし、ちゃんと使えば避妊効果も十分に高いからいいんじゃない?」という内容の発言がありましたよね。でも、世界的に見るとコンドームは最低ランクの避妊法ですし、それを十分って言われてしまうのは、女性の切実さがないがしろにされているような気がして、おかしいと思いました。

早乙女 バイアグラは半年で認可が下りたけれど、ピルは40年かかっています。そのことからもわかるように、日本は「女性に人権」がないんですよ。以前、IUS治験の段階で、すべての女性を対象にしましょうよって提案したことがあるんだけど、「とりあえず経産婦で」って怒られたこともありますよ。

福田 その「とりあえず」で奪われた私の選択肢はいつ手に入れられるの? って感じですね。アメリカのアラバマ州では、人工妊娠中絶が実質ほぼ全面的に禁止されたことに対して、プロテストの女性たちが声を上げたのですが、そのワードの一つに「私の子宮に踏み込まないで」というものがありました。その言葉を借りれば、「日本はめちゃくちゃ子宮に踏み込まれている」のに、女性がそれに気付いていないような気がします。

海外ではアフターピルを薬局でも買えるのに……。遅れすぎの日本

――先日、アフターピルのオンライン処方に関する厚生労働省の検討会が話題になりましたが、そこでも“子宮に踏み込まれた”出来事があったと聞きました。

福田 検討員12人中女性は1人だけで、しかも、「3週間後の受診をどう確保するか? 首に縄付けて引っ張っていくわけにはいかないし……」とか、「オンラインなら確実にトラッキングできる」など、人権を無視した発言を平気で言えちゃう感覚の下に検討会が進んでいたんです。

早乙女 検討員に女性が1人って、ピルの検討会をしていた20年以上前と、ほとんど状況が変わっていないじゃないですか。

福田 そうなんです。女性だからわかる、男性だからわからないとは言わないけれど、女性の使う薬の検討会の場であるのに、女性の検討員が勇気をもたないと発言できない環境って、すごくおかしいことだと思います。

早乙女 通販でピルを購入している女性がいるようなので、女性の健康管理をちゃんとしたルートに乗せませんかって話なのにね。

福田 緊急避妊が必要になるのって、若い人や高校生だって少なくない。日本だと、その年齢で産婦人科に行くのってすごくスティグマが強いから、オンライン診療や薬局で購入できるのは、精神的ハードルの面から見ても大切だと思うんです。私が調べた中でも、そう感じている人は多かった。でも、結局は「条件付きオンライン診療」(※)しか通らず、「世界だとその辺の薬局で普通に買える薬なのに、なんなの?」 って思いましたね。

※条件付きオンライン診療:厚生労働省は、緊急避妊薬を求める女性に「近隣の対面診療可能な医療機関」の受診を原則としているが、例外的に「地理的な事情のある場合」「心理的な状態に鑑みて対面受診が困難な場合」などを条件としてオンライン処方を検討中。

――この先、日本の避妊事情が改善されていくにはどうしたらいいと思いますか?

早乙女 何でも選ぼうと思えば選べる今の時代ですし、まずは日本で使えるピルやIUSから選んでいき、「自分の人生ってなんだろう」、「自分の人生の中でセックスってなんなんだろう」と突き詰めて考えていくということを、「一人ひとり」女性がやっていくことが大切です。製薬会社からしてみれば、ピルも売れていないのにほかの避妊法が売れるのだろうか? と疑問にもなりますし、それが避妊法が増えない理由のひとつになっていますからね。

福田 大学の卒論を書く時に、「何で日本にパッチがないんですか」と製薬会社へ問い合わせたのですが、「ピルが売れてから」という返事がすごく多かった。ピルの普及率が4%ということもあり、女性主体の避妊はマーケットがないと見られているんです。ただ、知らないものが求められないのは当然ですし、勝手に市場がないと判断されるのはちょっと違うかな。

早乙女 そこもスティグマを作り出すのに十分で、「ないなら認可されるように動いて行こう」という方向より、「コンドームしかない」という話に追い込まれちゃうんだよね。

福田 これだけ避妊法があるという話を女性にしたら、パッチを試してみたいとか、いろいろな避妊法に手が挙がるから、まずは知ることから広げていって、「ほしい」という声が出てくれば、女性の願いがかなえられていない現状も変えられるのではないかと思います。今の日本には、“普通”に“当たり前”にあっていいはずのものがないということにまずは気付いてほしい。そんな思いでやっている「#なんでないの」プロジェクトの活動やこの対談などが、多くの女性のマインドセットが変わるきっかけになってくれたらと思います。

早乙女智子(さおとめ・ともこ)
日本産科婦人科学会専門医。日本性科学会認定セックスセラピスト。1986年筑波大学医学専門学群卒業。2015年京都大学大学院医学研究科単位取得退学。2019年京都大学博士(人間健康科学)取得。世界性の健康学会(WAS)学術委員、厚生労働省社会保障審議会人口部会委員。1997年に経口避妊薬の認可に向けて結成した一般社団法人性と健康を考える女性専門家の会代表理事。ジョイセフ理事。現在は、倖生会身原病院産婦人科常勤医および公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センター研究員。著書『避妊』(主婦の友社)、監訳『ピル博士のピルブック』(メディカルトリビューン)他。

福田和子(ふくだ・かずこ)
#なんでないのプロジェクト代表、世界性の健康学会(WAS)Youth Initiative Committee委員、I LADY.ACTIVIST、性の健康医学財団機関誌『性の健康』編集委員、国際基督教大学
大学入学後、日本の性産業の歴史を学ぶ。その中で、どのような法的枠組みであれば特に女性の健康、権利がどのような状況にあっても守られるのかということに関心を持ち、学びの軸を公共政策に転換。その後、スウェーデンに1年間留学。そこでの日々から日本では職業等にかかわらず、誰もがセクシャルヘルスを守れない環境にいることに気付く。「私たちにも、選択肢とか情報とか、あって当然じゃない?」 との思いから、17年5月、『#なんでないのプロジェクト』をスタート。

日本の避妊は「途上国」以下――ガーナ人女性が激怒した現実【早乙女智子×福田和子対談】

 「あなたはどうして避妊にコンドームを使っているんですか?」――買いやすいから、便利だから? では、コンドームと同じくらい買いやすく、便利で、避妊成功率がより高いものがあったら、あなたは使ってみたいですか? 

 一般社団法人日本家族計画協会の調査(2016年)によると、日本で用いられる避妊方法の82%が男性用コンドームによるもの。しかし女性にとっては「つけてもらう」「つけてくれた」など、“男性主体”の避妊法というイメージがどうしても拭えません。日本国内には避妊方法が複数あるものの、低用量ピルの服用率は4.2%、女性の体内に入れる子宮内避妊システムIUDやIUSなどを使っている人は1%と普及率が低いのが実情。しかし、世界に目を向けると、多くの選択肢の中から女性が自分に合った避妊方法を選び、“バースコントロール”を行うことが当たり前の時代となっている様子です。そこで、公益社団法人ルイ・パストゥール医学研究センター研究員で産婦人科医の早乙女智子医師と、スウェーデンへの長期留学で日本に世界と同レベルの避妊法や性教育がない現状を知り、日本の性を考える「#なんでないの」プロジェクトを起ち上げた、同プロジェクト代表の福田和子さんに、日本の避妊事情が抱える問題点と女性主体の避妊について対談していただきました。

ピルの普及を阻む「スティグマ」とは

――日本の避妊事情は、世界的に見てどのような感じなのでしょうか?

早乙女智子医師(以下、早乙女) 統計上で、日本の避妊実行率は約44%といわれています。方法としては、コンドームが40%(避妊実行率の中では80%程度)で、低用量経口避妊薬ピル(以下、ピル)が4%。そして、子宮内避妊システム・IUSは2%と一握りなので、日本全体でコンドームによる避妊が主流といえるでしょう。ピルが認可されたのは1999年なので、国連加盟国の中でも本当に最後の方だったのですが、そこから20年たっても一向に普及していないということですね。

福田和子さん(以下、福田) やっと4%って感じですよね。普及しない理由として、経済的な問題や副作用などの漠然とした不安もあるかもしれませんが、女性主体の避妊に対する「スティグマ」も強いと思います。

――日本では聞きなれない言葉ですが、「スティグマ」とはなんでしょうか。

福田 汚名や負の烙印という意味のほかに、社会的にそのグループに属することで受けるマイナスのイメージです。ピルで言うなら、ピルを飲んでいることで「遊んでいる」といったイメージを持たれてしまうことがスティグマです。

早乙女 月経困難症でピルを服用していても、「彼氏がいないのに飲んでいるなんて、遊び人だな」とか言われるんだもんね。本当に面倒くさい。それに、もし避妊のために服用しているなら「私はしたい時にするし、産みたい時に産む。今妊娠は困るからピルが必要なんです。それが何か?」と言い返せばいいだけなのに、それもできないのが今の日本。

福田 スティグマは同性内でも根強いし、言い返すのはまだ無理ですよね。日本ではスティグマという言葉自体が普及していないから、概念としても薄いのかも。

避妊は「する」「しない」ではなく、継続的に行うもの

――なぜ日本では「ピル=性交渉」というイメージが先行してしまうのでしょうか?

福田 大学入学後、日本の性産業の歴史について学んでいた中で感じたことがあって。性産業従事者の女性は「男性を楽しませる」ためにセックスをしますが、家庭内の女性は「子どもを産むため」のセックスであり、女性が「楽しむ」という概念がなかったと思うんです。そういう考え方が、当時から現在まで続いたことにより、女性がセックスを楽しむことや、回数が多いことに対してのスティグマが生じたのではないでしょうか。その結果、「ピルを飲んでまでセックスをする物好き」とか、反対に「私は遊んでいないからピルは必要ない」っていう感覚になっちゃうのかなって思いますね。

早乙女 「私は遊んでいないからピルは必要ない」と言う人もいますが、1回のセックスで妊娠することだって普通に起こることなので。そして、避妊は性交1回ごとに「する、しない」ということではなく、自分の人生の中で「“今”は妊娠している場合じゃない」とか、「この男性の子どもを産んでもいいか」と考えた上で行うこと。避妊をしなくてもいいのは、妊娠をしたい時だけで、避妊はライフプランを形成する上で“継続的”に行うという概念に気付いてほしいです。

福田 セックスの回数が多いこと自体は問題じゃないし、ピルを飲むだけでヤリマンとかって定義されるのもおかしいですよね。

早乙女 ヤリマンやビッチ、遊んでいる女とか、陳腐なワードが固定化されているけれど、どれも男性が女性を貶めて、優位に立った気分でいるだけ。そんなくだらない自己満足のために“女”が使われているんだけど、男と女を入れ替えて成り立たないものはすべてジェンダーバイアスだから、丸めてポイしていい。常に「男女を入れ替えて成り立つか」で考えていくと、バイアスは簡単に見えてきますよ。そして、自分の体や人生に向けられていることなんだから、「ピル飲んでいるのは遊び人」とか言ってくるヤツには、「遊ぶためで何が悪いんですか? アンタとはしないけどね!」って言ってやれ(笑)。

――海外の避妊事情はどうなんでしょうか?

福田 上の表は、カナダ・バンクーバーで開催されたWomen Deliver 2019 Conferenceで無料配布された、避妊の種類をまとめたシートです。日本で選べる避妊法は、コンドームとピル、IUDやIUSくらい。でも、海外だとパッチや注射、インプラントなどさまざまな種類があるんです。

早乙女 海外の場合は、かかりつけ医や若者が気軽に相談できるユースクリニック(※25歳以下なら、避妊、セックスの話や人間関係の悩みまでプライバシーも守られながら専門家に相談できるクリニック)も充実しているから、医師と相談しながら自分に合った避妊法を選択できるんです。オランダではピルを飲んだことのある人が80~90%だし、アメリカには校内にアフターピルの自動販売機を置いている大学もあるとか、ピルや中絶費用が無料の国も多いです。

福田 学校の保健室でピルがもらえたり、緊急避妊薬のアフターピルを薬局で売っている国もたくさんありますよね。スウェーデンでは、効果が3~5年持続するIUSが3,000円ほどで、出産経験がない女性も使っています。韓国はアフターピルに処方箋が必要ですが、それでも3,000円くらいと聞きました。日本だと診察が必要な上に金額は1~3万円前後しますし、低用量ピルを飲む場合だって検査料や初診料が必要なので、初診だけで1万円は用意して行くぐらいかかります。その後は薬代だけで毎月2~3,000円くらいを払い続けることになりますが、そんな話は日本以外で聞いたことないですよ!

――日本は避妊具の選択肢が少ないうえ、女性側への負担も大きいんですね。

早乙女 すごくトリッキーなんだけど、日本ではピル自体も避妊用と治療用に分かれていて、避妊用は自費なんです。でも、治療用は「避妊用ではありません」という体をとっているから、中身は同じなのに保険が適用されるんですよ。IUSも、過多月経などの治療目的であれば年齢に関係なく入れられて、保険適用で1万円以下なのに、避妊のためだと自費で5万円以上。しかも、主に経産婦が対象なので使用できる人が制限されています。つまり、それくらい日本では避妊に対するアクセスのハードルが高いんです。

福田 そういうところもスティグマを生んでいますよね。日本は治療費の多くを保険でカバーできる国ですが、適用外なのは美容整形や予防医療などの個人が選択する“アディショナル”なもの。そこに避妊が含まれていることで、「自分の好み」でやるものというイメージになってしまう。重要な医療とか、当たり前の医療として捉えられていないんだと思います。

――福田さんは「#なんでないの」プロジェクトの代表として、日本の性事情を世界に向けて発信されていますが、海外と比較してどのような印象を受けますか?

福田 以前、セクシュアルヘルス(性の健康)やジェンダーの平等に関する国際会議で登壇する機会があったので、性教育がない、避妊具も少ない、中絶も手術で行われるという日本の現状を話したら、「残念な国なんだね……」みたいに静まり返っちゃったんです。そして、中絶手術の費用が10万~20万円っていうと、みんなキレていました。私の話を聞いたガーナ人の女性は日本の現状に衝撃を受けたらしくて、「なんで怒らないの!?」ってすごく怒っていて、ネパールの看護師さんには、「私が日本へ行って、産婦人科医に避妊具の種類を教えようか?」とも言われたんですよ。どこの国も同じようなリアクションで、日本の避妊事情の遅れを肌で感じました。

――発展途上国といわれる国の方が、日本より避妊事情が充実しているんですね。

早乙女 私たちが途上国だと思っている国は先進国から援助を受けているので、経済格差や文化的差異はあっても、避妊のベースは先進国と一緒なんですよ。ちなみに、ジェンダーギャップ指数で日本は110位(149カ国中)。この領域で日本は先進国ではなく、完全に途上国です。女性の性に関する問題は、「途上国として」というスタンスで考えないといけないと思います。

福田 国際会議で避妊の問題が語られるとき、話題になるのは、ヘルスケアセンターが少ないことや、物流の問題で避妊具のストックが不足していることなど、必要な女性にうまくデリバリーできていない現状なんですよね。そもそも、日本のように「認可されない」という議題がないんです。参加した際、誰にもわかってもらえず、ただ驚愕されるだけという苦しみを味わって、すごく絶望しましたね。

避妊は自立した女性の証し

――日本では女性主体の避妊に対して、スティグマが強いようですが、海外ではどんな雰囲気なのでしょうか?

早乙女 「大人はセックスするものでしょう?」という感覚なので、普通に受け入れられています。

福田 逆に、女性が何かしらの“バースコントロール”を考えていないと、自立した女性として見てもらえないですね。私がスウェーデンでピルをもらいに行った時、医師の対応が「自分や相手のことをきちんと考えているってことだから、すごくいいことだよ」と褒めてくれたんです。そして、「どれにする?」と多くの避妊法を説明してくれて、「自分のライフプランや相手との関係性を考えて選んでね」とポジティブな姿勢で向き合ってくれます。なので、自分自身が受け入れられている気持ちになりますし、すごく良いことをしているんだと思えました。

早乙女 日本は相談窓口に、もれなくスティグマが置いてありますね。高校生カップルが学校の性教育でピルを知って病院にもらいに行ったら、「高校生には出さない」と言われたという事例が去年もありました。海外はユースクリニックもあるから、学生でも、親からも学校からもフリーで、プライバシーを守られながら相談ができるのに。

福田 ピルでもアフターピルでも、親の署名が必要とか、高校生お断りと書いてある病院が、日本にはありますよね。正しい性教育が必要なのはもちろんですが、せっかく知った知識を活用できない方が、知らずに対策できないより残酷。性教育の先のアクセスも守られないといけないなと思います。

(後編につづく)

早乙女智子(さおとめ・ともこ)
日本産科婦人科学会専門医。日本性科学会認定セックスセラピスト。1986年筑波大学医学専門学群卒業。2015年京都大学大学院医学研究科単位取得退学。2019年京都大学博士(人間健康科学)取得。世界性の健康学会(WAS)学術委員、厚生労働省社会保障審議会人口部会委員。1997年に経口避妊薬の認可に向けて結成した一般社団法人性と健康を考える女性専門家の会代表理事。ジョイセフ理事。現在は、倖生会身原病院産婦人科常勤医および公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センター研究員。著書『避妊』(主婦の友社)、監訳『ピル博士のピルブック』(メディカルトリビューン)他。

福田和子(ふくだ・かずこ)
#なんでないのプロジェクト代表、世界性の健康学会(WAS)Youth Initiative Committee委員、I LADY.ACTIVIST、性の健康医学財団機関誌『性の健康』編集委員、国際基督教大学
大学入学後、日本の性産業の歴史を学ぶ。その中で、どのような法的枠組みであれば特に女性の健康、権利がどのような状況にあっても守られるのかということに関心を持ち、学びの軸を公共政策に転換。その後、スウェーデンに1年間留学。そこでの日々から日本では職業等にかかわらず、誰もがセクシャルヘルスを守れない環境にいることに気付く。「私たちにも、選択肢とか情報とか、あって当然じゃない?」 との思いから、17年5月、『#なんでないのプロジェクト』をスタート。

日本の避妊は「途上国」以下――ガーナ人女性が激怒した現実【早乙女智子×福田和子対談】

 「あなたはどうして避妊にコンドームを使っているんですか?」――買いやすいから、便利だから? では、コンドームと同じくらい買いやすく、便利で、避妊成功率がより高いものがあったら、あなたは使ってみたいですか? 

 一般社団法人日本家族計画協会の調査(2016年)によると、日本で用いられる避妊方法の82%が男性用コンドームによるもの。しかし女性にとっては「つけてもらう」「つけてくれた」など、“男性主体”の避妊法というイメージがどうしても拭えません。日本国内には避妊方法が複数あるものの、低用量ピルの服用率は4.2%、女性の体内に入れる子宮内避妊システムIUDやIUSなどを使っている人は1%と普及率が低いのが実情。しかし、世界に目を向けると、多くの選択肢の中から女性が自分に合った避妊方法を選び、“バースコントロール”を行うことが当たり前の時代となっている様子です。そこで、公益社団法人ルイ・パストゥール医学研究センター研究員で産婦人科医の早乙女智子医師と、スウェーデンへの長期留学で日本に世界と同レベルの避妊法や性教育がない現状を知り、日本の性を考える「#なんでないの」プロジェクトを起ち上げた、同プロジェクト代表の福田和子さんに、日本の避妊事情が抱える問題点と女性主体の避妊について対談していただきました。

ピルの普及を阻む「スティグマ」とは

――日本の避妊事情は、世界的に見てどのような感じなのでしょうか?

早乙女智子医師(以下、早乙女) 統計上で、日本の避妊実行率は約44%といわれています。方法としては、コンドームが40%(避妊実行率の中では80%程度)で、低用量経口避妊薬ピル(以下、ピル)が4%。そして、子宮内避妊システム・IUSは2%と一握りなので、日本全体でコンドームによる避妊が主流といえるでしょう。ピルが認可されたのは1999年なので、国連加盟国の中でも本当に最後の方だったのですが、そこから20年たっても一向に普及していないということですね。

福田和子さん(以下、福田) やっと4%って感じですよね。普及しない理由として、経済的な問題や副作用などの漠然とした不安もあるかもしれませんが、女性主体の避妊に対する「スティグマ」も強いと思います。

――日本では聞きなれない言葉ですが、「スティグマ」とはなんでしょうか。

福田 汚名や負の烙印という意味のほかに、社会的にそのグループに属することで受けるマイナスのイメージです。ピルで言うなら、ピルを飲んでいることで「遊んでいる」といったイメージを持たれてしまうことがスティグマです。

早乙女 月経困難症でピルを服用していても、「彼氏がいないのに飲んでいるなんて、遊び人だな」とか言われるんだもんね。本当に面倒くさい。それに、もし避妊のために服用しているなら「私はしたい時にするし、産みたい時に産む。今妊娠は困るからピルが必要なんです。それが何か?」と言い返せばいいだけなのに、それもできないのが今の日本。

福田 スティグマは同性内でも根強いし、言い返すのはまだ無理ですよね。日本ではスティグマという言葉自体が普及していないから、概念としても薄いのかも。

避妊は「する」「しない」ではなく、継続的に行うもの

――なぜ日本では「ピル=性交渉」というイメージが先行してしまうのでしょうか?

福田 大学入学後、日本の性産業の歴史について学んでいた中で感じたことがあって。性産業従事者の女性は「男性を楽しませる」ためにセックスをしますが、家庭内の女性は「子どもを産むため」のセックスであり、女性が「楽しむ」という概念がなかったと思うんです。そういう考え方が、当時から現在まで続いたことにより、女性がセックスを楽しむことや、回数が多いことに対してのスティグマが生じたのではないでしょうか。その結果、「ピルを飲んでまでセックスをする物好き」とか、反対に「私は遊んでいないからピルは必要ない」っていう感覚になっちゃうのかなって思いますね。

早乙女 「私は遊んでいないからピルは必要ない」と言う人もいますが、1回のセックスで妊娠することだって普通に起こることなので。そして、避妊は性交1回ごとに「する、しない」ということではなく、自分の人生の中で「“今”は妊娠している場合じゃない」とか、「この男性の子どもを産んでもいいか」と考えた上で行うこと。避妊をしなくてもいいのは、妊娠をしたい時だけで、避妊はライフプランを形成する上で“継続的”に行うという概念に気付いてほしいです。

福田 セックスの回数が多いこと自体は問題じゃないし、ピルを飲むだけでヤリマンとかって定義されるのもおかしいですよね。

早乙女 ヤリマンやビッチ、遊んでいる女とか、陳腐なワードが固定化されているけれど、どれも男性が女性を貶めて、優位に立った気分でいるだけ。そんなくだらない自己満足のために“女”が使われているんだけど、男と女を入れ替えて成り立たないものはすべてジェンダーバイアスだから、丸めてポイしていい。常に「男女を入れ替えて成り立つか」で考えていくと、バイアスは簡単に見えてきますよ。そして、自分の体や人生に向けられていることなんだから、「ピル飲んでいるのは遊び人」とか言ってくるヤツには、「遊ぶためで何が悪いんですか? アンタとはしないけどね!」って言ってやれ(笑)。

――海外の避妊事情はどうなんでしょうか?

福田 上の表は、カナダ・バンクーバーで開催されたWomen Deliver 2019 Conferenceで無料配布された、避妊の種類をまとめたシートです。日本で選べる避妊法は、コンドームとピル、IUDやIUSくらい。でも、海外だとパッチや注射、インプラントなどさまざまな種類があるんです。

早乙女 海外の場合は、かかりつけ医や若者が気軽に相談できるユースクリニック(※25歳以下なら、避妊、セックスの話や人間関係の悩みまでプライバシーも守られながら専門家に相談できるクリニック)も充実しているから、医師と相談しながら自分に合った避妊法を選択できるんです。オランダではピルを飲んだことのある人が80~90%だし、アメリカには校内にアフターピルの自動販売機を置いている大学もあるとか、ピルや中絶費用が無料の国も多いです。

福田 学校の保健室でピルがもらえたり、緊急避妊薬のアフターピルを薬局で売っている国もたくさんありますよね。スウェーデンでは、効果が3~5年持続するIUSが3,000円ほどで、出産経験がない女性も使っています。韓国はアフターピルに処方箋が必要ですが、それでも3,000円くらいと聞きました。日本だと診察が必要な上に金額は1~3万円前後しますし、低用量ピルを飲む場合だって検査料や初診料が必要なので、初診だけで1万円は用意して行くぐらいかかります。その後は薬代だけで毎月2~3,000円くらいを払い続けることになりますが、そんな話は日本以外で聞いたことないですよ!

――日本は避妊具の選択肢が少ないうえ、女性側への負担も大きいんですね。

早乙女 すごくトリッキーなんだけど、日本ではピル自体も避妊用と治療用に分かれていて、避妊用は自費なんです。でも、治療用は「避妊用ではありません」という体をとっているから、中身は同じなのに保険が適用されるんですよ。IUSも、過多月経などの治療目的であれば年齢に関係なく入れられて、保険適用で1万円以下なのに、避妊のためだと自費で5万円以上。しかも、主に経産婦が対象なので使用できる人が制限されています。つまり、それくらい日本では避妊に対するアクセスのハードルが高いんです。

福田 そういうところもスティグマを生んでいますよね。日本は治療費の多くを保険でカバーできる国ですが、適用外なのは美容整形や予防医療などの個人が選択する“アディショナル”なもの。そこに避妊が含まれていることで、「自分の好み」でやるものというイメージになってしまう。重要な医療とか、当たり前の医療として捉えられていないんだと思います。

――福田さんは「#なんでないの」プロジェクトの代表として、日本の性事情を世界に向けて発信されていますが、海外と比較してどのような印象を受けますか?

福田 以前、セクシュアルヘルス(性の健康)やジェンダーの平等に関する国際会議で登壇する機会があったので、性教育がない、避妊具も少ない、中絶も手術で行われるという日本の現状を話したら、「残念な国なんだね……」みたいに静まり返っちゃったんです。そして、中絶手術の費用が10万~20万円っていうと、みんなキレていました。私の話を聞いたガーナ人の女性は日本の現状に衝撃を受けたらしくて、「なんで怒らないの!?」ってすごく怒っていて、ネパールの看護師さんには、「私が日本へ行って、産婦人科医に避妊具の種類を教えようか?」とも言われたんですよ。どこの国も同じようなリアクションで、日本の避妊事情の遅れを肌で感じました。

――発展途上国といわれる国の方が、日本より避妊事情が充実しているんですね。

早乙女 私たちが途上国だと思っている国は先進国から援助を受けているので、経済格差や文化的差異はあっても、避妊のベースは先進国と一緒なんですよ。ちなみに、ジェンダーギャップ指数で日本は110位(149カ国中)。この領域で日本は先進国ではなく、完全に途上国です。女性の性に関する問題は、「途上国として」というスタンスで考えないといけないと思います。

福田 国際会議で避妊の問題が語られるとき、話題になるのは、ヘルスケアセンターが少ないことや、物流の問題で避妊具のストックが不足していることなど、必要な女性にうまくデリバリーできていない現状なんですよね。そもそも、日本のように「認可されない」という議題がないんです。参加した際、誰にもわかってもらえず、ただ驚愕されるだけという苦しみを味わって、すごく絶望しましたね。

避妊は自立した女性の証し

――日本では女性主体の避妊に対して、スティグマが強いようですが、海外ではどんな雰囲気なのでしょうか?

早乙女 「大人はセックスするものでしょう?」という感覚なので、普通に受け入れられています。

福田 逆に、女性が何かしらの“バースコントロール”を考えていないと、自立した女性として見てもらえないですね。私がスウェーデンでピルをもらいに行った時、医師の対応が「自分や相手のことをきちんと考えているってことだから、すごくいいことだよ」と褒めてくれたんです。そして、「どれにする?」と多くの避妊法を説明してくれて、「自分のライフプランや相手との関係性を考えて選んでね」とポジティブな姿勢で向き合ってくれます。なので、自分自身が受け入れられている気持ちになりますし、すごく良いことをしているんだと思えました。

早乙女 日本は相談窓口に、もれなくスティグマが置いてありますね。高校生カップルが学校の性教育でピルを知って病院にもらいに行ったら、「高校生には出さない」と言われたという事例が去年もありました。海外はユースクリニックもあるから、学生でも、親からも学校からもフリーで、プライバシーを守られながら相談ができるのに。

福田 ピルでもアフターピルでも、親の署名が必要とか、高校生お断りと書いてある病院が、日本にはありますよね。正しい性教育が必要なのはもちろんですが、せっかく知った知識を活用できない方が、知らずに対策できないより残酷。性教育の先のアクセスも守られないといけないなと思います。

(後編につづく)

早乙女智子(さおとめ・ともこ)
日本産科婦人科学会専門医。日本性科学会認定セックスセラピスト。1986年筑波大学医学専門学群卒業。2015年京都大学大学院医学研究科単位取得退学。2019年京都大学博士(人間健康科学)取得。世界性の健康学会(WAS)学術委員、厚生労働省社会保障審議会人口部会委員。1997年に経口避妊薬の認可に向けて結成した一般社団法人性と健康を考える女性専門家の会代表理事。ジョイセフ理事。現在は、倖生会身原病院産婦人科常勤医および公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センター研究員。著書『避妊』(主婦の友社)、監訳『ピル博士のピルブック』(メディカルトリビューン)他。

福田和子(ふくだ・かずこ)
#なんでないのプロジェクト代表、世界性の健康学会(WAS)Youth Initiative Committee委員、I LADY.ACTIVIST、性の健康医学財団機関誌『性の健康』編集委員、国際基督教大学
大学入学後、日本の性産業の歴史を学ぶ。その中で、どのような法的枠組みであれば特に女性の健康、権利がどのような状況にあっても守られるのかということに関心を持ち、学びの軸を公共政策に転換。その後、スウェーデンに1年間留学。そこでの日々から日本では職業等にかかわらず、誰もがセクシャルヘルスを守れない環境にいることに気付く。「私たちにも、選択肢とか情報とか、あって当然じゃない?」 との思いから、17年5月、『#なんでないのプロジェクト』をスタート。

初の著書は15万部突破! “SNSの寵児”kemioが、30代からも支持されるワケ

 SNS世代から絶大な支持を得るkemio(けみお)。YouTube、Twitter、Instagramのフォロワー数は累計300万人超、4月に発売された著書『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』(KADOKAWA)は発売から3カ月弱で5刷15万部を突破するなど、ネットの外でも快進撃を続けている。

 もともとは高校時代に6秒動画「Vine」で注目を集め、雑誌の読者モデルを経て芸能活動を開始したkemio。2016年末、語学留学のために渡米し、日記をつける感覚で始めたYouTubeが人気を集めているのだ。

『ウチら棺桶~』の担当編集・杉浦麻子さんは、彼の魅力をこう語る。

「彼の一番の魅力は内面というか、そこから繰り出される説得力のある言葉。23歳と若いのですが、人生経験が豊富で、きれいごとや理想論ではなく、自分の経験を元にした言葉なので、ブレがない。そこが強さなのかなと思います。中でも特に、渡米したことが彼にすごく大きな影響を与えたようです。アメリカで自分を見つめ直す時間ができたことで視野が広がり、価値観が変化し、考え方が成熟していったのかなと思います。それが、この本の土台になっています」

「あげみざわ」「ないたー」といった流行語を生みだし、JKのカリスマともいわれるkemioだが、『ウチら棺桶~』は意外にも、30代からも読まれているという。

「騒音を“スワイプして消す”など、心を軽くするような言葉が詰まった本書は、社会で揉まれる大人にこそ読んでほしいという思いがありました。とはいえ、彼のファン層のメインは10~20代の若い方なので、活字に慣れていない方でも拒否感なく、楽しみながら読めるよう、デザインなどで工夫しています。大人が読める文芸というところと、若い方が読める手軽さのギリギリのラインを探りました。年齢や職業に関係なく、普遍的なマインドについて書かれているので、どの世代の方が読んでも自分を鼓舞してくれる力になるのかなという気がします」(同)

 kemioの世界観をより強固なものとするのが、“kemio語”ともいわれる、独特な言い回しだ。本書でもタイトルをはじめ、「両親ともに天国のギャル」「YouTubeはデジタル遺書」「人間関係わんこそば」など、ユニークなワードがちりばめられ、「まるで現代詩のよう」とも評されている。本人はとあるインタビューで「頭の中に簡単な語彙しかなくて、知っている言葉を組み合わせて“発射”みたいな」と語っていたが……。

「彼は自分の考えを表現する能力に長けていて、その独特なボキャブラリーがすごく新鮮で面白いなと思っていたので、必然的にそこが生きてくる本になりました。一般的には間違っているとされる言い回しもあえて直していません。たとえば『ちなみに』を指す『ちな』とか、『この世に上陸』『子育てROUND2』など、校正者から『?』がつくような表現も膨大にありました。ただ、そのどれも正確な日本語ではないのに、意味はむしろ強めに伝わってくるのが面白い。それらをすべて生かした結果、読んだことないのに納得感のある、不思議なバランスが生まれました」(同)

 一方、kemioを語る上で欠かせないのが、SNSだ。ITジャーナリストの高橋暁子氏は、彼のSNSについて、こう分析する。

「やはり、YouTubeとInstagramの使い方は非常にうまいと思います。kemioくんのYouTubeは等身大でユニークなもの、悩みに対してポジティブに向き合うものなどバランスが良く、一生懸命で、素直で、頑張っている様子がよく伝わってきます。Vine世代は短い動画で視聴者をつかめるクリエイターが成功しました。YouTubeではさらに言葉を尽くせますが、視聴者をつかむという意味では同じです。また、今の視聴者はスマホ世代で待てないので、スピーディでテンポが良いことが重要です。つまり、Vine要素が理解できているクリエイターは有利なんです。一方、Instagramでは彼の長所であるビジュアルのかっこよさ、おしゃれさを伝えられています。時折、彼の個性も伝えられているので、こちらもバランスが良いですね」

 中高生から絶大な支持を受けているkemioだが、その理由は、ただ動画が面白いというだけではなさそうだ。

「自分たちの仲間であり、味方という感覚があるのでしょう。同時に、渡米や自分らしく生きるなど、自分たちがやりたくてもなかなか実現できていないことも代わりにやってくれています。だから応援したくなるし、支持されるのでは?」(同)

 しかし、意外にも、本人はSNSに対してはクールなスタンスを取っている。

「SNSの寵児などと言われることも多いですが、本人はあくまでSNSは自分のことを伝えたり、夢をかなえたりするためのツールだと割り切っているんです。フォロワー数なんてただの数字でしかなく、人間関係は生の勝負であると本書でも記しています。SNSそのものではなく、あくまで“人間”と向き合う姿勢も支持される一因だと思います」(杉浦さん)

 実は5年前、当サイトでは高校卒業を間近に控えたkemioにインタビューしているのだが(参照記事)、当時から「レディー・ガガのようなスーパースターになりたい」とあけすけに語る、天真爛漫な少年だった。あれからわずか5年で、Diorをはじめ世界のハイブランドにもその影響力を認められるインフルエンサーとなり、世代を超えて支持されるkemioから今後も目が離せない⁉

(取材・文=編集部)