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ジャニーズファンが避けてきた「ジャニー氏の性加害」問題――研究者に“向き合い方”を聞いた
ジェンダーや人権をテーマに取材をするライター・雪代すみれさんが、アイドルに関する“モヤモヤ”を専門家にぶつける連載「アイドルオタクのモヤモヤ」。今回のテーマは、「ジャニー喜多川氏の性加害報道をジャニーズファンとしてどう受け止めるか」です。
▼「男性ジャニーズファンの苦脳」についてお聞きした【前編】はこちら
今年3月、BBC(イギリスの公共放送局)がジャニーズ事務所創業者・ジャニー喜多川氏の性虐待問題を追及・告発するドキュメント番組『 The Secret Scandal of J-Pop(邦題:J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル)』を放送。その後、4月には、元ジャニーズJr.のカウアン・オカモトさんが日本外国特派員協会にて記者会見を行い、ジャニー氏から性被害を受けていたことを打ち明けた。
会見を受けて「ジャニーズ事務所は説明責任を果たすべき」といった批判が噴出する一方で、「まったく知らなかった」「うわさ話として聞いたことはあったけれど、詳しくはわかっていなかった」「性暴力は許せない、でも推しを嫌いにはなれない」などジャニーズファンからは戸惑いの声も見られる。
自身もジャニーズファンであり、男性ジャニーズファンの研究をしている東京工業大学大学院博士後期課程の小埜功貴さんに、ジャニー喜多川氏の性加害報道をどう捉えているか話を聞いた。
ジャニー氏の性加害のことを知って、オーディションを辞退した
――ジャニー氏の性加害は、1999年の「週刊文春」(文藝春秋)が大々的に報じ、それ以外にも元ジャニーズタレントが告発本を出ていましたが、10代の若いジャニーズファンの中には、それらをまったく知らなかった人もいるようです。小埜さんは1996年生まれとのことですが、いつ知りましたか。
小埜功貴さん(以下、小埜) 実は、ジャニーズ事務所に入りたいと思ったことがあって、中学3年生のとき、オーディションに応募したんですね。書類選考の結果を待っている間に、もし入所することになった場合のことを考え、もう少しジャニーズ事務所がどういう場所なのかきちんと知っておかないといけないなと、ネットでいろいろと調べていて。その中で99年の「週刊文春」の報道や、その後の裁判のこと(※)、また告発本のことを知りました。
※1999年に「週刊文春」(文藝春秋)がジャニー氏の性加害問題を14週にわたり報道し、ジャニー氏及びジャニーズ事務所は文藝春秋を提訴。1審・東京地裁では文藝春秋が敗訴、2審・東京高裁ではジャニー氏の性的虐待の事実が認められた。ジャニーズ側は最高裁に上告したが、2004年2月に上告棄却され、高裁の事実認定が確定している。
知ってはいけないことを知ってしまったような感覚や、裏切られたようなショックを受けて……。結果、書類選考は受かったのですが、そのことを知ってから怖くなってしまい、それ以降の審査は辞退しました。
カウアンさんが記者会見の際に「一連の被害について、当時(「週刊文春」が報じた頃)大手メディアが報じていたら、入所をためらうなど選択は変わったと思いますか?」と聞かれていましたが、当時の彼は知らなかった一方で、まさに僕は知った側だったので、途中で審査を受けるのをやめました。
――「すごくショックを受けた」とのことですが、ジャニーズファンをやめようとまでは思わなかったのでしょうか。
小埜 その情報自体にはショックを受けましたが、当時、ネットで調べられることは限られていましたし、まだ中3だったので、具体的にどういうことなのかまで理解はできなかったんです。
それに、デビュー組のメンバーたちがジャニーさんへの感謝や、面白エピソードを語る姿もたくさん見てきたのもあって、混乱しながらも、アイドルの存在まで嫌いになることはなかったですし、テレビや新聞の報道で見かけることがなかったので、当時10代の頃の自分の中で、だんだんと風化していったような感じでした。
――小埜さんはBBCの報道やカウアンさんの記者会見を、どのように受け止めていますか。
小埜 「ジャニ―氏が行っていたことはグルーミング(大人が性的な目的のため、子どもを手なずけること)ではないか」という指摘がありますよね。グルーミングにおいて、被害者が加害者に対して敬意や好意を抱くことがあることも、知識として知ってはいます。一方で、特にデビューを果たしたアイドルたちがジャニー氏への尊敬の言葉を発しているのも事実です。一連の報道で取り上げられた彼の性加害についての事実と、彼らが抱いてきたジャニー氏への想いをどう並立させて、折り合いをつけるべきか、今でも混乱している部分があるのが正直なところです。
日本では男性の性暴力被害者の声を受け止める土台がまだ、制度の面でも性規範の面でも不十分ですし、まして今回の件はジャニーズというとてつもなく影響力の大きい組織に関わる事案であり、そして加害者/被害者が同性間であることから、これまでに類似した前例もないため、どう受け止めていいか戸惑っている人もいると思います。ただ、ジャニー氏の性的指向(どの性別の人に恋愛的な魅力を感じるか)と、性暴力の問題は別々で考えるべきだと私は考えています。
――ジャニーズファンの中には「推しが被害に遭っていたと思いたくない」「この気持ちをどう処理していいかわからない」など複雑な思いから、推し活を楽しめなくなってしまった人もいるようです。
小埜 BBCの報道やカウアンさんの記者会見があるまで、多くのファンは「知らないふり」をするとか、「うわさだろう」と思い込むようにして避けてきた話題だと思います。でもそういう態度はもう通用しなくなったのではないでしょうか。
ただ、カウアンさんが会見で「ジャニーズファンへのメッセージを」と問われて「自分の好きなアイドルやタレントの応援を続けるのはいいんですけど、そういうこと(性暴力)も事実としてあるので、そこから目を背けるのではなくて、事実としてあることは理解したうえで、リスペクトして応援するのがいいと思います」と話していたように、性暴力の事実があったとしても、アイドルから元気をもらっていたことも事実ですし、今もそうであるならば、その愛は持ち続けてもいいと思っています。
でも、当時10代の頃の僕のように、性暴力のことを風化してしまうのはダメですよね。この問題が忘れ去られて「なかったこと」にされるのは絶対に良くない。ファンとしては、事務所に対して誠実な対応を求め続けることが、推しを守ることになるのではないでしょうか。性暴力問題に向き合うことと、推しを応援することは両立できると思うので、ファン同士でもきちんと言葉にして考えていきたいです。
報道や記者会見を見て、推し活を続けることについてファンから葛藤が聞こえてくることもあります。エンターテインメントとしてファンが純粋に楽しく推し活ができるように、ジャニーズ事務所にはこの問題に、表面的ではなく、これまで被害を心に抱え続けてきた方々はもちろん、今回の報道に怒りや悲しみをもった人たちが納得する形で、真摯に向き合ってほしいと思います。
岡田准一に「かわいい」と言えない――男性ジャニーズファンの苦脳を研究者に聞いた
ジェンダーや人権をテーマに取材をするライター・雪代すみれさんが、アイドルに関する“モヤモヤ”を専門家にぶつける連載「アイドルオタクのモヤモヤ」。今回のテーマは、「男性ジャニーズファンの苦悩」についてです。
ファンの大多数が女性であるジャニーズアイドル。珍しい存在である男性のジャニーズファンは、コンサートでアイドルから積極的にファンサをもらえることもしばしば。そんな男性アイドルファンをうらやましがったり、男性ファンをありがたがるアイドルにモヤモヤするという女性ファンも少なくない。一方で、男性が男性を推すということは、時に偏見の目を向けられることもあるという。
そこで今回、自身もジャニーズファンで、男性ジャニーズファンの研究をしている東京工業大学大学院博士後期課程の小埜功貴さんに、「男性が男性を推すこと」で生じる苦労について話を聞いた。
ジャニーズアイドルが、男性ファンにファンサをする心理とは?
――ジャニーズファンは大多数が女性です。それもあってか、コンサートでは、少数である男性ファンがファンサをもらいやすいという話を聞くこともあるのですが、女性ジャニーズファンの中には、「ファンサを多くもらえてズルい、うらやましい」と感じる人もいます。男性ファンに対し、積極的にファンサを送るアイドルの心理について、どう思われますか。
小埜功貴さん(以下、小埜) ジャニーズアイドルが男性ファンを喜ぶことは、ジャニーズ自体が女性をメインターゲットとしている中で、男性からも評価を得ていることや、同性として共通項のある人から好かれていることが「うれしい」といったシンプルな理由からではないでしょうか。
確かに、女性だらけのコンサート会場で男性の存在は、身長や服装の違いもあってビジュアル的に目立つので、ファンサをもらえることもありますが、男性ファンならではの苦労もあるのが現実です。
岡田准一に「かわいい」と伝えることにハードルがある
――男性ファンの苦労もあるんですね。そもそも、小埜さんはどのようなことがきっかけでジャニーズファンになったのでしょうか。
小埜 幼少期に、録画していた『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)をよく見ていたことが始まりです。コントも料理もパフォーマンスもできるSMAPを「かっこよくて面白いお兄さんたち」と感じ、好きになりました。特に香取慎吾くんが好きで、小学4年生のときから、彼の金髪に憧れていて、大学院に入ってバイトなどの髪色の制約がなくなってからは、ずっと金髪にしています。
KinKi KidsやV6も好きだったのですが、小3の頃からパソコンを使い始め、そこで初めて、これらのグループには「ジャニーズ事務所」という共通点があることを知りました。
――小埜さんの周囲にいる男性ジャニーズファンはいかがでしょうか。
小埜 プライベートでは、男性ジャニーズファンに出会ったことがないのですが、研究としてインタビューした人たちは、お母さんやお姉さん、もしくは仲の良い女友達から影響を受けている人が多いですね。また、SixTONESファンの中には、偶然、ある曲のピアノ演奏に惹かれて調べたら、SixTONESというジャニーズグループの曲だと知り、YouTubeなどで彼らの映像を見るうちにハマったという男性もいました。
――SixTONESはワイルド・青春感といったことも売りにしていて、男性ファンも多いイメージがあります。一方で、なにわ男子のような、キラキラした王道アイドルが好きな男性もいますよね。
小埜 確かに男性ファンがつきやすいグループはいると思うのですが、アイドルのキラキラ感といった、いわゆる「男らしさ」に当てはまらない「かわいい側面」に惹かれるという男性ファンもいます。アイドルが見せる、「男らしさ」から外れつつも魅力的であるという姿は、男性ファンに「“男らしく”しなくてもいいんだ」と自己肯定感をもたらす効果もあります。
例えば、V6の岡田准一くんを推している40代の人は「映画ではたくましくかっこいい姿を見せるけれども、グループでは末っ子扱いされているところがかわいい」と話していました。ただ、それをストレートに表現することは、周りの男性の友人からはばかられそうなので、「この曲は有名な人が作曲していて」「カッティングの技術が良くて」など、楽曲の技術面からメンバーへの愛を語るようにしているそうです。
――男性が男性に対して「胸キュン」「かわいい」のような感情を抱くこともあると思うのですが、それをオープンにすると、「周りから引かれてしまう」と躊躇し、あくまで評論している体を取るということでしょうか。
小埜 そうですね。男性から男性への「かわいい」は語りづらいという感覚はあります。まず、安易に同性愛と結び付けて“イジり”の対象にしてくる人もいるので。また「かわいい」という言葉は、そもそも未熟性や不完全さを愛でる、古くから続く日本の伝統的な感性ともいえます。なので、男性に対して「かわいい」と言うと、それは既存の「男らしさ」からは外れてしまうため、相手の男性としてのランクを下げてしまう感覚になり、口に出して言えないという面もあるのではないでしょうか。
でも、人間はみんなどこかしら「かわいらしい」側面を持っていますよね。男性同士であっても、それを慈しみ合える関係性を持てることは、今あるジェンダーバイアスや価値観に変化を与える点でも重要ではないでしょうか。
――ほかにも、男性ジャニーズファンならではの悩みはありますか。
小埜 コンサートでも悩みはあります。僕は身長が174cmなのですが、コンサート会場にはほとんど男性がいないので、自分のせいで後ろの女性ファンが、ステージが見づらいのではないかと気を使いますね。ある空間で少数派になるというのは何とも言えない不安感のようなものがあって、100%心からコンサートを楽しめないという男性ファンからの声も少なくありません。
声援を送る際も、女性のように高い声を出せないので、「声を出すと浮いてしまうから、感情を抑え込んでいる」という話は、男性ファン同士で共感を得るテーマです。最近、さまざまなセクシュアリティへの配慮から、アイドルが「男性/女性」を特定して掛け声を求めることへの疑問が、一部のファン界隈で上がっていて、もちろんそこは検討されるべきだと思います。でも一人の男性ファンとしては、現状アイドルに「男性!」「メンズ!」などと声をかけられたとき、安心して声を出せるというのも本音です。
また、「コンサートでトイレに並ばないこと」は男性ファンのメリットとしてよく挙げられていて、確かにその通りなのですが、全体数が少ないゆえに、男性トイレも女性用として使用されていることがあって。以前とあるライブ会場の男性トイレをパーテーションで仕切って、小便器だけ男性に開放されていたこともあったんですよね。変な話、お互い音も聞こえてしまうような状況だったので、さすがにもう少し配慮してほしいと思いました。
それから、書店でアイドル誌を買うときのハードルが高いという話もよく、僕がインタビューさせていただくときに聞きます。本当は少し中身を確認してから買うか決めたくても、恥ずかしいからなるべく売り場に女性客がいないときを狙うとか、素早く手に取ってレジに向かうとか、男性の店員さんを選んで会計するとか……。男性ジャニーズファンの多くは、過去に「男性でジャニーズが好き」ということで、イジられるとか引かれるとか、何かしら傷つく経験をしているので、また嫌な思いをしたくないという防衛的な心理が働くのだと思います。
――大変なことも多々あるのですね。やはり男性限定コンサートがあればうれしいでしょうか。
小埜 過去には嵐が『Music Lovers』(日本テレビ系)で男性ファン限定ライブを開催したことがあって。いつもと雰囲気が違うのも新鮮だとは思うものの、雰囲気や煽り方がアイドルというよりロックバンドのような感じだったんですよね。自分もそうですが多くの男性ファンは「アイドル」の彼らが好きなので、通常通りのコンサートで、男性ファンも過度に気を使わなくて良い状態で参加できるようになるのがうれしいです。
(後編につづく)
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ジャニーズはファンをバカにしている――経営コンサルタントが、性虐待問題めぐる“不祥事対応”を考察
今年3月、英国の公共放送・BBCが、2019年に亡くなったジャニーズ事務所創業者・ジャニー喜多川氏の“性虐待”の実態を取り上げたドキュメンタリー『The Secret Scandal of J-Pop(邦題:J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル)』をオンエア。同番組は、過去に民事裁判で“認定”されながらも、国内では長年うわさレベルに留まっていた未成年のジャニーズJr.に対するジャニー氏の性的搾取を追及・告発した。
そんな英国からの糾弾に続くように、ジャニー氏の性虐待報道の急先鋒である「週刊文春」(文藝春秋)が毎週この問題を取り上げ、さらには2012~16年にジャニーズ事務所に所属していた元Jr.のアーティスト、カウアン・オカモト氏が、東京都内の日本外国特派員協会で記者会見を実施(4月12日)。中学卒業直前に初めて性被害を受け、それは在籍中に15~20回ほど繰り返されたと告白し、ジャニー氏の自宅に宿泊をしたことがある全員が同様の被害に遭っている可能性も示唆。さらにはその行為を受けるか否かが、タレント活動に影響を及ぼしていたことを明かしたのだった。
こうした事態を受け、長年ジャニー氏の性虐待疑惑について沈黙を守ってきたジャニーズ事務所はようやく重い口を開き、「共同通信」の取材に応じる形で、以下の声明を発表した。
弊社としましては、2019年の前代表の死去に伴う経営陣の変更を踏まえ、時代や新しい環境に即した、社会から信頼いただける透明性の高い組織体制および制度整備を重要課題と位置づけてまいりました。
本年1月に発表させていただいておりますが、経営陣、従業員による聖域なきコンプライアンス順守の徹底、偏りのない中立的な専門家の協力を得てのガバナンス体制の強化等への取り組みを、引き続き全社一丸となって進めてまいる所存です。
ネット上では「ついにジャニーズ事務所がこの問題に反応した」と話題を呼んだ一方、肝心の内容が「テンプレートのようなコメント」と大炎上。ファンからも「あり得ない」という声が飛び交う状況となった。
ジャニーズ事務所は、社会的影響力のある企業として、どのような対応を取るべきだったのか――危機管理に詳しい企業コンサルタント・大関暁夫氏に話をお聞きした。
――BBCのドキュメント番組放送以降、ジャニー氏の性虐待問題が取り沙汰されています。ジャニーズ事務所が「共同通信」の取材を通して、初めて公に出したコメントは大きな反響を呼びましたが、この事態をどのようにご覧になっていますか。
大関暁夫氏(以下、大関) 「共同通信」に対するジャニーズ事務所のコメントには、実際に性虐待の事実があったか否かについては触れられておらず、完全に“逃げ回っている”という印象しか抱きませんでした。企業経営的な観点でいうと、上場している・いないに関係なく、ジャニーズは社会的存在感のある事務所ですから、当然、その責任は大きい。そこを自覚した上で、もっと真摯な対応をしなければいけないのではないかと感じました。
加えて、このコメントが批判を浴びたのは、そこに「白黒はっきりさせてほしい」というファン心理があるからだと思います。事務所がこの問題から逃げ続ける限り、BBCや週刊誌は同様の報道をやめないでしょうし、これからもジャニーズのファンでいたいと思っている人は、自分が応援していることへの後ろめたさを引きずることになります。ファンには「あったことはあったことと認め、しっかり謝罪と対応をしてほしい」という思いがあるのではないでしょうか。
――企業の不祥事対応という観点から、具体的にジャニーズ事務所のコメントの問題点を教えてください。
大関 問題点“しかない”ですね。肝心の性虐待問題について一切触れていないですし、対応策についての具体性もなく、杓子定規なコメントに終始しています。ジャニーズを応援している人が心配し、注目している問題にもかかわらず、一発目にこのようなコメントを出すのは、ファンを舐めている、あるいはバカにしているとしかいえないでしょう。藤島ジュリー景子社長は、企業経営者である以上、たとえ過去の問題であったとしても、前経営者の社長としての行動が問題視されているわけで、その責任が生じます。そういう意味でも、性虐待問題に対し、まるで知らん顔しているようなコメントを出すのはおかしな話です。
まずは、「応援してくださっているファンの皆さまには、ご心配をおかけして申し訳ありません」という謝罪、また、現在、具体的にどのような対応しているのか――例えば「社内で事実関係を調査しています」「第三者に調査を依頼すべく動いています」といった説明は絶対に必要でしょう。事実無根という場合であっても、「その証拠を整理した上で発表させていただきます」、すでに証拠があるのであれば、「ご指摘のような事実はないので、後日記者会見を行います」などとコメントすべきだったと思います。
――これだけ世間を騒然とさせているにもかかわらず、何の謝罪もないのは、確かに“不自然”と感じます。
大関 この問題をどう受け止め、どう対処するつもりなのかを明確にしないと、やはり誰も納得しませんし、ファンである消費者に対し、その姿勢はいかがなものか。世間が騒いでいるから、「当社はコンプライアンスを一生懸命やっています」と言って、お茶を濁しているだけと感じました。
―― ジャニーズ事務所内に、「このコメントを公に出すのはまずい」とストップをかける人がいなかったことも気になります。
大関 たとえトップが「会見したくない」「コメント出したくない」「どうにかごまかしたい」と言っても、右腕である広報担当が「社長、それはまずいです。ファンに対して事実を説明するべきですし、そうしなければ会社の信用が失墜することにつながるので、ここはしっかり事件に対するコメントを出しましょう」と説得し、コメント文案を作って表に出すのが、一般的な不祥事対応の流れといえます。
広報担当の在り方は、ここ20年で変わってきており、かつては、会社を守る立場でメディア攻撃や悪いうわさの“火消し的”な役割が求められたのですが、今は“善意の第三者”であるべきとされています。企業の中にどっぷり浸かるのではなく、最終的に会社のためではあるものの、外部と社内の間にある“塀”の上に立ち、ニュートラルに物事を見る必要があるんです。
ジャニー氏の性加害については、2002年に裁判で認定されましたが、当時は大手メディアがどこも報じず、ジャニーズは“逃げ切った”格好でした。しかし当時と今では世の中の考え方はずいぶん変わっています。広報担当はトップに対し、「あの時とは違う対応を取らなくてはいけない」「そうしないとファンも世間も納得しないと思います」と言うべきところだと思います。
――問題だらけだったジャニーズの“初手”ですが、その後「朝日新聞」が、取引先企業に対し、性虐待疑惑に関する対応を説明する文書を入手し、報道。そこでは、謝罪に始まり、性虐待疑惑に関する「問題がなかったなどと考えているわけではございません」という見解、社員や所属タレント向けの相談窓口を設け、「ヒアリング及び面談」を実施してきたこと、さらには元所属タレントに関して、外部専門家の相談窓口を設け、個別対応を行う準備を進めていることなどを詳細に記しています。なぜこれを取引先企業だけに向けて報告したのかが気になるのですが。
大関 事務所が説明している対応姿勢はともかく、真っ先にこれを伝えるべきは業者筋ではなくファンを含めた世間であるはず。そこの履き違えは、はからずもジャニーズ事務所の「ファン軽視、ビジネス重視」の考え方を露呈させたのではないでしょうか。これではジャニーズのアイドルを一生懸命応援し、この問題を心配しているファンの皆さんがかわいそうだと感じてしまいます。
メディアはジャニーズ事務所からの報復を恐れずに、そのあたりを堂々と報じてしかるべきかと思いますし、それをせずに見過ごしていくなら、ジャニーズは姿勢をあらためる機会を逸することになるのではないでしょうか。
――ジャニーズ事務所は、すでに聞き取り調査を行っており、取引先企業には「現時点では問題となる点は確認されておりませんが、あくまで社内のヒアリングになりますので十分であるとは考えておりません」と説明しているそうです。
大関 聞き取り調査をして、「まったく何もありませんでした」ということはないと思います。少なくとも被害を訴えているカウアン・オカモト氏から直接話を聞くなりして、当時の事実関係を詳細に調べるべきであり、その実態は、再発を防止するためにも、会社としてしっかりつかんでおく必要があります。そして、その結果を明らかにすることも重要です。
――プライバシーなどの観点から、結果の公表は難しいのではないかという気もしてしまうのですが……。
大関 具体名を出す必要は一切ありませんが、これだけ騒ぎになっている以上、調べた事実関係を報告する必要があると考えます。例えば、「過去の所属タレントも含め、ヒアリングした●人の中で、ジャニー氏からの性的接触にあった人は●人いました」「うちこうした事実を性的被害として問題視している人は●人いました」など、報告方法はいろいろとありますから。
――取引先企業に送付したという文書には、被害者がいた場合の対応については触れられていませんでしたが、企業としてすべきことはなんでしょう。
大関 被害者をケアする責任は当然あります。一方、被害者から裁判を起こされた場合にも対応が生じますし、もしくは和解する形で慰謝料を支払うこともあり得るのではないでしょうか。それには、性虐待問題はジャニー氏個人の問題か、社長という立場を利用した会社としての問題かを明確にすることが必要になってくる。そこは法律の専門家に入ってもらい、被害者と個別の話し合いをして、落としどころを見つけていくことになると思います。
――再発防止策にはどのようなものが考えられるでしょうか。
大関 少なくとも、経営者を含め、管理職以上はハラスメント関連の教育をしっかり受けること。実権を握っている人たちが、自分の地位を利用してハラスメント行為をすることがないよう、過去の事例を参照しつつ、何がハラスメントにあたるのか、教育研修を受ける必要があります。今の時代の常識では、たとえ性的な行為がなくても、上下関係を利用し、「自分の言うことを聞いたら、この番組に使ってやる」と言うだけで“アウト”ですから、「ダメなものはダメ」としっかり学ぶことが大切です。組織として、トップも管理者もスタッフもタレントもハラスメントに対し、同じ価値観で物事を判断していける土壌を作らなければいけません。
――そういったハラスメントの教育を受けていることを、公にしていくことも大事だと思いました。
大関 調査をして、その結果を報告した上で、「今は研修を行い、健全な組織経営を心掛けています」というのは当然の対応でしょう。人気タレントを数多く輩出し、メディアに対して強い影響力を持つジャニーズ事務所は、流行を生み出すことで人を“動かす”力を持っています。その責任の大きさを感じながら、自分たちはどうあるべきか、今何をしなければいけないのかを理解した上で、それにふさわしい行動を取ってほしい。今までは“臭いものにフタ”という印象が強かったですが、今回の不祥事告発を機に膿を出し切り、悪しき組織風土を断ち切る覚悟で、真摯な対応を行い、企業体質とともに業界のイメージも率先して変えてほしいと願っています。
取材協力:大関暁夫(おおぜき・あけお)
All About「組織マネジメント」ガイド。東北大学卒。横浜銀行入行後、支店長として数多くの企業の組織活動のアドバイザリーを務めるとともに、本部勤務時代には経営企画部門、マーケティング部門を歴任し自社の組織運営にも腕をふるった。独立後は、企業コンサルタントの傍ら上場企業役員として企業運営に携わる。
愛を求めたチェコ最後の女性死刑囚 実録犯罪映画『私、オルガ・ヘプナロヴァー』
無差別大量殺人はなぜ、どのようにして起きたのか。このシリアスな問題に真正面から迫ったのが、実録犯罪映画『私、オルガ・ヘプナロヴァー』だ。1973年、社会主義国だったチェコスロヴァキアでトラックを暴走させ、8人を死亡、12人を負傷させた女性、オルガ・ヘプナロヴァーを主人公に、彼女の少女時代から23歳で死刑執行されるまでを克明に描いた作品となっている。
チェコ最後の死刑囚となっ…