「ブスVS美人」は“男”がつくった構図――山崎ナオコーラ氏が語る、美醜問題の元凶とは?

 ウェブマガジン「よみもの.com」で連載されていた山崎ナオコーラ氏のエッセイ『ブスの自信の持ち方』(誠文堂新光社)が、7月10日に単行本として出版された。本書は「世間は、ブスに消えて欲しがっていない。むしろ、ブスの存在を望んでいる。ブスには、『自信がありません』という顔で、隅っこでにこにこしながら立っていて欲しいのだ」など、「ブス」をテーマに社会に生じた、“歪み”について考える一冊となっている。著者の山崎氏は「ブス」という言葉について「単体では差別語ではない」と書いているが、なぜ世間は「ブス」を差別し侮辱するのだろうか。なぜ容姿に序列を付けたがるのだろうか。その心理について、山崎氏に聞いた。

――なぜ「ブス」をテーマに本書を執筆されたのでしょうか。

山崎ナオコーラ氏(以下、山崎) 私は2004年に作家としてデビューしたんですが、その時に新聞のネット版に掲載された顔写真がインターネット上のあちこちに転載されて、「ブスは作家になるな」といった誹謗中傷の言葉や、かなり激しい性的な侮辱を書かれたんです。他人にとっては小さな話かもしれないですが、私にとっては大きな出来事だったので、以来15年間、「ブスってなんだろう」と考えてきました。時々、エッセイなどに「ブス」というワードをちらりと出し、容姿に触れるようなことを書いたところ、結構な反応が返ってきて、「ブスについて悩んでいる、または考えている人が、世の中にたくさんいるんじゃないか。いつかド直球の『ブス』に関する本を書きたい」と思うようになり、今回やっと念願がかなった形です。

――ウェブマガジンでの連載時、読者からの反響はいかがでしたか。

山崎 私のエッセイにしては反響が大きくて、やはり「ブス」について多くの人が興味を持っているように感じました。10年前だと「ブス」という単語を出すだけで「ブスなんて言っちゃだめ」という反応があったり、また「私はブスと言われるのだが……」と書くと「頑張ってください」「自分をブスと認めて偉い」といった応援的な反応も多かったような印象です。でも今は、「ブス」という単語に驚く人がいない。それは、お笑い芸人の方が、テレビ番組などで「ブス」という言葉をよく使うようになったからなのかもしれないし、LBGTQなどの言葉が浸透して性の多様性について考える人が増え、容姿に関しても人それぞれだと捉える人が多くなったからかもしれない。そんなふうに思っています。

――本書には、お笑い番組などが、ブス“キャラ”芸人を使って、「美人女優さんやモデルさんに向かってケンカをふっかけさせる」演出をすることについても触れられています。ブス“キャラ”芸人とブスの関係性についてどう思われますか。

山崎 ブスキャラ芸人さんと美人によるケンカのシーンというのは、つまり、男性がつくった美醜の序列において下位にいる女性が上位の女性をバッシングしたり、うらやましがったりする……そうすると男性が“一段高い”ところに行くことができ、「ただ見てる側」の人になれる、という構図を作っているんだと思うんです。それは、男性にとっては生きやすい社会に違いありません。男性からのそういう需要に応えるために女性同士のケンカのシーンが演じられるんでしょうね。でも、ブスに美人の悪口を言わせるという番組の作り方は古いと思います。序列に関しての文句を言うべき相手は美人ではなく、ヒエラルキーを作り、「下にいる人(ブス)は、上にいる敵(美人)を攻撃しろ」とあおってくる人たち。現実の女性同士の関係においては、「ブスVS美人」はまず起こりませんし、そもそもお互いをバッシングする理由がないので、普通に友達になることが多いです。

――バラエティ番組では、ブスキャラ芸人がイケメンタレントに媚びるシーンもよく見かけます。

山崎 ブスキャラ芸人さんが、自虐ネタを言わされたり、イケメンタレントに媚びることを強いられたりするシーンは、「ブスのキャバクラ」といったものに私には見えます。テレビ番組では、「私は美醜の序列で下位にいるけれど、頑張ります。男性が微笑んでくれるだけでうれしいです」という謙虚な態度でいることをブスに強いることがよくありますよね。男性のタレントさんがブスキャラ芸人さんに対して「ブスを恋愛対象にしない」という姿勢を見せて笑いを取ろうとすることもありますが、「ブス」だってたとえイケメンだろうが好きでもない男性から恋愛対象に見てもらったところでうれしくもなんともないないですし、恋愛に興味がない人もいます。本当は、ブスキャラ芸人さんの世界はもっと広いと思うんですけどね……。ブス同士で笑えるブスネタや、容姿差別のある社会をブス側から批評する笑いを作ることもできると思うのですが、テレビ番組やお笑いの世界は「古い男性」が多くて、なかなかブス発信での制作が難しいのかもしれません。でも、新しい価値観の萌芽は感じられます。私は渡辺直美さんが大好きで、写真集も購入し、インスタグラムもフォローしているんですが、自分で考えた新しいセンスを発信していて、昔のブスキャラ芸人さんとは一線を画する仕事をしていますよね。直美さんを見ていると、「時代は変わってきているなぁ」と感じます。あと、オアシズの光浦さんとか、我が道を行く人や、本音を言う人も、少しずつ増えてきていますよね。

――本書では、女性アイドルグループの総選挙にも異議を投げかけています。男性アイドルのファンは、「誰が一番か」という順位付けよりも、「誰と誰が仲良しか」「この子とこの子の仲良し度合いを見たい」といった組み合わせを楽しむものだけれども、一方で女性アイドルのファンはアイドル同士を競い合わせて人気順位を作り、「アイドルの人間力や容姿を評価する立場」から見下ろしたいのではないか、と。

山崎 女性のアイドルだって実際は順位を競うより、みんなと仲良く仕事したいと思っている子の方が多いのではないでしょうか。なのに、運営側やファンは順位付けをして盛り上がる。これも、まあ、キャバクラですよね。女性のアイドルにキャットファイトをさせることで、王様的な立場になれるファンがいるわけです。キャバ嬢だったら成人して自分の意思で活動しているし状況も認識できているわけですけれども、アイドルには10代も多く、ましてや中学生もいます。子どもに対して性的な魅力で順位付けをするというのは人道的ではありません。大問題です。もしも、30~40代の女性が10代の男性アイドルに対して、順位付けをするシーンがあったら、「子どもを性的な目で見て順番を付けるなんて気持ち悪い」と感じる人が結構いると思うのですが、「女性に限っては、たとえ10代でも大人扱いしていい」という間違った考えを持っている人が多いんでしょうね。「10代の少女を性的な目線で見るのはおかしい」「このシステムは間違っている」といったことに、10代の女の子が気付くことはなかなか難しいでしょうから、大人が考えていかなければいけないと思います。

――「ブス」と言われて傷ついた人が、別の誰かを「ブス」と攻撃することもありますよね。

山崎 私自身は、ブスについて考えはじめたのが作家としてデビューした26歳頃からなので、そんなに幼稚なシーンを見ることはありませんでしたが、「ブス」と言われたことで傷つき、ほかの人を攻撃したくなる心理は想像できる気がします。容姿の序列を、「これが社会なんだ」「動かせない絶対的なシステムなんだ」と思い込み、「この中でどう生きていこうか」と考えてしまうと、他人を攻撃するしかなくなるんじゃないでしょうか。でも、既存のシステムにハマるのではなくて、「このシステムを作った人がおかしい」という目線を持てたら変わっていくんじゃないですかね。私に言わせれば変えられるんですよ、社会もシステムも。

――ティーン向けの雑誌では相変わらず「恋愛するためにはキレイにならなければならない。痩せなければならない」といった圧力をかける企画が多く、攻撃の対象が他人ではなく、自分に向かい過酷なダイエットをする少女もいるようです。

山崎 大人向けの雑誌は、容姿に関係なく“仕事”で輝いている人が出てきたり、社会的な話題も取り上げられたりするようになって、ちょっとずつ変わってきていると思います。ティーン向けの雑誌ではまだそのような企画が取り上げられるということは、作り手が10代を甘く見ているのかもしれません。私たちが、本当に面白い本、真に新しい雑誌を頑張って作っていかなくてはいけないのだと思います。責任を感じます。

(後編につづく)

山崎ナオコーラ(やまざき・なおこーら)
1978年生まれ。作家。國學院大學文学部日本文学科卒業。2004年『人のセックスを笑うな』が文藝賞を受賞し、作家デビュー。著書に、小説『趣味で腹いっぱい』など。エッセイに『指先からソーダ』『母ではなくて、親になる』(いずれも河出書房新社)、『かわいい夫』(夏葉社)などがある。
2019年7月10日、新刊『ブスの自信の持ち方』(誠文堂新光社)が発売。

「ブスVS美人」は“男”がつくった構図――山崎ナオコーラ氏が語る、美醜問題の元凶とは?

 ウェブマガジン「よみもの.com」で連載されていた山崎ナオコーラ氏のエッセイ『ブスの自信の持ち方』(誠文堂新光社)が、7月10日に単行本として出版された。本書は「世間は、ブスに消えて欲しがっていない。むしろ、ブスの存在を望んでいる。ブスには、『自信がありません』という顔で、隅っこでにこにこしながら立っていて欲しいのだ」など、「ブス」をテーマに社会に生じた、“歪み”について考える一冊となっている。著者の山崎氏は「ブス」という言葉について「単体では差別語ではない」と書いているが、なぜ世間は「ブス」を差別し侮辱するのだろうか。なぜ容姿に序列を付けたがるのだろうか。その心理について、山崎氏に聞いた。

――なぜ「ブス」をテーマに本書を執筆されたのでしょうか。

山崎ナオコーラ氏(以下、山崎) 私は2004年に作家としてデビューしたんですが、その時に新聞のネット版に掲載された顔写真がインターネット上のあちこちに転載されて、「ブスは作家になるな」といった誹謗中傷の言葉や、かなり激しい性的な侮辱を書かれたんです。他人にとっては小さな話かもしれないですが、私にとっては大きな出来事だったので、以来15年間、「ブスってなんだろう」と考えてきました。時々、エッセイなどに「ブス」というワードをちらりと出し、容姿に触れるようなことを書いたところ、結構な反応が返ってきて、「ブスについて悩んでいる、または考えている人が、世の中にたくさんいるんじゃないか。いつかド直球の『ブス』に関する本を書きたい」と思うようになり、今回やっと念願がかなった形です。

――ウェブマガジンでの連載時、読者からの反響はいかがでしたか。

山崎 私のエッセイにしては反響が大きくて、やはり「ブス」について多くの人が興味を持っているように感じました。10年前だと「ブス」という単語を出すだけで「ブスなんて言っちゃだめ」という反応があったり、また「私はブスと言われるのだが……」と書くと「頑張ってください」「自分をブスと認めて偉い」といった応援的な反応も多かったような印象です。でも今は、「ブス」という単語に驚く人がいない。それは、お笑い芸人の方が、テレビ番組などで「ブス」という言葉をよく使うようになったからなのかもしれないし、LBGTQなどの言葉が浸透して性の多様性について考える人が増え、容姿に関しても人それぞれだと捉える人が多くなったからかもしれない。そんなふうに思っています。

――本書には、お笑い番組などが、ブス“キャラ”芸人を使って、「美人女優さんやモデルさんに向かってケンカをふっかけさせる」演出をすることについても触れられています。ブス“キャラ”芸人とブスの関係性についてどう思われますか。

山崎 ブスキャラ芸人さんと美人によるケンカのシーンというのは、つまり、男性がつくった美醜の序列において下位にいる女性が上位の女性をバッシングしたり、うらやましがったりする……そうすると男性が“一段高い”ところに行くことができ、「ただ見てる側」の人になれる、という構図を作っているんだと思うんです。それは、男性にとっては生きやすい社会に違いありません。男性からのそういう需要に応えるために女性同士のケンカのシーンが演じられるんでしょうね。でも、ブスに美人の悪口を言わせるという番組の作り方は古いと思います。序列に関しての文句を言うべき相手は美人ではなく、ヒエラルキーを作り、「下にいる人(ブス)は、上にいる敵(美人)を攻撃しろ」とあおってくる人たち。現実の女性同士の関係においては、「ブスVS美人」はまず起こりませんし、そもそもお互いをバッシングする理由がないので、普通に友達になることが多いです。

――バラエティ番組では、ブスキャラ芸人がイケメンタレントに媚びるシーンもよく見かけます。

山崎 ブスキャラ芸人さんが、自虐ネタを言わされたり、イケメンタレントに媚びることを強いられたりするシーンは、「ブスのキャバクラ」といったものに私には見えます。テレビ番組では、「私は美醜の序列で下位にいるけれど、頑張ります。男性が微笑んでくれるだけでうれしいです」という謙虚な態度でいることをブスに強いることがよくありますよね。男性のタレントさんがブスキャラ芸人さんに対して「ブスを恋愛対象にしない」という姿勢を見せて笑いを取ろうとすることもありますが、「ブス」だってたとえイケメンだろうが好きでもない男性から恋愛対象に見てもらったところでうれしくもなんともないないですし、恋愛に興味がない人もいます。本当は、ブスキャラ芸人さんの世界はもっと広いと思うんですけどね……。ブス同士で笑えるブスネタや、容姿差別のある社会をブス側から批評する笑いを作ることもできると思うのですが、テレビ番組やお笑いの世界は「古い男性」が多くて、なかなかブス発信での制作が難しいのかもしれません。でも、新しい価値観の萌芽は感じられます。私は渡辺直美さんが大好きで、写真集も購入し、インスタグラムもフォローしているんですが、自分で考えた新しいセンスを発信していて、昔のブスキャラ芸人さんとは一線を画する仕事をしていますよね。直美さんを見ていると、「時代は変わってきているなぁ」と感じます。あと、オアシズの光浦さんとか、我が道を行く人や、本音を言う人も、少しずつ増えてきていますよね。

――本書では、女性アイドルグループの総選挙にも異議を投げかけています。男性アイドルのファンは、「誰が一番か」という順位付けよりも、「誰と誰が仲良しか」「この子とこの子の仲良し度合いを見たい」といった組み合わせを楽しむものだけれども、一方で女性アイドルのファンはアイドル同士を競い合わせて人気順位を作り、「アイドルの人間力や容姿を評価する立場」から見下ろしたいのではないか、と。

山崎 女性のアイドルだって実際は順位を競うより、みんなと仲良く仕事したいと思っている子の方が多いのではないでしょうか。なのに、運営側やファンは順位付けをして盛り上がる。これも、まあ、キャバクラですよね。女性のアイドルにキャットファイトをさせることで、王様的な立場になれるファンがいるわけです。キャバ嬢だったら成人して自分の意思で活動しているし状況も認識できているわけですけれども、アイドルには10代も多く、ましてや中学生もいます。子どもに対して性的な魅力で順位付けをするというのは人道的ではありません。大問題です。もしも、30~40代の女性が10代の男性アイドルに対して、順位付けをするシーンがあったら、「子どもを性的な目で見て順番を付けるなんて気持ち悪い」と感じる人が結構いると思うのですが、「女性に限っては、たとえ10代でも大人扱いしていい」という間違った考えを持っている人が多いんでしょうね。「10代の少女を性的な目線で見るのはおかしい」「このシステムは間違っている」といったことに、10代の女の子が気付くことはなかなか難しいでしょうから、大人が考えていかなければいけないと思います。

――「ブス」と言われて傷ついた人が、別の誰かを「ブス」と攻撃することもありますよね。

山崎 私自身は、ブスについて考えはじめたのが作家としてデビューした26歳頃からなので、そんなに幼稚なシーンを見ることはありませんでしたが、「ブス」と言われたことで傷つき、ほかの人を攻撃したくなる心理は想像できる気がします。容姿の序列を、「これが社会なんだ」「動かせない絶対的なシステムなんだ」と思い込み、「この中でどう生きていこうか」と考えてしまうと、他人を攻撃するしかなくなるんじゃないでしょうか。でも、既存のシステムにハマるのではなくて、「このシステムを作った人がおかしい」という目線を持てたら変わっていくんじゃないですかね。私に言わせれば変えられるんですよ、社会もシステムも。

――ティーン向けの雑誌では相変わらず「恋愛するためにはキレイにならなければならない。痩せなければならない」といった圧力をかける企画が多く、攻撃の対象が他人ではなく、自分に向かい過酷なダイエットをする少女もいるようです。

山崎 大人向けの雑誌は、容姿に関係なく“仕事”で輝いている人が出てきたり、社会的な話題も取り上げられたりするようになって、ちょっとずつ変わってきていると思います。ティーン向けの雑誌ではまだそのような企画が取り上げられるということは、作り手が10代を甘く見ているのかもしれません。私たちが、本当に面白い本、真に新しい雑誌を頑張って作っていかなくてはいけないのだと思います。責任を感じます。

(後編につづく)

山崎ナオコーラ(やまざき・なおこーら)
1978年生まれ。作家。國學院大學文学部日本文学科卒業。2004年『人のセックスを笑うな』が文藝賞を受賞し、作家デビュー。著書に、小説『趣味で腹いっぱい』など。エッセイに『指先からソーダ』『母ではなくて、親になる』(いずれも河出書房新社)、『かわいい夫』(夏葉社)などがある。
2019年7月10日、新刊『ブスの自信の持ち方』(誠文堂新光社)が発売。

撤去された「平和の少女像」を展示――丸木美術館学芸員が語る、表現の自由と「慰安婦」問題

 3年に一度の国際芸術祭『あいちトリエンナーレ2019』内の展覧会『表現の不自由展・その後』が、開幕からたった3日で中止となった。旧日本軍の「従軍慰安婦」をモチーフにした、キム・ソギョン氏-キム・ウンソン氏夫妻による「平和の少女像」などの作品に対し、一部から「税金を使った展覧会に、反日作品を展示するとは何事か」といった批判が噴出。事務局には「大至急撤去しろ。ガソリンの携行缶を持ってお邪魔する」とのFAXはじめ、誹謗中傷や脅迫が送られる事態となり、実行委員長の大村秀章・愛知県知事が“続行不可能”を決断したのだ。

 『表現の不自由展』は、もともと2015年、東京都練馬区にある「ギャラリー古藤」で行われた展覧会だった。『あいちトリエンナーレ』の公式サイトによると「日本における『言論と表現の自由』が脅かされているのではないかという強い危機意識から、組織的検閲や忖度によって表現の機会を奪われてしまった作品を集めた展覧会」と紹介され、今回中止となった『表現の不自由展・その後』は、「(15年の展覧会で)扱った作品の『その後』に加え、2015年以降、新たに公立美術館などで展示不許可になった作品を、同様に不許可になった理由とともに展示」していたという。

 「平和の少女像」もまた、かつて“撤去”された作品だった。12年、東京都美術館で開催された『第18回JAALA国際交流展-2012』に、少女像のブロンズ製のミニチュアが出品されたが、美術館サイドが「政治的主張の強い作品の展示を禁止した使用規定に該当する」という理由で、展示を終了させる事態に。主催団体のJAALA(日本アジア・アフリカ・ラテンアメリカ連帯委員会)は「表現の自由を侵害する」と反発したものの、受け入れられることはなかったという。しかし、「平和の少女像」のミニチュアが、その後急遽、埼玉県東松山市にある丸木美術館の『今日の反核反戦展2012』に出品されたという事実をご存じだろうか。なぜ丸木美術館は、撤去された「平和の少女像」をあらためて展示したのか――今回、同館学芸員である岡村幸宣氏に、展示の経緯、そして『表現の不自由展・その後』中止問題、さらに「平和の少女像」という作品をどうとらえているか、話を聞いた。

 まず、岡村氏は、東京都美術館の展覧会から撤去された「平和の少女像」を、丸木美術館で展示に至った経緯について、次のように説明してくれた。

「JAALAから丸木美術館に『東京都美術館から撤去されたのですが、展示してもらえないでしょうか』という話があり、『今日の反核反戦展2012』に展示することになりました。同展は、アンデパンダン展……つまり『反核反戦』の趣旨に賛同する者であれば、誰でも展示ができる展覧会なので、ほかの作家の作品同様に受け入れたということです。恐らく、JAALAが連絡をしたのは丸木美術館だけだったと思います。JAALAの作家の方々が同展に出品されている背景もあり、受け入れ先として思いつくのが丸木美術館だったのでしょう」

 丸木美術館は正式名称「原爆の図丸木美術館」。1967年に開館し、丸木位里氏、丸木俊氏夫妻による「原爆の図」連作が展示されていることで広く知られ、「『平和の少女像』に限らず、ほかでは展示が難しいという作品が持ち込まれることはよくある」そうだ。では『反核反戦展』の来場者からは、どのような反響があったのだろうか。

「7年前なので、記憶があいまいな部分もありますが、目立った反響はなかったです。ブロンズ製のミニチュア版だったため、作品自体に気づかず、通りすぎる来場者の方も多かったと思います。気づく人だけが気づく作品だったのではないでしょうか。我々も、『政治的意見を主張する作品』と強調するつもりはなく、とりわけそのような説明もしませんでしたし……『大きな騒動にならないように配慮した』とも“言えなくはない”です。とはいえ私は『平和の少女像』を、必ずしも『政治的意見を主張するだけの作品』とは思っていません」

 ただ、『反核反戦展』の出品作家から、「ああいった政治色の強い作品を展示すのであれば、私はもう出品しない」と拒否反応があったことは強く記憶しているという。その作家は、実際に翌年から同展への出品をやめたそうだが、「それもまた作家の自由」と岡村氏は言う。

「しかし、ほかの方から『出品しない』との声が出たからと言って、『平和の少女像』の出品を取り下げることはありません。無審査で誰でも出品できるというアンデパンダン展の趣旨は大事にしなければいけないと思いました」

 そんな岡村氏は、『表現の不自由展・その後』中止問題をどう見たのか。「平和の少女像」について、河村たかし・名古屋市長が「どう考えても日本人の、国民の心を踏みにじるもの」と批判し、世間でも同様の抗議が聞かれている。岡村氏は「平和の少女像」も出品された15年開催の『表現の不自由展』では「目立った拒否反応が出ていなかった」点を踏まえつつ、「今回大きな騒動になったのは、やはり『公的な展覧会で「平和の少女像」が取り上げられた』という点が大きかったのではないでしょうか」と見解を述べる。

「こうした背景を踏まえると、どうやら今この国の『表現の自由』というものは、プライベートな空間においては一定許されるが、パブリックな空間においては制限される――そんな暗黙の了解を感じ取りました。それ自体を、私はおかしいと思っています。日本では、上からの指示に従うのが『パブリック』の在り方なのか。本来は、少数弱者の意見も主張できる機会を担保するのが、『パブリック』の重要な役割だと思うのですが……日本の『パブリック』は成熟していないという現状を感じました」

 なお東京都美術館の件は、公立の展示施設が、主催団体(JAALA)にスペースを貸し出し、その展示作品に対して撤去の判断を下した構図で、「こちらも新聞報道されましたが、今回のような大きな騒ぎにはならなかった」という。

 一方で、岡村氏は学芸員として、「表現の自由」の難しさに直面することもあるという。「あくまで私個人の見解であり、ほかの美術館の学芸員の方とは異なるかもしれませんが」と前置きした上で、次のように「表現の自由」に対する思いを語ってくれた。

「美術館というのは、ある種の権威にならざるを得ない部分もあるのです。よく丸木美術館は『表現の自由の牙城』だと言われることがあります。ただ、それはあくまで一面から見ればそうなのであって、別の意見を持っている人から見るとそうではない。例えば、丸木美術館では『戦争賛成』をテーマにした展示はやりません。もちろん、できる限り規制はしたくないと思うのですが、展示によっては、本来存在しないはずのボーダーがどこにあるかを探り当てる仕事を、せざるを得ないのです。その場所の『文脈』を著しく外れるものが現れた時に、どう対処するかは、誰かが決断しなければいけない。そう考えると、学芸員は、時に『表現の自由』を制限する側に回らざるを得ない仕事だと、私は思っています。ですから、『表現の自由』という言葉を使う際には、少しうしろめたい気持ちになります」

 『あいちトリエンナーレ』にもまた、そもそもボーダーは存在しない。しかしその中で、一定の合意を得られるボーダーを見極めていくのは、簡単なことではないだろうと、岡村氏は言う。

「丸木美術館でも、作家に対して『この作品は刺激が強いので、ネガティブな反応も予想されるが、どう思うか』と意見を聞き、作家の判断で丸木美術館の文脈や歴史性を踏まえた別の作品を出品したことは実際にあります。表現を委縮させてしまってはいけないが、作家と対話を重ねて、この場所で展示をする意味を考え、しかし予定調和に陥ることのない表現とは何かを探って、合意していくプロセスは大事。同時に、『どんな反応が起こり得るか』『その反応に現場の職員が対応できるか』という現実的な問題も考え、十分に対処する必要があるのではないでしょうか。そこまで準備して初めて、展示が決定すると思っているので、『表現の不自由展・その後』が3日で中止となったことについて、私は『それでも社会に一石を投じたことに意味がある』とは言えません」

 『あいちトリエンナーレ』芸術監督の津田大介氏に対しては、「作家を受け入れる側としては、最後まできちんと向き合う必要がありますし、展示を決断した以上は最後まで継続するのが最低限の責任と思っています」と岡村氏。しかし今回、「それがなされないほどの大きな圧力がかかったのでしょう。もちろん一番問題なのは、不当な圧力をかける側なのは間違いありません」という。

 一方で岡村氏は、「平和の少女像」をどういった作品ととらえているのか。また『表現の不自由展・その後』が中止に追いやられる一端になってしまったことを、どう見ているのか。

「実は私もブロンズ製のミニチュアしか見ていなかったときは、単純に『政治的な意見を主張する作品』なのかなと、少し思っていた面があったのです。しかし、15年の『表現の不自由展』で、彩色されたFRP(繊維強化プラスチック)製の等身大の像を見た時、印象が変わりました。少女像の隣には椅子が置かれ、実際に座ることができるのですが、はじめはとても緊張したんです。隣に座って、同じ視線から等身大の少女像を見ると、赤くてふっくらした幼さのある頬、本来三つ編みだったであろうにバラバラに切り刻まれ不揃いになった髪、一点を見つめるように緊張するまなざし、ぎゅっと握りしめられた手、不安定に浮いている踵など……細かいニュアンスがわかり、少女の方がこわばっていることが伝わってきました。それはブロンズ製のミニチュアではわからなかったことです」

 また、少女像の隣に座ることによって、「『自分がもし生身の少女と二人きりでいた場合、何をするのか、何ができるのか』想像をかき立てられた」そうだ。

「その時、私は『日本と韓国の関係がどうだ』といったことを考えなかったんです。これは『慰安婦』問題でもたびたび語られることですが、もっと普遍的な人権の問題……どこの国にも、どの時代にもある問題について表現された作品だと感じました。作家であるキム夫妻も、日韓の歴史認識の問題だけを意図して作っているわけではないと思います。しかしそれを逆手に取るように『日本だけがやったことではないのだから日本に罪はない』と少女像の存在を抹殺してしまうことは、二重三重に暴力を上塗りすることになります。『平和の少女像』は、国境線を引いて攻撃するための像ではない。むしろ真逆なのではないか、そう思いました」

 彩色された等身大の少女像、その隣に座るからこそ伝わる「物語や歴史の正体がある」と岡村氏は言う。それを体感できる機会であったはずの『表現の不自由展・その後』が中止になったことに、なおのこと悔しさを感じる人は少なくないだろう。

「今回の騒動もそうですが、『平和の少女像』については、作品が置き去りにされ、記号的な先入観ばかりが暴走している、そしてそれが繰り返されているような気がします。ニュースでも、政治家の発言ばかりが取り上げられ、肝心のキム夫妻のコメントが全然出てきません。そういう意味では、『慰安婦』と呼ばれる女性たちが置き去りにされ、国と国の問題で対立が深まり、それが繰り返されているのと同じなのかもしれませんね。津田さんは、『あいちトリエンナーレ』のキュレーションにおいて、出品作家の男女比を半々にするなど、ジェンダー平等のいい試みをしていたと思ったのですが、結果的にこの騒ぎによって、ジェンダー的な圧力が強調され、しかもそれに屈するという形になってしまった。とても残念ですし、もったいないと思います」

 「平和の少女像」という作品を、そして「少女」を置き去りにしてはいけない。『表現の不自由展・その後』中止騒動を、「騒動」だけで終わらせないために何をすべきか。いま一度考えてみたい。

岡村幸宣(おかむら・ゆきのり)
「原爆の図丸木美術館」学芸員。1974年東京都生まれ。東京造形大学造形学部比較造形専攻卒業。同研究科修了。著書に『非核芸術案内―核はどう描かれてきたか』(岩波書店)、『《原爆の図》全国巡回』(新宿書房)、主な共著に『「はだしのゲン」を読む』(河出書房新社)などがある。

「PayPay」「LINE Pay」「楽天ペイ」って本当にお得で便利なの? “Suica派”成毛眞氏を直撃!

 10月1日の消費税率引き上げに伴い、キャッシュレス決済を行った場合、最大5%のポイント還元キャンペーンがスタートする。これは政府の「キャッシュレス・消費者還元事業(ポイント還元事業)」によるもので、対象の店舗で電子マネーやクレジットカード、QR・バーコード決済など、現金を使わず支払いをした場合に適用される。

 このお得なキャンペーンを前に、近年「〇〇ペイ」と名前が付いた、QR・バーコード決済サービスが多数誕生している。2018年2月、「100億円あげちゃうキャンペーン」として、利用者全員に支払い額の20%を還元、抽選で全額キャッシュバックを行った「PayPay」を筆頭に、大手企業の子会社が運営する「LINE Pay」「楽天ペイ」、コンビニの名前を冠した「FamiPay」「7pay」など、その種類はさまざまだ。定期的にポイント還元を行うなどして、各社「〇〇ペイ」の普及に力を入れている。

 その一方で、ネット上では「なんちゃらペイが多すぎて、何を使ったらいいかわからない」という困惑の声も。7月1日にサービスがスタートしたばかりの「7pay」は、直後にハッキングの被害を受け、9月30日をもって“廃止”することを発表。セキュリティ面での不安から、キャッシュレスに移行できないという人もいるようだ。

 そんな中、「〇〇ペイ」を利用する人を「ホンモノのバカ」と一刀両断するのは、書評サイト「HONZ」代表で、元日本マイクロソフト社長の成毛眞氏。成毛氏は先月、自身のFacebookにて「いちいちコンビニのレジの前でスマホをいじくり倒して、店に合わせてなんちゃらペイを起動して、それぞれに現金チャージして、QRコード表示させるだって?」と、「〇〇ペイ」の使い勝手の悪さを指摘し、JR東日本が発行するICカード「Suica」で事足りると主張。成毛氏のこの意見には、ネット上で賛同の声が多く寄せられ、同時に、「〇〇ペイ」が乱立する現状についての批判が高まることとなった。

 前述の通り、政府が主導する増税後の5%ポイントキャンペーンは、電子マネーやクレジットカード、QR・バーコード決済すべてが対象となるため、わざわざ「〇〇ペイ」を使う必要はない。お得感を煽って利用者を集める「〇〇ペイ」は、本当に“便利”なのだろうか。成毛氏に直接話を聞いた。

日本がQR・バーコード決済を取り入れる必要はなかった?

 「単純に、『〇〇ペイ』は不便だから使いません」という成毛氏は、「いちいちアプリ立ち上げて、QRコードやバーコードを出したり、読み取るのは面倒」とバッサリ。QR・バーコード決済の場合、まず専用のアプリを立ち上げ、支払い方法を選択、店内に設置されたQRコードを読み取るか、店員にバーコードを提示して、購入が完了する。一方、「Suica」は店内に設置されている専用端末にかざすだけだ。確かに、購入までの操作は「Suica」の方が圧倒的に少ない。成毛氏は「今『〇〇ペイ』を使ってる人も、そのうち気が付きますよ。『Suica』の方が便利だって。結局は、一番簡単な物に収束するんです」と断言した。

 QRコードやバーコード決済というと、中国では「アリペイ」「ウィーチャットペイ」などが普及している。日本はこの後を追う形となったが、「中国でQRコード決済が普及してるからといって、日本に取り入れる必要はなかった」という。

「中国でQR・バーコード決済が普及したのは、端末の問題でしょう。中国は企業規模が小さく、都心部を除けば個人商店ばかりですよね。個人商店はお金がないので、いちいち専用の端末を用意することができない。日本と中国ではそういった環境の違いがありますから、ただマネしてもしょうがないですよ」

 「Suica」はJR東日本が発行しているICカードということもあり、関東圏で使う分には大きな不便を感じないが、その一方で「地方では使えない」といった意見もある。「地方へ行ってもコンビニはあるし、『Suica』で買い物してますけどね(笑)」という成毛氏だが、そもそも地方は「“キャッシュレス化”自体を諦めてる」と指摘。「地方は高齢化が進んでいますが、彼らになんちゃらペイを使わせるなんて、無理な話。まず、スマホを使いこなせないとダメですから」と核心をついた。

 利便性の面で「Suica」に劣っている印象の「〇〇ペイ」だが、ポイント還元といった“お得感”は非常に強い。どちらを取るか悩むところだが、「キャンペーンが終わったらアプリを消せばいい」と成毛氏。

「私もキャンペーン中は、ちゃんとアプリを入れましたよ。全額キャッシュバックがあるなら、使わない方がバカバカしい。キャンペーンは最大限に使って、終わったらアプリを消す。私だったらそうします」

 加熱するキャッシュレス競争に、利用者までも困惑するような状態だが、結局は「何を優先するか」といったシンプルな視点が必要になりそうだ。

■成毛眞(なるけ・まこと)
1955年北海道生まれ。元マイクロソフト株式会社代表取締役社長。現在は、書評サイト「HONZ」代表、株式会社インスパイア取締役ファウンダーを務める傍ら、スルガ銀行社外取締役、早稲田大学ビジネススクール客員教授などを兼職する。著書に『面白い本』『もっと面白い本』(岩波新書)『amazon 世界最先端、最高の戦略』(ダイヤモンド社)『人生も仕事も変わる!最高の遊び方』(宝島社)など多数。

ファーストサマーウイカ、関西弁毒舌でバラエティ界に新旋風も「すべては計算済み!?」

 サイゾー読者的には、アイドルグループ「BiS」や「BILLIE IDLE」としての活動でおなじみのファーストサマーウイカ。

 そんな彼女を最近、やたらとバラエティ番組で見かける。関西弁の毒舌キャラで、思いっきりテレビタレント的に活躍している。いつの間に、そんなことになっていたのか!?

 さらに、今期のドラマ『凪のお暇』(TBS系)にも出演中ということで、ファーストサマーウイカはこのままテレビタレントになってしまうのか――。本人を直撃すると、意外と戦略的なキャラクター設定が明らかに!?

ハロプロ、スターダストは無理だけど、BiSならイケる!?

——最近、テレビで初めて知った人も多いと思うので、ざっくり、どういう経歴で今に至ったのか教えてください。

ウイカ 子どもの頃から活発な性格で、人見知りもなく、学芸会とかも積極的に中心になって参加するタイプでしたね。中学で吹奏楽、高校でバンドを始めて、ドラムをやっていたんですけど、ドラムってすごくフラストレーションがたまるんですよ。ライブで前に出られないから!

——そんなの最初からわかってるでしょ!

ウイカ ライブをやってみて、初めてそれに気がついて……。そこで、ドラマや映画にはほとんど興味がなかったんですが、自由に動き回れる役者さんっていいなって急に思い立って、「大阪 劇団」で検索して出てきた劇団に入って、関西を中心に5年くらい舞台役者をやっていました。それから「役者をやるなら一度くらいは東京に出てみたい」ということで、22歳の時に上京したんですよね。

——東京で、仕事は決まっていたんですか?

ウイカ ノープランで! 仕事も所属先もない状態で上京したら、Twitterでアイドルグループがメンバー募集しているというのを見かけて。それがBiSだったんですよ。上京して2週間後にはBiSに入ったので、突然アイドルとしての生活が始まった感じです。いつも行き当たりばったりの人生を送ってますね(笑)。

——「役者をやるなら」ということで東京に出てきたはずなのに、なぜアイドルに!?

ウイカ とにかく人前に立つことがやりたかったんです。そもそも、アイドルというものを知らなかったですからね。当時、一世風靡していたももクロさんすら知らなかったですから。

 BiSはすでにエイベックスでメジャーデビューしていたので、「舞台役者の卵」よりは明るい場所に行けるんじゃないかと。ビジュアルしかり年齢しかり、今からハロプロやスターダストには入れないだろうし、宝塚も国民的美少女コンテストも無理だけど、このグループだったら可能性あるかも! って(笑)。

——行き当たりばったりとは言いつつ、最低限のリサーチはするんですね「ここだったら……」みたいな。

ウイカ 昔からオーディションを受けるのが好きで、いろいろと知識はあったんですよ。全然受からなかったですけど。

——アイドルを知らなかったということですが、BiSってだいぶ特殊なアイドルじゃないですか。大丈夫だったんですか?

ウイカ そうですね。全裸MVを作ったり、血まみれになったり、客席にダイブしたり……。サイゾーさんに興味を持ってもらえるような破天荒なアイドルだったので、逆に性に合っていました。普通のアイドルになりたかったとしたらイヤだったと思うんですけど、特にアイドルになりたかったわけじゃないので、全然オッケーでした。

——BiSの解散後、BILLIE IDLEのメンバー として活動を始めるわけですが、そこで再びアイドルをやることになったきっかけは?

ウイカ 解散の時は24歳だったので、本当だったら女優一本に絞るとかやっていかなきゃいけないところなんですけど、NIGOさん(BILLIE IDLEのプロデューサー)から「もう一回グループでやってみないか」と誘っていただいたので、面白そうだなと思って参加しました。

 BILLIE IDLEはステージの演出や作詞など、自分たちでやれることも増えていて、表現の場としてやりたいこともできるし、いい環境ですね。

——BiSが解散して、NIGOさんから声がかからなかったら、何をしようと考えていたんですか?

ウイカ ノープランです! まあ、BiSで横浜アリーナまで行ったという実績があるので、宣材資料を作って、どこかしらの事務所に営業をかけていたと思います。元アイドルの肩書を精いっぱい利用してやっていたんじゃないかな。「元アイドルのホステスみたいな(笑)。

——今年の頭からテレビ番組でやたらと見かけるようになりましたけど、どうしてこんなことに!?

ウイカ きっかけは『女が女に怒る夜』(日本テレビ系)のオーディションを受けたことです。それまで、映画やドラマのオーディションの話は来ていたんですけど、バラエティはこれが初めてだったんです。

——オーディションって、何をやるんですか?

ウイカ ディレクターさんやプロデューサーさんとか3人くらいいて、「ムカつく女のエピソード教えてください」みたいなことを聞かれるんですよ。それにひたすら答えていった感じですね。しゃべるのは比較的得意なんで、とりあえず目の前の人を笑わせたいと。ライブみたいな感覚です。そしたらまさかの合格で! 本番は、司会がくりぃむしちゅーの上田さんだし、横に並ぶ女性タレントさんたちも、大久保佳代子さんやいとうあさこさんなど猛者ばっかりで。もちろん全員初対面ですから、緊張しましたね。

——でも、かなり爪痕を残してましたよね。それまでの活動とのイメージと、ちょっと違う雰囲気かなとも思ったんですが。

ウイカ キャラクターがあるほうがキャッチーじゃないですか。私が芸能人として憧れているのは、美輪明宏さん、叶姉妹さん、ROLLYさんと、みなさんはっきりしたキャラクターをお持ちなので、自分もそうなりたいなと思ってキャラ作りしていきました。こういう髪形してる女が関西弁でギャンギャン言ってたら、漫画のキャラクターにしやすそうかなと思って(笑)。

――なるほど……。

ウイカ これはアイドル活動で学んだことかもしれないですね。売れているアイドルさんって、漫画になっても成立するような、キャラクターが立っている人たちばっかりだから。緑色でボブだったらねむきゅん(夢眠ねむ)とか、金髪でショートカットなら(最上)もがちゃんとか。

——2~3ワードでパッと表現できるキャラクターということですね。

ウイカ そういうキャラになれたら売れやすいだろうなっていうのもあり、意図的にああいう感じにしています。さすがに、ここまでテレビに出られるようになるとは予想外でしたけどね(笑)。

——こういうキャラで「アイドル」という肩書があるのも、強みかもしれませんね。

ウイカ 確かに、それに助けられている部分も大きいですね。そういう後ろ盾がなくなった時に、本当の実力を試されると思っています。こんなブレーク状態は、いつか止まる時が来ますから。

——もうそこまで考えているんだ。冷静!

ウイカ 自分が使う側だったら、「飽きたら別の子に行けばいいや」って思いますから。そういう意味では、定番化したいなとは思っています。今は起爆剤、七味みたいな刺激物として番組に呼んでもらってますけど、将来的に、いて当たり前の存在になりたいというか。例えばYOUさん。違和感なく安心感がある、みたいな。

——毎回スゲー面白いこと言うわけじゃないけど、安定感ありますよね。

ウイカ それが定番化ってことですよね。

——今は、最初のキャラ設定がうまくハマっている状態ですが、今後のことを考えて少しずつシフトチェンジしていく 部分もあるんですか?

ウイカ 来年30歳になるので、今まで破天荒で通じていたことが「痛い」に変わる瞬間が来ると思うんですよ。下ネタとかも単に品がない感じになったり。それは、いろんな女性を見ていて思います。

今、TBSのドラマ『凪のお暇』に1話ごとに違う役で出演させていただいているんですが、ただのバカ、ただの下品な女だと思いきや「芝居もできるんだ」とか「歌もやってるんだ」とか、クリエイティブな面も知ってもらえたら、そのギャップで信頼度が上がるかなと思っています。

——これからBILLIE IDLEの全国15カ所ツアーも始まりますね。

ウイカ 主要都市だけのツアーでは行けないところにも行きます。今、バラエティで注目してもらっているおかげで、地方での知名度も多少は上がっていると思うので、ぜひこの機会に!

——「もうドラマ優先なんで、ライブには出ません」となるかもしれないですしね。

ウイカ BILLIE IDLEは、本当にいい音楽をやっているので。「ファーストサマーウイカって聞いたことある」という好奇心で来てもらいたいです。BILLIE IDLEのファーストサマーウイカが一番イケてると思いますよ! 私のライフワーク、生活の中心にある活動なので、見てもらいたいですね。
(取材・文=北村ヂン)

●BILLIE IDLE(ビリー・アイドル)
ファーストサマーウイカ、ヒラノノゾミ、モモセモモ、アキラ、プー・ルイの5人からなるガールズユニット。NIGOプロデュースにより「ネオ80’s」をテーマにしたサウンドとビジュアルイメージで、2015年4月に1stアルバム『IDLE GOSSIP』 でCDデビュー。7月28日、赤坂BLITZを皮切りに全国15カ所でツアー開催中。
https://www.billieidle.com/

嵐活動休止後の2021年以降が勝負――滝沢社長の「ジャニーズJr.戦略」が見据えるべきモノ

 7月9日に創業者であるジャニー喜多川社長が死去し、ジャニーズ事務所の今後に世間の注目が集まっている。前編では、企業コンサルタントの大関暁夫氏にジャニー氏の後継者である滝沢秀明氏がこれから取り組むべき課題について話を聞いたが、一方で気になるのが、次期社長となる見通しの藤島ジュリー景子副社長についてだ。先代では、ジャニー氏がジャニーズJr.の発掘と育成、メリー喜多川副社長が経営を担うという2トップ、またその下で、ジュリー氏と2016年に退社したSMAPの元チーフマネジャー・飯島三智氏がデビュー組のマネジメントを行うという体制が敷かれてきたが、現状ではジュリー氏がデビュー組を、滝沢氏がJr.の統括を行っているとされる。大関氏は今後、「ジュリー氏は経営に集中した方がいい」というが、その真意と、滝沢氏に対するスタンスについて見解を語ってもらった。

(前編はこちら)

ジュリー氏は経営に集中すべき理由
――滝沢氏がジャニーズJr.の売り出しを推し進める中、ジュリー氏は社長の座に就任するとみられています。

大関暁夫氏(以下、大関) 今後は、ジュリー氏がCEO(最高経営責任者)、滝沢さんはCOO(最高執行責任者)になるのではないかと思っています。ジュリーさんはCEOという立場上、現場の責任者として売り上げを伸ばそうとする滝沢さんのことをしっかりチェックし、時には意見をする必要もありますが、「出過ぎたマネをしない」のが大事。COOの権限に独立性を与える――つまり、意見はしてもいいが、それを受けて考えるのは滝沢さんに一任する、勝手な判断で「このプロジェクトはストップして」などと言わないことです。

――いかに滝沢氏を尊重できるか、ということですね。

大関 ジュリーさんはマネジャー経験がありますし、また母親のメリー氏の仕事ぶりを間近で見てきたはずなので、経営についてもある程度はわかっていると思います。SMAP解散騒動によって、ジュリーさんに漠然と良くないイメージを抱いている人も多いと思いますが、ジュリーさんには、経営者としての立ち位置を明確にし、それを周りに理解してもらうべく、行動に移していってほしいですね。

――ただジュリー氏は現状、デビュー組のマネジメントも行っている状態です。もしジュリー氏が経営に集中するとなれば、誰がデビュー組を見るのかという問題も浮上します。

大関 ジュリーさんの執行面でのサポートを誰が担っているのか、また今後は誰が担うのかは大きな問題ですね。もし後任を選んだのであれば、ジュリー氏はその人物にも、やはり「余計な口出し」をしてはいけません。CEOとCOOを兼務するなんていうのは無理な話ですし、会社がおかしくなることにもつながるので、避けるべきだと思います。

――これまでの現場の権限を譲っていくということでしょうか。

大関 そうです。いつまでも「マネジメントの親玉であること」に固執しないことです。経営を担うと、刻々と変わる現場の状況がわからなくなってくる。にもかかわらず余計な口出しをすると「知らないくせに勝手なことを言っている」と現場の人間から反感を買いかねません。

――つまり、ジュリー氏は経営、滝沢氏はJr.の育成に専念し、そしてデビュー組のマネジメントのトップを新たに据えるというのが望ましいということですね。

大関 ジュリー氏が現状どの程度マネジメントを担っているのか、また右腕的存在が育っているかは定かではありませんが、ここに来て思い出すのか、飯島さんの存在です。もし彼女が現在もジャニーズにいれば、「デビュー組のマネジメントのトップ」が飯島氏だった可能性はあると思います。そしてその下に、かつてのジュリー氏と飯島氏にあたるようなチーフマネジャーを置くという形もできたのですが……今になって、SMAP騒動で飯島氏が退社に追い込まれたことが、じわじわと事務所にダメージを与えているような気もします。

――例えば、滝沢氏がJr.だけでなくデビュー組も見るというのは、キャパオーバーになりそうでしょうか。

大関 そうですね……ただ、「慣れればできる」という資質は持っているかもしれません。あくまで兼務するのが難しいのは、CEOとCOOです。もしくは、滝沢さんと同じようなスタイルで、デビュー組のベテラン勢から、デビュー組のマネジメントのトップを担う人物が出てくる可能性もなくはないですよね。

――ジャニー氏の死去によって、ジャニーズ事務所が傾くのではないかなという声も出ています。

大関 ジャニー氏のようなあまりにも存在が大きいカリスマトップ亡き後、これまでの手法を踏襲するだけでは絶対にうまくいきません。新しく組織をつくりかえなければ、割と早い段階でガタが来ることもあり得ます。新しいタレントがうまく育たず、ベテランが減っていき、ジャニーズの人気が落ちることも考えられます。ターニングポイントは、2020年末での嵐の活動休止。再来年のお正月までにジュリーさんと滝沢さんによる、ジャニーズの新しい流れを組み立てておかなければ、一時的に冬の時代が来てしまいます。滝沢さんも当然、2021年以降を意識して、現在Jr.ユニットの売り込みに奔走しているでしょう。これは個人的な見解ですが、2010年代にデビューしたKis-My-Ft2、Sexy Zone、A.B.C-Z、ジャニーズWESTは、どこもSMAPや嵐に比べて小粒のようですし、昨年デビューしたKing&Princeも勢いがあるとはいえ、事務所としては「キンプリ一本で大丈夫?」という感じなのではないでしょうか。やはりSMAPや嵐のように、テレビのゴールデン帯で冠番組が持てるようなグループが出てこないと、世間的に「次世代のジャニーズを引っ張っていく存在」と認知されないと思います。

――今のJr.ユニットの中からその存在が出てくるかもしれません。

大関 前編でもお話しましたが、滝沢さんは今あるJr.ユニットの取捨選択をしなければいけない立場。その取捨選択を長引かせると、お金ばかりがかかり、どのグループも小粒になってしまうことも考えられます。なので、SMAPと嵐に並ぶようなグループを作りたければ、とにかく早く取捨選択しなければなりません。

――Jr.のファンとしては、「いつ私の応援するユニットが推されなくなるか」気が気ではないですね。

大関 非常にシビアですよ。恐らく、推されているユニットと推されていないユニットが、近いうちに目に見える形で表れてくるのではないでしょうか。しかし、滝沢さんは、むしろそれを「しなくてはいけない」のです。一方でファンの方は、いかに彼らが売れているかを証明する必要があるでしょう。

――思えばジャニー氏も、いきなりJr.ユニットを解体したり再編成したりして、ファンを泣かせてきましたが、非常に理にかなっていたんですね。

大関 ジャニーさんもそうやって取捨選択をしてきたのでしょう。滝沢さんも心を鬼にして……でも、一人ひとりを大事に。たとえJr.ユニットを解散させても、個人に「君はこうしたら」と提案をしていくことが、ジャニー氏に代わる「チーム滝沢」を作っていく重要なポイントとなると思います。

取材協力:大関暁夫(おおぜき・あけお)
All About「組織マネジメント」ガイド。東北大学卒。横浜銀行入行後、支店長として数多くの企業の組織活動のアドバイザリーを務めるとともに、本部勤務時代には経営企画部門、マーケティング部門を歴任し自社の組織運営にも腕をふるった。独立後は、企業コンサルタントの傍ら上場企業役員として企業運営に携わる。

SixTONES、SnowMan……ジャニー氏亡き今考える、滝沢社長「ジャニーズJr.戦略」は正しいのか?

 7月9日、ジャニーズ事務所のジャニー喜多川社長が、87年の人生に幕を下ろした。戦後の日本で、「男性アイドルビジネス」を確立したという偉大な功績は広く知られるだけに、所属タレントや関係者だけでなく、多くの人々がジャニー氏の死を悼んでいる。

 一方で、ジャニー氏というカリスマトップを失ったジャニーズ事務所の今後は、世間の関心事であるらしい。ジャニー氏の姪にあたる藤島ジュリー景子副社長の次期社長としての資質、また、昨年いっぱいで芸能活動を引退し、ジャニーズJr.の育成やプロデュースを行う滝沢秀明氏の手腕など、各メディアのこうした報道は大きな反響を呼んでいるのだ。とりわけ、滝沢氏は、「ジャニー氏の後を継げるほどの才能の持ち主なのか」といった視線を集めている様子も見受けられるが、ジャニー氏亡き今、事務所の発展のため滝沢氏は何をすべきなのだろうか。今回、企業コンサルタントの大関暁夫氏に話を聞いた。

カリスマトップの後継者は意地悪な目で見られる

――滝沢氏は現在、ジャニーズアイランドの社長として、ジャニーズJr.の育成を行っており、公式エンタメサイト「ISLAND TV」を開設してネットに進出したり、興行のプロデュース、さらにはメディアへの売り込みなどを行っています。

大関暁夫氏(以下、大関) 滝沢さんが後継者として指名されていたことは、救いだったと思います。もし後継者がいない状態で、突然ジャニーさんが亡くなられた場合、ジャニーズ事務所はさらに混乱していたのではないでしょうか。

 一般的な企業において、カリスマ創業者が亡くなった場合、そのままの流れで引き継ぐのではなく、「第二創業」を行うという戦略があります。ベースは創業者が作ったものではあっても、後継者が自分のカラーを出して新たな手を打っていくのです。滝沢さんは、今複数のJr.ユニットを手掛けて、育成・プロデュースを行っているとのことで、間違っていない、非常にいいことだと感じますね。守りに入れば入るほど、ジリ貧になったり、これまで見えてこなかった問題が噴出しがちなんですが、滝沢さんのように新しい流れを作ることに尽力していると、そういった問題も見えにくくなります。

――「これまで見えてこなかった問題が噴出する」というのは、どういったことなのでしょうか。

大関 ジャニーさんの管理下であれば問題にならなかったことが、問題になってくるという意味です。周りが「ジャニーさんなりの考えがあるのだろう」と納得していたことが、通らなくなるとも言えます。一般的に、カリスマトップの後継者というのは「どれほどの能力があるの?」などと比較にさらされ、意地悪な目で見られがちなので、前から同じ問題はあったにもかかわらず、「後継者の管理がなってないからだ」とみなされ、問題が表に出てくる面もあると思います。それが、先代の手法を踏襲することのリスクとなるわけです。

 滝沢さんが今行っているJr.のプロジェクトが、ジャニーさんのご存命中から動き出したものであるという点も、よかったと思います。周りは「きっとジャニーさんも承認していたことだろう」と受け取るはずです。また、滝沢さんの事務所内での存在感やジャニーさんからの信頼度は、関係者はもとよりファンも十分認知しているでしょうし、であれば、「彼のやることなら納得できる」と思う人は多いのではないでしょうか。もしJr.育成を、滝沢さんではなくジュリーさんが行うことになっていたら、反感が高まっていた可能性もあると感じます。

――滝沢氏は今、SixTONESやSnowManら、複数のJr.ユニットを積極的に売り出しています。その中ですべきことや注意しなければいけないことなどはありますか。

大関 複数の若手ユニットを仕掛けていこうとする場合、「続けるか/辞めるか」の見極めを重視しなければいけません。例えば、売り上げやファンの反応を見て、あまりうまくいっていないと思うユニットは早めに撤退、そしてうまくいっているユニットにさらなる投資を行うべきです。

――取捨選択するというのは、なかなか残酷ですね。

大関 全てのユニットを育て上るのは非常に難しいと思います。「売れない」と判断したら、一度解散させて、個々のタレントの別の使い方を考える。ユニットに新メンバーを投入したり、メンバーを入れ替えたりして、リニューアルをかけるというのも手です。すでに滝沢さんは、SnowManというユニットでこうした采配を振るっていると聞きますが、戦略としては正しいと思います。ジャニーさんを間近で見てきただけに、応用力が非常に高いのかもしれませんね。

 一方、タレントは「製品」としてだけでなく、「スタッフ」としての見方もできると思います。製品としては「売れない」と判断したタレントでも、裏方や自身のサポート役など、スタッフとしての才能を見いだせたら、声をかけてみる。スタッフになるにしても、タレントとしての現場経験があることはプラスに働きます。痒いところに手が届く優秀なスタッフになれますから。まとめると、滝沢さんが今後行っていくべきなのは「複数の若手ユニットを仕掛ける」「取捨選択を早める」「その中で零れ落ちた人に新たな道を与える」「彼のチームをつくり、会社の強化につなげる」というのがポイントだろうと思っています。

――6人体制だったSnowManに、新メンバーのラウール、向井康二、目黒蓮が加入したときは、一部ファンから猛反発されていました。

大関 この先、SnowManをうまく成功に導けるかは、一つの試金石でしょう。何事もそうですが、うまくいけば人は黙ります。後継者がこうした批判を受けるのはやむを得ないですから、それを気にしていては新しいことに手が出せませんから。

――最近のJrユニットは、デビュー組を追い越すような活躍を見せています。連続ドラマやCM、また『THE MUSIC DAY』(日本テレビ系)などの大型音楽特番にも出演しているのですが、滝沢氏……ひいては事務所がJr.の売り出しに注力すればするほど、ファンの間では「デビュー組のベテラン勢の心が事務所から離れていかないか」「ジャニーさんが亡くなったことで、より不安になった」といった声が出てくるようになりました。

大関 滝沢さんは今、どんどん新しいことをしていかなければいけない時期ですから、それはやむを得ないことだと思います。極論、ジャニー氏がつくったグループのタレントに関しては、辞める人も出てくるでしょう。「後継者である滝沢が頑張っているなら、全力で協力したい」という人もいれば、「滝沢が新しいことをしたいなら、邪魔にならないようにしたい」という人もいるはずです。ただこちらに関しては、滝沢さんというより、現状デビュー組の統括を行っているジュリー氏がいかにフォローしていくかの問題のようにも感じますね。

 一方で、ベテラン勢のことに関しては、もう流れに任せるしかない。それに、デビュー15年を超えたグループというのは、いろいろな問題が浮上し、ある意味「終わりに近づいている」状態になります。グループでの活動をどうするのか――活動休止して個々の活動をメインにするのか、はたまた解散するのかは彼ら自身に任せるべきでしょう。なお一般的な企業では、会社の規模にもよりましが、カリスマトップが亡き後の後継者と「方針が違う」という理由から、優秀な社員が辞めることは珍しくありません。ただ、滝沢さんにとってジャニーズのタレントたちは、もともと一緒に仕事をしてきた仲間。敵は少ないタイプなのではないかと思います。

(後編につづく)

取材協力:大関暁夫(おおぜき・あけお)
All About「組織マネジメント」ガイド。東北大学卒。横浜銀行入行後、支店長として数多くの企業の組織活動のアドバイザリーを務めるとともに、本部勤務時代には経営企画部門、マーケティング部門を歴任し自社の組織運営にも腕をふるった。独立後は、企業コンサルタントの傍ら上場企業役員として企業運営に携わる。

吉本興業、地に落ちたイメージは回復できる? リスク管理の専門家が「すべきこと」を解説

 芸能界を代表するプロダクション・吉本興業のイメージが、いま地に落ちている。6月上旬、「フライデー」(講談社)のスクープによって、雨上がり決死隊・宮迫博之やロンドンブーツ1号2号・田村亮ら吉本芸人が、特殊詐欺グループに闇営業をしていたことが明らかとなった。吉本興業は宮迫、亮らに厳重注意処分を下したが、引き続きヒアリングを行う中で、当初「特殊詐欺グループから金銭を受け取っていない」としていた宮迫らの弁が嘘だったと発覚。当面は活動を停止する謹慎処分を科したものの、その後、闇営業報道が過熱する中、7月19日に宮迫との契約を解消するに至ったのだ。

 しかし騒動はここから驚きの展開を見せる。宮迫と亮が翌20日に謝罪会見を開き、その中で、吉本興業の岡本昭彦社長から「パワハラ発言があった」と告白。宮迫らは以前から会見を行いたいと主張していたものの、岡本社長に「お前らテープ(録音)回してないやろな?」「やってもいいけど全員まとめて連帯責任でクビにするからな」などと脅され、また「在京5社、在阪5社のテレビ局は吉本の株主だから大丈夫や」と、同社とテレビ局の癒着を匂わせるような発言もされたという。一方、これを受け、岡本社長が5時間半にも及ぶ会見を行ったが、的を射ない回答が続き、特にパワハラ発言に関して「場を和ませる冗談のつもり」と弁明したことは、世間から大ヒンシュクを買ってしまった。吉本の大物芸人たちも次々と声を上げ出す中、もはやこの騒動は、いつ決着するのか定かではないような状況だ。

 こうして、世間を失望させるに至った吉本興業だが、これから信頼回復に努めなければいけないだろう。今回、リスク管理、危機管理の専門家で、フジテレビ系ドラマ『リスクの神様』の監修も務めた社会情報大学院大学教授(リスクマネジメント)でゼウス・コンサルティング代表取締役社長の白井邦芳氏に、「吉本興業が世間の信頼回復のためにすべきこと」を聞いた。

吉本が設置した「経営アドバイザリー委員会」とは何か?

 現在も混乱の中にあると思われる吉本興業だが、一連の騒動への対応は進めているようだ。6月27日には、闇営業問題について、コンプライアンスの徹底と反社会的勢力排除の方針を述べた「決意表明」を公式サイト上に掲載。また、岡本社長のパワハラ問題が発覚した後の7月25日、コンプライアンス徹底だけでなく、所属タレントとの契約の在り方、ギャラなどの諸課題に取り組んでいくための「経営アドバイザリー委員会の設置」を発表した。

「リスクマネジメントの観点から、『企業ブランドの回復』をどうするのかということを考えると、通常社外向けには、まず行動指針の発表を行います。『この件についてどのように改善していくか』を示すもので、吉本興業の『決意表明』がこれに当たります。次に管理組織の設置です。問題解決に対して自浄能力に懸念が持たれる場合、第三者の助言を得るために客観的な調査や今後の対策を管理する組織を作るのですが、これが今回の事例では『経営アドバイザリー委員会』に当たります」

 一方、社内的には、「管理組織が問題解決のためのルールを決める」ことが一般的だという。

「吉本興業においては、社員に向けてはルールを書面で規定化、タレントに向けては契約を結ぶということになるかと思うのですが、後者に関してはすでに『取り組んでいく』と公表しています。その後、管理組織は作られたルールが適正に運用されているのかを確認し、その監査結果を対外的に公表できるかが国民目線での対応と言えます」

 つまり、現状吉本興業は、「社外向け」に関しては、リスク管理の手順通りに対応を進めているということになるが、白井氏いわく今回の件では「もう一つ重要な点がある」とのこと。それは、問題になっている「コンプライアンス」と「パワハラ」が、「最もリスク管理が難しい」ことだという。

「反社会的組織の遮断という問題は非常に難しいです。例えば、反社と関わる闇営業を『するつもりはない』『過去にもやったことがない』というタレント・Aさんがいたとします。Aさんは、ある人物から闇営業の誘いを受けたものの、話を聞くうちに、相手が反社だと気づいた。そのタイミングで話をなかったことにできればいいのですが、相手から『あなたの事務所のBさんもCさんもやってるよ』『黙ってれば、事務所にはわからないよ』などと言われ、取り込まれてしまう――実はこういうケースは結構あります。このような『反社からの誘いを断りづらい』状況になったときに大事なのが、タレントと会社が“協力して”、拒否することなんです。『反社との関わりについてはタレント個人の責任であり、発覚した場合は懲罰を与える』といった現状のままのルールでは、根本的な問題解決にはならない。会社として本気で反社のつながりを排除していきたいのであれば、タレントと一緒に取り組んでいくべきでしょう」

 また、パワハラに関しては、加害者側が気づかずにやっているケースがほとんどであるため、その改善は簡単なことではないという。

「岡本社長も、『場を和ませる冗談のつもり』と言っていましたが、その言動が相手にどれだけの精神的苦痛を与えたか、気づいていなかったのでは。社内でパワハラのリスクを低減させるためには、かなり細かく『こういうことを言う/すると、パワハラに認定される』と、具体的な事例を社員全体に知らしめ、研修などで現場に落としていくことが大切です。なお各職場の現状によって、パワハラの具体的な事例は変わってきますから、それに応じる内容でなければいけません。経営アドバイザリー委員会が、社内向けのルールを作る際、その点を研修やテストなどに落としていけるかはポイントですね」

 なお、「声の大きな人が、気の弱い人に圧力的に大声出しただけでも、パワハラ。あるいは、『できない』とわかっている社員に重たい業務を振ったり、逆に優秀な社員に無駄な作業をさせるのもパワハラに当たる。その範囲は深くて広いのです」というだけに、「『パワハラはダメです』と言うだけは、まったく効果がないと考えられます」とのことだ。

 白井氏は、2011年に島田紳助が、暴力団関係者との交際を明かし、芸能界を引退した件を振り返りながら、今回の騒動の背景にある吉本興業の“驕り”を指摘する。

「吉本興業は、島田さんをリスク管理で“切った”という過去があります。その際、どんなことをしてでも、反社のリスクをなくすといったスタンスだったにもかかわらず、今回、二度目の問題を起こしてしまった。テレビ局は、取引先の反社との関わりを最も嫌がるものですが、恐らく吉本興業は、『とは言っても、吉本芸人がいなければ、番組の出演者を揃えられないでしょう?』といった傲慢な部分があったのではないでしょうか。今回の騒動に関しても、はっきり言って、芸人を使って“笑い”に変えさせることで、幕引きしようとしていたというか、当初は軽い気持ちで対応していたのではないかと思ってしまいます」

 この騒動では、明石家さんまやダウンタウン・松本人志、極楽とんぼ・加藤浩次、ナインティナイン・岡村隆史など、事務所の大御所がさまざまな意見を発したことで、収拾がつかなくなった面もあるが、これは吉本興業が初動でミスを犯したことの現れだという。

「危機管理の視点から言うと、企業はこういったことを『起こしてはいけない』のです。誰か一人でも口を開けば、次々に意見をする者が出てきます。吉本興業は当然、どのタレントがインフルエンサーなのかわかっているでしょうから、であれば、会社側が騒動勃発当初、インフルエンサーのタレントたちに対し、『ぜひご意見を頂戴したい』と、幹部陣との話し合いの場を提案すればよかったと思います」

 吉本興業ではなく、宮迫と亮が先に会見を開いたのも、白井氏は「順番がおかしい」と感じたそうだ。

「特殊詐欺グループへの闇営業問題発覚後、宮迫さんが先に会見を行い、その中でパワハラ問題が浮上して、岡本社長が会見を開いたという流れですが、ゆえにこの会見は、非常に複雑な内容となってしまいました。本来であれば、まず会社として謝罪会見を行うべきでしたね。会長、社長、コンプライアンス部門の役員が出席したうえで、『これまで反社の遮断に対応してきたが、今回防ぎきれなかったこと』を経営管理視点で謝罪する。またその会見の中で、宮迫さんを含めたタレントに対し、岡本社長にパワハラと疑われる言動があったことがわかり、内部監査を行った結果、本人も認めたのでその点も謝罪を行う……という形が望ましかったのではないでしょうか」

 しかし実際には、岡本社長は個人として会見に登場し、「パワハラ発言を『言ったの、言わないの』の話をして、最終的には『場を和ませる冗談のつもり』だったと。そもそも謝罪会見であるはずなのに、記者から事実確認をされて口ごもるシーンもあるなど、説明会見のような内容となっており、最初から軸がブレていた印象もありました。1,000人の社員、6,000人のタレントを抱えるような大きな会社の社長が、たくさんのマスコミから注目される会見でする対応とは思えませんでした」と、白井氏は厳しく指摘する。

 そんな吉本興業だけに、白井氏は、「信頼回復に時間がかかるかもしれない」と感じているそうだ。

「マスコミ報道は1カ月ほどで鎮静化するでしょう。しかし、3度目の反社に関する問題を起こすことはあってはなりません。今後、経営アドバイザリーが、透明性を確保しながら、新ルールの運用プロセスを世間に公表していくと思われますが、それを人々は『やはり吉本はリーダーカンパニーだ』と受け取るか、はたまた『やっぱりダメな会社だ』と受け取るか。どちらに転ぶかが、今後の吉本興業の一つの試金石になると思います」

 果たして、吉本はこの苦境にどう立ち向かうのか――。今後も注視していきたい。

白井邦芳(しらい・くによし)
社会情報大学院大学教授。米国外資系保険会社で危機管理担当役員などを歴任。一般財団法人リスクマネジメント協会顧問、経営戦略研究所外部講師。ゼウス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長。フジテレビドラマ『リスクの神様』、テレビ東京『ハラスメントゲーム』の監修も務めた。

「あなたと、 コンビに」が結びつけた“隅っこ”コント師、かが屋の真実

お笑い第7世代と呼ばれる芸人の中で、最も「新しい」と呼ばれる2人、マセキ芸能社所属・かが屋。黒いTシャツの加賀翔と白いTシャツの賀屋壮也が、身近にありながら今まで誰も目を向けなかった「日常の中の非日常」をコントであぶり出す。ガツガツでもギラギラでもないけど、見据える未来はかなりデカい。令和、それは“隅っこ”コント師、かが屋が真ん中を歩く時代である。

 

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――「第7世代」といわれる芸人さんたちの注目度がいま、急上昇しております。

加賀 第7世代という言葉のおかげで仕事をいただけて。

賀屋 本当にそうなんですよ。

――多くの芸人さんが「かが屋が面白い」と引き合いに出される現状については、どう思われますか?

加賀 ち、ちなみに具体的に誰が言ってたんですか?

――私が聞いたのは、ハナコの3人です。

賀屋 チャンピオンに……あぁ、うれしい。

加賀 信じられないけど、うれしい。

――考えてみたらお2人は、そういう賞的なものって……

加賀 はい、まったくないです。

賀屋 無冠中の無冠でございます。

加賀 決勝にすら行ったことがない。だからまだ、(世間の評価に)まったく追いついてないというのが実際のところです。いや、追いついてないというのも生意気なくらいなんですけど。

――まだ、あまり自覚はないですか?

加賀 どうにかこうにか、周りに引っ張ってもらってるというような。

賀屋 そうですね、本当に。

――「いま舞台袖に一番人が集まる芸人」という表現については?

加賀 ひとつだけ心当たりがあるというか……。全然ウケてなかった時に「声が小さすぎる」って言われてたことがあったんです。じゃあ、いっそのこと舞台上からまったく声がしてなかったら「何が起こってるんだ?」と思って芸人さんが袖に来てくれるんじゃないかと。

賀屋 あいつら何をしてるんだ? って。

加賀 静かにしてたらみんなが集まって……心配して集まってきてくれたという出来事があって。それから静かにできるネタってなんかないかなって、そういうことを試したりしてた時期はありました。芸人さんとかスタッフさんの印象に残ろうとしてましたね。もちろん、お客さんが一番ですけど。

賀屋 僕らと付き合いが長い芸人さんたちは「前は本当に声小さかったよね」って、みんな言います。

加賀 マジでそれはめちゃくちゃ悩んで、ひたすら腹筋してた時期とかありました。声を大きくするために。面白いネタ書くとか以前の問題……。

――今は声の小ささを逆手に取って……という感じですか?

賀屋 今はただ開き直って。もうそっちに近いと思います。

――お2人が出会ったのは、コンビニのアルバイトですよね。

賀屋 そうです。6年前ぐらいかなぁ。

加賀 朝勤と夜勤だったのでまったく会わなかったんですけど、そこを店長がつないでくれたんです。店長が僕とシフトに入った時に話した話、賀屋と入った時に話した話をお互いに行き来させてて。バナナマンが好きって話を僕がしてたら「朝のあいつはバナナマンが好きらしいよ」って、夜の賀屋に伝えてくれて。

――キューピッドが店長……。

加賀 どうやらうちのコンビニに趣味の合うやつがいるらしいって知って、それが1年ぐらい続いたんですけど……そしたら店長が急に「忘年会をやろう」って言いだしたんですよ。しかも、みんなが忘年会に参加できるように、店長自身はずっとシフトに入って。そのためだけに派遣の人をわざわざ雇って。

――なんて素敵な店長……。

加賀 そこで初めて賀屋に話しかけられて。

賀屋 そうなんですよ。

――「バナナマンがお好きなんですよね?」みたいな感じ?

加賀 せっかく店長が企画してくれんですけど、その僕……コンビニの忘年会っていうカオスな状況がちょっと居心地悪くて、外でずっとタバコ吸ってたんですよ。そしたら急に耳元で「バナナマン好きな加賀くん?」って言われて。

賀屋 必死だったんですよ、その時。声かけようと思って。

加賀 鳥肌ゾワッて立って。強烈な印象を残されました。でも、そこから話聞いてったら趣味が合うっていうか、ネタも書いてるって聞いて。

賀屋 そこからコンビ組んだんですけど。ちなみに、そのコンビニはファミリーマートで。「あなたと、コンビに」

――おあとがよろしい……。

賀屋 さらにそのキューピッド店長さんの名字が、大きい矢って書いて「大矢さん」っていうんですよ。キューピッドの矢(ニヤリ)。

――腹立つ~(笑)。

賀屋 これ、絶対に載せてください(笑)。

――お2人は、いつ頃から芸人を目指していたんですか?

加賀 僕は幼なじみに大阪NSCに誘われて……それが高校2年生。僕中退してたんで、特にやることもないし、じゃあって。でもNSCに入る直前、急に向こうから「俺やっぱりやめたい」って言われて。僕、お金振り込んでて、引っ越し先も決めてたんです。結局、大阪には一人で行ったんですけど「あれ? なんで俺一人なんだ?」って。一生懸命ネタの授業も受けてるんですけど「なんでだ?」って。自分一人でここにいる意味わからなくて、授業にも行かなくなって。親に「もうやめたい」って電話したら、親は「帰ってくんな」って。やるって決めたんだからと。

――その後、どうしたんですか?

加賀 決定的だったのは「漫才劇場ができる」っていうウワサがNSCで流れて。若手は漫才しかやっちゃいけないみたいな、そういうウワサが流れて。僕一人だったし、もう大阪ではやれないな、じゃあ東京に行こう……と。

――NSCで、新しい相方を探すことはしなかったんですか?

加賀 人見知りなのと、あんまり友達もいなかったですし。「コントやろう」って言ってくれた子もいたんですが、その時にはもう東京行くって決めてたので断りました。そしたら「俺もお金ためていくから、東京で待っててくれ」って言われたんですよ。だから僕、東京に引っ越して、その子を待ちながらファミリーマートで働き始めました。でも1年たった時に電話かけたら、「芸人やめることにした」って。

賀屋 振られまくってる。

――すれ違いコントみたいだ……。

加賀 2年ネタばらしないアンジャッシュさん……。

賀屋 恋人に振られまくって傷ついてるところに、僕が付け入ったっていう感じでしょうか。タイミング的に。僕は普通に大学生だったんですけど。

――賀屋さんもその時、芸人を目指していたんですか?

賀屋 どちらかというと、放送作家希望でした。バナナマンさんがすごい好きで、オークラさん に憧れてたから。

――3人目のバナナマンですね。

賀屋 そうなんです。でも、就活も控えてて、どうしようかなと思ってたところに、新人で加賀が入ってきた。すごく運命めいたものを感じたのに、ちょっと思いが強すぎて、ファーストコンタクトで怖がらせちゃったっていう。

加賀 結構、熱い感じで「コント書いてるから見てよ」って言われて、5本ぐらい持ってきてくれたんですけど、全部人が死ぬコントだったんですよ。

賀屋 それが格好いいと思ってたんですねぇ(笑)。

加賀 僕はもう「ヤバイ」「この人は危険」って感じて。

賀屋 俺の部屋で見せたんだっけ?

加賀 部屋で……密室で……最後に人が死ぬコントを見た。

――ヤバイですね。

加賀 ヤバイとは思ったんですけど、僕としてはこれでミスったらもう終わりだと思ってたから……「ちょっと、俺中卒だからかなぁ、わからないのは」みたいな逃げ方した。

賀屋 そんなこと思ってたんだ、気使わせちゃった(笑)。

――今でもコントに、そのエッセンスは感じますか?

賀屋 でもまぁ、変な人が出てくるんです。

加賀 やっぱり、なんていうか、学生時代に「面白いね」って言われてたタイプではないので、どうしてもそういう感じになってしまう。

賀屋 だよね、そう。俺は、めちゃめちゃ隅っこにいましたね。

加賀 中学の時は、ものすごくいいポジションにいたんですよ。僕の幼なじみだった女の子が一番強い女ヤンキーで。

賀屋 女ヤンキー……。

加賀 生え抜き? なんていうんだろ? その、ヤンキーになる前の時代から仲良くしてたんで。

賀屋 生え抜きっていうの?(笑)

――野球選手みたいですね(笑)。

賀屋 進化前から知ってるってことだ。

加賀 そう、だからヤンキーの人たちとも仲良くできるし、自分の本来のポジションの人たちとも仲良くしてて。

賀屋 めちゃくちゃ格好いいじゃん。

加賀 無敵だったんですよ。それが高校に進学したら、僕は今まで女ヤンキーのおかげで友達ができてたっていうのをわかってなくて。友達の作り方がわからなくなっちゃったんですよ。そこから誰とも仲良くなれずに……。

――逆高校デビューですね

加賀 でも、学校行かなくなった一番の理由は別にあって。休みがちになっていた頃、一度“不登校児のプロ”みたいなスクールカウンセラーと面談したことがあったんです。その人が「何が好きなの?」って聞くから「お笑い好きです」。「へぇ、そうなんだ。誰が好きなの?」「ダウンタウンさんとか紳助さんとか好きですね」って言ったら急に顔色変わって「ダウンタウンなんか面白くないよ」「ああいう人を傷つけるような笑いをして」って、そのカウンセラーが。

――ああ……。

加賀 僕、むちゃくちゃケンカしちゃって、その人と。「見てますか?」「じゃあ、何見てますか?」「『ガキ使』とか『ダウンタウンDX』とか見てますか?」と。「見てない」って答えたカウンセラーに「見てないのに面白くないとか言うな!!」って、そこで飛び出しちゃって、完全に学校には行かなくなってしまいました。

――(ハードだ……)賀屋さんは、どんな感じだったんですか?

賀屋 僕は逆にもう中学時代は女の子から嫌われてて。

加賀 えぇぇぇ!

賀屋 「えぇぇぇ!」って、知ってんだろ!? 何回も言ってるはずだから! 女の子からいじめられてて。うちの実家ちょっと変わってて、お風呂が薪でたくタイプだったんですよ。薪 だから煙が出るじゃないですか。煙突から出た煙が全部子ども部屋のほうに入ってくるつくりだったんですよ。学生服がそこで長年いぶされて、ずっとスモーキーな香りがしてた。そういうのって、女の子は敏感じゃないですか。「キモイ」とか「臭い」とか「焼いたソーセージのにおいがするね」みたいな。

加賀 焼くの? ソーセージ。

賀屋 好きな子もいたんだよ。私立で中高一貫で2クラスしかなくて、その子は別のクラスで。時々ある合同授業の時にその子が自分のクラスに来るんですよ。それでどの席に座ろうか探してて、僕の席を指さして「これ誰の席?」って友達に聞いてて、友達が「あ、あいつのだよ」って言ったら「うわぁ、最悪なんですけど」って。「あぁ……俺の恋は終わった」と。

――うううう。

賀屋 俺はなぜこの話をしたんだ……。

加賀 そんなこと言う子を好きになったのが間違いだよ!!

賀屋 好きだったんだよ、かわいかったんだよ! 1軍の子が好きだったんですよ! いつも一番かわいい子が好きで、身分不相応なのにその子が好きで。で、そこからどんどん暗くなっちゃった。机に、いじめてくる、悪口言ってくる子の名前をもう彫れるんじゃないかっていうくらいシャーペンで重ね書きして。くっそう……って。

加賀 そんなインタビューじゃ……。

――……続けてください。

賀屋 いじめてたほうは……もう勝手に大人になっていくんですね。大人になってくると、いじめるのダサいとか、みんなで仲良くしたほうが格好いいみたいな方向にシフトチェンジして、僕と仲良くしだしたんですよ。「なんだよこいつら、俺は忘れてないぞ」って。それがずーっとあって。わかって……いただけます?

――わかります……。なんか楽しかったよね、学校。みたいな感じにされて、はぁ?

加賀 まさかの共感。

賀屋 でも、めっちゃかわいかったんでね、何事もなかったかのように仲良くしちゃいました。

――そこ戦ってくださいよ!!

加賀 そういうことですよ。

賀屋 そういうことですね。

――そこからお笑いにつながっていくエネルギーは見つかりましたか?

賀屋 1回……すっごい鮮明にその光景を覚えてるんですけど、高1の夕方……教室のドアのところに僕が立たされて、窓際に12人ぐらい男子がいて、一斉にイジられるっていう。で、僕もそれに返さないわけにはいかないから、「なんでだよ?」「だれがだよ!」「パッと燃えてなくならないわ!」みたいなことを返して。夕方なんで、同級生の背中に日が差して、全部シルエットなんですよ。その光景が時々夢に出てくる。あの12人は、なんだったんだろう……。もしかしたら夢かもしれない。お笑いは好きでしたね。

――急に「お笑いは好きでしたね」って……。

賀屋 ああいう時に一番ダメなのは、イジってこないやつですね。イジるならイジれと思いました。

――賀屋さんの記憶の奥底にあるシルエットが、かが屋のコントになんらかの影響を与えていることはわかった気がします。

加賀 そうなのか……。

――小道具とかもあまり使わないし、衣装もシンプルですし。

賀屋 確かに、あんまり使ってはないですね。

加賀 しかも、コントに入る時の状況説明をしないので、だからこそシチュエーションが偏るというか。電車のネタが異常に多くて。つり革を持つ、リュックを前に背負う――これだけで電車になるから。本当に「『トレイン』っていう単独ライブやったら?」ってイジられるくらい。

賀屋 かが屋単独ライブ「トレイン」。

加賀 本当は昔、衣装や小道具にお金使いすぎて、しかもそれがどんズベりして。結局、自前の白Tシャツ、黒Tシャツ、下ジーンズってなっただけなんですけど。

賀屋 見た目地味だし……衣装も地味なほうがいいかっていう。

加賀 「声が小さい」みたいなことも、人に言われるまで「あ、僕たちは声が小さいんだ」って気づいてなかったんですよ。そういうレベルの人間だったので。

――お笑いスクールでは、一番怒られそうなところですよね。

加賀 ただ、「新しい」と思われたいとか「あいつらすごいな」って思われたいところはめちゃくちゃあって。学歴コンプレックスでしょうか、高学歴の人もいっぱいいる、上手な人、面白い人もたくさんいる中で、「なんでそんなことするの?」って思われるようなことをやらないと生き残ってはいけないとは思ってました。

賀屋 なんか違うことしないと。

加賀 なるべく誰の邪魔もしたくないっていうのもあって。たくさん芸人さんがいるライブだと、設定やキャラがかぶることがあるじゃないですか。できるだけ人の邪魔……嫌われたくないんで「コンビニのネタやりやがって」「面接のネタやりやがって」とか、なるべく言われないように。本当に「すみません」って端っこ、端っこを歩くという。

賀屋 メチャクチャ気にしいだから。

――2人の、これからの夢は?

加賀 自分たちの……いつか冠番組持ちたいっていうのはもちろんあるんですけど、何ができるかっていうのもまだわかってなくて。ネタのことは一生懸命考えてきたんですけど、それ以外のことって正直あんまり考えられてなかったっていうか。でも今、急にトーク番組に行かされたり、ギャップがすごくて。今後のことを本気で考えなきゃいけない時期だなぁとは思ってますけど。

賀屋 観るのはすっごい好きなので、自然と溶け込めたらめっちゃいいなぁとは思うんですけど。

加賀 食レポとかもやりたいよね。

賀屋 一番いいですよね。

加賀 母親やおばあちゃんは、テレビに出てる息子や孫がお笑いやってる姿より飯食ってる姿見れたほうが、絶対に安心すると思うんです。僕ら2人ともシングルマザー家庭なんで。

賀屋 そうなんですよ。だからね、お母さんには、ちゃんと食べてるんだって安心してほしい。あと、大河ドラマ出たいです!
(取材・文=西澤千央)

 

【出演情報】

●8/17(土)27:00~29:00/ニッポン放送『かが屋のオールナイトニッポン0(ZERO)』

●8/23(金)22:00~24:00/RCCラジオ『かが屋の鶴の間』(毎月第4金曜日) 

「あなたと、 コンビに」が結びつけた“隅っこ”コント師、かが屋の真実

お笑い第7世代と呼ばれる芸人の中で、最も「新しい」と呼ばれる2人、マセキ芸能社所属・かが屋。黒いTシャツの加賀翔と白いTシャツの賀屋壮也が、身近にありながら今まで誰も目を向けなかった「日常の中の非日常」をコントであぶり出す。ガツガツでもギラギラでもないけど、見据える未来はかなりデカい。令和、それは“隅っこ”コント師、かが屋が真ん中を歩く時代である。

 

***

――「第7世代」といわれる芸人さんたちの注目度がいま、急上昇しております。

加賀 第7世代という言葉のおかげで仕事をいただけて。

賀屋 本当にそうなんですよ。

――多くの芸人さんが「かが屋が面白い」と引き合いに出される現状については、どう思われますか?

加賀 ち、ちなみに具体的に誰が言ってたんですか?

――私が聞いたのは、ハナコの3人です。

賀屋 チャンピオンに……あぁ、うれしい。

加賀 信じられないけど、うれしい。

――考えてみたらお2人は、そういう賞的なものって……

加賀 はい、まったくないです。

賀屋 無冠中の無冠でございます。

加賀 決勝にすら行ったことがない。だからまだ、(世間の評価に)まったく追いついてないというのが実際のところです。いや、追いついてないというのも生意気なくらいなんですけど。

――まだ、あまり自覚はないですか?

加賀 どうにかこうにか、周りに引っ張ってもらってるというような。

賀屋 そうですね、本当に。

――「いま舞台袖に一番人が集まる芸人」という表現については?

加賀 ひとつだけ心当たりがあるというか……。全然ウケてなかった時に「声が小さすぎる」って言われてたことがあったんです。じゃあ、いっそのこと舞台上からまったく声がしてなかったら「何が起こってるんだ?」と思って芸人さんが袖に来てくれるんじゃないかと。

賀屋 あいつら何をしてるんだ? って。

加賀 静かにしてたらみんなが集まって……心配して集まってきてくれたという出来事があって。それから静かにできるネタってなんかないかなって、そういうことを試したりしてた時期はありました。芸人さんとかスタッフさんの印象に残ろうとしてましたね。もちろん、お客さんが一番ですけど。

賀屋 僕らと付き合いが長い芸人さんたちは「前は本当に声小さかったよね」って、みんな言います。

加賀 マジでそれはめちゃくちゃ悩んで、ひたすら腹筋してた時期とかありました。声を大きくするために。面白いネタ書くとか以前の問題……。

――今は声の小ささを逆手に取って……という感じですか?

賀屋 今はただ開き直って。もうそっちに近いと思います。

――お2人が出会ったのは、コンビニのアルバイトですよね。

賀屋 そうです。6年前ぐらいかなぁ。

加賀 朝勤と夜勤だったのでまったく会わなかったんですけど、そこを店長がつないでくれたんです。店長が僕とシフトに入った時に話した話、賀屋と入った時に話した話をお互いに行き来させてて。バナナマンが好きって話を僕がしてたら「朝のあいつはバナナマンが好きらしいよ」って、夜の賀屋に伝えてくれて。

――キューピッドが店長……。

加賀 どうやらうちのコンビニに趣味の合うやつがいるらしいって知って、それが1年ぐらい続いたんですけど……そしたら店長が急に「忘年会をやろう」って言いだしたんですよ。しかも、みんなが忘年会に参加できるように、店長自身はずっとシフトに入って。そのためだけに派遣の人をわざわざ雇って。

――なんて素敵な店長……。

加賀 そこで初めて賀屋に話しかけられて。

賀屋 そうなんですよ。

――「バナナマンがお好きなんですよね?」みたいな感じ?

加賀 せっかく店長が企画してくれんですけど、その僕……コンビニの忘年会っていうカオスな状況がちょっと居心地悪くて、外でずっとタバコ吸ってたんですよ。そしたら急に耳元で「バナナマン好きな加賀くん?」って言われて。

賀屋 必死だったんですよ、その時。声かけようと思って。

加賀 鳥肌ゾワッて立って。強烈な印象を残されました。でも、そこから話聞いてったら趣味が合うっていうか、ネタも書いてるって聞いて。

賀屋 そこからコンビ組んだんですけど。ちなみに、そのコンビニはファミリーマートで。「あなたと、コンビに」

――おあとがよろしい……。

賀屋 さらにそのキューピッド店長さんの名字が、大きい矢って書いて「大矢さん」っていうんですよ。キューピッドの矢(ニヤリ)。

――腹立つ~(笑)。

賀屋 これ、絶対に載せてください(笑)。

――お2人は、いつ頃から芸人を目指していたんですか?

加賀 僕は幼なじみに大阪NSCに誘われて……それが高校2年生。僕中退してたんで、特にやることもないし、じゃあって。でもNSCに入る直前、急に向こうから「俺やっぱりやめたい」って言われて。僕、お金振り込んでて、引っ越し先も決めてたんです。結局、大阪には一人で行ったんですけど「あれ? なんで俺一人なんだ?」って。一生懸命ネタの授業も受けてるんですけど「なんでだ?」って。自分一人でここにいる意味わからなくて、授業にも行かなくなって。親に「もうやめたい」って電話したら、親は「帰ってくんな」って。やるって決めたんだからと。

――その後、どうしたんですか?

加賀 決定的だったのは「漫才劇場ができる」っていうウワサがNSCで流れて。若手は漫才しかやっちゃいけないみたいな、そういうウワサが流れて。僕一人だったし、もう大阪ではやれないな、じゃあ東京に行こう……と。

――NSCで、新しい相方を探すことはしなかったんですか?

加賀 人見知りなのと、あんまり友達もいなかったですし。「コントやろう」って言ってくれた子もいたんですが、その時にはもう東京行くって決めてたので断りました。そしたら「俺もお金ためていくから、東京で待っててくれ」って言われたんですよ。だから僕、東京に引っ越して、その子を待ちながらファミリーマートで働き始めました。でも1年たった時に電話かけたら、「芸人やめることにした」って。

賀屋 振られまくってる。

――すれ違いコントみたいだ……。

加賀 2年ネタばらしないアンジャッシュさん……。

賀屋 恋人に振られまくって傷ついてるところに、僕が付け入ったっていう感じでしょうか。タイミング的に。僕は普通に大学生だったんですけど。

――賀屋さんもその時、芸人を目指していたんですか?

賀屋 どちらかというと、放送作家希望でした。バナナマンさんがすごい好きで、オークラさん に憧れてたから。

――3人目のバナナマンですね。

賀屋 そうなんです。でも、就活も控えてて、どうしようかなと思ってたところに、新人で加賀が入ってきた。すごく運命めいたものを感じたのに、ちょっと思いが強すぎて、ファーストコンタクトで怖がらせちゃったっていう。

加賀 結構、熱い感じで「コント書いてるから見てよ」って言われて、5本ぐらい持ってきてくれたんですけど、全部人が死ぬコントだったんですよ。

賀屋 それが格好いいと思ってたんですねぇ(笑)。

加賀 僕はもう「ヤバイ」「この人は危険」って感じて。

賀屋 俺の部屋で見せたんだっけ?

加賀 部屋で……密室で……最後に人が死ぬコントを見た。

――ヤバイですね。

加賀 ヤバイとは思ったんですけど、僕としてはこれでミスったらもう終わりだと思ってたから……「ちょっと、俺中卒だからかなぁ、わからないのは」みたいな逃げ方した。

賀屋 そんなこと思ってたんだ、気使わせちゃった(笑)。

――今でもコントに、そのエッセンスは感じますか?

賀屋 でもまぁ、変な人が出てくるんです。

加賀 やっぱり、なんていうか、学生時代に「面白いね」って言われてたタイプではないので、どうしてもそういう感じになってしまう。

賀屋 だよね、そう。俺は、めちゃめちゃ隅っこにいましたね。

加賀 中学の時は、ものすごくいいポジションにいたんですよ。僕の幼なじみだった女の子が一番強い女ヤンキーで。

賀屋 女ヤンキー……。

加賀 生え抜き? なんていうんだろ? その、ヤンキーになる前の時代から仲良くしてたんで。

賀屋 生え抜きっていうの?(笑)

――野球選手みたいですね(笑)。

賀屋 進化前から知ってるってことだ。

加賀 そう、だからヤンキーの人たちとも仲良くできるし、自分の本来のポジションの人たちとも仲良くしてて。

賀屋 めちゃくちゃ格好いいじゃん。

加賀 無敵だったんですよ。それが高校に進学したら、僕は今まで女ヤンキーのおかげで友達ができてたっていうのをわかってなくて。友達の作り方がわからなくなっちゃったんですよ。そこから誰とも仲良くなれずに……。

――逆高校デビューですね

加賀 でも、学校行かなくなった一番の理由は別にあって。休みがちになっていた頃、一度“不登校児のプロ”みたいなスクールカウンセラーと面談したことがあったんです。その人が「何が好きなの?」って聞くから「お笑い好きです」。「へぇ、そうなんだ。誰が好きなの?」「ダウンタウンさんとか紳助さんとか好きですね」って言ったら急に顔色変わって「ダウンタウンなんか面白くないよ」「ああいう人を傷つけるような笑いをして」って、そのカウンセラーが。

――ああ……。

加賀 僕、むちゃくちゃケンカしちゃって、その人と。「見てますか?」「じゃあ、何見てますか?」「『ガキ使』とか『ダウンタウンDX』とか見てますか?」と。「見てない」って答えたカウンセラーに「見てないのに面白くないとか言うな!!」って、そこで飛び出しちゃって、完全に学校には行かなくなってしまいました。

――(ハードだ……)賀屋さんは、どんな感じだったんですか?

賀屋 僕は逆にもう中学時代は女の子から嫌われてて。

加賀 えぇぇぇ!

賀屋 「えぇぇぇ!」って、知ってんだろ!? 何回も言ってるはずだから! 女の子からいじめられてて。うちの実家ちょっと変わってて、お風呂が薪でたくタイプだったんですよ。薪 だから煙が出るじゃないですか。煙突から出た煙が全部子ども部屋のほうに入ってくるつくりだったんですよ。学生服がそこで長年いぶされて、ずっとスモーキーな香りがしてた。そういうのって、女の子は敏感じゃないですか。「キモイ」とか「臭い」とか「焼いたソーセージのにおいがするね」みたいな。

加賀 焼くの? ソーセージ。

賀屋 好きな子もいたんだよ。私立で中高一貫で2クラスしかなくて、その子は別のクラスで。時々ある合同授業の時にその子が自分のクラスに来るんですよ。それでどの席に座ろうか探してて、僕の席を指さして「これ誰の席?」って友達に聞いてて、友達が「あ、あいつのだよ」って言ったら「うわぁ、最悪なんですけど」って。「あぁ……俺の恋は終わった」と。

――うううう。

賀屋 俺はなぜこの話をしたんだ……。

加賀 そんなこと言う子を好きになったのが間違いだよ!!

賀屋 好きだったんだよ、かわいかったんだよ! 1軍の子が好きだったんですよ! いつも一番かわいい子が好きで、身分不相応なのにその子が好きで。で、そこからどんどん暗くなっちゃった。机に、いじめてくる、悪口言ってくる子の名前をもう彫れるんじゃないかっていうくらいシャーペンで重ね書きして。くっそう……って。

加賀 そんなインタビューじゃ……。

――……続けてください。

賀屋 いじめてたほうは……もう勝手に大人になっていくんですね。大人になってくると、いじめるのダサいとか、みんなで仲良くしたほうが格好いいみたいな方向にシフトチェンジして、僕と仲良くしだしたんですよ。「なんだよこいつら、俺は忘れてないぞ」って。それがずーっとあって。わかって……いただけます?

――わかります……。なんか楽しかったよね、学校。みたいな感じにされて、はぁ?

加賀 まさかの共感。

賀屋 でも、めっちゃかわいかったんでね、何事もなかったかのように仲良くしちゃいました。

――そこ戦ってくださいよ!!

加賀 そういうことですよ。

賀屋 そういうことですね。

――そこからお笑いにつながっていくエネルギーは見つかりましたか?

賀屋 1回……すっごい鮮明にその光景を覚えてるんですけど、高1の夕方……教室のドアのところに僕が立たされて、窓際に12人ぐらい男子がいて、一斉にイジられるっていう。で、僕もそれに返さないわけにはいかないから、「なんでだよ?」「だれがだよ!」「パッと燃えてなくならないわ!」みたいなことを返して。夕方なんで、同級生の背中に日が差して、全部シルエットなんですよ。その光景が時々夢に出てくる。あの12人は、なんだったんだろう……。もしかしたら夢かもしれない。お笑いは好きでしたね。

――急に「お笑いは好きでしたね」って……。

賀屋 ああいう時に一番ダメなのは、イジってこないやつですね。イジるならイジれと思いました。

――賀屋さんの記憶の奥底にあるシルエットが、かが屋のコントになんらかの影響を与えていることはわかった気がします。

加賀 そうなのか……。

――小道具とかもあまり使わないし、衣装もシンプルですし。

賀屋 確かに、あんまり使ってはないですね。

加賀 しかも、コントに入る時の状況説明をしないので、だからこそシチュエーションが偏るというか。電車のネタが異常に多くて。つり革を持つ、リュックを前に背負う――これだけで電車になるから。本当に「『トレイン』っていう単独ライブやったら?」ってイジられるくらい。

賀屋 かが屋単独ライブ「トレイン」。

加賀 本当は昔、衣装や小道具にお金使いすぎて、しかもそれがどんズベりして。結局、自前の白Tシャツ、黒Tシャツ、下ジーンズってなっただけなんですけど。

賀屋 見た目地味だし……衣装も地味なほうがいいかっていう。

加賀 「声が小さい」みたいなことも、人に言われるまで「あ、僕たちは声が小さいんだ」って気づいてなかったんですよ。そういうレベルの人間だったので。

――お笑いスクールでは、一番怒られそうなところですよね。

加賀 ただ、「新しい」と思われたいとか「あいつらすごいな」って思われたいところはめちゃくちゃあって。学歴コンプレックスでしょうか、高学歴の人もいっぱいいる、上手な人、面白い人もたくさんいる中で、「なんでそんなことするの?」って思われるようなことをやらないと生き残ってはいけないとは思ってました。

賀屋 なんか違うことしないと。

加賀 なるべく誰の邪魔もしたくないっていうのもあって。たくさん芸人さんがいるライブだと、設定やキャラがかぶることがあるじゃないですか。できるだけ人の邪魔……嫌われたくないんで「コンビニのネタやりやがって」「面接のネタやりやがって」とか、なるべく言われないように。本当に「すみません」って端っこ、端っこを歩くという。

賀屋 メチャクチャ気にしいだから。

――2人の、これからの夢は?

加賀 自分たちの……いつか冠番組持ちたいっていうのはもちろんあるんですけど、何ができるかっていうのもまだわかってなくて。ネタのことは一生懸命考えてきたんですけど、それ以外のことって正直あんまり考えられてなかったっていうか。でも今、急にトーク番組に行かされたり、ギャップがすごくて。今後のことを本気で考えなきゃいけない時期だなぁとは思ってますけど。

賀屋 観るのはすっごい好きなので、自然と溶け込めたらめっちゃいいなぁとは思うんですけど。

加賀 食レポとかもやりたいよね。

賀屋 一番いいですよね。

加賀 母親やおばあちゃんは、テレビに出てる息子や孫がお笑いやってる姿より飯食ってる姿見れたほうが、絶対に安心すると思うんです。僕ら2人ともシングルマザー家庭なんで。

賀屋 そうなんですよ。だからね、お母さんには、ちゃんと食べてるんだって安心してほしい。あと、大河ドラマ出たいです!
(取材・文=西澤千央)

 

【出演情報】

●8/17(土)27:00~29:00/ニッポン放送『かが屋のオールナイトニッポン0(ZERO)』

●8/23(金)22:00~24:00/RCCラジオ『かが屋の鶴の間』(毎月第4金曜日)