浜崎あゆみは、なぜいま松浦勝人氏との恋を暴露した? 小説『M 愛すべき人がいて』徹底考察

 ノンフィクション作家・小松成美氏が、浜崎あゆみへの取材を基に書き上げた小説『M 愛すべき人がいて』(幻冬舎)。同作は、駆け出しの頃の浜崎とエイベックス会長・松浦勝人氏(当時は専務)の恋愛模様、そして浜崎がスターダムにのし上がっていく姿が描かれており、発売当初から大きな話題を呼んだ。「オリコン週間 BOOKランキング 2019年08月12日付(19年07月29日~19年08月04日)」では、初登場2位(3万8,155部)を記録し、その後も売り上げを伸ばしているようで、来春にはテレビ朝日で連続ドラマ化されることが決定した。

 昨今、CD売り上げの低迷やコンサート会場の規模が縮小傾向にあることが取り沙汰され、すっかり「オワコン」扱いになっている浜崎にとって、『M』のヒットは久々に明るいニュースとなったが、常日頃から、浜崎を熱心にチェックしている「あゆウォッチャー」は、『M』をどのように読んだのだろうか。今回、昨年1月、サイゾーウーマンに掲載した記事「浜崎あゆみは、なぜ“オワコン”なのに注目を集め続けるのか? ウォッチャーが激論!!」に集ったあゆウォッチャーたちが再集結。『M』を語り尽くしてもらった。

A……20代半ば女性。あゆの全盛期はあまりよく知らないが、ネット炎上を目にするうち、興味を持つように。「最初はちょっとアンチ目線だったが、一周回ってファンになった」とのこと。
B……30代前半女性。小学校高学年の頃にあゆがデビューし、青春の思い出は全て当時のヒット曲とリンクしている。しかし「全盛期より今の方があゆに夢中です」。
C……30代後半女性。今回のウォッチャー3人中で唯一のコアなファン。ブーム衰退とともに一度ファンを離れたが、5年ほど前から再びドハマり。あゆの生き方についても考察を繰り広げる。

A お久しぶりですね! 今日はここに来るまで、ずっとあゆのCDを聞いて気持ちを高めてきたよ(笑)。『M』が告知されたのが7月31日、突然「8月1日に発売されます!」という内容で、「え! 明日?」と驚いたなぁ。

B 去年の5月、松浦会長がTwitterで、一般ユーザーの「浜崎あゆみどうにかしてください」というリプに対して「本人とちゃんと話します。」と返してたんだよね。本が出るって聞いた時、真っ先に「あ! 本人とちゃんと話して、暴露本を出すことになったのか」と思った。まぁ暴露本ではなく、あくまで「小説」の体だけどね。

C ここ最近のあゆはメディア露出もなかったし、ネット上で「ネタ」にされることも一時期に比べると落ち着いてたから、『M』発売の一報は単純にうれしかった。ちょっと前に、週刊誌に20歳年下のダンサーと熱愛が報じられていたけど、それも『M』の“フリ”なのかなって。「いまはもう新しい恋人がいますよ」というのを、発売前に世間に知らしめておきたかったというか。

A でも、正直あの熱愛記事はそこまで話題にならなかったかも(笑)。あと『M』発売は、いまやってる全国ツアー『ayumi hamasaki TROUBLE TOUR 2019‐2020 A(ロゴ)‐misunderstood‐』のための話題作りもあるのかなぁと思った。

C なぜいまこの本を出したのかは、確かに興味深い。去年、あゆはデビュー20周年だったわけだけど、すごくかわいそうな1年だったと思うの。安室奈美恵が引退したから、世間は「アムロ一色」で、「なんであゆは引退しないんだ」ってかなり言われて……。私はこの『M』って、安室に対抗するために生まれた企画だったのではないかって思ってる。松浦会長との恋愛の話ばかりが取り沙汰されてるけど、内容をちゃんと読むと、「なぜ私は歌い続けるのか」という説明をしているんだよね。

B 安室を意識しているであろうことは、私も感じた。冒頭で、現在の松浦会長があゆに「自らの美学を貫き、この世界を去っていくアーティストもいるよ。でも、あゆはそうしない。ステージに立ち続ける。年齢なんかにとらわれない。それがアーティストの姿だから」って。もうこれが全てのような気がしてしまう。

C そうそう。だから『M』って、「こんなにあの人のことを愛しました」というのはフリで、「こんなに好きな人が歌い続けろと言うので、私は歌い続けます」という内容の本なのかなって。こんなに好きな人っていうのは、もちろん松浦会長のこと。

A もしその「安室対抗」説が正しいとすると、出版のタイミングがズレちゃってる気がする(笑)。だって引退したの、1年前じゃん。安室が引退する年、そしてあゆが20周年を迎える年――つまり2018年中に出すべきだったんじゃない? そしたらもっと盛り上がってたと思う。あゆがいろいろ注文をつけて、スケジュールが押しに押したのかな(笑)。情報解禁も発売前日だったし、ドタバタだったかもしれないね。

B 『M』って、9月のシーンから始まるんだよ。もしかしたら、当初は、安室が引退した去年の9月に出版予定だったのでは……という妄想(笑)。

C だとしたら、1年もズレちゃって小松さんかわいそう! でも、「なぜいまなのか」を妄想するのって楽しいよね。

B 内容の話もしていこうと思うんだけど……前の座談会で、Cさんが「あゆ、騙されやすそうだもんね」「自作の歌詞を見ていると、もともとは根暗な女だろうなぁって思う」って言ってたの覚えてる? もう『M』を読みながら、そのことを何度も思い出しちゃった! 本の中で繰り返し繰り返し、「自分には何もない」「私なんて……」みたいなことを言ってる。あゆはもともとアイドル女優だったんだけど、将来が見えずに事務所を辞め、そんな時、松浦会長に「あゆ、うちに来い。そして歌えよ」と言われて歌手を目指すようになったんだよね。でも、当初は「……歌なんて、あゆ、歌えませんよ」「でも、あゆ、きっと歌えない。無理です」という感じだった。

A そうなの、本を読むと、かなり後ろ向きな感じだよね。でも、松浦会長の「俺を信じろ」という言葉に心をつかまれて、ニューヨークに飛び、ボイストレーニングとダンスレッスンを受け始めるっていう。自信がなくて根暗な女が、自分を認めてくれた権力者の男に、洗脳され、服従していくような雰囲気があった……。「俺を信じろ」の言葉は、作中何度も登場してる。まるで呪文のように。

B だいたい、サブタイトルの「愛すべき人がいて」っていうのがなぁ。「すべき」って強いられている感じがする。「愛する」「愛したい」とはニュアンスが違う。

C だからね、このタイトルの『M』ってのは、SMの「M」説もあると思うの(笑)。あゆは松浦会長に「歌え」と言われたら歌うし、「ニューヨークへ行け」と言われたら行くし……奴隷感が漂ってる。私は、松浦会長から離れて、ロサンゼルスで好き放題していた頃のあゆが好きだから、正直言って『M』で描かれている時代のあゆには、そこまでピンと来ないんだよね。あゆは15年に帰国してから、また松浦会長と一緒に仕事を始めたわけだけど、それ以降、ずいぶんおとなしくなった印象もある。最近、あゆって痩せたじゃん。それも、松浦会長の指示なのかなと思ったり。

A 痩せたよね。散々「激太り」って叩かれてたけど、私はそれでも堂々としてステージに立っているあゆが好きだった。何だか物足りないよ。あ! そうだ!! 『M』の中で、あゆの体形について触れてるところあったよね? びっくりしちゃった。

B あった!!  冒頭の現在パートのところで、松浦会長があゆに「あのさ、メイクやファッションや体調や体型まで心配して、ファンは俺に直接ツイートしてくるんだよ」って。

C 小松さん、体形の話もちゃんと入れるなんて、素晴らしいよね。絶対あゆに見せるときにドキドキしたはずだよ(笑)。ちょっと話ズレるけどさ、序章の情景描写がやたらしつこくなかった? 「日向の匂いのするオーガニックコットンのバスタオルで髪のしずくを拭いながら、ミネラルウォーターを飲み干す」とか。「オーガニックコットン」まで書く必要ある(笑)? なんていうか、小松さんが緊張していることがひしひしと伝わってきたよ。もしくは、あゆのインタビューを録った後、「この内容で、果たして1冊分書けるのか?」という戸惑いがあって、文章を伸ばそうとしたのかも? 妄想だけどね(笑)。でも中盤からは筆が乗ってきてた。

B みんな、ほかにどのシーンにグッときた? 私は、松浦会長がニューヨークで武者修行中のあゆを訪ね、プラダに連れて行って、コートをプレゼントしたシーン。そして松浦会長が帰った後、プラダのコートを抱きしめるあゆ……。ベッタベタ! こんな古めかしいシーンなかなかないよ!

A 20代の私には、新鮮に映る(笑)。

C 私にとっての『M』のハイライトは……あゆのおばあちゃんが死んじゃうところかな。仕事が忙しくて死に目に会えず、デビューも見せられなかったという。一番の盛り上がりポイントだと思うし、ちゃんとグッときた。

A それもまたベタな感じがしちゃうけど、ある意味、“駆け出しの芸能人”が主人公の作品の様式美? 私はあゆと松浦会長が付き合うことになるシーンが好きだった。あゆが松浦会長に思いを募らせるんだけど、デビュー直前、一方的に「私は、あなたから愛されることはないでしょう。だから、今日限り、あなたを諦めます」とFAXを送るんだよね。で、それを受け取った松浦会長が「俺にとってお前が必要なんだ」と返信し、翌日、突然あゆの母親に「あゆみさんと付き合っています。真剣です」と挨拶に訪れる……。正式にあゆに「付き合おう」と伝える前に、親に言うっていう(笑)。私、こういう少女漫画読んだことある! と思った。

B 多田かおるさんの少女漫画『イタズラなKiss』(集英社)にも、そういうシーンあったよ! しかし、「私は、あなたから愛されることはないでしょう。だから、今日限り、あなたを諦めます」っていうFAXを送るのも、本当に根暗というか、暴走しているというか(笑)。

C 私ちょっと、一部のあゆファンに物申したいことがあるんだけど。楽曲の方の「M」がリリースされた2000年12月って、ちょうどあゆがTOKIOの長瀬智也と付き合いだした頃なのではないかと言われていて、ずっと「『M』の歌詞は長瀬のことを歌っている説」があったみたいなの。でも今回、「M」は松浦会長だということがわかって、一部のファンが「幻滅した」みたいなこと言ってて……本当に、勝手なこと言いやがって! と思ったよ。あゆのこと本当に好きなの!?

A あぁ、確かにいるね。「歌詞の意味を知りたくなかった」とか言ってるファン。私は当時のことをあんまり知らないけど、松浦会長と付き合っていたのは、広く知られた話だったんでしょ?

B そうだよ。うわさはずっとあったし、確か08年には、過去の2人のキス写真が「フラッシュ」(光文社)に載ったはず。

C なんで一部のあゆファンが『M』に怒ってるのかって、「松浦会長というよくわからない人に、大好きなあゆが入れ込んでるのが嫌」ってことなのかもしれない。松浦会長は、プロデューサー・Max Matsuuraとしても有名だけど、それ以上に「エイベックス社長/会長」のイメージが強いと思うの。みんなそこまで、松浦会長のこと知らないんじゃないかな。あと、元も子もないけど、あゆと松浦会長が並んでいても、あんまり絵にならないというか……。もし松浦会長が芸能人みたいなルックスだったら、あゆの奴隷感も出ないし、ファンもみんな『M』を大絶賛したと思っちゃう!

B わかるよ、言いたいことは。長瀬とあゆのツーショット写真、どれもすごく絵になってて素敵だし、2人にあこがれてた友達はいっぱいいた。それと比べ、松浦会長とあゆは、カップルとしての「あこがれ」にはなりにくいかもね……。確かに私もMax Matsuuraがどれだけ偉大なのかって、あんまりよく知らないなぁ。

A 松浦会長のことをあまり知らないファンからすると、『M』で「マサ(※松浦勝人)のために歌っていた」なんて書かれちゃうと、やっぱり「どうして?」と思っちゃうのかも。本を読むと、最初から最後まで「マサ」「マサ」「マサ」「マサ」! あゆは、自分が歌いたいから歌っているわけじゃないんだなぁと思った。

C 私は、あゆって歌うこと自体に、もはや興味を失っているのではないかと思ってる。むしろ、「歌っている私」という存在によって、誰かに影響を与えたい……みたいなことを考えている気がするよ。『M』の中で、あゆは、お母さんとおばあちゃんとの生活を支えるために、女優の仕事を頑張っていたという描写が出てくるけど、それと同じ。

B あゆの一般的なイメージって「自分のやりたいことをやっている意志の強い歌姫」かもしれないけど、『M』を読んで、あらためて全然違うなと思った。Cさんの解釈も踏まえると、よりそう感じるよ。

A 私もあゆのこともっと好きになった(笑)! ちなみにあゆ、『M』の中で、あと20年歌い続けると言ってるよね。

C 「懐メロ歌手なんかにはならない」ともね。いや実際問題、もう懐メロ歌手になってると思うんだけど(笑)、60歳のあゆがどんなステージを見せてくれるか楽しみ!

痴漢撃退スタンプで議論も――痴漢冤罪だけを問題視する「ご都合主義」【斉藤章佳×三浦義隆:対談】

 文具メーカー・シヤチハタがテスト販売した「迷惑行為防止スタンプ」が話題を集めている。今年5月、ネットを中心に“痴漢を安全ピンで撃退すること”の是非に議論が巻き起こる中、同社は公式Twitterアカウントにて「今現在Twitterで話題になっている社会問題の件ですが、早期に対応ができるようにします。ジョークではなく、本気です」と投稿。

 それから約3カ月後、同社は痴漢を抑止するためのグッズとして、スタンプを押された部分にブラックライトを当てると、手のひらのマークの印影が浮かび上がるという「迷惑行為防止スタンプ」をテスト販売した。販売数500個は即完売になったといい、テレビをはじめとしたマスコミは盛んに報じている状況だ。

 これを受け、ネット上では「痴漢撃退スタンプは現行犯逮捕にはならないだろうが、抑止力にはなる」と支持する声がある一方、「冤罪が増える。適当に押しても犯人にできるんだから」と否定的なコメントを続出し、痴漢冤罪をめぐる議論が再熱している状態だ。

 サイゾーウーマンでは、2017年に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)の著者で精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏と弁護士の三浦義隆氏に、痴漢冤罪をめぐる現状と課題について語ってもらった。記事を再掲するこの機会に、ぜひ読んでいただきたい。

(初出:2017年9月16日)

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 満員電車で起こることの多い痴漢。しかし、痴漢のニュースが報じられるたびに、「冤罪かもしれない」「痴漢を疑われたら人生の終わり」という意見もネット上で飛び交っている。なぜ、これほどまでに痴漢冤罪の話題が持ち上がるのか? 『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)の著者で精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏と弁護士の三浦義隆氏に、痴漢と痴漢冤罪、どちらも防ぐことはできないのか、語り合ってもらった。

◎(前編)「痴漢は社会的地位のある人が多い」加害者臨床の専門家と弁護士が語る、性犯罪者の実態

痴漢だけ冤罪を問題視しているのは、ご都合主義

――痴漢のニュースが取り上げられるたび、ネット上では「痴漢をなくしたい人VS痴漢冤罪を訴える人」の対立構造が見られます。どちらもあってはならないことですが、なぜ必要以上に冤罪を恐れる人がいるのでしょうか?

斉藤章佳氏(以下、斉藤) 痴漢冤罪をWeb上で訴えるチームがあるのかと思うほど、私が痴漢に関する取材を受けた記事が出ると、必ずといっていいくらいコメント欄が荒れます。そして、いつも同じような内容のコメントが書き込まれるのです。

三浦義隆氏(以下、三浦) 殺人や強盗などの事件でも冤罪は起こっていますが、そういう疑いをかけられるのは、例えば日頃から素行が悪かったり、不良との交友関係がある人なのだろうと思われがちです。実際は必ずしもそうではないのですが、疑われるような行動をしていなければ冤罪に問われることはないと思っている人が多いと思います。ただ、痴漢冤罪に関しては電車に乗っているだけで巻き込まれる可能性があることが明らかですから、そこが怖いのだと思います。

 冤罪はあってはならないことなので、痴漢冤罪に対して騒ぎ立てるのはいいと思うんです。でも、私がちょっとおかしいなと思うのは、ほかの種類の犯罪については、弁護士のような特殊な人種を除くほとんどの人は、容疑があって逮捕されたという報道が出た段階から、容疑者を犯人と決めつけて、社会的制裁を加える側に率先して回っているわけじゃないですか。でも、痴漢だけは冤罪を問題視する。そういうご都合主義なことでいいのか、とは思います。

 別に痴漢についてだけ冤罪が起こるわけではなく、それは日本の刑事司法や捜査機関全体の問題なのですから、全体を変える以外に痴漢冤罪を減らしていく方法はないと思うんです。

――そもそも、痴漢冤罪はなぜ起こるのでしょうか?

三浦 痴漢を被害者や周囲の乗客がなかなか検挙できない理由も、痴漢冤罪が起こる理由も、基本的には同じ構造だと思っています。まず、痴漢の起こりやすい満員電車があることですよね。

 満員電車は偶然に体が触れることもあり、「偶然」で言い訳の立つような範囲もあるので、普通の人が痴漢をしてしまう。それが、だんだんと大胆な行為になっていくわけです。人が密集しているので、誰がやっているのかも、なかなか特定することができない状況です。冤罪も、悪意のでっち上げよりは、被害者や目撃者が犯人を取り違えたことによるものが多いと思われます。満員電車をなくせば、痴漢も痴漢冤罪も大幅に減らせると思うのですが、それができるのかどうかという話ですよね。

斉藤 性犯罪者は幼少期からそういう性癖があったとか、もともと性欲がコントロールできない変態的な嗜好がある人だろうと思われています。しかし、この本にも書きましたが、痴漢で最も多いのは「四大卒の家庭持ちでサラリーマン」という、いわゆる普通の男性たちです。最近注目すべきなのは、外国人の痴漢加害者の相談が増えてきたことです。海外から日本に出向してきた優秀なエンジニアなど、それなりにエリートの人の痴漢事件をめぐる相談があるのですが、その人たちも、やはり何回も繰り返しています。

 彼らは自分の国に満員電車がないので、他の性犯罪も含めて、やったことがないんです。それが、日本の満員電車に乗るというライフスタイルになってから、痴漢行為を始めています。痴漢を含む反復する性的逸脱行動は、学習された行動です。慣れない日本での生活の中で、本人が環境に適応するためのストレスへの対処行動(支配欲や優越感の充足)として選択したのが、痴漢だったというわけです。性犯罪は特殊な人がやっているというイメージが根強いですが、実は大多数はそうではないと認識を改めてもらいたいと思います。

三浦 痴漢加害者は、もともと特殊な性癖の人ではないというのは、おっしゃる通りだと思います。しかし、これは弁護士としてではなく、男性としての素朴な感想ですが、私も普通に性欲はあります。でも、その自分の性欲の延長線上に痴漢があるとは、どうしても思えないんですよね。

 ネット上では「男の性欲というのはコントロール困難なものであって……」というところから、派手な服を着て男の部屋に行く女性が悪いなどと、被害者を非難する声が多い。すると、その人たちは自分の性欲の延長線上に性犯罪があると思っていて、自分も機会があればやってしまうという意味なのかなと、非常に不思議に感じるんですよね。

――痴漢をなくすためには、どうすればいいと思いますか?

斉藤 当院に来る性加害者は、自分の痴漢行為や性犯罪を「逮捕されなければ、おそらくずっと続けていた」と言います。加害者やその家族にとって、逮捕というのはもちろん望んでいない出来事ですが、我々には、そこを治療の動機づけの最大のチャンスとして生かしていく視点が求められています。

 本来は、一次予防教育と再犯防止教育をセットで行えるのが望ましいのですが、現状ではなかなか性犯罪の一次予防は難しいです。これからこのあたりの取り組みや研究を性教育分野の専門家とともに協同していきたいと考えていますが、それよりも今は、どうすれば再発防止できるのかが当面の課題かと思います。

三浦 逮捕されるまでやめられないというのは、おっしゃる通りだと思います。痴漢を繰り返して一度もバレたことがなく、周りの誰にも知られていないけど、「これはいけない」と思って、自主的にやめようという人はあまりいないでしょうね。

斉藤 痴漢ではないですが、露出や盗撮、のぞき、下着窃盗といったいわゆる非接触型の性犯罪の人も来ます。接触する性犯罪の場合は顕在化し逮捕されるケースが多いのですが、接触しない性犯罪だと相手に気づかれずに行為を行うことができるのです。こうなると治療につながる機会がなく、膨大に潜在化しているケースがあります。年に1〜2人くらい、「このままでは逮捕されるかもしれない」と自らの危機感から来院するレアケースもあります。

三浦 逮捕自体が初めてという人は、その前の段階で常習性はあったのかもしれませんが、初犯として起訴猶予で終わるケースも結構あります。私が担当する痴漢の案件も約半数は逮捕が初めてという人なんですよ。その後の追跡調査をしているわけではありませんが、初犯でやめている人もかなりいるだろうと推測はできます。

 冒頭のお話にあった通り、失うものの多い人が、かなりいるじゃないですか。「次やったら、本当におしまいだぞ」という状況に追い込まれたとき、そこでやめている人も、ある程度いるのだろうと思います。痴漢の再犯率が高いという話にしても、再犯率というもの自体が、一回裁判の手続きにのって有罪になり、前科がついた人を対象にしています。痴漢だと犯人は起訴猶予になることも多いですから、実は前科1犯になる時点でもう「再犯」の場合が多いんですね。そうすると、それはかなり犯罪性の進んだ人で、再犯率が高いのも無理ないのかと思いますね。

斉藤 犯罪傾向の進んだ人の再犯率が高いという点については、私も同じ意見です。これは、ほかの刑事政策や犯罪心理学の領域でも、前科前歴がなく、これから事件を起こす可能性のある潜在的な層と、初犯の方に関しては、罰による問題行動の修正に比較的効果がある層だと言われています。クリニックに来ているような、かなり常習性のある人に対して、罰や監視のみによる行動変容はあまり効果がないというのは、その通りです。

――痴漢だけでなく、同時に冤罪もなくすには、何か良い方法はあるのでしょうか?

三浦 容疑者を検挙して有罪にすることを国家が行っている限り、冤罪はついて回る問題です。痴漢がなくなれば痴漢冤罪もなくなるというのは当たり前の話ですが、実質的にはあまり意味のないことです。冤罪をなくすためには、単純に裁判所が厳格に事実認定をすればいい話ですし、そこからさかのぼって捜査機関も、全件微物鑑定するなり、供述頼みではないきちんとした固い立証を心がけることです。どれも、痴漢に限った話ではないですよ。

斉藤 痴漢に関しては、おそらく東京都と公共交通機関が本気になったら、満員電車をなんとかできると思います。自殺予防のためのホームドアは、多くの予算をかけて、ほぼ整いつつあります。でも、痴漢防止に関して目に見える対策は特に何もなく、鉄道会社も乗客に自衛を任せるだけにとどまっているように見えます。これは、痴漢対策に予算を投入することで、どれくらい経済的な損失を防げるのかを考えたとき、自殺予防のホームドアほどはメリットがないからだと思います。

 また、満員電車をなくすには、働き方の改革が必要です。朝と夜のラッシュ時の混雑をもう少し緩和するためには、日本人の働き方自体を変えていくような政策なり施策が必要です。週に何日か自宅でも仕事できるようにするとか、ワークライフバランスの問題とも関連してきますね。

三浦 企業側に何かインセンティブを与えないと、難しいでしょうね。

斉藤 そうでしょうね。当院もそうなのですが、職員は朝9時頃から夜6時頃までの勤務時間に合わせて出退勤します。他業種や公務員も同様です。小池百合子都知事を中心に、2020年の東京オリンピックまでに、日本人の働き方改革を手始めに、痴漢問題を含む満員電車対策をどうしていくかという切り口の話をしていけば、建設的な議論になるかと思います。
(姫野ケイ)

斉藤章佳(さいとう・あきよし)
精神保健福祉士・社会福祉士/大森榎本クリニック精神保健福祉部長。アジア最大規模といわれる依存症治療施設である榎本クリニックにて、アルコール依存症を中心に、ギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DV・クレプトマニアなど、さまざまなアディクション問題に携わる。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践・研究・啓発活動を行っている。また、大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、講演も含めその活動は幅広く、マスコミでもたびたび取り上げられている。著書に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』(ともに金剛出版/共著)、『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)がある。その他、論文多数。

三浦義隆(みうら・よしたか)
千葉県弁護士会所属。おおたかの森法律事務所。主な取り扱い分野は、離婚、労働、相続、交通事故、債務整理、刑事等。

ゴミ清掃員・マシンガンズ滝沢氏が見た、タピオカブームの狂騒――ゴミ集積所が映し出す“東京の変遷”

  若者を中心に一大ブームとなっている「タピオカドリンク」。都内には、台湾から上陸した有名店の新店舗が続々とオープンし、連日行列を作っている状況で、SNS上には「#タピる」「#タピ活」といったハッシュタグとともに、“映える”タピオカドリンクの写真が並んでいる。しかし、味よりも容器や店舗の内装など“写真映え”が求められる風潮により、渋谷や原宿といった若者が集まる街では、タピオカが残ったままのドリンク容器が捨てられていることも珍しくなく、購入後のマナーが問題視され始めているようだ。そこで今回、お笑い芸人とゴミ清掃員、さらにはゴミ研究家の“三足のわらじ”を履いて活動を続ける、お笑いコンビ・マシンガンズの滝沢秀一さんに、“タピオカのゴミ”の現状をお聞きした。

ポイ捨てされたタピオカのゴミは“善意”で回収されている

――タピオカが大ブームになっていますが、ゴミ収集でタピオカの容器を目にすることは多いですか?

滝沢秀一さん(以下、滝沢) 住宅街のゴミ集積所では見かけることは少ないですが、繁華街ではよく目につきます。以前はコンビニや大手カフェチェーンの持ち帰り用ドリンク容器がよく捨てられていましたけど、最近はタピオカのゴミの方が多いですね。ここ数カ月の間で急激に増えたように感じますが、タピオカのゴミは、コーヒーのそれと違って、“中身が残ったまま”捨てられていることが多いんです。「何のために買うんだろう? おいしくないのかな?」って思いながら回収していますよ。

――中身入りで捨てられていると、ネズミやゴキブリなど害虫・害獣が集まってきそうですね……。

滝沢 繁華街のゴミ集積所はもともと汚いところが多いので、一概にタピオカの飲み残しが原因だとは言い切れないですが、住宅街と比べネズミやゴキブリが多いことは確かです。それに、繁華街のネズミは丸々太っている上に、人間慣れしているのか根性が据わっているんですよ! 僕らがゴミを回収していても、どかないどころか、目が合って“会釈”してきますからね。その後、のっそり移動するんですけど、振り返ってまた会釈。そんな後にゴキブリなんかが出てきても、「キャラ弱いな」くらいにしか感じません(笑)。

――大きいネズミが会釈……(笑)。植え込みの陰や階段の隅、自動販売機専用ゴミ箱など、都内では至る所で“放置タピオカ容器”を目にします。そのようなゴミは、誰が片付けているのでしょうか?

滝沢 ゴミ清掃員も拾える範囲で回収しますが、僕らの仕事は、あくまでも集積所に出された“地域住民”のゴミの回収すること。全ては到底無理です。ゴミ清掃員として回収作業をする時は、「汚れているプラスチック容器は可燃ゴミ」という分別方法に従い、そのままの状態で回収しているものの、本当は、「タピオカは可燃ゴミ」「プラスチック容器はきれいに洗い不燃ゴミ」と分別して捨てたいところ。ゴミ収集車のバケット部分(ゴミを投入するところ)へ、液体を入れてはいけないんですが、飲み残しを道に流すわけにもいかないのでゴミ清掃員も困っている状況です。自動販売機横の専用ゴミ箱にツッコまれた容器は、恐らく自販機補充員か回収業者さんが、街なかにポイ捨てされている容器に関しては、地域ボランティアの方などが“善意”で処理してくださっているのではないでしょうか。

――タピオカのゴミを街なかに捨てると、どのような問題が起こると考えられますか?

滝沢 容器が倒れて、液体やタピオカが周辺に散乱すると、害虫・害獣のエサになり、繁殖してしまいます。また、タピオカが雨や風で流されて街を汚したり、プラスチック容器が車にひかれてマイクロプラスチックが発生するなど、環境汚染や海洋汚染につながることも考えられますね。海に流れたプラスチックゴミの8割は街から出たものと言われていて、荒川の河川敷だけでも昨年1年間で4万本以上のペットボトルが回収されているほどなんです。

――日本でも、大手コーヒーチェーンが2020年半ばまでに使い捨てプラスチック製ストローの廃止を表明するなど、プラスチックゴミは世界的な問題にもなっていますね。

滝沢 ペットボトルやプラスチック製ストローは、基本的に使い捨てなので、使えば使うだけ製造され、同時にゴミが増えていくんです。1回しか使わないものなのに、僕らが死んでも数百年後まで残っているって、不自然だと思いませんか? プラスチックストローの廃止をきっかけに、環境問題への意識の変化や、プラスチック製品全体の需要・供給の削減につながっていったらいいなと思います。

――近年は、屋台の焼きそばなどで使われるプラスチックケースの代替品として、自然分解されるバイオ素材の製品が出てきているようです。

滝沢 ペットボトルもいずれ、“ペフボトル”(ペットボトルに近い特性を持ちながら、100%バイオ由来の樹脂でできている)に変わると言われています。ただ、僕は“プラスチック自体”が悪いのではなく、ちゃんと処分しない“人間が”悪いと思っているんです。今後、バイオ素材の製品が主流になったとしても、「自然分解されるから、ポイ捨てして大丈夫」と安心するのではなく、自分が買ったものには最後まで責任を持って、「正しく処分し、リサイクルに回す」といった気持ちや行動が重要だと考えています。

大人こそ「食べ物を粗末にしない」「ポイ捨てしない」ができていない!

――タピオカ以外にも、さまざまな食べ歩き系の飲食物がはやっていますよね。ゴミの観点からタピオカブームとはまた違うなと感じる場面はありますか?

滝沢 コンビニのホットスナックが充実し始めた時は、そこかしこにやきとりなどの竹串が落ちていましたし、チーズハットグがはやり始めた時は、紙製のトレイなどがよく捨てられていました。ただ、タピオカのように“食べ残し”はほとんど見かけませんでした。

――タピオカはSNS “映え”するという理由から、撮影目的で購入している人も少なくないようです。

滝沢 撮影目当てで購入した結果、飲みきれずに捨てているんでしょ? このような理由で捨てられた食べ物を見ていると、「金を払った後であれば、消費者はなにをしてもいい」という人間のエゴをものすごく感じるんです。子どもの頃、学校や家庭で「作ってくれた人の苦労を考えて食べなさい」とか「食べ物を粗末にしない」って教わりましたよね。ゴミだって、「ポイ捨てしちゃダメ」って習っているはず。もう一度そういうことを思い出して、「飲みきれる量を買う、そしてゴミはきちんと捨てる!」という基本を思い出してほしい。

――タピオカをはじめ、いろいろなゴミが集積所に放置されているようですが、そこは地域住民のゴミ捨て場であり、公共のゴミ箱ではないですもんね。

滝沢 そうです。通りすがりの集積所に放置することは、ゴミに責任を持っていない証拠。「誰かが片付けてくれる」と思っているのかもしれませんが、結果的に街を汚していますし、街をゴミ箱として扱っているのと同じですよね。例えば、引っ越しで大量にゴミを捨てる時なんか、普段はきちんと分別する人でも、可燃ゴミに中身が残ったラー油の瓶を捨ててしまうので、人間の本性が顕著に出ているなと感じます。近所の人や管理人の目がなくなった途端、無責任になってしまうのでしょう。

――日常生活の中で、ゴミに意識を向けるにはどうしたらいいと思いますか?

滝沢 環境先進国と言われるスウェーデンでは、保育園で分別を教えているそうですし、やっぱり子どものうちからしっかり身に付けていくことが大切なんだと思います。子どもは大人の行動をマネしたがるので、まずは大人が率先して分別をするべきでしょうね。僕も子どもの前では、「ペットボトルだからここに捨てよう」と、声に出しながら分別しています。筒状のケースで売られているポテトチップス容器は、楽しく分別を学ぶことができるのでおすすめ。蓋はプラスチック、ケースは可燃、底はスチールと3種類に分別できて、ケースを解体すると螺旋状に伸びるので、自然と子どもがやりたがるんです。

――ゴミを捨てる際、分別するのはもちろんですが、それ以外に心がけるべきことはありますか?

滝沢 みなさんゴミを集積所に捨てた瞬間に、ゴミのことなんて忘れちゃうでしょう? 自分は捨てて“スッキリ”するかもしれませんが、でも、その先には清掃員が回収して、清掃工場に運ばれていくという工程があるんです。「この捨て方をしたら近隣の人に迷惑がかかるかな」「ゴミ清掃員がケガをするかも」など、想像力を働かせてもらえたらと思います。そういうふうに、見えない物や人に思いやりを持てて、初めて“大人”なのではないでしょうか。もちろん、飲み残したタピオカドリンクを街なかに放置する人にこそ心がけてほしいですね。

マシンガンズ・滝沢秀一
1976年生まれ。1998年に西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。2012年より、定収入を得るために、お笑い芸人のかたわら清掃員としてゴミ収集会社で働いている。ゴミ収集中の体験や気付きを発信したTwitterが人気を集め話題に。著書にエッセイ『このゴミは収集できません ゴミ清掃員が見たあり得ない光景』(白夜書房)、漫画『ゴミ清掃員の日常』(講談社)などがある。

2019年8月6日、新刊ごみ育 日本一楽しいごみ分別の本(太田出版)が発売。間違えやすい分別方法を、50問のクイズ形式で紹介。イラストなども交えながら、大人も子どもも楽しくゴミについて学べる一冊になっている。

ゆるキャラビジネスの“光と闇”――「ふるさと納税で6億円稼ぐ」「グレーな仕事で在宅起訴」

 ゆるく愛らしい見た目とは裏腹に、著作権問題や『ゆるキャラグランプリ』への不正な組織票が取り沙汰されるなど、全然“ゆるくない”ゆるキャラ業界。前編に引き続き、『ゆるキャラ論 ~ゆるくない「ゆるキャラ」の実態~』(ボイジャー)の共著者であり、自身もキャラクター制作に携わるデザイナーの犬山秋彦氏に、業界の裏事情を聞いた。

――前編では、『ゆるキャラグランプリ』に参加する自治体が多額のお金と時間を費やし、1位の座を勝ち取ろうとする泥臭い実情を知ることができました。グランプリを獲得したとして、経済効果はどれほどのものなのでしょうか。

犬山秋彦氏(以下、犬山) 2016年に行われた第7回大会で1位になった、高知県須崎市の「しんじょう君」は、その年のふるさと納税で6億円近くまで集めましたね。

――6億円!? 一体どうやって稼いだんですか?

犬山 しんじょう君そのものをデザインしたグッズだけでなく、しんじょう君がブログで地元の名産品をうまいこと紹介したんです。どんな話題でも、最終的にはふるさと納税に絡めていくという(笑)。これを嫌味なく書いていて、ファンはしんじょう君を応援する意味合いも込めて、ふるさと納税をしているようです。

 あと、須崎市では毎年9月にしんじょう君も出演するイベントが行われていて、市民の数よりも多くのファンがやってくるんです。これにより、観光や宿泊費で市にお金が入るという経済効果もあります。キャラクターの活動が地元の経済波及につながることは、“ご当地キャラ”の存在意義と合致するので、正しいお金の動き方だと思います。

ゆるキャラ運営は「唯一、罵られない部署」

――ゆるキャラのファンは、どんな方が多いんですか。

犬山 子どものイメージがあるかもしれませんが、実は中高年が多いんです。アイドルの追っかけと同時並行していたりするので、遠征慣れしてるんですよね。元バンギャ、元ジャニオタ、元ヅカファンといった、“卒業組”も結構います。キャラクターには熱愛スキャンダルもないし、安心して追っかけできるのかもしれません。また、子育てが一段落して、子どもや孫に近い感覚で愛でる対象を求めた末、母性や父性を注げる相手として、キャラにたどり着いた人もいるようです。

 特にコアなのが、千葉県船橋市非公認ご当地キャラクター「ふなっしー」のファン。何年か前に行ったイベントでは、どうやってたどり着けばいいのかもわからないような陸の孤島にまで、ファンが大挙して訪れていました。一時期メディア露出が多かったため、今は「干された」と思われがちですが、グッズの売れ行きも相変わらず好調で、船橋・ららぽーとTOKYO-BAYにあるふなっしーグッズ専門店「ふなっしーLAND」は、“優良テナント”と言われているそうですよ。

――しんじょう君しかり、そこまで熱狂的なファンを集めるということは、戦略的な運営がハマっている感じがしますね。

犬山 しんじょう君は、須崎市市役所に勤務する、守時健さんという方が運営を担当されています。“超公務員”と呼ばれるほどのやり手ながら、普段は大仏のお面をかぶって写真に写ったり、テレビ出演したりしています(笑)。一時期世間を騒がせた「ちぃたん☆」との著作権問題も、彼の幅広い人脈に端を発したもので、「行政だけではできない新しい試みを民間企業に託してみよう」というチャレンジからでした。しかし、最初はきちんと協力関係を結べていたものの、背後で糸を引いている人たちに問題があり、だんだんと制御が利かなくなったんでしょうね。

――そこまでの人気キャラクターになるには、今、何が求められるのでしょうか。

犬山 一昔前までは、ビジュアルの良さよりも、北海道山越郡長万部町の「まんべくん」のような“面白さ”が求められていましたが、今は「結局、かわいくて面白いのがいいよね」という、贅沢な段階に来ているように思います。それと今、キャラクターの主戦場はTwitterです。彼らがどんな投稿をするかで、人気度が変わってくるんです。特に面白いのは「しんじょう君」と、埼玉県志木市文化スポーツ振興公社の公式イメージキャラクターの「カパル」。特にカパルは24時間体制でリプライをくれて、ファンから“ツイ廃”と呼ばれています。

――それって、行政の人がやってるんですよね? 24時間体制となったら、「ブラックだ!」「パワハラだ!」と声が上がりそうですが……。

犬山 いえ、むしろ逆なんです。キャラクターを担当している行政の人は、「もっとやりたいのにやらせてもらえない」というジレンマのほうが強いようです。役所って、たいていの部署はちょっとでもサボると「税金泥棒!」と罵られるのに、キャラクターと一緒だと、「ありがとう」「お疲れさま」と優しい言葉をかけてもらえるんですって。どんなに頑張ってもクレームしかこない中で、正当な評価をもらえるのが、キャラクター担当だけなんです。だからやりがいがあるし、カパルに限らず、ゆるキャラの担当者は1件でも多くファンにリプライしたいという気持ちがあるようです。

――なんだか、大変いい話が聞けました。

犬山 行政が運営するキャラクターは割とほっこりする話も多いですが、今は個人が作るゆるキャラも増えていて、 そっちは不穏な話もあったりします。14年に東京・高円寺の商店街でご当地キャラクターの公募があって、本来はイラストで応募するところを、いきなり既存の着ぐるみ姿で登場して「俺を高円寺のキャラにしてくれ」と名乗り出た人たちが何人もいました。そういった各地の“非公式キャラクター”が徒党を組んで、「ぐれキャラ」と名乗っていたことがありましたね。その頃から、個人で勝手に作ったキャラクターが爆発的に増えた印象です。個人的に活動をしている人の中には、「お金のため」「モテるため」など、本来の地域活性化とは違った、よこしまな目的を持って活動を始める人たちも紛れているのです。

――ゆるい見た目に隠されている部分があるかもしれない、という……。

犬山 そもそも着ぐるみ自体、“中の人”が見えない危うさがありますよね。数年前、都内某所をボランティアで清掃し、道ゆく人にお菓子や金銭を渡す「M」というキャラクターが出没したことがありました。私が彼に話を聞くと、「もう一生分稼いだから、余生は人助けをして生きたい」と言っていて、その立派な考えに憧れを抱きました。でも実は、中の人が“グレーな仕事”をしていて、脱税容疑で在宅起訴されてしまったんです。このように、最近は過去のトラブルや炎上を隠して参入してくるキャラクターもいるんですよ。

――顔の見えない危うさや怖さは、特に個人キャラクターだと意識しないといけませんね。

犬山 個人キャラクターだけでなく、企業が関わるキャラクターにも、キナ臭いのは結構います。8月3日にロンドンブーツ1号2号の田村淳さんが設立した、キャラクタービジネスの会社「株式会社がちキャラ」は、これからいろんな意味で注目した方がいいですよ。

――と、言いますと……。

犬山 今年5月に『第1回がちキャラグランプリ』というイベントが行われましたが、開催前の大会概要の資料を見ると、「第1回には間に合わなかったけど、第2回にはふなっしーをはじめ、人気キャラクターが続々参加!」といったことが書いてあったんですよ。ふなっしー本人に確認したところ、「参加するわけがない」と一笑に付されましたが。ほかにも、大手出版社が主催する子ども向けイベントに「参加決定(仮)」と書かれていたり……決定なのか仮なのか、どっちなんだよと(笑)。真偽を疑いたくなる記述がいくつもありましたが、田村さんや大企業の名前を信頼して、イベントに金を出すスポンサーが実際にいるんですよね。ちなみに、『がちキャラグランプリ』の運営には、「ちぃたん☆」の過激動画を制作していた会社も絡んでいるようなので、今後の展開が気になります。

 過去にも、キャラクター業界には“お金儲け”のために参入してきた企業がいくつかありました。しかし、ビジネス的に失敗して撤退する、といったことを繰り返しているんです。「儲かるだろう」と思って自分たちのノウハウを持ってやって来るのですが、なかなかうまくいかずで。そう考えると、『ゆるキャラグランプリ』はよくぞここまでやって来たなと思います。

――そんな『ゆるキャラグランプリ』ですが、2020年をもって終了することが決定しています。今後のゆるキャラ業界は、どう変わっていくのでしょうか。

犬山 ゆるキャラのブームは終わったと言われていますが、文化として成熟したからこそ、みんなが気づかないくらい社会に浸透したんだと思います。これまでは『ゆるキャラグランプリ』で1位になれば、ある程度の評価はもらえましたが、今後の観点になるのは、本当の意味での「成果」でしょうね。今はネットやSNSなどの発達で、ウソやハッタリはすぐに見抜かれてしまいますから。表面上の順位や票数だけではなく、本当の意味で地元の役に立つ。それができないゆるキャラは、どんどん淘汰されていくと思います。
(番田アミ)

■犬山秋彦(いぬやま・あきひこ)
1976年東京都生まれ。ライター、デザイナー、キャラクターコンサルタント。自衛隊勤務、テレビゲームのシナリオアシスタント、ディズニーキャストなどを経て現在に至る。戸越銀次郎・大崎一番太郎など「ゆるキャラ」のデザイン、プロデュースを行う傍ら、『週刊戦国武将データファイル』(デアゴスティーニ・ジャパン)、『信長とお江』(徳間書店)など歴史関連の記事・マンガ原作も執筆。著書『ワーキングプア死亡宣告』(共著)、絵本『しんかいくんとうみのおともだち』(イラストを担当)。

シヤチハタ・痴漢撃退スタンプが完売も――2016年の“痴漢抑止バッジ”の効果とその後

 今年5月にSNSを中心に議論が巻き起こった“痴漢を安全ピンで撃退すること”の是非。そんな中、文具メーカー・シヤチハタの公式Twitterアカウントによるツイートが注目を集めた。

「今現在Twitterで話題になっている社会問題の件ですが、早期に対応ができるようにします。ジョークではなく、本気です」

 それから約3カ月後、実際に同社は痴漢を抑止するためのグッズとして「迷惑行為防止スタンプ」をテスト販売。スタンプを押された部分にブラックライトを当てると、手のひらのマークの印影が浮かび上がるという仕様だ。携帯用のブラックライトも付いて2500円(税別)で、販売数500個は即完売になったといい、テレビをはじめとしたマスコミは盛んに報じている。

 ネット上では、「痴漢撃退スタンプは現行犯逮捕にはならないだろうが、抑止力にはなる」「絶対イジメの道具にされる」「冤罪が増える。適当に押して犯人にできるんだから」と、賛否両論の意見が飛び交い、痴漢をめぐる議論が再熱している状態だ。

 このスタンプより以前、2016年に痴漢対策ツール「痴漢抑止バッジ」が販売された当時も、さまざまな意見がネット上に書き込まれ注目を集めていた。サイゾーウーマンでは、18年に「痴漢抑止バッジ」の制作・普及を進める痴漢抑止活動センターの代表理事・松永弥生氏に取材し、普及状況や効果について、そして世間からの反響について話を聞いている。バッジの販売によって、痴漢をめぐる状況は何が変わり、変わらないままだったのか? 記事を再掲するこの機会に、ぜひ読んでいただきたい。
(初出:2018年4月4日)

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 「痴漢は犯罪です」「私たちは泣き寝入りしません」そんなフレーズが書かれたバッジ「痴漢抑止バッジ」。女子高生が考案した「痴漢抑止カード」をもとに、「かわいくてつけやすいものを」とデザインを公募し、2016年に誕生した。その後、多くのメディアで取り上げられた痴漢抑止バッジだが、現在はどれぐらい広まっているのか? なにより効果はあるのか? 性犯罪防止・抑止のためにバッジの制作や普及を進める「一般社団法人 痴漢抑止活動センター」代表理事の松永弥生さんに話を聞いた。

共感が広がる一方で、課題も

 松永さんはバッジを普及させるために、防犯キャンペーンなどの無料配布ではなく、流通に乗せたいと考えている。「キャンペーンでは、その時その場にいた人しか入手できません。防犯ブザーのように必要とする人が、いつでも手に入れられるようにしたい」というのが理由だ。営業は未経験だったが、商談会にも参加し、販路を求めた。

 初めての商談会で、イトーヨーカドー津久野店と商談が成立。16年10月に販売がスタートした。バイヤーは、新聞記事で痴漢抑止バッジを知っていたそうだ。17年2月には、別の大手スーパーでも期間限定で関西の10店舗、3月に南海電鉄が運営するコンビニ「アンスリー」20店舗で販売。夏には首都圏にも進出。小田急電鉄と相模鉄道の売店、原宿竹下通りの雑貨店「ハッピーワン」で取り扱いが始まった。18年3月からは東急ハンズあべのキューズモール店で、防犯ブザーと同じ棚で販売されている。

「かつて自分も痴漢被害に遭い、悔しい思いをしたという女性バイヤーさんや、この活動に意義を感じた男性のバイヤーさんが、積極的に上司に掛け合ってくださり、実現しました。駅構内や駅の近くのお店は、特に売れ行きがいいです」

 現在、痴漢抑止バッジは約6000個普及しているそうだ。引き続き、駅ナカ・駅チカ店舗に向けて営業活動を続けているが、バッジを扱ってもらうには大きく分けると2つの課題があるという。

「バッジは利益が出にくい商品なのです。食べ物や消耗品ではないので、次々売れることはありません。また、このバッジは利幅が少ないので、売れたとしても大きな利益にならないのです。特に駅のコンビニは商品がよく売れる立地で、かつ坪数が狭い『激戦区』。坪数に応じて売り上げを上げないといけないので、簡単には置いてもらえません」

 さらに利益の面だけではなく、鉄道系列ならではの事情もあるらしい。

 バッジを紹介したバイヤーさんが関心を持ち、上司に話を上げてくれても、「このバッジを売店で売っていたら、痴漢が多い鉄道だと思われる」と却下されたことがあったという。「三大首都圏は、どの路線も痴漢が多いんですけどね」と松永さんは苦笑する。

「『ほかの鉄道会社と足並みをそろえ、一斉に販売できるなら扱う』という会社もあります。痴漢が減るのは鉄道会社にとっても大きなメリットだと思いますが、ブランディングイメージも大切なのでしょう」

 なかなか順調に進まないバッジの普及。しかし、松永さんは手ごたえを感じているという。

「取扱店舗は増えていますし、警察からの共感も得られ、防犯キャンペーンにバッジを使っていただくこともありました。社会が少しずつ、痴漢抑止バッジを活用する方向に動いていると感じます」

 販痴漢抑止活動を立ち上げた15年当初、「やってもいないことで罪に問われる男の方が大変」という否定的な意見もあったという。しかし、バッジを製作する資金調達のために行ったクラウドファンディングでは、協力者の4割が男性、バッジのデザインコンテストの応募者、バッジ購入者も4割が男性。男性支援者から、「被害者も加害者も出したくない」「性犯罪に苦しむ人がいなくなることを願っております」といったメッセージもあったという。

 また、一部のフェミニストから「被害に遭う女の子は悪くないのに、バッジで被害を防止させようとするのは、セカンドレイプにつながる」という指摘もあった。松永さんは一定の理解を示しつつも反論する。

「これまで痴漢やレイプ被害に遭った女性は、警察をはじめ周りの大人や友人から、『暗い道を歩いていたから』『あなたにも隙があった』などと言われてきた。だから、それを思わせるような言動はいけないということなのでしょう。ですが、これから初めて通勤ラッシュの電車に乗って学校に行く女子高生に、電車の中に痴漢がいることや、身の守り方を教えずに送り出すのは危険です」

9割以上が効果に肯定的な評価

 批判を受けたり、販路拡大に苦戦したりしながらも、痴漢抑止バッジは個人や企業、警察の理解や共感により、徐々に広がりつつある。だが、本当に痴漢を抑止する効果はあるのだろうか?

 松永さんは16年に埼玉県の浦和麗明高校に100個寄贈した際、バッジについての感想をはがきで募り、女子生徒からの回答を集計した。回答した70名の生徒のうち「効果があった」(バッジをつけるまでは痴漢被害に遭っていたが、つけたら被害がなくなった等)と答えた生徒は61.4%、「効果を感じた」(痴漢被害に遭ったことはあるが、最近は被害に遭っておらず、バッジをつけてからもない。バッジをつけると、より安心。電車に乗ると、周りにほかの女性客が立ってくれるといった配慮があった等)と答えた生徒は32.9%と、90%以上の生徒が肯定的な評価をしている。「変化なし」(これまで痴漢に遭ったことがない)は4.3%、「効果がないと思う」(友達がそう言っていた)は1.4%だったそうだ。

 松永さんは、「『バッジをつけていたのに痴漢に遭った』というコメントは、今までのところ届いていません。痴漢抑止バッジには効果があります」と断言する。

コンテストで痴漢問題を共有

 バッジのデザインは、毎年コンテストを実施し、選ばれた5種類を商品化している。2回目の16年度からは、将来デザイナーを目指す学生を対象とした。これは、「コンテストに参加することで、同世代が痴漢被害に遭っていると知り、自分のデザインで解決する方法を考えてほしい」という狙いがある。自分は男だから関係ない、私は痴漢に遭ったことがないから関係ない――などと他人事として捉えるのではなく、社会の課題として、皆で解決法を考える機会が「痴漢抑止バッジデザインコンテスト」だ。

「私は、『このバッジをつけて、自分を守りなさい』と被害者を突き放すつもりはありません。活動を通じて、10年後の社会を変えていきたいのです。世の中の表現には、すべてデザインの要素があります。ジェンダー意識の高いデザイナーが増えれば、社会に発信される情報の質も変わるでしょう」

 17年度のコンテストには、全国43都道府県とニューヨーク、ソウルから1338作品の応募があった。デザインと共に、活動へのメッセージも寄せられている。「今後は学校との連携も強化して、参加者を増やしていきたい」と松永さんは話す。今年も、8月にコンテストを実施するそうだ。

 松永さんは今後、バッジの普及に加えて、中学生・高校生に対して痴漢から自分の身を守るための教育をしたいとも考えている。

「バッジをつけていても、痴漢に遭う可能性はゼロではありません。バッジが見えないかもしれないし、加害者の視力によっては『私たちは泣き寝入りしません 痴漢は犯罪です』の文字が見えにくい場合もあります。だから、バッジでの痴漢の抑止と、痴漢に遭ってしまった時の対処方法の両方が必要だと考えています」

 そして、バッジの有無にかかわらず、痴漢抑止のために伝えていきたいことがあるという。

「もし電車内で触れるなど、痴漢に遭ったのでは――と感じたら『当たっています。どけてください』と言うように伝えたい。警察から『痴漢です』と大きな声を出すように指導されることがありますが、加害者と周りの2〜3人に聞こえる程度の声で十分です。また、『痴漢です』と言うことは『あなたは犯罪者です』と言うことで、決めつけになってしまうし、『冤罪だ』と主張されると、周りの人も助けづらくなります。でも『当たっている手をどけてほしい』のは事実。これなら『痴漢!』よりは言いやすいですよね」

 確かに相手に面と向かって「痴漢」だと言うのは、冤罪を引き起こすかもしれないと思い、声を上げるのをためらうケースもあるだろう。

「『これは痴漢かな? 偶然、手が当たっただけかな?』と考える必要はありません。加害者はその迷いにつけ込み、どちらとも取れるような触り方をします。それを繰り返しても何も言ってこないとわかったら、下着の中に手を入れてくるなど、エスカレートすることも。その状態になると、怖くて声が出せなくなります。だから、早く声を上げる必要があるのです」

 「どけてください」の一言が言えない理由を、松永さんは教育の不足だと考えている。

「私たちには、嫌な触られ方をしたら『嫌だ』という権利があります。けれど、これまで大人は子どもに、そのルールを伝えてきませんでした。教えなければ、子どもは被害に遭っても『嫌だ』と言えません。特に、子どもが知らない大人に対して言うのは難しいです。将来的には、子どもたちへ『NOを言う権利』を伝えるワークショップを行いたいですね」

 15年に、ひとりの女子高生と彼女を支援する数人の人たちから始まった痴漢抑止活動。バッジで痴漢から被害者を守り、デザインコンテストで問題をシェアする。「性暴力に対してNOと言う」ことに対する理解と共感の輪が、世代や性別、立場を超えて、少しずつ広がっているのが感じられた。
(谷町邦子)

一般社団法人痴漢抑止活動センター

シヤチハタ・痴漢撃退スタンプが完売も――2016年の“痴漢抑止バッジ”の効果とその後

 今年5月にSNSを中心に議論が巻き起こった“痴漢を安全ピンで撃退すること”の是非。そんな中、文具メーカー・シヤチハタの公式Twitterアカウントによるツイートが注目を集めた。

「今現在Twitterで話題になっている社会問題の件ですが、早期に対応ができるようにします。ジョークではなく、本気です」

 それから約3カ月後、実際に同社は痴漢を抑止するためのグッズとして「迷惑行為防止スタンプ」をテスト販売。スタンプを押された部分にブラックライトを当てると、手のひらのマークの印影が浮かび上がるという仕様だ。携帯用のブラックライトも付いて2500円(税別)で、販売数500個は即完売になったといい、テレビをはじめとしたマスコミは盛んに報じている。

 ネット上では、「痴漢撃退スタンプは現行犯逮捕にはならないだろうが、抑止力にはなる」「絶対イジメの道具にされる」「冤罪が増える。適当に押して犯人にできるんだから」と、賛否両論の意見が飛び交い、痴漢をめぐる議論が再熱している状態だ。

 このスタンプより以前、2016年に痴漢対策ツール「痴漢抑止バッジ」が販売された当時も、さまざまな意見がネット上に書き込まれ注目を集めていた。サイゾーウーマンでは、18年に「痴漢抑止バッジ」の制作・普及を進める痴漢抑止活動センターの代表理事・松永弥生氏に取材し、普及状況や効果について、そして世間からの反響について話を聞いている。バッジの販売によって、痴漢をめぐる状況は何が変わり、変わらないままだったのか? 記事を再掲するこの機会に、ぜひ読んでいただきたい。
(初出:2018年4月4日)

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 「痴漢は犯罪です」「私たちは泣き寝入りしません」そんなフレーズが書かれたバッジ「痴漢抑止バッジ」。女子高生が考案した「痴漢抑止カード」をもとに、「かわいくてつけやすいものを」とデザインを公募し、2016年に誕生した。その後、多くのメディアで取り上げられた痴漢抑止バッジだが、現在はどれぐらい広まっているのか? なにより効果はあるのか? 性犯罪防止・抑止のためにバッジの制作や普及を進める「一般社団法人 痴漢抑止活動センター」代表理事の松永弥生さんに話を聞いた。

共感が広がる一方で、課題も

 松永さんはバッジを普及させるために、防犯キャンペーンなどの無料配布ではなく、流通に乗せたいと考えている。「キャンペーンでは、その時その場にいた人しか入手できません。防犯ブザーのように必要とする人が、いつでも手に入れられるようにしたい」というのが理由だ。営業は未経験だったが、商談会にも参加し、販路を求めた。

 初めての商談会で、イトーヨーカドー津久野店と商談が成立。16年10月に販売がスタートした。バイヤーは、新聞記事で痴漢抑止バッジを知っていたそうだ。17年2月には、別の大手スーパーでも期間限定で関西の10店舗、3月に南海電鉄が運営するコンビニ「アンスリー」20店舗で販売。夏には首都圏にも進出。小田急電鉄と相模鉄道の売店、原宿竹下通りの雑貨店「ハッピーワン」で取り扱いが始まった。18年3月からは東急ハンズあべのキューズモール店で、防犯ブザーと同じ棚で販売されている。

「かつて自分も痴漢被害に遭い、悔しい思いをしたという女性バイヤーさんや、この活動に意義を感じた男性のバイヤーさんが、積極的に上司に掛け合ってくださり、実現しました。駅構内や駅の近くのお店は、特に売れ行きがいいです」

 現在、痴漢抑止バッジは約6000個普及しているそうだ。引き続き、駅ナカ・駅チカ店舗に向けて営業活動を続けているが、バッジを扱ってもらうには大きく分けると2つの課題があるという。

「バッジは利益が出にくい商品なのです。食べ物や消耗品ではないので、次々売れることはありません。また、このバッジは利幅が少ないので、売れたとしても大きな利益にならないのです。特に駅のコンビニは商品がよく売れる立地で、かつ坪数が狭い『激戦区』。坪数に応じて売り上げを上げないといけないので、簡単には置いてもらえません」

 さらに利益の面だけではなく、鉄道系列ならではの事情もあるらしい。

 バッジを紹介したバイヤーさんが関心を持ち、上司に話を上げてくれても、「このバッジを売店で売っていたら、痴漢が多い鉄道だと思われる」と却下されたことがあったという。「三大首都圏は、どの路線も痴漢が多いんですけどね」と松永さんは苦笑する。

「『ほかの鉄道会社と足並みをそろえ、一斉に販売できるなら扱う』という会社もあります。痴漢が減るのは鉄道会社にとっても大きなメリットだと思いますが、ブランディングイメージも大切なのでしょう」

 なかなか順調に進まないバッジの普及。しかし、松永さんは手ごたえを感じているという。

「取扱店舗は増えていますし、警察からの共感も得られ、防犯キャンペーンにバッジを使っていただくこともありました。社会が少しずつ、痴漢抑止バッジを活用する方向に動いていると感じます」

 販痴漢抑止活動を立ち上げた15年当初、「やってもいないことで罪に問われる男の方が大変」という否定的な意見もあったという。しかし、バッジを製作する資金調達のために行ったクラウドファンディングでは、協力者の4割が男性、バッジのデザインコンテストの応募者、バッジ購入者も4割が男性。男性支援者から、「被害者も加害者も出したくない」「性犯罪に苦しむ人がいなくなることを願っております」といったメッセージもあったという。

 また、一部のフェミニストから「被害に遭う女の子は悪くないのに、バッジで被害を防止させようとするのは、セカンドレイプにつながる」という指摘もあった。松永さんは一定の理解を示しつつも反論する。

「これまで痴漢やレイプ被害に遭った女性は、警察をはじめ周りの大人や友人から、『暗い道を歩いていたから』『あなたにも隙があった』などと言われてきた。だから、それを思わせるような言動はいけないということなのでしょう。ですが、これから初めて通勤ラッシュの電車に乗って学校に行く女子高生に、電車の中に痴漢がいることや、身の守り方を教えずに送り出すのは危険です」

9割以上が効果に肯定的な評価

 批判を受けたり、販路拡大に苦戦したりしながらも、痴漢抑止バッジは個人や企業、警察の理解や共感により、徐々に広がりつつある。だが、本当に痴漢を抑止する効果はあるのだろうか?

 松永さんは16年に埼玉県の浦和麗明高校に100個寄贈した際、バッジについての感想をはがきで募り、女子生徒からの回答を集計した。回答した70名の生徒のうち「効果があった」(バッジをつけるまでは痴漢被害に遭っていたが、つけたら被害がなくなった等)と答えた生徒は61.4%、「効果を感じた」(痴漢被害に遭ったことはあるが、最近は被害に遭っておらず、バッジをつけてからもない。バッジをつけると、より安心。電車に乗ると、周りにほかの女性客が立ってくれるといった配慮があった等)と答えた生徒は32.9%と、90%以上の生徒が肯定的な評価をしている。「変化なし」(これまで痴漢に遭ったことがない)は4.3%、「効果がないと思う」(友達がそう言っていた)は1.4%だったそうだ。

 松永さんは、「『バッジをつけていたのに痴漢に遭った』というコメントは、今までのところ届いていません。痴漢抑止バッジには効果があります」と断言する。

コンテストで痴漢問題を共有

 バッジのデザインは、毎年コンテストを実施し、選ばれた5種類を商品化している。2回目の16年度からは、将来デザイナーを目指す学生を対象とした。これは、「コンテストに参加することで、同世代が痴漢被害に遭っていると知り、自分のデザインで解決する方法を考えてほしい」という狙いがある。自分は男だから関係ない、私は痴漢に遭ったことがないから関係ない――などと他人事として捉えるのではなく、社会の課題として、皆で解決法を考える機会が「痴漢抑止バッジデザインコンテスト」だ。

「私は、『このバッジをつけて、自分を守りなさい』と被害者を突き放すつもりはありません。活動を通じて、10年後の社会を変えていきたいのです。世の中の表現には、すべてデザインの要素があります。ジェンダー意識の高いデザイナーが増えれば、社会に発信される情報の質も変わるでしょう」

 17年度のコンテストには、全国43都道府県とニューヨーク、ソウルから1338作品の応募があった。デザインと共に、活動へのメッセージも寄せられている。「今後は学校との連携も強化して、参加者を増やしていきたい」と松永さんは話す。今年も、8月にコンテストを実施するそうだ。

 松永さんは今後、バッジの普及に加えて、中学生・高校生に対して痴漢から自分の身を守るための教育をしたいとも考えている。

「バッジをつけていても、痴漢に遭う可能性はゼロではありません。バッジが見えないかもしれないし、加害者の視力によっては『私たちは泣き寝入りしません 痴漢は犯罪です』の文字が見えにくい場合もあります。だから、バッジでの痴漢の抑止と、痴漢に遭ってしまった時の対処方法の両方が必要だと考えています」

 そして、バッジの有無にかかわらず、痴漢抑止のために伝えていきたいことがあるという。

「もし電車内で触れるなど、痴漢に遭ったのでは――と感じたら『当たっています。どけてください』と言うように伝えたい。警察から『痴漢です』と大きな声を出すように指導されることがありますが、加害者と周りの2〜3人に聞こえる程度の声で十分です。また、『痴漢です』と言うことは『あなたは犯罪者です』と言うことで、決めつけになってしまうし、『冤罪だ』と主張されると、周りの人も助けづらくなります。でも『当たっている手をどけてほしい』のは事実。これなら『痴漢!』よりは言いやすいですよね」

 確かに相手に面と向かって「痴漢」だと言うのは、冤罪を引き起こすかもしれないと思い、声を上げるのをためらうケースもあるだろう。

「『これは痴漢かな? 偶然、手が当たっただけかな?』と考える必要はありません。加害者はその迷いにつけ込み、どちらとも取れるような触り方をします。それを繰り返しても何も言ってこないとわかったら、下着の中に手を入れてくるなど、エスカレートすることも。その状態になると、怖くて声が出せなくなります。だから、早く声を上げる必要があるのです」

 「どけてください」の一言が言えない理由を、松永さんは教育の不足だと考えている。

「私たちには、嫌な触られ方をしたら『嫌だ』という権利があります。けれど、これまで大人は子どもに、そのルールを伝えてきませんでした。教えなければ、子どもは被害に遭っても『嫌だ』と言えません。特に、子どもが知らない大人に対して言うのは難しいです。将来的には、子どもたちへ『NOを言う権利』を伝えるワークショップを行いたいですね」

 15年に、ひとりの女子高生と彼女を支援する数人の人たちから始まった痴漢抑止活動。バッジで痴漢から被害者を守り、デザインコンテストで問題をシェアする。「性暴力に対してNOと言う」ことに対する理解と共感の輪が、世代や性別、立場を超えて、少しずつ広がっているのが感じられた。
(谷町邦子)

一般社団法人痴漢抑止活動センター

『ゆるキャラグランプリ』“選挙資金”は1,500万円!? 「金と政治力」がモノを言う争いの裏側

 くまモン、ふなっしー、しんじょう君、ひこにゃん……「ゆるキャラ」「ご当地キャラ」などと呼ばれ、日本文化のひとつとして定着したマスコットキャラクター。2008年に「ゆるキャラ」が新語・流行語大賞にノミネートされるとブームに火が付き、日本各地で新しいキャラクターが多数誕生した。現在は、その存在が違和感なく日常に溶け込んでいる。

 一方で、このところ「ゆるキャラ」「ご当地キャラ」界隈では、不穏なトピックスがちらほら。キャラクターのデザインをめぐる著作権問題、『ゆるキャラグランプリ』の不正な組織票疑惑など、ブームは去ったかと思いきや、“ゆるくない”話題が絶えることはない。今年で10回目を迎える『ゆるキャラグランプリ2019』の投票受付が始まった8月の某日、『ゆるキャラ論 ~ゆるくない「ゆるキャラ」の実態~』(ボイジャー)の共著者であり、自身もキャラクター制作に携わるデザイナーの犬山秋彦氏に、「ゆるキャラ」「ご当地キャラ」界の裏事情を聞いた。

『ゆるキャラグランプリ』は“人気投票”ではない!?

――10年から始まった『ゆるキャラグランプリ』が今年も開催されます。ズバリ、今回の優勝候補はどのキャラクターだと思われますか。

犬山秋彦氏(以下、犬山) 今年はだいぶ“地味な戦い”ではあると思いますが、注目しているのは、『ゆるキャラグランプリ2019』開催地・長野県のご当地キャラクター「アルクマ」です。開催地は現地投票のポイントが倍になるなど“ボーナス点”がつく上に、地元の人が投票するので、そもそも開催地は有利なんですよ。

 アルクマの場合は、11年に「長野県観光PRキャラクター」となり、県内外のキャンペーンでモチーフとして使われてきましたから、もともと知名度が高くて人気もあるので、確実にいいところまで行くと思います。でも、開催地のキャラが必ず1位になるわけでもないので、そこが予想の難しいところではありますが。

――開催地はどのように決まるのですか。

犬山 14年の第5回大会から、公募で決まっています。参加する自治体は、『ゆるキャラグランプリ』を主催する株式会社ゆるキャラに働きかけるのですが、招致のためには1,000~1,500万円かかると言われています。結局、“金”と“場所”を提供できる自治体が有利になる可能性が高いのです。

 ちなみに、静岡県浜松市の「出世大名家康くん」は、その点非常に“野心”が強かったですね。浜松市の関係者が「1位になるにはどうすればいいか」と、関係者に聞いて回っているほどでした。その結果、家康くんは12年の第3回に7位、13年の第4回に2位、そして15年に『ゆるキャラグランプリ』を浜松市に誘致して、1位を獲得しています。

――キャラクターの人気よりも、「資金があるかどうか」が重要なように思えます。

犬山 それが、単純な話でもないんです。家康くんは13年、1位を栃木県佐野市の「さのまる」に取られています。この年は、それぞれの市が“選挙資金”を公にしているのですが、家康くんが1,500万円を費やして2位だった一方、さのまるは700万円で1位だったんです。

 さのまるには、キャラクターデザインの愛らしさもありましたが、自治体の連帯感が非常に強かった。『ゆるキャラグランプリ』って“人気投票”だと思いがちですが、世間一般からの人気よりも、地元愛の強さや、「ゆるキャラ」「ご当地キャラ」に税金を使うことに対して、地元の人を納得させる説得力が重要なんです。デザインのかわいさ、資金力だけでなく、やる気や政治的な根回しも必要で、どれかひとつが突出しているだけでは1位になれない。グランプリになるキャラは、そのすべてを網羅しているといえます。

――ちなみに、先ほど「今年は地味な戦い」とおっしゃっていましたが、確かにエントリーされているキャラクターを見ても、ほとんどわかりません。

犬山 これまで1位になったキャラは「殿堂入り」するので、回を追うごとに一般的に知名度のあるキャラがいなくなっていくんですよ。それに、多額の資金や協力者がいないと上位にいけない戦いなので、「人気はあるのに、1位になれない」という現象も起こります。そうすると、上位以外のキャラは、それ自体人気がないように見えてしまうので、すでに知名度のあるキャラほど、リスクを負ってまで参加はしません。参加するメリットがありませんからね。そんな中、もうワンステップ上に行きたい新規参入のキャラだけが、金や政治力を使い1位を目指す。これが『ゆるキャラグランプリ』です。

――『ゆるキャラグランプリ2018』では、各自治体による“組織票”が問題視され、全国紙でも報じられました。ここに参加すると思うと、確かにリスクしかないような気がします。

犬山 もともと『ゆるキャラグランプリ』は、自動プログラムによる水増し投票の技術力争い、みたいな側面があったんです。ここ数年は運営側のチェックも厳しくなりましたが、昔は投票の季節になると、IT会社が自動プログラムを自治体に売り込んでくることもあったそうです。上位に入るには、自動プログラムを組み、さらに組織票を積む必要があったんです。運営が表立って「組織票OK」とは言いませんが、上位キャラたちは、できることすべてを駆使した状態で、一般票をどれだけ上乗せできるか、という次元で勝負していると思います。

――それって、思いっきり“不正”じゃないですか……。

犬山 一般的に見たらそうですよね。なので、大会が大きくなるにつれ、自動プログラムからの投票を運営側ではじくようになりました。だから昨年は、“人力”による組織票に移行したという経緯があります。それがパワハラに近い形で「無理やり投票させられた」という告発につながり、問題が大きくなったのではないでしょうか。

――そこまで行政が『ゆるキャラグランプリ』に加熱する理由は何でしょうか。

犬山 税金を使っていますから、成果を出さないと“税金泥棒扱い”されたり、翌年から予算が付かなくなったりするので、必死にならざるを得ないのでしょう。とはいえ、無理強いさえしなければ、熱心なファンによる投票と組織票も「清き一票」に変わりありません。『ゆるキャラグランプリ』は人気投票ではなく、「愛の深さ」や「やる気」を競い合うゲームだと思えば、このような仕組みにも納得できるのではないでしょうか。
(番田アミ)

(後編に続く)

■犬山秋彦(いぬやま・あきひこ)
1976年東京都生まれ。ライター、デザイナー、キャラクターコンサルタント。自衛隊勤務、テレビゲームのシナリオアシスタント、ディズニーキャストなどを経て現在に至る。戸越銀次郎・大崎一番太郎など「ゆるキャラ」のデザイン、プロデュースを行う傍ら、『週刊戦国武将データファイル』(デアゴスティーニ・ジャパン)、『信長とお江』(徳間書店)など歴史関連の記事・マンガ原作も執筆。著書『ワーキングプア死亡宣告』(共著)、絵本『しんかいくんとうみのおともだち』(イラストを担当)。

『ゆるキャラグランプリ』“選挙資金”は1,500万円!? 「金と政治力」がモノを言う争いの裏側

 くまモン、ふなっしー、しんじょう君、ひこにゃん……「ゆるキャラ」「ご当地キャラ」などと呼ばれ、日本文化のひとつとして定着したマスコットキャラクター。2008年に「ゆるキャラ」が新語・流行語大賞にノミネートされるとブームに火が付き、日本各地で新しいキャラクターが多数誕生した。現在は、その存在が違和感なく日常に溶け込んでいる。

 一方で、このところ「ゆるキャラ」「ご当地キャラ」界隈では、不穏なトピックスがちらほら。キャラクターのデザインをめぐる著作権問題、『ゆるキャラグランプリ』の不正な組織票疑惑など、ブームは去ったかと思いきや、“ゆるくない”話題が絶えることはない。今年で10回目を迎える『ゆるキャラグランプリ2019』の投票受付が始まった8月の某日、『ゆるキャラ論 ~ゆるくない「ゆるキャラ」の実態~』(ボイジャー)の共著者であり、自身もキャラクター制作に携わるデザイナーの犬山秋彦氏に、「ゆるキャラ」「ご当地キャラ」界の裏事情を聞いた。

『ゆるキャラグランプリ』は“人気投票”ではない!?

――10年から始まった『ゆるキャラグランプリ』が今年も開催されます。ズバリ、今回の優勝候補はどのキャラクターだと思われますか。

犬山秋彦氏(以下、犬山) 今年はだいぶ“地味な戦い”ではあると思いますが、注目しているのは、『ゆるキャラグランプリ2019』開催地・長野県のご当地キャラクター「アルクマ」です。開催地は現地投票のポイントが倍になるなど“ボーナス点”がつく上に、地元の人が投票するので、そもそも開催地は有利なんですよ。

 アルクマの場合は、11年に「長野県観光PRキャラクター」となり、県内外のキャンペーンでモチーフとして使われてきましたから、もともと知名度が高くて人気もあるので、確実にいいところまで行くと思います。でも、開催地のキャラが必ず1位になるわけでもないので、そこが予想の難しいところではありますが。

――開催地はどのように決まるのですか。

犬山 14年の第5回大会から、公募で決まっています。参加する自治体は、『ゆるキャラグランプリ』を主催する株式会社ゆるキャラに働きかけるのですが、招致のためには1,000~1,500万円かかると言われています。結局、“金”と“場所”を提供できる自治体が有利になる可能性が高いのです。

 ちなみに、静岡県浜松市の「出世大名家康くん」は、その点非常に“野心”が強かったですね。浜松市の関係者が「1位になるにはどうすればいいか」と、関係者に聞いて回っているほどでした。その結果、家康くんは12年の第3回に7位、13年の第4回に2位、そして15年に『ゆるキャラグランプリ』を浜松市に誘致して、1位を獲得しています。

――キャラクターの人気よりも、「資金があるかどうか」が重要なように思えます。

犬山 それが、単純な話でもないんです。家康くんは13年、1位を栃木県佐野市の「さのまる」に取られています。この年は、それぞれの市が“選挙資金”を公にしているのですが、家康くんが1,500万円を費やして2位だった一方、さのまるは700万円で1位だったんです。

 さのまるには、キャラクターデザインの愛らしさもありましたが、自治体の連帯感が非常に強かった。『ゆるキャラグランプリ』って“人気投票”だと思いがちですが、世間一般からの人気よりも、地元愛の強さや、「ゆるキャラ」「ご当地キャラ」に税金を使うことに対して、地元の人を納得させる説得力が重要なんです。デザインのかわいさ、資金力だけでなく、やる気や政治的な根回しも必要で、どれかひとつが突出しているだけでは1位になれない。グランプリになるキャラは、そのすべてを網羅しているといえます。

――ちなみに、先ほど「今年は地味な戦い」とおっしゃっていましたが、確かにエントリーされているキャラクターを見ても、ほとんどわかりません。

犬山 これまで1位になったキャラは「殿堂入り」するので、回を追うごとに一般的に知名度のあるキャラがいなくなっていくんですよ。それに、多額の資金や協力者がいないと上位にいけない戦いなので、「人気はあるのに、1位になれない」という現象も起こります。そうすると、上位以外のキャラは、それ自体人気がないように見えてしまうので、すでに知名度のあるキャラほど、リスクを負ってまで参加はしません。参加するメリットがありませんからね。そんな中、もうワンステップ上に行きたい新規参入のキャラだけが、金や政治力を使い1位を目指す。これが『ゆるキャラグランプリ』です。

――『ゆるキャラグランプリ2018』では、各自治体による“組織票”が問題視され、全国紙でも報じられました。ここに参加すると思うと、確かにリスクしかないような気がします。

犬山 もともと『ゆるキャラグランプリ』は、自動プログラムによる水増し投票の技術力争い、みたいな側面があったんです。ここ数年は運営側のチェックも厳しくなりましたが、昔は投票の季節になると、IT会社が自動プログラムを自治体に売り込んでくることもあったそうです。上位に入るには、自動プログラムを組み、さらに組織票を積む必要があったんです。運営が表立って「組織票OK」とは言いませんが、上位キャラたちは、できることすべてを駆使した状態で、一般票をどれだけ上乗せできるか、という次元で勝負していると思います。

――それって、思いっきり“不正”じゃないですか……。

犬山 一般的に見たらそうですよね。なので、大会が大きくなるにつれ、自動プログラムからの投票を運営側ではじくようになりました。だから昨年は、“人力”による組織票に移行したという経緯があります。それがパワハラに近い形で「無理やり投票させられた」という告発につながり、問題が大きくなったのではないでしょうか。

――そこまで行政が『ゆるキャラグランプリ』に加熱する理由は何でしょうか。

犬山 税金を使っていますから、成果を出さないと“税金泥棒扱い”されたり、翌年から予算が付かなくなったりするので、必死にならざるを得ないのでしょう。とはいえ、無理強いさえしなければ、熱心なファンによる投票と組織票も「清き一票」に変わりありません。『ゆるキャラグランプリ』は人気投票ではなく、「愛の深さ」や「やる気」を競い合うゲームだと思えば、このような仕組みにも納得できるのではないでしょうか。
(番田アミ)

(後編に続く)

■犬山秋彦(いぬやま・あきひこ)
1976年東京都生まれ。ライター、デザイナー、キャラクターコンサルタント。自衛隊勤務、テレビゲームのシナリオアシスタント、ディズニーキャストなどを経て現在に至る。戸越銀次郎・大崎一番太郎など「ゆるキャラ」のデザイン、プロデュースを行う傍ら、『週刊戦国武将データファイル』(デアゴスティーニ・ジャパン)、『信長とお江』(徳間書店)など歴史関連の記事・マンガ原作も執筆。著書『ワーキングプア死亡宣告』(共著)、絵本『しんかいくんとうみのおともだち』(イラストを担当)。

「障害者が頑張っています!」という表現をしたくない――身体障害者による劇団「態変」主宰に聞く

 『24時間テレビ 愛は世界を救う』(日本テレビ系)の放送が、8月25日に終了した。毎年恒例、夏の風物詩といえる同番組では、チャリティーマラソンや特別ドラマをはじめ、障害者や難病患者などのチャレンジ企画が放送されている。42回目となる今回は、嵐がメインパーソナリティを務め、メンバーは半身まひの少女や、義手の少年、義足の少女などのチャレンジ企画をサポートした。

 しかし、ネット上では障害者への演出に対し「障害者を商売道具にしているだけ」「その日だけ障害者にスポットを当ててお涙頂戴するな」「結局は健常者のためのテレビ番組。障害者を感動ポルノの材料にしてるだけ」といった指摘が続出。近年、そうした批判は強まる一方だ。

 サイゾーウーマンでは、2016年に障害者による劇団態変の主宰・金滿里さんに、障害者をめぐる社会の動きについて聞いている。再掲するこの機会に、ぜひ読んでいただきたい。

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 2020年のパラリンピックを前に、障害者への関心が高まっている。「欠損女子」によるバーイベントが話題になり、乙武洋匡さんが、健常者と障害者の垣根をなくすため、パラリンピックを五輪と統合することを提唱して議論を呼んでいる。関西で30年以上活動を続け、12年ぶりに東京で公演を行う、障害者による劇団態変の主宰・金滿里さんに、活動の趣旨や障害者に対する社会の動きについて話を聞いた。

自然に一番近い自分の身体で表現をしようと思った

――金さんは劇団を立ち上げる前、身体障害者のための団体で活動をされていたそうですが、そのような活動と演劇は違うように思えます。もともと、演劇が好きだったのでしょうか?

金滿里さん(以下、金) 私は、母親が韓国の古典芸能の大家という家に生まれた、在日コリアン二世です。母は韓国古典舞踊や琴・パンソリという唄のできる人で、私も物心ついた頃から見よう見まねで踊りなどをする才能があったらしく、母は自分の跡継ぎにしようとしていたらしです。しかし、そんな私が3歳でポリオに罹って障害者になってしまいました。

 韓国人はよく自分の身の上話を人に聞かせるのですが、母はこのことを人生の嘆きのネタとして友達に話しましてね。それを聞いていて、自分は障害者になったことで、芸能とは関係なくなってしまったんだな、としか思いませんでした。

 その後、成人する頃になって、障害者差別をなくす運動と出会って参加しました。それまでの暗かった人生が変わる大きな転機だったのですが、その運動も方針の違いで脱会し、放心状態になってしまった。でも、気休めで何かをするのではなく、やりたいことがなければ、あえて何かをやるのはやめよう、深く静かに沈殿して、二度と浮上しなくてもいいのではないかと思っていました。それが、沖縄に旅行に行ったことで変わりました。

 健常者の友人と沖縄に3カ月間、放浪の旅に行ったのですが、その際、健常者でないと行けない山奥の滝への観光があったんです。彼女たちに「私はここで待っているから行っておいで」と言ったら、本当に行ってしまって、私は一人放置されたんです(笑)。大自然の中に一人取り残され、自分も大宇宙の中のサイクルの中で生かされているのだなと実感したとき、自然に一番近い自分の身体で表現をしようと思ったんです。

 それまでやっていた障害者のための運動は言葉の世界ですから、相手を論破したり、理路整然と説得したりしなければなりません。それは、障害を持っている自分自身が表しているのではなく、言葉自体、脈絡、文法や文体であるので、そこにモヤモヤを感じていました。せっかく障害があるのだから、それを使おう、論より証拠だと。人の考えを一瞬にして変えることができるのが演劇の表現なのではないかと思い、29歳で劇団「態変」を立ち上げました。

――劇団員の方たちは、演劇初心者の方ですか?

金 はい。既存の表現の形をとらないほうが、よりエッセンスが中から湧き上がってきて、表現せねばならないものを素直に感じられるところがあるので。専門教育を受けると、逆に何か曲げられてしまうところがありますよね。

――設立当時、身体障害者による劇団はおそらく世界初だったそうですが、態変の舞台を見た観客からはどんな反響が寄せられていましたか?

金 最初の頃は、「危ない! こんなもの見てられない!」と怒って帰った白人のお客さんもいましたね。脳性麻痺で身体が震えている演者が一升瓶を持って「俺の酒が飲めんのか!」と客に飲ませ、また自らも酒を飲むような「挑発芝居」と言われるものをやっていたんです。酔っ払いと同じように震えているけど、脳性麻痺で震えている、酒でも飲まんとやってられへんという逆説的表現ですね。

 でも、怒って帰られるのなんて、私たちにとっては上等ですよ。「障害者が頑張っています!」といった表現をしたいのではなく、いかに健常者が考えつかない障害者の世界があるかを表現したいんです。障害者の多くは、健常者になりたいと幻想を抱いています。でも、自分の足元に根を下ろすと、全然違う見方や考え方がありますよね。それを芸術として出しています。

――態変の作品にはセリフは一切なく、身体の動きで表現されていますが、劇団としてはどのような表現を心がけているのでしょうか?

金 うまくなろうとしないこと、健常者のマネをしないことです。良い格好というのはマネから生まれるでしょ? でも、障害者の場合、健常者を見ているうちに自分も健常者だと錯覚してしまうんです。「障害者らしくせぇ」とは言わないのですが、何かやるときの形が健常者の模倣だったらすごくみっともないと、昔から思っていました。

 障害の程度でも、寝たきりと座ったまま、立ち姿勢のとれる、3つの姿勢があるんですね。この中で、寝たきりが一番“表現的”なんですよ。立っているものは制約を加えないと、寝たきりの演技の良さを壊してしまうので、誰がどこを通ってどっちへ行くなどの交通整理をやる必要があります。態変の演技は、“風景”として見ると楽しめると思います。何を言おうとしているのかを考えて見ると、頭がカチカチに固まってしまうので。

パラリンピックが利用されている

――先日、障害のある若い女性の「欠損女子」たちがバーテンダーをするイベントが話題となりました。「欠損」という点にフェティシズムを感じる人がいることや、欠損女子を性的な目で見ている人もいるということを含め、賛否両論を呼びましたが、金さんはどう思われますか?

金 私、1996年から3年間ほど、エジンバラで公演があってイギリスに通っていたんですよ。イギリスでは、身体障害者や、そういう嗜好の人が出会うためのクラブがありました。そういう嗜好の人のための出会いの場が、日本でも出てくるんだろうなとは思っていましたが……。人間の嗜好はいろいろあるので、とやかく言えませんが、本当に出会うというのは容姿ではなく魂同士のふれあい、つまりコミュニケーションなのではないかと思います。容姿ではなく、見えないものを見たいと思っているほうなので、私はあまり関わりたくはないですね。

 欠損女子のイベントに参加しているのは、障害者のほんの一部でしょうね。ほんの一部の人が良いと思っているのと、みんなが良い、と思うのとでは違うでしょ? 例えば、健常者でもホステス業をやりたいと思ってやっている人がどれだけいるか、と同じです。苦労して稼がなダメで、お金のためにやっている人もいるでしょうし、単に労働時間が短いし、オシャレもできるしいいやんと思ってやってるだけの人もいるだろうし、それと同じです。

 障害をウリにできたらラッキーと思っている人もいるだろうけど、消費なので、そのうちに喪失感を感じ、本当の愛を求めたくなるのではないかなと。もともと愛されたいのでしょう。そんなところで障害を消費しなくても、愛されると思います。

――20年に東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。先日、乙武洋匡さんの「義足が進化して、このままでは健常者に勝ってしまうので、パラリンピックをなくしたい」という発言が話題になりましたが、金さんはパラリンピックに関してどう考えていますか?

金 私は東京オリンピックもパラリンピックも反対です。一番大事な福島の原発の問題が解決していない、今の日本の状況では、やるべきでないと思っています。問題から逃げないという底力を見せてほしいのに、「違う方向やんそれ、それで満足なんか? と思います。パラリンピックが、めっちゃ利用されているんですね。「パラリンピックがあるから、あんたら黙っとけ」という圧力に使われている。障害者が認められるという幻想を持ってしまう。乙武君のように、「義足を使えば健常者に勝つやん」という、勝ち負けの問題ではないんですね。

――次回公演『ルンタ(風の馬)〜いい風よ吹け』は、どのような内容なのでしょうか?

金 チベット仏教、チベット密教とも言うんですけど、非常に洗練されたディープな仏教の世界がテーマです。宗教でなくてもいいんですよね。人間が別の価値観で生活や人間のつながり方を変えていく必要が日本の社会にはあるんちゃうかな、具体的にそれを考えていくきっかけになればいい、物質文明ではないものといった感じですね。
(姫野ケイ)

劇団態変
主宰・金滿里により1983年に大阪を拠点に創設され、身体障害者にしか演じられない身体表現を追究するパフォーマンスグループ。「身体障害者の障害じたいを表現力に転じ未踏の美を創り出すことができる」という金の着想に基づき、一貫し作・演出・芸術監督を金が担い、自身もパフォーマーとして出演する。海外公演も多数行っている。

『24時間テレビ』を障害者はどう見る? 「バリアフリー研究所」代表に聞く

 現在、放送されている『24時間テレビ 愛は世界を救う』(日本テレビ系、8月24~25日)。嵐をメインパーソナリティに起用し、ジャニー喜多川氏への追悼企画や、嵐・相葉雅紀主演ドラマなど、ジャニーズファンを喜ばせるような内容がそろっているが、この番組の目玉は、障害者や難病患者などのチャレンジ企画だ。今回も、義足の少女や、ろう学校の生徒を“応援”する企画が放送される。

 しかし近年、同番組における障害者への演出に対し「感動ポルノ(健常者に勇気や希望を与えるための道具)ではないか?」という声も寄せられている。

 2016年に放送された裏番組『バリバラ』(Eテレ)では「検証!『障害者×感動』の方程式」がテーマに掲げられ、本家を「感動ポルノ」と皮肉に扱った内容が大きな話題を呼んだ。今年も、同番組では「2.4時間テレビ 愛の不自由、」というテーマで放送している。

 はたして『24時間テレビ』は「感動ポルノ」なのだろうか? サイゾーウーマンでは、17年にバニラ・エア搭乗拒否騒動で話題になった「バリアフリー研究所」代表の木島英登氏に、同番組の障害者の取り上げ方について聞いている。再掲するこの機会に、ぜひ読んでいただきたい。

(編集部)
(初出:2017年8月27日)

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“募金する人が正しい”とされる、押しつけ感のある雰囲気が好きでない

ーーご自身も過去のけがで下半身不随になり、車いすで生活する障害者のおひとりですが、『24時間テレビ』はご覧になりますか?

木島英登氏(以下、木島) 自分が障害を持つ前から、『24時間テレビ』は見ていません。もともと、ファンタジーよりリアリティーが好きなので、『24時間テレビ』のように作られた演出で涙を誘うものよりも、リアリティーあるドキュメンタリー番組のほうが好きですね。

ーー『24時間テレビ』のような番組を放送することについて、どう思いますか?

木島 見る人がいるから番組が放送されていると思うんですが、個人的には「皆、なぜ見るのかな?」という思いです。私も、たまたまテレビをつけたら『24時間テレビ』が放送されていて、見たことはあるのですが、どうも心地悪いというか……リアリティーがないんですよね。私が、怪我で車いすの生活になったのは高校3年生のときでした。当時は「もしかしたら、『アルプスの少女ハイジ』のクララのように、奇跡が起きて歩けるようになるんじゃないか」と考えたこともありましたが、そんな奇跡は絶対にありえない。リハビリすれば歩けるようになる病気もあるんでしょうけれど、私のように脊髄損傷で下半身不随になった場合、歩くことは絶対に不可能なんです。

 『24時間テレビ』も視聴者からしたら、「かわいそうな人が頑張るストーリー」がわかりやすいから、受けているのかもしれませんね。事実、視聴率も高いから放送しているんでしょうけど、個人的には残念という思いはあります。また、募金もあまり好きではないです。アフリカやアジアで、募金がひどい使われ方をしているのをたくさん見ています。募金しても政治家が半分持っていったりとか、寄付した洋服が流れ流れて露店で売られているとか、使われ方を末端まで管理するのが難しいんですね。とはいえ、寄付自体を全否定しているわけではなく、“募金する人が正しい”とされる、押しつけ感のある雰囲気があまり好きではないです。

ーー近年ますます批判が高まっているにもかかわらず、番組を毎年放送することをどう思いますか?

木島 批判が高まっているといっても、テレビを見ている人たちは、批判されていることすら知らないかもしれません。確かにネット上では批判されているかもしれませんが、今の世の中、テレビを見ているほとんどが高齢の方ばかりで、ネットを見る人たちはテレビを見ていないのでは、と思います。また、『24時間テレビ』に限らず、ネットの評価って基本批判が多いじゃないですか。良い評価ってあまり書かれないので、一概に批判が高まっているとも言い切れません。ただ、障害当事者の中では、あまり評判がよくない印象はあります。

ーーなぜ評判がよくないのですか?

木島 毎年放送される内容は、チャリティーがメインですよね。障害者運動は、世界的にチャリティー(慈善事業)からオポチュニティー(機会平等)へという流れなのに、いつまでもチャリティーをやっているのは時代遅れなのでは、とも感じます。たとえば電車の障害者割引制度とか、そういう割引があるから、(特別扱いされて)障害者の機会平等が進まない。完全な交通バリアフリーが達成されない。もっと障害者に対して普通に接して、社会参画を促せばいいのに、と思います。とはいえ『24時間テレビ』も、障害のある出演者が番組に出ることによって、やりたいことに挑戦できるというメリットはあります。番組だから特別に許可が下りたり、金銭面や人的な周りのサポートがついたりするからです。ただ単純に、やりたいことに挑戦しているだけなのかもしれないのに、取り上げ方が感動ストーリーになるのは、さすがに出演者もわかっていることでしょう。お涙頂戴の番組と感じますが、年に一度ですし、別にいいのではないでしょうか。ちなみに、私のところへ出演依頼が来たことはありません(笑)。

ーー「感動ポルノ」と言われるものについて、どう考えていますか?

木島 うまく翻訳した、よく言ってくれた、という気持ちです。個人的には感動を煽る番組や映画は好きじゃありません。その感動ものに、障害者が使われるのは、しょうがないのかもしれません。だからといって止められるものでもないので、もっとほかの取り上げ方が増えたらいいなとは思います。最近は、パラリンピックの選手がメディアに出ることが増えましたが、重度な障害を持っていながら企業で働いている人や、結婚して家庭を守っている人、お金もうけで成功した人、さまざまな形で社会参画している人など、スポーツ以外の活動についても取り上げてほしいと思います。就労という部分が、生活の基盤として、最も大切な部分ですから。

ーー『24時間テレビ』の裏番組『バリバラ』は、ご覧になりますか?

木島 見ることもありますが、録画してまでは見ていません。先ほどお話しした「障害者の感動以外の取り上げ方」は、『バリバラ』やEテレが、多少なりともその役割を果たしています。ただ、やはりプラスの良いところばかりが放送されることが多いので、現実的なマイナス部分、社会の闇の部分も放送してほしいと思います。マイナス面をテレビで放送しても面白くないのかもしれませんが、実際は悲惨だったり苦労する話、差別を受けたりする場面もたくさんあるので、そういう部分も取り上げて、社会が変わるキッカケ、考えるキッカケを作ってほしいですね。

ーー木島さんといえば、6月に格安航空会社「バニラ・エア」の旅客機への搭乗を拒否され、自力でタラップをよじ登って乗り込んだという、一連の騒動が印象に残っていますが、また同じようなことが起きたそうですね。

木島 このインタビューの直前に、中国の大連に1週間ほど出張していました。関西空港で、行きの飛行機に危うく乗れなくなりそうになりました。「(車椅子利用者であると)48時間前までに事前連絡を行わなかった」のが理由です。利用したのはエアチャイナ(中国国際航空)でしたが、過去に4~5回は搭乗したことがあり、いずれも事前連絡はしなくてもスムーズに乗れていたので、驚きました。翌日の便に変更してほしいと頼みました。バニラ・エアの件があったばかりなのに、「また問題提起しないといけないのか、再炎上してしまうかな」と考えていると、出発25分前くらいに「手伝いは不要です」という文書に署名することで、どうにか乗ることができました。内部でも結構、揉めていたみたいですね。

ーーバニラ・エアの騒動では、事前連絡をしていなかったことへの批判が多かったですね。

木島 そうなんです。飛行機に乗れなくなりそうな現実を目の当たりにして、「私自身も考えを改めなきゃいけないのか」と自問しました。どうして私が事前連絡をしないかというと、大したことを頼まないからです。機内の通路を通る、小さな車いすを用意してもらうのみ。それがなければ、這って乗ります。車いすもバッテリーなどなく、8キロぐらいの軽いもの。中国国際航空から、「復路の便には、機内用車いすを積むよう手配した」と連絡をいただきましたが、実際には積まれてませんでした。小さな車いすひとつ積むことだけに事前連絡が必要というのは、よく理解できません。病人を運ぶのにも使えるから、ほかの航空会社のように標準で積み込んでおいてほしいと思います。

ーー木島さんは、なぜ事前連絡をしないことにこだわるのでしょうか?

木島 「事前連絡がないことを理由に、歩けない人の搭乗を拒否すること」は、私は差別だと考えます。そもそも外国で飛行機に乗るときなど、言葉が通じないので、事前連絡が無理なことがあります。飛行機がキャンセルや災害で飛ばなくなって、急に違う便に乗り換えることもあります。世界の主要な航空会社の中には、医療機器や分解が必要な電動車いす以外のときは、事前連絡が必要ないと明言しているところもあります。24年間ずっと、事前連絡なしに飛行機に乗ってきましたが、考え方を改めないといけないのか、一度、国土交通省に問い合わせてみようと思っています。ところで、出張で訪れた中国はバリアフリーが遅れていましたが、急速に改善の兆しが見られ、中国新幹線も車いす利用者がネット予約で簡単に乗れるようになっていました。いまだに電話で長々と手続きをさせられた上で、車いす席を事前予約しないといけない、日本の新幹線より優れていましたね。
(カワノアユミ)