「子育てのようにセックスすべき?」ヤリチンとヤリマンが考察する”令和の性交渉”とは?【しみけん×ドルショック竹下対談】

 みんな~、ヤッてるか!? ……なんて問いかけが、“コミュニケーションの一環”と見なされていた昭和・平成の時代。それら行為が大きく見直されつつある昨今だが、過剰に「正しさ」を追うあまり、個人間での性交渉さえも消極的になってはいまいか――。

 そう危惧するのは、8月29日に新刊『しみけん式「超」SEXメソッド 本物とはつねにシンプルである』(笠倉出版社)を上梓した、カリスマAV男優のしみけん氏と、サイゾーウーマンでマンガ『ヤリマン引退!~マンを持して育児はじめました~』を連載していた漫画家ドルショック竹下氏。自他ともに認めるヤリチン&ヤリマンの二人が、それぞれの体験談をさらけ出しつつ、現代人の「出会いとセックス」を考察した!

出会い系アプリを主戦場に「ヤリマン復活」

ドルショック竹下(以下、ドル) サイゾーウーマンでマンガ『ヤリマン引退』を連載していますが、大学時代から仕事で、「こんな男とこんなセックスをした」という実録マンガを女性視点で描いていました。数年前に結婚して出産したので、一応『ヤリマン引退』ってことになったんですけど、半年前に離婚しまして……。それで、出会い系アプリを主戦場に、ヤリマンとして復活し始めています。

――出会う頻度はどれくらいですか?

ドル 令和になってからの2週間がラッシュで、新規で10本くらい入りましたね。

しみけん アプリのプロフィールはどんな写真にしていますか?

ドル 顔を少し隠した写真ですね。

しみけん 僕は以前、出会い系アプリの原稿を書くにあたって登録した際、法則性を見つけて、「プロフィール写真別ヤリマン度」を作ったんですよ。「こういうプロフィールの女性はヤリマン度が高い」っていうのを。

ドル わたしは実年齢の39歳で登録してから、以前、年齢をごまかして登録していたときよりも来るようになりました。自分のことを、「セックスする優しいおばさん」なんだってことを認めたほうがいいんです。写真はこういう感じです(しみけん氏に写真を見せる)。

しみけん いやいや、これは(大爆笑)。

ドル 完全にヤリマンですよね。

しみけん うん。いやあ、でもこれ、“本物”なんだ。“会える人”なんだね。

ドル 嘘っぽい? 業者っぽいってこと?

しみけん そう! 業者っぽい! でもプロフィールの書き方は“本物”ですね。プロフィールって、その人の心理状況を完全に反映しているものだから、わかりやすいんです。

ドル この写真を撮った経緯は……アプリで会ってラブホに行って、20分くらいでヤリ終わっちゃった人がいて。「あと2時間半も残っているのに、どうしよう……」と思っていたら、相手は早くイキすぎて気まずくなったのか、「俺、飲みに行くから帰るわ」って取り残されたとき、「やることがないからプロフィール画像でも撮るか、しょうがねえなあ」って思って撮った写真です。

しみけん そんなに哀愁がある写真なんだ(笑)。ドルさんの写真は業者っぽいけど、加工アプリを使って撮ってる写真の女性は、会えるけど揉める傾向にあります。逆に、加工せずにデフォルトのカメラだけで可愛く見せようと頑張って撮っている女性は、会えるし揉めない。あと、2人組の写真を設定していて、たいてい見切れている方やカメラから離れた位置にいる方が、そのプロフィールの主だったりします。

ドル それ、ずるくないですか!? 男性でもありますよね。一緒に写っている人もいい迷惑。他の人は顔を隠せばいいのに、巻き添えにしているんですよね。

しみけん ドルさんが出会う年齢層は?

ドル 20代前半から30代が多いですね。

しみけん もっと上限を取っ払うと、面白いことがあると思います。例えば僕が気になってるのは、T男さん(67歳)。プロフィール写真を、奥さんの遺影の前で撮っているんです。

ドル お、重い! でも気になる! わたしが見た中で気になったのが、集中治療室でチューブだらけになっている写真に、プロフィール文は空欄。メッセージ送っても返ってくるのかなと。何がしたい人なんだろうと思いました。

しみけん それは「大丈夫ですか?」と言われたい、“ツッコミ待ち”の人ですね。

ドル あと、どう見ても50代なのに「30歳です」と書いている人には、「おまえ、30歳をなんだと思っているんだ!」ってなりますね。出会い系アプリを見ていると、顔が良くてもプロフィールや写真の撮り方ひとつで、「これはないな」と思っちゃう部分がすごくある。

しみけん 僕的に好感度がブチ上がるのは、免許証の写真を設定している人かなあ(笑)。

ドル わかる!

しみけん この子は素直で隠し事なく、がっぷり四つで来ているな、と感じますね。

――ダメなプロフィール写真はどんなものですか?

ドル さっき話した、友達と一緒に写っていて、どれが本人だかわからないのは論外ですね。

「目的」と聞きたいことを簡潔に

しみけん 自分以外の魅力で人を引きつけようとしている写真もダメ。シャンパンタワーや、高級車の前で撮った写真とか。

ドル あと、どこだよっていうリゾートとか。しかも自分は写っていなくて、リゾートだけ。ほかにも、札がついているうまい肉の写真とか。

しみけん 札付きのうまい肉の写真で、プロフィール文が「おいしいものが好きです」だけだと、嫌味になりますよね。でも、プロフィール文をこうするとどうでしょう。「僕は牛の生産者に興味を持っていて、このプロフィール写真も、僕が面倒を見た『花子』という牛の肉です」と、こだわりを見せてみると、まったく印象が違いません?

ドル ほんの一工夫なんですね。

しみけん 「人の興味を引くプロフィールの書き方」というのを僕のnoteに書いたのですが、それを真似する人が増えて、似たようなプロフィールが多くなっちゃった(笑)。

ドル わたしは、自分の素性や状況を、正直に飾らずに書いているなあと思う人のプロフィールが、魅力的だと思います。「彼女と別れたばかりです」くらいだと興味を引かれないけど、彼女と別れてから今現在どういう心理状態でいるのかを、自分の言葉で書いてくれるだけで、状況もわかるし、わかるからこそ、こちらは最初から思いやりを持って接することができるから。そういう状況を受け入れられる人がコンタクトを取ってくるわけだから、自分のことは正直に書いたほうがいいですね。

しみけん あと、目的は書いた方がいいです。自分はなぜ出会い系アプリをやっていて、相手に何を求めているのかを。マッチング後のメールのやりとりも、目的や聞きたいことを簡潔に書いた方がいい。「今どこですか」「家です」「どこか行きませんか?」「どこですか?」「どこがいいですか?」とか、そんな不毛なやりとりは時間のムダ。「今僕は新宿にいて、19時から予定が空くんですけど、3時間だけでも焼肉いかがでしょうか?」だけで十分です。

ドル 具体的に言ってくれたほうが、こちらも応じやすいですよね。空いていれば行くし。

しみけん 最低限のラリーで成立するのに、「どうします?」とか、どうしようもないやりとりを続けると、アホだと思われて切られてしまいます。

――そうしたやりとりを経て、ドルショックさんが出会い系アプリで実際に出会った男性たちのセックスは、どうでしたか?

ドル わたしがアプリでヤル目的は、若い男性に「おばさんとヤルのはいいぞ」というのを伝道することなんですが、20代前半の男性とヤっていて気づいたのが、“前戯がほぼない人”がいない、ということ。昔、年配男女ばかり来るカップル喫茶に取材に行ったときに70代とヤったんですが、まったく前戯をしないんですよ。挿入すると女性が勝手に動くと思っていたりするのか、いきなり膣に指をドーン! と突っ込んでくるおじいちゃんもいました。そういう意味では、若い男性はAVで基礎知識として「セックスって前戯があるんだよ」ということを知っているから、前戯を当たり前のようにしているのではないかと思いました。前戯のクオリティや質、それに、見せるセックスと実際のセックスの違いに関しては、まだカバーしきれていないけれど。少なくともAVは、日本人のセックス教育を微妙に底上げしたと思います。

しみけん ハードコアポルノの合法化が1969年で、AVが誕生したのが1981年。60、70代は知るよしもないんです。それに、戦後の人たちは男尊女卑が根深いですから、もてなしの精神がないとできない前戯を、男性優位に考える60、70代の人ができないのもわかるけども……。ということは、事前にもてなしの精神を測るための質問があったら、面白いですよね。

令和の時代は「クンニ同意書」

ドル もてなしの精神……あっ! わたしの友人に、「クンニ同意書」をとる人がいますよ。部屋に呼んでセックスをする前に、「私は絶対にクンニをします」という誓約書を書かないと寝室に入れないと。それはひとつのやり方ではあるなと思います。

しみけん セックス同意書がPDFでダウンロードできるサイトがありますよね。「こんなものが必要なのか」など議論を呼びました。

ドル 「必要なのか」と断じてしまうのはよくないですよね。世の中にはそれが必要な人はいるし、そういう人が使えばいいものです。密室によく知らない異性と2人でいること自体、「怖い」と思う人のほうが当然多いですしね。

しみけん 同意書をとるにしても、言い方が2種類あるかと思います。相手にプレッシャーを与える言い方と、相手に希望を与える言い方が。クンニ同意書の場合、「わたしはクンニが大好きで、クンニをすると本当にイキやすくなるんです」という言い方ならいいけど、「わたし、クンニしない人とはセックスしないんで」という上からの言い方だと、印象がまったく違います。サイゾーウーマンさんでいろんなクンニ同意書をPDF化、どうですか? 男性向けに、「乳首舐めてほしい同意書」とかも一緒に作ればウケると思う!

ドル やってほしいプレイや好きなプレイは、あらかじめ言ってくれたほうがいいですよね。男性だって、「乳首を舐められてもまったく感じないけど、舐めてくれるから仕方なく受け入れている」と言っている人がいて、だったらあらかじめ言えばよくない? と思います。

しみけん 男性は、断られたり否定的な意見をされ慣れていないんですよね。

若い男の子は「否定に弱く」「失礼になる」?

ドル そうですね。プレッシャーや否定の言葉にすごく弱い。ひとつでも言うと、本当にすぐいなくなります。出会い系アプリで会う若い男性にそういう人が多くて、セックスがイマイチでもどう指摘していいかわかりません。上から言うといじけて聞いてくれないし、育てるような気持ちで接しようと思いつつ、2~3回会うのも難しい子が多い。1回目で刺激だけで満足しちゃって、「次の女にいこう」となっちゃうんですよね。しみけんさんが今回の著作で「2回目、3回目のほうがセックスは気持ち良い」と書いていますし、わたしも激しく同意しますけど。

しみけん そこまで至らないんですね。

ドル それに、何度も会えても、1回セックスをして“許してもらえた”と思うからか、どんどん失礼になっていくんですよ。最初は「ホテル代出します」と言っていたのが、徐々に割り勘になり、最終的に「あ……じゃあわたしが全部出すね……?」みたいになっていく。わたしはおばさんだし払うことはまったくいやではないけれど、一度払うとどんどん「甘えていいんだ」と失礼になるから、うまく育てられないもどかしさがあります。

しみけん すぐ甘えるし、それに失敗への免疫もないから、大変ですよね。グーグルに入社するとまず言われるのが、「早く失敗してください」という言葉だそうです。小さな失敗のトライ&エラーなら人間は立ち上がれるけど、失敗を恐れて逃げ続けた人に、大きな失敗が降りかかると、そりゃあ立ち上がれなくなりますよ。それと同じで、セックス含めた男女関係のコミュニケーションのすべては、失敗の耐性をつけていったほうがいいです。

ドル 失敗して当たり前だし、最初は知らなくて当たり前ですしね。こういうおばさんを利用してどんどん失敗してほしいという気持ちはあるんです。だから指摘するんだけど、言うとすごいヘコんじゃう。

――どういったことを指摘するんですか?

ドル クンニしてほしいなと思ったとき、「下も舐めてほしい……なあ……」くらいのテンションで言うと、「下はちょっと……」ってなっちゃって、じゃあこっちがフェラチオをしているのはなんなの? って思うじゃないですか。だから、「じゃあわたしもフェラチオしないわ」ということを“そういう意味だぞ”と暗に含ませて言うと、「ああ、じゃあもう挿れる」ってなっちゃって。いやいや、おまえさあー! って。

しみけん そこに、こちらが納得する理由がひとつでもあればいいんだけどね。「以前、クンニをしていたらマン汁が急に目の中に入って結膜炎になって失明しまして。これ、義眼なんです。でも僕、フェラチオされるのがすごく好きなんです」と言ってくれたら、「たしかにそれはトラウマになるよね。じゃああなたはクンニしなくていいけど、わたしはフェラチオするね」となるよね。相手が納得する説明ができるかどうか、ですね。

ドル わたしレベルでも、「これは言わないほうがいいかな」と常に逡巡しているので、言えない女性はたくさんいると思います。

しみけん 言うときは、最初に「あなたのこういうところはいいんだけど」と人格を肯定しておいて、「もっとこうしてほしい」という言い方をしないと、人って育たないのかも。

ドル 子育てのようなことを、セックスでもしなきゃいけないんですね。しみけんさんが著作や動画で啓蒙していますが、そういうのを見て勉強することが、世の中に浸透すればいいですよね。

しみけん そうそう、この前、とあるAV女優さんのデビュー作で相手役をしましたが、清楚な顔をしてフェラチオがめちゃくちゃうまいんです。「君ィ! すごいねー!」と言ったら、「高校生のとき、しみけんさんの講座動画を見て勉強しました」と言っていて、俺が3年前に投げたブーメランが返ってきましたよ。

ドル 人って3年で育つんですねえ。

しみけん もともと好奇心と探究心が強いから、ちゃんと成長するんでしょうね。

(後編に続く・9月12日公開予定)

「熱中症対策グッズ」7品を医師が品評! 「ひんやり感が復活」「持続時間が短い」

 8月23日、気象庁は9月以降も東日本や西日本を中心に30度以上の真夏日が続くと発表し、「引き続き熱中症に警戒してほしい」と呼びかけています。 
 
 そこで今回は、編集部が選んだ熱中症対策グッズ7種を、「女医によるファミリークリニック」院長・竹中美恵子先生(小児科医/小児慢性特定疾患指定医/難病指定医)にジャッジしていただきました。重度の熱中症になると、後遺症が残る可能性があるといい、最悪死亡するケースも。そんな、侮れない“熱中症”ですが、屋内と屋外などシチュエーション別に熱中症対策グッズを使い分け、残暑を乗り切ってみるのはいかがでしょうか。

目次

1熱中症の症状と原因
2医師が熱中症対策グッズ7つをジャッジ
・瞬間爆冷スプレー ミントの香り/アイスノン 
・塩分チャージ タブレッツ/カバヤ
・冷感タオル/Velcare 
・経口補水液OS-1/大塚製薬
・かんたん急冷! ヒヤロン/ロッテ
・しろくまのきもち サマースカーフ/ビッグウイング
・ミニ扇風機

1. 熱中症の症状と原因 内科医・星野優先生(日本医師会認定産業医)監修

「熱吸収の増加」と「熱放出の低下」がいくらか組み合わさることで起こります。具体的には過度の熱吸収は激しい運動や高い環境温度、またはその両方によって生じ、冷却障害は、肥満、高湿度、高い環境温度、厚着、および発汗と汗の蒸発を妨げるあらゆるものによって引き起こされると言われているんです。

 また、熱中症の主な症状としては、「だるさ」「頭痛」「めまい」「吐き気(嘔吐)」などがあり、重度の熱中症になると、「意識がない」「体がひきつる/けいれんする」などの症状も出ます。体の筋肉が壊されてしまったり、肝臓や腎臓に障害が生じ、致死的な状態に至ることも珍しくありません。

2. 医師が熱中症対策グッズ7つをジャッジ

瞬間爆冷スプレー ミントの香り/アイスノン  オススメ度★★★☆☆

◎商品概要
 服の上からスプレーすると、マイナス30度以下のジェット冷気で火照った体を瞬間冷却できる商品。服についた汗のニオイも消臭してくれる。

◎医師・竹中先生によるジャッジ
 ストッキングやUVカット手袋の上からスプレーしても、一気に涼しくなるのでカバンに1つ入っていると便利でしょう。脇の制汗剤やおでこに貼るタイプの冷却シートなどで肌荒れを起こす方が多いのですが、こちらであれば直接肌に触れることもなく、肌荒れを起こしにくい点が素晴らしいです! お肌の弱い方や、お子さんにも安心して使えますよ。

 欠点は、持ち運びタイプとはいえ容器が重い。そして、ひんやり感の持続時間が短いことですね。

塩分チャージ タブレッツ/カバヤ  オススメ度★★★★★

◎商品概要
 汗をかくことで、失われる塩分やカリウムに加え、クエン酸を一粒に凝縮した1粒。日本気象協会推進「熱中症ゼロへ」プロジェクト公式アイテム。

◎医師・竹中先生によるジャッジ
 体のイオンバランスを崩すことで、気分を悪くされる方が非常に多いですが、塩タブレットの摂取で防ぐことができます。こちらのタブレットタイプであれば口溶けも良いので、すぐに塩分等のチャージが可能ですね。同様の商品に「塩飴」がありますが、食べきるまでに時間がかかりますし、夏場の屋外など高温の場所では溶けてしまうので、持ち運びには不向き。塩タブレットは、たくさん汗をかく運動の前後、屋外はもちろんのこと、暑さを感じにくく熱中症になりがちな高齢者の方にも率先して口にしてほしいです。水分を必要としないため、ライブなど外出先で手軽に摂れることも便利ですね。

 欠点は、2~3歳の幼児の舌だと、塩っ辛さを感じることもあるかもしれません。ただ、お菓子ではなく熱中症対策グッズと考えれば、まずくないと思います。

冷感タオル/Velcare オススメ度★★★★★


◎商品概要
 冷感機能素材を使用しているタオル。水に濡らして絞った後、タオルを振るだけで冷たさを感じることができ、ぬるくなっても水分が残っていれば、振るだけでひんやり感が復活する。

◎医師・竹中先生によるジャッジ
 とても冷たい上に、持続性もなかなかです! 軽いので持ち運びしやすく、使い方も簡単。メイクの上から顔を拭いても、崩れにくいところもポイントが高いです。

 欠点は、水をすぐに使えない状況では、効果を発揮できないところでしょう。

経口補水液OS-1/大塚製薬  オススメ度★★★★★


◎商品概要
 脱水状態時に不足している水と電解質(ナトリウムなどの塩分)を素早く補給できる飲料で、“飲む点滴”とも言われる。

◎医師・竹中先生によるジャッジ
 病院に搬送されるほどの重度の熱中症に陥ってしまった場合、経口補水液を飲んでいるだけで、その後の処置から改善までの道のりが、とても“速く”なります。点滴は病院に行くまでの時間が必要ですし、費用もかかるので、ドラッグストアなどで手軽に購入できる経口補水液は、医師から見てもオススメです。体調が「おかしいな……」と思ったら、「まず、これを飲む」と頭に入れておくといいでしょう。 

 欠点を挙げるとすれば、おいしくない点。ただ、医薬品に準ずる商品ですので、そこはしょうがないのかもしれません。

かんたん急冷! ヒヤロン/ロッテ  オススメ度★★★★☆

◎商品概要
「手で叩いて割る」旧タイプとは違い、「握るだけ」で冷たくなる冷却パック。

◎医師・竹中先生によるジャッジ
 冷たすぎて肌が真っ赤になるといったことがない、ちょうど良い冷たさですし、タオルに包めば温度調節も簡単です。体の不調を感じたら、まずは応急処置として「ワキの下」「首」「太ももの付け根」など、太い動脈が通っているところを冷やしましょう。「手で叩いて割る」旧タイプとは違い、「握るだけ」で冷たくなる冷却パック。

 欠点は、繰り返し使えない点。お財布と環境に優しくないですかね……。

しろくまのきもち サマースカーフ/ビッグウイング  オススメ度★★★☆☆

◎商品概要
 約3~5分水に浸し膨らませ、タオルなどで軽く表面の水を拭き取り首に巻いて使用するサマースカーフ。高分子ポリマーによって、水分がゆっくり気化するため、冷たさが長時間持続。

◎医師・竹中先生によるジャッジ
 首をクーリングすることで、脳に流れる血液を冷やす効果があり、熱中症予防につながります。使い方によっては、手首に巻くことも可能ですし、見た目もオシャレですね。繰り返し洗濯して使える点もエコ。ただ、水を含ませる商品なので、放置するとカビなどの菌が繁殖してしまう心配が……。「手洗い」という点が少々面倒ですが、洗濯・乾燥をきちんとして、衛生面に気を配り使用しましょう。

 院内でサマースカーフの落とし物が目立っているので、紛失しやすいところが欠点と言えます。

ミニ扇風機  オススメ度★★★★☆


◎商品概要
 繰り返し充電が可能なタイプのハンディタイプの小型扇風機。

◎医師・竹中先生によるジャッジ
 風量も強くて申し分ありません。風を当てて体の表面を冷たくすれば体温が奪われるので、熱中症予防に有効かと思われます。扇風機を使用する際は、必ずスプレーなどで肌に“水”をかけることを忘れないでほしいですね。また、汗をかいた際は、あえて“拭かずに”風を当てることで、同様の効果が得られ、結構クールダウンできると思います。

 気をつけてほしい点は、高い気温の中で乾いた肌に風を当て続けないということ。水をかけずに、35度を超える気温の中で、扇風機のみを使用するということは、ドライヤーの熱風を当てるようなものです。熱を奪う前に汗だけが乾き、体温は上がったままになってしまいます。そうすると脱水症状を引き起こす可能性もあるので、注意して使いましょう。

竹中美恵子(たけなか・みえこ)
女医によるファミリークリニック院長。小児科医、小児慢性特定疾患指定医、難病指定医。
2009年金沢医科大学医学部医学科卒業。以後広島市立広島市民病院小児科などで勤務。2016年12月女医によるファミリークリニックを開業。日本小児科学会、日本周産期新生児医学会、日本小児神経学会、日本小児リウマチ学会所属。日本周産期新生児医学会認定 新生児蘇生法専門コース認定取得、メディア出演多数。

「熱中症対策グッズ」7品を医師が品評! 「ひんやり感が復活」「持続時間が短い」

 8月23日、気象庁は9月以降も東日本や西日本を中心に30度以上の真夏日が続くと発表し、「引き続き熱中症に警戒してほしい」と呼びかけています。 
 
 そこで今回は、編集部が選んだ熱中症対策グッズ7種を、「女医によるファミリークリニック」院長・竹中美恵子先生(小児科医/小児慢性特定疾患指定医/難病指定医)にジャッジしていただきました。重度の熱中症になると、後遺症が残る可能性があるといい、最悪死亡するケースも。そんな、侮れない“熱中症”ですが、屋内と屋外などシチュエーション別に熱中症対策グッズを使い分け、残暑を乗り切ってみるのはいかがでしょうか。

目次

1熱中症の症状と原因
2医師が熱中症対策グッズ7つをジャッジ
・瞬間爆冷スプレー ミントの香り/アイスノン 
・塩分チャージ タブレッツ/カバヤ
・冷感タオル/Velcare 
・経口補水液OS-1/大塚製薬
・かんたん急冷! ヒヤロン/ロッテ
・しろくまのきもち サマースカーフ/ビッグウイング
・ミニ扇風機

1. 熱中症の症状と原因 内科医・星野優先生(日本医師会認定産業医)監修

「熱吸収の増加」と「熱放出の低下」がいくらか組み合わさることで起こります。具体的には過度の熱吸収は激しい運動や高い環境温度、またはその両方によって生じ、冷却障害は、肥満、高湿度、高い環境温度、厚着、および発汗と汗の蒸発を妨げるあらゆるものによって引き起こされると言われているんです。

 また、熱中症の主な症状としては、「だるさ」「頭痛」「めまい」「吐き気(嘔吐)」などがあり、重度の熱中症になると、「意識がない」「体がひきつる/けいれんする」などの症状も出ます。体の筋肉が壊されてしまったり、肝臓や腎臓に障害が生じ、致死的な状態に至ることも珍しくありません。

2. 医師が熱中症対策グッズ7つをジャッジ

瞬間爆冷スプレー ミントの香り/アイスノン  オススメ度★★★☆☆

◎商品概要
 服の上からスプレーすると、マイナス30度以下のジェット冷気で火照った体を瞬間冷却できる商品。服についた汗のニオイも消臭してくれる。

◎医師・竹中先生によるジャッジ
 ストッキングやUVカット手袋の上からスプレーしても、一気に涼しくなるのでカバンに1つ入っていると便利でしょう。脇の制汗剤やおでこに貼るタイプの冷却シートなどで肌荒れを起こす方が多いのですが、こちらであれば直接肌に触れることもなく、肌荒れを起こしにくい点が素晴らしいです! お肌の弱い方や、お子さんにも安心して使えますよ。

 欠点は、持ち運びタイプとはいえ容器が重い。そして、ひんやり感の持続時間が短いことですね。

塩分チャージ タブレッツ/カバヤ  オススメ度★★★★★

◎商品概要
 汗をかくことで、失われる塩分やカリウムに加え、クエン酸を一粒に凝縮した1粒。日本気象協会推進「熱中症ゼロへ」プロジェクト公式アイテム。

◎医師・竹中先生によるジャッジ
 体のイオンバランスを崩すことで、気分を悪くされる方が非常に多いですが、塩タブレットの摂取で防ぐことができます。こちらのタブレットタイプであれば口溶けも良いので、すぐに塩分等のチャージが可能ですね。同様の商品に「塩飴」がありますが、食べきるまでに時間がかかりますし、夏場の屋外など高温の場所では溶けてしまうので、持ち運びには不向き。塩タブレットは、たくさん汗をかく運動の前後、屋外はもちろんのこと、暑さを感じにくく熱中症になりがちな高齢者の方にも率先して口にしてほしいです。水分を必要としないため、ライブなど外出先で手軽に摂れることも便利ですね。

 欠点は、2~3歳の幼児の舌だと、塩っ辛さを感じることもあるかもしれません。ただ、お菓子ではなく熱中症対策グッズと考えれば、まずくないと思います。

冷感タオル/Velcare オススメ度★★★★★


◎商品概要
 冷感機能素材を使用しているタオル。水に濡らして絞った後、タオルを振るだけで冷たさを感じることができ、ぬるくなっても水分が残っていれば、振るだけでひんやり感が復活する。

◎医師・竹中先生によるジャッジ
 とても冷たい上に、持続性もなかなかです! 軽いので持ち運びしやすく、使い方も簡単。メイクの上から顔を拭いても、崩れにくいところもポイントが高いです。

 欠点は、水をすぐに使えない状況では、効果を発揮できないところでしょう。

経口補水液OS-1/大塚製薬  オススメ度★★★★★


◎商品概要
 脱水状態時に不足している水と電解質(ナトリウムなどの塩分)を素早く補給できる飲料で、“飲む点滴”とも言われる。

◎医師・竹中先生によるジャッジ
 病院に搬送されるほどの重度の熱中症に陥ってしまった場合、経口補水液を飲んでいるだけで、その後の処置から改善までの道のりが、とても“速く”なります。点滴は病院に行くまでの時間が必要ですし、費用もかかるので、ドラッグストアなどで手軽に購入できる経口補水液は、医師から見てもオススメです。体調が「おかしいな……」と思ったら、「まず、これを飲む」と頭に入れておくといいでしょう。 

 欠点を挙げるとすれば、おいしくない点。ただ、医薬品に準ずる商品ですので、そこはしょうがないのかもしれません。

かんたん急冷! ヒヤロン/ロッテ  オススメ度★★★★☆

◎商品概要
「手で叩いて割る」旧タイプとは違い、「握るだけ」で冷たくなる冷却パック。

◎医師・竹中先生によるジャッジ
 冷たすぎて肌が真っ赤になるといったことがない、ちょうど良い冷たさですし、タオルに包めば温度調節も簡単です。体の不調を感じたら、まずは応急処置として「ワキの下」「首」「太ももの付け根」など、太い動脈が通っているところを冷やしましょう。「手で叩いて割る」旧タイプとは違い、「握るだけ」で冷たくなる冷却パック。

 欠点は、繰り返し使えない点。お財布と環境に優しくないですかね……。

しろくまのきもち サマースカーフ/ビッグウイング  オススメ度★★★☆☆

◎商品概要
 約3~5分水に浸し膨らませ、タオルなどで軽く表面の水を拭き取り首に巻いて使用するサマースカーフ。高分子ポリマーによって、水分がゆっくり気化するため、冷たさが長時間持続。

◎医師・竹中先生によるジャッジ
 首をクーリングすることで、脳に流れる血液を冷やす効果があり、熱中症予防につながります。使い方によっては、手首に巻くことも可能ですし、見た目もオシャレですね。繰り返し洗濯して使える点もエコ。ただ、水を含ませる商品なので、放置するとカビなどの菌が繁殖してしまう心配が……。「手洗い」という点が少々面倒ですが、洗濯・乾燥をきちんとして、衛生面に気を配り使用しましょう。

 院内でサマースカーフの落とし物が目立っているので、紛失しやすいところが欠点と言えます。

ミニ扇風機  オススメ度★★★★☆


◎商品概要
 繰り返し充電が可能なタイプのハンディタイプの小型扇風機。

◎医師・竹中先生によるジャッジ
 風量も強くて申し分ありません。風を当てて体の表面を冷たくすれば体温が奪われるので、熱中症予防に有効かと思われます。扇風機を使用する際は、必ずスプレーなどで肌に“水”をかけることを忘れないでほしいですね。また、汗をかいた際は、あえて“拭かずに”風を当てることで、同様の効果が得られ、結構クールダウンできると思います。

 気をつけてほしい点は、高い気温の中で乾いた肌に風を当て続けないということ。水をかけずに、35度を超える気温の中で、扇風機のみを使用するということは、ドライヤーの熱風を当てるようなものです。熱を奪う前に汗だけが乾き、体温は上がったままになってしまいます。そうすると脱水症状を引き起こす可能性もあるので、注意して使いましょう。

竹中美恵子(たけなか・みえこ)
女医によるファミリークリニック院長。小児科医、小児慢性特定疾患指定医、難病指定医。
2009年金沢医科大学医学部医学科卒業。以後広島市立広島市民病院小児科などで勤務。2016年12月女医によるファミリークリニックを開業。日本小児科学会、日本周産期新生児医学会、日本小児神経学会、日本小児リウマチ学会所属。日本周産期新生児医学会認定 新生児蘇生法専門コース認定取得、メディア出演多数。

「パプリカ」でビートを取る1歳の息子に”神々しい……!” 30代サブカル男に父性が芽生えるまで

 イクメンという言葉はもはや陳腐化し、男性が育児参加するのは当たり前という風潮が高まるなか、多くの男性を悩ますひとつのトピックスがある。それは、「父性が芽生えるのは一体いつなのか?」問題だ。

 日に日に膨らんでいくパートナーのおなか、ホルモンバランスの乱れによる理不尽をさんざん浴びせられ、「おれ、本当に父親になれるのか?」と不安におののく男性も少なくないだろう。

 そんなギモンに答えてくれる情報は、ググっても出てこない。だったら自分で書いてみよう、というのが、8月中旬に上梓された『こうしておれは父になる(のか)』(イースト・プレス)だ。著者は、ネット上では知る人ぞ知る有名人、本人(@biftech)氏。ライブ鑑賞が趣味で、大のネット好きの30代後半の男性が、パートナーの妊娠発覚から子どもが1歳になるまでの約20カ月を実況レポートしたエッセイ本だ。Cakesの人気連載に「妊娠編」を加え、パワーアップ。果たして彼は、どのようにして父親になったのだろうか?

***

――そもそもこの本は、2018年の文学フリマで発売された同人誌「チャーミーグリーンに挑む」が元になっているんですよね?

本人 はい。当時、交際2カ月だった妻から妊娠を告げられ、これはすごいことになったなと。ライブレポートやTwitter実況など、体験したことを文章にするというのは日常的にやっていたので、記録しない手はないなと思いまして。ただ、これまでにないほど大きなトピックスだし、長いプロジェクトだと思ったので、日々少しずつネット上で出すというよりは、同人誌として一冊にまとめて出したほうがいいだろうなって。

 で、満を持して文フリに初参加したところ、たまたま隣のブースが作家の小林エリカさんだったんです。お手伝いに来ていた担当編集さんが1冊購入してくれたんですが、その場で「連載にしましょう!」と口説かれまして……。

担当編集 僕もサブカル寄りの人間なんで、サブカルの人間がどう社会に適合していくのか興味があったんですよ。

本人 (笑)。同人誌は妊娠編だけでしたが、出産後のことも書こうと思っていたので、「ぜひお願いします」と引き受けました。

――2018年8月にcakesで連載がスタートし、隔週でアップされていましたが、ただでさえ仕事に育児にと忙しい中、コラムを書いている夫に対して、奥さんから不満の声はなかったですか?

本人 ありましたね……。妻の体とかメンタルの変化についても赤裸々に書いてましたし。アップ前に読んでもらうようにしていましたが、朝までカタカタやってたり自分がスポットライト浴びてるところばかり書いたりしてるのは、やはりどうなんだと。本ができた今は「記録が残せてよかったね」ということになったんですが。

――読者からの反応は?

本人 もともとは僕と同じような男性に向けて、“同じ轍を踏んでくれるなよ”という気持ちで書いていたんですが、フタを開けてみると、わりと新米ママたちから「そうか、男性側はこういう気持ちなんだ」とか「パパも大変なんだね」という声があって「そっちもか!」と思いました。

――これまで趣味最優先だった独身男性が、いきなり育児モードになれるものですか?

本人 結婚前はGoogleカレンダーに気になったライブの予定とかをビッシリ書き込んでいたんですが、今は娯楽カレンダーは真っ白で、会社の予定、夫婦の予定、子どもの予定で埋まってる。人って変わるんだと思いました(笑)。

――フラストレーションはたまりませんか?

本人 「あのバンド今日ライブするんだ?! 当日券でライブ行こ!」ってのができないから、不満はたまらないわけではないんですが、その代わり新たに加わった育児で得られる刺激にグッときてますね。最近だと、音楽に対する興味が出てきていて、(Foorinの)「パプリカ」が流れると踊りだしたり。アリーナ席で、「1歳なのにビート取ってる!」っていうのを見てる感覚ですからね。神々しいって。

――(笑)。

本人 あと、ユニットの新メンバーみたいな感覚もあるんですよ。これまで、おれ、妻、たまに猫だったところに子どもが加入したような。相互作用というかユニット単位で高め合うというか、新章を迎えた感じが楽しいですね。

――そもそも、子どもは好きだったんですか?

本人 好き嫌いでいったら、好きではないほうでした。電車とかでワーキャー言ってるのを見て、それこそネットでよく話題になる、ひどいこと言っちゃうおじさんのような心境になることもあったし。そもそも得体の知れない生き物っていう見方をしていました。

――この本は「自分に父性が芽生えるのか」というのがテーマになっていますが、デキちゃった婚ではなく、結婚→妊娠という順番だったら、そういった焦りは生まれなかったものなのでしょうか?

本人 僕個人でいえば、順番が変わったからって、父性の芽生えの時期は変わらなかったと思いますね。実物を見るという体験をもって初めて気づかされたことってやっぱり多かったし、生まれる前にいろいろなエッセイとか子育て本を読みあさったんですが、自分の心自体は、そこまで変わらなかったですからね。何か書くときは基本「見たものじゃないとソースにしちゃいけない」って考え方でやってるんですけど、子どもに対しても同じなんだなと。

――「子どもができた!」「生まれた!」という喜びと、父性は違うものなんですか?

本人 最初に妊娠を告げられたときは、「いよいよ自分にもこのトピックが降りかかってきたか」が50%、「はえーな」が50%でしたね(笑)。子どもが生まれた瞬間は「子どもすげー」が50%、「妻、最高にえらいし、本当にかわいい」が50%。正直、産後しばらくは子どもというより、妻への愛情のほうが強かったですね。でも、生後2カ月くらいの時に、初めて僕の言動に対して子どもが笑い返してくれて。「自分には父性がないんじゃないか」と少し焦っていた時期だったんで、子どもへの愛おしさと安堵感が爆発して涙が止まりませんでした。

――確かに、特に前半は奥さんへの愛がにじみ出てますね(笑)。「妻に認めてもらいたいから頑張る」みたいな。

本人 ならよかった(笑)。妻にしろ子どもにしろ、育児ってコミュニケーションの入門みたいなところがありますよね。これまで、こんなに至近距離で人と接し続けることなんてなかったし、やっぱり家族ユニットとしてのバイブスを高めていくというところからスタートしてるんで、そういうふうに感じられるのかもしれません。

――やはり育休を取ったというのが大きかったんですか?

本人 それもありますね。産後、2週間ほどで育休に入ったんですが、一つ屋根の下で3人と1匹だけで生活していくという経験は大きかったです。日中は2人がかりで家事育児をやって、夜中のミルクは当番制でした。

――大変でしたか?

本人 外に遊びに行く余裕はなかったですけど、代わりに宅配食材のサンプルを取り寄せまくったり、メルカリで不用品を数万円に換えたりはしました(笑)。まあ最初こそ、「育児、途方もない……」って感じでしたが、一連のルーティーンができると、一人でやっているより格段に楽だったと思いますね。あの時期は揉めたりもなかったから、なんだかんだ2人でシェアできてるという実感がありましたし。夫婦で揉める時って、どっちかが睡眠不足か、キャパがオーバーしてるかのどっちかですからね。

――実際のタスクの分担以外に、育休のメリットってどんなところですか?

本人 フタを開けてみたら実はこうだったんだ、というのを当事者として体験できたということでしょうか。現場を見ないまま日中に家でどういうことが起きているのか理解するのは、やっぱり難しいと思うんですよ。そういう意味で、体験すると頭の片隅にずっと残りますからね。出産前の両親学級でシミュレーションとか、そういう話じゃないんですよね(苦笑)。

――人形相手の沐浴体験やオムツ替えと現実は違う(笑)。

本人 それに、育休中の妻が言ってた「世間から切り離される疎外感」とか「アウトプットできない悲しさ」の一端も味わえたと思います。家の中がすべてになってしまうから、久々にコンビニへ出かけて季節の移り変わりを知ったり。子どもの世話をするのは当然だけど、やっぱり自分を犠牲にしなきゃいけない部分もあるなって。

――24時間、緊張感と責任感で押しつぶされそうになるっていいますからね。

本人 逃げられないし、誰かに相談するにしても、この案件って人それぞれすぎますからね。ほんと、世の中のお母さんたちおつかれさまです……! あと、今回あらためて思ったのは、父親側の意見も全然違うなって。「子どもかわいい」ってところでは共通していても、得意不得意も違うし、仕事の関わり方も周りの理解も違うから、これを共有する、わかってもらうというのも、かなり大変なことだと思いましたね。

――育児に関わりたくてもどうか関わっていいのかわからない、という男性は少なくないのかもしれないですね。

本人 父親といえば大黒柱的なイメージがこれまでずっとありましたけど、実際はもっとヘタレだし、自分の頼りなさは一人の人間の命を扱う上ではすげえ欠点だなって思いましたね。だから、そういったダメなところも含めて、育児の敷居を下げたいと思ってこの本を書いたわけです。

――運よく育休を取れたとしても、パタハラに遭って退社を余儀なくされた、なんて話も聞きますが、本人さんが職場復帰するにあたって、トラブルとかはなかったんですか?

本人 勤務先はすごく理解があって、社長も育児経験者だし、女性に限らず全社員育休取ってなんぼでしょ、みたいなスタンスなんですよ。だから、特にトラブルはなかったと思います。ただ、やっぱり復帰した直後はいろいろバタバタして、何かひとつに本腰を入れると、マルチには回せないっていうのを痛感しました。仕事はどんどんたまっていくけど、家に帰って子どもをお風呂に入れなきゃいけないとか。ユニットのバイブスをよくするためにやってるはずが、単なる義務感にさいなまれる日もありましたね。

――振り返ってみて、一番つらかったのはその時期ですか?

本人 そうですね、子どもが寝返りを覚えて、仕事が忙しくなってきて、妻もフラストレーションがたまってきて、それが積み重なったのが生後3~5カ月あたりですかね。2週間に一度くらいのペースで夫婦間が荒れてました(笑)。

――育児にも関わりたいけど、仕事もしなきゃいけない。そして家庭は不協和音……。そんな状況を、どうやって打破したんですか?

本人 Excelで家事育児タスクをすべて書き出して、再分担したんです。いわゆる“見える化”をしないと全体像もわからないし、その作業の中で何げないことが相手にとって負担だったってわかったんですよね。たとえば、僕の連れ子である猫のエサやりとか。当然、仕事に関する項目はないので、「おれはこんなにやってない」を可視化する儀式のような気がして、最初はなかなか進まなかったんですが(笑)。

――家事や育児は、不公平感で揉めることが多いですよね。

本人 でも、家事分担って、ボリュームだけで言い切れるものじゃないなって。自分はフルタイムで責任のある仕事をやってるけど、毎月生理痛とかないし、社会にコミットできない育休中のフラストレーションっていうのは解消しようがないものだなと。難しいですよね。だから、互いに何かしら不満はあるだろうなっていうところに落ち着きますね。

――これから新米パパになる人に向けて、何かアドバイスはありますか?

本人 体力と睡眠を確保するための準備を全力でやろう! ですかね。バジェットか協力要請かアイデアで余裕を勝ち取るっていう。

――具体的には?

本人 白物家電は財布と相談しながらアップグレードさせていったほうがいいし、育児グッズに関しても、新生児期は電動で動くベッドをレンタルしたんですが、それで寝かしつけの時間が短縮できたり。あと、職場では周囲に配慮を要請するってことですかね。「この時間は絶対会議を入れんなよ」とか。結局、トラブルの多くはお互いのキャパオーバーから来ていたので、余裕こそすべてだと思うんですよね。だから、自治体や企業のベビーシッターサービスに登録しておくとか、何か気分転換になる趣味を見つけておくとか、心のケータリングみたいなものを隙あらば選別しておくのは、パパだろうがママだろうが、絶対にやっておくべきことだと思います。

――現在、お子さんは1歳半になり、奥さまも仕事復帰されてますます大変そうですが、続編が楽しみです。

本人 実は今、妻が第二子妊娠中でして……。

――それはおめでとうございます! 2人目は、すんなり父性が芽生えそうですか?

本人 前回同様の、ものすごいやつが確実に来る! 気がする! くらいの感じですね(笑)。少なくとも、前回やらかした失敗は二度とやらねえぞって気持ちです。やっぱり、パートナーのこと、よくわかってなかったなって。妻というか、女性の体のこと、体と心境の変化かな。今度はうまいことやってくれよな、おれ、って感じですね(笑)。

(取材・文=編集部)

少年犯罪や非行少女は他人事じゃない【刑務所のアイドルPaix2(ペペ)×元レディース・中村すえこ】

 元レディースの総長で少年院送致の経験もある中村すえこさんが監修・監督を務めた教育映画『記憶 少年院の少女たちの未来への軌跡』が完成、上映会が続いている。映画では、少年院を出院(≒卒業)する直前の4人の少女が中村さんに収容の経緯や今の思いを明かし、一部に再現ドラマも織り込んだ。今回、少年院や刑務所の慰問で「Prisonコンサート」を続けている“刑務所のアイドル”こと女性デュオPaix2(ペペ)のお2人と中村さんが対談。前編では、少年院の少女たちの家庭環境や更生について話を聞いたが、後編では、それぞれの活動を続ける意味と今後について語ってもらった。

(前編はこちら)

■やり直したいと思っている子たちを応援したい

――後編では、映画のお話とともに、中村さんとPaix2(ペペ)のお2人の活動についてもお聞きしたいと思います。作品は商業映画ではなく、クラウドファンディングや寄付を募って資金を集めて「教育映画」として製作されていますね。

中村すえこ(以下、中村) はい。学校などでの上映も目指しているので、入場料は無料です。今後も月に1回ほどのペースで無料上映会を予定しています。

――中村さんは、少年院出院者を支援する団体「NPO法人セカンドチャンス!」に参加されて女子少年院での講話を続けていらっしゃるほか、働くシングルマザーで、大学生でもあるんですね。

中村 はい。国内にある9カ所の女子少年院全部に伺いました。「人生、何度でもやり直せるよ。この私だってできたから、大丈夫!」というようなお話をさせていただいています。やり直したいと思っている子たちを応援したいですね。大学では、社会科の高校教員免許を取得するために学んでいます。大学の授業でライフストーリーを語る機会があり、私が少年院時代のことを含めて話した時に、「非行は他人事ではない」と、周りの学生たちにも理解してもらえたんです。直接話すことや映像は伝わるんだなと、改めて思いましたね。

――Paix2(ペペ)のお2人は、全国の少年院や刑務所での「Prisonコンサート」の活動とともに、保護司、矯正支援官としてもご活躍です。

Megumi(井勝めぐみ) はい。2014年に保護司、15年に矯正支援官に就任させていただき、今年は7月から北海道・月形町の「観光典獄」にも任命していただきました。典獄とは所長のことです。

Manami(北尾真奈美) 保護司の仕事を通じて、加害者である受刑者の皆さんと被害者の皆さんとの間にいる「第三者的な立場」が重要だと実感しています。

――なるほど。少年院や刑務所の収容者を励ます時に、被害者の方にも思いをはせられているんですね。「Prisonコンサート」はボランティアで行われているそうですが、採算は合うんですか?

Megumi まったく合いません(笑)。矯正支援官は交通費と宿泊費など実費はいただけますけど、全額を賄えるほどではないんです。

Manami それでも続けているのは、いろんな出会いがあるからですね。出所した方がコンサートに来てくださったり、CDを買ってくださったりすると、「この方は、もう再犯することはないんだな」と思います。

Megumi 私たちの音楽活動を知って、お米を送ってくださる方もいて。コンサートを通じて、人の心の温かさをたくさん知ることもできました。

――すばらしいことですね。お2人は、歌手になる前に、別のお仕事をされていたんですよね。

Manami はい、私は大学の研究室にいて、Megumiは看護師でした。別々に「日本縦断カラオケ選抜歌謡祭」の鳥取大会に出場して、主催者から「デュオでやってみてはどうか」と声をかけられたんです。

――今のマネジャーさんですね。デビュー後は、地元のテレビやラジオに出演されて、「一日警察署長」も務められています。

Manami それで、署長さんから「歌がさわやかだから、刑務所で慰問をしてはどうか」と言われたんです。

――怖くなかったんですか?

Megumi 怖かったというより、最初は刑務所の雰囲気に圧倒されて、とても緊張しました。

Manami 今はだいぶ変わりましたけど、以前はみんな灰色の服装で、色のない世界だったんです。

Megumi 慰問の際、受刑者の皆さんに許されているのは、歌い終わった後の拍手だけ。それ以外は何もしてはいけないので、とても静かで。「私たちがコンサートして、本当によかったのかな」って落ち込みました。でも、あとで感想文をいただいて、「楽しかったんだ……」とわかりました。

中村 それが今では刑務所のアイドルですからね。ストーカーとか、怖い思いはしないんですか(笑)?

Manami・Megumi (2人同時に)今のところはないです(笑)。

Megumi 一般のライブの時に、物販コーナーに黙って1万円札を置いて立ち去っていく人がいて。慌てて追いかけると、「いや、何かの足しにしてください」と言って帰っていかれました。

――その方も、元受刑者さんなのでしょうね。

Megumi たぶんそうだと思います。

中村 でも、1万円札を置いていけるということは、出所後も生活できてるということですよね。

Manami そう思います。刑務所でもらう「作業報奨金」の封筒を、封を切らずに持ってきてくださった方もいらっしゃいます。さすがにいただけなくて、福祉施設に寄付させていただきました。

中村 報奨金はすごいですね(笑)。いろんな方に応援されているんですね。お2人が、お金が目当てじゃないって伝わっているんでしょうね。

――最近の少年犯罪についてもお聞きします。少子化の影響で少年院の収容者数も減り、全国の施設で統廃合が進んでいると報じられていますね。一方で、少年犯罪の件数自体は減っていても、「振り込め詐欺」の受け子などで摘発される子どもたちは増えています。警察庁の調査などによると、刑法犯で摘発された少年は2万3,489人で、戦後最少を更新しています。でも、振り込め詐欺事件で2018年の1年間に摘発された20歳未満の少年は750人、前年の約1.6倍に上り、約8割が現金受け取り役の「受け子」です。

中村 最近の「受け子」にはワルっぽくない、いわゆる普通のイケメンふうの男の子も多いようです。罪の意識がないのでしょうね。建設現場で一日汗を流して働いても1万円にもならないのに、「受け子」なら2万円か3万円くらいにはなりますから、真面目に働く気はなくなりますよ。少女の売春も同じで、短時間で高額のお金をもらえますから、検挙されても、また同じことを繰り返します。摘発の件数は減っていても、再犯者は多いんですね。また、薬物犯罪も増えています。

――警視庁管内での大麻取締法違反の検挙件数は6年連続で増加しており、少女の覚せい剤取締法違反の事案も後を絶たないようですね(警視庁生活安全部少年育成課・平成30年中の「少年育成活動の概況」)。しかし、中村さんと、Paix2(ペペ)のお2人の「失敗しても人生を諦めないで、前を向いて歩いてほしい」というメッセージは、多くの方に伝わっていくと思います。

中村 はい。少年院に入って、社会に出て、また失敗しても諦めないでほしいです。映画にも、そういう思いを込めています。

Manami 私たちも「元気だせよ」をはじめとして、刑務所や少年院だけではなく、いろいろな方への応援歌をたくさん作っているので、ぜひ一般の方にも聴いていただきたいです。

――お2人の夢は、『NHK紅白歌合戦』への出場だそうですね。

Megumi はい、それだけが夢ではありませんが、もしも、そのような機会があれば、刑務所のグラウンドからの中継で出演させてほしいです。紅白は、大みそかの家族だんらんの象徴です。社会の皆さんに、幸せとはどういうことかを考えてもらえる機会になるのではないかと思うからです。塀の中で過ごす人もいれば、家族と過ごす人もいる。幸せの対比を幅広く伝えることができれば、少しでも犯罪の抑止につながるのではないかと思っています。

――ありがとうございました。

Paix2(ペペ)
Manami(マナミ、北尾真奈美)とMegumi(メグミ、井勝めぐみ)によるデュオ。01年に日本コロムビアよりメジャーデビュー。アルバムに『逢えたらいいな』(05年)、著書に『逢えたらいいな―プリズン・コンサート三〇〇回達成への道のり』(12年、鹿砦社)など。デビュー1年前から全国の刑務所や少年院などでの公演「Prisonコンサート」を続け、「受刑者のアイドル」と呼ばれる。14年に保護司、15年に矯正支援官に就任。16年 には「Prisonコンサート」400回の功績に対して法務大臣より感謝状を授与された。ユニット名はフランス語で「平和」を意味するpaix (発音は「ぺ」)を二つ重ねている。2019年7月より北海道・月形町の「月形観光大使(観光典獄)」に就任。「典獄」は「刑務所長」の意。
公式サイト

中村すえこ
ドキュメンタリー教育映画『記憶 少年院の少女たちの未来への軌跡』監修・監督。15歳で少女たちの暴走族・レディースの総長となり、傷害事件を起こして少年院に1年間収容される。結婚、出産、離婚を経験してシングルマザーとして働きながら、09年に創設された少年院出院者を支援する団体「NPO法人セカンドチャンス!」に参加、多くの出院者と交流を続ける。著書『紫の青春 ~恋と喧嘩と特攻服~』(08年、ミリオン出版)が『ハードライフ~紫の青春・恋と喧嘩と特攻服~』(関顕嗣監督)として11年に映画化。
『記憶 少年院の少女たちの未来への軌跡』公式サイト
法務省東京矯正管区主催上映会
日程:2019年9月22日(日)
場所:矯正研修所講堂(東京都昭島市もくせいの杜2-1-20)
上映時間:上映開始11:10〜中村すえこ舞台挨拶(終了13:10)
入場料:無料
主催:東京矯正管区
問い合わせ:東京矯正管区第三部 048-600-1500

少年犯罪や非行少女は他人事じゃない【刑務所のアイドルPaix2(ペペ)×元レディース・中村すえこ】

 元レディースの総長で少年院送致の経験もある中村すえこさんが監修・監督を務めた教育映画『記憶 少年院の少女たちの未来への軌跡』が完成、上映会が続いている。映画では、少年院を出院(≒卒業)する直前の4人の少女が中村さんに収容の経緯や今の思いを明かし、一部に再現ドラマも織り込んだ。今回、少年院や刑務所の慰問で「Prisonコンサート」を続けている“刑務所のアイドル”こと女性デュオPaix2(ペペ)のお2人と中村さんが対談。前編では、少年院の少女たちの家庭環境や更生について話を聞いたが、後編では、それぞれの活動を続ける意味と今後について語ってもらった。

(前編はこちら)

■やり直したいと思っている子たちを応援したい

――後編では、映画のお話とともに、中村さんとPaix2(ペペ)のお2人の活動についてもお聞きしたいと思います。作品は商業映画ではなく、クラウドファンディングや寄付を募って資金を集めて「教育映画」として製作されていますね。

中村すえこ(以下、中村) はい。学校などでの上映も目指しているので、入場料は無料です。今後も月に1回ほどのペースで無料上映会を予定しています。

――中村さんは、少年院出院者を支援する団体「NPO法人セカンドチャンス!」に参加されて女子少年院での講話を続けていらっしゃるほか、働くシングルマザーで、大学生でもあるんですね。

中村 はい。国内にある9カ所の女子少年院全部に伺いました。「人生、何度でもやり直せるよ。この私だってできたから、大丈夫!」というようなお話をさせていただいています。やり直したいと思っている子たちを応援したいですね。大学では、社会科の高校教員免許を取得するために学んでいます。大学の授業でライフストーリーを語る機会があり、私が少年院時代のことを含めて話した時に、「非行は他人事ではない」と、周りの学生たちにも理解してもらえたんです。直接話すことや映像は伝わるんだなと、改めて思いましたね。

――Paix2(ペペ)のお2人は、全国の少年院や刑務所での「Prisonコンサート」の活動とともに、保護司、矯正支援官としてもご活躍です。

Megumi(井勝めぐみ) はい。2014年に保護司、15年に矯正支援官に就任させていただき、今年は7月から北海道・月形町の「観光典獄」にも任命していただきました。典獄とは所長のことです。

Manami(北尾真奈美) 保護司の仕事を通じて、加害者である受刑者の皆さんと被害者の皆さんとの間にいる「第三者的な立場」が重要だと実感しています。

――なるほど。少年院や刑務所の収容者を励ます時に、被害者の方にも思いをはせられているんですね。「Prisonコンサート」はボランティアで行われているそうですが、採算は合うんですか?

Megumi まったく合いません(笑)。矯正支援官は交通費と宿泊費など実費はいただけますけど、全額を賄えるほどではないんです。

Manami それでも続けているのは、いろんな出会いがあるからですね。出所した方がコンサートに来てくださったり、CDを買ってくださったりすると、「この方は、もう再犯することはないんだな」と思います。

Megumi 私たちの音楽活動を知って、お米を送ってくださる方もいて。コンサートを通じて、人の心の温かさをたくさん知ることもできました。

――すばらしいことですね。お2人は、歌手になる前に、別のお仕事をされていたんですよね。

Manami はい、私は大学の研究室にいて、Megumiは看護師でした。別々に「日本縦断カラオケ選抜歌謡祭」の鳥取大会に出場して、主催者から「デュオでやってみてはどうか」と声をかけられたんです。

――今のマネジャーさんですね。デビュー後は、地元のテレビやラジオに出演されて、「一日警察署長」も務められています。

Manami それで、署長さんから「歌がさわやかだから、刑務所で慰問をしてはどうか」と言われたんです。

――怖くなかったんですか?

Megumi 怖かったというより、最初は刑務所の雰囲気に圧倒されて、とても緊張しました。

Manami 今はだいぶ変わりましたけど、以前はみんな灰色の服装で、色のない世界だったんです。

Megumi 慰問の際、受刑者の皆さんに許されているのは、歌い終わった後の拍手だけ。それ以外は何もしてはいけないので、とても静かで。「私たちがコンサートして、本当によかったのかな」って落ち込みました。でも、あとで感想文をいただいて、「楽しかったんだ……」とわかりました。

中村 それが今では刑務所のアイドルですからね。ストーカーとか、怖い思いはしないんですか(笑)?

Manami・Megumi (2人同時に)今のところはないです(笑)。

Megumi 一般のライブの時に、物販コーナーに黙って1万円札を置いて立ち去っていく人がいて。慌てて追いかけると、「いや、何かの足しにしてください」と言って帰っていかれました。

――その方も、元受刑者さんなのでしょうね。

Megumi たぶんそうだと思います。

中村 でも、1万円札を置いていけるということは、出所後も生活できてるということですよね。

Manami そう思います。刑務所でもらう「作業報奨金」の封筒を、封を切らずに持ってきてくださった方もいらっしゃいます。さすがにいただけなくて、福祉施設に寄付させていただきました。

中村 報奨金はすごいですね(笑)。いろんな方に応援されているんですね。お2人が、お金が目当てじゃないって伝わっているんでしょうね。

――最近の少年犯罪についてもお聞きします。少子化の影響で少年院の収容者数も減り、全国の施設で統廃合が進んでいると報じられていますね。一方で、少年犯罪の件数自体は減っていても、「振り込め詐欺」の受け子などで摘発される子どもたちは増えています。警察庁の調査などによると、刑法犯で摘発された少年は2万3,489人で、戦後最少を更新しています。でも、振り込め詐欺事件で2018年の1年間に摘発された20歳未満の少年は750人、前年の約1.6倍に上り、約8割が現金受け取り役の「受け子」です。

中村 最近の「受け子」にはワルっぽくない、いわゆる普通のイケメンふうの男の子も多いようです。罪の意識がないのでしょうね。建設現場で一日汗を流して働いても1万円にもならないのに、「受け子」なら2万円か3万円くらいにはなりますから、真面目に働く気はなくなりますよ。少女の売春も同じで、短時間で高額のお金をもらえますから、検挙されても、また同じことを繰り返します。摘発の件数は減っていても、再犯者は多いんですね。また、薬物犯罪も増えています。

――警視庁管内での大麻取締法違反の検挙件数は6年連続で増加しており、少女の覚せい剤取締法違反の事案も後を絶たないようですね(警視庁生活安全部少年育成課・平成30年中の「少年育成活動の概況」)。しかし、中村さんと、Paix2(ペペ)のお2人の「失敗しても人生を諦めないで、前を向いて歩いてほしい」というメッセージは、多くの方に伝わっていくと思います。

中村 はい。少年院に入って、社会に出て、また失敗しても諦めないでほしいです。映画にも、そういう思いを込めています。

Manami 私たちも「元気だせよ」をはじめとして、刑務所や少年院だけではなく、いろいろな方への応援歌をたくさん作っているので、ぜひ一般の方にも聴いていただきたいです。

――お2人の夢は、『NHK紅白歌合戦』への出場だそうですね。

Megumi はい、それだけが夢ではありませんが、もしも、そのような機会があれば、刑務所のグラウンドからの中継で出演させてほしいです。紅白は、大みそかの家族だんらんの象徴です。社会の皆さんに、幸せとはどういうことかを考えてもらえる機会になるのではないかと思うからです。塀の中で過ごす人もいれば、家族と過ごす人もいる。幸せの対比を幅広く伝えることができれば、少しでも犯罪の抑止につながるのではないかと思っています。

――ありがとうございました。

Paix2(ペペ)
Manami(マナミ、北尾真奈美)とMegumi(メグミ、井勝めぐみ)によるデュオ。01年に日本コロムビアよりメジャーデビュー。アルバムに『逢えたらいいな』(05年)、著書に『逢えたらいいな―プリズン・コンサート三〇〇回達成への道のり』(12年、鹿砦社)など。デビュー1年前から全国の刑務所や少年院などでの公演「Prisonコンサート」を続け、「受刑者のアイドル」と呼ばれる。14年に保護司、15年に矯正支援官に就任。16年 には「Prisonコンサート」400回の功績に対して法務大臣より感謝状を授与された。ユニット名はフランス語で「平和」を意味するpaix (発音は「ぺ」)を二つ重ねている。2019年7月より北海道・月形町の「月形観光大使(観光典獄)」に就任。「典獄」は「刑務所長」の意。
公式サイト

中村すえこ
ドキュメンタリー教育映画『記憶 少年院の少女たちの未来への軌跡』監修・監督。15歳で少女たちの暴走族・レディースの総長となり、傷害事件を起こして少年院に1年間収容される。結婚、出産、離婚を経験してシングルマザーとして働きながら、09年に創設された少年院出院者を支援する団体「NPO法人セカンドチャンス!」に参加、多くの出院者と交流を続ける。著書『紫の青春 ~恋と喧嘩と特攻服~』(08年、ミリオン出版)が『ハードライフ~紫の青春・恋と喧嘩と特攻服~』(関顕嗣監督)として11年に映画化。
『記憶 少年院の少女たちの未来への軌跡』公式サイト
法務省東京矯正管区主催上映会
日程:2019年9月22日(日)
場所:矯正研修所講堂(東京都昭島市もくせいの杜2-1-20)
上映時間:上映開始11:10〜中村すえこ舞台挨拶(終了13:10)
入場料:無料
主催:東京矯正管区
問い合わせ:東京矯正管区第三部 048-600-1500

「ケーキもイケメンも小さな物語。今こそ物語が必要」脚本家・小説家、木皿泉インタビュー

 『すいか』『野ブタ。をプロデュース』(ともに日本テレビ系)、『昨夜のカレー、明日のパン』『富士ファミリー』(ともにNHK)など、熱狂的なファンを生んできたドラマの脚本家・木皿泉。放送から十数年という時を経ても、いまだにファンイベントが開催されるほど、その世界観は支持され続けている。そんな木皿泉の新作は、エッセイ集『ぱくりぱくられし』(紀伊國屋書店)。『すいか』に通じる幻の処女作『け・へら・へら』をはじめ、産経新聞などでの連載を収録した作品だ。「木皿泉」とは、妻鹿年季子(めがときこ)と和泉務(いずみつとむ)による夫婦共同執筆で用いられるペンネームだが、今回は妻の妻鹿氏に、処女作執筆時の思いや、現在の女性や人々の抱える“苦しさ”、ひいてはフィクションが持つ力について語ってもらった。

――デビュー作の『け・へら・へら』は昭和62年の作品とのことですが、今の女性もハッとさせられるフレーズが飛び交っていました。元同僚の女性2人が婚活を名目に逃避行する物語を、当時、どのような思いで書かれたのですか?

木皿泉氏(以下、木皿) その頃は、「女の人はこうあるべきだ」みたいな世間からの締め付けが、すごくつらい時代だった。今でこそセックスって、ちょっと安くなっちゃったけど、セックスというもの自体に高値がついていたというか。処女が偉いとか価値があるとか、そういう時代。いつの間にか知らないうちに、自分に値段がついちゃってる感じが、今よりも強かったのかなと思います。これを書いている時は、親が期待している「良き花嫁」みたいなものと、自分との間にギャップを感じていたし、会社で働いていても、いわゆる「OL」と自分は違う。そういうギャップが、すごくつらかったんです。

――適齢期になったら処女のまま結婚して、仕事は辞めるのが正しい、みたいな時代ですね。

木皿 私が内側から見ている自分や、私が求めている自分の姿と世の中が求める自分は違うんだけどなって思ってたんですよ。だから昔は、「自分探し」みたいなのがはやったんですけどね。でも結局、母にしてみたら、そんな小難しいことよりも、「平凡でもいいから、普通に結婚してくれたらいいのに」と。勤め先の会社からしたら、チャチャッと仕事を能率よくやってさえくれればいい。でも、そういうふうに思われていること自体が、私以外のところで自分に価値を付けられているようで嫌だった。私の価値は私がつけたい。一言で言えば、自分の稼いだお金でおいしいものを食べたりとか(笑)、そういうことをしたかったんじゃないのかなって思います。

――自分探しというと、その後しばらくしてから「等身大」という言葉が出てきましたよね。

木皿 はやりましたね。等身大ってコトバ。昔は見栄を張るのが当たり前だったから。でも、今の人たちはみんな等身大なんじゃない? さっきの話の続きになるけど、80年代は内需拡大で物を買わなきゃいけないっていう時代。バブルがあって、自分を実感よりも大きく見せなきゃいけないみたいな、結構、無理していた時代ね。自分の価値をちょっと大きく、それこそ見た目から大きく、強く見せる。だって、肩パットが入っている服を着てたんだから(笑)。

 そういえば、80年代に絶対に買いたくないって思ってたシャネルのネックレスがあって。イケイケでバブリーな人が身につけるような、大きな鎖があったの。フリーハンドで描いたような花の形のものがついたネックレスなんだけど、なんかパワーがあるんですよ。今の時代、逆に面白いなと思って、最近買ってみたのね。それを身につけると、ちょっと自分が偉くなったみたいな気分になる。等身大とは反対に、ちょっと偉そうな感じで歩けるから面白いんですよ(笑)。

――自分を大きく強く見せるために、着るもので気持ちをつくってたんですね。

木皿 ただ、そういう物を身につけていた時代なので、結構無理していたんじゃないかな。この姿は嘘の自分じゃないか? 自分が考える本当の自分は? みたいなものを探していたから「等身大」みたいな言葉がはやったのかなって思いますね。

――今回の本では、いくつかの章にわたって「承認欲求」に触れていましたよね。TwitterなどのSNSとの関わり方も承認欲求と切り離せないのですが、その欲求をコントロールするのが難しくなってきています。

木皿 私の若い頃、80年代の「結婚」っていうのは、まさに承認欲求ですよ。「結婚しない私」っていうのが不安だった。誰かに認めてもらいたいんだけど、誰かに認めてもらうには、結婚しないと認めてもらえない。今だったら、別に結婚しなくてもいいんじゃない? っていうのが一般的になったけれども、承認欲求を求める気持ちはまだ残っている。

 だからフォロワー数といった、「数字」で認められたと感じる。昔の承認欲求は、もっと抽象的なものですよ。なんていうのかな、近所のおばちゃんの評判とか、本当に周囲500メートルくらいの人たちが、自分のことを「良いお嫁さんだね」って言ってくれたら、もうそれでいいんですよね(笑)。それだけで全然生きていけるんですけど。今はもうそういう共同体もないし、結婚したらOKみたいなパスポート、黄門様の印籠みたいなのもないから。そうなると、やっぱりネットで得られる「数」。それがリアルかどうかはわからないし、本当に見てくれているかどうかもわからないけど、「いいね!」っていうのがあれば、とりあえずはOKと思えるから。

――認められたかどうか、目に見える数字で確認してしまうのは仕方ないんでしょうか?

木皿 でも、そんな数字だけの世界っていうのは、人が救いを求めている時には、あんまり助けにはならないんですよね。そうじゃないところでしか救われないから、人間って。何かを目標にがんばっていたりするときに、数字はすごく励みになって役に立つんだけど、いったんレールから外れちゃったりした時に、すごくえげつなく迫ってくるじゃない? それは例えば、視聴率とか本の販売部数といった数字で結果を測る世界と同じで、成果主義というか、そういう感じがしますよね。でも、目に見える数字だけじゃなくて、“ないもの”が支えになったりする時があるわけですよ。

――“ないもの”が支えになる、というのは?

木皿 フィクション、虚構というか。今ここにないものを想像して、それでちょっと心が豊かになったり、慰められたり、「また明日、がんばろうか」って思ったりすることがある。すべてリアルにあるものだけで賄おうとするからつらくなる。今の世界は数字だけの、言ってしまえば本当に身も蓋もないえげつない世界っていうかね、夢も希望も何もないみたいなところで、みんな生きている気がします。

 今のままでは、数字で価値が決められてしまって、本当に良いものもどんどん潰されちゃう。作っても作っても売れない、評価されないとか、商売としてまったく成り立たないとかね。ウチみたいに、商売として成り立てばOKだと思うんですよ、なんとか食べていければ。でも、それも今は難しくなっちゃってる。

――数字を中心に回っている世界に、フィクションがもっと増えると苦しみは和らぐんでしょうか?

木皿 今だって、いっぱいあるじゃないですか。でも、「数字」に太刀打ちできる物語が今はないということです。昔はあったんですよ。でもその物語が崩れたのが「ポストモダン」だと思うんです。家族も潰れるし、学校も病院も効率の悪い所は潰れるしかない。80年代に、こういう時代が来るぞ来るぞとずっと言われ続けてきた。けど、その時はうまくイメージできなかった。なってみて、なるほどこういうことかと思った。

――数字や効率性が優先されすぎた結果、共同体が潰れて物語を持てなくなってしまった。

木皿 やっぱり両方必要なんじゃないかな。小さいフィクションはみんな持っていると思う。その日その日、男前を見たら癒やされる、800円のスイーツで癒やされるっていうのもフィクションだから。特別なデコレーションとか、普段食べないようなチョコレートとか、こんな珍しい果物使ってます、みたいな物語がある。日常の本当にちっちゃなフィクションね。でも、それは傷口に絆創膏を貼るみたいなもので、昔みたいに大きなフィクションはもうない。「働き方改革」で余暇の時間が増えたとしても、夢をみたり希望を持ったりとか、そうしたことが極端になくなってしまっている。

――そういう意味での小さなフィクションは、今の世の中に豊富にありますね。大きなフィクションというのは?

木皿 例えば昔で言うなら「立身出世」ですよね。自分が偉くなって社会的地位も高くなる。地位が高くなって何するのかって言ったら、良い家に住んだりとか車を買ったりとか、交際費がちょっとたくさん使えるようになったから、ちょっと良いところでご飯食べるとか、そんなことしかないわけなんですけどね(笑)。たぶんそういうことに気づいちゃったのね。がんばっても、その程度の幸せなんだって。

 昔のそういう立身出世物語のような、誰もがその目標に向かってがんばるという「大きな物語」がぜんぶ崩れちゃったから、自分たちでその物語を作らなきゃいけない。みんなが信じられる、それは価値があるなぁという物語っていうか。でも、もう同じ物語を日本人全員が持つっていうこと自体が難しくなってるから。いろんな価値観があるからね。

 だから、みんなが安心して暮らせるような、誰にもしわ寄せがいかない、無理なく楽しく生きていけるような、そういう物語をどこかで作っていかないと、逃げ場所がない。イケメンを見たら癒やされるとかは、ほんとにささやかな逃げ場所だと思います。日常よりちょっとだけ盛られた感じのもの。実際にはあり得ないもの。そんなものを見て、ちょっと自分を癒やしたり、明日もがんばろうと活を入れるっていうのかな? なんか今の人たちは、そんな感じがしますね。インスタグラムも、同じなのかなって思いますね。

――インスタグラムはフォロワーの数で承認を得る一方で、手軽なフィクションでもあるんですね。

木皿 フィクションなんですよね。それは日常じゃない私。それはそれでいいんだけど、その日暮らしのバンドエイドみたいなフィクションだから。スイーツとかイケメンとかインスタグラムを絆創膏として貼り続ける中で、何年かたって「ハッ」と気づいた時に、「え! ほんとは何もないんだ」「私を支えてるものって、貯金通帳の金額だけ」とか、そんなふうになった時、「ちょっともう無理」と思う時も来たりするわけよ、人間って不思議なもので(笑)。「お金はこんなに持ってるのに不幸」みたいなことって、多分あると思うの。

 そういう意味じゃ、そのことに少しでも疑問を感じたり、不安を感じたりして、スイーツとかでやっていくのも「もう、いっぱいいっぱいです」みたいな人には、私が書いてるものもバンドエイドのようなものではあるけど、それよりもう少しだけ長く効くフィクションになればいいなって。そのためにやっているような気はします。

――木皿作品が、熱狂的に支持されているのもそうしたところにあるんでしょうね。

木皿 いやでもね、まだ必要な人に届いてないと思ってるんですけどね。私は、舞台やドラマや小説、あとアニメもつくったりしているんです。漫画原作も、話がくればたぶんやる。テレビしか見ない人、本しか読まない人、スマホだけの人とか、みんないろいろですからね。いろんなジャンルでやっていくことは、いろんな人に、自分のつくった物語を「こんなの救いになりませんか?」と提出することだと思っていて。そういう仕事の仕方も悪くないなって思っています。

木皿泉(きさら・いずみ)
和泉務と妻鹿年季子による夫婦脚本家。第22回向田邦子賞を受賞した『すいか』(03年)をはじめ、『野ブタをプロデュース。』(05年)『セクシーボイスアンドロボ』(07年)『Q10』(10年)「富士ファミリー」(16年)などのドラマを手がける。著書は『昨夜のカレー、明日のパン』(河出書房新社)『さざなみのよる』(同)『カゲロボ』(新潮社)など多数。

「ケーキもイケメンも小さな物語。今こそ物語が必要」脚本家・小説家、木皿泉インタビュー

 『すいか』『野ブタ。をプロデュース』(ともに日本テレビ系)、『昨夜のカレー、明日のパン』『富士ファミリー』(ともにNHK)など、熱狂的なファンを生んできたドラマの脚本家・木皿泉。放送から十数年という時を経ても、いまだにファンイベントが開催されるほど、その世界観は支持され続けている。そんな木皿泉の新作は、エッセイ集『ぱくりぱくられし』(紀伊國屋書店)。『すいか』に通じる幻の処女作『け・へら・へら』をはじめ、産経新聞などでの連載を収録した作品だ。「木皿泉」とは、妻鹿年季子(めがときこ)と和泉務(いずみつとむ)による夫婦共同執筆で用いられるペンネームだが、今回は妻の妻鹿氏に、処女作執筆時の思いや、現在の女性や人々の抱える“苦しさ”、ひいてはフィクションが持つ力について語ってもらった。

――デビュー作の『け・へら・へら』は昭和62年の作品とのことですが、今の女性もハッとさせられるフレーズが飛び交っていました。元同僚の女性2人が婚活を名目に逃避行する物語を、当時、どのような思いで書かれたのですか?

木皿泉氏(以下、木皿) その頃は、「女の人はこうあるべきだ」みたいな世間からの締め付けが、すごくつらい時代だった。今でこそセックスって、ちょっと安くなっちゃったけど、セックスというもの自体に高値がついていたというか。処女が偉いとか価値があるとか、そういう時代。いつの間にか知らないうちに、自分に値段がついちゃってる感じが、今よりも強かったのかなと思います。これを書いている時は、親が期待している「良き花嫁」みたいなものと、自分との間にギャップを感じていたし、会社で働いていても、いわゆる「OL」と自分は違う。そういうギャップが、すごくつらかったんです。

――適齢期になったら処女のまま結婚して、仕事は辞めるのが正しい、みたいな時代ですね。

木皿 私が内側から見ている自分や、私が求めている自分の姿と世の中が求める自分は違うんだけどなって思ってたんですよ。だから昔は、「自分探し」みたいなのがはやったんですけどね。でも結局、母にしてみたら、そんな小難しいことよりも、「平凡でもいいから、普通に結婚してくれたらいいのに」と。勤め先の会社からしたら、チャチャッと仕事を能率よくやってさえくれればいい。でも、そういうふうに思われていること自体が、私以外のところで自分に価値を付けられているようで嫌だった。私の価値は私がつけたい。一言で言えば、自分の稼いだお金でおいしいものを食べたりとか(笑)、そういうことをしたかったんじゃないのかなって思います。

――自分探しというと、その後しばらくしてから「等身大」という言葉が出てきましたよね。

木皿 はやりましたね。等身大ってコトバ。昔は見栄を張るのが当たり前だったから。でも、今の人たちはみんな等身大なんじゃない? さっきの話の続きになるけど、80年代は内需拡大で物を買わなきゃいけないっていう時代。バブルがあって、自分を実感よりも大きく見せなきゃいけないみたいな、結構、無理していた時代ね。自分の価値をちょっと大きく、それこそ見た目から大きく、強く見せる。だって、肩パットが入っている服を着てたんだから(笑)。

 そういえば、80年代に絶対に買いたくないって思ってたシャネルのネックレスがあって。イケイケでバブリーな人が身につけるような、大きな鎖があったの。フリーハンドで描いたような花の形のものがついたネックレスなんだけど、なんかパワーがあるんですよ。今の時代、逆に面白いなと思って、最近買ってみたのね。それを身につけると、ちょっと自分が偉くなったみたいな気分になる。等身大とは反対に、ちょっと偉そうな感じで歩けるから面白いんですよ(笑)。

――自分を大きく強く見せるために、着るもので気持ちをつくってたんですね。

木皿 ただ、そういう物を身につけていた時代なので、結構無理していたんじゃないかな。この姿は嘘の自分じゃないか? 自分が考える本当の自分は? みたいなものを探していたから「等身大」みたいな言葉がはやったのかなって思いますね。

――今回の本では、いくつかの章にわたって「承認欲求」に触れていましたよね。TwitterなどのSNSとの関わり方も承認欲求と切り離せないのですが、その欲求をコントロールするのが難しくなってきています。

木皿 私の若い頃、80年代の「結婚」っていうのは、まさに承認欲求ですよ。「結婚しない私」っていうのが不安だった。誰かに認めてもらいたいんだけど、誰かに認めてもらうには、結婚しないと認めてもらえない。今だったら、別に結婚しなくてもいいんじゃない? っていうのが一般的になったけれども、承認欲求を求める気持ちはまだ残っている。

 だからフォロワー数といった、「数字」で認められたと感じる。昔の承認欲求は、もっと抽象的なものですよ。なんていうのかな、近所のおばちゃんの評判とか、本当に周囲500メートルくらいの人たちが、自分のことを「良いお嫁さんだね」って言ってくれたら、もうそれでいいんですよね(笑)。それだけで全然生きていけるんですけど。今はもうそういう共同体もないし、結婚したらOKみたいなパスポート、黄門様の印籠みたいなのもないから。そうなると、やっぱりネットで得られる「数」。それがリアルかどうかはわからないし、本当に見てくれているかどうかもわからないけど、「いいね!」っていうのがあれば、とりあえずはOKと思えるから。

――認められたかどうか、目に見える数字で確認してしまうのは仕方ないんでしょうか?

木皿 でも、そんな数字だけの世界っていうのは、人が救いを求めている時には、あんまり助けにはならないんですよね。そうじゃないところでしか救われないから、人間って。何かを目標にがんばっていたりするときに、数字はすごく励みになって役に立つんだけど、いったんレールから外れちゃったりした時に、すごくえげつなく迫ってくるじゃない? それは例えば、視聴率とか本の販売部数といった数字で結果を測る世界と同じで、成果主義というか、そういう感じがしますよね。でも、目に見える数字だけじゃなくて、“ないもの”が支えになったりする時があるわけですよ。

――“ないもの”が支えになる、というのは?

木皿 フィクション、虚構というか。今ここにないものを想像して、それでちょっと心が豊かになったり、慰められたり、「また明日、がんばろうか」って思ったりすることがある。すべてリアルにあるものだけで賄おうとするからつらくなる。今の世界は数字だけの、言ってしまえば本当に身も蓋もないえげつない世界っていうかね、夢も希望も何もないみたいなところで、みんな生きている気がします。

 今のままでは、数字で価値が決められてしまって、本当に良いものもどんどん潰されちゃう。作っても作っても売れない、評価されないとか、商売としてまったく成り立たないとかね。ウチみたいに、商売として成り立てばOKだと思うんですよ、なんとか食べていければ。でも、それも今は難しくなっちゃってる。

――数字を中心に回っている世界に、フィクションがもっと増えると苦しみは和らぐんでしょうか?

木皿 今だって、いっぱいあるじゃないですか。でも、「数字」に太刀打ちできる物語が今はないということです。昔はあったんですよ。でもその物語が崩れたのが「ポストモダン」だと思うんです。家族も潰れるし、学校も病院も効率の悪い所は潰れるしかない。80年代に、こういう時代が来るぞ来るぞとずっと言われ続けてきた。けど、その時はうまくイメージできなかった。なってみて、なるほどこういうことかと思った。

――数字や効率性が優先されすぎた結果、共同体が潰れて物語を持てなくなってしまった。

木皿 やっぱり両方必要なんじゃないかな。小さいフィクションはみんな持っていると思う。その日その日、男前を見たら癒やされる、800円のスイーツで癒やされるっていうのもフィクションだから。特別なデコレーションとか、普段食べないようなチョコレートとか、こんな珍しい果物使ってます、みたいな物語がある。日常の本当にちっちゃなフィクションね。でも、それは傷口に絆創膏を貼るみたいなもので、昔みたいに大きなフィクションはもうない。「働き方改革」で余暇の時間が増えたとしても、夢をみたり希望を持ったりとか、そうしたことが極端になくなってしまっている。

――そういう意味での小さなフィクションは、今の世の中に豊富にありますね。大きなフィクションというのは?

木皿 例えば昔で言うなら「立身出世」ですよね。自分が偉くなって社会的地位も高くなる。地位が高くなって何するのかって言ったら、良い家に住んだりとか車を買ったりとか、交際費がちょっとたくさん使えるようになったから、ちょっと良いところでご飯食べるとか、そんなことしかないわけなんですけどね(笑)。たぶんそういうことに気づいちゃったのね。がんばっても、その程度の幸せなんだって。

 昔のそういう立身出世物語のような、誰もがその目標に向かってがんばるという「大きな物語」がぜんぶ崩れちゃったから、自分たちでその物語を作らなきゃいけない。みんなが信じられる、それは価値があるなぁという物語っていうか。でも、もう同じ物語を日本人全員が持つっていうこと自体が難しくなってるから。いろんな価値観があるからね。

 だから、みんなが安心して暮らせるような、誰にもしわ寄せがいかない、無理なく楽しく生きていけるような、そういう物語をどこかで作っていかないと、逃げ場所がない。イケメンを見たら癒やされるとかは、ほんとにささやかな逃げ場所だと思います。日常よりちょっとだけ盛られた感じのもの。実際にはあり得ないもの。そんなものを見て、ちょっと自分を癒やしたり、明日もがんばろうと活を入れるっていうのかな? なんか今の人たちは、そんな感じがしますね。インスタグラムも、同じなのかなって思いますね。

――インスタグラムはフォロワーの数で承認を得る一方で、手軽なフィクションでもあるんですね。

木皿 フィクションなんですよね。それは日常じゃない私。それはそれでいいんだけど、その日暮らしのバンドエイドみたいなフィクションだから。スイーツとかイケメンとかインスタグラムを絆創膏として貼り続ける中で、何年かたって「ハッ」と気づいた時に、「え! ほんとは何もないんだ」「私を支えてるものって、貯金通帳の金額だけ」とか、そんなふうになった時、「ちょっともう無理」と思う時も来たりするわけよ、人間って不思議なもので(笑)。「お金はこんなに持ってるのに不幸」みたいなことって、多分あると思うの。

 そういう意味じゃ、そのことに少しでも疑問を感じたり、不安を感じたりして、スイーツとかでやっていくのも「もう、いっぱいいっぱいです」みたいな人には、私が書いてるものもバンドエイドのようなものではあるけど、それよりもう少しだけ長く効くフィクションになればいいなって。そのためにやっているような気はします。

――木皿作品が、熱狂的に支持されているのもそうしたところにあるんでしょうね。

木皿 いやでもね、まだ必要な人に届いてないと思ってるんですけどね。私は、舞台やドラマや小説、あとアニメもつくったりしているんです。漫画原作も、話がくればたぶんやる。テレビしか見ない人、本しか読まない人、スマホだけの人とか、みんないろいろですからね。いろんなジャンルでやっていくことは、いろんな人に、自分のつくった物語を「こんなの救いになりませんか?」と提出することだと思っていて。そういう仕事の仕方も悪くないなって思っています。

木皿泉(きさら・いずみ)
和泉務と妻鹿年季子による夫婦脚本家。第22回向田邦子賞を受賞した『すいか』(03年)をはじめ、『野ブタをプロデュース。』(05年)『セクシーボイスアンドロボ』(07年)『Q10』(10年)「富士ファミリー」(16年)などのドラマを手がける。著書は『昨夜のカレー、明日のパン』(河出書房新社)『さざなみのよる』(同)『カゲロボ』(新潮社)など多数。

覚醒剤、万引、パパ活、整形――少年院の少女たちの事情【元レディース総長・中村すえこ×刑務所のアイドル・Paix2】

 元レディースの総長で少年院送致の経験もある中村すえこさんが監修・監督を務めた教育映画『記憶 少年院の少女たちの未来への軌跡』が完成、上映会が続いている。映画では、少年院を出院(≒卒業)する直前の4人の少女が中村さんに収容の経緯や今の思いを明かし、一部に再現ドラマも織り込んだ。今回、少年院や刑務所の慰問で「Prisonコンサート」を続けている“刑務所のアイドル”こと女性デュオPaix2(ペペ)と、中村さんの対談で、少女たちの更生について話してもらった。

■「こんな少女たちがいる」と知ってほしくて

――この映画には、佳奈、沙羅、美和、遥香(いずれも仮名)の4人の少女たちが登場します。佳奈は乳児院と児童養護施設で育って覚醒剤にまで手を出し、沙羅は薬物依存症で生活保護を受けている母のために万引を続け、美和は整形手術を繰り返し、「パパ活」で稼いだ600万円をホストに貢ぎ、遥香は男の言いなりになって美人局に加担して検挙され、それぞれ少年院に収容されました。顔にはモザイクがかかっていますが、少女たちの「記憶」はとてもリアルに伝わってきますね。

中村すえこ(以下、中村) そうなんです。私は少年院の出院者を支援する団体「NPO法人セカンドチャンス!」の活動として全国の女子少年院を回ってきたのですが、今どきの「不良少女」たちの抱える複雑な事情は、私の子どもの頃とは違うなと実感しています。私の頃はなんでも暴力で解決して、もっと単純だった気がします(笑)。

 収容の期間を終えて出院したところで、少女たちが社会で生きていくにはハードルがたくさんあります。直接助けてあげられなくても、まず「こんな子たちがいるんだ」と多くの方に知ってほしくて、ドキュメンタリー映画を作りたいと考えてきました。

――中村さんの少女時代を綴った著書『紫の青春 ~恋と喧嘩と特攻服~』(ミリオン出版)も映画化されていますね。   

中村 はい。この時に「映画の発信力ってすごいな」と思ったんです。今回は法務省にも協力をいただいているので、かなり突っ込んだ取材ができました。全部で110分と長めなんですが、カットしたくない場面もたくさんありました。

――Paix2(ペペ)のお2人は、映画を見て、どのように感じましたか? お2人は、2000年から国内の少年院や刑務所などで「Prisonコンサート」を開催されており、公演回数は9月7日現在で487回にも上っていますね。

Manami(北尾真奈美) 一言でいえば、作品は「重かった」ですね。少年院の子どもたちとは、コンサートの時しか接することがないので。

――「Prisonコンサート」では、子どもたちはとても楽しそうにしていますね。

Manami はい。みんないい顔をしているので、「(罪を犯して少年院にいても)法務教官の先生方に守られて、助けられているんだな」と思っていたんです。でも、この映画を見て、それだけではないんだなと気づきました。少年院について、私たちはまだまだ知らないこともあるし、先生も大変だなと思いました。

Megumi(井勝めぐみ) 本当に先生方は大変ですね。私もそう思いました。Manamiと同じで、公演を通じてしか知らなかった少年院の少女たちについて、いろいろ知ることができました。また、彼女たちがカメラの前で自分を表現できているのは素晴らしいとも思いました。私たち大人が「こういう人生もある」と知り、今後できることや問題点などを考えることができる作品です。いろんな葛藤があっても、少年院での経験は将来、報われるんじゃないかなあとも考えています。

中村 はい、むしろ少年院に行かずに矯正教育を受けなかった子たちのほうが心配です。逮捕されないまま悪いことを続けて大人になって、刑務所に行ったら、もう矯正は難しいですね。刑務官の指示に従っていればいい刑務所と違って、少年院は、とにかく先生たちが自分に向き合わせて考えさせますから、すごく厳しいんです。でも、それが結局は自分のためになります。私も少年院に行って多くのことを学びました。まあ最初から逮捕されるようなことをしてはダメなんですけれども(笑)。

Manami なるほど。ある少年院のコンサートで、入ったばかりの女の子と出会って、たまたま1年後に同じ施設で再会したことがありました。1年間で表情がまったく違いましたね。出院が間近で、生き生きとしていました。先生方がきちんと向き合ってくれたからでしょうが、出院してから自分を保っていくのは大変だろうなと、かわいそうに思ったことがあります。

中村 たしかに出院後のほうが心配ですね。出てからの「居場所」、つまり住むところと働く場所の問題はとても大きいです。そもそも少年院に行くような子たちは家庭も崩壊しているし、まず帰るところがありません。映画には、せっかくの居場所からいなくなってしまう子が登場します。詳しくは映画を見ていただいて(笑)。

――出演している少女たちは、それぞれ親との葛藤を抱えていました。保護者の考え方もそれぞれですし、少年院の先生である法務教官にもいろいろな方がいらっしゃるのだと思いますが、子どもたちに寄り添うことの難しさがわかります。

中村 非行に走る原因は、たいていは親との関係です。その親もいい育ち方をしていないことがほとんどです。親に愛されたことがないから、うまく愛情が表現できないのも、彼女たちの特性ですね。自分のことも好きじゃないんです。

Megumi それ、わかります。以前、コンサートの後にいただく感想文に、「こんな私と握手をしてくれて、うれしかった」と書かれていたことがありました。私は「公演を聴いてくれてありがとう」という気持ちで、普通に握手をしただけなんですが、まだ子どもの彼女たちが「こんな私」と言っていて……。反抗も、したくてしているのではないのでしょう。自分がどうしていいかわからない子どもたちと、距離を縮められたらいいですね。

中村 私もそうでしたけど、子どもたちは寂しいんです。当時は、それすらわかりませんでした。それで、私の場合は暴走族ですが、知り合った仲間次第で窃盗や美人局、男の子ならオレオレ詐欺の受け子などの非行に関わっていくんですね。そういう子どもたちは「加害者」ではあるんですが、その前に家庭が貧困だったり、虐待や育児放棄をされていたりした「被害者」なんです。

――そんな環境で生まれ育ったら、「いい子になれ」というほうがムリですね。

中村 でも、世間の大半の人たちは、加害者である少年が被害者という事実は知らないし、知ろうともしません。「少年院に収容された非行少年」と言う印象しか持っていません。事件を起こして少年院で学び直しても、社会に出てまた挫折してしまう子どもたちもいることを、多くの方に知っていただきたいと思っています。

――私たち大人が温かい目で見守れば、状況は変わるかもしれませんね。

中村 作品が別世界の話ではないと感じてほしいです。こうした事実を知ることで、人も社会も変われると信じています。

Megumi 私は、たまたま学校に行かせてもらえたけれど、そうではない子どもたちもたくさんいる。直接彼らに何かをできなくても、それを「知ること」から始まるんですね。
(後編に続く)

Paix2(ペペ)
Manami(マナミ、北尾真奈美)とMegumi(メグミ、井勝めぐみ)によるデュオ。2001年に日本コロムビアよりメジャーデビュー。アルバムに『逢えたらいいな』(05年)、著書に『逢えたらいいな―プリズン・コンサート三〇〇回達成への道のり』(12年、鹿砦社)など。デビュー1年前から全国の刑務所や少年院などでの公演「Prisonコンサート」を続け、「受刑者のアイドル」と呼ばれる。14年に保護司、15年に矯正支援官に就任。16年には「Prisonコンサート」400回の功績に対して法務大臣より感謝状を授与された。ユニット名はフランス語で「平和」を意味するpaix (発音は「ぺ」)を二つ重ねている。2019年7月より北海道・月形町の「月形観光大使(観光典獄)」に就任。「典獄」は「刑務所長」の意。
公式サイト

中村すえこ
ドキュメンタリー教育映画『記憶 少年院の少女たちの未来への軌跡』監修・監督。15歳で少女たちの暴走族・レディースの総長となり、傷害事件を起こして少年院に1年間収容される。結婚、出産、離婚を経験してシングルマザーとして働きながら、09年に創設された少年院出院者を支援する団体「NPO法人セカンドチャンス!」に参加、多くの出院者と交流を続ける。著書『紫の青春 ~恋と喧嘩と特攻服~』(08年、ミリオン出版)が『ハードライフ~紫の青春・恋と喧嘩と特攻服~』(関顕嗣監督)として11年に映画化。
『記憶 少年院の少女たちの未来への軌跡』公式サイト

法務省東京矯正管区主催上映会
日程:2019年9月22日(日)
場所:矯正研修所講堂(東京都昭島市もくせいの杜2-1-20)
上映時間:上映開始11:10〜中村すえこ舞台挨拶(終了13:10)
入場料:無料
主催:東京矯正管区
問い合わせ:東京矯正管区第三部 048-600-1500

「一億総監視社会」が招いた“理不尽クレーマー”の実態と心理――クレーム問題の専門家が分析

 8月上旬、岐阜乗合自動車(以下、岐阜バス)がバス内に掲示した張り紙について、ネット上で議論が巻き起こった。「乗務員の『熱中症』対策について」というタイトルで、「只今、当社ではバス乗務員における『熱中症』対策として、駐停車(信号待ち等)の間を利用し、水分補給を行っておりますので、ご理解のほどお願いいたします。」という、バスの利用者へ“お断り”を入れるような内容だった。

 岐阜バスの担当者によれば、このような張り紙を掲示したのは2018年からで、「以前にご意見をいただいたこともありましたので、あらかじめかつ改めて、ご理解をいただきたいとして掲示しているものです」との理由だとしている。要するに、バスの乗務員が業務中に水分補給をしていたことに対して、実際に“クレーム”をつけた利用者がいる、または、その可能性を未然に防ぐ必要を感じていた、ということだろう。

 今年の夏も日本各地で連日の猛暑となり、岐阜県も35度を超える日が続いていた。そんな中、熱中症対策のため「水分補給」に「ご理解」を訴えなくてはならない状況に対しては、ネット上で「ここまで書かないと理解が得られないなんて……すごく悲しい」「バスの運転士さんだって人間なのに。こんな当たり前のことも許されないの?」と懐疑的な声が続出。また、「おまわりさんに『勤務中なのに何で水飲んでるんだ』ってクレームが来た話を思い出した」「配達員の仕事をしていますが、コンビニのイートインスペースにいると『楽をしてる』と思われるので、使わないように会社から言われています」といった“告発”もあり、このような問題はバスに限った話ではないことが明らかになった。

 商品やサービスに文句を言うのではなく、人が当たり前にとる行動について異議を申し立てるクレーマーとは、一体どんな人たちで、どのような理由からクレームをつけるのだろうか。関西大学・社会学部教授で、悪質クレーマー問題やカスタマーハラスメントに詳しい、池内裕美氏に話を聞いた。

クレーマーには「世の中を良くしている」という“錯覚”がある

――「人の行動」に対してクレームをつける人には、どのような特徴があるのでしょうか。

池内裕美氏(以下、池内) まず、一般的なクレーマーの特徴としては、他者の立場にたって物事を考えられない、「共感性」が欠如している、「自己愛」「攻撃性」が強い、自分は特別だと思う「特権意識」が強い、といったことが挙げられます。これらはまた、他者の失敗をどれだけ受け入れられるかという「寛容性」の高さとも関係しています。

 さらに言うと、クレームの種類からクレーマーの特徴を見ることもできます。まずは「承認欲求を得たいがためのクレーム」。何かしらクレームを言うことで、世間の注目を浴びて優越感や承認欲求を満たしたい、という人がいます。どうでもいいようなことを大げさにまくしたて、いち早く世の中に提言し社会問題化することで、あたかも社会を支配したかのような錯覚が生まれ、優越感を得て満足するのです。

 そして、「不満のはけ口としてのクレーム」。昨今、常にイライラしている人や、何かにつけて文句を言うといった“不寛容”な人が増えています。そうした人が、バスの運転手や警察官などを攻撃することで、日頃の不満やストレスを発散している場合があります。特に、世間を取り締まる立場にある警察官は、そうしたタイプの人たちから、より一層厳しい目を向けられやすい。権威ある警察官の“望ましくない行為”を見つけ、指摘することで、「強いものを倒した」「制裁を加えた」といった、より大きな満足感や優越感を得られるからです。また、制服を着ている人は、明らかに勤務中とわかるため、何を言っても言い返したり、やり返したりしてこないだろうといった安心感があり、不満をぶつけられやすいとも考えられます。

――「市民のため」「相手のため」といった“正義感”から、クレームを言っている人も多いような気がします。

池内 クレーマーの中には「とにかく世の中を良くしている」という“錯覚”が、少なからずあると考えられます。“主観的な悪”を退治して回る人は、自身の正義感をふりかざし、「世直ししている気分」になっているのでしょう。この場合、本人には「クレーム」といった意識がまったくなく、むしろ「良いことをしている」とさえ思っているので、非常に厄介です。

 また、“自身の正義”を盾にクレームを言う人には、中高年以上の世代の人が多いとよく耳にします。彼らは若かりし頃、体育の時間や部活中に「水を飲むな」と言われた世代ですし、自己犠牲を払ってでも会社のために身を粉にして働くのが“美徳”という労働観が根強い。そうした考え方から、勤務中に水を飲む行為は「甘えている」ように見え、許せなかったのかもしれないですね。

 こうしたクレーマー全般には、“想像力の欠如”が指摘できます。運転手が水を飲まなかったことで熱中症になったとして、乗客に及ぼす不利益や、事故等の危険性が生じることを想像できないのです。乗客を安全に目的地まで送り届けるのが運転手の重要な職責の一つならば、むしろ真夏に水分を一切取らずに運転し続けている方が、「体調管理を怠った」という点でよっぽど無責任ですよね。サービス業の人が働きやすい環境を作ることで、結果的に良い人材がサービス業に集まり、より質の高いサービスとなって自分たちに返ってくる。そんな図式は、冷静に考えればわかるはずです。

――このようなクレームに対し、企業側はやや過剰反応をしているようにも感じます。理不尽な要求にも応えなくてはならない理由があるのでしょうか。

池内 「過剰反応である」という前提の上で、やはり、SNSの存在とその影響力の大きさが挙げられます。今は街中で些細なトラブルが起きるだけで、その場にいる人が「報道カメラマン」よろしくその状況を撮影し始め、ネットに投稿し「記者」となる時代です。そして、その投稿を見た人たちが高速で情報を拡散する、まさに「一億総監視社会」。いつ、どこで、誰が、どのように自社の商品やサービスを非難し始めるか、企業側にはまったくわからないのです。大企業なら、ネット上をパトロールしてそういった書き込みを見つけることができますが、中小企業だと人員確保の点からも、なかなかそれは難しい。気が付けば、手が付けられないほどの炎上が起こっている可能性もあります。よって、「最悪の事態」を予防・回避するため、先手を打って対処に踏み切らねばならない、という状況もあるのです。

――「商品が壊れているから交換・返金しろ」といったクレームとは違い、行動に対するクレームは、個人の価値観や倫理観によって「許せない」ポイントが大きく異なるように思います。

池内 商品に対するクレームの中にも、例えば「フルーツがたっぷり入った〇〇」という商品名について、「“たっぷり”と書いてあるのに、これでは“たっぷり”とは言えない」といった理不尽なクレームが来るご時世です。確かに、「たっぷり」という表現の受け取り方は人によってさまざまですし、その人の経験にも左右されます。「主観」と「客観」の間には乖離があるため、人の行動に対しても、明らかに違法な行為は除き、物事の善悪は“個人の良識”で判断されてしまいます。この「良識」や「モラル」といったものが個々人さまざまであるため、何らかの形で明文化されない限り、完全には共有されないでしょう。

 とはいえ、企業側から見て、「どのようなクレームに対処するべきか」という基準については、ある程度明確にできると思いますし、従業員保護の観点からもそうすべきだと考えます。

――人の行動に対するクレームは年々増加傾向にあるといいますが、今後も増え続けるのでしょうか。

池内 必ずしも増え続けると断言はできませんが、人の不満が高まるような状況、たとえば過重労働や格差社会の進行を抑制したり、高齢化社会が抱える問題を解消しない限り、減ることはないと思います。特に、高齢者による理不尽なクレームは、高齢者の数自体が増えてくるので、致し方がない部分があります。また、常に誰かが誰かを監視し、どこでも誰でも「にわか報道カメラマン」や「にわか記者」になれるような、過度にSNSに依存した社会の在り方も、理不尽なクレームの増加に拍車をかけるでしょう。

 そんな社会に必要なことは、まず消費者側の意識改革。人々が自ら「寛容性」を高め、相手の立場になって物事をとらえ、思いやりの心で接することが必要です。また、「客なら何を言っても・やってもいい」といった“特権意識”を捨てること。企業側も、“顧客第一主義”の観念に縛られ過ぎず、「両者は対等であるべき」という信念のもと、時には理不尽なクレーマーを切り捨てるくらいの勇気を持ちましょう。また、周囲はそうした企業の対応を「無責任だ」と責め立てるのではなく、「対応者のストレスを考えると正しい判断をした」と認めるような、「従業員保護」の気運を高めることも大事です。そもそも社会全体として、もう少し精神的にも時間的にも余裕があれば、こうした理不尽なクレームが社会問題になることも減ると思うんですけどね。

■池内裕美(いけうち・ひろみ)
関東大学社会学部教授。関西学院大学大学院商学研究科(博士課程前期課程)、同大学院社会学研究科(博士課程前期・後期課程)修了。博士(社会学)。広告デザイン会社勤務、日本学術振興会特別研究員などを経て、2003年より現職。専門は、社会心理学、産業心理学。現在の主な研究テーマは、過剰な苦情行動やモノのため込み、買物依存といった「逸脱的消費者行動」に関する心理的なメカニズムの解明。特に苦情研究は社会的注目度も高く、メディアからコメントを求められることも多い。著書に『消費者心理学』(共著、勁草書房、2018年)、『暮らしの中の社会心理学』(分担執筆、ナカニシヤ出版、2012年)などがある。