ダイエットに無意味!? ジムで見かける「間違った筋トレ/運動」をする人をプロトレーナー・腹筋王子が指摘

 ダイエット目的でフィットネスジムに通っているという人も多い昨今。専属トレーナーの管理の下、体づくりに勤しむ人もいる一方、自己流でトレーニングに励んではいるものの、「効果をあまり実感できない」「なんとなく運動しているだけ」という人も少なくないのではないか。特に「自由な時間に利用ができる上に、手ごろな定額制」という理由で、最近人気がある24時間制ジムの利用者は、こうした状態に陥りやすいと考えられる。

 そこで今回、そんなトレーニング初心者やこれからジムでダイエットを始めようと考えている人に向けて、「腹筋インストラクター」として知られる“腹筋王子”カツオさんに「ジムで見かける『意味のない運動』をするダイエッターたち」の問題点をズバリ指摘してもらった。併せて、美しく均整の取れた筋肉の持ち主で、なんと体脂肪率は7パーセントというカツオさんによる「間違った腹筋」「正しい腹筋」の仕方も紹介する。

「トレーニングの原理・原則」を知らないとアウト?

 まずトレーニングの効果を出すためには、「トレーニングの原理・原則」に沿ったトレーニングをすることが大事。この原理・原則から外れると、基本的に、「間違ったトレーニング」につながります。ちなみに、この原理・原則は、僕が出身校の国立鹿屋体育大学で最初に習ったことでもあります。

【原理】
・特異性の原理
トレーニングの種類によって鍛えられる機能は異なる
→例えば、「長い距離を走りきれるような心肺持久力をつけたいから、体を大きくするようなトレーニングをしています」というのは何か違うと感じるでしょう。メリハリのある体を作りたいのに、有酸素運動しか行わないなども同じことが言えます。目的に沿っていないトレーニングをするのはあまり意味がありません。

・過負荷の原理(オーバーロードの原理)
ある器官の機能をより発達させるには、日常レベル以上にその器官を使う必要がある
→同じ負荷でトレーニングを繰り返していては、筋肉はある程度は強化されても、その負荷をかけた以上の効果は認められません。負荷をかけないかたちでのエクササイズ(特に二の腕などの末端部)をずっと繰り返していてもあまり意味がないのです。

・可逆性の原理
トレーニングをやめると元に戻る
→トレーニングは続けていかなければならず、そこに「終わり」はないのです。ある一定の期間だけ火がついたようにトレーニングをして、そしてまたある期間は燃え尽きたようにまったくトレーニングをしなくなる……その繰り返しでは、あまり意味がありません。

【原則】
・全面性の原則
全身のバランスがとれるようにトレーニングを行う
→気になる箇所だけ部分的に鍛えるのはNG!

・意識性の原則
その運動が体にどのような影響を与え、どのような効果が期待できるのかをしっかり意識する
→トレーニング時の筋肉の位置をイメージすること、またトレーニングプランを作ることだけでなく、この運動は「何のため」のものなのかといったことも、しっかり意識しましょう。そうすることで、“なんとなく運動しているだけ”となるのを防ぐことができます。

・漸進性の原則
トレーニングの質・量を上げていく
→ずっと同じ質・量のトレーニングをしていても、それ以上の効果は期待できません。トレーニング時はこれをしっかりと意識し、”なんとなく運動している”状態にならないようにしたいものです。

・反復性の原則 
トレーニングは反復して行うことによって、初めて効果が出るもの
→トレーニング自体を1セットやって終わりにするのではなくて、2セット、3セットと繰り返し行うと効果的です。また、トレーニングは散発的、またはある一定の期間だけ集中的に行うのではなく、定期的に行うべきと言えます。

・個別性の原則
年齢や性別、スタート時の体形などでトレーニング内容を決める
→例えば、「体脂肪20%と30%の人」では、必要なトレーニングも変わってきます。はやりなどに流されず、自分に合ったトレーニングを作成していきたいものです。

「意味のない運動」をするダイエッター6例

1.「部分痩せ」したい箇所ばかりトレーニングする人

 例えば「二の腕を引き締めたい」という人が、二の腕のトレーニングばかりするケースがありますが、間違いではないものの、これは「全面性の原則」に反しています。また、部分的なトレーニングばかりしている上に、効果のない運動をしている人も。引き締めるためには、どこの位置の筋肉が縮まっているのかイメージを持つとよいのですが、そのイメージと動きが一致していないトレーニング(二の腕のトレーニングなのに胸のトレーニングをしている)をしていたり……。全身バランスよく、かつ正しいイメージを持ってトレーニングすることが大切です。

2.太ももやふくらはぎなど……「下半身痩せ」したいのに筋トレを拒む人

 「下半身痩せしたいけれど、逆に脚が太くなりそうだから筋トレはしない」と言う人がよくいますが、それはNG。恐らく「痩せる」というイメージが漠然としているがゆえに、こうした考えに至るのでしょうが、本来「痩せる」とは、筋肉を残して脂肪を落とすことを指し、それには、脂肪を落とすような食事をするのと「筋トレ」が必要。筋肉に刺激を与えないと、引き締まった脚にはならないんです。効果的なやり方は、低負荷によるトレーニングを繰り返し、たくさん行うこと。例えば、100回、もしくは50回×3セットなど、超高回数行うなどです。たくさん筋トレをやると、血流が促されますし、有酸素運動的な効果も期待できるので、下半身痩せにつながることでしょう。

3.「痩せたい」のに、ひたすらランニングマシンで走っているだけの人

 ランニングマシンでずっと走っている人をよく見かけます。心肺機能を高めたい場合は効果的ではあるものの、「痩せること」を考えると、ちょっともったいない気がしますね。確かに、有酸素運動では体重を落とすことができます。しかし“引き締まった”ではなく“やせ細った”体になってしまいます。全身に刺激を与えられるような、筋トレも追加していけるといいです。

 ランニングなどの有酸素運動は、あくまで、痩せるための一つの「手段」として用いるといいと思います。筋トレをすると、脂肪が分解されるのですが、その分解された脂肪を有酸素運動ではエネルギーとして使ってくれます。うまく利用することで、痩せることにつながるでしょう。

4.ダイエット効果が欲しいのにストレッチばかりする人

 意外に、痩せると思い込み、ジムでストレッチを一生懸命やっている人がいます。しかしどれだけ一生懸命やっていても、負荷が弱すぎるので、ダイエットとしては効果はあまり期待できません。血流は良くなりますし、もちろん大事ではありますが、それだけではなく、やはり筋トレと有酸素運動も取り入れてほしいですね。

5.十分な回数をこなさず、筋トレを1セットだけやって終える人

 筋トレを1セットだけで、しかも十分な負荷をかけきらずに終えてしまうのはNGです。登山に例えるなら、山の頂上まで行かずに下山してしまうようなもの。ぜひ2セット、3セットは行ってもらいたいですね。逆に、登りきった後にずっとトレーニングをやり続けるのも、疲労がたまるだけ。ちょうど頂上、もうこれ以上、負荷をかけられないというところまで行ってOKとしたいものです。

 また、ジムにあるいくつかのマシンを順々に使っていく場合、ダイエット目的であれば、それぞれのマシンで筋トレを「1セットずつ行い、3周する」より、「3セットずつ行い、1周で終える」方が効果的です。「1セットずつ行い、3周する」というサーキット形式でのやり方は、心肺機能や筋持久力を上げたい場合にはいいと思います。

6.ジムに通うのが週1だけという低頻度、もしくは週3以上の高頻度な人

 トレーニングは、低頻度で長時間行うより、短い時間でも集中して行う方が効率は良いです。週2回のトレーニングの効果を「100」とすると、週1回は「75」程度。週3回同じ部位をトレーニングする場合も、週2回に比べると、その効果は「75」ほどという調査結果もあるんです。なので、やりすぎるのもオススメしませんね。

 ただ、「忙しいので、仕事帰りに週1回ペースしか無理」という方も多いと思います。その場合は、「大きな筋肉」を意識したトレーニングがオススメ。それプラス、二の腕など自分が引き締めたいところを狙ってトレーニングする。滞在時間が限られてる場合、ジムではランニングマシンを使わず、帰宅時に歩くなどして、効率よくトレーニングしてください。

間違った「腹筋トレーニング」に喝! 腹筋の効果的な鍛え方とは?

 ちなみに、腹筋運動(腹直筋のトレーニング)に関しても、間違った方法で何百回もやっている人が結構いるんですよ! 腹筋ってそもそも「骨盤と肋骨の間を縮める」という動きなのですが、それをわかっておらず、頭や首を動かしているだけの人も。どこの筋肉をどう縮めるのかをしっかりイメージして行わないと、何回やっても効果はありません【写真1、2参照】

 また、女性だと、くびれをつくりたいという人も多いと思いますが、その場合、腹筋だけに精を出してもあまり意味がなく、脇腹とおなかの奥の筋肉を鍛えるべきです。むしろ腹筋はおまけ程度でOK。脇腹を鍛えるには、脇腹を上部と下部に分け、特に上部を中心に鍛えるといいでしょう。脇腹上部のトレーニングは、上体をひねるという動きが筋肉の付き方からみて向いています【写真3、4参照】

 さらに、脇腹の上部の効果的なトレーニングとしてろっ骨を狭めるような動きがおすすめです。腕で体を支えるというかたちは脇腹の活動量をあげますので、腕で体を支えながらろっ骨を狭めるような上下運動を行ってトレーニングするといいでしょう【写真5、6参照】

 おなかの奥の筋肉は、息を吐いておなかをへこますことを基本とします。その際のポイントは、おなかの「表面」の筋肉をやわらかいままの状態で行うこと。これができていると、おなかの奥の筋肉を使えている状態となります。自分でおなかを触りながらチェックしてみてください。慣れたら、座った状態、立った状態、そして、つま先立ち姿勢というかたちで行ってみるといいでしょう。そうすることで、おなかの奥の筋肉の活動量を上げることができますよ【写真7参照】

筋トレ・ジム通い・ダイエットのモチベーションを保つには?

 ジムに通い続けるためには、どのようにモチベーションを保つかが重要になってきます。みなさん、スタートダッシュのように入会した時だけ一生懸命通っても、だんだんとジムから足が遠のいてしまった経験があるのではないでしょうか。

 ダイエット目的だったら、簡単な「目的」を設定した方がいいです。「5キロ痩せる」より、「〇〇のために痩せる」という方が、モチベーションを保ちやすい気がします。結婚式などイベントを控えている方の多くがダイエットに成功されるように。

 結婚式のような大きなイベントではなくても、「水着を着るために」とか、「このワンピースを着るために」とか、自分で小さなイベントを設定して、それをクリアしていく。クリアしたら、また新たな目的を設定してクリアを目指す。その繰り返し。トレーニングが、歯磨きと同じような「習慣」になったらこっちのものです。でも、そこまでいくのがなかなか大変なんですけどね(笑)。

腹筋王子カツオ(ふっきんおうじ・かつお)
鹿屋体育大学 体育学部卒業。2009~13年、ディズニーランドステージショーに出演。その後、カポエイラインストラクターとして活動。現在はゴールドジムを中心としたスタジオなどで腹筋クラスを行うほか、フィットネス企業での腹筋の相談役などを務め、腹筋で生活をしている。腹筋に関する研究論文からヒントを得て、自ら腹筋メニューを作成。笑顔でパワフルなレッスンは高く評価されている。
公式ブログ

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◎取材協力
【FitBox】PRIVATE GYM SHARING

2019年、東京・池袋にオープンした個室ジムシェアリング施設。
セッション利用のパーソナルトレーナーや、パワーラックを独占使用したい個人トレーニーを中心に会員を増やしている。基本料金は1人1時間800円。経験や資格のあるトレーナーは「登録トレーナー制度」を利用することで、何名入室でも1時間800円で利用できる。

最新情報はTwitterから

FitBoxが運営する筋トレ情報メディア「筋トレしようぜ!」も毎日更新中
https://biz-journal.jp/fitness/

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余裕がない教員、精神疾患による休職は「年間5,000人」――キャリア教育の現状と学校の悲鳴

 2020年度からスタートする、小中高校生が学校生活の目標を設定して、どの程度を達成できたのかを自己評価するための「キャリア・パスポート」。法政大学 キャリアデザイン学部教授・児美川孝一郎氏の解説によると、児童生徒が、自らの学習や活動を振り返ることで成長を実感し自己肯定感を高めるものであり、教員は成績の評価につなげるのではなく指導の材料にするというのが、本来の狙いとのこと。しかし、「キャリア・パスポート」をいい方向に生かすには、各学校や教員の力量によるところが大きいそうだ。現在、教員の過重労働が社会問題化しているが、そんな中「キャリア・パスポート」を導入して、果たしてうまく機能するのだろうか。

(前編はこちら)

キャリア教育が「やりっぱなし」になる可能性も

――「キャリア・パスポート」が学校現場に導入される背景について教えてください。

児美川孝一郎氏(以下、児美川) いわゆる学校での「キャリア教育」ですが、02年に文部科学省内に「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議」が設置され、04年にその報告書「児童生徒一人一人の勤労観、職業観を育てるために」が発表されました。それから15年ほどたち、学校では「職業調べ」「職場体験」「社会人講話」などが行われていますが、「やりっぱなし」という批判・反省があるのです。キャリア教育をやっても、結局「やりっぱなし」で、児童生徒の「日常」につながっていない、だから、児童生徒も、その内容をすぐに忘れてしまい、役に立っていない。また、小中高と学校間の連携が弱く、同じことを繰り返すなど継続的な指導にもなっていません。その点を工夫しようということで、「キャリア・パスポート」ができた……ということでしょう。理屈だけ見れば納得できなくはありません。しかし、そもそもなぜ「やりっぱなし」で「連携」ができていないのか、問題の原因が考えられていないようにも思います。

――「やりっぱなし」というのは、具体的にどういうことでしょうか。

児美川 例えば、多くの学校で実施されている職場体験。何のために行くのか、生徒に細かい事前指導をしないまま行かせてしまう。行った後にどういうことがわかったか、生徒の気付きを細かく引き出してあげることもない。「作文を書かせて終わり」という学校も少なくないようです。

 その理由は、「先生にそこまで余裕がない」から。生徒の希望する職場をマッチングして割り振って、かつ最低限の礼儀とマナーを教え込むだけで精いっぱい。しっかり指導する環境や条件ができてない。「キャリア・パスポート」にしても、その理屈は納得できても、条件を整えないまま実施してどう機能するのか……という懸念がありますね。

――20年度からの教育改革では小学5、6年生で英語が教科化され、プログラミング教育も導入されるなど教員の負担増が懸念されています。「キャリア・パスポート」も、ただでさえ余裕がない先生に、さらに余計な任務を負わせるだけなのではないか、とネット上で指摘されていました。

児美川 その通りです。教員の病気休職(精神疾患)が年間約5,000人。07年度以降、5,000人前後という高水準で推移しており、学校の忙しさを反映していると思われます。条件を整備しないで、上は「やれやれ」とどんどん言う、これは日本の教育の大きな課題です。スクラップアンドビルドではなくビルドアンドビルド、次から次へといろいろな課題が下りてくるんです。これでは、新たな取り組みをこなしきれないのも当然です。1クラスが今の半分の人数だったら、あるいは先生が持っている授業コマ数が今の3分の2であれば、もう少し余裕が出るでしょう。文科省はそうした条件を整備した上で新たな教育課題に取り組めるようにすべきだと感じます。

 現場の先生は形合わせだけはやらざるを得ません。となると、「キャリア・パスポート」は宿題にして書かせるでしょう。そうすると生徒は「やらされている」と感じる。それならやる意味がないですし、時間が取られる分やらない方がいいのではないかという気もしてしまいます。先生は少なくとも年に1回は、「キャリア・パスポート」を基に、児童生徒と対話をするなどしてほしいですが、それも難しいとなると、「キャリア・パスポート」の展望は明るくありません。「狙いは悪くないけど、現実にはね……」となる可能性が十分あります。

――現状のキャリア教育の問題点はありますか。

児美川 問題点の1つ目としては、キャリア教育が「ワークキャリア」に偏りすぎていることが挙げられます。働いている最中も「生活」はありますし、人生100年時代、仕事を引退したあとも長い時間があります。だからこそ「ライフキャリア」についても教える必要があるのではないでしょうか。

――確かに学校のキャリア教育は「何の仕事をしたいか?」ばかりにスポットが当たっている気がします。

児美川 夢追い主義、プランニング主義が強すぎるのも問題だと思っています。夢はあってもいいのですが、全員が夢を実現できるわけではありません。約85%の人は、「もともと考えていた仕事には就いていない」という調査結果もあります。「夢とは違う仕事だけど、やりだしたら面白くなった」という人だって、たくさんいますよね。「夢・目標に向かって、真っすぐ突き進んでいく」ということだけが、正しいわけではないですから。

 学校の先生というのは、「先生になる」と決めてなった人。だから、児童生徒たちに、夢を持つように指導しがちなのかもしれません。職場体験が実施される職業も小売・販売業か専門職が多く、企業社会の仕組みを学習する機会がないので、児童生徒たちも「将来の夢は?」と言われても困ってしまいます。最近「YouTuberになりたい小学生が増えている」などと言いますが、それは「世の中にどんな仕事があるのか、よくわかっていないから」「専門職しか知らないから」というのもあると思います。夢を専門職にしぼると選択肢を狭めることにもなってしまいます。

――確かに、「就職活動の段階」になって、初めて社会にはさまざまな業界・職種があることを知るというケースが多いですよね。ほかにも問題点はありますか?

児美川 キャリア教育が、イベント化していることです。職場体験などがそうですね。もっと児童生徒の「日常」に根ざした形でのキャリア教育をすべきだと感じていますし、たとえイベントだとしても、児童生徒がそこでの学びを内在化する時間を学校の日常において取る必要がある。

 本当にキャリア教育がうまく機能していれば、児童生徒の通常の教科に対するモチベーションも上がるはずなんです。社会の仕組みがわかることで、「毎日受けている授業は大切なんだ」と理解できるはずだからです。ただ、そこまでできている学校はありませんね。今のキャリア教育は、私から見ると歪んでいる。子どもの実情に合っているのか、その段階の発達課題に合っているのかちゃんと点検していなければ。それにはやはり教員に余裕がないと。

――子どもに自分の仕事の話をする保護者も、あまりいないのかもしれませんね。

児美川 そうですね。「世の中にはこんな仕事がある」「社会は誰が支えているのだろうか」といった会話は、もっと家庭のなかでされてもいいと思います。専門的に深める部分は学校で行うとしても、社会の仕組みに子どもが興味を持つようなアンテナづくりは、家庭で行うべき。そのアンテナがあれば、学校での職業調べや職場体験も、興味深く主体的に行うことができるでしょう。

 「キャリア・パスポート」も同様です。書いたものを先生が40人分、全てきっちり見て応答するのは、現状では無理があります。親が感想を言うくらいにすれば、もっと効果的に使えるでしょう。学校だけでなく家庭も地域も含め、社会全体で子どもを育てていく必要があると思います。

児美川孝一郎(こみかわ・こういちろう)
1963年生。東京大学教育学部卒、東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。法政大学文学部教育学科専任講師、助教授を経て、2003年よりキャリアデザイン学部助教授、教授(現職)。著書に『若者とアイデンティティ』(法政大学出版局)『権利としてのキャリア教育』(明石書店)『若者はなぜ「就職」できなくなったのか』(日本図書センター)『「親活」の非ススメ』(徳間書店)『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)などがある。

「教育改革」で学校に新たな動き! 「目標達成主義」と批判渦巻く「キャリア・パスポート」を考える

 2020年度、戦後最大規模の「教育改革」により、「新学習指導要領」が導入され、「道徳の教科化」「英語教育の早期化」などが実施される。一体、教育はどう変わるのか――いま「教育現場」に世間の関心が集まっている状況だ。

 そんな中、新学習指導要領の実施を踏まえ、来年度から小中高校生を対象に、学校生活の目標を自ら設定して、どの程度を達成できたのかを評価するための「キャリア・パスポート」なるものが導入されることをご存じだろうか。この「キャリア・パスポート」とは、「小学校から高等学校を通じて、児童生徒にとっては、自らの学習状況やキャリア形成を見通したり、振り返ったりして、自己評価を行うとともに、主体的に学びに向かう力を育み、自己実現につなぐもの。教師にとっては、その記述をもとに対話的にかかわることによって、児童生徒の成長を促し、系統的な指導に資するもの」(文部科学省「『キャリア・パスポート』の様式例と指導上の留意事項」より)とのこと。

 子どもたちの成長をサポートするような画期的な制度だと見る向きがある一方、「自己評価制度って窮屈そう」「『人生は横道にそれてはいけない』という目標達成主義を強いられているようだ」といった批判の声も少なくない。果たして「キャリア・パスポート」は今の社会に合った教育なのだろうか――。今回、キャリア教育について詳しい、法政大学 キャリアデザイン学部教授・児美川孝一郎氏に聞いた。

「キャリア・パスポート」目的通りに使われれば悪くはない

――「キャリア・パスポート」が導入されると知った時の印象をお教えください。

児美川孝一郎氏(以下、児美川) これまでも、市町村教育委員会単位、あるいは個別の学校単位の取り組みとして、同様のことは行われていました。大学でも、学生に学習・行動履歴などを付けさせるポートフォリオを持たせて、就職活動に役立てるという試みはあります。こうした草の根で行われていたことを、文科省が政策化するのだという印象を受けました。新しい点としては、「キャリア・パスポート」と名付けたところと、記録が小・中・高と持ち上がるという点です。

 ちなみに高校では、大学入試に向けた「eポートフォリオ」というものを実施する学校も少なくありません。これは、1年時からの活動の記録をネット上に蓄積し、大学受験の調査書をつくるときに役立てるもの。全国の高校の4割以上が導入しているとも言われています。「キャリア・パスポート」は、それと混同されるのではないかとも思いました。

――「評価できる点」「問題があると感じる点」「今後課題になりそうな点」について、それぞれ教えてください。

児美川 現時点では、キャリア・パスポートは“ふんわり”したもので、学校によってどういう様式にするか、何を書かせるか、基本的には決められていません。決まっていることと言えば、「活動の記録を書く」「小中高を通じて行う」「生徒は自分を振り返る材料にし、先生は生徒を指導する資料にする」ということくらい。様式や内容が「自由」というと学校現場が困るので、「例示資料」として様式の例が文科省ホームページにアップされてはいますが。

 学校によって使い方は任されているということを前提とすると、一義的にいい点悪い点、課題は言いにくいですね……。自分の学習や活動を振り返るという目的通りに使われれば、児童生徒自身が「自分はこれだけ成長できたんだな」と実感できて、自己肯定感を高めることになるので悪いことではないですし、先生がそれを見て「成長したね。今後はこういう点を新たな目標にしたらいいんじゃないか」などと対話的に関われるようであれば、うまくいくと思います。

――「キャリア・パスポート」の望ましくない使い方はありますか。

児美川 懸念されるのは「評価の材料」に使われることです。学校が無理に目標を立てさせて到達したかどうかを測るようになると、生徒はがんじがらめになりますし、知恵がついた子は「達成できそうなこと」しか書かないようになる。それでは本来の目的を損ねるものになる可能性もあります。うまくいくかどうかは各教育委員会の度量次第。各校一斉に同じことをさせるのではなく、ある程度学校に任せて、そこに即した無理のないやり方を編み出してもらえればいいように思います。また、子どもたちに「何のために書くのか」を理解してもらわないと、単なるやらされ仕事になってしまいます。

――確かに、「面倒なことをやらされている」と感じる児童生徒もいそうだな……とは思ってしまいます。

児美川 学習や活動を通して、何を感じたのかを振り返り、記録することは悪いことではありませんが、児童生徒がやらされて書いたのでは、効果的ではない。「これは意味がある」とわかるように、素直な小学校低学年のうちに、「キャリア・パスポート」の面白さを感じてくれるような指導をすれば、その後もスムーズに行くかもしれないですね……。時間はかかりますが。

――ちなみに、「自己評価制度、長期的なプランニングの窮屈さ」「子どもたちから自由さを奪うのでは」といった批判、疑問の声がありますが、どう思いますか。

児美川 まだ実施されていないですし、前述したように“ふんわり”したことしか決められていないので、誤解している人も多いのだと思います。企業の人事管理と同じように考えて、目標管理と成績が連動するとしたら、それはみんな嫌に決まっています。最も誤解を受けがちなのは「評価」という言葉ですが、あくまで生徒の自己評価であり、先生は評価するのではなく指導の材料にするだけ。エバリュエーション(evaluation)ではなくアセスメント(assessment)。その子の状態を探って支援、指導に生かすと考えればいいでしょう。

――自己評価をするにしても、「目標から外れてしまうといけない」という見方があると問題だと思います。

児美川 そういう使い方が継続的に行われれば確かに窮屈ですし、計画した通りにしか動けないプランニング型の思考しかできなくなってしまいます。やはり、いい方向に生かせるかどうかは学校および教員の力量によるとも言えます。

(後編につづく)

児美川孝一郎(こみかわ・こういちろう)
1963年生。東京大学教育学部卒、東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。法政大学文学部教育学科専任講師、助教授を経て、2003年よりキャリアデザイン学部助教授、教授(現職)。著書に『若者とアイデンティティ』(法政大学出版局)『権利としてのキャリア教育』(明石書店)『若者はなぜ「就職」できなくなったのか』(日本図書センター)『「親活」の非ススメ』(徳間書店)『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)などがある。

軽減税率、駆け込み購入はお得じゃない!? 増税後に“得する”買い物術をFPが解説

 2019年10月1日より、現行の8%から10%に消費税率が引き上げになる。今回の増税では、一部の品目に「軽減税率」が導入されるなど、家計への負担を緩和する措置が取られているものの、内情は非常にわかりにくく、「増税前に買いだめしておくべき?」「これは軽減税率の対象品目なの?」など、開始前から混乱を招いているのが現状だ。そこでファイナンシャル・プランナーの浅田里花さんに、正しい軽減税率の知識や、増税前後の上手な買い物について、話をうかがった。

紛らわしい軽減税率をFPが徹底解説!

――10月より導入される「軽減税率」とは、一体どのようなものなのでしょうか?

浅田里花さん(以下、浅田) 増税によって、年収400万円世帯で年間4~5万円ほどの負担増になるとの試算もあり、家計への影響は決して少なくありません。そこで、増税が家計を圧迫しないよう、生きていく上で必要不可欠な一部の品目の税率を“8%”に据え置くというのが、軽減税率。対象品目は大まかに分けると、「酒類と外食を除く飲食料品」「定期購読契約を締結し、週2回以上発行される新聞」の2種になりますが、対象となるのか否か紛らわしい品目について詳しく説明していきます。

◎コンビニ、電子版で購入する新聞

 まず、「新聞」に関しては、「定期購読契約を締結し、週2回以上発行される新聞」“だけ”が軽減税率の対象なので、コンビニなどで購入した場合は10%になります。購読料を毎月払っている電子版の新聞も「電気通信利用役務の提供」に該当し、軽減税率対象外に。

軽減税率対象(8%) 軽減税率対象外(10%)
定期購読契約を締結し、
週2回以上発行されている新聞
(一般紙、スポーツ新聞、業界紙、
日本語以外の新聞)
電子版
コンビニなどで、その都度購入


◎飲料に適さない料理酒

 次に、「酒類」に関してですが、ビールやワインなどが軽減税率対象外であることは多くの方が理解できると思いますが、「アルコール入りのお菓子」や「調味料」については迷う人も多いのではないでしょうか。酒類とは、酒税法第2条第1項において「アルコール分一度以上の飲料」と定義されているので、それに準ずるものは全て軽減税率対象外。例えば、調味料の“本みりん”はアルコール度数が14%前後あるので、調味料であっても酒類。つまり、“10%”の消費税がかかります。一方、“みりん風調味料”はアルコール度数が1%未満のため、軽減税率の対象になり8%のままです。ただ、“みりんタイプ調味料”は、アルコール度数が5〜15%前後ありますが、食塩が含まれており、飲料に適さないように加工されているので、アルコール度数が1%を超えていても軽減税率の対象になります。また、アルコール入りのお菓子も、名目が「菓子」であれば、含まれるアルコール度数に関係なく、全て軽減税率の対象になります。

軽減税率対象(8%)  軽減税率対象外(10%)
みりん風調味料
みりんタイプ調味料
(アルコール度数に関係なく)
アルコール入りのお菓子
(アルコール度数に関係なく)
本みりん

◎栄養ドリンクや「トクホ」食品

 次いで、栄養ドリンクや健康食品系についてですが、法律で規定されている「医薬品」「医薬部外品」は食品に該当しないため、これらの記載がある栄養ドリンクの税率は“10%”です。また、トクホと言われる「特定保健用食品」や「栄養機能食品」、「健康食品」「美容食品」に当たるものは、食品として扱われ軽減税率の対象になります。具体的な商品を挙げると、リポビタンDは「指定医薬部外品」のため10%、オロナミンCは「炭酸飲料」なので8%、サプリメントなども「健康食品」「美容食品」に該当することが多いので8%です。

軽減税率対象(8%) 軽減税率対象外(10%)
特定保健用食品
栄養機能食品
健康食品
美容食品
大塚製薬「オロナミンC」
サプリメント
医薬品
医薬部外品
大正製薬「リポビタンD」

 
◎店内で食べきれなった食品、バーベキュー

 店側が設置したテーブルやイスなど飲食スペースで食べると10%、持ち帰ると8%というように税率が異なります。また、食べきれなかった食品を持ち帰る際、販売した時点の税率が適用されるので、“10%”のまま。そのほかに屋台での飲食も紛らわしいです。ラーメンのように「業者が用意したイスなどを用いて、その場で食べる」屋台は外食扱いになり10%ですが、「テイクアウトが基本」の屋台であれば、軽減税率が適用され8%になります。

 出前は食事を届けるだけで、飲食は“自宅”になるため、こちらも軽減税率の対象です。一方、ケータリングは、「指定された場所での調理や給仕」という扱いになるので、標準税率の10%なんです。

 レジャー関連に目を向けると、最近増えている「手ぶらでできるバーベキュー」は飲食場所の設備と食品を提供しているので、軽減税率は適用されず10%。イチゴ狩りや潮干狩りなどの「味覚狩り」は、「狩り」というサービスを提供しているので10%になりますが、収穫した果物や魚を「持ち帰り用」に購入した場合は8%になります。

 そして、社員食堂や学食については、利用が“選択性”になっていることから、軽減税率の該当にならず10%。一方、学校給食や有料老人ホームの食事に関しては、1日につき、1食の金額が税抜き640円以下で合計1,920円までであれば8%です。「公共」寄りのケースには配慮したということなのではないでしょうか。

軽減税率対象(8%) 軽減税率対象外(10%)
出前
味覚狩りの持ち帰り(イチゴ、潮干狩り)
学校給食
有料老人ホームの食事
食べきれなかった食品
ケータリング
バーベキュー
味覚狩りの入園料(イチゴ、潮干狩り)
社員食堂
学食

 

――一部の品目に軽減税率が適用されるとはいえ、増税による家計の負担を少しでも軽くするために、増税前に購入した方がいいものはありますか?

浅田 今回の消費増税では、19年10月~20年6月の9カ月間、届出済みの中小・小規模商店で対象商品をキャッシュレス決済した場合、支払額の“2%または5%”のポイント還元が受けられることになっているので、慌てて無駄な出費を増やすよりも、ポイント還元などを狙った方がお得かもしれません。大手ECサイト「Amazon」「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」の3社も、一部の商品を除き決済金額の5%分に相当する金額を還元するということなので、こちらを活用するとお得だと思いますよ。

 例えば、増税後に、1万円の商品を購入した場合、税込みで1万1,000円となり、これまで1万800円で購入できたものが、200円も高くなります。しかし、5%還元となる店で購入すれば、550円分のポイント還元(1万1,000円の5%)を受けられるので、実質1万450円の支出になり、つまり増税前より350円“安く”購入できたことになります。

 このように、増税後に購入した方がお得になるケースもあるので、駆け込み購入をするよりも、還元制度の情報を十分に収集して、自分の欲しい商品や、利用する店舗が、還元の対象かどうかなど、じっくり見極めることが先決だと思います。その点を踏まえても、増税前に購入をオススメする商品は、「ポイント還元の対象にならず、高額で値崩れしにくい」ブランド家電や語学学校の回数券、通勤定期ぐらいではないでしょうか。
 
 大手家電量販店などはポイント還元の“対象外店舗”ではあるものの、消費者の買い控えを懸念して、秋口にセールを行う店舗もあるでしょうし、電化製品などモデルチェンジのあるものは、型落ちすると安くなります。そういった場合は、増税後の方がお得になる可能性も高いと思うので、購入先や購入時期を検討すると失敗しづらいかもしれませんね。

※現在、経済産業省の公式ホームページでポイント還元対象店舗を確認することができる。また、公式のキャッシュレス還元マップも提供される。今後、キャンペーンの対象店舗は、「還元率」「利用可能決済方法」が一目でわかる経済産業省発行のポスターを張り出す予定。

利用額の2%ポイント還元  利用額の5%ポイント還元
コンビニ、外食、ガソリンスタンドなど
フランチャイズチェーン等の一部店舗


Amazon  楽天市場

Yahoo!ショッピング
中小企業・小規模事業者が運営する店舗

 ――増税後に損することなく生活するには、どのような点に気を付けたらいいでしょうか?

浅田 増税のように、自分の裁量ではどうにもできない支出が増えるからこそ、家計管理が大切になります。今回の増税をきっかけに、家計簿アプリやポイント制度などを上手に活用し、家計を見直すといいかもしれません。我慢しすぎず、「今月は服を買いすぎたから、交際費を抑えよう」などメリハリをつけたりしながら、限られた収入の中で確実に貯金するクセをつけることをオススメします。
(文=千葉こころ)

浅田里花(あさだ・りか)
1959年、兵庫県生まれ。 82年同志社大学文学部卒業後、日興證券(現SMBC日興証券)に入社。88年独立系FP会社(株)エムエムアイに入社し、ファイナンシャル・プランナーの資格を取得。93年に独立し、生活者対象のファイナンシャル・プランニングを担当するほか、執筆、講演活動もこなす。現在、FP会社㈱生活設計塾クルー取締役。日本FP協会会員CFP(サーティファイド・ファイナンシャル・プランナー)一級FP技能士。著書に、『知ってトクする生命保険と個人年金の上手な掛け方選び方』(日本実業出版社)などがある。

目黒・結愛ちゃん虐待死で懲役8年――専門家が語る「虐待を防ぐために私たちがすべきこと、社会がすべきこと」

 昨年3月、東京都目黒区で船戸結愛ちゃん(当時5歳)が両親から虐待され死亡したとされる事件で、母親の優里被告(27)に懲役8年(求刑懲役11年)の判決が下された。東京地裁は、「両親による食事制限はひどく、医療処置を受けさせなかったことも悪質で強く非難されるべきだ」とした上で、元夫・雄大被告(34)の「意向に従ってしまった面が否定できない」と言い渡した。

 事件の発覚当時、父親から日常的に暴力を振るわれ、十分な食事を与えられず衰弱死したという悲惨な虐待の内容と、結愛ちゃんが書いた「もうおねがい ゆるして ゆるしてください」という手書きの文章は、社会に大きな衝撃を与えた。それから1年半の時が経過する中で、行政面では児相の体制強化や体罰禁止などの法改正が進んだが、一方で、事件への関心が徐々に薄れつつあったことも否定できないだろう。

 サイゾーウーマンでは、昨年に【目黒事件から改めて虐待を考える】と題した全5回の特集を展開している。母親・優里被告に判決が下ったいま、改めて記事を再掲する。この機会に、ぜひ読んでいただきたい。

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(初出:2018年8月24日)

kosodateimage06 今回の【目黒事件から改めて虐待を考える】特集では、すでに起こっている虐待事案のデータを分析し、児童相談所の対応や虐待している側の心理などをテーマに5回にわたって専門家のインタビューを掲載してきた。実際に凄惨な虐待事案が起きた場合は児童相談所などの関係機関の対応が要になるが、虐待を予防するためにできることは私たちにもあるはず。最終回では、各専門家に聞いた「虐待を防ぐために必要なこと」を掲載する。

 他人との距離感がわかりにくい時代、自分が傷つきたくないがために他人への無関心を装ったり、必要以上に遠慮したり、夫婦であっても話し合いを持たないことは珍しいことではない。ただ、目黒区の結愛ちゃん事件もほかの虐待死事案も「誰かがもう少し気にかけていれば」「ちゃんと話を聞いていれば」の積み重ねが、最悪のケースを招いたともいえる。虐待事件報道のたびに感じる「やりきれない気持ち」をそのままにせず、幼い子の命を守るため、専門家の提言を一歩踏み出す力に変えてほしい。

【第1回】「加害者の半数は実母」「幼児より新生児の被害が圧倒的に多い」――児童虐待の事実をどのぐらい知っていますか?

【第2回】児童相談所の権限強化や警察との全件共有は、本当に救える命を増やすのだろうか?

【第3回】悲しいことに結愛ちゃんが書いた「ゆるして」は珍しくない……子どもへの暴力を認めている日本の現状

【第4回】虐待した保護者、虐待された子のその後は――? 児童相談所の「措置機能」を考える

【第5回】なぜ「虐待する親」「パートナーの虐待を止めない親」が生まれるのか、臨床心理士が心理状態を分析

虐待を防ぐのは配偶者のサポート 「子どもの虹情報研修センター」専門相談室長・小出太美夫さん

 虐待を防ぐためにすべきことは「孤立を防ぐこと」。虐待加害者の半数が「母親」である現状では、孤立を防ぐためには配偶者である父親のサポートが重要です。日本のお父さんは子育ての「協力」と「サポート」の違いがわかってないのかもしれません。「協力」は家事や子どものおむつ替えで、「サポート」は子育てのメインになりがちな母親の話を聞く、評価し褒めることです。とはいえ、仕事を理由に「協力」はおろか、「サポート」すらしない男性も多い。そういった夫婦は、情緒的ネグレクトとなっているケースが多いように見受けられます。例えば夕食を作ってもらっても、「おいしいね」と言うこともなく、それが当然だと思っている。また、母親が子どもの話をしても無視する。一方的に交流を断つことは一種のネグレクトで、それを続けられたら母親は子育てする気力が出てこない。配偶者のサポートというのは、虐待の予防や再発防止、虐待連鎖を断つ大きな力です。

さまざまな“貧しさ”をなくすこと 日本社会事業大学専門職大学院教授・宮島清さん

 貧しさをなくすこと。貧しさというのは、金銭的な貧しさ、時間の貧しさ、空間の貧しさ、発想の貧しさを含みます。結愛ちゃんの父親のように、幸せなろうとして努力したのに失敗してしまった人を、単純に鬼畜だと考える想像の貧しさ。児童相談所の職員を「税金で楽してる」と考え、がんばっている人を追い詰める貧しさ。人生で当たり前に起こり得るさまざまな困難や失敗に陥った人を蔑み、社会が共有している税金を使うことを嫌がったり、福祉に関わる人を「単純労働だから給料が安くても構わない」と思ったりする心の貧しさです。こういった貧しさからなんとか脱却していかないと、虐待はなくならない。虐待をはじめ、さまざまなニュースを自分のことだと思って考える当事者性を持たなければ、社会は良くならない。 

他人になにか言われても、他人の感情を引き受けすぎない NPO法人「児童虐待防止全国ネットワーク」理事・高祖常子さん

 社会が子育て中の親に対して、「見張る」のではなく「見守りの目」を向けること。電車の中で赤ちゃんが泣いていたら周りの人は思わずそちらを見ることが多いでしょうが、親が「刺さるような目」と感じるのか、「見守ってくれてるな」と感じるのか。それだけでも子育てのしやすさは違うはずです。「この時期の子は泣いちゃうんだよね」「うちの子も泣いてたわ」と声をかけるだけで、普段肩身の狭い思いをしている親はふと肩の荷が下りる。小さなことですが、虐待加害者を厳罰化するよりも、温かい目で見る人を増やしていく方が子育ては楽しくなるし、みんなが暮らしやすい世の中になると思います。

 私の肌感覚ですが、いまも10人中9人ぐらいは子育てしている人に優しいのではないかと思います。ただ親としては、「私がこんな行動をしたから、あの人は怒ったんじゃないか」と機嫌が悪そうな人に過敏になってしまう。共感することも大事ですが、他人の感情は他人のもの。過剰にそれを引き受け過ぎないことが大事です。それは子どもに対しても同じです。「子どもが泣きやまないのは、私がうまくできないからだ」と自分を責めるのではなく、「泣きたいときだってあるよね」と子どもの気持ちを受け止め、割り切って考えてもいいんです。

「叩いてしまった」を繰り返さないのが大切 臨床心理士・杉山崇さん

 虐待の社会的背景には、貧困問題があると思います。人は、お金がないとみじめな気持ちになり、自尊心を失うもの。こうした貧困によって受けた苦痛を、今度はほかの誰かに与えたいとする心理が働き、それが児童虐待につながっている面もあるのではないでしょうか。そもそも今の日本社会は、アメリカナイズされたビジネスの価値観が浸透しています。例えば、内向的な人より外交的な人、消極的より積極的な人が優れているといった考え方で、人と比べることによって優劣が成り立つ、つまり“自尊心の奪い合い”が起こっているんです。大きな話になってしまいましたが、虐待の原因が自尊心の欠落に関係しているとすれば、“負け組”を生み出す社会構造に問題がある、虐待防止には、その点にも目を向けるべきといえるのではないでしょうか。

 一方で、親がすべきことについて。もし感情的に叱ったり、叩いたりしてしまったときは、ただ自分を責めるのではなく、「どんな親でも、子どもが敵に見えてしまうことはある」「大切なのは繰り返さないためにどうしたらいいか」と、考えるようにしてほしいです。乳幼児期は脳が未発達なので、全力で欲求を訴えます。そんなとき、「親を困らせようとしているのではない」ということを頭の片隅においておけば、気持ちが少し楽になるかもしれません。

SOSを出すことは親としての責務 子ども家庭福祉学者・柏女霊峰さん

 社会がすべきことは、子どもとその保護者に、関心を寄せること。民生委員/児童委員という制度があり、高齢者のご家庭には、委員の方が「今日は暑いけど、ちゃんと水飲んでる?」などといって、気軽に立ち寄ることもあるようなんですが、子育てをしているご家庭には、「なかなか入りにくい」と足が遠のいてしまいがちだそうです。地域の中で、人々が関心を持ち合うことができれば、赤ちゃんの泣き声が止まらないご家庭に、「どうしたの?」と声をかけにいってあげられますよね。今は、「すぐに児童相談所に通告を」といわれていますが、まずは地域での関係性を密にすることが大事だと思っています。

 また、親がすべきことは、周囲に対してSOSを出すこと。昔は、おじいちゃんやおばあちゃん、ご近所さんが声をかけてくれたから、親も何とか子育てができていたけど、今はもうそういった環境が減ってきています。だからこそ、親自らが、子どもと自分のために、SOSを出さなければいけないんです。周囲を頼ること、助けを求めることは、親としての“権利”であり、“責務”でもあると考えるべきだと思います。

坂口杏里に必要な「支援」とは? ホストで借金、逮捕、自殺未遂……歌舞伎町の駆け込み寺に聞く

 8月27日、元タレント・坂口杏里さんが、ホストクラブ勤務の知人男性とトラブルを起こし、住居侵入の疑いで逮捕(不起訴)された。なお彼女は2017年にも、同じ男性への恐喝未遂容疑で逮捕(不起訴)されている。

 坂口さんといえば、有名女優・坂口良子さんの娘として広く知られる存在だ。6月に放送されたドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション ワケあって…坂口杏里』(フジテレビ系)によると、坂口さんは08年に芸能界デビューし、一時期は2世タレントとしてバラエティー番組に引っ張りだこだったが、13年に良子さんが亡くなってから、その寂しさを紛らわすように、ホストクラブにハマッていったという。気づけば多額の借金を抱えることになり、16年にはAVデビュー、そして、風俗嬢に転身。同番組では、自殺未遂をしていたことも明かされていた。

 しかし坂口さんは、そんな崖っぷちの状況から抜け出すため、昨年末、芸能界復帰を目指すと宣言していたわけだが、ここに来て2度目の逮捕――。芸能界復帰の夢は泡と消えそうな中、今度はYouTubeに「坂口杏里チャンネル」を開設し、良子さんの遺産や義理の父であるプロゴルファーの尾崎健夫氏について話す動画をアップしている状況だ。

 そんな坂口さんを、ネットの住民たちはどう見ているのか。絵に描いたような“転落人生”だと好奇の視線を向ける者、「もっと反省すべき」と厳しい言葉を投げかける者、はたまた、天国の良子さんを哀れむ者などさまざまだが、中には「支援を受けた方がいい」「誰か周りに頼れる人はいないの?」と声をかける者もいる。はたから見ていても、どこか心もとない彼女を心配しているのだろうが、その「支援」とは何か、誰もがわからない状況なのではないか。そこで今回、新宿・歌舞伎町で、家庭内暴力、DV、虐待、ひきこもり、ストーカー、金銭トラブルなど……さまざまな悩みを抱える人たちの問題解決に奔走してきた「公益社団法人日本駆け込み寺」の設立者で、「よろず相談研究所」所長・玄秀盛さんに取材を行い、坂口さんに多額の借金を背負わせたホストクラブの構造、彼女が抱える問題の正体、そして彼女が立ち直るために必要なことについて、見解を聞いた。

■ホストで借金地獄の女の子は「たくさんいる」

――坂口さんは、ホストクラブにハマッて、1300万円(18年6月時点)もの借金を抱えているそうです。

玄秀盛さん(以下、玄) そういう女の子は、杏里さん以外にもたくさんいるよ。そもそもホストクラブの構造自体が問題。ホストの最低保証給って、日給2,000円くらい。これは今から約40年前に「愛‐本店‐」の愛田武元社長が決めたもので、あとは歩合制で給料が決まるんやけど、歌舞伎町のホストって「カネと女が手に入る」と思って上京してきた地方出身者ばっかりやから、「日給2,000円」という現実は厳しいものがある。しかも「マンションの六畳一間に5人暮らし」「食事はカップラーメン」みたいな生活を目の当たりにする。そうすると、ホストは客に――しかもまだ20歳そこそこの子に、一晩30~50万円なんて大金を使わせようとしだすというわけや。

――女性客は危機感を持たないものなのでしょうか。

玄 女の子はマインドコントロールされてんねん。ホストは、アルコール慣れしてない20歳そこそこの子に酒を飲ませて、会話を盛り上げ、甘い言葉をささやく……俺から言わしたら、そんなん「悪魔のささやき」やけど、愛情と優しさに飢えてる子やったら、ハマっちゃうよ。しかもホストってイケメンやろ。でも、ホストは「値踏み」もしてる、「この子はどれくらい稼げるか」っていう。

――つまり、キャバクラや風俗で働かせて、いかに自分にお金を貢がせるか……ということですか?

玄 そうそう。歌舞伎町にはホストクラブが約200店舗あって、仮に1店舗10人在籍してるとして、約2,000人のホストがいる計算やけど、「何も持っていない女の子から、いかにカネをむしり取るか」を考えてる“ハイエナ”みたいな奴が多いのは確か。もちろん真面目に働いてるホストもいるけど、そういう奴は目立たんねん。キャバや風俗で稼がせるにしても、最初は性的サービスのないものから始めさせて、徐々に慣れさせていく。エグいけど、ホストが女の子に5年間の「AVを含む」モデル契約をさせるという話もあった。「AVを含む」ことに気づいた女の子が「聞いてなかった」と言っても、「キャンセル料30万円だよ」と迫り、断れなくする。逆にホストが保証人になって、「いいよ、ここは俺が払うよ」と言って、女の子側に借金を作ることもある。「彼が払ってくれたんだ」とほだされた女の子は、さらにホストにカネを使うようになり、そうしてできた借金を返すため、「彼のためならいいか」といって、風俗で働きだす。そしてまたホストにカネを使う。ホストクラブは、こういう負のスパイラルで成り立っているのが多い。

――テレビで放送されるホストのドキュメンタリー番組などでは、見えない一面ですね。

玄 最近は、ホストの数が増えて、客の奪い合いになり、どんどんあくどくなってる印象もある。あと、地方の若い女の子が「HOST‐TV.COM」(ホストクラブ動画・ホスト求人・密着・PV・バラエティ番組を毎日更新するサイト)を見て、歌舞伎町にやって来て、ホストクラブの負のスパイラルにハマッてしまうことも増えてるよ。客引き禁止条例ができてから、ネットで集客するようになってるんやな。俺はそういう風潮をよくないと思っていて、ホストやホストクラブのオーナー、「HOST‐TV」社長に「勉強会をしませんか?」と声をかけてます。勉強会を開こうと思ってる話は、新宿区や新宿警察署の関係者に話をしているよ。

■風俗を辞められないのは「孤独」が原因?

――坂口さんも、ホストクラブの負のスパイラルにハマッているのかもしれません。

玄 完璧にハマッてる。杏里さんは愛情が欲しいんやと思う。だから昔の男を追いかける。一度付き合った男とは、たとえ別れても距離が縮みやすいから。でも、そのホストの男に「こいつからはもうカネ取られへん」と思われてたら、厄介者扱いや。警察を呼ばれたのも、そういう事情があったのかなと思う。

――坂口さんは、昨年末に風俗を辞めて芸能界復帰を目指すと宣言しましたが、現状、辞められていません。

玄 辞められない理由は簡単やんか、孤独だからや。寂しいと、つい元カレのホストに電話して、飲みに行ったりして借金を作る、で、カラダで払う。その繰り返し。「女友達と遊べばいいのに」という人がいるかもしれんけど、女友達からは「『カネ貸して』と言ってくる厄介な子」だと思われて敬遠されるねん。男は別や。言い方は悪いけど、たとえカネはなくても「セックスはできる」と思って、ある程度は付き合ってくれるからな。

 こうやって、孤独によってどんどん落ちていく。その姿をマスコミが報じると、「悪名は無名に勝る」で、また杏里さんに人が群がる、もてはやす。本人もその気になって、ネオン街での脚光を求めてホストに出かけ、借金を作り、カラダで払う……という連鎖もあると思う。シャブ中と一緒や。なんでシャブ打つか知ってるか? スーパーマンになりたいんや。自分じゃない自分になるためにシャブを打つ。

――坂口さんも同様に、脚光を浴びることで、「自分じゃない自分になりたい」のかもしれませんね。彼女がこうした負の連鎖を断ち切るためには、まず借金を完済するのが重要なのでしょうか。

玄 うち(日本駆け込み寺)経由で、ホストへの350万円の借金を踏み倒して飛んだ子もおるよ。弁護士を入れて、借金の処理をしたことだって何度でもある。俺も債務保証で2回自己破産してるしな。お金の問題を処理するのは実は意外と簡単で、それより「男への依存」をどうするかが問題やねん。男に「褒められたい」「優しくされたい」「チヤホヤされたい」――シャブに依存するのと同じように、「男」に依存しているのを、どう断ち切るか。たとえ借金がなくなっても、心の問題が解決してなかったら、また借金するだけや。

 じゃあ断ち切るためにどうするのかというと、「私はここまで落ちた」ということを受け止め、過去を見つめて、生き直しをせなあかん。そうしたら立ち直れると思うけど、何よりも本人が「立ち直りたい」という意志を持つことが大切。シャブ中やったら実刑食らって、刑務所にいる間に目を覚ますこともできるけど、杏里さんの場合は実刑の対象ではないからな。

■まず「普通の生活」を教えたい

――例えば坂口さんが自らの意志で、日本駆け込み寺にやって来たら、玄さんは具体的に何をしますか?

玄 普通の生活を教えます。例えば「月収20万円」で暮らすとしたら、どんな生活になるのかを考えさせる。お金の価値をわからせる。月収20万円だと手取りはもう少し下がるけど、そこからいくら食費に割くか、1回の昼食代は何円に抑えなあかんか、と。まぁ昼食はなか卯で食べなあかんな。そういう生活を、まずは1年続けてみる。そういう姿を隠さずに、世間に見せることも大事や。まぁでも、月収20万円も得られるスキルが杏里さんにあるかどうか。昼間働いて、20万稼ぐというのは大変なことだと思うよ。それと並行して、依存から脱するため、メンタルクリニックに通うことを勧めるね。

――お金の話で言うと、『ザ・ノンフィクション ワケあって…坂口杏里』で、坂口さんがブランド品を身に着けていたことから、ネット上では「それを売って少しでも借金返済に充てるべき」といった声が出ていました。

玄 売れへん売れへん。売っても二束三文や。みんな単純に「売れば?」と言うけど、売ったらまた新しいものを買うことになるんやから、あるもんは使ったらええねん。それよりも、自分で生き直すと決意して、「平凡な生活」というものを積み重ねていくこと、それから同性でも異性でも友達を作ることの方が大事。その友達ってのは、「悪さをしない」奴やで。シャブかて、本人が「やめよう」と思っても、周りの奴らが誘いにくんねん。そういう奴らと縁を切って、「無償」の友達を作らんとあかん。

――ホストは、お金を介する「有償」の関係ですもんね。

玄 そうやで。杏里さんが本人の意志で直接ここに来て、「今後こうしたい」という話を聞かせてくれれば、もっと具体的なメニューを提案できると思う。ただ、杏里さんはいま、貴重な経験をしてるんやから、それを生かさなあかんと思うわ。まず自分を救って立ち直る、そしたら、同じように苦しんでる女の子を救うこともできる。俺、シャブ中だった奴に、シャブ中の奴の相談に乗るように言うことがあるんやけど、そうすることで「二度とシャブをやらない」と、自分に言い聞かせることにもつながるからな。

 ちなみにやけど、日本のダンス&ボーカルグループのAの親父も、悪い仲間と縁を切るために、うちの社員として3年半働いて、ボランティアの勉強をしてたんや。彼は杏里さんと逆バージョンの「息子の七光り」。周りからちやほやされて、勘違いしてるところもあったよ。でも、そんな彼も今では自立しました。

――坂口さんの現状を見て、「実の兄や義理の父親が支援すべき」という世間の声も根強いのですがいかがでしょう。

玄 傍観者はみんなそう言うよ。でも俺は違うと思う。そもそも家族は、「更生」を経験したことないやろ? 自転車に乗ったことのない奴に、むりやり乗れ乗れって言ったって、うまくいくはずがないやん。杏里さんも家族に対しては甘えが出るだろうし、「あの時こうしてくれなかったから、私の人生はめちゃくちゃになった」なんて、過去のことを言い出すと思うよ。杏里さんの更生には、絶対に第三者の「他人」が必要や。

 だいたいな、支援をしたこともない人間が、「支援」「支援」という言葉だけを口にしてるような気もする。何を根拠に「支援」なんですか? というのを聞きたいね。「弁護士に相談を」という人もおるやろうけど、お金の問題が片付いたとして、心の問題は? 「行政に相談を」って、じゃあ具体的にどこに? 俺は歌舞伎町で17年間、老若男女5万人の相談に乗ってきた。加害者でも被害者でも、救いを求めてるなら、話を聞くよ。加害者が二度と過ちを繰り返さないように、被害者が立ち直れるように。目の前のたった一人の人を助けるという思いでやってきた。杏里さんと似たような状況の女の子もたくさんいた。もし杏里さんがここに来てくれたら、1000通りでも1万通りでも更生のメニューを提案するよ。

玄秀盛(げん・ひでもり)
1956年、在日韓国人として大阪市西成区に生まれる。両親の離婚などによって、複雑な家庭環境で育ち、「4人の母」「4人の父」のもとを転々とする。2000年、自身が白血病をおこす可能性のあるウイルスの感染者であることを知り、ボランティアに目覚め、02年「NPO法人日本ソーシャル・マイノリティ協会」(通称・新宿歌舞伎町駆け込み寺)を立ち上げる。11年、NPOとしての活動を停止し、「一般社団法人日本駆け込み寺」を設立、その代表に就任。12年、内閣府より公益社団法人の認可を受け駆け込み寺を公益化し「公益社団法人日本駆け込み寺」に。今年5月、NHKで放送されたドキュメンタリー『信じる男 信じられた男~新宿歌舞伎町駆け込み寺~』は大きな反響を呼んだ。
日本駆け込み寺公式サイト(http://nippon-kakekomidera.jp/)
よろず相談研究所公式サイト(http://yorozusoken.com/)

『つづ井さん』担当編集者に聞く、「腐女子」「オタク女子」コミックエッセイがウケる理由

 BL(ボーイズラブ)をこよなく愛する女子たちの日常を描いて大ヒットとなったコミックエッセイ『腐女子のつづ井さん』(KADOKAWA)の著者・つづ井さんが、文藝春秋のウェブサイト「CREA WEBコミックエッセイルーム」で連載している『裸一貫! つづ井さん』。『腐女子のつづ井さん』は、腐女子であるつづ井さんと友人たちの豊かな妄想や「腐女子あるある」をメインに彼女たちの愉快な日常を描いた作品で、一方『裸一貫! つづ井さん』は「とにかく明るいオタク女子たちの日常」という前作のテーマを引き継ぎつつ、“アラサー”になってさらにパワーアップしたつづ井さんたちの姿が活写されているという。そんな『裸一貫! つづ井さん』の第1巻が9月11日に発売され、いま多くの“つづ井さんファン”が盛り上がっている。

 『裸一貫! つづ井さん』しかり、コミックエッセイ界では、「腐女子」「オタク女子」をテーマにした作品が多数出版されている状況にあるようだ。『腐女医の医者道!』(さーたり氏、KADOKAWA、2016年)『舞台追っかけ女子 推しが元気でごはんがおいしい』(畑ヶ中あいこ氏、双葉社、18年)『腐女子になって四半世紀経つとこうなる~底~懐古編』(御手洗直子氏、一迅社、19年)などなど、さまざまな作品が世に出ているが、なぜ「腐女子」「オタク女子」のコミックエッセイは読者にウケるのか。その魅力とは一体――今回、『裸一貫! つづ井さん』の担当編集者である文藝春秋 クレア局 ライフスタイル出版部の白川恵吾さんにお話を聞いた。

最初の大ヒットは『となりの801ちゃん』

つづ井さんによる白川恵吾さんの似顔絵
 コミックエッセイ界において、「腐女子」「オタク女子」の作品が人気を博しているのは、白川さんも「以前から実感している」ところのよう。中でも印象深い作品が、06年の『となりの801ちゃん』(小鳥アジコ氏、宙出版)だという。同作は、のちにシリーズ化され、映像作品にもなるなど大ヒットし、世間に「ボーイズラブが好きな女子=腐女子」の存在を知らしめた作品と言えるだろう。

「その後の流れで言うと、13年に発表された、肉子さんの『100回お見合いしたヲタ女子の婚活記』(同)と、御手洗直子さんの『31歳BLマンガ家が婚活するとこうなる』(新書館)も印象的でしたね。『1人でも充実している』『特に恋愛の必要性がない』という人も多い『腐女子』や『オタク女子』が、“婚活”に挑戦するという内容で、こうした体験ルポものが人気を集めました」

 そして、16年には『腐女子のつづ井さん』、『だからオタクはやめられない。』(パカチャン氏、KADOKAWA)が話題を呼んだが、「この2作品は、“オタク生活を謳歌する”という内容。かつて『801ちゃん』において、彼氏目線で描かれていた腐女子の日常生活を、今度は彼女たち本人が語りだしたというのが、近年の流れなのかなと思っています」という。

 「CREA WEB」アクセスランキングで第1位に輝くなど、多くのファンを抱えている『裸一貫! つづ井さん』。白川さんいわく、オタクでない読者の方も多い「CREA WEB」で連載を始めるにあたり、「つづ井さんが今、『腐女子(BL)』という一ジャンルにとどまらず、オタク女子特有の“明るさ”で日々をたくましく生きている姿、また、オタク気質で意気投合した仲間たちと工夫して遊んでいる様子が、より伝わるようなタイトルを、つづ井さんとご相談させていただいた」そうだ。

「そんな“魂がオタク”なアラサー女子の生き方をつづる『裸一貫! つづ井さん』は、オタクではない方々にも多く読んでいただけているようです。本作の“アラサー”“おひとりさま”というテーマに共感を抱き、『どのように日々を楽しんでいるのだろう?』という視点で楽しんでくださっているのかもしれません。また、やはりご友人たちと仲良く遊んでいる姿に癒やされるという声も多く、『「つづ井さん」はオタク界のSATC※』なんて言われることもあります(笑)。読者層は広がっていると感じています」
※『Sex and the City』ニューヨークを舞台に、30代独身女性4人が自由に生きる姿をコミカルに描いた海外ドラマ。

 確かに、作中でつづ井さんと友人たちは、お金をかけずに日々の生活を楽しむさまざまな“遊び”を披露している。例えば、「何かをお世話したい 育てたい…」という欲求を持て余した際、今まで特に気にしてこなかった自分の「尻」のお世話をすることを決意。スクラブを塗り込んだり、保湿を心掛けたりしているうち、愛おしさを抱くようになり、ある日、尻がプリプリになったことに気づいた時には「尻が私のお世話に応えてくれたんだ」と感動を噛みしめる。また、友人たちとのお泊まり会では、ふと思い立って深夜の公園を訪れてはしゃぎ倒したり、お風呂に入る順番を決めるために相撲を取ったりするなど、さまざまな楽しみを見つけ出していく。

「私個人の感覚として、腐女子やオタク女子の方って、好きなものに素直でひたむきだと思います。それに自分で自分を楽しませることにすごく長けていらっしゃる。『結婚しろ』『出産しろ』といった社会からの圧力に囚われないで、『“私”が“今”好きなこと』にまじめで一直線な方が多い印象もあります。そしてつづ井さんとご友人たちとの様子を見ていて実感するのが、自分とはジャンル違いな仲間に対しても否定せずに尊重したり、逆に自分のジャンルを布教したりする姿。『腐女子』や『オタク女子』って、自分や他者の“好き”を大切にする、やさしい世界なのではないかなと思うんです。そこから生まれる自己肯定感が“明るさ”につながり、彼女たちの魅力になっているのではないでしょうか」

 『裸一貫! つづ井さん』のプロローグには、こんな一説がある。「そんな私も気づけば20代後半…同級生の結婚&出産ラッシュ…職場などでは日々『いつまでそんな感じなの?』『ちゃんと将来考えなよ~』と言われ…私は…私は…特にな~んとも思ってませ~ん ピッピロピ~」。こうした、あっけらかんとした明るさに心をつかまれる人は、確かに「腐女子」「オタク女子」以外にも少なくないのではないだろうか。

 かつては、腐女子であること、オタク女子であることは「隠さなければいけない」といった風潮もあった。しかし、最近ではSNSの普及により、同志の存在を認識しやすくなったこともあってか、「『自分の“好き”は正しい』と感じる『腐女子』『オタク女子』の方が増えたのでは」と白川さん。彼女たちにスポットライトを当てたコミックエッセイは、さらに発展していくようにも思えるが、今後はどのような作品が生まれると予想できるのだろうか。

「今は、“腐女子あるある”がメインテーマになっている作品も多いですが、これからは、彼女たちのオタク精神がどう生活や人生に“生かされているか”を描く作品がより増えるように思います。シリーズ化されている『腐女医の医者道!』も、オタク女子のエネルギーを持ってお仕事や子育てに奮闘するお医者さんのエッセイですよね。また『社会の圧力に囚われない面がある』と言いましたが、オタク女子が『”自分”の好きなもの』を大事にして、自立する姿は、女性の多様な生き方をエンパワーメントしていくことにもつながると感じるんです。『裸一貫! つづ井さん』は、その先駆けになるといいなと思っています」

 そんな『裸一貫! つづ井さん』のサブタイトルは『INDEPENDENT WOMAN TSUDUI』。コミックエッセイ界における「腐女子」「オタク女子」作品の今後の快進撃に期待したい。

『つづ井さん』担当編集者に聞く、「腐女子」「オタク女子」コミックエッセイがウケる理由

 BL(ボーイズラブ)をこよなく愛する女子たちの日常を描いて大ヒットとなったコミックエッセイ『腐女子のつづ井さん』(KADOKAWA)の著者・つづ井さんが、文藝春秋のウェブサイト「CREA WEBコミックエッセイルーム」で連載している『裸一貫! つづ井さん』。『腐女子のつづ井さん』は、腐女子であるつづ井さんと友人たちの豊かな妄想や「腐女子あるある」をメインに彼女たちの愉快な日常を描いた作品で、一方『裸一貫! つづ井さん』は「とにかく明るいオタク女子たちの日常」という前作のテーマを引き継ぎつつ、“アラサー”になってさらにパワーアップしたつづ井さんたちの姿が活写されているという。そんな『裸一貫! つづ井さん』の第1巻が9月11日に発売され、いま多くの“つづ井さんファン”が盛り上がっている。

 『裸一貫! つづ井さん』しかり、コミックエッセイ界では、「腐女子」「オタク女子」をテーマにした作品が多数出版されている状況にあるようだ。『腐女医の医者道!』(さーたり氏、KADOKAWA、2016年)『舞台追っかけ女子 推しが元気でごはんがおいしい』(畑ヶ中あいこ氏、双葉社、18年)『腐女子になって四半世紀経つとこうなる~底~懐古編』(御手洗直子氏、一迅社、19年)などなど、さまざまな作品が世に出ているが、なぜ「腐女子」「オタク女子」のコミックエッセイは読者にウケるのか。その魅力とは一体――今回、『裸一貫! つづ井さん』の担当編集者である文藝春秋 クレア局 ライフスタイル出版部の白川恵吾さんにお話を聞いた。

最初の大ヒットは『となりの801ちゃん』

つづ井さんによる白川恵吾さんの似顔絵
 コミックエッセイ界において、「腐女子」「オタク女子」の作品が人気を博しているのは、白川さんも「以前から実感している」ところのよう。中でも印象深い作品が、06年の『となりの801ちゃん』(小鳥アジコ氏、宙出版)だという。同作は、のちにシリーズ化され、映像作品にもなるなど大ヒットし、世間に「ボーイズラブが好きな女子=腐女子」の存在を知らしめた作品と言えるだろう。

「その後の流れで言うと、13年に発表された、肉子さんの『100回お見合いしたヲタ女子の婚活記』(同)と、御手洗直子さんの『31歳BLマンガ家が婚活するとこうなる』(新書館)も印象的でしたね。『1人でも充実している』『特に恋愛の必要性がない』という人も多い『腐女子』や『オタク女子』が、“婚活”に挑戦するという内容で、こうした体験ルポものが人気を集めました」

 そして、16年には『腐女子のつづ井さん』、『だからオタクはやめられない。』(パカチャン氏、KADOKAWA)が話題を呼んだが、「この2作品は、“オタク生活を謳歌する”という内容。かつて『801ちゃん』において、彼氏目線で描かれていた腐女子の日常生活を、今度は彼女たち本人が語りだしたというのが、近年の流れなのかなと思っています」という。

 「CREA WEB」アクセスランキングで第1位に輝くなど、多くのファンを抱えている『裸一貫! つづ井さん』。白川さんいわく、オタクでない読者の方も多い「CREA WEB」で連載を始めるにあたり、「つづ井さんが今、『腐女子(BL)』という一ジャンルにとどまらず、オタク女子特有の“明るさ”で日々をたくましく生きている姿、また、オタク気質で意気投合した仲間たちと工夫して遊んでいる様子が、より伝わるようなタイトルを、つづ井さんとご相談させていただいた」そうだ。

「そんな“魂がオタク”なアラサー女子の生き方をつづる『裸一貫! つづ井さん』は、オタクではない方々にも多く読んでいただけているようです。本作の“アラサー”“おひとりさま”というテーマに共感を抱き、『どのように日々を楽しんでいるのだろう?』という視点で楽しんでくださっているのかもしれません。また、やはりご友人たちと仲良く遊んでいる姿に癒やされるという声も多く、『「つづ井さん」はオタク界のSATC※』なんて言われることもあります(笑)。読者層は広がっていると感じています」
※『Sex and the City』ニューヨークを舞台に、30代独身女性4人が自由に生きる姿をコミカルに描いた海外ドラマ。

 確かに、作中でつづ井さんと友人たちは、お金をかけずに日々の生活を楽しむさまざまな“遊び”を披露している。例えば、「何かをお世話したい 育てたい…」という欲求を持て余した際、今まで特に気にしてこなかった自分の「尻」のお世話をすることを決意。スクラブを塗り込んだり、保湿を心掛けたりしているうち、愛おしさを抱くようになり、ある日、尻がプリプリになったことに気づいた時には「尻が私のお世話に応えてくれたんだ」と感動を噛みしめる。また、友人たちとのお泊まり会では、ふと思い立って深夜の公園を訪れてはしゃぎ倒したり、お風呂に入る順番を決めるために相撲を取ったりするなど、さまざまな楽しみを見つけ出していく。

「私個人の感覚として、腐女子やオタク女子の方って、好きなものに素直でひたむきだと思います。それに自分で自分を楽しませることにすごく長けていらっしゃる。『結婚しろ』『出産しろ』といった社会からの圧力に囚われないで、『“私”が“今”好きなこと』にまじめで一直線な方が多い印象もあります。そしてつづ井さんとご友人たちとの様子を見ていて実感するのが、自分とはジャンル違いな仲間に対しても否定せずに尊重したり、逆に自分のジャンルを布教したりする姿。『腐女子』や『オタク女子』って、自分や他者の“好き”を大切にする、やさしい世界なのではないかなと思うんです。そこから生まれる自己肯定感が“明るさ”につながり、彼女たちの魅力になっているのではないでしょうか」

 『裸一貫! つづ井さん』のプロローグには、こんな一説がある。「そんな私も気づけば20代後半…同級生の結婚&出産ラッシュ…職場などでは日々『いつまでそんな感じなの?』『ちゃんと将来考えなよ~』と言われ…私は…私は…特にな~んとも思ってませ~ん ピッピロピ~」。こうした、あっけらかんとした明るさに心をつかまれる人は、確かに「腐女子」「オタク女子」以外にも少なくないのではないだろうか。

 かつては、腐女子であること、オタク女子であることは「隠さなければいけない」といった風潮もあった。しかし、最近ではSNSの普及により、同志の存在を認識しやすくなったこともあってか、「『自分の“好き”は正しい』と感じる『腐女子』『オタク女子』の方が増えたのでは」と白川さん。彼女たちにスポットライトを当てたコミックエッセイは、さらに発展していくようにも思えるが、今後はどのような作品が生まれると予想できるのだろうか。

「今は、“腐女子あるある”がメインテーマになっている作品も多いですが、これからは、彼女たちのオタク精神がどう生活や人生に“生かされているか”を描く作品がより増えるように思います。シリーズ化されている『腐女医の医者道!』も、オタク女子のエネルギーを持ってお仕事や子育てに奮闘するお医者さんのエッセイですよね。また『社会の圧力に囚われない面がある』と言いましたが、オタク女子が『”自分”の好きなもの』を大事にして、自立する姿は、女性の多様な生き方をエンパワーメントしていくことにもつながると感じるんです。『裸一貫! つづ井さん』は、その先駆けになるといいなと思っています」

 そんな『裸一貫! つづ井さん』のサブタイトルは『INDEPENDENT WOMAN TSUDUI』。コミックエッセイ界における「腐女子」「オタク女子」作品の今後の快進撃に期待したい。

社会には“セックス説教おばさん”が必要――「セクハラ」と「性交渉」の境界線【しみけん×ドルショック竹下対談】

 セックス同意書にセクシャルハラスメント……令和の時代に蔓延する“セックスのしづらさ”の原因の根本にあるのは、「堅苦しい社会が悪い!」ではなかった。好奇心とあくなき探究心が、よりよいセックスにダイレクトに結びつくことがわかった前編。後編は、AV男優のしみけん氏と漫画家のドルショック竹下氏が、令和における「セックスの学び方、教え方」について考察する。

前編はこちら:「子育てのようにセックスすべき?」ヤリチンとヤリマンが考察する”令和の性交渉”とは?

****

――しみけんさんは新刊『しみけん式「超」SEXメソッド 本物とはつねにシンプルである』(笠倉出版社)を、どんな層を意識して書きましたか?

しみけん 男女とも、読んで嫌な気持ちにならないようにすることを意識したのと、女性なら彼氏に「こういうふうにしてもらいたいな」「面白いから一緒に読もうよ」と渡しやすい本にしたいなと思いました。そうすると彼も、「しみけん、こんなこと言っちゃってバカじゃねえの」と言いつつ、受け入れやすいと思うんです。あと、イラストにすごくこだわっていて、老若男女がわかりやすい作りにしました。

ドル 本の中に「潮吹き=イクではない」と、男性がしがちな勘違いの解説がありましたが、実はわたし、おもらしと似た快楽が得られるので潮吹きが大好きなんですよ。出産後に吹きやすくなり、今じゃセルフ潮吹きも習得しました。でもやっぱり、男性とセックス中に吹くと、「こんなにイっちゃって」って言われちゃう。いや違うんだよ、とは思っても、その場では説明しづらいですよね。最中に、「あのね、潮吹きというのはだね……」と始まると、「なんだこのおばさん」となっちゃう。

しみけん 間違った見解への指摘は、相手を冷静にさせちゃうからね。

ドル だから、そういうことを説明しなくていいように、しみけんさんの啓蒙が世の中に広まってくれると楽なんですよ。同じように、AVで知識を得たように最初から高速手マンをされることがあります。そういうときは、相手の手を押さえつつ「まだ動かさないで」という意思表示をエロく導くことに意識を向けていますね。

しみけん それはエロいやり方。男もうれしいです。

ドル キャバ嬢テクニックと同じですよね。客に太ももを触られたとき、「だーめ!」と言いながら客の手に自分の手を重ねつつ、客の手をホールドするという。内心は、ああめんどくせえ! ですけどね。

――これまでドルショックさんが、「この男性は育ったなあ」と感じた人はいますか?

ドル それまで4、5回ほどセックスする関係の25歳の男性で、経験が少なくて、何をすればいいのか緊張して震えちゃうような人がいました。そんな彼が最終的に、わたしが「今日は生理が終わりかけだから、クンニはしないほうがいいよ」と言った瞬間、迷わずクンニする……くらいには育てることができましたね。

しみけん おお! 相手の喜ぶ姿を見て本人も喜びを感じ、どんどん育っていくんでしょうね。

――お互いの感情表現の応酬は、大切なコミュニケーションのひとつですよね。

ドル どんなシーンでも、コミュニケーションは本当に重要ですよ。元々コミュ力が高い人は、セックスも問題なく一通りできる印象です。

しみけん そういえば最近、ずっと僕に悩み相談をしてきて「自分を変えたい」という気持ちが強かった童貞の警察官と、ご飯に行ったんです。知人女性1人と、友人のモテ男にも同席してもらって。で、彼はナンパはできるんだけどセックスはできないって言うんです。そういった話をしつつ食事して。それから4カ月後、「あの日を境に17人とヤリました。全員ストリートナンパで、海の家でも乱交しました」と連絡をしてきたんです。

ドル ずいぶん急ですね!

しみけん 食事会のとき、僕らの話の回し方や気遣いなどのコミュニケーションの取り方を、彼なりに発見したようなんです。彼は前から僕の本やnoteを読んでいて前知識があったので、当日に答えあわせができたんだと思います。

――雑誌全盛期の頃は、ファッション誌「POPEYE」(マガジンハウス)などで頻繁にHOW TO SEX企画がありましたが、今は一般男性誌でそうした企画はないですよね。

ドル 当時は、そういう雑誌の情報で「みんなやってるから、俺もこうしないとやばい」と煽られ、セックス向上へ意識を向けていたように思います。だからやっぱり、女性から教えるのはダメなんだろうな。しみけんさんのような頼れるお兄さんがアイコンになって、「しみけんがこう言ってたぜ」「部室でしみけんの動画見ようぜ」って、男子の中で普通になってほしいです。

しみけん 啓蒙活動として、この『しみけん式「超」SEXメソッド』を何冊か、男子高校生が通りそうな河原やヤンキーがたまりそうなゲームセンターに捨てましょうか。

ドル それいいですね!

「セックス説教おばさん」が必要

――昭和生まれの世代は、“河原でカピカピになったエロ本をみんなで見る”という現象がありましたが、今の20代はそうした経験はないんでしょうか。

しみけん みんな、エロいものはスマホで1人で見ちゃうからね。

ドル 今なら、グループLINEにエロいURLを「間違えちゃった」と言って投下するとか? 女性も、彼氏とのLINEでそれができそうです。

しみけん あと、お節介な第三者が突然現れるのも効果的です。彼氏と彼女の間では解決しないことを、顔も知らない第三者がズケズケとやってきて、ズバズバ叱り倒すとか。

ドル セックス説教おばさん、ですね。

しみけん セックス説教おじさんもね。新しいビジネスかもしれないな、これは。「レンタルおじさん」のように、説教おじさん・おばさんを派遣できるようにするとか。

ドル ラブホテルでヤッてるとき、バーンッ! とドアを蹴破って入ってきて、「あんた! こうするのよ!」って。そうすると、お互いの関係性にヒビが入らず、おばさんが悪者になるから、いいかも。

しみけん 蹴破ったら弁償しなきゃ(笑)。セックス中じゃなくてもいいんです。喫茶店や公園に2人でいるところに突然僕らがやってきて、説教をかますのでもいい。

ドル 出会い頭、「どう? クンニしてる?」って聞くとかね。最悪のばばあだよ(笑)! 実際にわたしは、ゴールデン街でお店をやっているんですが、若いカップルが来店するとあえて他の女性客とガールズトークをしつつ、カップルに「こういう行為はダメなんだな」ということを暗に伝えるようにしています。草の根活動を頑張っているんです。

――セクハラの捉え方も、人によって異なるところがあります。そうすると、職場恋愛やそもそも恋愛する男女そのものが減っていくようにも思います。

ドル 逆に、出会い系アプリなどのツールがあるから、職場恋愛に縛られずにセックスできるという明るい面もあります。結婚は職場で、遊びはアプリで、と意識をはっきりわけることができる。

しみけん 家庭にセックスを持ち込むと、セックスレスや不倫で悩みますから、恋愛と結婚、セックスは、それぞれタスクをわけるべきだと思います。

 あと、セクハラの件ですが、ハラスメントって、今までコミュニケーションを取るのが苦手でやられっぱなしだった人が、「これはいい武器を見つけた」と間違った使い方をしている側面もあります。なんでも「ハラスメントだ!」と言えば、自分の身が守れると思っている人がいますが、それは違うと思います。

 これは僕の持論ですが、対等な立場でのセクハラって、「おっぱい揉ませてよ」「嫌だよ」の、1ターンならセクハラじゃなくて。拒絶したあとでまた、「いやいや、揉ませてよ」の2ターン目が来ると、それはセクハラ。

ドル 拒絶の意思表示があるのに繰り返すのは、嫌がらせでしかないですからね。

――そんな令和の時代によりよいセックスをするために、どうすればいいでしょうか。

しみけん 男性は、断られることや失敗することを、練習する。女性は、相手を変えるよりも自分が変わる方が楽だと知った上で、男性に対し希望を持たせる言い方を練習する。ハラスメントについて、自分のなかで線引きをはっきりさせる、ですね。

ドル 結局、自分の弱み見せたり正直になることが、自分がもっとも楽になる手段なんですよね。「女に指摘されると腹が立つ!」と思ってしまったり、「相手に弱みを見せられない」というかたくなな気持ちを抱きすぎると、楽になれない……と、みんなが思える世の中になればいいなと思います。心を裸にしないと、セックスはできませんからね。

(取材・文=有山千春)


しみけん
千葉県生まれ。男優歴22年、出演本数1万本、経験人数1万人を超えるトップAV男優で、性の求道者。趣味は筋トレ、クイズ、ダンス、食べ歩き。近著に『しみけん式「超」SEXメソッド 本物とはつねにシンプルである』(笠倉出版社)、ほか著書多数。

ドルショック竹下
体当たり取材を得意とする、体験マンガ家。2016年に女児を出産。近著に電子書籍『挿れるモノ拒まず~旦那がいてもシてみたいんです~』(大洋図書)ほか多数、サイゾーウーマンにて『ヤリマン引退!~マンを持して育児はじめました~』を連載。

社会には“セックス説教おばさん”が必要――「セクハラ」と「性交渉」の境界線【しみけん×ドルショック竹下対談】

 セックス同意書にセクシャルハラスメント……令和の時代に蔓延する“セックスのしづらさ”の原因の根本にあるのは、「堅苦しい社会が悪い!」ではなかった。好奇心とあくなき探究心が、よりよいセックスにダイレクトに結びつくことがわかった前編。後編は、AV男優のしみけん氏と漫画家のドルショック竹下氏が、令和における「セックスの学び方、教え方」について考察する。

前編はこちら:「子育てのようにセックスすべき?」ヤリチンとヤリマンが考察する”令和の性交渉”とは?

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――しみけんさんは新刊『しみけん式「超」SEXメソッド 本物とはつねにシンプルである』(笠倉出版社)を、どんな層を意識して書きましたか?

しみけん 男女とも、読んで嫌な気持ちにならないようにすることを意識したのと、女性なら彼氏に「こういうふうにしてもらいたいな」「面白いから一緒に読もうよ」と渡しやすい本にしたいなと思いました。そうすると彼も、「しみけん、こんなこと言っちゃってバカじゃねえの」と言いつつ、受け入れやすいと思うんです。あと、イラストにすごくこだわっていて、老若男女がわかりやすい作りにしました。

ドル 本の中に「潮吹き=イクではない」と、男性がしがちな勘違いの解説がありましたが、実はわたし、おもらしと似た快楽が得られるので潮吹きが大好きなんですよ。出産後に吹きやすくなり、今じゃセルフ潮吹きも習得しました。でもやっぱり、男性とセックス中に吹くと、「こんなにイっちゃって」って言われちゃう。いや違うんだよ、とは思っても、その場では説明しづらいですよね。最中に、「あのね、潮吹きというのはだね……」と始まると、「なんだこのおばさん」となっちゃう。

しみけん 間違った見解への指摘は、相手を冷静にさせちゃうからね。

ドル だから、そういうことを説明しなくていいように、しみけんさんの啓蒙が世の中に広まってくれると楽なんですよ。同じように、AVで知識を得たように最初から高速手マンをされることがあります。そういうときは、相手の手を押さえつつ「まだ動かさないで」という意思表示をエロく導くことに意識を向けていますね。

しみけん それはエロいやり方。男もうれしいです。

ドル キャバ嬢テクニックと同じですよね。客に太ももを触られたとき、「だーめ!」と言いながら客の手に自分の手を重ねつつ、客の手をホールドするという。内心は、ああめんどくせえ! ですけどね。

――これまでドルショックさんが、「この男性は育ったなあ」と感じた人はいますか?

ドル それまで4、5回ほどセックスする関係の25歳の男性で、経験が少なくて、何をすればいいのか緊張して震えちゃうような人がいました。そんな彼が最終的に、わたしが「今日は生理が終わりかけだから、クンニはしないほうがいいよ」と言った瞬間、迷わずクンニする……くらいには育てることができましたね。

しみけん おお! 相手の喜ぶ姿を見て本人も喜びを感じ、どんどん育っていくんでしょうね。

――お互いの感情表現の応酬は、大切なコミュニケーションのひとつですよね。

ドル どんなシーンでも、コミュニケーションは本当に重要ですよ。元々コミュ力が高い人は、セックスも問題なく一通りできる印象です。

しみけん そういえば最近、ずっと僕に悩み相談をしてきて「自分を変えたい」という気持ちが強かった童貞の警察官と、ご飯に行ったんです。知人女性1人と、友人のモテ男にも同席してもらって。で、彼はナンパはできるんだけどセックスはできないって言うんです。そういった話をしつつ食事して。それから4カ月後、「あの日を境に17人とヤリました。全員ストリートナンパで、海の家でも乱交しました」と連絡をしてきたんです。

ドル ずいぶん急ですね!

しみけん 食事会のとき、僕らの話の回し方や気遣いなどのコミュニケーションの取り方を、彼なりに発見したようなんです。彼は前から僕の本やnoteを読んでいて前知識があったので、当日に答えあわせができたんだと思います。

――雑誌全盛期の頃は、ファッション誌「POPEYE」(マガジンハウス)などで頻繁にHOW TO SEX企画がありましたが、今は一般男性誌でそうした企画はないですよね。

ドル 当時は、そういう雑誌の情報で「みんなやってるから、俺もこうしないとやばい」と煽られ、セックス向上へ意識を向けていたように思います。だからやっぱり、女性から教えるのはダメなんだろうな。しみけんさんのような頼れるお兄さんがアイコンになって、「しみけんがこう言ってたぜ」「部室でしみけんの動画見ようぜ」って、男子の中で普通になってほしいです。

しみけん 啓蒙活動として、この『しみけん式「超」SEXメソッド』を何冊か、男子高校生が通りそうな河原やヤンキーがたまりそうなゲームセンターに捨てましょうか。

ドル それいいですね!

「セックス説教おばさん」が必要

――昭和生まれの世代は、“河原でカピカピになったエロ本をみんなで見る”という現象がありましたが、今の20代はそうした経験はないんでしょうか。

しみけん みんな、エロいものはスマホで1人で見ちゃうからね。

ドル 今なら、グループLINEにエロいURLを「間違えちゃった」と言って投下するとか? 女性も、彼氏とのLINEでそれができそうです。

しみけん あと、お節介な第三者が突然現れるのも効果的です。彼氏と彼女の間では解決しないことを、顔も知らない第三者がズケズケとやってきて、ズバズバ叱り倒すとか。

ドル セックス説教おばさん、ですね。

しみけん セックス説教おじさんもね。新しいビジネスかもしれないな、これは。「レンタルおじさん」のように、説教おじさん・おばさんを派遣できるようにするとか。

ドル ラブホテルでヤッてるとき、バーンッ! とドアを蹴破って入ってきて、「あんた! こうするのよ!」って。そうすると、お互いの関係性にヒビが入らず、おばさんが悪者になるから、いいかも。

しみけん 蹴破ったら弁償しなきゃ(笑)。セックス中じゃなくてもいいんです。喫茶店や公園に2人でいるところに突然僕らがやってきて、説教をかますのでもいい。

ドル 出会い頭、「どう? クンニしてる?」って聞くとかね。最悪のばばあだよ(笑)! 実際にわたしは、ゴールデン街でお店をやっているんですが、若いカップルが来店するとあえて他の女性客とガールズトークをしつつ、カップルに「こういう行為はダメなんだな」ということを暗に伝えるようにしています。草の根活動を頑張っているんです。

――セクハラの捉え方も、人によって異なるところがあります。そうすると、職場恋愛やそもそも恋愛する男女そのものが減っていくようにも思います。

ドル 逆に、出会い系アプリなどのツールがあるから、職場恋愛に縛られずにセックスできるという明るい面もあります。結婚は職場で、遊びはアプリで、と意識をはっきりわけることができる。

しみけん 家庭にセックスを持ち込むと、セックスレスや不倫で悩みますから、恋愛と結婚、セックスは、それぞれタスクをわけるべきだと思います。

 あと、セクハラの件ですが、ハラスメントって、今までコミュニケーションを取るのが苦手でやられっぱなしだった人が、「これはいい武器を見つけた」と間違った使い方をしている側面もあります。なんでも「ハラスメントだ!」と言えば、自分の身が守れると思っている人がいますが、それは違うと思います。

 これは僕の持論ですが、対等な立場でのセクハラって、「おっぱい揉ませてよ」「嫌だよ」の、1ターンならセクハラじゃなくて。拒絶したあとでまた、「いやいや、揉ませてよ」の2ターン目が来ると、それはセクハラ。

ドル 拒絶の意思表示があるのに繰り返すのは、嫌がらせでしかないですからね。

――そんな令和の時代によりよいセックスをするために、どうすればいいでしょうか。

しみけん 男性は、断られることや失敗することを、練習する。女性は、相手を変えるよりも自分が変わる方が楽だと知った上で、男性に対し希望を持たせる言い方を練習する。ハラスメントについて、自分のなかで線引きをはっきりさせる、ですね。

ドル 結局、自分の弱み見せたり正直になることが、自分がもっとも楽になる手段なんですよね。「女に指摘されると腹が立つ!」と思ってしまったり、「相手に弱みを見せられない」というかたくなな気持ちを抱きすぎると、楽になれない……と、みんなが思える世の中になればいいなと思います。心を裸にしないと、セックスはできませんからね。

(取材・文=有山千春)


しみけん
千葉県生まれ。男優歴22年、出演本数1万本、経験人数1万人を超えるトップAV男優で、性の求道者。趣味は筋トレ、クイズ、ダンス、食べ歩き。近著に『しみけん式「超」SEXメソッド 本物とはつねにシンプルである』(笠倉出版社)、ほか著書多数。

ドルショック竹下
体当たり取材を得意とする、体験マンガ家。2016年に女児を出産。近著に電子書籍『挿れるモノ拒まず~旦那がいてもシてみたいんです~』(大洋図書)ほか多数、サイゾーウーマンにて『ヤリマン引退!~マンを持して育児はじめました~』を連載。