シャープ公式Twitter、一般人との絡みに「気持ち悪い」の苦言も――専門家に問う「炎上リスク」

 大手企業の公式Twitterアカウントらしからぬ“ゆるい”ツイートが話題を集め、2019年11月末現在で62万以上のフォロワー数を誇るシャープ株式会社。SNS上で「シャープさん」と呼ばれている同アカウントは、時に一般ユーザーとシャープ製品についてざっくばらんにやりとりをしたり、自社に対する赤裸々な本音を漏らしたり、時事に絡めた笑えるネタ投稿をしたり、はたまた他社の企業公式アカウントとの絡みも見せるなど、活発なTwitter活動を展開している。

 「デジタルマーケティング戦略」情報サイト「DIGIDAY」に掲載された記事「中の人が語る、『 シャープさん 』が受け入れられる理由:公式 Twitter アカウント運営の極意」では、同アカウントを運営するシャープマーケティングジャパンのマーケティング統括部・デジタルマーケティング部主任、山本隆博氏が、「シャープさん」を、「企業アカウントでありながらできるだけ生活者から承認され、友人・知人になれないか、というTwitter上での試み」と、説明しており、事実、「シャープさん」を身近な存在に感じ、ファンになった一般ユーザーは多いものとみられる。

 しかし、そんな「シャープさん」に、先ごろTwitter上で、一般ユーザーから“苦言”が呈される一幕があった。これまでも、一般ユーザーと積極的に交流を図ってきた「シャープさん」だが、ある特定の女性ユーザーと以前から特に懇意にやりとりをしていることに、「企業公式アカウントとして、いかがなものか?」「ノリが寒いし、気持ち悪い」「マイナスイメージにしかならない」などの声が上がったのだ。この女性ユーザーも、「シャープさん」を上回る67万人超のフォロワーを抱える人物だけに、ネットユーザーの注目が否が応でも集まる中、両者のやりとりは続けられてきたのだが、「シャープさん」の振る舞いは、企業にとって「リスク」になってしまうのではないか――そこで今回、『ネットで勝つ情報リテラシー』(筑摩書房)の著者であり、講演活動などを通して「ネットで絶対に失敗しない方法」を伝えている、ネットリテラシー専門家の小木曽健氏に取材を行い、「シャープさん」の一件を踏まえ、企業公式アカウントが“炎上しないために気をつけるべきこと”を聞いた。

「シャープさん」はインフルエンサー

 まず、小木曽氏は、「シャープさん」について、ゆるいツイートをするさまざまな企業公式アカウントの中でも「別格」の存在であり、「人気No.1企業公式アカウント」と言っても過言ではないと、評価する。

「『シャープさん』は、企業公式アカウントでありながら、もはやインフルエンサーと同レベルの影響力を持っています。例えば冷蔵庫を購入する際、『特にこだわりはない。だったら「シャープさん」のところの製品を買おう』というケースもあり得るレベルです。『この人の意見を聞こう』と思わせることも、インフルエンサーの特徴ですから、もう十分その定義に当てはまるでしょう」

 インフルエンサーレベルにまで登り詰めた企業公式アカウントは、小木曽氏いわく「ほかに思い当たらない」とのこと。「近いところで言えば、防衛大臣の河野太郎さんの公式アカウントくらいでしょうか。河野さんはTwitter上で、自分を攻撃してくる敵までも巻き込んで、“笑い”を作り出し、味方にしてしまうという、ずば抜けたコミュニケーション能力を持っています」。

「同様に『シャープさん』も、ツイートの視点は斬新だし、言い回しも巧み、また投稿タイミングが的確であるなど、コミュニケーション能力がずば抜けて高い。“中の人”である山本さんは、ご自身を『現実では途端に喋らなくなる人』と評しているそうですが、きっと現実でもコミュニケーション能力が高いはずです。『現実世界でだけ・・、ネットの世界でだけ・・、コミュニケーション能力が高い人』というのは、普通いないですからね。もし山本さんが個人でSNSアカウントを開設したら、『シャープさん』ほどではないにせよ、人気のアカウントになると思います」

 そんな「シャープさん」が企業にとってリスクになり得るとすれば、「もちろんそれは、山本さんが会社を辞めた時。『シャープさん』の代わりなんて誰もできません。『アニメ声優の交代』以上のインパクトがあるでしょうね」と小木曽氏。ほかの企業でも、公式アカウントが、ある程度の人気を博したものの、“中の人”がプレッシャーに耐え切れなくなって辞めてしまう例は決して珍しくないそうだ。そんな中、「山本さんは2011年からの長期間、公式アカウントを運営されています。その点もまたすごいなと感じます」という。

 では、そんな「シャープさん」が、特定の女性ユーザーと懇意にやりとりをしていることに対し、苦言が出ている今回の騒動についてはどうだろう。企業公式アカウントとしては、炎上を招きかねない行為のようにも思うが……。

「そもそもこんなネタが話題になるのは、『シャープさん』が人気者で、好かれているからでしょう。『シャープさん』と女性ユーザーとのやりとり内容は、違法性も反社会性もなく、Twitterの利用規約にも違反していない、つまり“炎上の文脈”がないんです。相手の女性ユーザーは、時にセクシャラスなツイートも投稿するので、そんなアカウントに絡む『シャープさん』を不快に感じる人がいてもおかしくはないのですが、でも、それは単に『好き嫌い』の問題です。『企業公式アカウントとして、羽目を外しすぎている』と不快に思う向きもあるかもしれませんが、もともと『羽目を外したアカウント』で人気を得たわけですし、なにより『好き嫌い』は『良し悪し』ではありません。この件は『嫌なら見なければ良い』というたぐいの話でしょう。今後もし、この話題が拡大しても、大して炎上しないと思います」

 企業公式アカウントが、一般ユーザーと絡むことが珍しい中、「シャープさん」はそれを積極的に行っており、「中には『自分も絡んでほしい』と思っている人もいるのでは」と、小木曽氏。ある種、アイドル的存在となった「シャープさん」だけに、特定のユーザーと絡むことに批判が出るのは、「アイドルが恋愛したら怒るファンの気持ちに通ずるように思う」そうだ。

「『シャープさん』は、人間ではないけど人格はあるという『ゆるキャラ』に近い存在なのではないか。もともと『シャープさん』は、中性的で落ち着いており、安心感を与えるキャラクターです。そんなアカウントが、きわどい投稿もする特定ユーザーと絡む姿は、ファンにとって『着ぐるみを脱ぎかけている』ように映るのかもしれません」

 “中の人”の個性が見えるのが面白い、けれど見えすぎるのも嫌――ということかもしれないが、何をもって「見えすぎ」とするかは、人それぞれの感覚なのだろう。

 なお、小木曽氏いわく、一般的に企業公式アカウントの炎上事例では、圧倒的に「誤爆」が多いという。2016年、フォロワー数100万人のマクドナルド公式Twitterアカウントが、会社への愚痴をツイートし、即座に削除する一件もあった。

「中の人の個性を活かしている『シャープさん』とは違い、マクドナルドの公式アカウントはインフォメーションに特化したものでした。なのに突然、社内会議の愚痴がツイートされたのですから、大騒ぎ。ある意味、非常に面白かったのですが、“中の人”は泣きたかったでしょうね。こうした“誤爆”が起こるのは、併用しているプライベートアカウントの切り替えミスが原因です」

 また、人気アカウントになると、“中の人”が「個人的な主義・主張」を発信して炎上するケースもあるそうで、政治や外交に関する持論を展開して大炎上、アカウント閉鎖に追い込まれるケースもあるそうだ。

「おそらく『シャープさん』は、公式アカウント専用の端末を使うなど、誤爆を防ぐ対策をちゃんとしていると思います。また“中の人”が、『シャープさん』という人格を、ちゃんと定義して、継続的に演じられているようにも感じますね。だからこそ、大きな事故もなく長年続けてこられたのではないでしょうか」

 さらに、小木曽氏は、最近ネット上に増えている「お気持ちヤクザ」についても言及。「今回の騒動とはちょっと異なりますが、最近は『自分が不快だから』とか『私が傷つくから』という理由だけで、気に食わないポスターや広告などの『表現』を撤回させようとする人たち、いわゆる『お気持ちヤクザ』が増えています。その表現が『嫌いだと主張する』のと、『存在することを認めない』のは全く別。前者は表現の自由だし、後者はその否定ですから。情報リテラシーを理解している人から見れば、彼らの主張は『表現の自由』の全否定で、自らの首を絞める行為でしかありません」と苦言を呈する。一方、そういった人たちからの言いがかりを避けるためにも、「企業のアカウントなら『政治』『外交』『宗教』『下ネタ』の投稿は避けた方が無難でしょうね」という。

 もし企業が「公式アカウントは作りたいが、一切のリスク、批判は避けたい」というスタンスであれば、「そもそもアカウントを作らない方がいい」と小木曽氏はピシャリと指摘。ネット時代を迎え、日本の企業は“批判されること”を極端に恐れ、批判回避を最重視する傾向が、以前にも増して強くなったそうだ。しかし、それでは、「多くの人に突き刺さる情報発信はできないし、ファンになってもらうことも難しいでしょうね」という。

「絶大な人気を誇る『シャープさん』だって、今回のように、一部から『不快』『嫌い』と言われるのです。情報発信には必ずレスポンスがあり、その中には批判や雑音も存在します。これは避けられない。その事実を認め、それを前提にどう備えるのか、どんな社内体制を整備するのか、そういった議論ができる企業こそが、今後SNSの時代で強みを発揮できるのだと思います」

 批判があるのは「大前提」と腹を据えることが大事だと、小木曽氏は言う。「シャープさん」は、さまざまな批判をどう受け止め、また対応しているのか、ぜひ聞いてみたいところだ。

小木曽健(おぎそ・けん)
IT企業でCSR部門の責任者を務める傍ら、書籍執筆や連載、メディア出演などを通じて、情報リテラシーに関する情報発信を幅広くおこなっている。著書に『ネットで勝つ情報リテラシー』(筑摩書房)、『11歳からの正しく怖がるインターネット: 大人もネットで失敗しなくなる本』(晶文社)など。

面白さとそれっぽさの兼ね合いと歴史警察対策と。歴史監修はいかに行われているのか

【おたぽるより】

 女体化した戦国武将がミニスカートやビキニ姿で関ケ原の合戦をしているようなコンテンツも珍しくない中、一方で「歴史もの」は歴史警察が跋扈する世界でもある。コンテンツの「歴史監修」は果たしてどのように行われているのか。『学研まんがNEW日本の歴史』(学研)のプロットをはじめ、歴史に関する書籍を多数出版し、歴史監修の業務も行う株式会社榎本事務所、榎本秋氏に「歴史監修」の実態を聞いた。

■最初に行うのが「面白さ」と「それっぽさ」のすり合わせ

――「歴史監修」の仕事として、どのような依頼が来るのでしょうか?

榎本秋氏(以下、榎本)千差万別ですね。「この戦国武将はこういったアクセサリーをつけていて時代的に不自然ではないでしょうか」といったピンポイントな質問から「基本的には創作だから多少フィクションが入ってはいいものの、あまりにも当時の時代背景からすると違和感のあるイラストだけチェックして欲しい」みたいな依頼もあったりします。小説、ゲーム、アニメなど媒体もさまざまです。

 また、毎年夏頃に多いのが翌年のNHK大河ドラマに向けた本です。

――大河ドラマは事前に関連本が沢山出ますよね。

榎本 そういった関連本を出版前に一読し、違和感がないか教えてください、というような依頼もあったりしますね。

――大河ドラマは厳格だと思いますが、今だと歴史上の偉人が女体化してミニスカートを履いていたりとか、コンテンツによって歴史の「それっぽさ」の度合いは大きく異なりますよね。

榎本 ですので、その辺りの温度感の確認は最初に行います。どこまで「それっぽく」するかですね。髪型なども当時のものに忠実に合わせてしまうと、つまらなくなってしまう可能性もありますよね。

――女性向け戦国萌えコンテンツで、全員が剃り跡青々しく髷をきりりと結っていたら、「そこに萌え~」となる人はかなりの好事家に絞られるでしょうね。

榎本 私はあくまで「歴史家」ではなく「歴史が得意な作家兼編集者」という位置づけで監修の仕事を行っています。フィクション作品をより本当っぽく見せるお手伝いですね。

――どの時代の監修依頼が多いですか?

榎本 やはり戦国時代と江戸時代ですね。

 

■「それっぽく」見せるポイントは甲冑と武器と、大河ドラマ

――それっぽく見せるポイントの一例について教えてください。

榎本 例えば戦国ものの場合、防具と武器は重要ですね。1543年に鉄砲が普及したことによって、鉄砲に対応できるよう鎧や具足のデザインが大きく変わったんです。武器も、槍は戦国時代にどんどん長くなっていきました。そういったところはチェックしています。

 また「大河ドラマなど、有名な歴史系コンテンツ」と齟齬がないかも重要なポイントになります。大河ドラマに出てくる事を皆さん本当だと思いますから。違っていると違和感を持たれてしまうんです。

――たとえそれが史実的に本当であろうとも、大河ドラマと違うじゃないかと。

榎本 そうなんです。私は時代小説を書く作家としての仕事もしていますが、江戸時代だとやはり水戸黄門、大岡越前、暴れん坊将軍なんですよね。これらと齟齬があっても、おかしい、と思われてしまいがちです。

――「史実」のほかにも「超有名な歴史コンテンツ」との兼ね合いも求められるんですね。

■歴史警察対策最前線――警察に騒がれないために、避けるべきアレとは?

――歴史というと「歴史警察」もうるさいジャンルですよね。

榎本 そうですね。「断定」するような感じになってしまうと歴史警察の方から違うと言われてしまいますので、それは避けるようお話しすることもあります。「〇〇さんが作った鎧」みたいには書かず、この時代風、にとどめるとか。今は本当にネットユーザーの方が詳しい場合もあるので。 

――「歴史警察」は増えてきたのでしょうか。

榎本 もともといましたが、ネットが広がってきて言いやすくなったから目立ってきたというのはあるでしょうね。

――こういった「警察」の重箱の隅をつつくような指摘は、創作者側のやる気を失わせ、ジャンルを滅ぼすともいわれますが。

榎本 うーん、歴史「警察」だと思うからよくないのであって、そういった人たちも「ファン」なんですよね。 あとやっぱり知識のある人だと、自分の方が「上だ」みたいな気持ちが出てくる人もいますから。

 でも、知識欲があること自体はいいことですよね。そして今は実在の刀や軍艦、偉人や文豪などをテーマにしたコンテンツも増え、コンテンツをきっかけにそのテーマそのものに興味を持つ人も増えています。このこと自体はいいことだと思っています。

 ただ、今はネットにより、ユーザーが公式へ意見を言いやすくなりましたから、何か突っ込まれたときに説明はできるようにしましょうとはコンテンツ会社さんにお話はしています。「ここまでは分かる、これ以上はわからない」という線引きを明確にする。それが歴史監修の仕事だと思っています。 全部調べきれるものでもありませんし、そもそも調べようがない、というケースもありますから。

――「調べようがないケース」とはどういう状況でしょうか。

榎本 「日本に現存する日本刀を全て調べたい」みたいなケースですね。ですが、名の知れた名刀を所有はしているものの、保存上などの理由から公開されていないお宅もあるはずですよね。

 さらに「難易度や調査コストとの兼ね合い」も大切です。こちらは数値なども適当な例ですが「刀が光るエピソードを加えても違和感のない、妖刀っぽい逸話を持つ実在する刀を100本調べてほしい」という依頼の場合、そういった刀を80本調べるのは1か月程度でできるものの、それ以降は2ヶ月調査しても1本も出てこないかもしれず、調査費だけがかかってしまう場合は、それでも100本調べますか?と事前にお伝えします。

――フィクションといえども、むやみやたらに刀を光らせたいんじゃなくて「史実的に光る理由のある刀を光らせたい」というニーズがあるんですね。「ミニスカートの女子が関ケ原を駆ける」とか「ジャニーズみたいな髪型の戦国武将」とか好き勝手にやってるように見えて、結構コンテンツ側も「それっぽさ」を考えているんですね。

榎本 特に今は、戦国ゲームが流行っていますから。差別化を図っていかないと苦しいというところで 「それっぽさ」にもこだわられるところが増えたのかなとは思います。

**

 後編では引き続き榎本氏より「それっぽく」見せるためのポイントやトリビアをいくつか紹介する。これでもう歴史警察なんて怖くない!

(文/石徹白未亜 [http://itoshiromia.com/])


面白さとそれっぽさの兼ね合いと歴史警察対策と。歴史監修はいかに行われているのかの画像2■学研まんがNEW日本の歴史

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◆石徹白未亜の過去記事はこちら(【おたぽる】【日刊サイゾー】)から◆

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面白さとそれっぽさの兼ね合いと歴史警察対策と。歴史監修はいかに行われているのか

【おたぽるより】

 女体化した戦国武将がミニスカートやビキニ姿で関ケ原の合戦をしているようなコンテンツも珍しくない中、一方で「歴史もの」は歴史警察が跋扈する世界でもある。コンテンツの「歴史監修」は果たしてどのように行われているのか。『学研まんがNEW日本の歴史』(学研)のプロットをはじめ、歴史に関する書籍を多数出版し、歴史監修の業務も行う株式会社榎本事務所、榎本秋氏に「歴史監修」の実態を聞いた。

■最初に行うのが「面白さ」と「それっぽさ」のすり合わせ

――「歴史監修」の仕事として、どのような依頼が来るのでしょうか?

榎本秋氏(以下、榎本)千差万別ですね。「この戦国武将はこういったアクセサリーをつけていて時代的に不自然ではないでしょうか」といったピンポイントな質問から「基本的には創作だから多少フィクションが入ってはいいものの、あまりにも当時の時代背景からすると違和感のあるイラストだけチェックして欲しい」みたいな依頼もあったりします。小説、ゲーム、アニメなど媒体もさまざまです。

 また、毎年夏頃に多いのが翌年のNHK大河ドラマに向けた本です。

――大河ドラマは事前に関連本が沢山出ますよね。

榎本 そういった関連本を出版前に一読し、違和感がないか教えてください、というような依頼もあったりしますね。

――大河ドラマは厳格だと思いますが、今だと歴史上の偉人が女体化してミニスカートを履いていたりとか、コンテンツによって歴史の「それっぽさ」の度合いは大きく異なりますよね。

榎本 ですので、その辺りの温度感の確認は最初に行います。どこまで「それっぽく」するかですね。髪型なども当時のものに忠実に合わせてしまうと、つまらなくなってしまう可能性もありますよね。

――女性向け戦国萌えコンテンツで、全員が剃り跡青々しく髷をきりりと結っていたら、「そこに萌え~」となる人はかなりの好事家に絞られるでしょうね。

榎本 私はあくまで「歴史家」ではなく「歴史が得意な作家兼編集者」という位置づけで監修の仕事を行っています。フィクション作品をより本当っぽく見せるお手伝いですね。

――どの時代の監修依頼が多いですか?

榎本 やはり戦国時代と江戸時代ですね。

 

■「それっぽく」見せるポイントは甲冑と武器と、大河ドラマ

――それっぽく見せるポイントの一例について教えてください。

榎本 例えば戦国ものの場合、防具と武器は重要ですね。1543年に鉄砲が普及したことによって、鉄砲に対応できるよう鎧や具足のデザインが大きく変わったんです。武器も、槍は戦国時代にどんどん長くなっていきました。そういったところはチェックしています。

 また「大河ドラマなど、有名な歴史系コンテンツ」と齟齬がないかも重要なポイントになります。大河ドラマに出てくる事を皆さん本当だと思いますから。違っていると違和感を持たれてしまうんです。

――たとえそれが史実的に本当であろうとも、大河ドラマと違うじゃないかと。

榎本 そうなんです。私は時代小説を書く作家としての仕事もしていますが、江戸時代だとやはり水戸黄門、大岡越前、暴れん坊将軍なんですよね。これらと齟齬があっても、おかしい、と思われてしまいがちです。

――「史実」のほかにも「超有名な歴史コンテンツ」との兼ね合いも求められるんですね。

■歴史警察対策最前線――警察に騒がれないために、避けるべきアレとは?

――歴史というと「歴史警察」もうるさいジャンルですよね。

榎本 そうですね。「断定」するような感じになってしまうと歴史警察の方から違うと言われてしまいますので、それは避けるようお話しすることもあります。「〇〇さんが作った鎧」みたいには書かず、この時代風、にとどめるとか。今は本当にネットユーザーの方が詳しい場合もあるので。 

――「歴史警察」は増えてきたのでしょうか。

榎本 もともといましたが、ネットが広がってきて言いやすくなったから目立ってきたというのはあるでしょうね。

――こういった「警察」の重箱の隅をつつくような指摘は、創作者側のやる気を失わせ、ジャンルを滅ぼすともいわれますが。

榎本 うーん、歴史「警察」だと思うからよくないのであって、そういった人たちも「ファン」なんですよね。 あとやっぱり知識のある人だと、自分の方が「上だ」みたいな気持ちが出てくる人もいますから。

 でも、知識欲があること自体はいいことですよね。そして今は実在の刀や軍艦、偉人や文豪などをテーマにしたコンテンツも増え、コンテンツをきっかけにそのテーマそのものに興味を持つ人も増えています。このこと自体はいいことだと思っています。

 ただ、今はネットにより、ユーザーが公式へ意見を言いやすくなりましたから、何か突っ込まれたときに説明はできるようにしましょうとはコンテンツ会社さんにお話はしています。「ここまでは分かる、これ以上はわからない」という線引きを明確にする。それが歴史監修の仕事だと思っています。 全部調べきれるものでもありませんし、そもそも調べようがない、というケースもありますから。

――「調べようがないケース」とはどういう状況でしょうか。

榎本 「日本に現存する日本刀を全て調べたい」みたいなケースですね。ですが、名の知れた名刀を所有はしているものの、保存上などの理由から公開されていないお宅もあるはずですよね。

 さらに「難易度や調査コストとの兼ね合い」も大切です。こちらは数値なども適当な例ですが「刀が光るエピソードを加えても違和感のない、妖刀っぽい逸話を持つ実在する刀を100本調べてほしい」という依頼の場合、そういった刀を80本調べるのは1か月程度でできるものの、それ以降は2ヶ月調査しても1本も出てこないかもしれず、調査費だけがかかってしまう場合は、それでも100本調べますか?と事前にお伝えします。

――フィクションといえども、むやみやたらに刀を光らせたいんじゃなくて「史実的に光る理由のある刀を光らせたい」というニーズがあるんですね。「ミニスカートの女子が関ケ原を駆ける」とか「ジャニーズみたいな髪型の戦国武将」とか好き勝手にやってるように見えて、結構コンテンツ側も「それっぽさ」を考えているんですね。

榎本 特に今は、戦国ゲームが流行っていますから。差別化を図っていかないと苦しいというところで 「それっぽさ」にもこだわられるところが増えたのかなとは思います。

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 後編では引き続き榎本氏より「それっぽく」見せるためのポイントやトリビアをいくつか紹介する。これでもう歴史警察なんて怖くない!

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「フェミニストって、なに?」座談会【後編】日常で“違和感”“疑問”を感じたら変わるとき

  日本国内でも「フェミニズム」や「フェミニスト」という言葉を耳にする機会が増えてい一方で、「フェミニスト」という言葉に「怖い」「ヒステリック」「男嫌い」といったイメージを抱き抵抗感を持っている人も少なくない。そんな「フェミニズム」に対する疑問のあれこれを、前回に続きフランス語翻訳家の相川千尋さん、編集・ライターの赤谷まりえさん、フェミニズムZINE『NEW ERA Ladies』を制作しているデザイナーの宮越里子さんとsuper-KIKIさんに投げかけた。

【座談会出席者プロフィール】
相川千尋……フランス語翻訳家。スウェーデン発の女性器・生理コミック『禁断の果実 女性の身体と性のタブー』(花伝社)の翻訳を手掛け、ヨーロッパの性関係書籍に造詣が深い。現在は、フェミニズムについてのコラムも執筆している。

赤谷まりえ……編集・ライター。日本とアメリカの大学でジェンダーを学び、女子中学生向け情報誌において同誌初となる“性のお悩み相談コーナー”を設け、思春期が持つ性への疑問の解消に努めた。

宮越里子……グラフィックデザイナー。「AERA×LUMINE」、あっこゴリラ・『GRRRLISM』、『ミュージック・マガジン』(ミュージック・マガジン)『ウーマン・イン・バトル』(合同出版)装丁など、エディトリアル、グラフィックデザインを中心に手がける。共同制作として、フェミニズムZINE『NEW ERA Ladies』企画・デザイン担当。

super-KIKI……2011年よりデモや抗議活動に参加しながら自分の身の周りに起きている問題から感じ取ったメッセージを、シルクスクリーンやステンシル等DIYツールを使いアパレルグッズなど身につけられるものに落とし込んだアイテムを中心に制作。『NEW ERA Ladies』ではイラスト、ファッション、漫画レビューを担当。

(■前編:「フェミニストって、なに?」座談会【前編】ネットでヒステリックで怖いと言われるのはなぜ?

“クソリプ”から見えた、女性を見下す社会構造

――フェミニズムの看板を掲げてSNSをやっている中で、クソリプ(まったくの見当外れで、気分を害するような返信)や心ない言葉を投げかけられたことはありますか。

全員 ありますね。

super-KIKI(以下、KIKI) 去年の4月に新宿の東口で「私は黙らない」という街宣をやったんですよ。財務省の福田淳一前事務次官が女性記者にセクハラをした時、麻生太郎副総理兼財務相が「こいつの人権はないのか」みたいなことを言ってかばったことがきっかけで、友人のフェミニストたちが声をあげて抗議街宣をやることに。10人ぐらいで写真を撮って、「FUCK SEXISM」と言うあおりをつけて、SNSに告知画像をアップしました。

宮越里子(以下、宮越) その写真自体はちょっとギャング風で、いわゆる「女性らしい」とされるイメージからは離したんです。

KIKI 私たちは意図的に下品と言われる言葉を使って「女性らしさから抵抗する」表現をしたんですけど、それが案の定炎上して。下品だっていう批判ならまあその通りなんで(笑)わかるんですが、「FUCK SEXISM」をGoogleで翻訳した人から、「『性差別とセックスしろ』っていう意味なんだけど大丈夫ですか(笑)?」という誤訳が送られてきました。この文言は、世界中の運動で使われているポピュラーなものだし、最初は「アホだな〜」とスルーしていたんですけど、それがもともとの告知投稿の倍近くRTされてまして。バイアスかかってない状態だったら、多くの人が誤訳だってわかると思うんです。でもそれを「こっちが正解だ」と歪曲せずにいられない。こうやって無理矢理にでも女性をバカな存在だと仕立て上げていく、社会的位置を下げていく。そうして今の男性優位社会が作られるんだなーと身に染みてわかった瞬間でしたね。

 あとは、「ブス」みたいなのはしょっちゅう来る。それが「女を傷つけるワード!」って思っていたら勘違い。そういうとこだぞって感じですね。

宮越 そうそう、「モテない」とかね。女性は男性に評価されて当然っていう思い込みが激しすぎる。「女は全員男が好き」「顔で人の価値が決まる」「全ての人に恋愛感情が必ずある」っていう前提は視野が狭い。見た目が「女性っぽい」からって、性別や性的指向、愛についてまで勝手にカテゴライズしてくるから想像力がないんだなって、同情しちゃいます。

相川 私は、たまにとんちんかんな人から返信がくるんですけど、基本スルー。リプライする時間がもったいないし、するなら1回500円とか1,000円とかもらいたいぐらいです。

宮越 私は反対にとんちんかんな返信に反論することで自分を訓練しています。個人的な趣味で、「SNS道場」って呼んでいるんですけどね(笑)。常にやっているわけではもちろんないんですけど、「あ、こう言ったら通じるんだ」と発見があるし「次、それをNEW ERAに書いてみよう」みたいな。だから全部私にとっては“肥やし”なんですよ。

赤谷まりえ(以下、赤谷) 「SNS道場」というとらえ方、すごい良いと思う! そのやりとりを見ている外野も「こう返せばいいのか」ってわかったりするよね。

相川 同じ考えを持っている人がいるというアピールにもつながるし、自分は言う勇気がなかった……っていう人の気持ちを代弁することになるかも。ただ、反論する勇気がなくて恥ずかしいと思うことがあるかもしれないけど、別に言えないことが悪いことじゃないと思います。

宮越 まったく悪いことじゃないですね! そこは強調した上で、SNS道場で学んだことですが、自分が伝えたい話を変えられても軸がブレなければ理解されることも多いです。Twitterから少し離れますが、ある男性から制作を依頼されて、材料費以外は対価をもらっていないのに「パトロンだった」と言われて。その男性に「事実ではないし、独立した女性に対して、保護者ヅラしているような態度は侮辱なのでは?」と疑問をぶつけたんです。そしたら、返ってきた言葉は謝罪ではなく「それは女性差別じゃない」という言い訳と言葉尻を捕まえた批判。普段は論理的な思考を持っている人であっても、間違いを指摘されると動揺して、別の話にそらそうとするんですよ。それでも、「最初の質問に答えていませんよね。話そらさないでください」って問い続けることで謝罪の言葉が出てきたので、最初の疑問を何度でも繰り返すことは重要です。この手法は、現実でもネットでも当てはめられるので割と効果があるかなって思ったり。

理解する気がない人に伝える難しさ

――フェミズムの活動をしている中で、なぜ伝わらないんだろう……と絶望を感じる瞬間ってありましたか。

相川 絶望というか、言っても無駄みたいな瞬間はありました。「古き良き日本」っていう文化が残っている会社に勤めている時に、冗談で守衛さんが「早く帰りなさいよ。レイプされちゃうから」って言ってきて。女性の上司に伝えたら「そんなの気にしないで大丈夫よ」って。言っても無駄なんだ……と思ってしまいました。

宮越 確かに女性で「そんなこと気にしなきゃいいのよ。強くなりなさいよ」っていう人いますよね。

KIKI きっとそうしないと生きていけなかったとか、その方が生きやすかったりとか、生き残り術を作った背景があったんでしょうね。切ない。

赤谷 私はとある編集会議で、プライドパレードが話題に上った時、「俺、本当にこういうの嫌なんだよね、ただ騒いでるだけでしょ」と言った男性編集者がいて。なぜ“騒いでいる”のかっていう部分が、大切なのに。セクシュアルマイノリティーがどうしてパレードをするのか、特に疑問を抱かないし、知ろうとしない。そのショックが大きすぎて「パレードには歴史があって、大事なお祭りなんですよ」しか言い返せなくて、すごく落ち込んだことがありました。

宮越 傷ついた方が、説明しないといけないしんどさっていうのは確かにありますね。

――「騒いでるだけ」は絶望して、対話する気を失いますね。

KIKI 絶望とはちょっと違うかもしれませんが、うちらの親世代(70代)というか50代以降の人と話すと、フェミニズムにかなり抵抗ある人が多いみたいで、この人たちに届けるのは相当な労力がいるなーと思ってますね。

宮越 もちろん、世代でカテゴライズはしたくないんですけどね。前に、「女性差別やLGBTQ差別をやめよう!」という主旨のワークショップに参加した際、60代ぐらいの男性が「勉強しにきました」って話していたのを見たことがある。速攻、失言をして怒られていたけど(笑)。でも、学ぼうって姿勢と叱られる準備ができている場は大事ですよね。

KIKI 親世代の人たちは幼い頃から家庭や社会で「男性は女性を守るもの」「男性が上に立たなくてはいけない」みたいな考えが正しいと言われてきたから。そういう考えを蓄積してきた世代が、私たちに何か言われたからって変わるのはすごく難しいなと思う。私の父も岩みたいな人間なので、動かすことは難しい……。でも身近な存在だからこそ言い続けますけどね。あと、政治家や目に見える権力者に対しては、声をあげ続けないといけないなぁと。

相川 一人一人にわかるまで丁寧に教えてあげる必要もないかなと思う。あとフェミニストの中でも言ってることがちょっと物足りないとか、方向性が違う人っているじゃないですか。そうなると連帯しづらいっていうのもあるんですが、でも、もっと大きな敵に向かって連帯しなきゃって思っています。

――最後に皆様の考えるフェミニズムについて教えてください。

宮越 最初に読んだベル・フックスの『フェミニズムはみんなのもの』(新水社)という本から引用させてもらうと、「フェミニズムとは性に基づく差別や搾取や抑圧をなくす運動や思想」という考えが第一にあります。シスヘテロ(生まれた時に法律で決められた性別と違和がなく、異性愛)の男性中心社会から開放された上で、新たな”中心”と”周縁”を作らないことが私の考えるフェミニズムです。

相川 フェミニズムの有名なスローガンで「個人的なことは政治的なこと」っていうのがあるんです。日常で自分が感じる、モヤモヤや引っかかり、ザラッとした違和感が制度や構造、社会など大きい部分につながっていくことだと理解するのが大切だと思っています。

赤谷 フェミニズムを宗教やルールのような存在にしてしまう人っているんですけど、私は「本人がより生きやすくなるために使う道具の一つ」だと思っています。フェミニズムは従う種類のものではない。誰もが生きやすくなるために使う一つの思想。「自分のことを決めてきたのは、実は自分ではなくて、社会や世間や他人の価値観・すり込みだったのかも」ということに気づくため、そして理解するための道具だととらえています。

KIKI まず、私たちが決められた性によって縛られていることや、抑圧されていることを認識するのがフェミニズムの一歩なのではないでしょうか。縛っているロープがどこへつながっているのか、誰がどうやって縛っているのか。そして、自分がそのロープを握ってしまってはいないか。さらに、どうやったら解けるのかと考えることがフェミニズムなのではと思います。“ロープ”は加害や暴力のシステムだったりするので、自分でもしていないか、誰かにされていないかを常に確認していきたいです。

「フェミニストって、なに?」座談会【前編】ネットでヒステリックで怖いと言われるのはなぜ?

  
 日本国内で「フェミニズム」や「フェミニスト」という言葉を耳にする機会が急激に増えている。一方で、「フェミニスト」に対し「怖い」「ヒステリック」「男嫌い」というイメージを抱いている人もいるのではないだろうか。フェミニズムって、一体何なのだろう。フェミニストって、何を目指している人なのだろう。なぜ抵抗感を抱く人がいるの? 「フェミニズム」に対する疑問のあれこれを、フランス語翻訳家の相川千尋さん、編集・ライターの赤谷まりえさん、フェミニズムZINE『NEW ERA Ladies』を制作しているデザイナーの宮越里子さんとsuper-KIKIさんに投げかけた。

【座談会出席者プロフィール】
相川千尋……フランス語翻訳家。スウェーデン発の女性器・生理コミック『禁断の果実 女性の身体と性のタブー』(花伝社)の翻訳を手掛けるなど、ヨーロッパの性関係書籍に造詣が深い。現在は、フェミニズムについてのコラムも執筆している。
赤谷まりえ……編集・ライター。日本とアメリカの大学でジェンダーを学び、女子中学生向け情報誌において同誌初となる“性のお悩み相談コーナー”を設け、思春期が持つ性への疑問の解消に努めた。
宮越里子……グラフィックデザイナー。「AERA×LUMINE」、あっこゴリラ・『GRRRLISM』、『ミュージック・マガジン』(ミュージック・マガジン)『ウーマン・イン・バトル』(合同出版)装丁など、エディトリアル、グラフィックデザインを中心に手がける。共同制作として、フェミニズムZINE『NEW ERA Ladies』企画・デザイン担当。
super-KIKI……2011年よりデモや抗議活動に参加しながら自分の身の周りに起きている問題から感じ取ったメッセージを、シルクスクリーンやステンシル等DIYツールを使いアパレルグッズなど身につけられるものに落とし込んだアイテムを中心に制作。『NEW ERA Ladies』ではイラスト、ファッション、漫画レビューを担当。

「女は怖い」と言われるのはなぜ?

――座談会を開くにあたって、Google検索で「フェミニスト」を入力してみると「女に甘い男」という説明が出てきました。

赤谷まりえ(以下、赤谷) 今でも「女に甘い男」イメージのままなんですかね、悲しいですね。

super-KIKI(以下、KIKI) たまに「僕はフェミニスト」っていう人がいて「おっ?」と思って聞いてると「ドアを開けるよ」みたいなことを言う人がいまだにいる。「フェミニスト=紳士的」みたいな……。

宮越里子(以下、宮越) 田原俊彦の「フェミニスト」っていう曲聞きました? えっと2017年か。フェミニズムについて独特すぎる解釈を乗せた曲で、「ナイトを気取って」「ビーナスのように 時に恥じらいを見せて」とか(笑)吹き出しちゃうけど、笑っていられない面ありますよね。ただこういうふうに勘違いしてる人が多いのは事実かもしれません。男性のフェミニストもいますけどね。

――一方で、ネット上を中心に「フェミニスト=怖い、ヒステリック」といったマイナスのイメージが蔓延しているように感じます。フェミニズムの本来の目標である“男女平等”の社会になれば、現在の男性優位社会で苦しむ男性も生きやすくなるのではないでしょうか。

KIKI 男性の中にも、もちろん生きづらさを感じている人はいて、フェミニズムが問題提起をしていることを共有している人もいます。そういう人たちとは絶対手を組んでやっていきたいし、やっていけるはず。ただ、男性中心社会の中で、敷かれたレールに乗っていることで得をしたり、それこそが正しいと思わされてきた男性たちにとっては、やっぱりそこに気づきたくないからこそ、それを問い直すフェミニストが怖いし、攻撃されたと思うんじゃないですかね。だから多分「怖い」って言われ続けているんだと思います。

赤谷 男性も自分の生きづらさを自覚しにくい社会だし、まだまだ言語化できていないと思います。

宮越 「男性が損をする」と思う人が結構いるのかも。例えば女性専用車両の話になりますが、「シェルター」のような機能がありますよね。地下鉄御堂筋事件をきっかけに性暴力の被害から守るために導入されたけど、「男はすごいぎゅうぎゅうのところに入れられて!」と文句を言う人がいる。どうしたら被害者を救えるのかっていう部分を忘れてますよね。

赤谷 車両が生まれた理由や加害側の問題をちゃんと分析しようとしない。数年前に池袋で痴漢撃退のキャンペーンをやっていたことがあるんですが、被害者の存在に近い女子高生がティッシュ配ってるんですよ。

全員 うわ~。ほんと気持ち悪い……。

赤谷 女子高生に配らすんじゃねえよ! 男子はどこ? みたいな(笑)ただ、今年度の埼玉県警鉄道警察隊のキャンペーンでは、男子高校生も参加していて、報道写真にもしっかり登場してたので、これからももっともっと、性暴力へ対抗する男性の姿を伝えてほしい。痴漢撲滅キャンペーンはまず加害者に近い男側から積極的にやらないといけないと思うし、「フェミニストがうるさい!」って言うなら、女性専用車両ができた背景を一回考えようって。あと、「加害者はなぜ、加害者になってしまうのか」という分析ももっと必要だなと。

宮越 加害者の背景を知ることは、根本的な解決策を探る意味で大事だと思う。

赤谷 けど加害性について真剣に語られることはほとんどないな、という憤りがある。性欲という一面もあるのかもしれないけど、じゃあなぜ「性欲が暴力に転化する男性」がいるのか。それはもっと男性側が本気で考えるべき問題のはずですが、そういう言葉はほとんどない。

宮越 原因が自分にあるって気づくことが怖いんじゃないんですかね。「なんか女怖い」「ヒステリックだから聞く必要ない」と言う方が楽ですし。被害を受けた側からすれば、ヒステリックで何が悪いの? と思いますけど。

相川千尋(以下、相川) うんうんそうそう。怒りを共有できてない社会の方が未成熟ですよ。

――『NEW ERA Ladies』と『禁断の果実』のどちらも、イラストやデザインが楽しいです。社会に対しての“怒り”を全面に感じさせない印象を受けました。

相川 めちゃくちゃ怒っていますよ! でも、入りやすさはあるかもしれません。

KIKI 私たちもかなり怒っていますね。ただ、手に取ってもらいやすいよう意識して制作しています。

宮越 『禁断の果実 女性の身体と性のタブー』はコミックだし読みやすそう! と思って手に取ったんですけど、「女性器に興味を持ちすぎた男ランキング」を読んだ時に、これって私たちの“怒り”とものすごく共通している部分じゃないかなって。ユーモアがあっても“怒り”の感情は隠さないってところ。

相川 多分、現代の日本って怒りがすごく悪い感情と思われているんです。ちょっとでも“怒り”が見えると、読者に引かれてしまうという話を聞いたことがあります。

――『NEW ERA Ladies』を初めて拝見した時に、とにかくかわいい! と思いました。すごくとっつきやすいです。

宮越 楽しそうな見た目でだますのは、デザインの力技です(笑)。「マチズモ(男性優位主義)おじさんの悪口が書いてあります」って言いながらZINEを手売りすると、びっくりしながらもとりあえず面白そうだからって手に取ってもらえます。でも、基本は怒っているし、本当は工夫なんてしなくていい。「手のひらでうまく転がす女性」を求める風潮は受け入れません。

KIKI 怒りと笑いも対極にあるものではなくて、表現次第で境界も結構ぐちゃぐちゃにできるんじゃないかなって。怒りを突き詰めると笑いになるとか、真面目さを突き詰めると笑いになるとか、そういうことって結構あると思っていて。まあ、ストレートな怒りを受け止められない方に問題があるのは前提ですが。

赤谷 “怒り”という感情は、同じ問題意識を持っている者同士はとてもつながりやすい。でも、その怒りをまったく共有・共感できない相手とはなかなか通じないんだと感じたことがあります。その人たちとわかり合うための工夫はいるかなと。だからといって怒りがダメだとはまったく思っていません。日々、怒りのアクセルを踏みまくっている。

宮越 まりえさんが言ってたみたいに、怒りの根本を理解している人や、共有できる人に届けることはもちろん大事なんだけど、それ以外の人たちに伝えるためには、確かに工夫を求められるケースもありますね。

相川 伝え方が大事っていうのもあるけど、“怒り”を持つことが、すごく正当な場面ってあるじゃないですか。怒って当たり前という場面があるということを同時に伝えたいなと思っています。それこそ、フランス革命とか社会が変わる時って、怒りのパワーで変わってきた。優しく丁寧に言っているだけで、聞いてもらえるかっていうと、必ずしもそうじゃない。「怒るのはダメ」というのは、口を塞ぐということですし、気をつけないとって思っています。

―― Twitter上で「フェミニスト」と名乗る人の中には、男性嫌悪や男性への性差別を主張する人もいますよね。

宮越 「ツイッターレディース(※1)」と呼ばれる人たちが数年前から「男児を間引け(※2)」って言い始めた時はさすがに「それは違う」とリプライを送りました。ただ、男性嫌悪をTwitterに投稿する人たちにもそれぞれ背景があるということは考えないといけない。もしかしたら、長い間男性中心社会の中で苦しんできたがゆえに、「男ってクソ」「男女平等とかきれい事は言いたくない!」というミサンドリー(男性嫌悪)的な投稿をしているのかもしれないし。
※1ツイッターレディース……インターネット上に存在する「過激派フェミニストの一種」と言われている
※2男児を間引け……男性嫌悪の思想から、男児を男性というだけで排除しようする考えから出た言葉

相川 ミサンドリーって男嫌いっていうことじゃないですか。でも社会って別に女性に優しくない。極端に言えば、社会は女性のことを嫌いだから、レイプ被害にあった女性へのケアはおろそかになったり、経済格差も生れるなど、女性側にいろんな不利益がある。「女嫌い」の社会は受け入れられて、「男嫌い」という言葉に過剰反応することは、とてもおかしいと思いました。

赤谷 やっと、ジェンダーに対する“もやもや”が議論に上がるようになってきたと思っています。今はとにかく、個人の中に溜まっていた「怒り」を表現する時期なのかな。理不尽さへの怒りが「バン!」と吹き出す黎明期みたいな。SNSは良い意味でも悪い意味でも、日本のジェンダーに対する不満や怒りを可視化させた。悪い意味というのは、Twitter上のやりとりだけでは、複雑な論点を抱えた案件について、議論が深化しにくいから、罵り合って終わり、みたいなパターン。これは多いですよね。

KIKI ほかに表現できる場所がない。学校とか会社で議論が進んでいたらここまでTwitterは極端な形で盛り上がっていないかもね。

宮越 興味がない人の間では話しにくいもんね。ただTwitterって二元論になりがちで。例えば、そういった理由から「性別二元制を乗り越えよう」という話は広まりにくくて、トランスジェンダー(※3)やノンバイナリージェンダー(※4)の人が不在になったり、差別されやすい問題があると思う。
※3トランスジェンダー……性別越境者。生まれた時に与えられたジェンダーと違うジェンダーのあり方で、生活することを選んでいる人。
出典:『トランスジェンダー・フェミニズム』(著:田中玲 インパクト出版会)
※4ノンバイナリージェンダー……自身のジェンダーを男性、女性といった、既存の性別のどちらかに限定しない考えを指す。いわゆる「第三の性」と呼ばれている。

KIKI こうやって直接話すと、「でも、そこは違うよね」といった感じでグレーゾーンを話す隙がある。Twitterだとそれができないし、私なんか違う意見が飛んできた時に顔が見えないことで攻撃性を感じてしまって、憎悪の感情が煽られるんですよ。論理立てて反論できる人はTwitterをやればいいけど、私は無理だからほかのところでやろうという気持ちになってます。

――後編は11月28日(木)更新

『グランメゾン東京』、“食物アレルギー事件”はなぜ起きた? 意外と知らない基礎知識を医師が解説

 木村拓哉が主演を務めるドラマ『グランメゾン東京』(TBS系)。初回平均視聴率12.4%(ビデオリサーチ調べ/関東地区)を記録してから、第5話まで2ケタ台をキープしている。

 本作は、かつてフランス・パリに自分の店を持ち、ミシュランガイド二つ星を獲得したこともあるカリスマシェフ・尾花夏樹(木村)が主人公。3年前、世界の要人を招いた席にシェフとして参加した尾花だったが、料理を食した閣僚が“ナッツアレルギー”を起こしたことで、店も名誉も仲間もすべて失ってしまう。再起をかけ、尾花は東京で世界最高峰の三つ星レストラン「グランメゾン東京」を作ろうと奮闘する……というストーリーだ。

 この物語を動かすひとつの要素として、“食物アレルギー”がある。11月17日放送の第5話では、「グランメゾン東京」のオープン直前、尾花が3年前に起こした“ナッツアレルギー事件”が、週刊誌によって暴露されてしまう。これによりネットは炎上、予約もすべてキャンセルという事態に。レストランのスタッフから責められる尾花だったが、この事件を起こした“犯人”は別人だったことが発覚。尾花は信用を取り戻し、「グランメゾン東京」にも客が訪れるようになった。しかし、この展開に視聴者からはさまざまな声が上がっている。

 そもそも、高級レストランで食物アレルギーが問題になること自体、「想像できない」という人は多い。ネット上には、「高級レストランは管理が行き届いてると思っていたけど、こういうケースって本当にあるの?」「アレルギーの原因になるものを、普通に厨房へ置いておくとは思えない」といった疑問が投稿されている。また、「腕利きのシェフが集まってもこんな事件が起こるなんて怖い」「ナッツアレルギーって、ひどいと死に至るって聞いて恐ろしくなった……」など、食物アレルギーへの恐怖を感じる人も。

 そこで今回、日本医師会認定産業医/内科医・星野優先生に、「グランメゾン東京」で起こった“ナッツアレルギー事件”をめぐる基礎知識について聞いた。

ナッツを食べていないのに“ナッツアレルギー”が起こる!?

 まず星野先生は、高級レストランで客に食物アレルギーが起こるという展開自体について、「十分ありえると思います」という。

「高級レストランでは大抵、予約時やオーダー時にアレルギーの有無などを客に聞くと思いますが、病院での問診ほど詳細について確認することはまれです。つまり、レストランでは客の“自己申告”を頼りにするしかないので、そもそも客自身がアレルギーを把握していなければ、防ぎようがありません」

 「グランメゾン東京」では、客本人もシェフたちも、ナッツアレルギーを把握し警戒していた。しかし、“ナッツオイル”が原因で事件が発生。ナッツそのものは食べておらず、オイルを微量に摂取しただけとみられるが、星野先生は「重度の食物アレルギーであれば、ほんの一口や、 調味料の混入程度でも、急激に反応が出ることがあります」と、その恐ろしさを述べた。

「症状が軽い方であれば『少し湿疹が出る』程度で済むこともありますが、いわゆる“アナフィラキシーショック”という重篤な症状を起こした場合は、喉や気管のむくみに伴い、ぜんそくのような症状から呼吸不全で窒息、また、血圧低下や循環不全に伴いショック状態になり、死に至る危険性もあります」

 「高級レストランなら安心」との認識もあるが、“外食”自体に食物アレルギーの危険が潜んでいると、星野先生は警鐘を鳴らす。

「高級レストランであれば、一般的な食堂などよりは管理が行き届いているでしょう。しかし、きちんとアレルギー食材を除いていたとしても、 調理器具などすべてを洗浄しきれないと、アレルギーが起こることがあります。とはいえ、調理器具をアレルギー別に分けるといった対応は、現実的に難しい。家族のアレルギーを把握し、家庭内で対策することはできても、不特定多数の人が訪れるレストランで同じことをするのは困難でしょう」

 『グランメゾン東京』により、食物アレルギーへの関心が高まっている今、まずは正しい知識を得ることから始めたいものだ。

『グランメゾン東京』、“食物アレルギー事件”はなぜ起きた? 意外と知らない基礎知識を医師が解説

 木村拓哉が主演を務めるドラマ『グランメゾン東京』(TBS系)。初回平均視聴率12.4%(ビデオリサーチ調べ/関東地区)を記録してから、第5話まで2ケタ台をキープしている。

 本作は、かつてフランス・パリに自分の店を持ち、ミシュランガイド二つ星を獲得したこともあるカリスマシェフ・尾花夏樹(木村)が主人公。3年前、世界の要人を招いた席にシェフとして参加した尾花だったが、料理を食した閣僚が“ナッツアレルギー”を起こしたことで、店も名誉も仲間もすべて失ってしまう。再起をかけ、尾花は東京で世界最高峰の三つ星レストラン「グランメゾン東京」を作ろうと奮闘する……というストーリーだ。

 この物語を動かすひとつの要素として、“食物アレルギー”がある。11月17日放送の第5話では、「グランメゾン東京」のオープン直前、尾花が3年前に起こした“ナッツアレルギー事件”が、週刊誌によって暴露されてしまう。これによりネットは炎上、予約もすべてキャンセルという事態に。レストランのスタッフから責められる尾花だったが、この事件を起こした“犯人”は別人だったことが発覚。尾花は信用を取り戻し、「グランメゾン東京」にも客が訪れるようになった。しかし、この展開に視聴者からはさまざまな声が上がっている。

 そもそも、高級レストランで食物アレルギーが問題になること自体、「想像できない」という人は多い。ネット上には、「高級レストランは管理が行き届いてると思っていたけど、こういうケースって本当にあるの?」「アレルギーの原因になるものを、普通に厨房へ置いておくとは思えない」といった疑問が投稿されている。また、「腕利きのシェフが集まってもこんな事件が起こるなんて怖い」「ナッツアレルギーって、ひどいと死に至るって聞いて恐ろしくなった……」など、食物アレルギーへの恐怖を感じる人も。

 そこで今回、日本医師会認定産業医/内科医・星野優先生に、「グランメゾン東京」で起こった“ナッツアレルギー事件”をめぐる基礎知識について聞いた。

ナッツを食べていないのに“ナッツアレルギー”が起こる!?

 まず星野先生は、高級レストランで客に食物アレルギーが起こるという展開自体について、「十分ありえると思います」という。

「高級レストランでは大抵、予約時やオーダー時にアレルギーの有無などを客に聞くと思いますが、病院での問診ほど詳細について確認することはまれです。つまり、レストランでは客の“自己申告”を頼りにするしかないので、そもそも客自身がアレルギーを把握していなければ、防ぎようがありません」

 「グランメゾン東京」では、客本人もシェフたちも、ナッツアレルギーを把握し警戒していた。しかし、“ナッツオイル”が原因で事件が発生。ナッツそのものは食べておらず、オイルを微量に摂取しただけとみられるが、星野先生は「重度の食物アレルギーであれば、ほんの一口や、 調味料の混入程度でも、急激に反応が出ることがあります」と、その恐ろしさを述べた。

「症状が軽い方であれば『少し湿疹が出る』程度で済むこともありますが、いわゆる“アナフィラキシーショック”という重篤な症状を起こした場合は、喉や気管のむくみに伴い、ぜんそくのような症状から呼吸不全で窒息、また、血圧低下や循環不全に伴いショック状態になり、死に至る危険性もあります」

 「高級レストランなら安心」との認識もあるが、“外食”自体に食物アレルギーの危険が潜んでいると、星野先生は警鐘を鳴らす。

「高級レストランであれば、一般的な食堂などよりは管理が行き届いているでしょう。しかし、きちんとアレルギー食材を除いていたとしても、 調理器具などすべてを洗浄しきれないと、アレルギーが起こることがあります。とはいえ、調理器具をアレルギー別に分けるといった対応は、現実的に難しい。家族のアレルギーを把握し、家庭内で対策することはできても、不特定多数の人が訪れるレストランで同じことをするのは困難でしょう」

 『グランメゾン東京』により、食物アレルギーへの関心が高まっている今、まずは正しい知識を得ることから始めたいものだ。

木下優樹菜、“タピオカ騒動”の対応はミスだらけ!? “謝罪の専門家”が「全然だめ」と一刀両断!

 11月18日、木下優樹菜の芸能活動自粛が所属事務所の公式サイト上で発表された。10月上旬に発覚した“タピオカ騒動”により、木下へのバッシングが鳴りやまない状況が続いていたため、活動自粛に至った流れだが、一部ネット上では「もっと早く対応できたのでは」「自粛ではなく引退でいい」など、容赦ない批判の言葉が飛び交っている。

 この“タピオカ騒動”は、木下の姉とその姉が勤務していたタピオカドリンク店の間で起こったトラブルが発端だった。木下は今年7月、自身のインスタグラムに、姉がタピオカドリンク店をオープンさせたと思える宣伝文を投稿したが、10月6日、突如「お姉ちゃんは、一緒にやっていた方に、裏切りのような行動などをされてしまい」などと、姉とタピオカドリンク店店長のトラブルを告発。しかし、翌7日、Twitterのある匿名アカウントにより、木下が店長に送ったとみられるSNSのダイレクトメッセージ(DM)が公開された。そこには「こっちも事務所総出でやりますね」「週刊誌に姉がこういうめにあったって言えるからさ」など、“恫喝”めいた言葉が並んでおり、ネットは大炎上に。これを受け、木下は同9日、インスタ上で「この度は、私の自己中心的な発言により、相手の方、相手の関係者の方々に大変不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございませんでした」と謝罪したが、炎上が収まることはなかった。

 こうした状況を見るに、今回の木下サイドの対応は「悪手」と考えられるが、果たして危機管理のプロの目にはどう映ったのか――今回、各メディアで「謝罪の専門家」と呼ばれる、RMロンドンパートナーズ代表・増沢隆太氏に話を聞いた。

木下優樹菜、間違いの始まりは「DMで証拠を残した」こと

「そもそも人気スターが、ああいった品のないDMを出すこと自体、“全然だめ”なのですが……」

 そう切り出した増沢氏は、一連の騒動における「木下サイドの間違い」そして「炎上が激化した要因」を次のように指摘する。まずは、炎上の直接的な原因となった“恫喝疑惑DM”についてだ。

「DMを送るというのは、つまり『証拠を残してしまうこと』であり、それが間違いの始まりでした。百歩譲って電話だったら、証拠として扱いづらかったのに、テキストとして残したのはまずかったですね。ビジネスの世界で文書というのは、特別な意味があり、証拠能力が高い。しかも木下さんは、普段使用している公式アカウントからDMを送っており、これでは“裁判で通用する証拠”にもなり得るものです。恐らくご本人は、そういったことをまったく理解していなかったのではないでしょうか」

 確かに最近では、SNSのDMやLINEの流出が、芸能人のスキャンダルにつながるケースは少なくない。一般人の中にも、ほかの人に漏らされたくないことは、文面に残さず、直接会って話すという人がいるだけに、木下の行為は「芸能人としてあまりにも危機感がなさすぎた」と言えるだろうが、それ以前に、「事務所のリスク管理がまったくなっていないことこそ問題」と増沢氏。

「木下さんは、インスタのフォロワー数500万人以上という、絶大な影響力のあるインフルエンサーであり、また過去にインスタが炎上したこともあった。そんな彼女のインスタに、騒動の発端となった『姉とタピオカドリンク店のトラブル告発』が投稿されること自体、あり得ないことです。この文面を見る限り、事務所のチェックが一切ないまま、木下さんご本人が、身内から聞いた話を一方的に書いて投稿したのではないかと思いました」

 続けて増沢氏は、爆発的な炎上を招いた原因は、DMを認めた上、一度インスタ上で謝罪したものの、その後“沈黙し続けたこと”だと考察する。

「事務所の力によってなのか、この騒動はテレビで取り上げられることがなかったため、世間の人たちは『このままうやむやにするつもりか』と思っていたのではないでしょうか。そんな中、木下さんがメインゲストとして久々にテレビ出演したのが、10月30日放送の『BACK TO SCHOOL!』(フジテレビ系)。同番組で、木下さんは高校生たちと学校生活を共に過ごし、最後に感謝の言葉を述べながら涙したわけですが、これによって、一気に炎上が激しくなったと考えられます。というのも、同番組で木下さんは、まるでヒロインのように、感動的かつ美しい自分を見せたことにより、世間の『あんなことをしたのに……』という反感を煽ってしまったのです」

 その後、『FNS27時間テレビ』(同、11月2~3日)では、夫であるFUJIWARA・藤本敏史が、爆笑問題・太田光に騒動をいじられる一幕も。ネット社会の現代、「いくら事務所が情報を封鎖しようとしても、多くの人が木下さんの騒動を知っている状況にあった。だからこそ、太田さんがいじったのでしょう」という。こうして騒動勃発から1カ月以上たってから、活動自粛に至ったわけだが、これを増沢氏は「最悪の結果」と評した。

 今回の騒動において、木下は2度謝罪しているが、増沢氏は、その具体的な内容や方法に関しても、厳しい視線を向ける。まず、“恫喝疑惑DM”流出の2日後に、インスタ上に投稿された謝罪文は、「基本的に全てだめです」という。

「ネット上でも散々ツッコまれていますが、この謝罪文は、どう見ても本人が書いたものではない。これまでのインスタ投稿と比較しても、文体や改行の仕方などもまったく違います。事務所主導で、恐らく弁護士などが書いたのだろうなと感じさせるものでしたね。本人が書いたものかどうかは実際に確かめようがないため、『ウソっぽい』だけで燃料投下となります。具体的な内容を見ていくと、『自己中心的発言』とか『不快な思い』とか、差し障りのないきれいな言葉が並び、これでは、相手より自分を良く見せたい、イメージを損ないたくないという本音が丸見え。『自己中心的発言』ではなく、例えば『私の口汚い下品な発言』など、自分がいかに愚かだったかを認めるような表現である必要がありますし、また『不快な思い』という点に関しても、あの脅迫めいたDMを受け取った相手は、不快な思いどころではなく恐怖をも感じたはずです。この謝罪文は、他人事でありつつ、木下さんらしさがないため、人に『ウソっぽい』という印象しか与えないのではないでしょうか」

 そして、そもそも謝罪文をインスタに上げる時点で、「相手ではなくファンへの自己弁護としか取られません。『インスタで謝罪』という選択が根本的に間違いでしょう」と、増沢氏は言う。

 さらに11月18日、事務所の公式サイトで発表された事務所の活動自粛報告には、あわせて木下からの謝罪文も掲載されていた。これを増沢氏はどのように見たのだろうか。

「事務所の発表、また木下さんの謝罪文を掲載したこと自体は事務的なもので、これで火消しになるとは思っていないでしょう。なので、これはこれで良いのではと感じます。問題は、事務所公式サイトでの発表と謝罪だけで終わらせ、本人の謝罪会見なしに活動自粛に入ったことです。本人が逃げ隠れしている状態であることは、この先もずっと指摘され続けるでしょうし、ここまで事態が深刻化したのであれば、本人による直接の謝罪会見を開くべき。それができないのであれば、このまま何年も姿を消す決意をしなければいけないでしょう」

 増沢氏いわく、芸能人の謝罪会見で、関係者がよく間違うのが、「正しい情報を伝えようとしてしまうこと」だという。

「謝罪会見は、世間の『調子に乗りやがって』といったネガティブな反応をどれだけ抑えられるかが肝。その際、『誤解があった』『行き違いがあった』などの正確な情報を伝えたところで、世間は『なるほど、じゃあ、あなたは悪くないね』とはなりませんし、誰もそんなものは求めていないのです。だからこそ、記者会見で集中砲火を浴びても一切言い訳せず、『自分はバカで愚かでした』『自分は頭が悪く、下品だった』などと認めること以外、私は火消しにはならないと思いますね」

 増沢氏は、木下が“元ヤンキー”として知られる点を踏まえ、「元ヤンなりのけじめのつけ方を示すことで、潔さのようなものを世間に伝えられれば、批判が和らぐ可能性もある」と指摘。木下が店長に直接謝罪に行き、和解するのも一つの手だという。

「有名人と一般人の間でトラブルが起こった場合、立場が“圧倒的に上”である有名人が、一般人の元に出向くのは、それ自体が相手にとってプレッシャーになるので、本来やってはいけないことなのです。しかもその行為は、謝る側の自己満足でしかないですしね。しかし、ヤンキー気質である木下さんであれば、『筋を通すために、後先考えず直接謝りに行った』というのなら、アリなのかなと思います」

 しかし、こうした謝罪対応は、本来であれば「流出したDMを『自分が送ったもの』と認めた時点で、すぐに行わなくてはいけなかった」という。結局のところ、表に出ることなく活動自粛に入った木下だが、今後問題になってくるのが復帰時期だろう。その「目安」はどれくらいになると考えられるのか。

「このまま騒動をうやむやにするつもりであれば、中途半端に時間をおいても『逃げた』と言われるでしょうし、やはり5~10年は必要なのでは。それより早くに復帰しようとしても、ネット上のアンチは見逃さず、必ず騒動を蒸し返します。しかし、5~10年という時間がたてば、現在の『美女ママタレ』としてのニーズはなくなる可能性が高いとも思いますね。2012年に発覚したペニーオークション詐欺事件に加担した芸能人の中にも、うやむやにしたまま表舞台から姿を消したり、露出が減った人がいますが、やはりちゃんと表に出て謝罪をしないと、復帰は限りなく難しくなってしまうものなのです」

 謝罪会見を開くにしても、時すでに遅しかもしれないが、時が過ぎ去るのを待ち続けるよりはマシとも考えられる。今後の木下の動向に要注目だ。

増沢隆太(ますざわ・りゅうた)
RMロンドンパートナーズ代表取締役社長。企業や団体など、組織の問題に長年取り組み、危機管理やハラスメント対策を、官公庁、企業・団体で広く行っている。東北大学特任教授として、コミュニケーションやキャリアの講義も担当。『謝罪の作法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『戦略思考で鍛える「コミュ力」』(祥伝社)など著書多数。

木下優樹菜、“タピオカ騒動”の対応はミスだらけ!? “謝罪の専門家”が「全然だめ」と一刀両断!

 11月18日、木下優樹菜の芸能活動自粛が所属事務所の公式サイト上で発表された。10月上旬に発覚した“タピオカ騒動”により、木下へのバッシングが鳴りやまない状況が続いていたため、活動自粛に至った流れだが、一部ネット上では「もっと早く対応できたのでは」「自粛ではなく引退でいい」など、容赦ない批判の言葉が飛び交っている。

 この“タピオカ騒動”は、木下の姉とその姉が勤務していたタピオカドリンク店の間で起こったトラブルが発端だった。木下は今年7月、自身のインスタグラムに、姉がタピオカドリンク店をオープンさせたと思える宣伝文を投稿したが、10月6日、突如「お姉ちゃんは、一緒にやっていた方に、裏切りのような行動などをされてしまい」などと、姉とタピオカドリンク店店長のトラブルを告発。しかし、翌7日、Twitterのある匿名アカウントにより、木下が店長に送ったとみられるSNSのダイレクトメッセージ(DM)が公開された。そこには「こっちも事務所総出でやりますね」「週刊誌に姉がこういうめにあったって言えるからさ」など、“恫喝”めいた言葉が並んでおり、ネットは大炎上に。これを受け、木下は同9日、インスタ上で「この度は、私の自己中心的な発言により、相手の方、相手の関係者の方々に大変不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございませんでした」と謝罪したが、炎上が収まることはなかった。

 こうした状況を見るに、今回の木下サイドの対応は「悪手」と考えられるが、果たして危機管理のプロの目にはどう映ったのか――今回、各メディアで「謝罪の専門家」と呼ばれる、RMロンドンパートナーズ代表・増沢隆太氏に話を聞いた。

木下優樹菜、間違いの始まりは「DMで証拠を残した」こと

「そもそも人気スターが、ああいった品のないDMを出すこと自体、“全然だめ”なのですが……」

 そう切り出した増沢氏は、一連の騒動における「木下サイドの間違い」そして「炎上が激化した要因」を次のように指摘する。まずは、炎上の直接的な原因となった“恫喝疑惑DM”についてだ。

「DMを送るというのは、つまり『証拠を残してしまうこと』であり、それが間違いの始まりでした。百歩譲って電話だったら、証拠として扱いづらかったのに、テキストとして残したのはまずかったですね。ビジネスの世界で文書というのは、特別な意味があり、証拠能力が高い。しかも木下さんは、普段使用している公式アカウントからDMを送っており、これでは“裁判で通用する証拠”にもなり得るものです。恐らくご本人は、そういったことをまったく理解していなかったのではないでしょうか」

 確かに最近では、SNSのDMやLINEの流出が、芸能人のスキャンダルにつながるケースは少なくない。一般人の中にも、ほかの人に漏らされたくないことは、文面に残さず、直接会って話すという人がいるだけに、木下の行為は「芸能人としてあまりにも危機感がなさすぎた」と言えるだろうが、それ以前に、「事務所のリスク管理がまったくなっていないことこそ問題」と増沢氏。

「木下さんは、インスタのフォロワー数500万人以上という、絶大な影響力のあるインフルエンサーであり、また過去にインスタが炎上したこともあった。そんな彼女のインスタに、騒動の発端となった『姉とタピオカドリンク店のトラブル告発』が投稿されること自体、あり得ないことです。この文面を見る限り、事務所のチェックが一切ないまま、木下さんご本人が、身内から聞いた話を一方的に書いて投稿したのではないかと思いました」

 続けて増沢氏は、爆発的な炎上を招いた原因は、DMを認めた上、一度インスタ上で謝罪したものの、その後“沈黙し続けたこと”だと考察する。

「事務所の力によってなのか、この騒動はテレビで取り上げられることがなかったため、世間の人たちは『このままうやむやにするつもりか』と思っていたのではないでしょうか。そんな中、木下さんがメインゲストとして久々にテレビ出演したのが、10月30日放送の『BACK TO SCHOOL!』(フジテレビ系)。同番組で、木下さんは高校生たちと学校生活を共に過ごし、最後に感謝の言葉を述べながら涙したわけですが、これによって、一気に炎上が激しくなったと考えられます。というのも、同番組で木下さんは、まるでヒロインのように、感動的かつ美しい自分を見せたことにより、世間の『あんなことをしたのに……』という反感を煽ってしまったのです」

 その後、『FNS27時間テレビ』(同、11月2~3日)では、夫であるFUJIWARA・藤本敏史が、爆笑問題・太田光に騒動をいじられる一幕も。ネット社会の現代、「いくら事務所が情報を封鎖しようとしても、多くの人が木下さんの騒動を知っている状況にあった。だからこそ、太田さんがいじったのでしょう」という。こうして騒動勃発から1カ月以上たってから、活動自粛に至ったわけだが、これを増沢氏は「最悪の結果」と評した。

 今回の騒動において、木下は2度謝罪しているが、増沢氏は、その具体的な内容や方法に関しても、厳しい視線を向ける。まず、“恫喝疑惑DM”流出の2日後に、インスタ上に投稿された謝罪文は、「基本的に全てだめです」という。

「ネット上でも散々ツッコまれていますが、この謝罪文は、どう見ても本人が書いたものではない。これまでのインスタ投稿と比較しても、文体や改行の仕方などもまったく違います。事務所主導で、恐らく弁護士などが書いたのだろうなと感じさせるものでしたね。本人が書いたものかどうかは実際に確かめようがないため、『ウソっぽい』だけで燃料投下となります。具体的な内容を見ていくと、『自己中心的発言』とか『不快な思い』とか、差し障りのないきれいな言葉が並び、これでは、相手より自分を良く見せたい、イメージを損ないたくないという本音が丸見え。『自己中心的発言』ではなく、例えば『私の口汚い下品な発言』など、自分がいかに愚かだったかを認めるような表現である必要がありますし、また『不快な思い』という点に関しても、あの脅迫めいたDMを受け取った相手は、不快な思いどころではなく恐怖をも感じたはずです。この謝罪文は、他人事でありつつ、木下さんらしさがないため、人に『ウソっぽい』という印象しか与えないのではないでしょうか」

 そして、そもそも謝罪文をインスタに上げる時点で、「相手ではなくファンへの自己弁護としか取られません。『インスタで謝罪』という選択が根本的に間違いでしょう」と、増沢氏は言う。

 さらに11月18日、事務所の公式サイトで発表された事務所の活動自粛報告には、あわせて木下からの謝罪文も掲載されていた。これを増沢氏はどのように見たのだろうか。

「事務所の発表、また木下さんの謝罪文を掲載したこと自体は事務的なもので、これで火消しになるとは思っていないでしょう。なので、これはこれで良いのではと感じます。問題は、事務所公式サイトでの発表と謝罪だけで終わらせ、本人の謝罪会見なしに活動自粛に入ったことです。本人が逃げ隠れしている状態であることは、この先もずっと指摘され続けるでしょうし、ここまで事態が深刻化したのであれば、本人による直接の謝罪会見を開くべき。それができないのであれば、このまま何年も姿を消す決意をしなければいけないでしょう」

 増沢氏いわく、芸能人の謝罪会見で、関係者がよく間違うのが、「正しい情報を伝えようとしてしまうこと」だという。

「謝罪会見は、世間の『調子に乗りやがって』といったネガティブな反応をどれだけ抑えられるかが肝。その際、『誤解があった』『行き違いがあった』などの正確な情報を伝えたところで、世間は『なるほど、じゃあ、あなたは悪くないね』とはなりませんし、誰もそんなものは求めていないのです。だからこそ、記者会見で集中砲火を浴びても一切言い訳せず、『自分はバカで愚かでした』『自分は頭が悪く、下品だった』などと認めること以外、私は火消しにはならないと思いますね」

 増沢氏は、木下が“元ヤンキー”として知られる点を踏まえ、「元ヤンなりのけじめのつけ方を示すことで、潔さのようなものを世間に伝えられれば、批判が和らぐ可能性もある」と指摘。木下が店長に直接謝罪に行き、和解するのも一つの手だという。

「有名人と一般人の間でトラブルが起こった場合、立場が“圧倒的に上”である有名人が、一般人の元に出向くのは、それ自体が相手にとってプレッシャーになるので、本来やってはいけないことなのです。しかもその行為は、謝る側の自己満足でしかないですしね。しかし、ヤンキー気質である木下さんであれば、『筋を通すために、後先考えず直接謝りに行った』というのなら、アリなのかなと思います」

 しかし、こうした謝罪対応は、本来であれば「流出したDMを『自分が送ったもの』と認めた時点で、すぐに行わなくてはいけなかった」という。結局のところ、表に出ることなく活動自粛に入った木下だが、今後問題になってくるのが復帰時期だろう。その「目安」はどれくらいになると考えられるのか。

「このまま騒動をうやむやにするつもりであれば、中途半端に時間をおいても『逃げた』と言われるでしょうし、やはり5~10年は必要なのでは。それより早くに復帰しようとしても、ネット上のアンチは見逃さず、必ず騒動を蒸し返します。しかし、5~10年という時間がたてば、現在の『美女ママタレ』としてのニーズはなくなる可能性が高いとも思いますね。2012年に発覚したペニーオークション詐欺事件に加担した芸能人の中にも、うやむやにしたまま表舞台から姿を消したり、露出が減った人がいますが、やはりちゃんと表に出て謝罪をしないと、復帰は限りなく難しくなってしまうものなのです」

 謝罪会見を開くにしても、時すでに遅しかもしれないが、時が過ぎ去るのを待ち続けるよりはマシとも考えられる。今後の木下の動向に要注目だ。

増沢隆太(ますざわ・りゅうた)
RMロンドンパートナーズ代表取締役社長。企業や団体など、組織の問題に長年取り組み、危機管理やハラスメント対策を、官公庁、企業・団体で広く行っている。東北大学特任教授として、コミュニケーションやキャリアの講義も担当。『謝罪の作法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『戦略思考で鍛える「コミュ力」』(祥伝社)など著書多数。

電車内でのベビーカー利用は「ルール化すべきでない」――ネット上の論争が見落としていること

 ベビーカーで公共交通機関を利用する際、肩身の狭い思いをする人が後を絶たない――ここ何年か、そんな話をよく耳にする。乗客から「邪魔だ」などと直接文句を言われたり、舌打ちされたといった親の体験談がネット上で散見され、親たちへの共感や同情の声が上がる一方、「混雑時にベビーカーで乗って来るのは避けるべき」「スペースを取るからベビーカーは畳んで」「ベビーカー利用者のマナーがなっていないのでは」といった意見も寄せられるなど、“論争”に発展することも珍しくない。

 そんな中、7月31日から、都営大江戸線で「子育て応援スペース」を設けた車両が試験導入されていることをご存じだろうか。これは、市民団体「子どもの安全な移動を考えるパートナーズ」が小池百合子東京都知事と面会し、電車や地下鉄における「子育て応援車両」設置を求める要望書を提出し、実現化されたものだが、実施の告知がされると、ネット上ではこれまた賛否両論が飛び交うことになった。

 大江戸線の「子育て応援スペース」導入開始から4カ月がたとうとする現在、果たして東京都交通局には、どのような反響が寄せられているのだろうか。また今回、「NPO法人せたがや子育てネット」代表理事、「NPO法人子育てひろば全国連絡協議会」理事の松田妙子氏に、子育てをする人たちがストレスなく、公共交通機関を利用できる社会になるために「必要なこと」は何か、話を聞いた。

大江戸線の「子育て応援スペース」に感謝の声

 現在、大江戸線の車両全58編成のうち3編成の3号車と6号車に導入されている「子育て応援スペース」。車内には、子どもに人気のキャラクター「きかんしゃトーマスとなかまたち」を使用した装飾が施されているが、東京都交通局の公式サイトによると、「小さなお子様連れのお客様だけでなく、お年寄りや車いすをご利用の方など、どなたでもご乗車いただけるスペースです」とのこと。スタートから4カ月弱、どのような「お客様の声」が寄せられているのだろうか。

「『子どもが騒ぐのではないか』といった声も一部ありましたが、『非常に素晴らしい取り組み』『子育て世代としては本当にありがたく感謝』『「子連れで電車に乗っても問題ないよ」と背中を押してもらったようで安心して電車に乗れた』など、多くは感謝や賛同といった好意的なご意見をいただいています」(東京都交通局)

 また、実際の利用者に関しては「誰でもご利用いただけるスペースとしてご案内しておりますので、小さなお子様連れのお客様だけでなく、お年寄りや車いすをご使用の方、通勤中のサラリーマンなど、さまざまなお客様にご利用いただいています」(同)という。

 なお、「子育て応援スペース」は、「来年3月までに7編成に拡大する方針で現在準備を進めているところです」(同)とのこと。大江戸線に限らず、首都圏のJRや地下鉄では、各車両に、車いすやベビーカーを置ける「フリースペース」が設置されるようになるなど、鉄道会社側の子育て環境への配慮は、じわじわと広がりをみせているようだ。

 そんな現状を、国土交通省の「子育てにやさしい移動に関する協議会」において、ベビーカー利用をしやすい環境づくりに取り組んできた松田妙子氏はどのように見ているのだろうか。

「電車でベビーカーを利用する親たちの多くは、『邪魔になっていないかな』と、肩身の狭い思いをしたり、『申し訳ない』と周囲に謝り倒したりしているものです。ほかの乗客の目が気になるので、『胸に「私が子どもを連れて外出する理由」を貼っておきたい』なんて言うお母さんもいましたね。そんな人たちにとって、大江戸線の『子育て応援スペース』設置のような試みは、もちろんウェルカムです」

 また、「子育て応援スペース」という名前がついているものの、「誰でも利用できる」点を、松田氏は「いいなと思っている」という。

「『子ども連れ専用車両をつくってほしい』という人もいますが、私は基本的に反対。『専用』だと、ほかの乗客にハレーションが起こりやすくなりますし、またベビーカー利用者が専用車両以外の車両に乗りにくくなることも考えられます。そうなったら本末転倒ですよね。なので、誰でも乗れる子育て応援スペースや、どこの車両にもあるフリースペースの方が望ましいと思っています」

 さらに、「みんなで子どもを育てていく社会」を理想とする松田氏にとって、専用車両で子どもを「隔離」することは、子育てへの理解を妨げる要因になってしまうのではないかと、考えているそうだ。

「『あーでもない、こーでもない』と言いながら子育てする人たちの姿を“見せる”ことが大事だと思っています。赤ちゃんはどうやって泣くのか、子ども連れの外出にはどんな困り事が出てくるのか……そういったことを、子育てをしていない人にも知ってもらいたいですし、それは、これから子どもを育てる世代の育成にもつながるのではないでしょうか。また、電車内であたふたしている子ども連れの人を目にした人が、手助けするといった状況が生まれることも期待できます。それに今後、超高齢社会となる日本では、子どもは『マイノリティ』になっていきます。街の中に、子どもの姿が当たり前のように“ある”という状況でないと、その存在が社会の一員として“勘定”に入れてもらえなくなり、子どもが暮らしにくい環境になっていくのでは。そうならないためにも、やはり『隔離』はよくないと思いますね」

 ネット上では、よく公共交通機関でのベビーカー利用をめぐって論争が起こる。メディアの中には、炎上が激化しているように伝えるところもあるが、一方で松田氏は理解が進んでいると認識しているようだ。

「もともと、鉄道でのベビーカーの安全利用に関する取り組みは、『子育て応援とうきょう会議』という会議体が、10年ほど前にスタートさせました。当初は反応が悪く、うち(せたがや子育てネット)のホームページにも、『親と子どもを甘やかしている』といった声が寄せられることも多かったのですが、最近では、表立ってそのようなことを言う人は減ってきたような印象です。確実に電車内でのベビーカーの利用は増えていると思います」

 2014年には、国交省が、公共交通機関やエレベーターなどで、ベビーカーを利用しやすくするためのマーク「ベビーカーマーク」を制定し、「車内でベビーカーを折り畳まなくてもよい」と呼びかけた。その影響もあってか、「今では『ベビーカーは畳まなくていい』という風潮になってきた」という。

 しかし、こと「混雑時のベビーカー利用」に関しては、ネット上で苦情を目にする機会は少なくない。

「子ども連れで移動する人にとって、『満員電車にベビーカーで入っていく』って、なかなかできないことだと思うんです。なので、そういう人を見かけたら、『何を考えているんだ』『非常識』と怒るのではなく、『そこまでしなければいけない理由って何なのだろう?』などと、気にかけてあげるような空気が生まれたらいいなと感じます。積極的に声をかけてあげるべき、というわけではなく、『大丈夫だよ』『みんなで一緒に子どもを育てていこう』という空気をつくりたいんです」

 ネット上には、「車内が混み合っているときに、ベビーカーに何度も足を踏まれた」「ほかの乗客のスペースを奪うように、ベビーカーをグイグイ押し込んできた」など、「マナー違反」を厳しく指摘する声も多数上がっているが、「そういうとき、『もしかしたら子育てにしんどさを抱えているのではないか?』などと、周りが心配してあげるような空気があるといいなと思います」という。

「現代の、特に東京では、『周りに知り合いがいない』中で子育てをしている『アウェイ育児』の人がたくさんいます。まったく知らない大勢の乗客をかき分けて、ベビーカーで電車移動をしなければいけない状況にいる人に、優しく寄り添うような空間になってほしいですね」

 例えば、満員電車でのベビーカー利用者に対して、そのほかの乗客が「乗車時間帯の変更」を提案するにしても、「迷惑だから時間をずらせ」と怒るのと、「時間をずらすと、もう少し居心地よく移動できるかもしれないよ」と語りかけるのとでは、受け取り手の抱く印象はまったく異なるだろう。松田氏は混雑時のベビーカー利用問題をめぐる「対立」を煽るような風潮、またその際、「お父さんもおじいちゃんもおばあちゃんも子ども連れで移動するのに、なぜか『お母さんの問題』のように捉えられている点」も疑問だという。

「それから、電車内でのベビーカー利用のルールを決めようという話でもないんです。ルール化してしまうと、例えば、車いすとベビーカーどちらを優先させるべきかといった話になる。この『優先』という言葉が出てきた瞬間、『順位付け』や『評価』が必要となり、それでは誰かが肩身の狭い思いをすることになってしまいます。子連れの人だけに優しくしてほしいというわけではなく、いろいろな事情を抱えた人たちが、同じ空間にいる際、お互いにちょっとずつ配慮し合えるようになるといいよね、ということなんです」

 さらに、ベビーカー問題を「電車内だけのマナー問題」ではなく、もっと広い視点で考えていきたいと松田氏。「子連れで遠出しなければいけない状況そのものをなくすことはできないか」という観点から、「誰もが家から徒歩で通える保育園に入園できる仕組みをつくれないか」「子育中は『在宅勤務可能』という企業を増やせないか」「子どもの検診を近場で受けられるようにできないか」など、「子育て環境をどう変えていくかの問題」として捉えているという。

 最後に松田氏は、公共交通機関でのベビーカー利用問題は、「今後のための練習問題」であるという側面を指摘してくれた。

「超高齢社会になる中、高齢者の方たちが、シルバーカーで乗車してくるという時代が来るかもしれません。また、直近では、来年の東京五輪開催期間に、多くの外国人の方が電車を利用すると思います。そういったさまざまな事情を抱える人や、文化の異なる人が同じ車内にいる際、どのように配慮し合えばいいか――ベビーカー問題はそのためのいい『練習問題』なのではないかと感じますね」

 現在、「世田谷区×WEラブ赤ちゃんプロジェクト」を推進しているという松田氏。これは、赤ちゃんの泣き声を「気にしないで、大丈夫だよ」と温かく見守るメッセージを表明することにより、子育てを応援していくという世田谷区のプロジェクトで、その一環として「泣いてもいいよ!」ステッカーを地域の人に配布しているという。ステッカーをスマートフォンなどに貼ることによって、自分の思いを伝え、子育てする人たちの気苦労を軽減させられれば……という目的があるそうだ。「みんなで子どもを育てていく社会」のために、こうした取り組みに参加してみるのもいいのかもしれない。

松田妙子(まつだ・たえこ)
「NPO法人せたがや子育てネット」代表理事。「NPO法人子育てひろば全国連絡協議会」理事。大学で社会福祉を学んだ後、国立総合児童センター「こどもの城」に勤務。2001年東京で子育て支援グループ「amigo」を立ち上げ、産前・産後中心の支援を地域で展開。現在、子育て支援者の養成や地域のネットワーク化に関わる子育て支援コーディネーターとして活躍。2男1女の母。
「NPO法人せたがや子育てネット」
「世田谷区×WEラブ赤ちゃんプロジェクト」