【森下くるみ×伊藤和子弁護士対談】AV業界の問題を浮き彫りにしたのは外部の声「無関心」という悪

  2019年の下半期、大きな話題を集めたドラマがある。それが、動画配信サービス「Netflix」のオリジナルドラマ『全裸監督』だ。80年代に活躍したAV監督・村西とおる氏の自伝がモチーフになった作品だが、同ドラマでは引退してかなりたつAV女優・黒木香さんの半生と当時の活躍ぶりにもスポットが当てられている。

 前編では、Netflix側が黒木さんの了承を得ることなくドラマを制作したと言われており、それが世間で「人権侵害では?」と物議を醸した件について、元AV女優で文筆家の森下くるみさんと、NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長の伊藤和子弁護士に話をお聞きしたが、後編ではお二人に、AV業界全体の問題についてうかがった。

前編:『全裸監督』黒木香さんから考える「AV女優の人権」とは

過去作品は自分の知らないところで販売され続ける

――森下さんは、AV女優として活動していた作品の販売停止を行いましたよね。どのような経緯から販売停止を行ったんですか。

森下くるみさん(以下、森下) 二次使用に関して、きちんとした契約がなかった時代にデビューしたので、20年近く前に撮影した作品がいつまでも使い回されていて……。直接のきっかけになったのは、コンビニで販売されていた雑誌の付録に1998年のデビュー作がついていたことですね。販売するといった連絡もなければ、いくら売れても出演者には1円も入ってこない。そんな時、二村ヒトシ監督に「いまだに私の女優時代の作品が、二次使用で売られている」と話したところ「引き下げてもらえばいい」ってアドバイスしていただいて。その後は、AV人権倫理機構が販売停止を請け負っていることを知り、ホームページからフォーマットをダウンロードして、書類を作って送付。私の場合は、メーカー2社からしか出ていないので連絡が取りやすかったのか、ネットで配信されていたものに関しては、書類を申請してから1~2カ月で削除されました。まだ販売され続けているものがあるので、引き続き声を上げていこうと思います。

伊藤和子弁護士(以下、伊藤) 販売停止に関しては、販売や配信が続く限り時効になりません。今、“自分”が困っているならば、差し止めを求めることは可能です。しかし、AV業界では1回撮影すると、いつまでどこの販売元から、どのような形態で販売され続けるのかわからないという問題も発生してきました。例えば、A社が潰れると、作品の版権がほかの会社に譲渡されて、自分が知らない間に、全然違うAV女優の名前やタイトルに差し替えられ、その作品が売られていたりするケースも。さらに、海外のサイトで無修正版を配信されたり。そうすると、なかなかその映像流出って、止められないんです。

――先ほど、「契約がなかった時代」とお話されていましたが、詳しくお聞かせください。

森下 私がデビューしたのが98年で、契約書自体を見ことがなかったんですね。メーカーと、当時所属していた事務所は契約を結んでいたはずなのに。書面の確認もできずにいきなり専属女優として活動しはじめたという(苦笑)。幸い大きなトラブルはなかったのですが、不利な状態で活動していました。監督やスタッフと信頼関係があったので、AV強要問題などで取り沙汰されているような、殴られたりとか、恫喝とかもなかったですが。

――事前説明と撮影内容が違うといったトラブルはありましたか。

森下 ありましたよ。私の場合は「それは違うんじゃないですか。聞いていないので、できません」って話して、監督と気まずい雰囲気になって、撮影を止めたことも。あとは撮影を止めたくないという気持ちが勝り、「ずいぶんハードな内容だな……」って思いながら行ったプレイもあります。長い時間を使って事前に打ち合わせをしても、現場でどうなるかわかりませんからね。つい許容範囲以上のことを受け入れてしまって、正直辛かったなってことが何度か。また、『全裸監督』でも描かれていましたが、無修正が流出したケースも聞いたことがあります。知り合いの女優さんのマスターテープが流出してしまって、モザイクのかかっていない動画がネットに上がってしまうというトラブルが起こりました。

伊藤 私が担当したケースだと、現場で「こんなシーン聞いていません。私はできない」と監督さんに伝えても、撮影を止められないという事例が多くありました。監督さんによっては、女優さんと男優さんのどちらにも暴力を振るう人もいるみたいで、泣きながら撮影したという方もいますね。過去には、現場でトラブルが起こり、警察を呼んでも取り合ってもらえなかったという話もありました。

――ギャラについて、疑問を抱いたことはありますか。

森下 メーカーから事務所にいくら支払われたのか、まったく知らされていなかったです。19歳の頃かな、マネージャーに「ギャラを上げてくれ」と申し出たら、「業界の常識でいったらそんなことできないけど、何とかしてみる」なんて言われて、ほんの少しだけ上げてもらえて、それっきりです。

伊藤 私が知っている事例では、実際に支払われたギャラが、作品の販売収益額の100分の1っていうケースもありましたよ。メーカーとプロダクションとの契約はあっても、プロダクションと女優さんとの契約はまちまちのようで。

森下 むごいですね。今は契約書必須の時代だからいいけれど、それこそ20年前、女優同士で連絡先を交換させないようにしていたプロダクションもあって、つまりギャラとか都合の悪い話が漏れないようにってこと。月に何本も撮影の入るような売れっ子の女優さんから「1本あたり数十万円くらいしかもらっていない」と聞いた時は、さすがにちょっとそれはかわいそうだ……って思いました。「事務所を辞めなよ」とは言えなかったですが。

――AV女優同士の関係の希薄さが、連帯を生みにくくし、権利や訴えを起こしにくくしているんですかね。

森下 いや、単純にみんな「業界ってそんなもの論」を飲みこんじゃってたんじゃないかなって。「お金のことは言ったら悪いかな」っていう人間関係ができていたような気もします。会社(AVメーカー)があって、自分(AV女優)もいる、自分がいるから会社も潤うみたいな、依存ではないですが、お互いに共存している部分が大きかったのかもしれない。私も基本的には自分のために頑張っていたけど、女優として活動することで、会社やスタッフに還元できればいいなとは思っていましたし。

AV女優を守るためには

――伊藤弁護士がAV強要問題に取り組んでいく中で、業界の雰囲気に変化はありましたか?

伊藤 最初に調査報告書を公表した時には、「そういう事例はありません」みたいな風潮でしたね。活動を始めて数カ月たってから、強要の被害を訴える女性や、ギャラの問題、二次使用の問題など声が内部から上がってきました。二次使用についてもギャラが支払われるようになったり、前進している部分もあると思います

――改善すべき点は、どういう部分でしょうか。

伊藤 性行為をするので肉体的負担があります。にもかかわらず、性病の検査は、女優持ち。危険な撮影でも、保険に入っていないというような労働環境なんです。そのような労働環境についての問題はまだまだありますね。

森下 強要問題をきっかけに、AV業界の外にいる人たちによって、ようやく業界内の規則ができたという経緯があるので、この先、放っておいても特に何も変わらないと思うんですね。監督や女優さんが個人で性病検査なりを受けても、認知の限界がある。プロダクションだけでなく、大手メーカーなどにも“自発的な”対策を考えてほしいところです。その方が、一般社会や業界内部、お客さんにまで影響を広げられると思うので。

――元AV女優という立場から、AV業界を改善していくとすればどのような活動を行いますか。

森下 完全引退して10年くらいたっているので、今の現場や女優さんの状況についてはまったくわからないし、活動を行う予定もありません。ただ、現状のAV女優さんを知った上でなら、現場でのトラブル対策とか、引退後の生活のこととか、何でもアドバイスはできると思います。AV女優は今や何千人もいて、ギャラが数万円の人から数百万の人までさまざまです。中でも、「後悔してるけど誰にも相談できなくて苦しい」という方のお話は聞いてあげたくて。そういうのはメーカーや事務所は何もしてくれないから、いたたまれないですよ。

――現在のAV業界を見たとき、どのように感じていますか。

伊藤 AV強要問題については、前進はしている部分もあると思っています。でもそれが、AV女優さんの抱える問題の全体の10%なのか、30%なのか、全てを把握できてないんです。そういったことも含めて、業界は真摯に考えていってほしい。女優さんも横のつながりが分断されているようなので、森下さんみたいな人に声を上げていただけると、困っている人を励ますことにもなるので、そういうのが大事だと思います。

伊藤和子(いとう・かずこ)
弁護士 国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長
1994年弁護士登録。女性や子どもの権利、えん罪事件、環境訴訟など、国内外の人権問題に関わって活動している。2004年に日弁連の推薦で、ニューヨーク大学ロースクールに客員研究員として留学。06年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外の深刻な人権問題の解決を求め活動中。また、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々奔走している。近著に『なぜ、それが無罪なのか 性被害を軽視する日本の司法』(ディスカヴァー携書)ミモザの森法律事務所(東京)代表

森下くるみ(もりした・くるみ)
文筆家 1980年秋田県生まれ。『小説現代』(講談社)2008年2月号に短編小説『硫化水銀』を発表。初の著作『すべては「裸になる」から始まって』(講談社文庫)は2012年に映画化、2018年に電子書籍としてkindle singlesで発売。他の著書に『らふ』(青志社)、『36 書く女×撮る男』(ポンプラボ)、『虫食いの家』(kindle singles)など。現在は季刊誌『東京荒野』で育児考察を、dancyu webでは食について連載中。執筆は映画誌への寄稿や書評まで多岐にわたる。

【森下くるみ×伊藤和子弁護士対談】AV業界の問題を浮き彫りにしたのは外部の声「無関心」という悪

  2019年の下半期、大きな話題を集めたドラマがある。それが、動画配信サービス「Netflix」のオリジナルドラマ『全裸監督』だ。80年代に活躍したAV監督・村西とおる氏の自伝がモチーフになった作品だが、同ドラマでは引退してかなりたつAV女優・黒木香さんの半生と当時の活躍ぶりにもスポットが当てられている。

 前編では、Netflix側が黒木さんの了承を得ることなくドラマを制作したと言われており、それが世間で「人権侵害では?」と物議を醸した件について、元AV女優で文筆家の森下くるみさんと、NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長の伊藤和子弁護士に話をお聞きしたが、後編ではお二人に、AV業界全体の問題についてうかがった。

前編:『全裸監督』黒木香さんから考える「AV女優の人権」とは

過去作品は自分の知らないところで販売され続ける

――森下さんは、AV女優として活動していた作品の販売停止を行いましたよね。どのような経緯から販売停止を行ったんですか。

森下くるみさん(以下、森下) 二次使用に関して、きちんとした契約がなかった時代にデビューしたので、20年近く前に撮影した作品がいつまでも使い回されていて……。直接のきっかけになったのは、コンビニで販売されていた雑誌の付録に1998年のデビュー作がついていたことですね。販売するといった連絡もなければ、いくら売れても出演者には1円も入ってこない。そんな時、二村ヒトシ監督に「いまだに私の女優時代の作品が、二次使用で売られている」と話したところ「引き下げてもらえばいい」ってアドバイスしていただいて。その後は、AV人権倫理機構が販売停止を請け負っていることを知り、ホームページからフォーマットをダウンロードして、書類を作って送付。私の場合は、メーカー2社からしか出ていないので連絡が取りやすかったのか、ネットで配信されていたものに関しては、書類を申請してから1~2カ月で削除されました。まだ販売され続けているものがあるので、引き続き声を上げていこうと思います。

伊藤和子弁護士(以下、伊藤) 販売停止に関しては、販売や配信が続く限り時効になりません。今、“自分”が困っているならば、差し止めを求めることは可能です。しかし、AV業界では1回撮影すると、いつまでどこの販売元から、どのような形態で販売され続けるのかわからないという問題も発生してきました。例えば、A社が潰れると、作品の版権がほかの会社に譲渡されて、自分が知らない間に、全然違うAV女優の名前やタイトルに差し替えられ、その作品が売られていたりするケースも。さらに、海外のサイトで無修正版を配信されたり。そうすると、なかなかその映像流出って、止められないんです。

――先ほど、「契約がなかった時代」とお話されていましたが、詳しくお聞かせください。

森下 私がデビューしたのが98年で、契約書自体を見ことがなかったんですね。メーカーと、当時所属していた事務所は契約を結んでいたはずなのに。書面の確認もできずにいきなり専属女優として活動しはじめたという(苦笑)。幸い大きなトラブルはなかったのですが、不利な状態で活動していました。監督やスタッフと信頼関係があったので、AV強要問題などで取り沙汰されているような、殴られたりとか、恫喝とかもなかったですが。

――事前説明と撮影内容が違うといったトラブルはありましたか。

森下 ありましたよ。私の場合は「それは違うんじゃないですか。聞いていないので、できません」って話して、監督と気まずい雰囲気になって、撮影を止めたことも。あとは撮影を止めたくないという気持ちが勝り、「ずいぶんハードな内容だな……」って思いながら行ったプレイもあります。長い時間を使って事前に打ち合わせをしても、現場でどうなるかわかりませんからね。つい許容範囲以上のことを受け入れてしまって、正直辛かったなってことが何度か。また、『全裸監督』でも描かれていましたが、無修正が流出したケースも聞いたことがあります。知り合いの女優さんのマスターテープが流出してしまって、モザイクのかかっていない動画がネットに上がってしまうというトラブルが起こりました。

伊藤 私が担当したケースだと、現場で「こんなシーン聞いていません。私はできない」と監督さんに伝えても、撮影を止められないという事例が多くありました。監督さんによっては、女優さんと男優さんのどちらにも暴力を振るう人もいるみたいで、泣きながら撮影したという方もいますね。過去には、現場でトラブルが起こり、警察を呼んでも取り合ってもらえなかったという話もありました。

――ギャラについて、疑問を抱いたことはありますか。

森下 メーカーから事務所にいくら支払われたのか、まったく知らされていなかったです。19歳の頃かな、マネージャーに「ギャラを上げてくれ」と申し出たら、「業界の常識でいったらそんなことできないけど、何とかしてみる」なんて言われて、ほんの少しだけ上げてもらえて、それっきりです。

伊藤 私が知っている事例では、実際に支払われたギャラが、作品の販売収益額の100分の1っていうケースもありましたよ。メーカーとプロダクションとの契約はあっても、プロダクションと女優さんとの契約はまちまちのようで。

森下 むごいですね。今は契約書必須の時代だからいいけれど、それこそ20年前、女優同士で連絡先を交換させないようにしていたプロダクションもあって、つまりギャラとか都合の悪い話が漏れないようにってこと。月に何本も撮影の入るような売れっ子の女優さんから「1本あたり数十万円くらいしかもらっていない」と聞いた時は、さすがにちょっとそれはかわいそうだ……って思いました。「事務所を辞めなよ」とは言えなかったですが。

――AV女優同士の関係の希薄さが、連帯を生みにくくし、権利や訴えを起こしにくくしているんですかね。

森下 いや、単純にみんな「業界ってそんなもの論」を飲みこんじゃってたんじゃないかなって。「お金のことは言ったら悪いかな」っていう人間関係ができていたような気もします。会社(AVメーカー)があって、自分(AV女優)もいる、自分がいるから会社も潤うみたいな、依存ではないですが、お互いに共存している部分が大きかったのかもしれない。私も基本的には自分のために頑張っていたけど、女優として活動することで、会社やスタッフに還元できればいいなとは思っていましたし。

AV女優を守るためには

――伊藤弁護士がAV強要問題に取り組んでいく中で、業界の雰囲気に変化はありましたか?

伊藤 最初に調査報告書を公表した時には、「そういう事例はありません」みたいな風潮でしたね。活動を始めて数カ月たってから、強要の被害を訴える女性や、ギャラの問題、二次使用の問題など声が内部から上がってきました。二次使用についてもギャラが支払われるようになったり、前進している部分もあると思います

――改善すべき点は、どういう部分でしょうか。

伊藤 性行為をするので肉体的負担があります。にもかかわらず、性病の検査は、女優持ち。危険な撮影でも、保険に入っていないというような労働環境なんです。そのような労働環境についての問題はまだまだありますね。

森下 強要問題をきっかけに、AV業界の外にいる人たちによって、ようやく業界内の規則ができたという経緯があるので、この先、放っておいても特に何も変わらないと思うんですね。監督や女優さんが個人で性病検査なりを受けても、認知の限界がある。プロダクションだけでなく、大手メーカーなどにも“自発的な”対策を考えてほしいところです。その方が、一般社会や業界内部、お客さんにまで影響を広げられると思うので。

――元AV女優という立場から、AV業界を改善していくとすればどのような活動を行いますか。

森下 完全引退して10年くらいたっているので、今の現場や女優さんの状況についてはまったくわからないし、活動を行う予定もありません。ただ、現状のAV女優さんを知った上でなら、現場でのトラブル対策とか、引退後の生活のこととか、何でもアドバイスはできると思います。AV女優は今や何千人もいて、ギャラが数万円の人から数百万の人までさまざまです。中でも、「後悔してるけど誰にも相談できなくて苦しい」という方のお話は聞いてあげたくて。そういうのはメーカーや事務所は何もしてくれないから、いたたまれないですよ。

――現在のAV業界を見たとき、どのように感じていますか。

伊藤 AV強要問題については、前進はしている部分もあると思っています。でもそれが、AV女優さんの抱える問題の全体の10%なのか、30%なのか、全てを把握できてないんです。そういったことも含めて、業界は真摯に考えていってほしい。女優さんも横のつながりが分断されているようなので、森下さんみたいな人に声を上げていただけると、困っている人を励ますことにもなるので、そういうのが大事だと思います。

伊藤和子(いとう・かずこ)
弁護士 国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長
1994年弁護士登録。女性や子どもの権利、えん罪事件、環境訴訟など、国内外の人権問題に関わって活動している。2004年に日弁連の推薦で、ニューヨーク大学ロースクールに客員研究員として留学。06年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外の深刻な人権問題の解決を求め活動中。また、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々奔走している。近著に『なぜ、それが無罪なのか 性被害を軽視する日本の司法』(ディスカヴァー携書)ミモザの森法律事務所(東京)代表

森下くるみ(もりした・くるみ)
文筆家 1980年秋田県生まれ。『小説現代』(講談社)2008年2月号に短編小説『硫化水銀』を発表。初の著作『すべては「裸になる」から始まって』(講談社文庫)は2012年に映画化、2018年に電子書籍としてkindle singlesで発売。他の著書に『らふ』(青志社)、『36 書く女×撮る男』(ポンプラボ)、『虫食いの家』(kindle singles)など。現在は季刊誌『東京荒野』で育児考察を、dancyu webでは食について連載中。執筆は映画誌への寄稿や書評まで多岐にわたる。

2020年新春、「買うべき福袋」3選! 一方で「買わない方がいい福袋」の新基準は?

 お正月の楽しみの一つである「福袋」。毎年、百貨店をはじめ、ファッションビル、大型スーパー、各ブランドなどが、さまざまな福袋を販売しており、そこに「お得にいいものをゲットしたい」という人々が大挙して押し寄せるという光景は、もはや“新年の風物詩”と言えるのではないだろうか。

 しかし、福袋というのは数に限りがあるものだけに、初心者の中には「何を狙えばいいのか」すらわからないという人も少なくないはず。そこで今回、ホームページ「福袋研究会」を運営しているライターの恩田ひさとし氏に取材を行い、これぞ“花形”と言える百貨店の福袋に関して、「ぜひ狙ってほしい」というオススメの逸品や、購入後にガッカリしないために注意すべき点をお聞きした。

福袋に情熱をかける百貨店は?

 長年、福袋の取材を続けているという恩田氏だが、ここ3~4年、百貨店は「二極化が進んでいる」と指摘する。「福袋に情熱をかけている百貨店」と「(力は入れているものの)そこまでの情熱はない百貨店」に分かれているそうだ。

「百貨店は、事前に福袋お披露目会を行うのですが、私がそこに足を運ぶようになった10年前くらいは、11月下旬に開催されていました。しかし、最近では10月の下旬になり、時期がどんどん早まっているんです。これにより、百貨店の各部門のバイヤーさんは、『福袋の準備が間に合わない』という問題に直面するようになり、そこで、『うちはそこまでしなくてもいいか……』という百貨店が出てきた流れ。いま、福袋を百貨店の“目玉”として、全社を挙げて取り組んでいるのは、『松屋銀座』『西武池袋本店』『東武百貨店 池袋本店』の3つと言えます」

 では、恩田氏が「ぜひ狙ってほしい」とオススメする2020年新春福袋は何なのだろう。今回、3つの福袋をピックアップしてもらった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

◎松屋銀座「GINZAのOL福袋 冬のおでかけ編」(税込1万1,000円)
※販売個数:9号、11号 各100点(計200点)限り。コート1点、ニット2点、ワンピース1点、スカート1点の計5点入り

 松屋銀座の「GINZAのOL福袋」は、職場に着て行ける実用性の高いアイテムが揃い、働く女性に人気の福袋。もともと2005年発売の「コンセプト福袋」で、通常こうしたコンセプトものは1年限りなのだが、評判が良かったため継続販売されているという。恩田氏はこれを「究極の福袋」「福袋の最終形態」と大絶賛する。

「15年近く販売されているということは、その間、担当者が何回か変わっていると思うのですが、前任者より売り上げを落として評価を下げたくないので、担当者の気合の入り方が違うんです。また、福袋は個数を揃えるのが大変で、どこの百貨店も目玉のものは販売数が少ない中、各100点、計200点用意している点もすごい。企業努力と担当者の『前任者に負けられない』という意地を私は感じますね」

 かつて、プランタン銀座のお披露目会に行った際、販売個数が「84個」という福袋があったと恩田氏。この「84」には何の意味もなく、現時点で調達できるギリギリがその数だったそうで、「それだけ、数を確保するのはシビアなこと」という。なお、同社社長から「中途半端だから100個用意して」と指示が下ったという後日談もあり、担当者の苦労は計り知れない。

「『GINZAのOL福袋』は、もはや松屋銀座の顔。私に言わせると、これがコケたら、松屋がコケてしまうと言っても過言ではない福袋なんです。それだけに、満足度の高い福袋であると言えるでしょう」

◎西武池袋本店「ヴィノスやまざき ワイン福袋(4本入)」(税込3,300円、5,500円、1万1,000円)
※販売個数:3,300円=300個、5,500円=200個、1万1,000円=50個

 西武池袋本店の酒売場がおすすめする蔵直ワイン®の専門店「ヴィノスやまざき」。担当者が生産者の元に足を運び、直接交渉して、船積みから海上輸送まで手がけるという“蔵直”にこだわっているという。そのため、普通は入荷できないような小さなワイナリーの商品も店頭に並ぶほか、輸送管理も徹底されていて商品が高品質、輸送コストが抑えられるため価格も安く提供できているそうだ。

「そんなこだわりの強い『ヴィノスやまざき』の福袋は、総販売個数『550個』という莫大な数。かさばるワインをそれだけの数用意するのは、ずばり“売れるから”なんですね。すでにワインに精通している人は、ネットで自分好みのワインを購入すればいいと思いますが、初心者の方は、百貨店のお得な福袋を買ってみるのもいいのでは。店員さんがいろいろと教えてくれますし、百貨店なので当然、管理状態もよく、配送もしてくれますから」

◎東武百貨店 池袋本店「チーズ王国 招健招福 チーズ福袋」(税込4,800円、6,800円、1万800円)、「パリ店厳選の選りすぐり福袋」(税込8,800円)
※販売個数:(招健招福 チーズ福袋)4,800円=90個、6,800円=80個、1万800円=70個/(パリ店厳選の選りすぐり福袋)=100個

 世界中のチーズを集めているという東武百貨店 池袋本店の「チーズ王国」は、専門店ならではのこだわりの逸品に出会える店だというが、恩田氏は特に「お得感」に着目しているそうだ。

「例えば、1万800円の福袋は、1万7,000円相当、8,800円の福袋は1万2,000円相当の商品が入っているそうで、通常より3~4割近く安くチーズを購入することができます。輸入状況によって内容が変わるため、ギリギリまでどういった商品が入るのかはわかりませんが、ぜひオススメしたい福袋ですね。実は東武は、食品の福袋に力を入れていることで有名。近年、百貨店が、高額の『体験型福袋』を発売して話題を集めるようになっている中、東武はそういった派手な福袋同様、“自分へのご褒美”的な、誰もが買える価格帯の食品福袋に注力し始めました。食品福袋は、マスコミに取り上げられにくい面があるのですが、それでも全社を挙げて食品を推してきた。チーズ王国に限らず、東武の食品福袋はどれもオススメできますね」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 今回、オススメ福袋を選ぶにあたり、「個数が多い」という点を重視したと恩田氏。数を用意するのは、それだけ百貨店が「売れる」と自信を持っていて、いい商品が揃っているからだという。

「各百貨店が、総計何個の福袋を用意しているのかを、売り場面積と比較しながらチェックするといいと思います。一方で、個数に着目するのは、やっぱり、『買えなければ意味がないから』。例えば限定10個など、数がかなり限られた福袋は、赤字覚悟ゆえに確かにいい商品が入っているのですが、手に入れるためには始発で訪れる覚悟でなくてはいけません。だったら、少なくとも100個は用意されている福袋を狙った方がよいのではないでしょうか」

 また「私に言わせると」の位置ですが、こちらに入れた方がすわりが良いかなと感じました

 では一方で、買わない方がいい福袋を見極める基準はあるのだろうか。恩田氏いわく、昔の福袋は、「売れ残りの商品を何でもかんでも詰めているように思われ、本当に、開けてみないと何が入っているかわからなかったんです。SサイズのスカートとLサイズのコートが一緒に入っているなんてこともありました」というが、恩田氏が高校生だった1982年、西武池袋本店で購入した1万円の「紳士服福袋」は、すでに内容的に満足できるものだったそうだ。

「ちょうど、西武ライオンズが初の日本一に輝いた年で、福袋にはニコルのダブルのスーツが入っていました。一世風靡セピアが『前略、道の上より』で着ていたみたいなスーツで、高校生にはミスマッチだったため、誰かに譲ってしまいましたが、当時『いまの福袋ってこんなにいいものが入ってるんだ!』と驚いた記憶があります。最近は、SNS時代ですから、ヘタな福袋を販売すると、写真付きで一気に拡散され、百貨店のイメージダウンにつながってしまいますし、『あからさまなハズレ福袋』は“ない”と言えるでしょう。そう考えると、買わない方がいい福袋は、『自分のこだわりが強い分野のもの』。先ほど紹介した『GINZAのOL福袋』も、品物自体はいいものの、ファッションにこだわりが強い人だと、『好みじゃないから着ない』となってしまいます」

 また、恩田氏は、福袋戦線で肝に銘じた方がいいポイントについても言及する。

「個数の少ない限定品にこだわって行列に並ぶと、時間を取られて、ほかの目玉福袋を買いそびれてしまうことがあります。そういった福袋の行列は、殺伐とした空気が漂っていて、以前取材した際、『長時間並んでいたのに、整理券をもらえなかった』というお客さんに、つかみかかられそうになったことも(笑)。なので、『楽しくお買い物したい』という人に、少ない個数の限定品を狙うことはオススメできませんね。特に百貨店は、従業員がバックヤードにさがってお会計を行うケースが珍しくなく、時間を取られてしまう面があります。少数の限定品を狙うと、そういったロスにも足を引っ張られるので、最初から個数が多く、買いやすい福袋を狙う方がいいのではないかと思います」

 さらに以前は、「食品福袋は数が多いから、先に洋服の福袋を購入した方がいい」という鉄則があったものの、「最近、食品福袋のお得度が高いと知れ渡ってしまったゆえに、その作戦だと、目玉の食品福袋を買いそびれる危険も」と恩田氏。

「近年、福袋販売時の食品売り場は、人でごった返すようになっています。テレビ取材のカメラが入るのもはばかられるくらいの混雑ぶりです。食品福袋は、洋服の福袋に比べて人気がないという認識もあらためてほしいですね」

 恩田氏のアドバイスを参考に、ぜひ満足できる福袋をゲットしてほしいものだ。

恩田ひさとし(おんだ・ひさとし)
フリーライター。ホームページ「福袋研究会」管理人。上智大学外国語学部卒業。予備校講師、出版社の編集者を経て執筆業に。教育、スポーツ、メディア、ITなど、幅広い分野で執筆活動を展開中。
福袋研究会

2020年新春、「買うべき福袋」3選! 一方で「買わない方がいい福袋」の新基準は?

 お正月の楽しみの一つである「福袋」。毎年、百貨店をはじめ、ファッションビル、大型スーパー、各ブランドなどが、さまざまな福袋を販売しており、そこに「お得にいいものをゲットしたい」という人々が大挙して押し寄せるという光景は、もはや“新年の風物詩”と言えるのではないだろうか。

 しかし、福袋というのは数に限りがあるものだけに、初心者の中には「何を狙えばいいのか」すらわからないという人も少なくないはず。そこで今回、ホームページ「福袋研究会」を運営しているライターの恩田ひさとし氏に取材を行い、これぞ“花形”と言える百貨店の福袋に関して、「ぜひ狙ってほしい」というオススメの逸品や、購入後にガッカリしないために注意すべき点をお聞きした。

福袋に情熱をかける百貨店は?

 長年、福袋の取材を続けているという恩田氏だが、ここ3~4年、百貨店は「二極化が進んでいる」と指摘する。「福袋に情熱をかけている百貨店」と「(力は入れているものの)そこまでの情熱はない百貨店」に分かれているそうだ。

「百貨店は、事前に福袋お披露目会を行うのですが、私がそこに足を運ぶようになった10年前くらいは、11月下旬に開催されていました。しかし、最近では10月の下旬になり、時期がどんどん早まっているんです。これにより、百貨店の各部門のバイヤーさんは、『福袋の準備が間に合わない』という問題に直面するようになり、そこで、『うちはそこまでしなくてもいいか……』という百貨店が出てきた流れ。いま、福袋を百貨店の“目玉”として、全社を挙げて取り組んでいるのは、『松屋銀座』『西武池袋本店』『東武百貨店 池袋本店』の3つと言えます」

 では、恩田氏が「ぜひ狙ってほしい」とオススメする2020年新春福袋は何なのだろう。今回、3つの福袋をピックアップしてもらった。

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◎松屋銀座「GINZAのOL福袋 冬のおでかけ編」(税込1万1,000円)
※販売個数:9号、11号 各100点(計200点)限り。コート1点、ニット2点、ワンピース1点、スカート1点の計5点入り

 松屋銀座の「GINZAのOL福袋」は、職場に着て行ける実用性の高いアイテムが揃い、働く女性に人気の福袋。もともと2005年発売の「コンセプト福袋」で、通常こうしたコンセプトものは1年限りなのだが、評判が良かったため継続販売されているという。恩田氏はこれを「究極の福袋」「福袋の最終形態」と大絶賛する。

「15年近く販売されているということは、その間、担当者が何回か変わっていると思うのですが、前任者より売り上げを落として評価を下げたくないので、担当者の気合の入り方が違うんです。また、福袋は個数を揃えるのが大変で、どこの百貨店も目玉のものは販売数が少ない中、各100点、計200点用意している点もすごい。企業努力と担当者の『前任者に負けられない』という意地を私は感じますね」

 かつて、プランタン銀座のお披露目会に行った際、販売個数が「84個」という福袋があったと恩田氏。この「84」には何の意味もなく、現時点で調達できるギリギリがその数だったそうで、「それだけ、数を確保するのはシビアなこと」という。なお、同社社長から「中途半端だから100個用意して」と指示が下ったという後日談もあり、担当者の苦労は計り知れない。

「『GINZAのOL福袋』は、もはや松屋銀座の顔。私に言わせると、これがコケたら、松屋がコケてしまうと言っても過言ではない福袋なんです。それだけに、満足度の高い福袋であると言えるでしょう」

◎西武池袋本店「ヴィノスやまざき ワイン福袋(4本入)」(税込3,300円、5,500円、1万1,000円)
※販売個数:3,300円=300個、5,500円=200個、1万1,000円=50個

 西武池袋本店の酒売場がおすすめする蔵直ワイン®の専門店「ヴィノスやまざき」。担当者が生産者の元に足を運び、直接交渉して、船積みから海上輸送まで手がけるという“蔵直”にこだわっているという。そのため、普通は入荷できないような小さなワイナリーの商品も店頭に並ぶほか、輸送管理も徹底されていて商品が高品質、輸送コストが抑えられるため価格も安く提供できているそうだ。

「そんなこだわりの強い『ヴィノスやまざき』の福袋は、総販売個数『550個』という莫大な数。かさばるワインをそれだけの数用意するのは、ずばり“売れるから”なんですね。すでにワインに精通している人は、ネットで自分好みのワインを購入すればいいと思いますが、初心者の方は、百貨店のお得な福袋を買ってみるのもいいのでは。店員さんがいろいろと教えてくれますし、百貨店なので当然、管理状態もよく、配送もしてくれますから」

◎東武百貨店 池袋本店「チーズ王国 招健招福 チーズ福袋」(税込4,800円、6,800円、1万800円)、「パリ店厳選の選りすぐり福袋」(税込8,800円)
※販売個数:(招健招福 チーズ福袋)4,800円=90個、6,800円=80個、1万800円=70個/(パリ店厳選の選りすぐり福袋)=100個

 世界中のチーズを集めているという東武百貨店 池袋本店の「チーズ王国」は、専門店ならではのこだわりの逸品に出会える店だというが、恩田氏は特に「お得感」に着目しているそうだ。

「例えば、1万800円の福袋は、1万7,000円相当、8,800円の福袋は1万2,000円相当の商品が入っているそうで、通常より3~4割近く安くチーズを購入することができます。輸入状況によって内容が変わるため、ギリギリまでどういった商品が入るのかはわかりませんが、ぜひオススメしたい福袋ですね。実は東武は、食品の福袋に力を入れていることで有名。近年、百貨店が、高額の『体験型福袋』を発売して話題を集めるようになっている中、東武はそういった派手な福袋同様、“自分へのご褒美”的な、誰もが買える価格帯の食品福袋に注力し始めました。食品福袋は、マスコミに取り上げられにくい面があるのですが、それでも全社を挙げて食品を推してきた。チーズ王国に限らず、東武の食品福袋はどれもオススメできますね」

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 今回、オススメ福袋を選ぶにあたり、「個数が多い」という点を重視したと恩田氏。数を用意するのは、それだけ百貨店が「売れる」と自信を持っていて、いい商品が揃っているからだという。

「各百貨店が、総計何個の福袋を用意しているのかを、売り場面積と比較しながらチェックするといいと思います。一方で、個数に着目するのは、やっぱり、『買えなければ意味がないから』。例えば限定10個など、数がかなり限られた福袋は、赤字覚悟ゆえに確かにいい商品が入っているのですが、手に入れるためには始発で訪れる覚悟でなくてはいけません。だったら、少なくとも100個は用意されている福袋を狙った方がよいのではないでしょうか」

 また「私に言わせると」の位置ですが、こちらに入れた方がすわりが良いかなと感じました

 では一方で、買わない方がいい福袋を見極める基準はあるのだろうか。恩田氏いわく、昔の福袋は、「売れ残りの商品を何でもかんでも詰めているように思われ、本当に、開けてみないと何が入っているかわからなかったんです。SサイズのスカートとLサイズのコートが一緒に入っているなんてこともありました」というが、恩田氏が高校生だった1982年、西武池袋本店で購入した1万円の「紳士服福袋」は、すでに内容的に満足できるものだったそうだ。

「ちょうど、西武ライオンズが初の日本一に輝いた年で、福袋にはニコルのダブルのスーツが入っていました。一世風靡セピアが『前略、道の上より』で着ていたみたいなスーツで、高校生にはミスマッチだったため、誰かに譲ってしまいましたが、当時『いまの福袋ってこんなにいいものが入ってるんだ!』と驚いた記憶があります。最近は、SNS時代ですから、ヘタな福袋を販売すると、写真付きで一気に拡散され、百貨店のイメージダウンにつながってしまいますし、『あからさまなハズレ福袋』は“ない”と言えるでしょう。そう考えると、買わない方がいい福袋は、『自分のこだわりが強い分野のもの』。先ほど紹介した『GINZAのOL福袋』も、品物自体はいいものの、ファッションにこだわりが強い人だと、『好みじゃないから着ない』となってしまいます」

 また、恩田氏は、福袋戦線で肝に銘じた方がいいポイントについても言及する。

「個数の少ない限定品にこだわって行列に並ぶと、時間を取られて、ほかの目玉福袋を買いそびれてしまうことがあります。そういった福袋の行列は、殺伐とした空気が漂っていて、以前取材した際、『長時間並んでいたのに、整理券をもらえなかった』というお客さんに、つかみかかられそうになったことも(笑)。なので、『楽しくお買い物したい』という人に、少ない個数の限定品を狙うことはオススメできませんね。特に百貨店は、従業員がバックヤードにさがってお会計を行うケースが珍しくなく、時間を取られてしまう面があります。少数の限定品を狙うと、そういったロスにも足を引っ張られるので、最初から個数が多く、買いやすい福袋を狙う方がいいのではないかと思います」

 さらに以前は、「食品福袋は数が多いから、先に洋服の福袋を購入した方がいい」という鉄則があったものの、「最近、食品福袋のお得度が高いと知れ渡ってしまったゆえに、その作戦だと、目玉の食品福袋を買いそびれる危険も」と恩田氏。

「近年、福袋販売時の食品売り場は、人でごった返すようになっています。テレビ取材のカメラが入るのもはばかられるくらいの混雑ぶりです。食品福袋は、洋服の福袋に比べて人気がないという認識もあらためてほしいですね」

 恩田氏のアドバイスを参考に、ぜひ満足できる福袋をゲットしてほしいものだ。

恩田ひさとし(おんだ・ひさとし)
フリーライター。ホームページ「福袋研究会」管理人。上智大学外国語学部卒業。予備校講師、出版社の編集者を経て執筆業に。教育、スポーツ、メディア、ITなど、幅広い分野で執筆活動を展開中。
福袋研究会

【森下くるみ×伊藤和子弁護士対談】『全裸監督』黒木香さんから考える「AV女優の人権」とは

  2019年の下半期、大きな話題を集めたドラマがある。それが、動画配信サービス「Netflix」のオリジナルドラマ『全裸監督』だ。AV監督・村西とおる氏の半生を描き、出演者の高い演技力や、地上波では放送できないセックスシーンなどが評判を呼び、シーズン2の制作も決定している。村西氏を語る上で欠かせない存在だったのが、80年代にAV女優として活躍した“黒木香”さんだ。横浜国立大学の学生でありながら、AV女優の肩書を持つという、当時としては特異な存在で、テレビのバラエティー番組にも多数出演し一躍有名に。『全裸監督』では、そんな彼女の半生とAV女優としての活躍が描かれている。

 しかし、黒木さんは女優引退から約10年後、「自殺未遂をした」という内容や、消息を追うような記事を掲載した複数の出版社に対し、プライバシーおよび肖像権の侵害に当たるとして、損害賠償を求める民事訴訟を起こしている。そのため、同ドラマ配信後には「黒木さんに了承を得ているのか」など、視聴者の間から疑問の声が聞こえてきた。

 Netflix側は「作品制作にあたって、村西さん同様、黒木さんご本人は関与されていません」と回答しており、世間では「無断で名前を使用するのは、人権侵害ではないか」と物議を醸すことに。そこで今回、かつてAV女優として活躍し、現在は文筆家として活動している森下くるみさんと、女性の人権問題について詳しいNGOヒューマンライツ・ナウ事務局長の伊藤和子弁護士に取材を行い、『全裸監督』に浮上した黒木さんの人権侵害問題をどう考えるか、話を聞いた。

AV女優のプライバシー権とは?

――『全裸監督』で引退したAV女優の芸名が役名として使われていることに、どのような感想をお持ちになりましたか?

森下くるみさん(以下、森下) 架空の物語の中で別の女優が演じるとしても、AV女優時代の名前をそのまま役名にするなら、それ相当の配慮が必要じゃないですか。本人の承諾を得るとか、無理なら別名にするとか。もし、自分が知らない間に、制作されていたとしたら、ちょっと待ってくれって思います。

伊藤和子弁護士(以下、伊藤) 実際の芸名を使用していると聞いた時は、驚きましたね……。ドラマについては、「面白い」といった声も聞こえてきましたが。

――もし、無断で名前を役名に使われた場合、法律上ではどのように扱われるのでしょうか。

伊藤 プライバシー権の侵害になると思います。三島由紀夫の『宴のあと』や柳美里の『石に泳ぐ魚』(いずれも新潮社)などでモデルとなった人物が、かつて出版社に対してプライバシー権侵害を訴えていますね。このような裁判はいくつかあるので、モデル小説(実在の人物をモデルに描く)に関しては、ある程度プライバシー権と認められるか否かの基準が決まっています。黒木さんについても、過去の判例の基準を当てはめるとプライバシー件が求められると思います。今回のケースは、法律的にみると、乱暴にプライバシー権や肖像権を処理している印象を受けました。

――一般的に、引退後の女優さんがプライバシーの権利をめぐって裁判を起こしたケースは少ないように感じますが。

伊藤 そもそも裁判は、自分が動かない限り起こせないものなので、訴えたいけどできない人も実際にいます。裁判は体力的、精神的、そして金銭的にも非常に大変です。黒木さんも、10年以上前に裁判をした時は、裁判を提起するエネルギーがあったかもしれないけれど、何回も裁判を起こすことは、なかなか容易ではありません。そういった背景もあって裁判を起こしていない可能性もあり得ます。

――企業には「個人から訴訟されることはないだろう」という考えがあるのでしょうか。

伊藤 そういったケースはよくありますよね。AV女優さんの場合、労働者でもない、消費者でもない、基本的には自営業者みたいな扱いとされ、法律上の保護が労働者保護や消費者保護のようには確立されていません。私が対応していた案件は、AVに無理やり出演させる“強要問題”が多いですが、悪質なケースでは、契約書にヌードと書いてあっても、AVと明確には書いていない。それでも1回契約を締結してしまうと、契約書には「営業活動には協力しなければならない」という条項が書いてあるから、AVに出演しないと違約金が発生すると言われてしまう。違約金には明確な定めがまったくないので、言い値のケースが多く、億単位のこともありますし、とても払える金額ではありません。そのため、AVに出ざるを得なかったというのが強要問題ですが、現在はようやく問題視され、是正が図られつつあります。

――伊藤弁護士に相談される女性は、AV業界にどのような対応を求めているのでしょうか。

伊藤 最終的には賠償を求める人もいるけど、最も多いのは不本意に出演させられてしまった作品の販売や配信を止めてほしいという人で切実。自分の映像が残り続け、ネット上で拡散され続けられることは、彼女たちの意に反するんです。性行為を強要されたこと自体がトラウマですので、その映像がいつまでたっても残り続けるのがつらいといいます。

――映像が残り続けること自体が、セカンドレイプにもなり得るということですね。

伊藤 そうなんです。望まない性行為をしている自分の映像が、いつまでも世界中の人に閲覧される状況にある。過去から逃れられない苦しみを彼女たちは味わっているのです。その一番の苦しみを解くために、「全ての動画を削除してほしい」と希望されるのでしょう。

――この対談テーマを行うにあたって、黒木さんのお名前を出すこと自体が、ご本人に苦痛な思いをさせてしまうのでは……と考えたことがありました。

森下 ネット検索すれば顔写真くらい簡単に出てきますもんね。もし黒木さんが日本国内で暮らしておられて、「過去を詮索されたくない」と思っていたら、ただとにかく申し訳ない……。

 でも、黒木さんのプライバシー権については、引退した女優さんだけではなく、現役の女優さんにも身近なこととして考えてもらいたいです。活動を停止した後、ふと「『AVに出る』という自分の決断は正しかったのかな」って悩む人はいると思うんですね。後悔する人もいるかもしれない。誰のせいにもできず自責の念に囚われて、なんてふうにならないように、理論的な言及を続けなければいけないと思います。誹謗中傷なんかも、女優ではなく、無責任に言いがかりをつけてくる方が悪いんです。中傷する人は、本当にねえ、20年たっても言うことが変わらないので。私は図太い方なので割りと平気ですが……(苦笑)。

伊藤 黒木さんが発言をされていないのでわかりませんが、「誰も私の立場に立って考えてくれない」という世の中よりも、「誰かが自分のことを気にしている」「この問題に関心を持っている人がいる」ってことが、救いになることもあります。

 女性の人権に関わる問題って、世間が“無関心”になりがちで。誰かが「これでいいの?」って声を上げることで、もしかしたら悩んでいる本人に届くかもしれないんです。理不尽な目に遭ったり、女性の人権が侵害されているんじゃないかなって悩んでいる人が、自ら声を上げられないとしても、周りが声を上げてくれる……それだけでも意味がありますからね。みんながその状況を無視していると「仕方ない」という空気が流れていきますし、みんなが関心を持つことが大事だと思います。日本の法律制度では、権利が侵害されていても、裁判を起こさない限り被害者は保護されなし、改善されない。でも声を上げること、まして裁判することって大変なことなので、周囲のみんながサポートしてあげることが大事。だから「#MeToo運動」というものもあるわけです。

 日本の「#MeToo運動」では「声を上げた人を叩く」という風潮もすごく強い。AV強要問題を扱っている中でも、身元を特定するような言い方でバッシングを受けた方もいました。でも、たとえ声を上げた人に同調する意見を述べることは難しくても、どこかで連帯して、励まし合っていくみたいなことがないと、前に進んでいかない。何もしないままだと女性差別がどんどん進んでいってしまうんじゃないかなって思うんです。

――後編は12月27日午後7時公開

伊藤和子(いとう・かずこ)
弁護士 国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長
1994年弁護士登録。女性や子どもの権利、えん罪事件、環境訴訟など、国内外の人権問題に関わって活動している。2004年に日弁連の推薦で、ニューヨーク大学ロースクールに客員研究員として留学。06年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外の深刻な人権問題の解決を求め活動中。また、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々奔走している。近著に『なぜ、それが無罪なのか 性被害を軽視する日本の司法』(ディスカヴァー携書)ミモザの森法律事務所(東京)代表

森下くるみ(もりした・くるみ)
文筆家 1980年秋田県生まれ。『小説現代』(講談社)2008年2月号に短編小説『硫化水銀』を発表。初の著作『すべては「裸になる」から始まって』(講談社文庫)は2012年に映画化、2018年に電子書籍としてkindle singlesで発売。他の著書に『らふ』(青志社)、『36 書く女×撮る男』(ポンプラボ)、『虫食いの家』(kindle singles)など。現在は季刊誌『東京荒野』で育児考察を、dancyu webでは食について連載中。執筆は映画誌への寄稿や書評まで多岐にわたる。

不法就労を疑われ、ペンライトで赤っ恥――それでも「行かなくては」! オタクが“海外遠征”する理由

 嵐がプライベートジェットでアジア4カ国を回るプロモーションツアー『JET STORM』を、11月10・11日に行った。各国で現地のファンに歓迎される5人の姿は、同3日に開設されたばかりの嵐公式SNSで見ることができ、国内にいてもその盛り上がりが感じられた。

 2020年には北京でのコンサートも予定しており、これを機に“海外遠征”を考えているファンも少なくないようだが、ネット上には「行ってみたいけど、わかんないことだらけで心配」「英語しゃべれないし無理!」「国内ならいいけど、海外は気軽に行けない」など、消極的な声が見受けられる。しかし本当に、海外遠征は「気軽に行けない」のだろうか? “推し・担当”のために何度も海外へ行っているというK-POPファン、サッカーファンに、予算や“旅行”との違い、海外のチケット事情などを聞いた。

【座談会出席者】
カナコさん……アラフォー、既婚。K-POPアイドルにハマり、韓国に数えきれないほどの渡航歴アリ。2009年頃、洋楽好きな友達の勧めでK-POPを聴くようになり、その後、現在の推しが韓国でデビュー。13年頃に「この子しかいないっ!」と開眼してから、頻繁に遠征するようになった。なお、“推し”の名前は非公開。
しんいちさん……1974年生まれの45歳、既婚。サッカー日本代表や、Jリーグチーム・FC東京のサポーターとして海外に遠征。95年に「アンブロ・カップ」という国際親善大会のため、“聖地”と呼ばれるイギリスのウェンブリー・スタジアムに行ったのが初めての海外遠征。アニメやゲームも好きで、海外で行われる「アニメコンベンション」に参加することもある。

「行けばよかった!」の後悔が“遠征オタク”の道へ

――いきなりですが、カナコさんは今日これから「韓国へ旅立つ」とか……?

カナコさん そうなんです(笑)。今回の遠征は、韓国軍がやっているミュージカルを観劇するためで……。

――軍!? いきなりすごい単語が出てきましたね。韓国軍が舞台制作をしているってことですか?

カナコさん そうです。今、韓国軍は「韓国最大の芸能事務所」っていわれていまして。K-POPブームで大人気だったアイドルが、ちょうど今、兵役の年齢を迎えているんです。広報のために舞台制作や芸能活動のようなこともしていて、オーディションで選ばれた兵士が舞台などに出演しています。特に今回のミュージカルは、出演者に結構有名なK-POPアイドルの名前がたくさん並んでいて、チケットがすぐ完売してしまったんです。

しんいちさん へえ~……全然知らない世界ですね……。

――しんいちさんがサッカー観戦を始めたのはいつでしたか?

しんいちさん 1993年のワールドカップ予選、国立競技場で行われた、日本対UAE戦ですね。Jリーグが発足した年ということもあり、サッカー自体がすごく盛り上がっていた頃でした。それまでは、全然サッカーを見たことがなかったんですけど、試合の面白さはもちろん、スタジアムでの応援のスタイルを知ったら、すごく楽しくて。そこからハマってしまいました。

 最初のうちは、海外までサッカー観戦に行くなんて、考えもしませんでした(笑)。でも、そのあと俗に言う「ドーハの悲劇」というやつがあって。僕は日本のスポーツバーで仲間たちと中継を観ていたんですけど、日本が試合に負けたときに、「ああ、行けばよかった!」って後悔したんですよ。勝つにしても負けるにしても、「その場にいたかった!」って思ったことが、海外遠征のきっかけですね。

「入国理由」をキッチリ言えないと、大変なことに!?

――お二人とも、かなりの回数渡航されていると思うのですが、トラブルに巻き込まれてしまったことはありますか?

しんいちさん トラブル……。まあ、何かあったら今ここにいませんからね(笑)。

カナコさん 確かに(笑)。私もほとんどないですけど、やっぱり荷物検査で“ペンライト”が引っかかると嫌ですよね。「これ何?」って聞かれたりするの、恥ずかしいんですよ(笑)! あとは、頻繁に韓国へ行っているので、入出国の理由を怪しまれます。一度、帰国したときに「こんなにしょっちゅう韓国に行って、何してるんだ? 仕事じゃないよね?」って質問されたことがありますね。そのときは、相手の言い方もなんかムカついたので、正直に「韓国のアイドルにハマってるんです!」って、開き直りましたけど。

しんいちさん それ、僕もあります。これはサッカーとは関係ないんですけど、アトランタで開催された「アニメコンベンション」に行ったとき、入国時に「何をしに来たんだ?」って聞かれたので、「『アニメコンベンション』のために来た」って言ったら、「はあ!? 何言ってるんだ?」って反応されて。「アトランタに来たら、普通はコカ・コーラかCNNか、マーティン・ルーサー・キングの墓へ行くに決まってんだろうが!」って(笑)。不法就労を疑われる場合もあるから、入国理由は明確にしておいたほうがいいですね。実際に行く予定はなくても、主要な観光地ぐらいは押さえておいたほうがいいかも。

――海外遠征でハードルになることって、なんだと思いますか?

カナコさん 問題は“お金と時間”ですよね、あと“体力”。これをそろえることが、最低限の条件ですかね?

しんいちさん そりゃ、アマゾンの奥地へ行くとなれば話は別でしょうけど、都市部ならパスポートとお金、スマートフォンさえ持っていたら、なんとかなりますよね。今は航空券やホテルの手配も、すべてインターネットでできますし、そういった点でも気軽に海外へ行けるようになったと思います。

カナコさん 遠征する人って、もともと“旅行”に対するハードルが低いような気もします。なので、結構すぐに「あ、海外でもなんとかなるわ」って気づくのではないでしょうか(笑)。

――体力が必要ということになると、「だいたいこのくらいの年齢が海外遠征オタクの限界」と考えたりしますか?

しんいちさん 明確な年齢は考えてないですね。体力とお金が続く限りは、海外までFC東京を追いかけると思います。「行かなくてはならないのなら、必ず行く」という気持ちなので。

カナコさん 私も年齢のことはあまり考えないんですが、さすがに若いときに比べると、体力に“陰り”が見え始めてます(笑)。周囲に迷惑をかけずに、見苦しくない感じで続けていければいいな、と思ってますね。若い人ばかりのイベントは、さすがにちょっと遠慮しようかな……という感じですが。

「海外まで行く必要あるのか」という声には……

――ちなみに、お二人がこれまでに行った遠征の中で、一番お金を使ったのはどんな現場ですか?

しんいちさん 僕はやっぱり、最初に行ったイギリスです。2週間近く行っていたこともあり、30~40万くらいかかりましたね。まだ20歳そこそこの頃だったので、かなり頑張ってためました。でも、今考えたら結構安く済んでると思います。主な目的はサッカー観戦だから、スタジアムへ行って、ごはんを食べて帰ってくるだけなので、そんなにお金使わなかったのかな(笑)。このときもそうですが、基本的に遠征へ行ってもお土産は買わないんです。

カナコさん 私はサイン会のために、同じCDを何枚も買ったときですね。グループにもよりますが、そのときは韓国への旅費込みで30~50万くらい使ったかな。ちなみに、私もお土産は買わないですね。韓国によく行く友達が多いので、必要ないんですよ。「虚礼廃止しよう」ってことで、みんなで一斉にやめました。

――趣味に使う金額としては結構高額だと思うのですが、ご家族や職場の人からツッコまれたりしませんか?

しんいちさん それこそお土産を買う羽目になるので、僕は家族にも職場にも何も言わずに遠征へ行ってます(笑)。

カナコさん 私は家族にも職場の人にも恵まれていて、夫と一緒にソウルのコンサートに行ったこともあります。オタクなことを周囲に隠さないほうが、協力してもらいやすいですし、楽だと思いますよ。

しんいちさん 正直、周りが海外遠征するオタクばっかりなので、何かツッコまれること自体がないかも。もし「海外まで行く必要ある?」とか言われても、それはその人の価値観なので「僕は行くけどね~」で終わりです(笑)。

カナコさん K-POPファンからしたら、せっかく海外の人を好きになったのに、その人を取り巻く環境や文化を直接体験しに行きたいと思わないほうが不思議。もちろん、事情があって海外遠征に行けない友人もいますけど、K-POPファンで海外遠征に否定的な人が少ないからか、仲間内で「あの人変だよね」みたいな空気になることもないですよ。

――「わざわざ海外まで行ってよかった!」と感じるのは、どんなときですか?

カナコさん K-POPアイドルは日本での活躍も増えてますけど、日本のイベントと韓国のイベントは、やっぱり性質が違いますね。グループにもよりますが、日本のイベントは、あくまでも“日本のファン向け”。コンサートはもちろん、サイン会とかハイタッチ会みたいなイベントは日本にもありますが、韓国でやるイベントはもっと密というか……充実度が違います。韓国のサイン会だと推しと話せる時間も長いですし、プレゼントが手渡しできたりと距離が近いんです。

 あと、韓国内でのイベントに日本人がいると、やっぱり「わざわざ来てくれてありがとう」って言ってくれるんです。熱心に追っかけていると、「今日、あなたのことを見てましたよ」って推しに言ってもらえることもあります。そういうのはうれしいですよね、やっぱり。

しんいちさん 僕の場合、食事が楽しみですね。サッカー観戦に行くときって“弾丸ツアー”になる場合もあって、普通の旅より全然時間がないし、あんまり観光もできないんです。でも、遠征で来ている仲間と合流して、「一緒にごはん食べよう~!」ってなるのは、すごく楽しい。

――海外なのに、「行けば誰かいる」っていうのは驚きます。

しんいちさん でも、そうやって周りがみんな行ってるから、海外遠征へのハードルが下がっているっていうのもあるのかな。僕なんか、ほかの人に比べたら全然行ってないほうですよ。「AFCチャンピオンズリーグ」で全試合行っている友達とか、ザラにいます。“上には上がいる”ってやつです(笑)。いろんな意味で、世界は広いですよね。

※後編へ続く

生理前だけ“うつ病”に!?  PMSより強いイライラや情緒不安定を招く“PMDD”とは

 生理前に、心身の不調に悩む女性は少なくない。胸が張る、過度の眠気、肌荒れ、食欲が増す、便秘、集中力低下、イライラする、無気力感といった症状をもたらす「PMS(月経前症候群)」はよく知られているが、PMSより精神的症状の深刻度合いが大きいとされる「PMDD(月経前不快気分障害)」という疾患をご存じだろうか。 PMSと比較して認知度が低く、またPMSと勘違いされることもよくあるというPMDD。そこで今回、その実態を探るべく『月経の前だけうつ病になってしまう女性たち―PMDD(月経前不快気分障害)を治す』(講談社)『月経前不快気分障害(PMDD)』(星和書店)などの著者である東北医科薬科大学・山田和男病院教授に、PMDDの症状や治療法についてうかがった。

PMDDは“うつ病”の一種!? PMSとの違い

――「PMDD(月経前不快気分障害)」とは一体なんでしょうか。

山田和男医師(以下、山田) 一言で表すと「月経の前ごとに(非定型)うつ病を呈する疾患」です。医学的にうつ病の一種だと考えられており、具体的には生理前の7~10日間程度、過食と過眠、全ての物事がつまらなく感じる、絶望的な気持ちになる、自己卑下、強度の不安やイライラ、情緒不安定といった抑うつ症状が続きます。また、否定的なことを言われると涙を流してしまったり、些細なことでもカッとなって、職場や家庭で口論をしてしまうことも。さらに、疲れやすく集中力がないといったうつ病によくある病状が出る方もいますね。

――PMSにも精神症状がありますが、PMDDと明確な違いはあるのですか。

山田 確かに、PMSとPMDD は似た症状ですが、精神医学の診断上、別の疾患なんです。PMSは体の不調が中心で、PMDDは精神的な症状が強く現れます。PMDDはすでに、アメリカなどの海外で、うつ病の一種として認知度が上昇しているものの、日本ではあまりなじみがないため、PMSとPMDDを混同する臨床医が多いのが実情です。

 PMSにはないPMDDの特徴を見ていくと、PMDDは生理前の7~10日間ぐらい“だけ”、抑うつ気分がうつ病に匹敵するほど重症化し、“社会的機能”がガクッと落ちます。具体的には「学校や仕事を欠席せざるを得ない精神状態になる」「仕事の効率が著しく下がる」「周囲の人間と口論になる」「子どもを言葉の暴力で傷つけてしまう」など、つまり日常生活に支障を来すほどの症状であれば、PMDDの疑いがあります。自身でコントロールできる程度のイライラであればPMSだと考えられるでしょう。

 また、うつ病と比較すると、うつ病の場合は、上記のような症状などが2週間以上続きますが、PMDDの場合は生理が来ると必ず消えます。ほとんどの患者が月経の1~2日目に精神症状がなくなりますね。そして、また生理の7~10日前ぐらいに病的な不安や抑うつ気分になり、それが月経周期に沿って繰り返されるわけです。

――PMDDを発症する誘因はわかっているんですか。

山田 何らかのライフイベントを契機に発症することが多いと言われています。実際に診察していると、20代以降の人に多く、就職や転勤、結婚、出産、介護など大きなライフイベントと密接に関係していることがわかっています。

――PMDDをセルフケアする方法があったら教えてください。

山田 精神疾患なので、自身でケアするのはちょっと難しいですね。強いて言えば、エアロビクスのような有酸素運動などをすると症状が少し軽くなる人もいますが、PMDDを専門とする精神科医を受診することが最善策と言えます。

 実際に、「PMDDなのでは?」と来院する人のうち、1~2割程度はPMSで、PMDDの診断基準を満たす人は3~4割ほど。残りの4~5割は2年以上軽いうつ状態がダラダラと続く「持続性抑うつ障害」など何かしら別の精神疾患を抱えているんです。生理が終わった後も精神症状が残っていれば、PMDDではなく持続性抑うつ障害や何らかの精神疾患かもしれません。

――PMSとPMDD、持続性抑うつ障害の治療法は違うのでしょうか。

山田 そうですね。それぞれの疾患に適した治療法があるので、まずは根底に精神疾患がないかをきちんと調べることが重要。PMSの場合は、生活のリズムを整え、漢方薬を用いることで改善する人が多いです。PMSに対して、PMDDの治療薬を使うのは過剰医療になりますし、持続性抑うつ障害とPMDDの治療法も異なるので、正しい診断をしないと明後日の方向の治療になってしまいます。

 ただ、持続性抑うつ障害は「病院で診てもらおうかな……」と思うほど、ひどい症状が出ないことが多いので、自覚している人が少ない。そのような精神状態にPMSが加わると、「生理前にだけ症状が悪化している」と錯覚し、それをPMDDのように感じることもあります。反対にうつ病の治療中、うつ病自体は良くなっているものの、PMSだけ残っていると生理前だけ悪化しているように感じて、それをPMDDだと勘違いする人も。最善の治療法を見つけるためにも、その人がどのような精神疾患を抱えているかを見抜く必要があるんです。

――PMDDを専門に扱う病院は少ないと思います。どのような病院に行けばいいのですか。

山田 産婦人科よりも精神科や心療内科をおすすめします。もちろん、産婦人科の先生でPMDDについてよく知っている人はいますが、精神疾患を見抜けなかったら大問題ですから。先ほどもお話しましたが、自称PMDDの方の半数近くが、ほかの精神疾患にかかっています。まずは精神科や心療内科に「PMDDの“治療経験”はありますか」と聞いてみてください。冒頭でもお伝えしましたが、「PMDDの名前は知っているけど、実際に診たことはない」というように臨床経験がなかったり、PMDDを正しく理解せずPMSと混同している医師が多いので。

――PMDDと診断された場合、具体的にどのように治療していくのでしょうか。

山田 「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(通称SSRI)の間欠療法」というのが一般的な治療になります。詳しく説明すると、SSRIという抗うつ薬を黄体期のみ服用し、生理が来たら薬をストップするという治療法。PMDDの治療経験がない医師は、漢方薬しか出さなかったり、「毎日薬剤を服用(継続療法)してください」という治療をしがちですが、それはあまり良くないですね。

人によって効果が出る薬の量や期間は異なるものの、薬がその人にピタリとハマれば、飲み始めたサイクルから、すぐに月経前のうつ病の症状は消えます。しばらく間欠療法を続けてもらいますが、寛解状態(症状が落ち着いて安定すること)に入ってからおよそ1年間、症状が出なければ、その後は薬を減らしてゼロにしていく。ただ、大きなライフイベントがあると再発してしまう人もいるので、ゆっくり治療していくことが大切です。時間はかかるように見えますが、一般的なうつ病と比べて治療成績は高いので慌てず付き合っていきましょう。

山田和男(やまだ・かずお)
1967年東京都生まれ。91年、慶應義塾大学医学部卒業。2002年、慶應義塾大学医学部東洋医学講座講師。03年に山梨大学医学部精神神経医学・臨床倫理学講座講師。05年、東京女子医科大学東医療センター精神科講師を経て、11年同教授。17年より東北医科薬科大学医学部病院教授に着任し現在に至る。著書に『月経の前だけうつ病になってしまう女性たち―PMDD(月経前不快気分障害)を治す』(講談社)『月経前不快気分障害(PMDD)』(星和書店)『パニック障害の治し方がわかる本』(主婦と生活社)などがある。

からし蓮根がたどり着いた熊本弁漫才「背伸びするのをやめて、素の感じでできるようになろうと」

2画面左からボケの伊織とツッコミの杉本青空(撮影=荒熊流星)

 ついに明日、今年のNo.1漫才師が決まる。2019年『M-1』グランプリ決勝、なんと9組中7組が初の決勝進出というフレッシュな顔ぶれがそろう。中でも「優勝候補」と の呼び声が高いのが、熊本出身の同級生コンビ、からし蓮根。190センチの長身ボケが舞台狭しと動き回れば、独特のワードセンスを熊本弁にくるんだ小気味良いツッコミがそれをコントロールする。新しいのに懐かしいのは、その確かな技術ゆえ。霜降り明星がくさびを打ち込んだ「お笑い年功序列」に、今再び「第7世代」が襲いかかる。

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――決勝を目前に控えた今のお気持ちは?

杉本青空(そら/以下、青空) まぁ、そうですね……怖いですね。まぁまぁ、楽しいですけど、決勝までのこの期間がね(※インタビューは12月17日)。

――今年の『M-1』の決勝は、出場者も年齢層もガラッと変わって……その象徴がからし蓮根さんなのかなと思い、インタビューをお願いしました。お2人も、そういう流れの変化みたいなものを感じていますか?

伊織 やっぱり去年、霜降り(明星)さんが優勝してからですね。若手が注目されるようになった。

青空 追い風ですね。ありがたいですね。

――第7世代……提唱者といわれている(霜降り明星の)せいやさんは、すごいその言葉を嫌がっていますが(笑)。

青空 確かに。こんな大変なことになるとは思ってなかったでしょうから。

伊織 ラジオでたまたま言った言葉がね~。

――からし蓮根さんは、「若さ」ももちろんですが、熊本弁での漫才というのも異色です。

青空 最初は違ったんです。標準語と関西弁が入り混じった、どこの言葉ともつかないものでやってたんですけど、たまたま方言をちょろっと入れてみてたら、お客さんの反応が良かったので。そっちのほうが僕らも楽だった。地元の言葉でやるほうが。

――最初からではなかったんですね。

青空 そうですね。なんか、熊本弁は受け入れられないと思ってたんで。

――テンポとか、言葉の意味が伝わらないとか?

青空 それもあるし、ネタの邪魔になると思ってて。

――でも、実際やってみたら、熊本弁のほうがしっくりきたんですね。

2人 そうですね、はい。

青空 上手にね……なりたいなと思ってたんです、漫才を。大阪弁とか標準語のほうが、高等なテクニックを使ってるような感じするじゃないですか。でも、もうそれをあきらめて。上手になるのは無理がある。

――おっしゃる感じはわかります。なんというか、方言の「あざとさ」みたいなものも、最初躊躇されていた要因なのかなって。

青空 そうなんですよ。ただちょっと背伸びするのをやめて、素の感じでできるようになろうと思って。やったらまぁ、自然と方言になった感じです。

――お2人は高校時代の同級生ですよね?

2人 そうです。

――青空さんは「高校生活があまり楽しくなかった」と、以前インタビューでおっしゃっていましたが。

青空 そうそうそう。入学して、僕ホームシックになったんです。高校は市内にあって、でも僕は田舎の中学校から入ってきて、ほんと友達も誰もいなかった。すぐに辞めようと思ってました。

――青空さんは内向的なタイプ……?

青空 めっちゃそうですね。

――そのインタビューによると、青空さんが辞めようと思ってるからなんとかしてくれと、先生が伊織さんに頼んだと。

伊織 そうですね。でも何もしてないです。ただしゃべっただけです。

――お互い気が合うなと思いましたか?

青空 気が合う……? うーん、そうですね、僕は小さい頃からお笑いがめっちゃ好きやって、中学の時に『M-1』でサンドウィッチマンさんやキングコングさんを見て、格好いいなと思って。一緒にお笑いやる人おったらなって探してたら、伊織がね、そんなんやらされてたんで、周りの友達に。

――一発ギャグ的なものを?

青空 それ見てたので、ちょっと誘いやすかったというか。

――内向的なタイプとおっしゃいましたが、人前に出てネタをやることに戸惑いはなかったですか?

青空 まぁそうですね。でも、テレビで見たギャグとかをぱっと覚えてて、親戚の集まりとかでちょっとふざけてやるみたいなのの、その快感はあったんですよ。この感覚すごいなぁって。

――勝手なイメージなんですけど、やっぱり熊本の、九州の男の人は無口で、どんと構えてという……

2人 そうです。基本はそうです。

青空 もちろん漫才はやりますけど、ほかのところでは本当にその通りですね。

――もともとは同級生だった友達が、一緒に仕事する仲間になって。関係性に変化はありますか?

2人 関係性……?

伊織 逆に高1の時しかクラス一緒じゃなかったんで、それも相まって、ちょうどいい関係性、ちょうどいい距離感でやってますね。

青空 そうじゃないと、やっていけないですよ。仲悪かったらやっていけない。良すぎても……ですけど(笑)。

――楽屋では、どんな感じなんですか?

青空 仲良い、しゃべりやすい人とはしゃべりますけど、新しく誰かに話しかけて……みたいなのは自分からはしないですね。話しかけてもらって、やっとです。

――伊織さんは?

伊織 僕は逆にいろんな人と仲良くなりたいんで、いろんな人としゃべってます。幅を広げていく感じです。

――同世代で、仲のいい芸人さんはいらっしゃいますか?

青空 先輩だと吉田たちさん。同期は、紅しょうがの熊元プロレスというマイナーな芸人がいるんですけど、そいつと仲いいです。

――吉田たちさんも準々決勝に進出していました。

青空 正直言うと、もう戦いたくないんですよ、本当に。(吉田さんたち)おったら、たぶん勝てない。だからよかったといえばよかったのかもしれないけど、悔しい気持ちもある。メチャクチャ面白いのに、なんであそこで落とされるんだ……って。でも、これが勝負の世界なんですね。

伊織 僕も、吉田たちさんは仲いいですね。同期だったら、レインボーの実方(孝生/現・ジャンボたかお)とか。あとはEXITの兼近(大樹)とか、四千頭身の都築(拓紀)とか、たくろうのきむらバンドとか。そんな感じです。

――今をときめく方々が!

伊織 今どきの人と。なんか広く(笑)。

――伊織さんとジャンボさんが一緒に歩いてるところ、ちょっと面白そう(笑)。

伊織 いつも東京来たら連絡するし、向こうが大阪来たら一緒に遊んでますね。

――青空さんが「出待ちに冷たい」というウワサを聞きましたが、それについてはいかがですか?

青空 そうですね。よく言われます(笑)。うれしいのは、うれしいんですよ!「キャー!」ってしてくれるのも。でも「この人たちも、いつかいなくなるもんや ……」と思って接しないと、たぶんやっていけないかなと。

――伊織さんは……?

伊織 僕は全然。どんどん来てくれ! っていう。全力でお相手します(笑)。

――本当に真逆ですね(笑)。伊織さんは現在、オール巨人師匠のところでアルバイトをしてらっしゃるんですよね。

伊織 たまたま師匠のスナックがあるエリアに僕が住んでて、「バイト来いよ」って誘われて、それからです。サイズが合うっていうのもあって、衣装のお下がり頂いたり、よくしてもらってます。

――ネタについて、アドバイスもらったりとかは?

伊織 ネタは……個人的に見てもらったりとかはしてないですね。アドバイスも「やめるな」って言われたぐらい。

――究極ですね。

伊織 最初の頃に「やめたらあかん」って。「続けといたらいつかチャンス来るから、やめずにおれ」と。全然「やめたい」とか言ってないんですけど(笑)。なんか基本、根っこの部分で、そこが大事やでってことだと思います。

――最初から、何かを見抜いてらっしゃったのかもしれないですね。

伊織 テレビでネタにできるエピソードが増えたり、先輩や師匠に「あ、お前スナックでバイトしてたな」って声かけてもらったり。ありがたいです!

青空 伊織が広げてくれた人脈に僕が入れてもらうという、そういう感じです。僕は、なんもしてないです……。

――なんもしないってことは……。

青空 いや、でもそうですね。僕は漫才考えるだけですね。

――かっこいい……。

青空 あぁ、まぁそうですね(照)。

――ネタは、どうやって作ってるんですか?

青空 いろいろですね。ツッコミから思いつくこともあるし、ボケから広げてくことも。

――からし蓮根さんの漫才は、見たことないけど懐かしい感じもあって、不思議な感覚です。

青空 設定自体は、だいたいみんなが漫才でやってるようなやつですし。でも、その中でも誰もやってないことを探す、みたいな感じですね。

――入り口は普通だけど、入ってみたら見たことのない世界。

青空 そうそうそう。それって、逆に誰も手を出さない気がする。みんなもっと新しいほう新しいほうへ行くんで。

――キーになるのはやはり伊織さんのキャラだと思うのですが、青空さんはどういう戦略でネタを作られているのですか?

青空 そうですね。生かすって感じでもない。伊織ができるかどうか、です。これ言えるかとか、ちゃんと思った通りに笑いにつなげられるかとか。

――なるほど……。

青空 伊織が無理してたら、全然おもんないですよ。

――伊織さんは「こういう表情や動きで笑わせよう」みたいな欲が、ものすごく薄いように思います。

青空 たぶんそれが見えると、本当に寒くなるというか。

――その押し付けがましくなさが、からし蓮根のすごいところだと。

伊織 僕はもう、やるだけなんで。

――正直、今年の『M-1』はいけるのではないかという、手応えみたいなものはあったのでしょうか?

2人 手ごたえ……?

青空 手ごたえ……いや、ないですね。

――そ、そうなんですね!

青空 去年は準決勝で、3回目ですね、準決は。(手ごたえのなさは)それもあるかもしれないです。最初に準決行けた時は、確実に手ごたえあったんですよ。まぁ初めてやったんで。そっからはもうなんか「大丈夫? これで」みたいな。だんだん自信なくなってきて、通過したら「よかった……よかった……」ってホッとする感じになってきました。

――『M-1』で準決勝に残ることがまずすごいわけですが、そこからさらに高い壁が「決勝」にはある。

2人 ありました。

――どんな壁なのでしょうか?

青空 なんでしょうね、あれは。

伊織 わかんないです(笑)。

青空 でもなんかもう……無理でした。1回目の(準決勝の)時は、本当にもうそんな感じ。1言目、2言目ぐらいで、2人ともたぶん「無理だ」ってわかってた。

――空気のような?

青空 空気ですね。やり始めた感じで、もうなんかわかる。

伊織 これはちょっとレベルが違うわ、みたいな。

――『M-1』決勝進出が決まった後の記者会見で、インディアンスさんが「漫才中に『「これいったな』」って思った」みたいなことをおっしゃってましたが、その逆もまたわかるんですね。

青空 そうですね。

伊織 でも、今年も、やってる時は正直わかんなかったです。ただ落ち着いてやってこうと。

青空 (準決勝の)映像を見返しましたけど、みんな「よっしゃ」みたいな感じで袖に戻ってくるんですけど、僕ら2人とも腕組んで歩いてて。

伊織 うーん、どうだろうって(笑)。

青空 「どうだろう?」だった。ただ、ウケてりゃいいなと思って。

――無心ということですね。

青空 そうですね。ちゃんと見ごたえのあるものになってるかなっていう、そのことしか考えてないです。

――今年は確実視されていた方が準決勝で姿を消したり、始まる前から波乱含みです。

青空 そうなんですよ、本当に。

――俺たちの時代がきてる……みたいな感覚は?

青空 時代ですか……。

伊織 時代はまったく……確かに若い世代が注目されてるなって感じはするんですけど、別に大阪はそんな感じでもないんですよ。第7世代がきてる感じはあまりしない。

――ああ、この異様な「第7世代」ムーブメントは、割と関東特有のものなのか!

伊織 そうだと思うんですよね。関西は、そんなに気にしてない感じで。

――それって、関西のお笑い界のほうが、うまいこと新陳代謝がなされているということでもあるんでしょうね。今、それが東京にも起こりつつあると。

青空 そうかもしれないです。若い……僕らぐらいにも仕事が来るように、やっとなってるのかもしれないですね。

――決勝に出たら、認知度もまたグーンと上がると思われますが、これからやってみたい仕事などありますか?

青空 なんやろう。レギュラーが欲しいですね、番組の。『ワンナイR&R』(フジテレビ系)とか好きやったんで、ああいう。『笑う犬』(同)もめっちゃ見てたな。でもとにかく、『M-1』で目に見える結果を出してからですかね。

――以前(霜降り明星)粗品さんが「『M-1』で優勝してから、やっと自由に漫才ができるようになった 」ということをおっしゃってましたが。

青空 あぁ、そうやと思います。

――アドリブを効かせてネタをするとか。

青空 確かに。今はメチャクチャ避けますね。まぁね、簡単ですもん。お客さんの目線に合わせようと思えば、たぶんいくらでも合わせてできる。そういうのなしで、普通にちゃんと漫才をしないと、今は。

伊織 とにかく、たくさんの方々に笑ってもらえるように頑張ります!

――なんか、でもドキドキしますね……。決勝組で、ライバル視してるコンビはいますか?

青空 決勝で? 誰やろう? ちょっとどんな感じになるのかわからない。

伊織 最近……思うんです。やっぱりネタの最初のほう、まだまだ緊張してるなって。やっていったら徐々に落ち着いてはいくんですけど。だからライバルは……自分自身。

――なんか……イチローみたい。優勝後に、またインタビューをさせてください。その時は……もうちょっと心を開いていただけるように、私も精進します(笑)。

伊織 なかなか開かないんで。(青空は)開かないタイプなんで。

青空 いや、そんなことは、いや。またよろしくお願いします。

――(開いてない……)
(取材・文=西澤千央)

「セブン-イレブン」「ZOZO」「RIZAP」……2019年、企業スキャンダルの“主役”たちを考察!

 令和元年も間もなく終わりを迎えるが、今年も多くの企業スキャンダルが噴出し、さまざまなメディアで“転落”を伝えるニュースを目にした。そんな、世間に悪い意味で話題を振りまいた企業や著名人の「ビジネスモデル」は、どのような問題をはらんでいたのだろうか――。今回、金儲けに長けた経営者たちの戦略をわかりやすく紹介した書籍コイツらのゼニ儲け アコギで、エグくて、ときどき怖い(秀和システム、12月18日発売)の著者である西田健氏に、今年何かとニュースになった有名企業「セブン‐イレブン」「ZOZO」「RIZAP」について、その問題点を聞いた。

24時間営業問題に揺れた「セブン‐イレブン」

――今年は、「セブン‐イレブン」に関するニュースをよく目にしました。今年2月、南上小阪店のオーナーが、人員不足により営業時間を19時間に短縮したところ、本部からフランチャイズ(FC)契約違反を理由に1700万円を請求され、さらにFC解約を求められたことが明るみに。以前から、コンビニオーナーの過重労働問題が取り沙汰されていたこともあり、セブン本部への批判が噴出しました。

西田健氏(以下、西田) 今のコンビニって、IT技術の発達によって、儲けようとすれば、どこまでもムチャができるようになっているんですよ。例えば、朝は出勤する会社員向け、昼は近所の高齢者や主婦向け、夕方は帰宅中の学生向け、夜は一人暮らしのOLやサラリーマン向けといった具合に、時間帯によって商品構成を変えることができ、本部には、いろんな企業から新商品やサービスのオファーがあります。

 そのため、本部が儲け主義なら、「あれもやれ、これもやれ、できなければ機会ロスだ、ペナルティだ」とFCのオーナーを追い詰めるようになり、地獄のような職場に早変わりするんですね。2000年代までは、ここまで効率化や儲け主義はひどくなかった。「24時間営業を辞めたい」というオーナーの声が高まっているのは当然だと思いますよ。あと、特に今はバイトの主力が外国人で、オーナーが彼らの対応に苦労しているという話もあります。

――具体的に、どのような苦労があるのでしょうか。

西田 『コイツらのゼニ儲け』にも、オーナーの苦労話として「日本語が不自由なことでバイトが客とトラブルを起こせば、すぐさまオーナーが出て行って謝り、外国人留学生が生活面で苦労していれば、あれこれと面倒を見てやり、国籍違いからバイト同士でケンカをすれば、 行って仲裁する。まさに『雨ニモマケズ』」と書きましたが、オーナーの本音は「もうね、でくの坊と呼ばれていいから、とにかく休ませてくれ。深夜枠だけでもいいので安心して眠りたい」というところですよ(笑)。

 セブン‐イレブンに対し、オーナーが反旗を翻すさまをよく表しているのが、店のテーマソングだったザ・タイマーズの「デイドリームビリーバー」なのではないでしょうか。あの曲のサビ部分って、つまり「寝ぼけるな、目を覚ませ」という内容なんですが、ボロボロのカラダに鞭打って働くオーナーは、その曲をうんざりするほど聞かされるんです。歌詞の意味を知ったオーナーから「目が覚めて」立ち上がっているんでしょうね。

――9月に、ヤフーが4000億円でZOZOを買収したことも話題を集めました。それに伴い、創業者の前澤友作氏が退任したことを、“転落”と見る人も多かったようです。

西田 本書ではZOZOと前澤さんのことを大絶賛しちゃっているんですよ。ファッションって、「どんな服を買うのか」も大切ですが、「どこで買ったのか」も重要。せっかくならオシャレなイメージの場所で買いたいというのが消費者の本音であるため、そのブランディングのためにファッションビルは、ものすごいお金を掛けてイメージ宣伝しますよね。

 ZOZOの場合、そのブランディングを「カリスマIT社長」の前澤さんを広告塔に押し出すことで成功させてきました。もともとプロのミュージシャンでスタイリッシュ、資産1000億円の大金持ちですからね。その彼に、ど派手な言動をさせることによって、「ZOZOで買う」ことが、「格好いい」「オシャレ」というイメージを付けていった。つまり、前澤さんが女優をはべらせて高級ワインをがぶ飲みすることが、売り上げアップにつながるんです。このビジネスモデルを作った前澤さんは天才的な経営者ですよ。

――ですが、彼のど派手な言動がTwitterを中心に反感を買い、炎上したのが、今回の退任劇の背景にあると見る向きもあります。

西田 社長を広告塔にしてZOZOのブランディングをするならば、ある程度、会社が大きくなった時点で、炎上を回避するためにプロのスタッフを雇い、全ての言動はシナリオ通りやるんですよ、まっとうな経営者なら。でも前澤さんは、そういうタイプじゃなかったんでしょうね。

 炎上から買収、退任までの流れを見ると、明らかに役員たちは前澤さんがコケるのを待っていたというか、一同で「社長のちょっといいとこ、見てみたい」と、ガンガン煽っていたんだろうな、と(笑)。

――剛力彩芽さんとの交際でも騒がれていましたが……。

西田 剛力さんと交際した頃には、すでに社員から見限られていた気がします。実際、彼は退任直後に新会社を設立しましたが、社員は前澤さん一人とのことで、つまり彼に付いていった役員は、誰もいないんです。彼のようなカリスマ経営者は、ベンチャー企業を大きくするのには向いていますが、会社を安定させるのは不向きなんでしょうね。

 とはいえ、キャッシュで1000億円残りましたし、いわば「強くてニューゲーム」(主にロールプレイングにおいて、ゲームクリア時点でのセーブデータを引き継ぎ、初めからゲームを始められるシステム)で起業できる以上、ZOZOレベルの会社はすぐにつくると思いますよ。ま、それで成功しても、またすぐ追い出されちゃうんでしょうが(笑)。

――最後に「RIZAP」についてお聞きしたいです。一時期、ダイエットのBefore→Afterを見せるCMが人気を呼び、有名企業になりましたが、19年3月の決算で純損益193億円の赤字を出し、経営危機がささやかれるようになりました。

西田 RIZAPの瀬戸健社長のインタビューを読んでいますと、「あ、この人、『クローズ』(秋田書店)とか好きなんだろうな」とわかります。具体的に言うと、硬派なヤンキーが「てっぺん取ったる」という心意気で、起業して大成功した……そういう匂いがプンプン漂ってくるんです。瀬戸社長のこうしたメンタリティは、RIZAPの代名詞となった強制ダイエットの“鬼トレーナー”にも通じているのではないかなと思っています。瀬戸社長に惹かれて鬼トレーナーが勝手に集まってきたとしたら、そりゃあ成功するでしょう。あそこのジムは「鈴蘭高校RIZAP組」みたいな感じなんですよ。

 そんな「鈴蘭高校RIZAP組」ですから、本業で成功すれば、他校……ではなく“他社”を締めにいくというのは、ごく自然な流れとなります。それでバカみたいに会社を買収しまくった。「ジーンズメイト」や「湘南ベルマーレ」「日本文芸社」なんかもワンパンで沈めて、今では86社を傘下に収めて巨大化しています。

――しかし、それが仇となって、赤字が膨らんだと言われています。

西田 瀬戸社長本人は、今度は贅肉ではなく、「赤字をむしり取れ」とか命じたのかもしれませんが、企業再建のできるような頭脳派社員が「鈴蘭高校RIZAP組」にいるわけありません。当然の帰結として破綻に向かっているというだけの話ではないでしょうか。

――これからRIZAPはどうなると思いますか?

西田 近いうちにハゲタカに食い散らかされる可能性は高いでしょうね。ライブドア事件のあと、堀江貴文さんもRIZAPのCMに出たじゃないですか。あんな感じで、新生RIZAPのCMに、瀬戸社長が、“元社長”として出演する未来は、十分あり得ます。瀬戸社長はムキムキマッチョ体形なんで、今のうちからブクブク太っておくのもいいでしょうね。その方がギャラも上がるでしょうし。

――『コイツらのゼニ儲け』でも、このようにさまざまな企業や著名人のビジネスモデルを考察していますが、ご自身でその面白さはどこにあると思われますか。

西田 知り合いの懐事情って興味あるじゃないですか。「あそこのご主人、どんなお仕事で、どのくらいお給料もらっているのかしら」という感じ。それを企業や著名人でやっているだけでして、基本下世話な内容です(笑)。暇つぶしに読んでいただければありがたいですね。
(文=西本頑司)

西田健(にしだ・けん)
1968年広島県生まれ。下関市立大学卒業後、男性週刊誌の記者や「噂の真相」(噂の真相)などを経てフリーライターに。書籍、雑誌を中心に活動する。現在、「紙の爆弾」(鹿砦社)で「コイツらのゼニ儲け」を連載中。

我が子を“ブラック部活”から救うために――保護者と顧問が「定時帰宅を徹底」するべき理由

 2016年8月、『クローズアップ現代+』(NHK総合)が「『死ね!バカ!』これが指導? ~広がる“ブラック部活”~」と題し、中学・高校の部活動において、顧問から生徒に“ハラスメント”が行われている実態を特集した。「死ね、消えろ!」といった暴言だけでなく、日常的な体罰、1カ月に3日しか休めない長時間拘束が行われている現状には、視聴者から大きな反響があった。それ以降、「ブラック部活」という言葉が世に広がり、改善へ向けた問題提起や、現場での取り組みが活発に。18年には、政府が部活動に関する「ガイドライン」を策定し、「週当たり2日以上の休養日を設ける」といった具体的な基準や、体罰の禁止について明文化された。

 しかし、それから1年たった現在も、部活の“ブラック化”がもたらす問題はなくなっていない。今年4月には、茨城県高萩市の卓球部で、顧問の男性教諭から「バカ野郎」「殺すぞ」といった暴言を受けた女子生徒が自殺。同部は全国大会の出場歴がある強豪校で、男性教諭もベテランの指導者だったという。また、「ガイドライン」の策定をきっかけに、記載された休養日を守らず、“自主練”と称して強制的な練習を行う「闇部活」も、新たな問題として浮上している。

 時に尊い命を奪うこともある「ブラック部活」は、なぜなくならないのだろうか? そして、子どもが部活動で苦しんでいる時、親には何ができるのだろうか? 名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授であり、前出の番組にも出演した、内田良氏に話を聞いた。

明確な制度がない、無法地帯な部活動

――いち早くこの問題に取り組んできた内田先生は、「ブラック部活」をどういった状態の部活動だと捉えているのでしょうか。

内田良氏(以下、内田) 最も主眼に置いているのは、「やりすぎている部活」です。さらに言えば、「やりすぎているせいで、安全・安心が損なわれている部活」に関心があります。例えば、休養日がなく毎日活動、1日何時間も拘束するといった「練習のやりすぎ」、大会やコンクールが毎週末あって休めない「大会のやりすぎ」、顧問や指導者が生徒に暴言・体罰を加える「指導のやりすぎ」、校内に練習場所が取れず、狭い校庭や体育館をいくつもの部活で分け合って使う「同時にやりすぎ」などがあり、どれも生徒や先生の安全・安心を脅かすものです。

――18年3月には「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が、同年12月には「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が、それぞれ策定されました。この中には、体罰の禁止や管理体制のほかに、休養日や適切な練習時間の設定についても基準が設けられています。それにもかかわらず、なぜ「やりすぎ」が起こるのでしょうか。

内田 「健全でない部活=ブラック部活」をなくしていくために、このガイドラインの策定は“前進”でした。しかし、今回策定されたのは「ガイドライン」ですから、必ず守らなければいけない決まりではなく、“目標”レベルのことなんですよね。法的な拘束力はなく、違反した場合にペナルティが科されるわけでもありません。

 部活動は、授業と違ってきちんとした“制度設計”がなく、これが大きな問題です。授業には「学習指導要領」というはっきりとした制度がありますが、部活には「ガイドライン」のみ。すると、狭い校庭を複数の部活が分け合って使うことが問題視されず、ストレッチをしている陸上部の隣で、サッカー部がボールを蹴るといった、事故が起こりやすいシチュエーションができてしまいます。体育の授業で場所が足りないとなれば、体育館か学校自体をもうひとつつくることになります。でも部活には制度設計がないため、そもそも「広さ○平方メートルに対して、活動できる部活はいくつまで」といった決まりもない。なので、なかなか状態が変わらないのだと思います。

――生徒や先生を守るはずの「ガイドライン」ですが、現場からは反発も多いようです。それはなぜでしょうか。

内田 やはり、「部活は楽しいから」「やりがいがあるから」でしょう。練習や大会が大きな負担であっても、そこに楽しさややりがいを感じていると、自粛するのは難しい。子どもたちが楽しんでやっていれば、大人たちも規制しにくいのでしょう。

――学校側が止めても、顧問や部員たちが“自主的な練習”として活動をしてしまう「闇部活」もあると聞きます。

内田 “部活動の練習”として認めると問題があるので、朝や放課後の練習を“自主練”として、学校に届けず活動をする部活もあるようです。しかしこの「闇部活」、とても恐ろしい問題をはらんでいます。“自主練”といっても生徒だけで行うわけではなく、顧問の先生が個人的に引率したり、保護者が付き添ったりするでしょう。しかし、どちらにしても「学校が認めた活動」ではありませんから、何かトラブルが起きた場合に、責任の所在が曖昧になってしまいます。

 「闇部活」中に子どもが大ケガをした、練習場所として借りていた施設を破損した、学校の楽器を運んでいたら落として壊した……そんな時、一体誰が責任を取るのでしょうか? こうした問題が起こる可能性について、顧問・保護者の認識が非常に甘い。近所の友だち同士で勝手に遊んでいるのとは状況がまったく異なりますから、思わぬトラブルに巻き込まれかねません。

――「練習のやりすぎ」をなくすためには、まず大会やイベントが多すぎる「大会のやりすぎ」問題を解決する必要がありそうです。

内田 まさにそうですね。今の部活は、練習試合、大会、地域の交流会など、年に何度も大会やコンクールなどがあります。もしかしたら、社会人より忙しいかもしれません。しかし、大会の数自体を減らすという動きは、実はほとんど起こっていない。例えば吹奏楽部なら、コンクールには参加せず、地域の行事や学内演奏会などの活動をメインにする選択肢があってもいいはずなのに、ほとんどの学校が複数のコンクールを中心にして、1年のスケジュールを組んでいます。大人になったら、スポーツも音楽も“趣味”として楽しみながらやっていますよね。勝利や高みを目指して大会を目標とする活動のほかに、学生でも「趣味として楽しむ部活」という観点があってもいいのではないでしょうか。

――では逆に、「たくさん練習したくても、ガイドラインがあってできない子ども」に対し、顧問や親はどうしてあげるべきなのでしょうか。

内田 「がんばりたい子」のフォローは、部活改革の重要な課題です。ひとつの方法としては、民間のクラブなどに入って、そこで練習をすることが考えられます。誰よりもうまくなりたい、プロを目指したいという子どもに、質の良い指導を受けさせることもできるでしょう。あくまで部活の中で、ということなら、「長い時間練習すれば上達する」という考え方を変える必要があります。例えば、週3日の練習で最大のパフォーマンスを引き出すためにはどうしたらいいか、顧問と生徒が頭を使って考え、密度・濃度の高い練習にシフトしていくのです。週3日のみ活動を行う部活が集まって、年に1回だけ大会を開催するというのもありでしょう。

――部活が過熱したり、「辞めたくても辞められない」生徒がいる背景には、“内申点”の存在があるように思います。「部活をやっていたほうが高く評価される」という“部活神話”も聞きますが……。

内田 学習指導要領の中で、部活は「自主的参加」です。要するに、部活をやっていないからといって、それをわざわざネガティブに書くことは、まずありません。一般論として、スポーツ推薦が欲しいとか、全国大会に進むほどの抜群な成績だったとか、そういった特殊な事情がない限り、部活は内申書において大きな影響力を持たないと言っていいでしょう。内申のため、部活を無理に続けるくらいなら、その時間を使って勉強したほうが、受験には有利ということになります。

 また、学校側が明らかに逸脱した指導を行っているのに、子どもがそれを嫌がっておらず、なかなか止められないという場合もあるかもしれません。保護者としてはもどかしい状況ですよね。そのとき保護者は、「ガイドライン」を持って学校に相談するといいでしょう。法的な拘束力がないとはいえ、表立った基準ができたことで、学校側に意見が言いやすくなったことは確かです。

――「部活は内申点にほとんど影響がない」という事情は、顧問の先生なら知っているはずですが、部活動はなぜブラック化してしまうのでしょうか。

内田 リスクよりも、それによって“得るもの”のほうに目が向いているからではないでしょうか。企業がなぜブラック化するかといえば、従業員の健康被害や離職率よりも、“会社の利益”に目が向いているからですよね。部活だったら、利益の代わりに得られるものは、“子どもの笑顔”や“達成感”でしょう。目標が高ければ高いほど、得られる感動や一体感は増していきます。先ほども言いましたが、部活って楽しいんです。喜びもやりがいもあるから、子どもたちは夢中になる。でもその一方で、苦しむ声が無視されていることを忘れてはなりません。

子どもを“ブラック”から救うために、大人がするべきこと

――現代では、「ブラック企業」に始まり「ブラックバイト」「ブラック部活」などの言葉が生まれ、組織が個人を酷使することが問題視されています。その中でも「ブラック部活」は、人生の中で一番最初に出合う「ブラック」ともいえそうです。

内田 「ここで頑張らないと、将来もっと大変なことがあったときに乗り越えられないぞ!」とは、キツい練習をさせるときの常套句ですよね。なんでこの先も「大変なこと」が起こる前提なんだよ、と思いますが(笑)。でもこの言葉こそが、現代の理不尽を強いる社会構造の表れです。

 人より多く練習・仕事をすることは、「負けたけど頑張った」「成果は出なかったけどよくやった」という形で、“免罪符”になりがちです。練習時間の長さで出し抜こうとしたり、熱意を測ったりするのをやめて、早いうちから“ルールの中で最大のパフォーマンスを発揮すること”を学んでいくのが大事ですね。そのためにはまず、先生や保護者が定時に帰宅することを徹底し、社会人の一人として、子どもに背中を見せる必要があるのではないかと思います。「がむしゃらに頑張る」一辺倒の構造に対し、「おかしい」と言える人間を育てていくべきではないでしょうか。

■内田良(うちだ・りょう)
名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授。学校リスク(スポーツ事故、組み体操事故、転落事故、「体罰」、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究を行う。啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『学校ハラスメント』(朝日新書)、『教育という病』(光文社新書)など。