安倍政権肝いりの家庭教育支援法とは何か?――保守派が描く「あるべき家庭像」のために親を矯正する法案の危険性

 前編では、保守派が教育問題に介入する理由や、戦後の教育行政の変遷、その結実としての教育基本法の「改悪」について、実践女子大学の広井多鶴子教授に解説してもらった。後編では、教育基本法「改悪」を受けて、自民党や保守団体が国会への上程をもくろんでいる、家庭教育支援法について話を聞いた。

(前編:“教育の憲法”教育基本法を改悪した安倍政権の狙いは?――「自己責任論」の徹底で縮小された教育行政の責任)

立法の正当性がない家庭教育支援法

――教育基本法の家庭教育の条項と連動する形で、自民党が上程しようとしているのが、家庭教育支援法です。家庭教育支援法については、どのようにお考えですか?

広井多鶴子教授(以下、広井) 家庭教育支援法は国家権力の家庭への介入という点で批判されてきました。確かにその通りなのですが、国家介入自体がいけないということにはなりません。たとえば児童虐待に対して介入すべきではないと考える人はほとんどいないでしょう。フェミニズムも、DVやセクハラや性犯罪に関して国家が正当に介入することを求めてきました。ですから、問題は介入そのものではなくて、何のために、どのように介入するのか、つまり国家介入の正当性があるかどうかという問題だと思います。とはいえ、そうした観点から見ても、家庭教育支援法には多くの問題があり、法を制定する正当性自体がないと思います。

――「正当性がない」とおっしゃる具体的な理由を教えてください。

広井 まず、今日の社会において、家庭教育支援法を制定する必要性や理由があるのか、ということです。自民党の法案では、家族の構成員の減少、家族が共に過ごす時間の減少、家庭と地域社会との関係の希薄化等による「家庭をめぐる環境の変化」から家庭教育への支援が必要になったと書かれています(第1条目的)。ですが、どれも法律を作成する根拠、つまり、立法事実としてはあまりに疑わしいものです。

 たとえば、世帯人数の減少というのは、三世代家族の減少や核家族化を想定しているのでしょうが、現在は近居が増えており、しかも、今日ほど祖父母が健在で、「孫育て」に関わっている時代はありません。

 それに、かつては三世代同居が多かったから子どもがよく育ったというのは、幻想にすぎません。今より三世代家族が多かった高度経済成長期は、少年による殺人、強盗などの凶悪事件の検挙人員がとても多い時代でした。それが、近年は戦後最低水準です。今の70代以上の世代が未成年だった頃のほうが、今よりはるかに凶悪犯罪が多かったのです。親が悪いから犯罪が起きるという考えからすれば、今日の親は歴史上最も子どもを凶悪な犯罪に走らせない親であり、子どもの規範意識を最もよく育てている親だといえるでしょう。

 つまり、同法案が挙げている根拠(立法事実)はどれも根拠とはなりえず、法を制定する必要性も正当性もありません。にもかかわらず同法を制定するとすれば、いたずらに家族に対する介入を強め、教育基本法が禁止する「不当な支配」を招くことになりかねません。

――たしかに教育基本法との矛盾が感じられます。

広井 それに、そもそも家庭教育支援法を制定する目的がよくわかりません。自民党の法案の第2条1項では、教育基本法と同様に、「家庭教育は、(略)父母その他の保護者が子に生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めることにより、行われるものとする」と規定しています。家庭教育支援法は、教育基本法第10条が掲げる家庭教育の理念を実現するための法として位置づけられているわけです。そうである以上、家庭教育支援法の目的もまた、親が子どもに生活習慣を身に付けさせ、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図ることを支援するということになるはずです。

 しかし、同法案の家庭教育支援はずいぶん違います。第2条2項は、「家庭教育支援は、家族が共同生活を営む場である家庭において、父母その他の保護者が子に社会との関わりを自覚させ、子の人格形成の基礎を培い、環境の整備を図ることを旨として行われなければならない」となっています。これでは第1項とのつながりがよくわかりません。それでも関連しているのだというのであれば、家庭教育支援は教育基本法の規定と直接関わらないことまで行ってもいいということになり、教育基本法を逸脱してしまいます。

 また、同条3項は、「家庭教育支援は、家庭教育を通じて、父母その他の保護者が子育ての意義についての理解を深め、かつ、子育てに伴う喜びを実感できるように配慮して行われなければならない」と書かれています。2項もそうですが、この3項も奇妙な条文です。家庭教育支援のあり方を定めるわけですから、通常であれば、「家庭教育支援は親の意思や自主性を尊重して行われなくてはならない」というような規定になるはずです。ところが、これではまるで親は家庭教育支援を受けることによって、自ら家庭教育を行いつつ「子育ての意義についての理解を深め」て、「子育てに伴う喜びを実感」しなくてはならないかのようです。「配慮規定」のような形をとりながら、親や家庭教育を拘束しているわけです。

 このように、自民党の家庭教育支援法案は、教育基本法の範囲を超えて、無限定に家庭教育のあり方や支援の方法を定め、それによって、国や自治体が恣意的に家庭教育に介入することを可能にするものです。こうした恣意性ゆえに、同法案は何を目指して何をし、どんな成果や効果を上げようとしているのかわからない法案だといえるでしょう。

――とはいえ、すでに8県6市で家庭教育支援条例が制定されています。

広井 そうですね。どの自治体の条例も、ほとんど同様です。まず、現在の家庭の問題を列挙し、親の「第一義的責任」と親の任務、家庭教育のあり方を定め、家庭教育を支援するための自治体、学校、地域、事業者の役割などを規定しています。親の役割や家庭教育に関する条文は基本的に教育基本法第10条に基づいているのですが、教育基本法の規定以上に親の役割を拡大させている条例が少なくありません。

 たとえば、2012年に全国に先駆けて制定された熊本県の条例第6条は、「保護者の役割」について、「子どもに愛情をもって接し、子どもの健全な成長のために必要な生活習慣の確立並びに子どもの自立心の育成及び心身の調和のとれた発達を図るよう努めるとともに、自らも成長していくよう努めるものとする」と定めています。「愛情をもって」子どもに接するとともに、自ら「成長していく」ことを親の任務として定めているのです。そのため、親は県が提供する「親としての学び」を支援する講座に参加しなくてはならず、しかも、それによって自ら「成長」しなくてはならないかのようです。

 他の条例もこの熊本県の条例によく似ているのですが、岐阜県と鹿児島県南九州市の条例は、さらに詳しく家庭教育の内容や保護者の役割を定めています。「祖父母の役割」や、子どもに対して「親になるための学び」を規定している条例も少なくありません。18年制定の埼玉県志木市の条例は、「子どもは、その発達段階に応じて、責任感を持ち、自らの生活を律するよう努めるものとする」という条文まで設けています。これは家庭教育支援の主旨から大幅に外れています。

――まるで「あるべき理想的な家庭像」を押し付けるかのような内容に驚きます。

広井 そうですね。家庭教育支援法と条例は、かつて法や政策が踏み込むことを抑制してきた家庭教育に対して、国と自治体が直接的に介入できるようにするものであり、90年代末から進められてきた政策転換の集大成ともいうべきものだと思います。つまり、子どもの教育の「第一義的責任」を親に課し、親が果たすべき任務と役割、家庭教育のあり方を定めた上で、そうした責任と任務を担うにふさわしい親へと「成長」するよう、「社会総がかり」で親を「支援」する政策だということです。

 そのため、家庭教育支援は「支援」や「学び」といいながら、親の自主的な学びではなく、親への啓蒙、啓発、矯正のための「親教育」となります。家庭教育支援がそうした発想から逃れ得ないのは、そもそも「今の親はダメだ」という認識が出発点あり、「ダメな親」を教育によって変え、問題を解決しようとする政策だからです。そうである以上、家庭教育支援は、それぞれの家庭の要望や必要に応えて家庭を支援するものではなく、家庭教育の自由や自主性、家庭の多様性を侵害して、すべての家庭をあるべき方向に誘導しようとするものにならざるを得ません。

 しかも、家庭教育支援法案や条例を見ると、法や条例によって国や自治体が求めるあるべき家庭教育のあり方や支援の方法を無限定に定め得るかのようです。法を制定する根拠も目的も定かでなく、したがって、その効果もまったくわかりません。だからこそ、家庭教育支援は近年の法や政策の中でもひときわ政治的でイデオロギッシュに見えるのだと思います。

――子育て世代は日々の暮らしに精いっぱいで、こういった教育基本法の改悪や家庭教育支援法の危険性に気づかない人がほとんどです。同時に、「やはり今の親は問題だ」と思っている人は少なくないと感じます。

広井 親一般に関して、悪いイメージが作られているからですね。実際に自分の身の周りにいる人たちを想起すれば、そうは思わないはずなのですが。現実と一般論とが乖離しているように思います。

 その根拠となっているのが、90年代末の少年犯罪に代わり、今は児童虐待です。ほとんどの人が、児童虐待が急増していると考えているでしょう。児童相談所の虐待に関する相談対応件数の増加から、毎年、マスコミは児童虐待が急増しているかのように報道してきましたから。ですが、児童相談所の相談対応件数はいわば児童相談所の業務報告であって、虐待の発生件数ではありません。

――相談件数は年々増大していますが、虐待による死亡児童数は減少していますね。

広井 はい。警察庁の統計では、2000年代の初めは年間約100人の子どもが虐待によって死亡していたのですが(無理心中が約4割を占める)、09年ごろから減少し、18年は36件です。うち、無理心中が8件、出産当日の殺害が6件、それ以外の虐待死が22件となっています(※1)。

 虐待死に関する長期的なデータはないのですが、警察庁の嬰児(1歳未満)殺のデータを見ると、70年代までは年間200人以上の0歳児が殺害されていました。それが80年代以降急減し、18年は10人です。厚生労働省の「人口動態統計」の「他殺」に関するデータでも、子どもの殺人被害は同様に減少しています。つまり今日の親は、歴史上、最も子どもを殺さない親なのです。そうである以上、児童虐待が増加・深刻化しているとは、とても考えられません。

 児童虐待が社会問題になるのは90年代ですが、90年代は嬰児殺しや子どもの他殺が大幅に減少した時代です。ということは、児童虐待問題が登場したのは、虐待が増加したからではなくて、逆に虐待が減少したからだということになります。親が子どもを大事に育てることが当たり前の時代になったからこそ、子どもを害する親の行為が許しがたい児童虐待と見なされるようになったのです。

――では、現在の虐待対策についてどう考えますか?

広井 児童虐待に社会の関心が集まり、対策がとられるようになったことは、子どもの権利を保障する社会になったということです。ですが、現在の虐待対策は、別の問題を生み出しているように思います。今日の虐待対策では、あれもこれも虐待と見なし、範囲を拡大することが虐待を予防すると考えています。また、「どんな家庭でも虐待が起こり得る」として、乳幼児のいる家庭を全戸訪問(※2)し、すべての親をチェックしようとしています。

 そのため、社会が子どもを育てている親を監視し、不寛容になり、子育てをしている親を萎縮させているように思います。今の若い親は子どもを泣かせるだけで虐待と思われるのではないかと、かなりプレッシャーを感じているのではないでしょうか。親の負担は相当重くなっていると思います。

――世間が「今の親はダメ」という色眼鏡で見ていることも、親にとってはプレッシャーです。

広井 「昔の親は、ちゃんとしつけていた」「昔は良かった」といった言説をよく耳にしますが、いつの時代も「今の親はダメだ」と批判されてきました。50年代から60年代にはしばしば「年寄りっ子は三文安い」(甘ったれでわがままに育つ)と言われ、直系家族は人間関係が複雑なため、子どもの人間形成にとってよくないと考えられていました。ところが、70年代になると、核家族では「多角的な人間関係の中で育つ機会に乏しい」などと言われるようになりました。親や保護者は、常に政治家や学者から問題にされてきたのです。

――真面目に子育てをしようとしている親ほどそういった根拠なき批判を気にしてしまうような土壌が、現代の日本にはあります。

広井 これ以上、親にプレッシャーをかけない社会にするためには、今の親はとてもよく子育てをしているということを伝えていく必要があると考えています。社会が若い親たちをそのように見れば、親が「ダメ」だから支援するのではなくて、よくがんばっているから、あるいは、子育ては社会にとって大切なことだから、親を支援する社会になるのではないでしょうか。

 そうすれば、家庭教育支援法のような法が制定されることもないと思います。家庭教育支援法は、「今の親はダメだ」と見なし、「ダメ」な親の意識や態度を教育によって変えようとする法なのですから。

※1 児童虐待に関するデータは、「児童虐待は本当に『増加』『深刻化』しているのか」現代ビジネス(講談社)を参照

※2 厚労省による乳児家庭全戸訪問。対象乳児が生後4カ月に達するまでに、自治体が各家庭に保健師らを派遣。厚労省は「子育ての孤立化を防ぐために、その居宅において様々な不安や悩みを聞き、子育て支援に関する必要な情報提供を行う」としているが、訪問者が乳児の身長や体重を測りながら、あざなどの虐待痕の有無をチェックする、虐待対策という面も持ち合わせている

 

「いきなり!ステーキ」社長メッセージが反発呼ぶワケ――校正者が「客を追い返す文章」と一刀両断

 「いきなり!ステーキ」の客離れが始まったらしい――そんなウワサがささやかれ出したのは、一昨年のことだった。2013年、東京・銀座に第1号店がオープンして以来、低価格で上質なステーキを味わえること、また立ち食い形式という目新しさが話題となり、急速なチェーン展開で全国各地に約500店舗を構えるようになったが、徐々に集客力の弱まりが指摘され、売上高が右肩下がりに転じたのだ。

 昨年11月には、「いきなり!ステーキ」の不振が響き、運営会社ペッパーフードサービスが、同年12月期の連結営業損益は7億3100万円の赤字になる予想だと発表。同年10月の既存店の売り上げは、前年の同月から約4割もダウンしたという。これを踏まえ、「いきなり!ステーキ」全店の1割弱にあたる44店を閉鎖することとなった。

 こうした「大量閉店」という惨状を受け、同社代表取締役社長CEO・一瀬邦夫氏が動いた――12月初旬から、全国の店舗に順次「社長からのお願いでございます」という直筆メッセージのコピーが貼られ、ひっ迫する現状とともに「創業者一瀬邦夫からのお願いです ぜひ皆様のご来店を心よりお待ちしております」との懇願がつづられていたのだ。他に類を見ないなりふり構わぬこの集客方法はSNSで話題を呼び、1月初旬には、一瀬氏の直筆メッセージ第2弾が店頭に掲示されることに。ここでは、お客様からのクレーム内容を明かし、「一番の人気ステーキを柔らかくて美味しいと言って頂けます様努力してまいります」と一瀬氏は決意表明をつづった。

 しかしこの一瀬社長の直筆メッセージは、SNS上で絶賛されているわけではなく、一部で「文面からどことなく上から目線を感じる」「何だか奇怪な文章」と言われ、反発を抱く者も少なくない様子。今回“言葉のプロ”である現役校正・校閲者A氏にこのメッセージを読んでもらい、その問題点を解説してもらった。

 実際に店頭に掲示された張り紙を見てきたというA氏は、開口一番「社長直筆の文字が紙いっぱいに書かれているさまは、『耳なし芳一』を連想せずにはいられず、ゾッとしてしまいました(笑)」と率直な感想を述べる。そして、真っ先に “赤字”を入れたくなった箇所として、「店名」を挙げた。

「第1弾、第2弾ともに、社長自ら店名の誤表記をしています。『いきなり!ステーキ』が正式名称なのに、『いきなりステーキ』と表記しており、これはいただけません。たとえ手書きで書いたとしても、1店舗に貼り出しているものではなく、コピーしたものをプリントアウトして全店舗に掲示している、いわば公式文書だけに、店名は正しく記すべきでしょう」

 続けてA氏は、「改行もでたらめで読みにくい。実は読んでほしくないのかなとさえ思えてきます」と校正者としての目を光らせる。また、第1弾の「お客様のご来店が減少しております このままではお近くの店を閉めることになります」という部分や、第2弾の「御新規のお客様が硬いステーキを食べられた時、もう二度と来られないばかりか、悪い口こみが店を台無しにします」という部分などに、「やはり社長の『上から目線』を感じた」そうだ。

「これを店頭に貼るということは、つまり、これから店に入ろうとするお客様に向けて、その目線を送っているわけです。そもそも、来店数が減少し、閉店が続いている、このままでは近くの店まで閉めることになるぞ……というのは、上から目線どころか、ご来店のお客様を“脅し”にかかっているようにも見えます。この文面では、せっかく店まで足を運んでくれたお客様を追い返しかねません」

 総じて、一企業の社長が発信するメッセージとしては、あまりにも欠点だらけのように見えるが、A氏は「『今どきこういう拙さがSNSでウケるんだよ』または『自虐的でストレートなメッセージの方が、ネット上では面白がられ拡散するんだよ』といった発想かもしれない」と考察を繰り広げる。

「しかし、天然ではなく、狙って実行してしまうと裏目に出るのが今の世だけに、校正者としてはSNSウケを意識することはオススメできません。また、直筆というのも気になりますね。ラブレターじゃないですが、シンプルに『手書きこそ思いが伝わるんだよ』などとお考えかもしれません。ただ、その思いが情念のようなものであった場合、読み手にその念が伝播してしまうことの『はた迷惑』を考えられる経営者であってほしいと思いました」

 A氏が足を運んだのは、新宿西口店とのことで、数ある店舗の中でも繁盛店なのか、当時行列ができていたそうだ。しかし、問題の直筆メッセージは、お客様から読みにくい場所に掲示してあり、そうなると、「もはやただの落書きで、よく言えばグラフィティ、社長のパフォーマンス作品……あるいはポエムと捉えると微笑ましくもあるかもしれません。メッセージの内容から掲示方法に至るまで、社長に社内の誰かが『いかがなものか』と忠告すべきだと思うのですが、ワンマン経営者はたいていイエスマンを従えますから、期待できない話でしょう」。

 この一瀬氏直筆メッセージ作戦は、話題にはなったため、その点では狙い通りだったかもしれないが、「集客面へのプラス効果はまったくないと言えるのでは」と厳しく評価するA氏。では、どのような点をリライトすればよいのだろうか。

「すでに、マーケティングや経営コンサルティングの立場からリライトを試みた、その分野の専門の方がいらっしゃいます。ただ、どれも業績や情報を丁寧に補足する分、さらに長文になってしまっています。それも正しい在り方の一つではありますが、店頭で読ませるものとしては適していません。長文なら自社ホームページに『社長から今月のメッセージ』コーナーでも設けて発信するとよいかもしれません」

 A氏は校正者として、具体的なリライト案のポイントを挙げる。

「第1弾が12月初旬、第2弾が年明けの1月第1週目に掲示されたということで、そのタイミングであれば、タイトルを『年末のご挨拶』『年始(新年)のご挨拶』にすべきだと思います。いくら“イケイケドンドン”のスタンスでも、季節の移ろいぐらいは感じる経営者でいてほしいところです。時節に合った挨拶は心がけるべきでしょう。それは紙にぎっしり書いてしまうことも同様で、余白で読ませるゆとりはほしいです」

 また、メッセージには、自社が食文化を発明し、店舗の拡大を続けたこと、一転、業績が悪化し店舗が減少したこと、さらに「肉が硬い」というクレームと悪い口コミへの危惧や今後の抱負などが脈絡もなくつづられていたが、「これらはつまり『自慢』であったり、『腹が立つこと』であったり、『懇願』であったりなど、感情的なメッセージなんです。一企業の社長としては、当然そこはぐっと堪えるべき。特に、口コミ内容を過剰に意識しているようで、その点が気になりますね。そこをお客様に悟られると『ケツの穴の小さい奴』と思われてしまい、社長も不本意でしょう」という。

 さらにA氏は「1.店頭に貼ること」「2.手書きふうであること」「3.最低限発信したい情報」「4.少々『らしさ』(拙さ、よく言えば実直さ)を残す」を条件にメッセージをリライトしてくれた。

 まずA氏は、「社長の原文を極力生かす」という方針で、どんどんと赤字を入れていき、次のようなリライト文を仕上げた。

 問題視されていた「上から目線」はだいぶ解消されたものの、A氏は「それでもやはり『耳なし芳一』問題が解消されませんね……」と赤ペンを離さない。再度、「文量を少なくすること」を念頭に文章を整えていく。

 一瀬氏が、新たな「いきなり!ステーキ」の店頭に直筆メッセージを掲げる日もそう遠くない気もする。次回の、お願いメッセージという名の“作品”も楽しみにしたいところだ。

 

「いきなり!ステーキ」社長メッセージが反発呼ぶワケ――校正者が「客を追い返す文章」と一刀両断

 「いきなり!ステーキ」の客離れが始まったらしい――そんなウワサがささやかれ出したのは、一昨年のことだった。2013年、東京・銀座に第1号店がオープンして以来、低価格で上質なステーキを味わえること、また立ち食い形式という目新しさが話題となり、急速なチェーン展開で全国各地に約500店舗を構えるようになったが、徐々に集客力の弱まりが指摘され、売上高が右肩下がりに転じたのだ。

 昨年11月には、「いきなり!ステーキ」の不振が響き、運営会社ペッパーフードサービスが、同年12月期の連結営業損益は7億3100万円の赤字になる予想だと発表。同年10月の既存店の売り上げは、前年の同月から約4割もダウンしたという。これを踏まえ、「いきなり!ステーキ」全店の1割弱にあたる44店を閉鎖することとなった。

 こうした「大量閉店」という惨状を受け、同社代表取締役社長CEO・一瀬邦夫氏が動いた――12月初旬から、全国の店舗に順次「社長からのお願いでございます」という直筆メッセージのコピーが貼られ、ひっ迫する現状とともに「創業者一瀬邦夫からのお願いです ぜひ皆様のご来店を心よりお待ちしております」との懇願がつづられていたのだ。他に類を見ないなりふり構わぬこの集客方法はSNSで話題を呼び、1月初旬には、一瀬氏の直筆メッセージ第2弾が店頭に掲示されることに。ここでは、お客様からのクレーム内容を明かし、「一番の人気ステーキを柔らかくて美味しいと言って頂けます様努力してまいります」と一瀬氏は決意表明をつづった。

 しかしこの一瀬社長の直筆メッセージは、SNS上で絶賛されているわけではなく、一部で「文面からどことなく上から目線を感じる」「何だか奇怪な文章」と言われ、反発を抱く者も少なくない様子。今回“言葉のプロ”である現役校正・校閲者A氏にこのメッセージを読んでもらい、その問題点を解説してもらった。

 実際に店頭に掲示された張り紙を見てきたというA氏は、開口一番「社長直筆の文字が紙いっぱいに書かれているさまは、『耳なし芳一』を連想せずにはいられず、ゾッとしてしまいました(笑)」と率直な感想を述べる。そして、真っ先に “赤字”を入れたくなった箇所として、「店名」を挙げた。

「第1弾、第2弾ともに、社長自ら店名の誤表記をしています。『いきなり!ステーキ』が正式名称なのに、『いきなりステーキ』と表記しており、これはいただけません。たとえ手書きで書いたとしても、1店舗に貼り出しているものではなく、コピーしたものをプリントアウトして全店舗に掲示している、いわば公式文書だけに、店名は正しく記すべきでしょう」

 続けてA氏は、「改行もでたらめで読みにくい。実は読んでほしくないのかなとさえ思えてきます」と校正者としての目を光らせる。また、第1弾の「お客様のご来店が減少しております このままではお近くの店を閉めることになります」という部分や、第2弾の「御新規のお客様が硬いステーキを食べられた時、もう二度と来られないばかりか、悪い口こみが店を台無しにします」という部分などに、「やはり社長の『上から目線』を感じた」そうだ。

「これを店頭に貼るということは、つまり、これから店に入ろうとするお客様に向けて、その目線を送っているわけです。そもそも、来店数が減少し、閉店が続いている、このままでは近くの店まで閉めることになるぞ……というのは、上から目線どころか、ご来店のお客様を“脅し”にかかっているようにも見えます。この文面では、せっかく店まで足を運んでくれたお客様を追い返しかねません」

 総じて、一企業の社長が発信するメッセージとしては、あまりにも欠点だらけのように見えるが、A氏は「『今どきこういう拙さがSNSでウケるんだよ』または『自虐的でストレートなメッセージの方が、ネット上では面白がられ拡散するんだよ』といった発想かもしれない」と考察を繰り広げる。

「しかし、天然ではなく、狙って実行してしまうと裏目に出るのが今の世だけに、校正者としてはSNSウケを意識することはオススメできません。また、直筆というのも気になりますね。ラブレターじゃないですが、シンプルに『手書きこそ思いが伝わるんだよ』などとお考えかもしれません。ただ、その思いが情念のようなものであった場合、読み手にその念が伝播してしまうことの『はた迷惑』を考えられる経営者であってほしいと思いました」

 A氏が足を運んだのは、新宿西口店とのことで、数ある店舗の中でも繁盛店なのか、当時行列ができていたそうだ。しかし、問題の直筆メッセージは、お客様から読みにくい場所に掲示してあり、そうなると、「もはやただの落書きで、よく言えばグラフィティ、社長のパフォーマンス作品……あるいはポエムと捉えると微笑ましくもあるかもしれません。メッセージの内容から掲示方法に至るまで、社長に社内の誰かが『いかがなものか』と忠告すべきだと思うのですが、ワンマン経営者はたいていイエスマンを従えますから、期待できない話でしょう」。

 この一瀬氏直筆メッセージ作戦は、話題にはなったため、その点では狙い通りだったかもしれないが、「集客面へのプラス効果はまったくないと言えるのでは」と厳しく評価するA氏。では、どのような点をリライトすればよいのだろうか。

「すでに、マーケティングや経営コンサルティングの立場からリライトを試みた、その分野の専門の方がいらっしゃいます。ただ、どれも業績や情報を丁寧に補足する分、さらに長文になってしまっています。それも正しい在り方の一つではありますが、店頭で読ませるものとしては適していません。長文なら自社ホームページに『社長から今月のメッセージ』コーナーでも設けて発信するとよいかもしれません」

 A氏は校正者として、具体的なリライト案のポイントを挙げる。

「第1弾が12月初旬、第2弾が年明けの1月第1週目に掲示されたということで、そのタイミングであれば、タイトルを『年末のご挨拶』『年始(新年)のご挨拶』にすべきだと思います。いくら“イケイケドンドン”のスタンスでも、季節の移ろいぐらいは感じる経営者でいてほしいところです。時節に合った挨拶は心がけるべきでしょう。それは紙にぎっしり書いてしまうことも同様で、余白で読ませるゆとりはほしいです」

 また、メッセージには、自社が食文化を発明し、店舗の拡大を続けたこと、一転、業績が悪化し店舗が減少したこと、さらに「肉が硬い」というクレームと悪い口コミへの危惧や今後の抱負などが脈絡もなくつづられていたが、「これらはつまり『自慢』であったり、『腹が立つこと』であったり、『懇願』であったりなど、感情的なメッセージなんです。一企業の社長としては、当然そこはぐっと堪えるべき。特に、口コミ内容を過剰に意識しているようで、その点が気になりますね。そこをお客様に悟られると『ケツの穴の小さい奴』と思われてしまい、社長も不本意でしょう」という。

 さらにA氏は「1.店頭に貼ること」「2.手書きふうであること」「3.最低限発信したい情報」「4.少々『らしさ』(拙さ、よく言えば実直さ)を残す」を条件にメッセージをリライトしてくれた。

 まずA氏は、「社長の原文を極力生かす」という方針で、どんどんと赤字を入れていき、次のようなリライト文を仕上げた。

 問題視されていた「上から目線」はだいぶ解消されたものの、A氏は「それでもやはり『耳なし芳一』問題が解消されませんね……」と赤ペンを離さない。再度、「文量を少なくすること」を念頭に文章を整えていく。

 一瀬氏が、新たな「いきなり!ステーキ」の店頭に直筆メッセージを掲げる日もそう遠くない気もする。次回の、お願いメッセージという名の“作品”も楽しみにしたいところだ。

 

原液100%美容液の99.8%は水!? コラーゲンは塗っても食べても効果ナシ! 上原恵理先生が斬る

 雑誌やテレビ番組、インターネットで数多く紹介される“美容法”。その中には、医学的な根拠が証明されていないものや、「むしろ逆効果」というものまで存在しているようだ。
 
 自身のSNSで、ちまたに広がる真偽不明の美容法に“鋭く”切り込み話題になっている、「表参道スキンクリニック」表参道院の医師・上原恵理先生に、5回に分けて“美容法のウワサ”を斬っていただく当連載。第1回目は「育乳」、第2回目は「鼻が高くなる方法」と「小顔マッサージ」、第3回目は「拭き取りメイク落とし」についてうかがった。4回目となる今回は、ドラッグストアやデパートでもよく見かける、ヒアルロン酸やコラーゲン、プラセンタなど保湿成分を配合したスキンケアコスメにまつわる“真実”についてお聞きした。

ヒアルロン酸、コラーゲン、プラセンタの違いとは

――化粧水などを購入する際、ヒアルロン酸やコラーゲン、プラセンタといった言葉をよく見かけます。美肌効果がありそうな成分ですが、実際の効果や違いがいまいちわかりません。

上原恵理先生(以下、上原) ヒアルロン酸もコラーゲンも、肌の張りや弾力を保つ効果がありますが、性質や構造はまったく違います。詳しく説明すると、ヒアルロン酸は水分を含み、水を加えるとゼリー状になる粉ゼラチンのような性質を持っていて、水分を保持して肌の保湿力を高めます。コラーゲンはタンパク質の一種で、細胞が鎖のように連なり、格子状に規則正しく立体的に張り巡らされることから、肌のハリをキープしてくれるんです。たとえるなら、ベッドのスプリングですね。また、プラセンタは動物の胎盤から抽出した成分で、細胞を活性化し代謝を高める効果があると言われています。特定の何かに効くというより、体全体を一段底上げしてくれるような効果があると考えてください。化粧品などに多い豚由来のプラセンタもありますが、一般的なクリニック(医療機関)では、ヒト由来の注射液(ラエンネックorメルスモン)を使用しています。安全性に関しては、厳格な検査を受けていますが、「生物由来製品」には感染症のリスクがあるので、絶対に安全とは言いきれません。

 また、どれも十分な量が存在していれば、赤ちゃんのようにハリのあるみずみずしい肌になりますが、加齢などでヒアルロン酸が減ると肌の水分量が減り、コラーゲンが減ると鎖状の立体構造が破綻して、張りが失われてしまいます。そして、プラセンタは抗酸化作用によって、そうしたコラーゲンのダメージを抑制したり、さまざまな作用があるんです。

――どの成分も美肌に重要ですね。手軽にスキンケアコスメやサプリで補えますか?

上原 残念ながら、無理です。スキンケアコスメに含まれるヒアルロン酸やコラーゲン、プラセンタが肌の奥に浸透することはありません。というのも、皮膚は人間の体を守るバリアの役目をしているので、ウイルスやバクテリアといった微生物や汚れを侵入させないよう、分子量が500~1000以上のものは通さないといわれています。ヒアルロン酸やコラーゲンは分子量が数十万~数百万、プラセンタは数万~数十万と大きいので、どんなに肌の表面から塗り込んでも、角層の奥までは浸透しないんです。

 また、口からこれらの成分を摂った場合ですが、小腸が吸収できる分子量は600、大腸は300くらいなので、せいぜい消化器官で吸収できる“小さい”アミノ酸やブドウ糖に分解されるだけ。ダイレクトに肌へ届くなんて都合のいいことは起こりません。また、コラーゲンの一種で、より分子が細かく、体への吸収性が高いと言われる「コラーゲンペプチド」という成分もありますが、吸収されたペプチドは肌以外にも血液や内臓、髪など全身に行き渡るので、これだけで“美肌”を実感することはまず無理でしょう。効果がほぼないのに、サプリメントや「コラーゲンたっぷり」などと言われるフカヒレに何万円も出すなら、同様に名前が挙がる手羽先など安い食材を食べた方がマシだと思います(笑)。

――では、低分子化させた「ナノヒアルロン酸」や「ナノコラーゲン」であれば、浸透するでしょうか?

上原 確かに、分子量的に通るかもしれませんが、通過したところで、小さいヒアルロン酸やコラーゲンが大きい分子と同様の働きをするかというと、疑わしいです。例えば、ベッド用マットレスのスプリングがへたった時、細かく裁断したスプリングを大量に入れても、弾力性は復活しませんよね。それと同じです。

――結局、スキンケアコスメにヒアルロン酸やコラーゲン、プラセンタが含まれていても無意味なのですか?

上原 蒸発してしまう水分をキープするという意味では、“保湿効果”はありますが、それだけ。「肌の奥に浸透して、肌に存在するコラーゲンやヒアルロン酸を本来の状態に再構築する」と思っている人が多いようですが、それは誤解なので覚えておいてください。また、美容皮膚科でも、肌にヒアルロン酸やコラーゲンを “肌に入れる”というアプローチはせず、医療機器や医薬品を用いて、生成を促進するという治療法を取ります。医療でも、“間接的”にヒアルロン酸やコラーゲンを増やしているのですから、市販の化粧水で効果を得られたとしたら、プラセボ効果でしょう。

――通販などで「原液100%」と書かれた、いかにも効果がありそうな美容液も、意味がないってことなんですね……。

上原 もちろん! 原液をボトルリングしたようなパッケージですが、クリニックが使用する医薬品とはまったくの別物です。

 スキンケア用品は「薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)」により、全成分を配合量の多いものから記載するという決まりになっています。実際に「原液100%」を謳っている商品の成分を見てみると、最初に書かれているのが「水」で、美容成分は全体の“約0.2%”だけってことも。法律上、材料メーカーから出荷された美容成分に、化粧品メーカーや工場が手を加えなければ、比率関係なく「原液100%」と表記しても問題ではないんです。

 ただ、消費者はまさか0.2%しか入っていないなんて思わないでしょう? 「原液100%=プラセンタエキスだけ」と思い購入したとして、99.8%が水でできているって違和感を覚えませんか!? 「100%=効果が高い」というような消費者の思い込みを利用し、法律の網をかいくぐっている製品が許せないですし、私は怒り狂っています!

インフルエンサーは医学の知識がない素人

――最近はインフルエンサーや口コミサイトなど、一般人の感想を参考に商品を選ぶ人も少なくないですよね。今こそ、消費者一人ひとりが正しい知識を持たなければいけないと感じました。

上原 今は正しい情報を探すのが大変なくらい、誤った“美容の常識”で溢れています。例えば、化粧水にせよ乳液にせよ、「濃密な方が効果もある」と思い込んでいる“こってり信仰”も一概には良いとは言えません。実際、“こってり”させる成分が邪魔をして、有効成分が皮膚に浸透しないってこともあるんですよ。

 インフルエンサーは医学の知識がない素人です。彼女たちは、良い製品を見極める知識があるわけでもなく、“仕事”として商品をアピールしているだけなので、そのからくりや危険性に気付いてほしいです。私たち医者は医学部で6年学び、国家資格の医師免許を取得。そして現在でも新しい情報を得るために勉強し続けています。また、クリニックで新商品を導入する際は論文を読み、効果や安全性を確かめているので、インフルエンサーのように根拠のないものは勧めたりしません。ただ、最近はそのような、ステマドクターもいるので……信頼できる医師や正しい美容知識を、消費者自身が見極める力が必要です。

 美容皮膚科・外科に高額なイメージがあって、ハードルが高いと感じるのもわかりますが、カウンセリング時に予算を相談することもできます。月1~2万円代の施術もありますし、効果がわからないデパコスよりよっぽど安上がりなのでは。もうちょっと我々を信用、そして頼ってくれたらうれしいです(笑)。

上原恵理(うえはら・えり)
2006年群馬大学医学部医学科卒業後、同年東京大学医学部附属病院研修医として勤務。08年に東京大学形成外科医局、10年帝京大学医学部附属病院を経て、18年より表参道スキンクリニック勤務。豊胸や乳房再建の最先端術式を数多く手掛けており、美容外科医の目線から、症例や美容法に切り込んだSNSが話題に。『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)や多数メディアに出演するなど、活動の場を広げている。

表参道スキンクリニック表参道院
Twitter:@dr_uehara
Instagram:スキンケア・痩身専門 @eri.uehara
Instagram:外科専門 @aesthetic_surgeon_dr.uehara

“教育の憲法”教育基本法を改悪した安倍政権の狙いは?――「自己責任論」の徹底で縮小された教育行政の責任

 特集の第1回ではフェミニズムへのバックラッシュ、第2回では24条改憲による女性の権利後退を取り上げたが、第3回では教育行政の歩みと国による家庭教育への介入に迫ってみたい。

【第1回】女性やマイノリティの権利、女性運動はなぜ“後退”したのか――バックラッシュ~現代に続く安倍政権の狙いを読む
【第2回】家庭内に押し込まれる子育て・介護、DV、虐待問題――安倍政権と保守派の「24条改憲」の狙いは何か?

 安倍政権は2006年、“教育の憲法”とも称される教育基本法を「改正」した。教育基本法は、国が国民の教育に責任を負うこと、権力が教育をゆがめないことを掲げるなど、国家への責務を規定するものだった。しかし、「改正」後は、国民への直接的な責任を放棄し、日本の伝統や愛国心を育むことを教育の目標とし、なにより家庭での教育に関する条項を新設するなど、教育の責任が国民に向けられるようになった。

 この「改正」を受け、自民党が国会へ上程しようとしているのが「家庭教育支援法」である。この法案(仮称、2016年10月20日時点素案)では、子どもの教育の第一義的責任を保護者(家庭)に求め、「地域住民」までが家庭教育への協力を求められている。自己責任論があらゆるところに根を張っている現代においては「子の教育の第一義的責任は保護者に」という文言に疑問を持つ人は少なく、問題が認識されにくい。一方、家庭教育支援法案や文部科学省が行っている家庭教育支援の施策のベースになっているのは、安倍政権に近い一般財団法人「親学推進協会」の「親学」なる教えで、科学的実証の乏しい脳科学や、史実的にも疑問の残る「江戸しぐさ」に論拠を求めている点で、多くの批判が寄せられている。

 そこで今回は、実践女子大学の広井多鶴子教授に、これまでの国の教育行政の指針を振り返りながら、教育基本法・家庭教育支援法の問題点を解説してもらった。

――まず2006年の教育基本法「改正」についてうかがいます。当時、教育基本法を変更すべき事案や世論、つまり立法要件はなかったように思います。どのような経緯で「改正」に至ったのでしょうか?

広井多鶴子教授(以下、広井) 確かに教育基本法を改正すべきだといった世論の盛り上がりはほとんどなかったですね。それでも改正に至ったのは、安倍首相をはじめとした保守派の長年の執念によると思いますが、それを可能にした契機となったのが、1997年の神戸連続児童殺傷事件(以下、神戸事件※1)です。

――当時14歳の少年による凶行が、教育行政に衝撃を与えたということでしょうか?

広井 今となっては、その当時もその後も少年犯罪はまったく「凶悪化」しておらず、それどころか、軽微な犯罪ですら急減していることはデータを見ても明らかなのですが、事件当時は国や自治体はもちろん、マスコミも研究者も世論も、少年犯罪の「増加」「凶悪化」「低年齢化」を疑いませんでした。そうした狂騒の中で、国は「今の子どもは規範意識が低下している」「家庭が問題だ」「教育を変えなければならない」と、教育基本法改正に向けて機運を高めたのだと思います。

――神戸事件を契機に、国の政策はどう変わったのでしょうか?

広井 神戸事件以降、問題は家庭教育にあるとして、家族への介入を強める政策へと方向転換しました。それ以前の96年の中央教育審議会答申は、家庭教育が「すべての教育の出発点」であるとしつつも、「行政の役割は、あくまで条件整備を通じて、家庭の教育力の充実を支援していくということ」だと述べています。また、しつけや学校外の巡回補導指導など、本来家庭や地域が行うべきことまで学校が担っているとして、学校の「スリム化」を主張します。この頃まで国は、子どもの教育を家庭の「自己責任」と見なして、学校の役割や公費支出を「スリム化」するとともに、国や自治体が家庭に関与することを抑制してきたのです。

 それが、神戸事件後の98年に出された中教審答申「新しい時代を拓く心を育てるために」では、一転して家庭教育に対する提案を多数書き込みます。学校に関しても、「学校は道徳を教えることをためらわない」という方針が打ち出され(教育改革国民会議「教育を変える17の提案」00年)、学校スリム化論から転換します。

 “家庭が教育の原点であり、親に第一の教育責任がある”という認識は従来と変わらないのですが、かつてはだから「自力でやれ」と言っていたのが、今度はだから「支援する」(介入する)ということになったのです。教育基本法改正後の06年、内閣に「教育再生会議」が設置され、「社会総がかりで教育再生を」というスローガンが掲げられますが、90年代末から「社会総がかり」で親に自らの責任を果たさせる政策へと転換し始めたのだと思います。

――90年代末というと、保守政治家・市民団体によるフェミニズムへのバックラッシュが激しくなった時期です。親学推進協会の会長である高橋史朗氏は、バックラッシュにも加担している保守派言論人ですが、なぜ保守派は教育に関与したがるのでしょう?

広井 「保守」というのは、個人よりも国家を上位に置き、国家に対する道徳的な忠誠や恭順、つまり愛国心によって国民を統合しようとする思想だと思います。そのため、保守思想では道徳教育が国家に対する愛国心を育成する手段として位置づけられ、家族が国民統合と統治のための「基礎単位」と見なされてきました。そうである以上、保守としては道徳教育と家庭教育に関心を払わないわけにはいかないのでしょう。

 保守というと、日本の変わらない伝統を守る思想であるかのように思われていますが、保守思想が重視する「国家」も「教育」も「家族」も近代の産物です。伝統は近代社会の「発明品」だとする議論がありますが、たとえば、保守派が日本の伝統だとする夫婦同姓は、周知のように明治以降西欧から導入された制度です。一夫一婦制もそうです。つまり、保守というのは、明治以降の近代化によって作られた日本という国民国家に対する忠誠を、教育や道徳や家族によって涵養(かんよう)しようとする、信念・思想といえるのではないかと思います。

※1 1997年に、当時14歳の少年が起こした、2件の殺人と1件の傷害事件。残虐な犯行と、センセーショナルな犯行声明文などで世間を震撼させた。2000年の少年法改正の引き金になったともいわれている

――安倍政権による「改悪」と評されることの多い教育基本法ですが、どういった問題点があるのでしょうか?

広井 旧教育基本法は戦前の軍国主義教育への反省から生まれた法律であり、国家権力や政治が教育をゆがめ得ることに対して自覚的な法律でした。安倍首相としては、そのことが不満だったのでしょう。新教育基本法で変わった点はいろいろあるのですが、こうした点に関わっていて私が関心を寄せているのは以下の4点です。

 まず1つ目は、よく言われることですが、教育の目的として、「公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと」や、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する(略)態度を養うこと」という条文が新たに挿入されたことです(第2条)。前文にも「公共の精神」と「伝統」が書き込まれています。学校教育の目標がこのように定められた結果、武道の必修化や道徳の教科化が行われました。

 2つ目は、教育行政の目的や任務に関してです。教育行政について定めた旧法第10条は、「教育は不当な支配に服することなく、 国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」とし、教育行政の目的は「諸条件の整備確立」と規定していました。それに対し新法第16条では、「国民に対し直接に責任を負って」という文言が削除され、「法律の定めるところにより」に変わりました。抽象的な条文でわかりにくいのですが、ここで想定されているのは、道徳教育を含めた教育内容の問題です。新法では、教育行政が「法律の定め」により、教育内容に直接関われるようにすることを意図しています。

 3つ目は、教育に関する責任についてです。旧法に記載された「責任」は、前述した教育行政の「国民全体」に対する「直接責任」だけです。教育行政は国民全体に対して直接責任を持って行われるべきものだったのです。それが新法では、「父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有する」という条文が新たに設けられました(第10条)。また、学校、家庭、地域住民などが、「教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする」という条文も規定されました(第13条)。

 一方、国と地方公共団体に関しては、「義務教育の機会を保障し、その水準を確保するため、適切な役割分担及び相互の協力の下、その実施に責任を負う」と規定するだけです(第5条3項)。国と地方公共団体がすべきことはそれなりに書かれているのですが、責任については、ほかには明記されていません。教育行政は義務教育の「実施」については責任を負うものの、教育に関して「第一義的」に責任を負うのは親だということにしたのです。

――「第一義的責任」は親としながらも、「第二義的責任」の所在はどこにも明記されていません。

広井 そうですね。親が子どもの教育に責任を持つのは当たり前だと思われるかもしれませんが、親の「第一義的責任」という文言は、00年代に入る前の法律にはありませんでした。それが今や、国、自治体、家庭の関係を再編するための重要なキータームになっています。

 わかりやすいのは児童福祉法です。1947年制定の児童福祉法第2条は、「国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う」と規定していました。かつてはこのように、国は親とともに子どもを「健やかに育成する責任」を負っていました。しかし、2016年の改正で、この条文の前に、「児童の保護者は、児童を心身ともに健やかに育成することについて第一義的責任を負う」という規定が挿入されました。これについて、厚生労働省は責任の所在を明確にしたと説明しています。国や自治体の責任を、親が責任を負えない場合に限定したということです。

 責任の所在という点では、子どもの貧困対策推進法(13年制定)も重要です。同法第3条は、「国は子どもの貧困対策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する」と規定しています。同法の制定によってさまざまな対策が行われるようになったのですが、法律上、国が負う責任は貧困対策の「策定」と「実施」であって、子どもの貧困を減らすことではないのです。ですから、子どもの貧困率が上昇しても、国は責任を問われずにきました。

 「政治は結果責任」のはずなのですが、このように近年の法では国が政策の結果に責任を負わなくてもいいかのような条文になっています。それは、子どもの教育は親に「第一義的責任」があるということを法律上に明記するようになったからだと思います。

――国としての責任を減らすために、「第一義的責任」として親にすべてを押し付けたように見受けられます。続く4つ目は何ですか?

広井 4つ目は、法と道徳の混同という問題です。新設された第6条2項では、学校においては、「教育を受ける者が、学校生活を営む上で必要な規律を重んずるとともに、自ら進んで学習に取り組む意欲を高めることを重視して行われなければならない」と定めています。とても奇妙な条文だと思いませんか? 形式としては学校が行うことを定めているのですが、その実、児童生徒が自ら規律を重んじ、学習に意欲的に取り組まなくてはいけないかのようです。

 また、第10条では、親は子どもに「生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする」と、家庭教育の目的や方法について定めています。第13条の学校、家庭、地域住民の連携・強力に関する条文もそうですが、新法では、努力義務とはいえ、旧法にはなかったこのような国民の任務が盛り込まれるようになりました。

 このことは教育基本法に限りません。食育基本法(05年制定)など、00年代以降に制定された法律には、国や自治体の責務に加え、親、地域住民、学校、国民など、それぞれの任務や責任が規定されるようになりました。中には子どもの任務すら書かれている法があります。

 その典型がいじめ防止対策推進法です(13年制定)。同法の第4条は、「児童等は、いじめを行ってはならない」と定め、第9条は、「保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、その保護する児童等がいじめを行うことのないよう、当該児童等に対し、規範意識を養うための指導その他の必要な指導を行うよう努めるものとする」と規定しています。ここでも親の「第一義的責任」が書かれていますが、いじめ問題は第一義的にはいじめた子の親に責任があり、まるで親が規範意識を養わないからいじめが起こるかのようです。

 このように、近年の法には国民それぞれの立場に即した任務がかつてなく多く書き込まれており、その結果、法といえるかどうか疑わしい道徳的な規定が盛り込まれることになりました。法が公権力の行使による強制力を持つものである以上、近年の法は公権力が国民の果たすべき役割を定め、その遂行を強制するようになったのです。このことは法と道徳を区別し、公権力が介入する範囲を制限することによって、国民の自由を保障してきた近代法の原理を形骸化するものだと思います。

(後編に続く)

“日本一稼ぐ”エンリケも結婚! 「キャバ嬢を射止めるのはどんな男性?」歌舞伎町オーナー社長に聞く!

 名古屋・錦にある「アールズ・カフェ」で7年連続ナンバー1に君臨し、バースデー・イベント3日間で、2億5000万円以上の売り上げを達成したこともある“日本一稼ぐキャバ嬢”ことエンリケ(小川えり)。昨年11月に惜しまれながら現役を引退し、今後の動向に注目が集まっていた中、去る1月1日に、突如、結婚を発表。エンリケのYouTubeチャンネルやSNSには祝福コメントが殺到したが、一方で「旦那さんってどんな人なんだろう?」といった声も多数見受けられることに。

 エンリケ自身が「去年の4月くらいに出会いまして、自分のお客さんでした」「お金を特別持っているというわけでもない」と語っているが、「婚約指輪は約1300万、結婚指輪は約500万で総額約2000万」とも明かしていることから、ネット上では「やっぱりお金持ちとしか思えない!」「どんな仕事をしているのかな?」などと大盛り上がりしたのだ。

 エンリケに限らず「人気キャバ嬢の結婚相手」は、人々の興味関心をそそる話題だが、お相手男性に何かしらの特徴や傾向はあるのだろうか。今回、そんな“夜の街”の知られざる事情を探るべく、新宿・歌舞伎町のキャバクラ「クラブアップス」「アップスター 」「VIKINI」「VIPLeo」のオーナー社長であり、コラムニストとしても活躍する内野彩華さんに話をうかがった。

人気キャバ嬢を射止めるのは「派手に金を使う男」とは限らない?

 その美貌と卓越した接客術で大金を稼ぐ人気キャバ嬢たち。自ずと結婚相手も「お金持ちに違いない」と想像する人が多いようだが、実際のところはどうなのだろうか。

「お店のお客さんと結婚するキャバ嬢は多いですね。お相手の年齢は千差万別。20歳くらいで水商売の世界に入ることが多いのですが、始めたばかりの子は、シャンパンをポンポン開けてくれるような派手にお金を使うお客さんに目が行きがち。22~23歳くらいで結婚する子は、今流行りの業種でいうと、 不動産・建設関係、金融関係、あと情報商材などを取り扱う仕事の男性とゴールインするケースが多いと思います」

 しかし、派手に使えば使うほど、「お金はなくっちゃいますよね」と本質を突く内野さん。そのため、「借金を抱えてしまい、キャバ嬢に『お金を貸してほしい』などと持ち掛けるようになって離婚してしまったり、結婚に至らず破局することも珍しくありません。そもそもキャバクラで大金を使う人って、それだけ稼いでいるわけですが、その分大きなストレスも抱えているので、それを発散するように女遊びに走り、交際を続けられないこともよくあるんですよ」という。

「なので、そこからさらに水商売歴を重ねた25歳以上のキャバ嬢は、そこそこ稼いではいるものの、店では派手にお金を使わない……例えば土地やマンション、車など、自分のものにお金を使い、堅実にかつ豊かに暮らしている男性を選ぶようになります。自営業の方や会社の役員さんに多いですね」

 その後、30歳に近づいてくると、キャバ嬢は水商売に疲れてしまい、「早く結婚相手を選ばなくては」と考えるようになるそうだ。

「その場合だと、フラッと店に飲みに来ただけという、価値観や金銭感覚が合う同い年の男性と結婚することもありますね。あと同郷の幼なじみと結婚する例も」

 キャバ嬢を射止める男性は、お店で大金を使い、高価なプレゼントを贈っていそう……そういったイメージを持つ人も少なくないだろうが、一概には言えないようだ。

 一方で、こうした傾向に当てはまらない相手と結婚したケースでは、「同業者」が挙げられるという。

「例えばホストですね。うちの店の女の子にもいましたよ。ただ、妻側がお店を辞め、夫がそのままホストを続けていると、妻は嫉妬心を抱くようになるみたいで、結局夫側も引退することに。なので、キャバ嬢とホストが結婚すると、意外に地味に暮らすようになるものなんですよ。それから、売れないバンドマンなど、夢を追いかけている男性を『支えたい』と言って、結婚した話も聞きますね」

 先でも触れられたように、内野さんによると、お客さんと結婚するキャバ嬢は少なくなく、エンリケもまたそのケースに当てはまる。キャバ嬢を射止められるお客さんとそうではないお客さんに、大きな差はあるのだろうか。

「水商売をしている女性全般的に、異性関係にだらしない男性は嫌いだと思います。女の子にチヤホヤされたいからと言って、いろんな店に行って指名をするお客様は好かれないでしょうね。ただ、水商売を始めたばかりの子は、やっぱりお店で『シャンパ ンを入れてほしい』と言ったら、その通りにしてくれる男性が好きだから、本来の人間性に気づかずにお金に浮かれて、心が動いてしまうというのはあると思います」

 逆に、水商売経験を重ねた25歳以降のキャバ嬢には、「飲み慣れていない」「キャバクラに行くのは接待のときくらい」といったお客さんの方が、より良く目に映るようだ。

「キャバ嬢が結婚を考えるタイミングについてですが、『若いうちに玉の輿に乗ってやろう』と考えている子は別として、だいたい『30歳くらいまでには』という子が多いように思います。なので、30前になると結婚を考え始める。うちの店の子でも、そのくらいの年頃になると、お金を派手に使うお客さんではなく、フリーでついたお客さんと番号交換をするなど、普通に出会いを求めていますよ」

 ネット上の話題をかっさらったエンリケの結婚も、こうした傾向に当てはまっているのだろうか。今後また有名キャバ嬢が結婚を発表した際には、内野さんの考察を振り返りつつ、気になるお相手を想像してみてもいいかもしれない。

内野彩華(うちの・あやか)
新宿・歌舞伎町のキャバクラを経営。アップスグループのオーナー社長。津田塾大学情報数理学科在学中から銀座のクラブで働き、人気・売り上げともにナンバーワンに。新卒で日本オラクル(株)に入社し、営業を経験。1年半でトップセールスになる。25歳で会社を辞め、歌舞伎町でキャバクラを開業。独自の恋愛哲学を持ち、『男が手放さない女のヒミツ―「あ、この子いいな」が「ずっと一緒にいたい」になる』(大和出版)など著書多数。一方、これまでに約3万人の起業家・会社役員と接した経験から、起業セミナーや経営者の為の講演会などでも活躍。キャバ嬢育成、
キャバクラ立ち上げ、既存キャバクラの経営指導にも日々取り組んでいる。一児のママ。
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“日本一稼ぐ”エンリケも結婚! 「キャバ嬢を射止めるのはどんな男性?」歌舞伎町オーナー社長に聞く!

 名古屋・錦にある「アールズ・カフェ」で7年連続ナンバー1に君臨し、バースデー・イベント3日間で、2億5000万円以上の売り上げを達成したこともある“日本一稼ぐキャバ嬢”ことエンリケ(小川えり)。昨年11月に惜しまれながら現役を引退し、今後の動向に注目が集まっていた中、去る1月1日に、突如、結婚を発表。エンリケのYouTubeチャンネルやSNSには祝福コメントが殺到したが、一方で「旦那さんってどんな人なんだろう?」といった声も多数見受けられることに。

 エンリケ自身が「去年の4月くらいに出会いまして、自分のお客さんでした」「お金を特別持っているというわけでもない」と語っているが、「婚約指輪は約1300万、結婚指輪は約500万で総額約2000万」とも明かしていることから、ネット上では「やっぱりお金持ちとしか思えない!」「どんな仕事をしているのかな?」などと大盛り上がりしたのだ。

 エンリケに限らず「人気キャバ嬢の結婚相手」は、人々の興味関心をそそる話題だが、お相手男性に何かしらの特徴や傾向はあるのだろうか。今回、そんな“夜の街”の知られざる事情を探るべく、新宿・歌舞伎町のキャバクラ「クラブアップス」「アップスター 」「VIKINI」「VIPLeo」のオーナー社長であり、コラムニストとしても活躍する内野彩華さんに話をうかがった。

人気キャバ嬢を射止めるのは「派手に金を使う男」とは限らない?

 その美貌と卓越した接客術で大金を稼ぐ人気キャバ嬢たち。自ずと結婚相手も「お金持ちに違いない」と想像する人が多いようだが、実際のところはどうなのだろうか。

「お店のお客さんと結婚するキャバ嬢は多いですね。お相手の年齢は千差万別。20歳くらいで水商売の世界に入ることが多いのですが、始めたばかりの子は、シャンパンをポンポン開けてくれるような派手にお金を使うお客さんに目が行きがち。22~23歳くらいで結婚する子は、今流行りの業種でいうと、 不動産・建設関係、金融関係、あと情報商材などを取り扱う仕事の男性とゴールインするケースが多いと思います」

 しかし、派手に使えば使うほど、「お金はなくっちゃいますよね」と本質を突く内野さん。そのため、「借金を抱えてしまい、キャバ嬢に『お金を貸してほしい』などと持ち掛けるようになって離婚してしまったり、結婚に至らず破局することも珍しくありません。そもそもキャバクラで大金を使う人って、それだけ稼いでいるわけですが、その分大きなストレスも抱えているので、それを発散するように女遊びに走り、交際を続けられないこともよくあるんですよ」という。

「なので、そこからさらに水商売歴を重ねた25歳以上のキャバ嬢は、そこそこ稼いではいるものの、店では派手にお金を使わない……例えば土地やマンション、車など、自分のものにお金を使い、堅実にかつ豊かに暮らしている男性を選ぶようになります。自営業の方や会社の役員さんに多いですね」

 その後、30歳に近づいてくると、キャバ嬢は水商売に疲れてしまい、「早く結婚相手を選ばなくては」と考えるようになるそうだ。

「その場合だと、フラッと店に飲みに来ただけという、価値観や金銭感覚が合う同い年の男性と結婚することもありますね。あと同郷の幼なじみと結婚する例も」

 キャバ嬢を射止める男性は、お店で大金を使い、高価なプレゼントを贈っていそう……そういったイメージを持つ人も少なくないだろうが、一概には言えないようだ。

 一方で、こうした傾向に当てはまらない相手と結婚したケースでは、「同業者」が挙げられるという。

「例えばホストですね。うちの店の女の子にもいましたよ。ただ、妻側がお店を辞め、夫がそのままホストを続けていると、妻は嫉妬心を抱くようになるみたいで、結局夫側も引退することに。なので、キャバ嬢とホストが結婚すると、意外に地味に暮らすようになるものなんですよ。それから、売れないバンドマンなど、夢を追いかけている男性を『支えたい』と言って、結婚した話も聞きますね」

 先でも触れられたように、内野さんによると、お客さんと結婚するキャバ嬢は少なくなく、エンリケもまたそのケースに当てはまる。キャバ嬢を射止められるお客さんとそうではないお客さんに、大きな差はあるのだろうか。

「水商売をしている女性全般的に、異性関係にだらしない男性は嫌いだと思います。女の子にチヤホヤされたいからと言って、いろんな店に行って指名をするお客様は好かれないでしょうね。ただ、水商売を始めたばかりの子は、やっぱりお店で『シャンパ ンを入れてほしい』と言ったら、その通りにしてくれる男性が好きだから、本来の人間性に気づかずにお金に浮かれて、心が動いてしまうというのはあると思います」

 逆に、水商売経験を重ねた25歳以降のキャバ嬢には、「飲み慣れていない」「キャバクラに行くのは接待のときくらい」といったお客さんの方が、より良く目に映るようだ。

「キャバ嬢が結婚を考えるタイミングについてですが、『若いうちに玉の輿に乗ってやろう』と考えている子は別として、だいたい『30歳くらいまでには』という子が多いように思います。なので、30前になると結婚を考え始める。うちの店の子でも、そのくらいの年頃になると、お金を派手に使うお客さんではなく、フリーでついたお客さんと番号交換をするなど、普通に出会いを求めていますよ」

 ネット上の話題をかっさらったエンリケの結婚も、こうした傾向に当てはまっているのだろうか。今後また有名キャバ嬢が結婚を発表した際には、内野さんの考察を振り返りつつ、気になるお相手を想像してみてもいいかもしれない。

内野彩華(うちの・あやか)
新宿・歌舞伎町のキャバクラを経営。アップスグループのオーナー社長。津田塾大学情報数理学科在学中から銀座のクラブで働き、人気・売り上げともにナンバーワンに。新卒で日本オラクル(株)に入社し、営業を経験。1年半でトップセールスになる。25歳で会社を辞め、歌舞伎町でキャバクラを開業。独自の恋愛哲学を持ち、『男が手放さない女のヒミツ―「あ、この子いいな」が「ずっと一緒にいたい」になる』(大和出版)など著書多数。一方、これまでに約3万人の起業家・会社役員と接した経験から、起業セミナーや経営者の為の講演会などでも活躍。キャバ嬢育成、
キャバクラ立ち上げ、既存キャバクラの経営指導にも日々取り組んでいる。一児のママ。
公式サイト

ストロングゼロで「自殺行動」「暴力」も――松本俊彦氏が“ヤバイ酒”に警鐘

 アルコール度数が「9%」と高いにもかかわらず、ジュースのような口当たりが特徴的で、しかも安価だとして人気のサントリー「-196℃ストロングゼロ」。昨年の大みそか、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長の松本俊彦氏が、「ストロングZEROは『危険ドラッグ』として規制した方がよいのではないか。半ば本気でそう思うことがよくあります。私の臨床経験では、500mlを3本飲むと自分を失って暴れる人が少なくありません。大抵の違法薬物でさえも、使用者はここまで乱れません」とFacebookに投稿し、ネット上で話題を呼んだ。

 確かに、ストロングゼロは、「飲むと嫌なことを忘れられる」「ヤバイ酒」などと言われるほど“酔える”として有名で、ネット上ではストロングゼロを暴飲することを“ネタ”のように扱う向きもある。他メーカーからも同様のアルコール度数が高い“ストロング系”アルコール飲料が発売され、ブームとなる中、松本氏は、その危険性をどのように捉えているのだろうか。今回、詳しく話をうかがった。

ストロングゼロで「リストカット」「飛び降り」も……

――Facebook投稿に、「私の臨床経験では、500mlを3本飲むと自分を失って暴れる人が少なくありません」とありましたが、「暴れる」とは具体的にどのような状態なのでしょうか。

松本俊彦氏(以下、松本) いつもの自分とは全然かけ離れた行動を取ってしまう、例えば“暴力的”になるのがその一例です。また、メンタルヘルスに問題を抱える患者さんが、つらい気持ちを紛らわせようとしてストロングゼロを飲み、前後不覚に陥って、リストカットをしたり、飛び降りようとしたりといった行動に走ることも多いのです。人に危害を与え、自分の安全も保てなくなるだけに、以前からストロングゼロに関しては「困ったものだ」と思っていました。

――気軽に購入できるアルコールで、そのような状態に陥ってしまうのは怖いですね。

松本 厚生労働省による多量飲酒者の定義は、「平均1日当たり日本酒に換算して3合以上消費する者」なのですが、アルコール度数9%のストロングゼロ500ml缶を2本飲むと、それだけで日本酒換算で軽く4合近い量になります。最近では、12%のストロング系チューハイも出ており、これだと500ml缶1本で日本酒2合半、2本ならば5合です。飲みやすいこともあって、多くの人が簡単に多量飲酒者の水準を超えてしまうでしょう。なお、この多量飲酒者は、さまざまな健康被害が生じるため、「医療費がかかる可能性が高い人」という捉え方をされています。

――ジュースのような口当たりでするする飲めるのに、実は相当な量のアルコールを含んでいるとは……。

松本 大前提として、アルコールは薬物なんです。薬物はざっくり、「中枢神経系を興奮させる薬物」「中枢神経系を抑制する薬物」「中枢神経の働きの質を変える薬物」の3つに分けられます。「中枢神経系を興奮させる薬物」の代表例は、強力なものだと覚せい剤やコカイン、身近なものだとニコチンやカフェインで、いわゆる“アッパー系”と言われます。一方で、「中枢神経系を抑制する薬物」は“ダウナー系”で、ヘロインやモルヒネといった麻薬、アルコール、それから精神科の治療で使う睡眠薬や安定剤もその例として挙げられます。軽く効いている時にはふわふわして不安が消えて楽しい気持ちに、もうちょっと量が多くなってくると、眠たくなってくる。最後に、「中枢神経の働きの質を変える薬物」は、大麻やLSDなどで、物がゆがんで見えたり、音がよく聞こえたりなど、知覚を変える性質があります。

――アルコールの仲間として、ヘロインやモルヒネ、睡眠薬、安定剤が挙げられると、「薬物」であるという実感を得ます。

松本 たまたま人間の生活習慣に、歴史的にも深く根付いているだけで、アルコールはれっきとした薬物。しかし多くの人が「アルコールは飲料の一種」と思っているのではないでしょうか。

――Facebookの投稿に対しては、ネット上でさまざまな反響が寄せられたかと思います。中には「ストロングゼロを規制したところで、ウイスキーやワイン、焼酎、日本酒など、もっとアルコール度数の高いものを飲むだけ」といった声も出ていました。

松本 ストロングゼロは、ビールの倍のアルコール度数ですが、飲みやすいですから、清涼飲料水のような感覚で、ビールと同じか、それ以上の速度で飲んでいる人が少なくありません。ビールのようにおなかに溜まる感じがなく、割と量を飲めてしまう。そうすると、アルコールが一気に脳に効いてしまい、僕はそれが危険だと感じているのです。ウイスキーやワイン、焼酎、日本酒などは、あの速度では到底飲めません。

 また、ストロングゼロは、人工甘味料の影響でお酒の味がほとんどしないため、「お酒が苦手な人でも飲めてしまう点」が問題だと思っています。今は、お酒が苦手な若者が多い。昔に比べて、ビールや日本酒離れが進んでいるとも聞きます。飲料メーカーも、利益を追求しなければいけないため、ストロングゼロのような「お酒が苦手な人でも飲めるアルコール度数の高いお酒」を販売するようになったのでしょう。しかしそれは、コーヒーに覚せい剤を入れて、「痩せ薬だよ」「眠気がなくなるよ」と言って売っているのと同じではないかなと思うのです。

――確かに、ストロングゼロと違って、ウイスキーやワイン、焼酎、日本酒はまさに「お酒が好きな人」が嗜むアルコールだと思います。

松本 本当にお酒の味が好きな人にとって、ストロングゼロは「なんじゃこりゃ」という感じなのではないでしょうか。ストロングゼロを好む人、特に若者や女性に多いのですが、彼らは「お酒が好きだから」ではなく、「酔いたくて」飲んでいる傾向がある。意識を飛ばすことで、嫌なことを忘れたいのでしょう。しかしアルコールによってつらい気持ちが和らぐことで、先ほども少し触れたように、自殺行動に走ったり、暴れてしまったりするわけで、これがまさに臨床現場で「困っている点」なのです。

――インスタグラムを見ると、若い女性の間で、ストロングゼロにストローを挿して飲むことがはやっている様子がうかがえます。

松本 ストローを使うと、飲む速度が速まる可能性があり、危険だと思います。なお、ストロングゼロを常飲することによる健康上の問題は、普通のアルコールと同じ。アルコールの度数に従って、肝臓や消化管など、内臓への障害が出てきますし、将来的には脳の萎縮も危惧されます。僕自身、さまざまな依存症の患者さんを診ていますが、一番内臓がボロボロになっている、また脳が縮んでいるのは、覚せい剤ではなくアルコール。そのことを覚えておいてほしいですね。

――「ストロングゼロを規制」という点に関しては、反対の声も出ていました。

松本 Facebookに投稿した時点では、まさかこれほどまで反響があると思っておらず、実際のところは、僕自身、本気で規制はできないだろうなとは感じています。アルコール消費量のコントロールは、アルコールを違法薬物にすることによってするのではなく、課税(酒税)によって行うべきものだと思います。ヨーロッパのいくつかの国では、アルコール度数が高ければ高いほど税率を上げていく方式を採用していますが、それはなぜかと言うと、健康被害はアルコール度数の上昇に従って深刻化していくからです。つまり酒税率を上げることによって、国民がアルコール度数の高いものに簡単にアクセスできないようにし、国民の健康を守るという狙いがあるのです。

 しかし日本の場合は税収ありき。従来税金が高いアルコールは、多くの人たちが飲むビールでしたが、税率の低い発泡酒が登場し、広く世間に行き渡ったところで、国はその一部の税率をビールと同等に引き上げた。そうして、税率の低いストロングゼロのようなものが出始めたという流れです。たとえもし本当に、ストロング系チューハイの酒税が引き上げられるといった規制が行われても、また別のものが出てくると思いますよ。

――国がアルコールによる健康被害を後押ししてしまっているような格好になっていますね。

松本 2013年に成立した「アルコール健康障害対策基本法」が翌年施行され、国を挙げて国民をアルコールの健康被害から守り、また依存症からの回復支援を促していくことになったのですが……。ビールよりはるかにアルコール度数の高いものが、アルコールが苦手な人や子どもでも飲めるような格好で出回っていることに関しては、やはり考えていかなければいけないと思います。ストロング系チューハイがはやってから、コンビニの飲料コーナーの風景がガラリと変わったことにお気づきでしょうか。ギラついたパッケージのアルコール度数の高いお酒が何段にもわたり並んでいる。しかもそれが、24時間いつでも買える。海外の人が見たらびっくりすると思いますよ。

 日本は違法薬物に厳しく、逮捕された芸能人を激しくバッシングする一方で、お酒に関しては本当に寛容。薬物依存症の治療に携わっている身として、違法薬物はNGだけど、合法のアルコールはOKという線引きをすることではなく、そこはフラットに考えていかなくてはいけないと思っています。

――現在ストロングゼロは、安価かつ簡単に酔える酒として、ネット上でネタのようになっています。「飲む福祉」「虚無の酒」などと呼ばれているのですが、この状況をどのように感じますか。

松本 ネタとしてとりあえず飲んでみて、味を覚えてハマッていく人もいるのかもしれませんね。ただ一方で、これだけネタになるのは、皆さんストロングゼロで、痛い目を見たことがあって、「これはヤバイ酒だ」と思っているからなのではないでしょうか。僕がFacebookに投稿したものが、これほど拡散されたのも、同じ理由なのではないかと感じるのです。飲めない人、酒の味が嫌いな人は、別に飲まなくていい――そういった意識をもっと持ってほしいと思いますね。

松本俊彦(まつもと・としひこ)
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長。1993年佐賀医科大学医学部卒業後、国立横浜病院精神科、神奈川県立精神医療センター、横浜市立大学医学部附属病院精神科などを経て、2015年より現職。日本アルコール・アディクション医学会理事、日本精神科救急学会理事、日本社会精神医学会理事。『自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント』(講談社)など著書多数。

ストロングゼロで「自殺行動」「暴力」も――松本俊彦氏が“ヤバイ酒”に警鐘

 アルコール度数が「9%」と高いにもかかわらず、ジュースのような口当たりが特徴的で、しかも安価だとして人気のサントリー「-196℃ストロングゼロ」。昨年の大みそか、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長の松本俊彦氏が、「ストロングZEROは『危険ドラッグ』として規制した方がよいのではないか。半ば本気でそう思うことがよくあります。私の臨床経験では、500mlを3本飲むと自分を失って暴れる人が少なくありません。大抵の違法薬物でさえも、使用者はここまで乱れません」とFacebookに投稿し、ネット上で話題を呼んだ。

 確かに、ストロングゼロは、「飲むと嫌なことを忘れられる」「ヤバイ酒」などと言われるほど“酔える”として有名で、ネット上ではストロングゼロを暴飲することを“ネタ”のように扱う向きもある。他メーカーからも同様のアルコール度数が高い“ストロング系”アルコール飲料が発売され、ブームとなる中、松本氏は、その危険性をどのように捉えているのだろうか。今回、詳しく話をうかがった。

ストロングゼロで「リストカット」「飛び降り」も……

――Facebook投稿に、「私の臨床経験では、500mlを3本飲むと自分を失って暴れる人が少なくありません」とありましたが、「暴れる」とは具体的にどのような状態なのでしょうか。

松本俊彦氏(以下、松本) いつもの自分とは全然かけ離れた行動を取ってしまう、例えば“暴力的”になるのがその一例です。また、メンタルヘルスに問題を抱える患者さんが、つらい気持ちを紛らわせようとしてストロングゼロを飲み、前後不覚に陥って、リストカットをしたり、飛び降りようとしたりといった行動に走ることも多いのです。人に危害を与え、自分の安全も保てなくなるだけに、以前からストロングゼロに関しては「困ったものだ」と思っていました。

――気軽に購入できるアルコールで、そのような状態に陥ってしまうのは怖いですね。

松本 厚生労働省による多量飲酒者の定義は、「平均1日当たり日本酒に換算して3合以上消費する者」なのですが、アルコール度数9%のストロングゼロ500ml缶を2本飲むと、それだけで日本酒換算で軽く4合近い量になります。最近では、12%のストロング系チューハイも出ており、これだと500ml缶1本で日本酒2合半、2本ならば5合です。飲みやすいこともあって、多くの人が簡単に多量飲酒者の水準を超えてしまうでしょう。なお、この多量飲酒者は、さまざまな健康被害が生じるため、「医療費がかかる可能性が高い人」という捉え方をされています。

――ジュースのような口当たりでするする飲めるのに、実は相当な量のアルコールを含んでいるとは……。

松本 大前提として、アルコールは薬物なんです。薬物はざっくり、「中枢神経系を興奮させる薬物」「中枢神経系を抑制する薬物」「中枢神経の働きの質を変える薬物」の3つに分けられます。「中枢神経系を興奮させる薬物」の代表例は、強力なものだと覚せい剤やコカイン、身近なものだとニコチンやカフェインで、いわゆる“アッパー系”と言われます。一方で、「中枢神経系を抑制する薬物」は“ダウナー系”で、ヘロインやモルヒネといった麻薬、アルコール、それから精神科の治療で使う睡眠薬や安定剤もその例として挙げられます。軽く効いている時にはふわふわして不安が消えて楽しい気持ちに、もうちょっと量が多くなってくると、眠たくなってくる。最後に、「中枢神経の働きの質を変える薬物」は、大麻やLSDなどで、物がゆがんで見えたり、音がよく聞こえたりなど、知覚を変える性質があります。

――アルコールの仲間として、ヘロインやモルヒネ、睡眠薬、安定剤が挙げられると、「薬物」であるという実感を得ます。

松本 たまたま人間の生活習慣に、歴史的にも深く根付いているだけで、アルコールはれっきとした薬物。しかし多くの人が「アルコールは飲料の一種」と思っているのではないでしょうか。

――Facebookの投稿に対しては、ネット上でさまざまな反響が寄せられたかと思います。中には「ストロングゼロを規制したところで、ウイスキーやワイン、焼酎、日本酒など、もっとアルコール度数の高いものを飲むだけ」といった声も出ていました。

松本 ストロングゼロは、ビールの倍のアルコール度数ですが、飲みやすいですから、清涼飲料水のような感覚で、ビールと同じか、それ以上の速度で飲んでいる人が少なくありません。ビールのようにおなかに溜まる感じがなく、割と量を飲めてしまう。そうすると、アルコールが一気に脳に効いてしまい、僕はそれが危険だと感じているのです。ウイスキーやワイン、焼酎、日本酒などは、あの速度では到底飲めません。

 また、ストロングゼロは、人工甘味料の影響でお酒の味がほとんどしないため、「お酒が苦手な人でも飲めてしまう点」が問題だと思っています。今は、お酒が苦手な若者が多い。昔に比べて、ビールや日本酒離れが進んでいるとも聞きます。飲料メーカーも、利益を追求しなければいけないため、ストロングゼロのような「お酒が苦手な人でも飲めるアルコール度数の高いお酒」を販売するようになったのでしょう。しかしそれは、コーヒーに覚せい剤を入れて、「痩せ薬だよ」「眠気がなくなるよ」と言って売っているのと同じではないかなと思うのです。

――確かに、ストロングゼロと違って、ウイスキーやワイン、焼酎、日本酒はまさに「お酒が好きな人」が嗜むアルコールだと思います。

松本 本当にお酒の味が好きな人にとって、ストロングゼロは「なんじゃこりゃ」という感じなのではないでしょうか。ストロングゼロを好む人、特に若者や女性に多いのですが、彼らは「お酒が好きだから」ではなく、「酔いたくて」飲んでいる傾向がある。意識を飛ばすことで、嫌なことを忘れたいのでしょう。しかしアルコールによってつらい気持ちが和らぐことで、先ほども少し触れたように、自殺行動に走ったり、暴れてしまったりするわけで、これがまさに臨床現場で「困っている点」なのです。

――インスタグラムを見ると、若い女性の間で、ストロングゼロにストローを挿して飲むことがはやっている様子がうかがえます。

松本 ストローを使うと、飲む速度が速まる可能性があり、危険だと思います。なお、ストロングゼロを常飲することによる健康上の問題は、普通のアルコールと同じ。アルコールの度数に従って、肝臓や消化管など、内臓への障害が出てきますし、将来的には脳の萎縮も危惧されます。僕自身、さまざまな依存症の患者さんを診ていますが、一番内臓がボロボロになっている、また脳が縮んでいるのは、覚せい剤ではなくアルコール。そのことを覚えておいてほしいですね。

――「ストロングゼロを規制」という点に関しては、反対の声も出ていました。

松本 Facebookに投稿した時点では、まさかこれほどまで反響があると思っておらず、実際のところは、僕自身、本気で規制はできないだろうなとは感じています。アルコール消費量のコントロールは、アルコールを違法薬物にすることによってするのではなく、課税(酒税)によって行うべきものだと思います。ヨーロッパのいくつかの国では、アルコール度数が高ければ高いほど税率を上げていく方式を採用していますが、それはなぜかと言うと、健康被害はアルコール度数の上昇に従って深刻化していくからです。つまり酒税率を上げることによって、国民がアルコール度数の高いものに簡単にアクセスできないようにし、国民の健康を守るという狙いがあるのです。

 しかし日本の場合は税収ありき。従来税金が高いアルコールは、多くの人たちが飲むビールでしたが、税率の低い発泡酒が登場し、広く世間に行き渡ったところで、国はその一部の税率をビールと同等に引き上げた。そうして、税率の低いストロングゼロのようなものが出始めたという流れです。たとえもし本当に、ストロング系チューハイの酒税が引き上げられるといった規制が行われても、また別のものが出てくると思いますよ。

――国がアルコールによる健康被害を後押ししてしまっているような格好になっていますね。

松本 2013年に成立した「アルコール健康障害対策基本法」が翌年施行され、国を挙げて国民をアルコールの健康被害から守り、また依存症からの回復支援を促していくことになったのですが……。ビールよりはるかにアルコール度数の高いものが、アルコールが苦手な人や子どもでも飲めるような格好で出回っていることに関しては、やはり考えていかなければいけないと思います。ストロング系チューハイがはやってから、コンビニの飲料コーナーの風景がガラリと変わったことにお気づきでしょうか。ギラついたパッケージのアルコール度数の高いお酒が何段にもわたり並んでいる。しかもそれが、24時間いつでも買える。海外の人が見たらびっくりすると思いますよ。

 日本は違法薬物に厳しく、逮捕された芸能人を激しくバッシングする一方で、お酒に関しては本当に寛容。薬物依存症の治療に携わっている身として、違法薬物はNGだけど、合法のアルコールはOKという線引きをすることではなく、そこはフラットに考えていかなくてはいけないと思っています。

――現在ストロングゼロは、安価かつ簡単に酔える酒として、ネット上でネタのようになっています。「飲む福祉」「虚無の酒」などと呼ばれているのですが、この状況をどのように感じますか。

松本 ネタとしてとりあえず飲んでみて、味を覚えてハマッていく人もいるのかもしれませんね。ただ一方で、これだけネタになるのは、皆さんストロングゼロで、痛い目を見たことがあって、「これはヤバイ酒だ」と思っているからなのではないでしょうか。僕がFacebookに投稿したものが、これほど拡散されたのも、同じ理由なのではないかと感じるのです。飲めない人、酒の味が嫌いな人は、別に飲まなくていい――そういった意識をもっと持ってほしいと思いますね。

松本俊彦(まつもと・としひこ)
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長。1993年佐賀医科大学医学部卒業後、国立横浜病院精神科、神奈川県立精神医療センター、横浜市立大学医学部附属病院精神科などを経て、2015年より現職。日本アルコール・アディクション医学会理事、日本精神科救急学会理事、日本社会精神医学会理事。『自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント』(講談社)など著書多数。

新型コロナウイルス、症状や予防法を医師が解説! もっと「リアルな問題」も浮き彫りに?

 2019年12月ごろから、中国・武漢市で「新型コロナウイルス」による肺炎患者が続出している。中国国内だけでなく、タイや韓国でも感染者が見つかる中、今年1月16日には、日本で初めて新型コロナウイルスの感染患者が報告された。厚生労働省の発表によると、患者は神奈川県に住む30代男性で、1月6日に中国・武漢市から帰国。同日に医療機関を受診したところ、新型コロナウイルスの感染が発覚したようだ。10日に入院し、15日には症状が軽快し、退院したとも報告されている。

 複数の報道によると、1月23日現在、中国で新型コロナウイルスに感染した571名のうち、17名が死亡。日ごとに感染・死亡者数が増えている状態だ。厚労省は公式サイトにて、「家族間などの限定的なヒトからヒトへの感染の可能性が否定できない」と説明しつつ、感染拡大の可能性については明言していない。「咳エチケットや手洗い等、通常の感染対策を行うことが重要」と呼びかけるにとどまっているが、中国では1月下旬から旧正月(春節)が始まるとあって、ネット上では「かなりの観光客が日本に来るだろうし、感染しそうで心配」「春節で一気にウイルスが広まるのでは?」「本当に手洗いだけで予防できるのか疑問」など、不安の声が続出している。

 ネット上で不安視される「感染拡大」は、現実のものとなってしまうのだろうか? 沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科副部長の高山義浩氏に解説いただいた。

「新型コロナウイルス」症状や予防法は?

――「新型コロナウイルス」に感染すると、どのような症状が出るのでしょうか?

高山義浩氏(以下、高山) 詳細はまだ伝わってきていません。主たる症状は発熱であり、呼吸困難を訴える患者もいるようです。胸部レントゲンでは肺炎所見があるようですが、そもそも軽症の人は受診していないでしょうから、どれくらいの人が肺炎になって重症化しているのか、まだ明らかではありません。

――「ヒトからヒトに感染する」といった報道もありますが、それは本当でしょうか?

高山 ヒトからヒトへの感染が起きていることは、間違いありません。ただし、現時点の情報では、それが家庭内など濃厚接触に限定されるのか、あるいはレストランや電車などで一時的に空間を共有した程度でも感染しうるのか、まだ明らかではありません。また今後、ウイルスが変異して感染力を増す可能性もあるので、注意が必要です。

――「新型コロナウイルス」の感染を防ぐために、私たちが今できることはなんですか?

高山 患者を診療する可能性のある医療従事者でない限り、現時点で特別な対策を取る必要はありません。あえて挙げるとすれば、咳エチケットや手洗いなど、日頃の感染対策をしっかりすることでしょう。実のところ、今回の新型コロナウイルスよりも、一般の人たちにとっては、インフルエンザのほうがリアルな問題です。発熱や咳などの症状がある人は、仕事を休み、周囲にうつさないように注意してください。こうした心がけが、ひいては新しい感染症に対する防御を高めていくものなのです。

嵐・北京公演は「後悔しない選択を」

 エンターテインメントの分野でも「新型コロナウイルス」の影響が懸念されている。今春、嵐が北京でのコンサートを予定しているものの、北京市では5名の新型コロナウイルス感染者が報告されている(1月22日現在)。これを受け、ファンの間では「北京公演は中止、もしくは延期にしたほうがいい」「コンサートのために大勢のファンが中国に行って、そのまま日本に帰ってくると思うとゾッとする」といった意見が飛び交っているほか、「もし嵐のメンバーやファンが新型コロナウイルスに感染した場合、ジャニーズ事務所は責任取れるの?」とも指摘されている。

 ジャニーズ事務所やファンは、現時点でなんらかの対策を取るべきなのだろうか? 日本医師会認定産業医/内科医・星野優氏にお話を聞いた。

――嵐の北京コンサートは、開催時期の延期や公演の中止等、対応が必要だと思われますか?

星野優氏(以下、星野) 感染が非常に拡大した場合は、そういった対応になる可能性もあると思います。そもそも、感染が拡大した際は、日本国内でも「新型コロナウイルス」がすでに伝播している可能性も考えられます。ただし、現在のところ、ウイルスの詳細も不明瞭であり、むやみやたらに恐怖やパニックに陥ることは避けるべきです。詳しい情報が届くまでは、冷静に対処することが大切だと思います。

――このままコンサートが予定通りに開催された場合、現地へ行く人は「新型コロナウイルス」に対してどのような対策を取るべきでしょうか?

星野 国立感染症研究所は、感染が疑われた場合の対応として、「医療用マスクの着用」「綿密な手洗い、うがいなどの感染症に対する標準予防策の実施」「接触、飛沫予防策を行う」などの対応を勧めています。しかし、繰り返しになりますが、現状はいわゆる「新型コロナウイルス」に対しての情報が乏しく、正確な対応は困難です。

 感染を特に心配される方は、コンサートが開催されたとしても、参加を見送ったほうがいいかもしれません。結果として大きな問題にならないかもしれませんが、逆に被害が出る可能性も考えられます。感染状況が今後どうなるかは正直わかりませんが、「自分の身は自分で守る」しかないため、後悔しない選択をおすすめします。