“ネットで金集め”が炎上する理由――真木よう子と山田孝之の違いをITジャーナリストに聞く

 女優の真木よう子が、自身の写真集を作り、コミケで「1冊ずつ手売り」したいとの意向を表明し、そのための資金をクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で募ったものの大炎上してしまい、プロジェクトは中止になった。また、YouTuber・ヒカルは個人の価値を仮想株式にして売買するサービス「VALU」で、“詐欺”まがいの騒動を起こして批判が集まり、活動中止に。なぜ、有名人がネットでお金を集めると、「炎上」しやすいのだろうか? ITジャーナリストの三上洋氏に聞いた。

■真木よう子と山田孝之から知る、有名人のクラウドファンディングの明暗

 真木の騒動について、“コミケへの理解の浅さ”が炎上の決定打となったと三上氏は指摘する。

「クラウドファンディング以前の話で、コミケについて真木さんが理解不足だったことが2点あります。まずは“企業や有名人がプロとして参加する場ではない”という点。一個人が身銭を切り、同人誌を作るのがコミケですが、真木さんは800万円もの予算をかけて各分野のプロを呼び、クオリティの高い写真集を作ろうとした。それは、例えばフリーマーケットに大手スーパーが出店するようなレベルの、とんだ“勘違い”です。

 もう1つは、コンテンツを作って売る場であるコミケを“ファンとの出会いの場”と考えた点。毎年多くの人が訪れるコミケで参加者は、いかに人をさばくかということに腐心しています。そこへ真木さんのファンが集まるとなると、多くの参加者にとってハッキリ言って迷惑。真木さんの想像はそこにも及んでいませんでした」

 ただ「真木さんご本人が自腹を切っていれば、話はまた違ったのかもしれません」と三上氏は推測する。

 一方、同じクラウドファンディングでも、その本質を理解して運営していると三上氏が評する有名人がいる。新ブランド「FORIEDGE(フォリエッジ)」を山口友敬とともに立ち上げた、俳優の山田孝之だ。

「Twitterや2ちゃんねるなどでも、山田さんの炎上はほとんど見られません。『芸能人が何でお金を募るんだ』と、クラウドファンディングの仕組みを全く理解していない一部のメディアが騒ぎ立てているだけ。クラウドファンディングは“資金を集める場”と考えるのが、悪口の根本にある大きな誤りです」

 お金を集めた後で、投資分だけの見返りを出す。つまり“資金を運用する”ことがクラウドファンディングである。それを踏まえて、山田は「自身のブランドを立ち上げて、資金を集めて商品を作って売ります」と言っているだけ。一部の人が、目標額を数日で達成しそうになったのに対して「金儲けしやがって」と悪口を垂れているにすぎないのだ。

「残念ながら、イメージ商売である芸能人に、このような批判が出るのは仕方がないのかもしれません。日本人はお金儲けに対してやはり否定的です。いわば“有名税”と捉えるべきでしょうか」

 クラウドファンディングで覚えておきたいことは、資金を集めた後に、目標達成に向けたプロジェクトが始動するという流れだ。その点で、資金を払う側にとっては、一般人より有名人のプロジェクトの方が“お買い得”といえる。

「山田さんの場合、もしも劣悪な品物が完成したり、最悪のケースで『品物ができませんでした』となれば、“山田孝之”の評価までガクンと下がります。それもあって、自分の名前でやっている以上は絶対に失敗できません。身元のはっきりしない一般人のプロジェクトより、実行可能性が高くて信用できる点では、かえってお手頃なのです」

 もともとYouTuberの代名詞的存在であったヒカル。過去に悪徳商法に手を染めていたという説もあるが、VALU騒動の引き金となった最大の原因とは何だったのか?

「『全くVALUの仕組みを理解していなかった』と、騒動後にヒカルさんは話していますが、同じ理解不足といっても、真木さんとは事情が全く異なります。ヒカルさんは仕組みを理解しないまま、動画のネタにしようと参加し、結果的に売買するほかのVALUユーザーを小馬鹿にするような手法を取りました」

 “小馬鹿にするような手法”とは、具体的にどんなものなのだろうか?

「VALUは、まさしくクラウドファンディングです。芸能人を含む有名人などの“価値(社会的評価)”の浮き沈みを逆手にとり、そこに値をつけて売買するという仕組みです。ヒカルがそうであったように、VALUで売り手になる人は、価値をどんどん高値に上げなくてはいけません」

 たとえば株式市場では、株が上がることで企業と株主の双方がハッピーになる。VALUでも同じで「今後も成長し、お金を出してくれた人にとっても、価値のある活動をします」と売り手は買い手に示す。そして高値になり、買い手も自身が手にする“仮想株式(VALU)”の価値が上がることを望んでいる。

「しかし、ヒカルが取った行動は買い手を裏切るものでした。“どういう意図で買い手が資金を出しているか”を考えもせず、いきなり全株を売却したのです。仮想株式が大量に供給されたために、需要と供給のバランスが崩れ、ヒカルの値段がガクンと下がった。つまり買い手にとっては、すでに投資して手にしたヒカルの仮想株式の価値が下がったということです。株市場でいう“ジャブジャブ”状態ですね」

 たとえヒカル自身の無知には悪気がなかったとしても、すでにヒカルに価値を見いだしてお金を投資していた人にとっては、たまったものではないだろう。

「VALUと同じ評価経済のサービスとして『Timebank』が始まりました。こちらは著名人や専門家の“時間”を10秒単位で買うという仕組みですが、たとえばブロガーのはあちゅうさんなどは、なんと20分で6万6,720円が付けられた。その値に対して『高すぎて気持ち悪い』との声もネットで出ています」

 クラウドファンディングやVALUなど、ネットがお金をやりとりできる場としても機能し始めてから日はまだ浅い。しかし有名人を中心とするネットでのお金集めは、今後も増え続けるに違いない。買い手側としては、仕組みを正しく知る必要があるだろう。

「真木さんやヒカルさんの騒動からも言えることですが、売り手側もきちんと理解しなければなりません。『とりあえずお金を集めて、何かすればいいんでしょう?』という姿勢では、必ず炎上します」

 お金でしくじれば、ネットどころか芸能界からも即追放となりかねない。コミケでいえば、叶姉妹や小林幸子をロールモデルとするべきか。いずれにせよ、ネットでのお金の取引が浸透するまでには、まだ時間がかかりそうだ。
(門上奈央)

三上洋(ミカミ・ヨウ)
ITジャーナリスト。専門とするジャンルはネット事件や詐欺対策などのセキュリティ分野、スマートフォン分野の業界動向や有害サイト対策、電子マネーなど。
公式サイト

アスペルガーの夫や彼氏から「逃げてもいい」! “妻だから支える”呪いに耳を貸すな

 近年、俳優やモデルとして活躍する栗原類や、映画化もされベストセラーになった『いま、会いにゆきます』の作者・市川拓司などが「自身は発達障害である」とカミングアウトしたことにより、世間に「大人の発達障害」というワードが広まるようになった。子どもの時には周りも自分も気が付かず、大人になってから社会の中で生きにくさを感じて、自分は発達障害かもしれないと疑う人が増加している。そして、その疑いは自分だけではなく、身近な人にも向く。例えば、夫や、彼氏との生活で感じる違和感。「彼はもしかしたら発達障害なのではないだろか?」という疑惑を抱えてモヤモヤとする日々。もしそうだったら、私はどうしたらいいんだろう……と、悩みを抱えている人もいるだろう。

 結婚16年目にして夫のアキラさんがアスペルガー(発達障害の一種)だったことがわかった野波ツナさんは、その結婚生活をコミックエッセイ『旦那(アキラ)さんはアスペルガー』(コスミック出版)シリーズで赤裸々に描いている。8作目となる『アスペルガーと知らないで結婚したらとんでもないことになりました』を刊行した野波さんに、彼に覚えていた違和感や、発達障害のパートナーとの付き合い方などをうかがった。

――今作では、野波さんとアキラさんの結婚前の姿が描かれています。どうしてこの時期を書かれたのですか。

野波ツナさん(以下、野波) 最初の本『旦那さんはアスペルガー』は、夫がアスペルガーだとわかった時で、1冊すべて、夫のダメな部分ばかりを描いていました。でも、結婚した当初は、この人と結婚したいという思いがあったんです。個性的で性格も悪くない、仕事もしっかりしていました。では、どんな時に彼に対する違和感が出てきたかなと振り返ると、あれもこれも、いま思い返すといろいろとあったなと。初めは小さかったその違和感が時間や、結婚、子育てなど段階を踏んで行く中で増えていったことを、みなさんに知ってほしいと思って描きました。

 彼は結婚当初は仕事もちゃんとしていたし、個性的ではあったけどおかしな人ではなかった。そのため、家庭がうまくいかないのは、私のせいなのかなと悩んだりもしました。しかし、結果として、アスペルガーの彼にとって結婚、同居というのは大変な負担で、借金や退職などといった大きな失敗を起こすきっかけになっていたとわかりました。

――当時の野波さんの困惑やストレスは相当なものだったんでしょうね。

野波 本のタイトル通り、結婚して大変なことになったのは、妻である私もそうですが、夫である彼も大変だったんです。彼も当時は自分がアスペルガーだというのを知らなかったので、普通の人のように家庭を築いていけると思っていた。でも、アスペルガーの特性ゆえ、努力では変えられないものがあり、結婚、家族という共同生活に非常なストレスを感じていたんだと思います。

――当時の旦那さんはまさに、野波さんが作られた言葉「サイレント・アスペルガー」だったんですね。

野波 そうですね。「サイレント・アスペルガー」とは、自身では発達障害の自覚がなく、社会生活に“困り感”を抱くことなく生きてきた人のことを、そう呼んでいます。アスペルガーの人は知性の高い方が多いので、今まで失敗してきたことを学び、周りの参考にできる人から言動をトレースして外側をよそおえます。なので、家の外では人当たりもよく、社会生活も一見普通に送れます。アキラさん自身、人とはちょっと違うだけ、むしろ特別な人間と思っていたそうです。私がパソコンでアスペルガーの特性を見せながら、「あなたこれかもよ」と言ったとき、「あ~ワタシこれです」とすんなり受け止め、「アスペルガー」という響きも特殊な感じがしてカッコいいとすら思ったそう。だからと言って、自分を変えようというふうにならないのがサイレント・アスペルガーの特徴かもしれません。

――交際中に彼がほかの人とは違うなと思ったエピソードなどはありますか。

野波 今回の本にも掲載していますが、彼の家族に初めて紹介してもらうときに、挨拶もそこそこのうちに私のスカートを「3万円もしたんだって」と言ったときはビックリしましたね。そういうのは打ち解けたあと雑談のひとつとしていうようなものですよね。彼の家族からの私の印象がどうなるかなんて考えてないんです。

 それ以外にも、プレゼントを贈るのが好きなんだけど、相手のことは考えずに自分の贈りたいものにする。あまり感情を表さない。表情が乏しい一方で、その表情や動作が漫画っぽい。断ることができない・・・・・・など、たくさんあります。

――いろいろと特性があるんですね。でも周囲には、癖や性格だと思われて、気にされないような気がします。

野波 なので、発達障害は気が付きにくいのかもしれませんね。もし、夫や彼氏に違和感があり、発達障害を疑っているのならば、子どもの頃のことを聞いてみるといいですね。みんなができるのに自分だけはどうしてもできなかったこと、みんなと違っていると感じたこと、先生や親から指摘されていて治らなかったことなどなかったか?

 例えばなぜか仲間外れにされる。普通にしてるつもりなのに怒られる。物事を期日までに終わらせられない。忘れ物が多い。出かける前の支度が間に合わなくてバタバタする。遅刻が多い。机の上や中がぐちゃぐちゃなど。それが今も継続していたら、その人は発達障害(ASDやADHD)かもしれません。

――もし、当てはまるようなら、本人に「発達障害なんじゃない?」と言ってよいものなのでしょうか。

野波 難しいところですね。「発達障害」という言葉は強いので拒否反応がでてしまうことも多いです。私の経験上アスペルガーの場合、自覚する人は稀です。「俺は全然アスペなんかじゃない、ありえない!」と自信を持っているほど可能性が……。

――疑いがある場合は、病院での診断はやはり受けた方がよいのでしょうか。

野波 無理やり連れていくのはいけません。まず、本人が困っているかどうかが重要です。「忘れ物が多くて困ってるよね」「物の整理が苦手だよね」など具体的な事例を出して、本人がそうかもと自覚して、自発的に病院に行くように促す。本人が嫌がるようなら、病院に行かせるのは諦めましょう。彼が病院に行く行かないは問わず、妻や彼女である自身が、彼の特性を理解して対応していくのがいいと思います。

――彼の特性を理解してとは、どういったことでしょうか。

野波 「発達障害だから〇〇なはず」などとラベリングはせずに、その人個人をよく観察することが必要です。おかしいな、不可解だな、と感じる言動の、根っこにある発達障害の特性を探りましょう。(注意欠陥、感覚過敏、感覚鈍磨、強いこだわりなど)。特性に当てはまることであれば、本人にとって変えることが難しいと知ることが、第一歩です。

 もし、日々の生活で困っていることがあれば、言い方を変えてみたり対応を工夫したりすれば、うまく誘導できることもあるので、専門書を読んだりして試していくとよいと思います。アキラさんの場合は、「今日は雨が降りそうだから窓を閉めて」はできるんです。でも、「今日は雨が降りそうだけど蒸してるから、少しだけ窓を開けて」はダメなんですよ。「雨の日は窓を閉める」「晴れの日は開ける」などわかりやすく、短い言葉で言わないとダメですね。

 あと、結婚するとき、子どもが生まれたときなど、最初にルールを決めて明文化することをおすすめします。そして、そのルールは変えない方がいいですね。例えば「夜10時になったら奥さんの肩を揉む」、「ご飯を食べ終わったら、ごちそうさまと言う」など。

――そこまで細かくですか。

野波 「いただきます」「ごちそうさま」を言わない、アスペルガーの方は多いんですよ。合理的に考えるので意味がないと思っているんです。言っても言わなくてもご飯は食べられるって。ルールはたくさんになっちゃうけど、壁にでも貼っておけばいいんですよ。修正はなかなかできませんから、最初が肝心です。ルール以外のものは都度都度言うようにするしかないですね。

――でも、それだと奥さんや彼女は彼に合わせるばかりで疲れてしまいませんか。

野波 はい。疲れてしまうこと時もあるでしょう。嫌になることもあるでしょう。そんなときはちょっと彼との距離を取るのも得策です。月一で小旅行に出かけるもいいですし、自分を解放する時間が必要ですね。彼の特性について知識を得ておくことが必要ですが、全てを容認する必要はありません。無理だと思ったら逃げてしまって構わないんです。

――逃げるということは、結婚していたら離婚も視野に?

野波 「相手が妻だから夫を支えるのは当たり前」「発達障害の人を見捨てるの」「結婚を決めたのはあなたでしょう」など、周りの方からいろいろ言われることもあると思いますが、そういう言葉に惑わされないでください。特に、「この人との結婚を決めたのは自分だから」という自分で作った呪いには耳を貸さないでください。アスペルガーの方にとって、結婚や、居住環境が変わることはストレスが強く、大きく変化することがあります。結婚を決めたときと今の夫とは違っているかもしれません。私のように夫が借金を作り、お金の問題で家を売るしかなくなり、別居になることだってありえます。キレイごとだけでは生活をしていけないんです。離れることがお互いにとっていいこともあります。

――こういった悩みは相談しようにも、友達や身内にはなかなかできないかと思います。

野波 友人や身内に相談しても、夫や彼氏へのワガママなどと捉えられ、「まぁまぁ」と宥められてたり、一般論の夫婦の話を私たちにあてはめられ、傷つくこともあります。特に親御さんは自分の子どもだし、この子は小さい頃からこうだったって容認してしまう。妻に母親と同じような無償の愛を求められても、困りますよね。だったら、いっそ全然関係ない第三者機関の地域の保健所や、専門の先生に相談してみると少しは気が楽になるかと思います。

――もしアキラさんがアスペルガーだと結婚する前にわかっていたら、結婚していましたか?

野波 やっぱり、結婚していたでしょうね。でも、アスペルガーの特性を理解し、対応するために生活のスタイルなどは変えていたと思います。当初、通い婚をしていたのですが、子どもができたので一緒に住み始めました。そこからいろいろ悪い方向にいってしまったので、通い婚のままの方が良かったかもしれません。

――アスペルガー(との疑いのある)の方と人間関係を

野波 アスペルガーの人は、人に迷惑をかけているという自覚がないままに、「アスペルガー=迷惑な人、性格が悪い人」という揶揄をされがちです。でも、アスペルガーが悪いわけではなく、素直で、最後まで物事を完遂することなどいいところもいっぱいあります。彼、彼女の特性をよく観察して、その人その人にあった対応を試みてください。アスペルガーの良いところも、悪いところも世間に広まって、双方にとって良い方向に進んでいってほしいです。

野波ツナ(のなみ つな)
漫画家として体験コミックなど多方面で活躍中。『旦那(アキラ)さんはアスペルガー』(コスミック出版)で、アスペルガー症候群と気づかないまま大人になってしまった夫との結婚生活を赤裸々に描き注目を集める。特に同じ立場の女性から共感を得ており、現在は講演会などでエールを送る機会も多い。著書はほかに『発達障害がある人のための みるみる会話力がつくノート』(講談社 柳下記子著/漫画担当)、『うちの困ったさん』(リイド社)。

アスペルガーの夫や彼氏から「逃げてもいい」! “妻だから支える”呪いに耳を貸すな

 近年、俳優やモデルとして活躍する栗原類や、映画化もされベストセラーになった『いま、会いにゆきます』の作者・市川拓司などが「自身は発達障害である」とカミングアウトしたことにより、世間に「大人の発達障害」というワードが広まるようになった。子どもの時には周りも自分も気が付かず、大人になってから社会の中で生きにくさを感じて、自分は発達障害かもしれないと疑う人が増加している。そして、その疑いは自分だけではなく、身近な人にも向く。例えば、夫や、彼氏との生活で感じる違和感。「彼はもしかしたら発達障害なのではないだろか?」という疑惑を抱えてモヤモヤとする日々。もしそうだったら、私はどうしたらいいんだろう……と、悩みを抱えている人もいるだろう。

 結婚16年目にして夫のアキラさんがアスペルガー(発達障害の一種)だったことがわかった野波ツナさんは、その結婚生活をコミックエッセイ『旦那(アキラ)さんはアスペルガー』(コスミック出版)シリーズで赤裸々に描いている。8作目となる『アスペルガーと知らないで結婚したらとんでもないことになりました』を刊行した野波さんに、彼に覚えていた違和感や、発達障害のパートナーとの付き合い方などをうかがった。

――今作では、野波さんとアキラさんの結婚前の姿が描かれています。どうしてこの時期を書かれたのですか。

野波ツナさん(以下、野波) 最初の本『旦那さんはアスペルガー』は、夫がアスペルガーだとわかった時で、1冊すべて、夫のダメな部分ばかりを描いていました。でも、結婚した当初は、この人と結婚したいという思いがあったんです。個性的で性格も悪くない、仕事もしっかりしていました。では、どんな時に彼に対する違和感が出てきたかなと振り返ると、あれもこれも、いま思い返すといろいろとあったなと。初めは小さかったその違和感が時間や、結婚、子育てなど段階を踏んで行く中で増えていったことを、みなさんに知ってほしいと思って描きました。

 彼は結婚当初は仕事もちゃんとしていたし、個性的ではあったけどおかしな人ではなかった。そのため、家庭がうまくいかないのは、私のせいなのかなと悩んだりもしました。しかし、結果として、アスペルガーの彼にとって結婚、同居というのは大変な負担で、借金や退職などといった大きな失敗を起こすきっかけになっていたとわかりました。

――当時の野波さんの困惑やストレスは相当なものだったんでしょうね。

野波 本のタイトル通り、結婚して大変なことになったのは、妻である私もそうですが、夫である彼も大変だったんです。彼も当時は自分がアスペルガーだというのを知らなかったので、普通の人のように家庭を築いていけると思っていた。でも、アスペルガーの特性ゆえ、努力では変えられないものがあり、結婚、家族という共同生活に非常なストレスを感じていたんだと思います。

――当時の旦那さんはまさに、野波さんが作られた言葉「サイレント・アスペルガー」だったんですね。

野波 そうですね。「サイレント・アスペルガー」とは、自身では発達障害の自覚がなく、社会生活に“困り感”を抱くことなく生きてきた人のことを、そう呼んでいます。アスペルガーの人は知性の高い方が多いので、今まで失敗してきたことを学び、周りの参考にできる人から言動をトレースして外側をよそおえます。なので、家の外では人当たりもよく、社会生活も一見普通に送れます。アキラさん自身、人とはちょっと違うだけ、むしろ特別な人間と思っていたそうです。私がパソコンでアスペルガーの特性を見せながら、「あなたこれかもよ」と言ったとき、「あ~ワタシこれです」とすんなり受け止め、「アスペルガー」という響きも特殊な感じがしてカッコいいとすら思ったそう。だからと言って、自分を変えようというふうにならないのがサイレント・アスペルガーの特徴かもしれません。

――交際中に彼がほかの人とは違うなと思ったエピソードなどはありますか。

野波 今回の本にも掲載していますが、彼の家族に初めて紹介してもらうときに、挨拶もそこそこのうちに私のスカートを「3万円もしたんだって」と言ったときはビックリしましたね。そういうのは打ち解けたあと雑談のひとつとしていうようなものですよね。彼の家族からの私の印象がどうなるかなんて考えてないんです。

 それ以外にも、プレゼントを贈るのが好きなんだけど、相手のことは考えずに自分の贈りたいものにする。あまり感情を表さない。表情が乏しい一方で、その表情や動作が漫画っぽい。断ることができない・・・・・・など、たくさんあります。

――いろいろと特性があるんですね。でも周囲には、癖や性格だと思われて、気にされないような気がします。

野波 なので、発達障害は気が付きにくいのかもしれませんね。もし、夫や彼氏に違和感があり、発達障害を疑っているのならば、子どもの頃のことを聞いてみるといいですね。みんなができるのに自分だけはどうしてもできなかったこと、みんなと違っていると感じたこと、先生や親から指摘されていて治らなかったことなどなかったか?

 例えばなぜか仲間外れにされる。普通にしてるつもりなのに怒られる。物事を期日までに終わらせられない。忘れ物が多い。出かける前の支度が間に合わなくてバタバタする。遅刻が多い。机の上や中がぐちゃぐちゃなど。それが今も継続していたら、その人は発達障害(ASDやADHD)かもしれません。

――もし、当てはまるようなら、本人に「発達障害なんじゃない?」と言ってよいものなのでしょうか。

野波 難しいところですね。「発達障害」という言葉は強いので拒否反応がでてしまうことも多いです。私の経験上アスペルガーの場合、自覚する人は稀です。「俺は全然アスペなんかじゃない、ありえない!」と自信を持っているほど可能性が……。

――疑いがある場合は、病院での診断はやはり受けた方がよいのでしょうか。

野波 無理やり連れていくのはいけません。まず、本人が困っているかどうかが重要です。「忘れ物が多くて困ってるよね」「物の整理が苦手だよね」など具体的な事例を出して、本人がそうかもと自覚して、自発的に病院に行くように促す。本人が嫌がるようなら、病院に行かせるのは諦めましょう。彼が病院に行く行かないは問わず、妻や彼女である自身が、彼の特性を理解して対応していくのがいいと思います。

――彼の特性を理解してとは、どういったことでしょうか。

野波 「発達障害だから〇〇なはず」などとラベリングはせずに、その人個人をよく観察することが必要です。おかしいな、不可解だな、と感じる言動の、根っこにある発達障害の特性を探りましょう。(注意欠陥、感覚過敏、感覚鈍磨、強いこだわりなど)。特性に当てはまることであれば、本人にとって変えることが難しいと知ることが、第一歩です。

 もし、日々の生活で困っていることがあれば、言い方を変えてみたり対応を工夫したりすれば、うまく誘導できることもあるので、専門書を読んだりして試していくとよいと思います。アキラさんの場合は、「今日は雨が降りそうだから窓を閉めて」はできるんです。でも、「今日は雨が降りそうだけど蒸してるから、少しだけ窓を開けて」はダメなんですよ。「雨の日は窓を閉める」「晴れの日は開ける」などわかりやすく、短い言葉で言わないとダメですね。

 あと、結婚するとき、子どもが生まれたときなど、最初にルールを決めて明文化することをおすすめします。そして、そのルールは変えない方がいいですね。例えば「夜10時になったら奥さんの肩を揉む」、「ご飯を食べ終わったら、ごちそうさまと言う」など。

――そこまで細かくですか。

野波 「いただきます」「ごちそうさま」を言わない、アスペルガーの方は多いんですよ。合理的に考えるので意味がないと思っているんです。言っても言わなくてもご飯は食べられるって。ルールはたくさんになっちゃうけど、壁にでも貼っておけばいいんですよ。修正はなかなかできませんから、最初が肝心です。ルール以外のものは都度都度言うようにするしかないですね。

――でも、それだと奥さんや彼女は彼に合わせるばかりで疲れてしまいませんか。

野波 はい。疲れてしまうこと時もあるでしょう。嫌になることもあるでしょう。そんなときはちょっと彼との距離を取るのも得策です。月一で小旅行に出かけるもいいですし、自分を解放する時間が必要ですね。彼の特性について知識を得ておくことが必要ですが、全てを容認する必要はありません。無理だと思ったら逃げてしまって構わないんです。

――逃げるということは、結婚していたら離婚も視野に?

野波 「相手が妻だから夫を支えるのは当たり前」「発達障害の人を見捨てるの」「結婚を決めたのはあなたでしょう」など、周りの方からいろいろ言われることもあると思いますが、そういう言葉に惑わされないでください。特に、「この人との結婚を決めたのは自分だから」という自分で作った呪いには耳を貸さないでください。アスペルガーの方にとって、結婚や、居住環境が変わることはストレスが強く、大きく変化することがあります。結婚を決めたときと今の夫とは違っているかもしれません。私のように夫が借金を作り、お金の問題で家を売るしかなくなり、別居になることだってありえます。キレイごとだけでは生活をしていけないんです。離れることがお互いにとっていいこともあります。

――こういった悩みは相談しようにも、友達や身内にはなかなかできないかと思います。

野波 友人や身内に相談しても、夫や彼氏へのワガママなどと捉えられ、「まぁまぁ」と宥められてたり、一般論の夫婦の話を私たちにあてはめられ、傷つくこともあります。特に親御さんは自分の子どもだし、この子は小さい頃からこうだったって容認してしまう。妻に母親と同じような無償の愛を求められても、困りますよね。だったら、いっそ全然関係ない第三者機関の地域の保健所や、専門の先生に相談してみると少しは気が楽になるかと思います。

――もしアキラさんがアスペルガーだと結婚する前にわかっていたら、結婚していましたか?

野波 やっぱり、結婚していたでしょうね。でも、アスペルガーの特性を理解し、対応するために生活のスタイルなどは変えていたと思います。当初、通い婚をしていたのですが、子どもができたので一緒に住み始めました。そこからいろいろ悪い方向にいってしまったので、通い婚のままの方が良かったかもしれません。

――アスペルガー(との疑いのある)の方と人間関係を

野波 アスペルガーの人は、人に迷惑をかけているという自覚がないままに、「アスペルガー=迷惑な人、性格が悪い人」という揶揄をされがちです。でも、アスペルガーが悪いわけではなく、素直で、最後まで物事を完遂することなどいいところもいっぱいあります。彼、彼女の特性をよく観察して、その人その人にあった対応を試みてください。アスペルガーの良いところも、悪いところも世間に広まって、双方にとって良い方向に進んでいってほしいです。

野波ツナ(のなみ つな)
漫画家として体験コミックなど多方面で活躍中。『旦那(アキラ)さんはアスペルガー』(コスミック出版)で、アスペルガー症候群と気づかないまま大人になってしまった夫との結婚生活を赤裸々に描き注目を集める。特に同じ立場の女性から共感を得ており、現在は講演会などでエールを送る機会も多い。著書はほかに『発達障害がある人のための みるみる会話力がつくノート』(講談社 柳下記子著/漫画担当)、『うちの困ったさん』(リイド社)。

泰葉の“超スピード婚約”を、18歳年下のトルコ人男性に3億円貢いだ及川眠子が斬る!

 シンガー・ソングライターの泰葉が、フェイスブックで知り合ったイラン人男性との婚約を発表した。9月14日に男性を日本へ呼び寄せて、初めて会ったという泰葉は、20日の婚約会見で「2019年をもって芸能界を引退する」と発言。入籍や挙式などの予定は未定だというが、アメリカへ移住するとも報じられている。この“超スピード婚約”に対して、ネットでは「騙されてるんじゃないの?」といった声も多い。また、40歳の時に旅行先のイスタンブールで知り合った18歳年下のトルコ人男性と結婚し、3億円ものお金を失った作詞家の及川眠子さんを引き合いに出して、「及川さんみたいにならないか?」「大丈夫なのか?」などと心配する声も上がっている。そこで及川さんに、泰葉の婚約について率直な意見を聞いた。

「私が結婚したときも、『男に騙されているんじゃないか?』とか『お金を取られるんじゃないか?』と言われましたが、私は望んでお金を払ったんです。『あなたのキャリアがダメになる』とも言われましたが、それで失う程度ならキャリアじゃないと思いましたね。自分の意思ですべてやりましたから、楽しかった。面白かったですよ」

 泰葉の婚約者は、20歳下のイラン人会社経営者のメィヒディ・カーゼンプールさん。かなりの年の差と、イスラム教という宗教が関係する国際結婚であることも、周囲から心配される要因になっている。イスラム教徒は、結婚相手もイスラム教徒でなければならないからだ。つまり、メィヒディさんと結婚するためには、彼と同じイスラム教に改宗する必要がある。

「国際結婚ということでは、イスラム教への改宗が大きな問題だと思います。私の場合は、結婚まで4年、イスラム教について勉強して、改宗しない結論に至りました。イスラムというのは彼らのアイデンティティですから、一般的な日本人の宗教の捉え方と全然違うんです。ただ豚肉を食べないとか、そんなことではありませんし、きちんと理解していない神様に対して1日5回お祈りができるのでしょうか? そして、一度イスラムに改宗したら戻れないのです」

 及川さんはトルコに住むつもりがなかったため、婚姻ビザが必要なかったという。また、トルコの場合は、どちらかの国で婚姻届を出せばいいので、日本だけで提出した。

「イランはトルコとは違うと思いますが、イラン人が日本に滞在する場合はビザが必要でしょう。泰葉さんは、そういうことを理解しているのでしょうか? 計画性があるのかも疑問ですね。ただ注目されたいだけに見えます。マスコミも放っておけばいいのに」

 メィヒディさんは20歳下ということだが、年の差について及川さんは、それほど問題ではないと話す。

「私の場合は相手が18歳下でしたが、トルコでは私のほうが年下だと思われましたよ。彼は若いときから働いているから、精神的に大人でした。外国の人が相手だと、見ていたテレビ番組が違うといったジェネレーションギャップがあまりない。そもそもの文化が違いますから。そうなると、相手のものの考え方や性格を受け入れられるかどうかになってきます」

 なお及川さんは、泰葉の音楽の才能については評価しており、彼女自身もこだわっているはずの音楽活動を続けないことに対しては疑問を感じているという。

「彼女のデモテープを聞いたことがあるのですが、アーティストとして才能ある人なのに、前の結婚を機に音楽をやめてしまった。その後、また『音楽をやりたい』といって離婚までしたのに、なんでそれを突き詰めないんだろうと思いますね。今回のCD(今年2月ごろから制作を進めていたが、資金不足で頓挫したといわれる)はどういうものを作ったのかわからないけど、自分で作ったのなら、ライブハウスなどを回って、これからも音楽活動を地道にやっていくのかなと思っていました。だから、今回の結婚も“逃げ”でしょう。安室奈美恵の極めた感のある引退宣言とは違う」

 最後に、今後の泰葉に対して、次のようにアドバイスする。

「泰葉さんは(落語の名門である)林家一門のお嬢さんで、世間にもまれていないし、まっすぐな性格だと思うんです。いつまでも世間にとっては海老名家の娘で、アーティストとして認識されてないということに気づくべきですね。自分のことを客観的に見られていない。一番いいのは、芸能人でもなんでもなく、一個人としてイランで幸せに暮らすことじゃないでしょうか。でも、また何年かして独身になって、『音楽をやりたい』と言って、記者会見するかもしれませんね(笑)」

愛人手当ては「家電」に物品、居酒屋の常連客と“コスパの良い”愛人関係に【「職業:愛人」の女たち】

 バブル時代、愛人といえば“パパ”から買ってもらった高級マンションに住み、メルセデス・ベンツやBMWなどの外車を乗り回し、シャネルスーツにエルメスのバッグという格好で六本木や銀座に出勤する……そんなイメージがあった。

 しかし、それも今は昔。長く続く経済の下り坂時代、90年代、00年代では“デフレスパイラル”“失われた20年”などという言葉が流行して、昨今は“貧困女子”が一躍注目。愛人業界にも、「コスパの良い」「プチプラ」女性たちが現れている。
 
 話を聞いたのは、サクラちゃん(仮名・26歳)。ナチュラルメイクというよりはすっぴんに近い顔に、デニムとTシャツといったカジュアルファッション。まさか愛人がいるような女性には見えない。
 現在、付き合って5年になる“パパ”がいる。相手は43歳の“フツーのサラリーマンの男性”。話をよく聞いてみれば納得。「それも愛人って言うんだ!」と驚愕するような交際をしているのである。
 

 出会いはバイト先の居酒屋……店員と常連客

 2人の出会いは、当時21歳だったサクラちゃんがバイトしていた居酒屋だという。居酒屋でパパと出会えるものなのか? 出会ったとして、どうして愛人という形の交際になったのか?
 
「最初は常連さんだったんですよ。週に2~3回は私がバイトしてた店に来て、1人でご飯を食べて、軽く飲んで帰っていく……みたいな。常連さんでみんな名前も知っていたので、『田中さん(仮名)いらっしゃい! まずはいつも通りビールでいい?』みたいな感じで、店が暇な時にはバイトが代わる代わる田中さんのおしゃべりの相手をするような間柄でしたね。さっと食べて飲んで、ダラダラ長居することもなく、バイトスタッフに絡んだりすることもなかったので、本当にいいお客さんでしたね。だから、店の飲み会なども誘われるくらいだったんですよ」
 
ーーもはや店員扱いくらいだ。
 
「そうそう。で、店の飲み会があった時に、田中さんと結構ガッツリと話す機会があったんですよね。『普段は何やってんの?』『専門学校生ですよ』みたいなかんじで。私、高校出てすぐに一度就職しているんですよ。でも、やりたいことがあったので、お金を貯めて上京して、専門学校に入ったんです。貯金で足りなかった学費は親に借りて、生活費は全部自分で出していました。居酒屋のバイト代は月10万ちょっとだったので、本当生活がキツくて……。まあ、だから、賄いがしっかりついてる居酒屋を選んだってのもありますね。そんなことを話していたんです」
 
ーーそこまではよくある話だよね。
 
「うん、そうなんですよね。『若いのにエライね』『いやいやそんなことないですよ。自分の好きなことやりたいって出てきたので、多少の苦労は仕方ないって思ってます』みたいな話をしていた中で、『ただ、冷蔵庫がないのがきついんですよね』ってポロッとこぼしたんです。私、ちょっと衛生的にコインランドリーってイヤなんですね。だから、最初に洗濯機を買っちゃったんですよ。だから、その当時、家電が洗濯機しかなかったんです」
 
ーー珍しいね。
 
「でしょ。で、それを話したら、『え? 一人暮らし用の冷蔵庫なんて、2~3万程度でしょ。それくらいなら買ってあげるよ』って田中さんが言い出したんです。その時は、私もお酒が入っていたので、『えー! ウソー! 超うれしい! めっちゃ助かる~!』なんてノリで言っちゃって……」
 
 たいていの場合、飲み会での約束は御破算だろう。実現しなかったとしても、「ノリだしね」と気にも留めないものである。ところがなんと、翌日田中さんからサクラちゃんの携帯に連絡があったのだという。
 
「『どうする? いつ買いにいく?』って。え、本気だったんだ! って正直ビックリしましたよ。悪いからいいですよって断ったんだけど、大した額じゃないから気にしないでっていうので、その電話で電気屋さんに一緒にいく日程を決めちゃったんですよね」
 
 初めてのデートは電気屋。なんとも所帯じみた交際である。電気屋に行くと、田中さんは「どうせだったら電子レンジもあった方が便利じゃない?」と電子レンジも買ってくれた。大型家電のため、当然、後日配送となる。そのため、その日は食事をした後に、お互いの家にすぐに帰った。

 家電から家財、食費へ。不思議な愛人関係……

 男女の仲に発展したのは、家電が家に到着した日だという。
 
 「家に見にいってもいい? イヤだったら遠慮するけど」と言う田中さんに、サクラちゃんは「家電を買ってくれたんだから、ちょっとはお礼をしないと」と、手料理でもてなすことにしたと言う。
 
 家電が届いたその日、2人はサクラちゃんの家で食事をして、田中さんが買って来たお酒を一緒に飲んだ。一人暮らしの女性の家に、男女がいる。セクシーな展開になっても不思議はない。
 
「『そんなつもりじゃなかったんだけど、ボク、サクラちゃんみたいな子ってタイプなんだよ』みたいなことを言って、田中さんが突然キスして来たんです」
 
ーーえ、拒まなかったの? イヤじゃなかったの?
 
「うーん、イヤといえばイヤでしたね。でも、当時彼氏もいなかったし……っていうか今もいないんですけど(笑)。え、どうしよ、どうしよとか思っているうちに押し切られちゃうような感じで、最後までしちゃったんです」
 
ーー冷蔵庫と電子レンジを買ってもらっただけで?
 
「ですね」
 
 その後は、なんとなく交際が始まり、月に2〜3回、サクラちゃんのバイトの休みに合わせて、平日の夜、田中さんは家に来るようになった。家に遊びにくるときには、一緒にスーパーに行き、“生活の援助”という名目で、野菜や肉、飲み物などの食類や洗剤などの日用雑貨をどっさりと買い込んでくるのが恒例。これで、サクラちゃんの家計からは、“食費”“日用雑貨”という項目が削られた。

 そして、その後も、1~2ヶ月に一度は、家電や家具などを買ってくれた。これまでに買ってくれたものは、大型テレビ、テレビゲーム、ゲームソフト、包丁セット、ル・クルーゼの鍋、ベッドなど……。
 
「ウチで使うものは基本、田中さんが全部買ってくれました。だから、家賃と普段着る洋服くらいしかお金を使わないんですよね」
 
 そのため、わずか十数万円の手取りにもかかわらず、月に1~2万円は貯金すらできるようになったと言う。
 

 愛人男性の前は、男性経験はひとりだけ

ーーでも、当時21歳でしょ? それまでの男性経験は?

「地元で、高校時代に付き合っていた彼氏と初体験をして、その後何回か……っていう程度。だから、田中さんは私にとって2人目ですね」

ーー若さをムダにしてない? 別れようとは思わないの?

「……それはちょっと思いますね。別に好きでも嫌いでもないし、いるといるで便利だから別れる理由がないんですよね。『今月金欠なんだよね』とかいうと、現金で1~2万円くれることもあるし」
 
 ちなみに田中さんに、「奥さんにバレたら怒られるのかな? 私、慰謝料とか請求されたりしないの?」と聞いたことがあるという。すると、田中さんは、「妻とは子どもが生まれた後、ずっとセックスレスだし、夕飯も作らないくらいだから、何も気にしてないと思う」と答えたという。
 
 田中さんが毎月使っているお金をざっと計算してみた。

 一人暮らしの女性の食費、雑費で約2~3万円。たまに買う家電や家具が多くて1回5万円程度で、月にすると2万円強。つまり、1カ月で使う金額は約5万円である。一般のサラリーマンにしてみてば、小遣いとしてはやや高額といったところだろうか。

 だが、風俗に行けば2回分の金額だ。サクラさんと田中さんの密会は、月に2~3度だというから、1回あたりに換算すると、約1万9,000円~2万5000円。風俗で射精を目的としたつかの間の関係を持つのではなく、サクラちゃんと田中さんの間には、曲がりなりにも継続的な関係があり、射精目的だけではない時間も流れている。サクラさんの手料理でもてなしてもらい、会話をして、一緒に風呂に入り、最後はベッドで肌を重ねる。

 だが、恋愛感情があるわけではなく、友人でもない。そして、サクラさんは田中さんのことを信頼もしていない。そこに1回2万円前後……。
 
「お互いにとってメリットしかない都合のいい関係なんですよ。私は彼の私生活に興味ないし、恋人として付き合う気もないし」
 
 サクラさんはそう嘯くが、端から見るとどうしても、若さを刻一刻と失っていくサクラさんがソンばかりしているように見えてしまう。ものすごい安いわけではないけれど、決して高くない金額でいいように使われている。そう見えるのだ。
 
 現に、サクラさんはこう言う。

「中途半端に彼氏みたいな人がいて、彼の存在によって金銭的にも助かっているから手放すのが惜しい。だから、本気で彼氏を作ろうと思えないんですよね」
 
 このままだとズルズルと関係を続けてしまう気がする……そんな恐怖を感じているのだろう。
 

 別れるチャンスは何回かあった

 この短くない交際期間で、別れるチャンスは何回かあった。

「最近、お見合いっていいかもって思っちゃうんですよね。彼のおかげでだいぶ貯金もできたし、結婚相談所にでも登録をして、条件のいい人と結婚しようかなって考えることがよくあります」

 まずは、専門学校を卒業して、就職したとき。収入が20万円弱になり暮らしは楽になったが、仕事を覚えるのが大変な時期で、「私も社会人になったし、そろそろ別れたい」と告げようか、悩んだ時期もあった。

 次は、少し仕事を任させれるようになり、残業が増えた時期。帰るのが遅くなり、会える時間が短くなった。だが、「就職したばかりの時って、慣れなくて大変だよね」「働くって、バイトと違うでしょう」などと田中さんはサクラさんの気持ちに寄り添い、愚痴をよく聞いてくれた。また、「忙しい時期は無理しないで、会える時に会えばいいんじゃない?」などと田中さんは臨機応変に動いた。
 
 若い女性の内面を見抜くことなどわけない中年男性によってほだされ、別れのタイミングを失い、サクラさんはズルズルと関係を続けてしまった。明らかに、田中さんにとってサクラさんは“都合のいい相手”だろう。中途半端な関係を続けるうちに、サクラさんは大事なものを失っていったのではないか? そんな気がしてならなかった。
(協力:オフィスキング)

愛人手当ては「家電」に物品、居酒屋の常連客と“コスパの良い”愛人関係に【「職業:愛人」の女たち】

 バブル時代、愛人といえば“パパ”から買ってもらった高級マンションに住み、メルセデス・ベンツやBMWなどの外車を乗り回し、シャネルスーツにエルメスのバッグという格好で六本木や銀座に出勤する……そんなイメージがあった。

 しかし、それも今は昔。長く続く経済の下り坂時代、90年代、00年代では“デフレスパイラル”“失われた20年”などという言葉が流行して、昨今は“貧困女子”が一躍注目。愛人業界にも、「コスパの良い」「プチプラ」女性たちが現れている。
 
 話を聞いたのは、サクラちゃん(仮名・26歳)。ナチュラルメイクというよりはすっぴんに近い顔に、デニムとTシャツといったカジュアルファッション。まさか愛人がいるような女性には見えない。
 現在、付き合って5年になる“パパ”がいる。相手は43歳の“フツーのサラリーマンの男性”。話をよく聞いてみれば納得。「それも愛人って言うんだ!」と驚愕するような交際をしているのである。
 

 出会いはバイト先の居酒屋……店員と常連客

 2人の出会いは、当時21歳だったサクラちゃんがバイトしていた居酒屋だという。居酒屋でパパと出会えるものなのか? 出会ったとして、どうして愛人という形の交際になったのか?
 
「最初は常連さんだったんですよ。週に2~3回は私がバイトしてた店に来て、1人でご飯を食べて、軽く飲んで帰っていく……みたいな。常連さんでみんな名前も知っていたので、『田中さん(仮名)いらっしゃい! まずはいつも通りビールでいい?』みたいな感じで、店が暇な時にはバイトが代わる代わる田中さんのおしゃべりの相手をするような間柄でしたね。さっと食べて飲んで、ダラダラ長居することもなく、バイトスタッフに絡んだりすることもなかったので、本当にいいお客さんでしたね。だから、店の飲み会なども誘われるくらいだったんですよ」
 
ーーもはや店員扱いくらいだ。
 
「そうそう。で、店の飲み会があった時に、田中さんと結構ガッツリと話す機会があったんですよね。『普段は何やってんの?』『専門学校生ですよ』みたいなかんじで。私、高校出てすぐに一度就職しているんですよ。でも、やりたいことがあったので、お金を貯めて上京して、専門学校に入ったんです。貯金で足りなかった学費は親に借りて、生活費は全部自分で出していました。居酒屋のバイト代は月10万ちょっとだったので、本当生活がキツくて……。まあ、だから、賄いがしっかりついてる居酒屋を選んだってのもありますね。そんなことを話していたんです」
 
ーーそこまではよくある話だよね。
 
「うん、そうなんですよね。『若いのにエライね』『いやいやそんなことないですよ。自分の好きなことやりたいって出てきたので、多少の苦労は仕方ないって思ってます』みたいな話をしていた中で、『ただ、冷蔵庫がないのがきついんですよね』ってポロッとこぼしたんです。私、ちょっと衛生的にコインランドリーってイヤなんですね。だから、最初に洗濯機を買っちゃったんですよ。だから、その当時、家電が洗濯機しかなかったんです」
 
ーー珍しいね。
 
「でしょ。で、それを話したら、『え? 一人暮らし用の冷蔵庫なんて、2~3万程度でしょ。それくらいなら買ってあげるよ』って田中さんが言い出したんです。その時は、私もお酒が入っていたので、『えー! ウソー! 超うれしい! めっちゃ助かる~!』なんてノリで言っちゃって……」
 
 たいていの場合、飲み会での約束は御破算だろう。実現しなかったとしても、「ノリだしね」と気にも留めないものである。ところがなんと、翌日田中さんからサクラちゃんの携帯に連絡があったのだという。
 
「『どうする? いつ買いにいく?』って。え、本気だったんだ! って正直ビックリしましたよ。悪いからいいですよって断ったんだけど、大した額じゃないから気にしないでっていうので、その電話で電気屋さんに一緒にいく日程を決めちゃったんですよね」
 
 初めてのデートは電気屋。なんとも所帯じみた交際である。電気屋に行くと、田中さんは「どうせだったら電子レンジもあった方が便利じゃない?」と電子レンジも買ってくれた。大型家電のため、当然、後日配送となる。そのため、その日は食事をした後に、お互いの家にすぐに帰った。

 家電から家財、食費へ。不思議な愛人関係……

 男女の仲に発展したのは、家電が家に到着した日だという。
 
 「家に見にいってもいい? イヤだったら遠慮するけど」と言う田中さんに、サクラちゃんは「家電を買ってくれたんだから、ちょっとはお礼をしないと」と、手料理でもてなすことにしたと言う。
 
 家電が届いたその日、2人はサクラちゃんの家で食事をして、田中さんが買って来たお酒を一緒に飲んだ。一人暮らしの女性の家に、男女がいる。セクシーな展開になっても不思議はない。
 
「『そんなつもりじゃなかったんだけど、ボク、サクラちゃんみたいな子ってタイプなんだよ』みたいなことを言って、田中さんが突然キスして来たんです」
 
ーーえ、拒まなかったの? イヤじゃなかったの?
 
「うーん、イヤといえばイヤでしたね。でも、当時彼氏もいなかったし……っていうか今もいないんですけど(笑)。え、どうしよ、どうしよとか思っているうちに押し切られちゃうような感じで、最後までしちゃったんです」
 
ーー冷蔵庫と電子レンジを買ってもらっただけで?
 
「ですね」
 
 その後は、なんとなく交際が始まり、月に2〜3回、サクラちゃんのバイトの休みに合わせて、平日の夜、田中さんは家に来るようになった。家に遊びにくるときには、一緒にスーパーに行き、“生活の援助”という名目で、野菜や肉、飲み物などの食類や洗剤などの日用雑貨をどっさりと買い込んでくるのが恒例。これで、サクラちゃんの家計からは、“食費”“日用雑貨”という項目が削られた。

 そして、その後も、1~2ヶ月に一度は、家電や家具などを買ってくれた。これまでに買ってくれたものは、大型テレビ、テレビゲーム、ゲームソフト、包丁セット、ル・クルーゼの鍋、ベッドなど……。
 
「ウチで使うものは基本、田中さんが全部買ってくれました。だから、家賃と普段着る洋服くらいしかお金を使わないんですよね」
 
 そのため、わずか十数万円の手取りにもかかわらず、月に1~2万円は貯金すらできるようになったと言う。
 

 愛人男性の前は、男性経験はひとりだけ

ーーでも、当時21歳でしょ? それまでの男性経験は?

「地元で、高校時代に付き合っていた彼氏と初体験をして、その後何回か……っていう程度。だから、田中さんは私にとって2人目ですね」

ーー若さをムダにしてない? 別れようとは思わないの?

「……それはちょっと思いますね。別に好きでも嫌いでもないし、いるといるで便利だから別れる理由がないんですよね。『今月金欠なんだよね』とかいうと、現金で1~2万円くれることもあるし」
 
 ちなみに田中さんに、「奥さんにバレたら怒られるのかな? 私、慰謝料とか請求されたりしないの?」と聞いたことがあるという。すると、田中さんは、「妻とは子どもが生まれた後、ずっとセックスレスだし、夕飯も作らないくらいだから、何も気にしてないと思う」と答えたという。
 
 田中さんが毎月使っているお金をざっと計算してみた。

 一人暮らしの女性の食費、雑費で約2~3万円。たまに買う家電や家具が多くて1回5万円程度で、月にすると2万円強。つまり、1カ月で使う金額は約5万円である。一般のサラリーマンにしてみてば、小遣いとしてはやや高額といったところだろうか。

 だが、風俗に行けば2回分の金額だ。サクラさんと田中さんの密会は、月に2~3度だというから、1回あたりに換算すると、約1万9,000円~2万5000円。風俗で射精を目的としたつかの間の関係を持つのではなく、サクラちゃんと田中さんの間には、曲がりなりにも継続的な関係があり、射精目的だけではない時間も流れている。サクラさんの手料理でもてなしてもらい、会話をして、一緒に風呂に入り、最後はベッドで肌を重ねる。

 だが、恋愛感情があるわけではなく、友人でもない。そして、サクラさんは田中さんのことを信頼もしていない。そこに1回2万円前後……。
 
「お互いにとってメリットしかない都合のいい関係なんですよ。私は彼の私生活に興味ないし、恋人として付き合う気もないし」
 
 サクラさんはそう嘯くが、端から見るとどうしても、若さを刻一刻と失っていくサクラさんがソンばかりしているように見えてしまう。ものすごい安いわけではないけれど、決して高くない金額でいいように使われている。そう見えるのだ。
 
 現に、サクラさんはこう言う。

「中途半端に彼氏みたいな人がいて、彼の存在によって金銭的にも助かっているから手放すのが惜しい。だから、本気で彼氏を作ろうと思えないんですよね」
 
 このままだとズルズルと関係を続けてしまう気がする……そんな恐怖を感じているのだろう。
 

 別れるチャンスは何回かあった

 この短くない交際期間で、別れるチャンスは何回かあった。

「最近、お見合いっていいかもって思っちゃうんですよね。彼のおかげでだいぶ貯金もできたし、結婚相談所にでも登録をして、条件のいい人と結婚しようかなって考えることがよくあります」

 まずは、専門学校を卒業して、就職したとき。収入が20万円弱になり暮らしは楽になったが、仕事を覚えるのが大変な時期で、「私も社会人になったし、そろそろ別れたい」と告げようか、悩んだ時期もあった。

 次は、少し仕事を任させれるようになり、残業が増えた時期。帰るのが遅くなり、会える時間が短くなった。だが、「就職したばかりの時って、慣れなくて大変だよね」「働くって、バイトと違うでしょう」などと田中さんはサクラさんの気持ちに寄り添い、愚痴をよく聞いてくれた。また、「忙しい時期は無理しないで、会える時に会えばいいんじゃない?」などと田中さんは臨機応変に動いた。
 
 若い女性の内面を見抜くことなどわけない中年男性によってほだされ、別れのタイミングを失い、サクラさんはズルズルと関係を続けてしまった。明らかに、田中さんにとってサクラさんは“都合のいい相手”だろう。中途半端な関係を続けるうちに、サクラさんは大事なものを失っていったのではないか? そんな気がしてならなかった。
(協力:オフィスキング)

山尾議員、“W不倫”のきっかけ? 離婚に強い弁護士に聞いた、依頼者との「恋愛」

 山尾志桜里議員のW不倫疑惑に関連して、山尾氏が自身の離婚問題をお相手とされる倉持麟太郎弁護士に相談していたことから、不倫関係に発展したと報道されている。

 離婚問題の相談となると、依頼者はプライベートを明かさなければならず、依頼心が強まると恋愛感情に発展することは想像できる。しかし、実際に弁護士が依頼者と恋愛関係になるケースはよくあるのだろうか? 『マンガでわかる「愛と慰謝料の掟(ルール)~請求されたら・・・編~」』(amazon Kindleストア)の編著者であり、離婚問題を多数扱うアディーレ法律事務所の篠田恵里香弁護士に聞いた。

「恋愛関係自体、トラブルになりやすいものですし、弁護士としては、相手が依頼者というだけで、通常は慎重に距離感を保つようにいたしますので、そういった関係になるケースは少ないと思います。しかし、弁護士と依頼者が恋愛関係に至ることが全くないわけではなく、多くの場合、公になっていないのではないでしょうか。逆に、公になる場合は、不倫をしたとか、結婚や婚約を隠して相手と関係を持ったとか、無理矢理淫らな行為に及んだなど、良くないニュースであることが多いです。率直に、弁護士がクライアントとW不倫の関係にあったとなれば、あまりにも不用意と言わざるを得ないでしょう」

 そもそも山尾氏自身も元検察官で法律の専門家であるのに、弁護士に自身の離婚問題を依頼することはあり得るのだろうか?

「これは十分にあり得ます。実際に自分が弁護士でも、自身の離婚問題に関しては別弁護士に依頼するケースは多いですし、私の知り合いにも多数います。離婚問題は、当事者が感情的になりやすく、間に弁護士が入ることによって、その感情的な対立を緩和させ、冷静にさせるという意味も大きいので、むしろ弁護士であっても自身で対応しないほうがいいと思っています。私も、自分が離婚する場合は、別の弁護士に依頼すると思いますよ」

 では、依頼者に恋愛感情を抱くことは、弁護士の業務上問題にならないのだろうか?

「少なくとも依頼された事件が解決終了するまでは、純粋に一弁護士として事件に臨むべきであって、恋愛感情や私的な感情が入り込むことは、個人的に好ましくないと思っています。不倫関係である、既婚や婚約関係にあることを隠している、相手が嫌がっているのにそういった関係に至る、自分が弁護士である立場を利用して恋愛関係を強いる、未成年者に手を出すなどの不適切な恋愛関係に至った場合は、弁護士と言う職務上、非常に問題です。犯罪に至る可能性があることはもちろん、弁護士職務上問題があるとして、品位を失う行為をしたとして、業務停止などの懲戒処分が下されることもあり得ます」

 山尾氏自身は不倫を否定しているが、もし事実だとすれば、個人的な家庭の問題にとどまらず、法律家としても問題になる可能性がある。それは倉持弁護士にとっても同様のこと。いずれにしても、2人が失った信用は大きく、回復は困難を極めるだろう。

アディーレ法律事務所

「痴漢をなくしたい人VS痴漢冤罪を訴える人」の対立構造が起こる理由

 満員電車で起こることの多い痴漢。しかし、痴漢のニュースが報じられるたびに、「冤罪かもしれない」「痴漢を疑われたら人生の終わり」という意見もネット上で飛び交っている。なぜ、これほどまでに痴漢冤罪の話題が持ち上がるのか? 『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)の著者で精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏と弁護士の三浦義隆氏に、痴漢と痴漢冤罪、どちらも防ぐことはできないのか、語り合ってもらった。

(前編はこちら)

■痴漢だけ冤罪を問題視しているのは、ご都合主義

――痴漢のニュースが取り上げられるたび、ネット上では「痴漢をなくしたい人VS痴漢冤罪を訴える人」の対立構造が見られます。どちらもあってはならないことですが、なぜ必要以上に冤罪を恐れる人がいるのでしょうか?

斉藤章佳氏(以下、斉藤) 痴漢冤罪をWeb上で訴えるチームがあるのかと思うほど、私が痴漢に関する取材を受けた記事が出ると、必ずといっていいくらいコメント欄が荒れます。そして、いつも同じような内容のコメントが書き込まれるのです。

三浦義隆氏(以下、三浦) 殺人や強盗などの事件でも冤罪は起こっていますが、そういう疑いをかけられるのは、例えば日頃から素行が悪かったり、不良との交友関係がある人なのだろうと思われがちです。実際は必ずしもそうではないのですが、疑われるような行動をしていなければ冤罪に問われることはないと思っている人が多いと思います。ただ、痴漢冤罪に関しては電車に乗っているだけで巻き込まれる可能性があることが明らかですから、そこが怖いのだと思います。

 冤罪はあってはならないことなので、痴漢冤罪に対して騒ぎ立てるのはいいと思うんです。でも、私がちょっとおかしいなと思うのは、ほかの種類の犯罪については、弁護士のような特殊な人種を除くほとんどの人は、容疑があって逮捕されたという報道が出た段階から、容疑者を犯人と決めつけて、社会的制裁を加える側に率先して回っているわけじゃないですか。でも、痴漢だけは冤罪を問題視する。そういうご都合主義なことでいいのか、とは思います。

 別に痴漢についてだけ冤罪が起こるわけではなく、それは日本の刑事司法や捜査機関全体の問題なのですから、全体を変える以外に痴漢冤罪を減らしていく方法はないと思うんです。

――そもそも、痴漢冤罪はなぜ起こるのでしょうか?

三浦 痴漢を被害者や周囲の乗客がなかなか検挙できない理由も、痴漢冤罪が起こる理由も、基本的には同じ構造だと思っています。まず、痴漢の起こりやすい満員電車があることですよね。

 満員電車は偶然に体が触れることもあり、「偶然」で言い訳の立つような範囲もあるので、普通の人が痴漢をしてしまう。それが、だんだんと大胆な行為になっていくわけです。人が密集しているので、誰がやっているのかも、なかなか特定することができない状況です。冤罪も、悪意のでっち上げよりは、被害者や目撃者が犯人を取り違えたことによるものが多いと思われます。満員電車をなくせば、痴漢も痴漢冤罪も大幅に減らせると思うのですが、それができるのかどうかという話ですよね。

斉藤 性犯罪者は幼少期からそういう性癖があったとか、もともと性欲がコントロールできない変態的な嗜好がある人だろうと思われています。しかし、この本にも書きましたが、痴漢で最も多いのは「四大卒の家庭持ちでサラリーマン」という、いわゆる普通の男性たちです。最近注目すべきなのは、外国人の痴漢加害者の相談が増えてきたことです。海外から日本に出向してきた優秀なエンジニアなど、それなりにエリートの人の痴漢事件をめぐる相談があるのですが、その人たちも、やはり何回も繰り返しています。

 彼らは自分の国に満員電車がないので、他の性犯罪も含めて、やったことがないんです。それが、日本の満員電車に乗るというライフスタイルになってから、痴漢行為を始めています。痴漢を含む反復する性的逸脱行動は、学習された行動です。慣れない日本での生活の中で、本人が環境に適応するためのストレスへの対処行動(支配欲や優越感の充足)として選択したのが、痴漢だったというわけです。性犯罪は特殊な人がやっているというイメージが根強いですが、実は大多数はそうではないと認識を改めてもらいたいと思います。

三浦 痴漢加害者は、もともと特殊な性癖の人ではないというのは、おっしゃる通りだと思います。しかし、これは弁護士としてではなく、男性としての素朴な感想ですが、私も普通に性欲はあります。でも、その自分の性欲の延長線上に痴漢があるとは、どうしても思えないんですよね。

 ネット上では「男の性欲というのはコントロール困難なものであって……」というところから、派手な服を着て男の部屋に行く女性が悪いなどと、被害者を非難する声が多い。すると、その人たちは自分の性欲の延長線上に性犯罪があると思っていて、自分も機会があればやってしまうという意味なのかなと、非常に不思議に感じるんですよね。

――痴漢をなくすためには、どうすればいいと思いますか?

斉藤 当院に来る性加害者は、自分の痴漢行為や性犯罪を「逮捕されなければ、おそらくずっと続けていた」と言います。加害者やその家族にとって、逮捕というのはもちろん望んでいない出来事ですが、我々には、そこを治療の動機づけの最大のチャンスとして生かしていく視点が求められています。

 本来は、一次予防教育と再犯防止教育をセットで行えるのが望ましいのですが、現状ではなかなか性犯罪の一次予防は難しいです。これからこのあたりの取り組みや研究を性教育分野の専門家とともに協同していきたいと考えていますが、それよりも今は、どうすれば再発防止できるのかが当面の課題かと思います。

三浦 逮捕されるまでやめられないというのは、おっしゃる通りだと思います。痴漢を繰り返して一度もバレたことがなく、周りの誰にも知られていないけど、「これはいけない」と思って、自主的にやめようという人はあまりいないでしょうね。

斉藤 痴漢ではないですが、露出や盗撮、のぞき、下着窃盗といったいわゆる非接触型の性犯罪の人も来ます。接触する性犯罪の場合は顕在化し逮捕されるケースが多いのですが、接触しない性犯罪だと相手に気づかれずに行為を行うことができるのです。こうなると治療につながる機会がなく、膨大に潜在化しているケースがあります。年に1〜2人くらい、「このままでは逮捕されるかもしれない」と自らの危機感から来院するレアケースもあります。

三浦 逮捕自体が初めてという人は、その前の段階で常習性はあったのかもしれませんが、初犯として起訴猶予で終わるケースも結構あります。私が担当する痴漢の案件も約半数は逮捕が初めてという人なんですよ。その後の追跡調査をしているわけではありませんが、初犯でやめている人もかなりいるだろうと推測はできます。

 冒頭のお話にあった通り、失うものの多い人が、かなりいるじゃないですか。「次やったら、本当におしまいだぞ」という状況に追い込まれたとき、そこでやめている人も、ある程度いるのだろうと思います。痴漢の再犯率が高いという話にしても、再犯率というもの自体が、一回裁判の手続きにのって有罪になり、前科がついた人を対象にしています。痴漢だと犯人は起訴猶予になることも多いですから、実は前科1犯になる時点でもう「再犯」の場合が多いんですね。そうすると、それはかなり犯罪性の進んだ人で、再犯率が高いのも無理ないのかと思いますね。

斉藤 犯罪傾向の進んだ人の再犯率が高いという点については、私も同じ意見です。これは、ほかの刑事政策や犯罪心理学の領域でも、前科前歴がなく、これから事件を起こす可能性のある潜在的な層と、初犯の方に関しては、罰による問題行動の修正に比較的効果がある層だと言われています。クリニックに来ているような、かなり常習性のある人に対して、罰や監視のみによる行動変容はあまり効果がないというのは、その通りです。

――痴漢だけでなく、同時に冤罪もなくすには、何か良い方法はあるのでしょうか?

三浦 容疑者を検挙して有罪にすることを国家が行っている限り、冤罪はついて回る問題です。痴漢がなくなれば痴漢冤罪もなくなるというのは当たり前の話ですが、実質的にはあまり意味のないことです。冤罪をなくすためには、単純に裁判所が厳格に事実認定をすればいい話ですし、そこからさかのぼって捜査機関も、全件微物鑑定するなり、供述頼みではないきちんとした固い立証を心がけることです。どれも、痴漢に限った話ではないですよ。

斉藤 痴漢に関しては、おそらく東京都と公共交通機関が本気になったら、満員電車をなんとかできると思います。自殺予防のためのホームドアは、多くの予算をかけて、ほぼ整いつつあります。でも、痴漢防止に関して目に見える対策は特に何もなく、鉄道会社も乗客に自衛を任せるだけにとどまっているように見えます。これは、痴漢対策に予算を投入することで、どれくらい経済的な損失を防げるのかを考えたとき、自殺予防のホームドアほどはメリットがないからだと思います。

 また、満員電車をなくすには、働き方の改革が必要です。朝と夜のラッシュ時の混雑をもう少し緩和するためには、日本人の働き方自体を変えていくような政策なり施策が必要です。週に何日か自宅でも仕事できるようにするとか、ワークライフバランスの問題とも関連してきますね。

三浦 企業側に何かインセンティブを与えないと、難しいでしょうね。

斉藤 そうでしょうね。当院もそうなのですが、職員は朝9時頃から夜6時頃までの勤務時間に合わせて出退勤します。他業種や公務員も同様です。小池百合子都知事を中心に、2020年の東京オリンピックまでに、日本人の働き方改革を手始めに、痴漢問題を含む満員電車対策をどうしていくかという切り口の話をしていけば、建設的な議論になるかと思います。
(姫野ケイ)

斉藤章佳(さいとう・あきよし)
精神保健福祉士・社会福祉士/大森榎本クリニック精神保健福祉部長。アジア最大規模といわれる依存症治療施設である榎本クリニックにて、アルコール依存症を中心に、ギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DV・クレプトマニアなど、さまざまなアディクション問題に携わる。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践・研究・啓発活動を行っている。また、大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、講演も含めその活動は幅広く、マスコミでもたびたび取り上げられている。著書に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』(ともに金剛出版/共著)、『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)がある。その他、論文多数。

三浦義隆(みうら・よしたか)
千葉県弁護士会所属。おおたかの森法律事務所。主な取り扱い分野は、離婚、労働、相続、交通事故、債務整理、刑事等。

「痴漢をなくしたい人VS痴漢冤罪を訴える人」の対立構造が起こる理由

 満員電車で起こることの多い痴漢。しかし、痴漢のニュースが報じられるたびに、「冤罪かもしれない」「痴漢を疑われたら人生の終わり」という意見もネット上で飛び交っている。なぜ、これほどまでに痴漢冤罪の話題が持ち上がるのか? 『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)の著者で精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏と弁護士の三浦義隆氏に、痴漢と痴漢冤罪、どちらも防ぐことはできないのか、語り合ってもらった。

(前編はこちら)

■痴漢だけ冤罪を問題視しているのは、ご都合主義

――痴漢のニュースが取り上げられるたび、ネット上では「痴漢をなくしたい人VS痴漢冤罪を訴える人」の対立構造が見られます。どちらもあってはならないことですが、なぜ必要以上に冤罪を恐れる人がいるのでしょうか?

斉藤章佳氏(以下、斉藤) 痴漢冤罪をWeb上で訴えるチームがあるのかと思うほど、私が痴漢に関する取材を受けた記事が出ると、必ずといっていいくらいコメント欄が荒れます。そして、いつも同じような内容のコメントが書き込まれるのです。

三浦義隆氏(以下、三浦) 殺人や強盗などの事件でも冤罪は起こっていますが、そういう疑いをかけられるのは、例えば日頃から素行が悪かったり、不良との交友関係がある人なのだろうと思われがちです。実際は必ずしもそうではないのですが、疑われるような行動をしていなければ冤罪に問われることはないと思っている人が多いと思います。ただ、痴漢冤罪に関しては電車に乗っているだけで巻き込まれる可能性があることが明らかですから、そこが怖いのだと思います。

 冤罪はあってはならないことなので、痴漢冤罪に対して騒ぎ立てるのはいいと思うんです。でも、私がちょっとおかしいなと思うのは、ほかの種類の犯罪については、弁護士のような特殊な人種を除くほとんどの人は、容疑があって逮捕されたという報道が出た段階から、容疑者を犯人と決めつけて、社会的制裁を加える側に率先して回っているわけじゃないですか。でも、痴漢だけは冤罪を問題視する。そういうご都合主義なことでいいのか、とは思います。

 別に痴漢についてだけ冤罪が起こるわけではなく、それは日本の刑事司法や捜査機関全体の問題なのですから、全体を変える以外に痴漢冤罪を減らしていく方法はないと思うんです。

――そもそも、痴漢冤罪はなぜ起こるのでしょうか?

三浦 痴漢を被害者や周囲の乗客がなかなか検挙できない理由も、痴漢冤罪が起こる理由も、基本的には同じ構造だと思っています。まず、痴漢の起こりやすい満員電車があることですよね。

 満員電車は偶然に体が触れることもあり、「偶然」で言い訳の立つような範囲もあるので、普通の人が痴漢をしてしまう。それが、だんだんと大胆な行為になっていくわけです。人が密集しているので、誰がやっているのかも、なかなか特定することができない状況です。冤罪も、悪意のでっち上げよりは、被害者や目撃者が犯人を取り違えたことによるものが多いと思われます。満員電車をなくせば、痴漢も痴漢冤罪も大幅に減らせると思うのですが、それができるのかどうかという話ですよね。

斉藤 性犯罪者は幼少期からそういう性癖があったとか、もともと性欲がコントロールできない変態的な嗜好がある人だろうと思われています。しかし、この本にも書きましたが、痴漢で最も多いのは「四大卒の家庭持ちでサラリーマン」という、いわゆる普通の男性たちです。最近注目すべきなのは、外国人の痴漢加害者の相談が増えてきたことです。海外から日本に出向してきた優秀なエンジニアなど、それなりにエリートの人の痴漢事件をめぐる相談があるのですが、その人たちも、やはり何回も繰り返しています。

 彼らは自分の国に満員電車がないので、他の性犯罪も含めて、やったことがないんです。それが、日本の満員電車に乗るというライフスタイルになってから、痴漢行為を始めています。痴漢を含む反復する性的逸脱行動は、学習された行動です。慣れない日本での生活の中で、本人が環境に適応するためのストレスへの対処行動(支配欲や優越感の充足)として選択したのが、痴漢だったというわけです。性犯罪は特殊な人がやっているというイメージが根強いですが、実は大多数はそうではないと認識を改めてもらいたいと思います。

三浦 痴漢加害者は、もともと特殊な性癖の人ではないというのは、おっしゃる通りだと思います。しかし、これは弁護士としてではなく、男性としての素朴な感想ですが、私も普通に性欲はあります。でも、その自分の性欲の延長線上に痴漢があるとは、どうしても思えないんですよね。

 ネット上では「男の性欲というのはコントロール困難なものであって……」というところから、派手な服を着て男の部屋に行く女性が悪いなどと、被害者を非難する声が多い。すると、その人たちは自分の性欲の延長線上に性犯罪があると思っていて、自分も機会があればやってしまうという意味なのかなと、非常に不思議に感じるんですよね。

――痴漢をなくすためには、どうすればいいと思いますか?

斉藤 当院に来る性加害者は、自分の痴漢行為や性犯罪を「逮捕されなければ、おそらくずっと続けていた」と言います。加害者やその家族にとって、逮捕というのはもちろん望んでいない出来事ですが、我々には、そこを治療の動機づけの最大のチャンスとして生かしていく視点が求められています。

 本来は、一次予防教育と再犯防止教育をセットで行えるのが望ましいのですが、現状ではなかなか性犯罪の一次予防は難しいです。これからこのあたりの取り組みや研究を性教育分野の専門家とともに協同していきたいと考えていますが、それよりも今は、どうすれば再発防止できるのかが当面の課題かと思います。

三浦 逮捕されるまでやめられないというのは、おっしゃる通りだと思います。痴漢を繰り返して一度もバレたことがなく、周りの誰にも知られていないけど、「これはいけない」と思って、自主的にやめようという人はあまりいないでしょうね。

斉藤 痴漢ではないですが、露出や盗撮、のぞき、下着窃盗といったいわゆる非接触型の性犯罪の人も来ます。接触する性犯罪の場合は顕在化し逮捕されるケースが多いのですが、接触しない性犯罪だと相手に気づかれずに行為を行うことができるのです。こうなると治療につながる機会がなく、膨大に潜在化しているケースがあります。年に1〜2人くらい、「このままでは逮捕されるかもしれない」と自らの危機感から来院するレアケースもあります。

三浦 逮捕自体が初めてという人は、その前の段階で常習性はあったのかもしれませんが、初犯として起訴猶予で終わるケースも結構あります。私が担当する痴漢の案件も約半数は逮捕が初めてという人なんですよ。その後の追跡調査をしているわけではありませんが、初犯でやめている人もかなりいるだろうと推測はできます。

 冒頭のお話にあった通り、失うものの多い人が、かなりいるじゃないですか。「次やったら、本当におしまいだぞ」という状況に追い込まれたとき、そこでやめている人も、ある程度いるのだろうと思います。痴漢の再犯率が高いという話にしても、再犯率というもの自体が、一回裁判の手続きにのって有罪になり、前科がついた人を対象にしています。痴漢だと犯人は起訴猶予になることも多いですから、実は前科1犯になる時点でもう「再犯」の場合が多いんですね。そうすると、それはかなり犯罪性の進んだ人で、再犯率が高いのも無理ないのかと思いますね。

斉藤 犯罪傾向の進んだ人の再犯率が高いという点については、私も同じ意見です。これは、ほかの刑事政策や犯罪心理学の領域でも、前科前歴がなく、これから事件を起こす可能性のある潜在的な層と、初犯の方に関しては、罰による問題行動の修正に比較的効果がある層だと言われています。クリニックに来ているような、かなり常習性のある人に対して、罰や監視のみによる行動変容はあまり効果がないというのは、その通りです。

――痴漢だけでなく、同時に冤罪もなくすには、何か良い方法はあるのでしょうか?

三浦 容疑者を検挙して有罪にすることを国家が行っている限り、冤罪はついて回る問題です。痴漢がなくなれば痴漢冤罪もなくなるというのは当たり前の話ですが、実質的にはあまり意味のないことです。冤罪をなくすためには、単純に裁判所が厳格に事実認定をすればいい話ですし、そこからさかのぼって捜査機関も、全件微物鑑定するなり、供述頼みではないきちんとした固い立証を心がけることです。どれも、痴漢に限った話ではないですよ。

斉藤 痴漢に関しては、おそらく東京都と公共交通機関が本気になったら、満員電車をなんとかできると思います。自殺予防のためのホームドアは、多くの予算をかけて、ほぼ整いつつあります。でも、痴漢防止に関して目に見える対策は特に何もなく、鉄道会社も乗客に自衛を任せるだけにとどまっているように見えます。これは、痴漢対策に予算を投入することで、どれくらい経済的な損失を防げるのかを考えたとき、自殺予防のホームドアほどはメリットがないからだと思います。

 また、満員電車をなくすには、働き方の改革が必要です。朝と夜のラッシュ時の混雑をもう少し緩和するためには、日本人の働き方自体を変えていくような政策なり施策が必要です。週に何日か自宅でも仕事できるようにするとか、ワークライフバランスの問題とも関連してきますね。

三浦 企業側に何かインセンティブを与えないと、難しいでしょうね。

斉藤 そうでしょうね。当院もそうなのですが、職員は朝9時頃から夜6時頃までの勤務時間に合わせて出退勤します。他業種や公務員も同様です。小池百合子都知事を中心に、2020年の東京オリンピックまでに、日本人の働き方改革を手始めに、痴漢問題を含む満員電車対策をどうしていくかという切り口の話をしていけば、建設的な議論になるかと思います。
(姫野ケイ)

斉藤章佳(さいとう・あきよし)
精神保健福祉士・社会福祉士/大森榎本クリニック精神保健福祉部長。アジア最大規模といわれる依存症治療施設である榎本クリニックにて、アルコール依存症を中心に、ギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DV・クレプトマニアなど、さまざまなアディクション問題に携わる。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践・研究・啓発活動を行っている。また、大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、講演も含めその活動は幅広く、マスコミでもたびたび取り上げられている。著書に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』(ともに金剛出版/共著)、『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)がある。その他、論文多数。

三浦義隆(みうら・よしたか)
千葉県弁護士会所属。おおたかの森法律事務所。主な取り扱い分野は、離婚、労働、相続、交通事故、債務整理、刑事等。

「痴漢は社会的地位のある人が多い」加害者臨床の専門家と弁護士が語る、性犯罪者の実態

 今春、電車内で痴漢を疑われた男性が相次いで線路に逃げる事件が社会問題となった。逃走した男性が死亡し、犯人特定にいたらなかったケースもあるが、被害者にとって、痴漢はいつまでも癒えない傷となって残る。約12年間、再犯防止のため、1,000名を超える性犯罪者と接してきた経験からまとめた『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)の著者で大森榎本クリニック精神保健福祉部長(精神保健福祉士・社会福祉士)の斉藤章佳氏と、痴漢加害者の弁護の経験を持つ弁護士の三浦義隆氏との対談によって、加害者の心理や近年の痴漢の実態に迫る。

■加害者は、ごく普通の家庭を持ったIQの高い会社員が多い

――斉藤先生の著書には、痴漢加害者は大卒で、ごく普通の家庭を持った会社員が多いとありました。三浦先生が今まで弁護のために接してこられた痴漢加害者も、そのような印象でしたか?

三浦義隆氏(以下、三浦) 犯罪者全般を見ると、言い方は悪いですが、窃盗や傷害などの加害者は、貧困の方や身寄りのない方、成育歴の悪い方が多いです。しかし、強姦に至らないような痴漢や盗撮といった性犯罪は、斉藤先生のおっしゃる通り、社会的地位もあって収入も普通以上にある、妻子もいるという人が目立って多いです。

斉藤章佳氏(以下、斉藤) 比較的、知的レベルが高いですよね。痴漢加害者は、我々が通常依存症治療の中で接する人より、社会的地位やIQが高い人が多いです。

三浦 痴漢をやっているか、やっていないかは別として、逃走してしまうケースが非常に多いのは、失うものが大きいからという側面が強いと思います。

斉藤 実際に、我々のクリニックに来られる人の中にも逃げた経験のある人がいます。捕まった後の自分の人生を、一瞬のうちに考えるようです。もし捕まったら、仕事と家庭を一気に失ってしまう可能性があるのは、通常のサラリーマンだったら想像できることです。

三浦 痴漢をやっていて、最終的には自白に至ったケースでも、初回接見に行ったときに否認するパターンはかなり多いですね。やはり、「認めてしまえば人生おしまいだ」という意識があって、証拠からは争っても筋が悪いのではないかと思われる案件でも、当初は否認するケースがよくあります。

――やっていても、やっていなくても、逃げる人が多いということですか?

三浦 それはどちらもあると思います。やっていなければ逃げなくていいじゃないか、という理屈もありますが、現実的な不利益を考えると、必ずしも得策ではないという面が、かつてはあったわけです。否認していると勾留されてしまう「人質司法」が以前はありましたが、今は若干改善されてきて、特に痴漢については、最終的な処分がどうなるかはともかく、否認していても20日間勾留されるなんてことはそうそうありません。ですから、そこで逃げてしまうのは得策ではないと、ブログやメディア出演の際に繰り返しお話ししてきました。

 ただ、『それでもボクはやってない』(2007年公開)という映画の影響が大きいんですよ。あの映画は、刑事弁護をやっている弁護士から見て、当時の現実としては非常にリアルなものが描かれていたと思うんです。実際に痴漢をしていて自白をした人はさっさと釈放されるのに、やっておらず否認している人は起訴前に20日間勾留されるのが過去の実務でした。保釈も認められないケースが昔は非常に多かったのですが、今はそんなことはありません。

斉藤 仮に、痴漢をしたという前提で、人間は瞬間的に失うものの大きさを比較するわけです。もし、常習化していて自分でやめられないと本人が自覚している場合、初犯だと裁判になったときに執行猶予がつくかもしれませんが、件数が多いとか悪質な場合は実刑の可能性もある。薬物事犯などは初犯の場合、だいたいの量刑がイチロクサン(懲役1年6カ月執行猶予3年)と決まっています。痴漢の場合も、初犯の量刑相場はある程度決まっているのですが、初犯の裁判の判決段階で、執行猶予判決と同時に義務として治療プログラムへつながるような制度が作れれば、というのが私の見解です。

 しかし、このシステムの場合、気をつけないといけないのが、常習化した痴漢行為の治療が、本人の行為責任を軽くするために利用されるというリスクもあるため、その治療導入の入り口部分は厳密に精査して、治療可能性も含めたリスクアセスメントと、取り組む意思があるのかを確認した上で治療へ導入するシステムがあればと、常々考えています。

三浦 厳罰を科すという、行為に対しての責任をきっちり取らせることと、本人の行動を改善することは、なかなか両立しにくい面があると思うんですよね。覚せい剤もそうですが、依存の絡むような犯罪については、実刑を科したところで本人の更生にはつながらないというか、むしろ更生の道を狭めてしまっているのではないかと、普段、弁護活動をやっていてもなかなか忸怩たるものがあるわけです。

 刑罰の意義というのは、本人を矯正することだけではなく、社会一般へのアナウンス効果もあります。社会全体の人が犯罪を犯さないよう、あらかじめ「こういう行為に対しては、こういう罰が科されますよ」と告知しておいて、実際にやった人にはきっちり責任を取ってもらう。

 覚せい剤の件で言えば、被害者のいない犯罪ですから、安易に実刑にせず、もっと治療寄りになってもいいと思います。しかし、痴漢は被害者がいるので、そうとは言い切れないのが難しいところではないでしょうか。

――斉藤先生の著書から、例えば「女性が痴漢されたがっていて誘っている」といった加害者の「認知の歪み」が痴漢の原因のように感じられたのですが、弁護する側の三浦先生から見ても、認知の歪みを感じ取れますか?

三浦 長期的に治療する観点から関わっているわけではありませんが、斉藤先生が先程おっしゃった通り、知的レベルも高い人が多いですから、どちらかというと認知の歪みをあけすけに言ってしまうより、模範解答的なものが出てくる傾向にあるように思っています。ただし、斉藤先生のご著書にもありましたが、やはり被害者に対する謝罪の言葉がなかなか出てきにくいと感じることはあります。

斉藤 ここが治療の中でも非常に難しいところで、まず重要なのが問題行動(痴漢行為)をやめさせることです。治療では本人の内面の変容よりも、再犯させないことが最優先事項です。問題行動は、さまざまな治療教育的なプログラムを受けて再発防止スキルを身につけて、うまく回避・対処できるようになってきます。でも内面はというと、例えば女性を見たときに「ちょっとくらい触っても、バレなきゃいいじゃないか」と考えていたりします。行動化はしていないですが、痴漢をしていたときと同じような性差別的女性観だったり、認知の歪みを持っていたりしても、実際には痴漢行為が止まっていれば、はたから見ると再犯防止が継続できているということになります。社会や世間は、内面の変容や反省を強く求める部分があると思うのですが、冷静に考えて第一に重要なのは被害者を出さないことなので、まず行動変容に焦点を当ててアプローチしていきます。

――具体的には、どのようなアプローチでしょうか?

斉藤 考え方としては、「今日一日」再発しないためのリスクマネジメントを毎日積み重ねることで、年単位で内面が少しずつ連動するように変容していきます。例えば、問題行動につながりやすい発想や認知の歪みが出てきたときに、昔ならそこが引き金(トリガー)となって行動化していたものを、プログラムで学んだ対処方法でうまく回避して「こういう考えが出てくるのは危ない。警告のサインで、前と同じ悪循環のパターンだ」と、自分の中でうまく対話(セルフトーク)できるようになるんです。この積み重ねで、1年ではそう大きく変わりませんが、3年ほどたつと少しずつ話し方や人との接し方、女性への考え方が変化してくる。

 世間が期待する変容(反省や贖罪)と、実際目の前にいる人が変わっていく順番が違うのは、世間との大きなズレのひとつかもしれないです。裁判の中で反省を求めることもありますが、いきなり内面を変えていくのは難しいと思います。従って、著書にも書きましたが、裁判で読み上げる被告人の「謝罪文」が上滑りして聞こえるのは、そのためかもしれません。

三浦 裁判所も検察庁もそうなのですが、通り一遍の反省というものではなくて、行動変容につながるような手立てを具体的に打っている、というところをもっと重視していくべきだとは思います。刑事弁護人がそのような動きをとっていて、裁判所が応えてくれることもあるのですが、裁判官によってまちまちという現状があります。また、ご著書にもありましたが、私も加害者による謝罪文や反省文はあまり意味がないと思っていて、書かせないことが多いです。反省文を裁判所に出しても、実際にはほとんど重要視しませんからね。ただ、示談交渉をする際に、被害者ご本人から求められるケースは時々あるので、その場合は書かせて出しています。
(姫野ケイ)

(後編に続く)